説明

電解液及びリチウムイオン二次電池

【課題】新規の電解液及び該電解液を備えたリチウムイオン二次電池の提供。
【解決手段】有機溶媒にリチウム塩及び添加剤が配合されてなり、前記添加剤が、下記一般式(1)で表されることを特徴とする電解液(式中、R、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、又は炭素数7〜25のアラルキル基であり;Rは水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基である。);かかる電解液を備えたことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
[化1]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の電解液、及び該電解液を備えたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、鉛蓄電池、ニッケル水素電池に比べて、エネルギー密度及び起電力が高いという特徴を有するため、小型及び軽量化が要求される携帯電話やノートパソコン等の電源として広く使用されている。
リチウムイオン二次電池では、負極として、リチウムを吸蔵及び放出し得る材質からなる負極活物質を有するものが使用される。また、正極としては、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、オリビン型リン酸鉄リチウム等の遷移金属酸化物を正極活物質として有するものが使用される。そして、電解質としては、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ素リチウム(LiBF)、過塩素酸リチウム(LiClO)等のリチウム塩が使用される。
【0003】
これに対して、電解質を溶解させる有機溶媒としては、通常、炭酸エステル化合物、ラクトン化合物、スルホン化合物等が汎用される。しかし、負極活物質がグラファイトである場合に、有機溶媒として炭酸エステル化合物の一種であるプロピレンカーボネートを使用すると、電池性能が大幅に低下してしまうことが知られている。これは、電池の作動中に、負極を構成するグラファイト層の層間にプロピレンカーボネートの分子が進入し、グラファイト層を剥離させるからである。
このようなグラファイト層の剥離を抑制する手法としては、これまでに、グラファイトに特殊な加工を施す方法や添加剤を併用する方法が開示されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Electrochem. Solid−State Lett., Volume5,Issue11,pp.A259−A262(2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、非特許文献1に記載の方法では、添加剤が有機溶媒への溶解性が低く、水と反応して分解し易く、さらに高価であるという問題点があった。リチウムイオン二次電池は、安価で良好な性能を有するものとするために、原材料の使用制限が少なく、且つ特殊な工程を伴うことなく製造できることが重要である。これに対し、従来のリチウムイオン二次電池は、非特許文献1に記載のものも含めて、この要望に十分答えているとは言えないのが実情であり、このような観点から、特に、従来にない有用な電解液の開発が望まれている。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、新規の電解液及び該電解液を備えたリチウムイオン二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、
本発明は、有機溶媒にリチウム塩及び添加剤が配合されてなり、前記添加剤が、下記一般式(1)で表されることを特徴とする電解液を提供する。
【0008】
【化1】

(式中、R、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、又は炭素数7〜25のアラルキル基であり;Rは水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基である。)
【0009】
本発明の電解液においては、前記有機溶媒がエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ビニレンカーボネート、γ−ブチロラクトン及びスルホランからなる群から選択される一種以上であることが好ましい。
本発明の電解液においては、前記R、R及びRがそれぞれ独立に炭素数1〜5のアルキル基であり、前記Rが水素原子であることが好ましい。
また、本発明は、上記本発明の電解液を備えたことを特徴とするリチウムイオン二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、新規の電解液及び該電解液を備えたリチウムイオン二次電池を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<電解液>
本発明の電解液は、有機溶媒にリチウム塩及び添加剤が配合されてなり、前記添加剤が、下記一般式(1)で表される(以下、「添加剤(1)」と略記することがある)ことを特徴とする。以下、詳細に説明する。
【0012】
【化2】

(式中、R、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、又は炭素数7〜25のアラルキル基であり;Rは水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基である。)
【0013】
[リチウム塩]
前記リチウム塩は、リチウムイオン二次電池においてリチウム源として使用できるものであれば、特に限定されない。
前記リチウム塩として、具体的には、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ素リチウム(LiBF)、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドリチウム(LiN(SOCF)、ビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミドリチウム(LiN(SOCFCF)、過塩素酸リチウム(LiClO)、三フッ化メタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)、六フッ化アンチモン酸リチウム(LiSbF)、六フッ化ヒ素酸リチウム(LiAsF)、テトラフェニルホウ酸リチウム(LiB(C)、LiC(SOCF、LiPF(CF、LiPF(CF、LiPF(CFCF、LiPF(CF(CF)CF、LiPF(CF(CF)CF)等が例示できる。
【0014】
また、前記リチウム塩としては、有機酸のリチウム塩も例示できる。
前記有機酸のリチウム塩は、有機酸の酸基がリチウム塩を構成しているものであれば特に限定されず、好ましいものとしては、カルボン酸リチウム塩、スルホン酸リチウム塩等が例示できる。また、有機酸のリチウム塩において、リチウム塩を構成する酸基の数は、特に限定されない。
前記有機酸のリチウム塩としては、カルボン酸のリチウム塩が好ましい。
【0015】
前記カルボン酸のリチウム塩は、脂肪族カルボン酸、脂環式カルボン酸及び芳香族カルボン酸のいずれのリチウム塩でもよく、1価カルボン酸及び多価カルボン酸のいずれのリチウム塩でもよい。好ましい前記カルボン酸のリチウム塩としては、ギ酸リチウム、酢酸リチウム、プロピオン酸リチウム、酪酸リチウム、イソ酪酸リチウム、吉草酸リチウム、イソ吉草酸リチウム、カプロン酸リチウム、エナント酸リチウム、カプリル酸リチウム、ペラルゴン酸リチウム、カプリン酸リチウム、ラウリン酸リチウム、ミリスチン酸リチウム、ペンタデシル酸リチウム、パルミチン酸リチウム、オレイン酸リチウム、リノール酸リチウム、シュウ酸リチウム、乳酸リチウム、酒石酸リチウム、マレイン酸リチウム、フマル酸リチウム、マロン酸リチウム、コハク酸リチウム、リンゴ酸リチウム、クエン酸リチウム、グルタル酸リチウム、アジピン酸リチウム、フタル酸リチウム、安息香酸リチウムが例示できる。
【0016】
前記カルボン酸のリチウム塩は、直鎖状又は分岐鎖状のカルボン酸のリチウム塩であることが好ましく、飽和カルボン酸(炭素原子間の結合として不飽和結合を有しないカルボン酸)のリチウム塩であることが好ましい。また、前記カルボン酸のリチウム塩は、炭素数が1〜20であることが好ましく、1〜10であることがより好ましい。
【0017】
前記リチウム塩は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
【0018】
[添加剤(1)]
添加剤(1)は、前記一般式(1)で表される。
式中、R、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、又は炭素数7〜25のアラルキル基である。
【0019】
〜Rにおける炭素数1〜10のアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでもよい。
前記直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルブチル基、n−ヘキシル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、2,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、n−ヘプチル基、2−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、2,2−ジメチルペンチル基、2,3−ジメチルペンチル基、2,4−ジメチルペンチル基、3,3−ジメチルペンチル基、3−エチルペンチル基、2,2,3−トリメチルブチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、デシル基が例示できる。
なかでも、前記直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基は、炭素数が1〜7であることが好ましく、1〜5であることがより好ましい。
【0020】
前記環状のアルキル基は、炭素数が3〜10であれば、単環状及び多環状のいずれでもよく、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、ノルボルニル基、イソボルニル基、1−アダマンチル基、2−アダマンチル基、トリシクロデシル基が例示できる。
【0021】
〜Rにおける炭素数6〜20のアリール基は、単環状及び多環状のいずれでもよく、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基が例示できる。また、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、キシリル基、2,4,6−トリメチルフェニル基等、芳香族環を構成する炭素原子に結合している水素原子が、前記アルキル基で置換されたものが例示できる。
なかでも、前記アリール基は、炭素数が6〜15であることが好ましく、6〜12であることがより好ましい。
【0022】
〜Rにおける炭素数7〜25のアラルキル基(アリールアルキル基)としては、ベンジル基(フェニルメチル基、CCH−)等、前記アルキル基の一つの水素原子が前記アリール基で置換された一価の基が例示でき、炭素数は7〜20であることが好ましく、7〜15であることがより好ましい。
【0023】
〜Rは、前記アルキル基であることが好ましく、炭素数1〜5のアルキル基であることがより好ましい。
【0024】
式中、Rは水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基である。
における炭素数1〜10のアルキル基は、R〜Rにおける炭素数1〜10のアルキル基と同様である。
なかでも、Rは水素原子であることが好ましい。
【0025】
添加剤(1)は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
【0026】
前記電解液における添加剤(1)の配合量は、前記リチウム塩の配合量に対して1〜30質量%であることが好ましく、2〜20質量%であることが好ましい。下限値以上とすることで、添加剤(1)を使用したことによる効果がより顕著に得られ、上限値以下とすることで、電池性能がより安定して発揮される。
【0027】
添加剤(1)は、後述するように、リチウムイオン二次電池の使用時に負極表面において、安定な表面層を形成し、この表面層によって負極を保護する機能を有すると推測される。
【0028】
[有機溶媒]
前記有機溶媒は、リチウムイオン二次電池で使用できるものであれば、特に限定されない。
前記有機溶媒として、具体的には、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、t−ブチレンカーボネート(t−BC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ビニレンカーボネート(VC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、クロロエチレンカーボネート(CLEC)、トリフルオロプロピレンカーボネート(TFPC)等の炭酸エステル化合物;γ−ブチロラクトン(GBL)、δ−バレロラクトン、α−ブロモ−γ−ブチロラクトン等のラクトン化合物;ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、クロロギ酸メチル等のカルボン酸エステル化合物;テトラヒドロフラン(THF)、1,3−ジオキソラン、2−メチルテトラヒドロフラン、2,5−ジメチルテトラヒドロフラン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、12−クラウン−4等のエーテル化合物;アセトニトリル等のニトリル化合物;スルホラン等のスルホン化合物、ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド化合物、エチレンサルファイト(ES)、プロピレンサルファイト(PS)等のサルファイト化合物が例示できる。
前記有機溶媒は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
【0029】
前記有機溶媒は、炭酸エステル化合物、ラクトン化合物及びスルホン化合物からなる群から選択される一種以上であることが好ましく、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ビニレンカーボネート、γ−ブチロラクトン及びスルホランからなる群から選択される一種以上であることがより好ましい。
【0030】
前記電解液における前記有機溶媒の配合量は、特に限定されず、例えば、リチウム塩又は添加剤(1)の種類に応じて、適宜調節すればよい。通常は、電解液中のリチウム(リチウム原子、リチウムイオン)の濃度が、好ましくは0.2〜3.0モル/kg、より好ましくは0.4〜2.0モル/kgとなるように、配合量を調節するとよい。
【0031】
[その他の成分]
前記電解液は、前記リチウム塩、添加剤(1)及び有機溶媒以外に、本発明の効果を妨げない範囲内において、その他の成分が配合されていてもよい。前記その他の成分としては、目的に応じて任意の成分が選択できる。
前記その他の成分は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
【0032】
前記電解液において、配合成分の総量(配合成分全量)に占める、前記リチウム塩、添加剤(1)及び有機溶媒の総量は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが特に好ましく、100質量%であってもよい。下限値以上とすることで、添加剤(1)を配合した効果がより顕著に得られ、配合成分が前記リチウム塩、添加剤(1)及び有機溶媒のみの電解液とすることもできる。
【0033】
前記電解液において、前記リチウム塩、添加剤(1)及びその他の成分は、それぞれ、必ずしも全量が溶解している必要はないが、溶解している量が多いほど好ましく、全量が溶解していることがより好ましい。
【0034】
[電解液の製造方法]
前記電解液は、前記リチウム塩、添加剤(1)及び有機溶媒、並びに必要に応じてその他の成分を配合することで製造できる。各成分の配合時の添加順序、温度、時間等の各条件は、配合成分の種類に応じて任意に調節できる。
【0035】
各成分の配合時には、これら成分を添加して、各種手段により十分に混合することが好ましい。
各成分は、これらを順次添加しながら混合してもよいし、一部の成分を同時に添加しながら混合してもよいし、全成分を添加してから混合してもよく、配合成分を均一に混合できればよい。
【0036】
前記各成分の混合方法は、特に限定されず、例えば、撹拌子、撹拌翼、ボールミル、スターラー、超音波分散機、超音波ホモジナイザー、自公転ミキサー等を使用する公知の方法を適用すればよい。混合条件は、各種方法に応じて適宜設定すればよく、室温又は加熱条件下で所定時間混合すればよいが、例えば、15〜80℃で1〜48時間程度混合する方法が挙げられる。
【0037】
電解液に添加剤を配合して電池性能を向上させることは、例えば、「国際公開第05/015677号パンフレット」に開示されており、具体的な添加剤としては、シュウ酸ジアルキルが記載されている。特に、二つのアルキル基が互いに異なるシュウ酸ジアルキルを配合することで、負極に被膜を良好に形成できることが開示されている。シュウ酸ジアルキルは、二つのカルボニル基(−C(=O)−)が、これらの炭素原子同士間で直接結合すると共に、前記炭素原子にアルコキシ基が結合した構造を有する。
これに対して、本発明で使用する添加剤(1)は、カルボニル基を有しない。このように、添加剤(1)は、電子分布の偏りが存在するカルボニル基の有無の点で、シュウ酸ジアルキルとは全く相違し、シュウ酸ジアルキルとは分子の構造及び特性が全く相違するものである。添加剤(1)は、電解液への配合成分としては、従来のものとは異なる新規のものであり、このような添加剤(1)が配合された本発明の電解液は、有機溶媒の種類が限定されることなく、リチウムイオン二次電池を電池作動可能とし、添加剤(1)の選択によって、サイクル特性の向上も可能である。また、添加剤(1)は入手又は製造が容易なので、前記電解液は簡便且つ安価に製造できる。
【0038】
<リチウムイオン二次電池>
本発明のリチウムイオン二次電池は、上記本発明の電解液を備えたことを特徴とする。
本発明のリチウムイオン二次電池は、上記本発明の電解液を用いたこと以外は、公知のものと同様の構成とすることができ、かかる電解液を用いたことで、良好な発電性能を有する。
【0039】
[正極]
本発明のリチウムイオン二次電池において、正極は公知のものでよく、正極活物質、結着剤及び導電剤を用いて得られたものが例示できる。
【0040】
前記正極活物質としては、リチウム複合酸化物を含むものが例示でき、前記リチウム複合酸化物のみを含むものでもよい。
前記リチウム複合酸化物として、具体的には、コバルト酸リチウム(LiCoO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、LiCo−xNixOz(0.01<x<1)等の、コバルト(Co)、マンガン(Mn)又はニッケル(Ni)等の金属元素を含むものが例示できる。また、これらを構成する金属元素の一部が、これら金属元素以外のスズ(Sn)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)又は銅(Cu)等、他の金属元素で置換されたものでもよい。また、前記リチウム複合酸化物は、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO)でもよい。
【0041】
正極を構成する前記正極活物質、結着剤及び導電剤等の各成分は、それぞれ一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
【0042】
正極は、前記正極活物質、結着剤及び導電剤を混合して電極用ペーストを作製し、このペーストを、アルミニウム又はステンレス等の材質からなる集電体上に圧延して、加熱することで作製できる。
【0043】
[負極]
本発明のリチウムイオン二次電池において、負極は公知のものでよく、負極活物質、又は負極活物質及び結着剤を用いて得られたものが例示できる。
【0044】
前記負極活物質は、リチウムを吸蔵及び放出し得るものであればよく、具体的には、金属リチウム、リチウム合金、炭素系材料、金属酸化物等が例示できる。
前記炭素系材料としては、人造黒鉛、天然黒鉛等のグラファイト;熱分解炭素;コークスが例示できる。
【0045】
負極を構成する前記負極活物質及び結着剤等の各成分は、それぞれ一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
【0046】
負極は、使用する成分が異なる点以外は、正極と同様の方法で作製できる。
【0047】
[セパレータ]
前記リチウムイオン二次電池は、さらに必要に応じて、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。
前記セパレータの材質は特に限定されず、微多孔性の高分子膜、不織布、ガラスファイバー等が例示でき、これら材質からなる群から選択される一種以上であることが好ましい。
【0048】
本発明のリチウムイオン二次電池の形状は、特に限定されず、円筒型、角型、コイン型、シート型等、種々のものに調節できる。
【0049】
本発明のリチウムイオン二次電池は、公知の方法に従って、例えば、グローブボックス内又は乾燥空気雰囲気下で、前記電解液、正極及び負極等を用いて製造すればよい。
【0050】
本発明のリチウムイオン二次電池は、上記のように、前記電解液を用いたことで、負極表面において、添加剤(1)に由来する安定な表面層が形成され、この表面層によって負極が保護されると推測される。そして、添加剤(1)及び有機溶媒の組み合わせを調節することで、充放電を多数回繰り返して行うことができ、サイクル特性により優れたリチウムイオン二次電池とすることができる。これは、充放電時にも前記表面層により、負極が安定して保護されるからであると推測される。
【0051】
例えば、従来のリチウムイオン二次電池では、電解液が有機溶媒としてプロピレンカーボネートが配合されたものであり、負極活物質がグラファイトである場合、電池性能が大幅に低下してしまうことが知られている。これは、電池の作動中に、負極を構成するグラファイト層の層間にプロピレンカーボネートの分子が進入し、グラファイト層を剥離させるからである。しかし、本発明のリチウムイオン二次電池においては、添加剤(1)によって、上記のように負極が保護されることで、プロピレンカーボネート分子のグラファイト層間への侵入が抑制され、グラファイト層の剥離が防止されると推測される。そして、このような保護作用は一例であり、本発明のリチウムイオン二次電池は、電解液及び負極の組み合わせによらず、前記表面層の形成に伴う負極の保護作用によって、良好な発電性能を有する。
また、本発明のリチウムイオン二次電池は、前記電解液を用いること以外は、従来のものと同様の方法で製造できるので、特殊な工程や原材料が不要であり、原材料の使用制限もなく、簡便且つ安価に製造できる。
【実施例】
【0052】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下に示す電解液及びリチウムイオン二次電池の製造は、すべてドライボックス内で行った。
【0053】
本実施例で使用した化学物質を以下に示す。
(A)リチウム塩
六フッ化リン酸リチウム(LiPF):キシダ化学社製
(B)添加剤
添加剤(1)−1((CHO)CH−C(=O)−OCH):東京化成工業社製
ピルビンアルデヒドジメチルアセタール((CHO)CH−C(=O)−CH):東京化成工業社製
ピルビン酸メチル(CH−C(=O)−C(=O)−OCH):東京化成工業社製
メソシュウ酸ジエチル(CHCHO−C(=O)−C(=O)−C(=O)−OCHCH):東京化成工業社製
コハク酸ジメチル(CHO−C(=O)−CHCH−C(=O)−OCH):東京化成工業社製
マロン酸ジメチル(CHO−C(=O)−CH−C(=O)−OCH):東京化成工業社製
ジアセチル(2,3−ブタンジオン、CH−C(=O)−C(=O)−CH):東京化成工業社製
プロピレンカーボネート(PC):キシダ化学社製
【0054】
<電解液及びリチウムイオン二次電池の製造>
[実施例1]
LiPF(0.456g、3.00mmol)、前記添加剤(1)−1(0.046g、0.34mmol)、PC(2.499g)をサンプル瓶に量り取り、25℃で6時間混合することにより、リチウム原子の濃度が1.0モル/kgの電解液を得た。
【0055】
負極(宝泉株式会社製)及び正極(宝泉株式会社製)を直径16mmの円盤状に打ち抜いた。また、セパレータとしてガラスファイバーを直径17mmの円盤状に打ち抜いた。得られた正極、セパレータ及び負極をこの順にSUS製の電池容器(CR2032)内で積層し、上記で得られた電解液をセパレータ、負極及び正極に含浸させ、さらに負極上に、SUS製の板(厚さ1.2mm、直径16mm)を載せ、蓋をすることにより、リチウムイオン二次電池としてコイン型セルを製造した。
【0056】
[実施例2]
LiPF(0.456g、3.00mmol)、前記添加剤(1)−1(0.023g、0.17mmol)、PC(2.522g)をサンプル瓶に量り取り、リチウム原子の濃度が1.0モル/kgの電解液を得た。
次いで、実施例1で得られた電解液に代えて、本実施例で得られた電解液を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法でコイン型セルを製造した。
【0057】
[実施例3]
LiPF(0.456g、3.00mmol)、前記添加剤(1)−1(0.014g、0.10mmol)、PC(2.531g)をサンプル瓶に量り取り、25℃で6時間混合することにより、リチウム原子の濃度が1.0モル/kgの電解液を得た。
次いで、実施例1で得られた電解液に代えて、本実施例で得られた電解液を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法でコイン型セルを製造した。
【0058】
[参考例1]
LiPF(0.456g、3.00mmol)、シュウ酸ジメチル(0.014g、0.12mmol)、PC(2.531g)をサンプル瓶に量り取り、25℃で6時間混合することにより、リチウム原子の濃度が1.0モル/kgの電解液を得た。
次いで、実施例1で得られた電解液に代えて、本参考例で得られた電解液を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法でコイン型セルを製造した。
【0059】
[参考例2]
LiPF(0.456g、3.00mmol)、シュウ酸ジエチル(0.023g、0.16mmol)、PC(2.522g)をサンプル瓶に量り取り、25℃で6時間混合することにより、リチウム原子の濃度が1.0モル/kgの電解液を得た。
次いで、実施例1で得られた電解液に代えて、本参考例で得られた電解液を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法でコイン型セルを製造した。
【0060】
[比較例1]
LiPF(0.456g、3.00mmol)、PC(2.544g)をサンプル瓶に量り取り、25℃で6時間混合することにより、リチウム原子の濃度が1.0モル/kgの電解液を得た。
次いで、実施例1で得られた電解液に代えて、本比較例で得られた電解液を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法でコイン型セルを製造した。
【0061】
[比較例2]
LiPF(0.456g、3.00mmol)、ピルビンアルデヒドジメチルアセタール(0.046g、0.45mmol)、PC(2.499g)をサンプル瓶に量り取り、25℃で6時間混合することにより、リチウム原子の濃度が1.0モル/kgの電解液を得た。
次いで、実施例1で得られた電解液に代えて、本比較例で得られた電解液を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法でコイン型セルを製造した。
【0062】
[比較例3]
ピルビンアルデヒドジメチルアセタールの使用量を0.046gに代えて0.091g(0.89mmol)とし、PCの使用量を2.499gに代えて2.453gとしたこと以外は、比較例2と同様の方法で、電解液及びコイン型セルを製造した。
【0063】
[比較例4]
LiPF(0.456g、3.00mmol)、ピルビン酸メチル(0.046g、0.45mmol)、PC(2.499g)をサンプル瓶に量り取り、25℃で6時間混合することにより、リチウム原子の濃度が1.0モル/kgの電解液を得た。
次いで、実施例1で得られた電解液に代えて、本比較例で得られた電解液を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法でコイン型セルを製造した。
【0064】
[比較例5]
ピルビン酸メチルの使用量を0.046gに代えて0.091g(0.89mmol)とし、PCの使用量を2.499gに代えて2.453gとしたこと以外は、比較例4と同様の方法で、電解液及びコイン型セルを製造した。
【0065】
[比較例6]
LiPF(0.456g、3.00mmol)、メソシュウ酸ジエチル(0.046g、0.26mmol)、PC(2.499g)をサンプル瓶に量り取り、25℃で6時間混合することにより、リチウム原子の濃度が1.0モル/kgの電解液を得た。
次いで、実施例1で得られた電解液に代えて、本比較例で得られた電解液を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法でコイン型セルを製造した。
【0066】
[比較例7]
メソシュウ酸ジエチルの使用量を0.046gに代えて0.091(0.52mmol)gとし、PCの使用量を2.499gに代えて2.453gとしたこと以外は、比較例6と同様の方法で、電解液及びコイン型セルを製造した。
【0067】
[比較例8]
LiPF(0.456g、3.00mmol)、コハク酸ジメチル(0.046g、0.31mmol)、PC(2.499g)をサンプル瓶に量り取り、25℃で6時間混合することにより、リチウム原子の濃度が1.0モル/kgの電解液を得た。
次いで、実施例1で得られた電解液に代えて、本比較例で得られた電解液を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法でコイン型セルを製造した。
【0068】
[比較例9]
LiPF(0.456g、3.00mmol)、マロン酸ジメチル(0.046g、0.35mmol)、PC(2.499g)をサンプル瓶に量り取り、25℃で6時間混合することにより、リチウム原子の濃度が1.0モル/kgの電解液を得た。
次いで、実施例1で得られた電解液に代えて、本比較例で得られた電解液を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法でコイン型セルを製造した。
【0069】
[比較例10]
LiPF(0.456g、3.00mmol)、ジアセチル(0.046g、0.53mmol)、PC(2.499g)をサンプル瓶に量り取り、25℃で6時間混合することにより、リチウム原子の濃度が1.0モル/kgの電解液を得た。
次いで、実施例1で得られた電解液に代えて、本比較例で得られた電解液を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法でコイン型セルを製造した。
【0070】
<リチウムイオン二次電池の電池性能の評価>
上記各実施例、参考例及び比較例のコイン型セルについて、25℃において電流値600μAで4.2Vまで充電した後、電流値600μAで2.7Vまで放電する充放電サイクルを1サイクルとし、その時の放電容量を1サイクル容量(mAh)と定めた。そして、30サイクル目の容量(mAh)を求め、容量維持率([30サイクル目の容量(mAh)]/[理論容量(mAh)×100])(%)を求めた。なお、前記理論容量は3mAhである。結果を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
上記結果から明らかなように、実施例1〜3のリチウムイオン二次電池は、良好な電池性能を示し、添加剤(1)が配合された電解液は、リチウムイオン二次電池で使用するのに適したものであることを確認できた。
参考例1及び2のリチウムイオン二次電池は、これら実施例のものと同程度の電池性能を有していた。
一方、比較例1〜10のリチウムイオン二次電池は、充電時に電圧が上がらず、電池作動しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、リチウムイオン二次電池の分野で利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒にリチウム塩及び添加剤が配合されてなり、前記添加剤が、下記一般式(1)で表されることを特徴とする電解液。
【化1】

(式中、R、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、又は炭素数7〜25のアラルキル基であり;Rは水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基である。)
【請求項2】
前記有機溶媒がエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ビニレンカーボネート、γ−ブチロラクトン及びスルホランからなる群から選択される一種以上であることを特徴とする請求項1に記載の電解液。
【請求項3】
前記R、R及びRがそれぞれ独立に炭素数1〜5のアルキル基であり、前記Rが水素原子であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電解液。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の電解液を備えたことを特徴とするリチウムイオン二次電池。

【公開番号】特開2013−45685(P2013−45685A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183532(P2011−183532)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】