説明

電解用電極、オゾン電解生成用陽極、過硫酸電解生成用陽極及びクロム電解酸化用陽極

【解決課題】電解酸化反応に用いる高酸素過電圧を有し長寿命の電解用電極を提供することを目的とする。
【解決手段】バルブ金属酸化物の電極表面を有し、該電極表面の基体がバルブ金属と貴金属(銀(Ag)を除く。以下同じ。)の合金からなる電解用電極であって、該電極表面近傍域のバルブ金属の結晶が細長の結晶粒を有し、電極表面から垂直深さ方向10μmの範囲内の貴金属が5原子%以下であり、かつ、電極表面近傍域における表面のバルブ金属が酸化膜を有することを特徴とする電解用電極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解用陽極に関する。詳しくは、食品加工や医療現場における殺菌、上下水道や排水の水処理・殺菌、半導体デバイス製造プロセスにおける洗浄、過硫酸アンモニウム等の過酸化物の生成、六価のクロム(Cr(VI))めっきにおけるクロムイオン濃度の管理などに用いる電解用陽極に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、レジオネラ菌等の細菌は、空気調和機器の循環水などに付着し、これら機器の運転を行うことにより、吹出口からこれら細菌が室内に吐出され、空気中に細菌が浮遊する。また、家庭用風呂の残り湯などにもレジオネラ菌等の細菌が繁殖する。活性酸素、特にオゾンは酸化力の非常に強い物質であり、オゾンが溶解したオゾン水は、食品加工や医療現場における殺菌、マロン酸や臭気性のジェオスミン等の有機物あるいは細菌等を含む上下水道や排水(一般排水、バラスト水等)の水処理・殺菌、半導体デバイス製造プロセスにおける洗浄など、洗浄殺菌処理等のオゾンを必要とする現場で利用されている。オゾン水を生成する方法は、水の電気分解により水中でオゾンを生成させる方法が知られている。また、同様に半導体回路製造過程でレジスト除去剤などの洗浄剤として過硫酸アンモニウムなどの過酸化物が知られており、その製造において硫酸水の電解反応により生成されるオゾンなどの活性酸素による硫酸の電解酸化反応、または、硫酸からの直接電解反応が用いられている。
【0003】
水の電気分解に使用するオゾン生成用陽極は、商業用ではバルブ金属などの基体に酸化鉛を被覆させた電極や白金(Pt)無垢電極が使用されている。しかし、前者では電解中の剥離による電極寿命の低下の問題や人体に悪影響を与える有害物質の溶出などという環境問題があり、後者の電極は十分な電極活性(酸素過電圧)が得られないばかりか高価であり経済性の問題もある。後述する特許文献1〜3に記載されているように、チタン(Ti)と白金(Pt)により構成される電極も一般的に知られているが、Pt被覆Tiは、酸化鉛(PbO)のような環境問題や白金無垢材のような経済性の問題は無いが、十分な電極活性(酸素過電圧)が得られない。 また、電極寿命が十分得られないという問題がある。また、Pt被覆Ti合金を400〜700℃で熱処理した電極やPt粉末とTi金属またはTi酸化物粉末との混合物で層を形成させた電極などが開発されている。しかし、オゾンの生成効率が低く消耗量が激しいなどの課題がある。
【0004】
オゾン生成用陽極の材料は、電極基材として一般的に用いられるTi、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)等のバルブ金属が使われる。多くのバルブ金属は、酸素過電圧が高いため、陽極として使用した際にオゾン生成能を有することが知られている。しかし、バルブ金属からなる電極の表面が電解により酸化され、酸化物の層が厚くなり不導体化するため電極としての機能が損なわれ短寿命の電極となる。そのため、誘電体として薄い酸化Taの層を電極表面に利用することが考えられている(WO2003/000957号)。しかし、その電極を用いても使用初期の段階でオゾン生成効率が良いものの、初期特性が長く持続せず、電極寿命が十分に得られないという課題がある。
【0005】
前記の課題を解決するために、電極基体との中間層にPtなどの貴金属層を形成し、その表面域にTiなどのバルブ金属酸化物層(誘電体層)を順次形成させた電極が報告されている(特許文献1〜3)。これらの電極は、中間層や表面層を形成させるために薄い層の形成や焼成を複数回繰り返さなければならず、作業工程が多いという問題点がある。また、貴金属層とバルブ金属酸化物層の密着性が十分ではなく、また、使用中に電解反応界面における電極表面性状が変化し、高い電解酸化能も長時間維持することはできないという課題がある。
【0006】
過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩の製造に使用される電解用陽極は、例えば、白金リボンが使用される。しかしながら、白金リボンを用いた電解処理では十分な酸素過電圧が得られない為、厳しい電解条件から電極の消耗量が大きくなり、電解溶液中に消耗した電極成分が不純物として混入する不都合や、電極交換を頻回に行わなければならないなどの不都合があった。
そこで、バルブ金属などの基体を用い、中間層に白金族金属などの難酸化性の金属を有し、電極表面にバルブ金属酸化物を含む表面層を有する電極を用いることで、硫酸イオンを含む水溶液を電解処理して過硫酸溶解水を生成する過硫酸溶解水の生成方法が考案されている(特開2007−016303号公報)。しかし、その方法によっても、高い酸素過電圧を持続的に得られず電極寿命も短く、過硫酸の生成効率が不十分である。
【0007】
従来、Cr(VI)めっきに使用する陽極電極は、高い電解酸化能を有するとの理由から鉛または鉛合金が用いられている。これらの陽極はCr(III)をCr(VI)へ酸化させCrイオン濃度を適正にコントロールできるが、クロム酸鉛が使用時に陽極溶解で大量に沈殿したり、鉛化合物や鉛イオンがめっき廃液中に混入したりするなどの問題がある。
かかる問題点を解決するために、白金族金属およびその酸化物を主成分とした不溶性電極を陽極に用いてめっきを行う方法がある。しかし、これらの陽極電極は鉛または鉛合金の陽極電極と比較してCr(III)からCr(VI)への酸化能が極めて低いため、めっき浴中のCrイオン濃度をコントロールすることが困難という問題点がある。
その解決策として、Tiを含む金属基体上に白金族金属を被覆した不溶性電極を使用し硝酸銀や酸化銀などの添加剤をめっき液に加えることで、Cr(VI)めっき中のCrイオン濃度を制御する方法が考案されている(特開2006−131987号公報)。しかし、その方法を用いても十分なCrイオン濃度コントロールができず、添加剤量のコントロールや添加剤によるクロムめっき膜へのコンタミネーションなどの問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−224351号公報
【特許文献2】特開2007−46129号公報
【特許文献3】特開2006−97122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
水の電気分解に使用するオゾン生成用陽極は高酸素過電圧の初期特性が長く持続せず、電極寿命が十分に得られないという課題がある。また、硫酸イオンを含む水溶液の電気分解による過硫酸の生成に用いる電極としても、酸素過電圧や電極寿命、共に不十分である。Cr(VI)めっきに使用する硫酸液中などで電解を行うための陽極電極は、十分なCrイオン濃度コントロールができず、添加剤量のコントロールや添加剤によるクロムめっき膜へのコンタミネーションなどの課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を踏まえ、本発明は、貴金属とバルブ金属による新規な電極表面近傍組織と、新しい界面反応に基づく高酸素過電圧で高い電解酸化能を有し長寿命の電解用電極を提供することを目的とする。
【0011】
第1の発明は、バルブ金属酸化物の電極表面を有し、該電極表面の基体がバルブ金属と貴金属(銀(Ag)を除く。以下同じ。)の合金からなる電解用電極であって、該電極表面の近傍域(電極表面近傍域)のバルブ金属の結晶が細長の結晶粒を有し、電極表面から垂直深さ方向10μmの範囲内の貴金属が5原子%以下であり、かつ、該電極表面近傍域における表面のバルブ金属が酸化膜を有することを特徴とする電解用電極に関する発明である。
【0012】
第2の発明は、前記電極表面近傍域のバルブ金属の結晶粒界中に貴金属が析出している第1の発明に記載の電解用電極に関する発明である。
【0013】
第3の発明は、前記貴金属が白金族金属である第1の発明に記載の電解用電極に関する発明である。
【0014】
第4の発明は、前記貴金属が白金(Pt)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)またはロジウム(Rh)である第1の発明に記載の電解用電極に関する発明である。
【0015】
第5の発明は、電極表面から垂直深さ方向10μmの範囲内の貴金属が0.01〜5原子%である第1の発明に記載の電解用電極に関する発明である。
【0016】
第6の発明は、前記バルブ金属がチタン(Ti)またはジルコニウム(Zr)である第1の発明に記載の電解用電極に関する発明である。
【0017】
第7の発明は、前記電極表面近傍域における表面のバルブ金属酸化膜の厚みが3nm以上200nm以下の範囲である第1の発明に記載の電解用電極の発明である。
【0018】
第8の発明は、水溶液の電解によりオゾンを生成するための陽極として用いる第1の発明に記載の電解用電極の発明である。
【0019】
第9の発明は、硫酸イオンを含む水溶液の電解により過硫酸を生成するための陽極として用いる第1の発明に記載の電解用電極の発明である。
【0020】
第10の発明は、クロム(Cr)めっき浴中の三価クロム(Cr(III))を六価クロム(Cr(VI))へ酸化するための陽極として用いる第1の発明に記載の電解用電極。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明に係る電解用電極は、貴金属とバルブ金属による新規な電極表面近傍組織と、新しい界面反応に基づく高酸素過電圧で高い電解酸化能を有し、長期間にわたり高効率で、電極が劣化することなく安定して電解反応を行える電極である。本発明の電解用電極は、オゾン生成や過硫酸の生成、Cr(VI)めっきにおけるCrイオン濃度管理のための酸化反応や過酸化物の陽極電解製造に際して、界面反応が促進され、従来に比し高い酸素過電圧を有し、高い耐食性で長期間使用できる。尚、この電解用電極は、陰極としても使用でき、極性切り替えも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の電解用電極について説明した上で、その製造方法について説明する。まず、本発明の好適な電解用電極の実施形態を説明するが、これら実施形態により何ら限定されるものではない。
【0023】
本発明の電極は、バルブ金属酸化物の電極表面を有し、該電極表面の基体がバルブ金属と貴金属(銀(Ag)を除く。以下同じ。)の合金からなる電解用電極である。電極表面とは、水溶液中の反応物質との間での電解反応に伴う電子の授受を担い界面と接するものである(表面が酸化物で、近傍域が金属である)。TiやZrなどのバルブ金属の酸化物は、酸素過電圧が高く、陽極として使用した際にオゾン生成能など非常に高い電解酸化能を有する。更に、電極表面に不動態の酸化膜が存在するため高い耐食性も得られる。しかし、厚い酸化膜は電気導電性が無いため電極自体の電気導電性を失い電解反応に寄与できなくなる。本発明の電極は、電極表面の近傍域(電極表面近傍域)のバルブ金属結晶が細長の結晶粒を有し、電極表面から垂直深さ方向10μmの範囲内の貴金属が5原子%以下であり、かつ、電極表面近傍域における表面(電極表面)のバルブ金属が酸化膜を有することを特徴とする。かかる電解用電極を用いれば、従来の電極に比べ耐食性と導電性を損なうことなく酸素過電圧の低下も伴わず、効率的な電解が長期間行えることを見出した。電極表面近傍域のバルブ金属の結晶は、電極表面から垂直断面において細長の結晶粒であり、その結晶粒界は電極に均質に存在し、電極中に含まれる貴金属はその粒界中に析出し分散している。このため、電極の使用中でも結晶粒界に析出した難酸化性の貴金属が粒界を伝っての電極内部への酸素進入を防ぎ結晶粒の酸化を抑制するばかりか高い電気伝導性も得られ、また、結晶粒界に含まれる貴金属により結晶粒及び電極の表面性状が安定に保たれるため、優れた電解機能を持続的に発揮できる。多くの貴金属は粒界中に存在するが、バルブ金属結晶格子内にも存在する。結晶粒内の貴金属により結晶粒及び電極の表面性状が更に安定に保たれ、より優れた電解機能を持続的に発揮できる。この組織により導電性を損なうことなく、かつ、耐食性に優れた電解用電極として機能する。また、電極表面のバルブ金属が酸化膜を有することで、高い酸素過電圧が得られ、電極表面近傍域は先の組織を有することから、電子の移動も円滑に行われるため、効率的な電解を長期間行うことができる。本発明の電解用電極における貴金属は、電極表面から垂直深さ方向に10μmの範囲内で5原子%以下である。5原子%を超えると、酸素過電圧機能が低下するばかりか、バルブ金属結晶の結晶形の一部または全部が変化し、先の電解に優れた組織が崩れてしまう。更に、電極表面から垂直深さ方向に10μmの範囲内の貴金属含有量が0.01〜5原子%が好適に用いられる。貴金属含有量が少なすぎると、結晶粒界または粒内への酸素の進入を阻止しバルブ金属の酸化の進行を抑制し難くなり、電気伝導性を損ねてしまう恐れがある。より好ましくは0.1〜5原子%、最適には0.3〜3原子%で用いられる。尚、細長の結晶粒とは、図1−aの電極断面図に示されるような結晶粒である。細長の結晶粒間の結晶粒界は、電極表面からの垂直深さ方向に30μmの範囲内で3以上有することが好ましい。より好ましくは3〜30である。本発明の電極表面近傍域は、電極の全部であっても一部であっても良いが、電極表面から深さ方向で10μm以上有することが好ましい。
【0024】
本発明の電解用電極を構成する貴金属は、優れた耐食性と導電性を有するものであり、貴金属のみからでも、貴金属合金(酸化物を含む)でも良い。貴金属のみからなる場合、白金族金属が好適に用いられ、より好ましくは白金(Pt)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)またはロジウム(Rh)、中でもPtが最適である。貴金属合金を用いる場合、貴金属と非貴金属との合金でも良いが、貴金属間の合金が好ましい。中でもPtと白金族金属の組合せ(Pt−Ir合金、Pt−Rh合金、Pt−Ru合金、Pt−Pd合金)がより好ましい。貴金属酸化物の場合、酸化白金、酸化イリジウム、酸化パラジウム、酸化ルテニウムが好適に用いられる。なお、銀(Ag)は酸素の進入を抑制できないばかりか電解中に腐食するので適しない。
【0025】
本発明の電解用電極で用いられるバルブ金属は、Ti、Zr、Nb、Ta等の陽極酸化などで不動態の酸化被膜を形成し耐食性を示す高融点金属であり、好ましくは、TiまたはZrが用いられ、実用性を考慮するとTiが最適である。
【0026】
本発明の電解用電極は、電極表面近傍域における表面のバルブ金属が酸化膜を有する。その酸化膜は、電極表面に表出したバルブ金属の一部または全部が酸化し形成されたものである。また、電極表面のバルブ金属酸化膜の厚みは、3〜200nmであることが好ましい。3nm以上とは、電解反応中に3nm程度の酸化膜が存在すれば電極として十分機能するからである。200nmを超えると、反応界面から電極内部への電子移動が妨げられ、電解反応の効率が低下してしまう恐れがある。また膜応力が大きくなり、酸化膜の剥離が生じやすいため耐食性や耐久性が低下するため好ましくない。より好ましくは、3〜100nmの厚さで用いられる。例えば、チタンの酸化膜の場合、光の干渉作用により膜厚に応じて彩度の高い光沢色調が目視で観察されることが知られている。その膜厚が、10〜20μm程度でゴールド色、20〜30nm程度でブラウン色、30〜60nm程度でブルー色、60〜90nm程度でイエロー色、90〜120nm程度でパープル色、120〜160nm程度でグリーン色、160〜200nm程度でピンク色を呈する。尚、本発明の電極表面は、図2−aの走査型電子顕微鏡写真に見られるような等高線状の模様となる。
【0027】
本発明の電解用電極は、水溶液中の電解でオゾンなどの活性酸素を生成するための、電解酸化反応用陽極として好適に用いられる。それは、本発明の電極が高い酸素過電圧を有し、水の電気分解においてオゾン生成を促進するためであり、またオゾン生成による強酸化条件においても高い耐食性を有するからである。
【0028】
本発明の電解用電極は、硫酸イオンを含む水溶液の電解により過硫酸を生成するための陽極として好適に用いられる。それは、本発明の電極が硫酸イオンを含む水溶液中において、水の電気分解により酸素を生成させるに必要な酸化能を超え、硫酸イオンを過硫酸イオンへ酸化する程の高い電解酸化能を有し、かつ、酸性液中でも十分な耐食性を有するからである。
【0029】
本発明の電解用電極は、Cr(IV)めっき用陽極として好適に用いられる。それは、本発明の電極がCr(IV)めっき浴に多用される硫酸液中などにおいて、めっき反応で生成するCr(III)をCr(VI)へ酸化させるほどの高い電解酸化能を有し、かつ、十分な耐食性を有するからである。
【0030】
以下、本発明の電解用電極の製造方法の実施態様について説明するが、これに何ら限定されるものではない。
【0031】
本発明の電解用電極の第1の製造方法は、バルブ金属基材を貴金属により被覆する第1の工程、1000〜1500℃の高温熱処理することにより前記基材のバルブ金属が前記貴金属の被覆を通過し表出させ、かつ、前記表出させたバルブ金属表面が酸化され電極表面近傍域を形成する第2の工程により製造される。
本発明の電解用電極の第2の製造方法は、バルブ金属基材を貴金属により被覆する第1の工程、1000〜1500℃の高温熱処理することにより前記基材のバルブ金属が前記貴金属の被覆を通過し表出させる第2の工程、前記表出させたバルブ金属表面が酸化され電極表面にバルブ金属酸化膜を形成する第3の工程により製造される。
【0032】
上記(段落0031)第1の工程で用いるバルブ金属は、Ti、Zr、Nb、Ta等の陽極酸化などで不動態の酸化被膜を形成し耐食性を示す高融点金属であり、好ましくは、TiまたはZrが用いられ、実用性を考慮するとTiが最適である。また、上記第1の工程で用いる貴金属は、優れた耐食性と導電性を有するものであり、貴金属のみからでも、貴金属合金(酸化物を含む)でも良い。貴金属のみからなる場合は、白金族金属が好適に用いられ、より好ましくはPt、Ir、RuまたはRh、中でもPtが最適である。貴金属合金を用いる場合は、貴金属と非貴金属との合金でも良いが、貴金属間の合金が好ましい。中でもPtと白金族金属の組合せ(Pt−Ir合金、Pt−Rh合金、Pt−Ru合金、Pt−Pd合金)がより好ましい。貴金属酸化物としては、酸化白金、酸化イリジウム、酸化パラジウム、酸化ルテニウムが好適に用いられる。
上記(段落0031)第1の工程における貴金属の被覆方法は、めっきの他、真空蒸着スパッタリングにより貴金属膜を形成する方法、真空蒸着スパッタリングにより貴金属膜を形成する方法、溶射法やクラッドにより貴金属膜を形成する方法、貴金属化合物溶液を基材に塗布あるいは蒸着(CVD)し熱分解により貴金属膜を形成する方法、貴金属ペーストを基材に塗布して貴金属膜を形成する方法、等が挙げられる。簡便に均質な被覆を行うことを考慮すると、めっきまたはマグネトロンスパッタリングが好ましく用いられる。経済性・生産性の観点から、より好ましくは、電気めっきにより白金族金属が被覆される。電気めっきを行う場合は、バルブ金属表面のフッ酸などの薬品による化学的前処理やサンドブラストによる前処理を行うことが好ましい。それらの処理により、バルブ金属表面を活性化し、密着性の良好な貴金属中間層を形成でき、後の第2の工程の高温熱処理によるバルブ金属の表出において電解用電極に好ましい電極表面近傍域およびその表面(電極表面)を形成できる。尚、貴金属被覆の厚さは、好ましくは0.01μm〜10μm、より好ましくは0.1μm〜10μmである。0.01μmよりも薄いと、高温熱処理時の被覆された貴金属の拡散が短時間となり、電極表面近傍域を構成するバルブ金属酸化膜の不導態化を簡便に制御できなくなるばかりか、高温熱処理により形成されるバルブ金属の結晶粒界に存在する貴金属が不足し十分な耐食性が得られず電極が短寿命となる恐れがある。そして、10μmよりも厚いと、熱処理をしてもバルブ金属の表出と貴金属の拡散が不十分となり電極表面に貴金属が残りやすくなるため、バルク金属の酸化物の均質な膜が生成し難くなるばかりか、経済的にも貴金属を多く用いるため好ましくない。更に、貴金属の厚さを0.3〜3μmとすれば最適である。
【0033】
上記(段落0031)第2の工程の高温熱処理により、バルブ金属は被覆された貴金属膜を熱振動により拡散し通過し表出することで、電解反応に適した電極表面近傍域およびその表面(電極表面)が形成される。表出したバルブ金属表面は、高温熱処理時に酸素が存在する場合、容易に酸化され酸化膜を形成する。また、熱処理後の冷却時、あるいはその冷却後の保管時に存在する酸素によって形成されてもよい。冷却時及び保管時の酸化は、自然酸化や大気中で(室温中で)の自然酸化、あるいは電解反応時の電解酸化などにより行われる。
バルブ金属基材を被覆した貴金属は、第2の工程の高温熱処理により電極内部へ拡散し、バルク金属の粒界に析出される。このように製造された電極は、電極表面近傍域のバルブ金属結晶が細長の結晶粒を有し、電極表面から垂直深さ方向10μmの範囲内の貴金属が5原子%以下となり、また、貴金属はバルブ金属結晶粒界やバルブ金属結晶格子内へ拡散している。そのため、電極の使用中でも結晶粒界に析出した難酸化性の貴金属が、粒界を伝って電極内部へ進入する酸素を防ぎ、結晶粒の酸化を抑制するばかりか高い電気伝導性も得られる。また、結晶粒界に含まれる貴金属により結晶粒及び電極の表面性状が安定に保たれるため、優れた電解機能を持続的に発揮できる。更に、結晶粒内の貴金属により結晶粒及び電極の表面性状が更に安定に保たれ、より優れた電解機能を持続的に発揮できる。
高温熱処理は1000℃×(1〜24時間)〜1500℃×(0.5〜12時間)の範囲内であれば本発明の電極を好適に製造できる。1000℃未満の場合は、長時間かけなければ、基材のバルブ金属が被覆された貴金属を十分に通過せず表出し難いばかりか、貴金属の電極内部への拡散も不十分となり好ましくない。このように拡散が不十分な場合には、本発明のバルブ金属組織と異なる組織となり、効率的な電解反応が行えない。また1500℃を超える場合は、それ以上性能に変化は無くコストが掛かってしまうばかりか、温度を上げすぎるとバルブ金属が全て液体になり本発明の好適な電極組織を形成し難くなる。より好ましくは、1100(1〜20時間)〜1300℃×(1〜15時間)で行われる。尚、本発明の電極表面は、図2−a(1200℃×12時間、高温熱処理)の走査型電子顕微鏡写真に見られるような等高線状の模様となるが、500℃×24時間の熱処理により得られる電極表面は、図2−bに見られるような細かな凹凸模様となる。
【0034】
上記(段落0031)第3の工程では高温熱処理(第2の工程)後の電極を導電塩を含有する水溶液に浸し、電気分解の陽極とし、0.001A/cm(平方cm)以上の電流を通電することにより、その電極表面が酸化され酸化膜が形成される。第3の工程は所定目的の電解での使用の初期または使用前に別途行うことができる。その酸化膜は、表出した電極表面近傍域の表面の一部または全部のバルブ金属が酸化し形成されたものである。第3の工程は、第2の工程の高温熱処理及び熱処理後の冷却と同時に、微量の酸素によって酸化膜を形成し行ってもよい。また、冷却後の保管時に存在する酸素によって酸化膜が形成されてもよい。冷却時及び保管時の酸化は、自然酸化や大気中で(室温中で)の自然酸化などで行われる。熱処理時及び熱処理後の冷却時に酸化させる場合は、その熱により酸化反応が進行しやすいため、必要以上の酸化膜を形成しない低酸素分圧で行うことが好ましく、酸素分圧が100Pa以下で酸化させることが好ましい。100Paを超えると酸化膜が成長しすぎ導電性の低下や剥離などの不良が生じるため好ましくない。係る範囲の低酸素分圧下であれば、全圧が減圧下、大気圧下、あるいは高圧下(ホットプレス、HIP(熱間等方加圧)等)であっても良い。より好ましくは、酸素分圧が10−2Pa以下で行われる。最適には、減圧下(10−2〜200Pa)、酸素分圧が10−2Pa以下で行われる。
本発明の電極表面のバルブ金属酸化膜の厚みは、3〜200nmであることが好ましい。3nm未満の場合、電解反応に十分な性能が得られず、特に電解酸化反応においては酸素過電圧が低下するため好ましくない。200nmを超えると、反応界面から電極内部への電子移動が妨げられ、電解反応の効率が低下してしまう。また膜応力が大きくなり、酸化膜の剥離が生じやすく、耐食性や耐久性が低下してしまうため好ましくない。より好ましくは、3〜100nmの範囲である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の電極断面の光学顕微鏡写真(a)及び電子プローブマイクロアナライザーによる白金マッピング分析結果(b)を示す図。本発明の電極表面近傍域の組織が示される。
【図2】本発明の電極(1200℃、12時間の熱処理)の走査型電子顕微鏡写真による表面観察(a)および比較例2の電極(500℃、24時間の熱処理)の走査型電子顕微鏡写真による表面観察を示す図。
【図3】減圧下、1000℃または1100℃の高温熱処理により製造された本発明の電極の電極電位を示す図。
【図4】減圧下、1200℃または1300℃の高温熱処理により製造された本発明の電極の電極電位を示す図。
【図5】オゾン生成能測定結果を示す図。
【図6】オゾン生成能測定条件下での電極電位の経時変化を示す図。
【図7】マロン酸の定電流処理によるマロン酸分解量を示す図。
【図8】ジェオスミンの定電流処理によるジェオスミン残存率を示す図。
【図9】HIP処理した電極の電極電位を示す図。
【図10】各種貴金属(Ir,Ru、Pd)を用いた電極の電極電位を示す図。
【0036】
第1実施形態:Ti基材(縦70mm、横20mm、厚さ1mm)をPtめっきした後、加熱処理を行った。Ptめっきは、Ti基材をアルカリ性脱脂液に浸漬して脱脂後、フッ酸溶液にてTi基材表面の不動態皮膜を除去し、Pt濃度20g/Lのめっき液(商品名:プラチナート100 日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社製)のめっき浴を用いて、pH14、液温85℃、電流密度2.5A/dmの条件下で、撹拌しながら各種厚さでめっきした。Ptめっきの厚みは、それぞれ、0.1μm、0.5μm、1μm、3μm、5μm、10μmとした。加熱処理は、減圧雰囲気下(減圧度:100Pa、酸素分圧1×10−4Pa)、温度1000〜1300℃にて1〜12時間の条件で行った。
【0037】
第一実施形態で作製した電解用電極のうち、Ptめっき厚を1μmとし減圧下1200℃で12時間の高温熱処理した電極について、電極表面のチタンの酸化膜を目視観察したところ、ゴールドあるいはブラウンの光沢色を呈していた。このことから、チタンの酸化膜が10〜30nmの厚さで形成されていると推定される。また、走査型電子顕微鏡(SEM)による表面観察(×500)を行ったところ、電極表面に等高線状の模様が観察された(図2−a)。比較としてPtめっき厚を1μmとし減圧下500℃で12時間の熱処理を行った電極を作成し、同様にSEMによる観察を行ったが、本発明の電極表面の模様とは明らかに異なり、細かな凹凸模様であった(図2−b)。前記表面観察を行った第1実施形態の電極をフッ酸エッチングの後、光学顕微鏡による電極断面観察を行ったところ、細長の結晶粒を有することが確認され、電極表面から30μmの垂直深さに10〜20の結晶粒界が観測された(図1−a)。更に、前記電極断面の電子プローブマイクロアナライザーによる白金マッピング分析では、用いられた白金の多くが結晶粒界中に析出し均質に分散している様子が観察された(図1−b)。また、少量ではあるがバルブ金属結晶格子内にも白金の存在を確認した。この金属マッピング分析により、電極表面から垂直深さ方向に10μmの範囲内のPtは、1原子%であった。他のPtめっき厚から作成された電極についても同様に金属マッピング分析による電極表面から垂直深さ方向に10μmの範囲内のPt含有量を測定したところ、めっき厚0.1μmでは0.3原子%、3μmでは2原子%、めっき厚5μmでは3原子%であった。
【0038】
第一実施形態で作製した電極を用いて電極電位の測定を行った。測定では作用極(陽極)に本実施形態の電解用電極、対極(陰極)にPt/Ti電極(Ti基材にPtを膜厚1μmめっきした電極)、参照極にAg/AgCl電極を用い、ポテンショメトリー測定を行った。その際、溶液は1M硫酸(酸性液)とし、電流は1mA、測定機器は電気化学測定システム(商品名:HZ−5000シリーズ, HOKUTO DENKO製)を用いた。結果を図3及び図4に示す。この条件で単にPtめっきをしたのみで高温熱処理をしなかった電極(未処理)を用いた場合、Pt被覆厚にかかわらず1.61Vであった(図3及び図4中の点線の電位)。図3及び図4の結果をみると、第1実施形態の電極それぞれ全てが、単にPtめっきをしたのみで高温熱処理をしなかった電極と比較して、電位が上昇し高い酸素過電圧を有する電極が形成されていることがわかる。また、この第1実施形態の電極の酸素過電圧は、中性液である0.1M硫酸ナトリウム液、アルカリ性液である0.1M水酸化ナトリウム液を用いても同様の結果が得られる。
【0039】
続いて、第一実施形態で作製した電解用電極のオゾン生成能評価(図5)、第一実施形態で作製した電解用電極のうちPtめっき厚を1μmとし減圧下高温熱処理(1200℃、12時間)した電解用電極を用いてオゾン生成時の電位変化の測定(図6)、第一実施形態で作製した電解用電極のうちPtめっき厚を1μmとし減圧下1300℃で1時間の高温熱処理した電解用電極を用いてマロン酸及びジェオスミンの定電流処理(図7及び図8)を行った。
【0040】
オゾン生成能は、経時で溶存オゾンを測定することにより評価した。電解用電極は、第一実施形態の高温熱処理を1100℃(6及び12時間)、1200℃(6及び12時間)、1300℃(1時間)で行った電極を用いた。溶存オゾンは、溶存オゾン計(商品名:システムイン型オゾンモニタ EL−550 荏原実業株式会社製)を用い、電解質:0.1M 硫酸、陽極:本実施形態の電解用電極(面積10cm)、電流密度:10A/dmの条件下で、撹拌しながら定電流処理を行うことで測定した。結果を図5に示す。性能比較のために、従来オゾン生成に用いられるPb電極及びTi基材にPtを1μmめっき被覆したのみの電極の結果も、併せて示している。この結果によれば、第1実施形態の電極を用いると、オゾン生成能が著しく向上する結果が得られた。
【0041】
オゾン生成時の電位変化は、電解質:0.1M 硫酸、陽極:本実施形態の電解用電極(Ptめっき厚を1μmとし、減圧下1200℃で12時間の高温熱処理した電解用電極。面積10cm)、電流密度:10A/dmの条件下で、撹拌しながら定電流処理を行うことで測定した。結果を図6に示す。電位は通電3分後に7.5V付近で安定し、一定の電位を保つことが確認された。また、測定時間を250時間まで延長しても電位の低下は見られなかった。この結果は、本発明の電極が高い酸素過電圧を保持したまま長期的に安定な電解を行えることを示している。
【0042】
マロン酸処理の処理条件は、処理試料:マロン酸3mM、電解質:0.1M硫酸ナトリウム、陰極:Pt/Ti電極、電流密度:5A/dm、温度:25℃とし、撹拌しながら処理を行った。そして、ジェオスミン処理の処理条件は、処理試料:ジェオスミン500ng/L、電解質:0.1M硫酸ナトリウム、陰極:ステンレス電極、電流密度:5A/dm、温度:25℃とし、撹拌しながら処理を行った。
【0043】
図7は、本実施形態の電解用電極(Ptめっき厚を1μmとし、減圧下1300℃で1時間の高温熱処理した電解用電極。面積12cm)を用いてマロン酸の定電流処理した結果を、Ti基材にPtを1μmめっきしたのみの電極(Pt/Ti)の結果と比較したものである。この結果をみると、本発明の電極を用いることで、マロン酸の分解量が処理時間に応じて増加していることから、マロン酸の分解能が向上したことは明らかである。
【0044】
また、図8は、本実施形態の電解用電極(Ptめっき厚を1μmとし、減圧下1300℃で1時間の高温熱処理した電解用電極。面積12cm)を用いて、ジェオスミンの定電流処理した結果を、Ti基材にPtを1μmめっきしたのみの電極(Pt/Ti)の結果と比較したものである。ここで、ジェオスミンは揮発性物質であることから、電解処理をしなくてもその濃度は低下してしまう。そこで、電解による分解効果を明確に把握するため、電解を行わず、単にジェオスミン処理試料を装置内で撹拌したのみの結果を、図8中にコントロールとして示している。この結果をみると、本発明の電極を用いることで、ジェオスミンの残存率が処理時間に応じて減少していることから、ジェオスミンの分解能が向上したことは明らかである。
【0045】
比較例1:Tiを基材とし、Ptを0.1μmの厚さで電気めっきした後、テトラエトキシチタン溶液を用いスピンコート法により0.1μm程度のTi薄膜を形成し、大気雰囲気中600℃で焼成により電極表面のTiを酸化した電解用電極を用い、第1実施形態と同様の電極電位の測定を行ったが、測定中に表面の酸化Ti膜が剥離してしまった。
【0046】
比較例2:Tiの無垢材を電極とし、第1実施形態と同様の電極電位の測定を行ったところ、通電時間の経過と共に電位は上昇し続け、4分後に不通となり電解用電極としての機能を失った(図6)。これは、短時間の電解によりTi表面に不導体膜が形成された為であると考えられる。
【0047】
第2実施形態では、減圧下高温熱処理の変わりに高圧下高温熱処理(HIP処理)を行ったこと以外は第1実施形態と同様に作成された電解用電極について、その電極電位の測定を行った。
【0048】
第2実施形態:Ti基材(縦70mm、横20mm、厚さ1mm)をPtめっきした後、HIP処理を行った。Ptめっきは、Ti基材をアルカリ性脱脂液に浸漬して脱脂後、フッ酸溶液にてTi基材表面の不動態皮膜を除去し、Pt濃度20g/Lのめっき液(商品名:プラチナート100 日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社製)のめっき浴を用いて、pH14、液温85℃、電流密度2.5A/dmの条件下で、撹拌しながらめっきした。Ptめっきの厚みは、0.01μm、0.1μm、1μm、10μmとした。加熱処理は、Ar雰囲気下、温度1350℃、圧力1×10Paの条件にて1時間HIP処理を行った。この時、酸素分圧は100Paであった。電極電位の測定は、溶液を1M硫酸、又は0.1M硫酸ナトリウムとし、第1実施形態と同様の条件により測定した。
【0049】
図9は、第2実施形態の電解用電極を用い、実施形態1同様に溶液に1M硫酸を使用して電極電位がどれだけ異なるか、測定した結果を示す図である。この結果をみると、第2実施形態の電極それぞれ全てが、単にPtめっきをしたのみで高温熱処理をしなかった電極と比較して、電位が上昇し高い酸素過電圧を有する電極が形成されていることがわかる。(そして、この傾向は、溶液が1M硫酸液の場合のみならず、中性液である0.1M硫酸ナトリウム液の場合においてもみとめられた。
【0050】
第3実施形態では、Ti金属の基材の代わりにZr金属の基材を用いたこと以外は実施形態1と同様の電解用電極を作成し、その電極電位の測定を行った。
【0051】
第3実施形態:、Zr金属からなる基材(縦70mm、横20mm、厚さ1mm)をフッ酸溶液にて不動態皮膜を除去し、Ptを1μmめっきし、加熱処理は、減圧雰囲気下(減圧度:100Pa、酸素分圧1×10Pa)、温度1300℃にて1時間の条件で行った。作成された電極の電極電位は、第1実施形態に示したものと同じ方法により、溶液に1M硫酸を使用して測定した。
【0052】
第1実施形態と同様に1M硫酸の溶液中、1mAの電流で電解を行い、第3実施形態の電極の電極電位を測定したところ、2.81Vであった。この結果は、単にTi基材にPtを1μm被覆したのみの電極の電極電位1.61Vと比較して電位が上昇しており、第3実施形態の電極も高い酸素過電圧を有する結果となった。
【0053】
第4実施形態では、Ptめっきによる被覆の代わりに各種白金族金属(Ir、Ru、Pd)のいずれかを被覆したこと以外は、実施形態1と同様の電解用電極を作成し、その電極電位の測定を行った。
【0054】
第4実施形態:Ti金属を基材(縦70mm、横20mm、厚さ1mm)とし、Ir、Ru、Pdのうちいずれかの貴金属を厚さ1μmめっきした。Irめっきは、Ti基材をアルカリ性脱脂液に浸漬して脱脂後、フッ酸溶液にてTi基材表面の不動態皮膜を除去し、めっき液(商品名:イリデックス200 日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社製)のめっき浴を用いて、液温85℃、電流密度0.15A/dmの条件下で、撹拌しながらめっきした。Ruめっきは、Ti基材をアルカリ性脱脂液に浸漬して脱脂後、フッ酸溶液にてTi基材表面の不動態皮膜を除去し、めっき液(商品名:ルテネックス 日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社製)のめっき浴を用いて、液温60℃、電流密度1A/dmの条件下で、撹拌しながらめっきした。Pdめっきは、Ti基材をアルカリ性脱脂液に浸漬して脱脂後、フッ酸溶液にてTi基材表面の不動態皮膜を除去し、めっき液(商品名:パラデックスLF−2 日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社製)のめっき浴を用いて、液温60℃、電流密度2A/dmの条件下で、撹拌しながらめっきした。加熱処理は、減圧雰囲気下(減圧度:100Pa、酸素分圧1×10−4Pa)、温度1000℃にて7時間の条件で行った。作成された電極の電極電位は、第1実施形態に示したものと同じ方法により、溶液に1M硫酸を使用して測定した。
【0055】
第1実施形態と同様に1M硫酸の溶液中、1mAの電流で電解を行い、各種白金族金属(Ir、Ru、Pd)めっきにより作成された第4実施形態それぞれの電解用電極の電極電位を測定した結果を図10に示す。この結果は、単にTi基材にIr、Ru、Pdを1μm被覆したのみの電極の電極電位と比較して電位が上昇しており、第4実施形態の電極も高い酸素過電圧を有する結果となった。尚、Rhめっきより作成される電極も同様の結果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、高寿命でオゾン生成能に優れた電解用電極に関するものである。そして、様々な液性の液に対してもその電極特性を有し、高い電解酸化能を有する電解用電極として長期間安定的に使用できる。これにより、洗浄殺菌処理等に用いるオゾン水を安価に製造可能となる。本発明に係る電極を用いれば、マロン酸やジェオスミン等、難分解性の有機物質の分解処理も可能となる。更に、半導体の洗浄などに用いる過硫酸アンモニウム塩などの過硫酸の電解生成も効率よく行うことができ、Cr(VI)めっきにおけるめっき浴中のCr(III)からCr(VI)への酸化反応による浴のコントロールも容易に行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブ金属酸化物の電極表面を有し、該電極表面の基体がバルブ金属と貴金属(銀(Ag)を除く。以下同じ。)の合金からなる電解用電極であって、
該電極表面の近傍域(電極表面近傍域)のバルブ金属の結晶が細長の結晶粒を有し、電極表面から垂直深さ方向10μmの範囲内の貴金属が5原子%以下であり、かつ、電極表面近傍域における表面のバルブ金属が酸化膜を有することを特徴とする電解用電極。
【請求項2】
電極表面近傍域のバルブ金属の結晶粒界中に貴金属が析出している請求項1に記載の電解用電極。
【請求項3】
貴金属が白金族金属である請求項1に記載の電解用電極。
【請求項4】
貴金属が白金(Pt)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)またはロジウム(Rh)である請求項1に記載の電解用電極。
【請求項5】
電極表面から垂直深さ方向10μmの範囲内の貴金属が0.01〜5原子%である請求項1に記載の電解用電極。
【請求項6】
バルブ金属がチタン(Ti)またはジルコニウム(Zr)である請求項1に記載の電解用電極。
【請求項7】
電極表面近傍域における表面のバルブ金属酸化膜の厚みが3nm以上200nm以下の範囲である請求項1に記載の電解用電極。
【請求項8】
水溶液の電解によりオゾンを生成するための陽極として用いる、請求項1に記載の電解用電極。
【請求項9】
硫酸イオンを含む水溶液の電解により過硫酸を生成するための陽極として用いる、請求項1に記載の電解用電極。
【請求項10】
クロム(Cr)めっき浴中の三価クロム(Cr(III))を六価クロム(Cr(VI)へ酸化するための陽極として用いる、請求項1に記載の電解用電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−62556(P2012−62556A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209763(P2010−209763)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【特許番号】特許第4734664号(P4734664)
【特許公報発行日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(509352945)田中貴金属工業株式会社 (99)
【Fターム(参考)】