説明

電解用電極及びこの電解用電極を用いた水酸化第四アンモニウム水溶液の製造方法

【課題】 陽イオン交換膜を隔膜として用いた電解槽で第四アンモニウムの無機酸塩を電解して高純度の水酸化第四アンモニウムを製造する上で、耐蝕性及び耐久性に優れて長期に亘って使用することができ、しかも電力消費量が低減できて工業的にコストをかけずに高純度の水酸化第四アンモニウムを製造することができる電解用電極を提供する。
【解決手段】 陽イオン交換膜を隔膜として用いた電解槽で第四アンモニウムの無機酸塩を電解して水酸化第四アンモニウムを製造する際に用いる電解用電極であって、導電性金属からなる電極基体が電極活性物質を含んだ電極活性層で被覆されており、この電極基体と電極活性層との間にIn、Ir、Ta、Ti、Ru及びNbから選ばれた少なくとも1種の金属の酸化物とSnの酸化物との混合酸化物からなる中間層を設けたことを特徴とする電解用電極である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LSI、液晶ディスプレイ等の製造で用いられる現像液や半導体基板(ウエハ)を洗浄するための処理剤等として用いられる水酸化第四アンモニウムを電解により製造する際に使用する電解用電極、及びこの電解用電極を陽極として水酸化第四アンモニウムを電解により製造する水酸化第四アンモニウム水溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水酸化第四アンモニウムのひとつである水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液は、LSI、液晶ディスプレイ等の製造の際に使用するレジスト膜の現像液や半導体装置の製造工程における半導体基板の洗浄液、あるいはテトラメチルアンモニウムシリケート用などとして現在大量に使用されており、工業的に欠かせない化合物である。特に、上記のような半導体関連における用途で使用される場合には、このTMAH中に含まれる不純物濃度に対する要求が厳しく、例えばNa、K、Ca、Cu、Zn、Fe、Cr、Ni、Pb、Ti、Sn等をはじめとした遷移金属、アルカリ金属、アルカリ土類金属等が各々1ppb以下の純度であることが必要とされる。そのため、高純度のTMAH水溶液を工業的に安価に製造できる方法が望まれている。
【0003】
本発明者らは、これまでに、上記のようなTMAHを製造する方法として、トリアルキルアミンと炭酸ジアルキルとを反応させて第四アンモニウムの無機酸塩を合成し、陽イオン交換膜を隔膜として用いた電解槽でこの無機酸塩を電解することにより得る方法を提案している(特許文献1参照)。この方法によれば、従前問題とされていた、電解中に電極の腐蝕や交換膜の劣化を引き起こすハロゲンイオンやギ酸イオン等の発生がなく、上記のような不純物の少ない高純度でしかも貯蔵安定性に優れたTMAHを得ることができ、しかもその収率を高めることができる。
【0004】
ところで、電気分解プロセスにおいて電極反応を行わせる場合には、一般に、電極自体の消耗を回避するために不溶性電極が用いられる。この不溶性電極は、電解生成物や電解対象物によって求められる性能がそれぞれ異なるため、塩素発生用電極、酸素発生用電極、及び機能性電極(白金族金属被覆電極)等に分類される。ところで、本発明者らが提案した上記のTMAHを製造する方法においては、陽イオン交換膜を隔膜として用いた電解槽で第四アンモニウムの無機酸塩を電解すると、図1に示したように陽極からは酸素と炭酸ガスが発生し、また、第四アンモニウムの無機酸塩のpHは約8〜10である。このような電気分解は従来あまり例を見ない。
【0005】
この電気分解において、陽極として、電気分解プロセスの電極反応で一般的に使用される金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)等からなる電極、黒鉛電極、チタンからなる電極基体に白金族金属をめっきした電極、鉛電極、Ni電極、又はチタンからなる電極基体に白金族金属を主成分とする酸化物を被覆した電極等を使用すると、いずれも耐蝕性や耐久性に問題が生じたり、電解電位が高くなって電力消費量が多くなり、工業的にコストが増大する等の問題が生じてしまう。すなわち、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)等からなる電極や黒鉛電極については数時間程度の電気分解によって電極の表面が剥離して電圧が上昇し、電解を続けることが困難となり、また、チタンからなる電極基体に白金族金属をめっきした電極では数時間程度の電気分解によって高価なPt、Pd、Ru等の不純物金属がppmオーダーで溶出してしまう。一方、チタンを電極基体としてIr及びTaの酸化物を被覆した電極は、電解時に陽極から酸素を発生する電解プロセス向けのものであって、専ら硫酸浴等を使用しての電気めっきに用いられるものであることから、陽極から酸素と炭酸ガスを発生する第四アンモニウムの無機酸塩の電解に使用すると、陽極から酸素と炭酸ガスが同時に発生し、電解における過電圧が高くなって電極の耐久性が低下し、しかも電力消費量が多くなってしまう等の問題がある。また、一般に鉛電極、Ni電極、黒鉛電極は、陽極用電極としての有機アルカリ電極としてはある程度の耐久性や耐蝕性はあるものの、本発明者らが提案した上記電気分解のように陽極から酸素と炭酸ガスが同時に発生する電解では、電極自体の消耗が激しく、工業的には満足できる電極とはならない。
【0006】
ところで、導電性金属からなる電極基体を白金族金属又はその酸化物からなる電極活性物質で被覆した電極において、電極基体と電極活性物質との間に、Ti及びSnから選ばれた1種以上の金属の酸化物とTa及びNbから選ばれた1種以上の金属の酸化物との混合酸化物からなる中間層を設けた電極(特許文献2参照)や、上記中間層を希土類金属化合物からなる第1中間層と卑金属又は卑金属酸化物を含む第2中間層とから形成した電極(特許文献3参照)も提案されている。
しかしながら、これらの電極は両者ともに、電解の際に陽極から酸素が発生する電解プロセス向けのものであることから、陽極から酸素と炭酸ガスを発生する第四アンモニウムの無機酸塩の電解に使用すると、電解において過電圧が高くなり耐久性及び耐蝕性に問題があり、しかも電力消費量が多くなって経済的に問題がある。
【特許文献1】特公昭63−15355号公報
【特許文献2】特開昭59−38394号公報
【特許文献3】特公平2−5830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明者らは、陽イオン交換膜を隔膜として用いた電解槽で第四アンモニウムの無機酸塩を電解して高純度の水酸化第四アンモニウムを製造する上で、不純物金属の溶出を可及的に低減できると共に耐蝕性及び耐久性に優れ、しかも電解における過電圧が低く電力消費量を低減することができる電解用電極について鋭意検討した結果、電極基体の表面をSnの酸化物と所定の金属の酸化物との混合酸化物で被覆し、更に電極活性層で被覆した電極が上記のような第四アンモニウムの無機酸塩の電解に好適であることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
したがって、本発明の目的は、陽イオン交換膜を隔膜として用いた電解槽で第四アンモニウムの無機酸塩を電解して高純度の水酸化第四アンモニウムを製造する上で、耐蝕性及び耐久性に優れて長期に亘って使用することができ、しかも電力消費量が低減できて工業的にコストをかけずに高純度の水酸化第四アンモニウムを製造することができる電解用電極を提供することにある。
また、本発明の別の目的は、不純物金属の溶出を可及的に低減できて高純度の水酸化第四アンモニウムを工業的に安価に製造することができる水酸化第四アンモニウム水溶液の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、陽イオン交換膜を隔膜として用いた電解槽で第四アンモニウムの無機酸塩を電解して水酸化第四アンモニウムを製造する際に用いる電解用電極であって、導電性金属からなる電極基体が電極活性物質を含んだ電極活性層で被覆されており、この電極基体と電極活性層との間にIn、Ir、Ta、Ti、Ru及びNbから選ばれた少なくとも1種の金属の酸化物とSnの酸化物との混合酸化物からなる中間層を設けたことを特徴とする電解用電極である。
また、本発明は、トリアルキルアミンと炭酸ジアルキルとを反応させて第四アンモニウムの無機酸塩を合成し、次いで上記電解用電極を陽極として用いると共に陽イオン交換膜を隔膜として用いた電解槽で上記無機酸塩を電解して水酸化第四アンモニウムを製造することを特徴とする水酸化第四アンモニウム水溶液の製造方法である。
【0010】
本発明において、陽イオン交換膜を隔膜として用いた電解槽で第四アンモニウムの無機酸塩を電解して水酸化第四アンモニウムを製造する方法としては、好ましくは特公昭63−15355号公報に記載された方法を用いるのがよい。すなわち、陽イオン交換膜を隔膜として用いた電解槽で電解する第四アンモニウムの無機酸塩については、トリアルキルアミンと炭酸ジアルキルとを反応させて合成することができる。トリアルキルアミンとしてはトリメチルアミン[(CH3)3N]やトリエチルアミン[(C2H5)3N]等を挙げることができ、炭酸ジアルキルとしては炭酸ジメチル[(CH3)2CO3]や炭酸ジエチル[(C2H5)2CO3]等を挙げることができ、これらをメチルアルコール又はエチルアルコール等の溶媒中で反応させて第四アンモニウム無機酸塩を合成することができる。この際の反応条件については適宜選択することができ、例えば反応温度100℃〜180℃、反応圧力5〜20kg/cm2、反応時間は1時間以上とすることができる。また、反応終了後の得られた反応混合物については、蒸留、もしくは減圧蒸留により未反応物等を除去するのがよい。このようにして合成された第四アンモニウムの無機酸塩については、下記一般式(1)で表すことができる。
【化1】

(式中、R1、R2、R3 及びR4 はメチル基又はエチル基であり、これらは互いに同じであっても異なっていてもよい。)
上記一般式(1)のうち、好ましくは[(CH3)4N]HCO3、[(C2H5)4N]HCO3である。
【0011】
第四アンモニウム無機酸塩を得る際、例えば上記においてはトリアルキルアミンと炭酸ジアルキルとを蒸留精製してから上記のように合成し、得られた反応生成物を水に溶解して第四アンモニウム無機酸塩の水溶液として、陽イオン交換膜を隔膜とした電解槽の陽極室に供給し、直流電圧を印加して電解を行う。これにより、第四アンモニウムイオンが陽イオン交換膜を通って陰イオン室に移動し、この陰イオン室内に水酸化第四アンモニウムが生成される。このとき、陽極では酸素と炭酸ガスが、陰極では水素がそれぞれ発生する。尚、上記陽イオン交換膜としては、例えば耐久性に優れたフルオロカーボン系の交換膜をはじめ、安価なポリスチレン系やポリプロピレン系の交換膜を用いることもできる。
【0012】
電解槽中に挿入する陽極については、本発明における電解用電極を用いる。すなわち、導電性金属からなる電極基体が電極活性物質を含んだ電極活性層で被覆されており、この電極基体と電極活性層との間にIn、Ir、Ta、Ti、Ru及びNbから選ばれた少なくとも1種の金属の酸化物とSnの酸化物との混合酸化物からなる中間層が設けられた電解用電極を用いる。この電解用電極の中間層をIn、Ir、Ta、Ti、Ru及びNbから選ばれた少なくとも1種の金属の酸化物とSnの酸化物との混合酸化物から形成することによって、Snの酸化物とその他の金属酸化物との相乗効果によって電極基体の表面と優れた密着性を発揮する耐久性に優れた電極とすることができると共に耐蝕性にも優れることから、長時間の電解にも耐えられる。In、Ir、Ta、Ti、Ru及びNbから選ばれる金属の酸化物としては、具体的にはIn2O3、Ir2O3、IrO2、Ta2O5、TiO2、Ru2O3、NbO2等を挙げることができ、好ましくはIn2O3、Ir2O3及びTa2O5であり、更に好ましくは優れた導電性を発揮することからIn2O3又はIr2O3である。また、Snの酸化物としては、具体的にはSnOやSnO2を挙げることができ、好ましくはSnO2である。すなわち、本発明において中間層を形成する混合酸化物は、上記のようなIn、Ir、Ta、Ti、Ru及びNbから選ばれた少なくとも1種の金属の酸化物とSnO2との混合酸化物であり、好ましくはIn2O3-SnO2、Ir2O3-SnO2、Ta2O5-SnO2、In2O3-Ir2O3-SnO2、In2O3-Ta2O5-SnO2、Ir2O3-Ta2O5-SnO2、In2O3-Ir2O3-Ta2O5-SnO2であり、更に好ましくはIn2O3-SnO2、Ir2O3-SnO2、In2O3-Ir2O3-SnO2である。
【0013】
中間層を形成する混合酸化物の成分割合について、Snの含有量が金属(Sn)換算量で50〜80wt%、好ましくは60〜70wt%であるのがよい。Snの含有量が50wt%未満であると電極としての耐蝕性や耐久性の点で問題が生じるおそれがあり、80wt%より多くなると電極として使用した場合の過電圧が高くなるおそれがある。また、60〜70wt%の範囲であれば、Sn以外の金属の酸化物との混合酸化物の特性で導電性及び形成される被膜強度の観点から好ましい。
【0014】
本発明における中間層の膜厚については3〜100μm、好ましくは10〜40μmであるのがよい。中間層の膜厚が3μmより小さいと形成される被膜にピンホールが生じて電極基体が酸化されてしまい、これにより電解時の電位が高くなり電流が流れ難くなるおそれがある。反対に100μmより大きいと電極基体との熱膨張の関係で被膜強度が低下するおそれがある。また、10〜40μmであれば被膜強度、耐久性、及び電流・電圧の観点から好ましい。なお、本発明における中間層については、一層の混合酸化物の被膜から形成されてもよく、二層以上の混合酸化物を積層して形成してもよい。
【0015】
本発明における電極活性物質を含んだ電極活性層としては、例えばPt、Ru、Pd、Ir等の白金族金属やIn、Sn等の金属又はこれらの金属の酸化物を含んだ電極活性層を示すことができるが、中間層との密着性や導電性に優れ、また、電極として使用した際の電極電位及び消費電力の観点から、好ましくはIr又はInから選ばれた少なくとも1種の金属の酸化物とSnの酸化物との混合酸化物からなる電極活性層であるのがよい。電極活性層がIr又はInから選ばれた少なくとも1種の金属の酸化物とSnの酸化物との混合酸化物からなる場合、Ir及びInの酸化物については、具体的には上記中間層で説明したものと同様な酸化物を挙げることができ、また、Snの酸化物についても同様にSnO2を挙げることができる。
【0016】
上記電極活性層がIr又はInから選ばれた少なくとも1種の金属の酸化物とSnの酸化物との混合酸化物からなる場合、この電極活性層を形成する混合酸化物の成分割合については、Snの含有量が金属(Sn)換算量で50〜80wt%、好ましくは60〜70wt%であるのがよい。Snの含有量が50wt%未満であると被膜強度や導電性の点で問題が生じるおそれがあり、80wt%より多くなると被膜強度が弱くなり、また、電極として使用した場合に電圧が高く電流が流れ難くなるおそれがある。また、Snの含有量が60〜70wt%の範囲であれば、電極活性層を形成する混合酸化物の導電性及び形成される被膜強度等の特性の面で特に優れる。
【0017】
また、本発明における電極活性層の膜厚については3〜40μm、好ましくは5〜20μmであるのがよい。電極活性層の膜厚が3μmより小さいと電流特性の点で劣り、40μmより大きくなると中間層との密着性の観点から被膜強度が低下するおそれがある。尚、本発明における電極活性層については、電極活性物質を含んだ一層の混合酸化物の被膜から形成されてもよく、二層以上の混合酸化物からなる被膜を積層して形成されてもよい。
【0018】
また、本発明において、導電性金属からなる電極基体としては、例えばTi、Ta、Nb及びZrから選ばれた1種の金属又は2種以上の合金からなるものを用いることができるが、好ましくは経済性の観点から比較的市場で安価に入手しやすい観点からTiであるのがよい。
【0019】
本発明における電解用電極を製造する方法について特に制限はされないが、例えば以下のような方法を例として示すことができる。
先ず、導電性金属である電極基体(Ti)をアセトン等で脱脂処理し、次いで所定濃度の塩酸を用いて約90〜100℃の温度で5〜30分間程度電極基体の表面を表面処理し、その後純水でよく洗浄する。一方、Sn(錫)、Ir(イリジウム)、In(インジウム)の各金属の塩化物をそれぞれ所定濃度でブタノール、プロパノール等のアルコールに溶解させた溶液(混合溶液)を用意し、この溶液を先に表面処理を行った電極基体の表面に塗布し、この電極基体を先ず大気雰囲気下80〜100℃の温度で約30〜60分間乾燥させ、その後大気雰囲気下450〜500℃の温度で約10〜30分間熱分解を行い、電極基体の表面にSnの酸化物、Irの酸化物及びInの酸化物との混合酸化物からなる被膜を形成させる。この混合酸化物の被膜を形成させる処理を合計2〜4回程度行い、電極基体の表面に3〜30μm程度の中間層を設けることができる。
【0020】
電極基体の表面に中間層を形成する最初の混合酸化物の被膜を設ける際、Ta(タンタル)の塩化物をブタノール、プロパノール等のアルコールに溶解させて、上記混合溶液に更に加え、このTaの塩化物を含んだ混合溶液を電極基体の表面に塗布し、上記の乾燥及び熱分解の処理を行うようにしてもよい。このように電極基体の表面に最初に形成する混合酸化物の被膜にTaの酸化物を含めることで、電極基体との密着性を高めることができる。混合酸化物の被膜を形成させる処理の2回目以降にも、Taの塩化物を含んだ混合溶液を用いてもよいが、Taの酸化物(Ta2O5)は導電性に劣ることから、好ましくは電極基体の表面に中間層を形成する最初の混合酸化物の被膜を設ける際にのみ含まれるようにするのがよい。
【0021】
次いで、Sn、Ir、Inの各金属の塩化物をそれぞれ所定濃度でブタノール、プロパノール等のアルコールに溶解させた溶液(混合溶液)を中間層を設けた電極基体の表面に塗布し、中間層を形成する処理と同様の乾燥、熱分解の処理を合計2〜4回程度行って、5〜20μmの膜厚の電極活性層を形成することができ、本発明における電解用電極を得ることができる。
【0022】
この電解用電極について、電極基体の表面に形成した中間層及び電極活性層をまとめて表面被膜層と呼ぶとすると、この表面被膜層を形成する混合酸化物(中間層を形成する混合酸化物と電極活性層を形成する混合酸化物)の成分割合を混合酸化物中に含まれる金属としての換算量で示した場合、好ましくはSnが50〜80wt%、Irが10〜30wt%、Inが3〜15wt%、及びTaが0.5〜3wt%の割合で含有されるのがよく、更に好ましくはSnが60〜70wt%、Irが10〜20wt%、Inが5〜10wt%、及びTaが0.5〜1.0wt%であるのがよい。
Snについては既に説明した通りである。
Irについては10wt%未満であると導電性や電解時の電流値の点で問題があり、30wt%より多くなると混合酸化物の被膜強度の点で問題が生じるおそれがある。10〜20wt%の範囲であれば表面被膜層を形成する混合酸化物の電気特性である電流・電圧の関係でより優れる。
Inについては3wt%未満であると導電性の点で問題があり電圧が上昇するおそれがあり、反対に15wt%より多くなると混合酸化物の被膜強度が低下するおそれがある。5〜10wt%の範囲であれば被膜強度、導電性、耐久性等の観点でより優れる。
Taについては0.5wt%未満であると電極基体との密着性についての相乗効果を発揮することができず、3wt%より多くなると導電性の点で問題が生じ電解時の電圧が上昇してしまうおそれがある。
【0023】
上記で得た電解用電極を用い、陽イオン交換膜を隔膜とした電解槽で第四アンモニウムの無機酸塩を電解して水酸化第四アンモニウムを製造する際の電解反応の条件については適宜選択することができるが、例えば以下のような電解反応の条件を示すことができる。すなわち、電解槽の陽極室にはテトラメチルアンモニウム重炭酸塩、テトラメチルアンモニウム炭酸塩等の第四アンモニウム無機酸塩の水溶液を10〜50wt%、好ましくは15〜30wt%の範囲となるように供給し、また、陰極室には純水を供給する。この純水を供給する際には水酸化第四アンモニウムを適量(3〜15wt%程度)添加したものを使用することが好ましい。これら陽極室及び陰極室内の溶液についてはそれぞれ循環式で供給し、電流密度8〜20A/dm2、好ましくは10〜15A/dm2の範囲、陽極室及び陰極室内の各液の滞留時間が10〜60秒、好ましくは20〜40秒の範囲の条件で行い、陰極室での水酸化第四アンモニウム濃度が5〜30wt%、好ましくは10〜25wt%となるまで電解反応を行うのがよい。なお、上記電解槽中に挿入する陰極については特に制限されないが、例えば耐アルカリ性のステンレス、ニッケル等を使用することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明における電解用電極は、電極基体との密着性に優れた中間層を備え、かつ、この中間層がSnの酸化物を主体とする混合酸化物から形成されるため、陽イオン交換膜を隔膜とした電解槽で第四アンモニウムの無機酸塩を電解する際の陽極として用いた場合に耐久性及び耐蝕性に優れて長期に亘って使用することができる。また、本発明における電解用電極は、電解時に酸素及び炭酸ガスを発生する電気分解プロセスにおいて過電圧を低くすることができ消費電力を抑えることができるため、工業的にコストをかけずに高純度の水酸化第四アンモニウムを製造することができる。更には、この電解用電極を陽極として水酸化第四アンモニウムを電解により製造すると、不純物金属の溶出が可及的に低減されて高純度の水酸化第四アンモニウムを工業的に安価に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。
【実施例1】
【0026】
[電解用電極の作製]
厚さ2.0mm×縦10cm×横6cmの市販のTi板をアセトンにより脱脂後、100℃の20wt%塩酸水溶液に5〜10分間浸してエッチング処理を行い、電極基体とした。次いで、30g/100mlのSnを含む塩化錫の水溶液と、10g/100mlのInを含む塩化物(InCl3)の水溶液を用意し、この双方の水溶液をブタノールに溶解して全体で500mlの混合溶液とした。この混合溶液を上記の電極基体の表面に塗布し、大気雰囲気下100℃で10分間乾燥させた後、更に450℃に保持した電気炉に入れて大気雰囲気下で10分間の熱分解を行った。この混合溶液の塗布、乾燥及び熱分解の一連の処理を合計で4回行い、電極基体の表面に混合酸化物からなる膜厚6μmの中間層を形成した。尚、電極基体の表面に最初に塗布して乾燥、熱分解する場合のみ、上記塩化錫の水溶液と塩化インジウムの水溶液に、更に1.0g/100mlのTaを含む塩化物(TaCl5)の水溶液を加えてブタノールに溶解して全体で500mlとなる混合溶液を使用した。
【0027】
次いで、20g/100mlのSnを含む塩化錫の水溶液と5g/100mlのIrを含む塩化物(IrCl3)の水溶液を用意し、これらの水溶液の双方をブタノールに溶解して500mlとし、これを電極活性物質として上記電極基体の表面に塗布し、大気雰囲気下100℃で10分間乾燥させた後、更に450℃に保持した電気炉に入れて大気雰囲気下で10〜15分間の熱分解を行った。この混合溶液の塗布、乾燥及び熱分解の一連の処理を合計で4回行い、中間層の表面に膜厚およそ20μmの電極活性層を形成し、電解用電極を作製した。
【0028】
上記において電解用電極を得る際、電極基体の表面に中間層を形成した時点で蛍光X線装置(島津製作所社製SEA2210)を用いて金属成分の測定を行い、中間層を形成する混合酸化物に含まれる酸化物種とその割合を求めた。また、電極活性層を形成した時点で上記と同様の測定を行い、電極活性層を形成する混合酸化物に含まれる酸化物種とその割合を求めた。それぞれの結果を表1に示す。
また、上記電解用電極について、電極基体の表面の被膜(中間層及び電極活性層をいう。以下、中間層と電極活性層とをまとめて「表面被膜層」と呼ぶ場合がある)を形成する混合酸化物(中間層を形成する混合酸化物と電極活性層を形成する混合酸化物とを含む)の組成を上記蛍光X線装置により求めた。得られた結果から、表面被膜層を形成する混合酸化物中に含まれる金属含有量を金属換算量で表した結果を表2に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
[電解用電極を用いた電解]
上記で得た電解用電極を陽極とし、また、厚さ2.0mm×縦10cm×横6cmの市販のNi板を陰極として用いて、陽イオン交換膜〔デュポン社製商品名:Nafion(登録商標)-324〕を中央に隔膜として配置した一槽式の電解槽を準備した。この電解槽の陽極室内に30wt%のテトラメチルアンモニウム重炭酸塩水溶液を7リットル入れ、また、陰極室内には3wt%のテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)水溶液を1リットル入れて、これらの水溶液をポンプを使用して連続的に循環させながら、電圧8V、電流1.7A、陽イオン交換膜の有効電解面積16cm2の条件下で600時間電解を行い、陰極側に25wt%TMAHを5.3kg得た。電解後、陽極室内の水溶液は5.1wt%テトラメチルアンモニウム重炭酸塩水溶液2.3リットルとなった。
【0031】
電解後の電解用電極(陽極)の外観を目視にて観察したところ、陽極自体及び陽極室内の水溶液について特に変化は認められなかった。また、電解開始前に測定した電解用電極(陽極)の重量と600時間電解後の重量測定の結果に特に変化はなかった。この電解用電極(陽極)を再度用いて上記の条件で電解を行い、合計3回電解(600時間×3=1800時間)を行ったところ、外観観察(陽極自体と陽極室内の水溶液)及び重量測定について特に変化は認められなかった(表2)。電解後の陽極室内及び陰極室内の水溶液の金属不純物をそれぞれ原子吸光分析装置(バリアン社製)で分析し、各溶液中に溶出した金属不純物を求めた。陽極室内の水溶液の分析値を表3に示し、陰極室内の水溶液(TMAH)の分析値を表4にそれぞれ示した。
【0032】
【表2】

【0033】


【表3】

【0034】
【表4】

【実施例2】
【0035】
電解用電極の中間層及び電極活性層を形成するそれぞれの混合酸化物に含まれる酸化物種とその割合を表1の通りになるように、実施例1と同様の処理を行って電解用電極を作製した。混合溶液については、中間層を形成する際には30g/100mlのSnを含む塩化錫の水溶液と3g/100mlのInを含む塩化物(InCl3)の水溶液とをブタノールに溶解して全体で500mlとしたものを用い、また、電極活性層を形成する際には32g/100mlのSnを含む塩化錫の水溶液と5g/100mlのIrを含む塩化物(IrCl3)の水溶液とをブタノールに溶解して全体で500mlとしたものを用いた。また、得られた電解用電極について、実施例1と同様に蛍光X線装置を用いて測定を行った(表1)。尚、中間層を形成する際に実施例1で用いたTaを含む塩化物の水溶液は実施例2では用いずに中間層を形成した。
【0036】
得られた電解用電極を陽極として用い、実施例1と同様にして600時間の電解を行った(表2)。電解後、電解用電極(陽極)の外観を目視にて観察したところ、陽極自体及び陽極室内の水溶液について特に変化は認められず、また、電解の前後における電解用電極(陽極)の重量変化も認められなかった。更に、実施例1と同様に合計3回の電解後の外観観察(陽極自体と陽極室内の水溶液)及び重量変化についても特に変化は認められなかった(表2)。電解後の陽極室内及び陰極室内の水溶液の金属不純物を実施例1と同様に原子吸光分析装置で分析し、各溶液中に溶出した金属不純物を求めた。陽極室内の水溶液の分析値を表3に示し、陰極室内の水溶液(TMAH)の分析値を表4にそれぞれ示した。
【0037】
[比較例1]
実施例1と同様にして市販のTi板を用意してエッチング処理を行った。15g/100mlのIrを含む塩化物(IrCl3)の水溶液と、5g/100mlのTaを含む塩化物(TaCl5)の水溶液を用意し、これらの水溶液の双方をブタノールに溶解して500mlの混合溶液とした。この混合溶液を電極基体の表面に塗布し、実施例1と同じ条件で乾燥及び熱分解を行う一連の処理を合計5回行って、電極基体の表面に膜厚およそ10μmの皮膜層を形成し、電極を作製した。
この比較例1に係る電極を陽極とする以外は実施例1と同じ電解槽を用い、陽極室及び陰極室に供給する水溶液についても実施例1と同様にして、100時間電解を行った。
【0038】
実施例1と同様にして、電解後の電解用電極(陽極)の外観を目視にて観察したところ、陽極の表面が白色に変化してTi板の一部が露出していることが認められ、また、陽極室内の水溶液が青く着色していることが確認された。更に、電解後の陽極の重量が電解前に比べて0.02g程度減少していた。また、100時間経過後の電解電圧が電解開始時より1〜2V上昇していた(表2)。電解後の陽極室内及び陰極室内の水溶液の金属不純物を実施例1と同様に分析し、陽極室内の水溶液の分析値を表3に示し、陰極室内の水溶液の分析値を表4に示した。
【0039】
[比較例2]
実施例1と同様にして市販のTi板を用意してエッチング処理を行った。このTi板の表面に通常のめっき処理を行い膜厚0.1μmの白金めっき皮膜を形成して電極とした。この比較例2に係る電極を陽極とする以外は実施例1と同じ電解槽を用い、陽極室及び陰極室に供給する水溶液についても実施例1と同様にして、100時間電解を行った。
実施例1と同様にして、電解後の電解用電極(陽極)の外観を目視にて観察したところ、陽極自体及び陽極室内の水溶液に変化は認められなかったものの、電解開始5時間程度でPtの溶出が確認され(電解後50ppb溶出)、電解後の陽極の重量が電解前に比べて0.02g程度減少していた。更に、100時間経過後の電解電圧が電解開始時より6〜10V上昇していた(表2)。電解後の陽極室内及び陰極室内の水溶液の金属不純物を実施例1と同様に分析し、陽極室内の水溶液の分析値を表3に示し、陰極室内の水溶液の分析値を表4に示した。
【0040】
[比較例3]
実施例1と同様にして市販のTi板を用意してエッチング処理を行い、このTi板の表面に通常のめっき処理を行い膜厚0.1μmの金めっき皮膜を形成して電極とした。この比較例3に係る電極を陽極とする以外は実施例1と同じ電解槽を用い、陽極室及び陰極室に供給する水溶液についても実施例1と同様にして電解を行った。電解開始後しばらくして陽極の金めっき被膜が剥離し始め、およそ10分で金めっき被膜がほぼ完全に剥離してしまったため、以降の電解を中止した。この時点で陽極室内及び陰極室内の水溶液の金属不純物を実施例1と同様に分析し、陽極室内の水溶液の分析値を表3に示し、陰極室内の水溶液の分析値を表4に示した。尚、陽極室の水溶液については金めっき皮膜が剥離してしまったため計測ができなかった。
【0041】
[比較例4]
高純度(純度99.9%)のカーボン板を厚さ10mm×縦10cm×横6cmの大きさに用意し、これを90℃の10wt%塩酸で洗浄するエッチング処理を2回行って電極とした。この比較例4のカーボン板からなる電極を陽極に用いた以外は実施例1と実施例1と同じ電解槽を用い、陽極室及び陰極室に供給する水溶液についても実施例1と同様にして、500時間電解を行った。
電解後、陽極室内の水溶液は黒く濁っており、陽極の厚みは電解前の10mmから7mmに消耗していた(表2)。電解後の陽極室内及び陰極室内の水溶液の金属不純物を実施例1と同様に分析し、陽極室内の水溶液の分析値を表3に示し、陰極室内の水溶液の分析値を表4に示した。尚、陽極室の水溶液については陽極の消耗が激しく、測定は行わなかった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明における電解用電極は、電極基体との密着性に優れた中間層を備え、かつ、この中間層がSnの酸化物を主体とする混合酸化物から形成されるため、陽イオン交換膜を隔膜とした電解槽で第四アンモニウムの無機酸塩を電解する際の陽極として用いた場合に耐久性及び耐蝕性に優れて長期に亘って使用することができる。また、本発明における電解用電極は、電解時に酸素及び炭酸ガスを発生する電気分解プロセスにおいて過電圧を低くすることができ消費電力を抑えることができるため、工業的にコストをかけずに高純度の水酸化第四アンモニウムを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、本発明に係る電気分解プロセスの概要説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽イオン交換膜を隔膜として用いた電解槽で第四アンモニウムの無機酸塩を電解して水酸化第四アンモニウムを製造する際に用いる電解用電極であって、導電性金属からなる電極基体が電極活性物質を含んだ電極活性層で被覆されており、この電極基体と電極活性層との間にIn、Ir、Ta、Ti、Ru及びNbから選ばれた少なくとも1種の金属の酸化物とSnの酸化物との混合酸化物からなる中間層を設けたことを特徴とする電解用電極。
【請求項2】
中間層が、In、Ir及びTaから選ばれた少なくとも1種の金属の酸化物とSnの酸化物との混合酸化物からなる請求項1に記載の電解用電極。
【請求項3】
電極活性層が、In又はIrから選ばれた少なくもと1種の金属の酸化物とSnの酸化物との混合酸化物からなる請求項1に記載の電解用電極。
【請求項4】
電極基体が、Ti、Ta、Nb及びZrから選ばれた1種又は2種以上の合金からなる請求項1〜3のいずれかに記載の電解用電極。
【請求項5】
第四アンモニウムの無機酸塩が、下記一般式(1)で表される化合物である請求項1〜4のいずれかに記載の電解用電極。
【化1】

(式中、R1、R2、R3 及びR4 はメチル基又はエチル基であり、これらは互いに同じであっても異なっていてもよい。)
【請求項6】
水酸化第四アンモニウムが、水酸化テトラメチルアンモニウムである請求項1〜5のいずれかに記載の電解用電極。
【請求項7】
トリアルキルアミンと炭酸ジアルキルとを反応させて第四アンモニウムの無機酸塩を合成し、次いで請求項1〜6のいずれかに記載の電解用電極を陽極として用いると共に陽イオン交換膜を隔膜として用いた電解槽で上記無機酸塩を電解して水酸化第四アンモニウムを製造することを特徴とする水酸化第四アンモニウム水溶液の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−83462(P2006−83462A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−272413(P2004−272413)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(390034245)多摩化学工業株式会社 (10)
【Fターム(参考)】