説明

電解質膜、及びそれを用いた触媒層−電解質膜積層体、膜電極接合体と燃料電池、並びにその製造方法

【課題】高温かつ無加湿状態で良好な発電性能を長期間安定的に持続できる電解質膜、及びそれを用いた触媒層−電解質膜積層体、膜電極接合体と燃料電池、並びにその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の電解質膜10は、イミダゾール基を有する固体高分子化合物を含む電解質膜であって、第1の層1は固体酸とバインダーを含み、第2の層2は、イミダゾール基を有する固体高分子化合物と液状電解質を含み、第1の層1は第2の層2の両方の主面上に配置されている。電解質膜10は、イミダゾール基を有する固体高分子化合物を含む第2の層形成用樹脂組成物を用いて樹脂膜を形成し、得られた樹脂膜に液状電解質を含浸させて第2の層2を形成した後、固体酸とバインダーを含む第1の層形成用電解質組成物を用いて得られた第2の層の両方の主面上に第1の層をそれぞれ形成することで得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質膜、及びそれを用いた触媒層−電解質膜積層体、膜電極接合体と燃料電池、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境意識の高まりとともに、CO2や汚染物質を排出しないクリーンエネルギーとして燃料電池が注目されている。その中でも、エネルギー効率が高く、温度領域が100℃前後と一般用に取り扱いやすい固体高分子電解質を用いた固体高分子形燃料電池(PEFC)の開発が期待されている。
【0003】
固体高分子形燃料電池は、通常固体高分子電解質からなる電解質膜の両面に電極が接合された膜電極接合体を基本単位とする。固体高分子電解質としては、一般的にデュポン社製のNafion(登録商標)で知られているパーフルオロスルホン酸等が用いられているが、プロトン伝導機構がH3+の状態でプロトンを伝導する運搬機構であるため、80℃以上の温度でプロトン伝導性が著しく低下する問題や、加湿機構を備える必要があるためシステムが煩雑になるという問題等がある。
【0004】
そこで、無加湿条件下で使用できる電解質膜として、リン酸を含浸させたPBI(ポリベンズイミダゾール)膜が提案されている(例えば、特許文献1〜5参照)。しかし、ポリベンズイミダゾール自体にはイオン伝導性がないため、含浸するリン酸量を多くする必要があり、強酸であるリン酸が染み出しやすい問題や、低分子化合物であるリン酸が徐々に流出して電解質膜のイオン伝導性が時間とともに低下するといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2001-510931号公報
【特許文献2】特表平11−503262号公報
【特許文献3】特開2003−327826号公報
【特許文献4】特開2008−218299号公報
【特許文献5】特開2007−115426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来の問題を解決するため、高温かつ無加湿状態で良好な発電性能を長期間安定的に持続できる電解質膜、及びそれを用いた触媒層−電解質膜積層体、膜電極接合体と燃料電池、並びにその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電解質膜は、イミダゾール基を有する固体高分子化合物を含む電解質膜であって、上記第1の層は、固体酸とバインダーを含み、上記第2の層は、イミダゾール基を有する固体高分子化合物と液状電解質を含み、上記第1の層は上記第2の層の両方の主面上に配置されていることを特徴とする。
【0008】
本発明の触媒層−電解質膜積層体は、本発明の電解質膜と、一対の触媒層とを備え、上記電解質膜の両方の主面上に上記触媒層がそれぞれ配置されていることを特徴とする。
【0009】
本発明の膜電極接合体は、本発明の電解質膜と、一対の触媒層と、一対のガス拡散層とを備え、上記電解質膜の両方の主面上に上記触媒層と上記ガス拡散層とがこの順番でそれぞれ積層されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の燃料電池は、本発明の電解質膜と、一対の触媒層と、一対のガス拡散層と、一対のセパレータとを備え、上記電解質膜の両方の主面上に上記触媒層と上記ガス拡散層と上記セパレータとがこの順番でそれぞれ積層されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の電解質膜の製造方法は、イミダゾール基を有する固体高分子化合物を含む電解質膜の製造方法であって、イミダゾール基を有する固体高分子化合物を含む第2の層形成用樹脂組成物を用いて樹脂膜を形成した後、得られた樹脂膜に液状電解質を含浸させて第2の層を形成する工程と、固体酸とバインダーを含む第1の層形成用電解質組成物を用いて得られた第2の層の両方の主面上に第1の層をそれぞれ形成する工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、イミダゾール基を有する固体高分子化合物と液状電解質を含む第2の層の両方の主面上に、固体酸とバインダーを含む第1の層を配置することにより、電解質膜からの液状電解質の流出を防ぎ、高温かつ無加湿状態で良好な発電性能を長期間安定的に持続できる電解質膜、及びそれを用いた触媒層−電解質膜積層体、膜電極接合体と燃料電池を提供する。また、本発明の製造方法によれば、本発明の電解質膜が容易に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は本発明の実施形態1に係る電解質膜の一例を示す模式的断面図である。
【図2】図2は本発明の実施形態2に係る触媒層−電解質膜積層体の一例を示す模式的断面図である。
【図3】図3は本発明の実施形態3に係る膜電極接合体の一例を示す模式的断面図である。
【図4】図4は本発明の実施形態4に係る燃料電池の一例を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面等に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための材料や製造方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、材料や製造方法等を下記に限定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0015】
[実施形態1]
まず、本発明の実施形態1として、電解質膜について説明する。
【0016】
(電解質膜)
図1は本発明の実施形態1に係る電解質膜の一例を示す模式的断面図である。図1に示すように、電解質膜10は、第1の層1(1a、1b)と第2の層2を含み、第2の層2の両方の主面上には第1の層1a、1bがそれぞれ配置されている。そして、第1の層1は固体酸とバインダーを含み、第2の層2はイミダゾール基を有する固体高分子化合物と液状電解質を含む。また、イオン伝導性を高めるという観点から、第2の層2は、さらに固体酸を含んでもよい。第1の層1と第2の層2に含まれる固体酸の種類は同様であってもよく、異なっていてもよい。また、成形性が良好になり、機械的強度に優れるという観点から、第2の層2は、さらにバインダーを含んでもよい。
【0017】
電解質膜10は、その厚みは特に限定されないが、通常20〜1000μmであり、機械的強度の観点から、20〜300μmであることが好ましい。また、第1の層1は、その厚みは限定されないが、通常5〜1000μmであり、機械的強度の観点から、約10〜300μmであることが好ましい。また、第2の層2は、その厚みは限定されないが、通常5〜1000μmであり、機械的強度の観点から、10〜300μmであることが好ましい。
【0018】
<イミダゾール基を有する固体高分子化合物>
本発明において、イミダゾール基を有する固体高分子化合物は、第2の層の基本構造をなすものである。
【0019】
イミダゾール基を有する固体高分子化合物としては、特に限定されないが、耐熱性に優れるという観点から、ポリベンズイミダゾール、ポリイミダゾール、ポリビニルイミダゾールからなる群から選ばれる一種以上の高分子化合物を用いることが好ましく、ポリベンズイミダゾールを用いることがより好ましい。
【0020】
また、ポリベンズイミダゾールは、特に限定されないが、公知の技術により製造することができ、例えば、米国特許第3313783号公報、米国特許第3509108号公報、米国特許第3555389号公報及び米国特許4483977号公報等に記載されている製造方法に基づいて製造することが好ましい。
【0021】
<液状電解質>
液状電解質は、第2の層にイオン伝導性をもたらすものである。液状電解質としては、イオン伝導性を有するものであればよく、特に限定されない。
【0022】
液状電解質としては、例えば強酸、イオン液体等を用いることができる。
【0023】
上記強酸としては、例えば、液体リン酸、硫酸、硝酸、フッ酸、塩酸、臭化水素酸等を用いることが好ましい。本発明において、液体リン酸とは、リン酸水溶液、リン酸溶液などの液状のリン酸をいう。また、本発明において、リン酸は、オルトリン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、ポリリン酸、メタリン酸、パラリン酸等を含む。
【0024】
本発明において、イオン液体とは、常温溶融塩とも言われ、イオンのみからなる溶融体のうち、常温(20±15℃)において液体状態となるものを意味する。イオン液体は、カチオン成分とアニオン成分とで構成される。
【0025】
イオン液体のカチオン成分としては、特に限定されないが、例えば、イミダゾリウム誘導体、ピリジニウム誘導体、ピロリジニウム誘導体、アンモニウム誘導体、含窒素複素環を持つもの、グアニジニウム誘導体、イソウロニウム誘導体等が挙げられる。中でも、耐熱性、導電性等の観点から、イミダゾリウム誘導体及びアンモニウム誘導体からなる群から選ばれる一種以上であることが好ましく、1−メチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン及びジエチルメチルアンモニウムカチオンからなる群から選ばれる一種以上であることがより好ましい。
【0026】
イオン液体のアニオン成分としては、特に限定されないが、例えば、スルフェート類、スルホン酸類、アミド類、イミド類、メタン類、ハロゲン類、ホウ素含有アニオン類、リン酸塩類、アンチモン類、ヒドロフッ化物アニオン、フッ素系アニオン、チオシアネート等が挙げられる。中でも、耐熱性、導電性等の観点から、スルフェート類、イミド類及びチオシアネート類からなる群から選ばれる一種以上であることが好ましく、[CF3SO3-、[(FSO22N]-及び[SCN]-からなる群から選ばれる一種以上であることがより好ましい。イオン伝導性に優れるという観点から、アニオン成分が[CF3SO3-、[(FSO22N]-、[SCN]-、[HSO4-及びビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(bis(trifluoromethanesulfonyl)amide、以下においてHTFSIとも記す。)からなる群から選ばれる一種以上であることが好ましく、[CF3SO3-、[HSO4-及びHTFSIからなる群から選ばれる一種以上であることがより好ましい。
【0027】
また、本発明において、イオン液体は、プロティックなイオンを含むことが好ましい。本発明において、「プロティックなイオン」とは、プロトン受容性及び/又はプロトン供与性を有するイオンを意味する。
【0028】
プロティックなイオンとしては、特に限定されないが、例えばプロトン硫酸一水素イオン(HSO4-)、リン酸一水素イオン(HPO42-)、リン酸二水素イオン(H2PO4-)、セレン酸一水素イオン(HSeO4-)、ピロリン酸一水素イオン(HP273-)、ピロリン酸二水素イオン(H2272-)、ピロリン酸三水素イオン(H327-)、ホスホン酸一水素イオン(H2PO3-)等が挙げられる。
【0029】
イオン液体は、上述のカチオン成分を一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。また、イオン液体は、上述のアニオン成分を一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。
【0030】
イオン液体は、公知の方法(例えば、J. AM. CHEM. SOC. 2010,132,9764−9773頁等参照)によって得ることができる。本発明では、公知の方法にて製造したイオン液体を使用してもよいし、市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、三菱マテリアル株式会社製の1−エチル−3−メチルイミダゾリウム ビス(フルオロスルホニル)イミド(1−Ethyl−3−methylimidazolium bis(fluorosulfonyl)imide)、メルク株式会社製の1−エチル−3−メチルイミダゾリウム トリフラート(1−Ethyl−3−methylimidazolium triflate)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム 硫酸水素塩(1−Ethyl−3−methylimidazolium hydrogensulfate)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム チオシアネート(1−Ethyl−3−methylimidazolium thiocyanate)等を用いることができる。或いは、市販品のカチオン成分とアニオン成分を混合して得られるイオン液体、例えば、東京化成工業社製のイミダゾル(Imidazole)と、和光純薬工業社製のHTFSIを混合して得られるイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、東京化成工業社製の2−エチルイミダゾル(2−ethylimidazole)と、和光純薬工業社製のHTFSIを混合して得られるイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド等を用いてもよい。
【0031】
液状電解質としては、イオン伝導性に優れるという観点から、液体リン酸、硫酸及びイオン液体からなる群から選ばれる一種以上を用いることが好ましく、液体リン酸を用いることがより好ましく、リン酸水溶液を用いることがさらに好ましい。また、イミダゾール基を有する固体高分子化合物としてポリベンズイミダゾールを用い、液状電解質としてリン酸水溶液を用いると、100〜300℃の高温かつ無加湿状態で優れたイオン伝導性を有するため好ましい。
【0032】
<固体酸>
本発明において、「固体酸」とは、固体でありながら、酸の特性を示すものを意味する。固体酸としては、特に限定されず、例えば無機固体酸や有機固体酸を用いることができ、プロトン伝導性の観点から、室温から200℃までの温度範囲かつ無加湿雰囲気下において、プロトン伝導性を有する固体酸を用いることが好ましい。本発明において、無加湿雰囲気下とは、もの(固体酸)が置かれた雰囲気中に意図的な加湿を行わないことを意味する。また、室温とは、本発明の目的においては、もの(固体酸)が置かれた雰囲気中に意図的な温度調整を行わないことを意味する。
【0033】
上記有機固体酸としては、有機酸であればよく、特に限定されない。イオン伝導性の観点から、スルホン酸基を有する有機固体酸及びナフタレン系化合物等を用いることが好ましい。上記スルホン酸基を有する化合物としては、例えばベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸、1,5−ナフタレンジスルホン酸、2,6−ナフタレンジスルホン酸、1,3,6−ナフタレントリスルホン酸、1,3,5,7−ナフタレンテトラスルホン酸等を用いることができる。また、上記ナフタレン系化合物としては、例えばナフタレン、2−メチルナフタレン、1−ナフトール、2−ナフトール、ナフトエ酸、ナフトニトリル、ナフチルアミン、アセナフテン等を用いることができる。上記有機酸固体酸は単独又は一種以上を混合して用いてもよい。
【0034】
上記無機固体酸としては、例えばプロトン伝導性を有する無機固体酸を用いることができ、プロトン伝導性を有する無機塩であることが好ましい。
【0035】
上記プロトン伝導性を有する無機塩としては、金属リン酸塩、金属硫酸塩等が挙げられる。
【0036】
上記金属リン酸塩としては、オルトリン酸塩、ピロリン酸塩等の化合物を挙げることができる。上記金属リン酸塩としては、具体的には、スズ、ジルコニウム、セシウム、タングステン等のオルトリン酸塩やピロリン酸塩を挙げることができる。
【0037】
上記ピロリン酸塩としては、プロトン伝導性に優れるという観点から、下記一般式(1)で表される金属リン酸塩を用いることが好ましい。
【0038】
[化1]
1-xx27 (1)
【0039】
但し、一般式(1)中、xは0≦x<0.5であり、M(主金属)はZr、Cs、Sn、Ti、Si、Ge、Pb、Hf、Ca、Mg、W、Na及びAlからなる群から選ばれる一種であり、D(ドープ金属)はAl、In、B、Ga、Sc、Yb、Ce、La、Sb、Y、Nb及びMgからなる群から選ばれる一種である。
【0040】
上記一般式(1)で表される金属リン酸塩としては、Zr、Cs、Sn、Ti、Si、Ge、Pb、Hf、Ca、Mg、W、Na又はAlを主金属として、主金属と異なる金属をドープしたピロリン酸塩が好ましい。ドープ金属を用いた場合、リン酸塩としての安定性の点から、上記主金属としてはSn、Cs、Ti又はZrを用いることが好ましい。より好ましくは、スズやセシウム等の金属の一部がインジウム、アルミニウムやアンチモン等のドープ金属元素で置換されたピロリン酸塩である。
【0041】
上記ドープ金属としては、例えば、Snを主金属として用いた場合、主金属と固溶可能なものであることから、In、Al等が好適である。主金属とドープ金属の配合比率は固溶限界により異なるが、Snを主金属、Inをドープ金属として用いる場合、例えば、モル比で、Sn:In=7:3〜9.8:0.2の範囲が望ましい。
【0042】
上記一般式(1)で表される金属リン酸塩は、例えば一種以上の金属酸化物とリン酸を加熱して、熱処理することにより合成することができる。
【0043】
上記金属酸化物としては、リン酸と結晶性塩を生成可能なものであればよく、特に限定されない。例えば、Zr、Cs、Sn、Ti、Si、Ge、Pb、Hf、Ca、Mg、W、Na及びAlの酸化物が挙げられる。また、上記リン酸としては、液体リン酸と固体リン酸のいずれを用いてもよい。熱処理時におけるリン酸消失の問題を回避する観点から、固体リン酸を用いることが好ましい。固体リン酸としては、例えば、リン酸一水素アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム等を用いることができる。
【0044】
上記一般式(1)で表される金属リン酸塩は、具体的には、以下のようにして作製することができる。まず、スズ等の主金属を含む化合物(以下、単に主金属化合物とも記す。)及びインジウム等のドープ金属を含む化合物(以下、単にドープ金属化合物とも記す。)と、液体リン酸を混合して混合物を得る。次いで、得られた混合物に水を加えて、100〜300℃の温度で、1〜3時間スターラー等を用いて攪拌して分散させて分散液を得る。得られた分散液を坩堝に入れて、例えば、300〜700℃の温度で、1〜3時間焼成する。上記高温状態ではリン酸が消失する恐れがあるため、液体リン酸のモル数は過剰に、例えば、モル当量の1.1〜1.5倍加えるのが望ましい。なお、主金属化合物及びドープ金属化合物としては、例えば金属酸化物、金属水酸化物、金属塩化物、金属硝酸化物等を用いることができる。
【0045】
上記において、焼成時におけるリン酸消失の問題を回避するため、液体リン酸に替えて固体リン酸を用いても良い。固体リン酸としては、例えば、リン酸一水素アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム等を用いて、スズ等の主金属を含む金属酸化物及びインジウム等のドープ金属を含む金属酸化物と所定のモル数で混合する。主金属を含む金属酸化物とドープ金属を含む金属酸化物は、主金属とドープ金属のモル比を、例えば、9:1〜1:1にして混合したものがよい。得られた混合物を坩堝に投入し、例えば、300〜650℃の温度で、1〜3時間焼成する。次いで、得られた生成物をめのう鉢で粉砕して、所望の金属リン酸塩を得ることができる。固体リン酸を用いることにより、モル当量のリン酸が、金属酸化物と反応し、余剰物は高温により揮発するため余剰のリン酸が付着せず再現性の良い金属リン酸塩を得ることができる。
【0046】
また、上記金属リン酸塩は、共沈法で作製することも可能である。例えば、塩化スズ五水和物(SnCl4・5H2O)及び塩化インジウム四水和物(InCl3・4H2O)を、スズとインジウムが約9:1のモル比となるよう所定濃度の水溶液に調整した後、スターラーで攪拌しながら、アンモニア水溶液をpH7になるまで滴下することにより、水酸化スズ(Sn(OH)4)中に微量な水酸化インジウム(In(OH)3)が均一に存在した状態の沈殿物が得られる。その後、沈殿物を吸引・濾過して乾燥させ、乾燥した沈殿物とリン酸を混合し、還元雰囲気下で約200℃、約2時間熱処理を行うことにより、金属リン酸塩を得ることができる。最後に脱イオン水で洗浄を行う。共沈法によれば、所望の複数の金属イオンを含む溶液から複数種類の難溶性塩を同時に沈殿させることで、ドープ金属を主金属リン酸塩に均一にドープした金属リン酸塩を調整することができる。
【0047】
また、上記固体酸としては、上記一般式(1)で表される金属リン酸塩とリン酸で構成された電解質であってもよい。
【0048】
上記一般式(1)で表される金属リン酸塩とリン酸で構成された電解質は、金属リン酸塩の金属元素及びドープされる金属元素の原子数をそれぞれ[m]及び[n]、金属リン酸塩のリンの原子数とリン酸のリンの原子数の合計を[p]とした場合、下記数式(1)を満たすことが好ましい。
【0049】
[数1]
2<[p]/([m]+[n])≦4 (1)
【0050】
より好ましくは、下記数式(2)を満たす。
【0051】
[数2]
2.4≦[p]/([m]+[n])≦3.2 (2)
【0052】
上記数式(1)を満たすことにより、高いプロトン伝導性が得られるとともに、成形性が良好なものとなる。上記数式[p]/([m]+[n])の値が2以下であると、金属リン酸塩上のリン酸の量が少なくなり、プロトン伝導性が向上しにくい恐れがある。一方、上記数式[p]/([m]+[n])の値が4を超えると、リン酸の量が多すぎて大気中の水分の吸湿が高く成形体が脆くなるので形状が維持できない恐れがある。
【0053】
また、上記プロトン伝導性を有する無機塩としては、ヘテロポリ酸と無機塩の複合体を用いてもよい。上記無機塩としては、硫酸水素塩、リン酸水素塩等が挙げられる。上記硫酸水素塩としては、硫酸水素セシウム、硫酸水素カリウム等を挙げることができる。上記リン酸水素塩としては、リン酸水素セシウム等を挙げることができる。また、硫酸水素塩やリン酸水素塩の替わりに炭酸セシウム(Cs2CO3)、硫酸セシウム(Cs2SO4)等を用いてもよい。上記ヘテロポリ酸としては、タングステンリン酸(H3PW1240:WPA)等が挙げられる。上記ヘテロポリ酸と無機塩の複合体としては、プロトン伝導性の観点から、硫酸水素塩とヘテロポリ酸の複合体が好ましく、より好ましいのはメカノケミカル法によって得られる硫酸水素カリウムとタングステンリン酸の複合体である。
【0054】
ヘテロポリ酸と無機塩の複合体の一種であるタングステンリン酸と硫酸水素カリウム(KHSO4)の複合体は、例えば以下のようなメカノケミカル法で作製することができる。WPA(H3PW1240:12タングスト(VI)リン酸n水和物)をあらかじめ温度60℃で5〜24時間乾燥することにより、六水和物(WPA・6H2O)にする。次いで、得られたWPA・6H2Oと硫酸水素カリウム(KHSO4)とボールをめのうポットに入れる。その後、遊星ボールミル(フリッチェ・ジャパン株式会社製、P−7)で720rpm、10分混合することにより、タングステンリン酸と硫酸水素カリウム(KHSO4)の複合体が得られる。タングステンリン酸と硫酸水素カリウムの配合量は、モル比で、例えば、1:99〜40:60であることが好ましい。
【0055】
なお、上記メカノケミカル法では、ボールミル等を用いたミリングによって得られる衝撃や摩擦等の大きな機械的エネルギーを利用することによって、タングステンリン酸と硫酸水素カリウムの複合体を合成している。したがって、上記メカノケミカル法でタングステンリン酸と硫酸水素カリウムの複合体を作製する場合には、金属リン酸塩の作製時等のように高温プロセスを必要としないため、作製が比較的容易であるという利点がある。
【0056】
上記ミリング処理により、WPAのケギンアニオンPW12403-とKHSO4のHSO4-アニオンがブレンステッド酸−塩基対の形で水素結合を形成することが導電率の向上に関係していると考えられる。硫酸水素塩とヘテロポリ酸をメカノケミカル法により複合化し、無機固体表面に欠陥構造やランダム構造を高密度に導入し、水素結合ネットワークを設計することが、広い温度範囲で高いプロトン伝導性を有する複合体を合成するための一つの重要な指針となる。
【0057】
また、上記固体酸としては、プロトン伝導性に優れるという観点から、下記一般式(2)で表される金属リン酸塩又は金属硫酸塩を用いることが好ましい。
【0058】
[化2]
ab(XOtc (2)
【0059】
但し、一般式(2)中、LはK、Rb及びCsからなる群から選ばれる一種であり、XはP及びSからなる群から選ばれる一種であり、a、b、c及びtは有理数である。
【0060】
上記一般式(2)で表される金属リン酸塩の中でも、下記一般式(3)で表される金属リン酸塩又は金属硫酸塩を用いることがより好ましい。
【0061】
[化3]
Csab(XOtc (3)
【0062】
上記一般式(3)で表される金属リン酸塩又は金属硫酸塩としては、例えばリン酸セシウム(セシウムリン酸)、硫酸セシウム等が挙げられる。また、上記リン酸セシウムとしては、リン酸二水素セシウム(CsH2PO4)、二リン酸五水素セシウム(CsH5(PO42)等が挙げられる。
【0063】
また、上記固体酸としては、セシウムリン酸とリン酸ケイ素(SiP27)の複合体を用いても良い。上記セシウムリン酸としては、リン酸二水素セシウム(CsH2PO4)、二リン酸五水素セシウム(CsH5(PO42)等を挙げることができる。なお、セシウムリン酸、リン酸ケイ素、及びそれらの複合体は、例えば、“Toshiaki Matsui, Tomokazu Kukino, Ryuji Kikuchi, and koichi Eguchi, The Electrochemical Society 153 (2) A339−A342頁(2006)”、或いは、“Toshiaki Matsui, Tomokazu Kukino, Ryuji Kikuchi, and koichi Eguchi, Electrochemical Acta 51 (2006) 3719−3723頁”等を参照して製造することができる。
【0064】
リン酸二水素セシウム(CsH2PO4)とリン酸ケイ素(SiP27)の複合体又は二リン酸五水素セシウム(CsH5(PO42)とリン酸ケイ素(SiP27)の複合体は、例えば、以下のようにして作製する。
【0065】
まず、リン酸二水素セシウム(CsH2PO4)又は二リン酸五水素セシウム(CsH5(PO42)を、以下のようにして作製する。炭酸セシウム(Cs2CO3)及び水を混合し、スターラー等を用いて撹拌子で撹拌する。次いで、液体リン酸を少量ずつ滴下し、100〜150℃の温度で、1〜3時間、撹拌しながら水を蒸発させる。その後、オーブンに入れて、例えば、100〜150℃の温度で乾燥する。乾燥する時間は、例えば、1日〜数日である。次いで、得られた生成物をめのう鉢で粉砕して粉末状にし、所望のリン酸二水素セシウム(CsH2PO4)又は二リン酸五水素セシウム(CsH5(PO42)を得ることができる。
【0066】
次に、リン酸ケイ素(SiP27)は、以下のようにして作製する。二酸化ケイ素(SiO2)と液体リン酸を混合した混合物をめのうばちに入れ、水あめ状になるまで混ぜる。その後、アルミナ坩堝に入れて、100〜700℃の温度で焼成する。焼成する時間は、例えば、30〜80時間である。次いで、得られた生成物をめのう鉢で粉砕して、所望のリン酸ケイ素(SiP27)を得ることができる。
【0067】
次に、リン酸二水素セシウム(CsH2PO4)又は二リン酸五水素セシウム(CsH5(PO42)と、リン酸ケイ素(SiP27)を所定のモル数で配合する。得られた混合物をポッドミルやボールミル等で分散させて、リン酸二水素セシウム(CsH2PO4)とリン酸ケイ素(SiP27)の複合体又は二リン酸五水素セシウム(CsH5(PO42)とリン酸ケイ素(SiP27)の複合体を得る。分散時間は、例えば、1〜30時間である。リン酸二水素セシウム又は二リン酸五水素セシウムとリン酸ケイ素の配合量は、モル比で1:4〜2:1であることが好ましい。
【0068】
また、上記固体酸としては、カリウムリン酸、リン酸ケイ素(SiP27)、又はカリウムリン酸とリン酸ケイ素(SiP27)の複合体を用いても良い。上記カリウムリン酸としては、リン酸二水素カリウム(KH2PO4)、二リン酸五水素カリウム(KH5(PO42)等を挙げることができる。リン酸二水素カリウム(KH2PO4)とリン酸ケイ素(SiP27)の複合体又は二リン酸五水素カリウム(KH5(PO4)とリン酸ケイ素(SiP27)の複合体は、炭酸セシウム(Cs2CO3)の替わりに炭酸カリウム(K2CO3)を用いる以外は、それぞれ上述したリン酸二水素セシウム(CsH2PO4)とリン酸ケイ素(SiP27)の複合体又は二リン酸五水素セシウム(CsH5(PO42)とリン酸ケイ素(SiP27)の複合体の製造方法と同様の方法で製造することができる。
【0069】
有機固体酸は溶媒に溶けることからバインダー成分との馴染みが良く、電解質組成物作製時に分散性が良好になるため、電解質膜の膜質が良好になるという効果が得られやすい。一方、無機固体酸は耐熱性及び耐久性に優れるため、電解質を膜化した後の機械的強度が良好になるという効果が得られやすい。
【0070】
上記固体酸は、特に限定されないが、電解質膜中において、粒径が0.1〜200μm、好ましくは0.1〜150μmである。なお、電解質膜を形成する前の原料としての固体酸も、粒径が0.1〜200μm、好ましくは0.1〜150μmである。固体酸の粒径が0.1〜200μmであることにより、電解質組成物作製時の分散性が向上し、良好な膜質の電解質膜が得られやすい。本発明において、固体酸の粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)等を用いて測定することができる。
【0071】
<バインダー>
バインダーは、結着性を有するものであればよく、特に限定されないが、例えば、フッ素系ポリマー、炭化水素系ポリマー、フッ素系イオノマー、炭化水素系イオノマー、エポキシ系樹脂及びアクリル系樹脂等を用いることができる。中でも、pH1〜3の範囲における耐酸性、50〜300℃の温度範囲における耐熱性を有するものが好ましい。また、イオン伝導性を有していてもよい。
【0072】
上記フッ素系ポリマーとしては、特に限定されず、例えばテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン、フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、四フッ化エチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等のフッ素樹脂を用いることができる。
【0073】
上記炭化水素系ポリマーとしては、炭化水素系化合物を主骨格とする高分子であって、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスチレンスルファイド、ポリベンズイミダゾール、ポリピリジン、ポリピリミジン、ポリイミダゾ−ル、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾオキザゾール、ポリオキサジアゾ−ル、ポリキリノン、ポリキノキサリン、ポリチアジアゾ−ル、ポリテトラザビレン、ポリオキサゾ−ル、ポリチアゾール、ポリビニールピリジン及びポリビニールイミダゾール等を用いることができる。
【0074】
上記フッ素系イオノマーとしては、特に限定されず、例えばデュポン社製のNafion(登録商標)、旭硝子社製のフレミオン(登録商標)、旭化成社製のアシプレックス(登録商標)のようなパーフルオロスルホン酸系、旭化成社製のアクイヴィオン(登録商標)のようなスルホニルフロリドビニルエーテル(SFVE)−テトラフルオロエチレン共重合体等を用いることができる。
【0075】
上記炭化水素系イオノマーとしては、特に限定されないが、例えばポリアリーレンエーテルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、シンジオタクチックポリスチレンスルホン酸、ポリフェニレンエーテルスルホン酸、変性ポリフェニレンエーテルスルホン酸、ポリエーテルスルホンスルホン酸、ポリエーテルエーテルケトンスルホン酸(スルホン化ポリエーテルエーテルケトン)及びポリフェニレンサルファイドスルホン酸等を用いることができる。
【0076】
上記エポキシ系樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型フェノール樹脂等を用いることができる。また、上記の樹脂とシリカとのハイブリッド樹脂等を用いることもできる。
【0077】
上記アクリル系樹脂としては、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン等を用いることができる。また、上記の樹脂とシリカとのハイブリッド樹脂等を用いることもできる。
【0078】
また、バインダーは、セルロース系ポリマーであってもよい。セルロース系ポリマーとしては、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、酢酸セルロース等が挙げられる。
【0079】
上述したバインダーの中でも、耐久性及び結着性の観点から、PTFE、ポリフッ化ビニリデン、パーフルオロスルホン酸、酢酸セルロース、スルホニルフロリドビニルエーテル(SFVE)−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリエーテルエーテルケトンスルホン酸、ポリベンズイミダゾール、ポリイミダゾール、ポリピリジン、ポリピリミジンが好適に用いられる。なお、ポリエーテルエーテルケトンスルホン酸は、特に限定されないが、例えばM.L.Di Vona et al、Polymer 46(2005)1754−1758頁に記載されている方法に基づいて合成したものを用いることができる。
【0080】
上述したバインダーは、一種類のみを用いてもよいし、二種類以上を適宜組合せて用いてもよい。
【0081】
以下、電解質膜の製造方法について説明する。
【0082】
(電解質膜の製造方法)
本発明の電解質膜10は、特に限定されないが、例えば第2の層2を形成した後、第2の層2の両方の主面上に第1の層1(1a、1b)をそれぞれ形成することで作製することができる。
【0083】
<第2の層の形成>
まず、イミダゾール基を有する固体高分子化合物を含む第2の層形成用樹脂組成物を基材上に塗布し、乾燥して樹脂膜を形成する。なお、イミダゾール基を有する固体高分子化合物としては上述のものを用いればよい。
【0084】
第2の層形成用樹脂組成物としては、イミダゾール基を有する固体高分子化合物と溶媒とを含む混合物を、分散機で混合・分散して得られる樹脂組成物を用いることができる。分散機としては、超音波分散機、ホモゲナイザー、ボールミル等を用いることができる。
【0085】
上記溶媒としては、イミダゾール基を有する固体高分子化合物を分散できるものであればよく特に限定されない。例えば、エタノール、メタノール、1−ブタノ−ル、t−ブタノ−ル、プロパノール、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、メタンスルホン酸等を用いることができる。
【0086】
第2の層形成用樹脂組成物は、さらに固体酸及び/又はバインダーを含んでもよい。イオン伝導性と成形性又は機械的強度との両立という観点から、第2の層形成用樹脂組成物における固体酸とイミダゾール基を有する固体高分子化合物の配合量は、質量比で、10:1〜1:10であることが好ましく、2:1〜1:5であることがより好ましく、1:1〜1:5であることがさらに好ましい。また、イオン伝導性と成形性又は機械的強度との両立という観点から、第2の層形成用樹脂組成物におけるバインダーとイミダゾール基を有する固体高分子化合物の配合量は、質量比で、1:1〜1:10であることが好ましく、1:1〜1:5であることがより好ましい。なお、本発明において、バインダーの質量は、バインダーの固形分の質量をいう。
【0087】
上記基材としては、例えば、高分子フィルム等を用いることができる。高分子フィルムとしては、例えば、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリパルバン酸アラミド、ポリアミド(ナイロン)、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリエチレンナフタレート(PET)等で構成される高分子フィルムを用いることができる。また、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の耐熱性フッ素樹脂で構成される高分子フィルムを用いてもよい。中でも、安価で入手が容易な高分子フィルムが好ましく、PETフィルムがより好ましい。
【0088】
第2の層形成用樹脂組成物の基材への塗布方法としては、特に限定されず、例えば、ナイフコーター、バーコーター、スプレー塗工、ディップコーター、スピンコーター、ロールコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スクリーン印刷、圧延法等の塗布方法を用いることができる。
【0089】
また、上記において、乾燥温度は、例えば50〜300℃、好ましくは100〜250℃である。乾燥温度が50℃より低いと、樹脂組成物に含まれる溶媒が除去できない恐れがある。一方、乾燥温度が300℃を超えると、バインダーが熱分解する恐れがある。また、乾燥時間は、例えば10分〜5時間、好ましくは10分〜3時間である。また、乾燥方法としては、自然乾燥、遠赤乾燥、熱風乾燥、減圧乾燥、加熱等の方法が挙げられる。
【0090】
次に、得られた樹脂膜に液状電解質を含浸して第2の層2を形成する。液状電解質としては上述のものを用いればよい。なお、基材は、樹脂膜に液状電解質を含浸する前後に、180度剥離等により剥離すればよいが、含浸の容易さから、樹脂膜に液状電解質を含浸する前に剥離することが好ましい。
【0091】
含浸は、特に限定されないが、例えば液状電解質中に樹脂膜を浸漬することにより行うことができる。浸漬時の液状電解質の温度は、例えば室温〜200℃であり、安全性・取り扱いやすさの観点から、室温〜100℃であることが好ましい。また、浸漬時間は、樹脂膜へ液状電解質を含浸する場合の狙いの含浸率に応じて適宜調整する。なお、必要に応じて、樹脂膜を液状電解質中に浸漬した後、室温〜100℃の温度で、1〜60分間乾燥してもよい。乾燥方法としては、自然乾燥、遠赤乾燥、熱風乾燥、減圧乾燥、加熱等の方法が挙げられる。安全性及び操作性の観点から、液状電解質としては、リン酸水溶液を用いることが好ましく、75〜122質量%のリン酸水溶液を用いることがより好ましい。
【0092】
上記樹脂膜への液状電解質の含浸率(ドープ量)は、樹脂膜の質量に対して150〜400質量%であることが好ましく、150〜300質量%であることがより好ましい。
【0093】
上記液状電解質の含浸率(ドープ量)は、液状電解質を含浸する前の樹脂膜の質量をW1とし、液状電解質を含浸した後の樹脂膜の質量をW2とすると、下記に示す数式(3)により求めることができる。
【0094】
[数3]
含浸率(%)=(W2−W1)/W1×100 (3)
【0095】
また、上記樹脂膜がポリベンズイミダゾール膜であり、液状電解質がリン酸水溶液である場合、イオン伝導性に優れるという観点から、上記リン酸水溶液のポリベンズイミダゾール膜に対する含浸率は、150〜400質量%であることが好ましく、150〜300質量%であることがより好ましい。
【0096】
<第1の層の形成>
第2の層2の両方の主面上に固体酸とバインダーを含む第1の層形成用電解質組成物を塗布し、乾燥して第1の層1a、1bをそれぞれ形成する。或いは、まず、固体酸とバインダーを含む第1の層形成用電解質組成物を基材上に塗布し、乾燥して第1の層1a、1bをそれぞれ形成する。次に、基材上に形成された第1の層1a、1bを第1の層1a、1bの主面と第2の層2の主面が接するように第2の層2の両方の主面上にそれぞれ配置して積層物を得る。その後、得られた積層物の両側からホットプレス等の熱プレス処理を行い、その後第1の層1a、1bから基材を剥離することで、第2の層2の両方の主面上に第1の層1a、1bをそれぞれ形成する。なお、固体酸、バインダー及び基材としては上述のものを用いればよい。
【0097】
第1の層形成用電解質組成物としては、固体酸とバインダーを含む混合物を、分散機で混合・分散して得られる電解質組成物を用いることができる。分散機としては、超音波分散機、ホモゲナイザー、ボールミル等を用いることができる。
【0098】
上記第1の層形成用電解質組成物は、さらに溶媒を含んでもよい。上記溶媒としては、バインダーを凝集させないものであればよく特に限定されない。例えば、水、エタノール、メタノール、1−ブタノ−ル、t−ブタノ−ル、プロパノール、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、メタンスルホン酸等を用いることができる。第1の層形成用電解質組成物が溶媒を含む場合、固体酸を上記バインダー溶液若しくはディスパージョンに添加した後、溶媒を加えて第1の層形成用電解質組成物を作製してもよい。
【0099】
上記第1の層形成用電解質組成物において、電池性能を高めるという観点から、固体酸とバインダーの配合量は、質量比で、10:0.5〜10:10であることが好ましく、10:0.5〜10:5であることがより好ましく、10:0.5〜10:3であることがさらに好ましい。
【0100】
なお、固体酸として金属リン酸塩とリン酸で構成された電解質を用いる場合、金属リン酸塩を粉末状にし、リン酸とバインダーを加えて混合・分散し、第1の層形成用電解質組成物を作製することができる。或いは、金属リン酸塩にリン酸を所定量加えた後、100〜200℃で、30分〜2時間焼成したものにバインダーを添加して第1の層形成用電解質組成物を作製してもよい。上記において、金属リン酸塩とリン酸の配合量は、質量比で、5:0.2〜5:2、好ましくは5:0.3〜5:1.2、より好ましくは5:0.8〜5:1、最も好ましくは5:0.9になるように調整する。上記の場合、焼成処理により、リン酸に含まれる水が揮発するとともに、金属リン酸塩上のオルトリン酸が縮合してピロリン酸又はメタリン酸等のリン酸縮合体が生成され、生成されたリン酸縮合体と金属リン酸塩が架橋されることにより、金属リン酸塩周辺にリン酸とのネットワークが形成されて電荷を有するリン酸が高密度に集積し、良好なプロトン伝導性が発現するとともに、電解質の強度が増大すると推測される。
【0101】
第2の層2の主面上又は基材上への第1の層形成用電解質組成物の塗布は、特に限定されず、例えば第2の層形成用樹脂組成物の基材への塗布時の塗布方法と同様の塗布方法で行うことができる。また、乾燥は、上記樹脂膜の形成時の乾燥と同様な条件で行うことができる。
【0102】
上記において、第1の層形成時の積層物に対する熱プレス処理は、特に限定されず、各種のプレス処理で行うことができる。また、熱プレスする際の圧力は、特に限定されないが、例えば、通常0.5〜10MPa、好ましくは1〜10MPaである。また、熱プレスする際の温度は、特に限定されないが、例えば、通常30〜200℃、好ましくは50〜250℃である。また、熱プレスする際のプレス時間は、温度に応じて適宜決めればよく、例えば、通常10〜240秒、好ましくは30〜180秒である。
【0103】
また、基材上に形成された第1の層からの基材の剥離は、特に限定されず、180度剥離等により行うことができる。
【0104】
本実施形態によれば、イミダゾール基を有する固体高分子化合物と液状電解質を含む第2の層の両方の主面上に、固体酸とバインダーを含む第1の層を配置することにより、電解質膜からの液状電解質の流出を防ぎ、高温かつ無加湿状態で良好な発電性能を長期間安定的に持続できる電解質膜を提供することができる。
【0105】
[実施形態2]
以下、本発明の実施形態2として、触媒層−電解質膜積層体について説明する。
【0106】
(触媒層−電解質膜積層体)
図2は、本発明の実施形態2に係る触媒層−電解質膜積層体の一例を示す模式的断面図である。触媒層−電解質膜積層体20は、図2に示すように、電解質膜10と、一対の触媒層6、7とを備え、電解質膜10の両方の主面上に触媒層6、7がそれぞれ配置されている。なお、図2では、図1と同一の部分には同一の符合を付けており、重複する説明は省略する。また、図2と図1において同一の部分は、同様の機能を有する。
【0107】
触媒としては、燃料電池におけるアノード及び/又はカソード反応を促進する物質であればよく、特に限定されない。例えば、白金担持カーボン、白金−ルテニウム担持カーボン、白金−コバルト担持カーボン、金担持カーボン、銀担持カーボン、鉄−コバルト−ニッケル担持カーボン等の金属担持カーボン;白金ブラック、白金−ルテニウムブラック、白金−コバルトブラック、金ブラック、銀ブラック等の金属微粒子;モリブデンカーバイド等の無機物質等を挙げることができる。このうち触媒活性の高い白金担持カーボン、リン酸被毒の少ないモリブデンカーバイド等が好適である。
【0108】
触媒層6、7は、反応場を増加させるという観点から、実施形態1で示した固体酸を含んでもよい。固体酸としては、密着性の観点から、電解質膜と同様の固体酸を含むことが好ましい。
【0109】
また、触媒層6、7は、反応場を増加させるという観点から、実施形態1で示した液状電解質を含んでもよい。液状電解質は、液状電解質を含む触媒ペーストを用いて触媒層を作製することで触媒層に含ませることができる。或いは、液状電解質を含んでいない触媒層に液状電解質を塗布して含浸させることで、触媒層に液状電解質を含ませてもよい。液状電解質としては、イオン伝導度、取り扱い性等の観点から、濃度が約75〜122質量%のリン酸水溶液を用いることが好ましい。なお、液状電解質は、触媒層の細孔を塞がない程度で含有されることが好ましい。
【0110】
また、触媒層6、7は、バインダーを含有してもよい。触媒層6、7の形成には、触媒のみでも成形可能であるが、バインダーを添加してペースト化したものを塗工・成形することにより、機械的強度に優れた触媒層を得ることができる。バインダーとしては、例えば実施形態1で示したバインダーを用いることができる。
【0111】
触媒層6、7の厚みは、電極基材の種類、電解質膜の厚み等を考慮して適宜決定すればよい。触媒層6、7の厚みは、例えば20〜3000μmであり、好ましくは30〜2000μmである。
【0112】
触媒層−電解質膜積層体20は、例えば、触媒を含む触媒ペーストを電解質膜10の両方の主面上に塗布し、乾燥して触媒層6、7を形成することで製造できる。或いは、触媒層−電解質膜積層体20は、例えば、触媒を含む触媒ペーストを基材上に塗布し、乾燥して触媒層を形成した後、基材上に形成された触媒層を触媒層6、7の主面と電解質膜10の主面が接するように電解質膜10の両方の主面上にそれぞれ配置して積層物を得、得られた積層物の両側からホットプレス等の熱プレス処理を行い、その後基材を剥離することで製造できる。
【0113】
上記触媒ペーストは、例えば触媒と溶媒を含む混合物を、分散機で混合・分散して得られる。分散機としては、超音波分散機、ホモゲナイザー、ボールミル等を用いることができる。また、上記触媒ペーストは、固体酸、バインダー、液状電解質等を含んでもよい。
【0114】
上記溶媒としては、触媒を分散できるものであればよく、特に限定されない。例えば、水、エタノール、メタノール、1−ブタノール、t−ブタノール、プロパノール、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等を用いることができる。
【0115】
上記触媒ペーストが固体酸を含む場合、触媒と固体酸からなる固形分の濃度は、塗工性の観点から、触媒ペーストに対して50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは40質量%以下である。また、触媒と固体酸の配合量は、質量比で10:1〜0.1:1であることが好ましく、より好ましくは5:1〜0.25:1である。
【0116】
上記触媒ペーストがバインダーを含む場合、上記バインダー(固形分)の添加量は、触媒ペースト中の固形分に対して50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましい。この場合、触媒と固体酸をバインダーの溶液若しくはディスパージョンに添加した後、溶媒を加えて触媒ペーストを作製してもよい。
【0117】
上記触媒ペーストが固体酸と液状電解質を含む場合、上記固体酸と液状電解質の配合量は、質量比で1:50〜10:1であることが好ましく、より好ましくは1:50〜1:5である。
【0118】
基材としては、実施形態1で述べた基材と同様のものを用いることができる。中でも、触媒層の製造工程における寸法安定性及び剥離性の点から、PTFE、ポリエステルで構成される高分子フィルムがより好ましい。また、触媒層との剥離性を向上させるため、離型層・剥離層等を設けた高分子フィルム等の基材を用いてもよい。
【0119】
触媒ペーストの塗工量としては、例えば、白金担持カーボンを用いる場合、白金担持量として、好ましくは0.1〜3.0mg/cm2、より好ましくは0.1〜1.5mg/cm2である。
【0120】
電解質膜又は基材への触媒ペーストの塗布方法は、特に限定されるものではなく、例えば、スクリーン印刷、ブレードコート、ダイコート、スプレー塗工、ディスペンサー塗工、インクジェット塗工等の塗布方法を用いることができる。このうち触媒ペーストの作製の簡便さよりスクリーン印刷、ブレードコートを用いるのが好ましい。
【0121】
また、上記において、乾燥温度は、例えば50〜300℃、好ましくは100〜250℃である。乾燥温度が50℃より低いと、触媒ペーストに含まれる溶媒が除去できない恐れがある。一方、乾燥温度が300℃を超えると、バインダーが熱分解する恐れがある。また、乾燥時間は、例えば10分〜5時間、好ましくは10分〜3時間である。また、乾燥方法としては、自然乾燥、遠赤乾燥、熱風乾燥、減圧乾燥、加熱等の方法が挙げられる。
【0122】
上記において、熱プレス処理は、特に限定されず、各種のプレス処理で行うことができる。また、熱プレスする際の圧力は、特に限定されないが、例えば、通常0.5〜10MPa、好ましくは1〜10MPaである。また、熱プレスする際の温度は、特に限定されないが、例えば、通常30〜200℃、好ましくは50〜250℃である。また、熱プレスする際のプレス時間は、温度に応じて適宜決めればよく、例えば、通常10〜240秒、好ましくは30〜180秒である。
【0123】
本実施形態によれば、高温かつ無加湿状態で良好な発電性能を長期間安定的に持続できる触媒層−電解質膜積層体を提供することができる。
【0124】
[実施形態3]
以下、本発明の実施形態3として、膜電極接合体について説明する。
【0125】
(膜電極接合体)
図3は、本発明の実施形態3に係る膜電極接合体の一例を示す模式的断面図である。図3に示すように、本発明の実施形態3に係る膜電極接合体30は、実施形態1で示した電解質膜10と、一対の触媒層6、7と、一対のガス拡散層8、9とを備え、電解質膜10の両方の主面上に触媒層6、7とガス拡散層8、9とがこの順番でそれぞれ積層されている。図3では、図1〜図2と同一の部分には同一の符合を付け、重複する説明は省略する。また、図3と図1〜図2において同一の部分は、同様の機能を有する。
【0126】
ガス拡散層8、9は、多孔質体等ガス拡散性を有する導電性材料で構成されており、燃料ガス又は酸化剤ガスが流通できるようになっている。
【0127】
ガス拡散層8、9の厚みは、触媒層や電解質膜の厚み等を考慮して適宜決定すればよい。その厚みは、例えば通常100〜400μmであり、好ましくは150〜350μmである。
【0128】
ガス拡散層としては、例えばカーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト等が用いられる。また、これらに撥水処理を行ったものを用いてもよい。また、ガス拡散層に触媒ペーストを塗工した場合のガス拡散層への触媒ペーストの染み込みを防ぐため平坦化層を設けたガス拡散層を用いることが望ましい。
【0129】
膜電極接合体30は、例えば以下のように作製することができる。まず、ガス拡散層8、9の主面上に実施形態2で述べたのと同様の触媒ペーストを塗布し、乾燥して触媒層を形成してガス拡散電極16、17を得る。次いで、ガス拡散電極16、17を触媒層6、7の主面と電解質膜10の主面が接するように電解質膜10の両方の主面上にそれぞれ配置し、得られた積層物の両側からホットプレス等の熱プレス処理を行い、膜電極接合体30を得る。なお、カソード側に配置されるガス拡散電極はカソード側触媒電極16となり、アノード側に配置されるガス拡散電極はアノード側触媒電極17となる。
【0130】
上記において、触媒層が液状電解質を含む場合は、液状電解質を含む触媒ペーストを用いて触媒層を形成すればよい。或いは、液状電解質を含んでいない触媒ペーストを用いてガス拡散層の主面上に触媒層を形成してガス拡散電極を得た後、ガス拡散電極の主面上(触媒層の主面上)に液状電解質を塗布することにより、触媒層に液状電解質を含ませてもよい。
【0131】
ガス拡散層への触媒ペーストの塗布は、上記実施形態2における触媒層形成時の基材への触媒ペーストの塗布方法と同様な方法で行うことができる。また、乾燥及び熱プレス処理は、それぞれ、上記実施形態2における触媒層の形成時の乾燥及び熱プレスと同様な条件で行うことができる。
【0132】
また、ガス拡散層への触媒ペーストの塗工量としては、例えば、白金担持カーボンを用いる場合、白金担持量として、好ましくは0.1〜3.0mg/cm2、より好ましくは0.1〜1.5mg/cm2である。
【0133】
本実施形態によれば、高温かつ無加湿状態で良好な発電性能を長期間安定的に持続できる膜電極接合体を提供することができる。
【0134】
[実施形態4]
以下、本発明の実施形態4として、燃料電池について説明する。
【0135】
(燃料電池)
図4は、本発明の実施形態4に係る燃料電池の一例を示す模式的断面図である。図4に示すように、本発明の実施形態4に係る燃料電池40は、電解質膜10と、一対の触媒層6、7と、一対のガス拡散層8、9と、一対のセパレータ28、29とを備えており、電解質膜10の両方の主面上に触媒層6、7と、ガス拡散層8、9と、セパレータ28、29とがこの順番でそれぞれ積層されている。図4では、図1〜図3と同一の部分には同一の符合を付け、重複する説明は省略する。また、図4と図1〜図3において同一の部分は、同様の機能を有する。
【0136】
セパレータ29は、燃料をアノード側触媒電極17に供給するためのものであり、燃料を流通するための燃料流路21を有する。一方、セパレータ28は、酸化剤ガスをカソード側触媒電極16に供給するためのものであり、酸化剤ガスを流通するための酸化剤ガス流路22を有する。
【0137】
セパレータ28、29の材質としては、燃料電池40内の環境においても安定な導電性を有するものであればよい。一般的には、カーボン板に流路を形成したものが用いられる。また、セパレータ28、29は、ステンレススチール等の金属で構成し、その金属の表面にクロム、白金族金属、白金族金属の酸化物、導電性ポリマー等の導電性材料からなる被膜を形成したものであってもよい。
【0138】
なお、セパレータ28、29は、燃料電池40を複数個積層して構成した燃料電池に用いる場合、集電体としての機能を有することができる。
【0139】
<燃料電池の動作原理>
燃料流路21により、水素ガス又はメタノール等の水素供給可能な燃料が、アノード側触媒電極17に供給され、この燃料からプロトン(H+)と電子(e-)が生成される。生成されたプロトンは電解質膜10によってカソード側触媒電極16へと搬送される。一方、酸化剤ガス流路22により、空気又は酸素ガス等の酸化剤ガスが、カソード側触媒電極16に供給され、電解質膜10によって搬送されてきたプロトンと外部回路23から来る電子及び酸化剤ガスとが反応して水が生成される。このようにして燃料電池として機能する。
【0140】
本実施形態に係る燃料電池40は、燃料電池の作製に用いられる公知の技術を用いて、電解質膜10の両方の主面上に触媒電極16、17及びセパレータ28、29を順次積層することにより、製造することができる。
【0141】
本実施形態によれば、高温かつ無加湿状態で良好な発電性能を長期間安定的に持続できる電解質膜を用いることにより、安定性に優れ、高性能な燃料電池を提供することができる。
【実施例】
【0142】
以下において、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更実施可能である。
【0143】
(実施例1)
<ポリベンズイミダゾール>
ポリベンズイミダゾールは、米国特許第3313783号公報、米国特許第3509108号公報、米国特許第3555389号公報及び米国特許第4483977号公報等に記載されている製造方法を参考として、以下のようにして作製した。3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニル(3,3’,4,4’−tetraaminobiphenyl、Aldrich社製)56.35g(0.263モル)に、イソフタル酸(isophthalic acid、和光社製)43.69g(0.263モル)と、リン酸トリフェニル(triphenylphosphite、和光社製)0.6gをフラスコに加え、混合した。フラスコ内を窒素パージし、上記混合物を約1時間、スターラーで攪拌しながら415℃までに急速に昇温させ、415℃でさらに1時間攪拌した。得られた合成物を室温になるまで冷却し、ポリベンズイミダゾールを得た。
【0144】
<固体酸>
固体酸として、以下のように作製した金属リン酸塩を用いた。まず、酸化スズ(SnO2、Nano Tec社製)13.56g(0.09モル)に、酸化インジウム(In23、ナカライテスク社製)1.40g(0.0050モル)と、リン酸水素二アンモニウム(ナカライテスク社製)27.99g(0.212モル)を加え、混合した。得られた混合物を坩堝に投入し、約650℃で、約2時間程度焼成し、得られた生成物をめのうばちで粉砕してリン酸スズを得た。なお、得られたリン酸スズはインジウムが一部ドープされたピロリン酸塩であった(Sn0.9In0.127)。
【0145】
<バインダー>
バインダーとして、M.L.Di Vona et al、Polymer 46(2005)1754−1758頁に記載されている方法に基づいて下記のように合成したスルホン化ポリエーテルエーテルケトン(以下において、SPEEKとも記す。)を用いた。まず、還流冷却管の付いた500mlの丸底フラスコにポリエーテルエーテルケトン(VICTREX社製)5gと、96%濃硫酸250mlとを入れ、オイルバス中で50℃に保ち、撹拌しながら18時間還流させた。その後、ガラスフィルターでろ過し、反応固形物を純水にて洗浄した。ろ液が中性付近になるまで洗浄を繰り返した後、50℃で24時間乾燥し、その後60℃で6時間真空乾燥してSPEEKを得た。
【0146】
得られたSPEEK1gとDMA(N’N−ジメチルアセトアミド)9gを混合し、室温で約3時間攪拌し、10質量%のSPEEK溶液を作製した。
【0147】
<第1の層形成用電解質組成物>
上記で得られたリン酸スズ5gに10質量%のSPEEK溶液5gを加え、分散機で分散して第1の層形成用電解質組成物を作製した。
【0148】
<第2の層形成用樹脂組成物>
上記で得られたPBI1gをN,N−ジメチルアセトアミド33gに添加し、オイルバス中で撹拌して溶解させて第2の層形成用樹脂組成物を得た。
【0149】
<電解質膜の作製>
上記で得られた第2の層形成用樹脂組成物をPETフィルム(厚み50μm)上にブレードコーターで塗工し、約120℃で、約30分間乾燥して厚み50μmのPBI膜を得た。次に、PBI膜からPETフィルムを剥離し、85質量%リン酸(H3PO4)水溶液中に室温で10分間浸漬することで、PBI膜へのリン酸のドープ率を200質量%にし、第2の層2を形成した。次に、第2の層2の両方の主面上に、上記で得られた第1の層形成用電解質組成物を塗布して乾燥し、それぞれ厚みが20μmの第1の層1a、1bを形成し、イオン伝導性電解質膜を得た。
【0150】
<膜電極接合体の作製>
白金担持カーボン(「TEC10E50E」、田中貴金属社製)1g、バインダー(「Nafion2020CS」、デュポン社製)2.5g、溶媒(n−ブタノールとt−ブタノールを1:1の質量比で混合したもの)6.0gを混合し、分散機で約3時間混合し、触媒ペーストを作製した。得られた触媒ペーストをガス拡散層(「SGL34BC」、SGLカーボン社製)上に白金担持量が約0.5mg/cm2となるようにブレードコーターで塗工し、約140℃で、約30分間乾燥して触媒層を形成し、ガス拡散電極を得た。次に、得られたガス拡散電極を触媒層の主面が電解質膜の主面と接するように上記で得られた電解質膜の両方の主面上に配置し、得られた積層物を両側から160℃、3MPaの条件で熱プレスし、膜電極接合体を得た。
【0151】
(実施例2)
PBI膜を85質量%リン酸水溶液中に室温で5分間浸漬し、PBI膜へのリン酸のドープ率を150質量%にした以外は、実施例1と同様にして電解質膜及び膜電極接合体を得た。
【0152】
(実施例3)
<固体酸>
固体酸として、以下のように作製したリン酸二水素セシウム(CsH2PO4)とリン酸ケイ素(SiP27)の複合体を用いた。
【0153】
まず、リン酸二水素セシウム(CsH2PO4)を以下のようにして作製した。炭酸セシウム(Cs2CO3、Aldrich社製)28.4g(0.09モル)及び水10gをビーカーに入れ、スターラーにて撹拌した。次いで、スターラーにて撹拌しながら85質量%リン酸水溶液20.1g(0.17モル)を少量ずつ滴下した。その後、ホットプレート上で約120℃で、約2時間乾燥し、水を蒸発させた。得られた生成物を坩堝に投入し、約120℃で、約3日間乾燥し、得られた生成物をめのうばちで粉砕してリン酸二水素セシウム(CsH2PO4)を得た。
【0154】
次に、リン酸ケイ素(SiP27)を以下のようにして作製した。二酸化ケイ素(SiO2、東ソーシリカ社製)8.0g(0.13モル)及び85質量%リン酸水溶液38.4g(0.33モル)をめのうばちに入れ、水あめ状になるまで混合した。その後、得られた混合物をアルミナ坩堝に投入し、100〜200℃で、約60時間程度の仮焼成した後、約700℃、約4時間程度焼成し、得られた生成物をめのうばちで粉砕してリン酸ケイ素(SiP27)を得た。
【0155】
最後に、上記で得られたリン酸二水素セシウム(CsH2PO4)2.0g(0.0087モル)と、上記で得られたリン酸ケイ素(SiP27)3.5g(0.017モル)をポットミルで分散し、リン酸二水素セシウムとリン酸ケイ素の複合体(CsH2PO4−SiP27)を得た。
【0156】
<電解質膜及び膜電極接合体の作製>
リン酸スズの替わりに上記で得られたリン酸二水素セシウムとリン酸ケイ素の複合体を用いて第1の層形成用電解質組成物を作製した以外は、実施例1と同様にして電解質膜及び膜電極接合体を得た。
【0157】
(実施例4)
リン酸スズの替わりに実施例3と同様にして得られたリン酸二水素セシウムとリン酸ケイ素の複合体を用いて第1の層形成用電解質組成物を作製した以外は、実施例2と同様にして電解質膜及び膜電極接合体を得た。
【0158】
(実施例5)
<固体酸>
タングステンリン酸と硫酸水素カリウムの複合体(WPA−KHSO4)を以下のようにして作製した。WPA(12タングスト(VI)リン酸n水和物、ナカライテスク社製)をあらかじめ温度60℃で乾燥し、六水和物(WPA・6H2O)とした。次いで、得られたタングステンリン酸六水和物(WPA・6H2O)4.5gと硫酸水素カリウム(KHSO4、ナカライテスク社製)4gとボールをめのうポットに入れ、遊星ボールミル(フリッチェ・ジャパン株式会社製、P−7)を用い、720rpmで10分間混合し、タングステンリン酸と硫酸水素カリウムの複合体(WPA−KHSO4)を得た。
【0159】
<電解質膜及び膜電極接合体の作製>
リン酸スズの替わりに上記で得られたタングステンリン酸と硫酸水素カリウムの複合体を用いて第1の層形成用電解質組成物を作製した以外は、実施例1と同様にして電解質膜及び膜電極接合体を得た。
【0160】
(実施例6)
リン酸スズの替わりに実施例5と同様にして得られたタングステンリン酸と硫酸水素カリウムの複合体を用いて第1の層形成用電解質組成物を作製した以外は、実施例2と同様にして電解質膜及び膜電極接合体を得た。
【0161】
(実施例7)
<第2の層形成用樹脂組成物>
実施例1と同様にして作製したPBI1gをN,N−ジメチルアセトアミド33gに添加し、オイルバス中で撹拌して溶解させた後、得られた溶解液中に実施例1と同様にして作製したリン酸スズ0.5gを分散させて第2の層形成用樹脂組成物を得た。
【0162】
<電解質膜及び膜電極接合体の作製>
上記で得られた第2の層形成用樹脂組成物を用いた以外は、実施例2と同様にして電解質膜及び膜電極接合体を得た。
【0163】
(実施例8)
第2の層形成用樹脂組成物作製時のリン酸スズの添加量を0.25gにした以外は、実施例7と同様にして電解質膜及び膜電極接合体を得た。
【0164】
(実施例9)
第1の層形成用電解質組成物作製時のSPEEK溶液の添加量を2.5gにした以外は、実施例7と同様にして電解質膜及び膜電極接合体を得た。
【0165】
(実施例10)
第1の層形成用電解質組成物作製時のSPEEK溶液の添加量を10gにした以外は、実施例7と同様にして電解質膜及び膜電極接合体を得た。
【0166】
(実施例11)
リン酸スズの替わりに実施例3と同様にして得られたリン酸二水素セシウムとリン酸ケイ素の複合体を用いて第1の層形成用電解質組成物及び第2の層形成用樹脂組成物を作製した以外は、実施例7と同様にして電解質膜及び膜電極接合体を得た。
【0167】
(実施例12)
リン酸スズの替わりに実施例3と同様にして得られたリン酸二水素セシウムとリン酸ケイ素の複合体を用いて第1の層形成用電解質組成物及び第2の層形成用樹脂組成物を作製した以外は、実施例8と同様にして電解質膜及び膜電極接合体を得た。
【0168】
(実施例13)
リン酸スズの替わりに実施例5と同様にして得られたタングステンリン酸と硫酸水素カリウムの複合体を用いて第1の層形成用電解質組成物及び第2の層形成用樹脂組成物を作製した以外は、実施例7と同様にして電解質膜及び膜電極接合体を得た。
【0169】
(実施例14)
リン酸スズの替わりに実施例5と同様にして得られたタングステンリン酸と硫酸水素カリウムの複合体を用いて第1の層形成用電解質組成物及び第2の層形成用樹脂組成物を作製した以外は、実施例8と同様にして電解質膜及び膜電極接合体を得た。
【0170】
(実施例15)
実施例1と同様にして得られたガス拡散電極の両方の主面上(触媒層の主面上)に85質量%リン酸水溶液0.5gを塗工した以外は、実施例1と同様にして膜電極接合体を作製した。
【0171】
(実施例16)
触媒ペーストに85質量%リン酸水溶液0.5gをさらに添加した以外は、実施例1と同様にして膜電極接合体を作製した。
【0172】
(比較例1)
<電解質膜の作製>
実施例1と同様して作製した第2の層形成用樹脂組成物をPETフィルム(厚み50μm)上にブレードコーターで塗工し、約120℃で、約30分間乾燥して厚み50μmのPBI膜を得た。次に、PBI膜からPETフィルムを剥離し、85質量%リン酸水溶液中に室温で10分間浸漬することで、リン酸のドープ率が200質量%のPBI膜を得、イオン伝導性電解質膜とした。
【0173】
<膜電極接合体の作製>
上記で得られた電解質膜を用いた以外は、実施例1と同様にして膜電極接合体を得た。
【0174】
(起電力の測定)
実施例及び比較例で得られた膜電極接合体を、JARI標準セルにセル組みし、160℃かつ無加湿雰囲気下で300mA/cm2の電流密度に相当する定電流を得る条件で発電を行い、長時間に渡って電流を作動させ、電圧の経時変化を測定し、得られた500時間経過後の電圧低下量(V)を下記表1〜表3に示した。ここで、JARI標準セルとは、(財)日本自動車研究所(JARI:Japan Auto mobile Research Institute)において、PEFCの基礎研究及びPEFC用材料(膜、電極触媒、構成部品等)の評価試験用として開発されたセルを意味する。なお、表1〜表3には、電解質膜の各組成についても示した。
【0175】
【表1】

【0176】
【表2】

【0177】
【表3】

【0178】
表1〜表3から、リン酸を含浸させたPBI膜で構成された第2の層の両側に固体酸とバインダーを含む第1の層が配置されている電解質膜を用いた実施例1〜16の膜電極接合体は、500時間経過時の電圧低下量がゼロに近く、電池性能の耐久性に優れていることが分かる。これに対して、リン酸を含浸させたPBI膜のみで構成された電解質膜を用いた比較例1の膜電極接合体では、時間の経過と共に電池性能の低減が確認された。これは、リン酸を含浸させたPBI膜の両側に固体酸とバインダーを含む第1の層が配置されることにより、PBI膜からのリン酸の流出が防止されているためであると推測される。
【産業上の利用可能性】
【0179】
本発明は、イオン伝導性電解質膜及びそれを用いた燃料電池に関連した技術分野に好適に適用され得る。
【符号の説明】
【0180】
6、7 触媒層
8、9 ガス拡散層
10 電解質膜
16 カソード側触媒電極
17 アノード側触媒電極
20 触媒層−電解質膜積層体
21 燃料流路
22 酸化剤ガス流路
23 外部回路
28、29 セパレータ
30 膜電極接合体
40 燃料電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イミダゾール基を有する固体高分子化合物を含む電解質膜であって、
前記第1の層は、固体酸とバインダーを含み、
前記第2の層は、イミダゾール基を有する固体高分子化合物と液状電解質を含み、
前記第1の層は前記第2の層の両方の主面上に配置されていることを特徴とする電解質膜。
【請求項2】
前記イミダゾール基を有する固体高分子化合物が、ポリベンズイミダゾール、ポリイミダゾール及びポリビニルイミダゾールからなる群から選ばれる一種以上の高分子化合物である請求項1に記載の電解質膜。
【請求項3】
前記液状電解質が、液体リン酸、硫酸及びイオン液体からなる群から選ばれる一種以上である請求項1又は2に記載の電解質膜。
【請求項4】
前記固体酸が、下記一般式(1)で表される金属リン酸塩である請求項1〜3のいずれか1項に記載の電解質膜。
1-xx27 (1)
但し、上記一般式(1)中、xは0≦x<0.5であり、MはZr、Cs、Sn、Ti、Si、Ge、Pb、Hf、Ca、Mg、W、Na及びAlからなる群から選ばれる一種であり、NはAl、In、B、Ga、Sc、Yb、Ce、La、Sb、Y、Nb及びMgからなる群から選ばれる一種である。
【請求項5】
前記バインダーが、フッ素系ポリマー、炭化水素系ポリマー、フッ素系イオノマー及び炭化水素系イオノマーからなる群から選ばれる一種以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載の電解質膜。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の電解質膜と、一対の触媒層とを備え、
前記電解質膜の両方の主面上に前記触媒層がそれぞれ配置されていることを特徴とする触媒層−電解質膜積層体。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の電解質膜と、一対の触媒層と、一対のガス拡散層とを備え、
前記電解質膜の両方の主面上に前記触媒層と前記ガス拡散層とがこの順番でそれぞれ積層されていることを特徴とする膜電極接合体。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の電解質膜と、一対の触媒層と、一対のガス拡散層と、一対のセパレータとを備え、
前記電解質膜の両方の主面上に前記触媒層と前記ガス拡散層と前記セパレータとがこの順番でそれぞれ積層されていることを特徴とする燃料電池。
【請求項9】
イミダゾール基を有する固体高分子化合物を含む電解質膜の製造方法であって、
イミダゾール基を有する固体高分子化合物を含む第2の層形成用樹脂組成物を用いて樹脂膜を形成した後、得られた樹脂膜に液状電解質を含浸させて第2の層を形成する工程と、
固体酸とバインダーを含む第1の層形成用電解質組成物を用いて得られた第2の層の両方の主面上に第1の層をそれぞれ形成する工程を含むことを特徴とする電解質膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−204274(P2012−204274A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70001(P2011−70001)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】