説明

電鋳金属材、ノズル、液体吐出ヘッド、噴霧器、ステント、篩

【課題】液体に触れ、かつ振動状態で使用される電鋳金属材において、引張強さ等の機械的特性を確保しつつ、耐食性を向上させる。
【解決手段】結晶粒径を500nm以下とすることで、引張強さを大きくし、繰返し荷重に対する疲労強度を大きくし、また液体に触れた状態で振動させた場合でも、金属の溶出が抑制されるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体に触れ、かつ振動状態で使用される電鋳金属材、ノズル、液体吐出ヘッド、噴霧器、ステント、篩に関する。
【背景技術】
【0002】
プレート本体の前面から後面へ延びる複数のテーパのついた孔を有する振動自在孔板(ノズル板)において、プレート本体がニッケルとパラジウムの合金から構成されることが開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−289903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、液中に静的に浸漬した際には金属が該液中に溶出しない電鋳金属材であっても、液体に触れた状態で振動させると金属が溶出することがある。上記した従来例でいえば、例えばニッケル及びパラジウムの溶出が生じ得る。
【0005】
本発明は、上記事実を考慮して、液体に触れ、かつ振動状態で使用される電鋳金属材において、引張強さ等の機械的特性を確保しつつ、耐食性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の電鋳金属材では、結晶粒径を500nm以下としているので、引張強さが大きく、繰返し荷重に対する疲労強度が大きくなり、また液体に触れた状態で振動させた場合であっても、金属の溶出が抑制される。このため、引張強さ等の機械的特性を確保しつつ、耐食性を向上させることができる。
【0007】
請求項2に記載のノズルでは、液体噴出のための振動に伴う繰返し荷重に対する疲労強度を確保しつつ、該液体中への電鋳金属の溶出に対する耐食性を向上させることができる。
【0008】
請求項3に記載の液体吐出ヘッドは、疲労強度や弾性といった機械的特性に優れた電鋳金属材で構成されたノズルを用いているので、液体吐出性能が高く、長寿命である。
【0009】
請求項4に記載の噴霧器は、疲労強度や弾性といった機械的特性、及び耐食性に優れた電鋳金属材で構成されたノズルを用いているので、噴霧性能が高く、長寿命であり、かつ噴霧された液体中へのノズルの金属の溶出を防止することができる。
【0010】
請求項5に記載のステントは、人体における管状部分、例えば血管中に用いた際に、血液中で脈動による繰返し荷重を受ける。このステントは、疲労強度や弾性といった機械的特性、及び耐食性に優れた電鋳金属材で構成されているので、長期に渡って使用でき、かつ血液等人体中への金属の溶出を防止することができる。
【0011】
請求項6に記載の篩では、該篩を構成する金属が、湿式で行われる微小粒子の選別・分級時に溶出することを防止できる。このため、選別・分級された微小粒子の純度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明に係る請求項1に記載の電鋳金属材によれば、引張強さ等の機械的特性を確保しつつ、耐食性を向上させることができる、という優れた効果が得られる。
【0013】
請求項2に記載の電鋳金属材によれば、液体噴出のための振動に伴う繰返し荷重に対する疲労強度を確保しつつ、該液体中への電鋳金属の溶出に対する耐食性を向上させることができる、という優れた効果が得られる。
【0014】
請求項3に記載の液体吐出ヘッドによれば、液体吐出性能が高く、長寿命である、という優れた効果が得られる。
【0015】
請求項4に記載の噴霧器によれば、噴霧性能が高く、長寿命であり、かつ噴霧された液体中へのニッケルの溶出を防止することができる、という優れた効果が得られる。
【0016】
請求項5に記載のステントによれば、長期に渡って使用でき、かつ血液等人体中への金属の溶出を防止することができる、という優れた効果が得られる。
【0017】
請求項6に記載の篩によれば、湿式で選別・分級される微小粒子の純度を向上させることができる、という優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態に係る電鋳金属材を示す顕微鏡写真である。
【図2】比較例に係る電鋳金属材を示す顕微鏡写真である。
【図3】電鋳金属材の粒径とビッカース硬さとの関係を示す線図である。
【図4】電鋳金属材の粒径と腐食速度との関係を示す線図である。
【図5】電鋳金属材の粒径と引張応力との関係を示す線図である。
【図6】電鋳金属材の粒径と疲労強度との関係を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。図1に示される顕微鏡写真において、本実施形態に係る電鋳金属材は、結晶粒径が500nm以下とされている。この範囲には、結晶粒径が0のもの、いわゆるアモルファスも含まれる。図2は、比較例に係り、結晶粒径が500nmを超えるものの顕微鏡写真である。
【0020】
電鋳金属材の具体例として、Ni−Pd、Ni−Pd−Co、Ni−Pd−Au、Ni−Au、Co−Pd、Au−Pd、Au−Co、Ni−W−Auの各電鋳合金、Niの電鋳金属が挙げられる。各電鋳合金における各金属の比率は任意である。Niの電鋳金属については、耐食性を向上させる観点から、アモルファスとすることが望ましい。
【0021】
電鋳金属材の結晶粒径を500nm以下とすることで、図3に示されるように、該電鋳金属材のビッカース硬さは、例えば500〜700となる。電鋳金属材がこのような硬さを有することで、耐磨耗性が得られる。なお、硬さ試験の試験荷重は0.98N、保持時間は15秒である。
【0022】
電鋳金属材が、振動のような機械的なストレスを受けながら液体と接触する環境では、金属表面でラジカル反応が生じ易く、結果として腐食し易い環境となり、通常の耐食環境ではない。しかしながら、本実施形態に係る電鋳金属材では、結晶粒径を500nm以下と小さく設定することにより、液体に触れた状態で振動させた場合であっても、結晶粒界での腐食が発生せず、金属の溶出が抑制される。液体が、例えばアスコルビン酸のような金属を冒す還元剤を含むものや、次亜リン酸ソーダ溶液のような酸化性溶液等、PH1〜PH9までの酸・アルカリ水溶液であっても、耐食性を維持することができる。一例として、図4に、振動状態の電鋳金属材に塩水を噴霧した場合の、結晶粒径と腐食速度との関係を示す。図4から、結晶粒径が500nm以下では、腐食速度が小さくなることがわかる。
【0023】
また、結晶粒径を上記のように設定することで、引張強さが大きく、繰返し荷重に対する疲労強度が大きくなる。一例として、株式会社島津製作所製の電磁力式微小試験機 MMT−101NM−10を使用した、結晶粒径と引張強さとの関係(図5)、及び結晶粒径と疲労強度との関係(図6)を測定した。結晶粒径が500nm以下で、引張強さ及び疲労強度が大きくなることがわかる。
【0024】
このように、本実施形態に係る電鋳金属材では、引張強さ等の機械的特性を確保しつつ、耐食性を向上させることができる。
【0025】
本実施形態に係る電鋳金属材により、ノズルを構成することができる。このノズルは、電鋳により形成され、微細な孔が形成された、例えばノズル板である。このノズルによれば、液体噴出のための振動に伴う繰返し荷重に対する疲労強度を確保しつつ、該液体中への電鋳金属の溶出に対する耐食性を向上させることができる。
【0026】
このノズルは、液体吐出ヘッド、噴霧器、燃料噴射用のインジェクタ、フィルタ等に適用することができる。液体吐出ヘッドでは、疲労強度や弾性といった機械的特性に優れた電鋳金属材で構成されたノズルを用いることで、液体吐出性能が高く、長寿命となる。
【0027】
噴霧器は、例えば薬剤を経鼻・経口吸引するための吸入器(ネブライザ)に応用することができる。疲労強度や弾性といった機械的特性、及び耐食性に優れた電鋳金属材で構成されたノズルを用いることで、噴霧性能が高く、長寿命となり、かつ噴霧された液体中へのノズルの金属の溶出を防止することができる。
【0028】
更に、本実施形態に係る電鋳金属材により、ステントを構成することができる。ステントは、人体における管状部分を広げた状態に保持するための網目の筒状体である。このステントを例えば血管に用いた場合、該ステントは、血液中において脈動による繰返し荷重を受ける。しかしながら、このステントは、疲労強度や弾性といった機械的特性、及び耐食性に優れた電鋳金属材で構成されているので、長期に渡って使用でき、かつ血液等人体中への金属の溶出を防止することができる。
【0029】
また本実施形態に係る電鋳金属材により、篩を構成することができる。この篩は、例えば電池の材料として用いられる炭素の粉末中から、金属等の不純物を取り除く場合や、トナーの分級等に広く用いられている。この篩による微小粒子の選別や分級は、酸やアルカリ等の液中で行われる場合がある(湿式)。しかしながら、本実施形態に係る篩によれば、該篩を構成する金属が、耐食性に優れた電鋳金属材で構成されているので、湿式で行われる微小粒子の選別や分級時に金属が溶出することを防止できる。このため、選別・分級された微小粒子の純度を向上させることができる。
【0030】
本実施形態に係る電鋳金属材は、この他、液体に触れ、かつ振動状態で使用される種々の用途に適用することができる。振動下において、腐食が生じない電鋳金属材は、また硬度が高いので、例えば研磨剤の紛粒を篩う場合でも耐磨耗性を発揮し、安定して幅広い工業生産に利用できる材料として、極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶粒径が500nm以下の電鋳金属材。
【請求項2】
請求項1に記載の電鋳金属材で構成されたノズル。
【請求項3】
請求項2に記載のノズルを用いた液体吐出ヘッド。
【請求項4】
請求項2に記載のノズルを用いた噴霧器。
【請求項5】
請求項1に記載の電鋳金属材で構成されたステント。
【請求項6】
請求項1に記載の電鋳金属材で構成された篩。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−246526(P2012−246526A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118092(P2011−118092)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(396026710)株式会社オプトニクス精密 (34)
【Fターム(参考)】