説明

青果物の鮮度維持方法

【課題】容易に青果物の鮮度を維持することができ、かつ商品価値を好適に維持することができる新規な青果物の鮮度維持方法を提供する。
【解決手段】収穫適期の果実の果梗を鋏等により切断後、収穫した青果物の果梗の切り口に塩酸又は塩酸を含む水溶液を塗布することを特徴とする。収穫後の果梗の切り口からの水分蒸発を抑制し、収穫時の鮮度を損なうことなく、長期間保存することが可能である。さらに、青果物が廃棄されるような状況を少なくすることができる。また、巨峰やマスカット等の贈答品として用いられる高価格な青果物に対して、果粒を傷付けたり、果粒を房から分離させることなく、商品価値を好適に維持することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、青果物の鮮度維持方法に関する。特に、葡萄,梨,りんご,すいか等の果梗を有する青果物の鮮度維持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生鮮食品である青果物などを市場で提供する際に、新鮮さや見栄えは、商品価値としてきわめて重要な要素である。また、生鮮食品でも、収穫から消費されるまでには数日程度かかる場合があり、このような場合には商品の鮮度が低下し、カビ等が生じると商品を廃棄しなければならないといった問題が生じていた。そのため、青果物を収穫後、その青果物の鮮度を保ったまま長期間保存できるように、例えば、収穫後の青果物を防虫防黴剤を含有したフィルム,不織布,紙,パルプなどに包装したり、或いは、薬品を用いた洗浄処理方法などが知られている。薬品を用いた洗浄処理方法としては、例えば、特許文献1に、所定形状に加工した食材を次亜塩素酸と塩酸との混合水溶液に5分間浸漬した後、水洗し、さらに、この食材を95℃の酢酸水溶液に10分間浸漬した後、水洗する、食材保存処理方法が開示されている。この方法によれば、食材を薬品などを用いて洗浄することによって、食材の表面に付着している細菌類を殺菌し、細菌類の繁殖を抑制することができるものである。
【特許文献1】特開2001−211867号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述のような包装フィルムを用いる場合には、使用されるフィルムがシート状を呈し、包装する食材の大きさに応じて適宜長さに切断して用いるものであるため、切断作業が煩雑であるといった問題があった。また、薬品を用いた処理方法の場合には、薬品を含む水溶液で食材を洗浄した後に、さらに水洗する必要があり、作業性が悪く、水も無駄に消費するといった問題があった。さらに、巨峰やマスカット等の贈答品として用いられる高価格な青果物に対して、食材を何度も洗浄することによって、果粒を傷付けてしまったり、果粒が果梗から脱落してしまうといった問題があった。
【0004】
そこで、本発明は上記問題点を解決しようとするものであり、容易に青果物の鮮度を維持することができ、かつ商品価値を好適に維持することができる新規な青果物の鮮度維持方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を鑑みて鋭意検討した結果、収穫した青果物の果梗の切り口に塩酸を塗布することによって、青果物の鮮度を保ったまま長期間保存できることを見出し、本発明に想到した。
【0006】
本発明の請求項1記載の青果物の鮮度維持方法は、収穫した青果物の果梗の切り口に塩酸を塗布することを特徴とする。
【0007】
また、本発明の請求項2記載の青果物の鮮度維持方法は、収穫した青果物の果梗の切り口に塩酸を含む水溶液を塗布することを特徴とする。
【0008】
さらに、本発明の請求項3記載の青果物の鮮度維持方法は、請求項1または2において、前記塗布に、綿棒又は刷毛を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の請求項1記載の青果物の鮮度維持方法によれば、収穫後の果梗の切り口からの水分蒸発を抑制し、収穫時の鮮度を損なうことなく、容易に長期間保存することが可能である。また、巨峰やマスカット等の贈答品として用いられる高価格な青果物に対して、果粒を傷付けたり、果粒を房から分離させることなく、商品価値を好適に維持することが可能である。さらに、青果物が廃棄されるような状況を少なくすることができる。
【0010】
本発明の請求項2記載の青果物の鮮度維持方法によれば、収穫後の果梗の切り口からの水分蒸発を抑制し、収穫時の鮮度を損なうことなく、容易に長期間保存することが可能である。また、巨峰やマスカット等の贈答品として用いられる高価格な青果物に対して、果粒を傷付けたり、果粒を房から分離させることなく、商品価値を好適に維持することが可能である。さらに、青果物が廃棄されるような状況を少なくすることができる。
【0011】
本発明の請求項3記載の青果物の鮮度維持方法によれば、刷毛や綿棒を用いることによって、低濃度の塩酸を用いない場合であっても直接塩酸に触れる虞がないため、作業員の手指に火傷等の損傷を負わせる危険性がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
【0013】
本発明の青果物の鮮度維持方法は、収穫適期の果実の果梗を鋏等により切断後、収穫した青果物の果梗の切り口に塩酸を塗布することを特徴とするものである。また、本発明の青果物の鮮度維持方法は、収穫した青果物の果梗の切り口に塩酸を含む水溶液を塗布することを特徴とするものである。
【0014】
本発明で用いる塩酸としては、食品添加物用の塩酸の他に、工業用の塩酸を用いてもよい。
【0015】
本発明で用いる塩酸を含む水溶液としては、水に塩酸を添加して調製することによって得られる塩酸水溶液,又は塩酸を電解することによって得られる次亜塩素酸を主成分とする水溶液などが挙げられる。なお、ここで水とは、水道水,蒸留水,精製水,電解水,脱塩水,イオン交換水又はこれらの混合水等が挙げられ、特に限定されるものではない。
【0016】
本発明の青果物の鮮度維持方法は、果梗を有する青果物に適用可能であり、例えば、葡萄,梨,柿,りんご,すいかなどの果実類、枝豆などの野菜類に好ましく適用される。
【0017】
塩酸又は塩酸を含む水溶液を塗布する方法としては、綿棒又は刷毛、或いはスポンジなどを用いて塗布してもよい。刷毛や綿棒を用いることによって、低濃度の塩酸を用いない場合であっても直接塩酸に触れる虞がないため、作業員の手指に火傷等の損傷を負わせる危険性が少ない。また、果梗の切り口のみに確実に塗布可能であるため、食する部位に悪影響を与えることがない。
【0018】
本発明の方法によれば、果梗の切り口に塩酸又は塩酸を含有する水溶液を塗布することにより、収穫後の果梗の切り口からの水分蒸発を抑制し、外気から遮断して酸化を防ぐ効果がある。従って、収穫時の鮮度を損なうことなく、容易に長期間保存することが可能であり、青果物の腐敗やカビの発生、変色などの品質劣化を防止可能である。さらに、青果物が廃棄されるような状況を少なくすることができる。また、巨峰やマスカット等の贈答品として用いられる高価格な青果物に対して、果粒を傷付けたり、果粒を房から分離させることなく、商品価値を好適に維持することが可能である。さらに、収穫した青果物の果梗の切り口に塩酸又は塩酸を含む水溶液を塗布するだけでよく、容易に鮮度を維持することができる。
【0019】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において、種々の変形実施が可能である。例えば、収穫した青果物を、制菌作用を有する活性化された水(例えば、磁気活性水など)に浸漬した後、青果物の果梗の切り口に塩酸又は塩酸を含む水溶液を塗布してもよい。
【実施例1】
【0020】
青果物として葡萄(新潟産、オリンピア)を使用した。まず、収穫適期の葡萄の果梗を摘果ハサミにより切断し、本発明に基づく実施例として収穫後の果梗の切り口に綿棒を用いて塩酸(和光1級)を塗布した葡萄と、比較例として塩酸を塗布していない葡萄とをそれぞれ20房ずつ用いて鮮度維持試験を行った。約27〜30℃、湿度70〜80%で貯蔵・保存し、3週間後に果実の外観を観察した。その結果を表1に示す。なお、果実の外観の結果を可(収穫後の状態とほぼ同等のもの)、やや不良(果粒が房から複数粒脱落したもの)、不良(果実が腐敗したもの)として判定した。
【0021】
【表1】

【0022】
表1より、本発明の方法によれば葡萄の鮮度を有効に維持することができることが判明した。
【0023】
このように本実施例では、収穫した青果物の果梗の切り口に塩酸を塗布するため、収穫後の果梗の切り口からの水分蒸発を抑制し、収穫時の鮮度を損なうことなく、容易に長期間保存することが可能である。また、贈答品として用いられる高価格な葡萄に対して、果粒を傷付けたり、果粒を房から分離させることなく、商品価値を好適に維持することが可能である。さらに、青果物が廃棄されるような状況を少なくすることができる。
【0024】
また、本実施例では、塗布に、綿棒を用いることによって、低濃度の塩酸を用いない場合であっても直接塩酸に触れる虞がないため、作業員の手指に火傷等の損傷を負わせる危険性がない。
【実施例2】
【0025】
青果物として葡萄(新潟産、巨峰)を使用した。まず、収穫適期の葡萄の果梗を摘果ハサミにより切断し、収穫後の葡萄を磁気活水(磁気の働きにより水分子の集団(クラスター)を小さくした水)に5分間浸漬した。その後、収穫後の果梗の切り口に刷毛を用いて塩酸と水道水とを9対1で混合した塩酸を含む水溶液を塗布した葡萄を実施例として用いた。また、収穫後何れの処理も施していない葡萄を比較例として用いた。実施例および比較例の葡萄をそれぞれ20房ずつ用いて鮮度維持試験を行った。約27〜30℃、湿度70〜80%で貯蔵・保存し、3週間後に、果実の外観を観察した。その結果を表2に示す。なお、果実の外観の結果を可(収穫後の状態とほぼ同等のもの)、やや不良(果粒が房から複数粒脱落したもの)、不良(果実が腐敗したもの)として判定した。
【0026】
【表2】

【0027】
表2より、本発明の方法によれば葡萄の鮮度を有効に維持することができることが判明した。
【0028】
このように本実施例では、収穫した青果物の果梗の切り口に塩酸を塗布するため、収穫後の果梗の切り口からの水分蒸発を抑制し、収穫時の鮮度を損なうことなく、容易に長期間保存することが可能である。また、青果物を磁気活水に浸漬することにより、青果物の表面の雑菌等を除去することができる。また、贈答品として用いられる高価格な葡萄に対して、果粒を傷付けたり、果粒を房から分離させることなく、商品価値を好適に維持することが可能である。さらに、青果物が廃棄されるような状況を少なくすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
収穫した青果物の果梗の切り口に塩酸を塗布することを特徴とする青果物の鮮度維持方法。
【請求項2】
収穫した青果物の果梗の切り口に塩酸を含む水溶液を塗布することを特徴とする青果物の鮮度維持方法。
【請求項3】
前記塗布に、綿棒又は刷毛を用いることを特徴とする請求項1または2記載の青果物の鮮度維持方法。


【公開番号】特開2006−67909(P2006−67909A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−255668(P2004−255668)
【出願日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(504334821)
【Fターム(参考)】