説明

青色発光蛍光体

【課題】発光強度が高く、熱に対する安定性が高い青色発光蛍光体を提供する。
【解決手段】基本組成式がSr3-xMgSi28:Eux(但し、xは0.008〜0.110の範囲の数値)で示され、メルウィナイトと同じ結晶構造を有し、CuKα線を用いて測定された2θが20〜130度の範囲にあるX線回折パターンからLe Bail法により求められる結晶格子歪みが0.055%以下である青色発光蛍光体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基本組成式がSr3-xMgSi28:Euxで表される青色発光蛍光体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
メルウィナイト(Ca3MgSi28)の結晶構造を有するSr3MgSi28を母体としてEu2+を付活させた、組成式がSr3-xMgSi28:Euxで表される青色発光蛍光体(以下、SMS青色発光蛍光体とも言う)が知られている。このSMS青色発光蛍光体は、紫外線や真空紫外線によって励起されて青色の発光を示すことから、水銀放電灯やプラズマディスプレイパネルなどの各種蛍光発光装置の青色発光源として利用することが検討されている。
【0003】
特許文献1には、組成式が、3(Sr1-p・Eup)O・1MgO・2SiO2(0.003≦p≦0.05)で表されるSMS青色発光蛍光体が記載されている。この特許文献1には、SMS青色発光蛍光体の製造方法として、SrCO3とSrF2とEu23とMgCO3とSiO2とを含む原料粉末混合物を、窒素と水素との混合気体の雰囲気下にて焼成する方法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、組成式が、xSrO・yEuO・MgO・zSiO2(2.970≦x≦3.500、0.006≦y≦0.030、1.900≦z≦2.100)で表されるSMS青色発光蛍光体が記載されている。この特許文献2には更に、SMS青色発光蛍光体は波長0.773ÅのX線で測定したX線回折パターンの2θで22.86度付近の回折ピークの1/5価幅が0.17度以下であると、正常位置からのSr原子のずれが小さく、発光装置の青色発光源として用いた際の経時的な耐劣化性が高くなるとの記載がある。また、この特許文献2には、SMS青色発光蛍光体の製造方法として、原料粉末混合物を、酸素分圧を特定の範囲に調整した弱還元性気体の雰囲気下にて焼成する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭48−37715号公報
【特許文献2】国際公開07/091603号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水銀放電灯やプラズマディスプレイパネルなどの蛍光発光装置では、蛍光体は基体の上に蛍光体層として形成される。基体上の蛍光体層は、蛍光体の分散液を基体に塗布し、次いでその塗布膜を乾燥、焼成することにより形成するのが一般的である。従って、蛍光体は塗布膜の乾燥、焼成により発光強度が低下しないように、熱に対する安定性が高いことが要求される。しかしながら、これまでSMS青色発光蛍光体の熱的な安定性については検討されていない。
従って、本発明の目的は、発光強度が高く、熱に対する安定性が高いSMS青色発光蛍光体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、Sr3-xMgSi28:Euxで表される基本組成式のxが0.008〜0.110の範囲にあり、かつCuKα線を用いて測定された2θが20〜130度の範囲にあるX線回折パターンからLe Bail法により求められる結晶格子歪みが0.055%以下にあるSMS青色発光蛍光体は高い発光強度と熱に対する高い安定性とを示すことを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
従って、本発明は、基本組成式がSr3-xMgSi28:Eux(但し、xは0.008〜0.110の範囲の数値)で示され、メルウィナイトと同じ結晶構造を有し、CuKα線を用いて測定された2θが20〜130度の範囲にあるX線回折パターンからLe Bail法により求められる結晶格子歪みが0.055%以下である青色発光蛍光体にある。
【0009】
本発明の好ましい態様は、次の通りである。
(1)結晶格子歪みが0.045%以下である。
(2)基本組成式のxが0.033〜0.095の範囲の数値にある。
【発明の効果】
【0010】
本発明のSMS青色発光蛍光体は、高い発光強度と熱に対する高い安定性とを示すことから、水銀放電灯やプラズマディスプレイパネルなどの各種蛍光発光装置の青色発光源として有利に利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のSMS青色発光蛍光体は、基本組成式がSr3-xMgSi28:Eux(但し、xは0.008〜0.110の範囲の数値)で示される。xは、0.033〜0.095の範囲の数値であることが好ましく、0.043〜0.070の範囲の数値であることが特に好ましい。
【0012】
本発明のSMS青色発光蛍光体は、CuKα線を用いて測定された2θが20〜130度の範囲にあるX線回折パターンからLe Bail法により求められる結晶格子歪みが0.055%以下にある。結晶格子歪みは、0.045%以下であることが好ましく、0.040%以下であることが特に好ましい。結晶格子歪みの下限は、一般に0.025%である。
【0013】
本発明において結晶格子歪みは、CuKα線を用いて測定された2θが20〜130度の範囲にあるX線回折パターン中のメルウィナイト結晶構造を有するSMS青色発光蛍光体に起因する回折ピークから求めた値である。すなわち、本発明において規定する結晶格子歪は、理想的なSMS青色発光蛍光体結晶の網面間隔からのずれの大きさを意味する。
【0014】
本発明では結晶格子歪みをLe Bail法により求める。本発明においてLe Bail法とは、X線回折パターン中の回折ピークのθと強度と半値幅(FWHM)とから、Le Bailフィッティング法により、Cagliottiの式のパラメータU、V、Wを得て、得られたパラメータのUとWとから、Pseudo−Voigt関数により、結晶格子歪み(%)を算出する方法である。
【0015】
SMS青色発光蛍光体の結晶格子歪みを求める際には、X線回折装置に由来する半値幅の拡がりを、格子歪みを持たないX線回折用標準試料を用いて校正する。SMS青色発光蛍光体の結晶格子歪みは、例えば、以下のようにして求めることができる。
【0016】
まず、SMS青色発光蛍光体とX線回折用標準試料とについて、CuKα線を用いて2θが20〜130度の範囲にあるX線回折パターンを測定する。X線回折パターンは、粉末X線回折法を用いて測定する。
【0017】
次に、SMS青色発光蛍光体とX線回折用標準試料のX線回折パターン中の回折ピークのθと強度と半値幅(FWHM)とから、Le Bailフィッティング法により、下記の式(I)で定義されるCagliottiの式のパラメータU、V、Wを得る。
【0018】
FWHM=(Utan2θ+Vtanθ+W)1/2 (I)
【0019】
但し、FWHMは回折ピークの半値幅、θは回折ピークのブラッグ角、Uは結晶格子歪みに関するパラメータ、VとWは結晶子に関するパラメータである。
【0020】
そして、得られたSMS青色発光蛍光体とX線回折用標準試料のパラメータのUとWとから、下記の式(II)で定義されるPseudo−Voigt関数により、結晶格子歪み(%)を算出する。
【0021】
[(Ui−Ustd)−(Wi−Wstd)]1/2
結晶格子歪み(%)=────────────────────────── (II)
1/100×(180/π)×4×(2Ln2)1/2
【0022】
但し、UiとWiは、SMS青色発光蛍光体のパラメータUとW、UstdとWstdは、X線回折用標準試料のパラメータUとWである。
【0023】
本発明のSMS青色発光蛍光体は、例えば、ストロンチウム源粉末、マグネシウム源粉末、ケイ素源粉末及びユウロピウム源粉末の各原料粉末を、SMS青色発光蛍光体を生成する比率で混合して得られた粉末混合物を塩素化合物の存在下で焼成することによって製造することができる。
【0024】
ストロンチウム源粉末、マグネシウム源粉末、ケイ素源粉末及びユウロピウム源粉末の各原料粉末はそれぞれ、酸化物粉末であってもよいし、水酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩(塩基性炭酸塩を含む)、硝酸塩、シュウ酸塩などの加熱により酸化物を生成する化合物の粉末であってもよい。原料粉末はそれぞれ一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0025】
原料粉末は、純度が99質量%以上であることが好ましい。特に、マグネシウム源粉末は、純度が99.95質量%以上であることが好ましい。
【0026】
ストロンチウム源粉末、マグネシウム源粉末、ケイ素源粉末及びユウロピウム源粉末の配合比率は、粉末混合物中のストロンチウムとユウロピウムとの合計量を3モルとして、一般にマグネシウムが0.9〜1.1モルの範囲、ケイ素が1.9〜2.1モルの範囲となる割合である。
【0027】
塩素化合物は、粉末の状態で粉末混合物に添加されていることが好ましい。塩素化合物粉末は、ストロンチウム、マグネシウム、ケイ素及び/又はユウロピウムの塩化物の粉末であることが好ましく、塩化ストロンチウム粉末であることが特に好ましい。塩素化合物粉末の添加量は、粉末混合物中のストロンチウムとユウロピウムとの合計量を3モルとして、塩素量が0.02〜0.5モルの範囲となる量であることが好ましい。
【0028】
原料粉末の混合方法には、乾式混合法及び湿式混合法のいずれかの方法を採用することができる。湿式混合法で原料粉末を混合する場合は、回転ボールミル、振動ボールミル、遊星ミル、ペイントシェーカー、ロッキングミル、ロッキングミキサー、ビーズミル、撹拌機などを用いることができる。溶媒には、水や、エタノール、イソプロピルアルコールなどの低級アルコールを用いることができる。
【0029】
粉末混合物の焼成は、0.5〜5.0体積%の水素と99.5〜95.0体積%の不活性気体とからなる還元性気体の雰囲気下にて行なう。不活性気体の例としては、アルゴン及び窒素を挙げることができる。焼成温度は、一般に900〜1300℃の範囲である。焼成時間は、一般に0.5〜100時間の範囲である。
【0030】
原料粉末に加熱により酸化物を生成する化合物の粉末を用いる場合には、還元性気体雰囲気下で焼成する前に、粉末混合物を大気雰囲気下にて、600〜850℃の温度で0.5〜100時間仮焼することが好ましい。
【0031】
焼成により得られたSMS青色発光蛍光体は、必要に応じて分級処理、塩酸や硝酸などの鉱酸による酸洗浄処理、ベーキング処理を行なってもよい。
【実施例】
【0032】
[実施例1〜16、比較例1〜3]
SrCO3粉末(純度99.99質量%、平均粒子径2.73μm)、SrCl2粉末(純度99.99質量%)、SrF2粉末(純度99.5質量%)、塩基性MgCO3粉末(4MgCO3・Mg(OH)2・4H2O粉末、純度99.99質量%、平均粒子径11.08μm)、SiO2粉末(純度99.9質量%、平均粒子径3.87μm)、Eu23粉末(純度99.9質量%、平均粒子径2.71μm)をそれぞれ、下記表1に記載のモル量にて秤量した。なお、各原料粉末の平均粒子径は、いずれもレーザー回折散乱法により測定した値である。
【0033】
秤量した各原料粉末を、純水750mLと共にボールミルに投入し、24時間湿式混合した後、加熱により水分を除去して、粉末混合物を得た。得られた粉末混合物をアルミナ坩堝に入れて、大気雰囲気にて、800℃の温度で3時間焼成し、次いで、室温まで放冷した後、2体積%水素−98体積%アルゴンの混合ガス雰囲気にて、1200℃の温度で3時間焼成して、粉末焼成物を得た。得られた粉末焼成物を、目開き20μmのポリアミド製篩にて湿式篩分けし、粗大粒子を除去した後、乾燥した。
【0034】
表1
────────────────────────────────────────
SrCO3 SrCl2 SrF2 塩基性MgCO3 SiO2 Eu23
(モル) (モル) (モル) (モル) (モル) (モル)
────────────────────────────────────────
実施例1 2.9150 0.0750 0 0.2000 2.0000 0.0050
実施例2 2.9100 同上 同上 同上 同上 0.0075
実施例3 2.9000 同上 同上 同上 同上 0.0125
実施例4 2.8900 同上 同上 同上 同上 0.0175
実施例5 2.8550 同上 同上 同上 同上 0.2000
実施例6 2.8800 同上 同上 同上 同上 0.0225
実施例7 2.8750 同上 同上 同上 同上 0.0250
実施例8 2.8720 同上 同上 同上 同上 0.0265
実施例9 2.8650 同上 同上 同上 同上 0.0300
実施例10 2.8580 同上 同上 同上 同上 0.0355
実施例11 2.8500 同上 同上 同上 同上 0.0375
実施例12 2.8470 同上 同上 同上 同上 0.0390
実施例13 2.8450 同上 同上 同上 同上 0.0400
実施例14 2.8370 同上 同上 同上 同上 0.0440
実施例15 2.8350 同上 同上 同上 同上 0.0450
実施例16 2.8250 同上 同上 同上 同上 0.0500
────────────────────────────────────────
比較例1 2.9200 同上 同上 同上 同上 0.0025
比較例2 2.8050 同上 同上 同上 同上 0.0600
比較例3 2.9250 0 0.0150 同上 同上 0.0300
────────────────────────────────────────
【0035】
実施例1〜16及び比較例1〜3で得られた粉末焼成物について、X線回折パターンと波長254nmの紫外線励起による発光スペクトルとを測定した。その結果、実施例1〜16及び比較例1〜3で得られた粉末焼成物はいずれもメルウィナイト結晶構造を有し、紫外線励起により青色の発光を示すSMS青色発光蛍光体であることが確認された。
【0036】
実施例1〜16及び比較例1〜3で得られたSMS青色発光蛍光体について、下記の方法により、結晶格子歪み、初期発光強度、加熱処理後の発光強度維持率を測定した。これらの結果を、SMS青色発光蛍光体の組成と共に下記の表2に示す。
【0037】
[結晶格子歪みの測定]
SMS青色発光蛍光体とX線回折用標準試料[NIST(National Institute of Standards and Technology)のLaB6粉末]のX線回折パターンを測定する。測定条件は、X線回折装置:X’PertProMPD、スペクトリス(株)製、X線:CuKα、検出器:X’Clelerator(モノクロメータ付)、管電圧:45kV、管電流:40mA、測定範囲:2θ=20〜130度、ステップサイズ:0.0167度、発散スリット:1/2度固定スリット、走査速度:25.06度/分とする。
SMS青色発光蛍光体と標準試料のX線折パターンから、X線回折装置に付属のソフトウェア[X’Pert Highscore Plus(Ver2.2)]を用いて、Le Bail法により結晶格子歪みを算出する。
【0038】
[初期発光強度の測定]
SMS青色発光蛍光体に波長254nmの紫外線を照射して、発光スペクトルを測定する。得られた発光スペクトルの最大ピーク値を求め、これを初期発光強度とする。なお、表2中の値は、比較例3で得られたSMS青色発光蛍光体の初期発光強度を100とした相対値である。
【0039】
[加熱処理後の発光強度維持率の測定]
SMS青色発光蛍光体を500℃の温度で1時間加熱した後、室温まで放冷する。放冷後のSMS青色発光蛍光体に波長254nmの紫外線を照射して、発光スペクトルを測定する。得られた発光スペクトルの最大ピーク値を求め、上記の初期発光強度に対する百分率を算出し、これを発光強度維持率とする。
【0040】
表2
────────────────────────────────────────
組成 結晶格子 初期発光 加熱処理後の 歪み(%) 強度 発光強度維持 率(%)
────────────────────────────────────────
実施例1 Sr2.990MgSi28:Eu0.010 0.052 112 93.5
実施例2 Sr2.985MgSi28:Eu0.015 0.052 115 93.0
実施例3 Sr2.975MgSi28:Eu0.025 0.052 121 93.9
実施例4 Sr2.965MgSi28:Eu0.035 0.041 157 94.0
実施例5 Sr2.960MgSi28:Eu0.040 0.041 170 95.3
実施例6 Sr2.955MgSi28:Eu0.045 0.035 171 95.1
実施例7 Sr2.950MgSi28:Eu0.050 0.036 179 98.2
実施例8 Sr2.947MgSi28:Eu0.053 0.031 183 96.5
実施例9 Sr2.940MgSi28:Eu0.060 0.036 187 96.0
実施例10 Sr2.933MgSi28:Eu0.067 0.037 174 96.0
実施例11 Sr2.925MgSi28:Eu0.075 0.042 167 95.4
実施例12 Sr2.922MgSi28:Eu0.078 0.039 164 95.5
実施例13 Sr2.920MgSi28:Eu0.080 0.044 157 95.0
実施例14 Sr2.912MgSi28:Eu0.088 0.045 155 94.0
実施例15 Sr2.910MgSi28:Eu0.090 0.044 154 93.0
実施例16 Sr2.900MgSi28:Eu0.100 0.049 136 88.0
────────────────────────────────────────
比較例1 Sr2.985MgSi28:Eu0.005 0.060 70 89.0
比較例2 Sr2.880MgSi28:Eu0.120 0.057 114 78.0
比較例3 Sr2.940MgSi28:Eu0.060 0.066 100 80.0
────────────────────────────────────────
注)組成は、原料粉末の配合量により算出した値である。
【0041】
表2の結果から明らかなように、Sr3-xMgSi28:Euxで表される基本組成式のxが0.008〜0.110の範囲にあり、かつ結晶格子歪みが0.055%以下にある、本発明のSMS青色発光蛍光体はいずれも、結晶格子歪みが0.055%よりも大きいSMS青色発光蛍光体と比較して、初期発光強度が高く、加熱処理後の発光強度維持率が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本組成式がSr3-xMgSi28:Eux(但し、xは0.008〜0.110の範囲の数値)で示され、メルウィナイトと同じ結晶構造を有し、CuKα線を用いて測定された2θが20〜130度の範囲にあるX線回折パターンからLe Bail法により求められる結晶格子歪みが0.055%以下である青色発光蛍光体。
【請求項2】
結晶格子歪みが0.045%以下である請求項1に記載の青色発光蛍光体。
【請求項3】
基本組成式のxが0.033〜0.095の範囲の数値にある請求項1もしくは2に記載の青色発光蛍光体。