説明

青色系蛍光体用酸化亜鉛系固溶体及びその製造方法並びに青色系蛍光体及びその製造方法

【課題】 酸化亜鉛にマグネシウムが多量に固溶した青色系蛍光体用酸化亜鉛系固溶体及びその製造方法、並びに紫外線、電界及び電子線に対して安定であり、優れた青色発光特性を有する青色系蛍光体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 本酸化亜鉛系固溶体は、ZnとMgとOとを含み、一般式Zn1−xMgOで表した場合に、xが0.05≦x≦0.25を満たす。本青色系蛍光体は、上記酸化亜鉛系固溶体が酸素欠陥しており、450〜490nmの波長領域に発光ピークを有する。本酸化亜鉛系固溶体の製造方法は、Zn及びMgを溶解状態で含み且つこれらのモル比(Zn/Mg)が、0.95/0.05〜0.75/0.25である混合水溶液と、有機酸成分(例えば、シュウ酸アンモニウム等)と、を混合することにより有機酸複塩を共沈させる共沈工程と、得られた有機酸複塩を450〜1000℃で熱分解する熱分解工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、青色系蛍光体用酸化亜鉛系固溶体及びその製造方法並びに青色系蛍光体及びその製造方法に関する。更に詳しくは、酸化亜鉛にマグネシウムが多量に固溶した青色系蛍光体用酸化亜鉛系固溶体及びその製造方法、並びに紫外線、電界及び電子線に対して安定であり、優れた青色発光特性を有する青色系蛍光体及びその製造方法に関する。
本発明は、蛍光表示管や電界放射型ディスプレイなどの蛍光体を用いた表示装置分野等において幅広く利用できる。
【背景技術】
【0002】
従来、青色系の蛍光体としては、ZnS:Agなどの硫化物が使われていた。しかし、硫化物には毒性があり、更には真空中では高温で熱分解してしまうので、蛍光体としての安定性に欠ける難点があった。
そのため、色の3原色(赤、緑、青)の内、赤色系や緑色系の発光を示す酸化物系蛍光体がこれまでに多数見い出されてきたが、波長の短い青色系の発光を示す酸化物系蛍光体としては、スピネル型酸化物であるZnGaのみしか知られていない。
しかしながら、上記ZnGaにおいては、Gaが原料として極めて高価であり、発光輝度も低いという難点があるため、安価で、且つ発光効率が高く、更には環境に優しい酸化物系の青色系蛍光体の開発が望まれている。また、このような蛍光体としては更に、微細な粒子であり、粒径が揃っており、組成の均一性が高く、不純物の混入や機械的な歪みがないことが強く要望されている。
【0003】
また、上記緑色の蛍光体としては、従来より、酸化物系蛍光体の1種である自己付活型ZnO蛍光体(ZnO:Zn)が、真空中或いは水素還元雰囲気での熱処理によって、ZnO結晶中に生成する酸素欠陥が発光中心となり、緑色系の発光を示し且つ導電性も示すことから、蛍光表示管用蛍光体等として使用されている。
ZnO:Znの緑色発光は自由キャリアと束縛キャリアの再結合によると云われている。その発光機構は長い間にわたって議論され、酸素欠陥が発光中心として働くことは確かであるが、詳細にはまだ確定していない。有力な説の1つとして、「ZnO格子中の酸素欠陥は伝導帯から比較的深い位置にドナー準位を形成し、ドナー準位の束縛キャリア(非局在電子)と価電子帯に存する束縛キャリア(正孔)との再結合によって緑色発光を起こす」ことが挙げられる。
【0004】
蛍光を示す半導体などでは、粒子を極端に小さくすると、発光波長は赤、緑、青と短くなる現象が知られている。これはナノサイズ量子効果によって半導体のバンドギャップが大きくなり、伝導帯に励起された自由電子が価電子帯の正孔と再結合する際の発光エネルギーが大きくなるからである。いわゆる、エキシトン発光である。
上記ZnOはGaNやZnSと同様の結晶構造を持ち、酸化物としては共有結合性が極めて強く、ワイドバンドギャップ半導体としての特殊な例である。
ナノサイズ量子効果により半導体のバンドギャップを大きくするという点では、ZnOに対しても原理的に適用でき、ZnO:Znの青色発光への可能性は十分にあるが、数nm以下のZnOナノ粒子を作製することは一般には難しく、複雑なプロセスを要し、製造コストは非常に高くなる。また、ナノ粒子粉体は、反応活性が高くて嵩ばることから、蛍光体粉体として工業的には取り扱いづらくなることが予測される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように、青色系の発光を示すZnO:Znの報告は未だされていない。本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、青色系蛍光体用酸化亜鉛系固溶体及びその製造方法、並びに紫外線、電界及び電子線に対して安定であり、優れた青色発光特性を有する青色系蛍光体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、MgOのバンドギャップが約8.0eVと、ZnOの3.37eVに比べてかなり大きいので、ZnOへのMgの固溶がZnOのバンドギャップを大きくすることが期待され、発光中心となる酸素欠陥のドナー準位が伝導帯からのエネルギーレベルが変化しなければ、価電子帯の励起正孔とドナー準位の束縛電子との再結合による発光ピークを青色側の短波長側にシフトさせることができることに注目した。
また、ZnOへのMgの固溶限界は、通常の固相反応では約2モル%(Zn0.98Mg0.02O)と極めて低く、固溶量が少ないことが報告されている。この理由は、ZnO(六方晶のウルツ鉱型)とMgO(立方晶の塩化ナトリウム型)の結晶系が異なる点が挙げられる。更には、Mgを固溶させるためには、通常の固相反応では1200℃以上の加熱処理が必要であるが、ZnOは高温下で蒸発しやすいため、均一な組成のZnO型固溶体が得られず、そのことが少ない固溶量としている。
本発明者は、特定の原料を用い、例えば、1000℃以下といったZnOが蒸発しない低い加熱温度で処理し、ZnOへのMgの固溶量を高くできることを見出した。そして、このようにMgを多量に固溶させることにより、酸化亜鉛の示す緑色発光を青色発光へ連続的にシフトさせることができ、特に450〜490nmの波長領域において、優れた青色発光特性を有する酸化亜鉛系固溶体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は、以下に示す通りである。
1.ZnとMgとOとを含むことを特徴とする青色系蛍光体用酸化亜鉛系固溶体(以下、単に「酸化亜鉛系固溶体」ともいう。)。尚、本発明において、「青色系」とは、450〜490nmの波長領域における発光を意味する。
2.本酸化亜鉛系固溶体を、一般式Zn1−xMgOで表した場合に、xが0.05≦x≦0.25を満たす上記1記載の酸化亜鉛系固溶体。
3.本酸化亜鉛系固溶体を、一般式Zn1−xMgOで表した場合に、xが0.07≦x≦0.25を満たす上記1記載の酸化亜鉛系固溶体。
4.上記1乃至3のいずれかに記載の酸化亜鉛系固溶体が酸素欠陥していることを特徴とする青色系蛍光体。
5.450〜490nmの波長領域に発光ピークを有する上記4記載の青色系蛍光体。
6.450〜480nmの波長領域に発光ピークを有する上記4記載の青色系蛍光体。
7.Zn及びMgを溶解状態で含む混合水溶液と、有機酸成分と、を混合することにより有機酸複塩を共沈させる共沈工程と、得られた有機酸複塩を熱分解する熱分解工程と、を備えることを特徴とする酸化亜鉛系固溶体の製造方法。
8.上記混合水溶液における上記Znと上記Mgのモル比(Zn/Mg)が、0.95/0.05〜0.75/0.25である上記7記載の酸化亜鉛系固溶体の製造方法。
9.上記混合水溶液における上記Znと上記Mgのモル比(Zn/Mg)が、0.93/0.07〜0.75/0.25である上記7記載の酸化亜鉛系固溶体の製造方法。
10.上記熱分解工程における熱分解温度が、450〜1000℃である上記7乃至9のいずれかに記載の酸化亜鉛系固溶体の製造方法。
11.Zn及びMgを溶解状態で含む混合水溶液と、有機酸成分と、を混合することにより有機酸複塩を共沈させる共沈工程と、得られた有機酸複塩を熱分解する熱分解工程と、得られた熱分解物を還元雰囲気下において加熱処理する加熱処理工程と、を備えることを特徴とする青色系蛍光体の製造方法。
12.上記加熱処理工程における熱処理温度が、800〜1100℃である上記11記載の青色系蛍光体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の青色系蛍光体用酸化亜鉛系固溶体は、青色系の発光を示す青色系蛍光体として好適であり、蛍光表示管や電界放射型ディスプレイの蛍光体分野に幅広く用いることができる。
また、上記酸化亜鉛系固溶体を、一般式Zn1−xMgOで表した場合に、xが特定の範囲である場合には、十分な青色系の色の発光を示す青色系蛍光体を得ることができる。
本発明の青色系蛍光体は、上記酸化亜鉛系固溶体が酸素欠陥していることにより、青色系の波長領域において発光ピークを示し、紫外線、電界及び電子線に対して安定であり、蛍光表示管や電界放射型ディスプレイの蛍光体として好適に用いることができる。
また、特定の波長領域に発光ピークを有する場合には、十分な青色系の発光を示す。
本発明の酸化亜鉛系固溶体の製造方法によれば、有機酸複塩という1つの化合物として沈殿させ、その乾燥物を熱分解しているため、合成温度が低く、粒子組成の均一性、高純度性、狭い粒子径分布の点でも極めて優れた粉体特性を有する固溶体が得られる。また、不純物の混入が避けられない機械的粉砕プロセスを用いる必要がなく、熱分解温度に応じて粒子径をコントロールすることもできる。
また、ZnとMgのモル比(Zn/Mg)が特定の範囲である場合には、十分な青色系の発光を示す青色系蛍光体を得ることができる。
更に、熱分解工程における熱分解温度が、450〜1000℃である場合には、酸化亜鉛系固溶体の単相を容易に得ることができる。
本発明の青色系蛍光体の製造方法によれば、青色系蛍光体を容易に得ることができる。更には、安価に青色系蛍光体を得ることができる。
また、加熱処理工程における熱処理温度が、800〜1100℃である場合には、青色系の色の発光に好適な酸素欠陥を効率良く形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(1)青色系蛍光体用酸化亜鉛系固溶体
本発明の青色系蛍光体用酸化亜鉛系固溶体は、ZnとMgとOとを含むことを特徴とする。
上記酸化亜鉛系固溶体は、一般式Zn1−xMgOで表した場合に、xが0.05≦x≦0.25を満たすことが好ましく、より好ましくは0.07≦x≦0.25、更に好ましくは0.08≦x≦0.25、特に好ましくは0.09≦x≦0.23、最も好ましくは0.1≦x≦0.2である。上記xが上記の範囲である場合には、450〜490nmの波長領域に発光ピークを有し、安定した発光特性を有する蛍光体とすることができ、特にこの固溶体が酸素欠陥している場合に、この性質が顕著である。
上記酸化亜鉛系固溶体の結晶系は限定されないが、好ましくはマグネシウムが酸化亜鉛に固溶したウルツ鉱型の酸化亜鉛系固溶体とすることができる。
【0010】
(2)青色系蛍光体用酸化亜鉛系固溶体の製造方法
本発明の酸化亜鉛系固溶体の製造方法は、Zn及びMgを溶解状態で含む混合水溶液と、有機酸成分と、を混合することにより有機酸複塩を共沈させる共沈工程と、得られた有機酸複塩を熱分解する熱分解工程と、を備えることを特徴とする。
【0011】
上記「共沈工程」では、Zn及びMgを溶解状態で含む混合水溶液と、有機酸成分と、を混合することにより、Zn及びMgを含む有機酸複塩が共沈物として得られる。
上記「混合水溶液」は、上記Zn及びMgを溶解状態で含むものであり、例えば、亜鉛化合物の水溶液と、マグネシウム化合物の水溶液を混合することにより調製できる。また、亜鉛化合物及びマグネシウム化合物の混合物を水に溶解させること等により調製することもできる。
上記亜鉛化合物としては、例えば、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、炭酸亜鉛、フッ化亜鉛、硝酸亜鉛、ピロリン酸亜鉛、シュウ酸亜鉛、リン酸亜鉛及び硫酸亜鉛等が挙げられる。
上記マグネシウム化合物としては、例えば、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、酢酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、フッ化マグネシウム、シュウ酸マグネシウム及び硫酸マグネシウム等が挙げられる。
上記混合水溶液における上記Znと上記Mgのモル比(Zn/Mg)は、好ましくは0.95/0.05〜0.75/0.25、より好ましくは0.93/0.07〜0.75/0.25、更に好ましくは0.92/0.08〜0.75/0.25、特に好ましくは0.91/0.09〜0.77/0.23、最も好ましくは0.9/0.1〜0.8/0.2である。上記モル比が上記の範囲である場合には、得られる酸化亜鉛系固溶体を酸素欠陥させることにより、十分な青色系の発光を示す青色系蛍光体を得ることができるので好ましい。
【0012】
上記「有機酸成分」としては、例えば、カルボン酸類、アミノ酸類及びスルホン酸類等が用いられる。これらのなかでも、カルボン酸類が好ましい。
上記カルボン酸類としては、例えば、シュウ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、蟻酸及び酢酸などのカルボン酸、並びに、これらのアンモニウム塩などのカルボン酸塩等が挙げられる。これらのなかでも、シュウ酸、シュウ酸アンモニウム等が好ましい。
上記有機酸成分の配合量は、上記混合水溶液におけるZn及びMgの合計1モルに対して、通常1〜1.3モル、特に1〜1.2モルである。上記有機酸成分の配合量が上記の範囲である場合、有機酸複塩を効率良く得ることができる。尚、これらの有機酸成分はそのまま用いてもよいし、水溶液として用いてもよい。
また、上記共沈工程においては、有機酸複塩を安定して共沈させる等の目的で、アンモニア等のpH調整剤等を用いることができる。
【0013】
また、上記共沈工程により得られた有機酸複塩(共沈物)は、通常、濾別され、その後、乾燥される。
上記乾燥条件は特に限定されず、例えば、乾燥温度20〜150℃(特に50〜120℃)、乾燥時間1〜48時間(特に1〜24時間)の条件で乾燥される。
【0014】
上記「熱分解工程」では、上記有機酸複塩を熱分解することにより、酸化亜鉛系固溶体が得られる。
上記熱分解工程における熱分解温度は、好ましくは450〜1000℃、より好ましくは500〜1000℃、更に好ましくは550〜1000℃、特に好ましくは600〜1000℃である。上記熱分解温度が上記の範囲である場合には、酸化亜鉛系固溶体の単相を容易に得ることができるので好ましい。また、上記の範囲においては、熱分解温度が高くなるほど、得られる固溶体の結晶化度が高くなる傾向にある。
上記熱分解工程における熱分解時間は、通常0.5〜5時間、特に1〜3時間とすることができる。
また、上記熱分解工程における熱分解雰囲気は特に限定されず、例えば、大気雰囲気下等である。
【0015】
本発明の酸化亜鉛系固溶体の製造方法によれば、共沈物である有機酸複塩におけるZnとMgは、その組成比に応じて規則的に配置した構造となるため、それを熱分解して得られる固溶体は、粒子径分布が狭く、組成の均一性に優れた微細な粒子とすることができる。
【0016】
(3)青色系蛍光体
本発明の青色系蛍光体は、前記青色系蛍光体用酸化亜鉛系固溶体が酸素欠陥していることを特徴とする。
上記青色系蛍光体は、発光ピークを450〜490nmの波長領域に有することが好ましく、より好ましくは450〜480nm、更に好ましくは450〜475nm、特に好ましくは450〜470nmの波長領域に有することが好ましい。上記発光ピークを上記の範囲に有する場合には、十分な青色系の発光を示すので好ましい。尚、この発光ピークは、下記実施例において述べる測定方法により測定できる。
【0017】
上記「酸素欠陥」の形成方法は特に限定されない。また、酸素欠陥量も特に限定されず、各種の処理条件により適宜調整することができる。この酸素欠陥量が多くなるほど、発光輝度を大きくすることができる。
【0018】
また、本発明の青色系蛍光体は、酸化亜鉛系固溶体の結晶中に形成された酸素欠陥を発光中心とし、例えば、低速電子線により励起された場合に、十分な青色系の発光を示すため、電界放射型ディスプレイ、蛍光表示管、ブラウン管、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、発光ダイオード及び電界発光デバイス等に用いることができる。特に、本青色系蛍光体は、電界放射型ディスプレイ又は蛍光表示管用の蛍光体とすることができる。
【0019】
(4)青色系蛍光体の製造方法
本発明の青色系蛍光体の製造方法は、Zn及びMgを溶解状態で含む混合水溶液と、有機酸成分と、を混合することにより有機酸複塩を共沈させる共沈工程と、得られた有機酸複塩を熱分解する熱分解工程と、得られた熱分解物を還元雰囲気下において加熱処理する加熱処理工程と、を備えることを特徴とする。
尚、上記「共沈工程」及び上記「熱分解工程」においては、前記の各説明をそのまま適用することができる。
【0020】
上記「加熱処理工程」では、得られた熱分解物を還元雰囲気下において加熱処理することにより、青色系蛍光体が得られる。即ち、この加熱処理により、有機酸複塩の熱分解物(酸化亜鉛系固溶体)に酸素欠陥が形成された青色系蛍光体が得られる。
上記加熱処理工程における加熱処理温度は、好ましくは700〜1200℃、より好ましくは750〜1200℃、更に好ましくは800〜1100℃である。上記加熱処理温度が上記の範囲である場合には、酸化亜鉛系固溶体の結晶中に酸素欠陥を十分に形成することができる。
上記加熱処理工程における加熱処理時間は、通常0.5〜10時間、特に3〜10時間、更には5〜10時間とすることができる。
また、上記加熱処理工程は、還元雰囲気下において行われる。例えば、水素雰囲気下、低酸素圧下等において行われる。具体的には、水素ガス100%の水素雰囲気下、窒素ガス又はアルゴンなどの希ガス等の不活性ガスに、水素ガスを1〜99%(特に1〜50%、更には3〜10%)含有させた水素雰囲気下等において行うことができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
[1]酸化亜鉛系固溶体の作製及び結晶相の同定
(1)酸化亜鉛系固溶体の作製
一般式Zn1−xMgOにおいて、x=0.1の酸化亜鉛系固溶体となるように、塩化亜鉛(ZnCl)0.09モル及び塩化マグネシウム(MgCl)0.01モルを含む混合水溶液100mlと、シュウ酸アンモニウム[(NH(COO)]0.115モルを含む水溶液300mlと、を速やかに配合して、中和沈殿により有機酸複塩を共沈させ、更にpH=7になるように若干量のアンモニア水を加えた後、マグネットスターラーを用いて十分に撹拌し、中和反応を完全に進め、共沈物である有機酸複塩を得た。次いで、得られた共沈物を濾別し、乾燥(温度;110℃)した後、大気中にて、500℃、600℃、700℃の各温度×2時間の条件で熱分解工程を行い、平均粒径9μmの粒状の酸化亜鉛系固溶体を作製した。
【0022】
(2)結晶相の同定
上記(1)で得られた酸化亜鉛系固溶体について、粉末X線回折測定(X線回折装置;フィリップス社製、型番「X’Pert−MPD」)を行った。その結果を図1に示す。
図1によれば、ZnO型固溶体に相当するX線回折線以外の結晶相は確認されず、熱分解処理温度の異なる3種の酸化亜鉛系固溶体は、全てウルツ鉱型構造を持つZnO型固溶体であることが確認できた。
また、結晶化度は高くないが、500℃という低温度の熱分解処理においてもZnO型固溶体の単相を生成できることが分かった。更には、この熱分解温度が高いほど、結晶化度が大きくなることが分かった。
【0023】
[2]ZnOに対するMgの固溶の確認
(1)酸化亜鉛系固溶体の作製
上記[1]と同様の方法により、一般式Zn1−xMgOにおいて、x=0、0.03、0.05、0.08、0.1、0.15となるように、6種の酸化亜鉛系固溶体を作製した。尚、熱分解工程は、900℃×2時間の条件に変更して行った。
【0024】
(2)粉末X線回折測定及びその結果
上記(1)で得られた各酸化亜鉛系固溶体について、粉末X線回折測定(X線回折装置;フィリップス社製、型番「X’Pert−MPD」)を行った。その結果、全てウルツ鉱型構造を持つZnO型固溶体であることが確認できた。その後、格子定数を求め、その結果を図2(a軸)及び図3(c軸)に示した。
図2によれば、a軸においては、ZnOに対するMgの固溶量の変化による格子定数の変化は見られず、c軸においては、Mgの固溶量が増大すると共に、格子定数の減少が確認できたことから、この系は連続的な固溶体となっていることが分かった。
【0025】
[3]Mgの固溶によるフォトルミネッセンス特性の変化
(1)青色系蛍光体の作製
上記[1]と同様の方法により、一般式Zn1−xMgOにおいて、x=0、0.08となるように、2種の酸化亜鉛系固溶体を作製した。尚、熱分解工程は、800℃×2時間の条件に変更して行った。
その後、各酸化亜鉛系固溶体に対して、窒素ガスに水素ガスを7%含有させた水素雰囲気下において、900℃×5時間の条件で加熱処理工程を行い、酸化亜鉛系固溶体を酸素欠陥させ、青色系蛍光体を得た。
【0026】
(2)PLスペクトルの測定
上記(1)で得られた各青色系蛍光体のMg固溶量の変化によるPLスペクトルへの影響を次のようにして調べた。
蛍光分光光度計(株式会社日立製作所製、型番「F−4500」)を用い、上記各蛍光体(Mg固溶量;0モル%、8モル%)を波長320nmで励起した際の、PLスペクトルを測定した。その結果を図4に示す。
【0027】
(3)測定結果
図4によれば、ZnOへのMgの固溶量が0モル%である場合の発光ピークの波長は、497.4nmであったのに対し、Mgの固溶量が8モル%である場合の発光ピークの波長は、478.2nmにシフトしており、Mgを固溶させることで、発光ピークが短波長側にシフトされることが分かった。
【0028】
[4]Mg固溶量と発光ピーク波長との関係
(1)青色系蛍光体の作製
上記[1]と同様の方法により、一般式Zn1−xMgOにおいて、x=0、0.03、0.05、0.08、0.1、0.15となるように、6種の酸化亜鉛系固溶体を作製した。尚、熱分解工程は、800℃×2時間の条件に変更して行った。
その後、各酸化亜鉛系固溶体に対して、窒素ガスに水素ガスを7%含有させた水素雰囲気下において、950℃×5時間の条件で加熱処理工程を行い、酸化亜鉛系固溶体を酸素欠陥させ、青色系蛍光体を得た。
【0029】
(2)発光ピーク波長の測定
上記(1)で得られた各青色系蛍光体のMg固溶量の変化による発光ピーク波長への影響を次のようにして調べた。
蛍光分光光度計(株式会社日立製作所製、型番「F−4500」)を用い、上記各蛍光体(Mg固溶量;0モル%、3モル%、5モル%、8モル%、10モル%、15モル%)を波長320nmで励起した際の、PLスペクトルに観測される発光ピーク波長を測定した。その結果を表1及び図5に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
(3)測定結果
表1及び図5によれば、ZnOへのMgの固溶量が増大するにつれて、発光ピーク波長が緑色を示す波長(520nm)側から青色を示す波長(460nm)側へとシフトしていることが分かる。特に15モル%のMgが固溶している場合には、発光ピークが約470nmとなっていた。
また、これらのデータを基に、20モル%のMgを固溶させた場合の推定値を求めてみたところ、発光ピークの波長は460.8nm(推定値)になることが分かった。参考までに、この結果を表1及び図5に併記した。
【0032】
[5]実施例の効果
以上のことから、本発明の製造方法により得られる酸化亜鉛系固溶体は、安定したウルツ鉱型の固溶体であり、Mgを固溶させたZnO型固溶体を酸素欠陥させた際には、優れた発光特性を有する青色系蛍光体が得られることが分かった。
尚、本発明においては、上記の具体的な実施例に示すものに限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】各熱分解温度での酸化亜鉛系固溶体のX線回折測定のチャートによる説明図である。
【図2】酸化亜鉛系固溶体の格子定数(a軸)の変化を示すグラフである。
【図3】酸化亜鉛系固溶体の格子定数(c軸)の変化を示すグラフである。
【図4】Mgの固溶によるPLスペクトルの変化を示す説明図である。
【図5】Mg固溶量の変化による発光ピーク波長の変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZnとMgとOとを含むことを特徴とする青色系蛍光体用酸化亜鉛系固溶体。
【請求項2】
本青色系蛍光体用酸化亜鉛系固溶体を、一般式Zn1−xMgOで表した場合に、xが0.05≦x≦0.25を満たす請求項1に記載の青色系蛍光体用酸化亜鉛系固溶体。
【請求項3】
本青色系蛍光体用酸化亜鉛系固溶体を、一般式Zn1−xMgOで表した場合に、xが0.07≦x≦0.25を満たす請求項1に記載の青色系蛍光体用酸化亜鉛系固溶体。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の青色系蛍光体用酸化亜鉛系固溶体が酸素欠陥していることを特徴とする青色系蛍光体。
【請求項5】
450〜490nmの波長領域に発光ピークを有する請求項4に記載の青色系蛍光体。
【請求項6】
450〜480nmの波長領域に発光ピークを有する請求項4に記載の青色系蛍光体。
【請求項7】
Zn及びMgを溶解状態で含む混合水溶液と、有機酸成分と、を混合することにより有機酸複塩を共沈させる共沈工程と、得られた有機酸複塩を熱分解する熱分解工程と、を備えることを特徴とする青色系蛍光体用酸化亜鉛系固溶体の製造方法。
【請求項8】
上記混合水溶液における上記Znと上記Mgのモル比(Zn/Mg)が、0.95/0.05〜0.75/0.25である請求項7に記載の青色系蛍光体用酸化亜鉛系固溶体の製造方法。
【請求項9】
上記混合水溶液における上記Znと上記Mgのモル比(Zn/Mg)が、0.93/0.07〜0.75/0.25である請求項7に記載の青色系蛍光体用酸化亜鉛系固溶体の製造方法。
【請求項10】
上記熱分解工程における熱分解温度が、450〜1000℃である請求項7乃至9のいずれかに記載の青色系蛍光体用酸化亜鉛系固溶体の製造方法。
【請求項11】
Zn及びMgを溶解状態で含む混合水溶液と、有機酸成分と、を混合することにより有機酸複塩を共沈させる共沈工程と、得られた有機酸複塩を熱分解する熱分解工程と、得られた熱分解物を還元雰囲気下において加熱処理する加熱処理工程と、を備えることを特徴とする青色系蛍光体の製造方法。
【請求項12】
上記加熱処理工程における熱処理温度が、800〜1100℃である請求項11に記載の青色系蛍光体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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