青色蛍光体と赤色蛍光体の処理方法
【要 約】
【課題】青色蛍光体と赤色蛍光体の発光強度低下を防止する。
【解決手段】真空槽内11内に処理対象の基板10を配置し、プラズマ発生源12内に水素ガスを含有する処理ガスを導入し、マイクロ波によって処理ガスのプラズマを生成し、基板10上の青色蛍光体、又は赤色蛍光体にプラズマを照射する。二価のEu2+を有する青色蛍光体の場合、三価のEu3+が二価のEu2+に還元され、三価のEu3+を有する赤色蛍光体の場合、結晶欠陥に水素が結合して結晶欠陥が修復され、発光強度が高くなる。プラズマを処理する際に300℃以上の温度に昇温させておくと効果的である。
【課題】青色蛍光体と赤色蛍光体の発光強度低下を防止する。
【解決手段】真空槽内11内に処理対象の基板10を配置し、プラズマ発生源12内に水素ガスを含有する処理ガスを導入し、マイクロ波によって処理ガスのプラズマを生成し、基板10上の青色蛍光体、又は赤色蛍光体にプラズマを照射する。二価のEu2+を有する青色蛍光体の場合、三価のEu3+が二価のEu2+に還元され、三価のEu3+を有する赤色蛍光体の場合、結晶欠陥に水素が結合して結晶欠陥が修復され、発光強度が高くなる。プラズマを処理する際に300℃以上の温度に昇温させておくと効果的である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PDPパネルの技術分野に係り、特に、PDPパネルに用いられる青色蛍光体と赤色蛍光体の輝度劣化の防止技術に関する。
【背景技術】
【0002】
PDPはLCDに比べると、自発光である点や、また、カラーフィルタを必要としない点から高輝度であり、物理的なシャッターが不要なことから応答が高速である、という特徴がある。
【0003】
PDPに用いられるプラズマディスプレイパネル(PDP)の構造を簡単に説明すると、図6に示すように、プラズマディスプレイパネル(PDP)101は、二枚のパネル111、112の間に隔壁113が配置されており、隔壁113によって、複数のセルが形成されている。
【0004】
各セルの壁には、赤、緑又は青色に対応する蛍光体115(115R、115G、115B)のいずれかが塗布されている。
セルの中には希ガス(例えばネオンガスとキセノンガスの混合ガス)から成る発光ガスが封入されており、セル内の電極に高電圧を印加して放電させると、発光ガスがプラズマ化し、紫外線が放射され、蛍光体115に当たると、蛍光体115は赤、緑又は青の対応する光で発光し、これにより、カラー表示を行なうことができる。
【0005】
赤色の蛍光体115Rには、Y(P,V)O4:Eu や、(Y,Gd)BO3:Eu 等が用いられており、緑色の蛍光体115Gには、(Y,Gd)BO3:Tb や Zn2SiO4:Mn等が用いられ、青色の蛍光体115Bには、Ba(1-x)MgAl10O17:Eux(以下、「BAM」と言う。)が用いられている。
【0006】
しかし、これらの物質は長時間プラズマに曝されると劣化し、輝度が低下してしまうという問題がある。
劣化を生じさせる原因は色々あるが、例えば、BAMの酸素欠損に注目した劣化防止の処理方法は下記文献に記載されており、従来よりBAMの輝度劣化に対して種々の解決方法が提案されているが、問題解決には至っていないのが実情である。
【特許文献1】特開2005−144318号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、長時間使用しても赤色蛍光体と青色蛍光体の発光強度が低下しない技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者等は、BAM中のユーロピウムには、二価のEu2+と三価のEu3+が混在しているが、発光に寄与するのは、二価のEu2+であり、青色蛍光体が発光ガスのプラズマに曝されることにより、二価のEu2+が三価のEu3+に変化し、輝度が低下する、と予想した。
特に、BAMをPDPパネルに塗布する際に、BAM粉体に有機溶剤を加え、混合してペースト状にした場合、有機溶剤を加える前のBAM粉体に比べて発光強度の低下が大きくなっている。
【0009】
図7のグラフは、横軸が発光時間、縦軸が粉末状のBAMの発光強度に対する試料の発光強度の比の値であり、符号L1は、試料がペースト状のBAMの場合の曲線であり、発光時間が長くなるに従い、発光強度比は低下することが分かる。
【0010】
次に、粉末状のBAMとペースト状のBAMの温度と放出光の光強度の関係を熱ルミネッセンス法によって測定した。
【0011】
図8は、熱ルミネッセンス法により、試料を低温から昇温させたときの、温度と発光強度の関係を示すグラフであり、横軸は温度、縦軸は発光強度である。
符号S1は粉末状のBAMを試料としたときの測定結果を示す曲線であり、符号S2は、粉末BAMに有機溶剤を加えてペースト状にした試料の測定結果を示す曲線である。
ペースト状のBAMは、室温(300K)付近でトラップを示すピークが観察されている。このピークが発光強度低下の原因であり、これが室温での発光強度を低下させる原因であると推測される。
【0012】
本発明の発明者等は、室温付近のトラップを減少させ、発光強度を増大させるためには、BAMを水素プラズマに曝してEu3+を還元すればよいと考えた。
また、水素ガスを含む処理ガスのプラズマに曝すと、2価のEu(Eu2+)を化学構造中に有する青色蛍光体の他、3価のEu(Eu3+)を化学構造中に有する赤色蛍光体についても、発光強度低下を防止できるという結果を得ている。
【0013】
その理由は、赤色蛍光体中に含まれている欠陥に水素を結合させることで欠陥修復し、欠陥密度が低減されるからであると推測される。結晶中の欠陥のその他の形態としては、結晶粒界が知られている。
【0014】
蛍光体に照射されたイオン、電子、光は、蛍光体結晶体中を電子、光の形態で伝播する。伝播してきた電子、光により発光原子は励起されて、所定の波長範囲の光を発光する。本発明の発明者は、蛍光体結晶体中の結晶欠陥を低減すれば、結晶体中を伝播する電子、光エネルギーが熱として散逸する過程が抑制されて、発光原子までの電子、光の伝播効率を高めることができると考えた。
【0015】
本発明は上記知見に基づいて創作された技術であり、真空雰囲気中にEuを含有する蛍光体を配置し、水素ガスを含有する処理ガスのプラズマを前記真空雰囲気中に形成し、前記蛍光体を前記プラズマに曝す蛍光体の処理方法である。
また、本発明は、前記蛍光体はBa(1-x)MgAl10O17Euxを含有する青色蛍光体である蛍光体の処理方法である。
また、本発明は、真空雰囲気中に波長580nm以上650nm以下の範囲に最大発光項強度がある赤色蛍光物質を含有する赤色蛍光体を配置し、水素ガスを含有する処理ガスのプラズマを前記真空雰囲気中に形成し、前記緑色蛍光体を前記プラズマに曝す赤色蛍光体の処理方法である。
また、本発明は、前記赤色蛍光物質は、(Y,Gd)BO3:Eu3+ 、Y2O3:Eu3+ 、又はY(P,V)O4:Eu3+ のうちのいずれか一種以上の化合物である赤色蛍光体の処理方法である。
また、本発明は、真空雰囲気中に波長400nm以上500nm以下の範囲に最大発光項強度がある青色蛍光物質を含有する青色蛍光体を配置し、水素ガスを含有する処理ガスのプラズマを前記真空雰囲気中に形成し、前記青色蛍光体を前記プラズマに曝す青色蛍光体の処理方法である。
また、本発明は、前記青色蛍光物質は、BaMgAl10O17:Eu2+ 又は CaMgSi2O6:Eu2+ のうちのいずれか一種以上の化合物である青色蛍光体の処理方法である。
また、本発明は、プラズマ発生源内に前記処理ガスを導入し、前記プラズマ発生源内で前記処理ガスのプラズマを生成し、前記プラズマ発生源の開口に面する位置に配置された前記青色蛍光体に前記プラズマを照射する蛍光体の処理方法である。
また、本発明は、前記プラズマ発生源内にアンテナを配置し、前記アンテナに高周波電圧を印加してマイクロ波を発生させ、前記プラズマ発生源内に導入された前記処理ガスに前記マイクロ波を照射して、前記プラズマ発生源内の前記処理ガスをプラズマ化する蛍光体の処理方法である。
また、前記プラズマ発生源にマイクロ波を供給し 、前記マイクロ波によって、前記プラズマ発生源内の前記処理ガスをプラズマ化する蛍光体の処理方法である。
また、本発明は、前記水素ガスは、前記処理ガス内に0.05体積%以上含有させる蛍光体の処理方法である。
また、本発明は、前記青色蛍光体を300℃以上に昇温させ、前記プラズマを照射する蛍光体の処理方法である。
【0016】
本発明は上記のように構成されており、BAMを水素プラズマに曝すことで、Euを還元し、三価のEu3+を二価のEu2+に変化させている。
上述した図7の符号L2は、後述する処理装置を用い、PDPのパネルに塗布したペースト状のBAMを、PDPパネルを加熱せず、室温の状態でアルゴンガスに5%の割合で水素ガスが添加された処理ガスのプラズマを接触させ、発光強度の変化を測定した結果である。処理ガスで処理しない場合に比べて低下率が小さくなっており、発光強度が大きい。室温ではなく、昇温させたときには、低下率は、一層小さくなることが確認されている。
【0017】
図12は、処理ガスのプラズマに曝さない場合の、青色蛍光体(BAM)と赤色蛍光体((Y,Gd)BO3:Eu3+)の発光時間と発光強度の関係を示すグラフであり、図13は、基板を300℃に加熱して青色蛍光体(BAM)と赤色蛍光体(Y,Gd)BO3:Eu3+を処理ガスのプラズマに曝した場合の、発光時間と発光強度の関係を示すグラフである。図12、13の縦軸は、発光開始時の発光強度に対する比であり、Bは青色蛍光体、Rは赤色蛍光体の関係を示している。
【0018】
焼成した蛍光体をプラズマに曝した。以下、測定に用いた蛍光体は、焼成後のものである。
室温よりも発光強度低下の防止効果が高く、赤色蛍光物質を含有する赤色蛍光体でも、青色蛍光物質を含有する青色蛍光体でも、300℃以上(500℃以下)の温度に昇温させた状態で、処理ガスのプラズマに接触させることが望ましい。
【0019】
また、上述の図8の符号S3は、上記5%の水素ガス添加の処理ガスで処理したBAMの熱ルミネッセンス法による発光強度を測定した結果である。300K付近のトラップのピークが未処理のBAMの場合に比べて小さくなっており、これが発光強度が大きくなった理由であると考えられる。
【0020】
図11は、ペーストの塗布、焼成後の青色蛍光体に対し、異なる種類のガスのプラズマを、加熱せず常温の青色蛍光体BAMに照射したときの発光強度を、プラズマを照射しない青色蛍光体に対する発光強度の比で表わしたグラフである。
【0021】
アルゴンガスに5%の水素ガスを含む処理ガスと、アルゴンガスに5%のO2ガスを含む混合ガスと、アルゴンガスの結果が示されており、H2ガスを含有する処理ガスの場合が、最も発光強度が大きくなっている。なお、このときのプラズマの投入電力は60W、照射時間は30分である。基板温度(青色蛍光体の温度)は加熱せず、室温のまま照射した。図11から分かるように、H2ガスを含有する処理ガスで処理する場合は、常温でも発光強度が向上することが分かる。
【0022】
他方、プラズマを発生させずに、粉末状、又はペースト状の緑色蛍光体を焼成した後、加熱した状態で処理ガスに曝しても、水素は赤色蛍光物質や青色蛍光物質の結晶中に拡散せず、発光強度の低下を防止する効果は得られないことは確認している。
【0023】
図14は、青色蛍光体BAMを水素ガスや水素ガスプラズマに曝さない場合の発光時間と発光強度の関係(符号M1)と、青色蛍光体BAMを500℃30分水素ガスに曝した場合の発光時間と発光強度の関係(符号M2)を示すグラフである。
どちらの場合も、発光強度低下を防止する効果は見られない。従って、蛍光体をプラズマの存在下で水素ガスに曝すのが重要であることが分かる。
【発明の効果】
【0024】
青色蛍光体と赤色蛍光体の発光強度の低下を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1の符号1は、本発明に用いられる処理装置であり、真空槽11を有している。真空槽11の内部には、プラズマ発生源12と、台18が配置されている。
プラズマ発生源12は、導波管21と、容器22とを有している。
容器22は、真空槽11内で、その開口を台18側に向けて略水平に配置されている。容器22は石英製である。
【0026】
真空槽11の内部には、移動機構20が配置されている。容器22は細長であり、移動機構20は、容器22を、その長手方向とは垂直な方向に水平面内で移動させるように構成されている。
台18上には成膜対象の基板10が配置されている。基板10は正方形又は長方形であり、四辺のうちの二辺は容器22の長手方向に沿い、他の二辺は容器22の長手方向とは垂直な容器22の移動方向に沿って配置されている。
【0027】
基板10の、容器22の長手方向に沿う方向の長さは、容器22の長手方向の長さよりも長く形成されており、容器22の開口24を基板10の一端に置き、移動機構20によって容器22を移動させると、容器22の開口24は、基板10の一端から他端まで向き合いながら移動するように構成されている。
【0028】
図3は、容器22の開口24付近の内部構造を説明するための拡大斜視図である。容器22の開口24の縁部分には、長手方向に沿って細長のシャワーヘッド23が設けられている。
シャワーヘッド23の内部には、シャワーヘッド23の長手方向に沿って、ガス導入路31が設けられている。シャワーヘッド23の、開口24付近の面には、ガス導入路31と連通する細孔32が複数個形成されている。
【0029】
真空槽11の外部には、真空排気系19とガス導入系14が配置されている。
ガス導入系14は、シャワーヘッド23に接続されており、ガス導入系14からガス導入路31内に水素ガス又は水素ガスと希ガスの混合ガスから成る処理ガスを導入できるように構成されている。真空排気系19を起動し、真空槽11の内部を真空排気した後、ガス導入路31内に処理ガスを導入すると、処理ガスは、細孔32から真空槽11内の容器22の内部空間に向けて噴出される。
【0030】
導波管21は、容器22の少なくとも底面を覆うように取りつけられている。導波管21には、マイクロ波発生装置13が接続されており、導波管21内にマイクロ波を導入すると、マイクロ波は、主として容器22の底壁を透過して容器22の内部空間に導入され、シャワーヘッド23から容器22の内部空間に向けて噴出された処理ガスに照射される。
マイクロ波が照射された処理ガスはプラズマ化し、開口24から放出され、基板10に到達する。
【0031】
基板10は、図4(a)に示すように、ガラス板31上に細長の隔壁33が複数形成されており、隔壁間には、赤、緑、又は青色のいずれかの色に対応する蛍光体のペーストが塗布、焼成され、赤色蛍光体35R、緑色蛍光体35G、又は青色蛍光体35Bが形成されている。
【0032】
人間が赤色に感じる光は、波長580nm以上650nm以下の範囲に最大強度(ピーク)があり、緑色では480nm以上550nm以下の範囲、青色では400nm以上500nm以下の範囲であり、各蛍光体35R、G、Bの発光光は、対応する色の波長範囲内に最大発光強度の波長を有している。
【0033】
赤色蛍光体には、(Y,Gd)BO3:Eu3+ 、Y2O3:Eu3+ 、又はY(P,V)O4:Eu3+ のうちのいずれか一種以上の赤色蛍光物質を含有する蛍光体が用いられており、青色蛍光体には、BaMgAl10O17:Eu2+ 又は CaMgSi2O6:Eu2+ のうちのいずれか一種以上の青色蛍光物質を含有する蛍光体が用いられている。これらの蛍光物質を、処理ガスのプラズマに曝すと、発光強度低下を防止することができる。蛍光物質の諸特性を下記表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
ここでは、青色蛍光体35Bは、ペースト状のBaMgAl10O17:Eu2+(BAM)を塗布、焼成したものが用いられ、赤色蛍光体35Rには、ペースト状の(Y,Gd)BO3:Eu3+を塗布、焼成したものが用いられている。
【0036】
基板10は、各蛍光体35R、G、Bが配置された面を容器22側に向けて台18上に配置されている。
台18の内部には、ヒータ15が配置されており、ヒータ15に通電して発熱させ、300℃以上500℃以下の温度に加熱した状態でプラズマを照射すると、各蛍光体35R、G、Bは、処理ガスのプラズマに曝される。
【0037】
青色蛍光体35Bが処理ガスのプラズマに接触すると、青色蛍光体35B中の三価のEu3+は、処理ガス中に含有される水素ガスのプラズマによって還元され、二価のEu2+が生成される。
赤色蛍光体35Rの結晶欠陥には、水素が結合し、結晶欠陥が修復される。
【0038】
処理ガスは、水素ガス100%のガス、又はアルゴンガス等の希ガスと水素ガスの混合ガスであり、青色蛍光体中の三価のEu3+が還元され、二価のEu2+が生成される。水素ガスの含有量は、後述するように、0.05%以上の場合に効果的である。
【0039】
図2に示されているように、プラズマ発生源12から処理ガスのプラズマを放出させながら、プラズマ発生源12を移動させ、基板10の一端から他端まで処理ガスのプラズマを照射する。処理ガスのプラズマを照射するときの真空槽11内の圧力は1Torr〜大気圧であり、照射するプラズマ密度は1×1012〜1×1014cm-3、プラズマの電子温度は1eVから3eV程度である。
【0040】
プラズマを照射した基板10を真空槽11から取り出し、基板10上にフロントパネルを密着させ、内部にキセノンガスとネオンガスの混合ガス等の放電ガスを封入した状態で、低融点ガラス等の封止材料によって封止するとPDPパネルが得られる。
【0041】
図4(b)の符号5は、得られたPDPパネルの模式的な断面図であり、基板10とフロントパネル32とは、基板10及びフロントパネル32の周囲に配置された封着材料36によって封止されている。
赤色蛍光体35Rと青色蛍光体35Bは一緒にプラズマに曝されるので、赤色蛍光体35Rと青色蛍光体35Bは、一緒に発光強度の低下が防止される。
【0042】
次に、H2ガス濃度と発光強度の関係を説明する。
図9は、H2ガス濃度が異なる処理ガスで青色蛍光体35Bを処理したときの、初期値に対する発光強度の割合(発光強度維持率)を示すグラフであり、横軸は発光時間、縦軸は発光強度維持率である。H2ガスの濃度は、処理ガス全体の体積に対するH2ガスの体積割合であり、希ガスにはアルゴンガスを用いている。
【0043】
グラフ中、「未処理」とあるのはプラズマに曝さなかった青色蛍光体の測定結果であり、「0%」は水素ガスを含まない希ガス(ここではアルゴンガス)のプラズマに曝した青色蛍光体の測定結果である。図9から、全体の量に対して0.05%以上の含有率でH2ガスを含む場合に(100%の場合も含む)、処理ガスのプラス間照射の効果が認められ、発光強度の低下が少なくなっていることが分かる。1%以上の濃度では、発光強度維持の効果は飽和しており、0.05%以上1%以下の範囲が効率的であることが分かる。
【0044】
次に、青色蛍光体35Bの処理温度と発光強度維持率との関係を説明する。
図10は青色蛍光体35Bをプラズマに曝さず、熱処理だけ行なった場合の発光強度維持率と、基板10を加熱しながら水素ガスを5%含有する処理ガスで30分間処理した場合の発光強度維持率を比較するグラフである。
【0045】
処理ガスのプラズマを照射する場合、200℃程度から発光強度維持の効果が認められる。300℃でも95%以上の発光強度維持効果が得られているが、400℃以上の温度にしても、発光強度維持の効果は向上しない。従って、処理ガスのプラズマを照射する際には、300℃以上の温度に昇温させることが望ましいことが分かる。
上記実施例では、基板上に塗布、焼成した青色蛍光体35Bと赤色蛍光体35Rに処理ガスのプラズマを照射したが、本発明は塗布前に処理することもできる。
【0046】
図5の符号2は、そのような処理に用いることができる処理装置であり、真空槽51を有している。真空槽51には、筒状の容器72を有するプラズマ発生源52が設けられている。容器72の外周は、接地電位のシールド79で覆われている。
【0047】
その容器72は、少なくとも開口74が真空槽51の内部に位置しており、開口74の近傍には、試料台58が配置されている。試料台58の開口74に面する位置には、Eu2+を化学構造中に有する青色蛍光物質、又は、Eu3+を化学構造中に有する赤色物質を含有する蛍光体60が配置されている。この蛍光体60はパネルに塗布するペーストを形成する前の粉末状である。
【0048】
容器72にはアンテナ71が挿通されている。アンテナ71には高周波電源53が接続されており、高周波電源53を動作させ、アンテナ71に高周波電圧を印加すると、アンテナ71から容器72の内部にマイクロ波が放射されるように構成されている。
【0049】
真空槽51には真空排気系19が接続されており、容器72には、その底面付近に処理ガス導入系54が接続されている。
真空排気系19によって真空槽51の内部を真空排気し、アンテナ71によって容器72内にマイクロ波を放射し、その状態で容器72内に処理ガスを導入すると、容器72の内部で処理ガスのプラズマが生成される。生成されたプラズマは、容器72内に導入される処理ガスに押し出され、開口74から放出され、蛍光体60に照射される。
【0050】
試料台58の内部にはヒータ75が配置されており、ヒータ75に通電し、蛍光体60を300℃以上500℃以下の温度に予め昇温させておき、蛍光体60にプラズマを照射すると、処理ガス中のH2ガスのプラズマに蛍光体60が曝され、発光強度低下が防止される。ここで用いられる処理ガスにも、アルゴンガス等の希ガス中にH2ガスが0.05%以上の割合で含有されている。
所定時間のプラズマ照射が終了した蛍光体60からペーストが作られ、PDPのパネルに塗布され、封止され、PDPパネルが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に用いることができる処理装置の一例
【図2】その処理装置を用いた処理方法を説明するための図
【図3】その処理装置の開口付近を説明するための斜視図
【図4】(a):本発明によって処理する基板の一例 (b):本発明によって得られるPDPパネルの一例
【図5】本発明に用いることができる処理装置の他の例
【図6】一般的なPDPパネルの例
【図7】粉体BAMとペーストBAMの発光強度の比較
【図8】熱ルミネッセンス法による発効強度のグラフ
【図9】水素ガス含有率と発光強度維持率の関係を示すグラフ
【図10】基板温度と発光強度維持率の関係を示すグラフ
【図11】プラズマを形成するガスと発光強度比の関係を示すグラフ
【図12】水素ガスを含む処理ガスのプラズマに曝さない場合の発光時間と発光強度の関係を示すグラフ(BAMと(Y,Gd)BO3:Eu3+)
【図13】水素ガスを含む処理ガスのプラズマに曝した場合の発光時間と発光強度の関係を示すグラフ(BAMと(Y,Gd)BO3:Eu3+)
【図14】未処理の場合と、プラズマを発生させずに水素ガスに曝した場合の発光時間と発光強度の関係を示すグラフ
【符号の説明】
【0052】
12、52……プラズマ発生源
71……アンテナ
35B……青色蛍光体
35R……赤色蛍光体
60……蛍光体
【技術分野】
【0001】
本発明は、PDPパネルの技術分野に係り、特に、PDPパネルに用いられる青色蛍光体と赤色蛍光体の輝度劣化の防止技術に関する。
【背景技術】
【0002】
PDPはLCDに比べると、自発光である点や、また、カラーフィルタを必要としない点から高輝度であり、物理的なシャッターが不要なことから応答が高速である、という特徴がある。
【0003】
PDPに用いられるプラズマディスプレイパネル(PDP)の構造を簡単に説明すると、図6に示すように、プラズマディスプレイパネル(PDP)101は、二枚のパネル111、112の間に隔壁113が配置されており、隔壁113によって、複数のセルが形成されている。
【0004】
各セルの壁には、赤、緑又は青色に対応する蛍光体115(115R、115G、115B)のいずれかが塗布されている。
セルの中には希ガス(例えばネオンガスとキセノンガスの混合ガス)から成る発光ガスが封入されており、セル内の電極に高電圧を印加して放電させると、発光ガスがプラズマ化し、紫外線が放射され、蛍光体115に当たると、蛍光体115は赤、緑又は青の対応する光で発光し、これにより、カラー表示を行なうことができる。
【0005】
赤色の蛍光体115Rには、Y(P,V)O4:Eu や、(Y,Gd)BO3:Eu 等が用いられており、緑色の蛍光体115Gには、(Y,Gd)BO3:Tb や Zn2SiO4:Mn等が用いられ、青色の蛍光体115Bには、Ba(1-x)MgAl10O17:Eux(以下、「BAM」と言う。)が用いられている。
【0006】
しかし、これらの物質は長時間プラズマに曝されると劣化し、輝度が低下してしまうという問題がある。
劣化を生じさせる原因は色々あるが、例えば、BAMの酸素欠損に注目した劣化防止の処理方法は下記文献に記載されており、従来よりBAMの輝度劣化に対して種々の解決方法が提案されているが、問題解決には至っていないのが実情である。
【特許文献1】特開2005−144318号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、長時間使用しても赤色蛍光体と青色蛍光体の発光強度が低下しない技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者等は、BAM中のユーロピウムには、二価のEu2+と三価のEu3+が混在しているが、発光に寄与するのは、二価のEu2+であり、青色蛍光体が発光ガスのプラズマに曝されることにより、二価のEu2+が三価のEu3+に変化し、輝度が低下する、と予想した。
特に、BAMをPDPパネルに塗布する際に、BAM粉体に有機溶剤を加え、混合してペースト状にした場合、有機溶剤を加える前のBAM粉体に比べて発光強度の低下が大きくなっている。
【0009】
図7のグラフは、横軸が発光時間、縦軸が粉末状のBAMの発光強度に対する試料の発光強度の比の値であり、符号L1は、試料がペースト状のBAMの場合の曲線であり、発光時間が長くなるに従い、発光強度比は低下することが分かる。
【0010】
次に、粉末状のBAMとペースト状のBAMの温度と放出光の光強度の関係を熱ルミネッセンス法によって測定した。
【0011】
図8は、熱ルミネッセンス法により、試料を低温から昇温させたときの、温度と発光強度の関係を示すグラフであり、横軸は温度、縦軸は発光強度である。
符号S1は粉末状のBAMを試料としたときの測定結果を示す曲線であり、符号S2は、粉末BAMに有機溶剤を加えてペースト状にした試料の測定結果を示す曲線である。
ペースト状のBAMは、室温(300K)付近でトラップを示すピークが観察されている。このピークが発光強度低下の原因であり、これが室温での発光強度を低下させる原因であると推測される。
【0012】
本発明の発明者等は、室温付近のトラップを減少させ、発光強度を増大させるためには、BAMを水素プラズマに曝してEu3+を還元すればよいと考えた。
また、水素ガスを含む処理ガスのプラズマに曝すと、2価のEu(Eu2+)を化学構造中に有する青色蛍光体の他、3価のEu(Eu3+)を化学構造中に有する赤色蛍光体についても、発光強度低下を防止できるという結果を得ている。
【0013】
その理由は、赤色蛍光体中に含まれている欠陥に水素を結合させることで欠陥修復し、欠陥密度が低減されるからであると推測される。結晶中の欠陥のその他の形態としては、結晶粒界が知られている。
【0014】
蛍光体に照射されたイオン、電子、光は、蛍光体結晶体中を電子、光の形態で伝播する。伝播してきた電子、光により発光原子は励起されて、所定の波長範囲の光を発光する。本発明の発明者は、蛍光体結晶体中の結晶欠陥を低減すれば、結晶体中を伝播する電子、光エネルギーが熱として散逸する過程が抑制されて、発光原子までの電子、光の伝播効率を高めることができると考えた。
【0015】
本発明は上記知見に基づいて創作された技術であり、真空雰囲気中にEuを含有する蛍光体を配置し、水素ガスを含有する処理ガスのプラズマを前記真空雰囲気中に形成し、前記蛍光体を前記プラズマに曝す蛍光体の処理方法である。
また、本発明は、前記蛍光体はBa(1-x)MgAl10O17Euxを含有する青色蛍光体である蛍光体の処理方法である。
また、本発明は、真空雰囲気中に波長580nm以上650nm以下の範囲に最大発光項強度がある赤色蛍光物質を含有する赤色蛍光体を配置し、水素ガスを含有する処理ガスのプラズマを前記真空雰囲気中に形成し、前記緑色蛍光体を前記プラズマに曝す赤色蛍光体の処理方法である。
また、本発明は、前記赤色蛍光物質は、(Y,Gd)BO3:Eu3+ 、Y2O3:Eu3+ 、又はY(P,V)O4:Eu3+ のうちのいずれか一種以上の化合物である赤色蛍光体の処理方法である。
また、本発明は、真空雰囲気中に波長400nm以上500nm以下の範囲に最大発光項強度がある青色蛍光物質を含有する青色蛍光体を配置し、水素ガスを含有する処理ガスのプラズマを前記真空雰囲気中に形成し、前記青色蛍光体を前記プラズマに曝す青色蛍光体の処理方法である。
また、本発明は、前記青色蛍光物質は、BaMgAl10O17:Eu2+ 又は CaMgSi2O6:Eu2+ のうちのいずれか一種以上の化合物である青色蛍光体の処理方法である。
また、本発明は、プラズマ発生源内に前記処理ガスを導入し、前記プラズマ発生源内で前記処理ガスのプラズマを生成し、前記プラズマ発生源の開口に面する位置に配置された前記青色蛍光体に前記プラズマを照射する蛍光体の処理方法である。
また、本発明は、前記プラズマ発生源内にアンテナを配置し、前記アンテナに高周波電圧を印加してマイクロ波を発生させ、前記プラズマ発生源内に導入された前記処理ガスに前記マイクロ波を照射して、前記プラズマ発生源内の前記処理ガスをプラズマ化する蛍光体の処理方法である。
また、前記プラズマ発生源にマイクロ波を供給し 、前記マイクロ波によって、前記プラズマ発生源内の前記処理ガスをプラズマ化する蛍光体の処理方法である。
また、本発明は、前記水素ガスは、前記処理ガス内に0.05体積%以上含有させる蛍光体の処理方法である。
また、本発明は、前記青色蛍光体を300℃以上に昇温させ、前記プラズマを照射する蛍光体の処理方法である。
【0016】
本発明は上記のように構成されており、BAMを水素プラズマに曝すことで、Euを還元し、三価のEu3+を二価のEu2+に変化させている。
上述した図7の符号L2は、後述する処理装置を用い、PDPのパネルに塗布したペースト状のBAMを、PDPパネルを加熱せず、室温の状態でアルゴンガスに5%の割合で水素ガスが添加された処理ガスのプラズマを接触させ、発光強度の変化を測定した結果である。処理ガスで処理しない場合に比べて低下率が小さくなっており、発光強度が大きい。室温ではなく、昇温させたときには、低下率は、一層小さくなることが確認されている。
【0017】
図12は、処理ガスのプラズマに曝さない場合の、青色蛍光体(BAM)と赤色蛍光体((Y,Gd)BO3:Eu3+)の発光時間と発光強度の関係を示すグラフであり、図13は、基板を300℃に加熱して青色蛍光体(BAM)と赤色蛍光体(Y,Gd)BO3:Eu3+を処理ガスのプラズマに曝した場合の、発光時間と発光強度の関係を示すグラフである。図12、13の縦軸は、発光開始時の発光強度に対する比であり、Bは青色蛍光体、Rは赤色蛍光体の関係を示している。
【0018】
焼成した蛍光体をプラズマに曝した。以下、測定に用いた蛍光体は、焼成後のものである。
室温よりも発光強度低下の防止効果が高く、赤色蛍光物質を含有する赤色蛍光体でも、青色蛍光物質を含有する青色蛍光体でも、300℃以上(500℃以下)の温度に昇温させた状態で、処理ガスのプラズマに接触させることが望ましい。
【0019】
また、上述の図8の符号S3は、上記5%の水素ガス添加の処理ガスで処理したBAMの熱ルミネッセンス法による発光強度を測定した結果である。300K付近のトラップのピークが未処理のBAMの場合に比べて小さくなっており、これが発光強度が大きくなった理由であると考えられる。
【0020】
図11は、ペーストの塗布、焼成後の青色蛍光体に対し、異なる種類のガスのプラズマを、加熱せず常温の青色蛍光体BAMに照射したときの発光強度を、プラズマを照射しない青色蛍光体に対する発光強度の比で表わしたグラフである。
【0021】
アルゴンガスに5%の水素ガスを含む処理ガスと、アルゴンガスに5%のO2ガスを含む混合ガスと、アルゴンガスの結果が示されており、H2ガスを含有する処理ガスの場合が、最も発光強度が大きくなっている。なお、このときのプラズマの投入電力は60W、照射時間は30分である。基板温度(青色蛍光体の温度)は加熱せず、室温のまま照射した。図11から分かるように、H2ガスを含有する処理ガスで処理する場合は、常温でも発光強度が向上することが分かる。
【0022】
他方、プラズマを発生させずに、粉末状、又はペースト状の緑色蛍光体を焼成した後、加熱した状態で処理ガスに曝しても、水素は赤色蛍光物質や青色蛍光物質の結晶中に拡散せず、発光強度の低下を防止する効果は得られないことは確認している。
【0023】
図14は、青色蛍光体BAMを水素ガスや水素ガスプラズマに曝さない場合の発光時間と発光強度の関係(符号M1)と、青色蛍光体BAMを500℃30分水素ガスに曝した場合の発光時間と発光強度の関係(符号M2)を示すグラフである。
どちらの場合も、発光強度低下を防止する効果は見られない。従って、蛍光体をプラズマの存在下で水素ガスに曝すのが重要であることが分かる。
【発明の効果】
【0024】
青色蛍光体と赤色蛍光体の発光強度の低下を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1の符号1は、本発明に用いられる処理装置であり、真空槽11を有している。真空槽11の内部には、プラズマ発生源12と、台18が配置されている。
プラズマ発生源12は、導波管21と、容器22とを有している。
容器22は、真空槽11内で、その開口を台18側に向けて略水平に配置されている。容器22は石英製である。
【0026】
真空槽11の内部には、移動機構20が配置されている。容器22は細長であり、移動機構20は、容器22を、その長手方向とは垂直な方向に水平面内で移動させるように構成されている。
台18上には成膜対象の基板10が配置されている。基板10は正方形又は長方形であり、四辺のうちの二辺は容器22の長手方向に沿い、他の二辺は容器22の長手方向とは垂直な容器22の移動方向に沿って配置されている。
【0027】
基板10の、容器22の長手方向に沿う方向の長さは、容器22の長手方向の長さよりも長く形成されており、容器22の開口24を基板10の一端に置き、移動機構20によって容器22を移動させると、容器22の開口24は、基板10の一端から他端まで向き合いながら移動するように構成されている。
【0028】
図3は、容器22の開口24付近の内部構造を説明するための拡大斜視図である。容器22の開口24の縁部分には、長手方向に沿って細長のシャワーヘッド23が設けられている。
シャワーヘッド23の内部には、シャワーヘッド23の長手方向に沿って、ガス導入路31が設けられている。シャワーヘッド23の、開口24付近の面には、ガス導入路31と連通する細孔32が複数個形成されている。
【0029】
真空槽11の外部には、真空排気系19とガス導入系14が配置されている。
ガス導入系14は、シャワーヘッド23に接続されており、ガス導入系14からガス導入路31内に水素ガス又は水素ガスと希ガスの混合ガスから成る処理ガスを導入できるように構成されている。真空排気系19を起動し、真空槽11の内部を真空排気した後、ガス導入路31内に処理ガスを導入すると、処理ガスは、細孔32から真空槽11内の容器22の内部空間に向けて噴出される。
【0030】
導波管21は、容器22の少なくとも底面を覆うように取りつけられている。導波管21には、マイクロ波発生装置13が接続されており、導波管21内にマイクロ波を導入すると、マイクロ波は、主として容器22の底壁を透過して容器22の内部空間に導入され、シャワーヘッド23から容器22の内部空間に向けて噴出された処理ガスに照射される。
マイクロ波が照射された処理ガスはプラズマ化し、開口24から放出され、基板10に到達する。
【0031】
基板10は、図4(a)に示すように、ガラス板31上に細長の隔壁33が複数形成されており、隔壁間には、赤、緑、又は青色のいずれかの色に対応する蛍光体のペーストが塗布、焼成され、赤色蛍光体35R、緑色蛍光体35G、又は青色蛍光体35Bが形成されている。
【0032】
人間が赤色に感じる光は、波長580nm以上650nm以下の範囲に最大強度(ピーク)があり、緑色では480nm以上550nm以下の範囲、青色では400nm以上500nm以下の範囲であり、各蛍光体35R、G、Bの発光光は、対応する色の波長範囲内に最大発光強度の波長を有している。
【0033】
赤色蛍光体には、(Y,Gd)BO3:Eu3+ 、Y2O3:Eu3+ 、又はY(P,V)O4:Eu3+ のうちのいずれか一種以上の赤色蛍光物質を含有する蛍光体が用いられており、青色蛍光体には、BaMgAl10O17:Eu2+ 又は CaMgSi2O6:Eu2+ のうちのいずれか一種以上の青色蛍光物質を含有する蛍光体が用いられている。これらの蛍光物質を、処理ガスのプラズマに曝すと、発光強度低下を防止することができる。蛍光物質の諸特性を下記表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
ここでは、青色蛍光体35Bは、ペースト状のBaMgAl10O17:Eu2+(BAM)を塗布、焼成したものが用いられ、赤色蛍光体35Rには、ペースト状の(Y,Gd)BO3:Eu3+を塗布、焼成したものが用いられている。
【0036】
基板10は、各蛍光体35R、G、Bが配置された面を容器22側に向けて台18上に配置されている。
台18の内部には、ヒータ15が配置されており、ヒータ15に通電して発熱させ、300℃以上500℃以下の温度に加熱した状態でプラズマを照射すると、各蛍光体35R、G、Bは、処理ガスのプラズマに曝される。
【0037】
青色蛍光体35Bが処理ガスのプラズマに接触すると、青色蛍光体35B中の三価のEu3+は、処理ガス中に含有される水素ガスのプラズマによって還元され、二価のEu2+が生成される。
赤色蛍光体35Rの結晶欠陥には、水素が結合し、結晶欠陥が修復される。
【0038】
処理ガスは、水素ガス100%のガス、又はアルゴンガス等の希ガスと水素ガスの混合ガスであり、青色蛍光体中の三価のEu3+が還元され、二価のEu2+が生成される。水素ガスの含有量は、後述するように、0.05%以上の場合に効果的である。
【0039】
図2に示されているように、プラズマ発生源12から処理ガスのプラズマを放出させながら、プラズマ発生源12を移動させ、基板10の一端から他端まで処理ガスのプラズマを照射する。処理ガスのプラズマを照射するときの真空槽11内の圧力は1Torr〜大気圧であり、照射するプラズマ密度は1×1012〜1×1014cm-3、プラズマの電子温度は1eVから3eV程度である。
【0040】
プラズマを照射した基板10を真空槽11から取り出し、基板10上にフロントパネルを密着させ、内部にキセノンガスとネオンガスの混合ガス等の放電ガスを封入した状態で、低融点ガラス等の封止材料によって封止するとPDPパネルが得られる。
【0041】
図4(b)の符号5は、得られたPDPパネルの模式的な断面図であり、基板10とフロントパネル32とは、基板10及びフロントパネル32の周囲に配置された封着材料36によって封止されている。
赤色蛍光体35Rと青色蛍光体35Bは一緒にプラズマに曝されるので、赤色蛍光体35Rと青色蛍光体35Bは、一緒に発光強度の低下が防止される。
【0042】
次に、H2ガス濃度と発光強度の関係を説明する。
図9は、H2ガス濃度が異なる処理ガスで青色蛍光体35Bを処理したときの、初期値に対する発光強度の割合(発光強度維持率)を示すグラフであり、横軸は発光時間、縦軸は発光強度維持率である。H2ガスの濃度は、処理ガス全体の体積に対するH2ガスの体積割合であり、希ガスにはアルゴンガスを用いている。
【0043】
グラフ中、「未処理」とあるのはプラズマに曝さなかった青色蛍光体の測定結果であり、「0%」は水素ガスを含まない希ガス(ここではアルゴンガス)のプラズマに曝した青色蛍光体の測定結果である。図9から、全体の量に対して0.05%以上の含有率でH2ガスを含む場合に(100%の場合も含む)、処理ガスのプラス間照射の効果が認められ、発光強度の低下が少なくなっていることが分かる。1%以上の濃度では、発光強度維持の効果は飽和しており、0.05%以上1%以下の範囲が効率的であることが分かる。
【0044】
次に、青色蛍光体35Bの処理温度と発光強度維持率との関係を説明する。
図10は青色蛍光体35Bをプラズマに曝さず、熱処理だけ行なった場合の発光強度維持率と、基板10を加熱しながら水素ガスを5%含有する処理ガスで30分間処理した場合の発光強度維持率を比較するグラフである。
【0045】
処理ガスのプラズマを照射する場合、200℃程度から発光強度維持の効果が認められる。300℃でも95%以上の発光強度維持効果が得られているが、400℃以上の温度にしても、発光強度維持の効果は向上しない。従って、処理ガスのプラズマを照射する際には、300℃以上の温度に昇温させることが望ましいことが分かる。
上記実施例では、基板上に塗布、焼成した青色蛍光体35Bと赤色蛍光体35Rに処理ガスのプラズマを照射したが、本発明は塗布前に処理することもできる。
【0046】
図5の符号2は、そのような処理に用いることができる処理装置であり、真空槽51を有している。真空槽51には、筒状の容器72を有するプラズマ発生源52が設けられている。容器72の外周は、接地電位のシールド79で覆われている。
【0047】
その容器72は、少なくとも開口74が真空槽51の内部に位置しており、開口74の近傍には、試料台58が配置されている。試料台58の開口74に面する位置には、Eu2+を化学構造中に有する青色蛍光物質、又は、Eu3+を化学構造中に有する赤色物質を含有する蛍光体60が配置されている。この蛍光体60はパネルに塗布するペーストを形成する前の粉末状である。
【0048】
容器72にはアンテナ71が挿通されている。アンテナ71には高周波電源53が接続されており、高周波電源53を動作させ、アンテナ71に高周波電圧を印加すると、アンテナ71から容器72の内部にマイクロ波が放射されるように構成されている。
【0049】
真空槽51には真空排気系19が接続されており、容器72には、その底面付近に処理ガス導入系54が接続されている。
真空排気系19によって真空槽51の内部を真空排気し、アンテナ71によって容器72内にマイクロ波を放射し、その状態で容器72内に処理ガスを導入すると、容器72の内部で処理ガスのプラズマが生成される。生成されたプラズマは、容器72内に導入される処理ガスに押し出され、開口74から放出され、蛍光体60に照射される。
【0050】
試料台58の内部にはヒータ75が配置されており、ヒータ75に通電し、蛍光体60を300℃以上500℃以下の温度に予め昇温させておき、蛍光体60にプラズマを照射すると、処理ガス中のH2ガスのプラズマに蛍光体60が曝され、発光強度低下が防止される。ここで用いられる処理ガスにも、アルゴンガス等の希ガス中にH2ガスが0.05%以上の割合で含有されている。
所定時間のプラズマ照射が終了した蛍光体60からペーストが作られ、PDPのパネルに塗布され、封止され、PDPパネルが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に用いることができる処理装置の一例
【図2】その処理装置を用いた処理方法を説明するための図
【図3】その処理装置の開口付近を説明するための斜視図
【図4】(a):本発明によって処理する基板の一例 (b):本発明によって得られるPDPパネルの一例
【図5】本発明に用いることができる処理装置の他の例
【図6】一般的なPDPパネルの例
【図7】粉体BAMとペーストBAMの発光強度の比較
【図8】熱ルミネッセンス法による発効強度のグラフ
【図9】水素ガス含有率と発光強度維持率の関係を示すグラフ
【図10】基板温度と発光強度維持率の関係を示すグラフ
【図11】プラズマを形成するガスと発光強度比の関係を示すグラフ
【図12】水素ガスを含む処理ガスのプラズマに曝さない場合の発光時間と発光強度の関係を示すグラフ(BAMと(Y,Gd)BO3:Eu3+)
【図13】水素ガスを含む処理ガスのプラズマに曝した場合の発光時間と発光強度の関係を示すグラフ(BAMと(Y,Gd)BO3:Eu3+)
【図14】未処理の場合と、プラズマを発生させずに水素ガスに曝した場合の発光時間と発光強度の関係を示すグラフ
【符号の説明】
【0052】
12、52……プラズマ発生源
71……アンテナ
35B……青色蛍光体
35R……赤色蛍光体
60……蛍光体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空雰囲気中にEuを含有する蛍光体を配置し、
水素ガスを含有する処理ガスのプラズマを前記真空雰囲気中に形成し、
前記蛍光体を前記プラズマに曝す蛍光体の処理方法。
【請求項2】
前記蛍光体はBa(1-x)MgAl10O17Euxを含有する青色蛍光体である請求項1記載の蛍光体の処理方法。
【請求項3】
真空雰囲気中に波長580nm以上650nm以下の範囲に最大発光項強度がある赤色蛍光物質を含有する赤色蛍光体を配置し、
水素ガスを含有する処理ガスのプラズマを前記真空雰囲気中に形成し、
前記緑色蛍光体を前記プラズマに曝す赤色蛍光体の処理方法。
【請求項4】
前記赤色蛍光物質は、(Y,Gd)BO3:Eu3+ 、Y2O3:Eu3+ 、又はY(P,V)O4:Eu3+ のうちのいずれか一種以上の化合物である請求項3記載の赤色蛍光体の処理方法。
【請求項5】
真空雰囲気中に波長400nm以上500nm以下の範囲に最大発光項強度がある青色蛍光物質を含有する青色蛍光体を配置し、
水素ガスを含有する処理ガスのプラズマを前記真空雰囲気中に形成し、
前記青色蛍光体を前記プラズマに曝す青色蛍光体の処理方法。
【請求項6】
前記青色蛍光物質は、BaMgAl10O17:Eu2+ 又は CaMgSi2O6:Eu2+ のうちのいずれか一種以上の化合物である請求項5記載の青色蛍光体の処理方法。
【請求項7】
プラズマ発生源内に前記処理ガスを導入し、前記プラズマ発生源内で前記処理ガスのプラズマを生成し、前記プラズマ発生源の開口に面する位置に配置された前記青色蛍光体又は前記赤色蛍光体のいずれか一方又は両方に前記プラズマを照射する請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の蛍光体の処理方法。
【請求項8】
前記プラズマ発生源内にアンテナを配置し、前記アンテナに高周波電圧を印加してマイクロ波を発生させ、前記プラズマ発生源内に導入された前記処理ガスに前記マイクロ波を照射して、前記プラズマ発生源内の前記処理ガスをプラズマ化する請求項7記載の蛍光体の処理方法。
【請求項9】
前記プラズマ発生源にマイクロ波を供給し 、前記マイクロ波によって、前記プラズマ発生源内の前記処理ガスをプラズマ化する請求項7記載の蛍光体の処理方法。
【請求項10】
前記水素ガスは、前記処理ガス内に0.05体積%以上含有させる請求項5乃至請求項9のいずれか1項記載の蛍光体の処理方法。
【請求項11】
前記青色蛍光体を300℃以上に昇温させ、前記プラズマを照射する請求項1乃至請求項10のいずれか1項記載の蛍光体の処理方法。
【請求項1】
真空雰囲気中にEuを含有する蛍光体を配置し、
水素ガスを含有する処理ガスのプラズマを前記真空雰囲気中に形成し、
前記蛍光体を前記プラズマに曝す蛍光体の処理方法。
【請求項2】
前記蛍光体はBa(1-x)MgAl10O17Euxを含有する青色蛍光体である請求項1記載の蛍光体の処理方法。
【請求項3】
真空雰囲気中に波長580nm以上650nm以下の範囲に最大発光項強度がある赤色蛍光物質を含有する赤色蛍光体を配置し、
水素ガスを含有する処理ガスのプラズマを前記真空雰囲気中に形成し、
前記緑色蛍光体を前記プラズマに曝す赤色蛍光体の処理方法。
【請求項4】
前記赤色蛍光物質は、(Y,Gd)BO3:Eu3+ 、Y2O3:Eu3+ 、又はY(P,V)O4:Eu3+ のうちのいずれか一種以上の化合物である請求項3記載の赤色蛍光体の処理方法。
【請求項5】
真空雰囲気中に波長400nm以上500nm以下の範囲に最大発光項強度がある青色蛍光物質を含有する青色蛍光体を配置し、
水素ガスを含有する処理ガスのプラズマを前記真空雰囲気中に形成し、
前記青色蛍光体を前記プラズマに曝す青色蛍光体の処理方法。
【請求項6】
前記青色蛍光物質は、BaMgAl10O17:Eu2+ 又は CaMgSi2O6:Eu2+ のうちのいずれか一種以上の化合物である請求項5記載の青色蛍光体の処理方法。
【請求項7】
プラズマ発生源内に前記処理ガスを導入し、前記プラズマ発生源内で前記処理ガスのプラズマを生成し、前記プラズマ発生源の開口に面する位置に配置された前記青色蛍光体又は前記赤色蛍光体のいずれか一方又は両方に前記プラズマを照射する請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の蛍光体の処理方法。
【請求項8】
前記プラズマ発生源内にアンテナを配置し、前記アンテナに高周波電圧を印加してマイクロ波を発生させ、前記プラズマ発生源内に導入された前記処理ガスに前記マイクロ波を照射して、前記プラズマ発生源内の前記処理ガスをプラズマ化する請求項7記載の蛍光体の処理方法。
【請求項9】
前記プラズマ発生源にマイクロ波を供給し 、前記マイクロ波によって、前記プラズマ発生源内の前記処理ガスをプラズマ化する請求項7記載の蛍光体の処理方法。
【請求項10】
前記水素ガスは、前記処理ガス内に0.05体積%以上含有させる請求項5乃至請求項9のいずれか1項記載の蛍光体の処理方法。
【請求項11】
前記青色蛍光体を300℃以上に昇温させ、前記プラズマを照射する請求項1乃至請求項10のいずれか1項記載の蛍光体の処理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2008−38134(P2008−38134A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−132464(P2007−132464)
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(392036326)株式会社アドテック プラズマ テクノロジー (24)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(392036326)株式会社アドテック プラズマ テクノロジー (24)
【Fターム(参考)】
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