説明

静止誘導電気機器

【課題】 外形寸法をあまり大きくせず、かつ大がかりな補機を必要とせずに、短時間過負荷運転を行うことのできる静止誘導電気機器を提供する。
【解決手段】 この静止誘導電気機器は、本体タンク2の外面に接して取り付けられていて水12を貯める密閉式の水タンク10と、この水タンク10の上部付近に取り付けられていて、常時は閉じており水タンク10内の圧力が所定値以上になると開放する放圧弁16とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば変圧器、リアクトル等の静止誘導電気機器に関し、特に、短時間過負荷運転を行うことのできる静止誘導電気機器に関する。
【背景技術】
【0002】
本体タンク内に、静止誘導電気機器本体(例えば変圧器本体またはリアクトル本体)および絶縁油を収納して成る静止誘導電気機器(例えば変圧器またはリアクトル)は公知である。
【0003】
このような静止誘導電気機器であって、短時間過負荷運転を行うことができるものへのニーズがある。短時間過負荷運転とは、例えば、定格負荷の5〜20倍程度の負荷を、3〜10時間程度かけるという条件での運転をいう。より具体例を挙げれば、定格負荷の10倍の負荷を5時間かけるという運転である。
【0004】
上記のような短時間過負荷運転時に静止誘導電気機器(具体的にはその本体)の温度上昇を抑制することに利用することのできる従来の技術としては、次のものがある。
【0005】
(1)短時間過負荷運転用に、放熱器を取り付ける。
【0006】
(2)短時間過負荷運転時に、ファンによる強制冷却(強制空冷)を行う。
【0007】
(3)特許文献1に記載されているように、短時間過負荷運転時に、散水器から本体タンクに水を散水して、本体タンク表面に付着した水による本体タンク表面からの蒸発潜熱を利用して冷却を行う。
【0008】
【特許文献1】特開平9−120916号公報(段落0011、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記(1)に示した技術においては、常時は必要でないにも拘わらず、極めて大型の放熱器が必要になると共に、外形寸法が非常に大きくなるという課題がある。
【0010】
上記(2)に示した技術においては、ファンおよびそれ用の制御器等の大がかりな補機ならびに電源が必要になるという課題がある。
【0011】
上記(3)に示した技術においては、散水器およびそれ用の給水配管等の大がかりな補機が必要になるという課題がある。更に、本体タンク表面からの水の蒸発潜熱では、ある程度の放熱は可能であるけれども大量の放熱は困難であるので、上記のような短時間過負荷運転に対しては、冷却が追いつかず、内部の静止誘導電気機器本体の温度上昇が過大になって当該本体が損傷を受けるので、上記のような短時間過負荷運転に対応することができないという課題がある。
【0012】
そこでこの発明は、外形寸法をあまり大きくせず、かつ大がかりな補機を必要とせずに、短時間過負荷運転を行うことのできる静止誘導電気機器を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明に係る静止誘導電気機器は、本体タンクの外面に取り付けられていて、水を貯める密閉式の水タンクと、この水タンクの上部付近に取り付けられていて、常時は閉じており水タンク内の圧力が所定値以上になると開放する放圧弁とを備えることを特徴としている。
【0014】
この静止誘導電気機器によれば、短時間過負荷運転時に本体タンクの温度が上昇すると、本体タンクの熱が水タンクに伝わって水タンクおよびその内部に貯めた水の温度も上昇し、水タンク内に貯めた水の温度が約100℃になると、この水が沸騰しながら蒸発し、この水の沸騰および蒸発による放熱によって、本体タンクひいてはその内部の絶縁油および静止誘導電気機器本体を冷却することができる。
【0015】
この場合、水タンク内に貯めた水の温度は必ず約100℃に抑えられるので、それに応じた温度に、本体タンク、その内部の絶縁油および静止誘導電気機器本体の温度は抑えられる。従って、短時間過負荷運転に耐えることができる。しかも、水タンクを取り付けるだけなので、外形寸法をあまり大きくせずに済み、かつ大がかりな補機を必要としない。
【0016】
また、水タンクに取り付けた放圧弁は、常時は閉じているので、水タンクが密閉式であることと協働して、水タンク内に貯めた水の自然蒸発による減少を防ぐことができる。その結果、水タンク内に一旦水を貯めた後は、いつでも短時間過負荷運転に対応することができる。短時間過負荷運転時には、上記放圧弁は開放して、水タンク内の圧力が過大に上昇するのを防止することができる。
【0017】
なお、上記水タンクは、本体タンクの上面に取り付けても良いし、本体タンクの側面に取り付けても良い。側面に取り付ける場合は、水タンクの内部に保水材を取り付けておいても良い。
【発明の効果】
【0018】
請求項1ないし4に記載の発明によれば、静止誘導電気機器の外形寸法をあまり大きくせず、かつ大がかりな補機を必要とせずに、いつでも短時間過負荷運転に対応することができる。また、冷却手段用の電源も不要である。
【0019】
更に、請求項2に記載の発明によれば、水タンクを本体タンクの上面に取り付けているので、水タンクの一定の容積を確保するのに水タンクの平面積を大きく取ることができ、短時間過負荷運転時の水位低下を小さく抑えることができる。しかも水位が低下しても、水は水タンクの底面の全面に接しているので、冷却性能は殆ど変化しない。このような更なる効果を奏する。
【0020】
請求項3に記載の発明によれば、水タンクを本体タンクの側面に取り付けているので、本体タンクの上面上のスペースがあき、そのスペースの有効活用を図ることができる、という更なる効果を奏する。
【0021】
請求項4に記載の発明によれば、本体タンクの側面に取り付けた水タンクの内部に保水材を取り付けているので、短時間過負荷運転時に水タンク内の水位が低下しても、保水材内の水が蒸発することによって冷却性能を発揮することができるので、水位低下による冷却性能を低下を抑制することができる、という更なる効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は、この発明に係る静止誘導電気機器の一実施形態を示す概略図であり、Aは平面図、Bは正面図である。
【0023】
この静止誘導電気機器は、本体タンク2内に、静止誘導電気機器本体4および絶縁油6を収納して成る。
【0024】
静止誘導電気機器本体4は、例えば、この静止誘導電気機器が変圧器の場合は変圧器本体、リアクトルの場合はリアクトル本体である。
【0025】
この実施形態では、絶縁油6は本体タンク2内に充満させており、この絶縁油6の膨張・収縮を吸収する油量調整装置(これはコンサベータとも呼ばれる)を備えているけれども、その図示を省略している。図2に示す実施形態の場合も同様である。
【0026】
本体タンク2の外面の例である上面2aに、水12を貯める密閉式の水タンク10を接して取り付けている。即ち、本体タンク2の上面2aに、水タンク10を直接接触させて取り付けている。但し、このようにする代わりに、本体タンク2の外面と水タンク10との間に、必要に応じて、例えば鉄板、ステンレス鋼板等の伝熱体を介在させて取り付けても良い。要は、水タンク10を本体タンク2に熱的に(好ましくは小さい熱抵抗で)結合させて、本体タンク2の熱を水タンク10に効率良く伝えることができれば良い。図2、図3に示す実施形態の場合も同様である。
【0027】
水タンク10をこの実施形態のように本体タンク2の上面2aに取り付ける場合は、絶縁油6は前記のように本体タンク2内に充満させておくのが好ましい。そのようにすると、静止誘導電気機器本体4と上面2aひいては水タンク10との間の絶縁油6を介しての熱伝導が良くなるからである。図2、図3に示す実施形態の場合は、水タンク10は本体タンク2の側面2bに取り付けているので、絶縁油6は必ずしも充満させる必要はない。
【0028】
水タンク10は、給水口を有しているけれどもそこには蓋が設けてあり(いずれも図示省略)、密閉式にしている。密閉式にしているのは、一旦貯めた水12が自然蒸発によって減少するのを防止することができるためである。図2、図3に示す実施形態の場合も同様である。
【0029】
水タンク10の上部付近には、より具体的にはこの例では水タンク10の上面には、常時は閉じており、水タンク10内の圧力が所定値以上になると開放して水蒸気を外部へ放出する放圧弁16を取り付けている。この放圧弁16は、避圧弁、避圧装置等とも呼ばれる。
【0030】
水タンク10内の上部には幾らかの空間14を設けて、即ち上部に幾らかの空間14が残るように水12を貯めて、放圧弁16の機構が水12に没しないようにするのが、放圧弁16の動作上等の観点から好ましい。そのためには、放圧弁16は水タンク10の上部付近に設けるのが好ましく、水タンク10の上面に設けるのがより好ましい。
【0031】
前述したようなこの静止誘導電気機器によれば、短時間過負荷運転時に、静止誘導電気機器本体4および絶縁油6の温度が上昇し、本体タンク2の温度が上昇すると、本体タンク2の熱が水タンク10に伝わって水タンク10およびその内部に貯めた水12の温度も上昇し、水タンク10内に貯めた水12の温度が約100℃になると、この水12が沸騰しながら蒸発し、この水12の沸騰および蒸発による放熱によって、本体タンク2ひいてはその内部の絶縁油6および静止誘導電気機器本体4を冷却することができる。
【0032】
この場合、水タンク10内に貯めた水12の温度は必ず約100℃に抑えられるので、それに応じた温度に、本体タンク2、その内部の絶縁油6および静止誘導電気機器本体4の温度は抑えられる。従って、短時間過負荷運転に耐えることができる。しかも、水タンク10を取り付けるだけなので、外形寸法をあまり大きくせずに済み、かつ大がかりな補機を必要としない。また、冷却手段用の電源も不要である。
【0033】
例えば、定格容量が100kVAの変圧器で前述した10倍−5時間という短時間過負荷運転の場合、静止誘導電気機器本体4の温度は250℃程度に、絶縁油6の温度は200℃程度に抑えることができる。静止誘導電気機器本体4および絶縁油6をこの程度の温度に耐えるようにすることは、公知の技術によって容易である。例えば、シリコーンオイルは耐熱温度が300℃程度あるので、それを絶縁油6に用いれば良い。また、静止誘導電気機器本体4に用いる絶縁物を上記温度に耐える材質にすれば良い。
【0034】
前記(3)に示した散水器を用いる従来技術の場合は、上記と同様の条件を仮定すると、本体タンクの温度は、100℃を遙かに超える。例えば、数百℃程度にはなる。本体タンクがこのような高温になると、その内部の静止誘導電気機器本体および絶縁油の温度はそれよりももっと高温になるので、そのような高温に耐えることはできない。
【0035】
なお、静止誘導電気機器本体4および絶縁油6を上記のような温度に耐えるものにすると、定常(通常)運転時には放熱器は設けなくても良くなるので、この実施形態では放熱器は設けていないが、必要に応じて設けても良い。図2、図3に示す実施形態の場合も同様である。
【0036】
水タンク10の容量は、即ち水タンク10内に貯める水12の量は、短時間過負荷運転の条件に応じて決めれば良い。即ち、当該運転条件が過酷なほど、水タンク10内に貯める水12の量を増やせば良い。具体的には、所定倍の過負荷で所定時間運転しても、水12が全部沸騰して空にならない容量にすれば良い。
【0037】
この静止誘導電気機器は、単に本体タンク2に水タンク10を取り付けたのではなく、水タンク10を密閉式にし、かつ水タンク10に放圧弁16を取り付けている。放圧弁16は、常時は閉じているので、水タンク10が密閉式であることと協働して、水タンク10内に貯めた水12の自然蒸発による減少を防ぐことができる。その結果、水タンク10内に一旦水12を貯めた後は、いつでも短時間過負荷運転に対応することができる。短時間過負荷運転時には、放圧弁16は開放して、水タンク10内の圧力が過大に上昇するのを防止することができる。
【0038】
短時間過負荷運転後は、水タンク10内の水12は減少するので、そのときは前述した給水口から水12を補給すれば良い。ただし、短時間過負荷運転は、通常は緊急時にのみ行われるものであって、頻繁に行われるものではないので、このような水12の補給方式でも支障はない。従って、この静止誘導電気機器は、非常に簡素な構成で済む。
【0039】
この実施形態のように水タンク10を本体タンク2の上面2aに取り付けると、水タンク10の一定の容積を確保するのに水タンク10の平面積を大きく取ることができるので、短時間過負荷運転時の水12の水位低下を小さく抑えることができる。しかも水位が低下しても、水12は水タンク10の底面の全面に接しているので、冷却性能は殆ど変化しない。この観点からは、水タンク10はこの実施形態のように本体タンク2の上面2aに取り付けるのが好ましい。
【0040】
水タンク10を本体タンク2の上面2aに取り付けたので、静止誘導電気機器本体4への入出力用のブッシング8は、この実施形態では本体タンク2の側面2bに取り付けている。
【0041】
次に、図2に示す実施形態を、図1の実施形態との相違点を主体に説明すると、図2の実施形態では、上記のような放圧弁16を取り付けた水タンク10を、本体タンク2の外面の例である左右の側面2bに一つずつ取り付けている。水12は、各水タンク10内のできるだけ高い位置まで入れておくのが好ましい。
【0042】
この実施形態では、本体タンク2の上面2a上のスペースが空くので、そのスペースの有効活用を図ることができる。この観点からは、水タンク10はこの実施形態のように本体タンク2の側面2bに取り付けるのが好ましい。この実施形態では、上面2aに前記ブッシング8および前記油量調整装置(図示省略)を配置している。
【0043】
次に、図3に示す実施形態を、図2の実施形態との相違点を主体に説明すると、図3の実施形態では、本体タンク2の側面に取り付けたそれぞれの水タンク10内の上部から下部にかけて、内部に水12を貯める保水材18を、水タンク10の本体タンク2側の面(側面)に接触させて取り付けている。この実施形態の場合も、水12は、各水タンク10内のできるだけ高い位置まで入れておくのが好ましい。
【0044】
保水材18は、例えば、毛細管現象が高い吸水性繊維等から成る。このような保水材18は、例えば、それ自身の体積の50〜80倍程度の水を貯めることができる。保水材18は、吸水材と呼ぶこともできる。
【0045】
保水材18を取り付けておく範囲は、水タンク10内の上端から下端までが好ましい。また、保水材18は、水タンク10の本体タンク2側の面以外の面にも取り付けておいても良い。
【0046】
この図3の実施形態では、短時間過負荷運転時に、蒸発によって水タンク10内の水12のレベル(水位)が低下しても、保水材18内の水が蒸発することによって冷却性能を発揮することができる。即ち、水位が低下しても、毛細管現象によって水12のある所から保水材18には次々に水12が供給されるので、保水材18は水を蒸発させ続けることができ、それによって本体タンク2ひいては静止誘導電気機器本体4に対する冷却性能を発揮し続けることができる。従って、水位低下による冷却性能の低下を抑制することができる。
【0047】
また、保水材18は通常は保水性が高く、多量の水を貯めておくことができるので、水タンク10を小型化することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】この発明に係る静止誘導電気機器の一実施形態を示す概略図であり、Aは平面図、Bは正面図である。
【図2】この発明に係る静止誘導電気機器の他の実施形態を示す概略図であり、Aは平面図、Bは正面図である。
【図3】この発明に係る静止誘導電気機器の更に他の実施形態を示す概略図であり、Aは平面図、Bは正面図である。
【符号の説明】
【0049】
2 本体タンク
4 静止誘導電気機器本体
6 絶縁油
10 水タンク
12 水
16 放圧弁
18 保水材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体タンク内に、静止誘導電気機器本体および絶縁油を収納して成る静止誘導電気機器において、前記本体タンクの外面に取り付けられていて、水を貯める密閉式の水タンクと、この水タンクの上部付近に取り付けられていて、常時は閉じており水タンク内の圧力が所定値以上になると開放する放圧弁とを備えることを特徴とする静止誘導電気機器。
【請求項2】
本体タンク内に、静止誘導電気機器本体および絶縁油を収納して成る静止誘導電気機器において、前記本体タンクの上面に取り付けられていて、水を貯める密閉式の水タンクと、この水タンクの上部付近に取り付けられていて、常時は閉じており水タンク内の圧力が所定値以上になると開放する放圧弁とを備えることを特徴とする静止誘導電気機器。
【請求項3】
本体タンク内に、静止誘導電気機器本体および絶縁油を収納して成る静止誘導電気機器において、前記本体タンクの側面に取り付けられていて、水を貯める密閉式の水タンクと、この水タンクの上部付近に取り付けられていて、常時は閉じており水タンク内の圧力が所定値以上になると開放する放圧弁とを備えることを特徴とする静止誘導電気機器。
【請求項4】
前記水タンク内の上部から下部にかけて、内部に水を貯める保水材を、当該水タンクの前記本体タンク側の面に接触させて取り付けている請求項3記載の静止誘導電気機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−237327(P2006−237327A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−50605(P2005−50605)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【Fターム(参考)】