静電塗装システム、静電塗装用スプレーガン、および、交流電源装置
【課題】アース体を着脱可能に構成したとしても、塗装作業中にアース体が帯電してしまうことを確実に防止し、塗装作業の安全性を向上する。
【解決手段】スプレーガン2のアースリング7は、ガン本体に着脱可能に構成され、ガン本体に装着された状態で、接地が施された電源線3aの開路部3cを閉路する。交流電源装置4の制御回路8は、カレントコイル13によって電源線3を流れる電流または電源線3の電圧を検出し、スプレーガン2の高電圧発生装置5に交流電圧Vacを供給しているときに検出電流または検出電圧が減少した場合、または、電流または電圧が検出されない場合には、高電圧発生装置5への交流電圧Vacの供給を停止する。
【解決手段】スプレーガン2のアースリング7は、ガン本体に着脱可能に構成され、ガン本体に装着された状態で、接地が施された電源線3aの開路部3cを閉路する。交流電源装置4の制御回路8は、カレントコイル13によって電源線3を流れる電流または電源線3の電圧を検出し、スプレーガン2の高電圧発生装置5に交流電圧Vacを供給しているときに検出電流または検出電圧が減少した場合、または、電流または電圧が検出されない場合には、高電圧発生装置5への交流電圧Vacの供給を停止する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電させた塗料を噴霧して被塗物に塗着させる静電塗装用スプレーガンと、交流電圧を発生する交流電源装置とを備えて構成される静電塗装システム、当該静電塗装システムを構成する静電塗装用スプレーガン、および、当該静電塗装システムを構成する交流電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体などの塗装方法の一つに静電塗装がある。静電塗装は、被塗物(車体など)と塗装装置との間に高電圧を加えて静電界(電気力線)を形成するとともに塗料粒子を帯電させて噴出することによって、静電引力によって被塗物に塗料を吸着させる方法である。
このような静電塗装用の塗装装置として、例えば特許文献1に記載の静電塗装用スプレーガンは、ガン本体の塗料流路内に電極を有しており、この電極に高電圧を供給することによって、電極と被塗物との間に高電圧を印加するとともに塗料粒子を帯電させるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−349306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
静電塗装用スプレーガンには、高電圧発生回路を有する高電圧発生装置が内蔵されており、この高電圧発生装置が発生する高電圧が電極に印加されるようになっている。従って、塗料粒子の帯電効率、ひいては、塗料の塗着効率を向上させるために、大型の高電圧発生装置やスペック(印加可能な電圧の最大値)が高い高電圧発生装置を内蔵すると、これに応じて静電塗装用スプレーガンも大型化,重量化する。また、高電圧を維持するためには、静電塗装用スプレーガンにおいて電極が設けられる部分(一般的には、ガン本体の先端部分)と、接地される部分(一般的には、ガン本体の後端部に設けられるグリップ部分)との間に、ある程度の距離を確保しなければならない。
【0005】
このような事情から、静電塗装用スプレーガンは、その構成上、一般的に大型化,重量化する傾向にあり、従って、静電塗装用スプレーガンにおいては、さらなる小型化,軽量化を図ることが望まれている。
【0006】
そこで、このような課題を解決することを目的として、導電性のアース体を電極の近傍において当該電極と間隔を有して配置し、且つ、当該アース体を接地経路を介して接地した構成の静電塗装用スプレーガンが考えられている。
【0007】
このような構成の静電塗装用スプレーガンによれば、電極とアース体との間に形成される電界によって塗料粒子の帯電効率が促進され、これにより、塗料の塗着効率の向上を図ることができる。従って、高電圧発生装置が発生する電圧を低下させたとしても、従来と同程度に塗料を帯電(静電化)させることができる。
【0008】
そして、このように高電圧発生装置が発生する電圧を低下させることができるので、接地された導電性のアース体を、高電圧が供給される電極の近傍に支障なく配置することができ、アース体と電極との距離を短くすることができる。また、アース体を電極の近傍において当該電極と間隔を有して配置した構造はコンパクトであり、静電塗装用スプレーガンの小型化、軽量化を図ることができる。
【0009】
ところで、上記のようなアース体は、当該アース体が帯電しないように確実に接地電位に保持する必要がある。帯電したアース体が周囲の接地された物体に接近したり接触すると、静電気放電が生じ、周囲の爆発性ガス(噴出された塗料に含まれる有機溶剤がガス化したものなど)に着火する危険があるからである。
【0010】
ここで、アース体を確実に接地電位に保持できる構成として、当該アース体を静電塗装用スプレーガンから取り外せない構造、即ち、アース体を常に接地経路に接続された状態とする構造が考えられる。しかしながら、アース体には塗装に伴い塗料が付着するので、当該アース体を清掃しなければならないという事情がある。そのため、アース体を静電塗装用スプレーガンから取り外せない構造とすると、当該アース体を清掃し難くなり、清掃の作業性が悪い。
【0011】
一方、アース体を静電塗装用スプレーガンから取り外し可能な構造とすれば、当該アース体の清掃を容易に行うことができる。しかし、清掃したアース体を静電塗装用スプレーガンに取り付ける際に、その装着が不確実になるおそれがあり、このような場合に、アース体を接地電位に保持できなくなる。また、塗装作業中にアース体が静電塗装用スプレーガンから外れてしまう場合があり、このような場合も、アース体を接地電位に保持できなくなる。従って、単にアース体を静電塗装用スプレーガンから取り外し可能に構成したのでは、アース体を確実に接地電位に保持できなくなるおそれがあり、アース体の帯電に伴う爆発性ガスの着火などの事故を招いてしまう危険がある。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、アース体を着脱可能に構成したとしても、塗装作業中にアース体が帯電してしまうことを確実に防止でき、塗装作業の安全性を向上することができる静電塗装システム、当該静電塗装システムを構成する静電塗装用スプレーガン、および、当該静電塗装システムを構成する交流電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した目的を達成するために、本発明の静電塗装システムは、帯電させた塗料を噴霧して被塗物に塗着させる静電塗装用スプレーガンと、交流電圧を発生する交流電源装置とを備えて構成される静電塗装システムにおいて、前記静電塗装用スプレーガンは、非導電性材料で構成されたガン本体と、前記交流電源装置から交流電圧供給線を介して供給された交流電圧に基づいて直流高電圧を発生する高電圧発生手段と、前記高電圧発生手段が発生した直流高電圧が印加され、噴霧する塗料を帯電させる電極と、前記ガン本体に着脱可能とされ、その装着状態において前記電極に対して離間した状態で配設され、前記直流高電圧が印加される前記電極との間に電界を生成する導電性を有するアース体とを備え、前記交流電源装置は、前記交流電圧供給線を介して流れる電流または前記交流電圧供給線の電圧を検出する検出手段と、前記検出電流または前記検出電圧に基づいて、前記交流電圧供給線を介した前記高電圧発生手段への交流電圧の供給を制御する制御手段とを備え、前記交流電圧供給線のうち接地が施された接地側供給線の一部には開路部が形成され、前記アース体は、前記ガン本体に装着された状態で、前記開路部を閉路するように構成され、前記制御手段は、前記高電圧発生手段に交流電圧を供給しているときに前記検出電流または前記検出電圧が減少した場合、または、前記電流または前記電圧が検出されない場合には、前記高電圧発生手段への交流電圧の供給を停止するように構成されていることに特徴を有する。
【0014】
本発明の静電塗装用スプレーガンは、帯電させた塗料を噴霧して被塗物に塗着させるものであって、交流電圧を発生する交流電源装置とともに静電塗装システムを構成する静電塗装用スプレーガンにおいて、非導電性材料で構成されたガン本体と、前記交流電源装置から交流電圧供給線を介して供給された交流電圧に基づいて直流高電圧を発生する高電圧発生手段と、前記高電圧発生手段が発生した直流高電圧が印加され、噴霧する塗料を帯電させる電極と、前記ガン本体に着脱可能とされ、その装着状態において前記電極に対して離間した状態で配設され、前記直流高電圧が印加される前記電極との間に電界を生成する導電性を有するアース体とを備え、前記交流電圧供給線のうち接地が施された接地側供給線の一部には開路部が形成され、前記アース体は、前記ガン本体に装着された状態で、前記開路部を閉路するように構成されていることに特徴を有する。
【0015】
本発明の交流電源装置は、交流電圧を発生するものであって、交流電圧供給線を介して供給された交流電圧に基づいて直流高電圧を発生する高電圧発生手段を備えた静電塗装用スプレーガンとともに静電塗装システムを構成する交流電源装置において、前記交流電圧供給線を介して流れる電流または前記交流電圧供給線の電圧を検出する検出手段と、前記検出電流または前記検出電圧に基づいて、前記交流電圧供給線を介した前記高電圧発生手段への交流電圧の供給を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、前記高電圧発生手段に交流電圧を供給しているときに前記検出電流または前記検出電圧が減少した場合、または、前記電流または前記電圧が検出されない場合には、前記高電圧発生手段への交流電圧の供給を停止するように構成されていることに特徴を有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の静電塗装システムによれば、静電塗装用スプレーガンのアース体は、ガン本体に着脱可能に構成され、ガン本体に装着された状態で、交流電圧供給線のうち接地が施された接地側供給線の開路部を閉路する。従って、アース体のガン本体への装着が不確実な状態では、交流電圧供給線を介して流れる電流、或いは、交流電圧供給線の電圧が減少する。また、アース体がガン本体から外れた状態では、交流電圧供給線に電流が流れず、交流電圧供給線に電圧も生じない。
【0017】
一方、交流電源装置の制御手段は、静電塗装用スプレーガンの高電圧発生手段に交流電圧を供給しているときに検出電流または検出電圧が減少した場合、即ち、アース体のガン本体への装着が不確実な場合には、高電圧発生手段への交流電圧の供給を停止する。また、交流電源装置の制御手段は、電流または電圧が検出されない場合、即ち、アース体がガン本体から外れた場合には、高電圧発生手段への交流電圧の供給を停止する。
【0018】
このように、アース体を着脱可能に構成したとしても、当該アース体のガン本体への装着が不確実な場合や、当該アース体がガン本体から外れた場合には、高電圧発生手段への交流電圧の供給が停止される。これにより、塗装作業中にアース体が帯電してしまうことを確実に防止でき、塗装作業の安全性を向上することができる。
【0019】
本発明の静電塗装用スプレーガンによれば、アース体は、ガン本体に着脱可能に構成され、ガン本体に装着された状態で、交流電圧供給線のうち接地が施された接地側供給線の開路部を閉路する。従って、本発明の交流電源装置とともに静電塗装システムを構成することで、塗装作業中にアース体が帯電してしまうことを確実に防止でき、塗装作業の安全性を向上することができる。
【0020】
本発明の交流電源装置によれば、静電塗装用スプレーガンの高電圧発生手段に交流電圧を供給しているときに検出電流または検出電圧が減少した場合には、高電圧発生手段への交流電圧の供給を停止する。また、本発明の交流電源装置によれば、電流または電圧が検出されない場合には、高電圧発生手段への交流電圧の供給を停止する。従って、本発明の静電塗装用スプレーガンとともに静電塗装システムを構成することで、塗装作業中にアース体が帯電してしまうことを確実に防止でき、塗装作業の安全性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施形態を示すものであり、静電塗装システムの電気的構成図
【図2】静電塗装用スプレーガンの全体構成を示す縦断側面図
【図3】静電塗装用スプレーガンの先端部分を拡大して示す縦断側面図
【図4】静電塗装用スプレーガンの先端部分の正面図
【図5】アースリングの構成を示す縦断側面図
【図6】電源コネクタの構成を示す図
【図7】(a)はガン本体の後面を示す図、(b)は静電塗装用スプレーガンに内蔵された高電圧発生装置の後面を示す図
【図8】アースリングがガン本体に装着された状態を示す静電塗装用スプレーガンの斜視図
【図9】アースリングがガン本体から取り外された状態を示す静電塗装用スプレーガンの斜視図
【図10】電極に印加される電圧と塗料の塗着効率との関係を示す図
【図11】本発明の第2の実施形態を示す図1相当図
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態について、図1ないし図10を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る静電塗装システム1の電気的構成を概略的に示すブロック図である。静電塗装システム1は、帯電させた塗料を噴霧して被塗物に塗着させる静電塗装用スプレーガン2(以下、スプレーガン2と称する)と、このスプレーガン2に電源線3(交流電圧供給線に相当)を介して交流電圧Vacを供給する交流電源装置4とを備えて構成されている。
【0023】
スプレーガン2は、高電圧発生装置5(高電圧発生手段に相当)と、ピン電極6と、アースリング7(アース体に相当)とを備えて構成されている。
高電圧発生装置5は、高電圧発生回路を構成する昇圧トランス5aと、高圧整流回路5b(例えばコッククロフト−ウォルトン型の倍電圧整流回路)と、出力抵抗5cとを一体にモールドしたカスケード型の高電圧発生装置である。この高電圧発生装置5は、交流電源装置4から供給された交流電圧Vacに基づいて直流高電圧Vdcを発生するものである。ピン電極6は、後述する構成により、高電圧発生装置5が発生した直流高電圧Vdcが印加されるようになっており、スプレーガン2から噴霧する塗料を帯電させるものである。アースリング7は、例えばステンレス製であり、導電性を有している。このアースリング7は、後述する構成により、スプレーガン2のガン本体21(図2,図3参照)に着脱可能とされ、その装着状態においてピン電極6に対して離間した状態で配設される。そして、このアースリング7は、後述する構成により、高電圧発生装置5が印加されるピン電極6との間に電界を生成する。以上は、スプレーガン2の概略的な構成を説明した。このスプレーガン2の詳細な構成については後述する。
【0024】
次に、交流電源装置4の構成について説明する。
交流電源装置4は、交流電圧Vacを発生するものであり、制御回路8(制御手段に相当)と、直流電源9(この場合、DC20V)と、2つのスイッチング素子10,11と、出力トランス12と、カレントコイル13(検出手段に相当)と、安全回路14とを備えて構成されている。
【0025】
直流電源9の出力は、出力トランス12の1次側において、スイッチング素子10,11を介して電源グランドに接続されている。具体的には、直流電源9の出力端子は、出力トランス12とスイッチング素子10とによって接地電位に対して正側に、出力トランス12とスイッチング素子11とによって接地電位に対して負側になるように接続されている。
【0026】
スイッチング素子10,11は、半導体スイッチ(この場合、トランジスタ)により構成されており、通電により導通状態が制御可能である。スイッチング素子10,11は、通電されると導通状態(オン)になり、通電が停止されると非導通状態(オフ)になる。スイッチング素子10,11のオン/オフは、制御回路8によって制御される。制御回路8は、図示しないCPU、ROM、RAMなどを備えたマイクロコンピュータを主体に構成されており、スイッチング素子10,11の通電時間(オン時間)に応じたパルス状の駆動信号を生成し、それぞれのスイッチング素子10,11へ出力する。
【0027】
スイッチング素子10,11は、制御回路8から出力される駆動信号に連動してその通電状態(オン/オフ状態)が変化し、直流電源9の出力を正側、或いは、負側に切り換える。駆動信号は、スイッチング素子10,11のオン状態が互いに重なることがないタイミングで出力される。この駆動信号のパルス幅に応じてスイッチング素子10,11が交互にオン/オフを繰り返すことにより、出力トランス12の2次側に、直流電源9の出力電圧に応じた低電圧の交流電圧Vac(この場合、AC24V/20kHz)が発生する。この交流電圧Vacは、電源線3を介して、スプレーガン2内の高電圧発生装置5に供給される。
【0028】
電源線3は、交流電圧Vacを高電圧発生装置5に供給するための一対の電源線3a,3bからなる。電源線3a(接地側供給線に相当)は、交流電源装置4側において接地線15を介して接地が施されており、接地電位に保持されるようになっている。これに対して、電源線3bは、電源線3aに対して電位が変動するようになっている。電源線3aの一部(この場合、電源線3aのうちスプレーガン2内に配設された部分)には開路部3cが形成されており、この開路部3cには、後述する一対の給電兼接地経路71,71(図2,図3参照)が接続されている。
【0029】
カレントコイル13は、接地電位に保持されない電源線3bに設けられている。制御回路8は、このカレントコイル13によって、電源線3を介して流れる電流(電源線3bを流れる電流)を検出する。制御回路8は、カレントコイル13による検出電流に基づいて、電源線3(電源線3a,3b)を介した高電圧発生装置5への交流電圧Vacの供給を制御するようになっている。この制御回路8による制御内容については後述する。
【0030】
安全回路14は、電流検出用ケーブル16を介して高電圧発生装置5の高圧整流回路5bに接続されている。この安全回路14は、高電圧発生装置5に流れる電流の大きさを、電流検出用ケーブル16を介して検出するためのものである。制御回路8は、安全回路14によって、高電圧発生装置5を流れる電流を検出し、高電圧発生装置5に過剰な電流が流れたと判断した場合には、電源線3を介したスプレーガン2への交流電圧Vacの供給を停止するなどの処理を実行する。
【0031】
次に、スプレーガン2の詳細な構成について図2ないし図9を参照して説明する。
図2に示すように、スプレーガン2は、ガン本体21と、このガン本体21の後端部(図2では右端部)に設けたグリップ22とから構成されている。ガン本体21は、例えば電気的絶縁性を有するポリアセタール樹脂やフッ素樹脂などの合成樹脂材料(非導電性材料)からなり、スプレーガン2の銃身部分(バレル部分)を構成する。このガン本体21とグリップ22との間に形成される空間内には、上記した高電圧発生装置5(高電圧発生手段に相当)が内蔵されている。
【0032】
ガン本体21内部の前部には、導電性を有する連体棒23が前方に向って下方に傾斜するように配設されている。高電圧発生装置5の前側には、連体棒23の後部が露出するように孔部24が設けられており、この孔部24には導電性のスプリング25が収容されている。スプリング25は、その後部が高電圧発生装置5の前端から突出する出力端子5dに装着され、前部が連体棒23と当接している。ガン本体21の前部には、ピン電極6を有する塗料ノズル26が設けられている。連体棒23とピン電極6は、後述する構成によって電気的に接続されるようになっている。
【0033】
一方、グリップ22は、例えば金属繊維や金属粉を含む樹脂材料で構成されており、従って、導電性を有している。このグリップ22の下部には、電源コネクタ27およびエアホース用ジョイント28が取り付けられているとともに、連結部材29を介して円筒状の塗料ホース用ジョイント30が連結されている。
【0034】
連結部材29は、ねじ31によってグリップ22の下端部に固定されている。連結部材29およびねじ31は、何れも導電性材料から構成されている。また、連結部材29には、電源コネクタ27のアース線にリード線27aを介して接続されたねじ32が螺挿されている。これにより、塗料ホース用ジョイント30と電源コネクタ27のアース線とが連結部材29を介して電気的に接続されている。
【0035】
高電圧発生に必要な高周波電圧、即ち、交流電源装置4から供給される交流電圧Vacは、グリップ22の下部の電源コネクタ27から取り入れられ、高電圧発生装置5内の昇圧トランス5aに供給される。供給された交流電圧Vacは、昇圧トランス5aで昇圧された後、高圧整流回路5bでさらに昇圧されると同時に整流され、出力抵抗5cを介して直流高電圧Vdc(30kV程度)に変換される。高電圧発生装置5が発生した直流高電圧Vdcは、出力端子5dからスプリング25を介して連体棒23に導かれ、ピン電極6に印加されるようになっている。なお、高圧整流回路5bは、回路内のダイオードの向きを変えることにより、出力電圧の極性を接地電位に対して正(プラス)または負(マイナス)の何れかにすることができる。本実施形態の場合、高圧整流回路5bの出力電圧の極性は接地電位に対して負になるように構成されている。従って、高電圧発生装置5は、この場合、ピン電極6に負極性の直流高電圧Vdc(−30kV)を印加する。
【0036】
また、ガン本体21内の下部には、前後方向に延びる孔部33が設けられている。ガン本体21の前端部には取付凹部34が設けられており、この取付凹部34の後端面において孔部33は開口している。この孔部33内の前部には塗料バルブ35が配設されている。また、孔部33内のうち塗料バルブ35の後部には空間を存して中空状のガイド部材36が配設されている。
【0037】
図3に示すように、塗料バルブ35は、導電性を有するバルブ本体37と、このバルブ本体37内を軸方向に貫通する弁口38と、この弁口38を開閉するニードル39とを備えて構成されている。バルブ本体37の前部の外周には、円環状のフランジ37aが一体的に設けられており、このフランジ37aと連体棒23の先端部とが接触するようになっている。
【0038】
孔部33のうち塗料バルブ35とガイド部材36との間の空間は弁室40とされている。ニードル39は、その前端部がテーパ状に形成されており、弁室40内を貫通して配設されている。ニードル39は、後部がガイド部材36内に挿通されており、当該ガイド部材36に沿って前後方向に移動するようになっている。弁口38は、ニードル39の前端部が当接,離間することによって開放,閉塞される。
【0039】
ニードル39は、ガン本体21の後端部に設けられた復帰バネ41(図2参照)によって、常には弁口38(図3参照)を閉塞する方向(図2では左方向)に付勢されている。そして、ガン本体21に設けられたトリガ42がグリップ22側に引かれている間のみ、ニードル39は復帰バネ41に抗して後退し、これにより、弁口38が開放される。
【0040】
図2に示すように、取付凹部34は前半部よりも後半部のほうが径小になっており、その径小部分には塗料ノズル26が着脱可能に螺合されている。塗料ノズル26は絶縁性の合成樹脂材料からなり、その前半部は取付凹部34よりも前方に突出している。塗料ノズル26内の中心部には前後方向に貫通する塗料流路43が設けられている。この塗料流路43の後端部は塗料バルブ35の弁口38(図3参照)に連通している。塗料ノズル26の前端部のうち塗料流路43の前端にあたる部分は径小に構成され、塗料吐出口44とされている。なお、取付凹部34に塗料ノズル26が装着されたことにより、塗料ノズル26の周囲部には環状の空間が形成される。この環状空間はパターンエア流路45として利用される。
【0041】
このような構成により、図示しない塗料供給源(例えば、塗料タンク)内の塗料(例えば、電気抵抗が比較的高い溶剤系塗料)は、導電性を有しない塗料ホース(図示せず)を介して塗料ホース用ジョイント30に供給され、塗料チューブ46を通って弁室40に導かれる。そして、トリガ42の非操作時では、弁室40に導かれた塗料は、弁口38を閉塞するニードル39によって塗料ノズル26への吐出が阻止される。一方、トリガ42が操作されて塗料バルブ35が開弁すると、弁室40内に供給された塗料は、塗料ノズル26内の塗料流路43に吐出される。
【0042】
塗料流路43内にはピン電極6が挿通されている。このピン電極6の前端部は、塗料吐出口44を通り当該塗料吐出口44よりも前方に突出している。また、ピン電極6の後半部は、非導電性材料からなる保持部材47の内部に保持されている。塗料流路43内のうち保持部材47の後部には、導電性を有するスプリング48が収容されている。このスプリング48の後端部は、バルブ本体37の前端面に当接している。このような構成により、ピン電極6とバルブ本体37は、スプリング48を介して電気的に接続される。そして、高電圧発生装置5が発生した直流高電圧Vdcは、出力端子5dからスプリング25を介して連体棒23に導かれ、バルブ本体37、スプリング48を介してピン電極6に印加されるようになっている。
【0043】
塗料ノズル26内のうち塗料流路43の周囲部には複数の霧化エア流路49が形成されている。これら霧化エア流路49の前端部は、塗料ノズル26の前端部に設けられた環状の霧化エア流路49a(図3参照)に連通している。
【0044】
ガン本体21の後端部にはエアバルブ50(図2参照)が設けられている。また、グリップ22内には、エアホース用ジョイント28とエアバルブ50とをつなぐエア流路51が設けられている。霧化エア用およびパターンエア用の圧縮空気は、圧縮空気発生装置から高圧エアホース(何れも図示せず)を介してエアホース用ジョイント28に供給され、エア流路51を通ってエアバルブ50に導かれる。
【0045】
エアバルブ50は、ニードル39と一体的に前後移動する弁体52によって開閉されるようになっている。つまり、塗料バルブ35が開弁するとエアバルブ50も開弁し、塗料バルブ35が閉弁するとエアバルブ50も閉弁する。そして、エアバルブ50が開弁すると、圧縮空気はガン本体21内に設けられた霧化エア供給路、パターンエア供給路(何れも図示せず)を通って、塗料ノズル26の霧化エア流路49、パターンエア流路45にそれぞれ供給される。
【0046】
塗料ノズル26の前端部は、ガン本体21の前端部に取り付けられた絶縁性樹脂製(例えばポリアセタール製)のエアキャップ53によって覆われている。エアキャップ53の後面中央には嵌合凸部53aが設けられており、この嵌合凸部53aは、塗料ノズル26の前端部に嵌合している。エアキャップ53の後部外周には環状段部53b(図3参照)が設けられており、この環状段部53bに絶縁性樹脂製(例えばポリアセタール製)のリテイニングナット54の先端部が係合している。このリテイニングナット54は、円環状の固定部材55を介して、ガン本体21の前端部に螺合され固定されている。
【0047】
塗料ノズル26は、取付凹部34に挿入された後、前端部にエアキャップ53を嵌合させ、エアキャップ53の前端から固定部材55およびリテイニングナット54を挿入し螺合させることによって、エアキャップ53とともにガン本体21に固定される。このとき、エアキャップ53とガン本体21との間には塗料ノズル26の周囲に位置する環状の空間が形成される。この空間はパターンエア流路45とともにパターンエア流路45aとして利用される。
【0048】
エアキャップ53の中央部には霧化エア噴出孔56(図3参照)が穿設されている。この霧化エア噴出孔56には塗料ノズル26の塗料吐出口44が挿通されている。霧化エア噴出孔56は霧化エア流路49aに連通しており、この霧化エア流路49aに供給された霧化エアは、霧化エア噴出孔56の内周面と塗料吐出口44の外周面との間の環状の隙間を通って前方に噴出される。
【0049】
さらに、エアキャップ53の前端面のうち霧化エア噴出孔56を挟んだ上部および下部には、前方に突出する一対の角部57が形成されている。これら角部57には、それぞれパターンエア流路45aに連通する複数(この場合、それぞれ2個)のパターンエア噴出孔58が形成されている。これらパターンエア噴出孔58は、エアキャップ53の中心軸に向かって斜め前方に傾斜している。従って、パターンエア流路45aに供給された圧縮空気としてのパターンエアは、パターンエア噴出孔58から斜め前方に向けて噴出される。
【0050】
また、エアキャップ53の外周には、上記したアースリング7が着脱可能に装着されている。ここで、このアースリング7の構成について図4および図5も参照して説明する。
図4に示すように、アースリング7は、塗料吐出口44を中心とする円環状の導電性部材として配置されている。また、図5に示すように、アースリング7は、前端部が断面ほぼ半円状に形成され、後端部が断面ほぼ矩形状に形成されている。
【0051】
アースリング7の上部後面には、後方(図5では右方)に突出する一対の接続端子61(接続部に相当)が固定されている。この接続端子61も、アースリング7と同様にステンレス製であり、導電性を有している。接続端子61は、アースリング7に固定された基端部材61aと、この基端部材61aにねじ込まれた先端部材61bとから構成されている。先端部材61bは、その周囲部に、当該先端部材61bの軸方向(図5では左右方向)に延び当該先端部材61bの径方向に突出する複数の圧接部61cを有しており、いわゆるバナナプラグ形状となっている。
【0052】
一方、図2および図3に示すように、ガン本体21の上部には、一対の給電兼接地経路71,71が設けられている。これら給電兼接地経路71は、高電圧発生装置5に交流電圧Vacを供給するための給電経路として機能するとともに、アースリング7を接地させるための接地経路として機能する。次に、これら給電兼接地経路71の構成について説明する。
【0053】
給電兼接地経路71は、金属製(例えば、アルミ製)の一対のシャフト72,72、金属製(例えば、ステンレス製)の一対のスプリング73,73、金属製(例えば、ステンレス製)の一対のソケット部74,74(接続部に相当)とから構成されている。
【0054】
シャフト72は、それぞれ、ガン本体21の前後方向に沿って若干前下がりに傾斜(若干後上がりに傾斜)した状態で、当該ガン本体21の上部の内部に埋め込まれている。シャフト72の後端部は、それぞれ金属製のねじ75(図7(a)も参照)によってガン本体21の上部後面(高電圧発生装置5が収容される部分)に固定されるようになっている。このように配設されたシャフト72は、その全体が、それぞれガン本体21に覆われている。
【0055】
スプリング73は、それぞれ、その後端部がシャフト72の前端部に嵌合した状態でガン本体21の上部の内部に収容されている。従って、これらスプリング73も、ガン本体21の前後方向に沿って若干前下がりに傾斜(若干後上がりに傾斜)した状態で、当該ガン本体21の上部の内部に埋め込まれている。
【0056】
ソケット部74は、前後方向に延びる挿入孔74aを有しており、ガン本体21の上部の前端部に挿入され支持されている。ソケット部74の後端部の上部には、上記したスプリング73の前端部が接触するようになっている。これにより、ソケット部74は、それぞれスプリング73を介してシャフト72に電気的に接続されている。なお、ソケット部74の先端部は、それぞれ樹脂製(例えば、ポリアセタール樹脂)の一対のホルダ76によって覆われている。これらホルダ76は、その中央部に貫通孔76aを有しており、これにより、ソケット部74の挿入孔74aは、塞がれることなく前方に開放した状態となっている。
【0057】
ソケット部74の挿入孔74a内には、それぞれ上記したアースリング7の一対の接続端子61が挿入される。これにより、ソケット部74は、アースリング7に電気的に接続される。また、このとき、接続端子61の圧接部61c(図5参照)がソケット部74の挿入孔74aの内面に圧接し、これにより、アースリング7がガン本体21に着脱可能に装着される。即ち、アースリング7のガン本体21への装着は、アースリング7側の接続端子61とガン本体21側のソケット部74との嵌合によって行われるように構成されている。そして、その装着状態においては、アースリング7は、ピン電極6に対して離間した状態で配設される。なお、この圧接部61cの挿入孔74aに対する圧接力は、使用者がアースリング7(圧接部61c)に意識的に力を加えない限り抜き差しできない程度の大きさに設定することが望ましい。
【0058】
次に、スプレーガン2内における配線、特には、上記した高電圧発生装置5と電源コネクタ27と一対の給電兼接地経路71との接続について図6および図7を参照して説明する。
【0059】
図6に示すように、電源コネクタ27は、上記したリード線27aに加え、給電用電線27b、電流検知用電線27c、接地用電線27dを有した構成となっている。給電用電線27bは、電源線3b(図1参照)の一部(スプレーガン2内に配設された部分)を構成するものであり、図7(b)に示すように、高電圧発生装置5の後面に設けられた給電用端子5eに接続される。電流検知用電線27cは、電流検出用ケーブル16(図1参照)の一部(スプレーガン2内に配設された部分)を構成するものであり、図7(b)に示すように、高電圧発生装置5の後面に設けられた電流検出用端子5fに接続される。接地用電線27dは、電源線3a(図1参照)の一部(スプレーガン2内に配設された部分であって、開路部3cよりも交流電源装置4側の部分)を構成するものであり、図7(a)に示すように、一方の給電兼接地経路71(シャフト72)の基端部に、ねじ75を介して接続されている。他方の給電兼接地経路71(シャフト72)の基端部には、アース線81が、ねじ75を介して接続されている。このアース線81は、電源線3a(図1参照)の一部(スプレーガン2内に配設された部分であって、開路部3cよりも高電圧発生装置5側の部分)を構成するものであり、高電圧発生装置5の上部に設けられた切欠き部5g(図7(b)参照)を通して、当該高電圧発生装置5の後面に設けられた接地用端子5hに接続されている。ここで、一方の給電兼接地経路71の基端部と接地用電線27dとの接続点3d(図1参照)と、他方の給電兼接地経路71の基端部とアース線81との接続点3e(図1参照)とから、電源線3aの開路部3cが形成されている。そして、給電兼接地経路71の先端部を構成する一対のソケット部74は、電源線3aの開路部3cの両端に接続された構成となっている。
【0060】
このような構成により、スプレーガン2は、アースリング7がガン本体21に装着された状態(図8参照)では、当該アースリング7が給電兼接地経路71(ソケット部74、スプリング73、シャフト72)を介して電源線3aに接続されるようになっている。そして、この状態では、アースリング7は、接地が施された電源線3aの開路部3cを閉路し、導電性を有する給電兼接地経路71および接地電位に保持される電源線3aを介して接地されるようになっている。即ち、ガン本体21に装着されたアースリング7は、電源線3aの一部を構成する。一方、スプレーガン2は、アースリング7がガン本体21から取り外された状態では(図9参照)、電源線3aの開路部3cが開放(開路)されるようになっている。
【0061】
次に、上記構成の静電塗装システム1を用いて静電塗装を行うときの動作について説明する。なお、静電塗装システム1の塗装対象となる被塗物(図示せず)は、接地(アース)されており、交流電源装置4などと同電位(接地電位)になっている。また、このように接地された被塗物は、この場合、負極となるピン電極6に対して陽極となる。
【0062】
スプレーガン2において、トリガ42がグリップ22側に引かれると、塗料バルブ35が開弁して、塗料ホース用ジョイント30から供給された塗料(この場合、溶剤系塗料)が塗料流路43に吐出され、塗料ノズル26前端の塗料吐出口44からピン電極6の表面を伝って皮膜状に吐出される。また、霧化エア流路49に圧縮空気が供給され、この圧縮空気は、霧化エア噴出孔56の内周と塗料吐出口44の外周との間の狭い隙間を通り、霧化エアとして前方に噴出される。この結果、ピン電極6の表面を伝って塗料吐出口44から吐出される塗料は、霧化エアによって霧化される。
【0063】
また、トリガ42がグリップ22側に引かれると、交流電源装置4から電源線3(電源線3a,3b)を介して、高電圧発生装置5に交流電圧Vacが供給される。そして、この高電圧発生装置5により発生した直流高電圧Vdc(この場合、−30kV)が、出力端子5dからスプリング25および連体棒23を介してバルブ本体37に導かれる。バルブ本体37に導かれた直流高電圧Vdcは、その前端部からスプリング48を介してピン電極6に供給される。これにより、直流高電圧Vdcが印加されたピン電極6と接地電位に保持されたアースリング7との間に、強力な電界(電気力線)が発生してコロナ放電場が形成され、ピン電極6を伝う塗料に電荷が誘起されるようになる。従って、塗料吐出口44から吐出され霧化エアによって霧化された塗料粒子は、帯電した状態で空中(スプレーガン2の前方)に飛び出す。
【0064】
空中に飛び出した塗料粒子は、パターンエア噴出孔58から噴出されるパターンエアによって、その噴霧パターンが塗装に適した形状(この場合、楕円形ないし小判形)に形成される。
【0065】
塗料粒子は、主として、このパターンエアによって被塗物の近傍まで搬送される。そして、帯電した塗料粒子が被塗物に近づくと、静電誘導によって、接地された被塗物の表面に塗料粒子の電荷とは反対極性の電荷が誘起される。これにより、塗料粒子と被塗物との間に静電気力が働き、塗料粒子は被塗物に向かう吸引力を受ける。つまり、この吸引力とパターンエアによる吹き付け力との双方の力によって、塗料粒子は被塗物の表面に塗着される。なお、静電気力による吸引力が働くため、塗料粒子はスプレーガン2に面していない被塗物の裏側にも回り込み塗着される。以上のような作用により、被塗物に静電塗装が行なわれる。
【0066】
ところで、本発明者の実験によると、接地された導電性のアースリング7をピン電極6に対して離間した状態、即ち、アースリング7をピン電極6の近傍において当該ピン電極6と間隔を有した状態で配置した本実施形態のスプレーガン2を用いて静電塗装を行うと、このようなアースリング7を備えていない従来構成のスプレーガンを用いた場合よりも、塗料の塗着効率が明らかに向上することが確認された。その理由は次のように考えられる。
【0067】
即ち、アースリング7は、給電兼接地経路71を介して、接地電位に保持される電源線3aに電気的に接続されている。このため、アースリング7は、接地電位に保持されている。しかも、アースリング7は、被塗物に比べ、ピン電極6に非常に近い位置に配置されている。
【0068】
このような構成において、高電圧発生装置5が発生した直流高電圧Vdcがピン電極6に印加されると、ピン電極6とアースリング7との間に電界が形成される。そして、このようにピン電極6とアースリング7との間に形成される電界によって塗料粒子の帯電が促進され、これにより、塗料の塗着効率が向上する。
【0069】
図10は、本発明者の実験によって得られたものであり、ピン電極6に印加される出力電圧(ガン先電圧)と塗料の塗着効率との関係を概略的に示す図である。図10中、実線Aはアースリング7を備えた本実施形態のスプレーガン2のものであり、実線Bはアースリング7を備えていない従来構成のスプレーガンのものである。
【0070】
この図10から明らかなように、本実施形態のスプレーガン2(実線A参照)によれば、従来構成のスプレーガン(実線B参照)と同等の塗着効率を、より低いガン先電圧にて得ることができる。即ち、例えば、従来構成のスプレーガン(実線B)の点b(この場合、ガン先電圧は約60kV)と同等の塗着効率を、本実施形態のスプレーガン2(実線A)では点a(この場合、ガン先電圧は30kV)で得ることができる。
なお、本発明者の実験により、円環状のアースリング7の径が小さいほど、塗料粒子の帯電効率、ひいては、塗料の塗着効率が向上する傾向にあることが確認された。
【0071】
さらに、本発明者の別の実験によると、アースリング7を塗料吐出口44の先端部から所定の範囲で遠ざけて配設することによって、向上した塗料の塗着効率が低下し難くなり高い値で維持されることが確認された。その理由は次のように考えられる。
【0072】
即ち、静電塗装システム1によって静電塗装を開始した直後では、スプレーガン2のアースリング7は清浄な状態(当該アースリング7に塗料が付着していない状態)となっている。従って、上述したような作用(ピン電極6とアースリング7との間に形成される電界によって塗料粒子の帯電が促進される作用)によって、塗料の塗着効率を向上させることができる。
【0073】
しかし、帯電した塗料の一部は、接地電位に保持されたアースリング7に引き付けられ、当該アースリング7に付着する。従って、静電塗装を開始してから時間が経過することに伴い、アースリング7に次第に塗料が付着し当該アースリング7が塗料によって覆われてくる。そして、アースリング7表面に塗料が付着してくると、僅かに残ったアースリング7の露出部分(塗料が付着していない部分)や塗料による皮膜の薄い部分に電界が集中するようになり、当該部分における放電電流が増加するようになる。この放電電流の増加によって、ガン先電圧(ピン電極6の出力電圧)が低下するようになり、これが直接的な原因となって塗料の塗着効率が低下するようになる。
【0074】
ところが、アースリング7を塗料吐出口44の先端部から所定の範囲で遠ざけて配設すると、当該アースリング7がピン電極6から十分に且つ適度に離れた状態となることから、アースリング7に塗料が付着したとしても、放電電流を低い値(この場合、70μA以下)に抑えることができる。これにより、塗料の塗着効率が低下してしまうことを回避することができる。
【0075】
次に、上述した静電塗装システム1における制御回路8による制御内容について説明する。
スプレーガン2のアースリング7は、ガン本体21に着脱可能に構成され、ガン本体21に装着された状態で、接地が施された電源線3aの開路部3cを閉路する。従って、アースリング7のガン本体21への装着が不確実な状態、即ち、接続端子61とソケット部74との接触が不確実な状態では、電源線3(電源線3a,3b)を介して流れる電流が減少する。また、アースリング7がガン本体21から完全に外れた状態、即ち、接続端子61とソケット部74とが接触していない状態では、電源線3(電源線3a,3b)に電流が流れない。
【0076】
一方、交流電源装置4の制御回路8は、電源線3(電源線3b)を流れる電流を、カレントコイル13を介して所定時間(例えば、4ミリ秒)ごとに検出するようになっている。
【0077】
そして、制御回路8は、スプレーガン2の高電圧発生装置5に交流電圧Vacを供給しているときに検出電流(カレントコイル13によって検出される電源線3bを流れる電流)が減少した場合、即ち、アースリング7のガン本体21への装着が不確実な場合には、高電圧発生装置5への交流電圧Vacの供給を直ちに停止するようになっている。なお、検出電流が減少したか否かの判断は、種々の方法を採用することができ、例えば、検出電流を所定の閾値と比較することに基づいて行ってもよいし、検出電流の減少割合(所定時間における減少量)に基づいて行ってもよいし、検出電流の減少速度に基づいて行ってもよい。
【0078】
また、交流電源装置4の制御回路8は、カレントコイル13を介して電流(電源線3bを流れる電流)が検出されない場合、即ち、アースリング7がガン本体21から完全に外れていて電源線3(電源線3a,3b)に電流が流れていない場合にも、高電圧発生装置5への交流電圧Vacの供給動作を直ちに停止するようになっている。
【0079】
そして、制御回路8がスプレーガン2の高電圧発生装置5への交流電圧Vacの供給を停止したことに応じて、使用者は、アースリング7の装着状態を確認し、アースリング7を装着し直すことができる。その後、使用者によって制御回路8のリセットスイッチ8a(図1参照、復帰手段に相当)が操作されると、制御回路8は、高電圧発生装置5への交流電圧Vacの供給を復帰させる。なお、この復帰後において、検出電流が減少した場合、または、電流が検出されない場合には、制御回路8は、再び高電圧発生装置5への交流電圧Vacの供給動作を直ちに停止するようになっている。
【0080】
以上に説明したように本実施形態によれば、アースリング7をスプレーガン2のガン本体21に着脱可能に構成したとしても、当該アースリング7のガン本体21への装着が不確実な場合や、当該アースリング7がガン本体21から外れた場合には、スプレーガン2の高電圧発生装置5への交流電圧Vacの供給が直ちに停止される。これにより、塗装作業中にアースリング7が帯電してしまうことを確実に防止でき、塗装作業の安全性を向上することができる。
【0081】
また、交流電源装置4は、制御回路8がスプレーガン2の高電圧発生装置5への交流電圧Vacの供給を停止した後に、高電圧発生装置5への交流電圧Vacの供給を復帰させるためのリセットスイッチ8aを備え、交流電圧Vacの供給が一旦停止した後のスプレーガン2への給電は、使用者が意識的にリセットスイッチ8aを操作しない限り復帰しない構成とした。従って、アースリング7の装着が不確実の状態のまま高電圧発生装置5への交流電圧Vacの供給が自動的に復帰してしまうことがなく、塗装作業の安全性を一層向上することができる。
【0082】
また、アースリング7には導電性を有する一対の接続端子61が設けられ、ガン本体21には、接地電位に保持される電源線3aの開路部3cの両端に接続された一対のソケット部74が設けられ、アースリング7のガン本体21への装着は、接続端子61とソケット部74との嵌合に行われるように構成されている。このような構成は簡素であり、構造の複雑化を招くことなく、アースリング7を着脱可能に構成することができる。
【0083】
また、接続端子61は、ソケット部74の内面に圧接する圧接部61cを有している。これにより、アースリング7を着脱可能としつつ、装着したアースリング7の抜け止めを実現することができる。
【0084】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について図11を参照して説明する。本実施形態は、2本の送電ケーブル(電源線3a,3b)を介して交流電圧Vacをスプレーガン2に供給(送電)する構成の第1の実施形態と異なり、3本の送電ケーブル(電源線)を介して交流電圧Vacをスプレーガン2に送電する構成のものである。以下、第1の実施形態と異なる点について説明する。
【0085】
本実施形態の静電塗装システム91では、交流電源装置4の直流電源9の出力は、スイッチング素子10によって接地電位に対して正側に、スイッチング素子11によって接地電位に対して負側になるように接続されている。そして、制御回路8が出力する駆動信号のパルス幅に応じてスイッチング素子10,11が交互にオン/オフを繰り返すことにより、直流電源9の出力電圧に応じた低電圧の交流電圧Vac(この場合、AC24V/20kHz)が発生する。この交流電圧Vacは、第1の実施形態に示した電源線3に代わる電源線92(交流電圧供給線に相当)を介して、スプレーガン2の高電圧発生装置5に供給される。
【0086】
電源線92は、交流電圧Vacをスプレーガン2の高電圧発生装置5に供給するための3本の電源線92a,92b,92cからなる。電源線92a(接地側供給線に相当)は、上述した電源線3aに代わるものであり、交流電源装置4側において接地線93を介して接地が施されており、接地電位に保持されるようになっている。これに対して、電源線92b,92cは、上述した電源線3bに代わるものであり、電源線92aに対して電位が変動するようになっている。電源線92aの一部(この場合、電源線92aのうちスプレーガン2内に配設された部分)には開路部92dが形成されており、この開路部92dには、一対の給電兼接地経路71,71が接続されている。
【0087】
カレントコイル13は、この場合、接地電位に保持される電源線92aに設けられている。そして、制御回路8は、上述した第1の実施形態に示したものと同様に、カレントコイル13による検出電流に基づいて、電源線92(電源線92a,92b,92c)を介した高電圧発生装置5への交流電圧Vacの供給を制御するようになっている。即ち、制御回路8は、高電圧発生装置5に交流電圧Vacを供給しているときに検出電流が減少した場合、即ち、アースリング7のガン本体21への装着が不確実な場合には、高電圧発生装置5への交流電圧Vacの供給を停止する。また、制御回路8は、電流が検出されない場合、即ち、アースリング7がガン本体21から完全に外れた場合にも、高電圧発生装置5への交流電圧Vacの供給を停止する。
【0088】
このような構成の本実施形態においても、アースリング7のガン本体21への装着が不確実な場合や、当該アースリング7がガン本体21から外れた場合には、高電圧発生装置5への交流電圧Vacの供給が直ちに停止される。これにより、アースリング7をスプレーガン2のガン本体21に着脱可能に構成したとしても、塗装作業中にアースリング7が帯電してしまうことを確実に防止でき、塗装作業の安全性を向上することができる。
【0089】
(その他の実施形態)
なお、本発明は、上述の各実施形態にのみ限定されるものではなく、次のように変形または拡張することができる。
交流電源装置4は、スプレーガン2の外部に設けるのではなく、スプレーガン2の内部に設けるようにしてもよい。
制御回路8は、カレントコイル13によって、電源線3、或いは、電源線92の電圧を検出するようにしてもよい。この場合、制御回路8は、カレントコイル13による検出電圧に基づいて、電源線3、或いは、電源線92を介した高電圧発生装置5への交流電圧Vacの供給を制御する。即ち、制御回路8は、高電圧発生装置5に交流電圧を供給しているときに検出電圧が減少した場合(アースリング7のガン本体21への装着が不確実な場合)、または、電圧が検出されない場合(アースリング7がガン本体21から完全に外れた場合)には、高電圧発生装置5への交流電圧の供給を停止するように構成する。
【0090】
交流電圧供給線は、上記した電源線3や電源線92に限られるものではなく、単なる電線(電源供給に関与しないもの)から構成してもよい。
制御回路8が電源線3,或いは、電源線92を流れる電流を検出する間隔(所定時間)は、数ミリ秒程度に設定することが好ましい。また、制御回路8が電源線3,或いは、電源線92の電圧を検出する間隔(所定時間)は、数ミリ秒程度に設定することが好ましい。検出間隔を数ミリ秒程度に設定すれば、その間に交流電圧Vacが大きく上昇することがなく、接続端子61(アースリング7)とソケット部74(ガン本体21)との接触が不確実な状態であったとしても、これら接続端子61とソケット部74との間に火花が発生し難くなるからである。なお、検出間隔を数百ミリ秒(例えば、100ミリ秒)に設定すると、その間に交流電圧Vacが大きく上昇してしまい、接続端子61とソケット部74との接触が不確実な状態では、これら接続端子61とソケット部74との間に火花が発生し易くなる。
【0091】
アースリング7は、前端部のみが断面半円状となる導電性部材からなるものに限られるものではなく、その形状を適宜変更して実施することができる。例えば、断面円形状となる円環状の導電性部材で構成してもよいし、断面矩形状となる円環状の導電性部材で構成してもよい。また、アースリング7は、円環状の導電性部材に限られるものではなく、例えば、楕円環状の導電性部材で構成してもよい。また、アース体としては、リング形状のものに限られず、例えば球体状のものを用いてもよい。
【0092】
接続部は、一対の接続端子61に限られるものではなく、例えば、先端部のみが二股状に分かれた1本の端子から構成してもよい。また、アース体に接続部を設けず、当該アース体を接地側供給線に直接接続するように構成してもよい。要は、アース体がガン本体21に装着された状態で、接地電位に保持される接地側供給線の開路部を閉路するように構成すればよい。
【0093】
また、被接続部は、一対のソケット部74に限られるものではなく、例えば、接続部を1本のピン状の部材から構成し、このピン状の部材の2箇所に接触するように被接続部を設けるようにしてもよい。
塗料チューブ46としては、使用する塗料の種類などに応じて、例えばスパイラル状に延びるものや直線状に延びるものなどを適宜使用することができる。
【0094】
本発明において使用可能な塗料は、上記した溶剤系塗料に限られるものではなく、例えば、メタリック系塗料を使用することもできる。
本発明は、例えば、パターンエアを噴出しない構成の静電塗装用スプレーガンを備えてなる静電塗装システムにも適用することが可能である。要は、帯電させた塗料を被塗物に塗着させる構成の静電塗装用スプレーガン全般を備えた静電塗装システムに適用することができる。
【符号の説明】
【0095】
図面中、1は静電塗装システム、2は静電塗装用スプレーガン、3は電源線(交流電圧供給線)、3aは電源線(接地側供給線)、3cは開路部、4は交流電源装置、5は高電圧発生装置(高電圧発生手段)、6はピン電極(電極)、7はアースリング(アース体)、8は制御回路(制御手段)、8aはリセットスイッチ(復帰手段)、13はカレントコイル(検出手段)、21はガン本体、61は接続端子(接続部,端子)、61cは圧接部、74はソケット部(被接続部)、91は静電塗装システム、92は電源線(交流電圧供給線)、92aは電源線(接地側供給線)、92dは開路部を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電させた塗料を噴霧して被塗物に塗着させる静電塗装用スプレーガンと、交流電圧を発生する交流電源装置とを備えて構成される静電塗装システム、当該静電塗装システムを構成する静電塗装用スプレーガン、および、当該静電塗装システムを構成する交流電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体などの塗装方法の一つに静電塗装がある。静電塗装は、被塗物(車体など)と塗装装置との間に高電圧を加えて静電界(電気力線)を形成するとともに塗料粒子を帯電させて噴出することによって、静電引力によって被塗物に塗料を吸着させる方法である。
このような静電塗装用の塗装装置として、例えば特許文献1に記載の静電塗装用スプレーガンは、ガン本体の塗料流路内に電極を有しており、この電極に高電圧を供給することによって、電極と被塗物との間に高電圧を印加するとともに塗料粒子を帯電させるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−349306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
静電塗装用スプレーガンには、高電圧発生回路を有する高電圧発生装置が内蔵されており、この高電圧発生装置が発生する高電圧が電極に印加されるようになっている。従って、塗料粒子の帯電効率、ひいては、塗料の塗着効率を向上させるために、大型の高電圧発生装置やスペック(印加可能な電圧の最大値)が高い高電圧発生装置を内蔵すると、これに応じて静電塗装用スプレーガンも大型化,重量化する。また、高電圧を維持するためには、静電塗装用スプレーガンにおいて電極が設けられる部分(一般的には、ガン本体の先端部分)と、接地される部分(一般的には、ガン本体の後端部に設けられるグリップ部分)との間に、ある程度の距離を確保しなければならない。
【0005】
このような事情から、静電塗装用スプレーガンは、その構成上、一般的に大型化,重量化する傾向にあり、従って、静電塗装用スプレーガンにおいては、さらなる小型化,軽量化を図ることが望まれている。
【0006】
そこで、このような課題を解決することを目的として、導電性のアース体を電極の近傍において当該電極と間隔を有して配置し、且つ、当該アース体を接地経路を介して接地した構成の静電塗装用スプレーガンが考えられている。
【0007】
このような構成の静電塗装用スプレーガンによれば、電極とアース体との間に形成される電界によって塗料粒子の帯電効率が促進され、これにより、塗料の塗着効率の向上を図ることができる。従って、高電圧発生装置が発生する電圧を低下させたとしても、従来と同程度に塗料を帯電(静電化)させることができる。
【0008】
そして、このように高電圧発生装置が発生する電圧を低下させることができるので、接地された導電性のアース体を、高電圧が供給される電極の近傍に支障なく配置することができ、アース体と電極との距離を短くすることができる。また、アース体を電極の近傍において当該電極と間隔を有して配置した構造はコンパクトであり、静電塗装用スプレーガンの小型化、軽量化を図ることができる。
【0009】
ところで、上記のようなアース体は、当該アース体が帯電しないように確実に接地電位に保持する必要がある。帯電したアース体が周囲の接地された物体に接近したり接触すると、静電気放電が生じ、周囲の爆発性ガス(噴出された塗料に含まれる有機溶剤がガス化したものなど)に着火する危険があるからである。
【0010】
ここで、アース体を確実に接地電位に保持できる構成として、当該アース体を静電塗装用スプレーガンから取り外せない構造、即ち、アース体を常に接地経路に接続された状態とする構造が考えられる。しかしながら、アース体には塗装に伴い塗料が付着するので、当該アース体を清掃しなければならないという事情がある。そのため、アース体を静電塗装用スプレーガンから取り外せない構造とすると、当該アース体を清掃し難くなり、清掃の作業性が悪い。
【0011】
一方、アース体を静電塗装用スプレーガンから取り外し可能な構造とすれば、当該アース体の清掃を容易に行うことができる。しかし、清掃したアース体を静電塗装用スプレーガンに取り付ける際に、その装着が不確実になるおそれがあり、このような場合に、アース体を接地電位に保持できなくなる。また、塗装作業中にアース体が静電塗装用スプレーガンから外れてしまう場合があり、このような場合も、アース体を接地電位に保持できなくなる。従って、単にアース体を静電塗装用スプレーガンから取り外し可能に構成したのでは、アース体を確実に接地電位に保持できなくなるおそれがあり、アース体の帯電に伴う爆発性ガスの着火などの事故を招いてしまう危険がある。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、アース体を着脱可能に構成したとしても、塗装作業中にアース体が帯電してしまうことを確実に防止でき、塗装作業の安全性を向上することができる静電塗装システム、当該静電塗装システムを構成する静電塗装用スプレーガン、および、当該静電塗装システムを構成する交流電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した目的を達成するために、本発明の静電塗装システムは、帯電させた塗料を噴霧して被塗物に塗着させる静電塗装用スプレーガンと、交流電圧を発生する交流電源装置とを備えて構成される静電塗装システムにおいて、前記静電塗装用スプレーガンは、非導電性材料で構成されたガン本体と、前記交流電源装置から交流電圧供給線を介して供給された交流電圧に基づいて直流高電圧を発生する高電圧発生手段と、前記高電圧発生手段が発生した直流高電圧が印加され、噴霧する塗料を帯電させる電極と、前記ガン本体に着脱可能とされ、その装着状態において前記電極に対して離間した状態で配設され、前記直流高電圧が印加される前記電極との間に電界を生成する導電性を有するアース体とを備え、前記交流電源装置は、前記交流電圧供給線を介して流れる電流または前記交流電圧供給線の電圧を検出する検出手段と、前記検出電流または前記検出電圧に基づいて、前記交流電圧供給線を介した前記高電圧発生手段への交流電圧の供給を制御する制御手段とを備え、前記交流電圧供給線のうち接地が施された接地側供給線の一部には開路部が形成され、前記アース体は、前記ガン本体に装着された状態で、前記開路部を閉路するように構成され、前記制御手段は、前記高電圧発生手段に交流電圧を供給しているときに前記検出電流または前記検出電圧が減少した場合、または、前記電流または前記電圧が検出されない場合には、前記高電圧発生手段への交流電圧の供給を停止するように構成されていることに特徴を有する。
【0014】
本発明の静電塗装用スプレーガンは、帯電させた塗料を噴霧して被塗物に塗着させるものであって、交流電圧を発生する交流電源装置とともに静電塗装システムを構成する静電塗装用スプレーガンにおいて、非導電性材料で構成されたガン本体と、前記交流電源装置から交流電圧供給線を介して供給された交流電圧に基づいて直流高電圧を発生する高電圧発生手段と、前記高電圧発生手段が発生した直流高電圧が印加され、噴霧する塗料を帯電させる電極と、前記ガン本体に着脱可能とされ、その装着状態において前記電極に対して離間した状態で配設され、前記直流高電圧が印加される前記電極との間に電界を生成する導電性を有するアース体とを備え、前記交流電圧供給線のうち接地が施された接地側供給線の一部には開路部が形成され、前記アース体は、前記ガン本体に装着された状態で、前記開路部を閉路するように構成されていることに特徴を有する。
【0015】
本発明の交流電源装置は、交流電圧を発生するものであって、交流電圧供給線を介して供給された交流電圧に基づいて直流高電圧を発生する高電圧発生手段を備えた静電塗装用スプレーガンとともに静電塗装システムを構成する交流電源装置において、前記交流電圧供給線を介して流れる電流または前記交流電圧供給線の電圧を検出する検出手段と、前記検出電流または前記検出電圧に基づいて、前記交流電圧供給線を介した前記高電圧発生手段への交流電圧の供給を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、前記高電圧発生手段に交流電圧を供給しているときに前記検出電流または前記検出電圧が減少した場合、または、前記電流または前記電圧が検出されない場合には、前記高電圧発生手段への交流電圧の供給を停止するように構成されていることに特徴を有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の静電塗装システムによれば、静電塗装用スプレーガンのアース体は、ガン本体に着脱可能に構成され、ガン本体に装着された状態で、交流電圧供給線のうち接地が施された接地側供給線の開路部を閉路する。従って、アース体のガン本体への装着が不確実な状態では、交流電圧供給線を介して流れる電流、或いは、交流電圧供給線の電圧が減少する。また、アース体がガン本体から外れた状態では、交流電圧供給線に電流が流れず、交流電圧供給線に電圧も生じない。
【0017】
一方、交流電源装置の制御手段は、静電塗装用スプレーガンの高電圧発生手段に交流電圧を供給しているときに検出電流または検出電圧が減少した場合、即ち、アース体のガン本体への装着が不確実な場合には、高電圧発生手段への交流電圧の供給を停止する。また、交流電源装置の制御手段は、電流または電圧が検出されない場合、即ち、アース体がガン本体から外れた場合には、高電圧発生手段への交流電圧の供給を停止する。
【0018】
このように、アース体を着脱可能に構成したとしても、当該アース体のガン本体への装着が不確実な場合や、当該アース体がガン本体から外れた場合には、高電圧発生手段への交流電圧の供給が停止される。これにより、塗装作業中にアース体が帯電してしまうことを確実に防止でき、塗装作業の安全性を向上することができる。
【0019】
本発明の静電塗装用スプレーガンによれば、アース体は、ガン本体に着脱可能に構成され、ガン本体に装着された状態で、交流電圧供給線のうち接地が施された接地側供給線の開路部を閉路する。従って、本発明の交流電源装置とともに静電塗装システムを構成することで、塗装作業中にアース体が帯電してしまうことを確実に防止でき、塗装作業の安全性を向上することができる。
【0020】
本発明の交流電源装置によれば、静電塗装用スプレーガンの高電圧発生手段に交流電圧を供給しているときに検出電流または検出電圧が減少した場合には、高電圧発生手段への交流電圧の供給を停止する。また、本発明の交流電源装置によれば、電流または電圧が検出されない場合には、高電圧発生手段への交流電圧の供給を停止する。従って、本発明の静電塗装用スプレーガンとともに静電塗装システムを構成することで、塗装作業中にアース体が帯電してしまうことを確実に防止でき、塗装作業の安全性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施形態を示すものであり、静電塗装システムの電気的構成図
【図2】静電塗装用スプレーガンの全体構成を示す縦断側面図
【図3】静電塗装用スプレーガンの先端部分を拡大して示す縦断側面図
【図4】静電塗装用スプレーガンの先端部分の正面図
【図5】アースリングの構成を示す縦断側面図
【図6】電源コネクタの構成を示す図
【図7】(a)はガン本体の後面を示す図、(b)は静電塗装用スプレーガンに内蔵された高電圧発生装置の後面を示す図
【図8】アースリングがガン本体に装着された状態を示す静電塗装用スプレーガンの斜視図
【図9】アースリングがガン本体から取り外された状態を示す静電塗装用スプレーガンの斜視図
【図10】電極に印加される電圧と塗料の塗着効率との関係を示す図
【図11】本発明の第2の実施形態を示す図1相当図
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態について、図1ないし図10を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る静電塗装システム1の電気的構成を概略的に示すブロック図である。静電塗装システム1は、帯電させた塗料を噴霧して被塗物に塗着させる静電塗装用スプレーガン2(以下、スプレーガン2と称する)と、このスプレーガン2に電源線3(交流電圧供給線に相当)を介して交流電圧Vacを供給する交流電源装置4とを備えて構成されている。
【0023】
スプレーガン2は、高電圧発生装置5(高電圧発生手段に相当)と、ピン電極6と、アースリング7(アース体に相当)とを備えて構成されている。
高電圧発生装置5は、高電圧発生回路を構成する昇圧トランス5aと、高圧整流回路5b(例えばコッククロフト−ウォルトン型の倍電圧整流回路)と、出力抵抗5cとを一体にモールドしたカスケード型の高電圧発生装置である。この高電圧発生装置5は、交流電源装置4から供給された交流電圧Vacに基づいて直流高電圧Vdcを発生するものである。ピン電極6は、後述する構成により、高電圧発生装置5が発生した直流高電圧Vdcが印加されるようになっており、スプレーガン2から噴霧する塗料を帯電させるものである。アースリング7は、例えばステンレス製であり、導電性を有している。このアースリング7は、後述する構成により、スプレーガン2のガン本体21(図2,図3参照)に着脱可能とされ、その装着状態においてピン電極6に対して離間した状態で配設される。そして、このアースリング7は、後述する構成により、高電圧発生装置5が印加されるピン電極6との間に電界を生成する。以上は、スプレーガン2の概略的な構成を説明した。このスプレーガン2の詳細な構成については後述する。
【0024】
次に、交流電源装置4の構成について説明する。
交流電源装置4は、交流電圧Vacを発生するものであり、制御回路8(制御手段に相当)と、直流電源9(この場合、DC20V)と、2つのスイッチング素子10,11と、出力トランス12と、カレントコイル13(検出手段に相当)と、安全回路14とを備えて構成されている。
【0025】
直流電源9の出力は、出力トランス12の1次側において、スイッチング素子10,11を介して電源グランドに接続されている。具体的には、直流電源9の出力端子は、出力トランス12とスイッチング素子10とによって接地電位に対して正側に、出力トランス12とスイッチング素子11とによって接地電位に対して負側になるように接続されている。
【0026】
スイッチング素子10,11は、半導体スイッチ(この場合、トランジスタ)により構成されており、通電により導通状態が制御可能である。スイッチング素子10,11は、通電されると導通状態(オン)になり、通電が停止されると非導通状態(オフ)になる。スイッチング素子10,11のオン/オフは、制御回路8によって制御される。制御回路8は、図示しないCPU、ROM、RAMなどを備えたマイクロコンピュータを主体に構成されており、スイッチング素子10,11の通電時間(オン時間)に応じたパルス状の駆動信号を生成し、それぞれのスイッチング素子10,11へ出力する。
【0027】
スイッチング素子10,11は、制御回路8から出力される駆動信号に連動してその通電状態(オン/オフ状態)が変化し、直流電源9の出力を正側、或いは、負側に切り換える。駆動信号は、スイッチング素子10,11のオン状態が互いに重なることがないタイミングで出力される。この駆動信号のパルス幅に応じてスイッチング素子10,11が交互にオン/オフを繰り返すことにより、出力トランス12の2次側に、直流電源9の出力電圧に応じた低電圧の交流電圧Vac(この場合、AC24V/20kHz)が発生する。この交流電圧Vacは、電源線3を介して、スプレーガン2内の高電圧発生装置5に供給される。
【0028】
電源線3は、交流電圧Vacを高電圧発生装置5に供給するための一対の電源線3a,3bからなる。電源線3a(接地側供給線に相当)は、交流電源装置4側において接地線15を介して接地が施されており、接地電位に保持されるようになっている。これに対して、電源線3bは、電源線3aに対して電位が変動するようになっている。電源線3aの一部(この場合、電源線3aのうちスプレーガン2内に配設された部分)には開路部3cが形成されており、この開路部3cには、後述する一対の給電兼接地経路71,71(図2,図3参照)が接続されている。
【0029】
カレントコイル13は、接地電位に保持されない電源線3bに設けられている。制御回路8は、このカレントコイル13によって、電源線3を介して流れる電流(電源線3bを流れる電流)を検出する。制御回路8は、カレントコイル13による検出電流に基づいて、電源線3(電源線3a,3b)を介した高電圧発生装置5への交流電圧Vacの供給を制御するようになっている。この制御回路8による制御内容については後述する。
【0030】
安全回路14は、電流検出用ケーブル16を介して高電圧発生装置5の高圧整流回路5bに接続されている。この安全回路14は、高電圧発生装置5に流れる電流の大きさを、電流検出用ケーブル16を介して検出するためのものである。制御回路8は、安全回路14によって、高電圧発生装置5を流れる電流を検出し、高電圧発生装置5に過剰な電流が流れたと判断した場合には、電源線3を介したスプレーガン2への交流電圧Vacの供給を停止するなどの処理を実行する。
【0031】
次に、スプレーガン2の詳細な構成について図2ないし図9を参照して説明する。
図2に示すように、スプレーガン2は、ガン本体21と、このガン本体21の後端部(図2では右端部)に設けたグリップ22とから構成されている。ガン本体21は、例えば電気的絶縁性を有するポリアセタール樹脂やフッ素樹脂などの合成樹脂材料(非導電性材料)からなり、スプレーガン2の銃身部分(バレル部分)を構成する。このガン本体21とグリップ22との間に形成される空間内には、上記した高電圧発生装置5(高電圧発生手段に相当)が内蔵されている。
【0032】
ガン本体21内部の前部には、導電性を有する連体棒23が前方に向って下方に傾斜するように配設されている。高電圧発生装置5の前側には、連体棒23の後部が露出するように孔部24が設けられており、この孔部24には導電性のスプリング25が収容されている。スプリング25は、その後部が高電圧発生装置5の前端から突出する出力端子5dに装着され、前部が連体棒23と当接している。ガン本体21の前部には、ピン電極6を有する塗料ノズル26が設けられている。連体棒23とピン電極6は、後述する構成によって電気的に接続されるようになっている。
【0033】
一方、グリップ22は、例えば金属繊維や金属粉を含む樹脂材料で構成されており、従って、導電性を有している。このグリップ22の下部には、電源コネクタ27およびエアホース用ジョイント28が取り付けられているとともに、連結部材29を介して円筒状の塗料ホース用ジョイント30が連結されている。
【0034】
連結部材29は、ねじ31によってグリップ22の下端部に固定されている。連結部材29およびねじ31は、何れも導電性材料から構成されている。また、連結部材29には、電源コネクタ27のアース線にリード線27aを介して接続されたねじ32が螺挿されている。これにより、塗料ホース用ジョイント30と電源コネクタ27のアース線とが連結部材29を介して電気的に接続されている。
【0035】
高電圧発生に必要な高周波電圧、即ち、交流電源装置4から供給される交流電圧Vacは、グリップ22の下部の電源コネクタ27から取り入れられ、高電圧発生装置5内の昇圧トランス5aに供給される。供給された交流電圧Vacは、昇圧トランス5aで昇圧された後、高圧整流回路5bでさらに昇圧されると同時に整流され、出力抵抗5cを介して直流高電圧Vdc(30kV程度)に変換される。高電圧発生装置5が発生した直流高電圧Vdcは、出力端子5dからスプリング25を介して連体棒23に導かれ、ピン電極6に印加されるようになっている。なお、高圧整流回路5bは、回路内のダイオードの向きを変えることにより、出力電圧の極性を接地電位に対して正(プラス)または負(マイナス)の何れかにすることができる。本実施形態の場合、高圧整流回路5bの出力電圧の極性は接地電位に対して負になるように構成されている。従って、高電圧発生装置5は、この場合、ピン電極6に負極性の直流高電圧Vdc(−30kV)を印加する。
【0036】
また、ガン本体21内の下部には、前後方向に延びる孔部33が設けられている。ガン本体21の前端部には取付凹部34が設けられており、この取付凹部34の後端面において孔部33は開口している。この孔部33内の前部には塗料バルブ35が配設されている。また、孔部33内のうち塗料バルブ35の後部には空間を存して中空状のガイド部材36が配設されている。
【0037】
図3に示すように、塗料バルブ35は、導電性を有するバルブ本体37と、このバルブ本体37内を軸方向に貫通する弁口38と、この弁口38を開閉するニードル39とを備えて構成されている。バルブ本体37の前部の外周には、円環状のフランジ37aが一体的に設けられており、このフランジ37aと連体棒23の先端部とが接触するようになっている。
【0038】
孔部33のうち塗料バルブ35とガイド部材36との間の空間は弁室40とされている。ニードル39は、その前端部がテーパ状に形成されており、弁室40内を貫通して配設されている。ニードル39は、後部がガイド部材36内に挿通されており、当該ガイド部材36に沿って前後方向に移動するようになっている。弁口38は、ニードル39の前端部が当接,離間することによって開放,閉塞される。
【0039】
ニードル39は、ガン本体21の後端部に設けられた復帰バネ41(図2参照)によって、常には弁口38(図3参照)を閉塞する方向(図2では左方向)に付勢されている。そして、ガン本体21に設けられたトリガ42がグリップ22側に引かれている間のみ、ニードル39は復帰バネ41に抗して後退し、これにより、弁口38が開放される。
【0040】
図2に示すように、取付凹部34は前半部よりも後半部のほうが径小になっており、その径小部分には塗料ノズル26が着脱可能に螺合されている。塗料ノズル26は絶縁性の合成樹脂材料からなり、その前半部は取付凹部34よりも前方に突出している。塗料ノズル26内の中心部には前後方向に貫通する塗料流路43が設けられている。この塗料流路43の後端部は塗料バルブ35の弁口38(図3参照)に連通している。塗料ノズル26の前端部のうち塗料流路43の前端にあたる部分は径小に構成され、塗料吐出口44とされている。なお、取付凹部34に塗料ノズル26が装着されたことにより、塗料ノズル26の周囲部には環状の空間が形成される。この環状空間はパターンエア流路45として利用される。
【0041】
このような構成により、図示しない塗料供給源(例えば、塗料タンク)内の塗料(例えば、電気抵抗が比較的高い溶剤系塗料)は、導電性を有しない塗料ホース(図示せず)を介して塗料ホース用ジョイント30に供給され、塗料チューブ46を通って弁室40に導かれる。そして、トリガ42の非操作時では、弁室40に導かれた塗料は、弁口38を閉塞するニードル39によって塗料ノズル26への吐出が阻止される。一方、トリガ42が操作されて塗料バルブ35が開弁すると、弁室40内に供給された塗料は、塗料ノズル26内の塗料流路43に吐出される。
【0042】
塗料流路43内にはピン電極6が挿通されている。このピン電極6の前端部は、塗料吐出口44を通り当該塗料吐出口44よりも前方に突出している。また、ピン電極6の後半部は、非導電性材料からなる保持部材47の内部に保持されている。塗料流路43内のうち保持部材47の後部には、導電性を有するスプリング48が収容されている。このスプリング48の後端部は、バルブ本体37の前端面に当接している。このような構成により、ピン電極6とバルブ本体37は、スプリング48を介して電気的に接続される。そして、高電圧発生装置5が発生した直流高電圧Vdcは、出力端子5dからスプリング25を介して連体棒23に導かれ、バルブ本体37、スプリング48を介してピン電極6に印加されるようになっている。
【0043】
塗料ノズル26内のうち塗料流路43の周囲部には複数の霧化エア流路49が形成されている。これら霧化エア流路49の前端部は、塗料ノズル26の前端部に設けられた環状の霧化エア流路49a(図3参照)に連通している。
【0044】
ガン本体21の後端部にはエアバルブ50(図2参照)が設けられている。また、グリップ22内には、エアホース用ジョイント28とエアバルブ50とをつなぐエア流路51が設けられている。霧化エア用およびパターンエア用の圧縮空気は、圧縮空気発生装置から高圧エアホース(何れも図示せず)を介してエアホース用ジョイント28に供給され、エア流路51を通ってエアバルブ50に導かれる。
【0045】
エアバルブ50は、ニードル39と一体的に前後移動する弁体52によって開閉されるようになっている。つまり、塗料バルブ35が開弁するとエアバルブ50も開弁し、塗料バルブ35が閉弁するとエアバルブ50も閉弁する。そして、エアバルブ50が開弁すると、圧縮空気はガン本体21内に設けられた霧化エア供給路、パターンエア供給路(何れも図示せず)を通って、塗料ノズル26の霧化エア流路49、パターンエア流路45にそれぞれ供給される。
【0046】
塗料ノズル26の前端部は、ガン本体21の前端部に取り付けられた絶縁性樹脂製(例えばポリアセタール製)のエアキャップ53によって覆われている。エアキャップ53の後面中央には嵌合凸部53aが設けられており、この嵌合凸部53aは、塗料ノズル26の前端部に嵌合している。エアキャップ53の後部外周には環状段部53b(図3参照)が設けられており、この環状段部53bに絶縁性樹脂製(例えばポリアセタール製)のリテイニングナット54の先端部が係合している。このリテイニングナット54は、円環状の固定部材55を介して、ガン本体21の前端部に螺合され固定されている。
【0047】
塗料ノズル26は、取付凹部34に挿入された後、前端部にエアキャップ53を嵌合させ、エアキャップ53の前端から固定部材55およびリテイニングナット54を挿入し螺合させることによって、エアキャップ53とともにガン本体21に固定される。このとき、エアキャップ53とガン本体21との間には塗料ノズル26の周囲に位置する環状の空間が形成される。この空間はパターンエア流路45とともにパターンエア流路45aとして利用される。
【0048】
エアキャップ53の中央部には霧化エア噴出孔56(図3参照)が穿設されている。この霧化エア噴出孔56には塗料ノズル26の塗料吐出口44が挿通されている。霧化エア噴出孔56は霧化エア流路49aに連通しており、この霧化エア流路49aに供給された霧化エアは、霧化エア噴出孔56の内周面と塗料吐出口44の外周面との間の環状の隙間を通って前方に噴出される。
【0049】
さらに、エアキャップ53の前端面のうち霧化エア噴出孔56を挟んだ上部および下部には、前方に突出する一対の角部57が形成されている。これら角部57には、それぞれパターンエア流路45aに連通する複数(この場合、それぞれ2個)のパターンエア噴出孔58が形成されている。これらパターンエア噴出孔58は、エアキャップ53の中心軸に向かって斜め前方に傾斜している。従って、パターンエア流路45aに供給された圧縮空気としてのパターンエアは、パターンエア噴出孔58から斜め前方に向けて噴出される。
【0050】
また、エアキャップ53の外周には、上記したアースリング7が着脱可能に装着されている。ここで、このアースリング7の構成について図4および図5も参照して説明する。
図4に示すように、アースリング7は、塗料吐出口44を中心とする円環状の導電性部材として配置されている。また、図5に示すように、アースリング7は、前端部が断面ほぼ半円状に形成され、後端部が断面ほぼ矩形状に形成されている。
【0051】
アースリング7の上部後面には、後方(図5では右方)に突出する一対の接続端子61(接続部に相当)が固定されている。この接続端子61も、アースリング7と同様にステンレス製であり、導電性を有している。接続端子61は、アースリング7に固定された基端部材61aと、この基端部材61aにねじ込まれた先端部材61bとから構成されている。先端部材61bは、その周囲部に、当該先端部材61bの軸方向(図5では左右方向)に延び当該先端部材61bの径方向に突出する複数の圧接部61cを有しており、いわゆるバナナプラグ形状となっている。
【0052】
一方、図2および図3に示すように、ガン本体21の上部には、一対の給電兼接地経路71,71が設けられている。これら給電兼接地経路71は、高電圧発生装置5に交流電圧Vacを供給するための給電経路として機能するとともに、アースリング7を接地させるための接地経路として機能する。次に、これら給電兼接地経路71の構成について説明する。
【0053】
給電兼接地経路71は、金属製(例えば、アルミ製)の一対のシャフト72,72、金属製(例えば、ステンレス製)の一対のスプリング73,73、金属製(例えば、ステンレス製)の一対のソケット部74,74(接続部に相当)とから構成されている。
【0054】
シャフト72は、それぞれ、ガン本体21の前後方向に沿って若干前下がりに傾斜(若干後上がりに傾斜)した状態で、当該ガン本体21の上部の内部に埋め込まれている。シャフト72の後端部は、それぞれ金属製のねじ75(図7(a)も参照)によってガン本体21の上部後面(高電圧発生装置5が収容される部分)に固定されるようになっている。このように配設されたシャフト72は、その全体が、それぞれガン本体21に覆われている。
【0055】
スプリング73は、それぞれ、その後端部がシャフト72の前端部に嵌合した状態でガン本体21の上部の内部に収容されている。従って、これらスプリング73も、ガン本体21の前後方向に沿って若干前下がりに傾斜(若干後上がりに傾斜)した状態で、当該ガン本体21の上部の内部に埋め込まれている。
【0056】
ソケット部74は、前後方向に延びる挿入孔74aを有しており、ガン本体21の上部の前端部に挿入され支持されている。ソケット部74の後端部の上部には、上記したスプリング73の前端部が接触するようになっている。これにより、ソケット部74は、それぞれスプリング73を介してシャフト72に電気的に接続されている。なお、ソケット部74の先端部は、それぞれ樹脂製(例えば、ポリアセタール樹脂)の一対のホルダ76によって覆われている。これらホルダ76は、その中央部に貫通孔76aを有しており、これにより、ソケット部74の挿入孔74aは、塞がれることなく前方に開放した状態となっている。
【0057】
ソケット部74の挿入孔74a内には、それぞれ上記したアースリング7の一対の接続端子61が挿入される。これにより、ソケット部74は、アースリング7に電気的に接続される。また、このとき、接続端子61の圧接部61c(図5参照)がソケット部74の挿入孔74aの内面に圧接し、これにより、アースリング7がガン本体21に着脱可能に装着される。即ち、アースリング7のガン本体21への装着は、アースリング7側の接続端子61とガン本体21側のソケット部74との嵌合によって行われるように構成されている。そして、その装着状態においては、アースリング7は、ピン電極6に対して離間した状態で配設される。なお、この圧接部61cの挿入孔74aに対する圧接力は、使用者がアースリング7(圧接部61c)に意識的に力を加えない限り抜き差しできない程度の大きさに設定することが望ましい。
【0058】
次に、スプレーガン2内における配線、特には、上記した高電圧発生装置5と電源コネクタ27と一対の給電兼接地経路71との接続について図6および図7を参照して説明する。
【0059】
図6に示すように、電源コネクタ27は、上記したリード線27aに加え、給電用電線27b、電流検知用電線27c、接地用電線27dを有した構成となっている。給電用電線27bは、電源線3b(図1参照)の一部(スプレーガン2内に配設された部分)を構成するものであり、図7(b)に示すように、高電圧発生装置5の後面に設けられた給電用端子5eに接続される。電流検知用電線27cは、電流検出用ケーブル16(図1参照)の一部(スプレーガン2内に配設された部分)を構成するものであり、図7(b)に示すように、高電圧発生装置5の後面に設けられた電流検出用端子5fに接続される。接地用電線27dは、電源線3a(図1参照)の一部(スプレーガン2内に配設された部分であって、開路部3cよりも交流電源装置4側の部分)を構成するものであり、図7(a)に示すように、一方の給電兼接地経路71(シャフト72)の基端部に、ねじ75を介して接続されている。他方の給電兼接地経路71(シャフト72)の基端部には、アース線81が、ねじ75を介して接続されている。このアース線81は、電源線3a(図1参照)の一部(スプレーガン2内に配設された部分であって、開路部3cよりも高電圧発生装置5側の部分)を構成するものであり、高電圧発生装置5の上部に設けられた切欠き部5g(図7(b)参照)を通して、当該高電圧発生装置5の後面に設けられた接地用端子5hに接続されている。ここで、一方の給電兼接地経路71の基端部と接地用電線27dとの接続点3d(図1参照)と、他方の給電兼接地経路71の基端部とアース線81との接続点3e(図1参照)とから、電源線3aの開路部3cが形成されている。そして、給電兼接地経路71の先端部を構成する一対のソケット部74は、電源線3aの開路部3cの両端に接続された構成となっている。
【0060】
このような構成により、スプレーガン2は、アースリング7がガン本体21に装着された状態(図8参照)では、当該アースリング7が給電兼接地経路71(ソケット部74、スプリング73、シャフト72)を介して電源線3aに接続されるようになっている。そして、この状態では、アースリング7は、接地が施された電源線3aの開路部3cを閉路し、導電性を有する給電兼接地経路71および接地電位に保持される電源線3aを介して接地されるようになっている。即ち、ガン本体21に装着されたアースリング7は、電源線3aの一部を構成する。一方、スプレーガン2は、アースリング7がガン本体21から取り外された状態では(図9参照)、電源線3aの開路部3cが開放(開路)されるようになっている。
【0061】
次に、上記構成の静電塗装システム1を用いて静電塗装を行うときの動作について説明する。なお、静電塗装システム1の塗装対象となる被塗物(図示せず)は、接地(アース)されており、交流電源装置4などと同電位(接地電位)になっている。また、このように接地された被塗物は、この場合、負極となるピン電極6に対して陽極となる。
【0062】
スプレーガン2において、トリガ42がグリップ22側に引かれると、塗料バルブ35が開弁して、塗料ホース用ジョイント30から供給された塗料(この場合、溶剤系塗料)が塗料流路43に吐出され、塗料ノズル26前端の塗料吐出口44からピン電極6の表面を伝って皮膜状に吐出される。また、霧化エア流路49に圧縮空気が供給され、この圧縮空気は、霧化エア噴出孔56の内周と塗料吐出口44の外周との間の狭い隙間を通り、霧化エアとして前方に噴出される。この結果、ピン電極6の表面を伝って塗料吐出口44から吐出される塗料は、霧化エアによって霧化される。
【0063】
また、トリガ42がグリップ22側に引かれると、交流電源装置4から電源線3(電源線3a,3b)を介して、高電圧発生装置5に交流電圧Vacが供給される。そして、この高電圧発生装置5により発生した直流高電圧Vdc(この場合、−30kV)が、出力端子5dからスプリング25および連体棒23を介してバルブ本体37に導かれる。バルブ本体37に導かれた直流高電圧Vdcは、その前端部からスプリング48を介してピン電極6に供給される。これにより、直流高電圧Vdcが印加されたピン電極6と接地電位に保持されたアースリング7との間に、強力な電界(電気力線)が発生してコロナ放電場が形成され、ピン電極6を伝う塗料に電荷が誘起されるようになる。従って、塗料吐出口44から吐出され霧化エアによって霧化された塗料粒子は、帯電した状態で空中(スプレーガン2の前方)に飛び出す。
【0064】
空中に飛び出した塗料粒子は、パターンエア噴出孔58から噴出されるパターンエアによって、その噴霧パターンが塗装に適した形状(この場合、楕円形ないし小判形)に形成される。
【0065】
塗料粒子は、主として、このパターンエアによって被塗物の近傍まで搬送される。そして、帯電した塗料粒子が被塗物に近づくと、静電誘導によって、接地された被塗物の表面に塗料粒子の電荷とは反対極性の電荷が誘起される。これにより、塗料粒子と被塗物との間に静電気力が働き、塗料粒子は被塗物に向かう吸引力を受ける。つまり、この吸引力とパターンエアによる吹き付け力との双方の力によって、塗料粒子は被塗物の表面に塗着される。なお、静電気力による吸引力が働くため、塗料粒子はスプレーガン2に面していない被塗物の裏側にも回り込み塗着される。以上のような作用により、被塗物に静電塗装が行なわれる。
【0066】
ところで、本発明者の実験によると、接地された導電性のアースリング7をピン電極6に対して離間した状態、即ち、アースリング7をピン電極6の近傍において当該ピン電極6と間隔を有した状態で配置した本実施形態のスプレーガン2を用いて静電塗装を行うと、このようなアースリング7を備えていない従来構成のスプレーガンを用いた場合よりも、塗料の塗着効率が明らかに向上することが確認された。その理由は次のように考えられる。
【0067】
即ち、アースリング7は、給電兼接地経路71を介して、接地電位に保持される電源線3aに電気的に接続されている。このため、アースリング7は、接地電位に保持されている。しかも、アースリング7は、被塗物に比べ、ピン電極6に非常に近い位置に配置されている。
【0068】
このような構成において、高電圧発生装置5が発生した直流高電圧Vdcがピン電極6に印加されると、ピン電極6とアースリング7との間に電界が形成される。そして、このようにピン電極6とアースリング7との間に形成される電界によって塗料粒子の帯電が促進され、これにより、塗料の塗着効率が向上する。
【0069】
図10は、本発明者の実験によって得られたものであり、ピン電極6に印加される出力電圧(ガン先電圧)と塗料の塗着効率との関係を概略的に示す図である。図10中、実線Aはアースリング7を備えた本実施形態のスプレーガン2のものであり、実線Bはアースリング7を備えていない従来構成のスプレーガンのものである。
【0070】
この図10から明らかなように、本実施形態のスプレーガン2(実線A参照)によれば、従来構成のスプレーガン(実線B参照)と同等の塗着効率を、より低いガン先電圧にて得ることができる。即ち、例えば、従来構成のスプレーガン(実線B)の点b(この場合、ガン先電圧は約60kV)と同等の塗着効率を、本実施形態のスプレーガン2(実線A)では点a(この場合、ガン先電圧は30kV)で得ることができる。
なお、本発明者の実験により、円環状のアースリング7の径が小さいほど、塗料粒子の帯電効率、ひいては、塗料の塗着効率が向上する傾向にあることが確認された。
【0071】
さらに、本発明者の別の実験によると、アースリング7を塗料吐出口44の先端部から所定の範囲で遠ざけて配設することによって、向上した塗料の塗着効率が低下し難くなり高い値で維持されることが確認された。その理由は次のように考えられる。
【0072】
即ち、静電塗装システム1によって静電塗装を開始した直後では、スプレーガン2のアースリング7は清浄な状態(当該アースリング7に塗料が付着していない状態)となっている。従って、上述したような作用(ピン電極6とアースリング7との間に形成される電界によって塗料粒子の帯電が促進される作用)によって、塗料の塗着効率を向上させることができる。
【0073】
しかし、帯電した塗料の一部は、接地電位に保持されたアースリング7に引き付けられ、当該アースリング7に付着する。従って、静電塗装を開始してから時間が経過することに伴い、アースリング7に次第に塗料が付着し当該アースリング7が塗料によって覆われてくる。そして、アースリング7表面に塗料が付着してくると、僅かに残ったアースリング7の露出部分(塗料が付着していない部分)や塗料による皮膜の薄い部分に電界が集中するようになり、当該部分における放電電流が増加するようになる。この放電電流の増加によって、ガン先電圧(ピン電極6の出力電圧)が低下するようになり、これが直接的な原因となって塗料の塗着効率が低下するようになる。
【0074】
ところが、アースリング7を塗料吐出口44の先端部から所定の範囲で遠ざけて配設すると、当該アースリング7がピン電極6から十分に且つ適度に離れた状態となることから、アースリング7に塗料が付着したとしても、放電電流を低い値(この場合、70μA以下)に抑えることができる。これにより、塗料の塗着効率が低下してしまうことを回避することができる。
【0075】
次に、上述した静電塗装システム1における制御回路8による制御内容について説明する。
スプレーガン2のアースリング7は、ガン本体21に着脱可能に構成され、ガン本体21に装着された状態で、接地が施された電源線3aの開路部3cを閉路する。従って、アースリング7のガン本体21への装着が不確実な状態、即ち、接続端子61とソケット部74との接触が不確実な状態では、電源線3(電源線3a,3b)を介して流れる電流が減少する。また、アースリング7がガン本体21から完全に外れた状態、即ち、接続端子61とソケット部74とが接触していない状態では、電源線3(電源線3a,3b)に電流が流れない。
【0076】
一方、交流電源装置4の制御回路8は、電源線3(電源線3b)を流れる電流を、カレントコイル13を介して所定時間(例えば、4ミリ秒)ごとに検出するようになっている。
【0077】
そして、制御回路8は、スプレーガン2の高電圧発生装置5に交流電圧Vacを供給しているときに検出電流(カレントコイル13によって検出される電源線3bを流れる電流)が減少した場合、即ち、アースリング7のガン本体21への装着が不確実な場合には、高電圧発生装置5への交流電圧Vacの供給を直ちに停止するようになっている。なお、検出電流が減少したか否かの判断は、種々の方法を採用することができ、例えば、検出電流を所定の閾値と比較することに基づいて行ってもよいし、検出電流の減少割合(所定時間における減少量)に基づいて行ってもよいし、検出電流の減少速度に基づいて行ってもよい。
【0078】
また、交流電源装置4の制御回路8は、カレントコイル13を介して電流(電源線3bを流れる電流)が検出されない場合、即ち、アースリング7がガン本体21から完全に外れていて電源線3(電源線3a,3b)に電流が流れていない場合にも、高電圧発生装置5への交流電圧Vacの供給動作を直ちに停止するようになっている。
【0079】
そして、制御回路8がスプレーガン2の高電圧発生装置5への交流電圧Vacの供給を停止したことに応じて、使用者は、アースリング7の装着状態を確認し、アースリング7を装着し直すことができる。その後、使用者によって制御回路8のリセットスイッチ8a(図1参照、復帰手段に相当)が操作されると、制御回路8は、高電圧発生装置5への交流電圧Vacの供給を復帰させる。なお、この復帰後において、検出電流が減少した場合、または、電流が検出されない場合には、制御回路8は、再び高電圧発生装置5への交流電圧Vacの供給動作を直ちに停止するようになっている。
【0080】
以上に説明したように本実施形態によれば、アースリング7をスプレーガン2のガン本体21に着脱可能に構成したとしても、当該アースリング7のガン本体21への装着が不確実な場合や、当該アースリング7がガン本体21から外れた場合には、スプレーガン2の高電圧発生装置5への交流電圧Vacの供給が直ちに停止される。これにより、塗装作業中にアースリング7が帯電してしまうことを確実に防止でき、塗装作業の安全性を向上することができる。
【0081】
また、交流電源装置4は、制御回路8がスプレーガン2の高電圧発生装置5への交流電圧Vacの供給を停止した後に、高電圧発生装置5への交流電圧Vacの供給を復帰させるためのリセットスイッチ8aを備え、交流電圧Vacの供給が一旦停止した後のスプレーガン2への給電は、使用者が意識的にリセットスイッチ8aを操作しない限り復帰しない構成とした。従って、アースリング7の装着が不確実の状態のまま高電圧発生装置5への交流電圧Vacの供給が自動的に復帰してしまうことがなく、塗装作業の安全性を一層向上することができる。
【0082】
また、アースリング7には導電性を有する一対の接続端子61が設けられ、ガン本体21には、接地電位に保持される電源線3aの開路部3cの両端に接続された一対のソケット部74が設けられ、アースリング7のガン本体21への装着は、接続端子61とソケット部74との嵌合に行われるように構成されている。このような構成は簡素であり、構造の複雑化を招くことなく、アースリング7を着脱可能に構成することができる。
【0083】
また、接続端子61は、ソケット部74の内面に圧接する圧接部61cを有している。これにより、アースリング7を着脱可能としつつ、装着したアースリング7の抜け止めを実現することができる。
【0084】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について図11を参照して説明する。本実施形態は、2本の送電ケーブル(電源線3a,3b)を介して交流電圧Vacをスプレーガン2に供給(送電)する構成の第1の実施形態と異なり、3本の送電ケーブル(電源線)を介して交流電圧Vacをスプレーガン2に送電する構成のものである。以下、第1の実施形態と異なる点について説明する。
【0085】
本実施形態の静電塗装システム91では、交流電源装置4の直流電源9の出力は、スイッチング素子10によって接地電位に対して正側に、スイッチング素子11によって接地電位に対して負側になるように接続されている。そして、制御回路8が出力する駆動信号のパルス幅に応じてスイッチング素子10,11が交互にオン/オフを繰り返すことにより、直流電源9の出力電圧に応じた低電圧の交流電圧Vac(この場合、AC24V/20kHz)が発生する。この交流電圧Vacは、第1の実施形態に示した電源線3に代わる電源線92(交流電圧供給線に相当)を介して、スプレーガン2の高電圧発生装置5に供給される。
【0086】
電源線92は、交流電圧Vacをスプレーガン2の高電圧発生装置5に供給するための3本の電源線92a,92b,92cからなる。電源線92a(接地側供給線に相当)は、上述した電源線3aに代わるものであり、交流電源装置4側において接地線93を介して接地が施されており、接地電位に保持されるようになっている。これに対して、電源線92b,92cは、上述した電源線3bに代わるものであり、電源線92aに対して電位が変動するようになっている。電源線92aの一部(この場合、電源線92aのうちスプレーガン2内に配設された部分)には開路部92dが形成されており、この開路部92dには、一対の給電兼接地経路71,71が接続されている。
【0087】
カレントコイル13は、この場合、接地電位に保持される電源線92aに設けられている。そして、制御回路8は、上述した第1の実施形態に示したものと同様に、カレントコイル13による検出電流に基づいて、電源線92(電源線92a,92b,92c)を介した高電圧発生装置5への交流電圧Vacの供給を制御するようになっている。即ち、制御回路8は、高電圧発生装置5に交流電圧Vacを供給しているときに検出電流が減少した場合、即ち、アースリング7のガン本体21への装着が不確実な場合には、高電圧発生装置5への交流電圧Vacの供給を停止する。また、制御回路8は、電流が検出されない場合、即ち、アースリング7がガン本体21から完全に外れた場合にも、高電圧発生装置5への交流電圧Vacの供給を停止する。
【0088】
このような構成の本実施形態においても、アースリング7のガン本体21への装着が不確実な場合や、当該アースリング7がガン本体21から外れた場合には、高電圧発生装置5への交流電圧Vacの供給が直ちに停止される。これにより、アースリング7をスプレーガン2のガン本体21に着脱可能に構成したとしても、塗装作業中にアースリング7が帯電してしまうことを確実に防止でき、塗装作業の安全性を向上することができる。
【0089】
(その他の実施形態)
なお、本発明は、上述の各実施形態にのみ限定されるものではなく、次のように変形または拡張することができる。
交流電源装置4は、スプレーガン2の外部に設けるのではなく、スプレーガン2の内部に設けるようにしてもよい。
制御回路8は、カレントコイル13によって、電源線3、或いは、電源線92の電圧を検出するようにしてもよい。この場合、制御回路8は、カレントコイル13による検出電圧に基づいて、電源線3、或いは、電源線92を介した高電圧発生装置5への交流電圧Vacの供給を制御する。即ち、制御回路8は、高電圧発生装置5に交流電圧を供給しているときに検出電圧が減少した場合(アースリング7のガン本体21への装着が不確実な場合)、または、電圧が検出されない場合(アースリング7がガン本体21から完全に外れた場合)には、高電圧発生装置5への交流電圧の供給を停止するように構成する。
【0090】
交流電圧供給線は、上記した電源線3や電源線92に限られるものではなく、単なる電線(電源供給に関与しないもの)から構成してもよい。
制御回路8が電源線3,或いは、電源線92を流れる電流を検出する間隔(所定時間)は、数ミリ秒程度に設定することが好ましい。また、制御回路8が電源線3,或いは、電源線92の電圧を検出する間隔(所定時間)は、数ミリ秒程度に設定することが好ましい。検出間隔を数ミリ秒程度に設定すれば、その間に交流電圧Vacが大きく上昇することがなく、接続端子61(アースリング7)とソケット部74(ガン本体21)との接触が不確実な状態であったとしても、これら接続端子61とソケット部74との間に火花が発生し難くなるからである。なお、検出間隔を数百ミリ秒(例えば、100ミリ秒)に設定すると、その間に交流電圧Vacが大きく上昇してしまい、接続端子61とソケット部74との接触が不確実な状態では、これら接続端子61とソケット部74との間に火花が発生し易くなる。
【0091】
アースリング7は、前端部のみが断面半円状となる導電性部材からなるものに限られるものではなく、その形状を適宜変更して実施することができる。例えば、断面円形状となる円環状の導電性部材で構成してもよいし、断面矩形状となる円環状の導電性部材で構成してもよい。また、アースリング7は、円環状の導電性部材に限られるものではなく、例えば、楕円環状の導電性部材で構成してもよい。また、アース体としては、リング形状のものに限られず、例えば球体状のものを用いてもよい。
【0092】
接続部は、一対の接続端子61に限られるものではなく、例えば、先端部のみが二股状に分かれた1本の端子から構成してもよい。また、アース体に接続部を設けず、当該アース体を接地側供給線に直接接続するように構成してもよい。要は、アース体がガン本体21に装着された状態で、接地電位に保持される接地側供給線の開路部を閉路するように構成すればよい。
【0093】
また、被接続部は、一対のソケット部74に限られるものではなく、例えば、接続部を1本のピン状の部材から構成し、このピン状の部材の2箇所に接触するように被接続部を設けるようにしてもよい。
塗料チューブ46としては、使用する塗料の種類などに応じて、例えばスパイラル状に延びるものや直線状に延びるものなどを適宜使用することができる。
【0094】
本発明において使用可能な塗料は、上記した溶剤系塗料に限られるものではなく、例えば、メタリック系塗料を使用することもできる。
本発明は、例えば、パターンエアを噴出しない構成の静電塗装用スプレーガンを備えてなる静電塗装システムにも適用することが可能である。要は、帯電させた塗料を被塗物に塗着させる構成の静電塗装用スプレーガン全般を備えた静電塗装システムに適用することができる。
【符号の説明】
【0095】
図面中、1は静電塗装システム、2は静電塗装用スプレーガン、3は電源線(交流電圧供給線)、3aは電源線(接地側供給線)、3cは開路部、4は交流電源装置、5は高電圧発生装置(高電圧発生手段)、6はピン電極(電極)、7はアースリング(アース体)、8は制御回路(制御手段)、8aはリセットスイッチ(復帰手段)、13はカレントコイル(検出手段)、21はガン本体、61は接続端子(接続部,端子)、61cは圧接部、74はソケット部(被接続部)、91は静電塗装システム、92は電源線(交流電圧供給線)、92aは電源線(接地側供給線)、92dは開路部を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯電させた塗料を噴霧して被塗物に塗着させる静電塗装用スプレーガンと、交流電圧を発生する交流電源装置とを備えて構成される静電塗装システムにおいて、
前記静電塗装用スプレーガンは、
非導電性材料で構成されたガン本体と、
前記交流電源装置から交流電圧供給線を介して供給された交流電圧に基づいて直流高電圧を発生する高電圧発生手段と、
前記高電圧発生手段が発生した直流高電圧が印加され、噴霧する塗料を帯電させる電極と、
前記ガン本体に着脱可能とされ、その装着状態において前記電極に対して離間した状態で配設され、前記直流高電圧が印加される前記電極との間に電界を生成する導電性を有するアース体とを備え、
前記交流電源装置は、
前記交流電圧供給線を介して流れる電流または前記交流電圧供給線の電圧を検出する検出手段と、
前記検出電流または前記検出電圧に基づいて、前記交流電圧供給線を介した前記高電圧発生手段への交流電圧の供給を制御する制御手段とを備え、
前記交流電圧供給線のうち接地が施された接地側供給線の一部には開路部が形成され、
前記アース体は、前記ガン本体に装着された状態で、前記開路部を閉路するように構成され、
前記制御手段は、前記高電圧発生手段に交流電圧を供給しているときに前記検出電流または前記検出電圧が減少した場合、または、前記電流または前記電圧が検出されない場合には、前記高電圧発生手段への交流電圧の供給を停止するように構成されていることを特徴とする静電塗装システム。
【請求項2】
前記交流電源装置は、
前記制御手段が前記高電圧発生手段への交流電圧の供給を停止した後に、前記高電圧発生手段への交流電圧の供給を復帰させるための復帰手段を備えていることを特徴とする請求項1記載の静電塗装システム。
【請求項3】
前記静電塗装用スプレーガンにおいて、
前記アース体には、導電性を有する接続部が設けられ、
前記ガン本体には、前記接地側供給線の前記開路部の両端に接続された被接続部が設けられ、
前記アース体の前記ガン本体への装着は、前記接続部と前記被接続部との嵌合によって行われるように構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の静電塗装システム。
【請求項4】
前記静電塗装用スプレーガンにおいて、
前記アース体には、前記接続部として一対の端子が設けられ、
前記ガン本体には、前記被接続部として前記接地側供給線の前記開路部の両端に接続された一対のソケット部が設けられていることを特徴とする請求項3記載の静電塗装システム。
【請求項5】
前記端子は、前記ソケット部内にて当該ソケット部の内面に圧接する圧接部を有していることを特徴とする請求項4記載の静電塗装システム。
【請求項6】
帯電させた塗料を噴霧して被塗物に塗着させるものであって、交流電圧を発生する交流電源装置とともに静電塗装システムを構成する静電塗装用スプレーガンにおいて、
非導電性材料で構成されたガン本体と、
前記交流電源装置から交流電圧供給線を介して供給された交流電圧に基づいて直流高電圧を発生する高電圧発生手段と、
前記高電圧発生手段が発生した直流高電圧が印加され、噴霧する塗料を帯電させる電極と、
前記ガン本体に着脱可能とされ、その装着状態において前記電極に対して離間した状態で配設され、前記直流高電圧が印加される前記電極との間に電界を生成する導電性を有するアース体とを備え、
前記交流電圧供給線のうち接地が施された接地側供給線の一部には開路部が形成され、
前記アース体は、前記ガン本体に装着された状態で、前記開路部を閉路するように構成されていることを特徴とする静電塗装用スプレーガン。
【請求項7】
交流電圧を発生するものであって、交流電圧供給線を介して供給された交流電圧に基づいて直流高電圧を発生する高電圧発生手段を備えた静電塗装用スプレーガンとともに静電塗装システムを構成する交流電源装置において、
前記交流電圧供給線を介して流れる電流または前記交流電圧供給線の電圧を検出する検出手段と、
前記検出電流または前記検出電圧に基づいて、前記交流電圧供給線を介した前記高電圧発生手段への交流電圧の供給を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記高電圧発生手段に交流電圧を供給しているときに前記検出電流または前記検出電圧が減少した場合、または、前記電流または前記電圧が検出されない場合には、前記高電圧発生手段への交流電圧の供給を停止するように構成されていることを特徴とする交流電源装置。
【請求項1】
帯電させた塗料を噴霧して被塗物に塗着させる静電塗装用スプレーガンと、交流電圧を発生する交流電源装置とを備えて構成される静電塗装システムにおいて、
前記静電塗装用スプレーガンは、
非導電性材料で構成されたガン本体と、
前記交流電源装置から交流電圧供給線を介して供給された交流電圧に基づいて直流高電圧を発生する高電圧発生手段と、
前記高電圧発生手段が発生した直流高電圧が印加され、噴霧する塗料を帯電させる電極と、
前記ガン本体に着脱可能とされ、その装着状態において前記電極に対して離間した状態で配設され、前記直流高電圧が印加される前記電極との間に電界を生成する導電性を有するアース体とを備え、
前記交流電源装置は、
前記交流電圧供給線を介して流れる電流または前記交流電圧供給線の電圧を検出する検出手段と、
前記検出電流または前記検出電圧に基づいて、前記交流電圧供給線を介した前記高電圧発生手段への交流電圧の供給を制御する制御手段とを備え、
前記交流電圧供給線のうち接地が施された接地側供給線の一部には開路部が形成され、
前記アース体は、前記ガン本体に装着された状態で、前記開路部を閉路するように構成され、
前記制御手段は、前記高電圧発生手段に交流電圧を供給しているときに前記検出電流または前記検出電圧が減少した場合、または、前記電流または前記電圧が検出されない場合には、前記高電圧発生手段への交流電圧の供給を停止するように構成されていることを特徴とする静電塗装システム。
【請求項2】
前記交流電源装置は、
前記制御手段が前記高電圧発生手段への交流電圧の供給を停止した後に、前記高電圧発生手段への交流電圧の供給を復帰させるための復帰手段を備えていることを特徴とする請求項1記載の静電塗装システム。
【請求項3】
前記静電塗装用スプレーガンにおいて、
前記アース体には、導電性を有する接続部が設けられ、
前記ガン本体には、前記接地側供給線の前記開路部の両端に接続された被接続部が設けられ、
前記アース体の前記ガン本体への装着は、前記接続部と前記被接続部との嵌合によって行われるように構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の静電塗装システム。
【請求項4】
前記静電塗装用スプレーガンにおいて、
前記アース体には、前記接続部として一対の端子が設けられ、
前記ガン本体には、前記被接続部として前記接地側供給線の前記開路部の両端に接続された一対のソケット部が設けられていることを特徴とする請求項3記載の静電塗装システム。
【請求項5】
前記端子は、前記ソケット部内にて当該ソケット部の内面に圧接する圧接部を有していることを特徴とする請求項4記載の静電塗装システム。
【請求項6】
帯電させた塗料を噴霧して被塗物に塗着させるものであって、交流電圧を発生する交流電源装置とともに静電塗装システムを構成する静電塗装用スプレーガンにおいて、
非導電性材料で構成されたガン本体と、
前記交流電源装置から交流電圧供給線を介して供給された交流電圧に基づいて直流高電圧を発生する高電圧発生手段と、
前記高電圧発生手段が発生した直流高電圧が印加され、噴霧する塗料を帯電させる電極と、
前記ガン本体に着脱可能とされ、その装着状態において前記電極に対して離間した状態で配設され、前記直流高電圧が印加される前記電極との間に電界を生成する導電性を有するアース体とを備え、
前記交流電圧供給線のうち接地が施された接地側供給線の一部には開路部が形成され、
前記アース体は、前記ガン本体に装着された状態で、前記開路部を閉路するように構成されていることを特徴とする静電塗装用スプレーガン。
【請求項7】
交流電圧を発生するものであって、交流電圧供給線を介して供給された交流電圧に基づいて直流高電圧を発生する高電圧発生手段を備えた静電塗装用スプレーガンとともに静電塗装システムを構成する交流電源装置において、
前記交流電圧供給線を介して流れる電流または前記交流電圧供給線の電圧を検出する検出手段と、
前記検出電流または前記検出電圧に基づいて、前記交流電圧供給線を介した前記高電圧発生手段への交流電圧の供給を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記高電圧発生手段に交流電圧を供給しているときに前記検出電流または前記検出電圧が減少した場合、または、前記電流または前記電圧が検出されない場合には、前記高電圧発生手段への交流電圧の供給を停止するように構成されていることを特徴とする交流電源装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−78944(P2011−78944A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235224(P2009−235224)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000117009)旭サナック株式会社 (194)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000117009)旭サナック株式会社 (194)
【Fターム(参考)】
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