静電塗装方法
【課題】被塗装面の平滑性をより向上できる静電塗装方法を提供すること。
【解決手段】静電塗装方法は、塗装ガン30を用いて、ボディ20を静電塗装する。この静電塗装方法は、回転霧化頭を回転しつつ、塗装ガン30の回転霧化頭への塗料の供給量を変化さて、塗料粒子の粒径を変化させるとともに、塗膜のNV値が所定範囲内に収まるように、溶剤を塗料に添加する。これにより、ボディ20の被塗装面における塗料粒子の積層による凹凸を小さくできるうえに、被塗装面に塗着した塗料がレベリングする程度の流動性を確保できるので、従来に比べて、塗装面の平滑性をより向上できる。
【解決手段】静電塗装方法は、塗装ガン30を用いて、ボディ20を静電塗装する。この静電塗装方法は、回転霧化頭を回転しつつ、塗装ガン30の回転霧化頭への塗料の供給量を変化さて、塗料粒子の粒径を変化させるとともに、塗膜のNV値が所定範囲内に収まるように、溶剤を塗料に添加する。これにより、ボディ20の被塗装面における塗料粒子の積層による凹凸を小さくできるうえに、被塗装面に塗着した塗料がレベリングする程度の流動性を確保できるので、従来に比べて、塗装面の平滑性をより向上できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電塗装方法に関する。詳しくは、被塗装面を静電塗装する静電塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車の車体を塗装する手法として、3コート3ベーク方式が知られている。3コート3ベーク方式とは、電着塗装、焼付け、中塗り塗装、焼付け、ベース塗装、クリア塗装、焼付けの順に処理する方式である。
以上の塗装工程では、塗装装置として、例えば回転霧化式塗装装置が用いられている。この回転霧化式塗装装置は、回転霧化頭に高電圧を印加しつつ回転させ、この状態で、回転霧化頭に液体塗料を供給する。これにより、液体塗料を帯電させて霧化し、回転霧化頭の先端縁から噴霧して、静電塗装を行う。
【0003】
ところで、高級車では、車両の外観に高い平滑性が要求される。そのため、高級車の車体を塗装する場合には、中塗り塗装工程の後に水研ぎ工程を実施するのが一般的である。この水研ぎ工程は、車体に水をかけつつ、人手によりサンダー等で研磨する工程である(特許文献1、2参照)。
【0004】
しかしながら、水研ぎ工程を実施すると、作業員の習熟に時間がかかるうえに、作業員を配置するコストがかかってしまい、自動車の製造コストが高くなる、という問題がある。
そこで、被塗装面の平滑性を一定に維持する手法が提案されている。すなわち、被塗装面の平滑性を検知し、この検知した平滑性を基準値と比較することで、平滑性の検出値の変化に応じて、塗料の吐出量などの塗装条件を補正し、塗装面の平滑性を一定に保っている(特許文献3参照)。このように、塗料の吐出量を変更、例えば、吐出量を低減させることで塗料粒子を微粒化することにより、塗料粒子が被塗装面に塗着した際に、この粒子の積層による凹凸が小さくなるので、被塗装面の平滑性向上が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭58−124571号公報
【特許文献2】特開平4−145979号公報
【特許文献3】特開平6−269704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の塗料の吐出量を変更し塗料粒子を微粒化する手法では、塗料の粒子を微粒化したことにより、塗料粒子の比表面積(体積に対する表面積の割合)が増加するため、塗料粒子中の溶剤の揮発量が多くなる。よって、塗料粒子が被塗装面に十分になじむ前に乾燥してしまい、塗装面に凹凸が残る場合がある。
【0007】
特に、車体の側面を塗装する場合、この問題が顕著となる。すなわち、ボンネットやルーフなどの車体の上面を塗装する場合には、塗料粒子が被塗装面に塗着して凹凸が生じても、重力は被塗装面に垂直に作用するため、表面張力および重力により、塗料粒子が被塗装面の形状になじみやすい。ところが、フェンダーやドアパネルなどの車体の側面を塗装する場合には、塗料の粒子が被塗装面に塗着して凹凸が生じると、重力は被塗装面に沿って作用するので、重力により塗料粒子が被塗装面の形状になじみにくくなる。
【0008】
本発明は、塗装面の平滑性をより向上できる静電塗装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の静電塗装方法は、回転霧化式塗装装置(例えば、後述の塗装ガン30)を用いて、被塗装面(例えば、後述のボディ20)を静電塗装する静電塗装方法であって、前記回転霧化頭を回転しつつ、前記回転霧化式塗装装置の回転霧化頭(例えば、後述の回転霧化頭32)への塗料の供給量を変化させて、塗料粒子の粒径を変化させるとともに、塗膜のNV値が所定範囲内に収まるように、溶剤を塗料に添加することを特徴とする。
【0010】
ここで、NV(Non Volatile:塗料の不揮発分)値とは、例えば、以下の式で表される。
NV=(乾燥後の塗料質量)/(乾燥前の塗料質量)×100
また、添加する溶剤としては、高沸点溶剤の方が、添加量が少なくてよいので、好ましい。
【0011】
この発明によれば、例えば、回転霧化頭の回転数を一定とし、この状態で、塗膜のNV値(塗膜中の不揮発分の割合)が所定範囲を超えて高くならないにように管理しつつ、回転霧化頭への塗料の供給量を低減して、塗料粒子を微粒化する。
【0012】
回転霧化頭の回転数が一定の状態で、回転霧化頭への塗料の供給量を低減すると、塗料粒子径が小さくなり、被塗装面における塗料粒子の積層による凹凸が小さくなる。
しかしながら、塗料粒子径が小さくなると、塗膜のNV値が高くなり、塗膜中の不揮発分の割合が高くなる(つまり、塗膜中の溶剤含有量が低下する)。その結果、塗膜の流動性が失われ、被塗装面に塗着した塗料はレベリングが不十分なまま流動性が無くなってしまう。そこで、適量の溶剤、好ましくは高沸点溶剤を加えることで、塗着した塗料の流動性を確保する。
【0013】
このように、被塗装面における塗料粒子の積層による凹凸を小さくできるうえに、被塗装面に塗着した塗料がレベリングする程度の流動性を確保できるので、従来に比べて、塗装面の平滑性をより向上できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、被塗装面における塗料粒子の積層による凹凸を小さくできるうえに、被塗装面に塗着した塗料がレベリングする程度の流動性を確保できるので、従来に比べて、塗装面の平滑性をより向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る静電塗装方法が適用された塗装ラインの一部の平面図である。
【図2】前記実施形態に係る塗装ラインを構成するクリア塗装設備の斜視図である。
【図3】前記実施形態に係るクリア塗装設備の塗料および溶剤の経路を示す模式図である。
【図4】クリア塗装設備の動作を説明するための第1の模式図である。
【図5】クリア塗装設備の動作を説明するための第2の模式図である。
【図6】クリア塗装設備の動作を説明するための第3の模式図である。
【図7】クリア塗装設備の動作を説明するための第4の模式図である。
【図8】クリア塗装設備の動作を説明するための第5の模式図である。
【図9】クリア塗装設備の動作を説明するための第6の模式図である。
【図10】回転霧化頭の吐出量とNV値との関係を示す図である。
【図11】回転霧化頭の吐出量とLW値との関係を示す図である。
【図12】本発明の変形例に係るクリア塗装設備の塗料および溶剤の経路を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る静電塗装方法が適用された塗装ライン1の一部の概略を示す平面図である。
塗装ライン1は、上塗り塗装(ベース塗装およびクリア塗装)を行う。
図1には塗装ライン1の一部が示されており、この塗装ライン1には、自動車のボディ20が搬送される搬送路2に沿って、ベース塗装設備3、フラッシュオフ設備4、クリア塗装設備10、焼き付け設備5の順に、設けられている。
【0017】
ベース塗装設備3は、塗装面としてのボディ20に中塗り塗装の上にベース塗装を行う設備であり、フラッシュオフ設備4は、ベース塗装の後にフラッシュオフを行う設備である。また、クリア塗装設備10は、フラッシュオフを行った後にボディ20にクリア塗装を行う設備であり、焼き付け設備5は、上塗り塗装(ベース塗装およびクリア塗装)の焼き付けを行う設備である。
【0018】
図2は、クリア塗装設備10の斜視図である。
クリア塗装設備10は、搬送路2の両側に設けられた6台の塗装ロボット11〜16と、各塗装ロボット11〜16のそれぞれに塗料を供給する塗料供給管41と、これら塗料供給管41のうち塗装ロボット13〜16に接続されるものに溶剤を供給する溶剤供給管42と、を備える(図1参照)。
塗装ロボット11、12は、最上流側に搬送路2を挟んで配置され、ボディ20の上面を塗装する上面塗装ロボットである。
塗装ロボット13、14は、塗装ロボット11、12の下流側に搬送路2を挟んで配置され、ボディ20の側面を塗装する側面塗装ロボットである。
塗装ロボット15、16は、塗装ロボット13、14の下流側に搬送路2を挟んで配置され、ボディ20の側面を塗装する側面塗装ロボットである。
【0019】
各塗装ロボット11〜16は、塗料を噴霧する回転霧化式塗装装置としての塗装ガン30と、この塗装ガン30の3次元空間上の位置を調整するロボットアーム40と、を備える。
【0020】
次に、塗料と溶剤との混合方法について説明する。
塗料と溶剤との混合方法としては、プレミックス、スタティックミキサ混合、ベル先混合の3種類がある。
プレミックスとは、塗装ロボットよりも塗料タンク寄りに攪拌機を設け、この攪拌機により塗料と溶剤とを混合する方法である。このプレミックスでは、色替えを行う場合、攪拌機から塗装ガンまでの流路を洗浄する。
スタティックミキサ混合とは、ロボット本体の近傍にスタティックミキサを設け、このスタティックミキサにより塗料と溶剤とを混合する方法である。このスタティックミキサ混合では、色替えを行う場合、スタティックミキサから塗装ガンまでを洗浄するだけでよい。よって、プレミックスに比べて、洗浄する経路が短くなり、塗装色の切替えにかかる時間を短縮でき、塗料ロスも低減できる。
【0021】
ベル先混合とは、塗装ガンの内部で塗料と溶剤とを混合する方法である。このベル先混合では、色替えを行う場合、塗装ガン内部を洗浄するだけでよいので、スタティックミキサ混合に比べて、洗浄する経路がさらに短くなり、塗装色の切替えにかかる時間をより短縮でき、塗料ロスもさらに低減できる。
本実施形態では、以上の3種類の混合方法のうちベル先混合を採用する。
【0022】
図3は、クリア塗装設備10の塗料および溶剤の経路を示す模式図である。
クリア塗装設備10には、上述のようにベル先混合を採用している。すなわち、塗料供給管41および溶剤供給管42は、塗装ロボット13〜16の塗装ガン30に接続されている。塗料供給管41の途中には、ギアポンプ43が設けられている。
【0023】
溶剤供給管42の途中には、溶剤押出装置44が設けられており、溶剤供給管42の溶剤押出装置44の上流側および下流側には、バルブ421、422が設けられている。
塗装ガン30は、塗料供給管41を通して供給された塗料と溶剤供給管42を通して供給された溶剤とを混合して噴霧する。
【0024】
塗装ガン30は、図示しない本体と、この本体に回転可能に設けられた回転霧化頭32と、を備える。
【0025】
本体は、円筒形状であり、回転霧化頭32に塗料を供給する塗料供給管41、溶剤を供給する溶剤供給管42のほか、コンプレッサから圧送された空気により回転霧化頭32を回転させる図示しないエアモータや、塗料を帯電させる図示しない高電圧発生装置を備える。
回転霧化頭32には、噴射方向に向かって拡開する拡開面321が形成されている。
塗料供給管41は、回転霧化頭32の中心軸に沿って延びて拡開面321の中央に到達している。
【0026】
溶剤押出装置44は、円筒形状のシリンダ441と、このシリンダ441内に摺動可能に設けられたピストン442と、このピストン442をシリンダ441の軸方向に進退させるサーボモータ443と、を備える。
ピストン442は、シリンダ441の内周面に当接する円盤状のピストン本体444と、このピストン本体444に設けられてサーボモータ443に接続された棒状のピストンロッド445と、を備える。
このピストン442は、送りねじ機構であり、サーボモータ443が回転駆動することで、ピストン442のシリンダ441内の位置を高精度で調整できるようになっている。
【0027】
次に、塗装ロボット11〜16の塗料を溶剤で希釈せずに静電塗装する場合の動作について、説明する。
まず、制御装置50により、バルブ422を閉じておく。そして、塗装ガン30の回転霧化頭32を回転させながら、ギアポンプ43を駆動して、塗料供給管41を通して、塗装ガン30に塗料を供給する。
【0028】
すると、回転霧化頭32は回転しているので、吐出された塗料には遠心力が作用し、塗料は、拡開面321の表面に沿って周縁部に向かって移動する。この塗料が拡開面321の周縁部に接近するに従って、塗料に作用する遠心力が大きくなり、塗料は多数の微細な液滴に分離され、霧状となる。この霧状の塗料は、拡開面321の周縁部から飛散し、ボディ20の表面に塗着する。
【0029】
次に、塗装ロボット13〜16の塗料を溶剤で希釈して静電塗装する場合の動作について、説明する。
まず、制御装置50により、バルブ422を閉じ、バルブ421を開いて、この状態で、図示しない溶剤供給源から溶剤を溶剤供給管42に供給し、溶剤押出装置44のシリンダ441内に溶剤を充填する。
次に、塗装ガン30の回転霧化頭32を回転させながら、ギアポンプ43を駆動して、塗料供給管41を通して、標準塗装条件よりも少量の塗料を塗装ガン30に供給する。
【0030】
このとき、塗膜のNV値が所定範囲に収まるように、制御装置50によりバルブ421を閉じ、バルブ422を開いて、溶剤押出装置44を駆動して溶剤供給管42に溶剤を供給する。すると、塗料と溶剤とが塗装ガン30の内部で混合され、さらに、吐出された塗料および溶剤の混合物には遠心力が作用し、この混合物は、回転霧化頭32の回転によりさらに混合されつつ、拡開面321の表面に沿って周縁部に向かって移動する。この混合した塗料が拡開面321の周縁部に接近すると、回転霧化頭32が高速で回転しているので、混合した塗料に作用する遠心力はかなり大きくなり、混合した塗料は多数の微細な液滴に分離され、霧状となる。この霧状の塗料は、拡開面321の周縁部から飛散し、ボディ20の表面に塗着する。
【0031】
以下、クリア塗装設備10の動作を、図4〜図9を参照しながら説明する。
このクリア塗装設備10には、2種類のボディ20A、20Bが混在して上流から搬送されるものとする。ボディ20Bには、ボディ20Aよりも高い平滑性が要求されているものとする。
まず、図4に示すように、クリア塗装設備10は、ボディ20A、20Bの塗装を行っている。具体的には、塗装ロボット13〜16により、ボディ20Aの側面を塗装している。また、塗装ロボット11、12により、ボディ20Bのフロント側の上面を塗装している。ここで、塗装ロボット11〜16には、塗料のみが供給される。
【0032】
図4に示す状態から1タクト進むと、図5に示すように、クリア塗装設備10は、塗装ロボット15、16により、ボディ20Aのリア側の側面を塗装する。また、塗装ロボット11〜14により、ボディ20Bのリア側の上面およびフロント側の側面を塗装する。ここで、塗装ロボット13、14によりボディ20Bのフロント側の側面を塗装するため、塗装ロボット13、14の塗装ガン30の回転霧化頭32への塗料の供給量は、ボディ20Aの側面を塗装していた場合よりも少量となり、同時に、これら塗装ロボット13、14には、塗料に加えて溶剤が供給される。
【0033】
図5に示す状態から1タクト進むと、図6に示すように、クリア塗装設備10からボディ20Aが搬出され、クリア塗装設備10には新たにボディ20Bが搬入される。すると、塗装ロボット13〜16により、既に搬入された下流側のボディ20Bの側面を塗装するとともに、塗装ロボット11、12により、新たに搬入された上流側のボディ20Bのフロント側の上面を塗装する。ここで、塗装ロボット13〜16によりボディ20Bの側面を塗装するため、塗装ロボット13〜16の塗装ガン30の回転霧化頭32への塗料の供給量は、ボディ20Aの側面を塗装していた場合よりも少量となり、同時に、これら塗装ロボット13〜16には、塗料に加えて溶剤が供給される。
【0034】
図6に示す状態から1タクト進むと、図7に示すように、クリア塗装設備10は、塗装ロボット15、16により、下流側のボディ20Bのリア側の側面を塗装する。また、塗装ロボット11〜14により上流側のボディ20Bのリア側の上面およびフロント側の側面を塗装する。ここで、塗装ロボット13〜16によりボディ20Bの側面を塗装するため、塗装ロボット13〜16の塗装ガン30の回転霧化頭32への塗料の供給量は、ボディ20Aの側面を塗装していた場合よりも少量となり、同時に、これら塗装ロボット13〜16には、塗料に加えて溶剤が供給される。
【0035】
図7に示す状態から1タクト進むと、図8に示すように、クリア塗装設備10からボディ20Bが搬出され、クリア塗装設備10には新たにボディ20Aが搬入される。すると、塗装ロボット13〜16により、既に搬入されたボディ20Bの側面を塗装するとともに、塗装ロボット11、12により、新たに搬入されたボディ20Aのフロント側の上面を塗装する。ここで、塗装ロボット13〜16は、ボディ20Bの側面を塗装するため、塗装ロボット13〜16の塗装ガン30の回転霧化頭32への塗料の供給量は、ボディ20Aの側面を塗装していた場合よりも少量となり、同時に、これら塗装ロボット13〜16には、塗料に加えて溶剤が供給される。
【0036】
図8に示す状態から1タクト進むと、図9に示すように、クリア塗装設備10は、塗装ロボット15、16により、既に搬入されたボディ20Bのリア側の側面を塗装する。また、塗装ロボット11〜14により、新たに搬入されたボディ20Aのリア側の上面およびフロント側の側面を塗装する。ここで、塗装ロボット15、16は、ボディ20Bの側面を塗装するため、塗装ロボット15、16の塗装ガン30の回転霧化頭32への塗料の供給量は、ボディ20Aの側面を塗装していた場合よりも少量となり、同時に、これら塗装ロボット15、16には、塗料に加えて溶剤が供給される。
【0037】
[実施例および比較例]
上述のクリア塗装設備に塗料および溶剤を供給し、塗料に対する溶剤の割合とNV値およびLW値との関連を調べた。
【0038】
図10は、回転霧化頭の回転数が一定である場合の回転霧化頭の吐出量とNV値との関係を示す図である。図11は、回転霧化頭の回転数が一定である場合の回転霧化頭の吐出量とLW値との関係を示す図である。
図11中、LW(Long Wave)とは、Wavescan(BYK Gardner社製)と呼ばれる測定器で測定された、塗膜の平滑度を表す指標である。具体的には、この測定器からレーザ光を塗膜表面に照射して、塗膜表面の反射光強度を検出し、塗膜表面の光学プロファイルを検出する。そして、この光学ファイルを数学的フィルターにかけ、塗膜表面のストラクチャーを波長毎に分離し、測定した波長がある程度長いものを抽出して数値化したものである。LW値が低いほど表面が平滑であり、外観が良好である、といえる。
【0039】
回転霧化頭への塗料の供給量を低減しない通常塗装の場合(標準条件)には、吐出量をl4からl1まで低減させるに従って、NV値が高くなる。ここで、吐出量がl3である場合、NV値が所定の範囲(図10中t1からt2までの範囲)内に入るが、この場合でも、LW値がわずかしか低下しない。
すなわち、回転霧化頭への塗料の供給量を低減すると、塗料粒子が微粒化されるため、塗料粒子の比表面積が増大して、塗膜のNV値は高くなる。よって、塗料粒子の微粒化の効果は半減し、LW値は大きく低下しない。
【0040】
一方、回転霧化頭への塗料の供給量の低減に加えて、NV値が所定の範囲内に収まるように塗料に溶剤を添加した場合には、LW値が顕著に低くなる。
すなわち、回転霧化頭への塗料の供給量を低減すると、塗料粒子が微細化されて塗料粒子の比表面積が増大するが、溶剤が添加されているため、塗料の溶剤揮発量が抑制され、塗膜中の揮発分の割合がそれほど高くならず、NV値の上昇を抑えることができる。よって、被塗装面に塗着した塗料の流動性が確保され、塗膜のレベリングが促進されるので、塗膜表面の凹凸が抑えられることになり、LW値が顕著に低くなる。
【0041】
以上より、回転霧化頭32の回転数が一定の状態で、塗膜のNV値が所定範囲を超えて高くならないにように管理しつつ、回転霧化頭32からの塗料の吐出量を低減して塗料粒子を微粒化することで、LW値を低下させて、外観を良好にできることが判る。
【0042】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)回転霧化頭32の回転数を一定とし、この状態で、塗膜のNV値が所定範囲を超えて高くならないにように管理しつつ、回転霧化頭32からの塗料の吐出量を低減して、塗料粒子を微粒化する。これにより、ボディ20における塗料粒子の積層による凹凸を小さくできるうえに、ボディ20に塗着した塗料の流動性を確保できるので、従来に比べて、ボディ20の平滑性をより向上できる。
【0043】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、本実施形態では、静電塗装方法をクリア塗装設備10に適用したが、これに限らない。すなわち、中塗り塗装設備に適用してもよいし、オーバーコートクリア塗装設備(クリア塗装の上に施されるプレミアムなクリア塗装)のような、上塗り塗装設備のうちベース塗装設備を除いた設備に適用してもよい。また、これらの設備のうちの1つに適用してもよいし、複数に適用してもよい。
【0044】
また、本実施形態では、クリア塗装設備10にベル先混合を採用したが、これに限らず、上述のスタティックミキサ混合を採用してもよい。
すなわち、図12に示すように、塗料供給管41には、ギアポンプ43に加えてスタティックミキサ45が設けられており、溶剤供給管42は、塗装ガン30ではなくスタティックミキサ45に接続されている。このスタティックミキサ45は、ギアポンプ43から供給された塗料と溶剤押出装置44から供給された溶剤とを混合するものである。このようにしても、上述の(1)と同様の効果がある。
【符号の説明】
【0045】
30 塗装ガン(回転霧化式塗装装置)
32 回転霧化頭
20 ボディ(被塗装面)
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電塗装方法に関する。詳しくは、被塗装面を静電塗装する静電塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車の車体を塗装する手法として、3コート3ベーク方式が知られている。3コート3ベーク方式とは、電着塗装、焼付け、中塗り塗装、焼付け、ベース塗装、クリア塗装、焼付けの順に処理する方式である。
以上の塗装工程では、塗装装置として、例えば回転霧化式塗装装置が用いられている。この回転霧化式塗装装置は、回転霧化頭に高電圧を印加しつつ回転させ、この状態で、回転霧化頭に液体塗料を供給する。これにより、液体塗料を帯電させて霧化し、回転霧化頭の先端縁から噴霧して、静電塗装を行う。
【0003】
ところで、高級車では、車両の外観に高い平滑性が要求される。そのため、高級車の車体を塗装する場合には、中塗り塗装工程の後に水研ぎ工程を実施するのが一般的である。この水研ぎ工程は、車体に水をかけつつ、人手によりサンダー等で研磨する工程である(特許文献1、2参照)。
【0004】
しかしながら、水研ぎ工程を実施すると、作業員の習熟に時間がかかるうえに、作業員を配置するコストがかかってしまい、自動車の製造コストが高くなる、という問題がある。
そこで、被塗装面の平滑性を一定に維持する手法が提案されている。すなわち、被塗装面の平滑性を検知し、この検知した平滑性を基準値と比較することで、平滑性の検出値の変化に応じて、塗料の吐出量などの塗装条件を補正し、塗装面の平滑性を一定に保っている(特許文献3参照)。このように、塗料の吐出量を変更、例えば、吐出量を低減させることで塗料粒子を微粒化することにより、塗料粒子が被塗装面に塗着した際に、この粒子の積層による凹凸が小さくなるので、被塗装面の平滑性向上が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭58−124571号公報
【特許文献2】特開平4−145979号公報
【特許文献3】特開平6−269704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の塗料の吐出量を変更し塗料粒子を微粒化する手法では、塗料の粒子を微粒化したことにより、塗料粒子の比表面積(体積に対する表面積の割合)が増加するため、塗料粒子中の溶剤の揮発量が多くなる。よって、塗料粒子が被塗装面に十分になじむ前に乾燥してしまい、塗装面に凹凸が残る場合がある。
【0007】
特に、車体の側面を塗装する場合、この問題が顕著となる。すなわち、ボンネットやルーフなどの車体の上面を塗装する場合には、塗料粒子が被塗装面に塗着して凹凸が生じても、重力は被塗装面に垂直に作用するため、表面張力および重力により、塗料粒子が被塗装面の形状になじみやすい。ところが、フェンダーやドアパネルなどの車体の側面を塗装する場合には、塗料の粒子が被塗装面に塗着して凹凸が生じると、重力は被塗装面に沿って作用するので、重力により塗料粒子が被塗装面の形状になじみにくくなる。
【0008】
本発明は、塗装面の平滑性をより向上できる静電塗装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の静電塗装方法は、回転霧化式塗装装置(例えば、後述の塗装ガン30)を用いて、被塗装面(例えば、後述のボディ20)を静電塗装する静電塗装方法であって、前記回転霧化頭を回転しつつ、前記回転霧化式塗装装置の回転霧化頭(例えば、後述の回転霧化頭32)への塗料の供給量を変化させて、塗料粒子の粒径を変化させるとともに、塗膜のNV値が所定範囲内に収まるように、溶剤を塗料に添加することを特徴とする。
【0010】
ここで、NV(Non Volatile:塗料の不揮発分)値とは、例えば、以下の式で表される。
NV=(乾燥後の塗料質量)/(乾燥前の塗料質量)×100
また、添加する溶剤としては、高沸点溶剤の方が、添加量が少なくてよいので、好ましい。
【0011】
この発明によれば、例えば、回転霧化頭の回転数を一定とし、この状態で、塗膜のNV値(塗膜中の不揮発分の割合)が所定範囲を超えて高くならないにように管理しつつ、回転霧化頭への塗料の供給量を低減して、塗料粒子を微粒化する。
【0012】
回転霧化頭の回転数が一定の状態で、回転霧化頭への塗料の供給量を低減すると、塗料粒子径が小さくなり、被塗装面における塗料粒子の積層による凹凸が小さくなる。
しかしながら、塗料粒子径が小さくなると、塗膜のNV値が高くなり、塗膜中の不揮発分の割合が高くなる(つまり、塗膜中の溶剤含有量が低下する)。その結果、塗膜の流動性が失われ、被塗装面に塗着した塗料はレベリングが不十分なまま流動性が無くなってしまう。そこで、適量の溶剤、好ましくは高沸点溶剤を加えることで、塗着した塗料の流動性を確保する。
【0013】
このように、被塗装面における塗料粒子の積層による凹凸を小さくできるうえに、被塗装面に塗着した塗料がレベリングする程度の流動性を確保できるので、従来に比べて、塗装面の平滑性をより向上できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、被塗装面における塗料粒子の積層による凹凸を小さくできるうえに、被塗装面に塗着した塗料がレベリングする程度の流動性を確保できるので、従来に比べて、塗装面の平滑性をより向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る静電塗装方法が適用された塗装ラインの一部の平面図である。
【図2】前記実施形態に係る塗装ラインを構成するクリア塗装設備の斜視図である。
【図3】前記実施形態に係るクリア塗装設備の塗料および溶剤の経路を示す模式図である。
【図4】クリア塗装設備の動作を説明するための第1の模式図である。
【図5】クリア塗装設備の動作を説明するための第2の模式図である。
【図6】クリア塗装設備の動作を説明するための第3の模式図である。
【図7】クリア塗装設備の動作を説明するための第4の模式図である。
【図8】クリア塗装設備の動作を説明するための第5の模式図である。
【図9】クリア塗装設備の動作を説明するための第6の模式図である。
【図10】回転霧化頭の吐出量とNV値との関係を示す図である。
【図11】回転霧化頭の吐出量とLW値との関係を示す図である。
【図12】本発明の変形例に係るクリア塗装設備の塗料および溶剤の経路を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る静電塗装方法が適用された塗装ライン1の一部の概略を示す平面図である。
塗装ライン1は、上塗り塗装(ベース塗装およびクリア塗装)を行う。
図1には塗装ライン1の一部が示されており、この塗装ライン1には、自動車のボディ20が搬送される搬送路2に沿って、ベース塗装設備3、フラッシュオフ設備4、クリア塗装設備10、焼き付け設備5の順に、設けられている。
【0017】
ベース塗装設備3は、塗装面としてのボディ20に中塗り塗装の上にベース塗装を行う設備であり、フラッシュオフ設備4は、ベース塗装の後にフラッシュオフを行う設備である。また、クリア塗装設備10は、フラッシュオフを行った後にボディ20にクリア塗装を行う設備であり、焼き付け設備5は、上塗り塗装(ベース塗装およびクリア塗装)の焼き付けを行う設備である。
【0018】
図2は、クリア塗装設備10の斜視図である。
クリア塗装設備10は、搬送路2の両側に設けられた6台の塗装ロボット11〜16と、各塗装ロボット11〜16のそれぞれに塗料を供給する塗料供給管41と、これら塗料供給管41のうち塗装ロボット13〜16に接続されるものに溶剤を供給する溶剤供給管42と、を備える(図1参照)。
塗装ロボット11、12は、最上流側に搬送路2を挟んで配置され、ボディ20の上面を塗装する上面塗装ロボットである。
塗装ロボット13、14は、塗装ロボット11、12の下流側に搬送路2を挟んで配置され、ボディ20の側面を塗装する側面塗装ロボットである。
塗装ロボット15、16は、塗装ロボット13、14の下流側に搬送路2を挟んで配置され、ボディ20の側面を塗装する側面塗装ロボットである。
【0019】
各塗装ロボット11〜16は、塗料を噴霧する回転霧化式塗装装置としての塗装ガン30と、この塗装ガン30の3次元空間上の位置を調整するロボットアーム40と、を備える。
【0020】
次に、塗料と溶剤との混合方法について説明する。
塗料と溶剤との混合方法としては、プレミックス、スタティックミキサ混合、ベル先混合の3種類がある。
プレミックスとは、塗装ロボットよりも塗料タンク寄りに攪拌機を設け、この攪拌機により塗料と溶剤とを混合する方法である。このプレミックスでは、色替えを行う場合、攪拌機から塗装ガンまでの流路を洗浄する。
スタティックミキサ混合とは、ロボット本体の近傍にスタティックミキサを設け、このスタティックミキサにより塗料と溶剤とを混合する方法である。このスタティックミキサ混合では、色替えを行う場合、スタティックミキサから塗装ガンまでを洗浄するだけでよい。よって、プレミックスに比べて、洗浄する経路が短くなり、塗装色の切替えにかかる時間を短縮でき、塗料ロスも低減できる。
【0021】
ベル先混合とは、塗装ガンの内部で塗料と溶剤とを混合する方法である。このベル先混合では、色替えを行う場合、塗装ガン内部を洗浄するだけでよいので、スタティックミキサ混合に比べて、洗浄する経路がさらに短くなり、塗装色の切替えにかかる時間をより短縮でき、塗料ロスもさらに低減できる。
本実施形態では、以上の3種類の混合方法のうちベル先混合を採用する。
【0022】
図3は、クリア塗装設備10の塗料および溶剤の経路を示す模式図である。
クリア塗装設備10には、上述のようにベル先混合を採用している。すなわち、塗料供給管41および溶剤供給管42は、塗装ロボット13〜16の塗装ガン30に接続されている。塗料供給管41の途中には、ギアポンプ43が設けられている。
【0023】
溶剤供給管42の途中には、溶剤押出装置44が設けられており、溶剤供給管42の溶剤押出装置44の上流側および下流側には、バルブ421、422が設けられている。
塗装ガン30は、塗料供給管41を通して供給された塗料と溶剤供給管42を通して供給された溶剤とを混合して噴霧する。
【0024】
塗装ガン30は、図示しない本体と、この本体に回転可能に設けられた回転霧化頭32と、を備える。
【0025】
本体は、円筒形状であり、回転霧化頭32に塗料を供給する塗料供給管41、溶剤を供給する溶剤供給管42のほか、コンプレッサから圧送された空気により回転霧化頭32を回転させる図示しないエアモータや、塗料を帯電させる図示しない高電圧発生装置を備える。
回転霧化頭32には、噴射方向に向かって拡開する拡開面321が形成されている。
塗料供給管41は、回転霧化頭32の中心軸に沿って延びて拡開面321の中央に到達している。
【0026】
溶剤押出装置44は、円筒形状のシリンダ441と、このシリンダ441内に摺動可能に設けられたピストン442と、このピストン442をシリンダ441の軸方向に進退させるサーボモータ443と、を備える。
ピストン442は、シリンダ441の内周面に当接する円盤状のピストン本体444と、このピストン本体444に設けられてサーボモータ443に接続された棒状のピストンロッド445と、を備える。
このピストン442は、送りねじ機構であり、サーボモータ443が回転駆動することで、ピストン442のシリンダ441内の位置を高精度で調整できるようになっている。
【0027】
次に、塗装ロボット11〜16の塗料を溶剤で希釈せずに静電塗装する場合の動作について、説明する。
まず、制御装置50により、バルブ422を閉じておく。そして、塗装ガン30の回転霧化頭32を回転させながら、ギアポンプ43を駆動して、塗料供給管41を通して、塗装ガン30に塗料を供給する。
【0028】
すると、回転霧化頭32は回転しているので、吐出された塗料には遠心力が作用し、塗料は、拡開面321の表面に沿って周縁部に向かって移動する。この塗料が拡開面321の周縁部に接近するに従って、塗料に作用する遠心力が大きくなり、塗料は多数の微細な液滴に分離され、霧状となる。この霧状の塗料は、拡開面321の周縁部から飛散し、ボディ20の表面に塗着する。
【0029】
次に、塗装ロボット13〜16の塗料を溶剤で希釈して静電塗装する場合の動作について、説明する。
まず、制御装置50により、バルブ422を閉じ、バルブ421を開いて、この状態で、図示しない溶剤供給源から溶剤を溶剤供給管42に供給し、溶剤押出装置44のシリンダ441内に溶剤を充填する。
次に、塗装ガン30の回転霧化頭32を回転させながら、ギアポンプ43を駆動して、塗料供給管41を通して、標準塗装条件よりも少量の塗料を塗装ガン30に供給する。
【0030】
このとき、塗膜のNV値が所定範囲に収まるように、制御装置50によりバルブ421を閉じ、バルブ422を開いて、溶剤押出装置44を駆動して溶剤供給管42に溶剤を供給する。すると、塗料と溶剤とが塗装ガン30の内部で混合され、さらに、吐出された塗料および溶剤の混合物には遠心力が作用し、この混合物は、回転霧化頭32の回転によりさらに混合されつつ、拡開面321の表面に沿って周縁部に向かって移動する。この混合した塗料が拡開面321の周縁部に接近すると、回転霧化頭32が高速で回転しているので、混合した塗料に作用する遠心力はかなり大きくなり、混合した塗料は多数の微細な液滴に分離され、霧状となる。この霧状の塗料は、拡開面321の周縁部から飛散し、ボディ20の表面に塗着する。
【0031】
以下、クリア塗装設備10の動作を、図4〜図9を参照しながら説明する。
このクリア塗装設備10には、2種類のボディ20A、20Bが混在して上流から搬送されるものとする。ボディ20Bには、ボディ20Aよりも高い平滑性が要求されているものとする。
まず、図4に示すように、クリア塗装設備10は、ボディ20A、20Bの塗装を行っている。具体的には、塗装ロボット13〜16により、ボディ20Aの側面を塗装している。また、塗装ロボット11、12により、ボディ20Bのフロント側の上面を塗装している。ここで、塗装ロボット11〜16には、塗料のみが供給される。
【0032】
図4に示す状態から1タクト進むと、図5に示すように、クリア塗装設備10は、塗装ロボット15、16により、ボディ20Aのリア側の側面を塗装する。また、塗装ロボット11〜14により、ボディ20Bのリア側の上面およびフロント側の側面を塗装する。ここで、塗装ロボット13、14によりボディ20Bのフロント側の側面を塗装するため、塗装ロボット13、14の塗装ガン30の回転霧化頭32への塗料の供給量は、ボディ20Aの側面を塗装していた場合よりも少量となり、同時に、これら塗装ロボット13、14には、塗料に加えて溶剤が供給される。
【0033】
図5に示す状態から1タクト進むと、図6に示すように、クリア塗装設備10からボディ20Aが搬出され、クリア塗装設備10には新たにボディ20Bが搬入される。すると、塗装ロボット13〜16により、既に搬入された下流側のボディ20Bの側面を塗装するとともに、塗装ロボット11、12により、新たに搬入された上流側のボディ20Bのフロント側の上面を塗装する。ここで、塗装ロボット13〜16によりボディ20Bの側面を塗装するため、塗装ロボット13〜16の塗装ガン30の回転霧化頭32への塗料の供給量は、ボディ20Aの側面を塗装していた場合よりも少量となり、同時に、これら塗装ロボット13〜16には、塗料に加えて溶剤が供給される。
【0034】
図6に示す状態から1タクト進むと、図7に示すように、クリア塗装設備10は、塗装ロボット15、16により、下流側のボディ20Bのリア側の側面を塗装する。また、塗装ロボット11〜14により上流側のボディ20Bのリア側の上面およびフロント側の側面を塗装する。ここで、塗装ロボット13〜16によりボディ20Bの側面を塗装するため、塗装ロボット13〜16の塗装ガン30の回転霧化頭32への塗料の供給量は、ボディ20Aの側面を塗装していた場合よりも少量となり、同時に、これら塗装ロボット13〜16には、塗料に加えて溶剤が供給される。
【0035】
図7に示す状態から1タクト進むと、図8に示すように、クリア塗装設備10からボディ20Bが搬出され、クリア塗装設備10には新たにボディ20Aが搬入される。すると、塗装ロボット13〜16により、既に搬入されたボディ20Bの側面を塗装するとともに、塗装ロボット11、12により、新たに搬入されたボディ20Aのフロント側の上面を塗装する。ここで、塗装ロボット13〜16は、ボディ20Bの側面を塗装するため、塗装ロボット13〜16の塗装ガン30の回転霧化頭32への塗料の供給量は、ボディ20Aの側面を塗装していた場合よりも少量となり、同時に、これら塗装ロボット13〜16には、塗料に加えて溶剤が供給される。
【0036】
図8に示す状態から1タクト進むと、図9に示すように、クリア塗装設備10は、塗装ロボット15、16により、既に搬入されたボディ20Bのリア側の側面を塗装する。また、塗装ロボット11〜14により、新たに搬入されたボディ20Aのリア側の上面およびフロント側の側面を塗装する。ここで、塗装ロボット15、16は、ボディ20Bの側面を塗装するため、塗装ロボット15、16の塗装ガン30の回転霧化頭32への塗料の供給量は、ボディ20Aの側面を塗装していた場合よりも少量となり、同時に、これら塗装ロボット15、16には、塗料に加えて溶剤が供給される。
【0037】
[実施例および比較例]
上述のクリア塗装設備に塗料および溶剤を供給し、塗料に対する溶剤の割合とNV値およびLW値との関連を調べた。
【0038】
図10は、回転霧化頭の回転数が一定である場合の回転霧化頭の吐出量とNV値との関係を示す図である。図11は、回転霧化頭の回転数が一定である場合の回転霧化頭の吐出量とLW値との関係を示す図である。
図11中、LW(Long Wave)とは、Wavescan(BYK Gardner社製)と呼ばれる測定器で測定された、塗膜の平滑度を表す指標である。具体的には、この測定器からレーザ光を塗膜表面に照射して、塗膜表面の反射光強度を検出し、塗膜表面の光学プロファイルを検出する。そして、この光学ファイルを数学的フィルターにかけ、塗膜表面のストラクチャーを波長毎に分離し、測定した波長がある程度長いものを抽出して数値化したものである。LW値が低いほど表面が平滑であり、外観が良好である、といえる。
【0039】
回転霧化頭への塗料の供給量を低減しない通常塗装の場合(標準条件)には、吐出量をl4からl1まで低減させるに従って、NV値が高くなる。ここで、吐出量がl3である場合、NV値が所定の範囲(図10中t1からt2までの範囲)内に入るが、この場合でも、LW値がわずかしか低下しない。
すなわち、回転霧化頭への塗料の供給量を低減すると、塗料粒子が微粒化されるため、塗料粒子の比表面積が増大して、塗膜のNV値は高くなる。よって、塗料粒子の微粒化の効果は半減し、LW値は大きく低下しない。
【0040】
一方、回転霧化頭への塗料の供給量の低減に加えて、NV値が所定の範囲内に収まるように塗料に溶剤を添加した場合には、LW値が顕著に低くなる。
すなわち、回転霧化頭への塗料の供給量を低減すると、塗料粒子が微細化されて塗料粒子の比表面積が増大するが、溶剤が添加されているため、塗料の溶剤揮発量が抑制され、塗膜中の揮発分の割合がそれほど高くならず、NV値の上昇を抑えることができる。よって、被塗装面に塗着した塗料の流動性が確保され、塗膜のレベリングが促進されるので、塗膜表面の凹凸が抑えられることになり、LW値が顕著に低くなる。
【0041】
以上より、回転霧化頭32の回転数が一定の状態で、塗膜のNV値が所定範囲を超えて高くならないにように管理しつつ、回転霧化頭32からの塗料の吐出量を低減して塗料粒子を微粒化することで、LW値を低下させて、外観を良好にできることが判る。
【0042】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)回転霧化頭32の回転数を一定とし、この状態で、塗膜のNV値が所定範囲を超えて高くならないにように管理しつつ、回転霧化頭32からの塗料の吐出量を低減して、塗料粒子を微粒化する。これにより、ボディ20における塗料粒子の積層による凹凸を小さくできるうえに、ボディ20に塗着した塗料の流動性を確保できるので、従来に比べて、ボディ20の平滑性をより向上できる。
【0043】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、本実施形態では、静電塗装方法をクリア塗装設備10に適用したが、これに限らない。すなわち、中塗り塗装設備に適用してもよいし、オーバーコートクリア塗装設備(クリア塗装の上に施されるプレミアムなクリア塗装)のような、上塗り塗装設備のうちベース塗装設備を除いた設備に適用してもよい。また、これらの設備のうちの1つに適用してもよいし、複数に適用してもよい。
【0044】
また、本実施形態では、クリア塗装設備10にベル先混合を採用したが、これに限らず、上述のスタティックミキサ混合を採用してもよい。
すなわち、図12に示すように、塗料供給管41には、ギアポンプ43に加えてスタティックミキサ45が設けられており、溶剤供給管42は、塗装ガン30ではなくスタティックミキサ45に接続されている。このスタティックミキサ45は、ギアポンプ43から供給された塗料と溶剤押出装置44から供給された溶剤とを混合するものである。このようにしても、上述の(1)と同様の効果がある。
【符号の説明】
【0045】
30 塗装ガン(回転霧化式塗装装置)
32 回転霧化頭
20 ボディ(被塗装面)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転霧化式塗装装置を用いて、被塗装面を静電塗装する静電塗装方法であって、
前記回転霧化頭を回転しつつ、前記回転霧化式塗装装置の回転霧化頭への塗料の供給量を変化させて、塗料粒子の粒径を変化させるとともに、
塗膜のNV値が所定範囲内に収まるように、溶剤を塗料に添加することを特徴とする静電塗装方法。
【請求項1】
回転霧化式塗装装置を用いて、被塗装面を静電塗装する静電塗装方法であって、
前記回転霧化頭を回転しつつ、前記回転霧化式塗装装置の回転霧化頭への塗料の供給量を変化させて、塗料粒子の粒径を変化させるとともに、
塗膜のNV値が所定範囲内に収まるように、溶剤を塗料に添加することを特徴とする静電塗装方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−188235(P2010−188235A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33121(P2009−33121)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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