説明

静電塗装機用の回転霧化頭

【課題】回転霧化頭を分解して洗浄できるだけでなく、回転霧化頭を分解することなく内部洗浄によって色替えが可能な回転霧化頭を提供する。
【解決手段】機構部品4は、ハブ部を構成する前方壁10の外周縁から後方の延び且つ周方向に連続した側壁12と、爪14a付きの複数の脚14と、側壁12の後端に連続する底部18とを有する。機構部品4は、霧化ヘッド本体2の中央凹所6に脱着可能に装着される。機構部品4の底部18にはスプーンカット溝34が形成されている。霧化ヘッド本体2の中央凹所6の周囲壁8は傾斜壁で構成され、この周囲壁8の傾斜と相補的に機構部品4の側壁12の外周面12aも傾斜しており、この外周面12aがその全域に亘って中央凹所6の周囲壁8に実質的に接している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は静電塗装機に関し、より詳しくは、静電塗装機に組み付けられる回転霧化頭に関する。
【背景技術】
【0002】
静電塗装機が普及した今日、例えば自動車ボディの塗装に回転霧化頭を備えた静電塗装機が多用され、この種の塗装機は回転霧化式の塗装機と呼ばれている。特許文献1〜8に見られるように、回転霧化頭は、霧化ヘッド本体と、この霧化ヘッド本体の中心部分に配設される機構部品とで構成される組立体である。塗料はフィードチューブを通じて回転霧化頭に供給され、高速回転する回転霧化頭によって塗料が微粒化される。このことから、回転霧化頭は高精度の回転バランスが要求される。
【0003】
回転霧化頭の内部洗浄のために回転霧化頭の分解・再組立を容易化する技術が開発されている。特許文献1は霧化ヘッド本体の後方から機構部品をアクセスさせて、この機構部品を霧化ヘッド本体に装着する形式の回転霧化頭を開示している。この特許文献1は、霧化ヘッド本体に塗料吐出口が形成され、そして、回転霧化頭の塗料室つまりフィードチューブから供給される塗料を受け入れる部屋を霧化ヘッド本体と協働して形成する機構部品を霧化ヘッド本体の後方から装着することを提案している。
【0004】
特許文献2以降の文献は、ハブ部材と呼ばれている機構部品を霧化ヘッド本体の前方からアクセスさせることによりハブ部材を霧化ヘッド本体に装着する形式の回転霧化頭を開示している。特許文献2は、霧化ヘッド本体の中央凹所に弾性リングを介してハブ部材を固定することを提案している。具体的には、特許文献2に開示の回転霧化頭は、霧化ヘッド本体の中央凹所の周囲壁面に円周溝(第1の円周溝)を有し、また、ハブ部材の周面にも円周溝(第2の円周溝)を有し、そして、弾性リングをこれら第1、第2の円周溝に介在させることで、霧化ヘッド本体に対してハブ部材が脱着可能に固定される。
【0005】
特許文献2の回転霧化頭によれば、霧化ヘッド本体から容易にハブ部材を取り外すことができ、また、洗浄後に容易にハブ部材を霧化ヘッド本体に組み付けることができる。
【0006】
分解及び再組立が可能な回転霧化頭の他の先行例として特許文献3に開示の回転霧化頭を挙げることができる。この特許文献3に開示の回転霧化頭は、霧化ヘッド本体の中央凹所の周囲壁面における前方端部に段部が形成され、この段部に円板状のハブ部材を嵌合することを提案している。より具体的には、円板状のハブ部材はその形状や材料の特性に基づく弾性及び撓み性を有し、この特性を利用して霧化ヘッド本体の段部に嵌装される。そして、霧化ヘッド本体の段部には、その周面に抜け止めの円周凸条を形成する又は段部の周面を前方に向けて縮径するテーパー面で構成することにより、ハブ部材が霧化ヘッド本体の前方に抜け出すのを防止する策が施されている。また、特許文献3の回転霧化頭は、霧化ヘッド本体の中央凹所の底面にスプーンカット溝を有し、このスプーンカット溝に連なる壁面を前方に向かうに従って徐々に拡径した傾斜壁面で構成する技術を開示している。そして、上述した円板状のハブ部材には、その外周部分に複数の塗料吐出口が同心円上に形成されており、この塗料吐出口は、上述した傾斜壁面の接線方向に延びている。
【0007】
特許文献4の発明は、円板状のハブ部材と、これを受け入れる霧化ヘッド本体に永久磁石を設置して、この永久磁石の吸着現象を利用して、円板状のハブ部材を霧化ヘッド本体に固定することを提案している。
【0008】
特許文献5の発明は、円板状のハブ部材が数多くの脚を有し、この脚の自由端を霧化ヘッド本体の中央凹所の円周溝に係止することで霧化ヘッド本体に対してハブ部材を脱着可能に固定することを提案している。そして、その上で、特許文献5の発明は、円板状のハブ部材の外周面と霧化ヘッド本体との間に隙間を形成し、この隙間を塗料通路として利用することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】JP特開2005−118710号公報
【特許文献2】JP特開平9−234393号公報
【特許文献3】JP特開2001−104841号公報
【特許文献4】JP特開2009−119402号公報
【特許文献5】JP特開2002−224593号公報
【特許文献6】US 6,189,804 B1
【特許文献7】US 6,360,962 B2
【特許文献8】US 7,017,835 B2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2の回転霧化頭は、霧化ヘッド本体に対するハブ部材の固定に関し、ハブ部材の固定が、専らOリングの弾性力に基づく抵抗力に依存している。このことから、Oリングの劣化に注意を払う必要がある。このことに加えて、ハブ部材の固定がOリングという弾性体に依存しているため、霧化ヘッド本体にハブ部材を装着するときに、ハブ部材が正規位置に位置決めされているか否かを確認するのが難しいという問題がある。また、回転霧化頭は高速回転することから、この高速回転によってOリングが変形してOリングによるシール性が低下するという問題を有している。
【0011】
また、霧化ヘッド本体とハブ部材との間にOリングを介装するということは、換言すれば、霧化ヘッド本体とハブ部材との間のクリアランスが比較的大きく、このクリアランスから塗料が入り込むのを前提として、特許文献1が技術開示を行っていると言える。回転霧化頭は色替えのときに、回転霧化頭を分解することなく内部洗浄が実施されるが、この内部洗浄では、霧化ヘッド本体とハブ部材との間のクリアランスに入り込んだ塗料を取り除くのは難しいという問題を有している。このこともあって、特許文献1の発明は未だに実施されていない。
【0012】
特許文献3は、霧化ヘッド本体の段部に円板状のハブ部材を嵌装すると共に霧化ヘッド本体の段部の周面に円周凸条を設ける又はこの段部の周面を前方に向かうに従って縮径させるテーパー面で構成することにより円板状のハブ部材が抜け出すのを防止する策を講じることを提案しているが、この発明も未だに実施されていない。
【0013】
特許文献4は、その実施例では、円板状のハブ部材と霧化ヘッド本体とを永久磁石の吸着力で固定することを提案しているため、円板状のハブ部材及び霧化ヘッド本体の材料が非磁性の材料(アルミニウム)に制限されるという欠点がある。
【0014】
特許文献5は、霧化ヘッド本体の中央凹所の周囲壁面に形成した円周溝とハブ部材の脚と係合によって円板状のハブ部材を固定すると共に、円板状ハブ部材の外周面と中央凹所の周囲壁面との間の隙間であって且つ隣接する脚の間に塗料吐出口が形成されている。このことから、回転霧化頭に洗浄液を供給して回転霧化頭を洗浄しようとしても円周溝や脚に付着した塗料が洗浄されずに残ってしまうという問題がある。このこともあって、特許文献5に、ハブ部材を霧化ヘッド本体から取り外して分解掃除するやり方が詳しく説明されている。
【0015】
本発明の目的は、静電塗装機用の回転霧化頭を分解して洗浄できるだけでなく、回転霧化頭を分解することなく内部洗浄によって色替えが可能な回転霧化頭を提供することにある。
【0016】
本発明の更なる目的は、比較的安価に製造することのできる静電塗装機用の回転霧化頭を提供することにある。
【0017】
本発明の更なる目的は、被塗物の塗装面に気泡が混じるのを抑制することのできる静電塗装機用の回転霧化頭を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の技術的課題は、本発明によれば、
遠心力によって塗料が流動する内周面(2b)を備えた霧化ヘッド本体(2)と、該霧化ヘッド本体(2)の中央部分に形成された中央凹所(6)に霧化ヘッド本体(2)の前方からアクセスして脱着可能に装着される機構部品(4)との組立体からなる静電塗装機用の回転霧化頭(100,200,300)において、
前記機構部品(4)が、
前記霧化ヘッド本体(2)の内周面(2b)に連なる円板状のハブ部を構成する前方壁(10)と、
該前方壁(10)の外周部分において周方向に等間隔に配置された複数の塗料吐出口(30)と、
該前方壁(10)の中心部分に形成された複数の洗浄孔(36)と、
前記前方壁(10)の外周部から後方に向けて延び且つ周方向に連続した側壁(12)と、
該側壁(12)の後端面の外周部分から後方に向けて延びる複数の脚(14)と、
該脚(14)の後端から外方に向けて突出し且つ前記中央凹所の周囲壁(8)に形成された円周溝(18)に入り込んで、該円周溝(16)の側壁と係合する爪(14a)と、
前記複数の脚(14)の径方向内側に配設された底部(18)と、
該底部(18)に形成されたスプーンカット溝(34)とを有することを特徴とする。
【0019】
本発明は、機構部品(4)の脚(14)の先端部に形成された爪(14a)を使って機構部品(4)を霧化ヘッド本体(2)に脱着可能に固定することができる。また、機構部品(4)には、その底部(18)にスプーンカット溝(34)が形成され、そして、このスプーンカット溝(34)に連なる側壁(12)が周方向に連続しているため、機構部品(4)の塗料空間(20)に供給された塗料は円滑に塗料吐出口(30)を通じて霧化ヘッド本体(16)に流出することができる。したがって、機構部品(4)の内部に塗料が停滞するのを防止することができる。
【0020】
上記のことは、回転霧化頭(100)の洗浄にも言えることであり、機構部品(4)の内部に洗浄液(典型的にはシンナー)を供給したときに、この洗浄液によって機構部品(4)の内部の塗料空間を塗料残り無しに洗浄することができる。
【0021】
本発明の好ましい実施形態では、機構部品(4)が霧化ヘッド本体(2)に装着されたときに、これら機構部品(4)と霧化ヘッド本体(2)との間にダム機構を有する段部(40)が形成される。変形例として、この段部(40)が機構部品(4)に形成される。この段部(40)が奏する塗料の延展によって被塗物の塗装面に気泡が混じるのを抑制することができる。
【0022】
本発明の更なる目的、他の構成及び作用効果は、以下の好ましい実施形態の詳しい説明から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1実施例の回転霧化頭の断面図である。
【図2】第1実施例(図1)の回転霧化頭を分解した断面図である。
【図3】第2実施例の回転霧化頭の断面図である。
【図4】第2実施例(図3)の回転霧化頭を分解した断面図である。
【図5】第3実施例の回転霧化頭の断面図である。
【図6】第3実施例(図5)の回転霧化頭を分解した断面図である。
【図7】第4実施例の回転霧化頭の一部を抽出した要部断面図である。
【図8】第5実施例の回転霧化頭の一部を抽出した要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0024】
以下に、添付の図面に基づいて本発明の好ましい実施例を説明する。図1〜図6は回転霧化式の静電塗装機から取り外した回転霧化頭を示す。図1、図2は第1実施例の回転霧化頭の断面図である。図3、図4は第2実施例の回転霧化頭の断面図である。図5、図6は第3実施例の回転霧化頭の断面図である。
【0025】
第1実施例(図1、図2)
第1実施例の回転霧化頭100は霧化ヘッド本体2と機構部品4とで構成され、機構部品4は霧化ヘッド本体2に脱着可能に嵌装される。霧化ヘッド本体2の後端部には、上記特許文献1、2と同様に、エアモータの回転軸(図示せず)が螺合する雌ネジ部2aが形成されている。そして、この雌ネジ部2aの中心軸線は回転霧化頭1の回転軸線と同軸であり、回転霧化頭1は従来と同様にエアモータによって回転駆動される。
【0026】
特許文献1などに詳細に開示されているように、エアモータの回転軸は中空軸で構成され、この回転軸の中に塗料フィードチューブが挿入されている。塗料フィードチューブを通じて回転霧化頭1の中心部分に塗料が供給される。また、塗料フィードチューブの外周面と回転軸の内周面との間の空間は、洗浄液(典型的にはシンナー)の通路として利用され、この洗浄液通路を通じて供給される洗浄液によって回転霧化頭1の洗浄が行われる。塗料及び洗浄液の供給に関して特許文献3に詳しい説明があるので、この特許文献3をここに援用することにより、その説明を省略する。
【0027】
図2は回転霧化頭100の分解図であり、霧化ヘッド本体2から機構部品4を取り外した状態を示す。回転霧化頭100を分解することで、霧化ヘッド本体2及び機構部品4に付着している塗料を洗浄することができ、必要であれば、新しい機構部品4と交換することができる。
【0028】
図2を参照して、霧化ヘッド本体2は、導電性材料、例えばアルミニウム合金、ステンレス合金、硬質な樹脂材料からなる成型品であり、従来と同様にベルの形状に成形されている。すなわち、霧化ヘッド本体2は前方に向けて開放した内周面2bを有し、この内周面2bは霧化ヘッド本体2の外周縁2cに連なっている。霧化ヘッド本体2に対して高電圧を印可することで塗料を帯電させることが可能である。
【0029】
霧化ヘッド本体2の内周面2bには、中心部分に前方に向けて開放した中央凹所6が形成され(図2)、この中央凹所6は、前方に向けて徐々に拡径した概略円筒形の形状を有している。より詳しく説明すると、中央凹部6は、その断面形状において、回転霧化頭100の回転軸線Oと平行なラインLに関して中央凹部6を規定する周囲壁面8が角度θ、傾斜した前方に向けて徐々に直径が拡大した筒状の形状を有している。
【0030】
機構部品4は、例えばPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂のような樹脂からなる成型品であり、比較的堅い部材として構成されている。機構部品4は、上記中央凹所6に対して相補的な形状を備えた円筒形状を有している。すなわち、機構部品4は、先ず正面視したときに円板状の前方壁10を有し、この前方壁10は従来のハブ部材の機能を具備した部位を構成している。
【0031】
機構部品4は、前方壁10の外周部から後方に向けて延びる側壁12を更に有し、この側壁12は周方向に連続している。側壁12は、外周面12aと内周面12bとを有し、外周面12aは、前述した霧化ヘッド本体2の中央凹所6の周囲壁面8と相補的な形状を有し、前方に向けて徐々に拡径した略円筒の形状を有している。
【0032】
機構部品4は、側壁12から後方に向けて延びる複数の脚14を有し、この複数の脚14は、周方向に等間隔に配置されている。脚14はその後端つまり自由端に径方向外方に向けて突出した爪14aを有する。霧化ヘッド本体2の中央凹所6に対して霧化ヘッド本体2の前方からアクセスして機構部品4を装着するときに、脚14の弾性変形によって中央凹所6の前方から機構部品4を挿入することができる。そして、機構部品4が正規位置に位置すると、脚14の爪14aが、中央凹所6の周囲壁の後端部に形成されている円周溝16(図2)に入り込んで、この円周溝16の側壁と爪14aとが係合することにより機構部品4が霧化ヘッド本体2の内部に脱着可能に固定される(図1)。
【0033】
機構部品4は、側壁12の後端に連なる底部18を有する。機構部品4は、底部18と、この底部18に対向する前記前方壁10と、側壁12とで規定された塗料空間20を有する。
【0034】
機構部品4の底部18は筒状の外周面18aを有し、また、平らな後端面18bを有している。この底部18に対応して霧化ヘッド本体2は、雌ネジ部2aよりも前方に、この雌ネジ部2aよりも若干直径が大きな大径部22と、この大径部22の後端に段部24を有する。機構部品4を霧化ヘッド本体2に装着したときには、機構部品4の底部18が大径部22に受け入れられ、また、底部18の後端面における外周部分が段部24に係止されることによって機構部品4の位置決めが行われる。
【0035】
機構部品4の底部18には、その中心部分に、前方つまり塗料空間20に向けて突出し且つ周方向に連続して延びる円周隆起26と、この円周隆起26の中心部分に軸線方向に延びる中心開口28が形成されている。この中心開口28に前述した塗料フィードチューブが挿入される。
【0036】
機構部品4は、ハブ部を構成する前方壁10の外周部分に複数の塗料吐出口30を有し、この複数の塗料吐出口30は共通の円周上に等間隔に配列されている。また、前方壁10の中心部分には、従来と同様に、後方つまり塗料空間20に向けて突出した分液頂32を有し、この分液頂32を中心とした円周上に4つの洗浄孔36が等間隔に形成されている。
【0037】
機構部品4の側壁12に関し、その内周面12bは、前方に向かうに従って徐々に拡径した傾斜壁で構成され、この内周面12bの前端に連なるようにして上記塗料吐出口30が位置決めされ、そして、この側壁12の内周面12bの傾斜方向と同じ方向に塗料吐出口30が延びている。
【0038】
霧化ヘッド本体2の底部18には、その前方に向いた面つまりハブ部である前方壁10と対向する面に、中心開口28と同軸に周方向に連続して延びるスプーンカット溝34が形成されており、このスプーンカット溝34の外周壁面34aは前述した側壁12の内周面12bの後端に連続し且つほぼ同じ傾斜角度に設定されて側壁12の内周面12bと面一に連なっている。
【0039】
図1から分かるように、霧化ヘッド本体2と、その中央凹所6に嵌装される機構部品4との間にシール部材(Oリング)が介装されていない。その代わりに、機構部品4の外周面14aは、その前後の全長に亘って中央凹所6の周囲壁8と実質的に接した状態にある。また、この周囲壁8は前方に向けて拡径した傾斜壁で構成されている。更に、機構部品4のハブ部を構成する前方壁10の外周部分に塗料吐出口30が形成されている。
【0040】
上記の構成を採用することにより、塗料吐出口30から流出した塗料は、遠心力によって、機構部品4の前方壁10の外周縁部を伝って半径方向外方に流れ、次いで、この前方壁10に連なる霧化ヘッド本体2の内周面2bを伝って径方向外方に流動し、そして、従来と同様に外周縁2cから外方に放出されるのは言うまでもない。ここに、機構部品4の前後の全長に亘って中央凹所6の周囲壁8と実質的に接した状態にあることから、塗料が機構部品4と中央凹所6との間に侵入する可能性が小さい。換言すると、仮に塗料が機構部品4と中央凹所6との間に侵入したとしても、中央凹所6の周囲壁8が前方に向けて拡径した傾斜壁で構成されているため遠心力によって前方に排出される傾向になる。したがって、機構部品4とこれを受け入れる霧化ヘッド本体2の中央凹所6との間に塗料が入り込んで固まるのを防止することができる。
【0041】
塗料の色替えのために回転霧化頭1を洗浄するときには、従来と同様に回転霧化頭1に洗浄液(典型的にはシンナー)が供給される。シンナーは、機構部品4の連続した側壁12で囲まれた塗料空間を流動することで機構部品4の内部を洗浄し、そして、洗浄孔28及び塗料吐出口30を通じて外部に排出される。
【0042】
機構部品4の塗料空間で囲まれた塗料空間20(図1)において、この塗料空間20を規定する壁面が、上述した説明から分かるように、連続した面一の滑らかな面で構成されている。換言すると、この塗料空間20の壁面に段差などの塗料が付着した固まり易い部位が無いため、塗料空間20を規定する壁面に塗料が残留して固着してしまうのを防止しつつ塗料空間20の全域を洗浄液で塗料残り無しに洗浄することができる。
【0043】
長期の使用により、例えば機構部品4と霧化ヘッド本体2の中央凹所6との間に塗料が入り込んで固まる現象が現れたら、定期的又は不定期に、霧化ヘッド本体2から機構部品4を取り外し、これらを個別的に洗浄すればよい。また、機構部品4は樹脂材料から作られているため比較的安価に入手することができることから、場合によっては新しい機構部品4に交換してもよい。
【0044】
実施例の回転霧化頭100は、図2から最も良く分かるように、霧化ヘッド本体2が雌ネジ部2aから中央凹所6に至るまでほぼ同じ直径の開口であり簡単な構造であることから、霧化ヘッド本体2を作るのが容易である。このことから、霧化ヘッド本体2の製造コストを低減することができる。
【0045】
再び図1を参照して、機構部品4を霧化ヘッド本体2に装着した状態では、機構部品4の前方壁10と、霧化ヘッド本体2の内周面2bとの間に段部40ができるように、霧化ヘッド本体2の中央凹所6の深さ寸法と機構部品4の厚み寸法を設定するのがよい。前述したように、回転霧化頭100の回転軸線Oに対して中央凹部6の周囲壁面8が角度θを有している。この角度θは近似的にゼロとみなことのできる程度に小さな角度であることから、段部40は、機構部品4の前方壁10の前面に対して略垂直方向に起立した壁面で構成されている。
【0046】
この段部40をダム部と呼ぶと、前方壁10の塗料吐出口30から流出した塗料は、径方向外方に広がる霧化ヘッド本体2の内周面2bに沿って流動して霧化ヘッド本体2の外周縁から放出されるのは前述したが、この過程で、塗料吐出口30から出た塗料が段部40で一旦受け止められて延展する。つまり段部40はダム機能を奏し、そして、段部40のダム機能によって塗料に含まれる気泡が消失することが実験により実証できた。換言すると、上記段部40を備えた回転霧化頭100を使って塗装した被塗物は気泡の無い平滑性に優れた塗装面であった。
【0047】
以下に第2、第3実施例を説明するが、これら実施例の説明において上述した第1実施例と同一の要素には同一の参照符号を付すことによりその説明を省略し、各実施例の特徴部分について説明する。
【0048】
第2実施例(図3、図4)
第2実施例の回転霧化頭200は、上述した第1実施例の回転霧化頭100の変形例でもある。図2(第1実施例)と図4(第2実施例)とを対比すると良く分かるように、霧化ヘッド本体202は、雌ネジ部2aと中央凹所6との間に仕切り壁210を有し、仕切り壁210に中心開口212が形成されている。
【0049】
第2実施例の回転霧化頭200に含まれる機構部品204の底部218は、第1実施例の回転霧化頭100に含まれる機構部品4の底部18に比べて肉薄であり、第2実施例に含まれる機構部品204が霧化ヘッド本体202に組み付けられたときに機構部品204の底部218が仕切り壁210に着座する。
【0050】
第3実施例(図5、図6)
第3実施例の回転霧化頭300に含まれる機構部品304は、第2実施例に含まれる機構部品204の底部218のスプーンカット溝34よりも内方側を切り欠いた形状を有している。すなわち、第3実施例の回転霧化頭300の機構部品304は、その底部318にスプーンカット溝34を有し、このスプーンカット溝34よりも内方は円形に切り欠いた形状を有する。この内周側の切り欠き部分を参照符号320で示してある(図6)。
【0051】
機構部品304は、第2実施例に含まれる機構部品204の底部218の中央部分つまりスプーンカット溝34よりも内周側の構造を構成する円周突起26及び中心開口28が欠落している。この円周突起26及び中心開口28に対応する要素は、第3実施例に含まれる霧化ヘッド本体302の仕切り壁310に形成されている。円周突起26に対応する要素には参照符号326を付して図示してある。中心開口28に対応する要素には参照符号328を付して図示してある。
【0052】
仕切り壁310には、上記スプーンカット溝34を含む底部318を受け入れる底部受け入れ溝322が形成され、この底部受け入れ溝322は周方向に連続して延びている。図5から最も良く分かるように、機構部品304を霧化ヘッド本体302に組み付けたときには、円周突起326とスプーンカット溝34とが面一の状態で連続した状態となる。
【0053】
第4実施例(図7)
この実施例は機構部品4の変形例でもある。図7を参照して、機構部品4は、側壁12の前端面の外周部分を前方に延長したリップ120を有し、このリップ120は霧化ヘッド本体2の内周面2bに沿って延びている。そして、側壁12の前端面には、リップ120によって上述した段部40が形成されている。この段部40は図示の例では一段であるが、複数段であっても良い。このように機構部品4に対してリップ120を付加することで段部40を形成することで、前述したように段部40によるダム機能を発揮させることができる。また、機構部品4が合成樹脂製であるため段部40を多段に設計し製造するのも容易である。この第4の実施例では、霧化ヘッドホン対2の中央凹所の周囲壁8は、前記角度θの傾斜角を有していてもよいし、回転霧化頭1の回転軸線Oと平行なラインL(図1参照)に沿って延びる鉛直面で構成されていてもよい。
【0054】
第5実施例(図8)
この実施例は上述した第4実施例の変形例でもある。図8を参照して、機構部品4は、側壁12の前端面の外周部分を前方に突出させて凸部122を有し、この凸部122によって、機構部品4の前端面に第1の段部40Aが形成され、また、凸部122と霧化ヘッド本体2との間に第2の段部40Bが形成されている。これら第1、第2の段部40A、40Bは前述したダム機能を発揮する。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は回転霧化式の静電塗装機に好適に適用できる。
【符号の説明】
【0056】
100 回転霧化頭(第1実施例)
2 霧化ヘッド本体
2a 雌ネジ部
2b 内周面
2c 外周縁
4 機構部品
6 中央凹所(霧化ヘッド本体)
8 中央凹所の周囲壁面
10 機構部品の前方壁(ハブ部)
12 機構部品の側壁
12a 機構部品の側壁の外周面
12b 機構部品の側壁の内周面
14 脚
14a 脚の爪
16 霧化ヘッド本体の円周溝
18 機構部品の底部
18a 底部の外周面
18b 底部の後端面
20 塗料空間
26 円周隆起
28 中心開口
30 塗料吐出口
34 スプーンカット溝
40 段部(ダム機能)
200 第2実施例の回転霧化頭
300 第3実施例の回転霧化頭

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠心力によって塗料が流動する内周面を備えた霧化ヘッド本体と、該霧化ヘッド本体の中央部分に形成された中央凹所に霧化ヘッド本体の前方からアクセスして脱着可能に装着される機構部品との組立体からなる静電塗装機用の回転霧化頭において、
前記機構部品が、
前記霧化ヘッド本体の内周面に連なる円板状のハブ部を構成する前方壁と、
該前方壁の外周部分において周方向に等間隔に配置された複数の塗料吐出口と、
該前方壁の中心部分に形成された複数の洗浄孔と、
前記前方壁の外周部から後方に向けて延び且つ周方向に連続した側壁と、
該側壁の後端面の外周部分から後方に向けて延びる複数の脚と、
該脚の後端から外方に向けて突出し且つ前記中央凹所の周囲壁に形成された円周溝に入り込んで、該円周溝の側壁と係合する爪と、
前記複数の脚の径方向内側に配設された底部と、
該底部に形成されたスプーンカット溝とを有することを特徴とする静電塗装機用の回転霧化頭。
【請求項2】
前記霧化ヘッド本体の中央凹所の周囲壁が前方に向かうに従って徐々に拡径する傾斜壁で構成され、
前記機構部品の側壁の外周面が、前記中央凹所の周囲壁と相補的な形状を有し、
該側壁の外周面がその前後方向の全域に亘って前記中央凹所の周囲壁に実質的に接している、請求項1に記載の静電塗装機用の回転霧化頭。
【請求項3】
前記機構部品の底部が、
前記スプーンカット溝の内周側に位置して前記前方壁に向けて突出した円周隆起と、
該円周隆起の内周側に位置して前記回転霧化頭の軸線に沿って延びる中心開口とを有する、請求項1又は2に記載の静電塗装機用の回転霧化頭。
【請求項4】
前記機構部品の底部が筒状の外周面を有し、
前記霧化ヘッド本体には、前記機構部品の底部を受け入れる大径部と、該大径部の後端に形成された段部とを有し、
前記機構部品を前記霧化ヘッド本体に装着して前記機構部品の底部が前記大径部に受け入れらたときに、該底部が前記段部によって係止される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の静電塗装機用の回転霧化頭。
【請求項5】
前記機構部品が比較的硬い合成樹脂から作られている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の静電塗装機用の回転霧化頭。
【請求項6】
前記機構部品が前記霧化ヘッド本体に装着されたときに、これら機構部品と前記霧化ヘッド本体との間にダム機構を有する段部が形成される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の静電塗装機用の回転霧化頭。
【請求項7】
前記機構部品が該機構部品の前端面の外周部に段部を有し、該段部によって、前記複数の塗料吐出口から流出した塗料を受け止めて延展するダム機構が構成されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の静電塗装機用の回転霧化頭。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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