説明

静電式薬剤噴霧システム及びこれのプレ帯電システム

【課題】薬剤ガスの帯電量を多くし且つ薬剤ガスの変質を極力抑えて放電部の電極を腐食させないようにし、物体を予め薬剤ガスの極性と逆の極性にして、物体に薬剤ガスを付着させ易くする静電式薬剤噴霧システム及びこれのプレ帯電システムを提供する。
【解決手段】放電電極2及び対向電極3間に所定の電圧を印加する電源4からなる放電部5と、薬剤をガス化させる薬剤蒸散部6と、上流側の放電部5で帯電させたエアー中の水蒸気と放電部5より下流の薬剤蒸散部6からの薬剤ガス7とを混合し結合させる反応室8と、これにエアーを送り込む送風機構9と、からなり、送風機構9により反応室8内で帯電した水蒸気と薬剤ガス7とを混合し結合させてクラスター化し、帯電しクラスター化した水蒸気及び薬剤ガス7を、逆の極性及び無極性の物体11に付着させ、この物体に対し薬剤ガス7の機能を作用させ得るようにして、上記課題を達成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噴霧蒸散させた薬剤を帯電させ、薬剤ガスの帯電極性と逆の極性を有する物体あるいは無極性の物体の表面部に薬剤ガスを付着させて、物体の表面部に対し薬剤ガスの機能を作用させ得るようにし、加えて、予め物体の表面部に上記帯電の極性と逆の極性のイオンを付着させ、物体の表面部に薬剤ガスをより効率的に付着させ得るようにした静電式薬剤噴霧システム及びこれのプレ帯電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
薬剤を噴霧蒸散して、空間内を効率よく薬剤ガスを適切な濃度にし、その薬剤ガスの有する機能を可及的に高めようとする薬剤噴霧システムがある。この薬剤噴霧システムは、超音波振動子により薬剤水溶液を蒸散させ、この蒸散した薬剤ガスを一旦アキュムレーターに貯留し、そのあと送風機により薬剤ガスを外に放出するが、途中に邪魔板を置いて蒸散した薬剤ガスから粒径の大きいのを除去して外に放出するものであり、これにより、空間内を適切な濃度の薬剤ガスとし、その薬剤ガスの機能を可及的に高めるものである。(例えば、特開2009−100850号公報参照)。
【0003】
上記の薬剤噴霧システムは、空間内を効率よく薬剤ガスを適切な濃度、換言すれば、薬剤ガスの危険性が顕在化しない程度の濃度にすることは出来るが、薬剤ガスとその機能を作用させたい物体との接触確率を高めることが出来るわけではなく、安全性を確保しているにすぎない。薬剤ガスの機能だけを考慮するなら、空間内の薬剤ガス濃度は高ければ高いほどよいことになる。そこで、空間内の薬剤ガスの濃度が、危険性が顕在化しない程度の濃度であっても、薬剤ガスとその機能を作用させたい物体との接触確率を高めることが出来る、静電気を利用した薬剤噴霧システムが知られている。
【0004】
この静電気を利用した薬剤噴霧システムは、図18に示すように、装置の通気路にイオン化装置50を配備し、このイオン化装置50は、オリフィス51を介して装置の通気路に連通する放電室52と、オリフィス51近傍に配備した第1電極53と、この第1電極53に対向して放電室52内に配備され第1電極53との間に高電位差を形成する第2電極54と、放電室52に連通しイオン化すべき気体を加圧状態で放電室52に供給する気体供給装置55とを備えてなり、放電室52に加圧状態で供給したイオン化すべき気体をオリフィス51から噴出して、オゾンの発生を制限しつつマイナスイオンを上記した装置の通気路に放出し、上記気体をマイナスイオン化して、このマイナスイオン化した気体を装置外に放出することが出来る(例えば、特開2006−288453号公報参照)。
【0005】
また、静電気を利用した薬剤噴霧システムは、樹木抽出成分である薬液を入れ、液浸透性部材にて栓をした透明容器を、蒸散部材を入れた金属容器の片方に、液浸透性部材と蒸散部材とが接触するように、透明容器を逆さにして取り付け、金属容器の底裏面にセラミックヒーターを設けてなる、薬液気化装置において、この薬液気化装置の外部への放出孔の手前に、マイナス高圧部に接続しているイオン化線を設けてなるものであり、気化した樹木抽出成分である薬液がイオン化線を通過する際、マイナスイオン化してから放出孔より外部に放出する。(例えば、特開平09−56802号公報参照)。
【0006】
また、静電気を利用した薬剤噴霧システムは、ケーシング内にヒーターを設け、吸上芯で吸い上げられた液体薬剤を加熱して蒸散する蒸散部を構成し、取付部材に隔壁を設け、少なくとも蒸散部より上方領域を後側の第1空間と前側の第2空間とに区画して、隔壁にヒータをの発熱部上へ延出する棚部を設け、この棚部上に空気をマイナスイオン化するマイナスイオン発生器を設け、ケーシング上部に第1空間に連通する放出口と、第2空間に連通する蒸散口を設けてなり、放出口から外部にマイナスイオンを放出し、別の蒸散口から外部に液体薬剤を蒸散するものである(例えば、特開2004−242910号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】 特開2009−100850号公報
【特許文献2】 特開2006−288453号公報
【特許文献3】 特開平09−56802号公報
【特許文献4】 特開2004−242910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献2の静電気利用の薬剤噴霧システムは、オゾンの発生を制限しつつマイナスイオンを放出し、気体供給装置55からの気体をマイナスイオン化することが出来るものの、粒子径の小さい気体をそのままマイナスイオン化するため、その帯電量が少なく気体の有する機能を利用したい物体に付着しずらく、その機能を利用出来ない虞があり、さらに、気体そのものが放電部のプラズマ空間を通過するので、放電部の腐食が懸念され、その上、気体が化学変化する虞があって、気体の電気的な性質に合わせて放電部の電圧など微妙な調整をする必要に迫られる。
【0009】
上記特許文献3の静電気利用の薬剤噴霧システムも、特許文献2の場合と同様に、気化した樹木抽出成分である薬液がイオン化線を通過する際、マイナスイオン化してから放出孔より外部に放出するため、気化薬液の帯電量が少なく気体の有する機能を利用したい物体に付着しずらく、その機能を利用出来ない虞があり、さらに、気化薬液そのものをイオン化線を通過させるので、イオン化線などを腐食させる懸念があり、その上、気化薬液を化学変化する虞もあって、気化薬液の電気的な性質に合わせてマイナス高圧部の電圧など微妙な調整をする必要に迫られる。
【0010】
上記特許文献4の静電気利用の薬剤噴霧システムは、マイナスイオンと蒸散液体薬剤とを外部に別々に放出するから、蒸散液体薬剤を化学変化させる虞がないものの、蒸散液体薬剤がマイナスイオン化する確率が低く、その上帯電量も少ないので、物体に付着しずらく、蒸散液体薬剤の機能を利用出来ない虞がある。
【0011】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、薬剤ガスの帯電量を多くして物体に付着させ易くし、且つ薬剤ガスの変質を極力抑えると共に放電部の腐食を押さえることが出来、その上、物体を予め薬剤ガスの極性と逆の極性にして、その物体に薬剤ガスをより付着させ易くする静電式薬剤噴霧システム及びこれのプレ帯電システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を達成するために提案されたものであって、下記の構成からなることを特徴とするものである。すなわち、請求項1記載の発明は、1以上の放電電極及び該1以上の放電電極に所定のスペースを有して設置した1以上の対向電極で構成しこれら両電極に所定の電圧を印加する電源からなる放電部と、薬剤をガス化させる薬剤蒸散部と、上流側の前記放電部にて帯電させたエアー中の水蒸気と前記放電部より下流側の薬剤蒸散部から放出した薬剤ガスとを混合してこれらを結合させる反応室と、該反応室内にエアーを送り込む送風機構と、からなり、前記送風機構により、前記反応室内で帯電した水蒸気と前記薬剤蒸散部からの薬剤ガスとを混合且つ結合させて、これら水蒸気及び薬剤ガスをクラスター化し、この帯電してクラスター化した水蒸気及び薬剤ガスを、これらと逆の極性及び無極性の物体の表面部に付着させ、該表面部に対し薬剤ガスの機能を作用させ得るようにしたことを特徴とする静電式薬剤噴霧システムである。
【0013】
また、請求項2記載の発明は、1以上の放電電極及び該1以上の放電電極に所定のスペースを有して設置した1以上の対向電極で構成しこれら両電極に所定の電圧を印加する電源からなる放電部と、水を水蒸気化する水蒸散部と、薬剤をガス化させる薬剤蒸散部と、前記放電部を境にして上流側に前記水蒸散部を下流側に前記薬剤蒸散部を設置し、前記放電部にて帯電させた前記水蒸散部から放出した水蒸気と前記薬剤蒸散部から放出した薬剤ガスとを混合してこれらを結合させる反応室と、該反応室内にエアーを送り込む送風機構と、からなり、前記送風機構により、前記反応室内で帯電させた水蒸気と前記薬剤蒸散部からの薬剤ガスとを混合且つ結合させて、これら水蒸気及び薬剤ガスをクラスター化し、この帯電してクラスター化した水蒸気及び薬剤ガスを、これらと逆の極性及び無極性の物体の表面部に付着させ、該表面部に対し薬剤ガスの機能を作用させ得るようにしたことを特徴とする静電式薬剤噴霧システムである。
【0014】
また、請求項3記載の発明は、前記放電部の放電電極が針状であり、対向電極が円筒であることを特徴とする静電式薬剤噴霧システムである。
【0015】
また、請求項4記載の発明は、請求項1記載の静電式薬剤噴霧システムの手前にて、1以上の放電電極及び該1以上の放電電極に所定のスペースを有して設置した1以上の対向電極で構成し、これら両電極に所定の電圧を印加する電源からなるイオナイザーにより、物体の表面部を、前記静電式薬剤噴霧システムによって薬剤ガスが帯電しているのと逆の極性に、予め帯電させ、前記物体の表面部に薬剤ガスを付着させ得るようにしたことを特徴とするプレ帯電システムである。
【0016】
また、請求項5記載の発明は、請求項2記載の静電式薬剤噴霧システムの手前にて、1以上の放電電極及び該1以上の放電電極に所定のスペースを有して設置した1以上の対向電極で構成し、これら両電極に所定の電圧を印加する電源からなるイオナイザーにより、物体の表面部を、前記静電式薬剤噴霧システムによって水蒸気及び薬剤ガスが帯電しているのと逆の極性に、予め帯電させ、前記物体の表面部に薬剤ガスを付着させ得るようにしたことを特徴とするプレ帯電システムである。
【0017】
また、請求項6記載の発明は、前記イオナイザーの放電電極が針状であり、対向電極が円筒であることを特徴とするプレ帯電システム。
【0018】
上記第1の課題解決手段による作用は次の通りである。すなわち、送風機構をオンし且つ放電部の放電電極及び対向電極に電源により所定の電圧を印加すると、両電極間にコロナ放電が発生し、コロナ放電中の両電極間を通過したエアー中の水蒸気を帯電して、一方、薬剤蒸散部により薬剤ガスが発生していて、送風機構により帯電したエアー中の水蒸気と薬剤ガスとを反応室に運び混合させ、これら帯電したエアー中の水蒸気と薬剤ガスとを結合させてクラスター化し、このクラスターをこれの極性と逆の極性及び無極性の物体の表面部に付着させて、物体の表面部に対し薬剤ガスの機能を作用させ得るようにする。
【0019】
上記第2の課題解決手段による作用は、送風機構をオンし放電部の放電電極及び対向電極に電源により所定の電圧を印加すると、両電極間にコロナ放電が発生し、一方、放電部より上流側の水蒸散部により水蒸気が発生していて、コロナ放電中の両電極間を通過した水蒸気を帯電し、放電部より下流側の薬剤蒸散部により薬剤ガスが発生していて、送風機構により帯電した水蒸散部からの水蒸気と薬剤ガスとを反応室に運び混合させ、これら帯電した水蒸散部からの水蒸気と薬剤ガスとを結合させてクラスター化し、このクラスターにこれの極性と逆の極性及び無極性の物体の表面部に付着させて、物体の表面部に対し薬剤ガスの機能を作用させ得るようにする。
【0020】
上記第3の課題解決手段による作用は、放電部の放電電極が針状で対向電極が円筒であると、両電極の形状からそれらの消耗を減衰させ得る。
【0021】
上記第4の課題解決手段による作用は、プレ帯電システムにおけるイオナイザーの放電電極及び対向電極に電源により所定の電圧を印加すると、両電極間のコロナ放電によりイオンが発生し、このイオンにより物体の表面部を、静電式薬剤噴霧システムによってエアー中の水蒸気及び薬剤ガスのクラスターが帯電しているのと逆の極性に、予め帯電させ、物体の表面部に上記したクラスターを付着させ易くして、物体の表面部に対し薬剤ガスの機能をより強く作用させ得るようにする。
【0022】
上記第5の課題解決手段による作用は、プレ帯電システムにおけるイオナイザーの放電電極及び対向電極に電源により所定の電圧を印加すると、両電極間のコロナ放電によりイオンが発生し、このイオンにより物体の表面部を、静電式薬剤噴霧システムによって水蒸散部からの水蒸気及び薬剤ガスのクラスターが帯電しているのと逆の極性に、予め帯電させ、物体の表面部に上記したクラスターを付着させ易くして、物体の表面部に対し薬剤ガスの機能をより強く作用させ得るようにする。
【0023】
上記第6の課題解決手段による作用は、プレ帯電システムにおけるイオナイザーの放電電極が、針状で対向電極が円筒であると、両電極の形状からそれらの消耗を減衰させ得る。
【発明の効果】
【0024】
以上詳述したように、本発明によれば、以下のような効果がある。
請求項1記載の発明は、送風機構によりエアー中の水蒸気及び薬剤ガスを反応室に送る過程で、エアー中の水蒸気を帯電させ、帯電したエアー中の水蒸気と薬剤ガスとを結合させてクラスター化し粒径を大きくして、帯電量を多くし物体の表面部に上記したクラスターを付着させ易くして、且つ、放電部の放電電極及び対向電極間に薬剤ガスを直接通過させないから、薬剤ガスの変質を極力抑えると共に、薬剤ガスによる両電極の腐食などの不都合を起こさない効果がある。
【0025】
また、請求項2記載の発明は、送風機構により水蒸散部からの水蒸気及び薬剤ガスを反応室に送る過程で、水蒸散部からの水蒸気を帯電させ、帯電した水蒸散部からの水蒸気と薬剤ガスとを結合させてクラスター化し粒径を大きくして、帯電量を多くし物体の表面部に上記したクラスターを付着させ易くして、且つ、放電部の放電電極及び対向電極間に薬剤ガスを直接通過させないし、仮に通過させたとしても水蒸散部からの水蒸気が緩衝材となるから、薬剤ガスの変質を極力抑えると共に、薬剤ガスによる両電極の腐食などの不都合を起こさない効果がある。
【0026】
また、請求項3記載の発明は、上記の効果に加えて、放電部の放電電極及び対向電極を長持ちさせる効果がある
【0027】
また、請求項4記載の発明は、上記の効果に加えて、物体の表面部にエアー中の水蒸気及び薬剤ガスのクラスターの極性と逆の極性を予め帯電させてあるから、物体の表面部に上記したクラスターが極めて容易に付着する効果がある。
【0028】
また、請求項5記載の発明は、上記の効果に加えて、物体の表面部に水蒸散部からの水蒸気及び薬剤ガスのクラスターの極性と逆の極性を予め帯電させてあるから、物体の表面部に上記したクラスターが極めて容易に付着する効果がある。
【0029】
また、請求項6記載の発明は、上記の効果に加えて、イオナイザーの放電電極及び対向電極を長持ちさせる効果がある
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態を示す静電式薬剤噴霧システムの概念図である(実施例1)。
【図2】本発明の静電式薬剤噴霧システムにおける放電部の放電電極及び対向電極の斜視図である(実施例1)。
【図3】本発明の静電式薬剤噴霧システムにおける他の放電部の放電電極及び対向電極の斜視図である(実施例1)。
【図4】本発明の静電式薬剤噴霧システムにおける他の放電部の放電電極及び対向電極の斜視図である(実施例1)。
【図5】本発明の他の実施の形態を示す静電式薬剤噴霧システムの概念図である(実施例2)。
【図6】試験1の実験装置のフロー図である。
【図7】試験1の実験装置の捕集部のフロー図である。
【図8】試験1の実験装置のイオン発生部のフロー図である。
【図9】試験1による加湿器を使用しない場合のデータ表である。
【図10】試験1による加湿器を使用した場合のデータ表である。
【図11】試験1の各試験条件と二酸化塩素との特性図である。
【図12】試験2の実験装置の側面図である。
【図13】試験2の実験装置の平面図である。
【図14】試験2による各試験条件と二酸化塩素との関係のデータ表である。
【図15】本発明の実施の形態を示すプレ帯電システムの概念図である(実施例4)。
【図16】本発明の他の実施の形態を示すプレ帯電システムの概念図である(実施例5)。
【図17】従来例を示すフロー図である
【発明を実施するための形態】
【0031】
【実施例1】
【0032】
図1、2において、静電式薬剤噴霧システム1は、1以上の放電電極2及び該1以上の放電電極2に所定のスペースを有して設置した1以上の対向電極3で構成しこれら両電極2、3に所定の電圧を印加する電源4からなる放電部5と、薬剤をガス化させる薬剤蒸散部6と、上流側の放電部5にて帯電させたエアー中の水蒸気と放電部5より下流側の薬剤蒸散部6から放出した薬剤ガス7とを混合してこれらを結合させる反応室8と、この反応室8内にエアーを送り込む送風機構9と、からなり、送風機構9により、反応室8内で帯電したエアー中の水蒸気と薬剤蒸散部6からの薬剤ガス7とを混合且つ結合させて、これらエアー中の水蒸気及び薬剤ガス7をクラスター化し、この帯電してクラスター化したエアー中の水蒸気及び薬剤ガス7(以下、単にクラスター10と言う)を、クラスター10と逆の極性及び無極性の物体11の表面部11aに付着させ、この表面部11aに対し薬剤ガス7の機能を作用させ得るようにしたものである。
【0033】
図1の放電部5は、放電を起こすのに最も簡単な構成を示すものであり、図2に示すように、放電電極2が針状であり、対向電極3が円筒状であって、これら両電極2、3に電源4が接続しいている。なお、放電部5の放電電極2及び対向電極3は、図3に示すように、放電電極2が線状であり、対向電極3が平板で線状を挟むものであっても、また、図4に示すように、放電電極2が針状であり、対向電極3が平板であっても良く、これら両電極間2、3に放電が起きそこに通気出来れば、放電電極2及び対向電極3の形状には特に限定がない。
【0034】
電源4は、放電部5に対して必要な電圧及び電流を供給できるものであれば、特に限定がないが、放電電極2にプラスの電荷を印加したり、マイナスの電荷を印加したり、あるいはプラス・マイナスの電荷を交互に印加したり、する3種類の場合がある。放電部5の性質により、電源4は、3種類のいずれか1種類が選択されたり、3種類の切り替えが出来るものが選択されたりする。なお、電源4の電圧は、特に限定が無いが、1KVないし8KVの範囲内である。また、プラス・マイナスの電荷を交互に印加する電源4も、特に限定が無いが、商用電源の50Hzないし60Hzが採用されるのがベターである。
【0035】
前記薬剤蒸散部6は、薬剤を貯留且つ蒸散させるものであり、蒸散手段としては、強制的な加熱手段や超音波振動手段などがあるが、自然蒸散による場合も考えられる。要は薬剤を必要とする量が、常時蒸散出来れば良く、蒸散手段を格別限定しない。なお、薬剤としては、例えば、二酸化塩素(CLO2)、次亜塩素酸ナトリウム(NaCLO)、亜塩素酸(HCLO2)、エチルアルコール(C2H5OH)などがあるが、これも特に限定がない。
【0036】
前記反応室8は、放電部5にて帯電させたエアー中の水蒸気と薬剤蒸散部6から放出した薬剤ガス7とを混合して結合させる部屋であり、この反応室8は、前記放電部5により上流側反応室8aと下流側反応室8bとに分かれている。上流側反応室8aは前記送風機構9を内蔵し、下流側反応室8b内に前記薬剤蒸散部6を設けてある。なお、この薬剤蒸散部6自体は下流側反応室8b外に設けて、薬剤蒸散部6からの薬剤ガス7を放出するノズルを、下流側反応室8bの壁面に貫通させて設けてあっても良い。したがって、外部空間から入口12を通り、送風機構9により上流側反応室8a内に取り込まれたエアー及びそこに含まれている水蒸気は、放電部5の円筒の対向電極3内を通過して、放電部5によりエアー中の水蒸気は帯電しクラスター化して下流側反応室8b内に入り、この帯電しクラスター化したエアー中の水蒸気は、下流側反応室8b内にある薬剤蒸散部6からの薬剤ガス7と混合し結合してクラスター10となり、下流側反応室8bに設けられた出口13からクラスター10が外部空間に放出される。
【0037】
したがって、例えば、外部空間に浮遊している菌やウイルスが帯電している薬剤ガス7の極性と逆の極性であると、直ちに浮遊菌や浮遊ウイルスと薬剤ガス7とが結合し、浮遊菌や浮遊ウイルスに対し薬剤ガス7が作用することになる。また、外部空間にある物体11が帯電している薬剤ガス7の極性と逆の極性及び無極性であると、直ちに物体11の表面部11aに薬剤ガス7が結合し、物体11の表面部11aに付着している菌やウイルスに対し薬剤ガス7が作用することになる。
【0038】
前記送風機構9は、反応室8内にエアーを送り込むことができれば特に限定がないが、通常ファンが採用される。その他、温度傾斜を生じさせて反応室8内にエアーを送り込だり、イオン風を生じさせて反応室8内にエアーを送り込だりしたものでもよい。また、この送風機構9は、反応室8に内蔵していても、外部に設置してあってもよい。
【0039】
次に、上記構成になる静電式薬剤噴霧システム1の利用状況を詳述する。
まず、薬剤蒸散部6に薬剤を充填した後、静電式薬剤噴霧システム1全体を作動状態にする。送風機構9が作動するから、エアーが外部空間から入口12を通り上流側反応室8a内に入る。さらに、エアーは、放電部5の針状の放電電極2と円筒状の対向電極3との間を通り円筒状の対向電極3内を通過して下流側反応室8b内に入る。その過程で、電源4が放電電極2にプラスの電荷を印加する場合には、放電電極2からプラスイオンが放出し、電源4が放電電極2にマイナスの電荷を印加する場合には、放電電極2からマイナスイオンが放出し、さらに、電源4が放電電極2にプラスの電荷とマイナスの電荷とを交互に印加する場合には、放電電極2からプラスイオンとマイナスイオンとを交互に放出する。例えば、電源4が放電電極2にマイナスの電荷を印加するものであると、放電電極2からマイナスイオンが放出する(以下、放電電極2からマイナスイオンが放出するものとして説明する)。
【0040】
放電電極2からのマイナスイオンを含んだエアーは、その中の水蒸気が帯電して下流側反応室8b内に入ると、下流側反応室8b内の薬剤蒸散部6からその蒸散手段によって蒸散した薬剤ガス7と混合し結合して、クラスター10となりマイナスに帯電し、下流側反応室8bの出口13からマイナスに帯電したクラスター10は外部空間に放出される。この外部空間に浮遊している菌やウイルスは、ほとんどがプラスに帯電しているから、直ちにこれら浮遊菌や浮遊ウイルスとクラスター10とが結合し、浮遊菌や浮遊ウイルスに対しクラスター10中の薬剤ガス7が作用する。また、外部空間にある物体11は、ほとんどがプラスに帯電しているから、直ちに物体11の表面部11aに薬剤ガス7が付着し、物体11の表面部11aに付着している菌やウイルスに対し薬剤ガス7が作用することになる。
【0041】
【実施例2】
【0042】
図5は、本発明の他の実施の形態を示す静電式薬剤噴霧システム1Aであり、図1ないし図4の実施形態との相違点は、上流側反応室8a内に水蒸散部20が設けられている点にある。したがって、送風機構9により、外部空間から入口12を通り上流側反応室8a内に入ったエアーは、上流側反応室8a内にある水蒸散部20からの水蒸気21を取り込み、放電部5の円筒の対向電極3内を通過する。その過程で、水蒸気21は、放電部5により発生したイオンと混合し結合して帯電し、この帯電した水蒸気21自体が水素結合によりクラスター化して、このクラスター化した水蒸気21が放電電極2の極性に帯電し、下流側反応室8b内に入る。
【0043】
この帯電しクラスター化した水蒸気21と下流側反応室8b内の薬剤蒸散部6からの薬剤ガス7とを下流側反応室8b内で結合させて、この帯電しクラスター化した水蒸散部20からの水蒸気21及び薬剤ガス7、すなわち、クラスター10は、全体として、放電部5の放電電極2の極性になると共に、帯電容量の大きいものになり、下流側反応室8bに設けられた出口13からクラスター10は外部空間に放出される。その他の構成、作用は図1ないし図4の実施形態と同様なので、図面に符号を付してその詳細な説明を省略する。なお、水蒸散部20の水蒸気の蒸散手段は、実施例1と同様である。
【0044】
次に、本発明の静電式薬剤噴霧システムの優位性を確認するための試験をしたので、その結果を示す。
〈試験1〉
薬剤として二酸化塩素(CLO2)を使用し、図6ないし図8に示す試験装置により試験をした。この試験1では、二酸化塩素が帯電もしくは帯電した水粒子に付着している場合、この帯電している二酸化塩素がその進行方向と直交する電界、すなわち、図7のアルミ電極と純水との間発生している強力な電界を通過した際、二酸化塩素の進行方向が変わり、純水30mL側に1時間でどの程度捕集されるかを確認した。ここで、加湿器は市販の超音波式加湿器であり、株式会社トヨトミ製(型式 TVH−5)を使用し、ポンプは(株)榎本マイクロポンプ製作所製(型式 MX−808ST−S)を使用し、流量は27L/分である。純水は市販の純水製造装置であり、柴田化学製(型式 PP−101)にて得たものを使用した。イオン発生部の高電圧発生機は60Hzの交流を使用した。純水側に捕集した二酸化塩素の測定は、HANNA INSTRUMENTS(ハンナインスツルメンツ)な製のポータブル吸光光度計(型式 HI93738)を使用した。この測定結果を図9ないし図11に示す。
【0045】
図9ないし11の結果から、二酸化塩素はイオン化されていないと付着力が非常に弱く、イオン化されていても二酸化塩素単独では粒径が小さく帯電容量が少ないから付着力がそれはど強くならず、二酸化塩素に水蒸気が加わると粒径が大きくなり帯電容量が多くなるから付着力も強くなって、本発明の静電式薬剤噴霧システムの優位性を実証出来た。
【0046】
〈試験2〉
薬剤として二酸化塩素(CLO2)を使用し、図12ないし13に示す試験装置により試験をした。この試験2では、帯電もしくは帯電した水粒子に付着している二酸化塩素が外部空間に放出された場合、二酸化塩素が帯電しているのと逆の極性に帯電している物体に引き寄せられ、直流1KVのプラスの電位を与えた図13のA部に示す純水30mL側と、電位を与えていない図13のB部に示す純水30mL側とに、3時間でどの程度捕集されるかを確認した。なお、加湿器、ポンプ及び二酸化塩素発生部は図6と同じものを使用し、イオン発生部は図8と同じものを使用した。さらに、A部及びB部の純水側に捕集した二酸化塩素の測定は、HANNA社製のポータブル吸光光度計(型式 HI93738)を使用した。この測定結果を図14に示す。
【0047】
図14の結果から、二酸化塩素はイオン化されていないと物体に対する付着力が非常に弱く、イオン化されていても二酸化塩素単独では粒径が小さく帯電容量が少ないから物体に対する付着力がそれはど強くならず、二酸化塩素に水蒸気が加わると粒径が大きくなり帯電容量が多くなるから物体に対する付着力も強くなって、本発明の静電式薬剤噴霧システムの優位性を実証出来た。
【実施例3】
【0048】
図15は、本発明の実施の形態であるプレ帯電システムを示すものであり、このプレ帯電システム30は、上記した静電式薬剤噴霧システム1の手前に設置されるものであり、1以上の放電電極31及びこの1以上の放電電極31に所定のスペースを有して設置した1以上の対向電極32で構成し、これら両電極31、32に所定の電圧を印加する電源33からなるイオナイザー34により、前記物体11の表面部11aを、静電式薬剤噴霧システム1によって薬剤ガス7が帯電しているのと逆の極性に、予め帯電させ、物体11の表面部11aに薬剤ガス7を付着させ得るようにしたものである。なお、イオナイザー34の放電電極31及び対向電極32は、静電式薬剤噴霧システム1の放電電極2及び対向電極3と同様に特に限定がないが、図2ないし4に示すものが採用される。
【0049】
したがって、このプレ帯電システム30におけるイオナイザー34の放電電極31及び対向電極32に、電源33により所定の電圧を印加すると、両電極31、32間のコロナ放電によりイオンが発生し、送風機35が作動することで、イオンにより物体11の表面部11aを、静電式薬剤噴霧システム1によって薬剤ガス7が帯電しているのと逆の極性に、予め帯電させ、物体11の表面部11aに薬剤ガス7より付着させ易くして、物体11の表面部11aに対し薬剤ガス7の機能をより作用させ得るようにしたものである。なお、この電源33は、静電式薬剤噴霧システム1における電源4と同様に、放電電極31にプラスの電荷を印加したり、マイナスの電荷を印加したり、あるいはプラス・マイナスの電荷を交互に印加したり、する3種類の場合がある。すなわち、電源33は、静電式薬剤噴霧システム1による薬剤ガス7が帯電している極性により、放電電極31にどの電荷を印加するかが決まる。
【0050】
【実施例4】
【0051】
図16は、本発明の他の実施の形態であるプレ帯電システムを示すものであり、このプレ帯電システム30Aは、静電式薬剤噴霧システム1Aの手前に設置されるものであり、図15の実施形態との相違点は、静電式薬剤噴霧システム1Aによって水蒸気及び薬剤ガスが帯電しているのと逆の極性に、物体11を予め帯電させる点にある。その他の構成、作用は図15の実施形態と同様なので、図面に符号を付してその詳細な説明を省略する。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の静電式薬剤噴霧システム及びこれのプレ帯電システムは、薬剤ガスの変質を極力抑え且つ放電部の電極の腐食を避け、薬剤ガスを空間に浮遊している菌やウイルスに付着させ易くし、さらに空間内にある物体にも付着させ易くして、浮遊菌や浮遊ウイルス並びに物体の表面部にも薬剤ガスの機能を発揮させたいような場合に、利用可能性が極めて高くなる。
【符号の説明】
【0053】
1、1A 静電式薬剤噴霧システム
2、31 放電電極
3、32 対向電極
4、33 電源
5 放電部
6 薬剤蒸散部
7 薬剤ガス
8 反応室
8a 上流側反応室
8b 下流側反応室
9 送風機構
10 クラスター
11 物体
11a 表面部
12 入口
13 出口
20 水蒸散部
21 水蒸気
30、30A プレ帯電システム
34 イオナイザー
35 送風機
50 イオン化装置
51 オリフィス
52 放電室
53 第1電極
54 第2電極
55 気体供給装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上の放電電極及び該1以上の放電電極に所定のスペースを有して設置した1以上の対向電極で構成しこれら両電極に所定の電圧を印加する電源からなる放電部と、薬剤をガス化させる薬剤蒸散部と、上流側の前記放電部にて帯電させたエアー中の水蒸気と前記放電部より下流側の薬剤蒸散部から放出した薬剤ガスとを混合してこれらを結合させる反応室と、該反応室内にエアーを送り込む送風機構と、からなり、前記送風機構により、前記反応室内で帯電した水蒸気と前記薬剤蒸散部からの薬剤ガスとを混合且つ結合させて、これら水蒸気及び薬剤ガスをクラスター化し、この帯電してクラスター化した水蒸気及び薬剤ガスを、これらと逆の極性及び無極性の物体の表面部に付着させ、該表面部に対し薬剤ガスの機能を作用させ得るようにしたことを特徴とする静電式薬剤噴霧システム。
【請求項2】
1以上の放電電極及び該1以上の放電電極に所定のスペースを有して設置した1以上の対向電極で構成しこれら両電極に所定の電圧を印加する電源からなる放電部と、水を水蒸気化する水蒸散部と、薬剤をガス化させる薬剤蒸散部と、前記放電部を境にして上流側に前記水蒸散部を下流側に前記薬剤蒸散部を設置し、前記放電部にて帯電させた前記水蒸散部から放出した水蒸気と前記薬剤蒸散部から放出した薬剤ガスとを混合してこれらを結合させる反応室と、該反応室内にエアーを送り込む送風機構と、からなり、前記送風機構により、前記反応室内で帯電させた水蒸気と前記薬剤蒸散部からの薬剤ガスとを混合且つ結合させて、これら水蒸気及び薬剤ガスをクラスター化し、この帯電してクラスター化した水蒸気及び薬剤ガスを、これらと逆の極性及び無極性の物体の表面部に付着させ、該表面部に対し薬剤ガスの機能を作用させ得るようにしたことを特徴とする静電式薬剤噴霧システム。
【請求項3】
前記放電部の放電電極が針状であり、対向電極が円筒である請求項1または2記載の静電式薬剤噴霧システム。
【請求項4】
請求項1記載の静電式薬剤噴霧システムの手前にて、1以上の放電電極及び該1以上の放電電極に所定のスペースを有して設置した1以上の対向電極で構成し、これら両電極に所定の電圧を印加する電源からなるイオナイザーにより、物体の表面部を、前記静電式薬剤噴霧システムによって薬剤ガスが帯電しているのと逆の極性に、予め帯電させ、前記物体の表面部に薬剤ガスを付着させ得るようにしたことを特徴とするプレ帯電システム。
【請求項5】
請求項2記載の静電式薬剤噴霧システムの手前にて、1以上の放電電極及び該1以上の放電電極に所定のスペースを有して設置した1以上の対向電極で構成し、これら両電極に所定の電圧を印加する電源からなるイオナイザーにより、物体の表面部を、前記静電式薬剤噴霧システムによって水蒸気及び薬剤ガスが帯電しているのと逆の極性に、予め帯電させ、前記物体の表面部に薬剤ガスを付着させ得るようにしたことを特徴とするプレ帯電システム。
【請求項6】
前記イオナイザーの放電電極が針状であり、対向電極が円筒である請求項4または5記載のプレ帯電型静電式薬剤噴霧システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−245257(P2011−245257A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135552(P2010−135552)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000228028)株式会社トルネックス (25)
【Fターム(参考)】