説明

静電粒子フィルタ

本発明は、空気から粒子を除去する静電粒子フィルタに関する。静電粒子フィルタは、第1及び第2の対向する側をもつフィルタ媒体3と、第1電極1及び第2電極2を有し、第1電極1及び第2電極2は、それぞれフィルタ媒体3の第1の側及び第2の側に等角に設けられる。第1電極1、第2電極2、及びフィルタ媒体3は、導電電流がフィルタ媒体3を流れることを可能にするように構成される。第1電極1は、約10Ω/□の下限及び約1012Ω/□の上限の範囲であり、相対湿度30%のシート抵抗を有する中程度の導電性の電極である。本発明は、静電粒子フィルタを有する静電フィルタシステム、及び粒子帯電部6にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気から粒子を除去する静電粒子フィルタに関し、該静電粒子フィルタは、第1及び第2の対向する側をもつフィルタ媒体、第1電極、及び第2電極を有し、第1電極及び第2電極は、粒子を含む気流に対して透過性であり、第1電極及び第2電極は、それぞれフィルタ媒体の対向する側に等角に配置される。本発明は、静電粒子フィルタを有する静電フィルタシステム、及び粒子帯電部にも関する。
【背景技術】
【0002】
空気からの粒子の除去に使用する静電空気フィルタは、米国特許US5549735から知られる。既知の静電空気フィルタは、フィルタ媒体、フィルタ媒体の対向する側に位置される絶縁された電極及び絶縁されていない電極を含む電極対を有する。フィルタ効率の静電的向上は、フィルタ媒体の対向する側に位置される電極間のポテンシャルの差を利用することにより実現される。絶縁された電極は、従来技術で知られる方法、例えば配線又は型打ちした金属のストランド(strand)のディッピング(dipping)又は吹きつけ(spraying)、配線と同時の絶縁体の押し出し加工又は射出成形、配線の周りの射出成形された絶縁体の半分をつなぎ合わせにより用意される。絶縁された電極の目的は、フィルタ媒体を通って絶縁された電極と絶縁されていない電極との間の導電性経路ができあがることを回避し、フィルタ媒体に高電界がかかるときの電極間の電気的アークを回避するためである。
【0003】
本発明の発明者は、既知の静電空気フィルタが、動作時にフィルタ効率の急速な低下を示し得ることを認識している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、特に効率的であり、動作時の長期間にわたってこの効率を維持するか、又は少なくとも実質的に維持する、冒頭の段落において説明される種類の静電粒子フィルタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によると、この目的は、第1電極、第2電極、及びフィルタ媒体が、フィルタ媒体を通って電流が流れるように構成されることで実現され、第1電極は、相対湿度30%において、約10Ω/□の下限値及び約1012Ω/□の上限値の範囲のシート抵抗をもつ中程度の導電性の電極である。
【0006】
通常、静電粒子フィルタは、例えばビル又は乗り物において使用され得る空気清浄機、空気処理システム、又は空気調整システムの一部である。代替として、このような静電粒子フィルタは、静電粒子フィルタ、ユーザの口及び鼻を囲むとともに、空気清浄ユニットに接続される吸入マスクを有する空気清浄ユニットからなる携帯用パーソナル空気清浄機の一部でもあり得る。
【0007】
第1電極、第2電極、及びフィルタ媒体を有する静電粒子フィルタのフィルタ効率は、フィルタ媒体内に存在する電場の大きさにまさに依存する。電場は、結果として第1電極と第2電極との間のポテンシャルの差を利用する。既知の静電粒子フィルタが電気的に絶縁された電極を有するので、第1電極と第2電極との間のポテンシャルの差は、絶縁材料及びフィルタ媒体に渡って分割されるであろう。フィルタ媒体が絶縁材料のものよりも実質的に小さい電気抵抗を有する場合、第1電極と第2電極との間のポテンシャルの差は、絶縁材料に渡って著しく低下し、フィルタ媒体内の電界強度が低く、フィルタ効率の低い静電的向上という結果となる。フィルタ媒体の電気抵抗は、粒子の収集、特に導電性粒子、例えばタバコの煙又は煤からの粒子の収集により、又は環境からの水の吸収により、動作時に低下し得る。本発明による静電粒子フィルタにおいて、第1電極、第2電極、及びフィルタ媒体は、フィルタ媒体を通って電流が流れることを可能にするように構成される。存在する場合、電極1からフィルタ媒体3を介して第2電極2へ、又はその逆に電流が流れる。結果として、第1電極と第2電極との間の差は、フィルタ媒体に渡って著しく低下し、フィルタ媒体が有限の導電性を有していたとしても、フィルタ媒体内において、十分な電界強度を維持するであろう。結果として、本発明による静電粒子フィルタは、効率的であり、動作時の長期間この効率を維持するか、又は少なくとも実質的に維持する。
【0008】
第1電極、第2電極、及びフィルタ媒体が、フィルタ媒体を通って電流が流れることを可能にするように構成される場合、第1電極及び第2電極の両方が、比較的高い電気伝導性を有する場合、有限の電気伝導性を有するときに比較的大きな導電性電流がフィルタ媒体を流れ、結果として電気的アークのリスクの増加となる。電気的アークは、フィルタ媒体を破壊し得、安全性のリスクを有する。本発明による静電粒子フィルタにおいて、第1電極は、中程度の導電性を有する電極であり、これは本発明の文脈では、第1電極が相対湿度30%において約10Ω/□の下限値及び約1012Ω/□の上限値の範囲のシート抵抗を有することを意味する。上限値は、中程度の導電性の電極が、第1電極と第2電極との間のポテンシャルの差の適用に続く十分短い時間間隔内で電気的に供給され得ることを保証する。下限値は、フィルタ媒体が有限な導電率を有する場合に、動作時にフィルタ媒体を通って流れ得る十分に低い大きさの電流を保証する。結果として、本発明による静電粒子フィルタは、電気的アークのリスクが低く、それゆえ安全のリスクが低い。
【0009】
本発明による静電粒子フィルタの一実施例は、請求項2に規定される。この実施例において、第1電極及び第2電極の両方は、相対湿度30%において、約10Ω/□の下限値及び約1012Ω/□の上限値の範囲のシート抵抗を持つ中程度の導電性電極である。この実施例は、動作時に導電性経路を通って流れ得る電流を更に低下させ、これにより、動作寿命が延び、安全上のリスクを更に低下させる。
【0010】
本発明による静電粒子フィルタの一実施例は、請求項3に規定される。この実施例では、相対湿度30%において中程度の導電性の電極のシート抵抗の下限値は、約10Ω/□、及び/又は中程度の導電性電極のシート抵抗の上限値は、約1011Ω/□である。この実施例は、第1電極と第2電極との間のポテンシャルの差の適用に従う十分に短い時間間隔において、中程度の導電性の電極が給電されること、及び/又は動作時にフィルタ媒体を横切る導電性経路を通って流れ得る電流の大きさが十分に小さく、これにより動作寿命が延び、安全上のリスクが更に低下することを更に保証する。
【0011】
本発明による静電粒子フィルタの一実施例は、請求項4に規定される。この実施例では、相対湿度30%において、中程度の導電率の電極のシート抵抗の下限値が約10Ω/□、及び/又は中程度の導電率の電極のシート抵抗の上限値が約1010Ω/□である。この実施例は、第1電極と第2電極との間のポテンシャルの差の適用に続く十分に短い時間間隔において中程度の導電性電極が給電されること、及び/又は動作時にフィルタ媒体を横切る導電性経路を通って流れ得る電流の大きさが十分に小さく、これにより動作寿命が延び、安全上のリスクが更に低下することを更に保証する。
【0012】
本発明による静電粒子フィルタの一実施例は、請求項5に規定される。この実施例において、中程度の導電性の電極は、有機化合物を含む。有機化合物は、安価な中程度の電極の便利な製造を可能にするので、本発明の文脈において特に魅力的である。有機化合物を含む電極は、優れた機械的特性、例えば可撓性、延性、及び強度を有し、これにより電極が、フィルタ媒体とともに成形されることを可能にする。更に、フィルタ媒体に機械的ロバスト性を付与することにより、有機化合物を含む電極は、例えばポリオレフィンを含むフィルタ媒体のような、それ自体成形することが困難であるフィルタ媒体の使用を可能にする。
【0013】
本発明による静電粒子フィルタの一実施例は、請求項6に規定される。この実施例において、有機化合物は、親水性有機化合物である。親水性有機化合物は、電気的特性がドープ剤の組み合わされた使用により決定される電極の製造にとって特に魅力的である。
【0014】
本発明による静電粒子フィルタの一実施例は、請求項7に規定される。この実施例において、中程度の導電性の電極は、ドープ剤を有する。この実施例は、中程度の導電性の電極に、この機械的特性及び電気的特性を独立して最適化する可能性を提供する。
【0015】
本発明による静電粒子フィルタの一実施例は、請求項8に規定される。この実施例において、ドープ剤は、親水性ドープ剤か、又は吸水性のドープ剤である。有機化合物と組み合わせて親水性ドープ剤又は吸水性ドープ剤を使用することは、中程度の導電性の電極の製造を容易にすることができるので、本発明の文脈において特に魅力的である。
【0016】
本発明による静電粒子フィルタの一実施例は、請求項9に規定される。この実施例において、フィルタ媒体は、疎水性の材料を有する。疎水性材料を有するフィルタ媒体は、比較的高い湿度においても高い電気抵抗性を持つので、非常に魅力的である。しかしながら、疎水性材料を含むフィルタ媒体、例えばポリオレフィンは、この非常に低い剛性により、これ自身、成形することが非常に困難であり得る。この実施例において、中程度の導電性の電極は、可撓性、延性、及び強度のような優れた機械的特性を有し、フィルタ媒体のロバスト性を向上させ、これにより、フィルタ媒体が中程度の導電性の電極とともに成形されることを可能にする。
【0017】
請求項10は、粒子帯電部及び静電粒子フィルタを含む静電フィルタシステムを規定し、静電粒子フィルタは、第1及び第2の対向する側を持つフィルタ媒体、第1電極、及び第2電極を有し、第1電極及び第2電極は、粒子を含む気流に対して透過性であり、第1電極及び第2電極は、それぞれフィルタ媒体の第1及び第2の対向する側に等角に設けられ、第1電極、第2電極、及びフィルタ媒体は、フィルタ媒体を通って電流が流れることを可能にするように構成され、第1電極は、相対湿度30%において、約10Ω/□の下限値及び約1012Ω/□の上限値の範囲のシート抵抗をもつ中程度の導電性電極であることを特徴とする。
【0018】
本発明による静電粒子フィルタの一実施例は、請求項11に規定される。この実施例においてドープ剤は、光触媒である。紫外光の放射で、光触媒を有する中程度の導電性の電極が、フィルタを通る有毒ガス合成物を光触媒で酸化し、これにより静電粒子フィルタの空気洗浄効率を向上させる。
【0019】
請求項12は、粒子帯電部、静電粒子フィルタ、及び光源を含む静電フィルタシステムを規定する。静電粒子フィルタは、第1及び第2の対向する側を持つフィルタ媒体、第1電極、及び第2電極を有し、第1電極及び第2電極は、粒子を含む気流に対して透過性であり、第1電極及び第2電極は、それぞれフィルタ媒体の第1及び第2の対向する側に等角に設けられ、第1電極、第2電極、及びフィルタ媒体は、フィルタ媒体を通って電流が流れることを可能にするように構成され、第1電極は、相対湿度30%において、約10Ω/□の下限値、及び約1012Ω/□の上限値の範囲のシート抵抗を有する中程度の導電率の電極であることを特徴とする。中程度の導電率の電極は、光触媒であるドープ剤を有し、光源は、光触媒に照射するための紫外線放出を生成するために設けられる。
【0020】
本発明の静電粒子フィルタのこれら及び他の態様は、更に明らかにされ、図を参照して記載されるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1の静電粒子フィルタは、第1電極1、第2電極1、及びフィルタ媒体3を含む。図1は、静電粒子フィルタに接続される電源4も示す。第1電極1及び第2電極2は、通常0.01mm及び5mmの間の厚さ、より詳細には0.5mm及び2mmの間の厚さを有する。フィルタ媒体3は、通常1mm及び5mmの間の厚さ、より詳細には2mm及び4mmの間の厚さを有する。
【0022】
第1電極1及び第2電極2は、粒子、特に超微細粒子を含む気流に対して透過性である。本発明の文脈において、超微細粒子は、約10nm及び約2500nmの間と同じ直径を持つ粒子である。第1電極1及び第2電極2に関して、当業者は、粒子を含む気流に対する透過性が様々な態様、例えば穿孔された構造、多孔性構造、平行軌道のセット、グリッド、メッシュ又はガーゼを使用することにより得られ得ることを理解するであろう。フィルタ媒体3に関して、様々なフィルタ媒体が従来技術で知られ、例えば繊維を含むフィルタ媒体、又は開放泡沫(open foam)細胞を含むフィルタ媒体である。
【0023】
相対湿度30%において、この初期状態のフィルタ媒体3は、10Ω・m以上、好ましくは10Ω・m以上の表面法線に平行な方向で測定される電気的抵抗性を有する。例えばフィルタ媒体3は、疎水性材料を含む3mmの厚さの繊維性フィルタ媒体である。疎水性材料は、ポリエステル、若しくはポリオレフィンのような疎水性合成樹脂であり得るか、又は疎水化ガラスであり得る。疎水性材料からフィルタ媒体を製造することは、疎水性材料が、高い相対湿度においてさえ水の吸収に抵抗することにより、フィルタ媒体の高い電気抵抗性を保証するので、非常に魅力的である。
【0024】
第1電極1及び第2電極2は、それぞれフィルタ媒体3の対向する側に等角に設けられる。この条件が満たされる場合、全体として静電粒子フィルタは、いかなる形状、例えば折り曲げられた形状、又はひだ(pleat)のある形状を有し得る。折り曲げられた形状又はひだのある形状を持つ静電粒子フィルタにとって、第1電極1及び第2電極2が可撓性、延性、及び強度のような優れた機械的特性を有することが望ましい。このことは、第1電極1及び第2電極2が、フィルタ媒体3と接触する間、フィルタ媒体3とともに成形されることを可能にする。更に、このことは、第1電極1及び第2電極がフィルタ媒体3に機械的ロバスト性を与えるので、これ自身成形するのが困難であるフィルタ媒体の使用を可能にする。
【0025】
第1電極1は、中程度の導電性の電極である。本発明の文脈において、中程度の導電性の電極は、相対湿度30%において、約10Ω/□の下限値及び約1012Ω/□の上限値の範囲のシート抵抗を持つ電極を指す。電極のシート抵抗は、電極表面に平行に向けられた正方形の2つの対向する側の間に測定されるような電気抵抗である。電極のシート抵抗は、正方形のサイズとは独立であり、電極の厚さ及び、電極が製造される材料の抵抗率のみに依存する。上限値は、相対湿度30%未満においてさえ、中程度の導電性の電極の表面領域全体の十分に速い電気供給を保証する。電気供給は、好ましくは10秒以内に完了される。下限値は、フィルタ媒体3が有限の導電性を有する場合に、動作時にフィルタ媒体3を通って流れる十分に小さな大きさの電流を保証し、これにより電力消費を低減し、電極1及び電極2の間の局部的短絡の存在と関連付けられる結果を制限する。このような結果の例は安全上のリスクであり、電極表面のかなりの部分に渡る電気的ポテンシャルの著しい低下となる。結果として、下限値は、フィルタ領域のかなりの部分に渡るフィルタ効率の十分な静電的向上が、様々な潜在的に不利な条件の下で維持される。
【0026】
第1電極1が、粒子を含む気流に対して透過性である中程度に導電性の電極である場合、第1電極1は、いかなる材料も有し得る。適切な材料は、有機化合物、特にポリマのような高分子量の有機化合物である。有機化合物は、可撓性、延性、及び強度のような優れた機械的特性を有する安価な材料である。更に、中程度の導電性の電極は、有機化合物から容易に製造され得る。この目的のため、人は本質的に中程度に導電性の有機化合物を使用するか、又はいかなる有機化合物も使用し、電気的特性を調整するために添加物を使用し得る。このような添加物は、ドープ剤と呼ばれ得るが、使用される添加物の相対的な量についていかなる制限も暗示しない。中程度の導電性の電極を製造するのに使用され得る有機化合物の一例は、合成樹脂である。本質的に中程度の導電率の合成樹脂は、従来技術で知られる。本質的に中程度の導電率の合成樹脂の一例は、本質的に導電性のポリマである。
【0027】
ドープ剤も従来技術で知られる。ドープ剤を有機化合物に加えるため、当業者は、含浸及びコーティング処理を改善するため、おそらく結合剤及び/又は界面活性剤を使用して、含浸又はコーティングのような標準的な方法を使用し得る。
【0028】
有機化合物を含む電極の電気的特性を調整するため、ドープ剤を使用する利点は、電極の機械的特性及び電気的特性が独立して最適化され得ることである。有機化合物を含む電極は、1より多くのタイプのドープ剤を有し得る。
【0029】
ドープ剤の一例は、導電性インクのような混合物の一部になり得るカーボンブラックのような本質的に導電性の化合物である。ドープ剤の他の例は、硫化亜鉛(ZnS)のような半導体化合物である。
【0030】
好ましいドープ剤は、親水性ドープ剤である。親水性ドープ剤の例は、酸化物(例えば二酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化チタン(TiO)、又は酸化インジウムスズ(ITO))、窒化物(例えば窒化ケイ素(Si))、水酸化物(例えば水酸化マグネシウム(Mg(OH)))、炭酸塩(例えば炭酸マグネシウム(MgCO))、しゅう酸塩(例えばしゅう酸カルシウム(CaC))、硫化物、硫酸塩(例えば硫酸カルシウム(CaSO))、リン酸塩(例えばリン酸カルシウム(Ca(PO))、又はホスホン酸塩である。親水性ドープ剤酸化チタン(TiO)、より詳細には結晶アナターゼ(anatase)酸化チタンも光触媒であるので、酸化チタンを含む電極は、約450nm以下の波長の紫外光で照射されると、光触媒活動という付加された機能を付与される。光触媒活動は、フィルタを通過する有毒ガス化合物の酸化に関し、これは、空気から粒子及びガス化合物の除去の組み合わせを可能にするので、静電粒子フィルタの空気清浄効率を向上させる。親水性ドープ剤の酸化チタンは、好ましくは、気流から被着される粒子で酸化チタンを急速に覆うことを回避するため、少なくともフィルタ媒体3の下流側に位置される電極上に存在する。
【0031】
他の好ましいドープ剤は、吸湿性のドープ剤である。無機の吸湿性ドープ剤の例は、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO)、炭酸カリウム(KCO)、炭酸水素カリウム(KHCO)、及びギ酸カリウム(KHCO)である。有機の吸湿性ドープ剤の例は、尿素(CO(NH)、クエン酸(COH(CHCOOH)COOH))、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(C(CHOH)NH)、及びポリビニルアルコール((CHCHOH))である。
【0032】
有機化合物及び親水性ドープ剤又は吸湿性ドープ剤を有する電極のシート抵抗は、周囲から水を束縛するための親水性ドープ剤又は吸湿性ドープ剤の能力に依存する。有機化合物及び親水性ドープ剤又は吸湿性ドープ剤の好ましい組み合わせは、ポリエステル又はポリアミドのような親水性合成樹脂を含む。
【0033】
アルカリドープ剤を含む電極は、有毒な酸性のガス化合物、例えば二酸化硫黄(SO)、亜硝酸(HNO)、硝酸(HNO)、及びカルボン酸を周囲から除去する付加的な機能を有し、これにより、空気から粒子及びガス化合物を除去する組み合わせを可能にするので、静電粒子フィルタの空気清浄効率を向上させる。酸性ドープ剤を有する電極は、有毒なアルカリ性のガス化合物、例えばアンモニア(NH)、及び他のアミンを周囲から除去する付加的な機能を有し、これにより、空気から粒子及びガス化合物を除去する組み合わせを可能にするので、静電粒子フィルタの空気清浄効率を向上させる。有機吸湿性ドープ剤の尿素及び/又はトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを有する電極は、周囲からホルムアルデヒド(CHO)を除去する付加的な機能を有し、これにより、静電粒子フィルタのフィルタ効率を向上させる。ドープ剤としてポリビニルアルコールを使用することは、含浸プロセスにおいてバインダとして振る舞うポリビニルアルコールの既知の特性の恩恵を受け、含浸の全量を増加させ、よりよく付着した含浸という結果となる。
【0034】
ドープ剤を使用することに加えて、静電粒子フィルタの性能を向上させるため、従来技術で知られる他の添加剤も使用し得る。このような添加剤の例は、活性炭である。第1電極1、第2電極2、及び/又はフィルタ媒体3は、活性炭を有し得る。活性炭の使用は、炭化水素及びオゾンのような有毒ガス化合物を周囲から除去する機能を付加し、これにより、空中の粒子及びガス化合物の除去の組み合わせを可能にするので、静電粒子フィルタの空気清浄効率を向上させる。
【0035】
有機化合物を含む電極をドープ剤で含浸させる方法は、ドープ剤を含む水溶液を使用して、電極を浸漬皮膜する。水溶液中に電極を浸した後、電極は、約2cm/秒乃至約20cm/秒の速度で水溶液から引き出される。電極を水溶液から引き出した後、電極は、周囲の空気又は強制対流における熱せられた空気中で乾燥される。水溶液の第1の例は、炭酸水素カリウム(0.01g/ml乃至0.3g/ml)及びギ酸カリウム(0.001g/ml乃至0.05g/ml)を有する。この水溶液は、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(0.01g/ml乃至0.1g/ml)及び/又は尿素(0.01g/ml乃至0.1g/ml)も有し得る。水溶液の第2の例は、クエン酸(0.01g/ml乃至0.4g/ml)及び/又はリン酸(0.01g/ml乃至0.25g/ml)を有する。この水溶液は、尿素(0.05g/ml乃至0.15g/ml)も有し得る。第1の例の水溶液及び第2の例の水溶液の両方は、被膜プロセスを改善するため、ポリビニルアルコール(0.005g/ml乃至0.05g/ml)及び/又は界面活性剤を更に有し得る。
【0036】
第1電極1、第2電極2、フィルタ媒体3、及び電源4は、電源4により供給される電圧の結果である第1電極1及び第2電極2の間のポテンシャルの差に応答して、電流がフィルタ媒体3を通って流れることを可能にするように構成される電気回路の一部である。存在する場合、電流は、第1電極1からフィルタ媒体3を介して第2電極2へ、又はその逆に流れる。汚染、相対湿度、及び電源4により供給される電圧の結果の第1電極1及び第2電極2の間のポテンシャルの差の程度に依存して、電流はmAの範囲にあり得る。しかしながら、安全上の考慮、及び電源4の能力に基づいて、電気回路において流れることを可能にされる電流は、設定された最大値、例えば0.1mAに制限される。電流が設定された最大値を超えない限り、本発明による静電粒子フィルタのフィルタ効率は、所望された程度に静電的に向上されるであろう。非常に高い相対湿度において、電流は設定された最大値に到達し得、これにより、電流を設定された最大値に制限するため、電源4により供給される電圧の低下をトリガする。これらの状況下で、フィルタ効率の静電的向上の程度は、低下されるであろう。
【0037】
第1電極1及び第2電極2は、気流内に存在する粒子がフィルタ媒体3を貫通し得る場合、各々が当業者に知られる様々な態様で電源4に接続され得る。例えば金属化層又は金属構造のような相互接続が使用され得る。金属構造は、第1電極1又は第2電極2の表面に沿う1又はそれより多くの点において、それぞれ第1電極1又は第2電極2と接触し得る。気流内に存在する粒子がフィルタ媒体3を貫通し、電流がフィルタ媒体3を通って流れることを可能にするように電気回路が構成される場合、第1電極1及び第2電極2は、各々が当業者に知られる様々な態様でフィルタ媒体3に接続され得る。後者の前提条件は、例えば第1電極1又は第2電極2が、配線又は型打ちした金属のストランドのディッピング又は吹きつけ、配線と同時の絶縁体の押し出し加工又は射出成形、配線の周りの射出成形された絶縁体の半分をつなぎ合わせにより製造される場合、第1電極1又は第2電極2が電気回路において完全に絶縁される可能性を排除する。後者の前提条件は、接着材の使用が、第1電極1又は第2電極2をフィルタ媒体3に接続することを可能にする。接着剤の例は、樹脂接着剤であり、これは揮発性溶媒に溶解され得、続いてフィルタ媒体3のある側に適用され、樹脂接着剤を有するフィルタ媒体の側において、第1電極1又は第2電極2を積層する。
【0038】
本発明による静電粒子フィルタの更なる利点は、これが、フィルタ効率の所望の静電的向上を実現するため、静電粒子フィルタの能力を都合よく監視することを可能にするということである。本発明による静電粒子フィルタにおいて、第1電極1、第2電極2、及びフィルタ媒体3は、フィルタ媒体3を通って電流が流れることを可能にするように構成される。電流の大きさは、フィルタ媒体3において被着された粒子の量にまさに依存し、特に、タバコの煙又は煤からの粒子のような被着された導電性粒子の量に依存する。電流の大きさは、相対湿度にもまさに依存し、電源4により供給される電圧の結果である第1電極1及び第2電極2の間のポテンシャルの差に依存する。静電粒子フィルタの安全な動作を保証し、消費電力を制限するため、電流は、設定された最大値を超えることを許可されない。フィルタ効率の所望される静電的向上を実現するため、静電粒子フィルタの能力は、電流の大きさを測定することにより監視され得る。電流が設定された最大値を超える場合、フィルタ効率の所望される静電的向上は、安全な動作条件の下で実現され得ず、電源4により供給される電圧は、設定される最大値における電流を維持するために低下されなければならず、その結果、フィルタ効率の静電的向上の低下となる。これは、フィルタ媒体3において被着されている非常に多くの粒子により、フィルタ終了の寿命が到達したが、又は相対湿度が非常に高いことを意味する。相対湿度と、相対湿度及び電源4により供給される電圧に関連する電流とを監視することにより、フィルタ終了の寿命が好都合に検出され得る。フィルタ終了の寿命の検出は、例えば警告信号のリレーとなり得る。
【0039】
第1電極1及び第2電極2が、フィルタ媒体3の対向する側にそれぞれ等角に設けられ、第1電極1、第2電極2、フィルタ媒体3、及び電源4は、電流がフィルタ媒体3を通って流れることを可能にするように構成される電気回路の一部である場合、第1電極1及び第2電極2の間の比較的小さいポテンシャルの差は、フィルタ媒体3において十分に強い電界を生成するのに十分である。例えばフィルタ媒体3が3mmの厚さを有する場合、第1電極1と第2電極2との間の3kVのポテンシャル差は、結果としてフィルタ媒体3において1kV/mmの電界となり、これは、空気の絶縁破壊が生じる電界の強さである3kV/mmよりもはるかに小さい。第1電極1と第2電極2との間のポテンシャル差は、空気の絶縁破壊が生じる強度より下のフィルタ媒体3における電界を維持する間、6kVまで増加し得る。結果として、電源4は、0.1kVと10kVとの間、より詳細には1kVと5kVとの間の電圧を供給するように構成される。これは、本発明による静電粒子フィルタが、比較的安価な電源4の使用を可能にし、いかなる高電圧の安全上のリスクも低下させることを意味する。
【0040】
図2の静電フィルタシステムは、粒子帯電部6及び粒子収集部7を有する。図2の矢印8は、静電フィルタシステムを流れる空気の方向を示し、粒子帯電部6が、粒子収集部7の上流側に位置されることを示すのに役立つ。粒子帯電部6は、フィルタ効率を向上させるため、気流に存在する粒子に電荷を付与するように構成される。帯電された粒子は、その後、粒子収集部7に引き寄せられる。粒子収集部は、図1に示されるように、第1電極1、第2電極2、フィルタ媒体3、及び電源4を有する。分極したフィルタ媒体3との静電相互作用により、帯電された粒子は、粒子収集部7に収集される。
【0041】
第1電極1,第2電極2,及びフィルタ媒体3は、ケーシング5に囲まれる。ケーシング5は、粒子を含む気流に対して透過性であり、第1電極1及び第2電極2が電源4に接続されることを可能にするように構成される。静電粒子フィルタの動作寿命の終わりにおいて、静電粒子フィルタを有するケーシング5は、静電フィルタシステムから除去され、廃棄され、新たな静電粒子フィルタを有する新たなケーシングにより置き換えられる。静電粒子フィルタが廃棄可能であるので、第1電極1,第2電極2,及びフィルタ媒体3は、好ましくは安価な材料から製造されるべきである。
【0042】
図3は、図2に示された実施例の変形例を示し、ここで粒子収集部7は、第3電極9及び第4電極10を有する。第3電極9及び第4電極10は、静電粒子フィルタを有するケーシング5に囲まれない。このような構成において、第3電極9及び第4電極10は、それぞれ電源4、第1電極1、及び第2電極2との間の相互接続部として役立つ。例えば静電粒子フィルタは、ひだのある形状を有し、第3電極9及び第4電極10は、ひだの各突出先端部において、第1電極1及び第2電極2を接触させる平面の金属グリッドである。
【実施例1】
【0043】
本発明による静電粒子フィルタは、以下のように製造される。多孔率約50%、厚さ160μm、及び200μm×200μmの細孔径を有する2つのポリエステルのガーゼが、ギ酸カリウム(KHCO、0.01g/ml)、炭酸水素カリウム(KHCO、0.04g/ml)、ポリビニルアルコール(0.01g/ml)及びアルコノックス(Alconox, Incにより製造された界面活性剤、0.01g/ml)を含む水溶液を使用して浸漬被膜し、空気中で乾燥させることにより、各ポリエステルガーゼは、相対湿度30%において、5×10Ω/□のシート抵抗を有する結果となる。結果として、浸漬被膜プロセスの後、ポリエステルガーゼの各々は、中程度の導電性の電極である。ポリエステルガーゼ電極は、フィルタ媒体の対向する側に積層される。フィルタ媒体は、20μmの平均ファイバ径をもつポリプロピレンファイバを有する。フィルタ媒体は、約3mmの厚さ、約625mmの領域、及び115g/mの表面質量密度を有する。
【0044】
上記の静電粒子フィルタの製造後、フィルタ媒体は、タバコの煙からの導電性粒子でひどく汚染される。2つのポリエステルガーゼ電極の間の3kV又は6kVのポテンシャル差を適用すると、1kV/mm又は2kV/mmの電界は、それぞれ汚染されたフィルタ媒体において確立される。相対湿度50%において、0.01mA又は0.02mAの電流が、それぞれ2つのポリエステルガーゼ電極の間の3kV又は6kVのポテンシャル差を適用すると、汚染されたフィルタ媒体を通って測定される。
【0045】
次に、速度0.6m/秒であり、帯電された塩化ナトリウム(NaCl)を有する気流は、汚染された静電粒子フィルタを通るように方向付けられる。静電粒子フィルタのフィルタ効率は、粒子の直径及びフィルタ媒体における電界強度の関数として測定される。
【0046】
図4及び図5は、それぞれ相対湿度0%及び50%において実行される測定の結果を含む。フィルタ効率(η)は、0kV/mm(□で表されるデータセットA)、1kV/mm(○で表されるデータセットB)、及び2kV/mm(△で表されるデータセットC)の電界の強度で測定される。図4及び図5において、フィルタ効率(η)は、nm単位の粒子直径(d)の関数としてプロットされる。
【0047】
ゼロ電界(データセットA)において得られるフィルタ効率と、非ゼロ電界(データセットB及びC)において得られるフィルタ効率とを比較することにより、相対湿度50%においてさえ、汚染された静電粒子フィルタのフィルタ効率が静電的に向上されることは、明らかである。
【0048】
相対湿度50%において、帯電された粒子でひどく汚染された静電粒子フィルタのフィルタ効率の静電的向上は、電流がフィルタ媒体を流れることを可能にするように静電粒子フィルタが構成されない場合、生じない。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1は、本発明による静電粒子フィルタの一部の分解図である。
【図2】図2は、粒子帯電部及び粒子収集部を有する静電フィルタシステムの断面図であり、粒子収集部は、本発明による静電粒子フィルタを含む。
【図3】図3は、粒子帯電部及び粒子収集部を有する静電フィルタシステムの断面図であり、粒子収集部は、本発明による静電粒子フィルタを含む。
【図4】図4は、本発明による静電粒子フィルタに対する粒子直径d(nm単位)の関数として、フィルタ効率ηの相対湿度0%において実行される測定の結果を含み、このフィルタ媒体は、タバコの煙からの導電性粒子でひどく汚染される。
【図5】図5は、本発明による静電粒子フィルタに対する粒子直径d(nm単位)の関数として、フィルタ効率ηの相対湿度50%において実行される測定の結果を含み、このフィルタ媒体は、タバコの煙からの導電性粒子でひどく汚染される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2の対向する側をもつフィルタ媒体と、第1電極と、第2電極とを有し、該第1電極及び該第2電極が、前記フィルタ媒体の前記第1及び第2の対向する側に等角に設けられる、空気から粒子を除去する静電粒子フィルタにおいて、前記第1電極、前記第2電極、及び前記フィルタ媒体は、電流が前記フィルタ媒体を流れることを可能にするように構成され、前記第1電極は、相対湿度30%において、約10Ω/□の下限値及び約1012Ω/□の上限値の範囲のシート抵抗をもつ中程度の導電性の電極であることを特徴とする、静電粒子フィルタ。
【請求項2】
前記第2電極が相対湿度30%において、約10Ω/□の下限値及び約1012Ω/□の上限値の範囲のシート抵抗をもつ中程度の導電性の電極である、請求項1に記載の静電粒子フィルタ。
【請求項3】
前記下限値が約10Ω/□、及び/又は前記上限値が約1011Ω/□である、請求項1又は2に記載の静電粒子フィルタ。
【請求項4】
前記下限値が約10Ω/□、及び/又は前記上限値が約1010Ω/□である、請求項1又は2に記載の静電粒子フィルタ。
【請求項5】
前記中程度の導電性の電極が、有機化合物を含む、請求項1乃至4の何れか一項に記載の静電粒子フィルタ。
【請求項6】
前記有機化合物が、親水性有機化合物である、請求項5に記載の静電粒子フィルタ。
【請求項7】
前記中程度の導電性の電極が、ドープ剤を含む、請求項1乃至6の何れか一項に記載の静電粒子フィルタ。
【請求項8】
前記ドープ剤が、親水性ドープ剤又は吸湿性ドープ剤である、請求項7に記載の静電粒子フィルタ。
【請求項9】
前記フィルタ媒体が、疎水性材料を含む、請求項5に記載の静電粒子フィルタ。
【請求項10】
粒子帯電部と、請求項1乃至9の何れか一項に記載の静電粒子フィルタとを含む静電フィルタシステム。
【請求項11】
前記ドープ剤が光触媒である、請求項7に記載の静電粒子フィルタ。
【請求項12】
粒子帯電部と、請求項11に記載の静電粒子フィルタと、光触媒を活性化させる紫外線放射を生成する光源とを有する、静電フィルタシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−504186(P2010−504186A)
【公表日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−520091(P2009−520091)
【出願日】平成19年7月9日(2007.7.9)
【国際出願番号】PCT/IB2007/052673
【国際公開番号】WO2008/010137
【国際公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】