説明

静電荷像現像用トナーおよびその製造方法、静電荷像現像用現像剤、並びに画像形成方法

【課題】低温定着性が得られながら、優れた保存安定性および優れた耐破砕性が得られるトナーおよびその製造方法、静電荷像現像用現像剤、並びに画像形成方法の提供。
【解決手段】トナーは少なくとも、ポリエステル樹脂に重合性ビニルモノマーをグラフト共重合させて得られるグラフト共重合体を含有する結着樹脂、ワックス、およびイミノ酢酸系化合物であるワックス安定剤を0.001〜0.05質量%含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式の画像形成に用いられる静電荷像現像用トナー(以下、単に「トナー」ともいう。)およびその製造方法、当該トナーを用いた静電荷像現像用現像剤、並びに当該現像剤を用いた画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成を行う印刷分野においては、近年、消費電力の低減化、プリントの高速化、画像支持体の多様化、高画質化などに対応するために、従来よりも低い温度で定着を行うことができる、いわゆる低温定着の実現が要求されている。
この要求に対応するための技術として、例えば、トナー粒子を構成する結着樹脂としてガラス転移点や軟化点の低い樹脂を選択すること(例えば、特許文献1および2参照。)や、ワックスとして低融点のものを選択することなどが提案されている。
【0003】
しかしながら、ガラス転移点や軟化点の低い樹脂を使用したトナーを用いると、ワックスがトナー粒子の表面に析出したり、未使用のトナー粒子同士が保管時などに凝集してしまうブロッキングと呼ばれる現象が発生しやすく、トナーの保存安定性が不十分であるという問題があった。また、現像器内における撹拌によりトナー粒子が破砕され易く、特に、高速機において顕著である、という問題もある。
【0004】
このような問題を解消するための技術として、例えば、結晶性ポリエステルと無定形高分子とを含み、表面が無定形高分子を主成分とするシェル層によって被覆されてなるコア−シェル構造のトナーを用いることによって、低温定着性および帯電特性を共に満足する技術が知られている(特許文献1参照)。
また例えば、炭素数の異なる2種のジオールを含むアルコール成分と酸成分とを重合して得られる結晶性ポリエステル樹脂、並びに非晶性ポリエステル樹脂を有してなるトナーを用いることによって、低温定着性および耐ブロッキング性を共に満足する技術が知られている(特許文献2参照)。
【0005】
しかしながら、これらの結晶性ポリエステル樹脂を用いたトナーは、結晶性の樹脂の利点である低温定着性は確保できるものの、ワックスが表面に偏在して当該ワックスの露出部分を起点として亀裂が生じるなど、脆いために、現像器内における撹拌に係る耐破砕性が十分に得られない、という問題がある。
従って、これまで、低温定着性が得られながら保存安定性および耐破砕性が共に満足に得られるトナーは得られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−191927号公報
【特許文献2】特開2008−224976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような事情を考慮してなされたものであって、その目的は、低温定着性が得られながら、優れた保存安定性および優れた耐破砕性が得られるトナーおよびその製造方法、当該トナーを用いた静電荷像現像用現像剤、並びに当該現像剤を用いた画像形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の静電荷像現像用トナーは、少なくとも、ポリエステル樹脂に重合性ビニルモノマーをグラフト共重合させて得られるグラフト共重合体を含有する結着樹脂、およびワックスを含有するトナー粒子からなる静電荷像現像用トナーであって、
前記トナー粒子には、下記一般式(1)で表されるワックス安定剤が含有されていることを特徴とする。
【0009】
【化1】

【0010】
〔上記式中、R1 は、水素原子、または、−OH、−COOM2 、−SO3 2 、−PO3 2 、−NH2 、−CONH2 、−NHC(=NH)NH2 および−SHから選択される置換基によって置換されていてもよい炭素数1〜10の炭化水素基を示し(ただし、M2 は、水素原子、アルカリ金属原子またはアンモニウム基を示す。)、R2 は、水素原子、または、−OH、−COOM3 、−SO3 3 および−PO3 3 から選択される置換基によって置換されていてもよい炭素数1〜8の炭化水素基を示し(ただし、M3 は、水素原子、アルカリ金属原子またはアンモニウム基を示す。)、R3 は、水素原子、または、−OH、−COOM4 、−SO3 4 および−PO3 4 から選択される置換基によって置換されていてもよい炭素数1〜8の炭化水素基を示し(ただし、M4 は、水素原子、アルカリ金属原子またはアンモニウム基を示す。)、R4 は、水素原子、−COOM5 、−SO3 5 または−PO3 5 を表す(ただし、M5 は、水素原子、アルカリ金属原子またはアンモニウム基を示す。)。また、R1 とR2 の間において環が形成されていてもよい。また、M1 は、水素原子、アルカリ金属原子またはアンモニウム基を示す。〕
【0011】
本発明の静電荷像現像用トナーにおいては、前記トナー粒子が、乳化重合凝集法によって得られたものであることが好ましい。
【0012】
また、本発明の静電荷像現像用トナーにおいては、前記グラフト共重合体が、前記重合性ビニルモノマーに由来の構造単位を5〜50質量%含有することが好ましい。
【0013】
また、本発明の静電荷像現像用トナーにおいては、前記トナー粒子における一般式(1)で表されるワックス安定剤の含有量が、0.001〜0.05質量%であることが好ましい。
【0014】
本発明の静電荷像現像用トナーの製造方法は、上記の静電荷像現像用トナーを製造する方法であって、
水系媒体中において、ポリエステル樹脂に重合性ビニルモノマーをグラフト共重合させて得られるグラフト共重合体およびワックスを含有する微粒子、または、ポリエステル樹脂に重合性ビニルモノマーをグラフト共重合させて得られるグラフト共重合体を含有する微粒子とワックスを含有する微粒子とを凝集させることにより凝集粒子を形成する工程、
前記凝集粒子が形成された水系媒体中に下記一般式(1)で表されるワックス安定剤を添加する添加工程、および、
前記ワックス安定剤が添加された水系媒体を加熱する工程を経ることを特徴とする。
【0015】
【化2】

【0016】
〔上記式中、R1 は、水素原子、または、−OH、−COOM2 、−SO3 2 、−PO3 2 、−NH2 、−CONH2 、−NHC(=NH)NH2 および−SHから選択される置換基によって置換されていてもよい炭素数1〜10の炭化水素基を示し(ただし、M2 は、水素原子、アルカリ金属原子またはアンモニウム基を示す。)、R2 は、水素原子、または、−OH、−COOM3 、−SO3 3 および−PO3 3 から選択される置換基によって置換されていてもよい炭素数1〜8の炭化水素基を示し(ただし、M3 は、水素原子、アルカリ金属原子またはアンモニウム基を示す。)、R3 は、水素原子、または、−OH、−COOM4 、−SO3 4 および−PO3 4 から選択される置換基によって置換されていてもよい炭素数1〜8の炭化水素基を示し(ただし、M4 は、水素原子、アルカリ金属原子またはアンモニウム基を示す。)、R4 は、水素原子、−COOM5 、−SO3 5 または−PO3 5 を表す(ただし、M5 は、水素原子、アルカリ金属原子またはアンモニウム基を示す。)。また、R1 とR2 の間において環が形成されていてもよい。また、M1 は、水素原子、アルカリ金属原子またはアンモニウム基を示す。〕
【0017】
本発明の静電荷像現像用トナーの製造方法は、前記一般式(1)で表されるワックス安定剤の添加量が、前記グラフト共重合体に対して0.01〜0.1モル%であることが好ましい。
【0018】
本発明の静電荷像現像用現像剤は、上記の静電荷像現像用トナーと、キャリアとを含有することを特徴とする。
【0019】
本発明の画像形成方法は、像担持体上に静電潜像を形成する静電潜像形成工程と、当該静電潜像を静電荷像現像用トナーにより現像する現像工程と、当該現像工程において形成されたトナー像を画像支持体上に転写する転写工程と、当該画像支持体上に転写されたトナー像を定着する定着工程とを少なくとも含む画像形成方法であって、
現像工程において、上記の静電荷像現像用トナーを使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明のトナーによれば、基本的に結着樹脂がポリエステル樹脂に重合性ビニルモノマーをグラフト共重合させて得られる特定のグラフト共重合体を含有するものであるために低温定着性が得られながら、しかも、特定のワックス安定剤が含有されていることによってワックスがトナー粒子の内部に取り込まれた状態が得られるので、トナー粒子の表面へのワックスの析出が抑制され、従って、優れた保存安定性および耐破砕性が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0022】
〔トナー〕
本発明のトナーは、ポリエステル樹脂に重合性ビニルモノマーをグラフト共重合させて得られるグラフト共重合体(以下、「特定のグラフト共重合体」ともいう。)を含有する結着樹脂、およびワックスを含有すると共に、特定のワックス安定剤を含有するトナー粒子からなることを特徴とするものである。
【0023】
〔特定のワックス安定剤〕
特定のワックス安定剤は、上記一般式(1)で表されるものである。
【0024】
ワックス安定剤を示す上記一般式(1)中、R1 は、水素原子、または、−OH、−COOM2 、−SO3 2 、−PO3 2 、−NH2 、−CONH2 、−NHC(=NH)NH2 および−SHから選択される置換基によって置換されていてもよい炭素数1〜10の炭化水素基を示す。ただし、M2 は、水素原子、アルカリ金属原子またはアンモニウム基を示す。
また、上記一般式(1)中、R2 は、水素原子、または、−OH、−COOM3 、−SO3 3 および−PO3 3 から選択される置換基によって置換されていてもよい炭素数1〜8の炭化水素基を示す。ただし、M3 は、水素原子、アルカリ金属原子またはアンモニウム基を示す。
また、上記一般式(1)においては、R1 とR2 の間において環が形成されていてもよい。
【0025】
また、上記一般式(1)中、R3 は、水素原子、または、−OH、−COOM4 、−SO3 4 および−PO3 4 から選択される置換基によって置換されていてもよい炭素数1〜8の炭化水素基を示す。ただし、M4 は、水素原子、アルカリ金属原子またはアンモニウム基を示す。
さらに、上記一般式(1)中、R4 は、水素原子、−COOM5 、−SO3 5 または−PO3 5 を表す。ただし、M5 は、水素原子、アルカリ金属原子またはアンモニウム基を示す。
【0026】
このようなワックス安定剤としては、例えば、アスパラギン酸一酢酸(ASMA)、アスパラギン酸二酢酸(ASDA)、アスパラギン酸一プロピオン酸(ASMP)、イミノジコハク酸(IDSA)、2−スルホメチルアスパラギン酸(SMAS)、2−スルホエチルアスパラギン酸(SEAS)、グルタミン酸二酢酸(GLDA)、2−スルホメチルグルタミン酸(SMGL)、2−スルホエチルグルタミン酸(SEGL)、イミノ二酢酸(IDA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、メチルイミノ二酢酸(MIDA)、α−アラニン二酢酸(α−ALDA)、β−アラニン二酢酸(β−ALDA)、セリン二酢酸(SEDA)、イソセリン二酢酸(ISDA)、フェニルアラニン二酢酸(PHDA)、アントラニル酸二酢酸(ANDA)、スルファニル酸二酢酸(SLDA)、タウリン二酢酸(TUDA)、スルホメチル二酢酸(SMDA)またはこれらのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩が挙げられる。
ワックス安定剤の具体例としては、例えば、3−ヒドロキシ−2,2’−イミノジコハク酸4ナトリウム(HIDS・4Na)、L−アスパラギン酸−N,N−2酢酸4ナトリウム(ASDA・4Na)、N−2−ヒドロキシエチルイミノ2酢酸2ナトリウム(HIDA・2Na)などが挙げられる。
【0027】
本発明のトナーを構成するトナー粒子におけるワックス安定剤の含有量は、0.001〜0.05質量%であることが好ましく、より好ましくは0.005〜0.02質量%である。
トナー粒子におけるワックス安定剤の含有量が上記の範囲であることにより、確実にワックスがトナー粒子の内部に取り込まれた状態が得られるために、トナー粒子の表面へのワックスの析出が抑制されて十分な保存安定性が得られると共に十分な耐破砕性が得られる。一方、トナー粒子におけるワックス安定剤の含有量が0.001質量%未満である場合は、ワックスのトナー粒子の内部への取り込みの状態が十分ではないために、トナー粒子の表面へのワックスの析出が生じて、十分な保存安定性が得られないおそれがある。また、トナー粒子におけるワックス安定剤の含有量が0.05質量%を超える場合は、得られるトナーがワックスの滲み出しが不均一なものとなり、従って当該トナーを用いた場合に得られる画像にワックスむらが発生しやすい。
【0028】
本発明のトナーを構成するトナー粒子におけるワックス安定剤の含有量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析によって測定されるものである。
具体的には、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析は、分析装置「LC−08」(日本分析工業(株)製)およびカラム「Inertsil ODS3(Φ4.6×250mm)」、並びに、検出器として示差屈折計および紫外線吸収検出器(254nm)を用い、溶出液:0.1%リン酸水、流量:1.0mL/minの測定条件で、測定サンプルとしてトナー1gをクロロホルム10mLに溶解させて不要分を除去したものを用いて行われる。
【0029】
〔ワックス〕
本発明のトナーを構成するトナー粒子中に含有されるワックスとしては、例えば、カルナウバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックスなどの天然ワックス;低分子量ポリプロピレン、低分子量ポリエチレン、サゾールワックス、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプシュワックス、パラフィンワックス、モンタンワックスなどの合成あるいは鉱物・石油系ワックス;脂肪酸エステル、モンタン酸エステルなどのエステル系ワックスなどが挙げられ、これらの中でも、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプシュワックス、パラフィンワックスを用いることが好ましく、さらにマイクロクリスタリンワックスを用いることがより好ましい。
これらは1種単独でまたは2種以上を併用することができる。
【0030】
ワックスとしては、その融点が、耐オフセット性の観点から、70℃以上100℃以下であるものが好ましく、80℃以上95℃以下であるものがより好ましい。ワックスの融点が70℃未満である場合は、ワックスの融点が低すぎるため、トナーの定着時におけるワックスの粘度が大きく低下し、定着部材へのワックスの付着が生じやすくなり、その結果、得られる画像にワックスむらが発生しやすい。また、ワックスの融点が100℃を超える場合は、低温定着時にワックスが十分に溶融せず、定着部材からの剥離不良を起こすという不具合を生じるおそれがある。
【0031】
トナー粒子中におけるワックスの含有量としては、結着樹脂100質量部に対して1〜20質量部とされることが好ましく、より好ましくは2〜15質量部とされる。ワックスの含有量が上記の範囲内であることにより、十分な耐オフセット性が得られながら、トナー粒子の表面へのワックスの析出が抑制されて十分な保存安定性が得られると共に十分な耐破砕性が得られる。一方、ワックスの含有量が過多である場合は、ワックスの中でトナー粒子の内部に取り込まれないものが存在する状態となって、トナー粒子の表面へのワックスの析出が生じるおそれがある。また、ワックスの含有量が過少である場合は、十分な耐オフセット性が得られないおそれがある。
【0032】
〔グラフト共重合体〕
本発明のトナーの結着樹脂を構成する特定のグラフト共重合体は、ポリエステル樹脂に重合性ビニルモノマーがグラフト共重合されたものである。
【0033】
この特定のグラフト共重合体は、当該特定のグラフト共重合体中に重合性ビニルモノマーに由来の構造単位(以下、「ビニルモノマー構造単位」ともいう。)が5〜50質量%含有されたものであることが好ましく、より好ましくは10〜40質量%である。ビニルモノマー構造単位の含有量が上記の範囲であることにより、十分な低温定着性が得られながらトナー粒子の表面へのワックスの析出が抑制されて十分な保存安定性が得られると共に十分な耐破砕性が得られる。一方、ビニルモノマー構造単位の含有量が5質量%未満である場合は、ワックスの中でトナー粒子の内部に取り込まれないものが存在する状態となって、トナー粒子の表面へのワックスの析出が生じ、その結果十分な保存安定性および耐破砕性が得られないおそれがある。また、ビニルモノマー構造単位の含有量が50質量%を超える場合は、ポリエステル樹脂による低温定着性が十分に発揮されないおそれがある。
【0034】
グラフト共重合体における重合性ビニルモノマー構造単位の含有量は、R.Silverstein and F.Webster,Spectrometric Identification of Organic Compounds sixth Edition,John Wiley & Sons,1996に開示されている方法によって、測定されるものである。
【0035】
特定のグラフト共重合体の重量平均分子量(Mw)は、4,000〜100,000とされることが好ましく、より好ましくは6,000〜50,000さらに好ましくは8,000〜20,000である。
【0036】
本発明において、特定のグラフト共重合体の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される標準ポリスチレン換算のものである。
具体的には、装置「HLC−8220」(東ソー社製)およびカラム「TSKguardcolumn+TSKgelSuperHZM−M3連」(東ソー社製)を用い、カラム温度を40℃に保持しながら、キャリア溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を流速0.2mL/minで流し、測定試料(特定のグラフト共重合体)を室温において超音波分散機を用いて5分間処理を行う溶解条件で濃度1mg/mLになるようにテトラヒドロフランに溶解させ、次いで、ポアサイズ0.2μmのメンブランフィルターで処理して試料溶液を得、この試料溶液10μLを上記のキャリア溶媒と共に装置内に注入し、屈折率検出器(RI検出器)を用いて検出し、測定試料の有する分子量分布を単分散のポリスチレン標準粒子を用いて測定した検量線を用いて算出される。検量線測定用のポリスチレンとしては10点用いる。
【0037】
また、特定のグラフト共重合体のガラス転移点は、十分な低温定着性を得る観点から、40〜70℃であることが好ましく、より好ましくは50〜60℃である。
さらに、特定のグラフト共重合体の軟化点は、十分な低温定着性を得る観点から、80〜110℃であることが好ましく、より好ましくは90〜105℃である。
【0038】
特定のグラフト共重合体のガラス転移点は、示差走査カロリメーター「DSC−7」(パーキンエルマー製)、および熱分析装置コントローラー「TAC7/DX」(パーキンエルマー製)を用いて測定されるものである。
具体的には、特定のグラフト共重合体4.50mgをアルミニウム製パン「KITNO.0219−0041」に封入し、これを「DSC−7」のサンプルホルダーにセットし、リファレンスの測定には空のアルミニウム製パンを使用し、測定温度0〜200℃で、昇温速度10℃/分、降温速度10℃/分の測定条件で、Heat−cool−Heatの温度制御を行い、その2nd.Heatにおけるデータを取得し、第1の吸熱ピークの立ち上がり前のベースラインの延長線と、第1の吸熱ピークの立ち上がり部分からピーク頂点までの間で最大傾斜を示す接線との交点をガラス転移点として示す。なお、1st.Heat昇温時は200℃にて5分間保持する。
【0039】
また、特定のグラフト共重合体の軟化点は、以下のように測定されるものである。
まず、20℃、50%RHの環境下において、特定のグラフト共重合体1.1gをシャーレに入れ平らにならし、12時間以上放置した後、成型器「SSP−10A」(島津製作所製)によって3820kg/cm2 の力で30秒間加圧し、直径1cmの円柱型の成型サンプルを作成し、次いで、この成型サンプルを、24℃、50%RHの環境下において、フローテスター「CFT−500D」(島津製作所製)により、荷重196N(20kgf)、開始温度60℃、予熱時間300秒間、昇温速度6℃/分の条件で、円柱型ダイの穴(1mm径×1mm)より、直径1cmのピストンを用いて予熱終了時から押し出し、昇温法の溶融温度測定方法でオフセット値5mmの設定で測定したオフセット法温度Toffsetが、グラフト共重合体の軟化点とされる。
【0040】
〔グラフト共重合体の製造方法〕
このような特定のグラフト共重合体の製造方法としては、特に限定されず、公知の種々の方法を採用することができるが、例えば、ポリエステル樹脂としてエチレン性不飽和結合が導入されたものを用い、当該エチレン性不飽和結合をグラフト開始点として重合性ビニルモノマーを重合して結合させる方法を採用することができる。
本発明において、「エチレン性不飽和結合」とは、ラジカル重合性を有する二重結合または三重結合をいう。
【0041】
具体的には、
(I)その骨格中にエチレン性不飽和結合が導入されたポリエステル樹脂(以下、「不飽和ポリエステル樹脂」)を合成するポリエステル樹脂合成工程
(II)不飽和ポリエステル樹脂と重合性ビニルモノマーとを混合する混合工程
(III )ラジカル重合反応を生じさせて重合性ビニルモノマーを不飽和ポリエステル樹脂にグラフト共重合するグラフト共重合工程
から構成される方法を採用することができる。
【0042】
(I)不飽和ポリエステル樹脂合成工程
不飽和ポリエステル樹脂は、少なくともいずれかにエチレン性不飽和結合が含有されてなる多価カルボン酸および多価アルコールを重縮合反応することにより得られる。
具体的には、重縮合に供される多価カルボン酸および多価アルコールの組み合わせとして、
(a)エチレン性不飽和結合を有する多価カルボン酸(以下、「不飽和多価カルボン酸」ともいう。)
(b)不飽和多価カルボン酸以外の多価カルボン酸(以下、「飽和多価カルボン酸」ともいう。)
(c)エチレン性不飽和結合を有する多価アルコール(以下、「不飽和多価アルコール」ともいう。)
(d)不飽和多価アルコール以外の多価アルコール(以下、「飽和多価アルコール」ともいう。)
のうち、少なくとも不飽和多価カルボン酸(a)または飽和多価カルボン酸(b)、並びに少なくとも不飽和多価アルコール(c)または飽和多価アルコール(d)を、不飽和多価カルボン酸(a)および不飽和多価アルコール(c)のいずれかは含まれる状態で用いることにより、合成することができる。
【0043】
飽和多価カルボン酸としては、例えば、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、β−メチルアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、ジグリコール酸、シクロヘキサン−3,5−ジエン−1,2−ジカルボン酸、リンゴ酸、クエン酸、ヘキサヒドロテレフタール酸、マロン酸、ピメリン酸、グルタル酸、スペリン酸、シトラコ酸、グルタコ酸、酒石酸、粘液酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラクロロフタル酸、クロロフタル酸、ニトロフタル酸、p−カルボキシフェニル酢酸、p−フェニレン二酢酸、m−フェニレンジグリコール酸、p−フェニレンジグリコール酸、o−フェニレンジグリコール酸、ジフェニル酢酸、ジフェニル−p,p’−ジカルボン酸、ナフタレン−1,4−ジカルボン酸、ナフタレン−1,5−ジカルボン酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ドデシルコハク酸、オクチルコハク酸などの2価のカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレントリカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸、ピレントリカルボン酸、ピレンテトラカルボン酸などの多価カルボン酸などを用いることができる。これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
不飽和多価カルボン酸としては、例えばマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸、イソドデセニルコハク酸、n−ドデセニルコハク酸、n−オクテニルコハク酸などの不飽和脂肪族ジカルボン酸;およびこれらの酸無水物または酸塩化物などを用いることができ、特に、優れたラジカル重合性を示すことから、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸を用いることが好ましい。
これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
飽和多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタングリコール、1,6−ヘキサングリコール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、オクタンジオール、デカンジオール、ドデカンジオール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物などのジオール;グリセリン、ペンタエリスリトール、ヘキサメチロールメラミン、ヘキサエチロールメラミン、テトラメチロールベンゾグアナミン、テトラエチロールベンゾグアナミンなどの多価オールを用いることができる。
【0046】
不飽和多価アルコールとしては、例えば1,4−ブテンジオール、2−ブチン−1,4ジオール、3−ブチン−1,4ジオール、9−オクタデセン−7,12ジオールなどのアルケンジオールなどを用いることができる。これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
不飽和ポリエステル樹脂としては、結晶性のものを用いても非晶性のものを用いても、またはそれらの混晶構造を有するものを用いても、あるいはそれらの混合物を用いてもよいが、非晶性のものを用いることが好ましい。
【0048】
上記の多価カルボン酸と多価アルコールの組み合わせを選択することによって、結晶性の不飽和ポリエステル樹脂または非晶性の不飽和ポリエステル樹脂が任意に得られる。
例えば、脂肪族ジカルボン酸を例えば80構成モル%以上と、脂肪族ジオールを例えば80構成モル%以上とを用いることにより、結晶性のものを得ることができる。
【0049】
本発明において、結晶性の不飽和ポリエステル樹脂とは、示差走査熱量測定法(DSC)において、明確な吸熱ピークを有する不飽和ポリエステル樹脂をいう。
また、本発明において、非晶性の不飽和ポリエステル樹脂とは、上記の結晶性の不飽和ポリエステル樹脂以外の不飽和ポリエステル樹脂をいい、通常は示差走査熱量測定法(DSC)において明確な吸熱ピークを有さず、比較的高いガラス転移点温度(Tg)を有するものである。
【0050】
結晶性の不飽和ポリエステル樹脂は、その融点が50〜120℃の範囲であることが好ましく、55〜90℃の範囲であることがより好ましい。
融点が50℃以上である結晶性ポリエステル樹脂を用いることにより、高温度領域における凝集力が適切な範囲であるために得られるトナーが十分な耐ホットオフセット性を有するものとなる。また、融点が120℃以下であるポリエステル樹脂を用いることにより、低温においても十分な溶融状態を得ることができるため、得られるトナーが十分な低温定着性を有するものとなる。
【0051】
ここに、結晶性の不飽和ポリエステル樹脂の融点は、吸熱ピークのピークトップの温度を示し、示差走査カロリメーター「DSC−7」(パーキンエルマー製)および熱分析装置コントローラー「TAC7/DX」(パーキンエルマー製)を用いて測定されるものである。
具体的には、結晶性の不飽和ポリエステル樹脂0.5mgをアルミニウム製パン(KITNO.0219−0041)に封入し、これを「DSC−7」のサンプルホルダーにセットし、測定温度0〜200℃で、昇温速度10℃/分、降温速度10℃/分の測定条件で、Heat−cool−Heatの温度制御を行い、その2nd.Heatにおけるデータをもとに解析を行った。ただし、リファレンスの測定には空のアルミニウム製パンを使用した。
【0052】
非晶性の不飽和ポリエステル樹脂は、そのガラス転移点が30〜80℃の範囲であることが好ましく、50〜65℃の範囲であることがより好ましい。
ガラス転移点が30℃以上である非晶性ポリエステル樹脂を用いることにより、高温度領域における凝集力が適切な範囲であるために得られるトナーが十分な耐ホットオフセット性を有するものとなる。また、ガラス転移点が80℃以下である非晶性ポリエステル樹脂を用いることにより、低温においても十分な溶融状態を得ることができるため、得られるトナーが十分な低温定着性を有するものとなる。
【0053】
結晶性の不飽和ポリエステル樹脂のガラス転移点は、測定試料として結晶性の不飽和ポリエステル樹脂を用いたことの他は特定のグラフト共重合体のガラス転移点の測定方法と同様の方法によって測定される。
【0054】
グラフト共重合に供される不飽和ポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、1,500〜60,000であることが好ましく、より好ましくは3,000〜40,000である。
重量平均分子量(Mw)が1,500以上であることにより、バインダーとして好適な凝集力が発揮されるために得られるトナーが十分な耐ホットオフセット性を有するものとなる。また、重量平均分子量(Mw)が60,000以下であることにより、十分な耐ホットオフセット性および十分な低温定着性を得ることができる。
【0055】
不飽和ポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、測定試料として不飽和ポリエステル樹脂を用いたことの他は特定のグラフト共重合体の分子量の測定方法と同様の方法によって測定される。
【0056】
(II)混合工程
この混合工程においては、重合性ビニルモノマー中に不飽和ポリエステル樹脂を混合させる。
重合性ビニルモノマーと不飽和ポリエステル樹脂との混合割合は、得られる特定のグラフト共重合体におけるビニルモノマー構造単位が5〜50質量%含有されたものとなる範囲であればよく、さらに、グラフト共重合反応後に当該反応に用いられずに残留する残留モノマーの量が好ましくは1,000ppm以下、より好ましくは500ppm以下、さらに好ましくは200ppm以下に抑えられる範囲であることが実用上好ましい。
【0057】
〔重合性ビニルモノマー〕
重合性ビニルモノマーは、ラジカル重合性を有するエチレン性不飽和結合を含むモノマーであれば特に限定されずに用いることができる。
【0058】
ラジカル重合性を有するエチレン性不飽和結合を有する基としては、具体的には、ビニル基、プロペニル基、スチリル基、(メタ)アクリルオキシ基、(メタ)アクリルアミド基、マレイン酸エステル基などのエチレン性不飽和基;ブタジエニル基などの共役エチレン(ポリエン)性不飽和基を挙げることができる。
【0059】
重合性ビニルモノマーとしては、芳香族系ビニル単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、ビニルエステル系単量体、ビニルエーテル系単量体、モノオレフィン系単量体、ジオレフィン系単量体、ハロゲン化オレフィン系単量体などを挙げることができる。
芳香族系ビニル単量体としては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロロスチレン、p−エチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、3,4−ジクロロスチレンなどのスチレン系単量体およびその誘導体が挙げられる。
(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、β−ヒドロキシアクリル酸エチル、γ−アミノアクリル酸プロピル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチルなどが挙げられる。
ビニルエステル系単量体としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ベンゾエ酸ビニルなどが挙げられる。
ビニルエーテル系単量体としては、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルイソブチルエーテル、ビニルフェニルエーテルなどが挙げられる。
モノオレフィン系単量体としては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテンなどが挙げられる。
ジオレフィン系単量体としては、ブタジエン、イソプレン、クロロプレンなどが挙げられる。
ハロゲン化オレフィン系単量体としては、塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニルなどが挙げられる。
これらの重合性ビニルモノマーは、1種単独でまたは2種以上を併用してもよい。
これらの重合性ビニルモノマーの中でも、帯電特性、画質特性などを得る観点から、スチレンまたはその誘導体を用いることが好ましい。
【0060】
この混合に際しては、良好な混合状態が得られて後述のグラフト共重合の状態を容易に制御できる観点から、加温することが好ましく、加熱温度は80〜120℃とされることが好ましく、より好ましくは85〜115℃、特に好ましくは90〜110℃である。
【0061】
(III )グラフト共重合工程
混合工程において得られたポリエステル樹脂溶液に、例えばラジカル重合開始剤を添加してラジカル重合反応を生じさせることにより、重合性ビニルモノマーを不飽和ポリエステル樹脂にグラフト共重合させることができる。
【0062】
ラジカル重合開始剤としては、油溶性のものであれば適宜のものを使用することができる。
油溶性のラジカル重合開始剤としては、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ系またはジアゾ系重合開始剤、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、メチルエチルケトンペルオキサイド、ジイソプロピルペルオキシカーボネート、クメンヒドロペルオキサイド、t−ブチルヒドロペルオキサイド、ジ−t−ブチルペルオキサイド、ジクミルペルオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルペルオキサイド、ラウロイルペルオキサイド、2,2−ビス−(4,4−t−ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、トリス−(t−ブチルペルオキシ)トリアジンなどの過酸化物系重合開始剤や過酸化物を側鎖に有する高分子開始剤などを挙げることができる。
【0063】
重合温度は特に限定されず、重合性ビニルモノマー同士の重合および不飽和ポリエステル樹脂へのグラフト共重合が進行する範囲で適宜に選択することができ、例えば好ましくは85〜125℃、より好ましくは90〜120℃、さらに好ましくは95〜115℃とすることができる。
【0064】
〔その他のポリエステル樹脂〕
本発明のトナーを構成する結着樹脂には、上記の特定のグラフト共重合体に加えて、ビニルモノマー構造単位を有さないポリエステル樹脂(以下、「非グラフトポリエステル樹脂」ともいう。)が含有されていてもよい。
非グラフトポリエステル樹脂としては、結晶性のものを用いても非晶性のものを用いても、またはそれらの混晶構造を有するものを用いても、あるいはそれらの混合物を用いてもよいが、非晶性のものを用いることが好ましい。
非グラフトポリエステル樹脂の含有量は、結着樹脂中10質量%以下とされることが好ましい。
非グラフトポリエステル樹脂の含有量が過多である場合は、相対的に特定のグラフト共重合体の含有量が低減されることとなるため、ワックスの中でトナー粒子の内部に取り込まれないものが存在する状態となって、トナー粒子の表面へのワックスの析出が生じるおそれがある。
非グラフトポリエステル樹脂は、上述の不飽和ポリエステル樹脂の合成方法において、多価カルボン酸および多価アルコールとして、いずれもエチレン性不飽和結合が含有されていないものを用いることの他は同様にして、合成することができる。
【0065】
〔トナーの製造方法〕
本発明のトナーは、水系媒体中において、特定のグラフト共重合体を含有する結着樹脂およびワックスを含有するワックス含有結着樹脂微粒子を調製するワックス含有結着樹脂微粒子調製工程、このワックス含有結着樹脂微粒子を凝集させることにより凝集粒子を形成する凝集工程、この凝集粒子が形成された水系媒体中に特定のワックス安定剤を添加するワックス安定剤添加工程、および、ワックス安定剤が添加された水系媒体を加熱する融着工程を経る、乳化重合凝集法によって製造することができる。
または、ワックス含有結着樹脂微粒子の代わりに、特定のグラフト共重合体を含有する結着樹脂からなる結着樹脂微粒子と、ワックスからなるワックス微粒子を別個にそれぞれ作製し、これらを凝集させることにより凝集粒子を形成してもよい。
【0066】
乳化重合凝集法は、乳化重合法によって製造されたワックス含有結着樹脂微粒子の分散液を、他の着色剤微粒子などのトナー粒子構成成分の分散液と混合し、pH調整による微粒子表面の反発力と電解質体よりなる凝集剤の添加による凝集力とのバランスを取りながら緩慢に凝集させ、平均粒径および粒度分布を制御しながら会合を行うと同時に、加熱撹拌することで微粒子間の融着を行って形状制御を行うことにより、トナー粒子を製造する方法である。
【0067】
本発明のトナーの製造方法の一例を具体的に示すと、
(1)特定のグラフト共重合体を含有する結着樹脂およびワックスを含有するワックス含有結着樹脂微粒子を得るためのワックス含有結着樹脂微粒子調製工程。
(2)ワックス含有結着樹脂微粒子と必要に応じて着色剤微粒子などのその他のトナー構成成分の微粒子とを水系媒体中で塩析、凝集させて凝集粒子を形成する塩析、凝集工程。
(3)凝集粒子が形成された水系媒体中に特定のワックス安定剤を添加して凝集を停止させるワックス安定剤添加工程。
(4)水系媒体を加熱することにより、特定のワックス安定剤が添加された凝集粒子を加熱して融着させてトナー粒子を形成する融着工程。
(5)トナー粒子の分散系から(水系媒体)トナー粒子を濾別し、当該トナー粒子から界面活性剤などを除去する濾過、洗浄工程。
(6)洗浄処理されたトナー粒子を乾燥する乾燥工程。
から構成され、必要に応じて、
(7)乾燥処理されたトナー粒子に外添剤を添加する外添剤添加工程。
を加えることができる。
【0068】
ワックス含有結着樹脂微粒子調製工程においてワックス含有結着樹脂微粒子を形成する方法は、具体的には、特定のグラフト共重合体およびワックスを適宜の溶媒に溶解させた樹脂溶液を調製し、これを分散処理によって水系媒体中に分散させて乳化粒子(油滴)を形成させた後、油滴を構成する溶媒を除去することにより、ワックス含有結着樹脂微粒子の分散液を調製する方法が挙げられる。
【0069】
ここで、「水系媒体」とは、水50〜100質量%と、水溶性の有機溶媒0〜50質量%とからなる媒体をいう。水溶性の有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランを例示することができ、得られる樹脂を溶解しないアルコール系有機溶媒が好ましい。
【0070】
特定のグラフト共重合体およびワックスを適宜の溶媒に溶解させる溶媒としては、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、トルエン、アセトン、メチルエチルケトンなどからを、特定のグラフト共重合体の組成に対応するものを適宜に用いることができる。
【0071】
樹脂溶液を水系媒体中に分散させるため分散処理としては、分散機により剪断力を与える機械的撹拌処理、超音波分散処理などが挙げられる。分散機としては、例えば、ホモジナイザー、ホモミキサー、メディア分散機などが挙げられる。
【0072】
分散処理においては、水系媒体中に適宜の分散剤などを含有させることが好ましい。
分散剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸ナトリウムのなどの水溶性高分子;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、オクタデシル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ラウリル酸ナトリウム、ステアリン酸カリウムなどのアニオン性界面活性剤、ラウリルアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライドなどのカチオン性界面活性剤、ラウリルジメチルアミンオキサイドなどの両性イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミンなどのノニオン性界面活性剤などの界面活性剤;リン酸三カルシウム、水酸化アルミニウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムなどの無機塩;などが挙げられる。
これらの分散剤は、所望に応じて、1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0073】
ワックス含有結着樹脂微粒子の体積基準のメジアン径(D50)は、80〜500nmであることが好ましく、より好ましくは150〜300nmである。
体積基準のメジアン径が上記の範囲とされることにより、粒度分布がシャープなトナーを製造することができる。
ワックス含有結着樹脂微粒子の体積基準のメジアン径は、分散処理の時間を調整することによって制御することができる。
このワックス含有結着樹脂微粒子の体積基準のメジアン径は、「UPA−150」(マイクロトラック社製)を用いて測定されるものである。
【0074】
〔凝集剤〕
塩析、凝集工程においては、凝集剤を使用することができ、凝集剤としては、ワックス含有結着樹脂微粒子調製工程において分散剤として用いた界面活性剤と逆極性の界面活性剤や、無機金属塩の他、2価以上の金属錯体を好適に用いることができる。特に、金属錯体を用いた場合には界面活性剤の使用量を低減でき、帯電特性が向上するために、好ましい。
【0075】
無機金属塩としては、具体的には、例えば塩化カルシウム、硝酸カルシウム、塩化バリウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウムなどの金属塩、および、ポリ塩化アルミニウム、ポリ水酸化アルミニウム、多硫化カルシウムなどの無機金属塩重合体などが挙げられる。これらの中でも、特に、アルミニウム塩およびその重合体が好適である。無機金属塩の価数が1価より2価、2価より3価、3価より4価の方が、また、同じ価数であっても重合タイプの無機金属塩重合体の方が、よりシャープな粒度分布のトナーを得ることができるため、好ましい。
【0076】
塩析、凝集工程において添加される着色剤微粒子は、水系媒体中に着色剤を分散させることにより得られる。
分散の方法としては、分散機を用いるなど、公知の種々の方法を採用することができる。
塩析、凝集工程において添加される着色剤微粒子の平均粒径は、体積基準のメジアン径で例えば10〜200nmの範囲にあることが好ましい。なお、体積基準のメジアン径は、動的光散乱粒度分布測定装置「ELS−800」(大塚電子工業杜製)を用いて測定されるものである。
【0077】
〔着色剤〕
着色剤としては、カーボンブラック、黒色酸化鉄、染料、顔料などの公知の種々の着色剤を用いることができる。
カーボンブラックとしては、例えばチャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ランプブラックなどが挙げられ、黒色酸化鉄としては、例えばマグネタイト、ヘマタイト、三酸化チタン鉄などが挙げられる。
染料としては、例えばC.I.ソルベントレッド1、同49、同52、同58、同63、同111、同122、C.I.ソルベントイエロー19、同44、同77、同79、同81、同82、同93、同98、同103、同104、同112、同162、C.I.ソルベントブルー25、同36、同60、同70、同93、同95などが挙げられる。
顔料としては、例えばC.I.ピグメントレッド5、同48:1、同48:3、同53:1、同57:1、同81:4、同122、同139、同144、同149、同150、同166、同177、同178、同222、同238、C.I.ピグメントオレンジ31、同43、C.I.ピグメントイエロー14、同17、同74、同93、同94、同138、同155、同156、同158、同180、同185、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントブルー15:3、同60などが挙げられる。
これらの着色剤は、1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0078】
着色剤の含有割合は、トナー中に1〜10質量%とされることが好ましく、より好ましくは2〜8質量%である。着色剤の含有量がトナー中に1質量%未満である場合は、得られるトナーに所望の着色力が得られないおそれがあり、一方、着色剤の含有量がトナー中の10質量%を超える場合は、着色剤の遊離やキャリアなどへの付着が発生し、帯電性に影響を与える場合がある。
【0079】
着色剤をトナー粒子中に導入する方法としては、上記のようなワックス含有結着樹脂微粒子とは別個に着色剤のみよりなる着色剤微粒子を作製し、これらの分散液を混合してこれらを凝集させる方法に限定されず、例えば、ワックスおよび結着樹脂と分子レベルで着色剤が混在された微粒子の分散液を調製し、この微粒子を凝集させる方法を選択することもできる。
【0080】
〔荷電制御剤〕
本発明のトナーを構成するトナー粒子中には、必要に応じて荷電制御剤が含有されていてもよく、このような荷電制御剤としては、公知の種々の化合物を用いることができる。
荷電制御剤をトナー粒子中に導入する方法としては、着色剤をトナー粒子中に導入する方法と同様の方法が挙げられる。
【0081】
ワックス安定剤添加工程において添加されるワックス安定剤は、例えば水系媒体に溶解された水溶液の状態で添加されることが好ましい。
ワックス安定剤添加工程において、凝集粒子が形成された水系媒体中への特定のワックス安定剤の添加量は、水系媒体中における凝集が停止されるに足る量であればよく、具体的には、結着樹脂を構成する特定のグラフト共重合体に対して0.01〜0.1モル%とされる。
特定のワックス安定剤の添加量が上記の範囲であることにより、ワックスがトナー粒子の内部に取り込まれた状態が得られるので、トナー粒子の表面へのワックスの析出が抑制され、従って、十分な保存安定性が得られると共に十分な耐破砕性が得られる。一方、特定のワックス安定剤の添加量が過少である場合は、ワックスの中でトナー粒子の内部に取り込まれないものが存在する状態となって、トナー粒子の表面へのワックスの析出が生じるおそれがある。また、特定のワックス安定剤の添加量が過多である場合は、得られるトナーがワックスの滲み出しが不均一なものとなり、従って当該トナーを用いた場合に得られる画像にワックスむらが発生しやすい。
このような量の特定のワックス安定剤を添加する結果、得られるトナー粒子における、ワックスおよび特定のグラフト共重合体と相互作用しない状態で残留する特定のワックス安定剤の量が、0.001〜0.05質量%の範囲となる。
【0082】
融着工程において、加熱温度は例えば60〜95℃とされ、融着時間は例えば0.5〜5時間とされる。
【0083】
〔トナー粒径〕
以上のようなトナーの平均粒径は、例えば体積基準のメジアン径で3〜8μmであることが好ましく、より好ましくは5〜8μmである。この平均粒径は、製造時において使用する凝集剤の濃度や有機溶媒の添加量、融着時間などによって制御することができる。
体積基準のメジアン径が上記の範囲にあることにより、1200dpiレベルの非常に微小なドット画像を忠実に再現することなどができる。
【0084】
トナー粒子の体積基準のメジアン径は「マルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)に、データ処理用ソフト「Software V3.51」を搭載したコンピューターシステムを接続した測定装置を用いて測定・算出されるものである。具体的には、トナー0.02gを、界面活性剤溶液20mL(トナー粒子の分散を目的として、例えば界面活性剤成分を含む中性洗剤を純水で10倍希釈した界面活性剤溶液)に添加して馴染ませた後、超音波分散を1分間行い、トナー分散液を調製し、このトナー分散液を、サンプルスタンド内の「ISOTONII」(ベックマン・コールター社製)の入ったビーカーに、測定装置の表示濃度が8%になるまでピペットにて注入する。ここで、この濃度範囲にすることにより、再現性のある測定値を得ることができる。そして、測定装置において、測定粒子カウント数を25000個、アパーチャ径を50μmにし、測定範囲である1〜30μmの範囲を256分割しての頻度値を算出し、体積積算分率の大きい方から50%の粒子径が体積基準のメジアン径とされる。
【0085】
〔トナー粒子の平均円形度〕
本発明のトナーは、このトナーを構成する個々のトナー粒子について、転写効率の向上の観点から、下記式(T)で示される平均円形度が0.930〜1.000であることが好ましく、より好ましくは0.950〜0.995である。
式(T):平均円形度=円相当径から求めた円の周囲長/粒子投影像の周囲長
【0086】
〔外添剤〕
上記のトナー粒子は、そのままトナーとして用いることができるが、流動性、帯電性、クリーニング性などを改良するために、当該トナー粒子に、いわゆる流動化剤、クリーニング助剤などの外添剤を添加した状態で使用してもよい。
流動化剤としては、例えば、数平均1次粒子径が10〜1000nm程度の、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化銅、酸化鉛、酸化アンチモン、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸亜鉛、フェライト、ベンガラ、フッ化マグネシウム、炭化ケイ素、炭化ホウ素、窒化ケイ素、窒化ジルコニウム、マグネタイト、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム微粒子、ステアリン酸亜鉛などよりなる無機微粒子などが挙げられる。
これら無機微粒子はシランカップリング剤やチタンカップリング剤、高級脂肪酸、シリコーンオイルなどによって、トナー粒子の表面への分散性向上、環境安定性向上のために、表面処理が行われていることが好ましい。
クリーニング助剤としては、例えば、数平均1次粒子径が10〜2000nm程度の、ポリスチレン微粒子、ポリメチルメタクリレート微粒子、スチレン−メチルメタクリレート共重合体微粒子などの有機微粒子が挙げられる。
外添剤としては種々のものを組み合わせて使用してもよい。
これらの外添剤の添加量は、その合計の添加量がトナー粒子100質量部に対して好ましくは0.05〜5質量部、より好ましくは0.1〜3質量部とされる。
外添剤の混合装置としては、ヘンシェルミキサー、コーヒーミルなどの機械式の混合装置を使用することができる。
【0087】
このようなトナーによれば、基本的に結着樹脂がポリエステル樹脂に重合性ビニルモノマーをグラフト共重合させて得られる特定のグラフト共重合体を含有するものであるために低温定着性が得られながら、しかも、特定のワックス安定剤が含有されていることによってワックスがトナー粒子の内部に取り込まれた状態が得られるので、トナー粒子の表面へのワックスの析出が抑制され、従って、優れた保存安定性および耐破砕性が得られる。
【0088】
〔現像剤〕
本発明のトナーは、磁性または非磁性の一成分現像剤として使用することもできるが、キャリアと混合して二成分現像剤として使用してもよい。本発明のトナーを二成分現像剤として使用する場合において、キャリアとしては、鉄、フェライト、マグネタイトなどの金属、それらの金属とアルミニウム、鉛などの金属との合金などの従来から公知の材料からなる磁性粒子を用いることができ、特にフェライト粒子が好ましい。また、キャリアとしては、磁性粒子の表面を樹脂などの被覆剤で被覆したコートキャリアや、バインダー樹脂中に磁性体微粉末を分散してなる分散型キャリアなど用いてもよい。
キャリアの体積基準のメジアン径としては20〜100μmであることが好ましく、さらに好ましくは25〜80μmとされる。キャリアの体積基準のメジアン径は、代表的には湿式分散機を備えたレーザ回折式粒度分布測定装置「ヘロス(HELOS)」(シンパティック(SYMPATEC)社製)により測定することができる。
【0089】
好ましいキャリアとしては、磁性粒子の表面が樹脂により被覆されている樹脂被覆キャリア、樹脂中に磁性粒子を分散させたいわゆる樹脂分散型キャリアを挙げることができる。樹脂被覆キャリアを構成する樹脂としては、特に限定はないが、例えばオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、エステル系樹脂、フッ素含有重合体系樹脂などが挙げられる。また、樹脂分散型キャリアを構成する樹脂としては、特に限定されず公知のものを使用することができ、例えばスチレン−アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素系樹脂、フェノール樹脂などを使用することができる。
【0090】
〔画像形成方法〕
本発明の画像形成方法は、像担持体上に静電潜像を形成する静電潜像形成工程と、当該静電潜像を静電荷像現像用トナーにより現像する現像工程と、当該現像工程において形成されたトナー像を画像支持体上に転写する転写工程と、当該画像支持体上に転写されたトナー像を定着する定着工程とを少なくとも含む画像形成方法であって、現像工程において、本発明の静電荷像現像用トナーを使用することを特徴とする方法である。
上記の各工程を行うための装置としては、従来公知の電子写真方式の画像形成方法に用いられる装置を用いることができる。
【0091】
以上、本発明の実施の形態について具体的に説明したが、本発明の実施の形態は上記の例に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
【実施例】
【0092】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。非晶性ポリエステル樹脂のガラス転移点、グラフト共重合体のガラス転移点、樹脂微粒子の体積基準のメジアン径、着色剤微粒子の体積基準のメジアン径、トナーの平均粒径、トナーの平均円形度、トナーのワックス安定剤の含有量の測定は、それぞれ上述の通りに行った。
【0093】
<実施例1〜3、比較例1〜3>
〔特定のグラフト共重合体の合成例1〕
1)非晶性ポリエステル樹脂の合成工程
撹拌装置、窒素導入管、温度制御装置、精留塔を備えたフラスコに、下記の多価カルボン酸モノマーおよび多価アルコールモノマーを混合し、反応液を調製した。この反応液を1時間かけて190℃まで昇温し、反応系内が均一に撹拌されていることを確認した後、触媒としてTi(OBu)4 を、多価カルボン酸モノマーの全量に対し、0.003質量%の量を投入した。
(多価カルボン酸モノマー)
テレフタル酸:13.50質量部
フマル酸:12.90質量部
イソフタル酸:0.55質量部
トリメリット酸:2.20質量部
(多価アルコールモノマー)
ポリオキシプロピレン(2.2)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン:75質量部
ポリオキシエチレン(2.2)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン:25質量部
生成される水を留去しながら、同温度から6時間を要して240℃まで昇温し、240℃でさらに6時間、脱水縮合反応を継続して重合を行うことにより、非晶性ポリエステル樹脂〔1〕を得た。
得られた非晶性ポリエステル樹脂〔1〕のガラス転移点は55℃であった。
【0094】
2)グラフト共重合化
非晶性ポリエステル樹脂〔1〕100質量部に、スチレン20質量部、n−ブチルアクリレート5質量部およびドデカンチオール3質量部からなるビニルモノマー混合液を添加し、100℃にてよく撹拌混合した。その後、t−ブチルパーオキシベンゾエート0.2質量部を重合開始剤として添加し、ビニルモノマーの非晶性ポリエステル樹脂〔1〕へのグラフト共重合を105℃で3時間にわたって行うことにより、グラフト共重合体〔A〕を得た。
得られたグラフト共重合体〔A〕のガラス転移点は55℃であった。
【0095】
〔結着樹脂微粒子の分散液の調製例1〕
グラフト共重合体〔A〕100質量部を、酢酸エチル(関東化学社製)400質量部に撹拌しながら添加して溶解させた後、マイクロクリスタリンワックス「HNP−0190」(日本精蝋社製、融点87℃)10質量部を添加して加熱溶解させた。次いで、予め作製した0.26質量%濃度のラウリル硫酸ナトリウム溶液638質量部と混合し、撹拌しながら超音波ホモジナイザー「US−150T」(日本精機製作所社製)によってV−LEVEL/300μAで30分間超音波分散した後、50℃に加温した状態でダイヤフラム真空ポンプ「V−700」(BUCHI社製)を使用して、減圧下で5時間撹拌しながら酢酸エチルを完全に除去することにより、体積基準のメジアン径(D50)が180nm、固形分量が20質量部であるグラフト結着樹脂微粒子の分散液〔A〕を得た。
【0096】
〔結着樹脂微粒子の分散液の調製例2〕
特定のグラフト共重合体の合成例1の非晶性ポリエステル樹脂の合成工程と同様にして得た非晶性ポリエステル樹脂〔1〕100質量部を、酢酸エチル(関東化学社製)400質量部に撹拌しながら添加して溶解させた後、ワックス「HNP−9」(日本精蝋社製、融点75℃)10質量部を添加して加熱溶解させた。次いで、予め作製した0.26質量%濃度のラウリル硫酸ナトリウム溶液638質量部と混合し、撹拌しながら超音波ホモジナイザー「US−150T」(日本精機製作所社製)によってV−LEVEL/300μAで30分間超音波分散した後、50℃に加温した状態でダイヤフラム真空ポンプ「V−700」(BUCHI社製)を使用して、減圧下で5時間撹拌しながら酢酸エチルを完全に除去することにより、体積基準のメジアン径(D50)が200nm、固形分量が20質量部であるPEs結着樹脂微粒子の分散液〔B〕を得た。
【0097】
〔着色剤微粒子の分散液の調製例1〕
アニオン系界面活性剤としてC1225O(CH2 CH2 O)3 SO3 Na59質量部をイオン交換水1600質量部に撹拌して溶解させた。この溶液を撹拌しながら、青色顔料C.I.ピグメントブルー15:3の420質量部を徐々に添加し、次いで「クレアミックス」(エム・テクニック社製)を用いて分散処理することにより、着色剤微粒子の分散液〔1〕を調製した。この着色剤微粒子の粒径を動的光散乱粒度分布測定装置「ELS−800」(大塚電子工業杜製)を用いて測定したところ、体積基準のメジアン径で112nmであった。
【0098】
〔トナーの製造例1〕
温度センサー、冷却管、窒素導入装置、撹拌装置を取り付けた反応容器(四つ口フラスコ)に、グラフト結着樹脂微粒子の分散液〔A〕270.0質量部(固形分換算)および着色剤微粒子の分散液〔1〕12.0質量部(固形分換算)並びにイオン交換水1400質量部を入れて撹拌し、容器内の温度を30℃に調整した後、この溶液に5Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを10.0に調整した。次いで、塩化マグネシウム・6水和物35.0質量部をイオン交換水35.0質量部に溶解した水溶液を、撹拌下、30℃にて10分間かけて添加した。3分間放置した後に80℃まで昇温し、凝集粒子の生成を行った。
この状態で、「マルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)によって凝集粒子の粒径を測定し、体積基準のメジアン径が5.0μmになった時点で、ワックス安定剤:3−ヒドロキシ−2,2’−イミノジコハク酸4ナトリウム(HIDS・4Na)50wt%水溶液50質量部を添加して粒子成長を停止させ、さらに熟成処理として、液温度90℃にて加熱撹拌することにより、粒子の融着を進行させた。
この状態で「FPIA−2100」にて会合粒子の形状を測定し、平均円形度が0.965になった時点で30℃まで冷却し、撹拌を停止した。生成した会合粒子を濾過し、40℃のイオン交換水で繰り返し洗浄を行い、その後、40℃の温風で乾燥することにより、トナー〔1X〕を得た。トナー〔1X〕の体積基準のメジアン径と平均円形度を再度測定したところ、それぞれ5.0μm、0.966であった。
また、トナー〔1X〕をHPLC分析によって分析したところ、当該トナー〔1X〕が3−ヒドロキシ−2,2’−イミノジコハク酸4ナトリウムを0.024質量%含有していることが確認された。
【0099】
〔トナーの製造例2〕
トナーの製造例1において、ワックス安定剤としてL−アスパラギン酸−N,N−2酢酸4ナトリウム(ASDA・4Na)45wt%水溶液55質量部を用いたことの他は同様にして、トナー〔2X〕を製造した。
このトナー〔2X〕をHPLC分析によって分析したところ、当該トナー〔2X〕がL−アスパラギン酸−N,N−2酢酸4ナトリウムを0.031質量%含有していることが確認された。
【0100】
〔トナーの製造例3〕
トナーの製造例1において、ワックス安定剤としてN−2−ヒドロキシエチルイミノ2酢酸2ナトリウム(HIDA・2Na)25wt%水溶液100質量部を用いたことの他は同様にして、トナー〔3X〕を製造した。
このトナー〔3X〕をHPLC分析によって分析したところ、当該トナー〔3X〕がN−2−ヒドロキシエチルイミノ2酢酸2ナトリウムを0.018質量%含有していることが確認された。
【0101】
〔トナーの製造例4〕
トナーの製造例1において、ワックス安定剤の代わりに塩化ナトリウム20wt%水溶液250質量部を用いたことの他は同様にして、トナー〔4X〕を製造した。
【0102】
〔トナーの製造例5〕
トナーの製造例1において、ワックス安定剤の代わりに水酸化ナトリウム水溶液を添加して反応系のpHを10.0に調整することの他は同様にして、トナー〔5X〕を製造した。
【0103】
〔トナーの製造例6〕
トナーの製造例1において、グラフト結着樹脂微粒子の分散液〔A〕の代わりにPEs結着樹脂微粒子の分散液〔B〕を用いたことの他は同様にして、トナー〔6X〕を製造した。
【0104】
このトナー粒子〔1X〕〜〔6X〕に、疎水性シリカ(数平均一次粒子径=12nm、疎水化度=68)を1.0質量%および疎水性チタニア(数平均一次粒子径=20nm、疎水化度=63)を1.2質量%添加し、「ヘンシェルミキサー」(三井三池化工機社製)により混合した。その後、45μmの目開きのフルイを用いて粗大粒子を除去することにより、トナー〔1〕〜〔6〕を製造した。
なお、トナー粒子について、疎水性シリカの添加によっては、その粒径および平均円形度は変化しなかった。
トナー〔1〕〜〔3〕が本発明に係るものであり、トナー〔4〕〜〔6〕は比較用のものである。
【0105】
〔現像剤の作製例1〜6〕
このトナー〔1〕〜〔6〕の各々に、シリコーン樹脂を被覆した体積基準のメジアン径35μmのフェライトキャリアを、前記トナーの濃度が7質量%になるよう混合することにより、現像剤〔1〕〜〔6〕を作製した。
【0106】
〔評価1:低温定着性〕
市販の複写機「bizhab Pro C6500」(コニカミノルタビジネステクノロジー社製)において、定着装置を加熱ローラの表面温度を120〜170℃の範囲で5℃刻みで変更することができるように改造したものを用い、常温常湿(温度20℃、湿度55%RH)環境下において、それぞれ現像剤〔1〕〜〔6〕によって、A4サイズの上質紙(64g/m2 )に1.5cm×1.5cmのベタ画像(トナー付着量2.0mg/cm2 )を定着させる定着実験を、設定される定着温度(加熱ローラの表面温度)を120℃、125℃・・・と5℃刻みで増加させるよう変更しながら繰り返し行った。
各定着実験において得られたベタ画像を真中から2つに折り曲げて、その画像の剥離性を目視にて観察し、全く画像の剥離がない定着実験のうち、最低の定着温度に係る定着実験の当該定着温度を定着下限温度とした。結果を表1に示す。
なお、この定着下限温度が150℃未満である場合に実用上問題なく、合格であると判断される。
【0107】
〔評価2:保存安定性〕
トナー10gをプロピレン製のカップの上に秤量し、温度50℃、湿度50%RHの環境下に15時間放置した後、下記の評価基準に従ってブロッキング(凝集)状態を評価した。結果を表1に示す。
−評価基準−
○:カップを傾けるだけでトナーがさらさら流れる。
△:カップをしばらく動かし続けるとトナーが徐々に崩れ、流れ出す。(実用上問題なし)
×:凝集が発生しており、凝集体を先の尖ったもので突いても崩れにくい。(実用上問題あり)
【0108】
〔評価3:耐破砕性〕
市販の複写機「bizhab Pro C6500」(コニカミノルタビジネステクノロジー社製)に搭載される現像器に、それぞれ現像剤〔1〕〜〔6〕を投入し、単体駆動機によって600rpmの速度で3.5時間駆動させた後、現像器内の現像剤をサンプリングし、トナーの粒度分布を「マルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)によって測定し、現像器への投入前のトナーと比較して、粒径2.5μm以下であるトナーの増加率(質量%)を算出し、これにより耐破砕性を評価した。結果を表1に示す。
この粒径2.5μm以下であるトナーの増加率が高いほど、現像器内での破砕が発生しやすいことを示し、この増加率が10質量%以下である場合に、実用上問題なく、合格であると判断される。
【0109】
【表1】





【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、ポリエステル樹脂に重合性ビニルモノマーをグラフト共重合させて得られるグラフト共重合体を含有する結着樹脂、およびワックスを含有するトナー粒子からなる静電荷像現像用トナーであって、
前記トナー粒子には、下記一般式(1)で表されるワックス安定剤が含有されていることを特徴とする静電荷像現像用トナー。
【化1】


〔上記式中、R1 は、水素原子、または、−OH、−COOM2 、−SO3 2 、−PO3 2 、−NH2 、−CONH2 、−NHC(=NH)NH2 および−SHから選択される置換基によって置換されていてもよい炭素数1〜10の炭化水素基を示し(ただし、M2 は、水素原子、アルカリ金属原子またはアンモニウム基を示す。)、R2 は、水素原子、または、−OH、−COOM3 、−SO3 3 および−PO3 3 から選択される置換基によって置換されていてもよい炭素数1〜8の炭化水素基を示し(ただし、M3 は、水素原子、アルカリ金属原子またはアンモニウム基を示す。)、R3 は、水素原子、または、−OH、−COOM4 、−SO3 4 および−PO3 4 から選択される置換基によって置換されていてもよい炭素数1〜8の炭化水素基を示し(ただし、M4 は、水素原子、アルカリ金属原子またはアンモニウム基を示す。)、R4 は、水素原子、−COOM5 、−SO3 5 または−PO3 5 を表す(ただし、M5 は、水素原子、アルカリ金属原子またはアンモニウム基を示す。)。また、R1 とR2 の間において環が形成されていてもよい。また、M1 は、水素原子、アルカリ金属原子またはアンモニウム基を示す。〕
【請求項2】
前記トナー粒子が、乳化重合凝集法によって得られたものであることを特徴とする請求項1に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項3】
前記グラフト共重合体が、前記重合性ビニルモノマーに由来の構造単位を5〜50質量%含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項4】
前記トナー粒子における一般式(1)で表されるワックス安定剤の含有量が、0.001〜0.05質量%であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の静電荷像現像用トナーを製造する方法であって、
水系媒体中において、ポリエステル樹脂に重合性ビニルモノマーをグラフト共重合させて得られるグラフト共重合体およびワックスを含有する微粒子、または、ポリエステル樹脂に重合性ビニルモノマーをグラフト共重合させて得られるグラフト共重合体を含有する微粒子とワックスを含有する微粒子とを凝集させることにより凝集粒子を形成する工程、
前記凝集粒子が形成された水系媒体中に下記一般式(1)で表されるワックス安定剤を添加する添加工程、および、
前記ワックス安定剤が添加された水系媒体を加熱する工程を経ることを特徴とする静電荷像現像用トナーの製造方法。
【化2】


〔上記式中、R1 は、水素原子、または、−OH、−COOM2 、−SO3 2 、−PO3 2 、−NH2 、−CONH2 、−NHC(=NH)NH2 および−SHから選択される置換基によって置換されていてもよい炭素数1〜10の炭化水素基を示し(ただし、M2 は、水素原子、アルカリ金属原子またはアンモニウム基を示す。)、R2 は、水素原子、または、−OH、−COOM3 、−SO3 3 および−PO3 3 から選択される置換基によって置換されていてもよい炭素数1〜8の炭化水素基を示し(ただし、M3 は、水素原子、アルカリ金属原子またはアンモニウム基を示す。)、R3 は、水素原子、または、−OH、−COOM4 、−SO3 4 および−PO3 4 から選択される置換基によって置換されていてもよい炭素数1〜8の炭化水素基を示し(ただし、M4 は、水素原子、アルカリ金属原子またはアンモニウム基を示す。)、R4 は、水素原子、−COOM5 、−SO3 5 または−PO3 5 を表す(ただし、M5 は、水素原子、アルカリ金属原子またはアンモニウム基を示す。)。また、R1 とR2 の間において環が形成されていてもよい。また、M1 は、水素原子、アルカリ金属原子またはアンモニウム基を示す。〕
【請求項6】
前記一般式(1)で表されるワックス安定剤の添加量が、前記グラフト共重合体に対して0.01〜0.1モル%であることを特徴とする請求項5に記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の静電荷像現像用トナーと、キャリアとを含有することを特徴とする静電荷像現像用現像剤。
【請求項8】
像担持体上に静電潜像を形成する静電潜像形成工程と、当該静電潜像を静電荷像現像用トナーにより現像する現像工程と、当該現像工程において形成されたトナー像を画像支持体上に転写する転写工程と、当該画像支持体上に転写されたトナー像を定着する定着工程とを少なくとも含む画像形成方法であって、
現像工程において、請求項1〜請求項4のいずれかに記載の静電荷像現像用トナーを使用することを特徴とする画像形成方法。