説明

非ハロゲン難燃性電線・ケーブル

【課題】自己消炎するまでの時間を短縮でき、難燃性に優れた非ハロゲン難燃性電線・ケーブルを提供する。
【解決手段】樹脂組成物を絶縁電線の絶縁体3として被覆した非ハロゲン難燃性電線・ケーブルにおいて、樹脂組成物は、モノマーを重縮合反応または付加重合反応して合成され、かつ分子主鎖中に芳香環を有する芳香族系ポリマを主成分とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非ハロゲン難燃性電線・ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂組成物の難燃性の評価の指標として、近年コーンカロリメータによる発熱速度を採用することが多くなっている。過去に多くの報告があるように、最大発熱速度が小さく、着火時間が遅い樹脂組成物は難燃性が高いと判断される(例えば、特許文献1、非特許文献1〜4参照)。
【0003】
樹脂組成物そのものの燃焼性を評価する場合、発熱速度の比較でも問題ない。しかし、そのような樹脂組成物を被覆材料として適用した電線・ケーブルの場合、構造に起因する影響のため最大発熱速度と電線・ケーブルの燃焼性の間には、相関が取れないことが多い。
【0004】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、次のものがある。
【0005】
【特許文献1】特開平10−245456号公報
【特許文献2】特開2001−207024号公報
【特許文献3】特開2001−207025号公報
【特許文献4】特開2003−49052号公報
【非特許文献1】Sultan、他4名、「Novel Halogenfree flame retardant polyolefins intended for internal wiring−properties and flame retardant mechanism」、(米国)、47th International Wire and Cable Symposium、1998年
【非特許文献2】JECTECニュース、電線総合技術センター、1993年、No.7
【非特許文献3】武田邦彦、他7名、「ノンハロゲン系難燃材料による難燃化技術」、第1版、株式会社エヌ・ティー・エス、2001年1月31日、p.66−69
【非特許文献4】東洋精機テクニカルレポート、株式会社東洋精機製作所、2005年、No.1、p.43
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、非ハロゲン難燃性電線・ケーブルは、燃焼時に有害なガスを発生させないためPVC(ポリ塩化ビニル)代替電線・ケーブルとして採用が拡大している。このような非ハロゲン難燃性材料は、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)などのポリオレフィンに、難燃剤として水酸化マグネシウムなど金属水酸化物を多量混和した樹脂組成物となっている。金属水酸化物の混和量を多くするほど、樹脂組成物の最大発熱速度は低下し難燃性が向上する。
【0007】
しかしながら、このような樹脂組成物を被覆した電線・ケーブルを燃焼させた場合、炎の大きさは小さくなるが、必ずしも自己消炎するわけではない。多くの電線ケーブルの燃焼試験では、特定の保持方法(水平、垂直、傾斜など)で着火させたときの自己消炎するまでの時間が規定される。このため上述のような「弱い炎で長く燃える材料」は、燃焼試験に不合格となる可能性がある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、自己消炎するまでの時間を短縮でき、難燃性に優れた非ハロゲン難燃性電線・ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、請求項1の発明は、樹脂組成物を絶縁電線のシース、または絶縁体及びシースとして被覆した非ハロゲン難燃性電線・ケーブルにおいて、前記樹脂組成物は、ISO5660に規定されるコーンカロリメータ(コーンヒータ輻射量50kW/m)における平均質量減少率(g/s・m)と着火時間(sec)との比(平均質量減少率/着火時間)が1.2以上である非ハロゲン難燃性電線・ケーブルである。
【0010】
請求項2の発明は、前記樹脂組成物は、モノマーを重縮合反応または付加重合反応して合成され、かつ分子主鎖中に芳香環を有する芳香族系ポリマを主成分とする請求項1記載の非ハロゲン難燃性電線・ケーブルである。
【0011】
請求項3の発明は、前記芳香族系ポリマは、芳香族系ポリエステル、芳香族系ポリアミド、または芳香族系ポリウレタンからなる請求項2記載の非ハロゲン難燃性電線・ケーブルである。
【0012】
請求項4の発明は、前記芳香族系ポリエステルとして、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなど、芳香環を有し、酸成分とグリコール成分とからなるポリエステルをハードセグメントとし、ポリテトラメチレングリコールなどのポリエーテル、ポリテトラメチレンアジペート、ε−カプロラクトンなどの脂肪族系ポリエステルをソフトセグメントとするポリエステルブロック共重合体である、熱可塑性ポリエステルエラストマを用いた請求項3記載の非ハロゲン難燃性電線・ケーブルである。
【0013】
請求項5の発明は、前記芳香族系ポリアミドとして、ε−カプロラクタムの開環重合により得られるポリアミド6、アジピン酸とヘキサメチレンジアミンの重縮合により得られるポリアミド66、1,10−ヘプタンジカルボン酸とヘキサメチレンジアミンの重縮合により得られるポリアミド610、ウンデカンラクタムの開環重合により得られるポリアミド11、またはラウリルラクタムの開環重合により得られるポリアミド12を用いた請求項3記載の非ハロゲン難燃性電線・ケーブルである。
【0014】
請求項6の発明は、前記芳香族系ポリウレタンとして、2つの芳香環を有するジフェニルメタンジイソシアネートと1,4−ブタンジオールの共重合体からなるハードセグメントと、ポリエステル系あるいはポリエーテル系の高分子ジオールからなるソフトセグメントとの重合体である、ウレタン系熱可塑性エラストマを用いた請求項3記載の非ハロゲン難燃性電線・ケーブルである。
【0015】
請求項7の発明は、前記樹脂組成物は、金属水酸化物が0重量%である請求項1〜6いずれかに記載の非ハロゲン難燃性電線・ケーブルである。
【0016】
請求項8の発明は、前記樹脂組成物の燃焼後のチャー生成率が10重量%以下である請求項1〜7いずれかに記載の非ハロゲン難燃性電線・ケーブルである。
【0017】
請求項9の発明は、前記樹脂組成物に、熱分解促進剤を15重量%以下添加する請求項1〜8いずれかに記載の非ハロゲン難燃性電線・ケーブルである。
【0018】
請求項10の発明は、前記シースよりも内側に金属シールド層を有する請求項1〜9いずれかに記載の非ハロゲン難燃性ケーブルである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、自己消炎するまでの時間を短縮でき、難燃性に優れた非ハロゲン難燃性電線・ケーブルを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明者らは、金属水酸化物に頼らない難燃システムを見出すため、まず燃焼プロセス中で連鎖反応を停止させる可能性について詳細な検討を行った。
【0021】
樹脂組成物の燃焼プロセスは、以下の(1)〜(4)で示される。すなわち、樹脂組成物の燃焼は(1)〜(4)のサイクルで発生、拡大され、この(1)〜(4)のサイクルが連鎖的に繰り返されることで継続される。
【0022】
(1)着火源から輻射された熱エネルギーにより材料表面が加熱、樹脂が熱分解する。
【0023】
(2)熱分解により生成した低分子量炭素化合物が可燃性ガスとして固相から気相へ揮散する。
【0024】
(3)気相へ拡散した低分子量炭素化合物が酸素と激しく反応し(燃焼)、大きな反応熱(燃焼熱)を発生させる。
【0025】
(4)燃焼熱がさらに材料表面を加熱するため、熱分解を加速させ、燃焼が拡大する。
【0026】
難燃性を向上させるには、上記(1)〜(4)のプロセスのいずれかの影響を弱め、連鎖が途切れるようにすればよく、例えば、金属水酸化物を添加した場合、燃焼時の脱水反応による吸熱作用で(1)のプロセスにおける加熱・熱分解を遅延させる。しかし、金属水酸化物が多量混和された樹脂組成物は、樹脂の熱分解が抑制されるために着火時間が遅くなり、低い発熱量で長時間燃焼する傾向がある。
【0027】
本発明者らは、金属水酸化物が多量混和された樹脂組成物の「発熱量は低いが燃焼継続時間は長い」という特徴に着目し、燃焼継続時間を短縮させるための樹脂組成物を鋭意検討した。その結果、「速やかに燃焼を開始し燃え尽きる」材料であっても電線・ケーブルにおいては有効な材料となり得るという、従来の常識とは全く異なる事実を見出し、本発明に至った。
【0028】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面にしたがって説明する。
【0029】
図1は、本発明の好適な実施形態を示す非ハロゲン難燃性電線の横断面図である。
【0030】
図1に示すように、本実施形態に係る非ハロゲン難燃性電線1は、導体2と、その導体2の外周に形成された絶縁体3とを備える。導体2は、複数の銅線4(図1では7本)が撚り合わされて形成される。
【0031】
絶縁体3は、モノマーを重縮合反応または付加重合(重付加)反応して合成され、かつ分子主鎖中に芳香環を有する芳香族系ポリマ(芳香族ポリマ)を主成分とする本実施形態に係る樹脂組成物からなる。
【0032】
芳香族系ポリマとしては、芳香族系ポリエステル、芳香族系ポリアミド、または芳香族系ポリウレタンを用いるとよい。
【0033】
芳香族系ポリエステルとしては、柔軟性に富む熱可塑性ポリエステルエラストマ(TPEE)を用いるとよい。TPEEとは、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)などの酸成分とグリコール成分からなる芳香族ポリエステル単位をハードセグメントとし、ポリテトラメチレングリコールなどのポリエーテル、ポリテトラメチレンアジペート、ε−カプロラクトンなどの脂肪族ポリエステルをソフトセグメントとした、ポリエステルブロック共重合体である。
【0034】
芳香族系ポリアミドとしては、ε−カプロラクタムの開環重合により得られるポリアミド6、アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの重縮合により得られるポリアミド66、1,10−ヘプタンジカルボン酸とヘキサメチレンジアミンとの重縮合により得られるポリアミド610など多くの構造があるが、望ましくは、柔軟性のよい、ウンデカンラクタムの開環重合により得られるポリアミド11、またはラウリルラクタムの開環重合により得られるポリアミド12を用いるとよい。
【0035】
芳香族系ポリウレタンとしては、ウレタン系熱可塑性エラストマ(TPU)を用いるとよい。TPUとは、ウレタン結合の擬集体である剛直なハードセグメントと、高分子ジオールからなるソフトセグメントとの共重合体である。ハードセグメントは、実質的に二つの芳香環を有するジフェニルメタンジイソシアネートあるいは1,4−ブタンジオールが用いられている。高分子ジオールの種類によりポリエステル系とポリエーテル系があるが、望ましくは耐水性に優れたポリエーテル系TPUを用いるとよい。
【0036】
重縮合反応または付加重合反応で合成される芳香族系ポリマは、ポリマ中に分解の起点がモノマー単位で含まれており、熱分解時に一斉に結合が切断されてモノマーレベルまで分解される。
【0037】
さて、本実施形態に係る樹脂組成物は、ISO5660に規定されるコーンカロリメータ(コーンヒータ輻射量50kW/m)における平均質量減少率(g/s・m)と着火時間(sec)との比(平均質量減少率/着火時間)が1.2以上、望ましくは1.4以上である。
【0038】
コーンカロリメータとは、円錐形のコーンヒータにより試料の表面を均一に加熱、燃焼させ、その時に消費する酸素量により発熱量を理論計算により求める燃焼分析装置である。コーンヒータから熱を受けた試料は次第に可燃性ガスを発生させ、点火スパークにより着火する。このとき、加熱開始から着火するまでの時間が着火時間となる。また、コーンカロリメータでは、燃焼時の重量の変化も同時に測定でき、この重量の変化から平均質量減少率を求める。また、試料の形状は、40mm×40mm×3mmのシート状である。
【0039】
(平均質量減少率/着火時間)が1.2未満である場合、すなわち平均質量減少率が小さいか着火時間が遅い場合、自己消炎に時間がかかるか、もしくは自己消炎しない場合がある。
【0040】
また、本実施形態に係る樹脂組成物は、金属水酸化物が0重量%である。すなわち、金属水酸化物を全く含まない。これは、樹脂組成物に金属水酸化物を添加すると、燃焼時に炎は小さくなるが、自己消炎までの時間が長くなるためである。
【0041】
さらに、本実施形態に係る樹脂組成物は、燃焼後のチャー生成率が10重量%以下であるとよい。これは、燃焼後のチャー生成率が10重量%を超えると、燃焼時に樹脂組成物が完全に分解せず、可燃物が残るために自己消炎に時間がかかり、さらに、燃焼後のチャー生成率が10重量%を超える場合、チャー生成の原因となる樹脂組成物中の無機フィラーをはじめとする添加剤の量も多いため、この影響により耐寒性が低下するためである。
【0042】
また、本実施形態に係る樹脂組成物に、熱分解促進剤を15重量%以下添加してもよい。これは、熱分解促進剤を15重量%を超えて添加すると、燃焼後のチャー生成率が高くなり、自己消炎に時間がかかるためである。
【0043】
熱分解促進剤としては、化学工業分野で使用されている脱水素触媒が有効であり、Cu、Pt、Agなどの金属、またはZnO、Cr、CuO、V、MoO、MnO、Co、Feなどの金属酸化物を用いるとよい。熱分解促進剤は、燃焼後のチャー生成率が10重量%以下となる範囲で添加するとよい。
【0044】
また、本実施形態に係る樹脂組成物に、柔軟性を付与するためのゴム成分をブレンドしてもよい。ゴム成分としては、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエン共重合ゴム、シリコーンゴム、アクリルゴム、エチレンアクリル共重合ゴム、ニトリルゴム、水添ニトリルゴム、スチレン系熱可塑性エラストマなどを用いるとよい。
【0045】
ゴム成分をブレンドする場合、主成分である芳香族系ポリマが全ポリマの50重量%以上であるとよい。望ましくは、芳香族系ポリマとゴム成分との重量比は、100/0〜70/30であるとよい。これは、ゴム成分が着火時間が遅く、平均質量減少率が小さい材料であり、ゴム成分が多いと自己消炎に時間がかかる、あるいは自己消炎しないためである。ゴム成分をブレンドする際は、動的架橋などの反応混練によりゴム成分を架橋・分散させてもよい。
【0046】
また、本実施形態に係る非ハロゲン難燃性電線1に用いる樹脂組成物に、必要に応じて難燃剤、酸化防止剤、滑剤、界面活性剤、軟化剤、可塑剤、無機充填剤、相溶化剤、安定剤、架橋剤、紫外線吸収剤、金属キレート剤、光安定剤、着色剤などの添加物を添加してもよい。
【0047】
本実施形態に係る非ハロゲン難燃性電線1を作製する際は、主成分となる芳香族系ポリマと、ゴム成分、熱分解促進剤などの添加物を混練機などで混練し、ペレット化した後、ペレット化した樹脂組成物を用いて押出機などで導体2の外周に絶縁体3を形成するとよい。
【0048】
また、本実施形態に係る非ハロゲン難燃性電線1の絶縁体3を、有機過酸化物による過酸化物架橋、電子線、放射線などによる照射架橋、その他化学架橋などにより、架橋させてもよい。
【0049】
本実施形態に係る非ハロゲン難燃性電線1は、あらゆるサイズおよび用途の電線に適用できる。例えば、盤内配線用、車両用、自動車用、機器用、電力用、メタル通信用の非ハロゲン電線に応用が可能である。
【0050】
本実施形態の作用を説明する。
【0051】
本実施形態に係る非ハロゲン難燃性電線1に用いる樹脂組成物は、コーンカロリメータ(コーンヒータ輻射量50kW/m)における平均質量減少率と着火時間との比(平均質量減少率/着火時間)を1.2以上としている。
【0052】
樹脂組成物の熱分解が早いほど、コーンカロリメータで燃焼させたときの着火時間が早く、燃焼時の平均質量減少率が大きくなるため、その比である(平均質量減少率/着火時間)の値が大きくなる。すなわち、(平均質量減少率/着火時間)が1.2以上であると、バーナーの炎など外部からの熱によって樹脂組成物が速やかに熱分解され燃え尽きるため、バーナーを離したとき容易に自己消炎し、自己消炎するまでの時間を短縮できる。
【0053】
また、本実施形態に係る非ハロゲン難燃性電線1に用いる樹脂組成物は、モノマーを重縮合反応または付加重合反応して合成され、かつ分子主鎖中に芳香環を有する芳香族系ポリマを主成分としている。
【0054】
モノマーを重縮合反応または付加重合反応して合成されるポリマ、すなわち逐次重合型のポリマは、ポリマ分子中に分解の起点がモノマー単位でふくまれている。逐次重合反応では、ラジカル重合に代表される連鎖重合反応とは異なり、全てのモノマーが複数の反応活性点を有しているため一斉に生成反応に関与し、さらにその多くは可逆反応である。すなわち、逐次重合型ポリマは、生成時にモノマーが一斉に生成反応に関与する性質を有すると共に、分解時に一斉に結合が切断されてモノマーレベルにまで分解される性質を有する。
【0055】
したがって、モノマーを重縮合反応または付加重合反応して合成されるポリマを主成分とする樹脂組成物を絶縁体3として用いることにより、非ハロゲン難燃性電線1をバーナーなどで燃焼させた際に、炎が当たっている接炎部の樹脂組成物が速やかにモノマーレベルまで分解されてガス化し、短時間で気相中へ拡散する。これにより、接炎部から可燃物(樹脂組成物)が消失するため、バーナーの炎を遠ざけると、直ちに自己消炎する。
【0056】
従来の金属水酸化物を添加した非ハロゲン電線・ケーブルでは、被覆材料の燃焼時間が長く、気相への可燃性ガスの放出も長時間にわたり、バーナーを遠ざけても電線・ケーブル自身に炎が残り、この炎が上述した燃焼サイクルを加速させる結果となっていた。
【0057】
本実施形態では、重縮合反応または付加重合により合成した逐次重合型のポリマを用いることにより、燃焼時に可燃物自体を消失させるため炎が残ることが無く、短時間で自己消炎させることができ、難燃性を向上させることができる。
【0058】
さらに、分子主鎖中にモノマー単位としては質量の大きい芳香環を有する芳香族系ポリマを主成分とすることにより、燃焼時の平均質量減少率を大きくすることができる。すなわち、芳香族系ポリマを主成分とすることにより、燃焼時に樹脂組成物を速やかに分解させることができ、自己消炎までの時間をより短縮できる。
【0059】
また、本実施形態に係る非ハロゲン難燃性電線1の樹脂組成物に用いる芳香族系ポリマとして、芳香族系ポリエステル、芳香族系ポリアミド、または芳香族系ポリウレタンを用いている。
【0060】
例えば、ポリエステルは分子主鎖中にC−C結合とC−O結合を含んでいるが、C−Cの結合エネルギーが368kJ/molであるのに対し、C−O結合の結合エネルギーは329kJ/molである。このため、燃焼時にはエステル結合(C−O結合)が選択的に切断される。すなわち、ポリエチレンに代表される分子主鎖がC−C結合のみのポリマを用いるよりも、C−O結合を含むポリエステルを用いた方が熱分解時に急速に低分子化させることができる。ポリアミド、ポリウレタンについても同様である。
【0061】
さらに、本実施形態に係る非ハロゲン難燃性電線1に用いる樹脂組成物は、燃焼後のチャー生成率を10重量%以下としている。
【0062】
これにより、樹脂組成物がより完全に分解されて気相へ拡散するため、非ハロゲン難燃性電線1に炎が残ることがなく、自己消炎までの時間を短縮できる。さらに、チャーの生成は主に無機フィラーをはじめとする添加剤成分によるものであることから、燃焼後のチャー生成率を抑えることにより、添加剤成分が低温衝撃時の破壊の核となることを抑制でき、耐寒性を向上させることができる。
【0063】
また、本実施形態に係る非ハロゲン難燃性電線1に用いる樹脂組成物は、熱分解促進剤を15重量%以下添加している。これにより、燃焼後のチャー生成率を高くすることなく、樹脂組成物の熱分解をさらに促進させることができ、自己消炎までの時間をより短縮できる。
【0064】
さらに、本実施形態に係る非ハロゲン難燃性電線1に用いる樹脂組成物は、ハロゲン化合物を含まないため燃焼時に有毒なガスを発生しない。また、燃焼時に樹脂組成物が分解して気相に拡散するため、焼却時に燃焼しやすく、燃焼残滓も少なくすることができる。これにより、特にシュレッダーダストの処分方法が問題となっている自動車分野、家電製品分野において、最終処分場の逼迫という環境問題に対しても有利である。
【0065】
上記実施形態では、導体2の外周に絶縁体3を被覆して非ハロゲン難燃性電線1としたが、図2に示すように、導体2と絶縁体3との間にセパレータテープ21を巻いてもよい。セパレータテープ21としては、樹脂、紙、布、金属箔などからなるものを用いるとよく、望ましくは、作業性と耐熱性からナイロンまたはポリエステルテープを用いるとよい。セパレータテープ21を巻くことにより、端末ストリップ性、可とう性を向上させることができる。
【0066】
また、上記実施形態では、導体2として銅線4を複数本撚り合わせたものを用いたが、単線の銅線4を用いてもよい。
【0067】
次に、本実施形態に係る非ハロゲン難燃性ケーブルを説明する。
【0068】
図3に示すように、本実施形態に係る非ハロゲン難燃性ケーブル31は、導体32の外周に絶縁体33を被覆した1本の絶縁心線34からなるコア37と、コア37の外周に形成された金属シールド層35と、金属シールド層35の外周に形成されたシース36とで構成される。シース36のみ、または絶縁体33及びシース36の両方が上述した樹脂組成物からなる。
【0069】
金属シールド層35は、銅などの金属線による編組構造または巻付け構造や、銅テープ、アルミテープなどの金属テープを横巻きまたは縦添えした構造にするとよい。
【0070】
また、絶縁体33としては、上述した樹脂組成物に限らず、非ハロゲン樹脂組成物からなるものであればどのようなものを用いてもよく、例えば、EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体)からなるものなどを用いてもよい。
【0071】
さらに、必要に応じて有機過酸化物、電子線照射、その他化学反応により絶縁体33およびシース36を架橋してもよい。
【0072】
本実施形態に係る非ハロゲン難燃性ケーブル31は、例えば、盤内配線用、車両用、自動車用、機器用、制御用、電力用、メタル通信用ケーブルに適用することができる。
【0073】
本実施形態に係る非ハロゲン難燃性ケーブル31は、上述した樹脂組成物をシース36として用いているため、非ハロゲン難燃性電線1と同様の効果が得られる。
【0074】
本実施形態に係る非ハロゲン難燃性ケーブル31は、シース36よりも内側に金属シールド層35を有する。
【0075】
一般に、電線・ケーブルは内部に金属導体やシールド層、遮水層など、樹脂組成物に比べ熱伝導の大きな金属部材が使用されることが多い。このため、電線・ケーブルの難燃性は、それを構成する樹脂組成物以外の影響を受ける。
【0076】
本実施形態に係る非ハロゲン難燃性ケーブル31は、シース36よりも内側に金属シールド層35を有する。シース36の内側に金属シールド層35を形成することにより、シース36の燃焼時に、外部からの熱エネルギーを非ハロゲン難燃性ケーブル31の長手方向へ拡散させ、接炎部周辺のシース36の熱分解を促進させる。
【0077】
これにより、シース36の熱分解が速やかに行われて可燃物が消失し、自己消炎までの時間を短縮でき、難燃性を向上させることができる。
【0078】
さらに、金属シールド層35を形成することにより、接炎部のシース36が燃え尽きた(消失した)後、露出した絶縁体33など金属シールド層35よりも内側の構造物を炎から守ることができる。
【0079】
上記実施形態では、コア37として1本の絶縁心線34を用いたが、図4に示すように、複数の絶縁心線34(図4では3本)を紙などの介在42と共に対撚りあるいは集合撚りしたもの(あるいは撚らずに束ねたもの)をコア37として用いてもよい。
【0080】
また、図4の非ハロゲン難燃性ケーブル31では、金属シールド層35とシース36との間にセパレータテープ43を巻いている。これにより、端末ストリップ性、可とう性が向上する。
【実施例】
【0081】
表1に実施例で用いた樹脂組成物の配合A〜Iとその材料物性を示す。
【0082】
【表1】

【0083】
樹脂組成物および非ハロゲン難燃性電線1・非ハロゲン難燃性ケーブル31は以下の要領で作製した。
【0084】
表1記載の配合A〜Iのうち、単独のポリマからなる配合A、D、G以外の樹脂組成物は混練作業を行った。混練作業は、ポリマおよび添加剤を73mm二軸混練機(神戸製鋼社製KTX73)で混練、ペレット化し、燃焼挙動評価用(材料物性評価用)、および電線被覆用の樹脂組成物として用いた。混練機の温度設定は250℃とした。
【0085】
得られた配合A〜Iの樹脂組成物をプレス成形により縦40mm×横40mm×厚さ3mmのシート形状とし、コーンカロリメータ(東洋精機社製コーンカロリメータIII)で燃焼挙動評価(材料物性評価)を行った。コーンカロリメータの輻射熱量は50kW/mとした。
【0086】
非ハロゲン難燃性電線1は、断面積20mmの撚り線銅導体(導体構成:親撚り個数/子撚り本数/素線径(mm)=19/13/0.32)上に、65mm押出機を用いて樹脂組成物A〜Iを被覆厚さ1.0mmで押出被覆して実施例1〜9とした。
【0087】
非ハロゲン難燃性ケーブル31は、断面積20mmの撚り線導体上に、65mm押出機により配合Lの樹脂組成物を被覆厚さ1.0mmで押出被覆しコア37を製造した。そのコア37上に、外径0.18mmのスズめっき銅線により編組密度90%以上となるように編組被覆した金属シールド層35を設けた。さらにその外周に90mm押出機を用いて被覆厚さ1.0mmで樹脂組成物A〜Iからなるシース36を押出被覆し、実施例10〜18とした。また、同様にして金属シールド層35を設けない実施例19〜23を作製した。
【0088】
作製した実施例1〜9の非ハロゲン難燃性電線1、および実施例10〜23の非ハロゲン難燃性ケーブル31の難燃性および耐寒性を以下の方法により評価した。
【0089】
(難燃性)
ISO6722、12項に準拠した45度傾斜燃焼試験を実施した。10秒未満で自己消炎したものを○、70秒未満で自己消炎したものを△、70秒以上燃焼継続したものを×とし、○および△を合格、×を不合格とした。
【0090】
(耐寒性)
ISO6722、8.2項に準拠した低温衝撃試験を−40℃にて実施した。非ハロゲン難燃性電線1の絶縁体3、または非ハロゲン難燃性ケーブル31のシース36にクラックが発生したものを不合格とした。
【0091】
非ハロゲン難燃性電線1の実験結果を表2に、非ハロゲン難燃性ケーブル31の実験結果を表3および表4に示す。
【0092】
【表2】

【0093】
【表3】

【0094】
【表4】

【0095】
表2〜4から明らかなように、本発明による実施例1〜23の非ハロゲン難燃性電線1および非ハロゲン難燃性ケーブル31は、難燃性および耐寒性に優れている。
【0096】
(平均質量減少率/着火時間)が比較的小さい配合F、Iを用いた実施例6、9、15、18は、燃焼試験において、炎を除去した際に微小な炎が非ハロゲン難燃性電線1または非ハロゲン難燃性ケーブル31に残るため、他の実施例に比べ燃焼時間がやや長くなる傾向がある。
【0097】
特に実施例1と2、4と5、7と8、10と11、13と14、16と17をそれぞれ比較すると、樹脂組成物に熱分解促進剤を添加する(配合B、E、H)ことにより燃焼時間が短くなっている。
【0098】
また、金属シールド層35を有する実施例10、11、13、17、18と、金属シールド層35をもたない実施例19〜23とを比較すると、金属シールド層35を有する非ハロゲン難燃性ケーブル31の方が燃焼時間が短く、難燃性が高いといえる。
【0099】
実施例と同様にして、表5に示す配合J〜Pの樹脂組成物を用いて比較例1〜7の電線および比較例8〜14のケーブルを作製し、実施例と同様に評価を行った。比較例1〜7の電線の実験結果を表6に、比較例8〜14のケーブルの実験結果を表7に示す。
【0100】
【表5】

【0101】
【表6】

【0102】
【表7】

【0103】
表6および表7より明らかなように、(平均質量減少率/着火時間)が1.2未満である配合J〜Pを用いた比較例1〜14は、いずれも難燃性が不合格である。
【0104】
燃焼後のチャー生成率が10%以上の樹脂組成物を適用した比較例3、4、6、10、11、13は、耐寒性が不合格となる。これは、添加剤成分が低温衝撃時の破壊の核となるためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明の好適な実施形態を示す非ハロゲン難燃性電線の横断面図である。
【図2】本実施形態の変形例を示す非ハロゲン難燃性電線の横断面図である。
【図3】本発明の好適な実施形態を示す非ハロゲン難燃性ケーブルの横断面図である。
【図4】本実施形態の変形例を示す非ハロゲン難燃性ケーブルの横断面図である。
【符号の説明】
【0106】
1 非ハロゲン難燃性電線
2 導体
3 絶縁体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物を絶縁電線のシース、または絶縁体及びシースとして被覆した非ハロゲン難燃性電線・ケーブルにおいて、前記樹脂組成物は、ISO5660に規定されるコーンカロリメータ(コーンヒータ輻射量50kW/m)における平均質量減少率(g/s・m)と着火時間(sec)との比(平均質量減少率/着火時間)が1.2以上であることを特徴とする非ハロゲン難燃性電線・ケーブル。
【請求項2】
前記樹脂組成物は、モノマーを重縮合反応または付加重合反応して合成され、かつ分子主鎖中に芳香環を有する芳香族系ポリマを主成分とする請求項1記載の非ハロゲン難燃性電線・ケーブル。
【請求項3】
前記芳香族系ポリマは、芳香族系ポリエステル、芳香族系ポリアミド、または芳香族系ポリウレタンからなる請求項2記載の非ハロゲン難燃性電線・ケーブル。
【請求項4】
前記芳香族系ポリエステルとして、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなど、芳香環を有し、酸成分とグリコール成分とからなるポリエステルをハードセグメントとし、ポリテトラメチレングリコールなどのポリエーテル、ポリテトラメチレンアジペート、ε−カプロラクトンなどの脂肪族系ポリエステルをソフトセグメントとするポリエステルブロック共重合体である、熱可塑性ポリエステルエラストマを用いた請求項3記載の非ハロゲン難燃性電線・ケーブル。
【請求項5】
前記芳香族系ポリアミドとして、ε−カプロラクタムの開環重合により得られるポリアミド6、アジピン酸とヘキサメチレンジアミンの重縮合により得られるポリアミド66、1,10−ヘプタンジカルボン酸とヘキサメチレンジアミンの重縮合により得られるポリアミド610、ウンデカンラクタムの開環重合により得られるポリアミド11、またはラウリルラクタムの開環重合により得られるポリアミド12を用いた請求項3記載の非ハロゲン難燃性電線・ケーブル。
【請求項6】
前記芳香族系ポリウレタンとして、2つの芳香環を有するジフェニルメタンジイソシアネートと1,4−ブタンジオールの共重合体からなるハードセグメントと、ポリエステル系あるいはポリエーテル系の高分子ジオールからなるソフトセグメントとの重合体である、ウレタン系熱可塑性エラストマを用いた請求項3記載の非ハロゲン難燃性電線・ケーブル。
【請求項7】
前記樹脂組成物は、金属水酸化物が0重量%である請求項1〜6いずれかに記載の非ハロゲン難燃性電線・ケーブル。
【請求項8】
前記樹脂組成物の燃焼後のチャー生成率が10重量%以下である請求項1〜7いずれかに記載の非ハロゲン難燃性電線・ケーブル。
【請求項9】
前記樹脂組成物に、熱分解促進剤を15重量%以下添加する請求項1〜8いずれかに記載の非ハロゲン難燃性電線・ケーブル。
【請求項10】
前記シースよりも内側に金属シールド層を有する請求項1〜9いずれかに記載の非ハロゲン難燃性ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−110858(P2009−110858A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−283369(P2007−283369)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】