説明

非ヒト動物アルツハイマー疾患モデルおよびその使用

本発明は、βアミロイドおよび/またはアミロイドプラークの異常な脳蓄積が関与する疾患、特に、アルツハイマー疾患の分野に関する。より具体的には、本発明は、前記疾患の非ヒト動物モデルおよび当該疾患を治療するための分子についてのスクリーニング方法における上記モデルの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、βアミロイドおよび/またはアミロイドプラークの異常な脳蓄積が関与する疾患、特に、アルツハイマー疾患の分野に関する。より具体的には、本発明は、前記疾患の非ヒト動物モデルおよび当該疾患を治療するための分子についてのスクリーニング方法における上記モデルの使用に関する。
【先行技術の簡単な説明】
【0002】
アルツハイマー疾患(AD)は、医療および社会的進歩によってもたらされた長寿が原因で、現代社会における最も頻度の高い疾患の一つになっている1。疾患の家族単位での研究によって、疾患の特徴であるアミロイドペプチドの脳への蓄積が、おそらくADにおける最も重要な病的徴候であることが解明された2。精密な精査にも関わらず、βアミロイド(Aβ)の異常な脳蓄積のメカニズムは未だ解明されていない。しかしながら、アミロイドの蓄積の減少させる治療学的利益は既に確立されている3。脳へのアミロイドの蓄積の予防は、ADの治療という現在達成不可能な目標を達成可能なものにするかもしれない。
【0003】
アルツハイマー疾患の予防および治療において、βアミロイドおよび/またはアミロイドプラークの異常な脳蓄積に関与する分子の発見のための新しい手法に対する要求が当該技術分野において存在する。また、当該疾患に関して新たなスクリーニングおよび治療方法に対する要求が存在する。
【概要】
【0004】
本発明は、上述した要求の少なくとも一つを満たす。
【0005】
より具体的には、本発明の対象は、βアミロイドおよび/またはアミロイドプラークの異常な脳蓄積が関与し、脳からのβアミロイドのクリアランスが減少する疾患についてのモデルとして使用される非ヒト動物に関する。
【0006】
本発明の他の対象は、βアミロイドおよび/またはアミロイドプラークの異常な脳蓄積が関与する疾患の治療のための分子をスクリーニングするための方法であって、当該方法が、アルツハイマー疾患様障害が回復するのに十分な時間および量において前記分子を本発明による動物に投与することを含み、アルツハイマー疾患様障害の回復が、βアミロイドおよび/またはアミロイドプラークの異常な脳蓄積が関与する疾患の治療のための分子の指標となる方法に関する。
【0007】
本発明はまた、疾患の発症を防ぐ分子をスクリーニングする方法であって、前記分子がアルツハイマー疾患様障害を予防または遅延させる方法に関する。
【0008】
本発明のさらに他の対象は、哺乳動物においてβアミロイドおよび/またはアミロイドプラークの異常な脳蓄積が関与する疾患を治療または予防するための方法であって、前記方法が、脳からのβアミロイドのクリアランスを増加させることができる分子を前記哺乳動物に投与することを含む方法を提供することである。
【0009】
本発明のさらに他の対象は、IGF-1受容体と相互作用する活性分子をスクリーニングするための方法であって、前記方法が、アルツハイマー疾患様障害を修飾するのに十分な時間および量において前記分子を動物に投与することを含み、アルツハイマー疾患様障害の回復がIGF-I受容体活性を増加させる分子の指標となり、かつアルツハイマー疾患様障害の外観がIGF-I受容体活性を減少させる分子の指標となる方法に関する。
【0010】
本発明のさらなる対象は、ドミナントネガティブなIGF-I受容体または機能的IGF-I受容体を発現することができる遺伝子転移ベクターに関する。
【0011】
本発明のさらなる対象は、βアミロイドおよび/またはアミロイドプラークの異常な脳蓄積が関与する疾患の治療のためのIGF-I受容体をコードするヌクレオチド配列の使用に関する。
【0012】
図面の簡単な説明
図1:脈絡叢(choroid plexus)におけるIGF-Iシグナルの遮断
a.DN-IGF-IR (KR)のHIV媒介性の発現は、培養された脈絡叢上皮細胞上でIGF-Iシグナルを遮断する。IGF-IR (pTyrIGF-IR、二つのウイルス希釈液で試験)およびその下流のキナーゼ Akt (pAkt)のIGF-Iによって誘導されたリン酸化の欠損によって決定されたとき、感染した細胞はIGF-Iに応答しない。IGF-IRおよびAktの合計量は変化しなかった。3つの実験の代表的ブロットを示す。
【0013】
b.脈絡叢細胞におけるIGF-IRの遮断は、IGF-Iによって誘導されたアルブミンの細胞単層を通したトランスサイトーシスの阻害をもたらす。代表的ブロットおよび濃度ヒストグラムを示す。n=3; **p<0.01 vs アルブミンのみ。
【0014】
c.HIV-GFPの単回icv注入の3ヵ月後のGFP発現。左:側脳室(lateral ventricle)および室周上衣(periventricular ependyma)の脈絡叢を含む注入部位でのGFP発現を示す低倍率の顕微鏡写真; 右:脈絡叢細胞におけるGFP発現を示すより高倍率の顕微鏡写真。代表的なラットを示す (n=6)。 CP=脈絡叢、LV=側脳室。
【0015】
d−f.HIV-KRのicv送達が脈絡叢上のIGF-Iシグナルを抑制した後のインビボIGF-IR遮断。
【0016】
d.無処置のラットに対するIGF-Iの頚動脈内注入は、脈絡叢において増加したpAkt染色をもたらした。左:生理食塩水を注入したラット(左)およびIGF-Iを注入したラット(右)の脈絡叢上皮細胞におけるpAkt染色を示す電子顕微鏡写真。ブロット:pAktのレベルがIGF-I後に増加する。この実験は3匹のラットにおいて行われた。
【0017】
e.KR注入の8週間後、pAktレベルは、空のベクターを注入したラット(対照)と比較して、頚動脈内IGF-Iに応答して脈絡叢においてもはや増加しない。n=3; *p<0.05 vs 対照+IGF-I。
【0018】
f.対照的に、脳内IGF-Iに対するpAkt応答は、KR投与後に保存される。pAktレベルは、注入部位周囲の海馬組織において測定された。全Aktレベルは、より低い代表的ブロットにおいて示される。n=3; **p<0.01 vs IGF-I治療グループ。
【0019】
g.頚動脈内注入されたジゴキシゲニン標識された(DIG)IGF-IのCSFへの通過は、成体ラットに対するKRのicv注入の8週間後に遮断される。代表的ブロットおよび濃度測定ヒストグラム。n=3; **p<0.05 vs 対照。
【0020】
図2:IGF-IRのインビボ遮断後のアルツハイマー様神経病理
a.Pan-特異的抗Aβ抗体でのウェスタンブロット分析は、KR注入の3および6月後に皮質において増加したAβレベルを示し(左)、かつCSFにおいて減少したAβレベルを示した(右)。代表的ブロットおよび濃度ヒストグラムが示される。対照n=13、3ヵ月、n=6;6ヶ月n=7;*p<0.05および**p<0.01 vs 対照。
【0021】
b.6ヶ月後のKR注入ラットの皮質組織のELISA分析が、Aβ1-42が変化しない一方、Aβ1-40の増加を示す。n=7;**p<0.01。
【0022】
c.Aβキャリア{例えば、アルブミン(左)、トランスチレチン(中央)およびアポリポタンパク質J(apoJ, 右)}の脳内(皮質、上部パネル)およびCSFレベル(下部パネル)の並行的減少が、KR後3/6月して見出される。パネルにおける動物の数a;*p<0.05および**p<0.01 vs 対照。
【0023】
d.水迷路試験において決定されたとき、KR処理されたラットの認知低下が、注入の3月(三角)および6月(四角)後に明らかになる。試験の獲得(学習)および保持(記憶)期間の両方が影響を受けた。3および6での*p<0.05 vs KR。対照(菱形)n=13;KR 3ヶ月 n=6;6ヶ月n=7。
【0024】
図3:IGF-IRのインビボ遮断後のアルツハイマー様神経病理
a.皮質内のダイナミン1およびシナプトフィジンのレベルは、KR注入の6月後に減少した。一方、GFAPのレベルは増加した。代表的ブロット(左)および濃度ヒストグラム(n=6);*p<0.05および**p<0.01 vs 対照。
【0025】
b.pTyr216GSK-3βおよびpSer9GSK-3βの脳レベルは、KRの3ヶ月後に反対に制御され、このtau-キナーゼの活性形態の増加した割合をもたらす。代表的ブロットおよび濃度ヒストグラム。N=;*p<0.05および**p<0.01 vs 対照。
【0026】
c.脈絡叢におけるIGF-IRの遮断は、濃いPHF-tau脳免疫染色および顕著に高いHPF-tauレベルをもたらす。左:上部の電子顕微鏡写真は、KR注入の6ヶ月後の海馬における多数のPHF-tau+(赤)ニューロン(カルビンジン+、緑色)プロファイルを示す。対照ニューロンにおけるHPF-tau免疫染色およびKRラットにおける細胞外HPF-tau堆積の存在。GL=顆粒細胞層、Hi=hylus。中央部: ヒトAD脳およびKR注入ラット脳のチオフラビン-S染色は、ヒトにおいてタングルの存在が観察されるが(アスタリスク)、ラットの部位では観察されない。下部: ジアミノベンジジンで明らかになったKR注入ラットおよびヒトAD脳の部位におけるPHF-tau免疫染色は、類似の細胞内堆積の存在を図示する。右:PHF-tauのレベルは、3/6月後にKR注入ラットの脳において増加する。代表的ブロットおよび濃度分析。tauのレベルは、影響を受けないままであった(下部ブロット)。n=6; *p<0.05および**p<0.01 vs 対照。
【0027】
d.左:共焦点の分析によって決定されたとき、PHF-tau(赤)の堆積は、ユビキチン(緑)と共に局在し、大量のアストロサイト(GFAP+、緑)プロファイルによって取り囲まれる(右パネル)。空ベクター注入動物におけるタウオパシー(tauopathy)の欠失に留意されたい(対照)。皮質部位が示される。
【0028】
図4:脈絡叢におけるIGF-IR機能の回復は、全てではないが大半のAD様障害を回復させる。
a.3ヶ月前にHIV-KR3を受けたラットに対するHIV-野生型(wt)IGF-IRの注入は、IGF-Iに対する脈絡叢の応答の正常化をもたらす。IGF-Iのic注入後、KR-wtIGF-IR処理ラットは、脈絡叢において対照のpAktレベルを示す(この反応を図1eにおけるKRラットによって示されたものと比較、n=7)。
【0029】
b.しかしながら、水-迷路における記憶(保持)スコアもまたIGF-IR機能を回復した後に正常化し、障害されたプラットフォームの位置を習得(獲得)する。N=12対照(菱形)、n=7 KR-wtIGF-IR(四角)、およびn=6 KR処理グループ(三角);**p<0.01 vs 対照。
【0030】
c.対照的に、脳Aβ1-40のレベルは、KRを含むwtIGF-IRの共発現によって正常化された。全ての群についてN=7; *p<0.01 vs 対照。
【0031】
図5:老齢変異マウスへのKR投与によるAD様病理の悪化。
a.水迷路試験における空間的学習および記憶について、3ヶ月前にicv KRを受けた老齢のLIDマウスにおいて幾つかの障害が認められた。空のベクターで治療を受けた老齢のLIDマウスが、若年(6ヶ月齢)の野生型の同腹子と比較したとき、年齢が一致した対照の同腹子と同様の学習障害を示すことに留意されたい。N=5高齢-LID-KR注入マウス(四角)、n=7高齢LID HIVマウス(三角)、n=6高齢の無処置のLID、n=6高齢の同腹子マウス(菱形)、n=8若年の同腹子マウス(円)、n=6若年のLIDマウス; *p<0.001 vs 高齢の同腹子および空-ベクターLIDマウス、および**p<0.001 vs 若年のマウス。
【0032】
b.ELISAによって決定されたとき、Aβ1-40およびAβ1-42のレベルは、老齢の対照LIDと比較したとき、KRで処理された老齢LIDマウスにおいて著しくは上昇しなかった。若年のLIDマウスが、対照の同腹子と比較したときに既に高いAβレベルを有し、かつ老齢(>21月齢)LIDがさらに高いレベルを示すことに留意されたい。N=;*p<0.05 および**p<0.01 vs 各対照。
【0033】
c.左:KRで処理された老齢のLIDマウスは、散乱した小さなアミロイドプラークを示す。KR動物における拡散するアミロイド免疫染色、対照における欠失に留意されたい。右:LID(左)、ヒトAD(中央)およびAPP/PS2マウス(右)の脳部位におけるアミロイド染色は、後者二つにおいてのみ鮮紅色のプラークの存在を明らかにする。
【0034】
d.左:PHF-tauのレベルは、KR処理を受けた老齢LIDマウスにおいて著しく増加する。代表的ブロットおよび濃度が示される。n=5 LID-KR; n=7 LID HIV; n=8 同腹子(sham);N=;*p<0.05 vs 対照。右:大量のPHF-tau(赤色)プロファイルが、空ベクターを注入したLID(対照)または同腹子(sham)と比較したとき、LID-KRの海馬において見出される。ニューロンは、βIIIチューブリン(緑色)で染色される。ML, 分子層。
【0035】
図6:散発性のアルツハイマー疾患における病理プロセスの提示。
1:通常の加齢過程においてもIGF-I入力のゆるやかな減少が認められるが37、脈絡叢におけるIGF-I入力の異常に高い喪失は、遺伝子型/表現型の相互作用の結果として散発性ADを発達させる。
【0036】
2:結果として、Aβクリアランスは損なわれ、Aβが脳内に蓄積する。並行して、ニューロンへのIGF-I入力は、IGF-Iに対する増加したニューロン耐性に関連した(公開されていない観察)、全身的IGF-Iの減少した流入を通して障害される(図1eを参照)。
【0037】
3:インシュリンに対するニューロンの感受性の喪失19は、IGF-I24および過剰なAβ46に対する感受性の組み合わされた喪失によってもたらされる。病理学的カスケードが開始される:tau-過剰リン酸化、シナプス障害、神経膠症、細胞死およびAD神経病理の他の特徴的徴候が、アミロイド症とIGF-I/インシュリン入力の喪失との組み合わされた作用によって開始される。現データは工程2と工程3とを区別していないので、さらなる研究を重ね、この提案の妥当性を確認する必要がある。
【0038】
図7:IGF-1R:pHIV-IGF1Rを発現するレンチウイルスベクターの説明。
以下の消化パターン(bpにおいて発現)は、細菌からの抽出および以下の制限酵素でのインキュベーション後のプラスミドにおいて見出され得る。
【0039】
EcoR1 : 5515 + 4793 + 541 + 43
Pst1 : 7472 + 1728 + 1692
Pvu2 : 2942 + 2519 + 1748 + 938 + 771 + 767 + 645 + 578
Bgl2 + Xba1 : 4126 + 3654 + 2323 + 682 + 66 + 41。
【0040】
図8:IGF-1R:pHIV-IGF1R-DNを発現するレンチウイルスベクターの説明。
以下の消化パターン(bpにおいて発現)は、細菌からの抽出および以下の制限酵素でのインキュベーション後のプラスミドについて見出される。
【0041】
EcoR1 : 5515 + 4793 + 541 + 43
Pst1 : 7472 + 1728 + 1692
Pvu2 : 2942 + 2519 + 1748 + 938 + 771 + 767 + 645 + 578
Bgl2 + Xba1 : 4126 + 3654 + 2323 + 682 + 66 + 41。
【0042】
配列決定:
導入遺伝子内に変異を含むプラスミド領域(lys 1003またはarg 1003)は、pHIV-IGF1-DNの塩基7700および8100の間で構成された領域である。寄託された株については、この領域は、微生物の生存度を確認するために配列決定し得る。
【発明の詳細な説明】
【0043】
成人脳において循環するインシュリン様成長因子I(IGF-I)の神経保護作用について分析が行われている最中、本発明者らは、驚くべきことに、この多面的ペプチドが脳Aβクリアランスを制御することを見出した。Aβキャリアタンパク質の脳への移行を助けることによって、血清IGF-Iは、脳Aβレベルを調節する4。「アミロイド沈着」を除去する最近の治療学的戦略とともに、脳Aβが急速に除去され、これらの結果(「例」の項目を参照)は、Aβ減少/欠失処理のみならず、異常な脳AβのクリアランスによってADアミロイド症に貢献する可能性が示す。本発明者らは、上記知見に基づき、実験用げっ歯類におけるIGF-I媒介脳Aβクリアランスの阻害が、成体健常動物の脳内のAβの異常な蓄積を開始するか否かについて決定した。特に、第一の報告において、脈絡叢内のIGF-I受容体の遮断によって生成されたAβの障害されたクリアランスは、脳アミロイド症だけでなく、高リン酸化tauの蓄積、認知障害、およびADの特徴的な他の神経病理学的変化にも関連する。
【0044】
1.発明のベクター
本発明の一実施態様によれば、本発明は、ドミナントネガティブIGF-I受容体または機能的IGF-I受容体のいずれかを発現することができる遺伝子転移ベクターに関する。本発明によって考えられる遺伝子転移ベクターは、HIVまたはアデノ関連ウイルス(AAV)ベクターから好ましくは誘導される。
【0045】
ドミナントネガティブIGF-I受容体を発現するこれらのベクターの中で、本発明は、好ましくは受託番号I-3316のもと2004年11月10日付けでCNCMに寄託されたベクターからなる。
【0046】
機能的IGF-I受容体を発現するこれらのベクターの中で、本発明は、好ましくは受託番号I-3315のもと2004年11月10日付けでCNCMに寄託されたベクターからなる。
【0047】
なお、本発明のベクターに関する補足的情報および一般的なウィルスベクターについての知見は、参照文献を後段に掲載してある。
【0048】
No CNCM 1-3315のもと寄託されたpHlV-IGF1Rは、以下のものを有する転写ユニットを運ぶレンチウイルスベクターのゲノムをコードするpbr322から誘導された組換え体プラスミドである:
−ヒト ホスホグリセリン酸キナーゼのプロモーター、
−インシュリン成長因子のための受容体の天然形態をコードするヒト cDNA。
【0049】
ベクターは、アンピシリンを含むLB培地中で培養することができる大腸菌E12細胞中に挿入される。播種の条件は、アンピシリンを含む3mlのLB培地中で100μlであり、かつインキュベーションが振盪下30℃で行われる。
【0050】
貯蔵条件は、懸濁流体:1/2細菌培養液(3ml当り100μl)および1/2グリセロール中、-80℃の凍結状態である。
【0051】
CGG分類によれば、寄託された微生物は、グループ2、クラス2およびL1タイプに属する。
【0052】
No CNCM 1-3316のもと寄託されたpHIV-IGF1R-DNは、Fernandez et al 2001. Genes Dev. 15: 1926-1934に記載のインシュリン成長因子のための受容体のネガティブトランスドミナント変異をコードするものを含むpHIV-IGF1RとヒトcDNAを除いて同じ特徴を有する。
【0053】
2.非ヒト動物疾患モデル
他の実施態様によれば、本発明は、βアミロイドおよび/またはアミロイドプラークの異常な脳蓄積が関与し、脳からのβアミロイドのクリアランスが減少する疾患のためのモデルとして使用される非ヒト動物に関する。本発明に関わる好ましい疾患は、アルツハイマー疾患である。本明細書中で使用されたとき、用語「非ヒト動物」は、本発明に適した全ての非ヒト動物をいう。これらの非ヒト動物の中では、マウスおよびラットのようなげっ歯類、およびカニクイザル(Macaca fascicularis)のような霊長類が好ましい。列挙された動物は、モデルとしての使用に適した動物、すなわち実験動物を構成するのに適した動物の例である。本発明は、研究または試験において使用または使用を目的とした、このような実験動物を特に対象とする。
【0054】
好ましい実施態様によれば、本発明の動物のIGF-IR機能は、脈絡叢上皮において妨害される。さらにより好ましくは、動物のIGF-IR機能は、ドミナントネガティブIGF-1受容体を発現する上述した遺伝子転移ベクターを使用した脈絡叢上皮細胞への遺伝子転移によって妨害される。好ましくは、このようなベクターは、受託番号I-3316のもと2004年11月10日付けでCNCMに寄託されたものである。
【0055】
従って、本発明は、特に、由来動物のIGF-IR機能を妨害するための遺伝子転移がなされた非ヒト遺伝子組換え動物に関する。 これに応じて、疾患モデルとしての使用に適した非ヒト動物が本出願において参照された場合、このような遺伝子組換え動物もまた本発明の範囲内に包含される。好ましい実施態様において、特に疾患モデルとしての使用に適した非ヒト動物が、このような遺伝子組換え動物に相当する。
【0056】
3.使用の方法
他の実施態様によれば、本発明は、βアミロイドおよび/またはアミロイドプラークの異常な脳蓄積が関与する疾患の治療のための分子をスクリーニングするための方法であって、前記方法が、アルツハイマー疾患様障害が回復するのに十分な時間および量において前記分子を上記に定義した動物に投与することを含み、アルツハイマー疾患様障害の回復が、βアミロイドおよび/またはアミロイドプラークの異常な脳蓄積が関与する疾患の治療のための分子の指標となる方法を提供する。
【0057】
用語「治療」は、本発明の目的のために、疾患の症状が寛解または完全に除去されることを意味する。
【0058】
本発明はまた、疾患を防ぐ(その症状が発生するのを防ぐことを含む)ための分子をスクリーニングするための方法であって、前記疾患(または症状)がβアミロイドおよび/またはアミロイドプラークの異常な脳蓄積に関与し、前記方法が上記に定義した動物に前記分子を投与し、かつアルツハイマー疾患様障害が発症したか否かを検出することを含む方法に関する。このような障害は、前記分子の供給を受けなかったとき、同じ観察期間中同じタイプの動物において現れる。前記分子は疾患を防ぐ候補になると考えられる。
【0059】
本発明によるスクリーニングの方法は、アルツハイマー疾患様障害によって誘導または発現した障害についての試験分子の効果を決定するための方法である。
【0060】
これに応じて、本発明のスクリーニング方法は、本発明において定義された動物を使用し、試験分子を前記動物に投与し、対象の障害についての前記試験分子の効果(可能であれば動物を犠牲にする幾つかの段階を含む)を決定することを含む。
【0061】
本発明はまた、試験分子をスクリーニングする方法における動物モデルとして、本発明によって記載された動物の使用に関する。
【0062】
スクリーニング方法には、対象の障害についての試験分子の効果の決定の枠組みにおける、脳イメージング(例えば、MRI(磁気共鳴映像法)、PETスキャン(陽子射出断層撮影法))および/または動物モデルの行動進化および/またはサンプル上の前記試験分子の効果についてのインビトロ研究、特に、前記動物から得られた組織または細胞の抽出物が含まれる。
【0063】
他の実施態様によれば、本発明は、哺乳動物(例えばヒト)においてβアミロイドおよび/またはアミロイドプラークの異常な脳蓄積が関与するアルツハイマー疾患のような疾患を治療するための方法を提供する。前記方法には、脳のβアミロイドクリアランスを増加することができる分子を前記哺乳動物に投与することが含まれる。好ましい実施態様によれば、βアミロイドのクリアランスは、脈絡叢上皮細胞のIGF-I受容体の活性を増加させることによって増加する。
【0064】
本発明はまた、本発明のスクリーニングの方法においてアルツハイマー疾患様障害を患う患者の状態を改善または回復する試験分子の、アルツハイマー疾患またはアルツハイマー様疾患の治療のための薬剤の調製のための使用に関する。
【0065】
本発明によって検討されたこのような分子が、好ましくは脈絡叢を通した脳脊髄液へのβアミロイドのキャリアとして機能するタンパク質の流入を促進することが理解されるであろう。有利には、キャリアは、アルブミン、トランスチレチン、アポリポタンパク質Jまたはゲルソリンから選択される。
【0066】
好ましい実施態様によれば、前記IGF-I受容体活性を増加させるための動物に投与される分子は、標的細胞においてIGF-I受容体の発現を伴うことができる遺伝子移行ベクター、例えば上述したもの、より好ましくは受託番号I-3315のもと2004年10月10日付けでCNCMに寄託されたベクターである。
【0067】
本発明の治療方法において使用される分子は、好ましくは許容可能なビヒクルと組み合わせて哺乳動物に投与される。本明細書中に使用されるとき、表現「許容可能なビヒクル」とは、悪影響なくヒトのような哺乳動物に投与することができる本発明の治療方法によって好ましくは使用される分子を含むためのビヒクルを意味する。当該技術分野において既知の適切なビヒクルには、これらに限定されないが、金粒子、無菌水、生理食塩水、グルコース、デキストロース、または緩衝溶液が含まれる。ビヒクルには、これらに限定されないが、希釈液、安定剤(すなわち、糖およびアミノ酸)、保存剤、湿潤剤、乳化剤、pH緩衝剤、粘度増強添加剤、着色剤およびこれらの類するものを含む補助剤が含まれる。
【0068】
投与される分子の量は、好ましくは治療学的有効量である。分子の治療学的有効量とは、分子が投与される動物内において全体として負の効果を引き起こさずに所望の役割を果たすことができる必要な量をいう。投与される分子の正確な量は、治療される条件の種類、投与の態様、および一緒に投与された他の成分といった要素に基づいて変化するであろう。
【0069】
本発明に関する分子は、様々な投与の経路を通して哺乳動物に与えられる。例えば、分子は、無菌の注入可能な製剤の形態、例えば無菌の注入可能な水性または油性懸濁液において投与される。これらの懸濁液は、適切な分散または湿潤剤および懸濁剤を使用して当該技術において既知の技術に従って処方され得る。無菌の注入可能な製剤は、非毒性の非経口的に許容可能な希釈剤または溶剤中の無菌の注入可能な溶液または懸濁液であってもよい。これらは非経口的、例えば静脈内、経皮内、筋肉内もしくは皮下内注入または経口的に与えられてもよい。適切な投与量は、考慮された分子の量、所望の効果(短期間または長期間)、投与の経路、対象となる哺乳動物の年齢および体重といった要素に依存しながら変化する。当該技術において周知の任意の他の方法を、考慮された分子を投与するために使用してもよい。
【0070】
関連した側面においてかつ他の実施態様によれば、本発明は、IGF-Iの受容体をコードするヌクレオチド配列の、βアミロイドおよび/またはアミロイドプラークの異常な脳蓄積が関与するアルツハイマー疾患のような疾患の治療または防止のための使用と関連する。
【0071】
ヒトインシュリン受容体コーディング配列の記載に関しては、Ebina Y. et al, 1985 (Cell. Apr, 40(4): 747-58) および Ullrich A. et al (1985 (Nature Feb 28-Mar 6, 313 (6005) : 756-61 ) を参照されたい。
【0072】
ヒトIGF-Iの配列は、No I-3315のもとCNCMに寄託されたベクターpHIV-IGFIR内への挿入として含まれる。
【0073】
本発明はまた、IGF-I受容体の機能に類似する機能を有するペプチドをコードするヌクレオチド配列の、βアミロイドおよび/またはアミロイドプラークの異常な脳蓄積が関与する疾患の予防または治療のための使用、例えば、IGF-1受容体の活性断片であるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の使用に関する。
【0074】
「活性断片」は、IGF-1受容体のアミノ酸配列の一部を有するポリペプチドであって、上記に開示されたAβクリアランスの制御について効果のあるポリペプチドを意味する。
【0075】
IGF-1受容体の機能と類似する機能を有するポリペプチドは、上記に開示されたAβクリアランスの制御を考慮したときに前記受容体と類似するポリペプチドである。
【0076】
本発明にはまた、IGF-I受容体の機能と類似する機能を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む治療学的組成物が含まれる。
【0077】
このような治療学的組成物には、上述したIGF-1受容体の活性断片をコードするポリヌクレオチドが含まれる。
【0078】
特定の実施態様において、本発明には、pHIV-IGF1Rベクターが含まれる。
【0079】
4.本発明のプロセスおよび他の使用
他の態様によれば、本発明は、IGF-1受容体と相互作用する活性分子をスクリーニングするための方法であって、前記方法が、アルツハイマー疾患様障害を修飾するのに十分な時間および量において前記分子を動物に投与することを含み、アルツハイマー疾患様障害の回復がIGF-I受容体活性を増加させる分子の指標となり、かつアルツハイマー疾患様障害の外観がIGF-I受容体活性を減少させる分子の指標となる方法を提供する。有利には、アルツハイマー疾患様障害の回復が、上記に定義した動物において観察される。
【0080】
本発明は、以下の例を参照することによってより容易に理解されるであろう。この例は、本発明の適応性の広範囲の例示であり、本発明の範囲を制限することを意図しない。修飾および変更を、本発明の精神および範囲から逸脱しない限りにおいて行うことができる。本明細書に記載されたものに類似するかまたは等価な全ての方法および材料が、本発明の試験のためのプラクティスにおいて使用され得るが、好ましい方法および材料について記載する。
【例】
【0081】
脈絡叢におけるインシュリン様成長因子Iシグナルの遮断後のアルツハイマー様神経病理
加齢、アルツハイマー疾患(AD)の主要な危険因子は、インシュリン様成長因子I(IGF-I)、脳βアミロイド(Aβ)レベルの修飾因子の減少した入力に関する。本発明者らは、障害されたIGF-I受容体(IGF-IR)機能が原因の減少したAβクリアランスが、アミロイド症だけではなく、ADの他の病理学的特徴にも影響を与えることを証明した。脈絡叢(IGF-IによるAβクリアランスに関係する脳構造)におけるIGF-IRの特異的な遮断は、脳アミロイド症、認知障害および高リン酸化tau蓄積を、他のAD関連障害、例えば神経膠症およびシナプスタンパク質欠如とともに導く。異常に低い血清IGF-Iレベルを示すAD様障害老齢変異マウスでは、脈絡叢におけるIGF-IR遮断がAD様病理を悪化させる。これらの知見は、遅延発症型アルツハイマー疾患の原因を解明した。つまり、脈絡叢に入力される年齢関与性のIGF-Iの異常な減少が遺伝的易発性患者におけるADの発症の原因になることを示した。
【0082】
方法
ウィルスベクター
ドミナントネガティブ(DN)および野生型(wt)IGF-I受容体(IGF-IR)cDNAを、HIV-I-ホスホグリセリン酸キナーゼ1(PGK)移行ベクター40のSamI/Xbal部位にサブクローニングした。緑色蛍光タンパク質(GFP)cDNAを、BamHI/Sall部位にサブクローニングした。SamI/Xbal部位をもつHIV-I-PGKベクターを、対照(空のベクター)として使用した。パッケージング構造および小胞性口内炎ウイルスGタンパク質のエンベローブは、それぞれpCMVΔR-8.92、pRSV-RevおよびpMD.Gプラスミド41を含む。移行ベクター(13μg)、エンベロープ(3.75μg)、およびパッケージングプラスミド(3.5μg)は、10% FCS、1% グルタミンおよび1% ペニシリン/ストレプトマイシンを含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM, Gibco, USA)で培養された293T細胞(5×106細胞/デッシュ)にリン酸カルシウムでコトランスフェクトした。培地は、トランスフェクションの2時間前に交換し、その24時間後に交換した。調整された培地は24時間後に回収され、遠心処理を行い(1000rpm/5分)、約100倍程度まで濃縮した(19000rpm/1.5時間)。ペレットは、1%ウシ血清アルブミンを含むリン酸緩衝生理食塩水中に再縣濁し、ウイルスは-80℃で貯蔵した。ウイルス価は、HIV-1 p24 ELISA (Perkin Elmer, USA)によって決定した。
【0083】
実験デザイン
Wistarラット(5〜6月齢、〜300g)、および肝臓-IGF-I-欠乏性(LID)マウス(6〜21月齢、〜25〜30g)は、我々の所有する同系集団に由来する。動物の取り扱いについては以下のEECガイドラインに従った。使用する実験動物を極力少なくするために、本発明者らは、無処置の(ニセの)動物の反応と、空のベクターで治療された動物において得られた反応とを比較し(下記を参照)、差異が認められなかったので(例えば図1d〜fを参照)、本発明者らは、対照として後者のグループのみを使用した。
【0084】
ウイルス懸濁液 (140μg HIV-1 p24 タンパク質/ml、6μl/ラットおよび2μl/マウス)は、10μlシリンジで1μl/分間の速度で、両側方脳室に定位的に注入した(ラット脳座標:前頂から1後方、1.2側方および4mm腹側; マウス:0.6後方、1.1側方および2mm腹側)。組み換え体IGF-I(GroPep、Australia)は、 文献8に記載されたようにジゴキシゲニン(DIG、Pierce, USA)でラベルされ、脳実質内(1μg/ラット;定位的座標:前頂から3.8後方、2側方および3.2mm腹側)または頚動脈内(10μg/ラット)に大量注入する。脳脊髄液(CSF)は、麻酔下でくも膜下槽から収集した。動物は、生化学的および免疫組織化学的分析のために、それぞれ生理食塩水緩衝液または0.1Mリン酸塩バッファー(PB、pH 7.4)中の4%パラホルムアルデヒドで経心的に灌流適用を受けた。
【0085】
インビトロ研究において、血液脳脊髄(CSF)界面を模倣する二重チャンバー脈絡叢上皮細胞培養系を、文献4に記載されたように使用した。ウイルス感染のために、ウイルス(約1μg/ml)および8μg/mlポリブレン(Sigma)を含む新鮮なDMEMを添加し、24時間後に置き換えた。細胞を24時間後にインキュベートし、その後IGF-I(100 nM)および/またはDIG-アルブミン(1μg/ml)を上方チャンバーに加えた。下方チャンバーの培地を収集し、細胞を溶解して処理した。
【0086】
イムノアッセイ
ウェスタンブロット(WB)および免疫沈降を、文献42に記載されたように行った。Aβ沈着を分析するために、冠状脳部位を連続的に切断し、88%ギ酸中で事前にインキュベートを行い、上述したように免疫染色を行った。ELISAによる合計Aβの検出のために、本発明者らは、下部層において4G8抗体(Sigma)および上部層において抗-Aβ1-40または抗-Aβ1-42(Calbiochem, USA)を使用した。Aβの可溶性および不溶性形態の両方を定量するために、サンプルをギ酸で抽出し、文献43に記載されたようにアッセイを行った。ヒトAD脳部位はNovagen (USA)から入手し、APP/PS2マウス脳はH. Loetscher (Hoffman-La Roche, Switzerland)の寄贈を受けた。げっ歯類およびヒトN-末端Aβ形態を認識するマウス抗-Aβ(MBL、日本)、抗アルブミン(Bethyl, USA)、抗トランスチレチン (Santa Cruz, USA)、抗アポリポタンパク質J (Chemicon, USA)、抗シナプトフィジン (Sigma)、抗-ダイナミン 1 (Santa Cruz)、抗-GFAP (Sigma)、抗-カルビンジン(Swant, Switzerland)、抗-βIII-チューブリン (Promega, USA)、抗-PHF-tau (AT8, Innogenetics, Belgium)、抗-ユビキチン(Santa Cruz)、抗-pSer9 および 抗-pTyr216 GSK3β (New England Biolabs, USA)、抗-pAkt (Cell Signalling, USA)は全て、1:500〜1:1000の希釈液で使用した。第二の抗体は、Alexa-結合(Molecular Probes, USA)またはビオチン化した(Jackson Immunoresearch, USA)。
【0087】
行動評価
文献45に詳細に記載された水迷路試験44を用いて空間的記憶について評価を行った。簡潔には、一日目の習慣付け訓練(1日)後、タンククオドラント間の優先度は認められなかったが、続く2〜5/6日後、動物は禁止されたプラットフォームを見つけ出すことを学習した(習得)。プラットフォームのない試験訓練の一日後、遊泳速度は全てのグループにおいて類似していることが解り、プラットフォームクオドラントの優先度が評価された。9〜10日後、動物に対して、最初の位置に配置されたプラットフォームを用いて長期間の(記憶)保持についての試験を行った。最後の日、キューバージョンプロトコル(cued version protocol)は、試験動物間の感覚運動および欲求の差異の可能性を排除するように行われた。行動データを、ANOVAおよびStudentのt試験によって分析した。
【0088】
結果
脈絡叢におけるIGF-Iシグナルの遮断
IGF-I受容体のドミナントネガティブ(DN)形態の発現は、IGF-Iシグナルを障害する。実際には、脈絡叢上皮細胞内におけるDN IGF-IR(KR)のウイルス誘導性の発現が、その受容体およびその下流のキナーゼAktのIGF-I誘導型のリン酸化を無効にする(図1a)。本発明者らは、IGF-Iが脈絡叢を通したCSFへのアルブミンの流入を促進することを以前に見出した4。脈絡叢細胞がHIV-KRベクターによる感染を受けると、上皮性単層を通したアルブミンのIGF-I誘導型トランスサイトーシスが阻害される(図1b)。これは、IGF-IR機能の遮断がアルブミンのようなAβキャリアの脈絡叢細胞通過を障害することを示す。従って、本発明者らは、HIV-KRベクターの脳室内注入によってインビボ脈絡叢内のIGF-Iシグナルを阻害した。
【0089】
側脳室へのHIV-GFPの送達(icv)は、側脳室の脈絡叢上皮と隣接する脳室周囲の細胞系統における継続的GFPの発現をもたらす(図1c)。また、注入部位に近接する血管と側脳室(IV)にはラベルを施した(図示せず)。同じicv経路を使用して、ラットにHIV-KRベクターを注入すると、脳実質では観察されない、脈絡叢における特異的なIGF-IR機能の遮断がもたらされる(図1d−f)。空のベクターまたは生理食塩水を注入したラットにおけるIGF-Iの全身的注入は、脈絡叢におけるAktリン酸化を誘導する(図1d、e)。同様に、脳への直接的なIGF-Iの注入は、注入部位周辺の脳実質内におけるAktリン酸化を刺激する(図1f)。しかしながら、KRを注入した動物では、IGF-Iが脳内に注入されたときのみAktがリン酸化され(図1f)、頚動脈内注入後では該リン酸化は観察されなかった(図1e)。この結果は、全身的IGF-I入力の脈絡叢への遮断を示している。さらに、血液-骨ジゴキシゲニン標識IGF-IのCSFへの移行が妨害され、頚動脈注入後に無視できるレベルの標識IGF-IがCSF中に検出された(図1g)。これは、脈絡叢での無処置のIGF-IR機能が、脳内に循環するIGF-Iの移行に必要であることを示している8。これらの結果は、DN IGF-IRの脈絡叢へのウイルス送達が、この脳構造におけるIGF-IR機能の効果的遮断をもたらすことを示している。
【0090】
脈絡叢におけるIGF-IR機能の遮断後のAD様神経病理の発達
本発明者らは、脈絡叢におけるIGF-IRの遮断が、Aβキャリアの脳への流入を減少させ、脳Aβの増加を導くという仮説を立てた4。実際、HIV-KRのicv注入後、小脳(図示せず)では観察されなかった、皮質(図2a)および海馬(図示せず)におけるAβ1-xレベルの段階的増加と、CSF中のAβ1-xレベルの同時的減少(図2a)とが全特異的(panspecific)な抗Aβを使用して観察された。Aβ1-40およびAβ1-42のELISAによる定量化は、皮質中の増加したβA1-40を示す一方、βA1-42がKR注入6ヶ月後まで変化しないことを示した(図2b)。Aβ1-xまたはAβ1-42特異的抗体を使用したKR注入ラットでは、アミロイドの堆積は観察されなかった(図示せず)。Aβキャリア、例えばアルブミン、アポリポタンパク質Jおよびトランスチレチンの脳およびCSFレベルにおける並行的減少がまた観察された(図2c)。
【0091】
アミロイドプラークの欠損中においても増加した脳Aβの堆積が、ADの動物モデルにおける認知障害に関連するので9、本発明者らは、KR注入ラットが学習および記憶障害を示すか否かについて決定した。げっ歯類ADモデルにおいて幅広く使用される海馬依存的学習パラダイムである水迷路試験を使用して、本発明者らは、HIV-KR注入後3ヶ月ほどの早期にラットにおいて損なわれた能力を観察した(図2d)。HIV-KR注入後6ヶ月間にわたって保持された動物は、同様の認知障害を示した(図2d)。認知障害に関連する欠乏である、シナプス小胞タンパク質であるシナプトフィジンおよびダイナミン(dynamin)の減少がADにおいて観察された11、12。KR注入後、両タンパク質が減少する一方(図3a)、ADにおける神経損傷に関連した神経膠症の細胞骨格マーカーであるGFAPは上昇した(図3a、d)。
【0092】
アミロイド症は、過剰リン酸化tau (PHF-tau)の出現と常に関連しているとは限らないが、本発明者らは、動物がアミロイド症を発症し、PHF-tauの増加したレベルを示したとき、KR注入後3ヶ月が経過したことを見出した。さらに、KR注入ラットの脳内における増加したpTyr216GSK-3β(活性形態)/pSer9GSK-3β(不活性形態)の割合は(図3b)、このtauキナーゼの増加した活性を示し13、これはニューロン内(図3c)およびグリア細胞内(図3d、右パネル)のPHF-tauの細胞内堆積の出現と一致する。前神経原線維変化(pre-tangle)および神経原線維変化(tangle)の両方においてPHF-tauを認識するAT8抗体を使用して、PHF-tauの細胞内堆積および増加したPHF-tauレベルがKRラットにおいて観察された(図3c)。KRラットとヒトADとの比較は、前者における細胞内PHF-tauの堆積が前神経原線維変化と大部分において一致することを示した。従って、チオフラビン-S+およびPHF-tau+の神経原線維変化プロファイルは、ヒトADにおいて観察されたが、KRラット脳においては観察されなかった(図3c、中および下の左パネル)。強いPHF-tau染色がまた、KRラットの脈絡叢において観察された(図示せず)。
【0093】
本発明者らは次に、HIV-wtIGF-IRのicv投与による3ヶ月前にHIV-KRを注入したラットの脈絡叢におけるIGF-IR機能を回復させた。動物は、IGF-IR機能の回復を可能にする3ヶ月後、すなわち最初のHIV-KR注入の6ヶ月後に評価した。脈絡叢におけるIGF-IRシグナルの回復後、頚動脈内IGF-I投与後に脈絡叢におけるpAktの正常レベルによって決定されたとき、ほとんど全ての脳機能の回復が達成された(図4a)。水迷路における障害された学習(習得)を除いて(図4b)、記憶の喪失を含む全ての他のAD様障害が回復した(図4、表1)。
【0094】
脈絡叢におけるIGF-IR機能の遮断は、老齢の変異体マウスにおけるAD様の特徴を悪化させる。
正常な成体KR処理ラットは、たとえ高い脳Aβ1-40レベルを有していてもプラークを発達させない。プラークの欠損は、KRラットが変化のないレベルのAβ1-42、好ましいプラーク形成Aβペプチドを有するためであるか15、あるいは脳内の年齢関連変化がプラークを発達させるために必要であることによる。しかしながら、老齢のげっ歯類が認知障害および増加した脳Aβレベルのより大きな徴候を示す一方、Aβプラークを発達させないことが知られている16、17。後者に関わらず、発明者らは、KRベクターで老齢変異LIDマウスを処理した18。これらのマウスは、Aβ1-40およびAβ1-42の高い脳内レベルを示し4、脳内においてAD様アミロイド症の一因となるおそれのある低血清IGF-Iおよびインシュリン抵抗性を含む、生命における早期の他の年齢関連変化を示す。この動物モデルを用いて、本発明者らは、脈絡叢IGF-IRの遮断後のAD様変化を誘導するプロセスにさらなる見識を得るために老齢のヒト脳において見出された条件をより精巧に再現することを目指した。
【0095】
KR注入3ヶ月後、LIDマウスは、空のベクターを注入された老齢のLIDマウスと比較して水迷路学習および記憶の障害を示しめす(図5a)。顕著に、年齢の一致した同腹仔である老齢の対照LIDは既に、若年の同腹仔と比較したときに認識的な障害を受けている(図5a)。従って、IGF-IR機能の遮断は、さらなる認識的喪失を生み出す。さらに、KR注入された老齢のLIDマウスは、ELISAによって決定されたときに、脳Aβ1-40およびAβ1-42における増加を示すが、両方とも既に高レベルを示す対照の老齢LIDマウスとは著しく異なる。LID-KR注入マウスは、老齢マウスにおいて時折見出されるが、若年の対照LIDでは見出されない少量の不溶性(ギ酸抵抗性)アミロイドプラークを有する(図5c)。これらの堆積は、これらがヒトADプラークと同様(図示せず)、Congoレッドまたはチオフラビン-Sで染色されないので、散在性アミロイドプラークを表わし20、ヒトADまたは変異マウスのアミロイドプラークの緻密な外観を有しない(図5c)。KRベクターで処理された成体ラットにおいて見出された変化と同様に、老齢のLIDマウスは、KR注入の3ヶ月後にHPF-tau堆積およびより高レベルのHPF-tauを示した(図5d)。わずかに高いGFAPレベル(対照LIDマウスにおいて既に著しく増加4)、およびシナプス性タンパク質欠損はまた、老齢LIDマウスのKR注入後に見出された(表2)。
【0096】
議論
これらの結果は、脈絡叢におけるIGF-IR遮断が、認知障害、アミロイド症、過剰リン酸化tau堆積、シナプス小胞タンパク質欠失および神経膠症を含む、げっ歯類におけるAD様障害の引き金を引くことを示す。これらの障害の大半は、学習が障害されたままであったが、IGF-IR遮断を回復させることによって救出され得る。反対に、AD様徴候、特に認知喪失は、IGF-IR遮断が正常な血清IGF-Iレベルよりも少ない値を示す老齢動物において誘発されたときに悪化した。IGF-IR機能の一般的減少は正常な加齢と関連するが21、これらの結果は、脈絡叢におけるIGF-IRシグナルの喪失が遅延性アルツハイマー疾患と結びつくであろうことを示す22。病因のほんの5%を包含するADの類似態様の原因がゆるやかに解明される一方、散発性ADの病因は解明されていない。従って、脈絡叢でのIGF-Iに対する減少した感受性の機構についての見識は、散発性ADの起源を解明するのに役立つであろう。例えば、ADに関連した危険因子は、影響を受けた個体内の脈絡叢におけるIGF-IR機能の大きな喪失の原因となるであろう。遅延性のAD患者は、IGF-IのAβ還元作用に対する感受性の喪失を示すであろう。興味深いことに、わずかに上昇した血清IGF-Iレベルは、散発性AD患者(IGF-Iに対する感受性の喪失に相当する状態24)の試験的研究において見出された23
【0097】
ADの動物モデルは、幾つかの(全てではないが)主要な神経病理的変化を伴うこのヒト疾患をうまく再現した25、26。大半は、変異の入ったタンパク質の広範な発現を一般的に含む候補疾患と関連したヒトタンパク質の遺伝操作を通して開発された。最近、三つの異なるAD関連タンパク質を標的にする組合せトランスジェニック手法が、ADの三つの主要な特徴:認知喪失、アミロイドプラークおよび神経原線維変化を再現するマウスモデルを誘導した28。本発明のモデルでは、脈絡叢における特異的なIGF-IR機能の遮断は、アミロイドプラークおよび神経原線維変化を除いたAD脳において観察された変化の過半数の原因となる。例えば、我々のモデルにおけるAD様変化には、AD脳では観察されるが、ADアミロイド症の動物モデルでは観察されないダイナミン1レベルの減少が含まれ12、減少したCSFトランチレチンレベルもまたADにおいて見出されたが29、疾患の動物モデル、または脈絡叢tau病理、AD患者の共通の所見では報告されていない30
【0098】
しかしながら、本発明のモデルにおけるアミロイドプラークおよび神経原線維変化の喪失は、ADにおける脈絡叢IGF-IR機能障害の顕著な病理的役割を問題にする。本発明のげっ歯類モデルにおいて再生産されていない追加の因子は、プラークおよび神経原線維変化を発達させるために必要とされるであろう。これは、通常の条件下においてげっ歯類はプラークまたは神経原線維変化を発達させないので31、変異APPまたはtauを発現するよう強いられない限り、驚くことではない(但し、参考文献32、33を参照)。APPにおけるより短い寿命または構造的差異31が、この生物種間の差異について考慮される。さらに、本発明者らが観察した最も大きなアミロイド症は、老齢LIDマウスのIGF-IR遮断後の全Aβ1-40におけるほんの約14倍の増加であった。老齢のヒトAD脳は、アミロイドのかなりの量(300倍を上回る15)を生成することができ、アミロイド症のげっ歯類モデルにおいて再現され得る効果となる27。従って、適切な実験設定下で、げっ歯類の脳はプラークおよび神経原線維変化を生成する28。従って、本発明者らは、プラークおよび神経原線維変化が未だ形成されていない時点で、げっ歯類皮質内において、モデル動物がヒト散発性アルツハイマー疾患の初期段階を再現することを仮定する。
【0099】
代わりに、プラークおよび神経原線維変化の発達は、ヒトに対して特異体質的な(通常のげっ歯類の脳では再現性のない)病理学的カスケードの一部を構成し、疾患の病因とは関係しない。実際のところ、ADの臨床的に関連のある側面である認知喪失に対するプラークおよび神経原線維変化の関与は疑わしい。この知見に従って、認知障害はプラークなしで脳アミロイド症を発達させるであろう34。同様に、神経原線維変化の形成を伴わないHPF-tauの高レベルはまた、認知喪失と関連する35。従って、ADの現在の動物モデルがプラークおよび神経原線維変化の出現を強調する傾向がある一方、事実は、認知障害がいずれにも依存しないということである。さらに、アミロイドプラークは、認知低下とも常に関連するものではない36。いずれにしても、この結果は、高アミロイドおよび/またはHPF-tauが、認知障害を生じさせるのに十分であるという新たな概念を強化する。
【0100】
本発明者らは、血清IGF-Iが脳Aβクリアランスを向上させることを以前に見出した。血液-骨IGF-Iに応じて、脈絡叢上皮は、Aβキャリアタンパク質を血液からCSFに転移させる。加齢に関連したIGF-Iに対する感受性の喪失とともに、低い血清IGF-Iレベルは、体全体を通して標的細胞に影響を与える。本発明者らは、脈絡叢で特異的なIGF-Iシグナルの減少がAβクリアランスを障害することを最近提示した。実際、我々がIGR-IR遮断後に見出したAβキャリアの減少したレベルと脳Aβの増加が、この概念を支持する。特に、脈絡叢でのIGF-Iシグナルの障害は、アミロイド症だけでなく、ADに関連した他の特徴的障害を誘発する。ADのアミロイド仮説は、初期病理現象としてアミロイドの蓄積を支持する。しかしながら、散発性ADにおいてアミロイド堆積を引き起こす事実は知られていない。Aβおよび/またはクリアランスの両方の障害された分解、あるいは過剰な産生が原因であり得る。この結果は、障害されたクリアランスによるAβの蓄積が、病理学的カスケードを開始するのに十分であることを示す。この意味において、最初の障害は、脈絡叢でのIGF-IRの機能を喪失するであろう。過剰なアミロイドによる病理学的カスケードを順々に開始する2。従って、IGF-I入力の喪失をアミロイド症の上流に置くことによって、本発明者らは、遅延性ADの現在の病理学的概念とともにその観察を容易に得ることができる(図6)。
【0101】
それにもかかわらず、本発明者らの観察の結果は、幾つかの未解決の問題を残す。本発明者らは、tau病理(tauopathy)とアミロイド症との間の階層的関係を未だに決定することができない。これらの研究において、PHF-tauの蓄積が高レベルのAβと時間的に一致するためである。さらに、本発明者らは、KR注入ラットにおいてAβ1-42ではなくAβ1-40における増加を観察した。これは、ヒトADにおける最大の増加はAβ1-40であるが、Aβ1-42もまたヒトにおいて増加するという観察結果と一致する38。Aβ1-42における増加は変異LIDマウスにおいて観察されるので4、低IGF-I入力に対する長時間にわたる曝露は、APPおよびAPP加工タンパク質の野生型の背景内においてげっ歯類の脳内において蓄積するAβ1-42を必要とするであろう。最後に、脈絡叢におけるIGF-IR遮断の逆転が最大のAD様変化を救出している間、動物は未だ学習障害に至っている。従って、IGF-IR遮断後のAD様変化は、逆転された後でさえ学習能力を損なうであろう。これは、アミロイド堆積の減少が認知症の回復を伴うADアミロイド症の現存モデルにおいて観察されたもの39とは異なる所見である。
【0102】
結論として、脈絡叢においてIGF-IR機能を特異的に遮断することによって(加齢に関連したIGF-I入力の一般的喪失に反して)、本発明者らは、AD発達の特徴的徴候についての機構を明らかにした。これは、例えばAPPまたはtauのようなAD関連タンパク質の野生型背景内で生じ、ヒトADのより近い散発性の様態に似ている。本発明の非ヒトモデルは、ADにおける病理学的経路の分析、新たな治療学的標的および薬剤試験の定義にとって関連がある。この観点において、ADおよびAD関連経路の動物モデルにおけるIGF-IRの遮断は、病理学的経路、危険因子および二次的障害の間の相互作用に見識を集めることを助けるであろう。本発明者らの観察結果は、遅延性ADがAβクリアランスの年齢依存的減少と関連していることを支持するので、薬剤開発をその強化に向けることができる。2型糖尿病のためのインシュリン感作物質を開発することへの成功に基づいて、AD患者におけるIGF-Iに対する感受性の増強は、二つのホルモンが共通の細胞内経路を共有するので既に到達範囲内にあるであろう。
【表1】

【表2】

【0103】
参照リスト
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【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】図1は、脈絡叢におけるIGF-Iシグナルの遮断を示す。
【図2】図2は、IGF-IRのインビボ遮断後のアルツハイマー様神経病理を示す。
【図3】図3は、IGF-IRのインビボ遮断後のアルツハイマー様神経病理を示す。
【図4】図4は、脈絡叢におけるIGF-IR機能の回復を示す。
【図5】図5は、老齢変異マウスへのKR投与によるAD様病理の悪化を示す。
【図6】図6は、散発性のアルツハイマー疾患における病理プロセスの提示を示す。
【図7】図7は、IGF-1R:pHIV-IGF1Rを発現するレンチウイルスベクターの説明を示す。
【図8】図8は、IGF-1R:pHIV-IGF1R-DNを発現するレンチウイルスベクターの説明を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
βアミロイドおよび/またはアミロイドプラークの異常な脳蓄積が関与する疾患のモデルとして使用される非ヒト動物であって、脳からのβアミロイドのクリアランスが減少する非ヒト動物。
【請求項2】
前記動物のIGF-IR機能が、脈絡叢上皮内で妨害される請求項1に記載の非ヒト動物。
【請求項3】
前記動物のIGF-IR機能が、ドミナントネガティブIGF-I受容体を発現する遺伝子移行ベクターを用いた脈絡叢上皮細胞への遺伝子移行によって妨害される請求項2に記載の非ヒト動物。
【請求項4】
前記遺伝子移行ベクターが、HIVまたはAAVから誘導される請求項3に記載の非ヒト動物。
【請求項5】
前記ベクターが、受託番号I-3316のもと2004年11月10日付けでCNCMに寄託されたものである請求項4に記載の非ヒト動物。
【請求項6】
前記疾患が、アルツハイマー疾患である請求項1に記載の非ヒト動物。
【請求項7】
βアミロイドおよび/またはアミロイドプラークの異常な脳蓄積が関与する疾患の治療のための分子をスクリーニングするための方法であって、当該方法が、アルツハイマー疾患様障害が回復するのに十分な時間および量において前記分子を請求項1による動物に投与することを含み、アルツハイマー疾患様障害の回復が、βアミロイドおよび/またはアミロイドプラークの異常な脳蓄積が関与する疾患の治療のための分子の指標となる方法。
【請求項8】
前記疾患が、アルツハイマー疾患である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
βアミロイドおよび/またはアミロイドプラークの異常な脳蓄積が関与する疾患の防止のための分子をスクリーニングする方法であって、前記方法が、前記分子を請求項1に記載の動物に投与し、かつ前記動物におけるアルツハイマー疾患様障害の発症と前記分子を投与されていない同じタイプの動物におけるアルツハイマー疾患様障害の発症とを比較することを含む方法。
【請求項10】
哺乳動物においてβアミロイドおよび/またはアミロイドプラークの異常な脳蓄積が関与する疾患を治療または予防するための方法であって、前記方法が、脳からのβアミロイドのクリアランスを増加させることができる分子を前記哺乳動物に投与することを含む方法。
【請求項11】
前記分子が、脈絡叢を通した脳脊髄液へのβアミロイドのキャリアとして作用するタンパク質の移行を促進する請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記キャリアが、アルブミンである請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記キャリアが、トランスチレチンである請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記キャリアが、アポリポタンパク質Jである請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記キャリアが、ゲルソリンである請求項11に記載の方法。
【請求項16】
βアミロイドのクリアランスが、脈絡叢上皮細胞のIGF-I受容体の活性を増加させることによって増加する請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記IGF-I受容体活性を増加させるために動物に投与される分子が、標的細胞内のIGF-I受容体の発現を誘導することができる遺伝子移行ベクターである請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記遺伝子転移ベクターが、HIVまたはAAVから誘導される請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ベクターが、受託番号I-3315のもと2004年11月10日付けでCNCMに寄託されたものである請求項18に記載の方法。
【請求項20】
受託番号I-3316のもと2004年11月10日付けでCNCMに寄託されたドミナントネガティブなIGF-I受容体を発現することができる遺伝子転移ベクター。
【請求項21】
受託番号I-3315のもと2004年11月10日付けでCNCMに寄託された機能的IGF-I受容体を発現することができる遺伝子転移ベクター。
【請求項22】
IGF-1受容体と相互作用する活性分子をスクリーニングするための方法であって、前記方法が、アルツハイマー疾患様障害を修飾するのに十分な時間および量において前記分子を動物に投与することを含み、アルツハイマー疾患様障害の回復がIGF-I受容体活性を増加させる分子の指標となり、かつアルツハイマー疾患様障害の外観がIGF-I受容体活性を減少させる分子の指標となる方法。
【請求項23】
前記アルツハイマー疾患様障害の回復が、請求項1に記載の動物において観察される請求項22に記載の方法。
【請求項24】
βアミロイドおよび/またはアミロイドプラークの異常な脳蓄積が関与する疾患の予防または治療のための、IGF-I受容体をコードするヌクレオチド配列の使用。
【請求項25】
前記疾患が、アルツハイマー疾患である請求項24に記載の使用。
【請求項26】
βアミロイドおよび/またはアミロイドプラークの異常な脳蓄積が関与する疾患の予防または治療のための、IGF-I受容体の機能に類似する機能を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の使用。
【請求項27】
前記核酸配列が、IGF-I受容体の活性フラグメントをコードする請求項26に記載の使用。
【請求項28】
IGF-I受容体の機能に類似する機能を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む治療学的組成物。
【請求項29】
前記ヌクレオチド配列が、IGF-I受容体の活性フラグメントをコードする請求項28に記載の治療学的組成物。
【請求項30】
pHIV-IGF1Rベクターを含む治療学的組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−520218(P2008−520218A)
【公表日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−541881(P2007−541881)
【出願日】平成17年11月18日(2005.11.18)
【国際出願番号】PCT/EP2005/013022
【国際公開番号】WO2006/053787
【国際公開日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(596009674)アンスティテュ・パストゥール (23)
【出願人】(596005872)アンスティテュ・ナシオナル・デゥ・ラ・サンテ・エ・デゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル (8)
【出願人】(504339734)
【Fターム(参考)】