非主軸複合材の引張・圧縮試験用の試験片掴み装置及びそれを用いた試験方法
【課題】(1)試験片の端部拘束における応力集中の影響を緩和し、(2)試験片の評定箇所における応力又はひずみ分布の一様性を確保し、(3)一つの掴み具で引張試験および圧縮試験という負荷方向の異なる両様式へ適用することが可能な回転グリップ装置及びそれを用いた試験方法を提供する。
【解決手段】試験片を押圧・固定する掴み歯10の掴み方向に平行な軸10aをラジアルベアリング40とスラストベアリング50によって受ける機構とする。また、楔形本体の上端部に、試験片の中心軸と掴み歯10の中心軸を一致させる軸芯調整ガイド30を配設する。
【解決手段】試験片を押圧・固定する掴み歯10の掴み方向に平行な軸10aをラジアルベアリング40とスラストベアリング50によって受ける機構とする。また、楔形本体の上端部に、試験片の中心軸と掴み歯10の中心軸を一致させる軸芯調整ガイド30を配設する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方向複合材の非主軸引張・圧縮試験用の試験片掴み装置及びそれを用いた試験方法、特に試験片の掴み具として引張試験および圧縮試験の双方の試験に使用することが出来ると共に、試験片の拘束箇所に生じる応力集中の影響を緩和し、従来の試験方法より試験片の評定部における応力−ひずみ特性を正確に評価することが可能な一方向複合材の非主軸引張・圧縮試験用の試験片掴み装置及びそれを用いた試験方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
材料に引張荷重または圧縮荷重を負荷する材料試験機として、試験片を平板で両側から圧接・固定する油圧グリップ装置が広く用いられている。この油圧グリップ装置は、金属の様な均一な材料を試験する場合には特に問題を生じないが、一方向繊維強化複合材料等の異方性を有する材料を試験する場合には以下に記す問題が見られる。すなわち、一方向繊維強化複合材料の非主軸試験において、図9に示すように試験片を固定する端部において異方性材料のせん断カップリング特性(軸方向の変形によってせん断変形も誘起されること)が問題となる。
例えば、非主軸の引張試験においては、一般に試験片の端部が試験機のグリップ(掴み具)で固定されるため、荷重軸方向とそれに垂直な方向の変形、及びせん断変形が拘束される。その結果、試験片の固定部に応力集中が発生すると共に、試験片全体にせん断応力、及び曲げモーメントが加わり、供試材料の評定箇所に不均一な応力場、又はひずみ場が生じる。このような不均一性は、供試材料の弾性常数、及び強度特性の正確な測定に影響を与える。そのため実際に非主軸試験を実施する場合には、試験片の評定箇所の応力状態を一様分布にすると共に、試験片の固定部近傍の応力集中を低減するための工夫が別途必要となる。
非主軸試験についての上記応力集中を低減する対処方法としては、(1)試験片のアスペクト比を大きくすること、(2)テーパーの長いタブを選択すること、(3)タブの材質をソフト化することなどが試みられてきたが、それらの効果は限定的であった。その他の興味深いアイディアとしては、せん断変形容認型およびせん断変形防止型の二つの方式が検討されている。前者の方式は、試験片つかみ部に生ずる回転変位を解放することを狙いとしており、図10に示すようなピン式回転グリップの提案が代表例である(例えば、特許文献1を参照。)。Changら(非特許文献1を参照。)、PinderaとHerakovich(非特許文献2を参照。)及びCronら(非特許文献3を参照。)は、この方式を原案として改良設計を行い、端部の応力集中の影響を最小化することが可能であることを実験的に検証した。後者の方式として、SunとChung(非特許文献4を参照。)はせん断変形の対抗原理を利用した角度付タブ(oblique-tab)を提案し、これによって端部拘束の影響が緩和できることを指摘した。これら二つの方式の有効性を直接対比した報告は見当たらないが、いずれの方式も工学的には共通の効果があることは一般に認められている。
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第3125873号
【非特許文献1】B.W. Chang, D.H. Huang and D.G. Smith: Experimental Tech. 8 (1984), 28-30.
【非特許文献2】M.-J. Pindera and C.T. Herakovich: Experimental Mech. 26-1 (1986), 103-112.
【非特許文献3】S.M. Cron, A.N. Palazotto and R.S. Sandhu: Experimental Mech. 28 (1988), 14-19.
【非特許文献4】C.T. Sun and I. Chung: Composites 24 (1993), 619-623.
【非特許文献5】J. Tsai and C.T. Sun, Compos. Sci. Technol. 62 (2002), 1289-1297.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複合材料構造設計の耐久性・信頼性を保証するための実用的な観点から、非主軸特性に関しても、引張特性だけでなく圧縮特性についても重要な評価項目になる。しかし、上述の「ピン式回転グリップ」又は「角度付きタブ」に係る試験方法は、いずれも非主軸の引張試験のために提案されたものであり、圧縮試験に適用するのは困難である。
ところで、最近、TsaiとSun(非特許文献5)はせん断カップリングを解放するために、図11に示すような自動調芯装置を用いた非主軸の圧縮試験の実施例を報告した。
しかし、この試験方法は、圧縮試験のみに適用するものである。従って、現在までのところ、一つの試験機で、剪断カップリングを解放しながら、引張試験と圧縮試験の両負荷様式に兼用できる試験方法は見当たらない。
そこで、本発明は上記従来技術の問題点に鑑みなされたものであって、その解決しようとする課題は、従来の試験方法において問題となる(1)試験片の端部拘束における応力集中の影響を緩和し、(2)試験片の評定箇所における応力又はひずみ分布の一様性を確保し、(3)一つの試験治具で引張試験および圧縮試験という負荷方向の異なる両様式へ適用することが可能な引張・圧縮試験用の試験片掴み装置及びそれを用いた試験方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の引張・圧縮試験用の試験片掴み装置では、対向する掴み歯のペアによって両側から試験片の端部を押圧・固定する試験片掴み装置であって、
前記掴み歯は、前記試験片に当接するインターフェイス面の法線方向に一致する軸に結合され、且つ該軸はラジアル方向およびスラスト方向に対し回転自由に支持されていることを特徴とする。
上記引張・圧縮試験用の試験片掴み装置では、試験片の端部を掴むインターフェイス面の軸がラジアル方向およびスラスト方向に対し回転自由に支持されているため、試験片の端部における荷重軸方向とそれに垂直な方向、及びせん断方向の各拘束状態が緩和されるようになる。また、軸をラジアル方向およびスラスト方向に回転自由に支持する手段としては、後述する一組のアキシャルとラジアル荷重の両方向に負荷できるベアリングによって実現することが出来る。これにより、試験片の端部拘束における応力集中の影響を緩和し、同一の掴み装置で引張試験および圧縮試験という負荷方向の異なる両様式へ適用することが可能となる。更に、詳細については後述するが、引張試験および圧縮試験において試験片の評定箇所における応力又はひずみ分布の一様性を確保することが可能となる。
【0006】
請求項2に記載の引張・圧縮試験用の試験片掴み装置では、試験機本体に対する同一の取り付け形態で引張試験および圧縮試験の双方に適用することが出来ることとした。
上記引張・圧縮試験用の試験片掴み装置では、例えば、一方向複合材の非主軸の引張試験および圧縮試験を実施する際に、試験片の掴み装置を試験毎に取り替える作業が不要となる。
【0007】
請求項3に記載の引張・圧縮試験用の試験片掴み装置では、前記掴み歯は、前記試験片を押圧・固定する円板状インターフェイスを有することとした。
上記引張・圧縮試験用の試験片掴み装置では、試験片を当接するインターフェイスが円板状であるから、試験片の端部拘束面を小さくし、上記ラジアル及びスラスト方向に対する回転自由の効果と相俟って試験片の端部拘束における応力集中の影響を好適に緩和することが出来るようになる。
【0008】
請求項4に記載の引張・圧縮試験用の試験片掴み装置では、前記楔式本体の上端部に、荷重方向に対する前記試験片の中心軸と前記掴み歯の中心軸を一致させる軸芯調整ガイドを備えることとした。
上記引張・圧縮試験用の試験片掴み装置では、上記軸芯調整ガイドを導入することにより、掴み装置(インターフェイス)と試験片における中心軸の偏心による悪影響を排除し、試験片の評定部における応力−ひずみ特性の評価精度を高めることが可能となる。
【0009】
請求項5に記載の引張・圧縮試験の試験方法では、請求項1から4の何れかに記載の前記試験片掴み装置のペアによって試験片の一方の端部を押圧・固定し、且つ前記試験片の他方の端部を別の前記試験片掴み装置のペアによって押圧・固定しながら、前記掴み歯のせん断作用によって前記試験片に引張荷重または圧縮荷重を加えることとした。
上記引張・圧縮試験の試験方法では、上記試験片掴み装置を使用して試験が実施されるため、試験片の端部拘束における応力集中の影響が好適に緩和され、試験片の評定箇所における応力又はひずみ分布の一様性を確保することが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
詳細については後述するが、本発明の引張・圧縮試験用の試験片掴み装置は、従来のピン式回転グリップ治具と比較して同等以上に優れていることが確認された。すなわち、本発明の試験片掴み装置を用いることにより、例えば一方向繊維強化複合材の非主軸試験等において、試験片の拘束箇所に生じる応力集中の影響を緩和することが出来る。その結果、試験片の評定部における応力又はひずみ分布状態をほぼ均一化することが出来る。また、試験片の準備においては、供試材の省力化や加工工数の削減、試験作業の容易化等がもたらされる。
従来のピン式回転グリップ治具は、引張試験用としてクレビスグリップ(clevis grip)構造を基に設計されているため、圧縮試験に転用するのは困難である。その上、機構が複雑で、部品数も多く製造コストが高いという欠点を有している。それに対し、本発明の試験片掴み装置は、以下の利点を有する。
(1)既存の装置に自動調芯ベアリングを追加するだけの簡素な機構である。
(2)一つの掴み装置で引張試験と圧縮試験が実施可能である。
(3)試験片を試験機に取り付ける際の調整作業が容易となる。
従って、本発明の試験片掴み装置で引張・圧縮の非主軸試験への適用が可能であるため、材料評価試験の合理化促進や試験コストの削減に大きく寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図に示す実施の形態により本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明がこの実施形態に限定されるものと解釈してはならない。
【0012】
図1は、本発明の一方向複合材の非主軸試験用の回転グリップ装置100(以下、「本発明の回転グリップ装置100」という。)を示す説明図である。なお、図1(a)は、正面図であり、また図1(b)は同(a)のA−A断面図であり、また図1(c)は同(a)の平面図である。
本発明の回転グリップ装置100は、従来の油圧グリップ試験機に適用されることを前提とし、試験片を「つかみ方向」と「負荷方向」の両方に対し自由に回転させることが出来るように、いわゆる「Jaw Face」と呼ばれる楔形チャック部品にラジアルベアリング及びスラストベアリングを組み込んだものである。
従って、その構成は、両側から試験片を押圧・固定する掴み歯10と、掴み歯10を収容する楔形本体20と、掴み歯10の中心軸と試験片の中心軸とを一致させる軸芯調整ガイド30と、荷重方向(負荷方向)に軸を受けるラジアルベアリング40と、負荷方向と直交する方向(つかみ方向)に軸を受けるスラストベアリング50とを具備して構成されている。
【0013】
掴み歯10は、試験片と当接するインターフェイス部が円板である。また、そのインターフェイス部を支持する軸10aは、荷重方向に対してラジアルベアリング40によって回転自由に支持され、つかみ方向にスラストベアリング50によって回転自由に支持されている。従って、試験片の端部における荷重軸方向とそれに垂直な方向、及びせん断方向の各拘束状態が好適に緩和されるようになる。これにより、試験片の拘束部における応力集中が好適に緩和され、試験片の評定箇所における応力又はひずみ分布の一様性を確保することが可能となる。
また軸芯調整ガイド30は、切欠き部(スリット)30aを有し、ボルト30bによって楔形本体20の上端部に固定されている。従って、ボルト30bを緩め、軸芯調整ガイド30をスライドさせることにより、試験片の中心軸を掴み歯10の中心軸に一致させることが容易に出来る。
【0014】
図2は、本発明の回転グリップ装置100を掴み具として油圧グリップ試験機に適用した例を示す説明図である。
試験片1は試験片タブ2を介して一対の回転グリップ装置100,100によって押圧・固定される。従って、本発明の回転グリップ装置100を使用しての圧縮試験は、試験片端部を直接圧縮するのではなく、引張試験のように端部掴み具(回転グリップ装置100)からせん断によって圧縮荷重を試験片1に負荷させるものである。
【0015】
図3は、本発明の回転グリップ装置100を掴み具として引張試験および圧縮試験に適用した例を示す説明図である。なお、図3(a)は、引張試験の形態を示し、同(b)は圧縮試験の形態を示す。
従来の引張試験用治具、例えばピン式回転グリップ治具は、クレビスグリップ(Clevis grip)構造を基に設計されているため圧縮試験に転用することは困難である。それに対して、本発明の回転グリップ装置100を掴み具とした油圧グリップ試験機は、同一の掴み具で引張試験と圧縮試験の両方の試験が実施可能である。また、回転グリップ装置100の上端部には、軸芯調整ガイド30が設けられているため、試験片1を油圧グリップへ取り付ける調整作業が容易となる。
【0016】
本発明の回転グリップ装置100の有効性を確かめるために、非主軸の引張試験と圧縮試験を行った。供試材は、炭素繊維と熱硬化型高靱性エポキシ樹脂からなるIM600/Q133(東邦テナックス製)複合材料であり、プリプレグを12層積層した[θ]12一方向積層板である。
ここで、非主軸試験片は、図4に示す荷重方向と繊維配向角がθ=15°、45°となる2種類の短冊形試験片である。試験片の両端には、厚さ2.0mmのGFRP製タブをエポキシ系接着剤で貼り付けた。
【0017】
本試験で実施した圧縮試験の負荷方法は、試験片端部を直接圧縮するのではなく、引張試験のように端部つかみ具から、せん断によって圧縮荷重を試験片に負荷させるものである。圧縮試験には、図5に示す座屈防止用の支持具(support plates)を使用した。なお、支持具と試験片表面間の摩擦を低減するために、支持具の接触面に薄いテフロン(登録商標)で表面コーティングを施した。
【0018】
せん断特性を測定するために、15°非主軸試験片には(0°、45°、90°方向)3軸ゲージからなるロゼットひずみゲージ(KFG-2-120-D17-11L1M2S;共和電業)を、45°非主軸試験片には(0°、90°方向)2軸のロゼットひずみゲージ(KFG-2-120-D16-11L1M2S)を取り付けた。ひずみゲージは試験片両面の中央部に表裏対応するように貼り付けた(図4を参照)。
【0019】
引張・圧縮負荷試験は電気・油圧駆動試験機(INSTRON社製8802型)を用いて行い、室温においてクロスヘッド速度が0.5mm/minの変位制御モードで荷重を加えた。試験片端部におけるグリップ圧力は5.5MPaとした。
【0020】
(実験結果と考察)
応力集中の緩和効果について以下に記す。
試験片評定部におけるひずみ場の均一性に与える端部グリップ形式の違いによる影響を調べるために、15°非主軸試験片を用いて引張試験を行った。図6の挿入図に示すように、試験片ゲージ部の中央部(C)と端部近傍(R,L)にひずみゲージを貼付し、試験片軸に平行なひずみを測定した。
図6は、各種の端部グリップについて、比較的低い荷重段階に対するひずみ測定結果を示している。対応する端部グリップ形式は、(a)完全固定端部グリップ、(b)本発明に係る回転端部グリップである。図6(a)に示す完全固定端部グリップに対しては、試験片中央と端部におけるひずみが大きく異なっていることが認められる。図6(b)については、応力集中が顕著に緩和されること、両者間に大きな差のないことがわかる。これらの結果から、本試験で用いた回転端部グリップ(b)(本発明の回転グリップ装置100)は、試験片評定部のひずみ状態の均一化に対して、従来のピン式回転グリップ方法と同等の効果を発揮することがわかる。
【0021】
次に、面内せん断特性の評価について以下に記す。
せん断特性の評価に対して端部グリップの違いによる影響を比較するため、15°、45°非主軸試験片を用いて引張試験と圧縮試験を行った。取得したせん断応力ーせん断ひずみ曲線の代表例をそれぞれ図7(引張)と図8(圧縮)に示す。本試験では、45°非主軸圧縮試験片が規定した測定範囲で破壊が起こらない場合も観察された。その場合面内せん断強度は、±45°積層板引張試験法(JIS K 7019)に準じて、せん断ひずみγ12=5%の時点におけるせん断応力値で代用した。なお、せん断応力、ひずみ及びせん断弾性率の求め方については、下記を参照。
【0022】
(実験データの算出)
非主軸状態下での応力、ひずみを実験的に決定するために、図4に示すように試験片中央部に3軸ロゼットひずみゲージを取り付けることが必要である。図に示すように材料の主軸を基準とした座標系1-2での応力状態は、
[σ1,σ2,σ3]t=σx×[m2,n2,−mn]t ・・・ (C-1)
で変換することができる。ここで、m=cosθ,n=sinθである。従って、せん断応力は、
σ12=−σxsin2θ,(θ<0) ・・・ (C-2)
となる。せん断ひずみは次の式で与える。
γ12=(εy−εx)sin2θ+γxycos2θ ・・・ (C-3)
ここで、図4に示すように3ゲージからなるロゼットひずみゲージの位置に対応して、ひずみを求める。
εx=εg1,εy=εg2,γxy=2εg3−εg1−εg2 ・・・ (C-4)
なお、45°試験片の場合、せん断ひずみは式(C-3)から、
γ12=εx−εy ・・・ (C-5)
となる。すなわち、ひずみ測定が2軸ロゼットひずみゲージで可能である。
最後に、面内せん断弾性率は次のように求められる。
G12=σ12/γ12 ・・・ (C-6)
さらに実際せん断応力−ひずみ曲線からせん断弾性率を算出する際に、すべてのデータは初期ひずみ0.1%〜0.5%範囲内での勾配で求めている。
【0023】
再び図7の引張試験に戻り、初期のせん断応力ーひずみ曲線は、端部グリップの形式に拘わらず、ほとんど一致していた。詳細に見ると、回転端部グリップを使用した場合は、非線形領域での伸びがそのほかの場合よりも明らかに大きくなっている。これは、本発明の回転グリップ装置100の効果を明瞭に示しているものと思われる。15°と45°非主軸試験片のせん断応力ーひずみ応答の差異は、文献等の観察結果と同様である。すなわち、15°非主軸試験片はせん断強度取得に比較的有効であるが、45°非主軸試験片はせん断弾性率の決定のみに対して有効であることを示唆している。
【0024】
次に、図8に示す圧縮試験の結果を比較する。
この図を見ると、非主軸角度の違いに拘わらず、せん断応答が端部グリップ方式に依存して大きく異なることがわかる。この相違の程度は引張試験に対して見られた相違の程度よりも大きい。また、繊維配向角に拘わらず、回転端部グリップを用いた場合のせん断強度が高くなっており、このことは回転端部グリップにより評定間の不均質変形や座屈の影響が抑制されていることを示している。
以上の考察から、本発明の回転端部グリップを用いることにより、一方向強化材の非主軸引張と圧縮特性を精度よく効率的に評価することが出来る。
【0025】
本発明の回転グリップ装置100を使用した圧縮試験および引張試験においては、一方向材の非主軸弾性特性および強度特性を、引張と圧縮の両負荷様式に対して精度よく効率的に測定評価することが出来る。この新しい試験方法に関する実証実験を行い以下の結論を得た。
(1)非主軸試験片の応力分布に及ぼす端部拘束の影響を既存の端部グリップ方式と比較したところ、本発明の回転端部方式は優れていることが判明した。
(2)本発明の回転グリップ装置100は、引張と圧縮のいずれに対してもせん断応力ーせん断ひずみ応答の測定に改善効果が見られた。
(3)本発明の回転グリップ装置100を使用することにより、同一のグリップ装置で引張試験と圧縮試験を行うことができ、試験評価の合理化促進や試験コストの削減に大きく寄与する。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の回転グリップ装置は、航空宇宙、自動車、船舶を始めとして、あらゆる分野に利用されている一方向繊維強化複合材料の非主軸弾性特性、強度特性および面内せん断特性等を測定・評価する試験に対し好適に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一方向複合材の非主軸試験用の回転グリップ装置を示す説明図である。
【図2】本発明の回転グリップ装置を掴み具として油圧グリップ試験機に適用した例を示す説明図である。
【図3】本発明の回転グリップ装置を掴み具として引張試験および圧縮試験に適用した例を示す説明図である。
【図4】本発明に係る短冊形試験片を示す説明図である。
【図5】本発明に係る座屈防止用の支持具を示す説明図である。
【図6】各種の端部グリップについて、比較的低い荷重段階に対するひずみ測定結果を示す説明図である。
【図7】15°、45°非主軸試験片を用いた引張試験の結果を示す説明図である。
【図8】15°、45°非主軸試験片を用いた圧縮試験の結果を示す説明図である。
【図9】異方性材料のせん断カップリング特性を示す説明図である。
【図10】従来のピン式回転グリップ治具を示す説明図である。
【図11】従来の圧縮試験用の自動調芯装置を示す説明図である。
【符号の説明】
【0028】
1 試験片
2 試験片タブ
3 油圧グリップ本体
4 油圧駆動装置
10 掴み歯
20 楔形本体
30 軸芯調整ガイド
40 ラジアルベアリング
50 スラストベアリング
100 回転グリップ装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方向複合材の非主軸引張・圧縮試験用の試験片掴み装置及びそれを用いた試験方法、特に試験片の掴み具として引張試験および圧縮試験の双方の試験に使用することが出来ると共に、試験片の拘束箇所に生じる応力集中の影響を緩和し、従来の試験方法より試験片の評定部における応力−ひずみ特性を正確に評価することが可能な一方向複合材の非主軸引張・圧縮試験用の試験片掴み装置及びそれを用いた試験方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
材料に引張荷重または圧縮荷重を負荷する材料試験機として、試験片を平板で両側から圧接・固定する油圧グリップ装置が広く用いられている。この油圧グリップ装置は、金属の様な均一な材料を試験する場合には特に問題を生じないが、一方向繊維強化複合材料等の異方性を有する材料を試験する場合には以下に記す問題が見られる。すなわち、一方向繊維強化複合材料の非主軸試験において、図9に示すように試験片を固定する端部において異方性材料のせん断カップリング特性(軸方向の変形によってせん断変形も誘起されること)が問題となる。
例えば、非主軸の引張試験においては、一般に試験片の端部が試験機のグリップ(掴み具)で固定されるため、荷重軸方向とそれに垂直な方向の変形、及びせん断変形が拘束される。その結果、試験片の固定部に応力集中が発生すると共に、試験片全体にせん断応力、及び曲げモーメントが加わり、供試材料の評定箇所に不均一な応力場、又はひずみ場が生じる。このような不均一性は、供試材料の弾性常数、及び強度特性の正確な測定に影響を与える。そのため実際に非主軸試験を実施する場合には、試験片の評定箇所の応力状態を一様分布にすると共に、試験片の固定部近傍の応力集中を低減するための工夫が別途必要となる。
非主軸試験についての上記応力集中を低減する対処方法としては、(1)試験片のアスペクト比を大きくすること、(2)テーパーの長いタブを選択すること、(3)タブの材質をソフト化することなどが試みられてきたが、それらの効果は限定的であった。その他の興味深いアイディアとしては、せん断変形容認型およびせん断変形防止型の二つの方式が検討されている。前者の方式は、試験片つかみ部に生ずる回転変位を解放することを狙いとしており、図10に示すようなピン式回転グリップの提案が代表例である(例えば、特許文献1を参照。)。Changら(非特許文献1を参照。)、PinderaとHerakovich(非特許文献2を参照。)及びCronら(非特許文献3を参照。)は、この方式を原案として改良設計を行い、端部の応力集中の影響を最小化することが可能であることを実験的に検証した。後者の方式として、SunとChung(非特許文献4を参照。)はせん断変形の対抗原理を利用した角度付タブ(oblique-tab)を提案し、これによって端部拘束の影響が緩和できることを指摘した。これら二つの方式の有効性を直接対比した報告は見当たらないが、いずれの方式も工学的には共通の効果があることは一般に認められている。
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第3125873号
【非特許文献1】B.W. Chang, D.H. Huang and D.G. Smith: Experimental Tech. 8 (1984), 28-30.
【非特許文献2】M.-J. Pindera and C.T. Herakovich: Experimental Mech. 26-1 (1986), 103-112.
【非特許文献3】S.M. Cron, A.N. Palazotto and R.S. Sandhu: Experimental Mech. 28 (1988), 14-19.
【非特許文献4】C.T. Sun and I. Chung: Composites 24 (1993), 619-623.
【非特許文献5】J. Tsai and C.T. Sun, Compos. Sci. Technol. 62 (2002), 1289-1297.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複合材料構造設計の耐久性・信頼性を保証するための実用的な観点から、非主軸特性に関しても、引張特性だけでなく圧縮特性についても重要な評価項目になる。しかし、上述の「ピン式回転グリップ」又は「角度付きタブ」に係る試験方法は、いずれも非主軸の引張試験のために提案されたものであり、圧縮試験に適用するのは困難である。
ところで、最近、TsaiとSun(非特許文献5)はせん断カップリングを解放するために、図11に示すような自動調芯装置を用いた非主軸の圧縮試験の実施例を報告した。
しかし、この試験方法は、圧縮試験のみに適用するものである。従って、現在までのところ、一つの試験機で、剪断カップリングを解放しながら、引張試験と圧縮試験の両負荷様式に兼用できる試験方法は見当たらない。
そこで、本発明は上記従来技術の問題点に鑑みなされたものであって、その解決しようとする課題は、従来の試験方法において問題となる(1)試験片の端部拘束における応力集中の影響を緩和し、(2)試験片の評定箇所における応力又はひずみ分布の一様性を確保し、(3)一つの試験治具で引張試験および圧縮試験という負荷方向の異なる両様式へ適用することが可能な引張・圧縮試験用の試験片掴み装置及びそれを用いた試験方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の引張・圧縮試験用の試験片掴み装置では、対向する掴み歯のペアによって両側から試験片の端部を押圧・固定する試験片掴み装置であって、
前記掴み歯は、前記試験片に当接するインターフェイス面の法線方向に一致する軸に結合され、且つ該軸はラジアル方向およびスラスト方向に対し回転自由に支持されていることを特徴とする。
上記引張・圧縮試験用の試験片掴み装置では、試験片の端部を掴むインターフェイス面の軸がラジアル方向およびスラスト方向に対し回転自由に支持されているため、試験片の端部における荷重軸方向とそれに垂直な方向、及びせん断方向の各拘束状態が緩和されるようになる。また、軸をラジアル方向およびスラスト方向に回転自由に支持する手段としては、後述する一組のアキシャルとラジアル荷重の両方向に負荷できるベアリングによって実現することが出来る。これにより、試験片の端部拘束における応力集中の影響を緩和し、同一の掴み装置で引張試験および圧縮試験という負荷方向の異なる両様式へ適用することが可能となる。更に、詳細については後述するが、引張試験および圧縮試験において試験片の評定箇所における応力又はひずみ分布の一様性を確保することが可能となる。
【0006】
請求項2に記載の引張・圧縮試験用の試験片掴み装置では、試験機本体に対する同一の取り付け形態で引張試験および圧縮試験の双方に適用することが出来ることとした。
上記引張・圧縮試験用の試験片掴み装置では、例えば、一方向複合材の非主軸の引張試験および圧縮試験を実施する際に、試験片の掴み装置を試験毎に取り替える作業が不要となる。
【0007】
請求項3に記載の引張・圧縮試験用の試験片掴み装置では、前記掴み歯は、前記試験片を押圧・固定する円板状インターフェイスを有することとした。
上記引張・圧縮試験用の試験片掴み装置では、試験片を当接するインターフェイスが円板状であるから、試験片の端部拘束面を小さくし、上記ラジアル及びスラスト方向に対する回転自由の効果と相俟って試験片の端部拘束における応力集中の影響を好適に緩和することが出来るようになる。
【0008】
請求項4に記載の引張・圧縮試験用の試験片掴み装置では、前記楔式本体の上端部に、荷重方向に対する前記試験片の中心軸と前記掴み歯の中心軸を一致させる軸芯調整ガイドを備えることとした。
上記引張・圧縮試験用の試験片掴み装置では、上記軸芯調整ガイドを導入することにより、掴み装置(インターフェイス)と試験片における中心軸の偏心による悪影響を排除し、試験片の評定部における応力−ひずみ特性の評価精度を高めることが可能となる。
【0009】
請求項5に記載の引張・圧縮試験の試験方法では、請求項1から4の何れかに記載の前記試験片掴み装置のペアによって試験片の一方の端部を押圧・固定し、且つ前記試験片の他方の端部を別の前記試験片掴み装置のペアによって押圧・固定しながら、前記掴み歯のせん断作用によって前記試験片に引張荷重または圧縮荷重を加えることとした。
上記引張・圧縮試験の試験方法では、上記試験片掴み装置を使用して試験が実施されるため、試験片の端部拘束における応力集中の影響が好適に緩和され、試験片の評定箇所における応力又はひずみ分布の一様性を確保することが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
詳細については後述するが、本発明の引張・圧縮試験用の試験片掴み装置は、従来のピン式回転グリップ治具と比較して同等以上に優れていることが確認された。すなわち、本発明の試験片掴み装置を用いることにより、例えば一方向繊維強化複合材の非主軸試験等において、試験片の拘束箇所に生じる応力集中の影響を緩和することが出来る。その結果、試験片の評定部における応力又はひずみ分布状態をほぼ均一化することが出来る。また、試験片の準備においては、供試材の省力化や加工工数の削減、試験作業の容易化等がもたらされる。
従来のピン式回転グリップ治具は、引張試験用としてクレビスグリップ(clevis grip)構造を基に設計されているため、圧縮試験に転用するのは困難である。その上、機構が複雑で、部品数も多く製造コストが高いという欠点を有している。それに対し、本発明の試験片掴み装置は、以下の利点を有する。
(1)既存の装置に自動調芯ベアリングを追加するだけの簡素な機構である。
(2)一つの掴み装置で引張試験と圧縮試験が実施可能である。
(3)試験片を試験機に取り付ける際の調整作業が容易となる。
従って、本発明の試験片掴み装置で引張・圧縮の非主軸試験への適用が可能であるため、材料評価試験の合理化促進や試験コストの削減に大きく寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図に示す実施の形態により本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明がこの実施形態に限定されるものと解釈してはならない。
【0012】
図1は、本発明の一方向複合材の非主軸試験用の回転グリップ装置100(以下、「本発明の回転グリップ装置100」という。)を示す説明図である。なお、図1(a)は、正面図であり、また図1(b)は同(a)のA−A断面図であり、また図1(c)は同(a)の平面図である。
本発明の回転グリップ装置100は、従来の油圧グリップ試験機に適用されることを前提とし、試験片を「つかみ方向」と「負荷方向」の両方に対し自由に回転させることが出来るように、いわゆる「Jaw Face」と呼ばれる楔形チャック部品にラジアルベアリング及びスラストベアリングを組み込んだものである。
従って、その構成は、両側から試験片を押圧・固定する掴み歯10と、掴み歯10を収容する楔形本体20と、掴み歯10の中心軸と試験片の中心軸とを一致させる軸芯調整ガイド30と、荷重方向(負荷方向)に軸を受けるラジアルベアリング40と、負荷方向と直交する方向(つかみ方向)に軸を受けるスラストベアリング50とを具備して構成されている。
【0013】
掴み歯10は、試験片と当接するインターフェイス部が円板である。また、そのインターフェイス部を支持する軸10aは、荷重方向に対してラジアルベアリング40によって回転自由に支持され、つかみ方向にスラストベアリング50によって回転自由に支持されている。従って、試験片の端部における荷重軸方向とそれに垂直な方向、及びせん断方向の各拘束状態が好適に緩和されるようになる。これにより、試験片の拘束部における応力集中が好適に緩和され、試験片の評定箇所における応力又はひずみ分布の一様性を確保することが可能となる。
また軸芯調整ガイド30は、切欠き部(スリット)30aを有し、ボルト30bによって楔形本体20の上端部に固定されている。従って、ボルト30bを緩め、軸芯調整ガイド30をスライドさせることにより、試験片の中心軸を掴み歯10の中心軸に一致させることが容易に出来る。
【0014】
図2は、本発明の回転グリップ装置100を掴み具として油圧グリップ試験機に適用した例を示す説明図である。
試験片1は試験片タブ2を介して一対の回転グリップ装置100,100によって押圧・固定される。従って、本発明の回転グリップ装置100を使用しての圧縮試験は、試験片端部を直接圧縮するのではなく、引張試験のように端部掴み具(回転グリップ装置100)からせん断によって圧縮荷重を試験片1に負荷させるものである。
【0015】
図3は、本発明の回転グリップ装置100を掴み具として引張試験および圧縮試験に適用した例を示す説明図である。なお、図3(a)は、引張試験の形態を示し、同(b)は圧縮試験の形態を示す。
従来の引張試験用治具、例えばピン式回転グリップ治具は、クレビスグリップ(Clevis grip)構造を基に設計されているため圧縮試験に転用することは困難である。それに対して、本発明の回転グリップ装置100を掴み具とした油圧グリップ試験機は、同一の掴み具で引張試験と圧縮試験の両方の試験が実施可能である。また、回転グリップ装置100の上端部には、軸芯調整ガイド30が設けられているため、試験片1を油圧グリップへ取り付ける調整作業が容易となる。
【0016】
本発明の回転グリップ装置100の有効性を確かめるために、非主軸の引張試験と圧縮試験を行った。供試材は、炭素繊維と熱硬化型高靱性エポキシ樹脂からなるIM600/Q133(東邦テナックス製)複合材料であり、プリプレグを12層積層した[θ]12一方向積層板である。
ここで、非主軸試験片は、図4に示す荷重方向と繊維配向角がθ=15°、45°となる2種類の短冊形試験片である。試験片の両端には、厚さ2.0mmのGFRP製タブをエポキシ系接着剤で貼り付けた。
【0017】
本試験で実施した圧縮試験の負荷方法は、試験片端部を直接圧縮するのではなく、引張試験のように端部つかみ具から、せん断によって圧縮荷重を試験片に負荷させるものである。圧縮試験には、図5に示す座屈防止用の支持具(support plates)を使用した。なお、支持具と試験片表面間の摩擦を低減するために、支持具の接触面に薄いテフロン(登録商標)で表面コーティングを施した。
【0018】
せん断特性を測定するために、15°非主軸試験片には(0°、45°、90°方向)3軸ゲージからなるロゼットひずみゲージ(KFG-2-120-D17-11L1M2S;共和電業)を、45°非主軸試験片には(0°、90°方向)2軸のロゼットひずみゲージ(KFG-2-120-D16-11L1M2S)を取り付けた。ひずみゲージは試験片両面の中央部に表裏対応するように貼り付けた(図4を参照)。
【0019】
引張・圧縮負荷試験は電気・油圧駆動試験機(INSTRON社製8802型)を用いて行い、室温においてクロスヘッド速度が0.5mm/minの変位制御モードで荷重を加えた。試験片端部におけるグリップ圧力は5.5MPaとした。
【0020】
(実験結果と考察)
応力集中の緩和効果について以下に記す。
試験片評定部におけるひずみ場の均一性に与える端部グリップ形式の違いによる影響を調べるために、15°非主軸試験片を用いて引張試験を行った。図6の挿入図に示すように、試験片ゲージ部の中央部(C)と端部近傍(R,L)にひずみゲージを貼付し、試験片軸に平行なひずみを測定した。
図6は、各種の端部グリップについて、比較的低い荷重段階に対するひずみ測定結果を示している。対応する端部グリップ形式は、(a)完全固定端部グリップ、(b)本発明に係る回転端部グリップである。図6(a)に示す完全固定端部グリップに対しては、試験片中央と端部におけるひずみが大きく異なっていることが認められる。図6(b)については、応力集中が顕著に緩和されること、両者間に大きな差のないことがわかる。これらの結果から、本試験で用いた回転端部グリップ(b)(本発明の回転グリップ装置100)は、試験片評定部のひずみ状態の均一化に対して、従来のピン式回転グリップ方法と同等の効果を発揮することがわかる。
【0021】
次に、面内せん断特性の評価について以下に記す。
せん断特性の評価に対して端部グリップの違いによる影響を比較するため、15°、45°非主軸試験片を用いて引張試験と圧縮試験を行った。取得したせん断応力ーせん断ひずみ曲線の代表例をそれぞれ図7(引張)と図8(圧縮)に示す。本試験では、45°非主軸圧縮試験片が規定した測定範囲で破壊が起こらない場合も観察された。その場合面内せん断強度は、±45°積層板引張試験法(JIS K 7019)に準じて、せん断ひずみγ12=5%の時点におけるせん断応力値で代用した。なお、せん断応力、ひずみ及びせん断弾性率の求め方については、下記を参照。
【0022】
(実験データの算出)
非主軸状態下での応力、ひずみを実験的に決定するために、図4に示すように試験片中央部に3軸ロゼットひずみゲージを取り付けることが必要である。図に示すように材料の主軸を基準とした座標系1-2での応力状態は、
[σ1,σ2,σ3]t=σx×[m2,n2,−mn]t ・・・ (C-1)
で変換することができる。ここで、m=cosθ,n=sinθである。従って、せん断応力は、
σ12=−σxsin2θ,(θ<0) ・・・ (C-2)
となる。せん断ひずみは次の式で与える。
γ12=(εy−εx)sin2θ+γxycos2θ ・・・ (C-3)
ここで、図4に示すように3ゲージからなるロゼットひずみゲージの位置に対応して、ひずみを求める。
εx=εg1,εy=εg2,γxy=2εg3−εg1−εg2 ・・・ (C-4)
なお、45°試験片の場合、せん断ひずみは式(C-3)から、
γ12=εx−εy ・・・ (C-5)
となる。すなわち、ひずみ測定が2軸ロゼットひずみゲージで可能である。
最後に、面内せん断弾性率は次のように求められる。
G12=σ12/γ12 ・・・ (C-6)
さらに実際せん断応力−ひずみ曲線からせん断弾性率を算出する際に、すべてのデータは初期ひずみ0.1%〜0.5%範囲内での勾配で求めている。
【0023】
再び図7の引張試験に戻り、初期のせん断応力ーひずみ曲線は、端部グリップの形式に拘わらず、ほとんど一致していた。詳細に見ると、回転端部グリップを使用した場合は、非線形領域での伸びがそのほかの場合よりも明らかに大きくなっている。これは、本発明の回転グリップ装置100の効果を明瞭に示しているものと思われる。15°と45°非主軸試験片のせん断応力ーひずみ応答の差異は、文献等の観察結果と同様である。すなわち、15°非主軸試験片はせん断強度取得に比較的有効であるが、45°非主軸試験片はせん断弾性率の決定のみに対して有効であることを示唆している。
【0024】
次に、図8に示す圧縮試験の結果を比較する。
この図を見ると、非主軸角度の違いに拘わらず、せん断応答が端部グリップ方式に依存して大きく異なることがわかる。この相違の程度は引張試験に対して見られた相違の程度よりも大きい。また、繊維配向角に拘わらず、回転端部グリップを用いた場合のせん断強度が高くなっており、このことは回転端部グリップにより評定間の不均質変形や座屈の影響が抑制されていることを示している。
以上の考察から、本発明の回転端部グリップを用いることにより、一方向強化材の非主軸引張と圧縮特性を精度よく効率的に評価することが出来る。
【0025】
本発明の回転グリップ装置100を使用した圧縮試験および引張試験においては、一方向材の非主軸弾性特性および強度特性を、引張と圧縮の両負荷様式に対して精度よく効率的に測定評価することが出来る。この新しい試験方法に関する実証実験を行い以下の結論を得た。
(1)非主軸試験片の応力分布に及ぼす端部拘束の影響を既存の端部グリップ方式と比較したところ、本発明の回転端部方式は優れていることが判明した。
(2)本発明の回転グリップ装置100は、引張と圧縮のいずれに対してもせん断応力ーせん断ひずみ応答の測定に改善効果が見られた。
(3)本発明の回転グリップ装置100を使用することにより、同一のグリップ装置で引張試験と圧縮試験を行うことができ、試験評価の合理化促進や試験コストの削減に大きく寄与する。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の回転グリップ装置は、航空宇宙、自動車、船舶を始めとして、あらゆる分野に利用されている一方向繊維強化複合材料の非主軸弾性特性、強度特性および面内せん断特性等を測定・評価する試験に対し好適に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一方向複合材の非主軸試験用の回転グリップ装置を示す説明図である。
【図2】本発明の回転グリップ装置を掴み具として油圧グリップ試験機に適用した例を示す説明図である。
【図3】本発明の回転グリップ装置を掴み具として引張試験および圧縮試験に適用した例を示す説明図である。
【図4】本発明に係る短冊形試験片を示す説明図である。
【図5】本発明に係る座屈防止用の支持具を示す説明図である。
【図6】各種の端部グリップについて、比較的低い荷重段階に対するひずみ測定結果を示す説明図である。
【図7】15°、45°非主軸試験片を用いた引張試験の結果を示す説明図である。
【図8】15°、45°非主軸試験片を用いた圧縮試験の結果を示す説明図である。
【図9】異方性材料のせん断カップリング特性を示す説明図である。
【図10】従来のピン式回転グリップ治具を示す説明図である。
【図11】従来の圧縮試験用の自動調芯装置を示す説明図である。
【符号の説明】
【0028】
1 試験片
2 試験片タブ
3 油圧グリップ本体
4 油圧駆動装置
10 掴み歯
20 楔形本体
30 軸芯調整ガイド
40 ラジアルベアリング
50 スラストベアリング
100 回転グリップ装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する掴み歯のペアによって両側から試験片の端部を押圧・固定する試験片掴み装置であって、
前記掴み歯は、前記試験片に当接するインターフェイス面の法線方向に一致する軸に結合され、且つ該軸はラジアル方向およびスラスト方向に対し回転自由に支持されていることを特徴とする引張・圧縮試験用の試験片掴み装置。
【請求項2】
試験機本体に対する同一の取り付け形態で引張試験および圧縮試験の双方に適用することが出来る請求項1に記載の引張・圧縮試験用の試験片掴み装置。
【請求項3】
前記掴み歯は、前記試験片を押圧・固定する円板状インターフェイスを有する請求項1又は2に記載の引張・圧縮試験用の試験片掴み装置。
【請求項4】
荷重方向に対する前記試験片の中心軸と前記掴み歯の中心軸を一致させる軸芯調整ガイドを備える請求項1又は2に記載の引張・圧縮試験用の試験片掴み装置。
【請求項5】
請求項1から4の何れかに記載の前記試験片掴み装置のペアによって試験片の一方の端部を押圧・固定し、且つ前記試験片の他方の端部を別の前記試験片掴み装置のペアによって押圧・固定しながら、前記掴み歯のせん断作用によって前記試験片に引張荷重または圧縮荷重を加える引張・圧縮試験の試験方法。
【請求項1】
対向する掴み歯のペアによって両側から試験片の端部を押圧・固定する試験片掴み装置であって、
前記掴み歯は、前記試験片に当接するインターフェイス面の法線方向に一致する軸に結合され、且つ該軸はラジアル方向およびスラスト方向に対し回転自由に支持されていることを特徴とする引張・圧縮試験用の試験片掴み装置。
【請求項2】
試験機本体に対する同一の取り付け形態で引張試験および圧縮試験の双方に適用することが出来る請求項1に記載の引張・圧縮試験用の試験片掴み装置。
【請求項3】
前記掴み歯は、前記試験片を押圧・固定する円板状インターフェイスを有する請求項1又は2に記載の引張・圧縮試験用の試験片掴み装置。
【請求項4】
荷重方向に対する前記試験片の中心軸と前記掴み歯の中心軸を一致させる軸芯調整ガイドを備える請求項1又は2に記載の引張・圧縮試験用の試験片掴み装置。
【請求項5】
請求項1から4の何れかに記載の前記試験片掴み装置のペアによって試験片の一方の端部を押圧・固定し、且つ前記試験片の他方の端部を別の前記試験片掴み装置のペアによって押圧・固定しながら、前記掴み歯のせん断作用によって前記試験片に引張荷重または圧縮荷重を加える引張・圧縮試験の試験方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−101782(P2010−101782A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−274188(P2008−274188)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【Fターム(参考)】
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