説明

非侵襲的に頭蓋内圧を決定するシステムおよび方法、並びにかかるシステムに用いられる音響トランスデューサアセンブリ

非侵襲的または最小限に侵襲的な手法を用いて測定できるパラメータに基いてICPを決定するシステムおよび方法であって、非線形相関が1つまたは2つ以上の可変入力に基づいてICPを決定するのに用いられる、ICPを決定するシステムおよび方法が提供される。第1の可変入力は、頭蓋血管に合焦された音響トランスデューサからの後方散乱、頭蓋血管内の血流速等のような、頭蓋血管および/または血流の1つまたは2つ以上の性質に関連する。動脈血圧(ABP)のような他の変数が、非線形相関を用いてICPを導出するために、中大脳動脈(MCA)の血流のような頭蓋血管の1つまたは2つ以上の性質に関する第1の可変入力と併用される場合がある。標的領域を該標的領域の音響的性質に基づいて位置決定する方法およびシステムと、領域の音響走査と、音響的性質に基づく着目する標的領域の識別と、音源および/またはデテクタの所望の標的領域上への自動合焦とを行う方法およびシステムとが提供される。音響トランスデューサアセンブリが説明される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1つの局面において、本発明は、非侵襲的または最小限に侵襲的な手法を用いて測定可能な可変的な生理学的パラメータに基づいて頭蓋内圧(ICP)を決定する方法およびシステムに関する。別の局面において、本発明は、音響データの取得および処理を行い、非侵襲的に正確なICPを決定する方法およびシステムに関する。更に別の局面において、本発明は、標的領域をそれらの音響的性質に基づいて位置決定し、またある領域の音響走査、着目する領域内におけるある標的部位の音響的性質に基づく識別、音源および/またはデテクタの所望の標的部位上への自動合焦を行う方法およびシステムを提供する。本発明の方法およびシステムに用いられる音響トランスデューサアセンブリ、アレイおよび音源/デテクタ・エレメント複合体も提供する。
【0002】
優先権出願の表示
本出願は、2003年6月3日出願の米国仮出願第60/475,803号、および2003年10月1日出願の米国仮出願第60/508,836号を基礎とする優先権を主張する。
【0003】
超音波イメージングは、組織の性質および生理学的構造の空間的配置に関する情報を与える非侵襲的な診断様式である。医療イメージングの分野では、患者の体内の対象物または構造物の画像を作成するため、超音波がさまざまなモードで用いられる場合がある。透過モードでは、対象物の一方の側に超音波送信器が配され、音波は前記対象物を透過して超音波受信器に送信される。各画素の明度が受信器に到達する前記超音波の振幅の関数となる画像が作成される場合(減衰モード)があり、または、各画素の明度が前記音波が受信器に到達するための所要時間の関数となる場合(飛行時間モード)がある。代替的には、前記受信器が前記対象物に対して前記送信機と同じ側に配されている場合は、画素の明度が反射された超音波の振幅の関数となる画像が生成される場合がある(反射または後方散乱またはエコー・モード)。ドップラー・モードでは、前記組織(または対象物)は、該組織(または対象物)から反射して受信器に戻る超音波の位相シフトを測定することによって画像化される。
【0004】
医療用超音波トランスデューサは、電極により駆動される1個または2個以上のピエゾ素子から構成される。かかるピエゾ素子は、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、二フッ化ポリビニリデン(PVDF)、PZTセラミック/ポリマー複合材料等から構成される。前記電極は電圧源に接続され、電圧波形が印加され、前記ピエゾ素子は印加された電圧に対応する周波数でその寸法を変化させる。電圧波形が印加されるとき、ピエゾ素子は該素子が結合されている媒体内に、励起波形に含まれる周波数の超音波を発振する。逆に、超音波がピエゾ素子に入射する時は、前記ピエゾ素子は前記電極間に対応する電圧を発生させる。これまでに、様々な超音波トランスデューサの構成が本発明の技術分野で知られている。
【0005】
イメージング用に使用する場合、超音波トランスデューサには、アレイ状に配列され異なる電圧で駆動される複数のピエゾ素子が設けられる。印加電圧の位相および振幅を制御することによって複数の超音波が組み合わされ、所望のビーム方向に伝搬され、前記ビームに沿って選択された点に合焦される、合成の超音波が発生される。印加電圧の位相および振幅を制御することによって、前記ビームの焦点をある面内で移動させ、被験者を走査することができる。多くのこの様な超音波画像システムが当業者に周知である。
【0006】
ドップラー超音波は、医療分野で長年にわたって用いられている。ドップラー超音波法では、反射物体の速度を示す反射超音波の周波数シフト(ドップラー効果)を測定する。ドップラー超音波法の実績ある用途としては、分娩中の胎児心拍数の監視、頸動脈内血流の評価等がある。ドップラー超音波法の用途はこの20年間に大きく拡大し、今では循環器科、神経内科、放射線科、産科、小児科および外科等、多くの医療専門分野で用いられている。今日のドップラー技術は、頭蓋内動脈の血流検出も可能である。
【0007】
経頭蓋超音波ドップラー(TCD)法では、頭骨の比較的薄い領域に超音波を照射することが必要である。ドップラー信号の周波数もまた調整され、頭骨を通じた超音波の伝達を増強するために連続波ではなくパルス波の超音波が用いられる。トランスデューサの位置と角度、および測定機器の深度設定を変えることにより、大脳動脈、内頸動脈、脳底および椎骨動脈からの血流速をサンプリングすることができる。最も一般的な頭蓋のウィンドウは眼窩に置かれ、また側頭および後頭下の領域に置かれる。
【0008】
TCD超音波検査は、時間分解能をもって脳内血流動態(hemodynamics)を評価するための、簡単に使えて、非侵襲的で、放射線を使わず、比較的安価な方法を提供し、また、脳還流(cerebral perfusion)の変化を高い信頼性をもって検出することができる。TCD超音波検査を用いると、様々な生理学的および薬学的負荷に対する脳血管の応答性を瞬時に評価することができ、また、様々な脳循環試験を頻繁かつ安全に繰り返すことができる。経時的な脳還流の素早い変化を追跡し、記録し、解析することができる。
【0009】
頭蓋内圧
健常な哺乳動物、特にヒトは、ほぼ一定の頭蓋内容積を有し、したがってほぼ一定の頭蓋内圧を有する。様々な条件が頭蓋内容積を変化させ、結果的に頭蓋内圧を変化させる。頭蓋内圧が上昇すると、頭蓋内圧が正常値を超える状況が発生する場合があり、また、平均動脈圧に近づくか、または等しくなる場合さえあり、脳への血流が減少する。頭蓋内圧の上昇は脳への血流を減少させるばかりでなく、脳内細胞の正常な代謝にも影響を及ぼす。状況によっては、頭蓋内圧の上昇が脳を機械的に圧縮し、ヘルニアを発生させる場合がある。
【0010】
頭蓋内圧の上昇の原因として最も多いのは、頭部外傷である。頭蓋内圧上昇のその他の原因としては、揺さぶられっ子症候群(shaken−baby syndrome)、硬膜外血腫、硬膜下血腫、脳溢血、髄膜炎、脳炎、鉛中毒、ライ症候群、ビタミンA過剰症、糖尿病性ケトアシドーシス、水中毒、脳腫瘍、頭蓋腔内の異物または血塊、脳膿瘍(abcesses)、脳卒中、ADEM(急性汎発性脳脊髄炎)、代謝不全、水頭症、硬膜洞および静脈血栓症等がある。頭蓋内圧の変化、特に頭蓋内圧の上昇は非常に危険で、生命を脅かす場合もある。したがって、迅速な処置と継続的な監視を要する。
【0011】
従来の頭蓋内圧監視装置としては、硬膜外カテーテル、くも膜下ボルト/ねじ、脳室造瘻カテーテルおよび光ファイバー・カテーテルがある。これらの方法およびシステムはすべて侵襲的である。硬膜外カテーテルは、例えば頭蓋手術中に挿入される場合がある。硬膜外カテーテルは感染の危険性が比較的低く、頭部の動きに伴うトランスデューサの位置調節も必要としないが、検知精度は硬膜を通して低下し、またCSFを排出することができない。くも膜下ボルト/ねじ法は脳の貫通が最小限で済み、感染の危険性も比較的低く、直接的な圧力測定が可能であるが、無傷の頭骨に貫通させる必要があり、CSFの排出も不十分である。脳室造瘻カテーテル法ではCSFの排出とサンプリングが可能であり、頭蓋内圧を直接測定することができるが、カニューレの挿入経路に沿って感染、脳出血、浮腫を起こす危険性が大きく、また頭部の動きに伴いトランスデューサの位置の再調節が必要である。最後の光ファイバー・カテーテル法は、カテーテルを脳室、くも膜下腔または脳組織中に挿入することができるため汎用性が高く、頭部の動きに伴うトランスデューサの位置調整も必要ないが、監視装置が別に必要である。
【0012】
これら従来の方法はいずれも侵襲的な手順を要し、どれも頭蓋内圧を長期間にわたって定期的に監視するには向いていない。その上、これらの手法は免許を持つ脳神経外科医を置く病院内でのみ実施可能である。更に、これら従来の手法はいずれもICPを局所的に測定するものであり、局所的ICPが脳全体のICPを反映するという仮定の上に成り立っている。
【0013】
間接的および/または非侵襲的に頭蓋内圧を測定する方法およびシステムが種々開発されている。これらの方法の幾つかは、超音波法を採用している。
【0014】
例えば、特許文献1には、頭蓋内および頭蓋外の眼動脈部双方について眼動脈内の血流速を検出する超音波ドップラー装置を用い、頭蓋内圧を非侵襲的に測定する方法が開示される。血流が測定される眼には、眼動脈の頭蓋内部位および頭蓋外部位の血流測定値を均等化するに十分な程度の小さな圧力が加えられる。かかる均等化が起こる圧力は、頭蓋内圧の受け入れ可能な指標であることが開示される。実際には、加圧チャンバーが眼の周囲にシールされ、眼動脈の頭蓋内部位および頭蓋外部位の血流測定値を等しくするように、加圧チャンバー内の圧力が制御される。
【特許文献1】Ragauskasら、米国特許第5,951,477号明細書
【0015】
特許文献2には、頭蓋内媒体内のある領域の特性の時間依存性を導き出す、超音波による非侵襲的手法が開示されている。音響パルスの走行伝搬時間(transit travel time)の正確な測定が行われ、基底動脈および脳室の断面寸法と、例えば心拍に起因する基底動脈または脳室の拍動性または脳組織の圧力変動を表す変量部分を抽出するために処理される。周波数および位相の検出手法も記載される。
【特許文献2】Ragauskasら、米国特許第5,388,583号明細書
【0016】
特許文献3は、動脈の弾性またはコンプライアンス、およびその内圧に関連する値を算出するための情報を提供する、様々な血流及び血管パラメータを測定するために用いられる、超音波エコー検査法を開示する。
【特許文献3】Bonnefous、米国特許第5,411,028号明細書
【0017】
特許文献4は、頭骨の自然周波数および周波数応答スペクトルの変化を測定することにより、頭蓋内圧を非侵襲的に測定する方法および装置を開示する。頭骨の自然周波数および周波数応答スペクトルの変化は、骨を伝導する機械的な波を生み出す強制的な機械振動刺激を与え、続いて周波数応答スペクトルを検知することによって測定される。スペクトル応答データを経時的に比較することにより、ICPの傾向および変化がわかる。
【特許文献4】Mick、米国特許第5,117,835号明細書
【0018】
特許文献5は、眼圧(IOP)、および網膜神経繊維層の厚さまたは視神経乳頭の前後位置のような視神経パラメータに基づいて、非侵襲的にICPを求める方法を開示する。
【特許文献5】Borchertら、米国特許第6,129,682号明細書
【0019】
特許文献6は、ドップラーシフト、および外部から手動で圧力を与える前後の血流速の相関に基づいて血流速を非侵襲的に求め、頭蓋内圧、眼圧、および血液還流に影響を与える他の様々な身体条件の測定値を与えるシステムを開示する。
【特許文献6】Madsenら、米国特許第6,086,533号明細書
【0020】
特許文献7は、脳と相互作用を行う音響信号の性質、例えば音響伝達インピーダンス、共鳴周波数、共鳴特性、音速等、に基づき頭蓋内圧を測定する非侵襲的な装置および方法を開示する。周波数100kHz未満の低強度の音響信号が用いられる。
【特許文献7】Bridgerら、米国特許第5,919,144号明細書
【0021】
特許文献8は、超音波を用いた頭蓋内圧の測定装置を開示する。頭蓋内の間質境界における入射超音波の複数の反射により生ずる干渉反射波から得られるデータについて周波数解析を行い、その干渉反射波の基本波(element waves)間の時間差を算出し、出力とする。記載される前記装置は、心拍検出用の心電計と、電圧パルスを発生するパルス発生器と、前記パルスを受信し、超音波パルスを頭蓋内に伝達し、入射波のエコーを受信する超音波プローブと、様々な計算を行うプロセッサとを内蔵する。
【特許文献8】Kageyamaら、米国特許第4,984,567号明細書
【0022】
特許文献9は、頭蓋の一方または両方のこめかみ、または延髄に超音波バーストを照射して脳の微小出血を検出し、画面上に表示された組織の様々な深さから受信されるエコー読取り値が得られる方法を提案する。前記エコーの読取り値は、結果として生ずる頭蓋に対する脳組織の微小変位を示した。超音波バーストのタイミングは患者の心拍と同期させる必要がある。
【特許文献9】Beach、米国特許第5,951,476号明細書
【0023】
特許文献10は、高強度の集束超音波におけるトランスデューサの進相(phase advancement)を求める方法を開示する。特定の倍音エコーが被処置領域から全方向に分布し、前記特定の倍音エコーの遅延が、被処置領域に集束するパルスを伝達させる伝搬経路伝達時間の目安となる。
【特許文献10】米国特許第6,042,556号明細書
【0024】
特許文献11は、中線構造の縦方向シフトの初期診断に用いられる脳エコー造影装置を開しており、患者の頭部に超音波パルスが印加され、このパルスは所定の構造部へ伝搬し、一部がエコーパルスとして反射される。シフトは、前記エコーパルスの伝搬時間を測定することによって求められる。
【特許文献11】米国特許第3,872,858号明細書
【0025】
特許文献12は、ICPの変化によって誘発される脳を被覆する硬膜の厚さ変化の超音波解析に基づき、頭蓋内圧を測定する装置を記載する。
【特許文献12】米国特許第4,984,567号明細書
【0026】
特許文献13は、患者の頭部の脳室の脈動を表す超音波後方散乱を利用した非侵襲的なICPの決定について述べている。これには、エコー・パルソグラム(EPG)の解析が含まれる。特許文献14は、患者の頭骨および脳を伝搬し、超音波プローブに対して垂直な経路に存在する頭骨および軟部組織で反射される超音波パルスを発生させることを含む、組織共鳴分析用の装置および方法を開示する。反射信号は公知の処理を施され、振幅の関数を距離に対してプロットしたエコー脳造影図(エコーEG)が生成される。エコーEG信号の一部を選択し、選択範囲にわたって積分すると、エコー・パルソグラフ(EPG)信号が得られる。ECG信号をリファレンスとし、前記EPG信号を用いて、組織の生理学的状態に関する情報が得られる。具体的な1つの実施態様では、前記EPG信号を用い、第8欄、7行目に記載される関係を利用して、ICPの定量的な測定値が得られている。
【特許文献13】Michaeliら、PCT国際公開第WO00/68647号公報
【特許文献14】Michaeliら、米国特許第6,328,694 B1明細書
【0027】
本明細書にその全体が引用により包含される特許文献15は、内因性および/または誘発性の組織変位の少なくとも一側面、または付随する生物学的応答に関連するデータを取得することにより、組織の性質を非侵襲的に評価する方法およびシステムが開示されている。組織変位および付随する生物学的変化に関するデータは、好ましくは散乱またはドップラー検出モードにて、超音波呼びかけパルスを用いて組織の音響的性質を検出することにより取得される。かかるシステムと方法の具体的応用例としては、疾患および組織の性質の物理的変化によって特徴付けられる状態の診断および監視は勿論、ICP動脈血圧(ABP)、CNS自己調節状態、血管痙攣、脳卒中、局所的浮腫、感染および血管炎(vasculitus)の非侵襲的評価および監視が挙げられる。
【特許文献15】PCT国際公開第WO 02/43564号公報
【0028】
NASAもまた、頭蓋内圧の非侵襲的測定のための方法およびシステムの開発に携わってきた。頭蓋内圧の動態は、重力の変化への適応を理解する上で重要である。ICPは、微小重力に曝されると上昇する場合がある。宇宙適応症候群の症状には、頭痛、吐き気、噴出性嘔吐等があり、頭蓋内圧上昇時の症状と類似している。しかし、従来のICP測定手法では、その侵襲的な性格から、ICPが微小重力環境下で変化するという仮説を検証することが難しい。そこでNASAは、ICPのゆらぎに伴って生ずる頭骨の動きの検出に基づいてICPを測定するための、改良型のパルス位相同期回路(PPLL)法を開発している。頭骨の脈動の検出には超音波技術が用いられ、超音波トランスデューサと反射体との間の距離のわずかな変化が測定される。測定器により500kHzの超音波バーストが頭蓋を通過して伝達され、超音波は頭蓋腔を通過した後、頭骨の反対側の内表面で反射され、同じトランスデューサに受信される。測定器は放出波および受信波の位相を比較し、超音波出力と受信信号との間の位相差90°が保たれる様に、次回の刺激の周波数を変更する。実験データによれば、PPLL出力は直接的に測定されたICPに対して高度、かつ予想範囲内の相関を示した。
【0029】
Schmidtらは、幾つかの文献において、線形変換則にしたがって動脈血圧(ABP)および血流速度(FV)をICPに関連付ける数学的モデルを用いてICPを監視する非侵襲的な方法を記載している。血流速は、経頭蓋超音波ドップラー(TCD)装置を用いて測定される。関連付けは、脳の自己調節に対しても行われた。
【0030】
Schmidtらによるモデルは、臨床的に有用なレベルには達しないものの、患者群の部分集合においてICP曲線をリアルにシミュレートすることができた。ICP力学の線形システム解析はよく検討された手法ではあるが、我々の推測では、心臓血管系に本来的に備わる非線形的性質(特に、動脈の非線形粘弾性特性および血液の非ニュートン流体的性質)は、非線形システム解析モデルの方がより良く特徴付けられると思われる。
【0031】
特許文献16および17は、ソノミクロメーター信号から遅いドリフト・アーチファクトを排除することにより、頭骨径の測定から得られるICP測定データの品質を向上させる方法を開示する。これらの方法では、ニューラル・ネットワークまたは別の非線形エンジンを用いて、ソノミクロメーター出力から心拍成分を抽出する。
【特許文献16】米国特許第2001/0039386 A1号明細書
【特許文献17】米国特許第2002/0183650 A1号明細書
【0032】
動脈血圧
動脈圧(ABP)は、個人の健康状態の基本的な客観的目安である。実際、これは「生命徴候(vital sign)」であり、医療および保健の全領域で極めて重要である。ABPの正確な尺度は、心臓血管系および血液動態学上の健康状態について、患者の健康状態を最上にするための適切な介入を示しながら、安定、切迫、緊急、手術中の状態を決定する上で助けとなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0033】
現在ABPは、空気圧プレチスモグラフまたはKorotkoff法としてしばしば説明される、空気圧カフを用いて、非侵襲的に測定されることが最も一般的である。この測定様式は、簡単かつ安価に実施できるが、ABPの最も正確な測定値を提供するものではなく、また、血管壁の状態、患者の体格、患者の血液動態学的状態および血管平滑筋の自律神経性緊張に起因するアーチファクトの影響を受けやすい。更に、ABPのカフ測定を繰り返すと、動脈壁の収縮によりABPの読値が実際よりも高く出る。これらの問題を解決し、また、ABPの連続測定を提供するために、侵襲的動脈カテーテルが使用される。かかるカテーテルは非常に信頼性が高く、最も正確なABPの測定値を提供するが、熟練した医療従事者、通常は医師によって配設される必要があり、また、大型で、複雑で、壊れやすく、滅菌した器具を要する。更に、カテーテルを挿入する際に、虚血性事象を招く永続的な血管損傷の危険がある。この結果、これらの侵襲的な監視手法は、病院施設内で、重篤な患者または術中の患者に対してのみ用いられる。
【課題を解決するための手段】
【0034】
本発明の方法およびシステムは、非侵襲的または最小限に侵襲的な手法を用いて測定できる1つまたは2つ以上の生理学的な可変パラメータに基づいて、ICPを正確に評価し、監視する。前記生理学的な可変パラメータの1つは頭蓋内血流に関連している場合があり、また例えば、脳血流または血流速のような頭蓋内血流または頭蓋内血流速に関連する組織または血液の音響的性質として定量化できる場合がある。1つの実施態様では、ICPは脳組織の音響的性質に基づき、または血流または脳血流速度、および/または動脈血圧(ABP)に基づいて決定される。
【0035】
以下に詳述する代表的な実施態様では、患者のICPは、少なくとも2つの可変パラメータ、即ち(1)例えばTCD装置を用いて測定される、中大脳動脈(V mca)の音響散乱または血流速と、(2)侵襲的または非侵襲的に測定されたABPとに基づいて決定される。ABPは、従来の手法か、本明細書に述べる超音波技術かを用いて測定される場合がある。1つの実施態様では、ABPは「能動的」および/または「受動的」超音波技術を用い、MCAまたは頸動脈または椎骨動脈のような頭蓋血管内で非侵襲的に測定される。本実施態様では、V_mcaは本発明の超音波装置を用いてABPと同時または交互に測定される場合がある。
【0036】
別の実施態様では、患者のICPは、(1)MCAや頸動脈のような頭蓋血管、または別の頭蓋血管の上、内部、または近傍の標的部位から得られるドップラー、または音響散乱のような他の音響測定値と、(2)頭蓋血管の上、内部、または近傍の標的部位とは異なる標的CNS部位の少なくとも1ヶ所または2ヶ所以上において、本明細書で述べる能動的および/または受動的な音響的手法を用いて測定される、ABPおよび/またはCNS組織変位という、少なくとも2つのパラメータに基づいて決定される。更に別の実施態様では、患者のICPは、(1)MCAまたは頸動脈または椎骨動脈のような頭蓋血管の上、内部、または近傍の標的部位から得られる音響散乱データと、(2)頭蓋血管の上、内部、または近傍の標的部位とは異なる標的CNS部位の少なくとも1ヶ所または2ヶ所から得られたABPおよび/または音響散乱データとに基づいて決定される。
【0037】
本発明の方法およびシステムにより、組織剛性、内因性および/または誘発性の組織変位、pCOのような脳呼吸および代謝に付随する気体の分圧、血液還流、ヘマトクリット、誘発電位のような組織のEKGおよび/または電気生理学的性質、といった血液および/または中枢神経系(CNS)組織のその他の生理学的性質が、ICPの決定に用いられる場合がある。多くの実施態様では、音響散乱データおよび/または散乱データのドップラー解析結果、および/またはABPととともに、血液および/またはCNSの生理学的性質の1つまたは2つ以上が瞬時のICPの決定に用いられる。代替的な実施態様では、血液および/またはCNS組織の1つまたは2つ以上の生理学的性質が、血流速に関するデータを要することなく、瞬時のICPの決定に用いられる場合がある。
【0038】
血液、血管壁および血管を含めた組織の音響的性質、および組織変位は、引用によりその全文が本明細書に取り込まれる、PCT国際公開WO 02/43564号公報および米国特許第2002/0095087 A1号明細書に記載された超音波技術を用いて評価できる場合がある。これらの公報には、「能動的」および「受動的」音響モードが開示されており、いずれも本発明の方法およびシステムで用いられる場合がある。「受動」モードでは、固有(内因性)組織変位に関連するデータを取得するために音響(超音波)的手法が用いられる。1つの「能動」モードでは、標的組織を刺激または探査するために、または集束超音波を照射して標的組織における応答を誘発するために、音響(超音波)的手法が用いられる。別の「能動」モードでは、音響(超音波)的手法により集束超音波が照射され、標的組織に振動を惹起させる。超音波後方散乱および/または放射データは、例えば固有の組織変位に関連しており、これはICP、ABP、CPP、自己調節状態、様々な組織の性質、および生理学的状態に関連付けることができる。本発明の方法およびシステムの実施態様の幾つかにおいては、組織の性質を評価するために、受動的および能動的な超音波技術が同時または交互に用いられる場合がある。本発明の1つの実施態様では、例えばTCD法のような「受動的」超音波技術を用いてV_mcaが決定される一方、「受動的」および/または「能動的」超音波技術を用いてABPが測定される。前記V_mcaおよびABPの測定値は、例えばICPの決定に用いられる場合がある。
【0039】
例えば、動脈血流およびCSF供給の経路にあって固有の変位を受けるCNS内の標的組織部位からの音響散乱の大きさおよび/または振幅および/または位相が、CNS組織の剛性、例えばヤング率、に直接関連付けられ、したがって経験的にICPに関連付けられる。代替的または追加的に、1心周期内、若しくは1つまたは2つ以上の呼吸周期で変調された1心周期内の、CNS組織の大小の固有振動の相互関係が、ICPと経験的に関連付けられる。評価および組織の特性への関連付けが可能な固有組織変位の性質は、1心周期内の最大振幅のような振幅の様々な成分と、1心周期内の後続振動の平均または分散の最大振幅に対する最大振幅の比と、変位の速度または加速度等のような固有CNS組織変位または弛緩の考え得るあらゆる変化率とを含む。ABP測定値および/または呼吸データのような追加のデータが、音響データとともに収集され、ICP、CPP、自己調節状態または許容度等の様々な評価や決定を下すために利用される場合がある。
【0040】
第1の「能動的」音響データ取得モードでは、本発明の方法およびシステムは、集束超音波の照射により、標的組織を刺激または探触し、あるいは標的組織部位に応答を誘発させる。集束超音波の照射に対する前記標的部位の応答は、相対位置の変位または変化、温度変化、血流変化、または別の検出可能な応答である場合がある。例えば、標的組織部位を「打診」するための音響放射力の適用は、1つまたは2つ以上の音響信号を照射することにより達成される場合がある。超音波のような非侵襲的な手法と、近赤外分光法および光学コヒーレンス・トモグラフィーのような光学的技術と、磁気共鳴的技術、電気生理的な外部刺激、患者の応答等を含むその他の技術とが、集束超音波の照射に対する少なくとも1つの応答を評価するために用いられる。超音波イメージングまたは磁気共鳴イメージングのような可視化または画像化法も、集束超音波パルスの照準合わせおよび応答組織の差次的な位置確認を行うために用いられる場合がある。
【0041】
CNS組織のような生体材料は、超音波が該材料の内部を通過して伝搬する際に該超音波の一部を吸収する。例えば、Rudenkoら(1996),“Acoustic radiation force and streaming induced by focused non−linear ultrasound in a dissipative medium,”J.Acoust.Soc.Am.,99(5),2791−2798を参照せよ。また,CSFと脳組織との間のような,異なるタイプの組織の境界では,超音波を界面に集めるような「インピーダンス不整合」(即ち,密度と音速との積の組織間での差異)が存在する。例えば,ChuおよびApfel,(1982)“Acoustic radiation pressure produced by a beam of sound,”J.Acoust.Soc.Am.,72(6),1673−1687を参照せよ。脳に関しては、超音波の波長が硬膜と脳との間の距離よりもかなり小さい場合はCSF/脳境界、あるいは超音波の波長が硬膜と脳との間の距離よりもかなり大きい場合は有効骨/脳境界のいずれかにおいて、Chuが述べた放射力による偏向は、Rudenkoらが述べた放射力によるそれよりも概して大きい。放射圧への2つの寄与項を表す式は、硬膜と脳との間の距離と同程度の音の波長に変形することができる。
【0042】
記載された実施形態では、我々は、直前で説明したが、本発明の範囲を限定するわけではない、ある種の単純化のための仮定を行っている。ChuおよびApfelが彼らの式(69)として与えた、2つの組織の境界における全圧(単位面積当たりの力)Pを表す次式に着目するとよい。
【0043】
【数1】

【0044】
上記の式において、rho_iは媒体(i)の密度、c_iはその音速、Kは媒体1の「非線形性」パラメータであり、<E>は標的部位に入射する超音波に付随する時間平均エネルギー密度であって、着目する界面における音波の振幅が解れば算出することができる。今回の目的では、媒体「1」は脳であり、媒体「0」はCSFまたは骨のいずれかである。
【0045】
このようにして、集束超音波の照射により変位その他の生物学的応答、並びに音響放射を発生させるために、組織変位が誘発され、組織が音響的に探触または励振される場合がある。音響放射力を利用すると、単一周波数音源がその伝搬中に脳組織のような少なくともある程度のコンプライアンスを持つ材料を音源に対して単一方向に移動させ、音源からの伝搬が中断すると該材料は元の位置に戻る。反復パルスは、組織の一連の変位と弛緩とを誘発する。
【0046】
CNS組織の評価とICPの決定に関しては、例えば、1つまたは2つ以上の音響トランスデューサが被験者の頭骨に接触されるか、または被験者の頭骨の近傍に設置される。音源と標的組織部位との間の環境の特性を評価するために、必要に応じて以下に述べる初期環境評価が、好ましくは超音波技術を用いて行われる場合があり、これにより前記標的組織に照射される音圧の大きさが決定される場合がある。音響トランスデューサと脳表面のような様々な構造上の目印との間の距離、頭骨の厚さ、硬膜質の厚さ、CSFを含むくも膜層の厚さ、様々な構造体と組織との間のインピーダンス不整合等のような環境因子が決定される場合がある。前記初期環境評価は、様々な方法およびシステム・パラメータに対して決定力を持つ。環境評価は更に、診断または監視のプロセスを通じて定期的に更新される場合がある。
【0047】
前記環境評価に引き続き、音響トランスデューサにより所定の周波数の音圧を照射し、脳表面のような所望の位置にある脳組織を変位させる。前記変位は、音響放射力を生ずる単数または複数の超音波トランスデューサの単数または複数の焦点に応じて、組織内の所望の位置に惹起させることができる。一部のシステムは可変焦点式の超音波トランスデューサを備えており、1つの診断手順が複数の標的組織部位を用いて実行される。ICP評価の1つの実施態様によれば、単数または複数の超音波トランスデューサの単数または複数の焦点を皮質表面に近接して、または皮質表面から僅かに下に合焦させ、脳とCSFとの間、または脳と骨との間のインピーダンス不整合(照射された超音波の周波数に依存する)に起因して放射圧により誘発される組織変位を最大化する。繰り返すが、本発明の方法およびシステムでは、ChuおよびApfelが述べたインピーダンス不整合に起因する放射力がRudenkoらが述べるそれをかなり上回ることを要しない点が重要である。
【0048】
照射された音響放射力はCNS組織内に検出可能な変位を誘発するに十分であり、または照射された超音波ビームは検出可能な生物学的応答を誘発するに十分であるが、検査対象の組織に医学的に好ましくない変化をもたらすことはない。例えば、照射される前記音響放射力は、標的組織の近傍の組織に対してこれを破壊または損傷する程の剪断力を与えてはならない。更に、照射された超音波は、許容できない損傷が生ずる程に検査対象の組織の温度を検知し得る程に上昇させてはならず、また、検査対象の組織に広範囲または損傷の大きいキャビテーションを誘発したり、その他の有害な機械的効果を発生してはならない。超音波の適切な照射量は、周知の手法を用いて決定できる場合がある。例えば、Fryらは、ほ乳類の脳組織に構造変化を来す超音波照射量の閾値を検討し、下記の文献の図1に、音響強度と、ほ乳類(ネコ)脳白質に閾的な病変を生ずる単一パルス照射時間との間の関係を示している。Fry et al.,Threshold Ultrasonic Dosages for Structural Changes in the Mammalian Brain,The Journal of the Acoustical Society of America,Vol.48,No.6(Part 2),p.1413−1417(1970)。
【0049】
更に、音響周波数は、頭骨を貫通できる程度に低く、かつ、注目する場所の標的組織に測定可能な変形を生じさせるに十分な程度に高くなければならない。先に概説したパラメータの中では、周波数の高い音波ほど集束させ易く、好ましい。強度は、組織を変形させ得る程度には強くなければならないが、検査対象の組織に望ましくない変化をもたらす程に強くてはいけない。パルス長は、比較的短いものの、必要に応じ、標的組織に測定可能な変形または振動を惹起させ得るのに十分長い方が好ましく、一方、パルス反復頻度は、医学的に許容されない変化を組織内に誘発させることなく、組織内の医学的に注目される時間的特徴を分解するに十分なほど大きくなければならない。
【0050】
一般に、組織変位またはそれに付随する生物学的応答に関する少なくとも1つの音響特性が、決定され、組織の特性に関連付けられ、究極的には臨床上重要なパラメータに関連付けられる。例えば、既知の音圧によって誘発された変位の大きさまたは振幅は、CNS組織の弾性(または剛性またはコンプライアンス、例えばヤング率)に直接関連付けられ、したがってICPに経験的に関連付けることができる。決定され、組織の特性に関連付けられる場合がある標的組織の変位の他の性質としては、音圧の方向における最大振幅、または音圧の方向と垂直な方向における最大振幅のような振幅の様々な成分と、変位または弛緩の速度または変化率のような変位またはそれに続く組織の弛緩の考え得るあらゆる変化率と、変位の形状の様々な成分の振幅または変化率と、変位に伴う音響散乱信号のフーリエ表現またはウェーブレット表現の変化と、音響放射力によって発生した剪断波の特性と、誘発された第2高調波変形の特性等がある。また、標的組織から戻って来るパルス・エコーの時間変位も変位の振幅を示し、決定される場合がある。これらの特性は、すべて「変位」の尺度とよばれる。
【0051】
第2の「能動」モードでは、集束超音波の照射が標的組織を振動させ、前記標的組織から放出される音響信号に関するデータが収集される。これらの信号を、本明細書では音響放射と称する。一般に、集束超音波の照射に関する本発明の方法およびシステムは、標的組織に振動を起こすために用いられる場合があり、放出された音響信号は組織特性および生理学的状態に関連付けられる。
【0052】
1つの実施態様では、本発明の方法およびシステムは、異なる周波数で駆動される少なくとも2個の音響プローブを含む共焦点音響システムか、またはあるパルス反復周波数(PRF)で動作する単一の音響プローブを含む単焦点音響システムかを用いて、脳組織のような標的組織に振動放射力を誘発させる。発生する振動は、2本の共焦点音響ビームの重なりによってマークされる標的位置における照射周波数の差の周波数か、プローブが単一の場合は、PRFかである。集束超音波の照射中および照射後には、前記標的組織はその固有の性質に関連する音響信号を放出する。したがって、この第2の能動モード動作は、組織の特徴付けに用いられる場合がある。診断用超音波技術は、放出された音響信号の周波数その他の性質の測定に利用される場合があり、これらは組織の特性と経験的に関連付けられる。
【0053】
超音波音源を頭蓋内血管上、またはその内部、またはその近傍に合焦させた結果として生ずる音響散乱に関するデータは、非侵襲的手段を用いて取得される場合があり、また、本発明の方法論およびシステムを用いてICPを決定するためのデータを提供する場合がある。血流速のような頭蓋内血流の性質も、経頭蓋超音波ドップラー(TCD)技術を用いて決定され、またICPを決定するためのデータを提供する場合がある。本発明の方法およびシステムは、CNS内部の標的部位、またはMCAのような頭蓋血管の内部、上、または近傍(「上」と総称する)の標的部位、またはかかる標的部位に近接した組織から得られる生の音響散乱データを用いる場合があり、あるいはドップラー・データのような処理済みの音響データを用いる場合がある。
【0054】
血液、血管壁、血流に近接した組織、およびその他の組織部位を含む組織の音響的性質は、例えば、頭蓋内血管に照準を合わせるか、その上に合焦されるか、および/または、他の標的部位に照準を合わせる、超音波トランスデューサを用いて音響散乱データを収集することにより決定される場合がある。ICPを決定するためには、前記標的部位は、好ましくは頭蓋血管、脳組織等のようなCNS組織部位である。前記標的部位は、いかなる組織部位(血液、脳髄液[CSF]、硬膜等、これらは「組織」に含まれる)であってもよく、必ずしも骨性組織である必要はない。特別な実施態様については、CNS標的組織部位は脊髄の上、内部またはその近傍(「上」と総称する)に位置する場合がある。1つの実施態様では、音響散乱データは、後述のようにTCD技術を用いて中大脳動脈(MCA)上の標的部位で得られる。あるいは、頭蓋血管、および頸動脈や椎骨動脈のような脳を横断する若しくはCNS組織部位と連結するその他の生理学的構造から得られる音響散乱のような音響的性質が、頭蓋腔の外部で得られる場合があり、本発明の方法において測定のための良い標的部位となる。したがって、音響データをMCA上の標的部位からの取得する場合に関して本発明の代表的な方法およびシステムを述べるが、CNSと連結する、またはこれを横断する他の頭蓋血管上の標的部位も用いられる場合があると認識されるであろう。
【0055】
多くの実施態様で、超音波検出技術は標的CNS組織の音響的性質の評価に好まれる。超音波源および検出器は、透過モードか、圧力波から剪断波への変換、またはその逆の変換を検討するモードを含む、様々な反射または散乱モードかで用いられる場合がある。本発明の方法およびシステムの多くの実施態様では、後方散乱または前方散乱のような音響散乱、または反射、特に後方散乱の値またはその変化を測定する超音波的検出法が好ましく用いられる。本発明によるICPの決定に用いられる場合がある音響データの例としては、音響信号の振幅、位相および/または周波数の値またはその変化と、呼びかけ信号に対する散乱信号の長さの値またはその変化と、1心周期および/または1呼吸周期中の音響信号の主要なおよび/または他の最大および/または最小振幅の値またはその変化を含む、音響信号の値またはその変化と、1心周期中における後続振動の平均、分散または分布に対する最大および/または最小振幅の比の値またはその変化と、異なる時点で同じ標的位置における、および/または、同じ時点で異なる標的位置における散乱信号または放射信号の時間的または空間的分散の値またはその変化と、固有の、および/または誘発性の脳組織変位または弛緩の値またはその変化、変位の速度または加速度等のようなかかる変位の変化率と、これらのデータの組合せとが含まれる。
【0056】
複数の音響呼びかけ信号が、同じまたは異なる周波数、パルス長、パルス繰返し頻度、強度で用いられる場合があり、また、前記複数の呼びかけ信号が同じ場所または複数の場所から同時におよび/または逐次的に放出される場合がある。音響散乱データは、例えば頭蓋腔の内部または外部において、ある頭蓋血管に沿った異なる場所か、または異なる血管またはそれに近接する複数の場所か、または複数のCNS組織部位かから、収集される場合がある。単数または複数の呼びかけ信号から得られる散乱は、単数または複数の周波数で、単数または複数の時刻に、単数または複数の場所で、検出される場合がある。1つの実施態様では、本発明の方法およびシステムは、CNS組織内におけるICPの差の発生位置を特定し、これによって外傷や機能不全の位置を特定するのに用いられる場合がある。これは、複数のCNS部位から音響データを取得し、前記複数のデータ集合を処理し、CNS組織内の対応する複数の空間的位置に対応するICPを決定することにより、達成される場合がある。
【0057】
音響散乱または血流速のような頭蓋内血流の性質が、CNS組織を横断するか、CNS組織に入るか、CNS組織から出る、あらゆる血管(「頭蓋血管」と総称する)内で決定される場合があり、動脈が好ましく、中大脳動脈(MCA)、頸動脈および椎骨動脈が特に好適である。頭蓋内血流の性質は、あらゆる非侵襲的な、または最小限に侵襲的なモダリティーを用いて決定される場合があり、好ましくは経頭蓋超音波ドップラー(TCD)のような当業者に良く知られた超音波技術を用いて決定される。1つの実施態様では、TCD技術はMCA内の血流速(V_mca)の測定に用いられ、V_mcaの測定値は、単独でか、ABPおよび/またはCNS組織変位のような他の生理学的パラメータととともに、ICPの決定に用いられる。TCDを用いた頭蓋血管血流速の評価は本発明の方法およびシステムの多くの実施態様に好適であるが、近赤外線分光(NIRS)技術のような非侵襲的光学検出技術のような他のモダリティーを用いて、頭蓋血管および/または血流特性、およびその他のCNS組織の性質が、代替的に、または追加的に測定または予測される場合がある。
【0058】
以下に詳述する本発明の方法およびシステムの1つの実施態様では、2つの可変入力、即ち頭蓋血流速度(即ち、頭蓋血管上の標的部位から収集された音響散乱データ)、および動脈血圧(ABP)がICPの決定に用いられる。超音波技術は、血流速のような、単数または複数の頭蓋血管または血流の音響的性質を非侵襲的に測定するのに好ましく用いられる。TCDは好適な超音波技術であり、実質的に連続的な血流速の測定値を提供することができる。TCD装置については多くの形式が当業者に周知であり、本発明のICP決定に可変入力として用いられる音響後方散乱および/または頭蓋血流速度データを収集するために用いられる場合がある。Spencer Technologies社製TCD 100M Power M−Modeデジタル経頭蓋超音波ドップラー装置は、かかる好適な装置のひとつである。ABPは、侵襲的な手法が用いられる場合もあるが、好ましくは非侵襲的な手法を用いて測定される。
【0059】
頭蓋血管および/または血流の特性と、ABPとは、実質連続的に、または間欠的に測定される場合がある。血流速度の測定値は、TCD技術を用いて実質連続的に、または間欠的に決定される場合がある。ABPは、例えば侵襲的な動脈ラインを用いて実質連続的に測定される場合がある。ABPは、腕カフまたは脚カフを用いて非侵襲的に、間欠的に測定される場合がある。ABPはまた、PCT国際公開第WO 02/43564号公報に記載される音響的手法を用いて、非侵襲的に、間欠的または実質連続的に測定される場合がある。ABPはまた、例えばMedwave,Inc.社(4382 Round Lake Road West,St.Paul,MN 55112−3923)製、VASOTRAC(登録商標)装置を用いて非侵襲的に測定される場合がある。
【0060】
1の局面において、ICPは、超音波ビームが頭蓋血管に合焦された時に発生する音響後方散乱か、例えばTCD技術を用いて測定し、それから、非線形相関を用いて前記音響的性質および/または血流速度をICPに関連付けることにより決定される、血流速度かのような、頭蓋血管に関連する音響的性質を測定することによって決定される。本発明の方法およびシステムにおいてICPの予測に用いられる前記非線形相関は、第1原理を用いて、または経験的データと第1原理との組合せを用いて、経験的に導出される場合がある。血管および/または血流の諸性質の間の前記非線形相関は、非線形数値法はもちろん、例えば、隠れマルコフ・モデル、サポート・ベクトル・マシン、人工ニューラル・ネットワーク、セル・オートマトンおよび非線形フィルタの使用のような、経験的な非線形解析法に基づき導出される場合がある。幾つかの代表的な方法論については後述する。
【0061】
別の局面において、ICPは、超音波ビームが頭蓋血管に合焦された時に発生する音響散乱のような頭蓋血管に関連する音響的性質、または血流速度を測定し、次に血管および/または血流またはCNS組織の諸性質(上述のとおり)の間の線形相関を用いて、前記音響的性質および/または血流速をICPに関連付けることにより決定される場合がある。線形相関は、例えば、一次微分方程式に基づくか、またはナヴィエ−ストークス方程式のような非線形流体力学方程式から導出された線形化方程式に基づく第1原理法を用いて導出される場合がある。第1原理法と経験法とを融合させた方法論も用いられる場合がある。代表的な方法論については後述する。
【0062】
後述のように設定、訓練されたニューラル・ネットワークが、非線形相関を導出し、該非線形相関が、後で詳しく述べられ、2つの可変パラメータ、即ち、TCD技術を用いて得られるV_mca測定値と、動脈ラインを用いて測定されるABPとに基づく実験手順において正確なICPを提供した。侵襲的な動脈ラインを用いて収集された前記ABPデータは、例えば圧力カフを用いて非侵襲的に収集され得る模擬的なABPデータに計算によって調整された。V_mca測定値および調整済みのABPデータを用いた正確なICPの決定は、本発明の方法論およびシステムを用いても実証された。V_mcaデータおよびABPデータのようなデータは、間欠的に、または実質連続的に取得出来る場合がある。データは、1心周期で少なくとも2回収集されることが好ましい。我々が意味するところの「実質連続的な」測定とは、1心周期当たり少なくとも4個のデータ点を収集することであり、好ましくは少なくとも6個のデータ点である。非侵襲的に、または最小限に侵襲的に測定される場合がある、1つまたは2つ以上の変数に基づいてICPを予測するための様々な方法やシステムについては後述する。
【0063】
さらに別の局面において、本発明の方法およびシステムは、ICP、ABPその他のCNSの性質の決定ととともに、またはそれとは独立に、患者の自己調節状態を非侵襲的に決定するために用いられる場合がある。例えば、ABPを予測可能な様式で変調するような動作を被験者に行わせる、人工呼吸器を用いて胸内圧を調節する、血流を極限まで制限する、または利尿薬および/または血管拡張薬または血管収縮薬のような動脈血流を変調させる薬剤を投与することにより、動脈血圧を変調する負荷が与えられる場合があり、自己調節を評価するために本発明の方法およびシステムと併用される場合がある。
【0064】
本発明の方法およびシステムは、臨床専門家にとって意味のある情報を提供する、データ処理、記憶および表示機能を備えた制御コンポーネントに組み込まれていることが好ましい。前記制御コンポーネントは、他の臨床装置と一体化されている場合があり、または他の臨床パラメータに関連する追加データ入力を受信するようにプログラムされている場合がある。1つの実施態様では、ICP決定値に対応して少なくとも数分間から数時間または数日までの期間にわたって「長期」ICPがトレースされ、ICP決定値の経時的な傾向やゆらぎが明らかにされる。経時的に得られた、特定の患者に関連するICP決定値もまた様々なフォーマットで記憶および表示され、様々な期間にわたるICPの傾向が明らかにされる場合がある。2心周期または3心周期以上の期間にわたって得られる実質的に瞬間的なICP測定値を示す「短期」ICPトレースが提供される場合もある。データ表示ユニットの例については後述する。
【0065】
他の局面において、本発明の方法およびシステムは、所望の標的領域の空間的位置を、その音響的性質および前記所望の標的領域への音源の自動合焦に基づいて提供する。所望の標的領域の位置決定を行うための好適な音源/デテクタ・エレメント複合体およびトランスデューサアセンブリも説明される。
【0066】
発明の詳細な説明
本発明の方法およびシステムの一局面は、非侵襲的および/または最小限に侵襲的な測定技術を用いて測定可能な可変入力データを用いたICPの決定に関する。非侵襲的または最小限に侵襲的なV_mcaおよび/またはABPの測定値に基づいてICPを決定する方法およびシステムについて詳述する。本発明の方法およびシステムは様々に異なる形式で実施される場合があるが、本明細書で例示し、また説明する具体的実施態様は、今回の開示が本発明の原理の例示と考えられるべきであり、本発明を本明細書に示される図面や記載に限定する意図は無いという理解の下に提示されるものである。ICPの決定法としては代替法が幾つかあり、それらの多くは、頭蓋血管の内部、上部または近傍からの音響後方散乱のような可変パラメータ単独間の非線形相関か、またはABPおよび/または他の可変パラメータおよびICPの組合せかを利用する。
【0067】
音響散乱、および/または、例えば中大脳動脈(V_mca)内のドップラー血流速、そして特に、侵襲的または非侵襲的(例えば、カフまたはトノメーターを用いた)動脈血圧(ABP)の測定のような、超音波技術を含む、非侵襲的または最小限に侵襲的な手法を用いて取得された生理学的測定値に基づくICPの決定は、様々な経験的方法を用いて行われる場合がある。1つの実施態様では、本明細書で述べるように、V_mcaはドップラー技術を用いて(非侵襲的に)測定され、ABPは「能動的」超音波技術を用いて中大脳動脈のような頭蓋血管内で(非侵襲的に)測定される。線形および非線形の両システムおよび両相関が用いられる場合があり、非線形相関を実行してICPを決定する方法論が概して好ましい。音響散乱、V_mcaおよびABPのような可変入力と、ICPのような所望の出力との間の相関を決定する幾つかの異なる方法論について、以下に説明する。
【0068】
線形フィルター
ICPの予測は、無限インパルス応答(IIR)および有限インパルス応答(FIR)の性質を備えたフィルターの双方を含む線形フィルターを用いて行われる場合がある。線形フィルターの動作としては、スケーリング(例えば、フィルター出力が入力に比例する)と、重ね合わせ(例えば、2つの別々の入力から得られる出力の和が、2つの入力の和から得られるフィルター出力に等しい)とが可能である。かかる動作は、Chen C,Linear System Theory and Design,Oxford University Press,1999に記載されている。ICP予測アルゴリズムは必ずしも時間不変的(time invariant)である必要はないが、時間不変性に関連する品質(例えば、ある動作があらゆる時点において同じ周波数応答のような性質を有する)は、多くの線形システムにも当てはまる。これに対し、単数又は複数の入力信号の性質は、前記アルゴリズムの線形フィルター部の応答特性をダイナミックに記述することができた。
【0069】
心臓血管系における線形性の仮定は厳密に正確ではないが、特定の用途向けには十分な近似を行える場合がある。線形フィルターの出力として、ICPは、ABPおよびV_mcaの1つまたは2つ以上のサンプル、または通常固定のサンプル間隔を有する2つまたは3つ以上のサンプル・データを同時に考慮するタップ付き遅延線のような単数または複数の他のTCD由来の測定値とインパルス応答ベクトルとの和および/または畳込み積で表される場合がある。前記インパルス応答ベクトルは、周知の手段(例えば、最小二乗誤差最小化法)により調整し、実際の患者から収集したデータに適用した場合に演算によって生ずる誤差を最小化する。この線形フィルター法は、従来の研究者が応用しており、例えばSchmidt B、Czosnyka M,Raabe A,Yahya H,Schwarze JJ,Sackerer D,Sander D,Klingelhofer J,Adaptive non−invasive assessment of intracranial and cerebral autoregulation,Stroke、2003 Jan;34(1):84−9に記載されており、限定的な成功を収めている。
【0070】
心臓血管系のある種の性質は、非線形であることが実証されている。即ちそれらは、Hashizume,Y.,1988,“Non−linear Pressure Wave Propagation in Arteries,” Journal of the Physical Society of Japan,Vol.57,N12,pp.4160−4168に記載されているスケーラビリティおよび重ね合わせの線形システムの基準に合致しない。このため、周波数分解のような標準的な線形システム法は、解析法において十分に機能しない場合がある。これらの非線形的性質には、特に、剪断速度に対する血液の粘度変化、および動脈壁の粘弾性が含まれる。
【0071】
非線形方法論
我々は、心臓血管系に非線形的特徴(特に、血管の非線形粘弾性特性および血液の非ニュートン性流体的性質)は非線形システム解析モデルを用いて最も良く特徴付けられるのではないかと仮定した。特に通常の非侵襲的なICP測定では、確率論的時系列予測問題に適用可能と思われる非線形解析法が幾つかある。これらの方法は、以下に述べ、またBengio Y.,Markovian models for sequentialdata,Dept.Informatique et Recherche Operationnelle,NEC Research Institute Online Archive−http://citeseer.nj.nec.comにも記載される隠れマルコフ・モデルを用いる方法、Burges C.,A tutorial on support vector machines for pattern recognition,Data Mining and Knowledge Discovery 1998;2(2):1−47に記載されるサポート・ベクトル・マシンを用いる方法から、以下にも述べる人工ニューラル・ネットワーク(ANN)解析を用いる方法まである。非線形方法論は、状況によっては、線形方法論と併用する形で非侵襲的なICPの決定に用いられる場合がある。ICPの決定は、例えば、経験的に導出された非線形相関を線形第1原理相関と組み合わせて決定される場合がある。
【0072】
非線形フィルターと呼ばれる非線形演算が、ICPと、ABPやV_mcaを含むそれと関連する生理学的測定値との間の相関を記述するのに用いられ得る。一般的には、非線形フィルターはスケーリングや重ね合わせの性質が成立しない演算である。したがって、前記非線形フィルターへの各入力は、線形システム論の標準的方法では記述できない固有の出力を持つ。非線形フィルター論を用いて経験的モデルを構築し得る手段は数多くある。
【0073】
本明細書で述べる可変入力とICPのような所望の決定値との間の経験的相関は、相関法、人工ニューラル・ネットワーク、非線形回帰方法論、ベイズ統計法、人工生命法等のような様々な数学的手法を用いて導出される場合がある。これらの手法の例を、以下に述べる。
【0074】
隠れマルコフ・モデル予測
生理学的可変パラメータに基づくICPの決定は、あるシステムが一定の有限な状態のセットのうちの1つの状態にあって、外界からは隠れているが、各状態に特有の放射または観測可能な現象から推定し得る、隠れマルコフ・モデル(HMM)と見なされる場合もある。かかるモデルは、例えばBoyer,X.,Koller,D,Tractable Inference for Complex Stochastic Processes,Technical report,Stanford University,USA,1998に記載されている。ある状態から何らかの他の状態への遷移のベイズ確率は、あるシステムからの放射を経時的に観察することで推定される場合がある。あるHMMで記述されるあるシステムのあらゆる関連情報は、システムが適合していた以前の状態ではなく、該システムの現在の状態から推定され得る。
【0075】
この意味で、ICPは有限個の未知の状態(例えば、状態1は1mmHgに等しく、状態2は2mmHgに等しい、など)を取り扱うものと見なすことができ、また、ABPまたはV_mcaのような最小限に侵襲的または非侵襲的な測定値は、前記システムの前記状態(ICP値)からの放射であると考えられる場合がある。このHMMシステムは、経験的な測定値に基づき、1つのICPレベルから別のレベルへの遷移の確率を計算するように訓練され得る。したがってこれらの確率は、最近のABPおよびV_mca測定値に基づき、前記システムがある特定の状態にある確からしさを計算するのに用いることができる。
【0076】
知識型エキスパート・システム/人工知能/ヒューリスティック、ファジー論理
ICP、ABPおよびV_mcaの間の相関は第1原理のシステムまたは経験的統計方程式としての数学的形式で表現することができるが、この関係は規則(rules)の形で表現される場合もある。本明細書で言う規則とは、観測可能なデータに基づく、もし…ならばタイプ(if−then type)の決定または連続確率決定(例えば、ファジー論理)である場合がある。かかる知識型エキスパート・システムは、近年、医療診断決定支援との関係で検討されてきており、ICPの上昇の診断に無理なく適用し得る。代表的なシステムは、例えば、Im EO,Chee W,Decision support computer program for cancer pain management,Comput Inform Nurs.2003 Jan−Feb;21(1):12−21、およびMcNeely MD,The use of expert systems for improving test use and enhancing the accuracy of diagnosis,Clin Lab Med.2002 Jun;22(2):515−28.Reviewに記載されている。
【0077】
例えば、下記の規則がICP、ABPとV_mcaとの間の相関に関する観察に基づいている場合がある。
【0078】
もし動脈圧が「正常限界内」と<等し>く、
収縮期BPが「正常限界内」と<等し>く、
拡張期BPが「正常限界内」<より大き>く、
V_mcaが「著しく現象した血流」と<等しく>、
血管痙攣基準が「満たされていない」と<等しい>場合には、
ICPは「上昇した」と<等しい>。
【0079】
経験的データまたは第1原理数学モデルの出力に基づいて、数十あるいは数百ものかかる法則が構築される場合がある。このアプローチは、ICPの上昇を診断する最初の手段か、または結果の分類または特定の病態が作用している確からしさの予測の補助的な方法かとして用いられる場合がある。
【0080】
ANN訓練および検証を用いた経験的方法および検証
非線形相関モデリングを行うある手法では、非線形フィルター・システムとして人工ニューラル・ネットワーク(ANN)を用いる。これらの方法は、Maas W,Sontag ED,Neural systems as non−linear filter,Neural Comput.2000 Aug;12(8):1743−72に概説されている。
【0081】
種々の理由により、annを用いるアルゴリズムが、V_mcaおよびABPの可変入力に基づいてICP予測値を導出する目的で選択される。ニューラル・ネットワークの解析は、多数の文献に説明され、音声認識、放射線画像解析、および生理学的信号処理を含む医療分野で多くの利用例がある、重要な信号処理方法である。代表的な手法が、下記の文献に記載されている。Boone JM,Sigillito VG,Shaber GS,Neural networks in radiology:an introduction and evaluation in a signal detection task,Med Phys 1990 Mar−Apr;17(2):234−41、Lo SC,Li H,Wang Y,Kinnard L,Freedman MT,A multiple circular path convolution neural network system for detection of mammographic masses,IEEE Trans Med Imaging 2002 Feb;21(2):150−8、およびSepulveda F,Cliquet Junior A,An artificial neural system for closed loop control of locomotion produced via neuromuscular electrical stimulation,Artif Organs 1995 Mar;19(3):231−7.
【0082】
ANNは生物の神経系統にヒントを得た数学的構成であり、ニューロンと呼ばれる個々のネットワーク・ユニット間の結合荷重が、ネットワーク入力値と出力値との間の相関を決定する。十分に複雑な多層構造として設計され、非線形活性化機能(特定の入力値が定められた場合に1本のニューロンの出力値を決定する機能)が与えられた場合、ANNは任意のレベルの精度であらゆる連続関数を再生することができる。Blum E.Leong K.Approximation theory and feedforward networks.Neural Networks 1991;4:511−515。
【0083】
ANNは、Elsner JB.Predicting time series using a neural network as a method of distinguishing chaos from noise.J.Phys.A:Math 1992 25:843、およびMozer MC.Neural net architectures for temporal sequence processing,In Weigend A and Gershenfeld N.editors,Predicting the future and understanding the past.Addison−Wesley 1993に記載されているように、時系列データの予測に特に価値があることが示されている。またANNは、経験的データから血流パラメータを予測することを学ぶ能力があることが示されている。Allen J、Murray A、Modeling the relationship between peripheral blood pressure and blood volume pulses using linear and neural network system identification techniques、Physiol Meas.1999 Aug;20(3):287−301。
【0084】
ANNは、訓練集合(training set)、即ち、入力が既知の出力または目標値に一致するようなデータの集合への曝露を通じて、入力と、所望の標的または出力値との間の所定の相関をシミュレートするように訓練される。訓練中、ネットワークの誤差を最小化するようにネットワークの結合荷重を変化させるため、既知の目標値と実際のANN出力との誤差が繰り返し用いられる。訓練後には、訓練集合と類似しているがネットワークの訓練には用いられない検証(または試験)データ集合を用いて、ネットワークの性能が評価される。統計的に代表的な訓練および検証集合の使用を通じて、現実世界の入力データに曝露された場合に上手く機能しやすいANNが生成され得る。あるシナリオ例では、前記訓練集合はABPおよびV_mcaの測定値に由来するデータを含む入力と、侵襲的なICP測定値に由来するデータを含む整合目標値とから構成されるであろう。フィルターを適用する臨床患者群を良く代表するデータ集合上で訓練されたネットワークが、将来、ABPおよびV_mca入力データからのICPの予測を可能とするであろう。
【0085】
或いは、より正確な結果を得るために、各々患者の部分集合上で訓練された複数のニューラル・ネットワークの出力が組み合わされる場合がある方法が、数多くある(例えば、バギング、ブースティング、およびスタッキング)。代表的な方法は、Brazdil P,Soares C,A Comparison of Ranking Methods for Classification Algorithm Selection,Proceedings 11th European Conference on Machine Learning(ECML−2000):63−74に記載されている。例えば、一連のネットワークの各々が、入力パラメータ、ICPレベル、または他の特性に基づいて分離された特定の患者サブクラス上で訓練される場合がある。続いて、ある未知の患者からの入力データに解析手法(例えば、もう1つのニューラル・ネットワーク)を適用し、その患者の前記入力データが前記ニューラル・ネットワーク部分集合の作成に用いられた患者集合の各々にどの程度一致しているかを決定する。この一致の程度は、次に、これら部分集合ネットワークの各々が最終的なICPの予測にどの程度寄与するかを決定するのに用いることができる場合がある。
【0086】
ある代表的な訓練集合を用いた訓練を通じて生成された結合荷重の固有の組合せによって表される特定のニューラル・ネットワークを用いる方法論は、前記訓練集合に含まれないある代表的な検証集合の一部として記録される侵襲的なICPを適切に予測し、または、シミュレートできると一旦実証されれば、固定される場合がある。臨床現場で用いられる前記ネットワークは固定される場合があり、そして固定された場合には、現場で遭遇する患者に曝露されても全く変化を受けないであろう。或いは、ニューラル・ネットワークを実行するICP決定用の実験装置および市販装置は、固定されてはいないが特定の被験者、またはある種の特性を有する被験者の部分集合、または所定の特性を有する条件の部分集合に対して個別の較正が簡単に行える較正用のネットワーク要素を含む場合がある。
【0087】
以下、ANNを用いて実行される非線形ICP予測法およびシステムの例の構成要素について、現在進行中の研究プロトコルに沿って述べる。1つの実施態様では、ニューラル・ネットワークおよび経験的解析法を用いて、ワシントン州シアトルにあるハーバービュー・メディカル・センター(Harborview Medical Center)の遠隔測定・監視中の神経外科ICU患者から取得されたデータからこれらの変数間の相関を導出した。結果および患者ICP決定値については、実施例1〜3で述べる。
【0088】
データの予備調整/データベースの準備
現状の実験プロトコルにしたがって収集された生の生理学的データについては、ICP決定に用いられる前に、多くの調整作業が施された。これまでに行われた実験的作業では、Spencer Technologies社製TCD100M経頭蓋超音波ドップラー診断装置(代替的なTCD装置も同等に用いることはできたが)が用いられてきたが、この装置は、研究対象の患者のICU遠隔測定監視装置から生理学的データ(これには、ABP、iICP[侵襲的に測定されたICP]、およびICP予測に重要なその他のデータが含まれる)を取得する機能を持たない。実験段階では、遠隔測定データは、National Instruments社製6024E PCMCIAデータ取得カードを搭載したノート型コンピュータを用いて別に取得した。本発明の方法およびシステムは、データ取得、および様々な患者の測定値の処理と一体化されていることが好ましい。
【0089】
処理を容易に行うためには複数のデータ・レコードが同期化されていることが好ましいので、データ調整の重要な第一段階はモノリシックな同期データベース・ファイルの準備である。遠隔測定およびTCDデータは最初は異なる速度で取得されるが、特定の患者のデータを含む単数または複数の同期データベース・ファイルには、データが均一な速度で取り込まれる。1つの実施態様ではは、250Hzのダウンサンプリングされたデータ速度が用いられる。これは、この速度で重要な生理学的情報がほぼ全て含まれ、また、他の研究者にも共通に用いられている、といった意味で業界標準だからである。TCDおよび遠隔測定データ・レコードは、データ取得中に両装置に供給されていた外部同期信号を従来より含む。前記データは相互相関解析と、TCDおよび遠隔測定データ・レコードの双方に同時に格納されていたデジタル化外部同期信号の整列とを通じて同期化される場合がある。
【0090】
各患者データから生成される250Hzデータベース・ファイルのような同期化されたデータベース・ファイルは、以降のすべてのデータ準備と解析の基礎となる。前記データベースに格納された前記信号は、絶対的な意味で同期化されているが、測定値を生み出した身体部位の結果として、互いに位相がずれたままである。例えば、心拍はそれが中大脳動脈に達するのと同時には撓骨動脈には達せず、したがってこれらの信号はたとえ時間に関して同期化されていたとしても、互いに位相はずれたままである。訓練集合の構築中は、下記のようにこの不一致を考慮に入れる。前記実験的データベースのフォーマットは、アルゴリズム開発用に設計された市販の計算環境であるMatlabにデータを容易にインポートできるように設計されているが、データを格納する形式は任意である。
【0091】
ニューラル・ネットワークの設計
ANNソフトウェアが準備される場合がある様々な手段が存在し、また、本明細書に述べる方法およびシステムで選択されるかも知れない、考え得るネットワークトポロジーのアレイはほぼ無限に存在する。我々は、その最初の研究用として、比較的単純で良く知られたネットワークトポロジーを用いた。なお、以下に述べる以外のANNソフトウェアおよびネットワークトポロジーも本発明の方法およびシステムにおいて用いられる場合があり、当該技術分野において通常の技能を有する者にとって周知である。
【0092】
性質が良く知られており、訓練プロセスが比較的単純であることから、非線形多層パーセプトロン(2層フィードフォワード型ANN)を実験的な試作アーキテクチャとして選んだ。このシステムは、下記の文献に記載されている。Elsner JB,Predicting time series using a neural network as a method of distinguishing chaos from noise,J.Phys.A:Math 1992 25:843、Mφller MF,Efficient training of feed−forward neural networks,PhD thesis,Computer Science Department,Århus university 1993、 Riedmiller M.Advanced supervised learning in multi−layer perceptrons − from backpropagation to adaptive learning algorithm,Computer Standards and interfaces 1994;16:265−278、およびSaarinen S,Bramely R,Cybenko G,Ill−conditioning in nerual network training problems,SIAM J.Sci.Comp.1993;3:693−714。隠れ神経層は、伝達関数として双曲線正接関数の近似を利用し、これによりネットワークは非線形入力−標的の関係をモデル化することができる。出力神経層は、線形伝達関数を利用し、これによりネットワーク出力が線形にスケーリングされ得る。ネットワーク入力は、各入力が1回または2回以上の心周期から得られたパルス−輪郭データを含むような侵襲的なABPおよびドップラー超音波V_mcaデータの、正規化された任意期間のタップ付き遅延線からなる。ネットワーク出力は、1心周期に対して正規化された連続的なICPパルス輪郭を表す。
【0093】
ネットワーク入力、隠れ層および出力サイズはある程度任意であり、ある与えられた問題に対する最良の構成はしばしば試行錯誤を通じて最終的に決定される必要がある。1つの実施態様では、本発明のシステムは入力サイズ42サンプル(ABPパルス−輪郭サンプル20個、V_mcaパルス−輪郭サンプル20個、瞬間心拍値1個、および侵襲的な動脈ラインと中大脳動脈との間の静圧差の測定値を表す値1個)と、ニューロン5本からなる隠れ層と、ICPパルス−輪郭サンプル20個からなる出力層とを持つANNを用いる。別の入力データ・フォーマットは、間欠的に更新される収縮期、平均、および拡張期の圧力値として表される非侵襲的な血圧(カフ、トノメーターまたは他の手段を用いて得られる)を含む。
【0094】
ヘマトクリットのような血液粘度や剪断抵抗の違いを際立たせるであろう更なる患者情報を考慮するまでもなく、良い予備的結果が得られた。しかし、外傷後に大量の液蘇生術を受けたり、或いは赤血球増加症その他の高粘稠の原因を持つ患者のような特定の患者サブグループについて正確にICPを予測するためには、この患者および他の患者の情報が収集され、解析される場合がある。
【0095】
最初の解析用には比較的単純な(しかし強力な)ニューラル・ネットワークアーキテクチャが選択されたが、適切と考えられ、より良い性能を発揮するかも知れないネットワークトポロジーは他にも数多く存在する。特に注目される一例は、Elman(前述)、およびGiles C,Lawrence S,Tsoi A,Noisy time−series prediction using a recurrent neural network and grammatical inference,Machine Learning 2001 July/Aug;44(1):161−183等の他の研究者らによって記載されたような、再帰型ニューラル・ネットワーク(RNN)として知られるトポロジーのファミリーである。このトポロジーのファミリーは、以前のネットワーク入力および/または出力の内部記憶を維持することにより、時系列的予測を改善する。有限タップ付き遅延線入力に頼らずとも、RNNは無限インパルス応答を維持することができる。RNNは、Atiya A,Parlos A,New results on recurrent network training:unifying the algorithms and accelerating convergence, IEEE Trans.On Neural Netowork 2000 May;11(3)に記載されるように訓練負荷を示すが、有望であり、本発明の方法およびシステムに好適であると考えられる。
【0096】
本研究プログラムの一部として設計されたニューラル・ネットワークソフトウェアを、産業界で広く用いられている市販のニューラル・ネットワーク計算パッケージであるMathworks Neural Network Toolboxの一部を用いてMatlab6.5で実行した。
【0097】
訓練集合データの準備
ANNに提供されるデータのフォーマットは、複数の発生源由来のデータが同期化されていることを前提として、ある程度任意である。1つの実施態様では、同期化250Hzデータは時間ドメインからパルス・ドメインへ変換され、1つまたは2つ以上の心周期期間に対して正規化されたデータ点の任意の固定数で表される一連のパルス−輪郭としてネットワークに提示される。他にも適する実行形式(implementation)は数多くあり、幾つかが試みられているが、結果は異なっている。本明細書で提示するパルス・ドメイン実行形式は、これまで試みられてきた方法の中では最も効果的である。前記ネットワークに提示される前記データは(線形スケーリングにしたがう)本質的に絶対値の血圧および血流データであり、したがってICPを絶対値で追跡および予測できる、という点を理解することが重要である。
【0098】
パルス・ドメイン変換および入力/標的集合の構築が行われるプロセスは、単純であるが、幾分複雑でもある。前記プロセスは、管理できる量のデータをいつでも一度に取り扱えるように、少しずつ行われるのが一般的である(例えば、30秒分のデータが一度に取り扱われる場合がある)。ステップは以下の通りである。
【0099】
(1)位相の同期化…先に述べたように、前記データベースのレコードは絶対取得時間と同期化されているが、信号レコード間で心周期の位相のずれを含んでいる。訓練集合の準備の第1段階は、ABP、V_mcaおよびICPの各レコードを(例えば、相互相関解析スペクトルや整列法を用いて)整列させ、それらの位相を心周期境界に対して揃える。これにより、1個ずつが各々の生理学的信号に対応している、複数のレコードの位相が互いに揃う。
【0100】
(2)心周期の規定…各心周期の境界を規定する収縮期と拡張期のピークおよび極小値ピークの時間的位置を、ABPまたはV_mcaの250Hz線形レコードのいずれかについて決定する必要がある。両レコードとも信号間のずれを一旦正せば心周期境界は同時であると見なされるので、両者のパルス・ドメイン変換を行うには、これらレコードの一方を検討すれば十分である。通常平滑で連続的な侵襲的なABP輪郭の場合、心周期境界の位置決定は、一次微分および二次微分曲線の解析を通じた極小値と極大値のアルゴリズム的な検出を含む単純なプロセスである。ノイズをかなり含む場合があるV_mcaレコードの場合は、心周期境界はローパス・デジタル有限インパルス応答(FIR)フィルター(50次数の4Hz−LPFで殆どのレコードには十分であることがわかっている)を通過させるか、または他の手段によるスムージングを経た後の血流レコードから同様に収集することができる。更に、V_mcaおよびABPは位相シフトが一旦考慮されてしまえば概ね同期するので、前記V_mcaのパルス境界は前記ABPレコードに対して同一と見なすことができる。これらの方法はそれぞれ、実際のデータで良い結果を示した。図1は各心周期の始点と終点との規定に用いられるパルス境界計算の出力例を示し、上側のトレースはABP信号、下側のトレースは収縮期(上向き)および拡張期(下向き)を表す。
【0101】
(3)再サンプリングおよび変換…心周期境界が記録された後、各後続心周期から得られる各線形信号レコード中の前記データが分離され、任意の固定数のデータ点を占めるように、標準的な信号処理方法を用いて再サンプリングされる。実験的検討はパルス・ドメイン幅を20サンプルとして行ったが、他のパルス・ドメイン幅でも実施でき、適用できる。再サンプリングおよび変換終了後の各信号は、各連続列がある固定されたパルス・ドメイン幅に対して規格化された後続心拍を含む二次元アレイを占めるものと考えることができる。
【0102】
(4)移動窓式ドップラー・エンベロープ…このようにして導出された連続再サンプル化ABP心拍は、ニューラル・ネットワークへ提示するのに適切な平滑連続データを概ね代表してはいるが、V_mca血流データは収集されたままの現状ではノイズを含んでおり、時間の移動窓にわたるパルス−エンベロープとして最も良く表される。換言すれば、パルス−時間内の各点(ある定められた正規化パルスの特定のサンプル・インデックス)は、連続する正規化心拍のある任意の幅の窓の中に入る最大ドップラー速度によって最も良く表すことができる。その後この移動窓処理は、血流エンベロープを生成する際に、各V_mcaパルス中の欠落データを「埋め合わせ」、各V_mcaパルス・レコードが、時間平滑化された情報を含むことを可能にする。我々が実施した前記V_mcaパルス・ドメイン血流エンベロープ法は、Spencer TCD100Mの内部での自動相関位相−速度計算と併用するために設計された。前記方法論のこの部分は、V_mca血流データが別の方法で取得されるか、または異なる形式のドップラー診断装置が用いられる本発明の方法およびシステムの別の実施態様では必要でない場合がある。
【0103】
(5)正規化…各信号レコードはこうして位相ドメイン・アレイを占有し、この中で、行は心周期で正規化された「早時間」を表し、列はパルス毎の「遅時間」を表す。しかし、信号値は依然として実数単位で表されている。ニューラル・ネットワークは、入力データが比較的狭い範囲にある場合(例えば、−1から1)に最も良く機能するので、この段階の前記データは定義された限界値(例えば、臨床現場でよく遭遇する生理学的数値)間で正規化されている必要がある。これら正規化の限界値が固定化されているため、前記正規化演算は可逆的な変換を表す。これは、前記入力値が再スケーリングされていても、それらが依然として絶対値を表していることを意味する。
【0104】
(6)要素の連結…各入力ベクトルは、各信号レコード(ABPおよびV_mca)の要素を含んでいることが好ましく、したがって、第5段階で得られた正規化パルス・ドメイン要素は互いに連結される。最後に、瞬間心拍数と、血圧測定部位とMCAとの間の静圧ヘッドとが、入力ベクトルと連結される。前記データは心周期内または複数の心周期にわたって連結される場合があり、或いは他の臨床(または非臨床)生理学的事象に対して規格化される場合がある。これらの値は不要な場合があるが、ネットワークの性能を向上させる場合もある。前記入力レコードはこれで完成する。
【0105】
(7)整合化標的レコードの準備…訓練を成功させるために、訓練集合内の各入力ベクトルは整合化標的ベクトルを持つ必要がある。現状の実行形式では、前記標的ベクトルを、ある固定数の値に再サンプル化された1つまたは2つ以上の心周期のICPデータとして定義する。したがって前記ICPデータは時間について正規化されるが、入力データと同期化されているために、前記ICPパルスは前記入力集合に格納されている元の心拍数データを用いて伸縮でき、したがってそれは現実的なICPパルス輪郭を表す。前記標的集合は入力集合と同時に構築され、標的ベクトルは現時点ではICP以外のいかなるデータも含まないため、第6段階以外の上述の各段階を経る。ある患者のある訓練集合から得られた代表的なデータを図2に示す。ここには、約1500個の心周期レコードがパルス毎に表示されている。各入力ベクトル・レコードは42個の値を持ち、互いに連結されたABPパルスと、V_mcaパルス、瞬間心拍数、V_mcaとABPの測定部位間で測定された静圧(status pressure)とからなる。
【0106】
パルス・ドメイン入力および/または標的データは、ディスクに保存されるか、遠隔測定およびドップラー血流データからリアルタイムに生成される場合がある。前記訓練パネルを構成するために、臨床現場で遭遇する可能性の高い患者らを代表する患者らが(ICP、性別、民族、病態等により)選択される。これらの患者らの250Hzデータベース(または、メモリに保存された等価な線形レコード)の各々は、訓練集合の準備を経て、訓練中の前記ニューラル・ネットワークに提示される入力−標的ベクトルの前記集合に包含される。
【0107】
訓練方法
ANNは一般に、現実世界の現場で遭遇する可能性の高いデータを代表する良く定義されたデータ集合への曝露を通じて訓練される。訓練中の未処置のネットワークでは、ネットワーク出力と既知の標的出力との間の誤差が訓練アルゴリズムへ送られ、本明細書で誤差を最小化するためのネットワーク結合荷重が調節される。訓練集合提示と訓練アルゴリズム結合荷重の調節とを順次繰り返すことで、ネットワーク誤差が最小化される。
【0108】
ネットワーク訓練の方法を適切に選択することは重要である。なぜなら、それはANN訓練の効率と精度との両方に影響するかも知れないからである。本明細書で、役割を演ずる場合がある制約がある。ある種のネットワーク問題が、異なる訓練方法に対して異なる応答をする場合がある。即ち、ネットワークおよび/または訓練集合の大きさが、訓練を成功に導く上で満たされるべき実際のメモリや処理上の要求を指定し、また、訓練後の「適合度」は、品質(即ち、前記訓練集合データがどの程度上手く準備されたか)および訓練集合データの適切性(即ち、訓練集合データが実際に遭遇する可能性のあるデータを代表している程度)を含む他の関連パラメータの数の影響を受ける場合がある。
【0109】
我々は、利用可能な計算資源に適した、最も確固たる、良く説明されている訓練方法論を実施した。このため、Mφller MF、A scaled conjugate gradient algorithm for fast supervised learning、Neural Networks 1993;6:525−533に記載されているスケーリング共役バックプロパゲーション法を用いて訓練を実施した。この方法論は、広範なANNアーキテクチャおよび問題に良く対処できることが実証されており、メモリや処理上の要求も中程度である。本明細書で覚えておくべき重要なことは、前述の制約は受けるが、他の多くの訓練法方法も代替的に用いられる場合がある、ということである。使用される場合がある他の訓練アルゴリズムには、例えば、Riedmiller M,Braun H,A direct adaptive method for faster backpropagation learning:The RPROP algorithm,Proceedings of the IEEE International Conference on Neural Networks,1993に記載されているレジリエント・バックプロパゲーション、Fletcher R,Reeves C,Function minimization by conjugate gradients,Computer Journal 1964;7:149−154に記載されているFletcher−Reeves共役勾配、および特にHagan M,Menhaj M,Training feedforward networks with the Marquardt algorithm,IEEE Trans.on Neural Networks 1994 Nov;5(6):989−993に記載されたLevenberg−Marquardt法が含まれる。
【0110】
訓練の最適レベルの評価は、重要かつ定量化可能なプロセスである。前記訓練誤差は通常、到達可能な最小レベルとすべきである。これは、前記ネットワークが「オーバーパワード」(必要以上の数の隠れノードを持っていること)ではなく、前記データをオーバーフィットしない限りにおいて有効な仮定である。この問題に関する優れた考察がCaruana et al.in Caruana R,Lawrence S,Giles C,Overfitting in neural nets:backpropagation,conjugate gradients,and early stopping,Neural Information Processing Systems,Denver CO 2000 Nov 28−30に記載されている。この問題を避けるために、様々な隠れノード数と様々な訓練の程度を有する多数の異なるネットワークを用いる必要があり、前記検証入力集合の前記結果が既知の検証ICP標的データと比較される。例えば、隠れノード数5、10、15、20および25のネットワークが500、1000、1500、2000、2500および3000エポック用に訓練される場合がある。前記各ネットワークによって生成される検証集合誤差の解析により、定められた訓練および検証集合にはどのアーキテクチャが好適であるかが示される。前記検証集合誤差(例えば、許容できる程度のICP誤差)の閾値は、臨床上の要求と、本発明の方法およびシステムの性能とがさらに進展するにつれて改良され続けることになろう。
【0111】
前記実験プロセスのもう1つの狙いは、共通の非侵襲的なICP測定特性(例えば、血管の特性に基づく)を共有する場合があり、またABPまたはTCD特性(例えば、高血圧、血管痙攣)か、損傷メカニズムか、理学的検査または実験的知見か、患者個体群統計(例えば、年齢、性別、体重)か、これらパラメータの組合せかに基づいて識別される場合がある、患者らのサブグループを識別することであった。かかるサブグループが存在する可能性はあり(例えば、くも膜下出血を患う患者らを、ある程度の自己調節不全に遭遇しやすい患者らとして分離する)、ある特定のグループ内で非侵襲的にICPを測定する目的で特別に訓練されたネットワークは、そのグループに分離された未知の患者に直面した際に、全患者らについて訓練されたネットワークに比べてより良い応答性を示す場合があると考えるのが妥当である。
【0112】
現在我々は、V_mcaおよびABP特性を含む非侵襲的なデータに基づいて患者のサブグループを識別し、サブグループ解析実行用に設計されたネットワークに対してこれら患者の訓練データを分離する方法論を開発中である。ある方法では、Jolliffe,IT,Principal Component Analysis,Springer,Verlag 1986に記載される主成分分析を利用し、前記入力集合の最も重要な直交次元(orthogonal dimensions)を識別し、各未知患者の入力データ集合の、各訓練集合患者またはサブグループの重心からのユークリッド距離を識別する。次に、各訓練集合サブグループのネットワークを、前記相対距離の逆数により重み付けする。
【0113】
測定された可変パラメータに基づくICPの決定か、サブグループ解析かに用いられる場合がある別バージョンの主成分分析が、Stewart,I,Regime change in meteorology,Nature Vol.422,10 April 2003,Cromellin,D,Non−linear dynamics of atmospheric regime transitions,Thesis,Univ.Utrecht(2003)、およびCromellin,D,J.Atmos.Sci 59,1533−1549に記載されている。これらの技術を使うと、主成分、または経験的固有関数と呼ばれる共通パターンが実データ内で識別され、続いて予測方程式(prognostic equations)との併用により前記成分の経時変化が追跡される。
【0114】
また別の方法は、Kohonen T,Self organizing maps,Second Extended Addition,Springer,Springer Series in Information Sciences 1997に記載されるKohonenの自己組織化マップ(SOM)を用いる。この方法論は、内部で異なるネットワーク入力が寸法縮小された出力空間の固有の領域にマッピングされる生物メモリと密接に関連する教師無し型のニューラル・ネットワークを利用する。この方法では、未知の患者のデータが、ある特定の患者または前記入力集合のサブグループに最も類似した入力特性を表わすSOMの領域にマップされ、該データ上で訓練された前記ネットワークは、非侵襲的にICPを予測するのに選択される可能性があった。これらの方法は、前記訓練集合内の大多数の患者とは明らかに異なる血管パラメータを持つ特定の患者または患者サブグループ内で非侵襲的なICP決定を改良するものと期待される。
【0115】
ニューラル・ネットワーク訓練を行う上述の方法は、個々の患者入力および変数に基づいてICPを予測する1つまたは2つ以上の固定の方法論であることが好ましい。本発明のシステムおよび方法論は、ニューラル・ネットワークの訓練および検証から得られた個々の患者データに基づいてICPを決定する1つまたは2つ以上の固定された方法論を実行する、臨床上有用な市販の方法論およびシステムはもちろん、訓練と検証とを経るニューラル・ネットワークのような、V_mcaおよび/またはABPのような可変パラメータとICPとの間の相関を導出するのに用いられる実験的なシステムと方法論との双方を包含する。
【0116】
ネットワーク性能の検証
ネットワーク性能の検証は、1人または2人以上の患者由来の検証または試験データ(侵襲的なICPおよびABPが既知である点で訓練集合データと同一だが、前記訓練集合には含まれていなかった患者データ)をANNに提示し、前記後続予測ICP出力を前記被験患者の既知または標的侵襲的なICPと比較することにより行われる。この検証集合を用いたアルゴリズム性能の解析は、前記アルゴリズムが臨床現場で遭遇する可能性の高い患者データに対してどのように働くかを予測するのを助ける。
【0117】
ネットワーク安定性の評価、入力データの適切性
検証されたニューラル・ネットワーク方法論は、患者の管理を左右する可能性がある機器の核心を構成するため、このアルゴリズムの安定性と信頼性は十分に確立されていることが重要である。上記の研究の一部として用いられる前記ニューラル・ネットワークは、結合荷重が固定でその入力に提示されるデータのタイプや次数に影響されないという意味において、完璧に安定に構成される場合がある。
【0118】
最終的な方法論の応答特性の特徴付けは注意深く表現される必要がある。この特徴付けの第一段階は、上述のネットワーク検証を通じて行われる。第2段階は、比較的単純な入力空間マッピングを通じて行われ、ここで、(例えば、各々1cm/s単位で生理学的範囲にわたるV_mca波形を有する、1mmHg単位で生理学的範囲にわたるABP波形のように)臨床現場で遭遇する可能性のある入力集合を包含する数千個の正準入力(canonical input)が検証済みネットワークに提示され、その結果得られたICP出力が記録される。このプロセスが、遭遇し得る入力空間全体にわたるネットワークの応答性を特徴付ける。かかる入力マッピングは、入力空間応答性に関するあらゆる問題領域を強調し、前記ネットワークが正しく動作することが期待できる生理学的範囲をチェックする。
【0119】
これまでの記述の重要な側面の一つは、この方法論においては他のあらゆる方法論と同様、前記入力(および標的)データの適切性が保護されていなければならない、ということである。「悪いデータ」は、未知の患者から得られる入力データを用いてICP予測を行う前はもちろん、訓練前に破棄される必要がある。図3に、データ取得中における患者の処置によって生成した信号レコードの例を示す。ABPレコード(上側のトレース)は、この患者が動脈ラインから採血されている証拠を示す。侵襲的なICPトレース(下側のトレース)は影響を受けていない。同様にデータ取得中に生ずる乱れの殆どは明白で、検出の自動化に役立つ。
【0120】
このデータ監視および保護プロセスは、数多くのやり方のうちいずれかで実施できる場合がある。1つの実施態様では、前記患者のABPおよびICPデータ収集装置(例えば、トランスデューサ)は、データ収集前に再較正され、データ取得中に連続的に監視される場合があり、データ取得中のあらゆる処置(例えば、採血)の時刻および期間が記録される。データ取得が一旦終了すると、訓練集合データからの削除を目的として、患者処置のこれらの記録時間に対応して前記データベース・レコード・エントリにマークが付けられる場合がある。この段階の後、V_mca、ABPおよびICPの各曲線の異常(例えば、動脈ラインの大幅な鈍化は、動脈ラインの位置異常と、位置異常のあるデータ取得装置からのV_mcaの欠落とを示唆する)の有無について、同期化された(例えば、250Hz)データベース・レコードが検査される場合がある(例えば、目視により、またはコンピュータを用いて)。異常レコードがあればマークされ、訓練集合データから除外される。期待される生理学的範囲内に収まらない信号値も除外される。手動データ検査および/または自動化ソフトウェア法が実施される場合がある。前記データ検査機能は、全自動化ソフトウェア・プロセスによって実施されることが好ましい。
【0121】
データ処理および保護について最後の留意事項は、リアルタイムなICP出力の特徴付けの問題に関する。上述の方法論を用いて得られるICPデータ出力は幾多の方法で特徴付けることが可能であり、関連する生理学的数値がユーザに提供される。これらには、ICP波形の変化範囲および変化速度が生理学的に妥当か否か(例えば、非侵襲的なICPは75mmHg未満の正の値でなければならない)、前記ICPパルス波形、高さおよびその他のパラメータは現実的か、また、システムに固有の強制関数(ABPおよびV_mca)とシステム出力(ICP)との間に妥当な程度の一致がみられるか、を確かめる方法が含まれる。
【0122】
ニューラル・ネットワークはベイズ確率予測を用いて動作すると考えることができ、したがってある定められたICP予測において信頼度の目安、即ち、Dorffner G,Can neural networks improve signal processing? A critical assessment from the ANDEE project,NEC Research Institute Online archive−http://citeseer.nj.nec.com/186775.htmlに記載されるように、他の医療信号処理タスクにおいて用いられてきている可能性を提供することができる。高信頼度および/または低信頼度の値を提供することで、前記機器および/またはヘルスケアの提供者はICP予測値に特定の重み付けをしたり、またはそれを破棄することができ、或いは全てのセンサや配線が患者に正しく装着されていることを確認するよう、前記提供者に注意を促す。
【0123】
ANN方法論に基づくICP予測臨床システムの実施
現在進行中の研究プロトコルで実施されているICP予測方法論の様々な構成要素の概要が説明された。臨床システムで実施した場合、リアルタイムICPデータが臨床的な有用性にとって決定的に重要なので、方法論はより単純となる場合がある。臨床方法論およびシステムには、以下の特徴が重要と考えられる。
【0124】
(1)ABPおよびV_mcaデータの取得。ABPおよびV_mcaデータは、集積型電子デバイス内で取得および処理されることが好ましく、したがって取得時刻に対して容易に同期化させることができるので、データ同期化の必要がない。他の実施態様では、ABPおよびV_mcaは異なる装置および/または同期化速度を用いて取得される場合があり、前記データは、必要に応じて、データ同期化を行う集積型処理ユニットで収集および処理がなされる。
【0125】
(2)遠隔測定およびドップラー血流データのダウンサンプリング/再サンプリング。標準的な信号処理法がより容易に用いられるように、各々の線形信号レコードが同じ量の空間を占めることを可能にする。
【0126】
(3)データ・クリーニング。期待される生理学的範囲内で、全ての信号レコードが連続し、更なる処理に適することを確保する。
【0127】
(4)心周期境界の位相整合。同じ装置による遠隔測定およびドップラー血流データの取得は取得時刻に対して同期を取り易くするが、前記入力データは心周期境界に対して位相がずれている場合がある。パルス・ドメイン変換をうまく行うために、これらのレコードについては、相互相関スペクトル解析その他の方法のような整合が必要になる。
【0128】
(5)パルス・ドメイン変換。前記線形位相整合時間ドメイン遠隔測定およびドップラー血流レコードの、二次元正規化パルス・ドメイン・レコードへの変換が望ましい。これは、多段階プロセスであり、V_mcaドップラー血流データのための心拍毎の瞬間心拍数の計算と保存、固定数のサンプルに対する心周期の正規化、および移動パルス窓式スムージング、またはエンベロープ計算を含む場合がある。
【0129】
(6)固定検証ネットワークへのパルス・ドメイン入力データの提示。前記アルゴリズムの計算ステップであり、遠隔測定データおよびTCD情報のような、患者取得入力データが定められた個々の患者のICPを正確に決定するために、訓練済みのネットワークが用いられる。臨床システムでは前記システムのネットワークは訓練されない。臨床システムの前記ネットワークは十分に訓練、検証され、全ての結合荷重が固定化される。何らかのサブグループの分離が生ずるとすれば、この時点である。
【0130】
(7)逆パルス・ドメイン変換および再スケーリング。前記訓練検証済みネットワークからの生データ出力は、[−1,1]の範囲に収まるように正規化されたパルス・ドメイン・レコードである。このレコードは線形時間ドメイン・レコードに変換される必要があり、これは、例えば各パルスを再サンプリングしてそれが元々の期間を表すようにし、次にその直前のパルスと一直線に連結することによって達成される場合がある。前記再サンプリングされたパルスは、次に生理学的信号レベルに再スケーリングされる。
【0131】
(8)トレンド解析およびデータ表示。ICPを決定する本発明のシステムはトレンド解析とデータ表示機能とを提供する。ある好適な出力表示では、(1)患者ICPのトレンドを示す、少なくとも数分から数時間または数日間の「長期」にわたる1つまたは2つ以上のICPトレースと、(2)数心周期にわたって決定された「瞬間」または「短期」ICPのトレースと、(3)以下に述べるような、音響トランスデューサまたはトランスデューサアレイのガイダンスに役立つ場合がある追加的なグラフィック表現とが提供される。更に、トランスデューサの焦点深度に対する血流速の関係図(presentation)も提供される場合がある。表示は、10周期未満の直前の心周期にわたる瞬時ICPの決定、および少なくとも数分間にわたるICP決定の双方が好ましい。当業者にはデータが様々な様式で表示される場合があることは自明であろう。
【0132】
上述のとおり、ANNを用いることは、V_mcaやABPのような患者の入力変数と、決定された出力であるICPとの間の正確な非線形相関を導くための、便利で信頼性の高い技術である。我々は、ANNを用い、またV_mcaデータの1つまたは2つ以上の具体的な特徴を解析することにより、V_mcaのような単一の患者入力変数と、決定された出力であるICPとの間の正確な非線形相関を導出することができると予想する。他のタイプの経験的方法も用いられる場合があり、以下に述べる。
【0133】
セル・オートマトンを用いたICPの決定
ICP、ABP、V_mcaおよび/または他の生理学的測定値は、セル・オートマトン(CA)としてモデル化される場合がある。CAは、各々1つまたは2つ以上の有限集合または連続範囲の状態を採用できる規則正しい離散的なセルの格子が、各セルの状態およびそのセルに隣接するセルの状態に関する特定の規則にしたがって、連続離散時間段階にわたって進化する、数学的構成である。CAおよび類似のモデル化技術を用いて、時間に伴う自然現象の伝搬を、極端に複雑な数学的記述を必要としない再現性のある方法でモデル化することができる。代表的な技術がSmith MA,Cellular Automata Methods in Mathematical Physics,PhD Thesis,Massachusetts Institute of Technology,May 1994に記載されている。
【0134】
CAモデルの伝搬は次に、CAのモデル化の基礎となった前記物理システムの予想される挙動を記述する統計システムまたはエキスパート・システムを生成するのに用いられる場合がある。ICP予測の場合、例えば、セルの単純な一次元システムであって、該システムの内部状態が血流かABPおよび/または他かの生理学的性質を記述するような、セルの単純な一次元システムは、脳の脈管構造を通じた経時的な心拍の伝搬をモデル化するのに用いられる場合がある。前記伝搬規則は、血管壁のエラスタンス、血液粘度、中心静脈圧、ICPレベル、その他血流に影響を及ぼす可能性がある性質のような物理的因子を考慮に入れる場合がある。ある定められたCAにより予測される前記血流パターンが物理的に観測されたパターンと合致するように前記ICPパラメータを変更することにより、ある特定の患者のICPを正確に予測することができる。
【0135】
第1原理を用いたICPの決定
第1原理法
非侵襲的または最小限に侵襲的な手法を用いて測定された関連生理学的パラメータに基づくICPの決定は、非線形相関に基づく、または線形微分方程式に基づく第1原理法を用いて試みられる場合もある。かかるシステムは、送電線のようなよりありふれた産業システムの形態で表される場合があり、Ursino M,Lodi CA,Interaction among autoregulation,CO2 reactivity,and intracranial pressure:a mathematical model,Am.J.Physiol.1998 May;274(5 Pt 2):H1715−28に記載されるように、これに電気技術解析分野の適当な手法を適用し、閉じた解が得られる場合がある。
【0136】
或いは、Olufsen MS,A one−dimensional fluid dynamic model of the systemic arteries,Stud Health Technol Inform.2000;71:79−97に記載されるように、非線形項を無視あるいは変形して解を単純化した線形化方程式も、非線形流体力学方程式(例えば、ナヴィエ−ストークス方程式)から導出され、閉じた解が得られるか、または数値的に解かれる場合がある。ICPは、あらゆる適度に侵襲的なシステムにおいて、脳血管の流体力学を記述するために導出された方程式の重要な変数であり、定められたABP、V_mcaおよび/または他の生理学的データについて解かれる場合がある。
【0137】
代表的な脳脈管構造の線形一次微分方程式モデルが、侵襲的なABPと、侵襲的なICPと、V_mca信号とを用いて開発された。このシステムでは、前記撓骨動脈ABP信号がMCAの入口におけるABPの代用として取得される。血流は、本来抵抗的であると考えられる。頭蓋出口における頚静脈圧(JVP)は、頭蓋脈管構造の真の出口圧として測定され、ゼロと見なされる。我々は、心臓病を持たず、仰臥位で臀部を30°屈曲させて頭部を心臓よりも十分に高い位置に保った患者について。この仮定が概ね正しいことを実験的に見出した。ICPは第3圧力原理にしたがって作用すると見なされるので、ICPが、JVPの代わりに、頭蓋入口と出口との間の圧力降下を定義する頭蓋出口圧として作用する。
【0138】
各患者は、特徴的な血管抵抗kを有していると見なされるが、kは、はじめは不明であって生理学的データから算出できる。特に心臓は、ある定められたパルス高と、結果として生ずる血流インパルス応答とを有する階段関数発生器として取り扱われる。これら2つの量の間の関係がkを決定する。体積流量(volumetric flow)はV_mcaに正比例すると見なされる。最後に、ICPはMCA入口圧、特性抵抗k、およびV_mcaから導かれてた体積流量(volumetric flow)が定められた場合の必要な頭蓋出口圧として算出される。
【0139】
この単純な代表的方法では、心臓によって生成される固有の血圧および血流操作を利用して脳脈管構造の特性が決定され、続いて、該脳脈管構造の特性がICPの予測に用いられる。図4は、中大脳動脈内の抵抗の高い粘稠な血流を伴って動脈血圧が脳に入る時の段差降下を捉え、心臓が動脈血圧の変化が脳血流の変化につながるような階段関数発生器としてモデル化された、上述の単純なモデルに基づいて、予測ICP(左軸側の下側トレース)と実測ICP(左軸側の上側トレース)とを比較して示す。この特定のモデルは、収縮期および拡張期の動脈血圧値と中大脳動脈の血流を用いて駆動され、ICPを予測する。
【0140】
1つの実施態様では、上述のような第1原理法はニューラル・ネットワーク法のような経験的方法と併用され、音響散乱および/またはABPデータを用いた非侵襲的なICP決定に用いられる。第1原理法は、予備的なICP予測を行うために、最初に患者データに適用される場合があり、経験的な方法は、前記予備的なICP知見の修正か、調整か、改良かを行うために、患者データの全てまたは一部に用いられる。
【0141】
これらのパラメータのいずれに対する外因性の取扱い(例えば、血圧カフの膨張、薬理学的な治療)も、Vavilala MS,Newell DW,Junger E,Douville CM,Aaslid R,Rivara FP,Lam AM,Dynamic cerebral autoregulation in healthy adolescents,Acta Anaesthesiol Scand.2002 Apr;46(4):393−7に記載されるように、類似のやり方で脳の脈管構造の特性を決定するのに用いられる場合がある。
【0142】
非線形数値解析法
ICP、ABP、V_mcaおよび/または他の生理学的測定値の間の関係は、代替的に、または追加的に、脳脈管構造のような流体力学系の動態を記述するナヴィエ−ストークス方程式の離散化バージョンの数値解を与える周知の方法(例えば、有限要素解析)を用いてモデル化される場合がある。この種のモデル化は、Ma X,Lee GC,Wu SG,Numerical simulation for the propagation of non−linear pulsatile waves in arteries,J Biomech Eng.1992 Nov;114(4):490−6に記載されている。前記ナヴィエ−ストークス方程式の解により、非線形動脈粘弾性、対流モメンタムおよび潜在的非ニュートン性粘度を含む、心臓血管系の非線形的特徴の多くを考慮に入れることが可能となる。
【0143】
かかるアプローチの重要な一部は、モデル化すべき単数または複数の特定の脳血管系を記述する物理パラメータの取得である。計算および画像化の資源が飛躍的に改良されれば、患者の立体的な脳脈管構造全体を非侵襲的に走査し(例えば、MRIまたはCT血管造影法による)、流体力学を数値液にモデル化し(例えば、Cebral JR,Yim PJ,Lohner R,Soto O,Choyke PL,Blood flow modeling in carotid arteries with computational fluid dynamics and MR imaging,Acad.Radiol.2002 Nov;9(11):1286−99に記載されるように)、この第1原理モデルからICPを導出することをイメージできるようになるかも知れない。計算資源が限られている場合は、ある任意の数の血管二分岐を有する単純化された「平均」血管ツリーが、患者の特殊なサブタイプのモデルの基礎として、また他の生理学的パラメータの測定値からICPを算出するために、用いられる場合がある。
【0144】
経験的/第1原理の併用アプローチを用いたICPの決定
第1原理法はICPを予備的に決定するために最初に患者データに適用される場合があり、経験的方法は、上述のとおり前記予備的なICPの知見の修正、調整または改良をするために、患者データの全体または一部分に適用される。経験的アプローチおよび第1原理アプローチの他の組合せが用いられる場合があり、代表的な方法が以下に説明される。
【0145】
非侵襲的に測定された自発組織変位とABPおよびICPとの相関
1つの方法は、CNS標的組織部位からの音響散乱を解析することにより決定された自発(固有の)組織変位(血流、CSF等に由来)と、ABPおよび侵襲的に監視されたICPとの間で導出された関係を用いて、侵襲的または非侵襲的に測定された組織変位およびABPに基づいてICPを決定する。V_mcaは、経験的/第1原理の組合せアプローチを用いて、測定された組織変位の代わりに、或いはこれと併用する形で変数として用いられる、用いられる場合がある。
【0146】
1つの実施態様では、100kHzより高い周波数で動作する超音波プローブを用いて、一定体積の組織が、特定の周波数および振幅を有する波形で照射され、超音波反射信号の時間または位相のシフトが固有の組織変位を算出するのに用いられる。時間または位相シフトを組織変位に関連付ける等式は、d=t*1500m/secであり、この等式において、d=組織変位、t=反射信号の時間または位相シフト、1500m/secは脳を通過する音速の推定値である。ICP=CPP−MAP、MAP=(2*拡張期ABP+収縮期ABP)/3、d=F(CPP)であり、上記の式いおいて、Fは指数、ベクトル、行列、積分等のようないかなる関数であるか、あるいは、単純に経験的なCPPとの関係、CPP =MAP−ICP=F(d)、ただしF=F−1の場合がある。Fは様々な状況下に置かれた様々な患者から測定値を得ることによって経験的に決定し、変位およびABPの決定が、次に、ICP=F(d)−MAPとして、ICPの決定に用いられる場合がある。
【0147】
ICPと音響組織信号の振幅との相関
この方法は、CNS標的組織からの単数または複数の反射音響信号やABPの振幅と、侵襲的に監視されたICPとの間に導出された関係を用いて、非侵襲的に測定された音響信号とABPとからICPを見積もる。100kHzより高い周波数で動作する超音波プローブを用い、ある決まった体積の組織に特定の周波数と振幅を有する超音波波形を照射し、後方散乱の振幅を用いて組織反射/吸収の波形を作り出す。この新しい波形αは、前記後方散乱の振幅を有限の期間(例えば、ECGトレーシングで測定される心周期)にわたって積分し、これを前記期間の時間区分で正規化することにより、生成することができる。前記後方散乱信号は動脈波と関連しているので、αはMAPに対して(上に定義されたとおり)正規化することができ、波形βを生成する。次に、この正規化波形βと侵襲的に測定されたICPとの間の前記相関が、後方散乱信号、ABPおよびICPの同時測定を行い、等式ICP=F(β)を解くことにより決定される。前記等式において、Fは何らかの数学的関数、または単に経験的な関係式である。(種々の既知の条件下で様々な患者から得られた複数の経験的測定値によって)Fが一旦決まれば、非侵襲的な組織変位の決定および非侵襲的な動脈血圧の決定による前記非侵襲的なβの決定が、ICPの算出に用いられる。
【0148】
ピーク後方散乱振幅とICPとの相関
上述したのと類似のやり方で、ある決まった期間(例えば、心周期)にわたる後方散乱信号のピーク振幅を同じ期間にわたってMAPにより正規化することができ、値が生成され、これは同時に侵襲的に測定されるICPと関連付けられ、関係式ICP=F()を与える。前記関係式において、Fは、とICPとの間の数学的または経験的な相関である。
【0149】
標準的な経頭蓋超音波ドップラー(TCD)データを用いてICPおよび/または自己調節状態を推論する試みは、これまでにも数多く行われている。別の実施態様では、本発明の方法およびシステムは、標準的なTCD測定値に基づく既存のICP決定法を用いて、V_mcaの非侵襲的測定を、血流、心周期および呼吸によって、或いは、V_mca、組織変位その他の生理学的変数の1つまたは2つ以上の組み合わせによって生ずる、CNS組織の変位の非侵襲的な測定に置き換える。Schmidt,B.,et al.,Noninvasive Prediction of Intracranial Pressure Curves Using Transcranial Dopper Ultrasonography and Blood Pressure Cures,Stroke Vol.28,No.12,December 1997に記載される研究に基づくかかる例の1つが、以下に提供される。本発明の処理ステップは、侵襲的なICPと、侵襲的または非侵襲的なABPと、変位(その他これに類するもの)との同時連続測定を利用して、非侵襲的に決定された変位およびABPデータのみを用いてICPを正確に予測する1組の等式を生成する。血流速および組織変位が、ABP測定に置換される場合がある。
【0150】
第1ステップ:線形等式系を用いてABPとICPとの間の重み関数が算出される。この等式系の解は、前記重み関数の係数を含むベクトルである。この系をモデル化するための係数は幾つでも選択できる。例えば、25個の係数を選択するとする。所定の重み関数(f,f,…,f24)について、時間系列中の点kにおけるICP値は、時間k−24、k−23、…、k−1、kにおいて記録されたAPの値により、式ICP=fABP+fABPk−1+ … +f23ABPk−23+f24ABPk−24に基づいて算出することができる。
【0151】
第2ステップ:変位曲線とABP曲線との間の重み関数の前記係数は、運動特性(movement characteristics)として用いられる。計算は第1ステップで述べたと同様であり、同時に実施される。ここでも、係数は幾つでも利用できる。我々は、本実施例では6つを選択することにする。
【0152】
第3ステップ:第2ステップの前記運動特性と、第1ステップの前記重み関数の25個の前記係数との間の相関が、患者データの25回の多重回帰分析のシーケンスを通じて算出された近似線形関数(即ち、行列AおよびベクトルB)によって記述される。
【0153】
第1〜第3ステップを実施した後、非侵襲的なICP決定が下記のように行われる。新規の患者(前述のシミュレーション関数の導出には用いられなかった患者)について前記変位(またはこれに類するもの)およびABP曲線が非侵襲的に記録される間、前記運動特性は10秒毎に計算され、シミュレーション関数に転送される。最後に、前記シミュレーション関数は、前記ABP曲線をシミュレーション済みのICP曲線に変換する。
【0154】
受動的または能動的音響モードを用いた血圧測定は、引用によりその全文が本明細書に取り込まれるPCT国際公開第WO 02/43564号公報および米国特許第2002/0095087 A1号明細書に記載される。本発明の非侵襲的なシステムおよび方法は、経験的に確立された相関および/または数学的モデルを用い、動脈または静脈の断面その他の形状または材料の特徴の交互の収縮および拡張を測定する音響的手法を用いて、動脈または静脈の血圧の目安を提供する。別の一局面では、心周期ととともに血管が収縮および拡大するに伴って変位する該血管の周囲組織の交互の収縮および拡張を測定するために、音響的手法を用いて血圧が決定される。音響検出手法を用いて決定される場合がある形状的特徴には、直径の変化、断面積、アスペクト比、直径の変化率、速度等が含まれる。音響検出手法を用いて決定される場合がある材料の特徴には、血管壁または血管壁に近接した組織の剛性が含まれる。血圧は、例えば、標的組織部位或いは1本または2本以上の血管の近傍から能動および/または受動モードにて音響データを取得することにより、評価される場合がある。前記音響データは、血管壁または支持組織の剛性に関連付けることができ、これはちょうどCNS標的組織部位から得られる音響データが組織剛性に関連付けられるのと同様に血圧に関連付けることができ、ひいてはICPに関連付けることができる。動脈または静脈の血圧を決定するのに好適な標的組織部位は、あらゆる血管または周辺組織を含む。超音波散乱データの検出は、例えば同じ血管内の同期化ドップラー血流測定値に関連している場合がある。
【0155】
従来の血圧測定装置で測定された血圧の指標を用いた較正ステップは、血圧決定に組み込まれる場合がある。血管壁の振動速度のような血管の拍動性に関する音響プロキシ(acoustic proxies)が、それらの量の直接測定に代わって用いられる場合がある。この方法では、前記血管の直径(その他の形状的性質)の前記自発的変化が超音波を用いて監視および評価され、この情報が(例えば、相関手法を用いて)同じ血管内の同期化ドップラー血流測定に関連付けられる。前記血管の前記直径(または他の形状的性質)は血液により前記血管壁に加えられる圧力の関数であり、血流速度は血液が通過する前記血管の前記直径(または半径)に依存するため、血圧はドップラー法により測定された血流速から算出することができる。着目する前記血管の拍動性と、その部位の近位および遠位のドップラー血流速とを同時に測定することにより、連続的な血圧を測定することができる。
【0156】
自己調節
ある患者の自己調節状態、または自己調節能力もまた、本発明にしたがい、固有および/または誘発性の組織変位に関連する音響データを用いて決定される場合があり、以下に詳しく述べる。ICPと自己調節状態、または自己調節能力とは密接に関連している。心周期内のあらゆる時点における脳内の総血液量は、全身血圧、直径がミリメートルのオーダーの大きな動脈から直径がマイクロメートルのオーダーの細動脈に至るまで、前記脳脈管構造を保護する自己調節機構の関数である。これら様々な物理的スケールを持つ脳脈管構造は、異なる時間スケールで応答し、ICPおよび自己調節の決定に対する寄与のレベルも異なる。クラスの異なる脳脈管構造は、異なる材料特性、例えばヤング率を有し、前記脳内における異なる変位の性質に寄与する。
【0157】
脳は、実質的に一定速度の血流を受け容れ、これは脳の還流圧(CPP)で決まる。ここで、平均動脈圧の広い範囲にわたって、CPP=MAPICPが成り立つ。このようにして、通常の条件下では、前記脳およびその脈管構造は、脳への適正な血流を維持するためにCPPを変化させることができる。これは、自己調節の正常な状態と言える。脳への適正な血流を維持するためのCPPの変更能力が失われると、自己調節が異常となり、ICPが平均動脈血圧に正比例するようになる。
【0158】
1つの実施態様では、固有および/または誘発性の組織変位または放出に関連した、連続的に取得された非侵襲的なCNS標的部位音響データを、ABPおよび経頭蓋超音波ドップラー血流速の非侵襲的または侵襲的な連続同時測定値と併用することにより、脳の自己調節状態が評価される。CPPは、変位または放出データとABPデータとから決定される。具体的には、時間平均血流速(FVm)とCPP(Mx)との間と、収縮期の血流速とCPP(Sx)との間との各相関係数指数が、数分間の時間区分で算出され、各検討毎に平均化される。これらの相関指数は、自己調節およびその結果が既知の様々な臨床状況について決定される。これより、回帰線が決定され、MxおよびSx値のあらゆる集合について、脳の自己調節状態が推測される。Czosnyka et al,Monitoring of Cerebral Autoregulaton in Head−Injured Patients,Stroke Vol.27,No.10,October,1996を参照せよ。
【0159】
別の1つの実施態様では、単数または複数の組織変位、および/または、単数または複数の放射に関連する、連続的に取得された非侵襲的な音響データは、同時に得られるABP測定値ととともに、脳の自己調節状態を決定するのに用いられる。具体的には、圧力反応性指数(PRx)が、有限数の連続した変位および/または放出の数値サンプルと、数分間にわたって平均化されたABPとの間の移動相関係数として算出される。このようにして、ABPの変化に対する脳血管の反応性(自己調節)の連続指数が決定される。PRxの正の値は自己調節が損なわれていることを示し、好ましくない結果が予測され、一方、PRxの負の値は自己調節が損なわれておらず、良い結果が期待できる。Czosnyka et al.,Continuous Monitoring of Cerebrovascular Pressure−Reactivity in Head Injury,Acta Neurochir [Suppl] 71:74−77,1998)を参照せよ。
【0160】
別の1つの実施態様では、単数または複数の組織変位、および/または、単数または複数の放出に関連する同時に取得された連続的な非侵襲的な音響データと、連続的で侵襲的または非侵襲的なABPデータとのスペクトル解析が、脳血管の自己調節状態の決定に用いられる。高速フーリエ変換(FET)スペクトルより、変位および/または放出の比率、およびABP高調波のピーク振幅として伝達関数(TFn)が算出され、血管反応性の状態が識別される。TFは様々な既知の臨床条件について計算され、このデータは、特定の自己調節状態に対応するTFの値を決定するのに用いられる。これらのTF値により、自己調節の損傷を、もっぱらICPの上昇または能動的な血管拡張に起因する効果から区別することができる。Nichols,J et al.,Detection of Impaired Cerebral Autoregulation Using Spectral Analysis of Intracranial PressureWaves,J.Neurotrauma vol.13,No.8,1996を参照のこと。
【0161】
ICPおよび/または自己調節状態を正確に決定するためには、血行動態系および/または脳脊髄系に有限期間の擾乱を与えてICPに既知の変化を起こすか、或いは自己調節に負荷を与えるかの必要が生ずる場合がある。生理学的負荷を含む擾乱の例の幾つかが、以下に記載される。
【0162】
1)自己調節を評価するための血行動態系の機械的擾乱は、大型の空気圧または液圧式の血圧測定カフを下肢に装着し、これを膨張させて静脈血の心臓への戻りを促進し、これによって血管の血液量を増大させ、脳への血流を増大させて行われることを含む。自己調節状態は前記ドップラー情報の解析により評価され得る。脳への血流を増大させる他の方法としては、患者に重力服を着用させ、挿管された患者に対して人工呼吸器の換気パラメータを変化させ、動脈血流を末梢へ押しやることを含む。
【0163】
2)自己調節を評価するための血行動態系への薬理学的な擾乱。自己調節が損傷を受けていなければ、脳は、血流を再振り分けし抵抗を変化させることにより、かかる血流の現象に応答し、適切な還流を受けたと確認することができる。代替的に、静脈内液体ボーラスは、脳への血液量および血流を一時的に増大させるために投与される場合がある。自動制御が無傷の場合には、脳はそのように応答することができる。前記血液量および血流を変化させる他の手段は、血管収縮薬、血管拡張薬、変時性および収縮性の薬剤の使用を含む。
【0164】
3)ICPを変化させるような患者の体位変化(例えば、トレンデレンベルグ体位−対−反転トレンデレンベルグ体位)と、咳、くしゃみ等のような、ICPを変化させる患者の平衡状態の変化。
【0165】
4)胸内圧を変化させる、人工呼吸器の入出力の変調。
【0166】
ほとんどの場合、自己調節に損傷がなく正常なICPを有する患者は、頭部の上げ下げを含め、頭や身体のいかなる位置変化にも耐えることができる。完全に正常で健康な人でも、体位のかかる変化に伴って2〜3秒間の一時的なICPの変化が生ずるが、身体が補償し、ICPは正常値に戻る。体位変化は、例えば、非侵襲的なICPおよび自己調節の決定に用いられる方法を較正またはリセットするためにICPまたは自己調節に既知の変化をもたらすのに必要であると考えられる。
【0167】
音源/デテクタアセンブリ、走査および位置決定方法
本発明の一局面は、本発明の方法およびシステムに用いる音源/デテクタアセンブリに関する。操作中、TCD音源/デテクタのような音源/デテクタ・エレメント複合体は、単数または複数の前記音源の焦点が患者の体内の血管その他の標的部位に合焦させるために調整可能なように、患者の体表面またはその近傍に安定に装着または保持される。CNS標的部位については、前記音源/デテクタは、単数または複数の音源が頭蓋血管のようなCNS組織上に音響焦点を合焦させるために調整可能なように、頭蓋窓内に安定に装着されるか、或いはその近傍に保持される。前記音源/デテクタ・エレメント複合体は単体のコンポーネントとして提供されることが好ましいが、別の音源およびデテクタコンポーネントが用いられる場合もある。前記音源/デテクタ・エレメント複合体は、所望の患者のサンプリング位置への一時的な粘着を可能とする装着構造またはアクセサリとともに提供されるか、1回使用型コンポーネントとして提供されるかの場合がある。
【0168】
本発明の音源/デテクタアセンブリおよび音響データ取得コンポーネントとしては、様々なタイプの音響トランスデューサおよび音響トランスデューサアレイが用いられる場合がある。単一の音響トランスデューサ、または単一の音響トランスデューサアレイが音源およびデテクタの双方として運用される場合もあれば、別々の音源およびデテクタトランスデューサ、またはトランスデューサアレイが設けられる場合もある。従来のPZT音響トランスデューサは、本発明の方法およびシステムにおいて音響データ取得コンポーネントとして実現される場合がある。cMUTおよびPVDFセルまたはエレメントで構成される音響トランスデューサアレイも用いられる場合があり、多くの実行形式において好ましい。さらに別の実施形態において、PZT、cMUTおよびPVDF音響トランスデューサおよびアレイは、様々なデータ取得コンポーネントにおいて組み合わせられ、音源および/または受信器モードで駆動される場合がある。
【0169】
1つの実施態様では、音源/デテクタ・エレメント複合体は、スタビライザ上、または頭部に装着される場合があるヘルメット型の構造物またはヘッドバンドのような構造物の上または内部に搭載される場合がある。音響ゲルのような音響伝達材料を含むアプリケータが、音源/デテクタ・エレメント複合体の表面と頭部との間に介在される場合がある。前記音響装置の操作(steering)は、手動で、または機械式または電子式操作機構のような自動化機構によって行われる場合がある。かかる機構は当業者に周知である。
【0170】
標準的なTCDトランスデューサを用いて生理学的パラメータを測定する音響的手法の欠点の1つは、音響トランスデューサを用いた所望のCNS標的組織の位置決定が負荷を伴い、しかもMCAのような所望の標的領域を探して(音響的に)照射するのにしばしば熟練と経験を積んだ超音波検査技師を要する。所望の標的領域を位置決定した後、超音波検査技師は通常、トランスデューサの位置を安定化させ、患者の動きその他の擾乱がトランスデューサの位置に及ぼす影響を減ずるための煩雑で快適ではないヘッドセットをトランスデューサに取り付ける。前記超音波検査技師はまた、間欠的に音響読み取り値を監視して前記トランスデューサの再位置決定を行い、前記所望のデータ取得領域への合焦を維持しなければならない場合がある。
【0171】
臨床現場では、所望の標的領域を位置決定し、音響的に照射および/または探査するシステムおよび方法を、熟練した超音波検査技師を要することなく、信頼性の高い自動化された様式で提供することが望ましい。図5に、中大脳動脈(MCA)10を含む主要な脳血管、即ち、標準的な経頭蓋超音波ドップラー手段の標的、ICP決定に用いられる上述の方法論に用いられる音響測定の標的を図示する。前大脳動脈14、前交通動脈16、内頸動脈18および後交通動脈19を示す。黒く塗った血管枝は音響装置12に向かう血流を示し、一方、網目を掛けた血管部分は前記トランスデューサから遠ざかる血流を示す。本発明の音源デテクタアセンブリ12は、脳血管の右側に図示されており、後述のように走査モードで音響呼びかけ信号を発し、小さな標的部位の位置決定を行う前に、大きな標的部位を音響的に照射する。
【0172】
したがって本発明の他の局面は、複数の音源および/またはデテクタ・エレメントを含むアレイを用い、自動化された様式で所望の標的部位を位置決定し、音響的に照射および/または探査するシステムおよび方法に関する。音響トランスデューサ/受信器アレイは、例えば、大きな標的領域内の多数の部位から音響データを取得するために、走査モードで用いられる場合がある。前記走査モードで収集された前記音響データに基づいて、前記標的領域内で位置決定された部位が、集束音響照射および/または探査の標的部位として選択される場合がある。位置決定された標的部位は、音響散乱振幅、位相および/または周波数極大値および極小値、組織剛性的性質、固有および/または誘発性の組織変位的性質、これらの性質の変化速度等のような、走査モードで収集された音響データのあらゆる局面に基づいて選択されるか、予め決定される場合がある。選択された標的部位上への前記音響トランスデューサ/受信器アレイのエレメントの合焦は、機械式または電子式ビーム操作その他の自動化音響合焦方法を用いて、自動化されたやり方で行われる場合がある。別の実施態様ではは、より大きな標的領域内の所望の標的部位を走査モードで位置決定し、前記所望の標的部位に合焦して音響データを取得し、その後前記標的部位を周期的に走査し、必要に応じて前記音響焦点の位置を再決定し、前記所望の標的部位への前記音源の合焦を維持する自動化システムが提供される。複数の標的部位から音響データを取得するため、本発明の音響トランスデューサ/受信器アレイ・アセンブリを用いて、複数の標的部位が走査モードで位置決定され、逐次的および/または同時に合焦される場合もある。音源および/またはデテクタ・エレメントの好適なアレイを内蔵したシステムを開示する。
【0173】
図6Aは、脳血管複合体の大きな部位のような広範な標的領域22内の複数の部位に走査モードで音響照射を行って音響データを取得する、本発明の走査型音響トランスデューサアセンブリ20の使用状態を模式的に示す。走査モードで取得された前記音響データに基づいて走査領域内で位置決定された標的部位24が識別される場合があり、図6Bに示すように、前記トランスデューサアセンブリのエレメントは単数または複数の標的部位に合焦され、単数または複数の所望の前記標的部位から音響データを取得する。位置決定された単数または複数の標的部位の選択は、音響散乱データの振幅(または何らかの振幅から派生する特性)か、音響散乱データのドップラー解析か、音響データの位相または周波数か、一次および/または他の極大および/または極小振幅の変化か、1心周期内および/または呼吸周期その他の周期内の音響信号の位相または周波数か、血流速、組織剛性の性質、固有および/または誘発性の組織変位の性質、かかる変位に伴う音響放射、これらの性質の変化率等のような音響データに由来する決定値かを含む、様々な音響的性質に基づいて予め決定される場合がある。本発明の方法を用いたICPの決定のためには、MCAまたは他の頭蓋血管のような所望の位置決定された標的部位の選択は、図6Aに示すように所望の標的領域を走査して、音響散乱が最大振幅となるか、ドップラーまたは血流速が最大となる、MCAを表す局所的部を決定することにより行うことが好ましい。音響データを取得するために、前記音源/受信器データ取得コンポーネントの音響エレメントは、次に、1つまたは2つ以上の位置決定されたMCA部位に合焦される場合がある。
【0174】
音響データの取得に先立ち、MCAのような血管を含む、体内の生理学的構造の位置決定を行うために、種々の非侵襲的な非音響検出モダリティーが代替的または追加的に用いられる場合がある。近赤外線分光法(NIRS)、磁気共鳴その他の手法が知られており、例えば体内生理学的構造の画像化や位置決定に用いられる。かかる技術は、音響的性質の評価に先立ち、体内生理学的構造の位置決定のために本発明の方法およびシステムと併用される場合がある。
【0175】
以下に説明する方法論およびアセンブリを用いて、音源/デテクタ・エレメント複合体、好ましくは複数のトランスデューサ・エレメントを含む音響トランスデューサアレイは、走査モードおよび合焦モードの両方で動作可能である。前記音響データを取得するコンポーネントの1つまたは2つ以上の音源素子が走査モードで頭蓋内部の標的領域(または他の標的領域)を走査し、所定または所望の音響的性質を有する標的部位を識別する。前記音源が、所定または所望の音響的性質を有する前記標的部位を1つまたは2つ以上認識したとき、1つまたは2つ以上の音源が手動または自動的に単数または複数の所望の標的部位に合焦され、音響呼びかけモードまたはデータ取得モードで駆動される場合がある。前記音源は、取得された音響データを監視して、前記音源の位置決定および/または合焦を調節して、選択された、または所定の標的部位に単数または複数の音源の焦点を維持するように、プログラムされる場合もある。同様に、単数または複数の前記音源は、複数の所定部位またはプログラムされた標的部位から所定の時点でデータを収集するように、プログラムされる場合がある。本発明の音響トランスデューサ音源およびデテクタ・エレメントは、実際、単数または複数の標的部位から一度に、またはより多くの回数にわたって、1つまたは2つ以上の種類の音響データを収集するようにプログラムされる場合がある。本発明の方法およびシステムを用いた音響データの取得は、自動化されたやり方で行われることが好ましい。
【0176】
所望の標的領域をそれらの音響的性質に基づいて走査し位置決定する方法論は、例えば、潜水艦のような標的を捉えるように魚雷をプログラミングする目的で開発された「レンジドップラー」探索法に基づく場合がある。レンジ・ドップラー処理は、レーダーやソナーの信号処理分野で長年にわたり用いられてきた整合フィルタリングの効果的な実行形式である。これはロバスト性のある手法で、その理由の一部は、遭遇する環境および標的の統計的な性質に関する仮定が極めて少ないからある。レンジ・ドップラー処理は、着目する標的の空間的時間的(即ち、ドップラー)散乱の性質を有効に分解する方法を提供する。センサの時系列データは、フレームに分割され、しばしば重ね合わせられ、透過波形の複製で乗ぜられ、高速フーリエ変換(FFT)アルゴリズムを介して周波数ドメインに変換させる。これらの演算は、各々狭い範囲のドップラー・シフトに整合した一連の整合フィルター処理を極めて効率良く実行する。レンジ・ドップラー処理は、標的をそれらのレンジおよび前記音響装置に対する速度に関して分離する。頭蓋内ではMCA血流が断然大きな標的であり、かかる「追尾(search and home in)」法にとって自然の道理である。
【0177】
所望の標的領域上に音響焦点を探索し、維持する他の方法も適用可能である。Porter,R.P.,P.D.Mourad,and A.Al−Kurd(1992),Wavefront reconstruction in variable,multimode waveguides.J.Opt.Soc.Am.,A9(11)19841990と、Mourad,P.D.,D.Rouseff,R.P.Porter,and A.Al−Kurd 1992),Source localization using a reference wave to correct for oceanic variability,J.Acoust.Soc.Am.,92(1)10311039とに記載される音響ホログラフィ法も用いられる場合がある。音響ホログラフィ法を用いると、ある標的からの信号が、各々音響アレイ上で測定された後に、基準音源からの信号と重畳される形で組み合わせられる。組合せの結果は、標的部位で最大となる式が得られる。音響ホログラフィ法を用いてICPを決定するには、音場全体が、例えば該音場のフーリエ変換かドップラー信号のような、フーリエ変換の成分に置き換えられる場合がある。この実施態様では、音響アレイからの音響後方散乱のフーリエ変換は標的信号として機能し、反対側のこめかみに装着されたTCDまたはアレイからの前方散乱は基準音源として用いられる場合がある。これらの信号は、所望の標的領域上に音響焦点を探索し、維持するため、数学的に組合せられる場合がある。
【0178】
別の実施態様では、ユーザーに依存しない本発明の局面である自動化標的設定をユーザーが補助するオプションを備えることが有用であろう。これは、着目する特徴を自動的に識別するためのシステムがその特徴に特化されていない場合があり、或いはその結果、コンピュータが選択した特徴が最適の特徴であるか否かをユーザーの考え方次第で検証出来る場合に有用であるかもしれない。鍵となるアイデアは、着目する特徴の値の空間分布の中で、該着目する特徴が、大局的でないとしても局所的な最小または最大を表すことが知られていることである。中大脳動脈内の血流速は該中大脳動脈に沿って空間的に分布する一定範囲の値であることが知られているが、我々は中大脳動脈の最大血流速を求めるという実施例を用いることにするが、この技術はこの用途に限定されるものではないことを理解している。
【0179】
ユーザーを標的設定に関与させながら自動的に標的設定を行う代表的な音響システムは、DWL、Spencer Technologies、Nicolet等によって製造される従来のTCDシステムを利用する場合があるが、音響センサは単一のトランスデューサ・エレメントからなり、前記音響システムが前記トランスデューサの一定方位について前記単一のトランスデューサのビームに沿ってのみ情報を与える。ここで、ユーザーは、脳構築の異なる部分に超音波を照射するように前記トランスデューサを手動で操作し、前記トランスデューサのビーム軸に沿った深さを電子的に操作する。ユーザーは、その直前にはどのような表示がされていたかというユーザー自身の記憶とともに、リアルタイム情報表示によって案内されて、MCA内の最大血流速を探し当てることができる。前記ディスプレイの一部が、(絶対単位か、実際の深さは重要ではないので、任意単位かによって報告される)ユーザーが専用のカーソルで選択したトランスデューサの表面に対する相対位置における注目する変数のリアルタイム値を提供する場合がある。前記ディスプレイは、例えば、血流スペクトル画像とも呼ばれるMCA内の血流速のリアルタイム値を提供する場合がある。
【0180】
前記ディスプレイの他の部分は、ユーザーとのコミュニケーションを図るために、トランスデューサがいずれの向きであっても、カーソルのリアルタイム位置に対するMCA内のより大きな値の血流の方向のグラフィック・イメージを提供する場合がある。これは、2つの矢印が、例えば一方は「上」、他方は「下」のように異なる方向を指す形式をとり、ユーザーには、この上と下とが、前記カーソルの現在位置より深いか、または前記カーソルの現在位置より浅いことをそれぞれ表すことが知られている。両方向の血流速に局所的最大値が表れた場合、より大きな最大値が存在する方向が、その方向を指し示すより明るい矢印で指定されるであろう。これら血流速勾配が、ある決まった瞬間に超音波照射された地点のすべてに沿ったドップラー・シフトを前記トランスデューサで測定し、前記血流速の局所勾配をリアルタイムに算出することにより、付属の制御コンポーネントで算出される場合がある。この算出は、様々な周知の数学的方程式(様々な次数による片側差分、両側差分等)を用いて行われる場合がある。前記MCA内で局所的に血流速が最大となる絶対位置は、知る必要が無いか、或いはユーザーに報告または表示される。
【0181】
前記解析からユーザーが得られるものは、前記カーソルの前記現在位置に対する血流速の極大値の方向であるが、この位置は定義される必要がない。ユーザーは、前記カーソルを動かして、前記音響ビームに沿ったより深い位置またはより浅い位置におけるスペクトル画像を報告し、血流速の極大値が達成されたか否かを自ら判断する場合がある。前記トランスデューサの相対位置または角度の物理的操作と組み合わせて、このようにビーム軸に沿った血流速を案内に従って探索することにより、ユーザーは案内付きで血流速が最大となる場所を特定することができるようになる。
【0182】
標準的なTCD装置は、前記トランスデューサのビームに沿った一定の点、特にスペクトル画像がユーザーに示されている点での血流速に振幅が密接に関連した音波を放出することを可能にする。かかる補足情報は、本発明のユーザーにとって興味深いものである可能性がある。更に、前記カーソルを前記トランスデューサのビームに沿って操作し、前記血流速の絶対値が上昇または下降するに伴い、ディスプレイの強度の増大または減少を指定できる可能性がある。このようにして、ユーザーが既に利用可能な聴覚情報を視覚情報が補う場合がある。
【0183】
単一トランスデューサまたは疎なアレイではなく、比較的密な分布をした音響トランスデューサを含む音響アレイを用いると、あらゆる時点において、前記音響ビームの中心からのあらゆる角度における深さ方向の血流速の相対空間分布に関する情報が得られる場合がある。あるユーザー支援機能により、血流速の局所的最大値の方向を示すディスプレイが提供される場合がある。しかし、トランスデューサアレイを用いた場合、最大血流速の方向に関する情報は追加的な次元で提供される場合があり、ユーザーは、リアルタイムな前記カーソル位置に対するカーソルの動きの可能な3方向のそれぞれを指し示す矢印に案内される場合がある。ある矢印のセットは、前記局部的最大値が現在のカーソル位置よりも深いか、または浅いことを示す場合がある。また別の矢印のセットは、前記局部的最大値が現在のカーソル位置よりも手前か、または奥であることを示す場合がある。更に別の矢印のセットは、血流速の前記局部的最大値が現在のカーソル位置よりも上方か、または下方であることを示す場合がある。この情報は、前記トランスデューサアレイにより超音波照射されたフィールド領域からの音響後方散乱のドップラー解析を行うことにより、上述のように算出される場合がある。ユーザーによる前記アレイの位置決定は、注目する位置における瞬間的なスペクトル画像を含む、上述の補足的な聴覚および視角情報ととともに、この情報によって案内される場合があり、これによってカーソルを動かし、スペクトル画像を再検討する。
【0184】
以下、1つまたは2つ以上の所望の標的部位の位置を決定し、超音波を照射する音響システムおよびトランスデューサアセンブリについて、前記所望の標的部位が中大脳動脈(MCA)である場合を例として説明する。なお、この標的部位は単なる例示であり、本発明の方法および音響アセンブリは、頭蓋血管、およびCNSや非CNS標的部位を含む、他の標的部位に対する位置決定および超音波照射にも用いられる場合がある。以下に説明する音響的方法およびシステムは、所望の標的部位の音響的性質に関するデータを収集する必要がある、あらゆる用途に有用な場合がある。
【0185】
様々な構成および構造を有する音響トランスデューサアレイが当業者に知られており、様々な用途に有用な場合がある。本発明の音響トランスデューサアレイは概して薄く、通常、単一の層またはその厚さのトランスデューサ・エレメントを含む。用途によっては、積層型の多層トランスデューサセルまたはエレメントが用いられる場合がある。前記トランスデューサ・エレメントまたはセルは、単一平面上に配列されてほぼ平坦な平面型アレイを形成する場合もあれば、あるいは配列されて曲面または階段形状のアレイを形成する場合もある。様々な構成および構造を持つトランスデューサアレイが、本開示で考えられる用途に有用である場合がある。
【0186】
1つの実施態様では、本発明の音源/デテクタ・エレメント複合体を含むデータ取得コンポーネントは、複数の容量型マイクロマシン式超音波トランスデューサ(cMUT)セルを含む。cMUT超音波トランスデューサは、半導体製造技術を用いて製造され、診断用超音波エネルギー・レベルで十分な送受信出力および感度を有し、本発明の目的には必要十分である。前記トランスデューサ・エレメントは、シリコン基板上に搭載された小型の容量性隔壁構造を用いて製造される。cMUTトランスデューサアレイは極めて安価に生産できる可能性があり、その支援エレクトロニクスが同一チップ上に実装できる場合がある。
【0187】
図7は、1個のcMUT超音波トランスデューサセル構造体の模式図である。図7に示されるように、cMUT超音波トランスデューサセル40は、上部電極として図示される正極42と、下部電極として図示される負極44とを含む。前記上部電極は通常、可撓性膜の上またはこれと接続して設けられ、前記下部電極は通常、シリコン基板のような基板46の上またはこれと接続して設けられる。絶縁支持体48が設けられ、前記正極と負極との間に密閉室50を形成する。密閉室50は気体または液体またはゲル様物質を含む場合があり、或いは、真空室として設けられる場合がある。前記cMUT超音波トランスデューサの前記ダイヤフラム構造が音響振動を変調容量信号に変換し、またはこれと逆の変換を行う。DCバイアス電圧が印加され、AC信号が送信時に前記DC信号に重畳されるか、または受信時に測定される。通常、cMUTトランスデューサ・エレメントは、無バイアス・モード、非崩壊モード、崩壊モードおよび崩壊スナップバック・モード(送信のみ)を含む、様々な送受信モードで駆動される場合がある。cMUTトランスデューサセル、エレメントおよびアレイを使用することの利点の1つは、電子装置がセル構造の上または内部に設けられる場合があり、これによって前記アレイに対する電子的な通信が大幅に簡素化され、プログラマブルなアレイの特徴がより際立つことである。
【0188】
cMUTトランスデューサアレイは、エレメントとして配列された複数のcMUT超音波トランスデューサセル構造体で構成され、前記エレメントは行および/または列および/または前記アレイを形成する、一段と小さい区画に配列されている。図8は、このようなアレイ60を模式的に示す。前記トランスデューサ・エレメント64の各々を形成するcMUTトランスデューサセル62の数は64であり、前記アレイを構成するエレメントの数は、アレイの用途によって変化する場合がある。図8に示される前記cMUTトランスデューサアレイ60は複数のcMUTトランスデューサ・エレメント64を含み、前記トランスデューサ・エレメント64の各々はcMUTセル62の6×6配列を含む。したがって、前記アレイ60は、36個のトランスデューサ・エレメント62の6×6配列を含み、前記トランスデューサ・エレメント62の各々は36個のcMUTトランスデューサセルで構成される。本発明では、様々な構成を有するcMUTトランスデューサアレイが組み立てられ、用いられる場合がある。
【0189】
本発明者らは、cMUTトランスデューサアレイがTCD装置のような医療装置に用いて好適な音響送受信装置として動作するに十分な音響伝達および感度レベルを達成するように構成でき、かつ動作させることができるという、予期せぬ発見をした。具体的には、複数のcMUTエレメント列を持つ図8に示したタイプのcMUTトランスデューサアレイは、バイアス電圧80Vで動作し、28Vacで最大強度1.75W/cmの音響エネルギーをCNS標的部位へ伝送したが、従来のTCD音響装置を用いて脳血流を決定するのに要した典型的な伝送強度はわずか約0.6〜0.7w/cmであった。cMUTトランスデューサアレイは、実験レベルではバイアスを80V、アレイから4cm未満乃至6cm以上の範囲にあるCNS標的部位からの信号の受信ゲインを、ドップラー決定を行うに十分なレベルである60および80dBとして動作させた。
【0190】
cMUTトランスデューサセルおよびエレメントは、異なる機能を持つcMUTトランスデューサアレイを提供するために、異なる組合せで配列される場合がある。各cMUTセルに独立に制御されるか、制御可能な、電子回路が設けられる場合には、各cMUTセルはトランスデューサ・エレメントとして機能し、アレイは独立に制御されるか、独立に制御可能な、複数のcMUTセルとして供給される場合がある。より典型的には、あるトランスデューサ・エレメントは、ユニットとして電子的に制御されるか、制御可能な、複数のcMUTセルを含む。したがって、図8に示すアレイでは、エレメント64の各々は、ユニットとして制御されるか、制御可能な、複数(6×6)のcMUTトランスデューサセル62で構成される。一方、行または列を形成するエレメントのような複数のエレメント64は、ユニットとして電子的に制御されるか、制御可能であり、複数行または複数列のトランスデューサ・エレメントを含むcMUTトランスデューサアレイを提供する。一次元(1D)アレイは、複数のセルを含む単一のトランスデューサ・エレメントで構成される場合があり、一方、二次元(2D)アレイは通常平面的な二次元構成で配列される複数のトランスデューサからなる。
【0191】
1つの実施態様では、各々が単数または複数のトランスデューサ・エレメントで構成される2つのcMUT音響アレイがMills Cross型に配列されるが、この配列では2つのトランスデューサアレイが通常は互いに直交して配置され、一方のアレイは送受信モードにおいて垂直方向の掃引を行い、他方のアレイは受送信モードにおいて水平方向の掃引を行う。この実行形式では、第1の線形cMUT送信アレイが垂直方向のような第1の方向に操作可能(steerable)とされる場合があり、第2の線形cMUT受信アレイが通常は前記第1の線形アレイと直交配置され、前記第1の方向と直交する方向に操作可能とされる場合がある。前記2つの直交した線形cMUTアレイは、送信ビームおよび聴取ビームを操作しながら交互に超音波ビームを送受信し、所望の性質を有する音響信号を識別し、合焦する。
【0192】
別の実施態様では、PVDF(フッ化ポリビニリデン)フィルムトランスデューサを含む音響アレイが、単独か、或いはcMUTアレイまたは音源として用いられる単一エレメントのPZTトランスデューサとの組み合わせかで用いられる。他のトランスデューサまたはアレイと組み合わせられたPVDFアレイを含む代表的な1つの実施態様では、前記音源トランスデューサまたはアレイは前記PVDFアレイを通じて音を伝送し、通常はPVDFアレイの配列と垂直な方向に前記音を一次元掃引する。前記PVDFアレイは音響デテクタとして機能し、音響信号の受信と処理を行う。
【0193】
図9は、複合型PVDF/cMUTアレイを含む本発明の音響トランスデューサアレイ70の模式図である。前記アレイの合計深さは通常は極めて小さく、約1cmのオーダーである場合がある。cMUTアレイ72はPVDFアレイ74の下に配置されており、PVDFアレイ74は使用時には患者の体表面に最も近い位置に配置される。かかる構成において、前記cMUTアレイは音源として動作し、音響ビームを前記PVDFアレイを通じて伝達する。cMUTアレイ72は、1つまたは2つ以上のcMUT音響素子を含む1D(図示の通り)または2Dアレイで構成される場合がある。前記PVDFアレイは1D(図示の通り)または2Dアレイとして提供される場合もある。単数または複数の音源および/またはデテクタが2Dアレイとして提供される場合は、音響信号を単一方向ではなく、2次元で送信および/または検出することができる。
【0194】
図10Aおよび10Bは、PVDFアレイ/PZTトランスデューサの組合せを含む本発明の音響アレイの模式図である。cMUTアレイが同様にPZTトランスデューサと組み合わせて用いられる場合がある。前記PVTトランスデューサは通常、前記PVDFまたはcMUTアレイの下側に取り付けられ、音源として単一の幅広ビームを前記PVDFまたはcMUTアレイを通じて伝送する。これらの実施態様では、前記PZTトランスデューサはほぼ音源として機能し、前記PVDFまたはcMUTアレイはほぼ音響デテクタとして機能する。
【0195】
図10Aは、複数の配列されたトランスデューサ・エレメント86を有するPVDFまたはcMUTトランスデューサアレイ84の下側にPZTトランスデューサ82を含む、音源/デテクタ・エレメント複合体80を示す。配列された前記トランスデューサ・エレメント86の各々は、ユニットとして制御されるか、または制御可能である。図10Bは、PVDFまたはcMUTトランスデューサアレイ94の下側にPZTトランスデューサ92を含む、音源/デテクタ・エレメント複合体90の他の例を示す。前記トランスデューサアレイ94はユニットとして制御されるか若しくは制御可能で、二次元的に等間隔配置された複数のトランスデューサ・エレメント96を含む。このようにして、前記PVDFまたはcMUTアレイは、複数の配列されたトランスデューサ・エレメントを含む図10Aに示すような1Dアレイとして、または二次元的に配列された複数のトランスデューサ・エレメントを含む図10Bに示すような2Dアレイとして構成される場合がある。
【0196】
本発明の超音波トランスデューサアレイ・システムの長所の1つは、多機能のアレイが、比較的ハイパワーであるにもかかわらず、安価なシステムとして提供できる場合があることである。かかるアレイは極めて多目的であり、複数の音響機能を担うことができ、所望の機能を提供するように予めプログラムされるか、またはプログラム可能である場合があり、且つ、一体型臨床診断システムの使い捨て、または1回使用型エレメントとして提供される場合がある。1つの実施態様では、本発明の音響アレイは、データ処理、記憶および/または表示機能を持つ制御コンポーネントと連動した1つまたは2つ以上の音響トランスデューサアレイを含むICP監視装置のような医療装置の、1回使用型音響データ取得コンポーネントとして提供される。この1個または2個以上の音響トランスデューサアレイは、1本または2本以上の着脱可能なケーブルによって、或いは無線周波数、赤外線その他の無線技術を用いて、制御コンポーネントと通信する場合がある。単数または複数の前記トランスデューサアレイは、ある種の境界またはパラメータを有する1つまたは2つ以上の標的領域を走査したり、予め選択された、または選択可能な音響的性質に基づいて1つまたは2つ以上の所望の標的部位の位置を決定するように操作可能である場合があり、またそのようにプログラムされている場合がある。更に単数または複数の前記トランスデューサアレイは、予め選択された強度、振幅、位相、周波数等を有する超音波ビームを単数または複数の前記標的部位に照射することにより、自動的に焦点を確定し維持するようにプログラムされるか、または制御可能とされる場合がある。また本発明のトランスデューサアレイは、複数の標的部位から、同時にまたは異なる時間に、音響データを収集するようにプログラムされる場合がある。1つの実施態様では、トランスデューサアレイまたは複数のアレイが交互に音源およびデテクタとして動作するようにプログラムされる場合がある。1つの実施態様では、複数の患者の監視に使用される複数のトランスデューサアレイが、単一のデータ処理、記憶および表示装置にデータを提供し、該装置と通信を行う。
【0197】
図11Aおよび11Bは、音響アレイのような音源/デテクタシステムを含む本発明の音響データ取得コンポーネントの1つの実施態様例を示す。図11Aおよび11Bに示す前記実施態様には、使い捨て型と非使い捨て型のエレメントの双方を示す。図11Bのシステムでは、前記音響システムの高価なエレメントが非使い捨て型のコンポーネントとして提供され、一方、患者に密着させることが必要で、おそらく滅菌も必要なより安価なコンポーネントが1回使用型コンポーネントとして提供される。
【0198】
図11Aは、アレイ型電子コンポーネント104とインターフェースする音響トランスデューサアレイ102と、トランスデューサアレイ102と被験者の体表面との間の高品位な音響伝達を容易ならしめる音響伝達コンポーネント106とを含む音響データ取得コンポーネント100を示す。音響伝達コンポーネント106は、均一な性質を有し、且つ気泡のような重大な音響不連続性を実質的に持たない音響ゲルのような音響伝達材料を含む密閉容器を含むことが好ましい。音響伝達コンポーネント106は、少なくとも露出表面108の一部に、前記データ取得コンポーネントを被験者の体表面に一時的に密着させることを容易ならしめるための粘着材料を内蔵する場合がある。粘着材料を保持する露出表面108は、患者の体表面に装着する前に取り外すことができる場合がある着脱式カバー110で保護される場合がある。
【0199】
前記トランスデューサアレイおよびアレイ電子機器は、制御コンポーネントに対するデータ通信および/または給電を容易ならしめる構造体112の内部または表面に永久的に装着される場合がある。構造体112は、制御および/または電源部を内蔵する場合があり、または別の制御コンポーネントに収納された制御および/または電源部にトランスデューサアレイおよびアレイ電子機器を動作可能に接続する場合がある。データ取得コンポーネント100は、図11Aに示すように、構造体112とケーブル114とを用いて制御コンポーネントと通信するか、または、RF通信システムのような別の通信方法論を用いて通信を行う場合がある。トランスデューサアレイ102およびアレイ電子コンポーネント104が永久的または半永久的に構造体112内部に実装される場合は、音響伝達コンポーネント106は1回使用型コンポーネントとして提供される場合があり、また被験者の体表面に装着する前にトランスデューサアレイ102の露出表面に固定される場合がある。
【0200】
代替的には、音響トランスデューサアレイ102、アレイ電子機器104および音響伝達コンポーネント106は、図11Bに模式的に示されるように、1回使用型音響データ取得コンポーネント116として提供される場合がある。1回使用型音響データ取得コンポーネント116は、アレイ102およびアレイ電子コンポーネント104と、構造体112または遠隔制御コンポーネントの内部に設けられた電子機器および/または給電装置との間の通信を担うワイヤ118として模式的に図示される電子インターフェース・コンポーネントを有する。データ取得コンポーネント116と接続して設けられる前記電子インターフェース・コンポーネントは、構造体112内部の相手側インターフェース・コンポーネントと接続して用いられるハードワイヤー型インターフェース・コンポーネントとして設けられる場合があり、或いは無線インターフェース通信コンポーネントとして設けられる場合がある。本実施態様では、1回使用型データ取得コンポーネント116は滅菌または非滅菌状態でパッケージ化される場合がある。
【0201】
本実施態様では、音響アレイは、患者インターフェース・コンポーネントと組み合わせ、1回使用型または使い捨てシステム・エレメントの一部として提供される場合がある。前記音響アレイは、標的領域に対して高品位な音響伝達を可能とする、音響ゲルのような音響伝達材料を接触していることが好ましい。前記音響伝達材料は、患者の皮膚に使い捨て型システム・エレメントを一時的に載置または固定し易くする粘着材料のような接続材料とインターフェースしていることが好ましい。前記患者接触材料は、使用時に取り外し可能な着脱式カバーで保護されている場合がある。前記音響アレイを含む前記使い捨て型システム・エレメントは、1回使用向けに滅菌・パッケージ化される場合がある単一エレメントとして提供される場合がある。
【0202】
代替的な1回使用型システムおよびエレメントが用いられる場合もある。かかる代替的なシステムの1つでは、音響伝達材料層が、単数または複数の音響アレイを含む非使い捨て型コンポーネントとインターフェースで接続するように設計された、別個に滅菌されたパッケージ型コンポーネントとして設けられる場合がある。これらの層には、患者の皮膚と接触させるために、その片側に接着層が設けられる場合がある。或いは、音響伝達材料を手作業で塗布するための凹部が設けられる場合がある。非使い捨て型エレメントの多くの異なる実施態様または配列が用いられる場合があることは自明である。
【0203】
かかる小型の使い捨て型アレイ・エレメントは、患者のこめかみに接触して載置される場合があり、その動作中、脳血管のような着目する標的領域を電子的に走査し、単数または複数の音源およびデテクタをMCAのような着目する前記標的部位に合焦させる。前記音響アレイは、着目する手術中の標的部位を監視し、合焦状態を保つ。本実施態様では、前記音響アレイは、音響ゲル、または手術中の患者の皮膚とのインターフェースにおいて音響信号の伝送を容易ならしめる他の音響材料を含む使い捨て型アセンブリの一部を構成する。前記音響ゲルの露出表面は、所望の患者の体表面に一時的または永続的に載置することを容易ならしめる1つまたは2つ以上の接着エレメントとインターフェースで接続していることが好ましい。前記音響アレイその他のコンポーネントを保護するために、音響ゲル上に着脱式カバーが設けられる場合がある。
【0204】
これらのエレメントは、図11Bに示されるように、前記システムの非使い捨て型エレメント上に実装可能な使い捨てユニットとして設けられる場合がある。前記システムの非使い捨て型エレメントは、実装用ハードウェアと、1本または2本以上のケーブルまたは無線伝送インターフェースと、データ処理、記憶および表示装置(図示せず)とを含む場合がある。
【0205】
(血液および血管を含む)CNS組織を評価するための前記単数または複数の音源およびデテクタの被験者上への取り付けは、頭蓋内の既知の「音響窓」になされる場合がある。前記単数または複数のデテクタに対する前記単数または複数の音源の配設は、所望する音響データに応じて、例えば、後方散乱音響データを収集する場合は、単数または複数の音源と、単数または複数のデテクタとを互いに近接させ、一方、前方散乱音響データを収集する場合は、単数または複数の音源と、単数または複数のデテクタとを互いに概ね対向配置する。音響散乱または反射データは、単数または複数の音源および単数または複数のデテクタを患者の様々な部位に取り付けることにより、様々な角度で収集される場合がある。
【0206】
本発明の方法およびシステムを用いてICPを決定する場合、経頭蓋超音波ドップラー測定と末梢血圧測定との間の高度差(heigt difference)に関するデータが望ましい場合がある。この目的のためには、前記音源/デテクタ装置が音響、マイクロ波または赤外線受信器を含む場合、静水圧センサが、抹消血圧モニタに設けられた対応する送信機とともに設けられる場合がある。これらの伝達モダリティーの既知の移動時間を用いて、ヘッドセットと末梢血圧モニタとの間の直線距離を測定することができる。前記音源/デテクタ装置上に地表に向かう方向を測定するセンサを配設して、鉛直方向と末梢血圧モニタとの間の角度の自動的な測定を可能にする座標系を発生させる場合もある。この情報を適切にプログラムされた小型の集積回路に供給することにより、この直接距離および角度を知ることができ、ハンドセットと末梢血圧モニタとの垂直高度差を算出することができる。他の形式の静水圧センサも用いられる場合がある。
【0207】
V_mca測定値を用いてICPを決定する例に基づいて本発明の方法およびシステムを説明してきたが、ICPの決定には他の頭蓋標的部位から得られる音響的性質も用いられる場合がある。自動化音響走査および標的位置決定は、表示情報を用いて容易化される場合がある。
【0208】
一部の実施態様では、ユーザーが単にトランスデューサアレイを患者に装着するだけで、自動化音源/デテクタ走査機能が作動し、最大V_mcaのような所望の標的を見出す。固有の音響的性質を有する他の部位も位置決定される場合がある。標的位置の座標と音響的性質の値が経時的に記憶され、様々なフォーマットで表示される場合がある。
【0209】
本発明の方法およびシステムは、救急車、救急室、集中治療室等の緊急医療状況と、外科的状況と、入院患者および外来患者のケア状況と、住居、航空機、列車、船舶、公共の場所等を含む様々な状況とで用いられる場合がある。用いられる手法は非侵襲的であり、標的組織に不可逆的な損傷を与えない。したがって、これらは望ましくない副作用を生ずることなく必要な頻度で用いられる場合がある。本発明の方法およびシステムは患者の関与を必要とせず、身体の不自由な患者もこれらのシステムの恩恵を受ける場合がある。ICPのような組織の性質を評価する方法およびシステムも、組織の性質またはICPのモニタに連続的または間欠的に用いられる場合がある。
【0210】
特許文献および非特許文献を含む、本明細書で述べた文献のすべては、その全体が引用により本明細書に取り込まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0211】
下記の実施例は、説明のために提示されるものであり、何ら本発明を限定する意図はない。
【実施例1】
【0212】
TCD V_mcaおよび侵襲的に決定された連続ABP測定値を変数として用いる経験的研究に基づくICP予測結果
データを収集し、頭蓋血管速度とABPと変数間の非線形相関を導出し適用するための試作システムが、市販のコンポーネントを用いて組み立てられた。この試作機は、PCMCIA National Instruments(NI)6024−Eデータ取得(DAQ)カードを搭載したノート型コンピュータと、NI−DAQカードの露出した背面およびマイクロホン入力整合回路を含むボックスと、Spacelabs遠隔測定ユニットの信号出力ポートに適合するように設計された専用アダプタと、標準的なTCD超音波トランスデューサと頭部に機械的に固定するためのFDA認可ヘッドバンド装置とを備えたSpencer Technologies TCD 100M Power M−モード・デジタル経頭蓋超音波ドップラー装置およびコントロール・パッドとからなる。Spencer TCD 100M装置には、FDA認可の構成からの変更は一切施さなかった。すべての電子機器類は、認可された無停電電源(UPS)を用いて給電された。いずれにしろ、データ取得システムには、FDA認可のSpencer TCD装置部分以外は患者と相互作用する部分が無い。
【0213】
Spencer Technologies社の装置を用いて取得した音響後方散乱データの解析から決定された中大脳動脈(V_mca)の血流速と、侵襲的な動脈ラインを用いて測定された動脈血圧(ABP)とを変数として用い、前述のANNを訓練並びに検証することにより、V_mca、ABPとICPとの間の非線形相関が導出された。
【0214】
我々は、V_mcaおよびABPととともに侵襲的にICPを測定できた患者らの集合からデータを取得した。局所的な損傷を有する患者については、損傷部位と同じ半球からICPを侵襲的に測定し、V_mcaも同じ側から測定した。これは、脳が区画化された固体であって、その構造全体にわたって圧力勾配を支持できるためである。例えば、ヒヒでは半球間のICP差が最大で10mmHg測定されているのに対し、ヒトではこの差が最大で25mmHg測定される。また、ABP測定点と脳との間の静水圧差を考慮に入れるためにICPとABPとの測定点の高度差が必要である。例えば、仰臥位の患者ではこれはゼロとなるであろう。そこで我々には、我々のモデルを試すための、前記第1の集合とは独立の別の患者集合が必要であった。これらの患者に侵襲的なICP装置を装着し、適切な半球からV_mca測定値を得た。
【0215】
我々は患者15名からデータを収集することに成功し、この中の8名が我々の患者基準に合致した。患者15名からデータを取得した後、うち11名のデータを解析し、以下のようにして我々のアルゴリズムを初期化した。患者数が少ないので、我々は前記8名の患者のうち7名を用いてアルゴリズムを順次決定し、これを8人目の患者に対してテストした。これを8回行うことにより、僅かずつ異なる8種類のアルゴリズムの生成を通じて、我々のnICP方法論を8回テストした。我々はまた、これらコア患者8名を用いて単一のアルゴリズムを開発し、これを、我々の患者基準には十分に合致しなかったがデータ集合は得られている別の患者3名に対して、以下に述べるとおりテストした。
【0216】
図12Aおよび12Bは、初期のデータ取得速度250Hzを20Hzに下げた(即ち、各データ集合について1秒間に20個のデータ点が存在する、つまり、1心周期当たり約20個のデータ点が存在する)、前記コア患者8名の中の1名から得られた実測および予測ICPの即時トレースの比較を示す。侵襲的に測定されたICPは全体として下側のトレースで示され、非侵襲的に推定されたICPは全体として上側のトレースで示される。図12Aのデータは心臓および呼吸の両方の強度を示し、その拡大トレースである図12Bは心周期の時間軸に沿った信号を強調している。前記予測ICPトレースは、実測トレースに酷似しているが、拡張期のICPは低値が低く予測され、収縮期のICPは高値が高く予測される傾向がある。これは我々の8例の予測中、7例に典型的にみられたが、例外的な1例については以下に述べる。
【0217】
各患者の時間シリーズのデータ点毎の(point by point)比較は、侵襲的に測定されたABPと大脳動脈(V_mca)内の血流速度の音響測定のみと、適切に決定されたアルゴリズムとを用いた、我々の侵襲的測定ICPの予測が正しいことを実証する。患者8名についての侵襲的測定による瞬時ICPと、予測による瞬時ICPとの比較が下記の表1に示される。侵襲的ICPの欄は、侵襲的に測定されたICPの平均値および標準偏差を示す。予測ICPの欄は、予測ICPの平均値および標準偏差を示す。誤差の欄は、各時点において実測ICPから予測ICPの値を差し引いて得られた平均値および標準偏差を示す。
【0218】
【化1】

【0219】
4号患者の侵襲的および予測ICPの比較は、侵襲的および予測ICPの平均データ点毎の差が0.80mmHgであり、予測ICP値の95%が1.68mmHgの測定値の範囲内に含まれる可能性を示す。図12Aおよび12Bは、この代表的な患者の代表的なデータを示す。患者8名中6名(1号〜5号および8号)については、実測ICPと予測ICPとの間の瞬間的な差は1mmHg未満であり、これが侵襲的なICP測定の平均的な不確かさである。別の患者(6号)については、実測ICPと予測ICPとの間の瞬間的な差は2mmHg未満である。更にこれら患者7名については、瞬時的な差の大多数が2mmHg未満である。
【0220】
我々は、コア患者8名全員を用いて我々の予測方法論を定式化し、コア患者のグループに含まれない別の患者3名にこれを適用した。これらの患者の脳損傷部位が不明であったため、或いは前記侵襲的なICP測定を局所的損傷の反対側で行ったため、音響測定は侵襲的ICP測定とは反対側の半球で行った。これら患者のうち2名については、上述のように、前記予測瞬時ICPは、平均値で、侵襲的測定による瞬時ICPの1mmHg以内にあった。3番目の患者については、予測瞬時ICPは侵襲的測定による瞬時ICPの4mmHgの平均値の範囲内にあり、脳損傷患者における既知のICPの半球間差と一致していた。これらは、臨床上許容できる不確かさである。
【0221】
5号患者と7号患者の結果は他者よりも芳しくなく、重要な情報を提供する。5号患者の平均値の誤差は0.80mmHgであったが、誤差の標準偏差は6.61mmHgと極めて大きかった。これは、この特別な患者が心臓不整脈を有しており、心周期が完全に予測不能であって、このため、ときどき予測ICPを実測ICPから大きく外れたからであった。7号患者については、我々の方法論が完全に失敗した。7号患者の平均ICPは最も近い値からも5mmHg低く、他の患者データから非常にかけ離れているので、我々の方法論では適切にシミュレートできなかったと考えている。
【0222】
臨床目的では、前記方法論は瞬時ICPを予測する必要はない。短期平均ICP値および/またはICP傾向が患者の管理には十分である。したがって、予測ICP値の平均を取り、侵襲的に測定されたICPと比較した。我々が4号患者の時間トレースを1分間隔の移動平均フィルターで平均化したところ、図13に示すように、侵襲的に測定したICPの時間トレース(図中左で上側のトレース)は予測ICP(図中左で下側のトレース)に匹敵していた。この最小平均化を用いてこれら時間トレースのデータ点毎の比較を行うと、これらの値が互いに1mmHgの範囲内に収まっていることが示され、侵襲的に測定したICPの不確かさの文献値と同等である。実際にこのレベルの精度を達成するためには、前記システムはICP予測前に1分間分に相当するデータを処理する必要があるが、これは臨床的に許容できる状況であろう。
【0223】
侵襲的に測定したICPと予測ICPとの間の差の平均値および分散を、異なる平均化長の関数として検討した。平均化長が増大するにつれ、この差は分散ととともに減少した。我々の実験的観測では、20秒移動平均により侵襲的ICPの不確かさの文献値の範囲内に収まる最大の分散が得られ、したがって適度な信頼性が得られた。現実的には、最初の予測ICP値は、入力データの収集および処理開始から20秒後に得られると考えられる。これにより、システム出力は20秒の時間スケールを持つICPの予測移動平均となる。これは、臨床上有用な出力である。
【実施例2】
【0224】
経験的検討、およびANNの訓練と検証とに基づくICP予測結果
実施例1で述べた試作機と、本明細書で述べたnICP決定の方法論とは、ワシントン州シアトルにあるハーバービュー・メディカル・センター(Harborview Medical Center)の患者18名に対し、動脈ラインから直接得られた血圧、または血圧カフから得られるABPデータの模擬用に単純化された動脈ラインに基づくABPデータのいずれかを用いてテストされ、成功を収めた。前記患者18名中、8名の結果は実施例1で詳しく述べた。これ以外の結果を以下に要約する。
【0225】
前記ICP予測方法論の定数を決定するため、我々は、音響後方散乱およびABPに加えて侵襲的に測定したICPが既知である患者の集合(「訓練集合」と呼ばれる)からデータを収集した。前記訓練集合内で局所的な損傷を有する患者については、損傷部位と同じ半球から侵襲的にICPを測定し、音響後方散乱も同じ側から測定した。これは、脳が区画化された固体であって、その構造全体にわたって圧力勾配を支持できることを考慮したからである。次に我々は、前記第1の集合とは独立のメンバーからなるもう1つの患者集合(「検証」集合)からデータを収集し、この患者等に対して我々のモデルをテストした。これら患者については、侵襲的なICP装置も設置し、適当な半球から音響後方散乱の測定値を得た。音響後方散乱データは、従来のドップラー法を用いたMCA血流速の導出に用いた。本研究に用いた患者は全員、我々の取り込み基準を満たしていた。
【0226】
前記18名の患者について我々の方法論をテストするため、音響後方散乱、該音響後方散乱から導出されたMCA血流速の決定値、動脈血圧、および侵襲的に測定したICPが知られている18名の「訓練集合」患者中の17名について、経験的アルゴリズムを順次作成し、我々のアルゴリズムの定数を決定した。我々は次に、侵襲的なICP測定値に前記アルゴリズムを曝露することなく、この方法論を18番目の「検証」集合患者に用いてnICPを決定し、侵襲的に測定したICPを非侵襲的に決定したICP値と比較した。これを繰り返すことにより(18番目の患者毎に1回ずつ)、我々は「訓練集合」患者17名と「検証集合」患者1名を用いて18通りの類似した方法論を開発した。我々は、各検証患者についてICPおよびnICPの10分間シリーズの1分間移動平均処理を行い、これら侵襲的および非侵襲的な測定値の平均値と標準偏差をプロットした。
【0227】
我々は、患者18名の各人から得た10分間分に相当するデータを用いた。我々は、ICPおよびnICPの各々について1分間移動平均処理を行い(図13参照)、次に、動脈ラインから収集した連続動脈血圧に基づく方法論のあるバージョンにしたがって、これらの結果の平均値と分散をプロットした。結果を図14に示す。この図は、経側頭部的アプローチを用いて収集された脳からの音響後方散乱に関する我々の新規な解析法と、動脈ラインを用いて得られた動脈血圧データとの併用によるnICPの決定とが実施可能であることを実証している。ICPの平均値を、10分間にわたって収集されたnICPの平均値に対してプロットし、1分間移動平均処理を行った。図示された分散は、侵襲的ICPの実測値と、1分間移動平均処理を経た後の予測nICPとの間の差の分散である。
【0228】
別の解析では、我々は再び、患者18名の各人からの10分間分に相当するデータを用いた。我々は侵襲的なICPの実測値およびnICP予測値の各々について1分間移動平均処理を行い、これらの結果の平均値と分散とをプロットした。ここで我々は、あたかも圧力カフを用いて100秒ごとに収集する場合に予想される程度にまで簡略化された侵襲的な動脈ラインで測定したABPデータに基づく方法論の1つの態様を用いた。これは、非侵襲的な手段で収集されたV_mcaデータと、非侵襲的な手段で測定されたABPとに基づいてICPを予測する本発明の方法論をシミュレーションしたものである。
【0229】
図15は、この解析の結果を示しており、非侵襲的手法を用いて測定した変数に基づいてICPを決定すること、および、例えば経側頭部的なアプローチにより収集された脳からの音響後方散乱と、先ず動脈ラインで収集され、次に、あたかも100秒毎に標準的な動脈血圧カフを用いて測定された動脈血圧を模倣するやり方で前記方法論を決定しテストするために間引きされた動脈血圧データの新規な解析法を実行することには実施可能性があることを実証する。侵襲的なICPの実測値の平均値が10分間にわたって決定した予測ICP値の平均値に対してプロットされ、1分間移動平均処理が施された。図示した分散は、侵襲的なICPの実測値と、1分間移動平均処理を経た後の予測ICPとの間の差の分散である。
【0230】
我々の方法論をさらにテストするため、我々は、以前の18名試験で用いた患者数名を含む、患者29名からなるより大きな「訓練集合」から侵襲的に測定されたICPを収集した。我々はまた、前記患者29名の集合から音響後方散乱およびABPデータ(動脈ラインから取得)を収集した。データは5〜20分間(患者による)にわたって収集され、1分間移動平均処理を行った。前記訓練集合内で局所的な損傷を有する患者については、損傷部位と同じ半球から侵襲的にICPを測定し、音響後方散乱も同じ側から測定した。前記患者29名の訓練集合を用い、ニューラル・ネットワークを訓練し、また音響後方散乱およびABPデータを用いてICP(非侵襲的に測定したICP)を決定するためのアルゴリズムを定式化した。
【0231】
次に、前記患者29名の訓練集合を用いて定式化されたニューラル・ネットワークを備えたアルゴリズムを、前記訓練集合内の患者29名の各人の音響後方散乱およびABPデータに適用してnICPを決定し、この非侵襲的に決定されたICPが侵襲的に測定されたたICPに対してプロットされた。結果を図16に示す。図16に示す分散は、(侵襲的に測定した)ICPと、1分間移動平均処理を経た後の(非侵襲的に決定した)nICPとの間の差の分散である。前記(非侵襲的)ICP決定アルゴリズムは、10mmHg未満から約30mmHgに及ぶ幅広いICP値にわたり、訓練集合内の個々のメンバーに関する音響後方散乱およびABPデータを用いて非侵襲的にICPを決定する上で極めて効果的であった。
【0232】
次に、患者29名の前記訓練集合を用いて上述のごとく定式化されたアルゴリズムが、患者29名の前記訓練集合に含まれない患者10名の各人の音響後方散乱およびABPデータに適用された。データを(患者ごとに異なる)5〜20秒間にわたって収集し、1分間移動平均処理を行った。結果を図17に示す。図示した分散は、侵襲的なICPの実測値と、1分間移動平均処理を経た後の予測ICPとの間の差の分散である。この結果は、患者29名の訓練集合を用いて定式化された前記アルゴリズムが、広いICP値の範囲にわたり、新しい患者に関する音響後方散乱データおよびABPデータを用いてICPを非侵襲的に決定する上で効果的であることを実証する。
【実施例3】
【0233】
上述の方法論の実現性および有効性の更なるテストを、実施例1で述べた経験的システムを用いて実施した。音響後方散乱、ABPおよび侵襲的に測定したICPデータを患者25名の集合(「訓練集合」)から収集された。局所的な損傷を有する訓練集合患者については、損傷部位と同じ半球から侵襲的にICPを測定し、音響後方散乱も同じ側から測定した。前記音響後方散乱データはMCAから収集され、MCA血流速値は従来のドップラー手法を用いて前記音響後方散乱から導出した。このデータと上述のニューラル・ネットワークの訓練プロトコルとを用いて、経験的アルゴリズムが導出された。
【0234】
次に、この導出されたアルゴリズムを繰り返しテストし、侵襲的に測定したICPデータも既に収集されている検証患者21名の音響後方散乱およびABPデータのみを用いて、患者21名のICPが決定された。この検証の結果を図18に示す。この図は、21名の前記検証患者の各人について、前記非侵襲的に決定したICPを侵襲的に測定したICPに対してプロットしたものである。前記モデル・アルゴリズムにより、21名の前記検証患者のうち15名については、図18にデータを白丸で示したとおり、音響後方散乱およびABPデータのみを用いて極めて正確にICPが決定された。21名の前記検証患者のうち6名については、ICPの決定は所定の許容基準外に終わったが、これら6点の基準外データ点のうち4点については許容誤差範囲内である場合がある。ICPアルゴリズムの導出により大きな患者の母集団を用いれば、基準外の患者ICP決定値を実質的にすべて排除できると考えられる。
【0235】
前記検証テスト中に導出されたモデル・アルゴリズムの有効性をテストしたところ、既に侵襲的に測定したICPデータも得られている患者6標本について有効であることが示された。この有効性テスト患者6名について、非侵襲的に決定したICPを侵襲的に測定したICPに対してプロットした様子を図19に示す。患者6名のうち4名から得られたデータは、所定の許容基準内またはこれに極めて近いICP決定値を与えたが、残る2名は目的によっては許容される誤差範囲内に収まっている可能性がある。ICPアルゴリズムの導出と検証により大きな患者の母集団を用いれば、基準外の患者ICP決定値を実質的にすべて排除できると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0236】
【図1】各心周期の始点と終点とを画定するのに用いられるパルス境界計算の出力の代表例を示すグラフで、上側のトレースはABP信号を表し、下側のトレースは収縮期(上向きの刻み)および拡張期(下向きの刻み)を表す。
【図2】ANNを使用するある特定の患者用の訓練集合の例を示すグラフでで、約1500心周期レコードが心拍毎に表示され、各入力ベクトル・レコードは42個の値を持ち、一繋がりになったABPパルスと、V_mcaパルスと、瞬間心拍数と静圧差とからなる。
【図3】データ取得中に患者の処置によって生成する信号レコードの例を示すグラフで、ABPレコード(上側のレコード(上側のトレース))はこの患者が動脈ラインから血圧測定されたことを示すが、侵襲的ICPトレース(下側のトレース)には影響がない。
【図4】単純な数学的第1原理モデルに基づき、予測ICP(下側のトレース)と実測ICP(上側のトレース)を比較して示すグラフ。
【図5】標準的な経頭蓋超音波ドップラー法の標的である中大脳動脈(MCA)を含む脳の主要な血管と、走査モードにて音響呼びかけ信号を放出する音源とを示す模式図。
【図6A】注目する標的組織の位置をその音響的性質に基づいて決定するために、本発明のトランスデューサアレイを走査モードで使用する状態の模式図。
【図6B】注目する標的組織の位置をその音響的性質に基づいて決定するために、本発明のトランスデューサアレイを合焦およびデータ取得モードで使用する状態の模式図。
【図7】1個のcMUTトランスデューサセルを示す模式図。
【図8】複数のcMUTトランスデューサセル構造体を含むcMUTトランスデューサアレイを示す模式図。
【図9】コンビネーション型PVDF/cMUTトランスデューサ構造体を含む音源/デテクタ・エレメント複合体を示す模式図。
【図10】コンビネーション型PVDFアレイ/PZTトランスデューサ構造体を含む音源/デテクタ・エレメント複合体を示す模式図。
【図11】本発明の音源/デテクタ・エレメント複合体を持つ患者インターフェース・ユニットの例を示す図。
【図12】実施例1で述べた患者例について、侵襲的に測定された瞬時トレース(全体的に下側のトレース)と非侵襲的に決定されたICP(全体的に上側のトレース)とを比較して示すグラフ。
【図13】移動平均フィルターを用いて1分刻みで平均化された、侵襲的に測定されたICP(図中左で上側のトレース)と、非侵襲的に測定された(図中左で下側のトレース)ICPのトレースとを示すグラフ。
【図14】10分間にわたって収集され1分間移動平均処理を経たデータを用いて、非侵襲的に決定されたICPの平均値に対して侵襲的に測定されたICPの平均値をプロットしたグラフ。
【図15】10分間にわたって収集され1分間移動平均処理を経たデータを用いて、非侵襲的に決定されたICPの平均値に対して侵襲的に測定されたICPの平均値をプロットしたグラフ。
【図16】ニューラル・ネットワークと患者29名による訓練集合とを用いて定式化されたアルゴリズムを適用し、音響散乱およびABPデータを用いて前記訓練集合の患者29名の各人のICPを決定した例を示すグラフ。
【図17】上述の患者29名による訓練集合を用いて定式化されたアルゴリズムを、前記29名の訓練集合の部分集合ではない患者10名の各人の音響後方散乱およびABPデータに適用した例を示すグラフ。
【図18】ニューラル・ネットワークと、患者25名による訓練集合から得られた音響散乱およびABPデータとを用いて定式化されたアルゴリズムを適用し、患者25名による訓練集合の部分集合ではない検証患者21名の各人のICPを決定した例を示すグラフ。
【図19】ニューラル・ネットワークと、有効性実証中の患者25名による訓練集合から得られた音響散乱およびABPデータとを用いて定式化されたアルゴリズムを適用し、前記訓練集合または検証患者集合の部分集合ではない患者6名の各人のICPを決定した例を示すグラフ。
【符号の説明】
【0237】
10 中大脳動脈
12 音響装置
14 前大脳動脈
16 前交通動脈
18 内頸動脈
19 後交通動脈
20 走査型音響トランスデューサアセンブリ
22 標的領域
24 標的部位
40 cMUT超音波トランスデューサセル
42 正極
44 負極
46 基板
48 絶縁支持体
50 密閉室
60 アレイ
62 cMUTトランスデューサセル
64 トランスデューサ・エレメント
70 音響トランスデューサアレイ
72 cMUTアレイ
74 PVDFアレイ
80、90 音源/デテクタ・エレメント複合体
82、92 PZTトランスデューサ
84、94 PVDFまたはcMUTトランスデューサアレイ
86、96 トランスデューサ・エレメント
100 音響データ取得コンポーネント
102 トランスデューサアレイ
104 アレイ型電子コンポーネント
106 音響伝達コンポーネント
108 露出表面
110 着脱式カバー
112 構造体
114 ケーブル
116 1回使用型音響データ取得コンポーネント
118 ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの可変入力に基づいて被験者のICPを決定する方法であって、前記被験者の頭蓋内血管上の標的部位から音響データを取得し、該音響データまたは該音響データに由来する測定値を第1の可変入力として用いるステップと、動脈血圧(ABP)データを第2の可変入力として取得するステップと、非線形相関を用いて第1および第2の可変入力をICPに関連付けるステップとを含む、被験者のICPを決定する方法。
【請求項2】
前記音響データは、
音響散乱および音響散乱の変化と、内因性および/または誘発性の脳組織変位または弛緩によって生ずる音響放出と、これらの組合せからなる群からなる群から選ばれ、音響散乱および音響散乱の変化は、音響信号の振幅、位相および/または周波数の値および値の変化と、呼びかけ信号に対する散乱信号の長さの値およびその変化と、1心周期および/または1呼吸周期内における音響信号の1次および/または他の最大および/または最小振幅の値およびその変化と、1心周期内における後続信号の平均または分散または分布に対する最大および/または最小振幅の割合の値またはその変化と、同じ標的位置で異なる時間および/または異なる標的位置で同じ時間における散乱または放出信号の時間的または空間的分散の値またはその変化と、内因性および/または誘発性の脳組織変位または弛緩の値またはその変化率と、内因性および/または誘発性の脳組織変位または弛緩によって生ずる音響放出とを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第1の可変入力は音響散乱データである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
第1の可変入力は頭蓋内血管中の血流速である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
第1の可変入力は、経頭蓋超音波ドップラー(TCD)法を用いて取得される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ABPは非侵襲的に測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ABPを能動的および/または受動的超音波法を用いて測定する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ABPは、能動的および/または受動的超音波法を用いて頭蓋内血管の標的部位で測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
音響散乱データは第1のCNS標的部位から取得され、ABPを決定するデータは前記第1の部位とは異なる第2のCNS部位から取得される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
血流速およびABP以外の生理学的性質に関する生理学的データを取得し、該生理学的データを前記音響散乱データおよびABPと併用してICPを決定するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記データは、CNS組織剛性と、脳組織変位と、脳呼吸および代謝に伴う少なくとも1種類または2種類以上の気体の分圧と、pCOと、血液還流と、ヘマトクリットと、EKGと、電気生理学的性質とからなる群から選ばれる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記音響散乱データおよびABPデータは、集積電子デバイスによって取得され、該集積電子デバイス内で処理され、前記音響散乱データおよびABPデータは同期している、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記音響散乱データおよびABPデータは同期しておらず、該音響散乱データおよびABPデータを同期させるステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
第1および第2の可変入力をICPに関連付けるステップの前に、心周期境界に対して前記入力可変データを整合させるステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記音響散乱データおよびABPデータのICPとの相関は経験的に導出された非線形相関を用いて導出される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記音響散乱データおよびABPデータとICPとの相関は非線形ニューラル・ネットワーク法を用いて導出される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記音響散乱データおよびABPデータとICPとの相関は非線形第1原理相関を用いて導出される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記音響散乱データおよびABPデータとICPとの相関は、経験的方法と第1原理法との組合せにより導出され、前記第1原理法は線形相関または非線形相関に基づく、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
音響散乱データまたは音響散乱データに由来する測定値と、前記標的部位を表す画像とのうち少なくとも1つを表示するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
複数の音源および受信エレメントで構成される少なくとも1つの音源/受信器アレイを用いてCNS標的領域を走査するステップと、走査中に取得された音響データに基づいて前記CNS標的領域内の所望のCNS標的部位を位置決定するステップと、音響散乱データを収集する前に、1個または2個以上の音源および受信エレメントを前記所望のCNS標的部位に合焦させるステップとを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
音響散乱データは、音響トランスデューサアレイを用いて取得される、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
音響散乱データは、複数のcMUTトランスデューサセルを含む音響トランスデューサアレイを用いて取得される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
音響散乱データは、PVDF音響トランスデューサアレイを用いて取得される、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
音響散乱データは、複数のPZT音響エレメントを含む音響トランスデューサアレイを用いて取得される、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
少なくとも2つの可変入力に基づいて被験者のICPを決定するシステムであって、データ取得コンポーネントと、制御コンポーネントと、データ処理コンポーネントとを含み、前記データ取得コンポーネントは、被験者の体表面に装着可能で、少なくとも1つの音源エレメントと、少なくとも1つの音響デテクタ・エレメントとを有し、前記制御コンポーネントは、音響呼びかけ信号を少なくとも1つの音源エレメントに提供する信号生成器を含み、前記データ処理コンポーネントは第1および第2の可変入力を受信し、第1の可変入力は少なくとも1つの音響デテクタ・エレメントからの音響データ信号を含み、第2の可変入力は、ABPと、CNS組織剛性と、CNS組織変位と、CNS呼吸および代謝に伴う少なくとも1種類または2種類以上の気体の分圧と、pCOと、血液還流と、ヘマトクリットと、電気生理学的性質とからなる群から選ばれ、前記データ処理コンポーネントは第1および第2の可変入力に基づいてICPを決定するようにプログラムされる、被験者のICPを決定するシステム。
【請求項26】
前記データ取得コンポーネントは音響トランスデューサアレイを含む、請求項25に記載のシステム。
【請求項27】
被験者の体内の所望の標的部位から音響散乱データを取得するシステムであって、データ取得コンポーネントと、制御コンポーネントとを含み、前記データ取得コンポーネントは、被験者の体表面に装着可能で、少なくとも音源エレメントと、少なくとも1つの音響デテクタ・エレメントとを有し、少なくとも1つの前記音源エレメントおよびデテクタ・エレメントは、1層の薄膜内に配列された複数のcMUT音響トランスデューサセルで構成される音響トランスデューサアレイを含み、前記制御コンポーネントは、前記データ取得コンポーネントと動作可能な通信状態にあって、音響呼びかけ信号用のエネルギーを少なくとも1つの音源エレメントに供給する信号生成器と、少なくとも1つの音響デテクタ・エレメントから音響データ信号を受信するデータ処理コンポーネントとを含む、被験者の体内の所望の標的部位から音響散乱データを取得するシステム。
【請求項28】
前記システムは経頭蓋超音波ドップラー装置として動作可能であり、前記データ処理コンポーネントは音響データ信号のドップラー処理を行うことができる、請求項27に記載のシステム。
【請求項29】
前記データ取得コンポーネントは、走査モードで動作して、予め定められまたは選択可能な標的領域から音響データを取得することができ、前記制御コンポーネントは、前記走査モードで取得された音響データに基づいて所望の標的部位を識別し、音響散乱データを取得するために、少なくとも前記音源および音響受信エレメントの一部を前記所望の標的部位に合焦させる、請求項27に記載のシステム。
【請求項30】
前記音源およびデテクタ・エレメントの少なくとも一部は操作可能であり、前記制御コンポーネントは、前記音源および音響受信エレメントを所望の標的部位に合焦させる前に、所定の境界または所定のパラメータを有する少なくとも1つの標的領域を走査するようにプログラムされる、請求項27に記載のシステム。
【請求項31】
前記制御コンポーネントは、予め選択されまたは選択可能な音響的性質に基づいて1個または2個以上の標的部位を前記標的領域内で位置決定するようにプログラミングされている、請求項30に記載のシステム。
【請求項32】
前記データ取得コンポーネントは、複数のcMUTセル構造体で構成されるcMUT音響トランスデューサアレイを含み、前記構造体の少なくとも一部は送信モードで動作可能であり、少なくとも一部は受信モードで動作可能である、請求項27に記載のシステム。
【請求項33】
前記データ取得コンポーネントは、複数のcMUTセル構造体で構成される1回使用型cMUT音響トランスデューサアレイと、前記制御コンポーネントとの間でデータを送受信するデータ通信部とを含む、請求項27に記載のシステム。
【請求項34】
前記データ取得コンポーネントは、音源として動作可能なPZT音響トランスデューサと、音響デテクタ・エレメントとして動作可能なcMUTアレイとを含む、請求項27に記載のシステム。
【請求項35】
前記制御コンポーネントは、音響散乱データに由来する第1の可変入力と、被験者の生理学的性質に関する第2の可変入力とを非線形相関を用いてICPに関連付けることができ、第2の可変入力は、ABPと、CNS組織剛性と、誘発性および/または固有のCNS組織変位と、CNS呼吸および代謝に伴う1種類または2種類以上の気体の分圧と、pCOと、血液還流と、ヘマトクリットと、EKGと、電気生理学的性質とからなる群から選ばれる、請求項27に記載のシステム。
【請求項36】
第1の可変入力は頭蓋内血管中の血流速であり、第2の可変入力はABPである、請求項35に記載のシステム。
【請求項37】
被験者の体表面に装着可能であり、少なくとも1つの音源エレメントと、少なくとも1つの音響デテクタ・エレメントとを有する1回使用型音源/デテクタ複合体であって、前記少なくとも1つの音源およびおよびデテクタ・エレメントは複数の音響トランスデューサで構成される音響アレイを含み、前記音源/デテクタ・エレメント複合体は、手術中に前記音源およびデテクタ・エレメントと被験者の体表面との間で高品位な音響伝達を提供するように配置された音響伝達材料を含む、1回使用型音源/デテクタ複合体。
【請求項38】
前記音響アレイは複数のcMUTトランスデューサセルを含む、請求項37に記載の1回使用型音源/デテクタ・エレメント複合体。
【請求項39】
前記複数のcMUTトランスデューサセルは薄層状に形成される、請求項37に記載の1回使用型音源/デテクタ・エレメント複合体。
【請求項40】
前記音響アレイはPVDF音響アレイを含む、請求項37に記載の1回使用型音源/デテクタ・エレメント複合体。
【請求項41】
前記音響アレイは複数のPZT音響トランスデューサを含む、請求項37に記載の1回使用型音源/デテクタ・エレメント複合体。
【請求項42】
前記1回使用型音源/デテクタ・エレメント複合体の前記被験者の体表面への一時的装着を容易ならしめる粘着性接触材料を含む、請求項37に記載の1回使用型音源/デテクタ・エレメント複合体。
【請求項43】
前記粘着性接触材料は、露出しないよう着脱式カバーによって保護される、請求項42に記載の1回使用型音源/デテクタ・エレメント複合体。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公表番号】特表2006−526487(P2006−526487A)
【公表日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−515252(P2006−515252)
【出願日】平成16年6月3日(2004.6.3)
【国際出願番号】PCT/US2004/017992
【国際公開番号】WO2004/107963
【国際公開日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(505449058)アレズ フィジオニックス リミテッド (2)
【出願人】(502457803)ユニヴァーシティ オブ ワシントン (93)
【Fターム(参考)】