説明

非常に低いガラス転移温度を有する、トリアジン含有フルオロポリエーテルエラストマー、これらを含む組成物及びこれらの製造方法

トリアジン基を含み、−40℃未満のガラス転移温度を有するフルオロポリエーテルエラストマーの製造方法であって、(i)(−CO−)、(−CO−)、(−CO−)、(−CFO−)及びこれらの組み合わせから選択される反復部分を含み、更に少なくとも1つの官能基を骨格鎖、又は存在する場合には側鎖の、端末炭素原子に含有する、1つ以上の飽和フルオロポリエーテルであって、端末炭素原子は第一級又は第二級炭素原子であってよく、並びに官能基が下記(ii)のフルオロ化化合物の官能基と反応しトリアジン環を生成することができる、1つ以上の飽和フルオロポリエーテルと、(ii)少なくとも1つのペルフルオロ化アルキル又はペルフルオロ化アルキレン部分を含有する1つ以上のフルオロ化化合物であって、ペルフルオロ化アルキル又はペルフルオロ化アルキレン部分の炭素原子は1つ以上の酸素原子により中断されていてよく、フルオロ化化合物は、1つ以上のフルオロポリエーテルの官能基と反応してトリアジンを形成することができる少なくとも1つの官能基を更に含有する、1つ以上のフルオロ化化合物と、を提供する工程と、(i)及び(ii)の成分を硬化しトリアジンを形成する工程と、を含む製造方法。更に、硬化組成物、硬化組成物を含む物品、及び物品の製造方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、低いガラス転移温度を有するトリアジン含有フルオロポリエーテルエラストマー、これらを含む組成物、これらの前駆体組成物及びこれらの製造方法並びにこれらを含む物品に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオロエラストマーは、エラストマーの特性(高い破断伸度)を有し、熱及び化学物質に対して高い抵抗を示す。これらは、非晶質のフルオロポリマーを硬化させることにより調製できる。硬化反応の結果得られるポリマー構造が、エラストマーの特性をもたらす。フルオロエラストマーは、エラストマー組成物の原料及び主要構成成分として広く使用されてきた。エラストマー組成物は、シール(例えばO−リングなど)、塗料、ラミネート及びホースの製造、特に医療用途の容器、又は燃料に対する抵抗が要求される自動車若しくは航空機産業における応用、に使用されてきた。多くのこれらの応用では、広い温度範囲においてフルオロエラストマーはエラストマー特性を保持することが望まれている。特に、航空機、自動車及び船に、又は低温用途若しくは条件で使用される物品に、使用される場合においては、フルオロエラストマーは−50℃未満又は更には−70℃未満の温度において十分に可撓性又は弾性的であることが要求される。ガラス転移温度(Tg)を超える温度においては、十分な可撓性を提供するためにポリマーの主骨格鎖中のセグメントの運動を許すのに十分な熱エネルギーが得られる。したがって、低温用途に適用するには、非常に低いTgを有するフルオロエラストマーが要求される。
【0003】
高い耐薬品性及び耐熱性でありかつ良好な機械特性のフルオロエラストマー組成物において使用されるフルオロエラストマーは、オレフィン性不飽和ペルフルオロビニルエーテル及び硬化部分を有するモノマーを含む系の硬化により調製され得る。典型的に、約−30℃のガラス転移温度がこれらの系で得られる。
【0004】
他のアプローチは、官能化したポリエーテルを好適な触媒を使用して反応させることによる、ポリトリアジンを含有するフルオロエラストマーの形成に頼ってきた。例えば、米国特許第5,693,748号は、官能化ペルフルオロポリエーテルが先ずポリイミドイルアミジンに変換された方法を報告している。得られた直鎖ポリイミドイルアミジンポリマーは、次いでイミドアミジン基をトリアジンに変換するため、アシル化剤により処理された。アンモニアを硬化触媒として使用することにより硬化するペンダントニトリル基を有するポリトリアジンが、官能化アシル化剤を使用して作られた。得られたポリマーは、−45℃のTgを有すると報告された。しかし、ペンダントニトリル基を有するポリマー単位が、ニトリル基当たり約25,000g/モル未満の分子量を有する場合には、硬化したポリマーは脆弱で、したがってエラストマーとしては使用可能ではなかった。
【0005】
異なる化学組成のさまざまなフルオロポリマーが知られているが、高い破断伸度にもかかわらず高い引張強度などの良好な機械特性をも有する市販のフルオロエラストマー組成物は、約−20℃前後でしかないガラス転移温度を有するように思われる(Modern Fluoropolymers,John Scheirs ed.,John Wiley & Sons,1997、ページ597〜613中のA van Cleefと比較)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
−20℃、好ましくは−50℃又はそれより低いガラス転移温度を有する、フルオロエラストマーを提供する要求が引き続き存在していた。低温における柔軟性は、引張強度などの機械特性の低下の妥協の結果ではないことが好ましい。フルオロエラストマーは、硬化工程において発生するフュームへの作業者の暴露を低減するため、閉じた成形型の中で硬化することにより調製できることが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
良好な機械及び硬化特性を有する、−40℃以下の低いガラス転移温度を有するフルオロエラストマーが調製できることが、いまや見い出された。
【0008】
したがって、1つの態様においては、トリアジン基を含み、−40℃未満のガラス転移温度を有する、フルオロポリエーテルエラストマーの製造方法であって、
a)
(i)(−CO−)、(−CO−)、(−CO−)、(−CFO−)及びこれらの組み合わせから選択される反復部分を含有し、更に少なくとも1つの官能基を骨格鎖の、又は存在する場合には側鎖の、端末炭素原子に含有する、1つ以上の飽和フルオロポリエーテルであって、端末炭素原子は第一級又は第二級の炭素原子であってよく、官能基は下記(ii)によるフルオロ化化合物の官能基と反応しトリアジン環を形成することができる、1つ以上の飽和フルオロポリエーテルと、
(ii)少なくとも1つのペルフルオロ化アルキル又はペルフルオロ化アルキレン部分を含有する1つ以上のフルオロ化化合物であって、ペルフルオロ化アルキル又はアルキレン部分の炭素原子は1つ以上の酸素原子により中断されていてもよく、フルオロ化化合物は、少なくとも1つ以上のフルオロポリエーテルの官能基と反応してトリアジンを形成することができる少なくとも1つの官能基を更に含有する、1つ以上のフルオロ化化合物と、を用意する工程、
b)(i)及び(ii)による成分を硬化させトリアジンを形成する工程、を含む、製造方法。
【0009】
−40℃未満のガラス転移温度、少なくとも1.5MPaの引張強度及び少なくとも50%の破断伸度を有し、トリアジン基を有するフルオロポリエーテルエラストマーを含む、エラストマー組成物の製造方法であって、
a)
(i)(−CO−)、(−CO−)、(−CO−)、若しくは(−CFO−)又はこれらの組み合わせから選択される反復部分を含有し、更に少なくとも1つの官能基を骨格鎖の、又は存在する場合には側鎖の、端末炭素原子に含有する、1つ以上の飽和フルオロポリエーテルであって、端末炭素原子は第一級又は第二級の炭素原子であってよく、官能基は下記(ii)によるフルオロ化化合物の官能基と反応しトリアジンを形成することができる、1つ以上の飽和フルオロポリエーテルと、
(ii)少なくとも1つのペルフルオロ化アルキル又はペルフルオロ化アルキレン部分を含有する1つ以上のフルオロ化化合物であって、ペルフルオロ化アルキル又はアルキレン部分の炭素原子は1つ以上の酸素原子により中断されていてもよく、フルオロ化化合物は、少なくとも1つ以上のフルオロポリエーテルの官能基と反応してトリアジンを形成することができる少なくとも1つの官能基を更に含有する、1つ以上のフルオロ化化合物と、
(iii)少なくとも1つの充填剤と、を用意する工程、
b)(i)及び(ii)による成分を硬化させトリアジンを形成する工程、を含む、製造方法が更に提供される。
【0010】
別の態様においては、トリアジン基並びに(−CO−)、(−CO−)、(−CO−)、(−CFO−)及びこれらの組み合わせから選択される反復部分を含むフルオロポリエーテルエラストマー、及び少なくとも1つの充填剤を含む組成物であって、−40℃未満のガラス転移温度、少なくとも1.5MPaの引張強度、並びに少なくとも50%の破断伸度を有する組成物が提供される。
【0011】
追加的な態様においては、硬化性組成物であって、
(i)(−CO−)、(−CO−)、(−CO−)、(−CFO−)又はこれらの組み合わせから選択される反復部分、並びに少なくとも1つの官能基を骨格鎖の、又は存在する場合には側鎖の、端末炭素原子に含有する、1つ以上の飽和フルオロポリエーテルであって、端末炭素原子は第一級又は第二級の炭素原子であってよく、官能基は下記(ii)によるフルオロ化化合物の官能基と反応しトリアジンを形成することができる、1つ以上の飽和フルオロポリエーテルと、
(ii)少なくとも1つのペルフルオロ化アルキル又はペルフルオロ化アルキレン部分であって、アルキル又はアルキレン部分の炭素原子は1つ以上の酸素原子により中断されていてもよい、ペルフルオロ化アルキル又はペルフルオロ化アルキレン部分と、1つ以上のフルオロポリエーテルの前記官能基と反応してトリアジンを形成することができる少なくとも1つの官能基を含有する、1つ以上のフルオロ化化合物と、を含む硬化性組成物が提供される。
【0012】
更に別の態様においては、上述の硬化した組成物を含む成形した物品が提供される。
【0013】
更なる態様においては、上述の硬化性組成物を含む組成物の射出成形又は圧縮成形を含む物品の製造方法が提供される。
【0014】
本明細書に提供される方法により、ペースト状の稠度を有し、したがって成形型からの材料の漏えいを避けて容易に射出成形ができる、硬化性材料(フルオロエラストマー前駆体が)が調製できる。
【0015】
硬化性材料は、密閉成形型の中における成形でも硬化させることができる。これは、開いた成形型における硬化において発生するフュームへの作業者の暴露の危険を更に低減する。材料は易硬化性であり、177℃にける硬化では30min未満内に硬化が開始(Ts2により示される)され、4in.lbs(0.45ニュートンメートル)の最高(デルタ)トルク(MH−ML)(ASTM D 5289−93aによる測定)に達する。
【0016】
例えば、1.5MPa好ましくは2MPaを超える引張強度、及び少なくとも50%の破断伸度及び50%未満の圧縮永久歪値などの、良好な機械特性を有する硬化材料が得られる。このような材料は、更に少なくとも15のショアA硬度を有することがある。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示の実施形態を詳細に説明するのに先立ち、その適用に際して本開示は以下の説明文に記載される組成物の細部及び要素の配置に限定されないことが、理解されなければならない。本発明には他の実施形態が可能であり、本発明はさまざまな方法で実施又は実行することが可能である。また、本明細書で使用される専門語及び専門用語は、説明目的のためであり、限定するものと見なされるべきではないことが理解されるべきである。「からなる」の使用とは対照的に、本願における「包含する」、「含有する」、「含む」、又は「有する」及びその変化形の使用は広い範囲を意味し、これらの語の後に列記される要素及びその同等物に加えて更なる要素を網羅することを意味する。「からなる」という言葉は、限定された範囲を意味し、これらの語の後に列挙される要素及びその同等物のみを包含するが、任意の追加の要素は含まないことを意味する。用語「から基本的になる」は、その下の記述により定義される意味を有する。
【0018】
「a」又は「an」の使用は、「1つ以上」を包含することを意味する。本明細書に列挙される任意の数字範囲は、その範囲の下方の値から上方の値までのすべての値を包含することを意図する。例えば、1%〜50%の濃度範囲は略記であり、例えば、2%、40%、10%、30%、1.5%、3.9%等の1%と50%との間の値を明示的に開示することを意図する。
【0019】
本明細書において提供されるフルオロポリエーテルエラストマー及びこれを含有する組成物は、フルオロポリエーテル前駆体組成物を熱硬化させることにより得ることができる。前駆体組成物(硬化性組成物)は、少なくとも1つの官能基を含むフルオロポリエーテル、及びフルオロポリエーテルの官能基と反応することができ、硬化によりトリアジン基を形成する官能基を少なくとも1つ有する1つ以上のフルオロ化化合物を含む。フルオロ化化合物は硬化共剤であり、トリアジン基の形成に必要な官能基を含有するのみならず、ペルフルオロ化アルキル又はアルキレン残基を含み、これはトリアジン環の側鎖としてトリアジン構造の一部となる。したがって、フルオロ化化合物(硬化共剤)は、硬化により形成されるフルオロポリエーテルポリマーに(少なくとも部分的に)組み込まれる。このポリマー構造が、非常に低いガラス転移温度、高い伸度、及び引張強度などの良好な機械特性を有するエラストマー組成物の製造を可能にすると信じられている。
【0020】
本明細書に提供される方法は、トリアジン基を含み、約−40℃未満、約−50℃未満、−80℃未満、又は−100℃未満さえものガラス転移温度を有する、フルオロポリエーテルエラストマーの製造を可能にする。
【0021】
個々の成分及び方法の工程を以下により詳細に述べる。
【0022】
官能化したフルオロポリエーテル:
好適な官能化したフルオロポリエーテルは、(−CFO−)、(−CO−)、(−CFO−)及び(−CO−)、又は(−CFO−)、(−CO−)、(−CO−)及び(−CO−)の1つ以上の組み合わせから選択される反復部分並びに1つ以上の官能基を含有する分子を包含する。フルオロポリエーテルは飽和である。それらは直鎖又は分枝鎖であってよい。フルオロポリエーテルは好ましくはペルフルオロ化されており、これは、官能基を除けば、これらはC、O及びF原子のみからなることを意味する。
【0023】
好ましくは、飽和フルオロポリエーテルは、基本的に(−CFO−)、(−CO−)、(−CO−)及び(−CO−)、又は(−CFO−)、(−CO−)、(−CO−)及び(−CO−)の1つ以上の組み合わせから選択される単位、並びにトリアジン基を形成できる1つ以上の官能基からなる。本明細書において使用されるとき、用語「基本的になる」は、少なくとも80モル%、好ましくは少なくとも90モル%の前述の単位を含有する化合物を意味する。
【0024】
残りは、好ましくは、ペルフルオロ化アルキル及び/又はペルフルオロ化アルキレン基を含有し、炭素鎖は酸素原子により中断されていてもいなくてもよい。
【0025】
1つの実施形態においては、フルオロポリエーテルは、(−CO−)、(−CO−)、(−CO−)、及び/又は(−CFO−)、並びに1つ以上の基Rf−Z及び1つ以上の基Rf’−(Z’)n(式中、Z及びZ’はフルオロ化化合物の1つ以上の官能基と反応してフルオロポリエーテル及びフルオロ化化合物を連結するトリアジン環を形成することが可能な、異なる又は同一の官能基であり、Rf、Rf’は互いに独立して、炭素鎖を中断する1つ以上の酸素原子を含むことができるペルフルオロ化アルキル又はアルキレンであり、nは1又は0である)から基本的になる。好ましくは、少なくとも1つの、より好ましくは少なくとも2つのRf−Z及びRf’−Z’が、フルオロポリエーテルの端末炭素原子に置かれる。端末炭素原子は、第一級又は第二級炭素原子であってよい。
【0026】
官能基はトリアジンを形成する反応が可能な官能基である。このような官能基は、他の窒素含有基と反応してトリアジンを形成することができる窒素含有基を包含する。これらは、例えば熱を加えること、例えば50℃、80℃、120℃、170℃又は177℃の熱処理に、トリアジンを形成することができることが好ましい。トリアジンを形成することができる基の典型的な例として、ニトリル、アミジン、イミダート、アミドラゾン、アミドオキシム、アミドイルイミジン及びその塩が挙げられる。
【0027】
少なくとも1つの官能基が、フルオロポリエーテルの端末位置にある。本明細書において使用されるとき、用語「端末位置」(又は「端末炭素」)は、フルオロポリエーテル骨格の端末位置(又は炭素)、及び非直鎖フルオロポリエーテルの場合には、側鎖の端末位置(又は炭素)も包含する。本明細書において使用されるとき、端末位置(又は端末炭素)は、骨格鎖又は側鎖それぞれの最後(本明細書においては第一級炭素とも称される)及び最後から2番目の炭素原子(本明細書においては第二級炭素とも称される)である。好ましくは、端末位置端末炭素はフルオロポリエーテル骨格又は側鎖の最後の炭素(第一級炭素)である。
【0028】
トリアジンの形成には、幾つかの対応する官能基が必須であることが理解される。これらは、フルオロ化化合物及び/又は更にフルオロポリエーテルにより供給される。それゆえ、フルオロポリエーテルの官能基のタイプは、フルオロ化化合物の官能基のタイプに適合させることができ、またその逆も可能である。
【0029】
好ましくは、ペルフルオロポリエーテルの官能基はニトリル基である。より好ましくは、ペルフルオロポリエーテルは、フルオロ化化合物の官能基と反応してトリアジン環を形成することのできる2つ以上の官能基を含有している。すなわちフルオロポリエーテルは二官能又は多官能であり得る。好ましくは2つ以上の官能基は好ましくはすべてニトリル基である。
【0030】
フルオロポリエーテルは混合物であってよい。少なくとも50%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%の、例えばF−NMRにより測定することができる、二官能度を有する混合物が好ましい。
【0031】
典型的にはフルオロポリエーテルは液体である。これらはまた通常低分子量である。フルオロポリエーテルは、一般的に、15,000g/モル未満、典型的には約400g/モル〜約15,000g/モル、好ましくは9,000g/モル未満の分子量を有してよい。典型的には、ペルフルオロポリエーテルは約400g/モル〜約9,000g/モルの重量平均分子量を有する。フルオロポリエーテルは混合物であってよく、上述の分子量は重量平均分子量であってよい。
【0032】
飽和(ペル)フルオロポリエーテルは知られており、その合成は古くから述べられている。例えば、式−CFCFO−の反復単位のブロックにより特徴付けられる骨格を有するペルフルオロポリエーテルは、米国特許第3,125,599号に記載のように、テトラフルオロエチレンエポキシドから製造することができる。酸素をテトラフルオロエチレンと反応させて製造する他の物は、−CFO−の反復単位(例えば、米国特許第3,392,097号を参照)から製造される骨格により特徴付けられる。−CFO−及び−CF(CF)O−単位と組み合わせた、−CO−単位の骨格を有するペルフルオロポリエーテルは、例えば、米国特許第3,699,145号に述べられている。更に、ペルフルオロポリエーテルの有用な例として、米国特許第3,810,874号に開示されているような、−CFO−及び−CFCFO−の反復単位の骨格を有するものが挙げられる。ペルフルオロポリエーテルは、例えば米国特許第4,647,413号及び同第3,250,808号に記載されているように、HFPOのジカルボン酸フッ化物を重合開始剤とする重合によっても得ることができる。HFPOから誘導されるペルフルオロポリエーテルは、分枝鎖ペルフルオロアルキル基を含み、少なくとも単位(−CO−)の1つが直鎖ではなく、例えば、(−CO−)は−CF−CF(CF)−O−単位である。HFPOから誘導されるペルフルオロポリエーテルはまた、例えば、KRYTOXの商品名でDupont de Nemoursから市販されている。フルオロポリエーテルは、特に、直鎖タイプ及び官能化したフルオロポリエーテルを含め、市販もされており、例えばFOMBLIN,FOMBLIN Z DEALの商品名でSolvay Solexisから、DEMNUMの商品名でDaikinから市販されている。
【0033】
官能化したフルオロポリエーテルの、以下に述べるトリアジン環の形成が可能な官能基を含むフルオロポリエーテルへの転換は、有機合成の公知の方法により実施でき、また例えば米国特許第5,545,693号に記載されたように実施できる。
【0034】
ニトリル官能基を有するフルオロポリエーテル化合物は、例えば、米国特許第3,810,874号、又は同第4,647,413号、又は同第5,545,693号に記載のように、対応する前駆体ペルフルオロポリエーテルから得られる。合成のためには、前駆体ペルフルオロポリエーテルは、典型的には酸フッ化物末端基を有する。これらの酸フッ化物末端基は、適切なアルコール(メタノールなど)との反応により、エステルに変換することができる。エステルは、その後、アンモニアとの反応によりアミドに変換することができる。次いで、ピリジン及びトリフルオロ酢酸無水物を使用して、適切な溶媒(DMFなど)の中で、アミドを脱水しニトリルにすることができる。あるいは、P又はPClのような他の試薬を用いてアミドを脱水してもよい。
【0035】
HFPOから調製されるフルオロポリエーテルは、典型的には、第二級ニトリル末端基を有する。直鎖ペルフルオロポリエーテルは、典型的には、第一級ニトリル末端基を有する。アミジン官能基を有するフルオロポリエーテルは、例えば、米国特許第3,810,874号に開示されているように、対応するニトリル化合物のアンモニアとの反応により得ることができる。
【0036】
イミダート官能基を有するフルオロポリエーテルは、例えば米国特許第3,523,132号及び同第6,657,013号に記載のように、例えば、対応するニトリルのアルコールとの反応により得ることができる。アミドラゾン官能基を有するフルオロポリエーテルは、例えば米国特許第5,637,648号に記載のように、対応するニトリルのヒドラジンとの反応により得ることができる。
【0037】
アミドオキシム官能基を有するフルオロポリエーテル化合物は、例えば米国特許第4,145,524号に記載のように、例えば、対応するニトリルのヒドロキシルアミンとの反応により得ることができる。
【0038】
フルオロ化化合物(硬化共剤):
フルオロ化化合物は硬化共剤である。これらは硬化反応中にポリマー構造に組み込まれ得る。
【0039】
好適な共剤は、有機残基に連結した1つ以上の官能基を含有する化合物を包含する。
【0040】
官能基は、ペルフルオロポリエーテルの官能基と反応して、トリアジン環を形成することができ、共剤の有機残基はトリアジン部分の一部となる。
【0041】
典型的には、共剤は一般式
Y−(F)
に相当し、
式中、Fは官能基を表し、Yはフルオロ化有機残基を表し、xは1若しくは2又は2を超える。Yは、好ましくは、ペルフルオロ化残基である。典型的には、共剤は、上述の1つ以上のフルオロポリエーテルの少なくとも1つの官能基と反応して、トリアジンを形成し、それ故、フルオロポリエーテルと共剤とを連結する化合物である。したがって、共剤はトリアジン形成反応に組み込まれ消費されることになり、例えば、アンモニア、尿素、又はテトラフェニルスズなどのような触媒(これは消費されない)ではない。トリアジンの形成は、FT−IR(1550〜1560cm−1の強い吸収ピーク)により立証することができる。
【0042】
官能基の例としては、ニトリル及びアミジン、イミダート、アミドオキシム、アミドラゾン等のニトリル付加物及びこれらの塩、並びにこれらの組み合わせが挙げられるが、これに限定されない。好ましくは、共剤は一官能性又は二官能性であり、これは1つ又は2つの官能基が含まれていることを意味する。一官能性及び二官能性共剤の混合物も使用できる。官能基は、好ましくは、第一級又は第二級炭素上にある。
【0043】
Yの例として、少なくとも1つの−CF−又は−CF−O−部分を含む、残基が挙げられる。残基の典型的な例として、ペルフルオロアルキル、ペルフルオロアルキレン、ペルフルオロオキシアルキルペルフルオロオキシアルキレン、ペルフルオロポリオキシアルキル、又はペルフルオロポリオキシアルキレン残基が挙げられる。
【0044】
好ましくは、ペルフルオロポリエーテルの官能基はニトリル基(又はニトリル基類)であり、共剤の官能基はニトリル基(又はニトリル基類)ではなく、ニトリル基付加物及びその塩である。
【0045】
ニトリル付加物を含有する具体的な共剤の例として、モノ又はビスアミジン部分、モノ又はビスイミダート部分、モノ又はビスアミドラゾン部分、並びにモノ及びビスアミドオキシム部分を含有する、フルオロ化化合物が挙げられる。好ましい共剤としては、フルオロ化モノアミジン及びビスアミジン化合物が挙げられる。
【0046】
フルオロ化モノアミジン又はビスアミジン化合物の典型的な例として、一般式:
Rf−C(=NH)NH
及び
N(HN=)C−Rf−C(=NH)NH
による化合物並びにこれらの塩が挙げられ、
式中、Rfは、非置換又は置換フルオロ化アルキル又はアルキレン基(例えば、C1〜C20のアルキル又はアルキレン基)、アリール基又はアリーレン(例えば、フェニル又はナフチル基)又はアラルキル(アリールアルキレン)基(例えば、トルイル基)を表す。好適な置換基の例として、水素、ハロゲン(例えば、塩素、臭素、ヨウ素)及びアルコキシ基が挙げられる。これに加えて、1つ以上の炭素基が1つ以上の、酸素及び窒素などの、ヘテロ原子により置換されてよい。
【0047】
好ましくは、Rfは直鎖又は分枝鎖ペルフルオロ又は部分的にフルオロ化したC1〜C10基であり、炭素原子は任意に酸素原子により中断されてよい。具体的な例としては、C4〜C10ペルフルオロアルキル(又はアルキレン)、ぺルフルオロオキシアルキル(又はアルキレン)、ペルフルオロポリオキシアルキル(又はアルキレン)基が挙げられ、CF−O−(CF−O−CF(CF)−(式中、mは1、2、3又は4)、及びC−(O−CF(CF)−CF−O−CF(CF)−(式中、nは0、1、2又は3)、又はCF−O−(CF−若しくはCF−(CF−(式中、pは1、2、3、4、5、6、7、8若しくは9)、又はビスアミジンの場合には対応するアルキレン基などである。
【0048】
有用なアミジン塩として、それらのカルボン酸塩が挙げられる。特に有用なカルボン酸としては、式CF(CFCOOH(式中、jは0〜8の、好ましくは、1〜3の整数である)のペルフルオロ化カルボン酸が挙げられる。
【0049】
有用なアミジンの例としては、本明細書に援用される米国特許第6,846,880号に記載されているモノアミジンが挙げられ、例えば、CF−O−CFCF−C(=NH)NH及びその塩などである。更に有用なアミジンとして、例えばApollo Scientific,UKから市販されている、ペルフルオロセバカミドなどのビスアミジンが挙げられる。
【0050】
好適なイミダートの典型的な例としては、一般式:
HN=C(OR)−Rf及び
HN=C(OR)−Rf−C(OR1’)=NH
のもの及びこれらの塩が挙げられ、
式中、Rfはアミジンに関して上に定義した通りである。
【0051】
R1及びR1’は、互いに独立して、C1〜C10アルキルなどの非置換又は置換アルキル基を表し、これは分枝鎖又は直鎖の−CH−Rf
−CHCHRf(式中、Rfはペルフルオロ又は部分的にフルオロ化されたC1〜C10基である)、であってよい。
【0052】
好適なイミダートの典型的な例は、例えば、本明細書に援用される米国特許第6,657,013号に記載されている。
【0053】
好適なアミドラゾンの例としては、一般式:
Rf[−C(NH)NHNH
(式中、Rfはアミジンに関して上に定義したものであり、nは1又は2である)による化合物及びこれらの塩が挙げられる。典型的な例としては、本明細書に援用される米国特許第5,637,648号に記載のものが挙げられる。
【0054】
好適なアミドオキシムの例としては、一般式:
Rf−[C(NH)NOH]
(式中、Rfはアミジンに関して上述したものであり、nは1又は2である)による化合物が挙げられる。好適なアミドオキシムの典型的な例は、例えば、本明細書に援用する米国特許第5,668,221号に記載されている。
【0055】
好適な官能基はまたニトリル基であり、この場合にはペルフルオロポリエーテルの官能基はニトリル基が選択されず、例えば、アミジン、イミダート、アミドオキシム又はアミドラゾン及びこれらの塩などのニトリル基の付加体が選択されることが好ましい。
【0056】
好適な共剤として、上述したフルオロポリエーテルも挙げられ、この場合には共剤として使用されるフルオロポリエーテルは、これらが反応してトリアジンを形成するフルオロポリエーテルとは異なる官能基を有する。
【0057】
ニトリル含有共剤の好適な例としては、例えばフルオロポリエーテルモノ及びジニトリルが挙げられ、例えば、HFPOから誘導されるものなどである(上述のように対応するエステルから誘導される)。追加の好適な例としては、例えば、ペルフルオロアルキルモノ及びジニトリルなどの、モノ及びジニトリルが挙げられる。
【0058】
フルオロポリエーテルエラストマー及びフルオロポリエーテルエラストマー組成物の製造方法:
トリアジン基を含有し、約−40℃未満、約−50℃未満、−80℃未満又は−100℃未満さえものガラス転移温度を有する、フルオロポリエーテルエラストマーの製造には、上述のフルオロポリエーテル及びフルオロ化化合物が結合されて、硬化されトリアジンを形成する。
【0059】
フルオロポリエーテル及びフルオロ化化合物は、上述のガラス転移温度を有するフルオロポリエーテルエラストマー、又は下記の機械特性の1つ以上又はすべてを有するフルオロエラストマー組成物の製造に、有効な量使用される。典型的には、フルオロポリエーテルはフルオロ化化合物に比較して著しく過剰な量が使用される。典型的には、約0.1〜約10部、又は約0.2〜約5部のフルオロ化化合物が、100部(すべて重量基準)のフルオロポリエーテル当たりに使用される。
【0060】
硬化性フルオロポリエーテル組成物を調製するために、成分がよく混合される。例えば、ロータリーミキサー、二重遊星型ミキサー、高速ディスペンサー又はHauschild(商標)Speedmixerなどの、公知の混合装置が使用できる。硬化性フルオロポリエーテル組成物は、典型的には、液体又はペーストである。加工し易いように、ペーストは、典型的には、25℃において2,000〜50,000センチポアズのBrookfield粘度を有する。
【0061】
充填剤及び他の添加物を加えてよい。好ましくは、充填剤及び他の添加物は、組成物の硬化の前に加えられる。典型的には液体である、ペルフルオロポリエーテル−共剤混合物の粘度を上げペースト状の稠度を得るために、充填剤を加えてもよい。
【0062】
充填剤は典型的には粒子である。粒子は球状又は非球状粒子であってよい。これらは棒又は繊維であってよい。典型的には、充填剤はマイクロサイズの材料である。典型的には、これらは5,000μm未満、又は更に1,000μm未満、又は500μm未満の、長さ又は直径を有する。充填剤、特に炭素又はシリカ含有材料は、0.05〜30μm程度の小さい粒子サイズ(数平均)で得られる。
【0063】
充填剤として無機又は有機材料が挙げられる。典型的な充填剤としてシリコーン含有材料が挙げられる。シリコン含有充填剤の例として、シリカ(二酸化ケイ素とも呼ばれる)が挙げられる。シリカの具体的な例として、親水性及び疎水性シリカ、ヒュームドシリカ(これは、例えば、Evonik GmbH,Frankfurt,Germanyから、例えば、AEROSIL 200、AEROSIL R972又はAEROSIL R974などのAEROSILの商標名で、又は、Cabot CorporationからNANOGELの商標名で市販されている)、シラン処理ヒュームドシリカ(例えばCABOSILの商標名でCabot Corporationから市販されている)及びこれらの組み合わせが挙げられる。更なる例としては、例えば、カルシウムシリケート、アルミニウムシリケート、マグネシウムシリケート及びこれらの混合物など、例えば、雲母、粘土及びガラスなど、例えばガラス球(3M CompanyからGLASSBUBBLESの商標表記で市販されている)などの、シリケートが挙げられる。好適なシリカの更なる例としては、ニトリル変性シリカが挙げられる。ニトリル変性シリカは、商業的に入手できるヒドロキシル含有シリカ、例えば、AEROSIL 200V(Evonikから市販されている)などを、例えば、3−シアノプロピルトリエトキシシラン(Aldrichから入手可能)などのシアノシランと、塩酸を含有するエタノールの存在下で反応することにより調製することができる。反応物の量は、典型的には、10〜30%(重量基準)のニトリル変性シリカが得られるように選択される。更に、好適なシリカ含有充填剤としては、フッ素変性シリカが挙げられる。フッ素変性シリカは、例えば、市販されているヒドロキシル含有シリカ(例えば、AEROSIL 200V)をフルオロシランと反応させることにより調製できる。好適なフルオロシランとしてHFPOシランが挙げられ、これは米国特許第3,646,085号に述べられているように、オリゴマーのHFPOエステル、及び、例えば、アミノアルキルトリアルコキシシランなどのシランから調製することができる。更に好適なフルオロシランは、例えば、米国特許第6,716,534号に述べられているように、3−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノアルキルトリアルコキシシランと反応した、FOMBLIN Z Deal(Solvay Solexis)などの、市販されているペルフルオロポリエーテルから誘導することができる。反応物の量は、典型的には、1〜5%(重量基準)のフッ素変性シリカが得られるように選択される。
【0064】
好適な充填剤の他の例としては、炭素含有材料が挙げられる。炭素含有材料としては、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、又は、例えばアセチレンブラック、例えばフッ化黒鉛などの変性炭素のようなこれらの亜類型が挙げられる。フッ化黒鉛は、例えば、Central Glassから市販されている。カーボンブラックは、例えば、Cabot Corporationから市販されている。
【0065】
充填剤は、典型的には、フルオロポリエーテル(phr)の100重量部当たり、約5〜約50部、又は約10〜30部の量で添加される。
【0066】
フルオロポリエーテルエラストマー組成物は、追加の添加物を含有してよい。例としては、ピグメント、酸化防止剤、処理助剤、レオロジー修正剤、潤滑剤、難燃剤、難燃相乗剤、抗菌薬、及びフルオロポリマーの配合及びゴムの加工技術において既知の追加の添加剤が挙げられる。
【0067】
追加の添加剤として、必要とされてはいないが、硬化触媒も挙げられ、これは本明細書において提供される方法の更なる利点である。硬化触媒は、例えば、アンモニア、尿素、アセトアルデヒド類、及び、例えばブチルスズ化合物などの有機金属化合物などの、トリアジンの形成を可能にする化合物である。
【0068】
硬化は成形型の中で行うことができる。ゴムの硬化及びゴムの加工に典型的に使用される成形型が使用できる。硬化は、解放空気中、例えば、解放した成形型の中で行ってよいが、好ましくは、閉じた成形型の中で行う。閉じた成形型の中における硬化は、作業者を硬化反応中に発生するフュームに暴露しない利点を提供する。したがって、本明細書に提供される硬化性組成物及び方法の利点は、組成物が閉じた成形型の中で硬化可能であることにある。
【0069】
硬化は、典型的には、組成物を熱処理することにより達成される。熱処理は、トリアジンを有するエラストマーを作るのに有効な温度でかつ有効な時間行われる。最適条件は、得られるエラストマーを機械的及び物理的特性に関して試験することにより、調べることができる。典型的には、硬化は100℃を超える、150℃を超える又は少なくとも177℃の温度で行われる。硬化性フルオロポリエーテルエラストマー混合物の硬化条件としては、10〜90分、160℃〜210℃の温度、典型的には177℃の温度が挙げられる。10〜100bar(1〜10MPa)の圧力が、硬化中にかけられてよい。典型的には、硬化は30分を超え又は少なくとも45分行われる。典型的には、200℃を超える温度で20時間、又は250℃で20時間の、後硬化を行うことができる。
【0070】
硬化されたフルオロポリエーテルエラストマーは、177℃で30分未満の硬化後に、典型的には、4を超える最高トルク(MH−ML)(ASTM D 5289−93aによる測定)に達し、硬化(Ts2により示される)が開始する。
【0071】
上述の方法は、下記の特性の1つ以上又はすべてを有するフルオロポリエーテルエラストマー組成物の提供を可能にする。
【0072】
(i)−40℃未満、好ましくは、−50℃未満、より好ましくは−80℃未満、又は−100℃未満のガラス転移温度(Tg)
(ii)少なくとも50%、好ましくは少なくとも100%又は少なくとも200%もの破断伸度
(iii)少なくとも1.5MPa、好ましくは少なくとも2MPaの引張強度
(iv)少なくとも15、好ましくは少なくとも25、より好ましくは少なくとも40のショアA硬度
(v)50%未満、好ましくは、40%未満の圧縮永久歪。
【0073】
典型的な実施形態では、−40℃未満のガラス転移温度、少なくとも2MPaの引張強度、少なくとも25のショアA硬度、少なくとも200%の破断伸度を有する。これに加えて典型的な実施形態は、40%未満の圧縮永久歪も有する。
【0074】
物品及び物品の製造方法:
本明細書に提供される組成物は、例えば、型に入れて作った物品などの成形物品の製造に使用することができる。フルオロポリマーの配合又は加工に使用される従来の加工技術、例えば、射出成形、特に液体射出成形、又は圧縮成形などが使用できる。あるいは、フルオロポリエーテル組成物の層を解放空気炉の中で硬化させて、シート状の物品を製造することができる。
【0075】
圧縮成形は、典型的には、ある量の冷たい硬化性混合物を加熱した型の穴に入れ、その後適切な圧力により型を閉じ、物品を成形することを含む。混合物を十分な温度に十分な時間保持して、加硫を進行させた後、型から取り出すことができる。
【0076】
液体射出成形は、硬化性組成物を、加熱したチャンバーにポンプ移送し、次いでそこから水力によるピストンを使用して、組成物を中空成形型の空洞に注入する、成形技術である。加硫後、次いで物品を成形型から取り出すことができる。
【0077】
本明細書において提供される組成物は、例えば、オーリング、ガスケット、チューブ、ライニング、シート、容器、蓋、燃料タンク又はその部品、ホース又はその部品、及び膜などの、物品の製造に使用することができる。
【0078】
発明を更に説明するために、具体的な実施形態を以下に羅列する。この羅列は説明の目的のために提供されたものであり、本発明を制限することを意図するものではない。
【0079】
1.トリアジン基を含み、−40℃未満のガラス転移温度を有する、フルオロポリエーテルエラストマーの製造方法であって、
a)
(i)(−CO−)、(−CO−)、(−CO−)、(−CFO−)及びこれらの組み合わせから選択される反復部分を含有し、更に少なくとも1つの官能基を、骨格鎖の、又は存在する場合には側鎖の、端末炭素原子に含有する、1つ以上の飽和フルオロポリエーテルであって、端末炭素原子は第一級又は第二級の炭素原子であってよく、官能基は下記(ii)によるフルオロ化化合物の官能基と反応しトリアジン環を形成することができる、1つ以上の飽和フルオロポリエーテルと、
(ii)少なくとも1つのペルフルオロ化アルキル又はペルフルオロ化アルキレン部分を含有する1つ以上のフルオロ化化合物であって、ペルフルオロ化アルキル又はアルキレン部分の炭素原子は1つ以上の酸素原子により中断されていてもよく、フルオロ化化合物は、1つ以上のフルオロポリエーテルの官能基と反応してトリアジンを形成することができる少なくとも1つの官能基を更に含有する、1つ以上のフルオロ化化合物と、を提供する工程
b)(i)及び(ii)による成分を硬化させトリアジンを形成する工程を含む、製造方法。
【0080】
2.フルオロポリエーテルエラストマーが、−50℃未満のガラス転移温度を有する、実施形態1に記載の方法。
【0081】
3.フルオロポリエーテルエラストマーが−80℃未満のガラス転移温度を有する、実施形態1又は2に記載の方法。
【0082】
4.1つ以上のフルオロポリエーテル(i)が、15,000g/モル未満の分子量を有する、実施形態1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【0083】
5.1つ以上のフルオロポリエーテル(i)が直鎖である、実施形態1〜4のいずれか1つに記載の方法。
【0084】
6.1つ以上のフルオロポリエーテル(i)が液体である、実施形態1〜5のいずれか1つに記載の方法。
【0085】
7.少なくとも1つの官能基を含有する1つ以上のフルオロポリエーテルが、基本的に(−CO−)、(−CO−)、(−CO−)若しくは(−CFO−)、又はこれらの組み合わせから選択される反復部分、及びフルオロポリエーテルの端末に置かれた1つ以上の基Rf−Z及び1つ以上の基Rf’−(Z’)n(式中、Z及びZ’は異なるか又は同一の官能基であり、フルオロ化化合物の1つ以上の官能基と反応してトリアジンを形成することができ、Rf、Rf’は炭素鎖を中断する1つ以上の酸素原子を含有することのできる、互いに独立したペルフルオロ化アルキル又はアルキレンであり、nは1又は0である)から成る、実施形態1〜6のいずれか1つに記載の方法。
【0086】
8.フルオロポリエーテルの官能基がニトリル基である、実施形態1〜7のいずれか1つに記載の方法。
【0087】
9.フルオロ化化合物の官能基がニトリル基である、実施形態1〜7のいずれか1つに記載の方法。
【0088】
10.フルオロポリエーテルの官能基がニトリル基であり、フルオロ化化合物の官能基がアミジン、アミドラゾン、イミダート、アミドオキシム及びこれらの塩、並びにこれらの組み合わせから選択される部分を含む、実施形態1〜7のいずれか1つに記載の方法。
【0089】
11.フルオロポリエーテルの官能基がアミジン、アミドラゾン、イミダート、アミドオキシム及びこれらの塩、並びにこれらの組み合わせから選択される部分を含み、フルオロ化化合物の官能基がニトリル基を含む、実施形態1〜7のいずれか1つに記載の方法。
【0090】
12.−40℃未満のガラス転移温度、少なくとも1.5MPaの引張強度、少なくとも50%の破断伸度を有し、並びにトリアジン基を有するフルオロポリエーテルエラストマーを含む、エラストマー組成物の製造方法であって、
a)
(i)(−CO−)、(−CO−)、(−CO−)若しくは(−CFO−)、又はこれらの組み合わせから選択される反復部分を含有し、更に少なくとも1つの官能基を骨格鎖の、又は存在する場合には側鎖の、端末炭素原子に含有する、1つ以上の飽和フルオロポリエーテルであって、端末炭素原子は第一級又は第二級の炭素原子であってよく、官能基は下記(ii)によるフルオロ化化合物の官能基と反応しトリアジンを形成することができる、1つ以上の飽和フルオロポリエーテルと、
(ii)少なくとも1つのペルフルオロ化アルキル又はペルフルオロ化アルキレン部分であって、ペルフルオロ化アルキル又はアルキレン部分の炭素原子は1つ以上の酸素原子により中断されていてもよく、フルオロ化化合物は1つ以上のフルオロポリエーテルの官能基と反応してトリアジンを形成することができる少なくとも1つの官能基を含有する、1つ以上のフルオロ化化合物と、
(iii)少なくとも1つの充填剤と、を用意する工程、
b)(i)及び(ii)による成分を硬化させトリアジンを形成する工程、を含む製造方法。
【0091】
13.エラストマー組成物が−50℃未満のガラス転移温度を有する、実施形態12に記載の方法。
【0092】
14.エラストマー組成物が−80℃未満のガラス転移温度を有する、実施形態12に記載の方法。
【0093】
15.エラストマー組成物が少なくとも100%の破断伸度を有する、実施形態12〜14のいずれか1つに記載の方法。
【0094】
16.エラストマー組成物が少なくとも2MPaの引張強度を有する、実施形態12〜15のいずれか1つに記載の方法。
【0095】
17.エラストマー組成物が少なくとも15のショアA硬度を有する、実施形態12〜16のいずれか1つに記載の方法。
【0096】
18.1つ以上のフルオロポリエーテル(i)が、15,000g/モル未満の分子量を有する、実施形態12〜17のいずれか1つに記載の方法。
【0097】
19.1つ以上のフルオロポリエーテル(i)が直鎖である、実施形態12〜18のいずれか1つに記載の方法。
【0098】
20.1つ以上のフルオロポリエーテル(i)が液体である、実施形態12〜19のいずれか1つに記載の方法。
【0099】
21.少なくとも1つの官能基を含有する1つ以上のフルオロポリエーテルが、基本的に(−CO−)、(−CO−)、(−CO−)若しくは(−CFO−)、又はこれらの組み合わせから選択される反復部分、並びにフルオロポリエーテルの端末に置かれた1つ以上の基Rf−Z及び1つ以上の基Rf’−(Z’)n(式中、Z及びZ’は異なるか又は同一の官能基であり、フルオロ化化合物の1つ以上の官能基と反応してトリアジンを形成することができ、Rf、Rf’は炭素鎖を中断する1つ以上の酸素原子を含有することのできる、互いに独立したペルフルオロ化アルキル又はアルキレンであり、nは1又は0である)から成る、実施形態12〜20のいずれか1つに記載の方法。
【0100】
22.フルオロポリエーテルの官能基がニトリル基である、実施形態12〜21のいずれか1つに記載の方法。
【0101】
23.フルオロ化化合物の官能基がニトリル基である、実施形態12〜21のいずれか1つに記載の方法。
【0102】
24.フルオロポリエーテルの官能基がニトリル基であり、フルオロ化化合物の官能基がアミジン、アミドラゾン、イミダート、アミドオキシム及びこれらの塩、並びにこれらの組み合わせから選択される部分を含む、実施形態12〜21のいずれか1つに記載の方法。
【0103】
25.フルオロポリエーテルの官能基がアミジン、アミドラゾン、イミダート、アミドオキシム及びこれらの塩、並びにこれらの組み合わせから選択される部分を含み、フルオロ化化合物の官能基がニトリル基を含む、実施形態12〜21のいずれか1つに記載の方法。
【0104】
26.トリアジン基並びに(−CO−)、(−CO−)、(−CO−)、(−CFO−)及びこれらの組み合わせから選択される繰り返し部分を含有するフルオロポリエーテルエラストマーと、少なくとも1つの充填剤とを含み、−40℃未満のガラス転移温度、少なくとも1.5MPaの引張強度、及び少なくとも50%の破断伸度を有する、組成物。
【0105】
27.フルオロポリエーテルエラストマーが、
(i)(−CO−)、(−CO−)、(−CO−)、(−CFO−)及びこれらの組み合わせから選択される反復部分を含有し、更に少なくとも1つの官能基を前記骨格鎖の、又は存在する場合には側鎖の、端末炭素原子に含有する、1つ以上の飽和フルオロポリエーテルであって、前記端末炭素原子は第一級又は第二級の炭素原子であってよく、前記官能基は下記(ii)によるフルオロ化化合物の官能基と反応しトリアジンを形成することができる、1つ以上の飽和フルオロポリエーテルと、
(ii)少なくとも1つのペルフルオロ化アルキル又はペルフルオロ化アルキレン部分を含有する1つ以上のフルオロ化化合物であって、アルキル又はアルキレン部分の炭素原子は1つ以上の酸素原子により中断されていてもよく、1つ以上のフルオロポリエーテルの官能基と反応してトリアジンを形成することができる官能基を少なくとも1つ含有する、1つ以上のフルオロ化化合物と、のトリアジン形成反応の反応生成物である、実施形態26に記載の組成物。
【0106】
28.−50℃未満のガラス転移温度を有する、実施形態26又は27に記載の組成物。
【0107】
29.−80℃未満のガラス転移温度を有する、実施形態26又は27に記載の組成物。
【0108】
30.少なくとも100%の破断伸度を有する、実施形態26〜29のいずれか1つに記載の組成物。
【0109】
31.少なくとも2MPaの引張強度を有する、実施形態26〜30のいずれか1つに記載の組成物。
【0110】
32.少なくとも15のショアA硬度を有する、実施形態26〜31のいずれか1つに記載の組成物。
【0111】
33.1つ以上のフルオロポリエーテル(i)が、15,000g/モル未満の分子量を有する、実施形態27〜32のいずれか1つに記載の組成物。
【0112】
34.1つ以上のフルオロポリエーテル(i)が、直鎖である、実施形態27〜33のいずれか1つに記載の組成物。
【0113】
35.1つ以上のフルオロポリエーテル(i)が、液体である、実施形態27〜34のいずれか1つに記載の組成物。
【0114】
36.少なくとも1つの官能基を含有する1つ以上のフルオロポリエーテルが、基本的に(−CO−)、(−CO−)、(−CO−)若しくは(−CFO−)、又はこれらの組み合わせから選択される反復部分、及びフルオロポリエーテルの端末に置かれた1つ以上の基Rf−Z及び1つ以上の基Rf’−(Z’)n(式中、Z及びZ’は異なる又は同一の官能基であり、フルオロ化化合物の1つ以上の官能基と反応してトリアジンを形成することができ、Rf、Rf’は炭素鎖を中断する1つ以上の酸素原子を含有することのできる、互いに独立したペルフルオロ化アルキル又はアルキレンであり、nは1又は0である)から成る、実施形態27〜35のいずれか1つに記載の組成物。
【0115】
37.フルオロポリエーテルの官能基がニトリル基である、実施形態27〜36のいずれか1つに記載の組成物。
【0116】
38.フルオロ化化合物の官能基がニトリル基である、実施形態27〜36のいずれか1つに記載の組成物。
【0117】
39.フルオロポリエーテルの官能基がニトリル基であり、フルオロ化化合物の官能基がアミジン、アミドラゾン、イミダート、アミドオキシム及びこれらの塩、並びにこれらの組み合わせから選択される部分を含む、実施形態27〜36のいずれか1つに記載の組成物。
【0118】
40.フルオロポリエーテルの官能基がアミジン、アミドラゾン、イミダート、アミドオキシム及びこれらの塩、並びにこれらの組み合わせから選択される部分を含む部分から選択されるフルオロポリエーテルであり、並びにフルオロ化化合物の官能基がニトリル基である、実施形態27〜36のいずれか1つに記載の組成物。
【0119】
41.充填剤がシリコーン含有材料若しくは炭素含有材料又はこれらの組み合わせから選択される、実施形態26〜40のいずれか1つに記載の組成物。
【0120】
42.硬化性組成物であって、
(i)(−CO−)、(−CO−)、(−CO−)、(−CFO−)又はこれらの組み合わせから選択される反復部分を含有し、少なくとも1つの官能基を前記骨格鎖の、又は存在する場合には側鎖の、端末炭素原子に含有する、1つ以上の(飽和)フルオロポリエーテルであって、前記端末炭素原子は第一級又は第二級の炭素原子であってよく、前記官能基は下記(ii)によるフルオロ化化合物の官能基と反応しトリアジンを形成することができる、1つ以上の飽和フルオロポリエーテルと、
(ii)少なくとも1つのペルフルオロ化アルキル又はペルフルオロ化アルキレン部分を含有する1つ以上のフルオロ化化合物であって、アルキル又はアルキレン部分の炭素原子は1つ以上の酸素原子により中断されていてもよく、並びに1つ以上のフルオロポリエーテルの官能基と反応してトリアジンを形成することができる少なくとも1つの官能基を含有する、1つ以上のフルオロ化化合物、を含む硬化性組成物。
【0121】
43.液体又はペーストである、実施形態42に記載の硬化性組成物。
【0122】
44.少なくとも1つの官能基を含有するフルオロポリエーテルが15,000g/モル未満の分子量を有する、実施形態42又は43のいずれか1つに記載の硬化性組成物。
【0123】
45.少なくとも1つの官能基を含有するフルオロポリエーテルが直鎖である、実施形態42〜44のいずれか1つに記載の硬化性組成物。
【0124】
46.フルオロポリエーテルが、基本的に(−CO−)、(−CO−)、(−CO−)若しくは(−CFO−)、又はこれらの組み合わせから選択される反復部分、並びにフルオロポリエーテルの端末に置かれた1つ以上の基Rf−Z及び1つ以上の基Rf’−(Z’)n(式中、Z及びZ’は異なる又は同一の官能基であり、フルオロ化化合物の1つ以上の官能基と反応してトリアジンを形成することができ、Rf、Rf’は炭素鎖を中断する1つ以上の酸素原子を含有することのできる、互いに独立したペルフルオロ化アルキル又はアルキレンであり、nは1又は0である)から成る、実施形態42〜45のいずれか1つに記載の硬化性組成物。
【0125】
47.フルオロポリエーテルの官能基がニトリル基である、実施形態42〜46のいずれか1つに記載の可塑性組成物。
【0126】
48.フルオロ化化合物の官能基がニトリル基である、実施形態42〜46のいずれか1つに記載の硬化性組成物。
【0127】
49.フルオロポリエーテルの官能基がニトリル基であり、フルオロ化化合物の官能基がアミジン、アミドラゾン、イミダート、アミドオキシム、これらの塩、及びこれらの組み合わせから選択される部分を含む、実施形態42〜46のいずれか1つに記載の硬化性組成物。
【0128】
50.該官能基がアミジン、アミドラゾン、イミダート、アミドオキシム、これらの塩、及びこれらの組み合わせから選択される部分を含み、フルオロ化化合物の官能基がニトリル基である、実施形態42〜46のいずれか1つに記載の硬化性組成物。
【0129】
51.少なくとも1つの充填剤を更に含む、実施形態42〜50のいずれか1つに記載の硬化性組成物。
【0130】
52.少なくとも1つの充填剤がシリカ含有材料、炭素含有材料又はこれらの組み合わせから選択される、実施形態51に記載の硬化性組成物。
【0131】
53.加熱処理により、トリアジン基を含有し、−40℃未満のガラス転移温度、少なくとも1.5MPaの引張強度、少なくとも50%の破断伸度を有する、フルオロポリエーテルエラストマー組成物に硬化する、実施形態42〜52のいずれか1つに記載の硬化性組成物。
【0132】
54.加熱処理により、トリアジン基を含有し、−80℃未満のガラス転移温度、少なくとも2MPaの引張強度、少なくとも100%の破断伸度を有する、フルオロポリエーテルエラストマー組成物に硬化する、実施形態42〜52のいずれか1つに記載の硬化性組成物。
【0133】
55.加熱処理により、トリアジン基を含有し、−80℃未満のガラス転移温度、少なくとも2MPaの引張強度、少なくとも100%の破断伸度及び少なくとも15のショアA硬度を有する、フルオロポリエーテルエラストマー組成物に硬化する、実施形態42〜52のいずれか1つに記載の硬化性組成物。
【0134】
56.熱処理が組成物を177℃に45分さらすことを含む、実施形態53〜55のいずれか1つに記載の硬化性組成物。
【0135】
57.トリアジンを含有し、−40℃未満、好ましくは−50℃未満、より好ましくは−80℃未満のガラス転移温度、少なくとも50%、好ましくは少なくとも100%の破断伸度及び少なくとも1.5MPa、好ましくは少なくとも2MPaの引張強度、を含有する硬化フルオロポリエーテルエラストマー組成物の製造方法であって、実施形態43〜57のいずれか1つに記載の組成物を用意する工程と、組成物を熱処理にさらす工程と、を含む、製造方法。
【0136】
58.実施形態26〜41のいずれか1つに記載の組成物を含む成形物品。
【0137】
59.物品がO−リング及びガスケットから選択される、実施形態58に記載の物品。
【0138】
60.実施形態41〜56のいずれか1つに記載の組成物の、射出又は圧縮成形を含む、物品の製造方法。
【0139】
以下の実施例により本発明が更に説明される。以下の実施例は幾つかの実施形態を説明するために用意されたものであり、その発明を限定するものではない。実施形態の説明に先立ち、材料及びその特性評価に使用される幾つかの試験方法を述べる。特に指示がない限り、パーセンテージは全組成物の質量に対する重量パーセンテージであり、それぞれのケースで100重量パーセントとなる。
【実施例】
【0140】
試験方法
硬さ:
ショアA硬度(2”(5.1cm))は、ASTM D−2240に準拠し、250℃で20時間、後硬化した試料について測定した。
【0141】
ガラス転移温度(Tg):
TA Instrumentsから入手できるTA Instruments Q200 modulated DSCを使用する、温度変調DSCにより、Tgを測定した。測定条件:2又は3℃/minでの−150℃〜50℃、60sec中の+−1℃/minの温度変調振幅。
【0142】
破断強度、破断伸度及び100%伸度における応力:
DIN 53504(S2 DIE)に従い、Instro(商標)機械試験機により1kNロードセルを使用して、これらの特性を測定した。全ての試験は、200mm/minの一定のクロスヘッド変位速度で行った。各試験は3回行った。報告した値は3回の試験の平均である。100%伸度応力、破断伸度、及び破断強度は、メガパスカル(MPa)、%及びMPaの単位でそれぞれ報告した。
【0143】
硬化特性:
加硫特性は、Alpha Technologies Moving Die Rheometerを使用して(ASTM D 5289−93aに従い177℃で)測定し、最低トルク(ML)、最高トルク(MH)及びデルタトルク(これはMHとMLとの差である)を報告した。トルク値はin.lbs(ニュートンメートル)の単位で報告した。tg δ @ML及びtg δ @MHも報告した。Ts2(トルクがMLから2単位増加するのに必要な時間)、T50(トルクがMLからデルタトルクの50%増加する時間)、及びT90(トルクがMLからデルタトルクの90%増加する時間)などの硬化速度を示すパラメータを更に報告し、これらはすべて分の単位で報告した。
【0144】
トリアジン環の存在:
トリアジン環の存在は、FT−IR分析における1550〜1560cm−1の強い吸収ピークで示された。硬化又は後硬化した50μmの薄い試料を、FT−IR分析に供した。
【0145】
サンプルの調製
ペースト形態のフルオロエラストマー混合物は、Hauschild(商標)Speedmixer(2000rpmで1min、3500rpmで1min)中で、100重量部のペルフルオロポリエーテルを、ペルフルオロポリエーテル100重量部当たりの部として各実施例に示されている、共剤(フルオロ化化合物)及び充填剤と混合して製造した。ペーストは、Agila press(Agila NV in Ieper,BelgiumからのAgila PE 60プレスで、加熱板を装備した典型的なラバープレスである)を使用して、プレス硬化した。硬化は177℃で45min間、20bar(2MPa)の圧力で行った。フルオロエラストマーは、炉の中で、250℃で20時間、後硬化した。
【0146】
使用材料:
官能化したペルフルオロポリエーテル(PFE)
PFE−1:NCCFO(CFO)9〜11(CFCFO)9〜11CFCN
PFE−1は、ペルフルオロポリエーテルジエステルCHOC(O)CFO(CFO)9〜11(CFCFO)9〜11CFC(O)OCH(約2000の平均分子量で、Fomblin(商標)Z−DEALの商品名でSolvay Solexis)から入手した)からスタートし、米国特許第5,545,693号、実施例3に記載の方法で製造した。第1工程において、ペルフルオロポリエーテルジエステルを、アンモニアガスを使用して、対応するジカルボンアミドに変換した。第2工程では、ジカルボンアミドを対応するジニトリルに変換した。
【0147】
硬化共剤(フルオロ化化合物)
共剤−1:米国特許第6,846,880号(13列、32行の硬化剤の実施例のセクションの硬化剤B)に従って製造したCF−O−CFCF−C(=NH)NH OOCCF
【0148】
共剤−2:ペルフルオロセバクアミジン、Apollo Scientific,UKから市販されている。
【0149】
充填剤
Nanogel(商標):Cabot Corporationから入手可能。
【0150】
Cab−O−Sil(登録商標)TS530:Cabot Corporationから入手可能。
【0151】
Aerosil(登録商標)200V:ヒドロキシルを含有するシリカ、Evonikから市販されている。
【0152】
MT N−990:カーボンブラック、中耐熱グレード、Cancarbから入手可能。
【0153】
変性シリカ充填剤(MFIL)
フッ素変性シリカ(MFIL−1及びMFIL−2)
フッ素変性シリカ、MFIL−1及びMFIL−2は、2工程の反応で調製した。第1工程においては、フルオロシラン(下記組成物)を対応するペルフルオロポリエーテルジエステルからスタートして調製した。第2工程においては、フルオロシランをAEROSIL(登録商標)200V(Evonikから市販されている)などの、市販されているヒドロキシル含有シリカと反応させた。したがって、閉鎖したビーカー中で、100gのAEROSIL(登録商標)200Vを、400gの変性アルコール(Aldrichから入手可能)、1gのHCl(37%)及び1gのフルオロシランを含有する溶液と混合した。
【0154】
MFIL−1
MFIL−1に使用されるフルオロシランは、1モル量のCHOC(O)CFO(CFO)9〜11(CFCFO)9〜11CFC(O)OCH(Solvay SolexisからFomblin(商標)Z−DEALの商品名で市販されている)を2モルのアミノプロピルトリメトキシシラン(Aldrich Coから入手可能)と混合することにより調製した。原料物質を単に混合することにより、発熱反応が室温で容易に進行した。
【0155】
MFIL−2
MFIL−2に使用されるフルオロシランは、米国特許第2005/054804号の実施例3に記載されているように、HFPOジエステルから出発して製造した。
【0156】
実施例
(実施例1):
100部のPFE−1、2.5部の共剤−1、5部のNanogel(商標)、8部のCab−O−Sil(登録商標)TS530及び4部のAerosil(登録商標)200Vを混合し、ペーストを製造した。ペーストを177℃で45分間プレス硬化し、次いで、250℃で20時間、後硬化した。
【0157】
硬化した試料をレオロジー特性について試験した。結果を表1に示す。
【0158】
【表1】

【0159】
比較実施例C−1及びC−2
比較実施例C−1及びC−2では、ペーストは、それぞれ100部のPFE−1、0.439部、又は1.5部の尿素並びに7.5部のNanogel(商標)を混合して製造した。ペーストを177℃で45分間プレス硬化し、次いで250℃で20時間、後硬化した。
【0160】
実施例1において使用した共剤−1の量と同じモル量の尿素を使用したが、比較実施例C−1はまったく硬化しなかった。比較実施例C−2は硬化したが、エラストマーには硬化しなかった。強さのないもろい物質が生成した。
【0161】
(実施例2):
実施例2では、100部のPFE−1、2.5部の共剤−1、6部のNanogel(商標)、5.75部のMFIL−1及び9.25部のMFIL−2を混合して、ペーストを製造した。ペーストを177℃で45分間プレス硬化し、次いで、250℃で20時間、後硬化した。
【0162】
硬化した試料をレオロジー特性について試験した。結果を表2に示す。
【0163】
【表2】

【0164】
(実施例3〜5)
実施例3〜5では、100部のPFE−1を1.85部の共剤−2及び充填剤と表3に示す通り混合して、ペルフルオロエラストマー混合物を製造した。ペーストを一般的な方法で硬化した。硬化したフルオロエラストマーの特性を表4に示す。
【0165】
【表3】

【0166】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリアジン基を含み、−40℃未満のガラス転移温度を有する、フルオロポリエーテルエラストマーの製造方法であって、
a)
(i)(−CO−)、(−CO−)、(−CO−)、(−CFO−)及びこれらの組み合わせから選択される反復部分を含有し、更に少なくとも1つの官能基を前記骨格鎖の、又は存在する場合には側鎖の、端末炭素原子に含有する、1つ以上の飽和フルオロポリエーテルであって、前記端末炭素原子は第一級又は第二級の炭素原子であってよく、前記官能基は下記(ii)によるフルオロ化化合物の官能基と反応しトリアジン環を形成することができる、1つ以上の飽和フルオロポリエーテル、
(ii)少なくとも1つのペルフルオロ化アルキル又はペルフルオロ化アルキレン部分を含有する1つ以上のフルオロ化化合物であって、前記ペルフルオロ化アルキル又はアルキレン部分の炭素原子は1つ以上の酸素原子により中断されていてもよく、前記フルオロ化化合物は、少なくとも1つ以上の前記フルオロポリエーテルの前記官能基と反応してトリアジンを形成することができる少なくとも1つの官能基を更に含有する、1つ以上のフルオロ化化合物、
を用意する工程、
b)(i)及び(ii)による前記成分を硬化させトリアジンを形成する工程、
を含む、製造方法。
【請求項2】
前記フルオロポリエーテルエラストマーが、−80℃未満のガラス転移温度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1つ以上の(i)の前記フルオロポリエーテルが、15,000g/モル未満の分子量を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記フルオロポリエーテルの前記官能基がニトリル基である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記フルオロポリエーテルの前記官能基がニトリル基であり、前記フルオロ化化合物の前記官能基がアミジン、アミドラゾン、イミダート、アミドオキシム及びこれらの塩、並びにこれらの組み合わせから選択される部分を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
−40℃未満のガラス転移温度と、少なくとも1.5MPaの引張強度と、少なくとも50%の破断伸度と、を有し、トリアジン基を有するフルオロポリエーテルエラストマーを含むエラストマー組成物の製造方法であって、
a)
(i)(−CO−)、(−CO−)、(−CO−)、若しくは(−CFO−)又はこれらの組み合わせから選択される反復部分を含有し、更に少なくとも1つの官能基を前記骨格鎖の、又は存在する場合には側鎖の、端末炭素原子に含有する、1つ以上の飽和フルオロポリエーテルであって、前記端末炭素原子は第一級又は第二級の炭素原子であってよく、前記官能基は下記(ii)によるフルオロ化化合物の官能基と反応しトリアジンを形成することができる、1つ以上の飽和フルオロポリエーテル、
(ii)少なくとも1つのペルフルオロ化アルキル又はペルフルオロ化アルキレン部分を含有する1つ以上のフルオロ化化合物であって、前記ペルフルオロ化アルキル又はアルキレン部分の炭素原子は1つ以上の酸素原子により中断されていてもよく、前記フルオロ化化合物は、1つ以上の前記フルオロポリエーテルの前記官能基と反応してトリアジンを形成することができる少なくとも1つの官能基を更に含む、1つ以上のフルオロ化化合物、
(iii)少なくとも1つの充填剤、
を用意する工程、
b)(i)及び(ii)による前記成分を硬化させトリアジンを形成する工程、
を含む製造方法。
【請求項7】
前記エラストマー組成物が少なくとも100%の破断伸度を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記エラストマー組成物が少なくとも2MPaの引張強度を有する、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記エラストマー組成物が少なくとも15のショアA硬度を有する、請求項6〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
トリアジン基並びに(−CO−)、(−CO−)、(−CO−)、(−CFO−)及びこれらの組み合わせから選択される繰り返し部分を含有するフルオロポリエーテルエラストマー、並びに少なくとも1つの充填剤を含む組成物であって、−40℃未満のガラス転移温度、少なくとも1.5MPaの引張強度、及び少なくとも50%の破断伸度を有する、組成物。
【請求項11】
前記フルオロポリエーテルエラストマーが、
(i)(−CO−)、(−CO−)、(−CO−)、(−CFO−)及びこれらの組み合わせから選択される反復部分を含有し、更に少なくとも1つの官能基を前記骨格鎖の、又は存在する場合には側鎖の、端末炭素原子に含有する、1つ以上の飽和フルオロポリエーテルであって、前記端末炭素原子は第一級又は第二級の炭素原子であってよく、前記官能基は下記(ii)によるフルオロ化化合物の官能基と反応しトリアジンを形成することができる、1つ以上の飽和フルオロポリエーテルと、
(ii)少なくとも1つのペルフルオロ化アルキル又はペルフルオロ化アルキレン部分であって、前記アルキル又はアルキレン部分の炭素原子は1つ以上の酸素原子により中断されていてもよい、ペルフルオロ化アルキル又はペルフルオロ化アルキレン部分と、1つ以上のフルオロポリエーテルの前記官能基と反応してトリアジンを形成することができる、少なくとも1つの官能基と、
を含有する、1つ以上のフルオロ化化合物、とのトリアジン形成反応の反応生成
物である、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
硬化性組成物であって、
(i)(−CO−)、(−CO−)、(−CO−)、(−CFO−)又はこれらの組み合わせから選択される反復部分を含み、少なくとも1つの官能基を前記フルオロポリエーテルの前記骨格の、又は存在する場合には側鎖の、端末炭素原子に含む、1つ以上の(飽和)フルオロポリエーテルであって、前記端末炭素原子は第一級又は第二級の炭素原子であってよく、前記官能基は下記(ii)によるフルオロ化化合物の官能基と反応しトリアジンを形成することができる、1つ以上の(飽和)フルオロポリエーテルと、
(ii)少なくとも1つのペルフルオロ化アルキル又はペルフルオロ化アルキレン部分を含有し、前記アルキル又はアルキレン部分の炭素原子は1つ以上の酸素原子により中断されていてもよい、ペルフルオロ化アルキル又はペルフルオロ化アルキレン部分と、1つ以上の前記フルオロポリエーテルの前記官能基と反応してトリアジンを形成することができる少なくとも1つの官能基を含有する、1つ以上のフルオロ化化合物と、
を含む、硬化性組成物。
【請求項13】
液体又はペーストである請求項12に記載の硬化性組成物。
【請求項14】
請求項10又は11に記載の組成物を含む成形物品。
【請求項15】
請求項12又は13に記載の組成物の、射出又は圧縮成形を含む、物品の製造方法。

【公表番号】特表2013−506752(P2013−506752A)
【公表日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533242(P2012−533242)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【国際出願番号】PCT/US2010/051422
【国際公開番号】WO2011/044093
【国際公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】