説明

非干渉式デツドビート制御装置

【目的】 相互干渉をなくすとともに、有限整定時間を短縮し、操作量の低減を図る。
【構成】 多入力多出力の制御対象4をデッドビート制御する場合に、出力フィードバック量を目標値または設定値と比較し、その偏差量を内部モデル2の状態量と加算した量を非干渉を意図したゲイン調節器3に入力量として与え、この出力量を非干渉を意図した状態レギュレータのフィードバック量(フィードバックゲイン要素6の出力)と比較して操作量とすることにより、主として非干渉化を図る。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、特に多入力多出力の制御対象を有限整定制御(デッドビート制御)するための制御装置に関する。ここに、デッドビート制御とは閉ループ系の状態ベクトルが、任意の初期状態に対して有限のステップ(有限整定時間)内に原点(零)に到達するような制御方式を言う。
【0002】
【従来の技術】従来、内部モデル原理を含むデッドビート制御は、1入力1出力の制御対象のサーボ系に限って適用されているのが一般的である。なお、内部モデル原理とは“制御対象の出力が目標入力に定常偏差なく追従するためには、閉ループ内に目標入力の発生モデルを含んでいなければならない”とする原理である。
【0003】
【発明が解決しょうとする課題】しかしながら、内部モデル原理を含むデッドビート制御には、次のような問題がある。
イ)本来、内部モデルの構成要素が積分器であるため、急峻な変化に速応できない。
ロ)上記イ)と関連して制御対象に対する操作量が過大となる。
ハ)多入力多出力系の場合に、伝達関数が非対角の干渉項に依存する系では、他の状態量への干渉が生じ、変動に対してロバスト性が弱くなる。
したがって、この発明の課題は多入力多出力の制御対象に対しても有限整定時間を速め、操作量を低減し得る非干渉のデッドビート制御装置を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】このような課題を解決するため、第1の発明では、多入力多出力の制御対象の出力フィードバック量を目標値または設定値と比較し、その偏差量を内部モデルの状態量と加算して得られる量を非干渉を意図したゲイン調節器に入力量として与え、この非干渉を意図したゲイン調節器の出力量と非干渉を意図した状態レギュレータの状態フィードバック量とを比較し、その偏差量を前記制御対象の操作量とすることを特徴としている。また、第2の発明では、多入力多出力の制御対象の出力フィードバック量を目標値または設定値と比較し、その偏差量を内部モデルの状態量と加算して得られる出力量と、前記目標値または設定値が入力されるフィードフォワードゲイン要素の出力とを非干渉を意図したゲイン調節器に入力として与え、この非干渉を意図したゲイン調節器の出力量と非干渉を意図した状態レギュレータの状態フィードバック量とを比較し、その偏差量を前記制御対象の操作量とすることを特徴としている。
【0005】
【作用】デッドビート制御装置のレギュレータおよびゲイン調節器として、非干渉を意図したレギュレータおよびゲイン調節器を用いることにより、干渉の影響を無くす。また、フィードフォワードゲイン要素のゲインを最適化することにより、内部モデルの積分遅れをなくし、操作量を低減する。
【0006】
【実施例】図1はこの発明の実施例を示す原理構成図である。同図において、1は比較器または加減算器、2は内部モデル、3は非干渉を意図した(非干渉化のための考慮を施した、つまりゲインを考慮した)ゲイン調節器、4は制御対象、5は外乱対象、6は非干渉を意図したレギュレータのフィードバックゲインを決めるゲイン要素である。また、r(i)は目標値または設定値、e(i)は偏差量、−Z(i)は内部モデル要素の出力量、U(i)は制御対象に対する操作量、y(i)は制御量(出力)、dは外乱量である。すなわち、制御対象4の出力フィードバック量を目標値または設定値r(i)と比較し、その偏差量e(i)を内部モデル2の状態量と加算して得られる量Z(i)を非干渉を意図したゲイン調節器3に入力量として与え、この非干渉を意図したゲイン調節器3の出力量と非干渉を意図した状態レギュレータの状態フィードバック量FX(i)とを比較し、その偏差量U(i)を制御対象4の操作量とすることにより、主として非干渉化を図るものである。つまり、図1の構成自体は公知であるが、ゲイン調節器3のゲインおよび状態フィードバック量を最適化することにより、多入力多出力とした場合の状態量による相互干渉を防止しようとするものである。
【0007】図2はこの発明の他の実施例を示す原理構成図である。これは、図1に示すものに対し、目標値または設定値が入力されるフィードフォワードゲイン要素7を設けてその出力を加算器8に導き、内部モデル2の出力とともに非干渉を意図したゲイン調節器3に入力として与えるようにしたもので、こうすることにより、有限整定時間を速め操作量を低減することが可能となる。
【0008】図3に図1に対応する2入力2出力制御対象を用い、かつ、一型内部モデルを用いた場合の具体例を示す。これは、例えば図4の如き系統連系運転をして有効,無効電力制御を行なうインバータシステムの例である。なお、図4の符号21は直流電源、22はインバータ、23はトランス、24は交流リアクトル、25は連系スイッチ、26は系統である。その等価回路は図5に示すように、インバータおよび系統をそれぞれ3相電圧源31,34によりモデル化して表現したものである。また、ここでは連系インピーダンスをインダクタンス32(Ls)と抵抗33(rs )とで示している。図6R>6に図2に対応する2入力2出力制御対象を用い、かつ、一型内部モデルを用いた場合の具体例を示す。いま、図5の3相回路で零相分はないものと仮定し、Cを変換行列として3相/2相変換し状態方程式で示すと数1,数2,数3および数4の如くなる。
【0009】
【数1】


【数2】


【数3】


【数4】


【0010】また、これらの変換式を用いて状態方程式で表わすと、数5のようになる。
【数5】


2入力2出力を対象とする線形システムにおけるプロセスG(s)の離散方程式は、数6のようになり、
【数6】


数6の各要素は次の数7,数8で示される。
【数7】


【数8】


【0011】ただし、0次ホールドのディジタル化する前のマトリックスはそれぞれ数5に記述したものであり、A’,B’およびW’は数9の如くなる。
【数9】


なお、数8の各要素はこの数9から計算する。また、上記G(s)の出力方程式は、数10で示される。
【数10】


ただし、Cは数11で示される。
【数11】


【0012】このシステムに対する制御則は、次の数12,数13で与えられる。
【数12】


【数13】


ただし、数12,数13の各成分を数14,数15の如く置く。
【数14】


【数15】


【0013】ところで、デッドビート制御のためのレギュレータおよびゲインコントローラの決定に当たっては、外乱Wd(Vss)の項は除外しても良いことが知られているので、以下ではこれを無視することとする。数6,数10,数12をまとめると、閉ループ系は数16,数17の如き拡大系に対し、
【数16】


【数17】


数18の如き状態フィードバックを施したものと考えられ、
【数18】


数16中の数19,数20が、
【数19】


【数20】


可制御であるとき、上記数18で示すフィードバックによって有限整定が可能である。ただし、数16,数17の0はゼロ行列、Iは単位行列を示す。
【0014】可制御の条件はn=4であり、これは次の数21に対し、
【数21】


数22が成立することである。
【数22】


【0015】数21は具体的には数23となるので、
【数23】


最初の4行4列を取り出しても、その行列式は数24のようになることが、現実の機器に用いられる数値からも確かめられている。したがって、数16は可制御であると言うことができる。
【数24】


【0016】そこで、数18を数16に代入すると、数25を得る。
【数25】


また、数25も可制御なので、数26の固有値がすべて0のとき、有限整定されることになる。
【数26】


これは、次の数27の関係を満たすことと等価である。
【数27】


ただし、zは数28で表わされ、Tはサンプル時間を示している。なお、数27にはKrを含んでいない。
【数28】


【0017】ところで、数27は4つの解を求める方程式(すなわち、z3 ,z2 ,z1 ,z0 の各係数をゼロとおいて連立させたもの)である一方、F,F0 の未知定数は8個ある。つまり、レギュレータの未知定数は4個過剰である。この4個の未知定数は任意に与えても良いが、非干渉化するためには数27のA−BF,BF0 がともに非対角成分が0のとき、数27においてX(i),Z(i)ともに非干渉化されることになり、そのときの形は数29となる。
【数29】


このことは、数27において、次の数30が成立するときである。
【数30】


数30より、次の数31の関係が得られる。
【数31】


【0018】なお、数8のマトリックスA,Bの各成分は、サンプル時間をTとして数9をディジタル化することにより、数32の如く得られる。
【数32】


【0019】数31を数27に代入すると、数33となる。つまり、数29の具体的な形はこの数33となる。
【数33】


すなわち、この数29の各要素は数34で定義される。
【数34】


【0020】また、数29を数27に代入すると、数35が得られる。
【数35】


数35からφ1 ,φ4 を求めた後、数34からf11,f22,f13,f24を求め、次に数31よりf12,f21,f14,f23を求めれば、非干渉な有限整定制御を実現するためのゲイン要素の各成分が決定されることになる。ところで、数35の左辺の或る行を、1つずつ入れかえて計算すると、数36が得られる。
【数36】


【0021】数36を数35に代入すると数37が得られる。
【数37】


この数37から数38、したがって数39が得られる。
【数38】


【数39】


【0022】数39を数34に代入すると数40が得られ、非干渉デッドビート制御のレギュレータの各要素f11,f22,f13,f24が決定される。
【数40】


次に、これらを数31に代入した数41から、残りの要素f12,f21,f14,f23が決定される。つまり、図3または図6に示すゲイン調節器3の各ゲインf13,f14,f23,f24、要素6の各ゲインf11,f12,f21,f22が決定されることになる。
【数41】


【0023】ところで、数13の中に現れ、次の数42の如く示されるフィードフォワードゲインKrは以上の説明においては任意で良かったが、これも非干渉化するためには、数25におけるBF0 Krを対角行列にする。
【数42】


この条件は数43,数44となるが、
【数43】


【数44】


F,F0 が非干渉として決定されれば数45となり、このときはK11とK22が調整パラメータとして使用される。
【数45】


【0024】このように、図6ではゲイン調節器3の各ゲインf13,f14,f23,f24、要素6の各ゲインf11,f12,f21,f22ばかりでなく、要素7の各ゲインk11,k12,k21,k22をも決定することができ、これにより、非干渉化を図りつつ速応化と操作量の低減化を実現することが可能となる。なお、図3または図6はハードウエアまたはマイクロプロセッサやDSP(Degital SignalProcessor)等のプログラムにより、実現することができる。
【0025】
【発明の効果】この発明によれば、多入力多出力の制御系において生じる干渉項の影響を極力抑えることが可能となり、特にサーボ系に必要な外乱抑制効果と応答の速応性を格段に向上させることができる。その際、ハードウエアまたはソフトウエアの設計,構築が容易であり、あらゆる分野に広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施例を示す原理構成図である。
【図2】この発明の他の実施例を示す原理構成図である。
【図3】図1を2入力2出力制御系に適用した場合の具体例を示す構成図である。
【図4】図3の制御対象の具体例を示す系統図である。
【図5】図4の等価回路を示す回路図である。
【図6】図2を2入力2出力制御系に適用した場合の具体例を示す構成図である。
【符号の説明】
1 比較器(加減算器)
2 内部モデル
3 ゲイン調節器
4 制御対象
5 外乱対象
6 フィードバックゲイン要素
7 フィードフォワードゲイン要素
8 加算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】 多入力多出力の制御対象の出力フィードバック量を目標値または設定値と比較し、その偏差量を内部モデルの状態量と加算して得られる量を非干渉を意図したゲイン調節器に入力量として与え、この非干渉を意図したゲイン調節器の出力量と非干渉を意図した状態レギュレータの状態フィードバック量とを比較し、その偏差量を前記制御対象の操作量とすることを特徴とする非干渉式デッドビート制御装置。
【請求項2】 多入力多出力の制御対象の出力フィードバック量を目標値または設定値と比較し、その偏差量を内部モデルの状態量と加算して得られる出力量と、前記目標値または設定値が入力されるフィードフォワードゲイン要素の出力とを非干渉を意図したゲイン調節器に入力として与え、この非干渉を意図したゲイン調節器の出力量と非干渉を意図した状態レギュレータの状態フィードバック量とを比較し、その偏差量を前記制御対象の操作量とすることを特徴とする非干渉式デッドビート制御装置。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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