説明

非接触式温度センサ

【課題】 本発明は、簡単な構成により、直射日光が当たったとしても、正確に温度を検出することができるようにした非接触式温度センサを提供することを目的とする。
【解決手段】 透明板材の内側に配置され且つ上記透明板材から放射される遠赤外線を検出する遠赤外線受光部と、上記遠赤外線受光部からの検出信号に基づいて、検出温度を演算する演算回路と、から成る非接触式温度センサであって、上記透明板材から上記遠赤外線受光部への光路中に配置された光学フィルタを備えており、上記光学フィルタを透過し且つ上記遠赤外線受光部の受光感度内に収まる赤外線成分が大気を透過して入射する直射日光に含まれる赤外線成分と重複しないような光学特性を、上記光学フィルタが有するように、非接触式温度センサ10を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス等の透明板材の温度を検出する非接触式温度センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のフロントガラス等のガラスの温度を検出する方法としては、接触式温度センサや非接触式温度センサが知られている。
接触式温度センサは、例えば特許文献1による湿度検出装置及び車両用空調装置における温度センサのように、温度センサ自体が温度を検出すべきガラスに対して直接に取り付けられている。
このため、ガラスの外側から温度センサが見えてしまい、外観見栄えが悪くなる。また、ガラスに直接に温度センサが取り付けられていることから、温度センサに応力が作用することになる。
【0003】
これに対して、ガラスに影響を与えない温度センサとしての非接触式温度センサ1は、例えば図8に示すように構成されている。
図8において、非接触式温度センサ1は、温度を検出すべきガラス2の内側に配置された遠赤外線センサとして構成されている。
即ち、非接触式温度センサ1は、より詳細には、ガラス2の内側に配置された遠赤外線受光部3と、演算回路4と、から構成されている。
これらの遠赤外線受光部3及び演算回路4は、回路基板5上に実装されている。
【0004】
上記遠赤外線受光部3は、公知の構成であって、ガラス2から放射される遠赤外線を検出して、検出信号を出力する。
上記演算回路4は、同様に公知の構成であって、上記遠赤外線受光部3からの検出信号に基づいて演算を行なって、検出温度Tを算出して出力する。
【0005】
このような構成の非接触式温度センサ1は、以下のように動作する。
まず、ガラス2の温度に対応してガラス2から放射される遠赤外線L1が上記遠赤外線受光部3に入射する。
これにより、上記遠赤外線受光部3は、この遠赤外線の強度に対応した検出信号を上記演算回路4に出力する。
【0006】
これを受けて、上記演算回路4は、上記演算回路4からの検出信号に基づいて演算を行ない、温度、即ち上記遠赤外線受光部3の温度、そしてガラス2の測定温度を算出し、検出温度Tとして出力する。
これにより、ガラス2の温度Tを検出することができる。
【0007】
また、特許文献2においては、赤外線を透過するカバー,前記カバーを透過してくる赤外線を受光する赤外線受光部を有し、前記受光した赤外線の変化量に基づいて人体の有無を検知する人体検知器において、前記カバーの温度変化を検出する温度検出部を具備し、前記温度検出部が所定以上の温度変化を検出したときに異常と判定する判定手段を具備することを特徴とする人体検知器が開示されている。
このような人体検知器によれば、画策行為によってカバーが遮蔽された場合には、カバーの遮蔽された部分の温度が変化する。この温度変化が所定以上となったとき、判定手段が異常と判定することにより、画策行為等によるカバーの異常を検出することができる。
【特許文献1】特開2008−094380号公報
【特許文献2】特開2001−330683号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述した非接触式温度センサ1においては、自動車のフロントガラスや住宅の窓等の屋外に面したガラスの温度を検出する場合、遠赤外線センサの受光部に直接に太陽光が当たると、測定温度Tが高めに誤差を含むことになる。
即ち、太陽光Lに含まれる遠赤外線の多くはガラスを透過する際に反射または吸収されるが、一部の遠赤外線L2は透過して、遠赤外線センサに入射する。
【0009】
従って、遠赤外線センサには、温度測定すべきガラスから放射される遠赤外線L1に加えて、上述したガラスを透過する遠赤外線L2が入射する。これにより、遠赤外線センサへの遠赤外線の入射光量(L1+L2)が多くなる。
このため、演算回路4により算出される検出温度Tが高めとなり、ガラスを透過する遠赤外線L2の入射光量分だけ、高めの誤差が発生する。
【0010】
これに対して、特許文献2による人体検知器においては、温度検出器は、カバーの温度を検出して、カバー遮蔽による温度変化が所定以上になったとき、異常と判定するようになっている。
この場合、温度変化による異常の検出は、遮蔽によるカバーの温度変化を想定しており、直射日光が当たるような場合は想定していない。このため、カバーに直射日光が当たったとしても、その旨を検出することは不可能であると共に、直射日光による温度変化を補正することも不可能である。
【0011】
本発明は、以上の点から、簡単な構成により、直射日光が当たったとしても、正確に温度を検出することができるようにした非接触式温度センサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的は、本発明の第一の態様によれば、透明板材の内側に配置され且つ上記透明板材から放射される遠赤外線を検出する遠赤外線受光部と、上記遠赤外線受光部からの検出信号に基づいて、検出温度を演算する演算回路と、から成る非接触式温度センサであって、上記透明板材から上記遠赤外線受光部への光路中に配置された光学フィルタを備えており、上記光学フィルタを透過し且つ上記遠赤外線受光部の受光感度内に収まる赤外線成分が大気を透過して入射する直射日光に含まれる赤外線成分と重複しないような光学特性を、上記光学フィルタが有していることを特徴とする、非接触式温度センサにより、達成される。
【0013】
この第一の態様では、ガラス等の透明板材の内側に配置された遠赤外線受光部が、この透明板材から放射される遠赤外線を光学フィルタを介して検出する。そして、この遠赤外線受光部からの検出信号に基づいて、上記演算回路が検出温度を演算する。
ここで、上記透明板材を介して遠赤外線受光部に向かって直射日光が進むと、この直射日光は、上記光学部材の作用により、上記透明部材から放射される遠赤外線のうち、上記遠赤外線受光部の受光感度外の赤外線成分が遮断される。
これにより、遠赤外線受光部には、その受光感度内における直射日光の赤外線成分が入射しない。
【0014】
従って、上記透明板材を介して本非接触式温度センサに直射日光が当たったとしても、上記遠赤外線受光部は、その直射日光による赤外線成分を検出しない。
これにより、上記透明板材を介して直射日光が当たったとしても、上記遠赤外線受光部は、直射日光の影響を受けない真の検出温度を演算して、出力する。
このようにして、本発明による非接触式温度センサによれば、直射日光が当たったとしても、直射日光の影響を受けることなく、透明板材から放射される遠赤外線によって、上記透明板材の温度を正確に測定することができる。
【0015】
本発明の第二の態様による非接触式温度センサは、前記第一の態様による非接触式温度センサにおいて、上記遠赤外線受光部が、上記光学フィルタの作用により、太陽光の大気により吸収される赤外線波長成分領域に受光感度を有することを特徴とする。
この第二の態様では、上記遠赤外線受光部には、太陽光が上記光学フィルタを介して上記遠赤外線受光部に入射したとしても、上記遠赤外線受光部は、入射する太陽光の赤外線波長成分には受光感度を有しないので、直射日光の影響を受けることなく、透明板材から放射される遠赤外線に基づいて、正確な検出温度が得られる。
【0016】
本発明の第三の態様による非接触式温度センサは、前記第一または第二の態様による非接触式温度センサにおいて、上記遠赤外線受光部が、約5μm以上の赤外線に受光感度を有しており、上記光学フィルタが約8μm以上の赤外線を遮断することを特徴とする。
この第三の態様では、上記透明板材から放射される遠赤外線成分のうち、大気により吸収される赤外線波長成分領域である例えば約5μmから約8μmの間の赤外線波長成分が、上記光学フィルタを透過して上記遠赤外線受光部により検出される。これにより、直射日光の影響を受けることなく、上記透明板材の温度測定が正確に行なわれる。
【0017】
このようにして、本発明による非接触式温度センサによれば、直射日光が当たったとしても、この直射日光による赤外線成分が光学フィルタによって遮断される。 これにより、上記遠赤外線受光部は、その受光感度を有する波長帯域において、直射日光による赤外線が入射しない。
従って、直射日光の影響を排除して、正確な検出温度を算出することができるので、直射日光が当たっても、上記透明板材の正確な温度を測定することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、簡単な構成により、直射日光が当たったとしても、正確に温度を検出することができるようにした非接触式温度センサが提供され得ることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明の好適な実施形態を図1乃至図7を参照しながら、詳細に説明する。
尚、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。
【0020】
図1は、本発明による非接触式温度センサの一実施形態の構成を示している。
図1において、非接触式温度センサ10は、遠赤外線受光部11と、光学フィルタ12と、演算回路13と、から構成されている。
【0021】
遠赤外線受光部11は、図8に示した従来の非接触式温度センサ1における遠赤外線受光部3と同様に、例えば公知の構成の遠赤外線センサから構成されており、温度を検出すべき自動車のフロントガラス(後述)の内側に配置される。
これにより、遠赤外線受光部11は、フロントガラスから放射される遠赤外線L1を受光し、その光量に応じた検出信号を出力する。
【0022】
上記光学フィルタ12は、上記遠赤外線受光部11への光路中に配置されており、図1及び図2に示すように、上記遠赤外線受光部11と共に受光ユニット14として一体に構成されている。
そして、この受光ユニット14即ち上記遠赤外線受光部11及び光学フィルタ12は、例えば図3に示すように、自動車20のフロントガラス21の内側に、図示の場合には上記フロントガラス21の近傍でインストルメントパネル22上に配置されている。
【0023】
ここで、遠赤外線受光部11の受光感度特性は、図4のグラフに示すようになっている。
即ち、遠赤外線受光部11は、図4において、例えば約5μm以上の波長帯域の遠赤外線に対して受光感度を有していると共に、約8μm以上の波長帯域では波長が長くなるにつれてなだらかに受光感度が低減するようになっている。
また、光学フィルタ12の遠赤外線透過特性は、図5において、約8μm以上の波長帯域の遠赤外線を遮断するようになっている。
【0024】
従って、非接触式温度センサ10としては、上記遠赤外線受光部11の受光感度と上記光学フィルタ12の透過特性とを重ね合わせたものとなり、図6にて符号Aで示すように、約5μmから約8μmの間の波長帯域の遠赤外線のみについて受光感度を有することになる。
これに対して、太陽から大気を透過して地上に達する赤外線については、大気中の各種成分により吸収が行なわれるので、図6にて符号Bで示すような透過特性によって、特に約5μmから約8μmの間の波長成分はほぼ完全に欠落している。
【0025】
このため、本非接触式温度センサ10は、上記光学フィルタ12を介して上記遠赤外線受光部11が、フロントガラス21に入射する直射日光の影響を受けることなく、フロントガラス21から放射される遠赤外線のみを検出することができる。
本実施例に使用した光学フィルターは約8μmの波長帯域の遠赤外線を遮断するようになっているが、これに限らず、約5.5μmから約8μmの波長帯域まで透過する光学フィルターであれば、直射日光による影響を受けることがないので、本実施例と同等の効果を得ることができる。
【0026】
上記演算回路13は、図8に示した従来の非接触式温度センサ1における演算回路4と同様に、上記遠赤外線受光部11からの検出信号に基づいて演算を行なって、検出温度Tを算出する。
【0027】
本発明による非接触式温度センサ10は、以上のように構成されており、以下のように動作する。
即ち、自動車20のフロントガラス21の内側に配置された遠赤外線受光部11が、フロントガラス21から放射される遠赤外線を受光して、検出信号を演算回路13に出力する。
これにより、演算回路13は、遠赤外線受光部11からの検出信号に基づいて検出温度Tを算出して、この検出温度Tを出力する。
【0028】
この場合、フロントガラス21を介して本非接触式温度センサ10の受光ユニット14に直射日光が当たったとしても、この直射日光は、光学フィルタ12を介して遠赤外線受光部11に入射する。
これにより、遠赤外線受光部11には、前述したように直射日光による赤外線波長成分が殆ど入射しない。従って、遠赤外線受光部11は、フロントガラス21から放射される遠赤外線波長成分のみを検出し、演算回路13は、この検出信号に基づいて検出温度Tを算出する。
【0029】
その際、フロントガラス21から放射される遠赤外線波長成分の放射エネルギー特性は、図7のグラフに示すように、各温度毎、即ち、符号C1(ガラス温度−20℃),符号C2(ガラス温度0℃),符号C3(ガラス温度20℃),符号C4(ガラス温度40℃),符号C5(ガラス温度60℃),符号C6(ガラス温度80℃),符号C7(ガラス温度100℃),符号C8(ガラス温度120℃)で示すように、遠赤外線領域で高いエネルギー値を有しており、特に図6にて符号Aで示す光学フィルタ12による遠赤外線受光部11の受光感度特性による約5μmから約8μmの間の波長帯域において、高いエネルギー値を有していると共に、ガラス温度に対応したエネルギー値を有していることが分かる。
【0030】
このため、遠赤外線受光部11は、これらの放射エネルギーを確実に且つ正確に受光し検出することができる。
従って、本発明による非接触式温度センサ10によれば、遠赤外線受光部11に対して自動車20のフロントガラス21を介して直射日光が当たっていたとしても、直射日光の影響を受けることなく、遠赤外線受光部11の検出信号を演算回路13によって演算するだけの簡単な構成により、真のガラス温度Tを測定することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
上述した実施形態においては、温度を検出すべき透明板材として、自動車20のフロントガラス21の場合について説明したが、これに限らず、屋外で使用するガラス等の透明板材であれば、建物の窓ガラス等の温度を測定するための非接触式温度センサであってもよい。
【0032】
さらに、上述した実施形態においては、温度を検出すべき透明板材として、ガラスの場合について説明したが、これに限らず、ガラス以外の例えばプラスチック等の透明板材の温度を測定するための非接触式温度センサであってもよい。
【0033】
このようにして、本発明によれば、簡単な構成により、直射日光が当たったとしても、正確に温度を検出することができるようにした、極めて優れた非接触式温度センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明による非接触式温度センサの一実施形態の構成を示すブロック図である。
【図2】図1の非接触式温度センサにおける光学フィルタを示す概略斜視図である。
【図3】図2の受光ユニットの自動車のフロントガラス内側への設置例を示す概略図である。
【図4】図1の遠赤外線受光部の受光感度特性を示すグラフである。
【図5】図1の光学フィルタの透過特性を示すグラフである。
【図6】図1の遠赤外線受光部及び光学フィルタにより合成される受光感度特性及び大気による太陽光の透過特性を示すグラフである。
【図7】図1の非接触式温度センサにおける受光感度特性と各温度毎の透明板材からの放射エネルギーとの関係を示すグラフである。
【図8】従来の非接触式温度センサの一例の構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0035】
10 非接触式温度センサ
11 遠赤外線受光部
12 光学フィルタ
13 演算回路
14 受光ユニット
20 自動車
21 フロントガラス
22 インストルメントパネル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明板材の内側に配置され且つ上記透明板材から放射される遠赤外線を検出する遠赤外線受光部と、上記遠赤外線受光部からの検出信号に基づいて、検出温度を演算する演算回路と、から成る非接触式温度センサであって、
上記透明板材から上記遠赤外線受光部への光路中に配置された光学フィルタを備えており、
上記光学フィルタを透過し且つ上記遠赤外線受光部の受光感度内に収まる赤外線成分が大気を透過して入射する直射日光に含まれる赤外線成分と重複しないような光学特性を、上記光学フィルタが有している
ことを特徴とする、非接触式温度センサ。
【請求項2】
上記遠赤外線受光部が、上記光学フィルタの作用により、太陽光の大気により吸収される赤外線波長成分領域に受光感度を有することを特徴とする、請求項1に記載の非接触式温度センサ。
【請求項3】
上記遠赤外線受光部が、約5μm以上の赤外線に受光感度を有しており、
上記光学フィルタが約8μm以上の赤外線を遮断する
ことを特徴とする、請求項1または2に記載の非接触式温度センサ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−223683(P2010−223683A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−69761(P2009−69761)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】