説明

非晶質シリカの水中への溶出方法および非晶質シリカの溶出装置

【課題】珪藻の繁殖により、生態的に競合する藍藻類や渦鞭毛藻類等の繁殖を押さえ、富栄養化や赤潮対策に資する非結質シリカの溶出方法を提供する。
【解決手段】シリカを供給するための溶出材料として、酸性から一部中性にかかる火成岩成分を持ち、火山ガラスつまり非晶質シリカを多量に含有し、かつ多孔質であるシラスやシラスと類似する第4紀火砕流堆積物、あるいは降下軽石堆積物を使用する非晶質シリカの溶出する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川、湖沼、内湾海域等の水域のうちで、富栄養化赤潮等が原因で水質にシリカが不足する水域において、珪藻類の増殖促進を行うための、シリカ(珪酸)の補給方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2001−258420号報には珪藻類増殖用の珪素溶出材料に関し、海水中で鉄分を溶出せずに珪素分を効率よく溶出する材料を開発したものがある。
特開平10−94341号報には有害赤潮の予防法に関し、海中にガラス質材 料を配置したものがある。また珪素分を溶出するガラス質材料を開発したものがある。
【0003】
特開2003−82261号報には護岸、河床、堰堤、波消ブロック、漁礁等の構造体上に水生植物増殖塗膜を施しているものがある。また水生植物増殖塗料および塗膜の形成方法を開発したものがある。
【0004】
特開平8−215691号報には廃棄物埋め立て地盤内の地下水を浄化するシステムに関し、揚水井戸、シートパイル、噴水装置浸透池を配置している。
【0005】
特開平10−151447号報については湖沼等の深層水の浄化装置に関するもので、装置の電源として水面上に太陽電池を配置している。
【0006】
「ゆたかな海の生態系を支える河川システムの研究」にはII.3〜4pかけて近海域のシリカは主に河川から供給されることまた河川水中のシリカの供給源は地下水である事が記述される。また III.2〜7pかけては河川より供給される栄養塩と沿岸でのプランクトン発生との関係、河川水量と栄養塩を直接摂取するのり、ワカメの収穫量と高い相関性、また牡蠣、帆立貝についても相関性が認められること、珪藻は植物プランクトン食性の魚介類にとって好ましい事、珪藻類の繁殖には栄養塩として珪素が必要な事、沿岸域での珪素の供給の多くは河川由来の事の記述がある。
【0007】
「ダム湖のプランクトン種コントロールに関する研究」 水資源開発公団試験研究所年報(平成14年)には31〜39pにかけて従来の培地(CT改変培地)での珪藻増殖効果(競合特性)の不安定性について記載がある。
【0008】
「貯水池機能の保全施設 水質保全(富栄養化対策等)」ダム技術 No.212 2004.5には12〜20pにかけて曝気による貯水池水質改善技術についての紹介がある。
【0009】
河川整備基金事業「栄養塩濃度が河川水質環境に及ぼす影響に関する研究」には33〜34pにかけてシリカに関する半飽和定数Ksについて記載がある。また河川水質中のシリカ燐比について記載がある。(浅枝隆、藤本尚志 3.2.2付着藻類)
同報告書68〜70pにかけてはシリカ濃度が海域や湖沼の表層で低いことについて記載がある。(佐藤和明、事務局4.1.1全国河川の栄養塩類濃度の現況と推移)
同報告書113〜117pにかけては珪藻のAGP試験結果のついての紹介がある。(藤本尚志4.3河川水中の栄養塩濃度と付着藻類の増殖)
「ダム貯水池の水環境 Q&A」(財)ダム水源地環境整備センターには40〜41pにかけて貯水池内の水の流動について記載がある。また42〜43pにかけては貯水池の水温鉛直分布について記載がある。73pにかけては夏期のプランクトン活動の激しい時期に貯水池表層部においてpHが増大することについて記載がある。
【0010】
「コンクリート構造物のアルカリ骨材反応骨材反応」には17〜19pにかけて非晶質シリカのアルカリ反応モデルについての記載がある。
【0011】
「シリカの溶解に及ぼす亜硫酸ナトリウムの促進効果」日本地熱学会平成16年度学術講演会 講演要旨集B−14には亜硫酸ナトリウムがシリカと錯体を形成しこれによってシリカの溶解度がかなり高まる事、また電解質はシリカの溶解を妨げる事について記載がある。
【0012】
「九州地方土木地質図解説書」には104〜111pにかけて姶良カルデラを噴出源とするシラスなど第4紀大規模火砕流に関する記述が、また358〜359pにかけては温泉成分に関する記述がある。
【0013】
「水質調査法」には54〜55pにかけて全国一級河川等の河川水質についての一覧表があり、この中で珪酸の含有量に関する記載がある。
【0014】
Dorothy Carroll 著(松尾新一郎監・訳)「岩石の風化」には7〜8pにかけて風化作用により造岩鉱物よりシリカが溶脱することについて、また122pには図−23として非晶質シリカと石英のpHが変化した場合の溶解度の変化についての記載がある。
【0015】
「火砕流堆積層における複合的な止水処理−川辺ダム−」ダム技術 No.217 2004年10月号には24〜37pにかけてシラス台地にしばしば発達する溶蝕空洞についての記載がある。
【0016】
山内豊聡 監修「九州・沖縄の特殊土」には153〜163pにかけてシラスに多量の火山ガラスが含まれることの記載がある。またシラスの物理的性質、透水係数、締め固め特性パイピング特性についての記載がある。
【0017】
「ADCP観測結果を用いた流量補正」ダム技術 No.197 2003年2月号39〜46pにはADCPは複雑な流況の把握が行える事、従来の浮子による観測より洪水時流量観測精度が向上できる事の記述がある。
【0018】
「H−ADCPを用いた河川流量観測システムの開発と現地試験観測結果について(3) 」土木学会第56回年次学術講演会論文集には水平方向に流速測定を行うことにより、河床変動にも対応可能なH−ADCPによる断面流量観測システムと同装置による断面流量観測結果ついて記述がある。
【0019】
新版地学辞典の383pに珪藻土に関する記述、また616pに真珠岩に関する記述、1084pにはピッチストーンに関する記述がある。
【0020】
東北地方土木地質図解説書には46〜47pにかけて石英安山岩質〜流紋岩質の火砕流について記載がある。
【0021】
日本の地質1北海道地方 日本の地質北海道地方編集委員会編には166〜167pにかけて石英安山岩〜流紋岩質の支笏軽石流堆積物に関する記述がある。
【0022】
「多目的ダムの建設第4巻」第31章 洪水吐の機能設計の104pには越流の場合の流入量についての記載がある。
【0023】
山本荘毅・榧根 勇 監修、建設省水文研究グループ編訳「最新地下水学」調査と実務のガイドラインの156pには帯水層中を揚水井戸に向かい、流れる浸透流量ついて記載がある。
【0024】
千輝 淳二著 伝熱計算法 第7章定常熱伝導 7.3合成球殻の熱伝導の120pには球殻の間を流れる定常熱量を求める数式について記載がある。
【0025】
(株)電業社機械製作所 ポンプ設備計画資料2000年 1−1p、2−2〜3pにはポンプの形式能力について記載がある。
【0026】
太陽光発電モジュールに関する三洋電機HP、
太陽熱温水器に関するコロナ社HP、
「有害アオコ」あれ・これ 学士会報 2004 VINo.849の129〜135pには藍藻類のうちアオコの毒性についての紹介とヨーロッパ等における水道専用水源地での対策の紹介がある。
【0027】
「水循環に伴うシリカの収支と珪質堆積物」ダム技術No.164 2000年5月には3〜8pにかけて全国の河川から供給されるシリカの総量を求めた記載がある。
【特許文献1】特開2001−258420号報
【特許文献2】特開平10−94341号報
【特許文献3】特開2003−82261号報
【特許文献4】特開平8−215691号報
【特許文献5】特開平10−151447号報
【非特許文献1】海の生態系を支える河川システムの研究会 ゆたかな海の生態系を支える河川システムの研究 2004年(非売品 東北地方整備局河川環境課 発行)
【非特許文献2】工藤勝弘、今本博臣、原田加奈 ダム湖のプランクトン種コントロールに関する研究 水資源開発公団試験研究所年報(平成14年)
【非特許文献3】天野邦彦 目で見るダム技術 貯水池機能の保全施設 水質保全(富栄養化対策等)ダム技術 No.212 2004.5 ダム技術センター
【非特許文献4】河川整備基金事業「栄養塩濃度が河川水質環境に及ぼす影響に関する研究」(財)河川環境管理財団 平成15年11月
【非特許文献5】「ダム貯水池の水環境 Q&A」(財)ダム水源地環境整備センター(監修 森下勇) 山海堂 2002年
【非特許文献6】中部セメントコンクリート研究会編 コンクリート構造物のアルカリ骨材反応骨材反応<基礎知識・診断方法・防止対策>理工学社1990年
【非特許文献7】白 淑琴、占部真示、岡上吉広、横山拓史 シリカの溶解に及ぼす亜硫酸ナトリウムの促進効果 日本地熱学会平成16年度学術講演会 講演要旨集B−14
【非特許文献8】九州地方土木地質図編纂委員会 九州地方土木地質図解説書(財)国土開発技術センター発行、昭和61年3月
【非特許文献9】半谷高久 水質調査法 丸善 1990年
【非特許文献10】Dorothy Carroll 著(松尾新一郎監・訳)「岩石の風化」 ラテイス 昭和49年
【非特許文献11】福永和久「火砕流堆積層における複合的な止水処理−川辺ダム−」ダム技術 No.217 2004年10月 ダム技術センター
【非特許文献12】九州・沖縄の特殊土」山内豊聡 監修 土質工学会九州支部編 九州大学出版会 1983年
【非特許文献13】盛岡正男、柴田治信、松阪善仁 ADCP観測結果を用いた流量補正 ダム技術 No.197 2003年2月号
【非特許文献14】大東・上坂・南・劉・橘田 H−ADCPを用いた河川流量観測システムの開発と現地試験観測結果について(3) 、土木学会第56回年次学術講演会論文集 2001.10
【非特許文献15】新版地学辞典 地学団体研究会 平凡社 1996年
【非特許文献16】東北地方土木地質図編纂委員会編集 東北地方土木地質図解説書(財)国土開発技術センター発行、昭和63年3月
【非特許文献17】日本の地質1北海道地方 日本の地質北海道地方編集委員会編 代表編集委員 加藤誠 勝井義雄 北川芳夫 松井愈 共立出版株式会社1990年
【非特許文献18】多目的ダムの建設 第4巻第31章 洪水吐の機能設計5.形式規模の選定 建設省河川局 監修 昭和52年
【非特許文献19】山本荘毅・榧根 勇 監修、建設省水文研究グループ編訳「最新地下水学」調査と実務のガイドラインUNESXO 1972
【非特許文献20】千輝 淳二著 伝熱計算法 第7章定常熱伝導 7.3合成球殻の熱伝導 工学図書株式会社 昭和56年
【非特許文献21】(株)電業社機械製作所 ポンプ設備計画資料2000年
【非特許文献22】太陽光発電モジュールに関する三洋電機HP
【非特許文献23】太陽熱温水器に関するコロナ社HP
【非特許文献24】彼谷 邦光 「有害アオコ」あれ・これ 学士会報 2004VINo.849
【非特許文献25】神尾重雄 水循環に伴うシリカの収支と珪質堆積物 ダム技術 No.164 2000年5月 ダム技術センター
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
珪藻の繁殖により、生態的に競合する藍藻類や渦鞭毛藻類等の増殖を押え、富栄養化や赤潮の防止対策に資することが目指す課題である。また同時に珪藻繁殖技術の確立は非特許文献1にあるように沿岸域を含めた水域での生態系について豊かなものへの改善につながる。
【0029】
特許文献1,2にあるような従来の、海中で珪藻類等の繁殖を目指す技術では、電解質が多くシリカが溶出しにくい海水に対し、溶け易い非晶質シリカ材料の開発に力点が置かれ、海水中にシリカを拡散させる方法としては上記の開発材料を海水中に直接曝露し溶解させる方式を採用している。従って本発明とは溶出材料、溶出方法、補給拡散方法が異なっている。溶出しても補給が必要な水域にシリカが全体的に拡散し行き渡らないと珪藻はうまくこれを利用する事が出来ない。全体的に効率的な補給や適切な補給量あるいはコストに関する検討が十分ではない。
【0030】
特許文献3の述べられる水生生物増殖塗膜はその組成の一部に特開平4−18338号公報記載の方法により製造される活性化されたシラス等を使用した活性化シリカを含む。
【0031】
しかしながらその目的は設置後短時間で、固着性の海草の繁殖やそれに伴う水生生物の増殖を目指すもので、本発明のようにプランクトンである珪藻類対するシリカ補給を目的としていない。
【0032】
特許文献4にあるシートパイルによる地盤の締め切りは水質浄化を行った水を締め切った地盤内において浸透させるためのもので、本発明のように原水へのシリカの補給を行う目的で大量の水処理が必要な場合、地盤をシートパイルで円筒状に締め切り、その内部を掘削して得られる空間を溶出材料で充填した浸透室として利用する目的、用途とは異なっている。また締め切りの形状も異なっている。
【0033】
特許文献5にある太陽電池は深層水の水質浄化のため、光源の電源を得る目的で設置されている。従って本発明の設置目的とは異なっている。本発明では装置内の水の循環を行うためのポンプを駆動するモーターの電源として太陽光発電装置を利用している。
【0034】
非特許文献2に述べられるように、珪藻の培養試験を行う従来のAGP(Algal Growth Potential)試験の改変培地についてもpH調整は行われているものの、元来はアルカリ性の強い珪酸ナトリウムを用いている。培地中でのシリカの状態が珪藻にとって利用し易い状態なのか、などの吟味が必ずしも十分ではない。
【0035】
非特許文献3に述べられるように、温度成層状態を緩和し、表層水中での流れを回復する浅層での曝気循環については、シリカを含む栄養塩の循環を復活し、特定の藻類のみが繁殖する環境条件を解消し、珪藻類の増殖も促す対策として富栄養化の顕著な一部のダム貯水池等では既に実施されている。しかしながら問題の藻類発生を抑制する対策として有効性は認められているが、すべてのケースで決定的な対策とはいえない。
【課題を解決するための手段】
【0036】
溶出材料としては非特許文献8に示すような、酸性から一部中性にかかる火成岩成分を持ち、火山ガラスつまり非晶質シリカを多量に含有し、かつ多孔質であるシラスやシラスと類似する第4紀火砕流堆積物あるいは降下軽石堆積物を選定している。
【0037】
非特許文献9に示されるように全国の河川の中ではシラス等分布域が流域に多く含まれる河川でのシリカ(珪酸)の含有量が高いこと、また以下のようにシラス等には水に対する溶解性があると考えられることがその選定理由である。
【0038】
非特許文献7および10に示されるように非晶質シリカではpH8以下の領域でも100g/m3 近い溶解度があるといわれる。しかしながら平衡状態に達するまでには長時間を要する。非特許文献12によればシラスには多孔質の軽石などとして火山ガラスつまり非晶質シリカが重量比で70〜90%程度含まれる。
【0039】
非特許文献11によればシラスあるいはその前期の火砕流堆積物から構成される台地はしばしばドリーネ状の穴や横穴がその内部に発達する。これらは水みちとなってシラスの斜面崩壊に関係する事もある。これらの空洞の形態は石灰岩中に見られる溶蝕空洞に酷似しており、その表面も滑らかなことから、その成因としてパイピングと水の溶解作用に関係すると推察される。
【0040】
一般にシラスは未固結で、新鮮な地山状態のものでは一定の粒度分布範囲を示す。非特許文献12によれば間隙比を指定すれば透水性について推定することが出来る。これにより間隙比を求め、これから透水係数を算出すると1×10-5m/s程度と推定される。もし採取の過程で細粒分をカットすれば間隙比が上昇するので、透水係数について増加させる事も可能である。しかしながら透水係数を増大させると同時に溶出濃度が減少する可能性がある。
【0041】
シラスとこれに類似する第4紀火山噴出物あるいは火砕流堆積物以外の代替材料には非特許文献15によれば、少量の水と多量のシリカを含む珪藻土、真珠岩、ピッチストーンあるいは松脂岩がある。しかしながら破砕等のプロセスが必要になる等コスト的に高い可能性もある。ただし地域によってはこれらを低コストで購入できる可能性がある。代替材料としてはガラス廃棄物系の材料もまた検討対象になりうる。
【0042】
高水頭と低水頭を溶出材料の外側を取り囲むように配置した加圧槽と中心部に配置した揚水装置の組み合わせで作り出し、その間に溶出材料で充填した部屋を配置し、そこで生ずる浸透過程の中で、溶出材料からの浸透水中へのシリカの溶出を効率的に行う事ができる。
【0043】
また効率的な浸透と溶出材料の溶解を行うため、1次元浸透流の場合は円筒座標系z軸方向に平行な流れ、2次元浸透流は円筒座標系r方向で、かつ中心に向かう流れ、3次元の場合は球座標系r方向で、かつ中心に向かう流れを利用している。このような浸透流を生じさせるため溶出材料を包み込む部屋の形状は円筒形または球形となる。
【0044】
シリカ濃度を高めるには、シリカの溶出処理の終わった水を溶出装置内に再送し、浸透を繰り返す事が有効である。
【0045】
対象とする水域にどれくらいの速度で、どれくらいの量、どれくらいの濃度のシリカを含む水を供給すべきなのか検討し、その必要量に基づきシリカを補給する装置の規模を決定するのが合理的である。
【0046】
AGP試験の培地に用いるシリカ溶液の供給など培養試験には小規模な装置が適している。
【0047】
本装置を大規模化する場合には底面として地盤中の粘土層を利用し、容器外壁として円筒形を形成するように打ち込んだシートパイルを利用するなどすれば規模の変化にも柔軟な対応が可能である。
【0048】
加圧槽への送水、揚水のためのポンプアップが必要となるがその揚程や流量は小さく、ポンプ能力として大きなものを必要としない。
【0049】
このためその電源としては太陽光発電装置を使用する事が十分可能である。
【0050】
シリカを溶出させる原水は表面付近の水が適している。
【0051】
非特許文献4では湖沼や貯水池等ではシリカが失われ易い傾向が指摘されている。また非特許文献5にあるように温度成層期には、循環期とは異なり水の動きが少なくなることも指摘される。この現象は水の動きが少ない温度成層期に表面付近から沈殿等によりシリカが失われ易い事を意味している。また非特許文献7によれば表面付近では水温が上昇し易く、さらに日照が連続すると活発に光合成が行われ、藍藻類等が繁殖し易く、水中からCO2 が消費されるため、pHが上昇し易い。このような状況から見て、温度成層の形成される時期には表面付近の水は高水温、高pH、低シリカ濃度になりやすい。
【0052】
本装置においては温度成層期において水温が高く、pHの高くなった表面付近の水を選択的に取水が可能な手段として表面取水設備を配置している。
【0053】
非特許文献6あるいは7のように水酸化ナトリウムあるいは亜硫酸ナトリウム等の薬品に依存せず、水中へのシリカの溶出効率を高めるには、非特許文献8に示すように温泉には多量のシリカが含まれるのを見てもわかる通り、水温を高める事が有効である。シリカ溶出プロセスの前処理方法として、取水後の水を一定時間太陽熱温水器の集熱部中に通して、さらに水温を高める工夫をしている。小型装置の場合はヒーターによる加温を行うことが適切な方法である。また熱が周囲に奪われ水温低下が生じないように装置の周辺を断熱効果のある材料で覆うことも必要である。
【0054】
海水に含まれる電解質はシリカの溶解を妨害する可能性が指摘されているので、このような材料では海水に対する溶解度は通常の水温では淡水より落ちる可能性がある。
【0055】
海域へシリカ補給する場合、対策としては「0045」〜「0047」で述べたように浸透を繰り返すか、特許文献1にあるような材料の採用あるいはシリカ溶出プロセスの前段階で浸透膜等を利用して電解質を除去する方法あるいは水温の高い海水を利用する方法も考えられる。
【0056】
シリカの溶出処理の終わった水の放流先としても表面が適している。
その理由としては、非特許文献5にあるように温度成層形成期には表層においても水の動きが少なくなるが、表面付近では風の影響等により内部とは別の流れが生じ易く、水に溶けたシリカの拡散には有利になる。
【0057】
また非特許文献4からも推定されるように湖沼や貯水池等では温度成層期におけるシリカ挙動として沈殿傾向が強いと考えられ、水塊全体への供給を考えても表面付近での放流が可能な設備を設置することが適している。
【0058】
湖沼や貯水池等の表面において取水と放流が同時に行う場合、取水口、放流口の配置についてもシリカが不足し、珪藻類の生育しにくい条件の水域をその間に挟み込む配置が効率的なシリカの拡散をおこなうため最も有効な配置となる。この際あらかじめ非特許文献13にあるようにADCP(AcousticDoppler Current Profiler),あるいは非特許文献14にあるH−ADCP(水平方向に超音波を発射する方式のADCP)を用いて、流れの潜り込み位置などあらかじめ表層の3次元流速分布を計測し、表面付近の流れの状況を把握あるいは認識しておくと、効果的な配置を決めるのに役立つ。
【0059】
特に風によって引き起こされる吹送流に対しては風上側での設置は不利で、シリカが不足し、珪藻類の生育しにくい条件の水域が移動してくるのを風下側で取り逃がさない位置で待ちうける方が有利になる。また風下側であっても流れの潜り込み位置に近ければそこでの設置は効果的でない。
【0060】
シリカが不足し、珪藻類の生育しにくい条件の水域であるかどうかの具体的判定については別途に水質分析やプランクトン調査などを行って判定を行う必要がある。また対象水域において温度成層期などに卓越する風の方向や流速をあらかじめ調査しておく必要がある。
【発明の効果】
【0061】
本発明による方法では、対象とする水域は従来の方法で対象とした海域に限られない。河川、湖沼、ダム貯水池また海域において適用が出来る。
【0062】
非特許文献6に述べられるような化学的には効率のよい溶出手段であるアルカリを添加してない。非特許文献10で述べられるように風化作用より地下水にミネラルが溶出してくる自然の地下水浸透プロセスに共通した、大小の粒径の粒子として浸透室中に充填されているシラス等多孔質の非晶質シリカ中を水が浸透する方法により、シリカの溶出を行っている。
【0063】
従来の方法より珪藻の増殖に適したシリカの水中への溶出を行う事が出来る。
【0064】
本装置はシリカが不足する水域からの取水を行い、溶出処理によりシリカが添加された水シリカ濃度として数g/m3 から数十g/m3 オーダーを同水域に還元することにより、シリカを供給し、珪藻類の増殖促進を行う。
【0065】
非特許文献4によれば珪藻類の繁殖に最低限必要なシリカ濃度あるいはシリカに関する半飽和定数Ksは淡水産珪藻に対し0.04〜0.08g/m3 オーダーであり、本装置により繁殖に必要な濃度のシリカを水溶液として供給可能である。
【0066】
海水については電解質が多く含まれるため、シリカの溶解度は下がると予想され、「0058」〜「0060」で述べたような対策が必要になる事も考えられる。しかしながら海産珪藻類の繁殖に必要な最低限のシリカ濃度あるいはシリカに関する半飽和定数Ksも淡水産珪藻類に比べて下がる可能性が高い。海産珪藻には中心目に属するものが多く羽状目に属するものの多い淡水産に比べると単位体積当たりのシリカ殻の重量は小さいと推定される。
【0067】
したがって従来の方法では問題視してきた低濃度であっても海域に対するシリカ補給は有効であると考えられる。
【0068】
「0036」〜「0037」で述べるように温度成層期において高い水温のもとで藍藻類等が繁殖すると表層水のpHが10程度までに上昇する。このような原水の水質の場合、表面取水設備を用いてこれを取水し、浸透室に導入すると水温やpHの影響でシリカの溶出は増大する。pHの影響をより有利に使え、シリカの溶出がより容易になる。
【0069】
「0068」に述べる原水を取水後加熱して浸透室に供給しており、これによりシリカの溶出を更に促進している。
【0070】
シリカの溶出材料としてシラスやシラスと同質の第4紀火山噴出物あるいは火砕流堆積物を選定し、球形あるいは円筒形の浸透室を持つ本装置内で温度を高めた原水を浸透させる事により、自然に近い状態でのシリカを溶出させている。
【0071】
このような材料を使う方法は、製造に手間やコストのかかる特殊な材料を使用するより材料に関してはコスト的な優位性がある。シラス等の国内における分布は広い面積を占め、非特許文献8,非特許文献16,非特許文献17から見ると、その賦存量は非常に大きく、コストも輸送コストが大部分を占めると考えられる。
【0072】
必要補給量を考慮し、これに基づいて装置の規模を決定しているなど従来よりも対象とする水域に合理的にシリカを補給する事が出来る。
【0073】
本装置を大規模化する場合には底面として地盤中の粘土層を利用し、容器外壁として円筒形を形成するように打ち込んだシートパイルを利用するなどすれば規模の変化にも柔軟な対応が可能である。これは保温や壁の自立性の点からも有利である。これらにより従来の方法よりも対象とする水域に効率的に大量のシリカを供給するのに適している。
【0074】
植物プランクトンの増殖上、表面付近は光合成を行うのに最も有利な場所なので、表面付近にシリカを含む水を放水口より供給し、そこで珪藻類の増殖に有利な条件を作ってやる事は珪藻を水域全体で繁殖させ、反対に藍藻類等の繁殖を押え込む上でも有利になる。
【0075】
温度を高め溶出させたシリカを水溶液として含む水を、液体の状態として供給するのでシリカが不足する水域において広く拡散させ、効率的な補給を行う上で水中に溶出材料を直接曝露する従来の方法より有利になる。
【0076】
一定の距離を置いて配置する取水口と放水口については、表面付近の流れの状況を考慮ながら、シリカの補給をおこなうべき水域を挟み込んだ位置が有利となる。特に吹送流に対し、風上側への配置は有効である。この水域の形状は吹送流等に長時間乗っていると帯状になる。この帯の幅が広い場合取水口放流口の配置としては両者を結ぶ線を風の方向に対し直角方向に配置するか、また狭い場合は両者を結ぶ線を風の方向に対し平行方向に配置して、風の方向に対し取水口を先に、放水口を後に持ってくるのがよい。取水口と放水口の配置によって拡散の効率をより高める事が出来る。
【0077】
従来の方法では溶出材料の補給にコストがかかる。しかしながら本発明による方法では溶出材料の補給頻度は材料の溶解度は「0064」〜「0065」に述べるようにそれほど高くないので補給の回数は少ない。
【0078】
「0070」〜「0071」で述べるように材料の価格も大きくないと考えられる。またポンプ動力のエネルギー源についても太陽光発電に依存でき、最も藍藻類が出現し易い時は最も発電効率が良い時でもある。また系全体としてはポンプの汲み上げる高さはゼロになるが、配管内の損失水頭と溶出材料を充填した浸透室内での水頭損失を考慮する必要がある。
【0079】
「0056」〜「0057」で述べるようにポンプ動力として太陽光発電の採用は充分可能である。
【0080】
河川においては非特許文献4に示すように水質中のシリカ燐比87より低く、珪藻以外の藻類が発生し易い状況の河川については本発明に基づきシリカを補給してやれば珪藻類の繁殖により河川中の生態を富栄養化する以前の姿に近づけるなどの改善ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0081】
以下に本発明の実施の形態を説明する。説明は図1〜図8および装置設計に関する基本条件検討による。
【0082】
装置規模と適応対象については小型の装置がAGP試験の培地等の作成用に、シリカ供給能力の大きい大型装置では側壁部、浸透室は水深が充分深い場合図1のように水面下に設置する。また現場条件で陸上に設置する場合には、図7のように側壁部5、浸透室10については地下に設置するものとし、必要に応じた規模で対象水域にシリカ溶液を供給する事が可能である。
【0083】
装置規模は「0093」〜「0096」に述べる浸透室の容量による。小型のものは1m3 以下程度、大型のものは10m3 以上のものを考えている。小型のものは室内で用いられるため原水は事前に採取したものを処理する。また大型のものでは原水は水域からの取水による。
【0084】
本装置の基本構成についてはまず図面1「台船に搭載したシリカ補給装置全体図」により説明する。その後各図面について順を追って説明を行う。
【0085】
「取水部」
中〜大規模のシリカ溶出装置の場合、原水を取水する設備が必要になる。図1においては、1は取水口で、表面の水を有効に集水可能な装置とする。取水口には水面に浮かぶ木の葉等の大型ごみの吸入防止のためスクリーンBを設置する。また微細な物質による浸透室での目詰まり防止のため傾斜板フィルターAを設置する。取水口に対し必要な越流水深を確保する目的でフロートCを設置する。
【0086】
取水された水は延伸用可撓管19を通じ、貯留水槽2にいったん貯えられ、微細なごみ等をさらに沈殿除去し、その後ポンプ3により、保温・加圧水槽4に送られる。
【0087】
「保温・加圧水槽」
保温・加圧水槽4については図1に示す通り、次の側壁部5に対し、高水頭の水(静水圧)を供給するため数m 上の位置に設置する。
【0088】
また水温を下げないようにその周囲は断熱材料6で取り囲むものとする。
【0089】
側壁部5とは配管7で連結される。この配管にも断熱性の被覆が必要となる。
【0090】
パイピングの発生を防止するために保温・加圧水槽は側壁部に対して与える事の出来る水頭に上限値がある。
【0091】
ポンプ3から配管Kを通じ、太陽熱温水器集熱部9へ送り込まれた水はここで水温を上昇させた後、保温・加圧槽に送られる。
【0092】
「側壁部」
側壁部5は図1および図2に断面として示すような2次元浸透流対応の浸透室の場合は内外の円筒状殻に囲まれた空間となる。側壁部5内側の壁には浸透部に通じる穴が数多く開き、浸透室との通水性が保たれている。外側の壁は外界に対し遮水性があり、かつ側壁部空間を保持できる機能を持つ。図1のように外壁はまた保温のため断熱材6で取り囲むものとする。断熱材としてはシラスを乾燥させたものを用いる。また上下端部は浸透室と共に端面壁Dにより覆われる。
【0093】
「浸透室」
浸透流のモードとして2次元流の場合、図1、2に示すような円筒形の浸透室10となる。浸透室10の中心部には2次元流対応の場合図1に示すような有孔軸管11を設置する。浸透室の外側は上記の側壁部である。浸透室の内部はシラスなどの溶出材料で密に充填する。
【0094】
溶出材料の粒度組成は透水性と密接に関連する。
【0095】
昇温・加圧水槽4より与えられる水圧に連動した浸透室10外側の高水頭と揚水ポンプ12の汲み上げにより強制的に生ずる中心部付近の低水頭状態との間において、動水勾配および溶出材料の透水性に応じた2 次元放射状の浸透流を生じさせ、この浸透流により溶出材料の溶出と輸送を同時に行うものである。この透水性については溶出材料の粒度分布や間隙比などに依存する。
【0096】
水頭差については溶出材料のパイピング特性を考慮し、その上限を決定する。
非晶質シリカの溶出が進行し、溶出材料の量が不足する場合は図1 に示すように上方の材料補給口13を通じ浸透室10に対し、材料の補給を行う。
【0097】
「揚水ポンプおよび吸上管」
浸透室形状が円筒形で2次元浸透流の場合、図1に示す有孔軸管11の内側にそれぞれ吸上管14を設置し、ポンプ12と結合する。
【0098】
揚水ポンプ12および吸上管14は目詰まり防止のため逆洗浄が可能な構造とする。
【0099】
「吐出管および放流口」
上記の過程によりシリカを溶出した水は図1に示すようにポンプ3から吐出管15を経て排出される 循環により更にシリカ濃度を高めるには、この水を還元水槽16や還元管17を介して、太陽熱温水器の集熱部9へ接続し、水温を高めた後、保温・加圧水槽4へ戻す。循環させない場合はバルブHを閉じておく。
【0100】
放流する場合は還元水槽16から配管K、可撓管19を通じ放流口18へ、この水を供給する。
【0101】
「その他の付帯設備」
図1に示す、その他の付帯設備としてポンプ動力関係、台船関係、モニター設備関係、補給関係があげられる。
【0102】
ポンプに付随する電動機Lに対する電力供給の目的で、太陽光発電装置20、制御部、インバーター部、蓄電池等21、電力ケーブル22などの設備が必要。
【0103】
図1の場合側壁部、浸透部が水中に設置されるので台船23上に取水部、保温・加圧水槽、揚水ポンプ、上記の電力供給設備等が配置される。
【0104】
モニター設備関係としては側壁部5内部の水頭(水圧)をモニターする圧力計I、補給関係では補給口13に対する補給口バルブGおよびバルブ反力サポートJが挙げられる。
【0105】
図2は図1におけるA−A線水平断面図である。
【0106】
図2において隔壁Eは浸透室10における放射状の流れを妨げず、空間を保持するための4 枚の壁である。中心部付近では有孔壁となっている。また13で示される点線は補給口の投影位置を示す。
【0107】
側壁部隔壁Fも側壁部空間を保持するためのもので8枚の有孔壁である。
【0108】
図3は小型のシリカ溶出装置を示す。実験用の装置を想定しているので保温・加圧水槽4ではヒーター8による加温を行っている。
【0109】
図3では実験に使用する原水の供給配管K1、シリカ溶出溶液の供給バルブN、シリカ溶出溶液の回収容器Qを示す。
【0110】
浸透室10の形状は円筒形であるが図3では内部を見やすくするため半割の状態として図示している。温度低下を防止するために浸透室は乾燥したシラスを利用した断熱材6で取り囲む。図1の場合と同様に浸透室の内部はシラスなどの溶出材料で密に充填する。
【0111】
浸透室内部の浸透流は円筒軸に平行な1次元流となる。この浸透の過程でシリカの溶出を行うものである。端面壁D付近ではフィルターとして機能するように粒度の荒いシラスを用いたほうがよい。
【0112】
図4では側壁部5および浸透室10の形状がそれぞれ球殻、球となる場合を示す。装置の上部については図1と同様であるのでここでは図示していない。
【0113】
この時浸透室内部で生ずる浸透流は3次元放射状の流れとなる。図1の場合と同様に浸透室の内部はシラスなどの溶出材料で密に充填する。この浸透の過程でシリカの溶出を行うものである。
【0114】
球状の浸透室の中心部にはポンプアップにより低水頭となる有孔コア部11を設置する。有孔コア部から伸びる吸い上げ管14は浸透室内では下方を向いている。
【0115】
これは補給口13からシラス等の溶出材料を補給する際に邪魔にならないためである。図4では材料補給口バルブGに必要な反力サポートは省略している。
【0116】
図5は図4におけるB−B線水平断面図である。
【0117】
図5において隔壁の設置は放射状の浸透流と調和しないため、浸透室内部に隔壁を設置することが出来ない。側壁部や断熱材料を納める部分で隔壁Fを設置し, 全体的な空間の保持を図っている。隔壁Fは側壁部では水圧を均一化するために有孔としている。
【0118】
また13で示される点線は図4における補給口の投影位置を示す。
【0119】
図6は側壁部および浸透室を大型化し、これらを地中に設置した場合を想定している。装置の上部については図1と同様であるのでここでは図示していない。
【0120】
側壁部5、浸透室10の機能は図1の場合と基本的に同じである。保温・加圧水槽からの高水頭の水が断熱材被覆付配管7を通じ側壁部に供給される。図1の場合と同様に中心部に設置した有孔軸管11の内部でポンプアップを行い、シラスなどの溶出材料で密に充填された浸透室内部を通じ2次元放射状の浸透流を生じさせこの過程でシリカの溶出を行うものである。
【0121】
側壁部5の外側壁24は地盤中においてシートパイルを円筒形に打ち込み作成する。
この場合図6中に示すように透水性の高い砂質地盤Uを通して下部の粘土層Sまで打ち込む。内側の壁25についてもシートパイルを同軸の円筒形に同様に打ち込む。浸透室に隣接する部分は有孔とする。
【0122】
アースアンカーT等でシートパイルの自立性を確保した後、浸透室部分の地盤の掘削を行い、そこへシラスなどの溶出材料を埋め戻し、密に充填する。同時に中心部には有孔軸管11や吸上管14を設置する。またシラス等の溶出材料の上端下端には端部粘土シール26を設置する。側圧部および浸透室には高い水圧が供給されるので、これに対抗する目的で止水プラグRおよび掘削残土を利用した抑え盛り土27を設置する。
【0123】
側壁部に供給される水頭(水圧)をモニターする目的でモニター用圧力計Iを設置する。
【0124】
図7は図6のC−C断面である。
【0125】
図2と同様に隔壁Eおよび側壁部隔壁Fを有する。図中で直線の破線はアースアンカー部のC−C断面への投影、また円形の破線はモニター用圧力計につながる配管のC−C断面への投影である。
【0126】
図8は水質中にシリカが不足するなど溶出させたシリカを補給すべき水域28が、海流や潮流あるいは湖内の循環流に乗り移動している場合、取水口1、放水口18の配置例を示す。
【0127】
このよう配置例では上方から流下する補給対象水域28のうち取水口に取り込まれる領域Wと放水口からシリカを含んだ水の補給とシリカの水中での拡散のためシリカの含有状態が改善される領域Xをうまく分離することが出来る。これらの配置を行うには図1に示す可撓管19等を延伸できるものとしておくことまた取水口および放水口が容易に移動可能なことが必要である。
【0128】
以下においては装置設計に関する基本条件を検討した。
【0129】
原則的適合条件として
呑み口部流入量=浸透部浸透量=揚水ポンプ排水量
ただし取水量に対し浸透量が小さい場合は、取水した水を一時貯留し、調節することもありうる。
【0130】
「対象流量の検討」
具体的には水面積(1000m2 )貯水容量(2000m3 )の規模を設定
特に表層(深度0.5m)の水塊(500m3 )について30日間程度で本装置により循環させることを想定する。これは単位時間あたりの流量では約10l/min(11.6l/min)となる。また施設規模としては中規模に相当する。
【0131】
以下この流量を中心に検討を進める。
【0132】
「取水口流量」
非特許文献18によると、表面取水時に越流の場合、流入量は次式で与えられる。
【数1】

【0133】
ここでQsは流量、bは流入部断面の幅、Csは流量係数でMS単位では1.8から2.0、またHは断面の底面を基準とする全エネルギーである。
【0134】
毎分10l(リットル)の流量に対しては、越流水深が20mmの時、必要な越流幅はわずか30mmになる。また毎分100lに対して越流幅は300mmとなる。
【0135】
「浸透室の浸透流量」 2次元浸透流を考える場合非特許文献19によれば、下記の式が適応される。
【数2】

【0136】
Tは透水量係数であり、k×mで与えられる。
【0137】
kは透水係数、mは帯水層厚 ここでは浸透部厚さに相当するので以後はhで表記する。
【0138】
w は揚水量、s1 は揚水管からr1 だけ離れた点で観測した水位低下、s2 は距離 r2 の点の水位低下を示す。(r2 >r1

揚水量を求めるには下記の式による
【数3】

【0139】
また3次元浸透流を考える場合は下記の式が適応される。非特許文献20によると、この式は本来熱伝導を表現する式であるが、定常状態では熱と水の浸透を表す式は同一式で表現される。
【0140】
ただしここではQ3w は球の中心点における揚水量、s1 は球の中心からr1 だけ離れた点で観測した水位低下、s2 は中心から距離r2 の点の水位低下を示す。(r2 >r1
【数4】

【0141】
上式を透水係数同一、同一の浸透距離半径、またhについては2r2 として比較を行うと
【数5】

【0142】
上式から透水係数同一、同一の浸透距離半径の場合、r2 /r1 比で揚水量の大小が決まる。下記のr1 /r2 比について具体的に比較を行った。
【0143】
【表1】

【0144】
この時の流量比をみると上記のr1 /r2 比の範囲内で2次元(円筒)形状容器の採用が有利になる
この時の2次元(円筒形)3次元(球形)の体積を比較すると球については4π/3・r23また円筒形についてはπr22×2r2 となり、同一体積について比較すると1 .5倍体積あたり、球が有利になってくる。
【0145】
1.5×Q3w /Q2w を見ると、r1 /r2 比で0.5よりやや小さな値で流量比の逆転が生ずる。
【0146】
1 /r2 比を大きく取る事は空間の使い方に無駄が出る事、大型施設ほどr1 /r2 比は小さくなる事、球形より2次元浸透流に対応する円筒形の方が製作あるいは施工が楽な事、2次元の方がいろいろな形状、ディスク状、短柱の円筒、長柱の円筒を採用でき、いろいろ変化のある現場条件に対応し易い事など総合的に見て2次元浸透流方式の採用が有利になると考えられる。
【0147】
流量から見た効率性は2次元の浸透流の採用が有利になるが、時間をかけてシリカの溶出を行う場合には3次元浸透流がよいこともありうる。この場合浸透室内の球殻側と中心コア側で透水係数を変えるゾーニングの採用もありうる。
【0148】
次に2次元浸透流に対応し、浸透室が円筒形形状を持つ装置の規模と浸透流量の関係を検討する。
【0149】
流量は0.5l/minから200l/minまで変化させた範囲とする。
【0150】
水位低下量についてはパイピング防止の観点から非特許文献12を参照して(s1 −s2 )< 4r2 とする。
【0151】
透水係数についてはシラスに関する既存データの値からk=1×10-5m/sとする。
【0152】
ここで
(s1 −s2 )=3r2
1 /r2 =0.1と設定

これから次式が導かれる。
【数6】

【0153】
以下の表に揚水量Qとr2 ・h(m2 )の関係を示す。
【0154】
【表2】

【0155】
次に浸透部の規模つまり円筒の諸元について具体的に検討を行う。
【0156】
たとえば浸透量が10リットル/分の場合、浸透部の高さ、面積、体積の組み合わせは次のようになる。
【0157】
【表3】

【0158】
従って円筒面積より円筒高さを増加させる方が同じ効果を発揮する上で有利になる。
【0159】
つまり体積が小さく出来る。実験段階としては円筒高さを大きくした方が有利である。
【0160】
しかしながらr2 (浸透室の円筒半径)が0.5mより小さいとr1 /r2 =0.1からはr1 は50mm以下、つまり有孔軸管直径は100mm以下となりその中に設置する吸い上げ管の管径が小さくなるので限界がある。また浸透室の円筒半径があまり小さくなることは浸透距離が小さくなる事なのでシリカの溶出濃度を上げるためには望ましくない。
【0161】
「揚水設備」
表面取水した水は取水後、貯留水槽へ流入する。そこからの昇温・加圧水槽へのポンプアップの揚程は図1のポンプ3のように小さく、数m程度と考えられる。またその能力は毎分10リッターを基準とすると取水能力との関連から毎分200リットル程度の能力があれば十分と思われる。
【0162】
図1のポンプ12に示すように浸透部中心にすえつける揚水ポンプの能力は毎分10リットルから2ないし3倍の能力で充分と考えられる。ただし浸透の連続によりシリカの溶解が進み、透水係数が増加する事態も想定すると能力は毎分100リットル程度の能力があれば十分と思われる。
【0163】
またその揚程は再循環を考えても5から6m程度と考えられる。非特許文献21によればポンプの種類:横軸片吸い込み単段渦巻ポンプないしは水封式水中モーターポンプ単段渦巻ポンプの場合、ポンプ選定図から吸い込み口径は40mm60Hzの場合でポンプ口径42mmとなる。また電動機Cの出力として0.4kWが求められる。
【0164】
吸い込み口径40mmは中心部直径100mmに対応する吸い込み管口径と整合する。
【0165】
ただし全体の揚程はほぼゼロなのでサイホンを通じ、管路内の損失水頭を少なくして、水を循環すれば通常は動力の使用量は少なくなる。
【0166】
「吸上管」
非特許文献20によれば、吸上管の外径は中心部内径の1/2程度に押さえる必要がある。また中心部の底部より余裕を持った高さに吸い込み管の下限を設定する。
【0167】
「側壁部」
側壁部内部の空間は側壁部の内外壁を構成する内外の球状殻あるいは円筒状殻に囲まれた部分で、加圧槽から一定の水頭で供給された水を浸透室部内に浸透させるための貯留槽でその厚みは加圧槽からの供給が中断した場合でもある程度の期間浸透部に水を供給可能な能力から決められる。
側壁部の内側は浸透室に水を供給するため有孔壁となっている。外側壁は外界と水の出入りを遮断する機能内部空間を保持する機能を持つものとする。
【0168】
「太陽光発電装置に必要な面積」
非特許文献22によれば小規模発電モジュールの大きさは一台当たり1m×0.5mで発生電力は63Wといわれる。所要電力はポンプ能力から0.4kW×2 台とすると0.8kW程度となる。
【0169】
これから図1の発電装置20として13台の小規模発電モジュールが必要となる。その面積は一台当たり0.5m2 なので電源として太陽光発電を行う場合、6.5m2 の面積を最小限確保する必要がある。
【0170】
「加圧水槽の容積と太陽熱温水器の規模」
非特許文献23によれば既製品としてUSH−281W−3がある。
【0171】
一台当たりのタンク容量は280リッター、集熱部面積は3m×2.1m
装置の処理能力を毎分10リットルとすると、1時間分として600リットルの容量が必要になる。成層期の日中の日照を考慮すると1時間分あれば充分に温度上昇は計れるものと考えられる。必要台数は2.1台となり、これに対応する図1の集熱部9については面積規模が13.5m2 となる。
【0172】
「取水口および排水口配置のための移動手段」
取水口と放水口は風による吹送流その他の原因で生ずる表面の水の流れを考慮し適切な位置で行うものとする。
【0173】
流れが無い状態の場合、取水口と放水口は対象水域を挟み込んだ形で配置する。に示す流れのある場合は「0075」〜「0076」で述べたようにシリカの補給対象水域の形状は図9の28に示すように幅の広い帯になって帯の延長方向に流れている事が多い。このような場合図9に示すように取水口と放水口の配置は帯の中心を挟んで図9に示す流れの方向29に直交するような配置をとれば補給対象水域にシリカを含んだ水を放水口からの拡散をおこなうことで下流側に行けば、補給対象水域の中で補給よりシリカ含有状態が改善された領域の割合をかなり上げる事が出来る。
【0174】
このための移動作業は作業船等を使って行か、または別途追加する自走可能な設備による。
【0175】
処理量毎分10リットルに対応できる図1に示す可撓管19の内径は100mm以下程度、また縦長の取水口では2方向の越流部を考えると越流幅は100mm程度になる。
【0176】
放流口については口径300mm程度の朝顔型のものを想定している。
【産業上の利用可能性】
【0177】
湖沼あるいは内湾などに対する自然のプロセスとしてのシリカの供給は流域の地質地形、風化状況を反映しながら、河川を通じて行われるのが一般的である。
しかしながら富栄養化した湖沼や河川利用の盛んな都市圏を後背地として持つ内湾等ではN,Pの過剰供給に対し、シリカ不足の傾向にある。
【0178】
本装置の運転により不足領域にシリカを補給すれば珪藻類の増殖を図る事が出来るので、非特許文献24に示されるようなアオコなど問題藻類のコントロールは水道以外の目的で設置されたダム貯水池管理の問題解決だけでなく、水道原水の水質改善にも寄与できる。また珪藻類は生態系上一次生産者であり、生態系保全に留まらず、食物連鎖上上位に位置する水産魚種等の水生生物の増殖にも寄与できる。
【0179】
さらに農業分野では珪素肥料の供給手段としても寄与が可能である。
【0180】
非特許論文25によれば年間を通じた河川によるシリカ供給量はかなり大きいので、赤潮対策などスポット的なシリカ補給は効果的であるが、供給量全体の増加に寄与するには大型の装置が必要になる。
【0181】
光合成の結果として珪藻類の沈殿した死骸が循環期でも容易に溶出しない条件で貯蔵可能であればCO2 を固定する温暖化対策としても利用可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0182】
【図1】本発明の実施形態を示す台船に搭載したシリカ補給装置全体図である。
【図2】図1におけるA−A線水平断面図である。
【図3】小型シリカ補給装置、浸透室については円筒形を半割した断面を示すものである。
【図4】球形の浸透室および球殻部の側壁部鉛直断面図(上部の装置は省略)である。
【図5】図4におけるB−B線水平断面図である。
【図6】地盤中に設置する大型シリカ補給装置側壁部及び浸透室鉛直断面図(上部の装置は省略)である。
【図7】図6におけるC−C線水平断面図である。
【図8】同補給対象水域が幅広い帯状になり、流れに乗った移動時において有効な取水口と放水口の配置を示す図である。
【符号の説明】
【0183】
1…取水口
4…保温・加圧水槽
5…側壁部
9…太陽熱温水器集熱部
10…浸透室
11…有孔軸管
12…揚水ポンプ
14…吸上管
18…放流口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカを供給するための溶出材料として、酸性から一部中性にかかる火成岩成分を持 ち、火山ガラスつまり非晶質シリカを多量に含有し、かつ多孔質であるシラスやシラス と類似する第4紀火砕流堆積物あるいは降下軽石堆積物を使用する非晶質シリカの溶出 方法。
【請求項2】
請求項1の溶出材料を容器内あるいは浸透室内に充填し、採取した原水をその中にお いて浸透させながら、シリカの溶出を行う非晶質シリカの溶出方法。
【請求項3】
請求項2の浸透をおこなう浸透室の形状を球形または円筒形とし、浸透室の外側を取 り囲む側壁部に高水頭を与え、中心部に低水頭を作り出すこと、またシリカの供給量に よってそれらの大きさを変化させる非晶質シリカの溶出方法。
【請求項4】
請求項2の原水を採取する際、対象水域で水温あるいはpHの高い表面の水を採取す る設備を設置する非晶質シリカの溶出装置。
【請求項5】
採取後の原水に対し加熱を行う設備を設置し、加熱後の水を請求項3の浸透室に供給 する非晶質シリカの溶出装置。
【請求項6】
珪藻類繁殖に効果的なシリカの拡散を目指し請求項2および請求項3の方法で溶出さ せたシリカを含む水を水域に還元する際、対象水域の表面に放流する設備を設置する非 晶質シリカの溶出装置。
【請求項7】
請求項4および請求項6に示す設備について対象水域の表面付近における流れの状態 を利用した、取水およびシリカの拡散を行う配置を取るため、採取設備および放水設備 について移動可能な非晶質シリカの溶出装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−14218(P2007−14218A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−196245(P2005−196245)
【出願日】平成17年7月5日(2005.7.5)
【出願人】(596164892)
【出願人】(592102537)株式会社ニュージエック (6)
【Fターム(参考)】