説明

非晶質マトリックスとブロックコポリマーとを含む延性があり且つ透明な熱可塑性組成物

【課題】非晶質マトリックスとブロックコポリマーとを含む可延性のある、耐衝撃性、高モジュラス、耐熱性に優れ、しかも透明な熱可塑性組成物。
【解決手段】スチレン/メチルメタクリレートランダムコポリマーをベースとする非晶質マトリックスと、少なくとも一種のエラストマーブロックと上記非晶質マトリックスと部分的または完全に相溶性のある少なくとも一種のブロックとを有するブロックコポリマーとからなり、耐衝撃性改質剤は使用してもしなくてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透明なポリマー材料に関するものである。
本発明は特に、透明性、耐衝撃性、高モジュラスおよび耐熱性の全てを同時に有する透明材料に関するものである。
本発明のポリマー材料は優れた透明性および/または機械特性を必要とする分野で用いることができ、特に、建設、家電機器、電話機、OA分野、自動車産業で利用できる。
【背景技術】
【0002】
一般に、非晶質熱可塑性ポリマーは透明で、機械モジュラスが高いが、衝撃強度が低い。そうした非晶質熱可塑性ポリマーは一般にガラス遷移温度(Tg)が100℃程度のホモポリマーまたはコポリマー(ポリメチルメタクリレート、ポリスチレンまたはポリ[スチレン−co−アクリロニトリル])で、その引張り機械特性は脆い材料と同じような挙動をする。そのため用途によっては衝撃強度を高くするための添加剤を配合する必要がある。
【0003】
しかし、非晶質熱可塑性ポリマー材料に他の化合物、特に一般的な添加剤を配合またはブレンドすると、ある種の特性、特に透明性と機械モジュラスが失われ、さらに耐熱性も失われる。
耐衝撃性があって且つ透明な非晶質熱可塑性ポリマー材料も得られないことはないが、透明性、衝撃強度、高モジュラスおよび耐熱性の全てを同時に満足する材料を得ることは不可能ではないが難しい。
【0004】
非晶質熱可塑性ポリマーの耐衝撃を向上させる方法に関する文献は多数あるが、上記の課題、すなわち衝撃強度と機械モジュラスとの両方を同時に解決する方法を記載したものはない。
衝撃強度/モジュラスをバランスさせ、さらに耐熱性を高くすることができれば、それはさらに注目に値する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、上記特性の全てを有する透明なポリマー組成物を提供することにある。
本発明者は、非晶質熱可塑性ポリマー(耐衝撃性を強化したものでも、していないものでもよい)をベースにしたマトリックスと、正しく選択したブロックコポリマーとを含むポリマー組成物によって上記の課題が解決できるということを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の対象は 下記の(1)〜(3)から成る耐衝撃性、高モジュラス、耐熱性および透明性に優れたポリマー組成物にある:
(1)屈折率がn1の熱可塑性マトリックス(I) 50〜90重量%、
(2)屈折率がn2の耐衝撃添加剤(II) 0〜40重量%、
(3)屈折率がn3のブロックコポリマー(III) 10〜50重量%
(ただし、2つずつ比べた場合の屈折率の差は0.01以下)
【0007】
本発明では上記ブロックコポリマーはエラストマー特性を有するブロックと非晶質マトリックスと完全または部分的に相溶性のある少なくとも一種のブロックとを有していなければならない。
さらに、マトリックスの屈折率n1とブロックコポリマーの屈折率との差が0.01以下でなければならない。マトリックスが通常の耐衝撃添加剤によって既に耐衝撃性が強化されている場合には、マトリックスと上記添加剤の屈折率の差も0.01以下でなければならない。従って、後者の場合、本発明組成物は3つの成分(マトリックス、通常の耐衝撃添加剤およびブロックコポリマー)を含み、それぞれの互いに対する屈折率の差は0.01を超えてはならない。
【0008】
透明性は上記屈折率を調整することによって確保される。
ブロックコポリマーのエラストマー特性を有するブロックによって衝撃強度を与え、脆いマトリックスに可延性を与える。ブロックコポリマーの他のブロックを正しく選択することによって透明性が保持でき、高モジュラスおよび耐熱性を維持、向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
コポリマー(III)はエラストマーブロック(B)と非晶質マトリックスと熱力学的観点から完全または部分的に不相溶な少なくとも一種のブロックとを有していなければならない。
成分(I)はスチレン、アクリロニトリル、アクリル酸およびメチルメタクリレートのような短鎖のアルキル(メタ)アクリレートの中から選択されるホモポリマーまたはコポリマーにすることができる。
【0010】
モノマー混合物は非晶質で、リジッドで、透明で且つ所望の屈折率を有する化合物(I)となるように選択される。重合は通常の重合方法すなわち塊重合、溶液重合または懸濁重合で行われる。
本発明の好ましい一実施例では化合物(I)は0〜55重量%のスチレンを含むスチレンとメチルメタクリレートとのランダムコポリマーである。この化合物(I)を以下「SM」という。
【0011】
添加剤(II)はいわゆる「コア−シェル」添加剤で、PVC、エポキシ樹脂、ポリ(スチレン−コ−アクリロニトリル)またはSAN等のマトリックスの衝撃改質で一般に用いられている。「コア−シェル」添加剤として知られる添加剤は一般に第1段階で「コア」を生成し、第2段階でこのコアを種として用いて「シェル」を生成する二段階乳化重合で得られる構造ポリマーである。一般に、「コア」はTgが周囲温度よりも低く、従って、ゴム状のポリマーまたはコポリマーである。一般に「コア」は架橋または未架橋のランダムコポリマーで構成できる。ポリブタジエンのみまたはブタジエンとアクリロニトリルとのコポリマーをベースにした「コア」や、ブチルアクリレートとスチレンとのコポリマーをベースにした純粋なアクリル「コア」がある。「シェル」は「コア」を覆い、「コア」がマトリックス中に分散し易くするものである。一般的な「シェル」はポリ(メチルメタクリレート)、メチルメタクリレートとスチレンとのコポリマー、純粋なアクリルコポリマー、スチレンとアクリロニトリルとのコポリマー等をベースにしたシェルである。これら通常の耐衝撃添加剤の一つが本発明の好ましい耐衝撃添加剤を構成する「MBS」である。これはブタジエン−スチレンのランダムコポリマーの「コア」とPMMAまたはメチルメタクリレート−スチレンのランダムコポリマーの「シェル」とを有する「コア−シェル」添加剤である。以下の実施例で用いるMBSはPVC用グレードのもので、「コア」の屈折率は周囲温度で約1.54である。
【0012】
成分(III)は下記一般式で表されるブロックコポリマー(III)である:
−Y−B−Y’−
(ここで、
Bはエラストマー特性を有するブロック、
YおよびY’は互いに同一または異なる化学組成を有し、2つのブロックYおよびY’の少なくとも一方は熱可塑性マトリックス(I)と完全または部分的に相溶性があり、ブロックYおよびY’はブロックBと熱力学的に不相溶性である)
【0013】
エラストマー特性を有するブロックBの合成に用いられるモノマーはブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンおよび2−フェニル−1,3−ブタジエンの中から選択されるジエンにすることができる。このブロックBはポリ(ジエン)、特にポリ(ブタジエン)、ポリ(イソプレン)およびこれらのランダムコポリマー、さらには、部分的または完全に水素化されたポリ(ジエン)の中から選択するのが有利である。ポリブタジエンの中ではガラス遷移温度Tgが最低のものを用いるのが有利である。例えばポリブタ−1,2−ジエンのTg(約0℃)よりも低いTg(約−90℃)を有するポリブタ−1,4−ジエンが好ましい。ブロックBも水素化されていてもよい。この水素化は通常の方法で行うことができる。
【0014】
ブロックBはポリブタ−1,4−ジエンを主成分とするのが好ましい。ブロックBのTgは0℃以下、好ましくは−40℃以下であるのが有利である。
YおよびY’はスチレンおよびメチルメタクリレートのような短鎖のアルキルメタクリレートの中から選択される少なくとも一種のモノマーの重合で得られる。しかし、Yがスチレンを主成分とするブロックの場合には、Y’はスチレンを主成分とするブロック以外のブロックである。
【0015】
Y’はメチルメタクリレートモノマーからなるのが好ましく。すなわち、少なくとも50重量%のメチルメタクリレート、好ましくは少なくとも75重量%のメチルメタクリレートを含むのが好ましい(以下、Y’を「M」という)。このブロックを構成する他のモノマーはアクリルまたは非アクリルのモノマーにすることができ、反応性でも非反応性でもよい。
【0016】
反応性官能基の例としてはオキシラン官能基、アミン官能基およびカルボキシル官能基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。反応性モノマーは加水分解可能で酸になるモノマーにすることができる。ブロックY’を構成することができる他のモノマーとしてはグリシジルメタクリレートおよびt−ブチルメタクリレートが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
Mは少なくとも60%のシンジオタクチックポリメチルメタクリレート(PMMA)からなるのが有利である。
【0017】
以下の実施例のようにYとY’の化学組成が異なるときはYを「S」とよぶ。このブロックSは芳香族ビニル化合物、例えばスチレン、α−メチルスチレンおよびビニルトルエンの重合で得られる。Y(すなわちS)のTgは好ましくは23℃以上、さらに好ましくは50℃以上である。
ブロックコポリマー:Y−B−Y’を以下、「SBM」とよぶ。
【0018】
このSBMは数平均分子量が10,000g/mol〜500,000g/mol、好ましくは20,000g/mol〜200,000g/molであるのが好ましい。SBMトリブロックは質量分率で表した下記の組成(合計100重量%)を有するのが有利である。
M:10〜80%、好ましくは15〜70%。
B:2〜80%、好ましくは5〜70%。
S:10〜88%、好ましくは5〜85%。
【0019】
本発明ではSBMは少なくとも一つのジブロックS−Bを含むことができ、このSおよびBはS−B−MトリブロックのブロックSおよびBと同じ特性を有する。これらはS−B−MトリブロックのブロックSおよびブロックBと同じモノマー、必要な場合にはコモノマーにすることができる。また、S−BジブロックのブロックBはS−B−MトリブロックのブロックBとして使用可能なモノマーと同じファミリーの中から選択されるモノマーにすることができる。
【0020】
S−Bジブロックの数平均分子量は5,000g/mol〜500,000g/mol、好ましくは10,000g/mol〜200,000g/molにすることができる。S−BジブロックのBは質量分率で5〜95%、好ましくは15〜85%であるのが有利である。
以下、S−BジブロックとS−B−Mトリブロックとのブレンドも「SBM」とよぶ。このブレンドは5〜80%のS−Bジブロックに対して95〜20%のS−B−Mトリブロックを含むのが有利である。
これらのSBMブロック組成物の利点は合成の最後にS−B−Mを精製する必要がない点にある。換言すれば、本発明の成分(III)はS−BジブロックとS−B−Mトリブロックとのブレンドにすることができる。
【0021】
既に述べた通り、一般に「透明性」は各成分の屈折率を等しくする式を当てはめることによって得られる。すなわち、本発明の一形態では、耐衝撃添加剤を添加していないマトリックスSMにブロックコポリマーSBMを加えて式を当てはめる。例として(これに限定されるものではない)マトリックスSMとしてのスチレンとメチルメタクリレートとの非晶質ランダムコポリマーと、コポリマーSBMとしてのポリスチレンとポリブタジエンとポリメチルメタクリレートとのブロックコポリマーとを考えた場合、屈折率が等しい式の条件は下記の通りにある:
【0022】
【数1】

【0023】
各ポリマーの屈折率の計算には下記の法則を用いる:
【数2】

【0024】
(ここで、
νSおよびνMはコポリマーSM中のスチレン単位とメチルメタクリレート単位の体積分率であり、
νPS、νPBdおよびνPMMAはSBMトリブロックのポリスチレン(PS)、ポリブタジエン(PBd)およびポリメチルメタクリレート(PMMA)ブロックmp体積分率であり、
PS、nPBdおよびnPMMAはポリスチレン、ポリブタジエン、および、ポリ(メチル)メタクリレートの屈折率である)
【0025】
マトリックスSMとブロックコポリマーSBMに加えて、従来の耐衝撃添加剤を用いる場合には、その屈折率がマトリックスおよびブロックコポリマーの屈折率と等しくなる、すなわちその差が0.01の許容限度内になるように選択しなければならない。
本発明組成物は種々の方法で得ることができる。例としては直接合成する合成法、ブレンディング法またはコンパウンディング法が挙げられる。
【0026】
1)合成法
直接合成法ではトリブロックの存在下でランダムコポリマー(SM)を合成する。得られた生成物に必要に応じて第3成分(「コア−シェル」耐衝撃添加剤)をブレンドするか、「コア−シェル」耐衝撃添加剤によるマトリックスの改質が不要な場合にはそれ単独で用いる。好ましい実施方法は押出し法であるが、カレンダー加工のような他の方法も使用できる。押出しは一段または複数の段階で行うことができ、組成物は顆粒の形で得られる。
【0027】
2)コンパウンディング法
この方法は予め別々に合成した本発明の2つまたは3つの成分(SM+SB+任意成分の「コア−シェル」耐衝撃添加剤)をポリマーの加工装置、一般には押出機で混合し、顆粒にする。コンパウンディング法は一段または複数の加工(押出)段階を含むことができる。3成分をブレンドする場合は、少なくとも2つの成分をブレンドする第1段階と、3つの成分をブレンドする最終段階とを含む2つまたはそれ以上の加工段階を行うのが必要あるいは望ましい。従って、例えば2つの成分が第3の成分と異なる物理形態(例えば、粉末、粉末、顆粒)であるときには、3つの成分のうち2つを押出機で予備混合して第3の成分(例えば顆粒)と同じ物理的形態の混合物にするのが有利であろう。これで、2つの成分からなるこの第1混合物(顆粒)を第3の成分(顆粒)と一緒に押出すのがより容易になり、最終的に得られる結果は合成法と同様な本発明組成物の顆粒となる。
【0028】
上記の2つの方法を行った後、押出加工、カレンダー加工、粉砕加工、その他任意の本発明組成物を得るための操作の結果得られた顆粒は次にポリマー加工法として周知の方法(押出し、射出成形、カレンダー加工等)で成形する。この成形品も本発明の対象である。その最終形態は建設、家電機器、電話、OA分野、自動車産業等の用途に依存する。
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明が下記実施例に限定されるものではない。
【0029】
テスト物
組成と方法
[表1]は、評価に用いた5つの製品(SM+SBM+「コア−シェル」添加剤三元混合物と1つの対照品)の組成を示す。対照品も三元混合物と同じ条件下で押し出した。
対照品は60重量%のSMコポリマー(コポリマー中のスチレン単位およびメチルメタクリレート単位がそれぞれ45/55重量%)と40重量%の「コア−シェル」添加剤(MBS)とからなる組成を有し、ブロックコポリマーは含まない混合物である。この混合物は製品名「Oroglas TP327」で本出願人が製造した。
【0030】
上記Oroglas TP327対照品と、三元混合物と、その原料物質を得るために用いた成分は下記の通り:
マトリックスSM
45重量%のスチレンと55重量%のメチルメタクリレートとからなる懸濁重合で得られたランダムコポリマー。
耐衝撃添加剤MBS
Rohm&Haas社から商品名「Paraloid BTA 740」で市販のPVC用の一般的な「コア−シェル」耐衝撃添加剤。
【0031】
トリブロックSBM
2つのトリブロック:SBM654およびSBM9.88を用いた。これらのポリスチレンブロックの分子量は20,000〜30,000g/molであり、全体組成(1H NMRで決定)はポリスチレン/ポリブタジエン/ポリメチルメタクリレートの重量%が35/31/34および31/38/31で、シンジオタクチック度は60%である。
酸化防止剤
全ての製品に対して0.1重量%(混合物に対して)の「Irganox 1076「(Ciba社)を添加した。
【0032】
【表1】

【0033】
[表1]の各組成物をウェルナースクリュー押出機(300rpm/分)で押出した。押出機の出口に直径2mmの2つの孔を有するヘッドを取付けた。各帯域の設定温度は[表2]にまとめて示してある。押し出されたストランドを冷却水タンクを通し、造粒機で造粒した。
【0034】
【表2】

【0035】
上記条件下で、押出トルク(最大値の%で評価)と、3つの中間温度測定値と、押出ヘッドの温度と、出口圧力とを記録した。押出トルクおよび出口圧力が下がれば下がる程、組成物の流動性が高いことを示す。[表3]には各押出し物の測定値をまとめて示してある。
【0036】
【表3】

【0037】
押出トルクおよび出口圧力の値は極めて安定しており、各組成物の流動性に対して敏感である。三元混合物2および3の押出トルクおよび出口圧力の対照に対する低下は押出機で組成物を変えたときに記録された。いずれの場合も、SBM+「コア−シェル」MBS(40%)の量が一定のときに、トリブロックを含む混合物は最悪でも対照のOroglas TP327と同じ流動性を示す。
【0038】
テストの定義
押出し成形で得た顆粒を射出成形して標準プレートおよび試験片を作り、下記のテストを実施した:
(1)シャルピーノッチ付き衝撃試験(周囲温度(23℃)と低温(−30℃))
(2)曲げモジュラス
(3)曲げ応力(弾性ゾーンの終点)
(4)3mm透過率%
(5)ビカー温度
【0039】
結果
[表4]は[表1]の各組成物の機械テストの結果を示している。
[表5]は光学特性の測定結果を示している。光学測定は寸法が100×100×3mmのプレートに対して分光比色計(D65光、観測角2°、560nmで記録)で行った。
[表6]は[表1]の各組成物のビカー点(サンプルの耐熱性)の測定値を示している。
【0040】
【表4】

【0041】
いずれの場合も、評価サンプルが変わった場合には、対照のOroglas TP327(三元混合物と同じ加工条件下で製造)を内部標準として三元混合物と一緒にテストした。得られる(対照も含めて)透過率は一般にかなり低いので、これは光学特性のテストで特に有効である。この透過率での評価サンプルの変化は全ての組成物に影響を与え、用いた実施条件が最適化されていない時に生じる。
【0042】
【表5】

【0043】
【表6】

【0044】
[表4]、[表5]および[表6]によって本発明の一形態を構成する三元混合物SM/SBM/「コア−シェル」添加剤の機械特性、衝撃強度特性および耐熱性を、通常の「コア−シェル」耐衝撃添加剤で改質したがブロックコポリマーを含まない熱可塑性非晶質マトリックスSMに対して比較することができる。
[表4]から明らかなように、弾性ゾーン限界での機械モジュラスおよび曲げ応力は三元混合物2、3、4が対照よりも優れている。混合物5はマトリックスSMの量が少ない組成を有するので上記の対照とそのまま比較することはできない。
【0045】
[表4]からはさらに、周囲温度での衝撃強度は三元混合物3、4、5が対照よりも優れ、−30℃では全ての混合物が対照よりも優れていることがわかる。三元混合物5はマトリックスSMの含有量が少ない(これは最高の衝撃強度を有する理由の一つである)のでそのままでは対照と比較することはできないが、他の三元混合物、特に混合物3および4は本発明の目的に従って、対照よりも高い剛性(機械モジュラス)と、やはり改善された衝撃強度とを併せ持っている。
[表5]から、対照に対する三元混合物の相対透過度が、そのままでは対照と比較できない混合物5を除く全ての混合物で、ほぼ同じ(対照よりもわずかに低い)ことがわかる。
また、[表4]からは、混合物5を除く全ての混合物で、材料の耐熱性(ビカー点)が対照に比べて改善されていることがわかる。マトリックスSMの含有量が少なく、耐熱性が大幅に低くなるはずの混合物5でさえも、マトリックスの含有量が多い対照の値に近い値を有している。
【0046】
上記実施例は本出願人が見出した本発明の一形態の組成物(三成分混合物:非晶質熱可塑性ポリマーマトリックス/ブロックコポリマー/通常の「コア−シェル」耐衝撃添加剤の組成物)が、通常の耐衝撃添加剤でのみ改質された非晶質熱可塑性ポリマーマトリックスと同等またはそれ以上の機械モジュラス(剛性)と同等またはそれ以上の耐衝撃性とを併せ持つことを示している。この驚くべき組合せでは材料の透明度をほとんど損なわれず、しかも、耐熱性は大幅に改善される。
【0047】
[表7]はマトリックスSMとコポリマーSBMとを含む本発明の別の形態の組成物(二元系:非晶質熱可塑性ポリマーマトリックス/ブロックコポリマーの組成物)をゆっくり(3mm/分)引っ張って測定した機械モジュラスと破断エネルギー(衝撃強度に関連)の特性を、耐衝撃改質されていないマトリックスSM単独に対して比較したものである。
これらの系は上記の合成法で製造した。すなわち、マトリックスSMをSBMトリブロックの存在下で懸濁重合して合成した。
[表7]は、通常の「コア−シェル」型の耐衝撃添加剤無しでも、本発明のブロックコポリマーは非晶質熱可塑性ポリマーマトリックスに高い機械モジュラスおよび改善された衝撃強度という重要な組合せを与えることができる、ということを示している。
【0048】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(1)〜(3)から成る耐衝撃性、高モジュラス、耐熱性および透明性に優れたポリマー組成物:
(1)屈折率がn1の熱可塑性マトリックス(I) 50〜90重量%、
(2)屈折率がn2の耐衝撃添加剤(II) 0〜40重量%、
(3)屈折率がn3のブロックコポリマー(III) 10〜50重量%
(ただし、2つずつ比べた場合の屈折率の差は0.01以下)
【請求項2】
ブロックコポリマー(III)が下記一般式で表される請求項1に記載の組成物:
−Y−B−Y’−
(ここで、
BはブロックYおよびY’と熱力学的に不相溶なエラストマーブロック、
YおよびY’は互いに同一または異なる化学組成を有し、
2つのブロックYおよびY’の少なくとも一方は熱可塑性マトリックス(I)と完全または部分的に相溶性がある)
【請求項3】
Bがブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンおよび2−フェニル−1,3−ブタジエンの中から選択される少なくとも一種のモノマーの重合で得られる請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
Bがブタジエンの重合で得られる請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
Bがイソプレンの重合で得られる請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
YおよびY’がスチレンおよびメチルメタクリレート等の短鎖のアルキルメタクリレートの中から選択される少なくとも一種のモノマーの重合で得られる請求項2に記載の組成物。
【請求項7】
Yがスチレンを主成分とするブロックであり、Y’がメチルメタクリレートを主成分とするブロックである請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
YおよびY’がメチルメタクリレートを主成分とするブロックである請求項6に記載の組成物。
【請求項9】
Y’が少なくとも60%のシンジオタクチックポリメチルメタクリレートを含む請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
YおよびY’がそれぞれ少なくとも60%のシンジオタクチックポリメチルメタクリレートを含む請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
非晶質マトリックス(I)がスチレン、アクリロニトリル、アクリル酸およびメチルメタクリレート等の短鎖のアルキル(メタ)アクリレートの中から選択される少なくとも一種のモノマーの重合で得られる請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
非晶質マトリックス(I)が0〜55重量%のスチレンと、45〜100重量%のメチルメタクリレートとの混合物の重合で得られる請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
添加剤(II)が非晶質マトリックス(I)と相溶性のあるエラストマーコアと硬いシェルとで構成されるコア−シェルコポリマーである請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の組成物を射出成形、押出成形、カレンダー加工等の熱可塑性材料の成形方法で溶融成形して得られた物品。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(1)〜(3)から成る耐衝撃性、高モジュラス、耐熱性および透明性に優れたポリマー組成物:
(1)スチレン、アクリロニトリル、アクリル酸およびメチルメタクリレートのような短鎖のアルキル(メタ)アクリレートの中から選択される少なくとも一種のモノマーの重合で得られるホモポリマーまたはコポリマーである屈折率がn1の熱可塑性マトリックス(I) 50〜90重量%、
(2)屈折率がn2の耐衝撃添加剤(II) 0〜40重量%、
(3)屈折率がn3のブロックコポリマー(III) 10〜50重量%
(ただし、2つずつ比べた場合の屈折率の差は0.01以下)
【請求項2】
ブロックコポリマー(III)が下記一般式で表される請求項1に記載の組成物:
−Y−B−Y’−
(ここで、
BはブロックYおよびY’と熱力学的に不相溶なエラストマーブロック、
YおよびY’は互いに同一または異なる化学組成を有し、ただし、Yがスチレンを主としたブロックの場合には、Y’はスチレンを主としたブロックではなく、
2つのブロックYおよびY’の少なくとも一方は熱可塑性マトリックス(I)と完全または部分的に相溶性がある)
【請求項3】
Bがブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンおよび2−フェニル−1,3−ブタジエンの中から選択される少なくとも一種のモノマーの重合で得られる請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
Bがブタジエンの重合で得られる請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
Bがイソプレンの重合で得られる請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
YおよびY’がスチレンおよびメチルメタクリレート等の短鎖のアルキルメタクリレートの中から選択される少なくとも一種のモノマーの重合で得られる請求項2に記載の組成物。
【請求項7】
Yがスチレンを主成分とするブロックであり、Y’がメチルメタクリレートを主成分とするブロックである請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
YおよびY’がメチルメタクリレートを主成分とするブロックである請求項6に記載の組成物。
【請求項9】
Y’が少なくとも60%のシンジオタクチックポリメチルメタクリレートを含む請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
YおよびY’がそれぞれ少なくとも60%のシンジオタクチックポリメチルメタクリレートを含む請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
非晶質マトリックス(I)がスチレン、アクリロニトリル、アクリル酸およびメチルメタクリレート等の短鎖のアルキル(メタ)アクリレートの中から選択される少なくとも一種のモノマーの重合で得られる請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
非晶質マトリックス(I)が0〜55重量%のスチレンと、45〜100重量%のメチルメタクリレートとの混合物の重合で得られる請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
添加剤(II)が非晶質マトリックス(I)と相溶性のあるエラストマーコアと硬いシェルとで構成されるコア−シェルコポリマーである請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の組成物を射出成形、押出成形、カレンダー加工等の熱可塑性材料の成形方法で溶融成形して得られた物品。

【公表番号】特表2006−503950(P2006−503950A)
【公表日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−546091(P2004−546091)
【出願日】平成15年10月15日(2003.10.15)
【国際出願番号】PCT/FR2003/003031
【国際公開番号】WO2004/037921
【国際公開日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【出願人】(591004685)アルケマ (112)
【Fターム(参考)】