説明

非晶質体

【課題】低吸湿性および低軟化点を有する非晶質体を提供する。
【解決手段】式(1)および式(2)の構造の少なくとも一種の構造を有する非晶質体。


[式(1)中、複数あるR1はそれぞれ独立に炭素数3以上の一価の有機基を示し、式(2)中、複数あるR2はそれぞれ独立に炭素数3以上の一価の有機基を示し、式(1)および(2)中、破線は結合手を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスなどの非晶質体に関する。
【背景技術】
【0002】
低温で軟化する材料は種々の用途があり、低融点ガラスなどが有名である。低融点ガラスはガラス転移点が600℃以下程度のガラスであり、電子部品において絶縁、封止などに広く用いられている。低融点ガラスとしてはホウケイ酸鉛系ガラスが多く用いられていた。しかしながら、環境負荷低減のために鉛フリー化の開発が進められている。
【0003】
上記の鉛フリーの低融点ガラスとしては、リン酸系ガラスなどの有機−無機ハイブリッド低融点ガラスが知られている(例えば、特許文献1および2参照)。
特許文献1には、アルキルクロルシランおよび亜リン酸を加熱して反応させて得られる、xR2SiCl2・H3PO3(x=0.1〜3、Rはメチル基またはエチル基)の組成を有する有機−無機ハイブリッド低融点ガラスが開示されている。
【0004】
特許文献2には、アルキルクロルシランおよびリン酸を非水系で加熱して反応させて得られる、xR2SiO・0.33xP25・(2−0.67x)H3PO4(x=0.5〜3、Rはメチル基またはエチル基)の組成を有する有機−無機ハイブリッド低融点ガラスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−313300号公報
【特許文献2】特開2003−095690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようにリン酸系ガラスなどの有機−無機ハイブリッド低融点ガラスは鉛フリーの低融点ガラスとして開発が進められている。しかしながら、本発明者らの検討によれば、これらのリン酸系ガラスは吸水性が非常に高いため、吸湿が問題となる用途(例えば、有機発光ダイオードなどの表示素子)ではリン酸系ガラスの使用に問題があることが判明した。
【0007】
本発明の課題は、低吸湿性および低軟化点を有する非晶質体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、以下の構成を有する非晶質体により上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は例えば以下の[1]〜[4]に関する。
[1]式(1)で表される二価の構造(A1)および式(2)で表される三価の構造(A2)から選ばれる少なくとも一種の構造を有する非晶質体。
【0009】
【化1】

【0010】
[式(1)中、複数あるR1はそれぞれ独立に炭素数3以上の一価の有機基を示し、式(2)中、複数あるR2はそれぞれ独立に炭素数3以上の一価の有機基を示し、式(1)および(2)中、破線は結合手を示す。]
[2]前記R1およびR2が、それぞれ独立に炭素数6以上の炭化水素基である前記[1]の非晶質体。
[3]前記炭素数6以上の炭化水素基が、アリール基である前記[2]の非晶質体。
[4]非晶質体の全繰り返し構造単位100質量%に対して、二価の構造(A1)の含有割合が50〜100質量%である前記[1]〜[3]のいずれか一項の非晶質体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低吸湿性および低軟化点を有する非晶質体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の非晶質体およびその製造方法について好適態様も含めて説明する。
〔非晶質体〕
本発明の非晶質体は、式(1)で表される二価の構造(A1)および式(2)で表される三価の構造(A2)から選ばれる少なくとも一種の構造を有する。
【0013】
【化2】

【0014】
式(1)中、複数あるR1はそれぞれ独立に炭素数3以上の一価の有機基を示す。式(2)中、複数あるR2はそれぞれ独立に炭素数3以上の一価の有機基を示す。式(1)および(2)中、破線は結合手を示す。
【0015】
本発明では、炭素数3以上の一価の有機基、つまり、立体障害の大きな基を吸湿性の原因となるリン酸構造および/または亜リン酸構造(以下「リン酸構造等」ともいう。)の近辺に導入することで、リン酸構造等を前記立体障害の大きな基により覆うことができ、その結果、非晶質体の低吸湿性を向上させることができたと推定される。
【0016】
本発明の非晶質体は、式(1)ではR1を2つ含むシロキサン構造を、式(2)ではR2を2つ含むシロキサン構造を有する。非晶質体がR1(またはR2)を2つ含むシロキサン構造を有しない場合、上述の低吸湿性が充分に発現しない、あるいは軟化点が大きくなり過ぎると考えられる。
【0017】
本発明の非晶質体では、非晶質体の全繰り返し構造単位100質量%に対して、二価の構造(A1)の含有割合が好ましくは50〜100質量%、より好ましくは55〜100質量%、特に好ましくは60〜100質量%である。このように二価の構造(A1)および三価の構造(A2)の含有量を調整することにより、非晶質体の軟化点や分解温度を制御することができる。特に二価の構造(A1)の含有割合が前記範囲にある非晶質体は、低軟化点を有することから好ましい。前記の構造(A1)および(A2)の含有割合のほか、非晶質体の構造は、固体29Si NMRおよび固体13C NMRにて確認することができる。
【0018】
炭素数3以上の一価の有機基としては、例えば、好ましくは炭素数3以上、より好ましくは6以上、更に好ましくは6〜20の炭化水素基が挙げられる。炭化水素基としては、例えば、炭素数4以上、好ましくは4〜20の直鎖状アルキル基;炭素数3以上、好ましくは3〜20の分岐鎖状アルキル基;炭素数5以上、好ましくは5〜20のシクロアルキル基;炭素数6以上、好ましくは6〜20のアリール基が挙げられる。
【0019】
直鎖状アルキル基としては、例えば、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−デカニル基が挙げられ;分岐鎖状アルキル基としては、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、t―ブチル基、ネオペンチル基が挙げられ;シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基が挙げられ;アリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、1−ナルチル基が挙げられる。
【0020】
炭素数3以上の一価の有機基の中でも、得られる非晶質体の低吸湿性の点から、炭素数6以上の炭化水素基が好ましく、炭素数6以上のアリール基がより好ましく、フェニル基が更に好ましく、出発原料がジフェニルジクロロシランであることが特に好ましい。
【0021】
本発明の非晶質体は、当該非晶質体を高湿雰囲気下(湿度85%、温度40℃、1気圧)に24時間置いた場合の質量増加率が、通常5質量%未満、好ましくは4質量%未満、より好ましくは3質量%未満である。質量増加率の測定条件は実施例に記載したとおりである。
【0022】
本発明の非晶質体は低軟化点を、すなわち低温で軟化する性質(低温軟化性)を有する。本発明の非晶質体の軟化点は、通常50〜250℃、好ましくは50〜200℃、より好ましくは50〜180℃である。本発明の非晶質体は、シロキサン骨格に立体障害の大きな基が導入され、ガラスネットワーク次元が低下しているため、低軟化点を有し、したがって高い成形性を有する。軟化点の測定条件は実施例に記載したとおりである。
【0023】
本発明の非晶質体は、Nb、Zr、Ti、Inなどの酸化物を耐水性向上のため含有してもよく、V、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Niなどの遷移金属イオンを着色成分として含有してもよく、希土類イオン(Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tmなど)や有機色素を含有してもよい。
【0024】
本発明の非晶質体は上述の低吸湿性および低軟化点を有するほか、耐熱性に優れ、かつ均一なバルク体である。また、本発明の非晶質体は酸化物骨格およびそれに結合した立体障害の大きな基により形成されているため、従来の有機−無機複合体と比べて組成による物性の制御性が高い。すなわち、炭素数3以上の一価の有機基の種類を適切に選択することにより、種々の用途に対応可能な非晶質体を得ることができる。
【0025】
〔非晶質体の製造方法〕
本発明の非晶質体の製造方法は特に限定されないが、当該非晶質体は無水酸塩基反応法およびゾルゲル法により好ましく製造することができる。
【0026】
〈無水酸塩基反応法〉
無水酸塩基反応法では、例えばR2SiCl2(Rは式(1)および(2)中のR1またはR2と同義である)と、リン酸(H3PO4)および亜リン酸(H3PO3)から選択される少なくとも1種の酸とを混合し、得られた混合物を加熱して脱HCl反応を行うことによりガラスネットワークを形成して、本発明の非晶質体を得ることができる。
【0027】
上記R2SiCl2と上記酸との量比は特に限定されないが、例えば、R2SiCl2:酸(モル比)=1:0.5〜20の割合で用いることができる。この場合、低吸湿性に優れた非晶質体を得ることができる。
【0028】
出発原料であるリン酸および亜リン酸の使用量は、目的とする非晶質体の二価の構造(A1)および三価の構造(A2)の含有割合に応じて適宜決定される。例えば、亜リン酸の使用量は、リン酸および亜リン酸の合計100質量%に対して、好ましくは10〜100質量%である。亜リン酸はリン酸に比べてOH基の数が一つ少なく、前駆体の種類が少ないため、出発原料として亜リン酸を用いることにより、構造の制御が容易となる。また、亜リン酸を多く用いると非晶質体中の分岐構造が減るため、非晶質体の軟化点を下げることができる。
【0029】
上記混合物の加熱温度は、通常300℃以下、好ましくは23〜300℃である。本発明ではこのように低温で反応を行うことができるため、環境負荷が小さく、また、例えば有機色素等を目的とする非晶質体に含有させる場合、反応中での当該有機色素の分解を防ぐことができる。また、水フリーで反応を行うことができるため、無水でかつ均一な非晶質体を容易に得ることができる。
【0030】
また、より緻密なバルク体が得られることから、上記混合物の加熱処理を2段階に分けて行ってもよく、例えば(第1段目)10〜100℃で0.1〜10時間加熱(好ましくは20〜50℃で0.5〜4時間加熱)し、続いて(第2段目)150〜300℃で0.1〜10時間加熱(好ましくは200〜270℃で0.5〜4時間加熱)してもよい。
【0031】
上記反応は、塩化スズ、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、塩化ゲルマニウムなどの金属塩化物(塩基)の存在下に行ってもよい。これにより、より強固なガラスネットワークを形成することができる。本発明では、R2SiCl2の有機部分あるいは金属塩化物を適切に選択することにより、非常に広範囲な物性制御が可能となる。
【0032】
上記反応は、例えば、窒素雰囲気下で行うことができる。
〈ゾルゲル法〉
ゾルゲル法では、例えば、出発原料を混合してゲル体を得る混合工程、前記ゲル体を加熱して溶融状態とする溶融工程、および溶融状態のゲル体を熟成する熟成工程を経て、本発明の非晶質体を得ることができる。
【0033】
混合工程では、出発原料を混合および撹拌して加水分解−重縮合させ、ゲル体を得る。
ゾルゲル法での出発原料としては、シリコンアルコキシド(R2Si(OR’)2;Rは式(1)および(2)中のR1またはR2と同義であり、R’は炭素数1〜4のアルキル基等を示す)や、リン酸および亜リン酸から選択される少なくとも1種の酸が挙げられ、必要に応じてその他のシリコンアルコキシド、リン酸エステル、亜リン酸エステルを用いることができる。例えば、シリコンアルコキシドに、リン酸および亜リン酸から選択される少なくとも1種の酸、必要に応じて水やアルコール、塩酸などの触媒を加え、縮合反応させ、ゲル体を得る。
【0034】
混合工程の後に、ゲル体を室温〜100℃で1〜3日間乾燥させてもよい。
溶融工程および熟成工程では、ゲル体を溶融状態にして更に熟成する。溶融工程および熟成工程は通常は連続して行われ、これらの工程における加熱温度は通常60〜300℃である。ゲル体の溶融および熟成の後、適宜乾燥することにより、低軟化点を有する非晶質体が得られる。また、系内に反応活性な水酸基が残留している場合は、水酸基が加水分解−脱水縮合を起こしてクラックが生じることがあるが、熟成工程により前記クラックの発生を防止することができる。
【0035】
以上のようにして、本発明の非晶質体を得ることができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の一実施態様を、実施例をもとにより具体的に説明する。
(1)評価方法
(1−1)構造解析
非晶質体の構造を、固体29Si NMRおよび固体13C NMRにて確認した。
(1−2)吸湿性
非晶質体を、高湿雰囲気下(湿度85%、温度40℃、1気圧)に24時間置き、非晶質体の質量増加率={高湿雰囲気下に置いた後の非晶質体の質量−高湿雰囲気下に置く前の非晶質体の質量}/{高湿雰囲気下に置く前の非晶質体の質量}×100(単位:質量%)を測定した。評価基準は以下のとおりである。
【0037】
A:5質量%未満
B:5質量%以上
(1−3)軟化点
10℃/分で昇温した熱機械分析測定(TMA)での収縮量変化から軟化挙動開始点を求め、その開始温度を非晶質体の軟化点とした。
(1−4)分解温度
熱量計測定(TGA)装置(セイコー電子工業製 装置名「SEIKO I TG/DTA300」)にて、500℃を基準として、非晶質体の質量が1%減少する温度(℃)を測定し、非晶質体の分解温度とした。
(2)非晶質体の合成
[実施例1]
リン酸25質量部、亜リン酸20質量部、ジフェニルジクロロシラン10質量部を含む混合溶液を、23℃で1時間、さらに250℃で3時間加熱することにより、実施例1の非晶質体を得た。評価結果を表1に示す。
【0038】
[実施例2、比較例1〜2]
実施例1において、混合溶液の組成を表1に記載したとおりに変更したこと以外は実施例1と同様に行い、実施例2および比較例1〜2の非晶質体を得た。評価結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
・液状:23℃で流動性のある物質の状態を意味する。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の非晶質体は、低吸湿性および低軟化点を有する。したがって、前記非晶質体は、吸湿が性能に影響を及ぼすおそれのある、例えば電子部品(例:トランジスター、有機発光ダイオード)のパッシベーション膜として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される二価の構造(A1)および
式(2)で表される三価の構造(A2)
から選ばれる少なくとも一種の構造を有する非晶質体。
【化1】

[式(1)中、複数あるR1はそれぞれ独立に炭素数3以上の一価の有機基を示し、式(2)中、複数あるR2はそれぞれ独立に炭素数3以上の一価の有機基を示し、式(1)および(2)中、破線は結合手を示す。]
【請求項2】
前記R1およびR2が、それぞれ独立に炭素数6以上の炭化水素基である請求項1の非晶質体。
【請求項3】
前記炭素数6以上の炭化水素基が、アリール基である請求項2の非晶質体。
【請求項4】
非晶質体の全繰り返し構造単位100質量%に対して、二価の構造(A1)の含有割合が50〜100質量%である請求項1〜3のいずれか一項の非晶質体。