説明

非晶質酸化チタン含有複合膜形成用コーティング組成物、その製造方法および用途

【課題】 長期間にわたって非晶質状態を維持し、塗膜化が容易な、非晶質酸化チタン含有複合膜形成用コーティング組成物を提供する。
【解決手段】 (A)一般式(I)
TiR(OR4−x …(I)
(式中、Rはアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基またはアシル基、Rは炭素数1〜6のアルキル基、xは0〜2の整数を示す。)
で表されるチタンアルコキシドの加水分解縮合物、および(B)無機塩、有機塩およびアルコキシド類の中から選ばれる少なくとも1種からなり、かつ前記(A)成分と相互作用し得る金属系化合物を含む非晶質酸化チタン含有複合膜形成用コーティング組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非晶質酸化チタン含有複合膜形成用コーティング組成物、その製造方法および用途に関する。さらに詳しくは、本発明は、長期間にわたって非晶質状態を維持し、塗膜化が容易な、非晶質酸化チタン含有複合膜形成用コーティング組成物、このものを効率よく製造する方法、前記組成物を用いて得られた複合塗膜、該複合塗膜を有する物品、およびチタンアルコキシド加水分解縮合物の結晶化阻害方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属アルコキシドの加水分解縮合物は、低温合成が可能で、かつ耐熱性を有することから、コーティング液などとして、各種塗膜の形成に用いられている。特に、シランアルコキシドは、その反応性に由来する取り扱いやすさ、コスト、アルコキシドの種類の豊富さなどの点から、最も広く用いられている。
【0003】
しかしながら、シランアルコキシドの加水分解縮合物からなる塗膜は、耐水性に劣り、水分により塗膜からシリカ成分が流出しやすく、耐水性を必要とする用途には、使用しにくいという問題がある。したがって、耐水性を必要とする用途には、チタンアルコキシドの加水分解縮合物の使用が試みられている。
【0004】
このチタンアルコキシドおよび/またはその部分加水分解縮合物は、一般に極めて反応性が高く、反応溶媒として通常使用されるメタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶媒を使用する場合では反応制御が困難であり、白沈やゲル化を起し易く、コーティング剤成分として用いるには不適である場合が多い。この問題に対し、本出願人は、先にチタンアルコキシドの加水分解縮合反応の溶媒として炭素数3以上のエーテル系酸素を有するアルコール類を使用することにより、比較的安定で経時変化の少ない加水分解縮合液の製造を可能とし、このチタンアルコキシド加水分解縮合物を利用した非晶質酸化チタン系塗膜を提案した。
【0005】
しかしながら、この方法で得られたチタンアルコキシド加水分解縮合物の安定性は、炭素数3以上のエーテル系酸素を有するアルコール類とチタンアルコキシドのアルコキシル基とのエステル交換反応および/またはチタン原子への配位−脱離の準平衡効果のみに頼るものであるため、安定化という点では、必ずしも充分であるとはいえなかった。
【0006】
また、チタンアルコキシドの加水分解縮合物は非晶質性を有するが、外部環境によって結晶化しやすい上、シランアルコキシドなどと比較して反応性(高分子化)や凝集性が高いことから、コーティング液のポットライフが短い、塗膜はクラックや白化が生じやすい、他の成分との複合化が困難である、などの問題を有している。
【0007】
一方、特許文献1においては、金属アルコキシドをアルミニウム塩の存在下、有機溶媒中で加水分解縮合し、更にはアルミニウム塩の析出防止剤を含むコーティング剤が提案されている。この技術においては、金属アルコキシドにチタンアルコキシドを使用する場合、チタンアルコキシド成分の安定性を向上させる目的でアルキレングリコール又はそのモノエーテル類を混合しているが、必須成分として挙げられているアルミニウム塩は、もともと被膜を形成した場合の膜の硬度や密着性といった機械的物性の向上を目的として用いられているものであって、被膜の結晶化阻害効果を狙ったものではなく、ましてや、チタンアルコキシド自身の反応性制御を主たる目的としたものでもない。
また、この技術は、金属アルコキシドの加水分解・縮合を、アルミニウム塩の存在下に行うことを必須としている。
【0008】
【特許文献1】特開平2−258646号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような事情のもとで、長期間にわたって非晶質状態を維持し、塗膜化が容易な、非晶質酸化チタン含有複合膜形成用コーティング組成物、このものを効率よく製造する方法、前記コーティング組成物を用いて得られた複合塗膜、該複合塗膜を有する物品、およびチタンアルコキシド加水分解縮合物の結晶化阻害方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、(A)チタンアルコキシドの加水分解縮合物、および(B)前記(A)成分と相互作用し得る金属系化合物を含むコーティング液が、非晶質酸化チタン含有複合膜形成用コーティング組成物として、前記目的に適合し得ること、そして、このコーティング組成物は、チタンアルコキシドを加水分解してチタンアルコキシドの加水分解縮合物含有液を調製したのち、この加水分解縮合物含有液と、該加水分解縮合物と相互作用し得る金属系化合物とを混合することにより、効率よく製造し得ることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1) (A)一般式(I)
TiR(OR4−x …(I)
(式中、Rはアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基またはアシル基、Rは炭素数1〜6のアルキル基、xは0〜2の整数を示す。)
で表されるチタンアルコキシドの加水分解縮合物、および(B)無機塩、有機塩およびアルコキシド類の中から選ばれる少なくとも1種からなり、かつ前記(A)成分と相互作用し得る金属系化合物を含むことを特徴とする非晶質酸化チタン含有複合膜形成用コーティング組成物、
(2) (B)成分の金属系化合物が、アルミニウム化合物である上記(1)項に記載の非晶質酸化チタン含有複合膜形成用コーティング組成物、
(3) (A)成分と(B)成分を、下記の関係式(II)
5≦{(B)成分中のアルミニウム原子/[(B)成分中のアルミニウム原子+(A)成分中のチタン原子]}×100≦60 …(II)
を満たす割合で含む上記(2)項に記載の非晶質酸化チタン含有複合膜形成用コーティング組成物、
(4) アルミニウム化合物が、硝酸アルミニウムである上記(2)または(3)項に記載の非晶質酸化チタン含有複合膜形成用コーティング組成物、
(5) さらに、(C)金属化合物系微粒子を含む上記(1)〜(4)項のいずれか1項に記載の非晶質酸化チタン含有複合膜形成用コーティング組成物、
(6) (C)成分の金属化合物系微粒子が、光触媒機能を有する微粒子および/またはシリカ微粒子である上記(5)に記載の非晶質酸化チタン含有複合膜形成用コーティング組成物、
(7) さらに、(D)非晶質酸化チタンと化学結合し得る有機成分を含み、かつ非晶質酸化チタン成分の含有率が、表面から基材に向かって傾斜する、自己傾斜性を有する塗膜を形成する上記(1)〜(6)項のいずれか1項に記載の非晶質酸化チタン含有複合膜形成用コーティング組成物、
(8) (a)有機溶媒中において、前記一般式(I)で表されるチタンアルコキシドを加水分解し、チタンアルコキシドの加水分解縮合物含有液を調製する工程、および
(b)前記(a)工程で得られたチタンアルコキシドの加水分解縮合物含有液と、無機塩、有機塩およびアルコキシド類の中から選ばれる少なくとも1種からなり、かつ前記チタンアルコキシドの加水分解縮合物と相互作用し得る金属系化合物とを混合する工程、
を含むことを特徴とする非晶質酸化チタン含有複合膜形成用コーティング組成物の製造方法、
(9) 上記(1)〜(7)項のいずれか1項に記載の非晶質酸化チタン含有複合膜形成用コーティング組成物を用いて得られたことを特徴とする非晶質酸化チタン複合塗膜、
(10) 基材上に上記(9)項に記載の非晶質酸化チタン複合塗膜を有することを特徴とする物品、
(11) 非晶質酸化チタン複合塗膜が、有機系化合物層と、無機系または金属系化合物層の中間層として形成されている上記(10)項に記載の物品、
(12) 非晶質酸化チタン複合塗膜が最表面層にあり、かつ光触媒機能を発現する上記(10)項に記載の物品、
(13) 非晶質酸化チタン複合塗膜が最表面層にあり、かつ光触媒機能を発現すると共に、固体酸性を示す上記(10)項に記載の物品、
(14) 中間層として、自己傾斜性を有する非晶質酸化チタン複合塗膜が設けられている上記(12)または(13)項に記載の物品、および
(15) (A)前記一般式(I)で表されるチタンアルコキシドの加水分解縮合物に、(B)無機塩、有機塩およびアルコキシド類の中から選ばれる少なくとも1種からなり、かつ前記(A)成分と相互作用し得る金属系化合物を混合することを特徴とする、チタンアルコキシドの加水分解縮合物の結晶化阻害方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、長期間にわたって非晶質状態を維持し、塗膜化が容易な、非晶質酸化チタン含有複合膜形成用コーティング組成物、およびこのものを効率よく製造する方法を提供することができる。また、前記コーティング組成物を用いて得られた複合塗膜、該複合塗膜を有する物品、およびチタンアルコキシド加水分解縮合物の結晶化阻害方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の非晶質酸化チタン含有複合膜形成用コーティング組成物(以下、単にコーティング組成物と称することがある。)は、(A)一般式(I)
TiR(OR4−x …(I)
で表されるチタンアルコキシドの加水分解縮合物、および(B)無機塩、有機塩およびアルコキシド類の中から選ばれる少なくとも1種からなり、かつ前記(A)成分と相互作用し得る金属系化合物を含むことを特徴とする。
【0014】
本発明のコーティング組成物においては、(A)成分として、前記一般式(I)で表されるチタンアルコキシドの加水分解縮合物を含有する。該一般式(I)において、Rはアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基またはアシル基、Rは炭素数1〜6のアルキル基、xは0〜2の整数を示す。Rは非加水分解性基であって、そのうちのアルキル基は、炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、また、アルケニル基およびアルキニル基は、炭素数2〜20のものが好ましい。アリール基は、炭素数6〜20、アラルキル基は、炭素数7〜20のものが好ましい。さらに、アシル基としては、炭素数2〜20の脂肪族アシル基や、炭素数7〜20の芳香族アシル基(アロイル基)を好ましく挙げることができる。
【0015】
一方、ORは加水分解性基であって、Rで示される炭素数1〜6のアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、その例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。xは0〜2の整数であり、Rが複数ある場合、各Rはたがいに同一であってもよいし、異なっていてもよく、またORが複数ある場合、各ORはたがいに同一でもよいし、異なっていてもよい。
【0016】
この一般式(I)で表されるチタンアルコキシドの中ではチタンテトラアルコキシドが好ましく、該チタンテトラアルコキシドの例としては、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラ−n−プロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラ−n−ブトキシド、チタンテトライソブトキシド、チタンテトラ−sec−ブトキシドおよびチタンテトラ−tert−ブトキシドなどが好ましく挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
本発明のコーティング組成物には、有機溶媒が用いられる。この有機溶媒としては、アルコール類が好ましく、炭素数3以上のエーテル系酸素を有するアルコール類が、加水分解−縮合反応の制御および縮合物の安定化の点からさらに好ましい。この炭素数3以上のエーテル系酸素を有するアルコール類としては、チタンアルコキシドに対して相互作用を有する溶剤、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルなどのセロソルブ系溶剤、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルなどを挙げることができる。これらの中で、特にセロソルブ系溶剤が好ましい。これらの溶剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
チタンテトラアルコキシドの加水分解−縮合反応は、チタンテトラアルコキシドに対し、好ましくは4〜20倍モル、より好ましくは5〜12倍モルの前記アルコール類と、好ましくは0.5以上4倍モル未満、より好ましくは1〜3.0倍モルの水を用い、塩酸、硫酸、硝酸などの酸性触媒の存在下、通常0〜70℃、好ましくは20〜50℃の範囲の温度において行われる。酸性触媒は、チタンテトラアルコキシドに対し、通常0.1〜1.0倍モル、好ましくは0.2〜0.7倍モルの範囲で用いられる。
【0019】
本発明のコーティング組成物においては、(B)成分として、無機塩、有機塩およびアルコキシド類の中から選ばれる少なくとも1種からなり、かつ前記(A)成分と相互作用し得る金属系化合物を含有する。この(B)成分の金属系化合物は、前記(A)成分であるチタンアルコキシドの加水分解縮合物の反応抑制や結晶化阻害作用を発現させるために含有される成分である。
【0020】
当該金属系化合物の具体例としては、硝酸、酢酸、硫酸、塩化アルミニウムならびにジルコニウムの各塩類、ならびに、これら無機塩類の水和物、アルミニウムトリアセチルアセトナートなどのアルミニウムキレート類、テトラ−n−プロポキシジルコニウム、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシランなどの金属アルコキシド類、ならびにこれら化合物の加水分解物、あるいは、その縮合物を挙げることができる。これらの中で、アルミニウム化合物が好ましく、特に硝酸アルミニウムおよびその水和物が好適である。当該金属系化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
当該金属系化合物は、はじめからある程度の大きさをもった板状、棒状、粒子状のゾルでは、前記作用が発現されにくく、分子レベルのものが効果的に作用を発現することができる。
【0022】
当該金属系化合物は、チタンアルコキシドの加水分解縮合物を生成させておいたのちに加える。チタンアルコキシドを当該金属系化合物の存在下で加水分解縮合反応させる場合、チタンアルコキシドの加水分解縮合反応の進行が大きく妨げられ、所望の分子量まで反応させるために多くの時間が必要となる。
【0023】
本発明のコーティング組成物における、前記(A)成分と(B)成分との含有割合としては、例えば(B)成分として、硝酸アルミニウムなどのアルミニウム化合物を用いた場合、下記の関係式(II)
5≦{(B)成分中のアルミニウム原子/[(B)成分中のアルミニウム原子+(A)成分中のチタン原子]}×100≦60 …(II)
を満たす割合であることが好ましい。
【0024】
前記(II)式の値が5未満では、チタンアルコキシド加水分解縮合物の反応抑制効果や結晶化阻害効果が得られにくく、一方、60を超えると、非晶質酸化チタンが本来有する性質が損なわれるおそれが生じる。前記割合のより好ましい値は、10〜50の範囲である。
【0025】
本発明のコーティング組成物においては、必要に応じ、(C)成分として、金属化合物系微粒子を含有させることができる。具体的には、この金属化合物系微粒子としては、化学的に安定、入手容易であり、かつ安価であることなど、実用上使用に耐えうるものであれば特に制限はないが、TiO、SiO、Al、WO、ZnO、SrTiO、CdS、GaP、InP、In、GaAs、BaTiO、KNbO、Fe、Ta、SnO、Bi、NiO,CuO、SiC、MoS、InPbなどを例示することができる。
【0026】
また、これらは、pH=7の水中におけるゼータ電位がアニオン性を示すものを固体酸性、カチオン性を示すものを固体塩基性に大類することができる。具体的には、固体酸性を示すものとして、SiO、WO、TiOなどが挙げられ、固体塩基性を示すものとしては、Alなどが挙げられる。
【0027】
特に本発明においては、金属化合物系微粒子としては、光触媒機能を有する微粒子および/またはシリカ微粒子、特にコロイダルシリカが挙げられる。その含有率は、光触媒機能を有する微粒子が5〜50質量%、コロイダルシリカが25〜75質量%の範囲が好ましい。光触媒機能を有する微粒子の含有率が5質量%未満では、光触媒膜としての有機物の分解能力や超親水化能力が十分に発揮できず、一方、50質量%を超えると光触媒活性は向上するものの、他の金属化合物系微粒子を併用した場合においてはその含有率が相対的に低くなるために、例えば、コロイダルシリカを併用する場合などにおいて、塩基性物質の吸着による除去能力が小さくなり、光触媒粒子の分解能力が十分に生かされなかったり、保水性が小さくなるために暗所における超親水性維持能力が低くなる可能性があるため、実用上、有用ではない。
前記光触媒機能を有する微粒子としては、好ましくは、アナターゼ型結晶を主成分とする酸化チタン粒子を用いることができる。
【0028】
前記アナターゼ型結晶を主成分とする酸化チタン微粒子(以下、アナターゼ結晶酸化チタン粒子と称すことがある。)は、光触媒粒子であり、少量のルチル型結晶が混在していてもよく、表面がシリカなどで部分的あるいは全体的に被覆されているものでも良い。また、窒化チタンや低次酸化チタン等を一部含む可視光応答型の光触媒粒子も使用することができる。このアナターゼ結晶酸化チタン粒子の平均粒子径は、1〜500nmの範囲が好ましく、1〜100nmの範囲がより好ましく、1〜50nmの範囲が優れた光触媒機能を有するために最も好ましい。上記平均粒子径は、レーザー光を利用した散乱法によって測定することができる。
【0029】
また、当該酸化チタン粒子の内部および/またはその表面に、第二成分として、V、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ru、Rh、Pd、Ag、PtおよびAuの中から選ばれる少なくとも1種の金属および/または金属化合物を含有させると、一層高い光触媒機能を有するため好ましい。前記の金属化合物としては、例えば、金属の酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、硫酸塩、ハロゲン化物、硝酸塩、さらには金属イオンなどが挙げられる。第二成分の含有量はその物質の種類に応じて適宜選定される。
【0030】
このアナターゼ結晶酸化チタン粒子は、従来公知の方法によって製造することができるが、塗工液中に均質に分散させるために酸化チタンゾルの形態で用いるのが有利である。該酸化チタンゾルを製造するには、例えば粉末状のアナターゼ結晶酸化チタンを酸やアルカリの存在下で解こうさせてもよいし、粉砕によって粒子径を制御してもよい。また、硫酸チタンや塩化チタンを熱分解あるいは中和分解して得られる含水酸化チタンを物理的、化学的な方法で結晶子径、粒子径の制御を行ってもよい。さらにゾル液中での分散安定性を付与するために、分散安定剤を使用することができる。
【0031】
一方、コロイダルシリカは光触媒膜に、暗所保持時においても超親水維持性能を発現させる作用を有している。
【0032】
光触媒は、紫外線などの光の照射によって、その表面に存在する有機物質を分解する性質や、超親水化を発現するが、暗所では、一般にこのような光触媒機能が発現されない。しかし、本発明のように、光触媒膜中にコロイダルシリカを含有させることにより、該光触媒膜は、暗所でも超親水維持性能を発現する。
【0033】
また、本発明のコーティング組成物が、(C)成分として、アナターゼ型酸化チタン微粒子およびコロイダルシリカを含み、その光触媒機能を利用して、特に、塩基性物質の吸着による除去を目的とする廃液浄化用途等に使用される場合は、コロイダルシリカは中性領域でゼータ電位が−20mV未満が好ましく、より好ましくは−40mV未満である。一方、中性領域でのゼータ電位が−20mV以上のものは、すなわち表面エネルギーが低いと解することができる。これらは、同じく表面エネルギーが低い有機溶媒中に対する濡れ性は良好であり、また、表面電荷が小さいため、チタンアルコキシドの加水分解縮合物との相互作用も弱く、有機溶媒系コーティング液中では比較的安定性は高いと考えられる。しかし、その一方で、表面電荷が小さいために、塗膜化した後の塩基性物質の除去能力に劣るという問題が生じる。
【0034】
なお、超親水化機能を利用した防汚性付与を目的とする場合には、コロイダルシリカのゼータ電位が−20mV以上でも保水性は十分に有しており特に問題はなく、加えて、後述する金属化合物系微粒子の含有率が塗膜の表面から深さ方向に連続的に変化する成分傾斜構造を有する複合塗膜を得る場合には、ゼータ電位が−20mV以上のコロイダルシリカなどチタンアルコキシド加水分解縮合物との相互作用が小さいものを選ぶことで容易に該複合塗膜を作製することができる。
【0035】
このコロイダルシリカは、高純度の二酸化ケイ素(SiO)を水またはアルコール系溶剤に分散させてコロイド状にした製品であって、平均粒子径は、通常1〜200nm、好ましくは5〜50nmの範囲である。シリコンアルコキシドの加水分解縮合物では、反応が終結していないので、水で溶出されやすく、それを含む光触媒膜は耐水性に劣る。一方、コロイダルシリカは、反応終結微粒子であるため、水で溶出されにくく、それを含む光触媒膜は、耐水性が良好なものとなる。
【0036】
このコロイダルシリカは、その他に塗膜の強度や硬度を向上させる作用の他に、表面を凹凸化させる作用も発現させる場合がある。
【0037】
本発明のコーティング組成物に光触媒機能を付与する場合には、前記(A)成分であるチタンアルコキシドの加水分解縮合物と(B)成分である金属系化合物を含む液に、(C)成分として、所定量のアナターゼ結晶酸化チタンゾルと場合によりコロイダルシリカを加え、均質に分散させることにより、調製することができる。
【0038】
このようにして調製された光触媒機能を有するコーティング組成物を適当な基材上に、公知の方法、例えばディップコート法、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法などにより塗布し、成膜したのち、自然乾燥または加熱乾燥することにより、所望の光触媒膜が得られる。加熱乾燥する場合は、200℃以下の温度を採用することができる。このように、成膜したのち、低温での保持処理により、形成された光触媒膜は、十分な光触媒機能を発現し得るので、基材としては、例えばセラミックス、ガラス、金属、合金などの耐熱性に優れる無機基材の他に、耐熱性に劣る有機基材も好適に用いることができる。
【0039】
このように、光触媒膜のバインダー成分として、非晶質酸化チタンを用いることにより、促進耐候試験下に曝露されても、バインダー成分の結晶化が抑えられるため、機械的特性の低下、クラックの発生および透明性の低下などが抑制される。
【0040】
本発明のコーティング組成物は、さらに、(D)非晶質酸化チタンと化学結合し得る有機成分を含み、かつ非晶質酸化チタン成分の含有率が、表面から基材に向かって傾斜する、自己傾斜性を有する塗膜を形成し得る組成物とすることができる。
【0041】
この(D)成分である非晶質酸化チタンと化学結合し得る有機成分としては、例えば(a)金属を含まないエチレン性不飽和単量体と、(b)カップリング性ケイ素含有基を有するエチレン性不飽和単量体とを共重合させることにより得られる有機高分子化合物を好ましく挙げることができる。
【0042】
上記(D)(a)成分である金属を含まないエチレン性不飽和単量体としては、例えば一般式(III)
【0043】
【化1】

(式中、Rは水素原子またはメチル基、Xは一価の有機基である。)
で表されるエチレン性不飽和単量体、好ましくは一般式(III−a)
【0044】
【化2】

(式中、Rは水素原子またはメチル基、Rは一価の炭化水素基またはエポキシ基、ハロゲン原子若しくはエーテル結合を有する炭化水素基を示す。)
で表されるエチレン性不飽和単量体を一種または二種以上混合して使用しても良い。
【0045】
上記一般式(III−a)で表されるエチレン性不飽和単量体において、Rで示される炭化水素基としては、炭素数1〜10の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基を好ましく挙げることができる。炭素数1〜10のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、および各種のブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基などが挙げられる。炭素数3〜10のシクロアルキル基の例としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロオクチル基などが、炭素数6〜10のアリール基の例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、メチルナフチル基などが、炭素数7〜10のアラルキル基の例としては、ベンジル基、メチルベンジル基、フェネチチル基、ナフチルメチル基などが挙げられる。エポキシ基、ハロゲン原子若しくはエーテル結合を有する炭化水素基としては、これらの基、原子若しくは結合を有する炭素数1〜10の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基を好ましく挙げることができる。上記置換基のハロゲン原子としては、塩素原子等が挙げられる。
【0046】
この一般式(III−a)で表されるエチレン性不飽和単量体の例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、3−グリシドキシプロピル(メタ)アクリレート、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、2−クロロエチル(メタ)アクリレート、2−ブロモエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
また、前記一般式(III)で表されるエチレン性不飽和単量体としては、これら以外にもスチレン、α−メチルスチレン、α−アセトキシスチレン、m−、o−またはp−ブロモスチレン、m−、o−またはp−クロロスチレン、m−、o−またはp−ビニルフェノール、1−または2−ビニルナフタレンなど、さらにはエチレン性不飽和基を有する重合性高分子用安定剤、例えばエチレン性不飽和基を有する、酸化防止剤、紫外線吸収剤および光安定剤なども用いることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
一方、(D)(b)成分であるカップリング性ケイ素含有基を有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば一般式(IV)
【0049】
【化3】

(式中、Rは水素原子またはメチル基、Aは炭素数1〜4のアルキレン基、Rはメチル基又はエチル基を示す。)
で表される化合物を好ましく挙げることができる。前記一般式(IV)において、3つのRはたがいに同一でも異なっていてもよい。
【0050】
この一般式(IV)で表されるエチレン性不飽和単量体の例としては、2−(メタ)アクリロキシエチルトリメトキシシラン、2−(メタ)アクリロキシエチルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
この(b)成分のカップリング性ケイ素含有基を有するエチレン性不飽和単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
前記(a)成分の金属を含まないエチレン性不飽和単量体と、(b)成分のカップリング性ケイ素含有基を有するエチレン性不飽和単量体とを、ラジカル重合開始剤の存在下、ラジカル重合させることにより、(D)成分の成分として用いられるカップリング性ケイ素含有基を有する有機高分子化合物が得られる。
【0052】
本発明においては、このようにして得られた(D)成分であるカップリング性ケイ素含有基を有する有機高分子化合物をアルコール、ケトン、エーテルなどの適当な溶剤中に溶解させた溶液と、前述の(A)成分であるチタンアルコキシドの加水分解縮合物と、(B)成分である金属系化合物と、必要により(C)成分である金属化合物系微粒子を含む液とを混合することにより、前記有機高分子化合物中のカップリング性ケイ素含有基が加水分解し、(A)成分の反応液におけるチタンアルコキシドの加水分解縮合物と選択的に反応し、自己傾斜性を有する塗膜形成用のコーティング組成物が得られる。なお、この際、用いるチタンアルコキシドの加水分解縮合物を含む反応液の希釈溶媒としては、前述した理由により炭素数3以上のエーテル系酸素を有するアルコール類を含む溶媒を使用することが望ましい。
【0053】
このようなコーティング組成物を用いることにより、有機基材に塗布、乾燥した際に、実質上有機基材側が有機高分子化合物成分で、その反対側が非晶質酸化チタン成分であって、両者の含有割合が膜厚方向に連続的に変化する良好な成分傾斜構造を有する塗膜を、安定して形成することができる。
【0054】
この自己傾斜性を有する塗膜は無機成分として非晶質酸化チタン成分を含むことにより、促進耐候試験下に曝露されても、無機成分の結晶化が抑えられるため、機械的特性の低下、クラックの発生、透明性の低下などが抑制される。
【0055】
有機基材上に、自己傾斜性を有する塗膜を形成させるには、このようにして得られた本発明のコーティング組成物を、乾燥塗膜の厚さが、通常5μm以下、好ましくは0.01〜1.0μm、より好ましくは0.02〜0.7μmの範囲になるように、ディップコート法、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法などの公知の手段により塗布し、溶媒を揮散させて塗膜を形成させる。
【0056】
上記有機基材としては、例えばポリメチルメタクリレートなどのアクリル樹脂、ポリスチレンやABS樹脂などのスチレン系樹脂、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂、6−ナイロンや6,6−ナイロンなどのポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリイミド系樹脂、セルロースアセテートなどのセルロース系樹脂などからなる基材を挙げることができる。
【0057】
これらの有機基材は、本発明に係る自己傾斜性を有する塗膜との密着性をさらに向上させるために、所望により、酸化法や凹凸化法などにより表面処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は基材の種類に応じて適宜選ばれる。
【0058】
なお、本発明における有機基材は、有機系材料以外の材料、例えば金属系材料、ガラスやセラミックス系材料、その他各種無機系または金属系材料からなる基材の表面に、有機系塗膜を有するものも包含する。
【0059】
また、塗膜の傾斜構造の確認は、例えば塗膜表面にスパッタリングを施して膜を削っていき、経時的に膜表面の炭素原子とチタン原子の含有率を、X線光電子分光法などにより測定することによって、行うことができる。
【0060】
この自己傾斜性を有する塗膜における金属成分の含有量としては特に制限はないが、金属酸化物換算で、通常5〜98重量%、好ましくは20〜98重量%、特に好ましくは50〜95重量%の範囲である。有機高分子化合物の重合度や分子量としては、製膜化しうるものであればよく特に制限されず、高分子化合物の種類や所望の塗膜物性などに応じて適宜選定すればよい。
【0061】
次に、本発明の非晶質酸化チタン含有複合膜形成用コーティング組成物の製造方法は、
(a)有機溶媒中において、一般式(I)で表されるチタンアルコキシドを加水分解し、チタンアルコキシドの加水分解縮合物含有液を調製する工程、および
(b)前記(a)工程で得られたチタンアルコキシドの加水分解縮合物含有液と、無機塩、有機塩およびアルコキシド類の中から選ばれる少なくとも1種からなり、かつ前記チタンアルコキシドの加水分解縮合物と相互作用し得る金属系化合物とを混合する工程、
を含むことを特徴とする。
【0062】
前記(a)工程において、チタンアルコキシドの加水分解−縮合反応に用いる有機溶媒としては、前述で例示した炭素数3以上のエーテル系酸素を有するアルコール類が好適である。また、加水分解−縮合条件としては、前述で示したとおりである。
【0063】
本発明の方法においては、次の(b)工程において、前記(a)工程で得られたチタンアルコキシドの加水分解縮合物含有液と、該加水分解縮合物と相互作用し得る金属系化合物、好ましくは硝酸アルミニウムなどのアルミニウム化合物とを混合する。
【0064】
前記(a)工程において、前記金属系化合物の存在下に、チタンアルコキシドの加水分解−縮合反応をさせる場合、該チタンアルコキシドの加水分解−縮合反応の進行が大きく妨げられ、所望の分子量まで反応させるために、長時間が必要となる。
【0065】
本発明の方法においては、このようにして得られたコーティング組成物に、必要に応じて、前記(C)成分として説明した金属化合物系微粒子および/または(D)成分として説明した非晶質酸化チタンと化学結合し得る有機成分を含有させることができる。
【0066】
本発明はまた、前述の本発明の非晶質酸化チタン含有複合膜形成用コーティング組成物を用いて得られた非晶質酸化チタン複合塗膜、および基材上に前記非晶質酸化チタン複合塗膜を有する物品をも提供する。
【0067】
前記物品としては、非晶質酸化チタン複合塗膜が、有機系化合物層と、無機系または金属系化合物層の中間層として形成されているものが好ましい。
【0068】
また、非晶質酸化チタン複合塗膜が最表面層にあり、かつ光触媒機能を発現する物品が好ましく、特に、非晶質酸化チタン複合塗膜が最表面層にあり、かつ光触媒機能を発現すると共に、固体酸性を示す物品が、例えば廃液浄化用途などの面から、好適である。
【0069】
さらに、最表面層が光触媒機能を有する物品においては、中間層として、自己傾斜性を有する非晶質酸化チタン複合塗膜が設けられていることが好ましい。
【0070】
この場合、本発明のコーティング組成物を用いて形成された自己傾斜性を有する複合塗膜上に、前述の光触媒機能を有する本発明のコーティング組成物を塗布、成膜したのち、200℃以下の温度で保持処理して、光触媒層を設けることができる。この光触媒層の厚みは、通常10nm〜5μmの範囲で選定される。この厚みが10nm未満では光触媒機能が十分に発揮されないし、5μmを超えると厚みの割には光触媒機能の向上効果が認められず、むしろクラックが生じたりする原因となる。好ましい厚みは20nm〜2μmであり、特に20nm〜1μmの範囲が好ましい。
【0071】
このようにして形成された光触媒層は、特に超親水性、暗所での超親水性維持性能などの光触媒機能に優れると共に、耐水性や機械的強度が良好であって、上記機能を長期間にわたって保持し得る良好な耐久性を有している。
【0072】
本発明において、自己傾斜性を有する複合塗膜の無機成分や、光触媒層のバインダー成分に、当該非晶質酸化チタンを用いることにより、促進耐候試験下に曝露されても、前記無機成分やバインダー成分の結晶化が抑えられるため、機械的特性の低下を大幅に抑制することができる。また、亀裂発生が抑えられ、長期透明性を維持することができる。
【0073】
本発明の物品において用いられる基材の種類に特に制限はなく、有機基材および無機基材のいずれも用いることができるが、自己傾斜性を有する複合塗膜を設ける場合には、前述したように有機基材を用いる。
【0074】
本発明はまた、(A)前記一般式(I)で表されるチタンアルコキシドの加水分解縮合物に、(B)無機塩、有機塩およびアルコキシド類の中から選ばれる少なくとも1種からなり、かつ前記(A)成分と相互作用し得る金属系化合物を混合することを特徴とする、チタンアルコキシドの加水分解縮合物の結晶化阻害方法をも提供する。
【0075】
この(A)成分と相互作用し得る金属系化合物を混合することによって、本発明は下記の効果を奏する。
(1)チタンアルコキシドの加水分解縮合物が結晶化しにくくなり、非晶質状態を維持できる。
(2)チタンアルコキシドの加水分解縮合物が高分子化しにくくなる。
(3)上記(2)によって、コーティング液を成膜した後に塗膜に発生する急激な収縮が防止され、クラックが発生しにくくなり、安定的に膜化が可能なコーティング剤となる。
(4)上記(2)によって、コーティング液中のチタンアルコキシドの加水分解縮合物が安定化し、液のポットライフが長くなる。
(5)上記(2)によって、コーティング液中にチタンアルコキシドの加水分解縮合物と反応するような第三成分を複合しても、反応して一体化しにくくなる。
(6)上記(5)によって、シリカなどの金属酸化物微粒子を添加して膜化した場合に、金属酸化物微粒子表面がチタンアルコキシドの加水分解縮合物に覆われることなく、該金属酸化物微粒子を膜の最表面に存在させることができる。
【実施例】
【0076】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0077】
なお、諸特性は以下に示す方法に従って求めた。
(1)チタンアルコキシド加水分解縮合物の光散乱強度測定
大塚電子(株)製のゼータ電位測定機「ELS−8000」を用いて、チタンアルコキシド加水分解縮合物の光散乱強度を測定した。
なお、光散乱強度は以下の式(a)で表され(I=光散乱強度、I=入射光強度、n=溶媒の屈折率、M=溶質の重量平均分子量、c=溶質濃度、(dn/dc)=溶質の濃度増あたりの屈折率増分、λ=入射光波長、r=試料から検出器までの距離、N=アボガドロ数)、Mに相当する分子サイズ、つまりゾルの成長に比例した値が観測される。
【0078】
【数1】

【0079】
(2)金属化合物系微粒子のZ電位
金属化合物系微粒子分散液を純水にて100倍希釈したのち、0.01モル/Lの塩酸水溶液あるいは0.01モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液でpH=7に調整した。その後、ゼータ電位測定機(大塚電子(株)製「ELS−8000」)を用いて、微粒子の表面電位を測定した。
【0080】
(3)塗工液の安定性
塗工液を作製したのち、室温(15〜20℃)で放置し、3日後の塗工液の状態を観察し、沈殿、ゲル化が生じている場合は×、沈殿、ゲル化は生じていないが白濁、あるいは色目が強くなっている場合は△、僅かに白濁、あるいは色目が強くなっている場合は○、ほとんど変化が認められない場合は◎として評価した。
【0081】
(4)光触媒含有被膜のメチレンブルーの吸着特性
塩基性染料のメチレンブルーを使用して、光触媒含有被膜の塩基性物質に対する吸着特性の評価を行った。
具体的には、作製した光触媒含有担持ガラスマットを直径8cmのシャーレに入れ、濃度100ppmのメチレンブルー水溶液を50mL加えた後、蓋をして攪拌しながら暗所下で3日間静置した。その後シャーレ内の水溶液を取り出してメチレンブルー水溶液の濃度CをABS法で測定した。得られた結果を元に、以下の式(b)に従って分配係数Kを求めた。被検体のメチレンブルーに対する吸着特性が強ければ、分配係数Kが大きくなり、K≧10で優れた吸着特性を示す。
分配係数K=(100ppm−濃度Cppm)/濃度Cppm …(b)
【0082】
(5)光触媒含有被膜のサンセットイエローの吸着特性
酸性染料のサンセットイエローを使用して、光触媒含有被膜の酸性物質に対する吸着特性の評価を行った。
具体的には、作製した光触媒含有担持ガラスマットを直径8cmのシャーレに入れ、濃度100ppmのサンセットイエロー水溶液を50mL加えた後、蓋をして攪拌しながら暗所下で3日間静置した。その後シャーレ内の水溶液を取り出してサンセットイエロー水溶液の濃度CをABS法で測定した。得られた結果を元に、以下の式(c)に従って分配係数Kを求めた。被検体のサンセットイエローに対する吸着特性が強ければ、分配係数Kが大きくなり、K≧10で優れた吸着特性を示す。
分配係数K=(100ppm−濃度Cppm)/濃度Cppm …(c)
【0083】
(6)傾斜性
成分傾斜膜の傾斜構造については、XPS(アルバック・ファイ(株)製「PHI−5600」)を用い、アルゴンスパッタリング4kVを3分間隔で施して膜を削り、膜表面の炭素原子と金属原子の含有率をX線電子分光法により測定することにより調べた。
【0084】
(7)耐候性評価
成分傾斜膜と光触媒含有被膜を順次積層させたPETフィルムをカーボンアーク式サンシャインウエザーメーター(SWM)による促進耐候試験を1500時間実施したのち、促進耐候試験前後のフィルムのヘイズ値(JISK7361に準拠)の上昇度を調べた。SWM試験条件を以下に示す。なお、通常、塗膜のクラックの発生の度合いとヘイズ値には比例的な相関関係が認められる。クラックは主に非晶質酸化チタンの反応に伴う面方向の収縮によって引き起こされると考えられる。
【0085】
<SWM試験条件>
(装置名)スガ試験機(株)「サンシャインウエザーメーターS300」
(測定条件)照度:255±25W/m、サイクル:照射102分間、照射+降雨18分間の2時間1サイクル、BPT:63±3℃、相対湿度:55±5%RH
【0086】
合成例1 チタンアルコキシドの加水分解縮合液の合成
エチルセロソルブ149gに、チタンテトライソプロポキシド(商品名:A−1、日本曹達(株)製)75.7gを攪拌しながらゆっくりと滴下し溶液(A)を得た。この溶液(A)にエチルセロソルブ58.3g、蒸留水4.55g、60質量%濃硝酸12.6gの混合溶液を攪拌しながら滴下し溶液(B)を得た。溶液(B)をその後、30℃で4時間攪拌を行うことによってチタンアルコキシドの加水分解縮合液(C)を得た。
この溶液の光散乱強度を測定したところ約13000cpsであった。
【0087】
合成例2 有機成分の合成
1Lセパラブルフラスコに窒素雰囲気下でメチルイソブチルケトン424.0g、メタクリル酸メチル200.0g、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン25.3gを添加し、60℃まで昇温した。この混合溶液にアゾビスイソブチロニトリル1.9gを溶かしたメチルイソブチルケトン溶液を滴下し重合反応を開始し、30時間攪拌して有機成分溶液(G)を得た。
【0088】
参考例1 硝酸アルミニウム・九水和物を混合したチタンアルコキシドの加水分解縮合液の光散乱強度測定
合成例1で作製した加水分解縮合液(C)と硝酸アルミニウム・九水和物(純度99%、和光純薬工業(株)製)を用いて、前者から得られる固形分をTiO、後者から得られる固形分をAl(NOと見なし、それぞれ質量換算で表1の濃度になるようにエチルセロソルブで希釈した液を準備し、室温下で70時間攪拌した後の光散乱強度を測定した。
【0089】
その結果は表1の試験例No.1〜7に示すように、硝酸アルミニウム・九水和物の添加によって、チタンアルコキシドの加水分解縮合物の光散乱強度の増加(≒ゾルの成長)が抑えられることが判明した。ここに試験例No.4〜6は、チタンアルコキシドの加水分解縮合物と硝酸アルミニウム・九水和物を含む系であるので、本発明の実施例に相当するものである。
【0090】
なお、硝酸アルミニウム・九水和物のみが含まれる系(試験例7)において、光散乱強度は1000cps以下の値を示し、値の増加もほとんど観測されなかった。なお、通常、清浄な溶媒のみを測定した場合でも、その光散乱強度は1000cps以下を示す。つまり、硝酸アルミニウム・九水和物は当該測定では観測されていないと解釈できる。言い換えれば、光散乱強度の増加はチタンアルコキシドの加水分解縮合物の成長のみを捉えていると考えられる。
【0091】
【表1】

【0092】
<チタンアルコキシド加水分解縮合時の水添加量の影響調査>
参考例2
エチルセロソルブ453gに、チタンテトライソプロポキシド(商品名:A−1、日本曹達(株)製)230gを攪拌しながらゆっくりと滴下し溶液を得た。この溶液を30℃の温浴中で攪拌しているところに、エチルセロソルブ177g、蒸留水13.8g、60質量%濃硝酸38.4gの混合溶液を滴下し溶液(S1)を得た。
この溶液の光散乱強度を測定したところ、調製直後は約9000cps、4時間攪拌後の溶液(S1’)は約14500cpsの値を示し、光散乱強度上昇度は1375cps/hであった。
【0093】
参考例3
蒸留水を20.7gにした以外は参考例2と同様にしてチタンアルコキシドの加水分解縮合液(S2)を得た。
この溶液の光散乱強度を測定したところ、調製直後は約9500cps、4時間攪拌後の溶液(S2’)は約23500cpsの値を示し、光散乱強度上昇度は3500cps/hであった。
参考例2および参考例3の結果から、チタンアルコキシドの加水分解縮合反応に水の添加率が大きく影響することが明らかである。
よって、以下の参考例4、5では水の添加量を両者で同一になるようにして、得られる反応物の光散乱強度の比較を行った。なお、ここで使用した硝酸アルミニウムは九水和物であり、この含水分も反応に関与すると考えられるため、含水分も考慮して水の添加量を調整した。
【0094】
<硝酸アルミニウムの添加のタイミングの影響>
参考例4
参考例2で得た溶液(S1’)にエチルセロソルブ30gに硝酸アルミニウム・九水和物16gを溶解させたものを加え、さらに11時間攪拌して、トータルで15時間の攪拌を実施し、溶液(T3)を得た。(この場合の最終的な水の添加量は20.7gとなる)。
この溶液の光散乱強度を測定したところ、約16500cpsであった。さらに攪拌を続け、トータル30時間の攪拌を実施したところ、18000cpsであった。
【0095】
参考例5
エチルセロソルブ453gに、チタンテトライソプロポキシド(商品名:A−1、日本曹達(株)製)230gを攪拌しながらゆっくりと滴下し溶液を得た。この溶液を30℃の温浴中で攪拌しているところに、エチルセロソルブ177g、蒸留水6.9g、60質量%濃硝酸38.4g、硝酸アルミニウム・九水和物16gの混合溶液を滴下し溶液(S4)を得た。(この段階での水の添加量は13.8gとなる)。
この溶液の光散乱強度を測定したところ、調製直後は約9000cps、4時間攪拌したあとの溶液(S4’)の光散乱強度を測定したところ約12400cpsであった。
【0096】
さらにこの溶液にエチルセロソルブ30gと蒸留水6.9gを滴下したのち、さらに11時間攪拌して、トータル15時間の攪拌を実施し、溶液(T4)を得た。(この場合の最終的な水の添加量は20.7gとなる)。
この溶液の光散乱強度を測定したところ、約15000cpsであった。さらに攪拌を続け、トータル30時間の攪拌を実施したところ、17800cpsであった。
【0097】
参考例4、5の結果を表2に示す。
以上の結果から、硝酸アルミニウム存在下でチタンアルコキシドの加水分解−縮合反応をさせる場合、一定の大きさまで成長させるために多くの時間が必要となる。参考例4および5の硝酸アルミニウムの含有率を(II)式に従い算出するといずれも5mol%であるが、言うまでもなく、これよりも含有率が高い場合は、より一層の反応時間が必要となってくる。
【0098】
【表2】

【0099】
実施例1
(1)塗工液の調製
エチルセロソルブ35.1gに硝酸アルミニウム・九水和物(純度99%、和光純薬工業(株)製)1.22gを溶解させ、続いて合成例1で作製した合成液(C)を3.66g加えてよく攪拌し溶液(D−1)を得た。
エチルセロソルブ332gと1−プロパノール365gの混合溶媒に、溶液(D−1)を34g加えてよく攪拌した。次に蒸留水7.56g、60質量%濃硝酸3.36gを加えてよく攪拌し、続いてアナターゼ型光触媒酸化チタンゾル(商品名PC−203、濃度20質量%、チタン工業(株)製)を14.3g加えてよく攪拌し溶液(E−1)を得た。
溶液(E−1)にpH=7.0におけるZ電位特性が約−50mVであるシリカゾル(商品名スノーテックスOXS、濃度10質量%、日産化学工業(株)製)を43.8g加えてよく攪拌し、光触媒含有塗工液(F−1)を作製した。
該塗工液(F−1)を室温下で3日間放置したものは、僅かに白濁が強くなっていた以外は特に異常は見られなかった。
【0100】
(2)光触媒含有被膜担持ガラスマットの作製と評価
ニードルパンチ法で作製したガラスマット(目付け750g/m・厚み12mm、中部工業(株)製)を縦5cm横5cmの正方形に裁断し(質量約2g)、400℃で1日間処理した。熱処理後、室温まで冷却したガラスマットを、光触媒含有塗工液(F−1)に10分間浸漬させ、塗工液を含有した状態のガラスマットが8gになるようにローラーで絞った。
このガラスマットを120℃・12時間で乾燥させた後、温度80℃・湿度80%RHの雰囲気下で24時間曝し、続けて120℃・15時間で再び乾燥させてサンプルを得た。
作製した光触媒含有被膜担持ガラスマットのメチレンブルー吸着特性を調べた結果、分配係数Kは16であった。
【0101】
実施例2
(1)塗工液の調製
エチルセロソルブ23.5gに硝酸アルミニウム・九水和物(純度99%、和光純薬工業(株)製)0.50gを溶解させ、続いて合成例1で作製した合成液(C)を6.04g加えてよく攪拌し溶液(D−2)を得た。
エチルセロソルブ342gと1−プロパノール365gの混合溶媒に、溶液(D−2)を23.7g加えてよく攪拌した。次に蒸留水7.84g、60質量%濃硝酸3.29gを加えてよく攪拌し、続いてアナターゼ型光触媒酸化チタンゾル(商品名PC−203、濃度20質量%、チタン工業(株)製)を14.3g加えてよく攪拌し溶液(E−2)を得た。
溶液(E−2)にpH=7.0におけるZ電位特性が約−50mVであるシリカゾル(商品名スノーテックスOXS、濃度10質量%、日産化学工業(株)製)を43.8g加えてよく攪拌し、光触媒含有塗工液(F−2)を作製した。
該塗工液(F−2)を室温下で3日間放置したものは、僅かに白濁が強くなっていた以外は特に異常は見られなかった。
【0102】
(2)光触媒含有被膜担持ガラスマットの作製と評価
作製した光触媒含有塗工液(F−2)を使い、実施例1と同じ方法で作製した光触媒含有被膜担持ガラスマットのメチレンブルー吸着特性を調べた結果、分配係数Kは11であった。
【0103】
実施例3
(1)塗工液の調製
エチルセロソルブ45.9gに硝酸アルミニウム・九水和物1.80gを溶解させ、合成液(C)を2.32g加えてよく攪拌し、溶液(D−3)を得た。
エチルセロソルブ326gと1−プロパノール365gの混合溶媒に、溶液(D−3)を40.8g加えてよく攪拌した。次に蒸留水7.32g、60質量%
濃硝酸3.42gを加えてよく攪拌し、続いて酸化チタンゾル(商品名PC−203、チタン工業(株)製)を14.3g加えてよく攪拌し、溶液(E−3)を得た。
溶液(E−3)にpH=7.0におけるZ電位特性が約−50mVであるシリカゾル(商品名スノーテックスOXS、濃度10質量%、日産化学工業(株)製)を43.8g加えてよく攪拌し、光触媒含有塗工液(F−3)を作製した。
該塗工液(F−3)を室温下で3日間放置したものは、僅かに白濁が強くなっていた以外は異常は見られなかった。
【0104】
(2)光触媒含有被膜担持ガラスマットの作製と評価
調製した光触媒含有塗工液(F−3)を用い、実施例1と同じ方法で作製した光触媒含有被膜担持ガラスマットのメチレンブルー吸着特性を調べた結果、分配係数Kは3であった。
【0105】
実施例4
(1)塗工液の調製
エチルセロソルブ42.9gに硝酸アルミニウム・九水和物(純度99%、和光純薬工業(株)製)6.12gを溶解させ、続いて合成例1で作製した合成液(C)を55.2g加えてよく攪拌し溶液(D−4)を得た。続いて、合成例2で作製した有機成分溶液(G)1.46g、メチルイソブチルケトン47.15g、エチルセロソルブ27.8g、上記記載の溶液(D−4)20.82g、およびpH=7.0におけるZ電位特性が約−20mVであるシリカゾル(商品名スノーテックスIPA−ST、濃度30質量%、日産化学工業(株)製)2.78gの順で混合し成分傾斜塗工液(F−4)を作製した。
該塗工液(F−4)を室温下で3日間放置してもほとんど変化は認められなかった。
【0106】
(2)成分傾斜膜の傾斜性評価
室温で3日間放置した成分傾斜塗工液(F−4)を用い、耐候剤層付きのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(商品名TP−60、東レ(株)製)にマイヤーバーにて厚みが約100nmになるように成膜したのち、XPSにより成分傾斜性を調べたところ、SiとTiの成分傾斜ならびにTiと有機の成分傾斜性は良好であった。
図1に、スパッタ時間と各元素の含有率との関係をグラフで示す。
【0107】
実施例5
(1)塗工液の調製
エチルセロソルブ42.9gに硝酸アルミニウム・九水和物(純度99%、和光純薬工業(株)製)6.12gを溶解させ、続いて合成例1で作製した合成液(C)を55.2g加えてよく攪拌し溶液(D−5)を得た。続いて、合成例2で作製した有機成分溶液(G)1.46g、メチルイソブチルケトン47.08g、エチルセロソルブ22.2g、上記記載の溶液(D−5)20.82g、およびpH=7.0におけるZ電位特性が約−50mVであるシリカゾル(商品名スノーテックスOXS、濃度10質量%、日産化学工業(株)製)8.34gの順で混合し成分傾斜塗工液(F−5)を作製した。
該塗工液(F−5)を室温下で3日間放置したものは、僅かに黄色味が強くなっていた以外は特に異常は見られなかった。
【0108】
(2)成分傾斜膜の傾斜性評価
室温で3日間放置した成分傾斜塗工液(F−5)を用い、耐候剤層付きのPETフィルム(商品名TP−60、東レ(株)製)にマイヤーバーにて厚みが約100nmになるように成膜したのち、XPSにより成分傾斜性を調べたところ、Tiと有機の成分傾斜性は良好であったが、SiとTiはやや均質に混じりあっていた。
図2に、スパッタ時間と各元素の含有率との関係をグラフで示す。
【0109】
実施例6
エチルセロソルブ62.6gに硝酸アルミニウム・九水和物(純度99%、和光純薬工業(株)製)1.34gを溶解させ、続いて合成例1で作製した合成液(C)を16.1g加えてよく攪拌し溶液(D−6)を得た。
エチルセロソルブ297gと1−プロパノール357gの混合溶媒に、溶液(D−6)を67g加えてよく攪拌した。次に蒸留水51.8g、60質量%濃硝酸2.78gを加えてよく攪拌し、続いてアナターゼ型光触媒酸化チタンゾル(商品名PC−203、濃度20質量%、チタン工業(株)製)を7.7g加えてよく攪拌し溶液(E−6)を得た。
溶液(E−6)にpH=7.0におけるZ電位特性が約−20mVであるシリカゾル(商品名スノーテックスIPA−ST、濃度30質量%、日産化学工業(株)製)を16.0g加えてよく攪拌し、光触媒含有塗工液(F−6)を作製した。
該塗工液(F−6)を室温下で3日間放置したものは、僅かに白濁が強くなっていた以外は特に異常は見られなかった。
実施例4で作製した成分傾斜膜付き耐候PETに、上記の光触媒含有塗工液(F−6)をマイヤーバーにて乾燥後の膜の厚みが約40nmになるように積層させることによって、光触媒フィルムを作製し、SWM試験を実施した。
SWM1500h後のヘイズ上昇度(ΔHz)は、1.5%であった。
【0110】
実施例7
(1)塗工液の調製
実施例1において、pH=7.0におけるZ電位特性が約−50mVであるシリカゾル(商品名スノーテックスOXS、濃度10質量%、日産化学工業(株)製)の代わりに、pH=7.0におけるZ電位特性が約−40mVである酸化タングステン微粒子(純正化学(株)製)4.39gと蒸留水39.4gを加えてよく攪拌し、光触媒含有塗工液(F−7)を作製した以外は、実施例1と同じ方法で光触媒含有塗工液(F−7)を作製した。
該塗工液(F−7)を室温下で3日間放置したものは、僅かに黄白濁が強くなっていた以外は特に異常は見られなかった。
【0111】
(2)光触媒含有被膜担持ガラスマットの作製と評価
作製した光触媒含有塗工液(F−7)を使い、実施例1と同じ方法で作製した光触媒含有被膜担持ガラスマットのメチレンブルー吸着特性を調べた結果、分配係数Kは14であった。
【0112】
実施例8
(1)塗工液の調製
実施例1において、pH=7.0におけるZ電位特性が約−50mVであるシリカゾル(商品名スノーテックスOXS、濃度10質量%、日産化学工業(株)製)の代わりに、pH=7.0におけるZ電位特性が約+35mVであるアルミナゾル(商品名:アルミナゾル−520、濃度20質量%、日産化学(株)製)を純水で2倍に希釈した液を43.8gを加えてよく攪拌し、光触媒含有塗工液(F−8)を作製した以外は、実施例1と同じ方法で光触媒含有塗工液(F−8)を作製した。
該塗工液(F−8)を室温下で3日間放置したものは、僅かに白濁が強くなっていた以外は特に異常は見られなかった。
【0113】
(2)光触媒含有被膜担持ガラスマットの作製と評価
作製した光触媒含有塗工液(F−8)を使い、実施例1と同じ方法で作製した光触媒含有被膜担持ガラスマットのサンセットイエロー吸着特性を調べた結果、分配係数Kは11であった。
【0114】
比較例1
(1)塗工液の調製
エチルセロソルブ19.9gに合成例1で作製した合成液(C)を10.1g加えてよく攪拌し溶液(d−1)を得た。
エチルセロソルブ349gと1−プロパノール364gの混合溶媒に、溶液(d−1)を16.8g加えてよく攪拌した。次に蒸留水7.56g、60質量%濃硝酸3.36gを加えてよく攪拌し、続いてアナターゼ型光触媒酸化チタンゾル(商品名PC−203、濃度20質量%、チタン工業(株)製)を14.3g加えてよく攪拌し溶液(e−1)を得た。
溶液(e−1)にpH=7.0におけるZ電位特性が約−50mVであるシリカゾル(商品名スノーテックスOXS、濃度10質量%、日産化学工業(株)製)を43.8g加えてよく攪拌し、光触媒含有塗工液(f−1)を作製した。
該塗工液(f−1)を室温下で3日間放置したものは、沈殿を生じていた。
【0115】
比較例2
(1)塗工液の調製
合成例2で作製した有機成分溶液(G)1.46g、メチルイソブチルケトン47.15g、エチルセロソルブ27.8g、合成例1で作製した合成液(C)20.8g、およびpH=7.0におけるZ電位特性が約−20mVであるシリカゾル(商品名スノーテックスIPA−ST、濃度30質量%、日産化学工業(株)製)を2.78gの順で混合し成分傾斜塗工液(f−2)を作製した。
該塗工液(f−2)を室温下で3日間放置したものは、沈殿、ゲル化は生じていないが黄色味が強くなっていた。
【0116】
(2)成分傾斜膜の傾斜性評価
室温で3日間放置した成分傾斜塗工液(f−2)を用い、耐候剤層付きのPETフィルム(商品名TP−60、東レ(株)製)にマイヤーバーにて厚みが約100nmになるように成膜したのち、XPSにより成分傾斜性を調べたところ、SiとTiの成分傾斜ならびにTiと有機の成分傾斜性は良好であった。
図3に、スパッタ時間と各元素の含有率との関係をグラフで示す。
【0117】
比較例3
合成例2で作製した有機成分溶液(G)1.46g、メチルイソブチルケトン47.15g、エチルセロソルブ22.2g、合成例1で作製した合成液(C)20.8g、およびpH=7.0におけるZ電位特性が約−50mVであるシリカゾル(商品名スノーテックスOXS、濃度10質量%、日産化学工業(株)製)8.34gの順で混合し成分傾斜塗工液(f−3)を作製した。
該塗工液(f−3)を室温下で3日間放置したものは、ゲル化を生じていた。
【0118】
比較例4
比較例2で作製した成分傾斜膜付き耐候PETに、実施例6で作成した光触媒含有塗工液(F−6)をマイヤーバーにて乾燥後の膜の厚みが約40nmになるように積層させることによって、光触媒フィルムを作製し、SWM試験を実施した。
SWM1500h後のヘイズ上昇度(ΔHz)は、25%であった。
【0119】
比較例5
エチルセロソルブ53.2gに合成例1で作製した合成液(C)を26.8g加えてよく攪拌し、溶液(d−5)を得た。
エチルセロソルブ297gと1−プロパノール357gの混合溶媒に、溶液(d−5)を67g加えてよく攪拌した。次に蒸留水51.8g、60質量%濃硝酸2.78gを加えてよく攪拌し、続いてアナターゼ型光触媒酸化チタンゾル(商品名PC−203、濃度20質量%、チタン工業(株)製)を7.7g加えてよく攪拌し、溶液(e−5)を得た。
溶液(e−5)にpH=7.0におけるZ電位特性が約−20mVであるシリカゾル(商品名スノーテックスIPA−ST、濃度30質量%、日産化学工業(株)製)を16.0g加えてよく攪拌し、光触媒含有塗工液(f−5)を作製した。
該塗工液(f−5)を室温下で3日間放置したものは、沈殿は生じていないが白濁が強くなっていた。
比較例2で作製した成分傾斜膜付き耐候PETに、上記の光触媒含有塗工液(f−5)をマイヤーバーにて乾燥後の膜の厚みが約40nmになるように積層させることによって、光触媒フィルムを作製し、SWM試験を実施した。
SWM1500h後のヘイズ上昇度(ΔHz)は、30%であった。
【0120】
比較例6
比較例1において、pH=7.0におけるZ電位特性が約−50mVであるシリカゾル(商品名スノーテックスOXS、濃度10質量%、日産化学工業(株)製)の代わりに、pH=7.0におけるZ電位特性が約−40mVである酸化タングステン微粒子(純正化学(株)製)4.38gと蒸留水39.4gを加えてよく攪拌し、光触媒含有塗工液(f−6)を作製した以外は、比較例1と同じ方法で光触媒含有塗工液(f−6)を作製した。
該塗工液(f−6)を室温下で3日間放置したものは、沈殿を生じていた。
【0121】
比較例7
(1)塗工液の調製
比較例1において、pH=7.0におけるZ電位特性が約−50mVであるシリカゾル(商品名スノーテックスOXS、濃度10質量%、日産化学工業(株)製)の代わりに、pH=7.0におけるZ電位特性が約+35mVであるアルミナゾル(商品名:アルミナゾル−520、濃度20質量%、日産化学(株)製)を純水で2倍に希釈した液を43.8gを加えてよく攪拌し、光触媒含有塗工液(f−7)を作製した以外は、比較例1と同じ方法で光触媒含有塗工液(f−7)を作製した。
該塗工液(f−7)を室温下で3日間放置したものは、沈殿、ゲル化は生じていないが白濁が強くなっていた。
【0122】
(2)光触媒含有被膜担持ガラスマットの作製と評価
作製した光触媒含有塗工液(f−7)を使い、実施例1と同じ方法で作製した光触媒含有被膜担持ガラスマットのサンセットイエロー吸着特性を調べた結果、分配係数Kは7であった。
【0123】
実施例9
実施例4で作製した成分傾斜膜付き耐候PETに、比較例5の光触媒含有塗工液(f−5)をマイヤーバーにて乾燥後の膜の厚みが約40nmになるように積層させることによって、光触媒フィルムを作製し、SWM試験を実施した。
SWM1500h後のヘイズ上昇度(ΔHz)は、3.1%であった。
実施例および比較例の結果を表3および表4に示す。また、表4記載の光触媒液の組成の内容を表5に示す。
【0124】
【表3】

【0125】
【表4】

【0126】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明の非晶質酸化チタン含有複合膜形成用コーティング組成物は、長期間にわたって非晶質状態を維持し、例えば光触媒膜形成用コーティング剤や、自動傾斜性を有する塗膜形成用コーティング剤などとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】実施例4で形成された成分傾斜膜における、スパッタ時間と各元素の含有率との関係を示すグラフである。
【図2】実施例5で形成された成分傾斜膜における、スパッタ時間と各元素の含有率との関係を示すグラフである。
【図3】比較例2で形成された成分傾斜膜における、スパッタ時間と各元素の含有率との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)一般式(I)
TiR(OR4−x …(I)
(式中、Rはアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基またはアシル基、Rは炭素数1〜6のアルキル基、xは0〜2の整数を示す。)
で表されるチタンアルコキシドの加水分解縮合物、および(B)無機塩、有機塩およびアルコキシド類の中から選ばれる少なくとも1種からなり、かつ前記(A)成分と相互作用し得る金属系化合物を含むことを特徴とする非晶質酸化チタン含有複合膜形成用コーティング組成物。
【請求項2】
(B)成分の金属系化合物が、アルミニウム化合物である請求項1に記載の非晶質酸化チタン含有複合膜形成用コーティング組成物。
【請求項3】
(A)成分と(B)成分を、下記の関係式(II)
5≦{(B)成分中のアルミニウム原子/[(B)成分中のアルミニウム原子+(A)成分中のチタン原子]}×100≦60 …(II)
を満たす割合で含む請求項2に記載の非晶質酸化チタン含有複合膜形成用コーティング組成物。
【請求項4】
アルミニウム化合物が、硝酸アルミニウムである請求項2または3に記載の非晶質酸化チタン含有複合膜形成用コーティング組成物。
【請求項5】
さらに、(C)金属化合物系微粒子を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の非晶質酸化チタン含有複合膜形成用コーティング組成物。
【請求項6】
(C)成分の金属化合物系微粒子が、光触媒機能を有する微粒子および/またはシリカ微粒子である請求項5に記載の非晶質酸化チタン含有複合膜形成用コーティング組成物。
【請求項7】
さらに、(D)非晶質酸化チタンと化学結合し得る有機成分を含み、かつ非晶質酸化チタン成分の含有率が、表面から基材に向かって傾斜する、自己傾斜性を有する塗膜を形成する請求項1〜6のいずれか1項に記載の非晶質酸化チタン含有複合膜形成用コーティング組成物。
【請求項8】
(a)有機溶媒中において、一般式(I)
TiR(OR4−x …(I)
(式中、Rはアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基またはアシル基、Rは炭素数1〜6のアルキル基、xは0〜2の整数を示す。)
で表されるチタンアルコキシドを加水分解し、チタンアルコキシドの加水分解縮合物含有液を調製する工程、および
(b)前記(a)工程で得られたチタンアルコキシドの加水分解縮合物含有液と、無機塩、有機塩およびアルコキシド類の中から選ばれる少なくとも1種からなり、かつ前記チタンアルコキシドの加水分解縮合物と相互作用し得る金属系化合物とを混合する工程、
を含むことを特徴とする非晶質酸化チタン含有複合膜形成用コーティング組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の非晶質酸化チタン含有複合膜形成用コーティング組成物を用いて得られたことを特徴とする非晶質酸化チタン複合塗膜。
【請求項10】
基材上に請求項9に記載の非晶質酸化チタン複合塗膜を有することを特徴とする物品。
【請求項11】
非晶質酸化チタン複合塗膜が、有機系化合物層と、無機系または金属系化合物層の中間層として形成されている請求項10に記載の物品。
【請求項12】
非晶質酸化チタン複合塗膜が最表面層にあり、かつ光触媒機能を発現する請求項10に記載の物品。
【請求項13】
非晶質酸化チタン複合塗膜が最表面層にあり、かつ光触媒機能を発現すると共に、固体酸性を示す請求項10に記載の物品。
【請求項14】
中間層として、自己傾斜性を有する非晶質酸化チタン複合塗膜が設けられている請求項12または13に記載の物品。
【請求項15】
(A)一般式(I)
TiR(OR4−x …(I)
(式中、Rはアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基またはアシル基、Rは炭素数1〜6のアルキル基、xは0〜2の整数を示す。)
で表されるチタンアルコキシドの加水分解縮合物に、(B)無機塩、有機塩およびアルコキシド類の中から選ばれる少なくとも1種からなり、かつ前記(A)成分と相互作用し得る金属系化合物を混合することを特徴とする、チタンアルコキシドの加水分解縮合物の結晶化阻害方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−145948(P2007−145948A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−340448(P2005−340448)
【出願日】平成17年11月25日(2005.11.25)
【出願人】(000120010)宇部日東化成株式会社 (203)
【Fターム(参考)】