説明

非水式バイオディーゼ燃料油の製造方法及びその製造装置

【解決課題】従来の非水方式の問題点を解決し、多くのタンクを必要としていたものを少ないタンクで製造することができるバイオディーゼル燃料油の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、原料油脂を減圧下で加熱して揮発成分を留去する工程と、アルカリ触媒の存在下で原料油脂とアルコールをエステル交換反応させる工程と、反応液を重力分離により脂肪酸アルキルエステルを主成分とする軽液層とグリセリンを主とする重液層とを層分離してグリセリンを主とする重液層を除去する工程と、脂肪酸アルキルエステルを主成分とする軽液中のアルコールを除去する工程と、アルコールを除去することにより脂肪酸アルキルエステルを主成分とする軽液中に生ずる不溶分を沈殿除去する工程と、軽液中の不純物に対する吸着性を有する吸着剤に脂肪酸アルキルエステルを主成分とする軽液を接触させる処理工程と、固体不純物除去工程と、をこの順序で行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非水式バイオディーゼル燃料油の製造方法及びその製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バイオディーゼル燃料油の製造方法として実用化されているのは、アルカリ触媒の存在下で、原料油脂とアルコールをエステル交換反応させる方法である。よく知られているように、エステル交換反応後、反応液は静置しておくと、二層に分離し、脂肪酸アルキルエステルを主成分とする上層と、グリセリンを主とする下層に分かれる。
【0003】
グリセリンを主とする層を系外から除いた後においても、脂肪酸アルキルエステルを主とする層中には、不純物としては、化学量論量を上回るアルコール、アルカリ触媒、トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリド等の未反応物;グリセリン、石鹸、水、遊離脂肪酸等の副反応物がある。これら不純物を除去する方法として、水洗方式と吸着方式(非水方式)とがある。
【0004】
水洗方式の場合には、これら不純物はトリグリセリドを除き、いずれも水溶性であるので、水洗でこれらを容易に除くことができるが、海洋汚染防止法が施行された現在、水洗後の廃液処理に多大なコストがかかるという欠点がある。
【0005】
他方、非水方式の場合には、吸着剤だけで全ての不純物を除去することはできず、アルコールとか水などの揮発性成分は反応後、層分離する前に減圧で除く方法(特許文献1、非特許文献1参照)か、反応後層分離した後では、吸着カラムを通した後に減圧により除去する方法(特許文献2〜4参照)が採用されてきた。反応後層分離した後、吸着剤に通す前に減圧でアルコールと水を除去すると、吸着カラムを詰まらせてしまうという問題があったからである。
【0006】
しかしながら、前者の方法を採用した場合には、減圧操作過程でアルコールを除き過ぎないようにコントロールすることが難しく、とかくアルコールを除き過ぎてしまい、その結果、逆反応が起き、折角作った脂肪酸アルキルエステルがグリセリドに戻ってしまうという問題が起きやすかった。
【0007】
また後者の方法を採用した場合には、吸着剤を通した後、脂肪酸アルキルエステルを主とする成分をタンクに収容して減圧にして水分やアルコールを除去するため、タンクが必要であった。
【0008】
そのため、従来の非水方式の場合には、原料油脂を保存するタンク、アルカリ触媒を溶解するアルコールを保存するタンク、原料油脂中の揮発分を除去するための減圧タンク、反応タンク、反応液を層分離するための静置タンク、グリセリン等廃液貯蔵タンク、吸着カラムを通過させた後、微量の細粒吸着剤成分や水分、グリセリンおよびグリセリン誘導体等比重が1以上の高比重物質を除去するための遠心分離を行なう処理タンク、流動点降下剤等の添加剤を混合する必要がある場合には、その添加をするための撹拌機付タンク、上述の減圧処理タンク、フィルターを通過させて微粒子・凝縮物質を除去した後、製品を貯蔵するための製品タンクなど多くのタンクが必要であった(特許文献4参照)。
【0009】
このうち、製造効率を無視すれば、反応前の減圧タンクと反応タンクと静置タンクとは兼用することができたが、その他のタンクは兼用することができなかった。
【0010】
特に、反応前に必要とされる減圧タンクと吸着剤を通した後になされる減圧タンクの二つが必要とされるのは、通常のタンクと違って耐圧性、シール性が要求される上に真空装置を二重に用意する必要があり、コスト高であった。
【0011】
これら減圧タンクを反応タンク、静置タンクとともに兼用させようとしても、静置タンクから吸着カラムを通過した液があるときに、なお静置タンクから排出していない液があるため、兼用することができなかったのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3934630号公報
【特許文献2】国際公開2006−016492号公報
【特許文献3】拷問2006−193497号公報
【特許文献4】特許第4078383号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】(有)ブッカーズ編集、「バイオ液体燃料」NTS出版、252〜265頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このような従来の非水方式の問題点を解決し、多くのタンクを必要としていたものを少ないタンクで製造することができるバイオディーゼル燃料油の製造方法及び製造装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明者は吸着カラムに詰まる原因を検討した結果、吸着カラムに通す前にアルコールを除くと、それまでアルコールが存在するために、それに容解していた物が析出し、その結果、吸着カラムを詰まらせていることがわかった。
【0016】
これは、吸着カラムに通す前にアルコールを除くと、脂肪酸アルキルエステルを主とする層中には、白いもやもやとしたものとした不溶分か発生するのであるが、これを沈澱させて除くことにより、吸着カラムを詰まらせることなく、製造できることが分かった。本発明はこれらの知見をベースにしてなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
【0017】
(1)バイオオディーゼル燃料油の製造方法は、原料油脂を減圧下で加熱して揮発成分を留去する工程と、アルカリ触媒の存在下で原料油脂とアルコールをエステル交換反応させる工程と、反応液を重力分離により脂肪酸アルキルエステルを主成分とする軽液層とグリセリンを主とする重液層とを層分離してグリセリンを主とする重液層を除去する工程と、脂肪酸アルキルエステルを主成分とする軽液中のアルコールを除去する工程と、アルコールを除去することにより脂肪酸アルキルエステルを主成分とする軽液中に生ずる不溶分を沈殿除去する工程と、軽液中の不純物に対する吸着性を有する吸着剤に脂肪酸アルキルエステルを主成分とする軽液を接触させる処理工程と、固体不純物除去工程と、をこの順序で行なうことを特徴とする。
【0018】
(2)バイオディーゼル燃料油の製造装置は、原料油脂の前処理兼貯蔵タンクと共用するか若しくは別々に用意された反応槽兼層分離槽と、反応後の層分離後の重液を系外に移すとともにタンクの底より軽液中の不溶分を除去するためのバルブと、軽液中のアルコールの減圧留去手段と、軽液を通過させて軽液中の不純物に対して吸着性を有する固体吸着剤充填カラムと、微粒子・凝縮物の除去手段とからなり、反応槽兼層分離槽が、加熱手段と、真空排気手段と、撹拌手段と、反応後の層分離後の重液を系外に移すとともにタンクの底より軽液中の不溶分を除去するためのバルブとを有するとともに反応槽兼層分離槽は、触媒含有アルコール溶液貯蔵タンクとに接続されており、該真空排気手段は加熱された原料油脂中の揮発成分の減圧留去と、軽液中のアルコールの減圧留去に兼用されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明製造方法によれば、従来行われていた非水法の中の一つである、吸着工程後にアルコールや水分などの揮発性成分を減圧により除去する方法と較べて、減圧タンクを一つにすることが可能である。
【0020】
また、従来行われていた非水法の中のもう一つの方法である、反応液中のアルコールを除去する方法と較べて、逆反応が起きる心配がない。さらに減圧留去により水分やアルコールを除去するので、吸着法に比べて除去性能が高い。
【0021】
また、本発明製造装置によれば、減圧タンクを一つにすることができ、しかも反応タンクで減圧タンクを兼ねることができる。その結果、クンク数も減らせ、コストを大幅に低減することができ、装置全体をコンパクト化できる。しかも、反応タンクに機能を集中させることができるので、省エネも可能である。さらに、減圧留去により水分やアルコールを除去するので、吸着法に比べて除去性能が高い。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るバイオディーゼル燃料油の製造装置の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0024】
(バイオディーゼル燃料油の製造方法)
本発明バイオディーゼル燃料油の製造方法における原料油脂としては、特に制限されるものではないが、好適には酸価が20mgKOH/g以下の油脂類が用いられる。例えば、菜種油、大豆油、パーム油、パーム核油、ひまわり油、米油、ゴマ油、トウモロコシ油、ココナッツ油、サフラワー油、紅花油、ピーナッツ油、綿実油、アマニ油、マスタード油、ヤトロファ油などの植物性油脂類、牛脂、豚脂、鯨油、魚油などの動物性油脂類、及びそれらの廃食油、これらの油脂類の製造工程で得られる劣化油等が挙げられる。
【0025】
本発明バイオディーゼル燃料油の製造方法は、エステル交換反応に先立って、原料油脂が液状になりにくいときには、加熱して液状にし、その中に固形物質や原料油脂を静置させたとき層分離するほどの過飽和水、微小固形分、高比重有機物、塩類等が含まれる場合には、これらを除去する。これらの除去は静置分離、遠心分離などによりなされる。
【0026】
その上で、原料油脂を減圧下で加熱してなお、原料油脂中に分散している水分、臭気物質などを留去する。この留去工程は、好ましくは50〜170°Cの温度であって、1〜350mmHgの圧力で、より好ましくは80〜120°Cの温度であって、1〜250mmHgの圧力で行なう。
【0027】
上記温度より低いとほとんど蒸気圧を確保できず除去効率が悪くなり、上記温度を超えると脂肪酸部位中不飽和部の変性が生じ、バイオディーゼル燃料油として性状に悪影響を及ぼす。
【0028】
また、上記圧力より低いと、高真空状態を保持するには、装置のコスト及び運転コストが大きくなり、上記圧力を超える圧力では、水分が十分に除去できないためである。
【0029】
次いで、アルカリ触媒の存在下で原料油脂とアルコールをエステル交換反応させる工程が行われる。原料油脂と反応させるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、およびt−ブチルアルコールの少なくとも一種から選択される。アルコールの純度は99.5%以上が望ましい。
【0030】
また、アルカリ触媒としては、水酸化カリウム、炭酸カリウム、カリウムアルコラート等のカリウム系塩基性触媒が好適に用いられる。水酸化ナトリウム等のナトリウム系塩基性触媒と比較した場合、エステル交換反応の変換率が95%以上に達する時間が短時間でなされるからである。
【0031】
エステル交換反応は、まず、触媒含有アルコール溶液を調整し、その後、原料油脂と触媒含有アルコール溶液を混合撹拌することが好ましい。これにより、エステル交換反応を極めて短時間に終了させることが可能である。
【0032】
ここで、アルコールヘの触媒の溶解量は、原料油脂に対して0.5〜2.0質量%であることが好ましく、さらに好ましくは0.7〜1.5質量%である。触媒の添加量は、上記所定の範囲内であれば多ければ多いほど、変換効率、変換率ともに上昇するが、上記範囲を超えると平衡転化率は一定となり、逆に石鹸化反応が起こりやすくなるからである。
【0033】
また、原料油脂に対するアルコールの添加量は、一定範囲であれば化学量論量より過剰に用いるほど、変換速度、平衡転化率ともに上昇するが、一定範囲を超えると平衡転化率は一定となり、過剰のアルコールが無駄となる。
【0034】
さらに反応終了後、比重分離における重液(グリセリンを主とする層)の比重が重液に移行しやすいアルコールによって減少するとともにアルコール自体が界面活性剤の機能を発現するため、比重分離が困難となる傾向がある。
【0035】
触媒含有アルコール溶液の調整には、触媒の溶解熱による局部的加熱によってアルコールが突沸することを防ぐために、所定量のアルコールを溶解槽内に先に投入しておき、これに十分な撹拌下、触媒を少量ずり投入していき完全に溶解させるか、また、溶解熱を排出するために、冷却水ジャケットに冷却水を流し、系内温度をアルコール沸点以下に維持するようにする方法がとられる。
【0036】
原料油脂と触媒含有アルコール溶液との反応は、25〜250°C行なうことが好ましく、さらに好ましくは50〜100°Cであり、圧力は大気圧〜7.8MPaが好ましく、さらに好ましくは大気圧〜2.0MPaである。
【0037】
しかし、反応速度を速めるためにアルコールの沸点以上に温度を上げた場合には、反応装置が圧力容器となるため、コスト的に不利な場合も生じる。したがって、アルコールの沸点付近で常圧〜0.12MPaが最適な条件である。
【0038】
また、反応時間は、必要最短時間に設定されるべきである。これは、反応が可逆反応であることと、生じた脂肪酸アルキルエステルが残存する水と反応して加水分解を起こす副反応が生じるためである。したがって、反応時間は1〜20分が最適である。
【0039】
原料油脂と触媒含有アルコール溶液との反応の反応生成物は、脂肪酸アルキルエステルとグリセリンを主成分とする混合物である。これらは各々約0.87〜0.90g/cm及び1.10〜1.25g/cmの密度を有しており、相互の溶解性も大きくないため、所定の時間静置、または遠心分離することにより、脂肪酸アルキルエステルを主成分とする軽液層と、グリセリンを主成分とする重液層とに層分離する。
【0040】
次いで、グリセリンを主成分とする重液層を系外に取り出し、脂肪酸アルキルエステルを主成分とする軽液中のアルコールを除去する。アルコールの除去は常圧、アルコールの沸点以上の温度で行なうか、あるいは減圧で行なう。常圧の場合、アルコールの沸点より10°Cで程度高ければ十分である。減圧の場合は、同様の考えで、アルコールの沸点より若干高い温度で十分である。
【0041】
次いで、アルコールを除去することにより脂肪酸アルキルエステルを主成分とする軽液中に生ずる不溶分を沈殿除去する工程が行われる。この不溶分は白いもやもやしたものとして目視できるものであり、ある時開静置させることにより沈澱させた後、系外に除去させる。なお、この白いもやもやとしたものは石鹸を含むグリセリン成分である。
【0042】
次いで、脂肪酸アルキルエステルを主成分とする軽液中に含まれる軽液中の不純物、例えば、脂肪酸石鹸、アルカリ触媒、遊離脂肪酸、水分、グリセリン類等に対する吸着性を有する固体吸着剤に接触させる処理工程がなされる。
【0043】
吸着剤としては、例えば、活性炭、活性炭素繊維、活性白土、酸性白土、ベントナイト、珪藻土、活性アルミナ、モレキュラーシーブス、イオン交換樹脂、シリカゲルなどの一種若しくは二種以上を用いることができる。二種以上を用いるときは、混合してもよいし、層状にしてもよい。
【0044】
これらの吸着剤は、使用直前にマイクロ波処理又は加熱処理(150〜700°C)を行なってもよい。この際、吸着剤の平均粒径は0.01〜1.0mmであることが好ましい。吸着効率は粒径が小さいほど良好であるが、これ以上細かい場合には、吸着剤通過時の圧損が大きく通過時間が長時間となってしまう。
【0045】
また、1.0mm以上の平均粒径であると、十分な吸着効果は得られない。吸着剤の量は、0.5〜2.0質量%で十分である。通過流速は、例えば、5〜30リットル/分程度とすることができるが、その後、固−液遠心分離処理を行なう場合は、遠心分離処理能力に合わせて調整してもよい。吸着剤はカラムに充填させた形で使ってもよいし、処理漕に吸着剤を投入して撹拌接触させる方法でもよい。
【0046】
次いで、固体不純物除去工程がなされる。固体不純物の除去は濾過によってもよいし、遠心分離によってもよい。遠心分離により固体不純物等を除去する処理は、例えば、固−液分離用遠心分離器により行われる。
【0047】
この処理により、廃食油などに含まれていた1μm以下の微粉とか、カラム充填剤から液とともに流出した高比重物質などが除去される。
【0048】
尚、流動点降下剤や酸化安定剤等の安定剤投入が必要な場合には、この時点で、スタティックミキサー等により添加することが好ましい。また、フィルターを通して固体不純物等を除去する処理は、例えば、カートリッジ式フィルター等を用いて1μm以上の微粒子・凝縮物質を除去することができる。
【0049】
(バイオディーゼル燃料油の製造装置)
次に、上述のような本発明に係るバイオディーゼル燃料油の製造装置を実施することができる製造装置の一例を、図面を参照して説明する。
【0050】
本発明のバイオディーゼル燃料油の製造装置は、図1に示すように、原料油脂の前処理兼貯蔵タンク1と、触媒含有アルコール溶液貯蔵タンク2と、加熱手段3と真空排気手段4と攬伴手段5と、反応後の層分離後の重液を系外に移すとともにタンクの底より軽液中の不溶分を除去するためのバルブ6とを備える反応槽兼分離槽7と、軽液を通過させて軽液中の不純物に対して吸着性を有する固体吸着剤充填カラム8と、微粒子・凝縮物の除去手段9と製品タンク10よりなる。
【0051】
原料油脂の前処理兼貯蔵タンク1は、図1に示すように、原料油脂中に比較的大きい固形物質を含む場合に、それを除去する手段、例えば、メッシュが10〜100程度のステンレス製網11を原料油脂受け入れ口12に設け、原料油脂を静置させたとき層分離するほどの過飽和水、微小固形分、高比重有機物吻、塩類等が含まれる場合にかかるものを除くための下部ドレインバルブ13と、を備え、さらに原料油脂の性状によっては必要に応じた加熱手段14、例えば、50°C程度にまで加熱可能な、スチームあるいは電熱線が配置されている。
【0052】
これにより、原料油脂が例えば、植物油脂でさえ固体状になる寒気操業時や、パーム油脂や動物油脂等凝固点の高い油脂類においても、液状で扱うことができるとともに次工程の反応温度にまで加熱することもできる。
【0053】
原料油脂の前処理兼貯蔵タンク1と反応槽兼層分離槽7とはタンクを共用してもよいし、別々にしてもよい。それぞれ一長一短がある。共用にすれば、装置全体をコンパクトにすることができるが、製造できる量は相対的に少量となる。別々にする場合には、原料油脂の前処理兼貯蔵タンク1で上記処理をされた原料油脂は、送液ポンプ15により反応槽兼層分離槽7に移される。
【0054】
この反応槽兼層分離槽7はエステル交換反応を行わせるとともに、反応後、反応波を静置させるか、遠心分離により、軽液と重液とに層分離させる工程も行われる。
【0055】
反応槽兼層分離檜7は、加熱手段3と、真空排気手段4と、撹拌手段5と、反応後の層分離後の重液を系外に移すとともにタンクの底より軽液中の不溶分を除去するためのバルブ6とを有するとともに、反応槽兼層分離槽7は、触媒含有アルコール溶液貯蔵タンク2とに接続されている。しかも、該真空排気手段は加熱された原料油脂中の揮発成分の排気と、軽液中のアルコールの排気に兼用されている。
【0056】
そのため、この反応層兼層分離槽7は、以下、詳述するように、エステル交換反応前に行われる処理、反応後になされる前述の層分離後になされる処理も一部行うことができる。すなわち、まず、予め、反応槽兼層分離槽7における、加熱手段3と真空排気手段4を用い、減圧下に加熱することで、例えば、1〜100mmHgで、50〜170°Cにおいて置く。
【0057】
この状態の反応槽兼層分離槽7内に、原料油脂貯蔵タンク1で加熱された原料油脂を、好ましくは、分散ノズル16を通って噴霧する。そうすることにより、原料油脂中の揮発成分、例えば、水分、遊離脂肪酸、臭気物質等を効率的に除去することができる。
【0058】
この場合、噴霧の効果により表面積が増大した状態で水分、臭気物質が速やかに蒸発し、反応槽兼層分離槽7の上部出口より排出された後、デミスター17で冷却液化され系外に除去される。
【0059】
触媒含有アルコール溶液貯蔵タンク2は、アルコールにアルカリ触媒を溶解した溶液を本装置で製造してもよいし、予め用意されたものを容器ごと、本装置のタンク2として装着してもよいし、タンク2に移しかえてもよい。
【0060】
本装置で製造する場合には、冷却水ジャケットを備えた触媒溶解槽とアルコール貯蔵タンクを備え、触媒含有アルコール溶液の調整を、エステル交換反応に応じバッチ形式で行うようになされている。
【0061】
まず、アルコール貯蔵タンクから所定量のアルコールを送液ポンプによって触媒容解槽に送り込み、これを撹拌しながら、所定量の触媒、例えば、カリウム系触媒を溶解槽上部のシャッターを通じて導入して、完全に溶解するまで撹拌を行なう。この際、溶解熱が生じるため、冷却水を冷却水ジャケットに流し、系がアルコールの沸点を超えないように留意する。触媒を予めアルコールに溶解させることにより、原料油脂とのエステル交換反応を極めて短時間で終了させることが可能となる。
【0062】
反応槽兼層分離漕7は、エステル交換反応を行うとともに、反応液を静置分離させるのに用いられる。これによって脂肪酸アルキルエステルを主成分とする軽液層と、グリセリンを主成分とする重液層とに層分離を行う。
【0063】
反応槽兼層分離槽7には、透明窓部が設置されており、液−液界面を確認することができるようになっており、この界面が明確に現れた後、重液をバルブ6より抜き出す。
【0064】
バルブ6の開閉は液状態の目視による手動で行ってもよいし、界面センサーによって自動的に制御してもよい。
【0065】
反応槽兼層分離漕7は、軽液のみとなったところで、減圧あるいは常圧で加熱して、軽液中のアルコールを留去するのにも用いられる。
【0066】
バルブ6は、軽液中のアルコールを留去させた後、反応液中に生じている白いもやもやとしたものを、ある時間静置させて反応槽兼層分離漕7の底に溜めた後、排出させるのにも用いられる。
【0067】
軽液中の不純物に対して吸着性を有する固体吸着剤充填カラム8は、反応槽兼層分離槽7中の軽液を通過させて、軽液中に含まれる不純物、脂肪酸石鹸、アルカリ触媒、遊離脂肪酸、水分、グリセリン類などを吸着させるのに用いられる。
【0068】
カラム8は本装置に着脱可能になっていて、吸着性能が低下したところで、新たな吸着剤と交換されるか、あるいは、新たな吸着剤が充填されたカラムごと交換されるようになっている。
【0069】
微粒子・凝縮吻の除去手段9は、例えば、フィルターあるいは遠心分離機などが挙げられる。このような手段により、固体吸着剤充填カラム8を通過させる過程で紛れ込んだ、1μm以下の大きさを有する微粉が除去される。
【0070】
微粒子・凝縮物の除去手段9を通過した液は、製品の貯蔵タンク10に移される。製品の貯蔵タンク10として、原料油脂貯蔵タンク1若しくは反応槽兼層分離槽7と兼用してもよい。
【0071】
また、バルブ(図示せず)を介して、バイオディーゼル燃料油を用いる機械、例えば、農業トラクターの燃料油タンクに直結してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、原料油脂が少量しか得られないときに、原料油脂が酸化されるのを避けながら、速やかに品質の高いバイオディーゼル燃料油にすることができ、しかも、廃水処理を不要とし、地球環境に優しいので、今まで処理に困っていた原料油脂を有効利用することができる。
【符号の説明】
【0073】
1 原料油脂の前処理兼貯蔵タンク
2 触媒含有アルコール溶液貯蔵タンク
3 加熱手段
4 真空排気手段
5 撹拌手段
6 反応後の層分離後の重液を系外に移すとともにタンクの底より軽液中の不溶分を除去するためのバルブ
7 反応槽兼層分離槽
8 軽液を通過させて塩基性物質に対して吸着性を有する固体吸着剤充填カラム
9 微粒子・凝縮物の除去手段
10 製品の貯蔵タンク
11 ステンレス製網
12 原料油脂受け入れ口
13 ドレインバルブ
14 加熱手段
15 送液ポンプ
16 分散ノズル
17 デミスター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオディーゼル燃料油の製造方法において、
原料油脂を減圧下で加熱して揮発成分を留去する工程と、
アルカリ触媒の存在下で原料油脂とアルコールをエステル交換反応させる工程と、
反応液を重力分離により脂肪酸アルキルエステルを主成分とする軽液層とグリセリンを主とする重液層とを層分離してグリセリンを主とする重液層を除去する工程と、
脂肪酸アルキルエステルを主成分とする軽液中のアルコールを除去する工程と、
アルコールを除去することにより脂肪酸アルキルエステルを主成分とする軽液中に生ずる不溶分を沈殿除去する工程と、
軽液中の不純物に対する吸着性を有する吸着剤に、脂肪酸アルキルエステルを主成分とする軽液を接触させる処理工程と、
固体不純物除去工程と、
を備え、これらの工程を上記順序で行なうことを特徴とするバイオディーゼル燃料油の製造方法。
【請求項2】
原料油脂の前処理兼貯蔵タンクと共用するか若しくは別々に用意された反応槽兼層分離槽と、
反応後の層分前後の重液を系外に移すとともにタンクの底より軽液中の不溶分を除去するためのバルブと、
軽液中のアルコールの減圧留去手段と、
軽液を通過させて軽液中の不純物に対して吸着性を有する固体吸着剤充填カラムと、
微粒子・凝縮物の除去手段と、を備え、
前記反応槽兼層分離槽は、
加熱手段と、
真空排気手段と、
撹伴手段と、
反応後の層分離後の重液を系外に移すとともにタンクの底より軽液中の不溶分を除去するためのバルブと、を有するとともに、触媒含有アルコール溶液貯蔵タンクに接続されており、
前記真空排気手は、加熱された原料油脂中の揮発成分の減圧留去と軽液中のアルコールの減圧留去に兼用されていることを特徴とするバイオディーゼル燃料油の製造装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−256265(P2011−256265A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131614(P2010−131614)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(310024653)株式会社グリーンテックソリューション (2)
【Fターム(参考)】