説明

非水性高分子溶液中ナノ粒子の合成及び生成物

本発明は、高分子中に分散したナノ粒子の製造を提供する。ここで、ナノ粒子は、増強された特性(たとえば、より高い屈折率)を材料に与える金属及び金属酸化物/硫化物を含む。ナノ粒子は、典型的には高分子中でその場で形成される。典型的には、ナノ粒子はナノ結晶の形態である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子中に分散している、材料に増強された特性(例えば、より高い屈折率)を与える金属酸化物/硫化物を含むナノ粒子の製造を提供する。生成物は光学的用途に有用である。
【背景技術】
【0002】
高分子及び無機材料のナノ複合材料は、純粋な高分子単独では得ることができない光学特性を示し得ることがわかっている。参照: Kyprianidou-Leodidou, T., Caseri, W. , and Suter, U.W., J. Phys.Chem. 1994, v 98, pp 8992-8997; Weibel, M.; Caseri, W.; Suter, U. W.; Kiess, H.; Wehrli, E., Polym. Ado. Technol. 1991, v 2, p 75; Zimmermann, L; Weibel, M.; Caseri, W.; Suter, U. W., J. Mater. Res. 1993, v 8, p 1742; Zimmermann, L; Weibel, M.; Caseri, W.; Suter, U. W.; Walther, P., Polym. Adv. Technol. 1993,v 4, p 1. 例えば、高分子マトリックス中PbSの導入は、632.8 nmでの屈折率を2.5〜3.0の値まで増加させることができ、ナノ複合材料を光学的用途に適する材料とする。PbS-ゼラチンナノ複合材料での屈折率は、経験的に利用可能な範囲0〜50% v/v PbSにおいてPbS 体積率と共に線形的に増加することもわかっている。
【0003】
非水性媒体(Steigerwald, M. L.; Alivisatos, A. P.; Gibson, J. M.; Harris, Kortan, R.; Muller, A. J.; Thayer, A. J.; Duncan, T. M.; Douglass, Brus, L E., J. Chem. Phys. 1988, v110, p3046; Fischer, C. H.; Henglein, A., J. Phys. Chem. 1989, v93, p5578)、逆ミセル(Lianos, P.; Thomas, J. K., J. Colloid Interface Sci. 1986,117 (2), p505; Petit, C; Lixon, P.; Pileni, M. F, J. Phys. Chem. 1990, v 94, p1598)、ベシクル(Watzke, H. J.; Fendler, J. H., J. Phys. Chem. 1987, v91, p854)、ラングミュア−ブロジェット膜(Langmuir-Blodgett films)(Peng, X.; Guan, S.; Chai, X.; Jiang, Y.; Li, T., J. Phys. Chem. 1992, v 96, p3170)、高分子(Mahler, W., Inorg. Chem. 1988, v27, p435; Gallardo, S.; Gutierez, M.; Henglein, A.; Janata, E. Eer. Bunsenges., Phys. Chem. 1989, v93, p1080)及び多孔性結晶ゼオライト(Wang, Y.; Herron, N. J., Phys. Chem. 1987, v91, p257)中などの種々の条件の下で行われている反応によって、異なる寸法のコロイド半導体粒子を製造することができる。水性媒体中で、チオールなどの安定剤を用いて粒径を変えることができる。チオールは、おそらく粒子の表面に取り付くことによって、コロイド粒子の成長を停止する(Nosaka, Y.; Yamaguchi, K.; Miyama, H.; Hayashi, H., Chem. Lett. 1988, p605, Swayambunathan, V.; Hayes, D.; Schmidt, K. H.; Liao, Y. X.; Meisel, D., J. Am. Chem. Soc. 1990, v112,p 3831; Nosaka, Y.; Ohta, N.; Fukuyama, T.; Fuji, N. J., Colloid Interface Sci. 1993, vl55,p 23)。
【0004】
従来技術は本発明に対する必要性を示す。半導体ナノ結晶の高分子中での分散は、量子閉じ込め効果及び寸法依存性光電子放出特性ゆえに、光学研究において特に興味が持たれている。一般に、高分子ナノ複合材料及び半導体ナノ結晶は、水性分散プロセスによって達成されている。高分子自身は立体安定剤として作用し、粒子を不動化する。ほとんどの場合において、追加の界面活性剤がプロセスに添加されて、分散の安定性を強める。これまでのプロセスは10 nm以下の寸法のナノ結晶を製造するが、水溶性高分子に限定されるようだ。マトリックスとして高性能高分子を用いる光学的用途用ナノ複合材料に対する需要の高まりゆえに、その場方法(in-situ method)がナノ複合材料(例えば、硫化鉛ナノ複合材料)の非水性調製に求められている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の広い実施形態は、
(a)金属含有塩の水溶液とチオール又はカルバミン酸塩の非水溶液を混合して反応させて、非水溶液中金属含有チオールもしくは金属含有カルバミン酸塩を形成させる工程;
(b)金属含有チオールもしくはカルバミン酸塩非水溶液を収集する工程;
(c)収集された非水溶液と高分子溶液を混合する工程;及び
(d1)工程(c)からの混合物を開裂剤と反応させ、乾燥させて、高分子ナノ複合材料を形成させる工程;又は
(d2)工程(c)からの混合物を乾燥させ、開裂剤と反応させて、高分子ナノ複合材料を形成させる工程
により高分子ナノ複合材料を製造する方法を提供する。典型的には、本発明の幾つかの実施形態において、工程(d1)において、混合物はさらに架橋剤と反応する。別の実施形態において、相溶化剤が工程(c)に添加される場合、金属チオールもしくはカルバミン酸塩は、典型的には高分子とより相溶性である。また別の実施形態において、工程(a)は相間移動触媒の存在下で生じる。
【0006】
本発明の更に別の実施形態は、上記に概略を述べた第1の広い実施形態の工程により製造された高分子ナノ複合材料を含む。
本発明の別の広い実施形態は、
(a)金属塩の水溶液とチオール又はカルバミン酸塩の非水溶液を混合し、反応させて、非水溶液中金属含有チオールもしくは金属含有カルバミン酸塩を形成させる工程;
(b)金属含有チオールもしくは金属含有カルバミン酸塩非水溶液を収集する工程;
(c)金属含有チオールもしくは金属含有カルバミン酸塩は高分子とより相溶性であり及び/又は凝集を防止し、非水溶液を乾燥させ、表面処理する工程;
(d1)工程(c)からの表面処理された材料を加熱された高分子と混合して、開裂剤と反応させ、高分子ナノ複合材料を形成させる工程;又は
(d2a)工程(c)からの表面処理された材料を溶媒中に溶解又は分散させ、高分子溶液と混合する工程;及び(d2 b)工程(d2a)の生成物を開裂剤と反応させて、乾燥させ、高分子ナノ複合材料を形成させる工程
により、高分子ナノ複合材料を製造する方法を含む。典型的には、幾つかの実施形態において、工程(d1)及び(d2)において、混合物はさらに架橋剤と反応する。別の実施形態において、工程(a)は相間移動触媒の存在下で生じる。
【0007】
本発明の追加の実施形態は、別の広い実施形態の第2に概略述べられた工程により製造された高分子ナノ複合材料を含む。
幾つかの実施形態において、本発明で用いられる金属塩は、金属酢酸塩又は金属カルバミン酸塩(金属チオールカルバミン酸塩であってもよい)、金属塩化物及び金属アルコキシド又は金属アルキルアリール酸化物からなる群より選択される。金属塩中の金属は、典型的には、鉛、カドミウム、ゲルマニウム、スズ、鉄、コバルト、ニッケル、銅、水銀、亜鉛及びこれらの組み合わせからなる群より選択される。別の実施形態において、架橋剤が用いられる場合に、架橋は、架橋化学物質により、熱により、紫外線(UV light)により、γ線により、又は電子線により行われる。相間移動触媒が用いられる実施形態において、テトラブチルアンモニウムハライド、硫酸水素テトラブチルアンモニウム、テトラフルオロホウ酸テトラブチルアンモニウム、ベンジルトリエチルアンモニウムハライド、硫酸水素ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、臭化トリブチルヘキサデシルホスホニウム及びジアゾ-18-クラウン-6,4,7,13,16,21,24-ヘキサオキサ-1,10-ジアザビシクロ{8.8.8}ヘキサコサン(Dibenzo-18-crown-6,4,7,13,16,21,24-Hexaoxa-1,10-diazabicyclo{8.8.8}hexacosane)からなる群より選択される。
【0008】
典型的には、本発明で用いられるチオールもしくはカルバミン酸塩は、アルキルチオール、アルキルカルバミン酸塩、アリールチオールもしくはポリ(オキシエーテル)チオール及びアリールカルバミン酸塩からなる群より選択される。
【0009】
別の実施形態において、ナノ結晶は、典型的には高分子ナノ複合材料中に形成される。
更に別の実施形態において、開裂剤は、硫化水素、過酸化水素、金属硫化物及び金属含有過酸化物からなる群より選択される。
【0010】
また別の実施形態において、高分子ナノ複合材料は膜もしくはバルク高分子である。
本発明の追加の実施形態は、非水性溶媒中に溶解している高分子を金属塩と混合させ;開裂剤を混合物に添加して、反応させて、金属又は金属酸化物の分散ナノ粒子を含有する高分子ナノ複合材料を形成する工程により高分子ナノ複合材料を製造する方法を含む。
【最良の実施形態】
【0011】
広義に、本発明は、より高い装填量を講じることなく、より高い屈折率の材料を提供する。より高濃度でのナノ粒子の凝集は、ナノ粒子の装填を制限するという問題を有している。本発明におけるナノ粒子のその場発生(in situ generation)は、2つの利点を有する。(a)非常に小さな粒径を得ることができ、よって、ナノ粒子のより低い装填量で最適な性能を達成することができる。(b)金属含有前駆体のアルキル部分の鎖長を変更するなどの立体安定化機構によって、ナノ粒子の初期凝集を制御することができる(この例は図1に示す)。
【0012】
広義には、本発明は、高分子ナノ複合材料のその場調製(in situ preparation)を提供する。高分子ナノ複合材料は、典型的には100 nm未満の直径を有するナノサイズ粒子(例えばPbS、Ge)を含有する高分子である。本発明の一実施形態において、アルキルチオールの非水溶液と反応する金属塩水溶液(たとえば、酢酸鉛)を提供する工程により、ナノ粒子は高分子内でその場で(in situ)調製される。得られる中間生成物(鉛アルキルチオラート alkylthiolate)は非水性相に区分され、集められ得る。この中間体は次いで、高分子含有非水溶液中に溶解する。ナノ粒子(たとえば、硫化鉛ナノ粒子)を形成するための開裂剤(たとえば、硫化水素ガス)との反応は溶液中で生じるか(図1中左分岐)またはたとえば鋳造またはスピンコーティングにより固体膜が調製された後に生じる(図1中右分岐)。
【0013】
本発明の幾つかの側面において、安定化すなわち凝集予防を達成するために選択された鎖長n及び粒径を有すれば、アルキル部分(たとえば、アルキルチオール)はいかなる長さであってもよい。加えて、R基は、安定化及び粒径を増長するか、または溶液中での追加の化学物質に対する反応性サイトまたは固相を提供するように選択することができる。有機溶媒は、トルエンまたは他の芳香族溶媒、テトラヒドロフラン、クロロフォルム、メチレンクロライド、N-メチル-2-ピロリドンまたは他の極性非プロトン性溶媒、ジメチルアセトアミド、ジメチルフォルムアミド、酢酸エチルまたは他のエステル溶媒、またはアルコールであってよい。加えて、安定化及び粒径を最適化するために、このような溶媒の任意の混合物を選択してもよい。
【0014】
本発明で有用な高分子は、典型的には親水性基を有していないかまたはわずかに数個の親水性基、たとえばカルボキシル基、ヒドロキシル基、スルホン基、ポリオキシエーテル基などを有しているにすぎない。本発明で有用な高分子は、典型的には、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ビニルポリマー、アクリルエステルポリマー、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、エポキシポリマー(たとえば、SU-8 TM フォトレジスト高分子)、ポリイミド、ポリアニリン、ポリアリールエーテルエーテルケトン、ポリアリールエーテルスルホン、ポリベンズチアゾール、ポリベンゾオキサゾールまたはポリベンイミダゾール(polybenimidazole)である。ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)などの他の高分子はあまり好ましくないが、疎水性修飾されれば用いることができる。さらに、上述の高分子のコポリマー及び/又はブレンドもまた用いることができる。
【0015】
本発明で有用な開裂剤としては、硫化水素、過酸化水素、金属硫化物(たとえば、TeS、CdS、SeSなど)、金属含有過酸化物(たとえば、過酸化リチウム)を挙げることができる。開裂剤は、金属前駆体を金属、金属硫化物または金属酸化物に変換する。これらは典型的にはナノ粒子形態である。
【0016】
本発明に従い金属塩中で有用な金属としては、鉛、カドミウム、ゲルマニウム、スズ、鉄、コバルト、ニッケル、銅、水銀、亜鉛及びこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0017】
非水性プロセスにおいて、硫化鉛などの半導体のナノ粒子を形成し、これらを高分子マトリックス中に分散させる改良された能力は、結果として、有機溶媒中に可溶性である高分子マトリックスナノ複合材料に改良された機械的、熱的、光学的、電気的及び電気光学的特性を与えると考えられる。
【0018】
本発明のプロセスにより作られる典型的なナノ粒子サイズは、約1 nm〜約1000 nmの範囲にある。本発明の幾つかの側面による典型的なナノ粒子サイズは、約1 nm〜約100 nmの範囲にある。本発明の更に別の実施形態において、典型的なナノ粒子サイズは、約1 nm〜20 nmの範囲にある。本発明の材料の典型的な装填量は、約2%〜80%の範囲にある。典型的な粒径分布は、約1.01〜1.5の範囲にあり、幾つかの実施形態においては1.01〜1.1の範囲にある。
【0019】
粒径及び粒径分布は、Coulter N4 Plus TM 光散乱粒径分析器を用いて測定した。平均粒径は20スキャンの平均であった。粒径分布は、以下の式によって計算した。
【0020】
【数1】

【0021】
以下の実施例は、例示であり本発明をいかなる態様にも限定するものではない。
【実施例1】
【0022】
金属アルキルチオラートの合成:本実施例は、鉛ドデシルチオラートの合成を記載する。ホモジナイザー及び追加の漏斗を具備する250 mL三首丸底フラスコ内に、1.0 gのPb(OAc)2・3H2O及び50 mLの蒸留水を仕込んだ。ホモジナイザーは反応時間中運転させ続けた。1.1 gのドデカンチオールをトルエン中に溶解させ、追加の漏斗を用いて30分かけて滴下した。さらに30分間、反応を続けさせて、内容物を分液漏斗に移した。トルエン層を250 mLの水で3回洗浄し、H2Sガスを洗浄水に通すことによって未反応Pb(OAc)2・3H2Oの不在を確認した。トルエン層を晶析ボウルに注ぎ、真空炉で12時間かけて室温で乾燥させ、次に100℃で8時間かけて乾燥させた。収率は約65 %であった。鉛ドデシルチオラートの構造は、IR分光器で確認した。
【実施例2】
【0023】
本実施例は、ポリ(メチルメタクリレート-コ-ブチルアクリレート)中でのPbSナノ粒子のその場(in-situ)合成を説明する。20 gのポリ(メチルメタクリレート-コ-ブチルアクリレート)PMMA-BA(Rohm &Haas製品)を100 mLのトルエン中に溶解させて、20%(W/V)溶液とした。実施例1で作った鉛ドデシルチオラートをガラスバイアル瓶(0.25 g)中で秤量して、10 gのPMMA-BA溶液を添加し、マグネティックスターラーバー(磁石撹拌棒)を用いて、スターラー/ホットプレート(ホットプレートの温度は80℃に維持した)上で充分に混合させた。この混合物にH2Sガスを10分間、通過させて、平均粒径約20 nmのPbSナノ粒子を得た。PbSナノ粒子含有高分子溶液の粒径分布は、図2に示す。図2は、ほとんどが約20 nm +/- 約10 nmと粒径分布が狭いことを示す。
【0024】
試料を12.5 wt%装填量及び25 wt%装填量で得た。
【実施例3】
【0025】
本実施例は、ポリ(メチルメタクリレート-コ-ブチルアクリレート)膜中PbSナノ粒子のその場(in-situ)合成を説明する。20 gのポリ(メチルメタクリレート-コ-ブチルアクリレート)PMMA-BA(Rohm &Haas製品)を100 mLのトルエン中に溶解させて、20%(W/V)溶液とした。実施例1で作った鉛ドデシルチオラートをガラスバイアル瓶(0.25 g)中で秤量して、10 gのPMMA-BA溶液を添加し、マグネティックスターラーバー(磁石撹拌棒)を用いて、スターラー/ホットプレート(ホットプレートの温度は約80℃に維持した)上で充分に混合させた。溶液をシリコンウェハ上にスピンコートして、60℃で30分間、真空炉中で乾燥させた。次いで、ウェハをガス入口及び出口ストッパを具備するガラスジャー内に置いた。次いで、H2Sガスをガラスジャーに通過させて、ホットエアガン(銃)を用いて緩やかに加熱した。透明なコーティングは、はじめに深青色に変色し、10分以内に黒色に変色した。この試料のSEM画像は、50 nm未満の粒子を有するPbSナノ粒子の均一な分布を示した。
【実施例4】
【0026】
本実施例は、ポリ(オキシ-3-メチル-1,4-フェニレンオキシ-1,4-フェニレンカルボニル-1,4-フェニレン)(メチルPEEK)中でのPbSナノ粒子のその場(in-situ)合成を説明する。10 gのメチル-PEEK(我々の研究室で合成した)を100 mLのジメチルアセトアミド中に溶解させて、10%(W/V)溶液とした。実施例1で作った鉛ドデシルチオラートをガラスバイアル瓶(0.25 g)中で秤量して、10 gのメチル-PEEK 溶液を添加し、マグネティックスターラーバー(磁石撹拌棒)を用いて、スターラー/ホットプレート(ホットプレートの温度は約80℃に維持した)上で充分に混合させた。この混合物にH2Sガスを10分間かけて通過させて、PbSナノ粒子を得た。溶液をシリコンウェハ上にスピンコートし、60℃で30分間、真空炉中で乾燥させた。膜の屈折率はMetricon Prism Couplerを用いて測定したところ、2.2であることが判明した。高分子ナノ複合材料の高い屈折率は、PbSナノ結晶の形成を示す。
【実施例5】
【0027】
本実施例は、エポキシフォトレジスト(Microchem Corpから得たSU-8 TM)中でのPbSナノ粒子のその場合成を説明する。混合物を緩やかに加熱することによって、実施例1で得た鉛ドデシルチオラート(0.2 gram)を5 mLのSU-8 TM(Microchem Corp.から得たエポキシ系フォトレジスト)中に溶解させた。ホモジナイザーで撹拌しながらH2Sガスを混合物に通過させた。得られた生成物は安定であった。得られた生成物をシリコンウェハ上に容易にスピンコートした。あるいは、PbSナノ結晶を膜形成後に得た。このために、鉛ドデシルチオラートをSU-8 TM中に溶解させ、シリコンウェハ上にコーティングさせて、120℃で2分間かけて硬化させた。次いで、ガス入口及び出口ストッパを具備するガラスジャー内にウェハを置いた。次に、H2Sガスをガラスジャーに通過させて、ホットエアガンを用いて緩やかに加熱した。透明なコーティングははじめに深青色に変色し、10分以内に黒色に変色した。
【実施例6】
【0028】
本実施例は、ポリスチレン中Geナノ粒子のその場合成を説明する。
Pluoronic 17R2TM (BASFの非イオン性界面活性剤)を100 mLのTHF/デカン(1:1 v/v)混合物中に溶解させ、10 gの水素化カルシウムを添加し、室温で48時間、撹拌した。混合物を濾過して、慎重にSchlank 管に移した。この溶液に、5 gのポリスチレンを溶解させて、脱ガスした。この混合物に、四塩化ゲルマニウム(3.0 mL)を添加し、次いで23 mLの水素化アルミニウムリチウム(THF中1N)をゆっくりと添加した。反応を3時間かけて行わせ、温度を4℃以下に維持した。反応の最後に得られた溶液は、粒径分析により特徴づけられ、平均粒径分析値は5 nm未満であった。
【0029】
実施例6により、高分子中での直接的なナノ粒子としての金属のその場(in situ)形成もまた、本発明の別の側面による改良された材料のための実行可能な経路であることを確認した。
【比較例1】
【0030】
本比較例は、PMMA-BAへのPbSの直接的な添加を説明する。
中央のジョイントにホモジナイザーを具備し、他の2つのサイドジョイントに隔壁(septa)でカバーされた250 mL三首丸底フラスコ内にて、シリンジニードルを用いてガスを通過させた。ガスの出口は1 N NaOH 溶液中に漬けた。酢酸鉛(II)三水和物(20 g)をフラスコに仕込み、100 mLの水を添加した。塩を溶解させるためにホモジナイズして、H2Sガスを非常に緩やかに(3〜5気泡/分)、30分かけて通過させた。生成物を濾過して、100 mLの水で5回洗浄した。暗色の生成物を晶析ボウル内に集めて、120℃で5時間、真空下(8〜10 mm Hg)で乾燥させた。得られた生成物(0.25 g)を20 mLのトルエン中20 %(w/v)PMMA-BAに添加し、ホモジナイザーを用いて充分に混合させた。分散液をシリコンウェハ上にスピンコートして、60℃で30分間、真空炉内で乾燥させた。
【0031】
比較例1は、本発明のその場合成の効率を確認した。比較例のSEM 測定により、約20μmのPbS粒子の多くのクラスターが存在することが確認された。粒径は約1〜20μmにわたって変動した。粒径分布は、非常に不均一であることがわかった。比較により、本発明のその場合成は、高分子マトリックス中ナノサイズのPbSナノ粒子の均一な分散を得ることがわかる。
【0032】
本発明によるナノ粒子は、典型的にナノ結晶である。これは、実施例4で得た材料の高い屈折率により確認された。ナノ結晶は、高い屈折率の光学材料を提供する際に有用である。ナノ複合材料分散液は粒径に関して特徴づけられ、本発明の幾つかの側面に対しては、約20%(w/w)装填量について約20〜約50 nmのオーダーであることが見いだされた。
【0033】
本明細書に開示されている本発明の形態は好ましい実施形態を構成するが、多くの他の形態が可能である。本発明の可能性のある均等範囲または枝分かれ構造のすべてに言及するものではない。本明細書において用いられている用語は単に記述するために用いられるものであって、限定するものではなく、本発明の範囲を逸脱しない多くの変形例があることは理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、非水性媒体中での硫化鉛ナノ粒子の形成に対する本発明の一側面の代表的フローチャートである。
【図2】図2は、ポリ(メチルメタクリレート−コ−ブチルアクリレート)中PbSナノ粒子のその場合成から得られる粒径分布を示す。横軸は粒径(nm)であり、縦軸は粒子の度数分布(%)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)金属含有塩の水溶液とチオール又はカルバミン酸塩の非水溶液とを混合して反応させ、非水溶液中金属含有チオールもしくは金属含有カルバミン酸塩を形成する工程;
(b)金属含有チオールもしくはカルバミン酸塩非水溶液を収集する工程;
(c)収集した非水溶液を高分子溶液と混合する工程;及び
(d1)工程(c)からの混合物と開裂剤とを反応させ、乾燥させて、高分子ナノ複合材料を形成する工程;又は
(d2)工程(c)からの混合物を乾燥させ、開裂剤と反応させて、高分子ナノ複合材料を形成する工程
を含む高分子ナノ複合材料の製造方法。
【請求項2】
前記金属塩は、金属酢酸塩もしくは金属カルバミン酸塩、金属塩化物及び金属アルコキシド又は金属アルキルアリール酸化物からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属塩中の金属は、鉛、カドミウム、ゲルマニウム、スズ、鉄、コバルト、ニッケル、銅、水銀、亜鉛及びこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
工程(d1)において、前記混合物はさらに架橋剤と反応する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
架橋化学物質により、熱により、紫外線(UV light)により、γ線により、又は電子線により、架橋される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記金属チオールもしくはカルバミン酸塩が高分子とより相溶性を有し、工程(c)において相溶化剤が添加される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
工程(a)は、相間移動触媒の存在下で生じる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記チオールもしくはカルバミン酸塩は、アルキルチオール、アルキルカルバミン酸塩、アリールチオールもしくはポリ(オキシエーテル)チオール及びアリールカルバミン酸塩からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記相間移動触媒は、ハロゲン化テトラブチルアンモニウム、硫酸水素テトラブチルアンモニウム、テトラフルオロホウ酸テトラブチルアンモニウム、ハロゲン化ベンジルトリエチルアンモニウム、硫酸水素ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、臭化トリブチルヘキサデシルホスホニウム及びジベンゾ-18-クラウン-6, 4,7,13,16,21,24-ヘキサオキサ-1,10-ジアザビシクロ{8,8,8}ヘキサコサン(Dibenzo-18-crown-6,4,7,13,16,21,24-Hexaoxa-1,10-diazabicyclo{8.8.8}hexacosane)からなる群より選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
高分子ナノ複合材料中にナノ結晶が形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記開裂剤は、硫化水素、過酸化水素、金属硫化物及び金属含有過酸化物からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
(a)金属塩の水溶液とチオール又はカルバミン酸塩の非水溶液とを混合して反応させ、非水溶液中金属含有チオールもしくは金属含有カルバミン酸塩を形成させる工程;
(b)前記金属含有チオールもしくは金属含有カルバミン酸塩非水溶液を収集する工程;
(c)金属含有チオールもしくは金属含有カルバミン酸塩は高分子とより相溶性であり及び/又は凝集を防止するものであり、前記非水溶液を乾燥させて、表面処理をする工程;
(d1)工程(c)からの表面処理された材料を加熱した高分子と混合して、開裂剤と反応させ、高分子ナノ複合材料を形成する工程;又は
(d2a)工程(c)からの表面処理された材料を溶媒中に溶解もしくは分散させ、高分子溶液と混合させる工程;及び
(d2b)工程(d2a)の生成物と開裂剤とを反応させ、乾燥させて、高分子ナノ複合材料を形成させる工程
を含む高分子ナノ複合材料の製造方法。
【請求項13】
高分子ナノ複合材料中にナノ結晶が形成される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記金属塩は、金属酢酸塩もしくは金属カルバミン酸塩、金属塩化物及び金属アルコキシド又は金属アルキルアリール酸化物からなる群より選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
工程(d1)及び(d2)において、前記混合物はさらに架橋剤と反応する、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
架橋化学物質により、熱により、紫外線(UV light)により、γ線により、又は電子線により、架橋される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記開裂剤は、硫化水素、過酸化水素、金属硫化物及び金属含有過酸化物からなる群より選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
(a)金属含有塩の水溶液とチオール又はカルバミン酸塩の非水溶液とを混合して反応させて、非水溶液中金属含有チオールもしくは金属含有カルバミン酸塩を形成させる工程;
(b)金属含有チオールもしくはカルバミン酸塩非水溶液を収集する工程;
(c)収集した非水溶液と高分子溶液とを混合する工程;及び
(d1)工程(c)からの混合物と開裂剤とを反応させ、乾燥させて、高分子ナノ複合材料を形成させる工程;又は
(d2)工程(c)からの混合物を乾燥させ、開裂剤と反応させて、高分子ナノ複合材料を形成させる工程
を含む工程により製造された高分子ナノ複合材料。
【請求項19】
前記高分子ナノ複合材料は、高分子中にナノ結晶を含む、請求項18に記載の高分子ナノ複合材料。
【請求項20】
前記開裂剤は、硫化水素、過酸化水素、金属硫化物及び金属含有過酸化物からなる群より選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
(a)金属塩の水溶液とチオール又はカルバミン酸塩の非水溶液を混合して反応させて、非水溶液中金属含有チオールもしくは金属含有カルバミン酸塩を形成させる工程;
(b)金属含有チオールもしくは金属含有カルバミン酸塩非水溶液を収集する工程;
(c)金属含有チオールもしくは金属含有カルバミン酸塩は高分子とより相溶性であり及び/又は凝集を防止し、非水溶液を乾燥させ表面処理する工程、;
(d1)工程(c)からの表面処理された材料を加熱した高分子と混合し、開裂剤と反応させて、高分子ナノ複合材料を形成させる工程;又は
(d2a)工程(c)からの表面処理された材料を溶媒中に溶解又は分散させて、高分子溶液と混合させる工程;及び
(d2b)工程(d2a)の生成物を開裂剤と反応させ、乾燥させて、高分子ナノ複合材料を形成させる工程
を含む工程により製造された高分子ナノ複合材料。
【請求項22】
前記高分子ナノ複合材料は膜である、請求項21に記載の高分子ナノ複合材料。
【請求項23】
前記高分子ナノ複合材料は、高分子内にナノ結晶を含む、請求項21に記載の高分子ナノ複合材料。
【請求項24】
前記開裂剤は、硫化水素、過酸化水素、金属硫化物及び金属含有過酸化物からなる群より選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
(a)非水性溶媒中に溶解している高分子と金属塩とを混合する工程;
(b)前記混合物に開裂剤を添加し、反応させて高分子ナノ複合材料を形成させる工程
を含む、高分子ナノ複合材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−501851(P2008−501851A)
【公表日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−527632(P2007−527632)
【出願日】平成17年6月7日(2005.6.7)
【国際出願番号】PCT/US2005/019911
【国際公開番号】WO2005/121222
【国際公開日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(504306714)バッテル メモリアル インスティテュート (26)
【氏名又は名称原語表記】BATTELLE MEMORIAL INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】505 King Avenue, Columbus, OH 43201−2693 (US)
【Fターム(参考)】