説明

非水系二次電池用セパレータ

【課題】本発明では、シャットダウン機能および耐熱性に加え、膜抵抗および熱収縮率に優れ、かつ、高温下においてもシャットダウン機能を維持できる非水系二次電池用セパレータを提供することを目的とする。
【解決手段】ポリオレフィン微多孔膜と、このポリオレフィン微多孔膜の両面に被覆され耐熱性樹脂を含んで構成された耐熱性多孔質層と、を備えた複合膜からなる非水系二次電池用セパレータであって、水銀圧入法を用いて前記耐熱性多孔質層の単位面積当たりにおける細孔径と積算細孔容積との関係を示す細孔プロットを求めた場合に、この細孔プロットにおいて、所定の細孔径において積算細孔容積が負となる部分が生じることを特徴とする非水系二次電池用セパレータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非水系二次電池用セパレータに関するものであり、特に非水系二次電池の安全性および電池特性を向上させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水系二次電池は高エネルギー密度であり、携帯電話やノートパソコンといった携帯用電子機器の主電源として広範に普及している。このリチウムイオン二次電池はさらなる高エネルギー密度化が求められているが、安全性の確保が技術的な課題となっている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の安全性確保においてセパレータの役割は重要であり、高強度かつシャットダウン機能を有するという観点から、現状ではポリエチレン微多孔膜が用いられている。ここで、シャットダウン機能とは、電池の温度が上昇したときに微多孔膜の孔が閉塞して電流を遮断する機能を言う。この機能により電池の発熱が抑制され、電池の熱暴走が防止される。
【0004】
しかしながら、温度上昇により微多孔膜の孔が閉塞されて電流が一旦遮断されても、電池温度が微多孔膜を構成するポリエチレンの融点を超えて、ポリエチレンの耐熱性の限界を超えると、微多孔膜自体が溶融変形してシャットダウン機能が失われる。その結果、電池の熱暴走がおこり、リチウムイオン二次電池を組み込んだ装置の破壊や、発火による事故発生などを招くおそれがある。このため、セパレータに対しては、さらなる安全性確保のために、シャットダウン機能に加えて耐熱性も要求されている。
【0005】
そこで、従来、ポリエチレン微多孔膜の表面に、全芳香族ポリアミド等の耐熱性ポリマーからなる耐熱性多孔質層を被覆した非水系二次電池用セパレータが提案されている(例えば特許文献1〜3参照)。特許文献1には、耐熱性多孔質層中にアルミナ等の無機微粒子を含ませて、シャットダウン機能に加えて耐熱性の向上を図った構成が示されている。特許文献2には、ポリエチレン微多孔膜の膜厚や空孔率、透気度等を所定の範囲に調整して、シャットダウン機能および耐熱性に加えて膜抵抗の向上を図った構成が示されている。特許文献3には、耐熱性多孔質層中に水酸化アルミニウム等の金属水酸化物粒子を含ませて、シャットダウン機能および耐熱性に加えて難燃性の向上を図った構成が示されている。これらの構成はいずれも、シャットダウン機能と耐熱性を両立させた点において、電池の安全性という観点において優れた効果が期待できる。特に、特許文献1〜3には、ポリエチレン微多孔膜の両面に耐熱性多孔質層を被覆した構成が示されており、このような構成によれば耐熱性の更なる向上に加え、カールが防止される等のハンドリング性の向上も期待できる。
【0006】
しかしながら、このようにポリエチレン微多孔膜の両面に耐熱性多孔質層を被覆した構成においては、ポリエチレン微多孔膜界面の表面孔が耐熱性樹脂で閉塞される部分が多くなりやすく、セパレータの膜抵抗の低下の問題が懸念される。
【0007】
また、耐熱性多孔質層によってシャットダウン機能が発現する温度以上において溶融しない程度の耐熱性を得ることはできても、高温下においてセパレータ全体が熱収縮してしまっては電極間の短絡を防止することは困難となるため、さらなる熱収縮の改善が望まれる。さらに、シャットダウン機能が発現した後、高温下に曝され続けた場合に、ポリオレフィンの溶融が進行してもシャットダウン機能が維持されることが、安全性のさらなる向上という観点からも望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2008/062727号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2008/149895号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2008/156033号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明では、シャットダウン機能および耐熱性に加え、膜抵抗および熱収縮率に優れ、かつ、高温下においてもシャットダウン機能を維持できる非水系二次電池用セパレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記の課題を解決するために検討を重ねた結果、以下の構成により課題を解決できることを見出し本発明に至った。
【0011】
1. ポリオレフィン微多孔膜と、このポリオレフィン微多孔膜の両面に被覆され耐熱性樹脂を含んで構成された耐熱性多孔質層と、を備えた複合膜からなる非水系二次電池用セパレータであって、水銀圧入法を用いて前記耐熱性多孔質層の単位面積当たりにおける細孔径(μm)と積算細孔容積(ml/m)との関係を示す細孔プロットを求めた場合に、この細孔プロットにおいて、所定の細孔径において積算細孔容積が負となる部分が生じることを特徴とする非水系二次電池用セパレータ。
2. 前記細孔プロットにおいて、前記積算細孔容積が負となる部分が細孔径0.1〜0.4μmの範囲に生じることを特徴とする上記1に記載の非水系二次電池用セパレータ。
3. 前記細孔プロットにおいて、細孔径の全範囲に亘る積算細孔容積を、細孔径が測定最小値のときにおける積算細孔容積で割って、前記耐熱性多孔質層の単位面積当たりにおける細孔径(μm)と積算細孔容積比(%)との関係を示す変換細孔プロットを求めた場合に、この変換細孔プロットにおいて、積算細孔容積比の最小値が−5%以下となることを特徴とする上記1または2に記載の非水系二次電池用セパレータ。
4. 前記ポリオレフィン微多孔膜は、水銀圧入法で求めた平均細孔径が0.05〜0.5μmであり、かつ、前記耐熱性多孔質層は、水銀圧入法で求めた平均細孔径が0.05〜0.2μmであることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載の非水系二次電池用セパレータ。
5. 前記耐熱性多孔質層の平均細孔径は、前記ポリオレフィン微多孔膜の平均細孔径よりも小さいことを特徴とする上記4に記載の非水系二次電池用セパレータ。
6. 前記ポリオレフィン微多孔膜の空孔率が40〜60%であり、かつ、前記耐熱性多孔質層の空孔率が20〜80%であることを特徴とする上記1〜5のいずれかに記載の非水系二次電池用セパレータ。
7. 前記耐熱性多孔質層の空孔率は、前記ポリオレフィン微多孔膜の空孔率よりも大きいことを特徴とする上記6に記載の非水系二次電池用セパレータ。
8. 前記耐熱性多孔質層が無機フィラーを含むことを特徴とする上記1〜7のいずれかに記載の非水系二次電池用セパレータ。
9. 前記無機フィラーの平均粒子径が0.1〜10μmであり、前記耐熱性多孔質層における前記無機フィラーの含有量が前記耐熱性樹脂の体積に対し0.4倍〜4倍であることを特徴とする上記8に記載の非水系二次電池用セパレータ。
10. 前記耐熱性樹脂が、芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミドから成る群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする上記1〜9のいずれかに記載の非水系二次電池用セパレータ。
11. 前記耐熱性樹脂がポリメタフェニレンイソフタルアミドあることを特徴とする上記10に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、シャットダウン機能および耐熱性に加えて、膜抵抗および熱収縮率の双方に優れ、かつ、シャットダウン温度よりも高温においてもシャットダウン状態を維持できる非水系二次電池用セパレータが得られる。かかるセパレータは、非水系二次電池の安全性および電池特性を向上させるのに非常に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ポリオレフィン微多孔膜についての単位面積当たりにおける細孔径(μm)と積算細孔容積(ml/m)との関係を示す第一のプロットの一例、および、複合膜についての単位面積当たりにおける細孔径(μm)と積算細孔容積(ml/m)との関係を示す第二のプロットの一例を示す図である。
【図2】耐熱性多孔質層の単位面積当たりにおける細孔径(μm)と積算細孔容積(ml/m)との関係を示す第三のプロット(細孔プロット)の一例を示す図である。
【図3】耐熱性多孔質層の単位面積当たりにおける細孔径(μm)と積算細孔容積比(%)との関係を示す第四のプロット(変換細孔プロット)の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[非水系二次電池用セパレータ]
本発明に係る非水系二次電池用セパレータは、ポリオレフィン微多孔膜と、このポリオレフィン微多孔膜の両面に被覆され耐熱性樹脂を含んで構成された耐熱性多孔質層と、を備えた複合膜からなる非水系二次電池用セパレータであって、水銀圧入法を用いて、前記耐熱性多孔質層の単位面積当たりにおける細孔径(μm)と積算細孔容積(ml/m)との関係を示す細孔プロットを求めた場合に、この細孔プロットにおいて、所定の細孔径において積算細孔容積が負となる部分が生じることを特徴とする。
【0015】
本発明は、前記細孔プロットにおいて、所定の細孔径において積算細孔容積が負となる部分が生じることが特徴である。ここで、本発明における「細孔プロット」は以下のようにして求める。
【0016】
まず、ポリオレフィン微多孔膜(基材)について、水銀圧入法により細孔径の測定最大値から測定最小値までに亘って積算細孔容積(ml/g)を測定する。そして、これに基材の目付け(g/m)を乗じることにより、単位面積当たりにおける細孔径(μm)と積算細孔容積(ml/m)との関係を示す第一のプロットを求める(例えば、図1の破線を参照)。
【0017】
次に、基材の両面に耐熱性多孔質層を被覆した複合膜について、水銀圧入法により細孔径の測定最大値から測定最小値までに亘って積算細孔容積(ml/g)を測定する。そして、これに複合膜の目付け(g/m)を乗じることにより、単位面積当たりにおける細孔径(μm)と積算細孔容積(ml/m)との関係を示す第二のプロットを求める(例えば、図1の実線を参照)。
【0018】
そして、第二のプロットにおける積算細孔容積から第一のプロットにおける積算細孔容積を、細孔径の全範囲に亘って減算することにより、耐熱性多孔質層の単位面積当たりにおける細孔径(μm)と積算細孔容積(ml/m)との関係を示す第三のプロットを求めることができる(例えば、図2参照)。この第三のプロットが、本発明における「細孔プロット」に相当する。
【0019】
本発明のように、細孔プロットにおいて「積算細孔容積が負となる部分」が生じるということは、ポリオレフィン微多孔膜の両面に存在する耐熱性多孔質層によって、ポリオレフィン微多孔膜中の孔が変形し難くなっていることを表している。すなわち、サンプルの積算細孔容積はサンプルの細孔中に注入された水銀の全容積に比例するので、ポリオレフィン微多孔膜の両面に耐熱性多孔質層を被覆した複合膜の積算細孔容積は、細孔径の全範囲において、そのポリオレフィン微多孔膜単体の積算細孔容積よりも大きくなるのが通常である。よって、複合膜の積算細孔容積からポリオレフィン微多孔膜単体の積算細孔容積を減算した場合に、積算細孔容積が負となる部分が生じることは一般的には考え難い。しかし、水銀圧入法では、水銀中にサンプルを浸して水銀の圧力を徐々に増大していくことで、最初にサンプル中の大きな細孔に水銀が充填されてから、徐々に細孔径が小さなところに水銀が充填されるように測定が進行するが、その際、細孔は水銀の圧力によって押し広げられる状態に変形する。そのため、水銀圧入法によって得られた積算細孔容積の測定結果には、サンプルの各細孔の「変形量」も反映されてくる。このため、細孔プロットにおいて、所定の細孔径で積算細孔容積が負となる部分が生じたということは、ポリオレフィン微多孔膜単体では細孔が容易に変形していたものが、その両面に耐熱性多孔質層が固着された状態では当該細孔が変形し難い状態に変わったことを意味する。
【0020】
本発明では、このように耐熱性多孔質層によってポリオレフィン微多孔膜の細孔の変形を抑えているので、高温下においてセパレータが熱収縮することが抑制され、かつ、ポリオレフィンの融点よりも高温下においてもシャットダウン状態を維持し続けることが可能となったと考えられる。また、ポリオレフィン微多孔膜の表面近傍の細孔中に耐熱性樹脂が充填された場合は、目詰まりが発生して膜抵抗が悪化するのが通常であるが、本発明のように細孔プロットに「積算細孔容積が負となる部分」が生じたものについては、このような目詰まりも発生しておらず、良好な膜抵抗を有することが分かった。
【0021】
なお、細孔プロットにおいて積算細孔容積が負となる部分を生じさせるためには、ポリオレフィン微多孔膜および耐熱性多孔質層についてのそれぞれの細孔構造(孔径、空孔率、フィブリル径、両層間におけるこれらの値の関係等)、伸度等の機械的物性、ポリオレフィン微多孔膜と耐熱性多孔質層との接合状態等を総合的に調整する必要がある。
【0022】
本発明では、細孔プロットにおいて、積算細孔容積が負となる部分が細孔径0.1〜0.4μmの範囲に生じることが好ましい。このような細孔径の範囲において積算細孔容積が負となる部分が生じるセパレータであれば、上述した本発明の熱収縮率等の向上効果がより確実に得られるようになる。
【0023】
本発明では、細孔プロットにおいて、細孔径の全範囲に亘る積算細孔容積を、細孔径が測定最小値のときにおける積算細孔容積で割って、耐熱性多孔質層の単位面積当たりにおける細孔径(μm)と積算細孔容積比(%)との関係を示す変換細孔プロットを求めた場合に、この変換細孔プロットにおいて、積算細孔容積比の最小値が−5%以下となることが好ましい。これについて具体的に説明すると、まず、図2に示した第三のプロット(細孔プロット)において、細孔径の全範囲(測定最大値から測定最小値まで)に亘る積算細孔容積を、細孔径が測定最小値のときにおける積算細孔容積の値(例えば、図2中の矢印Aで示す値)で割る。これにより、第四のプロット、すなわち耐熱性多孔質層の単位面積当たりにおける細孔径(μm)と積算細孔容積比(%)との関係を示す「変換細孔プロット」が得られる(例えば、図3参照)。この第四のプロットにおいて、積算細孔容積比の最小値(例えば、図3の矢印Bで示した値)が−5%以下となれば、ポリオレフィン微多孔膜中の細孔がより変形し難くなり、上述した本発明の熱収縮率等の向上効果がより確実に得られるようになる。
【0024】
なお、水銀圧入法による測定装置としては、例えば、市販のユアサアイオニクス(株)社製のオートスキャン−60ポロシメーターや、American Instrument Company社製の60,000psiポロシメータ等を挙げることができる。
【0025】
本発明において、耐熱性多孔質層は、ポリオレフィン微多孔膜の両面に被覆された耐熱性樹脂を含む多孔質被覆層である。この耐熱性多孔質層は、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が互いに連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となっている。なお、耐熱性多孔質層は、ポリオレフィン微多孔膜の両面に直接塗工して被覆することが好ましいが、例えば耐熱性多孔質層を構成するシートを接着剤等によりポリオレフィン微多孔膜の両面に接着したような構成であってもよい。本発明では、耐熱性多孔質層により、ポリオレフィン微多孔膜の融点以上でも溶融しない程度の耐熱性を確保することができる。
【0026】
本発明における耐熱性樹脂としては融点が200℃以上の樹脂が挙げられるが、これには実質的に融点が存在しない熱分解温度が200℃以上の樹脂も含まれる。このような耐熱性樹脂としては、例えば全芳香族ポリアミドやポリアミドイミド、ポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、セルロース等を挙げることができる。これらのうち全芳香族ポリアミドが、二次電池の耐久性が優れたものになるため好ましい。上記の全芳香族ポリアミドにはメタ型とパラ型があるが、メタ型の方がより二次電池の耐久性に優れるという観点から好ましく、多孔構造を形成しやすいという観点からも好適である。特に、本発明においては全芳香族ポリアミドがポリメタフェニレンイソフタルアミドあることが好ましい。
【0027】
本発明におけるポリオレフィン微多孔膜は、ポリオレフィンからなり、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となった膜である。本発明におけるポリオレフィンとしては、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリメチルペンテン、これらの組合せ等が挙げられる。特に好ましいのはポリエチレンであるが、このポリエチレンとしては高密度ポリエチレンや、高密度ポリエチレンと超高分子量ポリエチレンの混合物等が好適である。本発明では、このようなポリオレフィン微多孔膜により、シャットダウン機能が発現される。
【0028】
本発明において、耐熱性多孔質層には無機フィラーが含まれていることが好ましい。耐熱性多孔質層に無機フィラーが含まれていると、セパレータが高温度になった際の熱収縮が抑制され、更にセパレータの圧縮強度が高まる。その結果、二次電池用セパレータの耐熱性を向上させる効果が生じる。また、無機フィラー自体の特有の機能(例えば耐熱性や熱伝導性、難燃性、ガス吸収性等)をセパレータの機能に付加できる点でも好ましい。
【0029】
耐熱性多孔質層中における無機フィラーの含有量は、耐熱性樹脂の体積に対し0.4〜4倍であることが好ましい。無機フィラーの含有量が耐熱性樹脂の体積に対し0.4倍未満であると、無機フィラーの耐熱性向上の効果が十分に得られないことがある。また、無機フィラーの含有量が耐熱性樹脂の体積に対し4倍を超えると、耐熱性多孔質層が緻密化されすぎ、イオン透過性が低下する場合がある。
【0030】
無機フィラーの平均粒子径は、0.1μm以上1μm以下の範囲が好適である。平均粒子径が1μmを超えた場合、セパレータが高温下に曝された際に短絡発生を十分に防止できなくなる場合があり、また、耐熱性多孔質層を適切な厚みで成形することが困難となる可能性もある。平均粒子径が0.1μmより小さい場合、無機フィラーがセパレータから粉落ちし易くなり、ハンドリング性が低下するため好ましくない。また、このように小さなフィラーを用いることは、コスト上の観点からも実質的に困難である。
【0031】
本発明において、無機フィラーの種類としては、特に限定されるものではないが、例えば金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属炭酸塩、金属水酸化物などが挙げられる。中でもアルミナやジルコニア、シリカ、マグネシア、チタニアといった金属酸化物、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム、ベーマイトといった金属水酸化物、活性アルミナや活性炭、ゼオライト等の多孔性無機物が好適である。これらの無機フィラーは2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0032】
本発明において、ポリオレフィン微多孔膜は、水銀圧入法で求めた平均細孔径が0.05〜0.5μmであり、かつ、耐熱性多孔質層は、水銀圧入法で求めた平均細孔径が0.05〜0.2μmであることが好ましい。このような範囲であれば、上記の「積算細孔容積が負となる部分」が生じやすくなる。そして、ポリオレフィン微多孔膜の平均細孔径が、0.05μmより小さいと電解液の含浸性が低下し、0.5μmを超えるとシャットダウン特性が低下するため、好ましくない。また、耐熱性多孔質層の平均細孔径が、0.05μmより小さくなるとセパレータの膜抵抗が悪化し、0.2μmを超えるとセパレータの熱収縮率が高くなるため、好ましくない。
【0033】
また、本発明では、耐熱性多孔質層の平均細孔径は、ポリオレフィン微多孔膜の平均細孔径よりも小さいことが好ましい。このような関係であれば、上記の「積算細孔容積が負となる部分」がより確実に生じやすくなる。
【0034】
本発明において、ポリオレフィン微多孔膜の空孔率が40〜60%であり、かつ、耐熱性多孔質層の空孔率が20〜80%であることが好ましい。さらにはポリオレフィン微多孔膜の空孔率が50〜60%であり、かつ、耐熱性多孔質層の空孔率が50〜80%であることが好ましい。このような範囲であれば、上記の「積算細孔容積が負となる部分」が生じやすくなる。そして、ポリオレフィン微多孔膜の空孔率が、40%未満であるとセパレータの膜抵抗が悪化し、60%を超えるとシャットダウン機能が悪化するため、好ましくない。また、耐熱性多孔質層の空孔率が、20%未満であるとセパレータの膜抵抗が悪化し、80%を超えるとセパレータの熱収縮率が高くなるため、好ましくない。
【0035】
また、本発明では、耐熱性多孔質層の空孔率は、ポリオレフィン微多孔膜の空孔率よりも大きいことことが好ましい。このような関係であれば、上記の「積算細孔容積が負となる部分」がより確実に生じやすくなる。
【0036】
本発明において、ポリオレフィン微多孔膜の膜厚は5〜20μm、耐熱性多孔質層の膜厚は2μm以上、セパレータ全体の膜厚は9〜25μmの範囲であることが好ましい。また、耐熱性多孔質層の目付けは、使用材料により異なるものであるため一概には言えないが、概ね2〜10g/mであることが好適である。
【0037】
本発明では、ポリオレフィン微多孔膜の120℃におけるMD方向およびTD方向の熱収縮率がともに10%〜40%の範囲にあることが好ましい。ポリオレフィン微多孔膜の熱収縮率が10%未満であると、上記の「積算細孔容積が負となる部分」が生じ難くなる傾向があり、ポリオレフィン微多孔膜の熱収縮率が40%を超えると、セパレータ全体の熱収縮率が悪化する場合があるため、好ましくない。セパレータ全体では、120℃におけるMD方向およびTD方向の熱収縮率がともに10%以下となることが好ましく、さらに5%以下となることが好ましい。
【0038】
本発明において、ポリオレフィン微多孔膜のガーレ値は50〜500秒/100cc、セパレータ全体のガーレ値は400秒/100cc以下が好適であることが好ましい。また、ポリオレフィン微多孔膜の突刺強度は200g以上が好ましく、さらに300g以上が好ましい。
【0039】
本発明において、耐熱性多孔質層はポリオレフィン微多孔膜の両面に形成する必要がある。これによって、より高い耐熱性を付与することができ、カールによるハンドリング上の不具合も生じなくなる。また、耐熱性多孔質層は充放電の過程で電極表面に生じる皮膜を良好な形態にするため、本発明のセパレータを用いれば正極表面および負極表面の双方に耐熱性多孔質層が接触するようになり、電池のサイクル特性や電池の保存特性を向上させることができる。
【0040】
[ポリオレフィン微多孔膜の製造方法]
本発明において、ポリオレフィン微多孔膜の製造方法は特に限定されないが、例えば下記(i)〜(vi)の工程を含む方法を採用できる。
(i)ポリオレフィン組成物を溶剤に溶解させた溶液を調整する工程。
(ii)前記溶液をポリオレフィン組成物の融点以上かつ融点+60℃以下の温度でダイより押出し、冷却してゲル状組成物を形成する工程。
(iii)前記ゲル状組成物を延伸する工程。
(iv)延伸されたゲル状組成物を熱固定する工程。
(v)前記溶剤を除去する工程。
(vi)アニールする工程。
【0041】
ここで、上記工程(i)における溶剤としては、パラフィン、流動パラフィン、パラフィン油、鉱油、ひまし油、テトラリン、エチレングリコール、グリセリン、デカリン、トルエン、キシレン、ジエチルトリアミン、エチレンジアミン、ジメチルスルホキシド、ヘキサン等が挙げられる。また、上記工程(iii)における延伸方法としては二軸延伸が好ましく、縦延伸と横延伸を別々に実施する逐次二軸延伸、縦延伸と横延伸を同時に実施する同時二軸延伸のいずれの方法も好適に用いることが可能である。また、上記の工程(iv)における熱固定温度は、100〜130℃であることが、上記の「積算細孔容積が負となる部分」が生じやすくなるため好ましい。
【0042】
[非水系二次電池用セパレータの製造方法]
本発明において、非水系二次電池用セパレータの製造方法は、上述した「積算細孔容積が負となる部分」が生じるセパレータを製造できるものであれば特に限定されないが、例えば下記(i)〜(v)の工程を経て製造することが可能である。
(i)耐熱性樹脂を溶剤に溶かして、塗工用スラリーを作製する工程。
(ii)前記スラリーをポリオレフィン微多孔膜の両面に塗工する工程。
(iii)前記スラリーが塗工されたポリオレフィン微多孔膜を、前記耐熱性樹脂を凝固させることが可能な凝固液で処理する工程。
(iv)前記凝固液を水洗することによって除去する工程。
(v)水を乾燥する工程。
【0043】
上記工程(i)において、溶剤は耐熱性樹脂を溶解するものであればよく、特に限定されない。具体的には極性溶剤が好ましく、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。また、当該溶剤はこれらの極性溶剤に加えて耐熱性樹脂に対して貧溶剤となる溶剤も加えることができる。このような貧溶剤を適用することでミクロ相分離構造が誘発され、耐熱性多孔質層を形成する上で多孔化が容易となる。貧溶剤としては、アルコールの類が好適であり、特にグリコールのような多価アルコールが好適である。塗工用スラリー中の耐熱性樹脂の濃度は4〜9重量%が好ましい。
【0044】
なお、耐熱性多孔質層中に無機フィラーを含ませる構成の場合は、この工程(i)において塗工用スラリー中に無機フィラーを分散させればよい。この場合、無機フィラーの分散性が好ましくないときは、無機フィラーをシランカップリング剤などで表面処理し、分散性を改善する手法も適用可能である。
【0045】
上記工程(ii)において、ポリオレフィン微多孔膜の両面に耐熱性多孔質層を形成する際には、工程の短縮という観点から、両面に同時に塗工することが好ましい。当該スラリーを塗工する方法としては、ナイフコーター法、グラビアコーター法、スクリーン印刷法、マイヤーバー法、ダイコーター法、リバースロールコーター法、インクジェット法、スプレー法、ロールコーター法などが挙げられる。この中でも、塗膜を均一に形成するという観点において、リバースロールコーター法が好適である。ポリオレフィン微多孔膜の両面に同時に塗工する場合は、例えば、ポリオレフィン微多孔膜を一対のマイヤーバーの間に通すことで当該膜の両面に過剰なスラリーを塗布し、これを一対のリバースロールコーターの間に通して過剰なスラリーを掻き落すことで精密計量するという方法が挙げられる。
【0046】
上記工程(iii)では、スラリーを塗工したポリオレフィン微多孔膜を、当該耐熱性樹脂を凝固させることが可能な凝固液で処理することにより、耐熱性樹脂を凝固させて耐熱性多孔質層を形成し、無機フィラーを含む構成の場合は無機フィラーが結着された多孔質層を形成する。凝固液で処理する方法としては、スラリーを塗工したポリオレフィン微多孔膜に対して凝固液をスプレーで吹き付ける方法や、当該微多孔膜を凝固液の入った浴(凝固浴)中に浸漬する方法などが挙げられる。ここで、凝固浴を設置する場合は、塗工装置の下方に設置することが好ましい。凝固液としては、当該耐熱性樹脂を凝固できるものであれば特に限定されないが、水、または、スラリーに用いた溶剤に水を適当量混合させたものが好ましい。ここで、水の混合量は凝固液に対して40〜80重量%が好適である。水の量が40重量%より少ないと、耐熱性樹脂を凝固するのに必要な時間が長くなったり、凝固が不十分になったりという問題が生じる。また、水の量が80重量%より多いと、溶剤回収においてコスト高となったり、凝固液と接触する表面の凝固が速くなりすぎて表面が十分に多孔化されなかったりという問題が生じる。
【0047】
上記工程(iv)は、上記工程(iii)の後のシートから凝固液を除去する工程であり、水洗する方法が好ましい。
上記工程(v)は、上記工程(iv)の後のシートから水を乾燥して除去する工程であり、乾燥方法は特に限定されない。乾燥温度は50〜80℃が好適であり、高い乾燥温度を適用する場合は熱収縮による寸法変化が起こらないようにするためにロールに接触させるような方法を適用することが好ましい。
【0048】
[非水系二次電池]
本発明の非水系二次電池用セパレータは、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る形態の非水系二次電池であれば、いかなる形態の非水系二次電池においても適用可能である。一般的な非水系二次電池は、負極と正極がセパレータを介して対向している電池要素に電解液が含浸され、これが外装に封入された構造となっている。
【0049】
負極は、負極活物質、導電助剤およびバインダーからなる負極合剤が、集電体上に成形された構造となっている。負極活物質としては、リチウムを電気化学的にドープすることが可能な材料が挙げられ、例えば炭素材料、シリコン、アルミニウム、スズ、ウッド合金などが挙げられる。導電助剤は、アセチレンブラック、ケッチェンブラックといった炭素材料が挙げられる。バインダーは有機高分子からなり、例えばポリフッ化ビニリデン、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。集電体には銅箔、ステンレス箔、ニッケル箔などを用いることが可能である。
【0050】
正極は、正極活物質、導電助剤およびバインダーからなる正極合剤が、集電体上に成形された構造となっている。正極活物質としては、リチウム含有遷移金属酸化物等が挙げられ、具体的にはLiCoO、LiNiO、LiMn0.5Ni0.5、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiMn、LiFePO等が挙げられる。導電助剤はアセチレンブラック、ケッチェンブラックといった炭素材料が挙げられる。バインダーは有機高分子からなり、例えばポリフッ化ビニリデンなどが挙げられる。集電体にはアルミ箔、ステンレス箔、チタン箔などを用いることが可能である。
【0051】
電解液は、リチウム塩を非水系溶媒に溶解した構成である。リチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiClOなどが挙げられる。非水系溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、ビニレンカーボネートなどが挙げられ、これらは単独で用いても混合して用いてもよい。
【0052】
外装材は、金属缶またはアルミラミネートパック等が挙げられる。電池の形状は角型、円筒型、コイン型などがあるが、本発明のセパレータはいずれの形状においても好適に適用することが可能である。
【実施例】
【0053】
以下、本発明の実施例について説明する。
本発明の実施例及び比較例で適用した測定方法は以下の通りである。
【0054】
[膜厚]
接触式の膜厚計(ミツトヨ社製)にて各サンプルについて20点測定し、これを平均することで求めた。ここで接触端子は底面が直径0.5cmの円柱状のものを用いた。
【0055】
[目付]
サンプルを10cm×10cmに切り出し重量を測定する。この重量を面積で割ることで1m当たりの重量である目付を求めた。
【0056】
[塗工量]
ポリオレフィン微多孔膜(基材)の両面に耐熱性多孔質層を被覆した複合膜の目付から、基材の目付を引くことで塗工量を求めた。
【0057】
[空孔率]
構成材料がa、b、c…、nからなり、構成材料の重量がWa、Wb、Wc…、Wn(g・cm)であり、それぞれの真密度がda、db、dc…、dn(g/cm)で、着目する層の膜厚をt(cm)としたとき、空孔率ε(%)は下記式より求めた。
ε={1−(Wa/da+Wb/db+Wc/dc+…+Wn/dn)/t}×100
【0058】
[細孔プロット]
実施例および比較例で作成した各セパレータにおける耐熱性多孔質層の細孔プロットは、以下のようにして得た。なお、水銀圧入法による細孔径測定は、マイクロメリティクス社製 オートポアIV 9510型を用いた。細孔径の測定範囲は0.003〜20μmとした。
まず、ポリオレフィン微多孔膜(基材)について、水銀圧入法により細孔径20μmから0.003μmまでに亘って積算細孔容積(ml/g)を測定し、これに基材の目付け(g/m)を乗じることにより、単位面積当たりにおける細孔径(μm)と積算細孔容積(ml/m)との関係を示す第一のプロットを求めた。
次に、基材の両面に耐熱性多孔質層を被覆した複合膜について、水銀圧入法により細孔径20μmから0.003μmまでに亘って積算細孔容積(ml/g)を測定し、これに複合膜の目付け(g/m)を乗じることにより、単位面積当たりにおける細孔径(μm)と積算細孔容積(ml/m)との関係を示す第二のプロットを求めた。
そして、第二のプロットにおける積算細孔容積から第一のプロットにおける積算細孔容積を、細孔径の全範囲に亘って減算することにより、耐熱性多孔質層の単位面積当たりにおける細孔径(μm)と積算細孔容積(ml/m)との関係を示す第三のプロット(細孔プロット)を得た。
なお、以下の表1に、各実施例および比較例の細孔プロットにおいて積算細孔容積が負となる部分が生じたものについては○と記載し、積算細孔容積が負となる部分が生じなかったものについては×と記載した。また、表1において、積算細孔容積が負となる部分が生じたものについては、積算細孔容積が負となった部分の細孔径の範囲を記載した。
【0059】
[変換細孔プロット]
上述のようにして得た第三のプロット(細孔プロット)において、細孔径の全範囲に亘る積算細孔容積を、細孔径が測定最小値のときにおける積算細孔容積の値で除算して、耐熱性多孔質層の単位面積当たりにおける細孔径(μm)と積算細孔容積比(%)との関係を示す第四のプロット(変換細孔プロット)を得た。なお、以下の表1に、各実施例および比較例についての積算細孔容積比の最小値を記載した。
【0060】
[平均細孔径]
ポリオレフィン微多孔膜の平均細孔径は、上述のようにして得た第一のプロットにおいて、細孔径が測定最小値のときにおける積算細孔容積の1/2の積算細孔容積に対応する細孔径を算出し、これをポリオレフィン微多孔膜の平均細孔径とした。
耐熱性多孔質層の平均細孔径についても同様に、上述のようにして得た第三のプロットにおいて、細孔径が測定最小値のときにおける積算細孔容積の1/2の積算細孔容積に対応する細孔径を算出し、これを耐熱性多孔質層の平均細孔径とした。
【0061】
[膜抵抗]
1)ポリエチレン微多孔膜の膜抵抗
サンプルとなるポリエチレン微多孔膜を、2.6cm×2.0cmのサイズに切り出した。非イオン性界面活性剤(花王社製;エマルゲン210P)を3重量%溶解したメタノール溶液に、切り出したサンプルを浸漬し、風乾した。厚さ20μmのアルミ箔を2.0cm×1.4cmに切り出し、これにリードタブを付けた。このアルミ箔を2枚用意して、アルミ箔が短絡しないように、サンプルをアルミ箔間に挟み込んだ。サンプルに電解液(プロピレンカーボネートとエチレンカーボネートが1対1の重量比で混合した溶媒に1MのLiBFを溶解させた液体)を含浸させる。これをアルミラミネートパック中に、タブがアルミパックの外に出るようにして、減圧封入した。このようなセルを、アルミ箔中におけるサンプルの枚数が1枚、2枚、3枚となるようにそれぞれ作製した。該セルを20℃の恒温槽中に入れ、交流インピーダンス法で振幅10mV、周波数100kHzにて該セルの抵抗を測定した。測定されたセルの抵抗値を、サンプルの枚数に対してプロットし、このプロットを線形近似し傾きを求めた。この傾きに電極面積である2.0cm×1.4cmを乗じて、サンプル1枚当たりの膜抵抗(ohm・cm)を求めた。
2)セパレータの膜抵抗
サンプルとしてセパレータを用いた点以外は、上記の場合と同様にして、セパレータ1枚当たりの膜抵抗(ohm・cm)を求めた。
【0062】
[熱収縮率]
サンプルとなるセパレータを、18cm(MD方向)×6cm(TD方向)に切り出した。TD方向を2等分する線上に、上部から2cm、17cmの箇所(点A、点B)に印を付けた。また、MD方向を2等分する線上に、左から1cm、5cmの箇所(点C、点D)に印をつけた。これにクリップをつけて(クリップをつける場所はMD方向の上部2cm以内の箇所)、120℃に調整したオーブンの中につるし、無張力下で30分間熱処理を行った。2点AB間、CD間の長さを熱処理の前後で測定し、以下の式から熱収縮率を求め、これを耐熱性の指標とした。
MD方向熱収縮率={(熱処理前のABの長さ−熱処理後のABの長さ)/熱処理前のABの長さ}×100
TD方向熱収縮率={(熱処理前のCDの長さ−熱処理後のCDの長さ)/熱処理前のCDの長さ}×100
【0063】
[シャットダウン(SD)特性評価]
以下の実施例および比較例で作製した各セパレータをΦ19mmに打ち抜き、非イオン性界面活性剤(花王社製;エマルゲン210P)の3重量%メタノール溶液中に浸漬して風乾した。そしてセパレータに電解液を含浸させSUS板(Φ15.5mm)に挟んだ。電解液には、プロピレンカーボネートとエチレンカーボネートが1対1の重量比で混合した溶媒に、1MのLiBFを溶解させた液体を用いた。これを2032型コインセルに封入した。コインセルからリード線をとり、熱電対を付けてオーブンの中に入れた。昇温速度1.6℃/分で昇温させ、同時に振幅10mV、1kHzの周波数の交流を印加することでセルの抵抗を測定した。
上記測定で135〜150℃の範囲で抵抗値が10ohm・cm以上となった場合はSD特性を良好(○)と判断し、そうでなかった場合は不良(×)と判断した。また、上記測定でSD機能が発揮した後、150〜200℃の範囲で抵抗値が10ohm・cm以上を維持し続けた場合はSD維持特性が良好(○)と判断し、そうでなかった場合はSD特性が不良(×)と判断した。
【0064】
[サイクル特性評価]
以下の実施例および比較例に示すセパレータを用いて、以下の通りリチウムイオン二次電池を作成し、そのサイクル特性を評価した。
1)正極
コバルト酸リチウム(LiCoO、日本化学工業社製)粉末89.5重量部と、アセチレンブラック4.5重量部及びPVdFの乾燥重量が6重量部となるように、6重量%のPVdFのNMP溶液を用い、正極剤ペーストを作製した。得られたペーストを、厚さ20μmのアルミ箔上に塗布乾燥後プレスして、厚さ97μmの正極を得た。
2)負極
負極活物質としてメソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB、大阪瓦斯化学社製)粉末87重量部と、アセチレンブラック3重量部及びPVdFの乾燥重量が10重量部となるように、6重量%のPVdFのNMP溶液を用い、負極剤ペーストを作製した。得られたペーストを、厚さ18μmの銅箔上に塗布乾燥後プレスして、厚さ90μmの負極を作製した。
3)電解液
エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートを3:7の重量比で混合した溶液に、LiPFが1mol/Lとなるように溶解したものを用いた。
4)リチウムイオン二次電池の試作
上記正極(2cm×1.4cm)及び負極(2.2cm×1.6cm)を以下の実施例および比較例で作製したセパレータ(2.6cm×2.2cm)を介して対向させた。これに上記電解液(0.15〜0.19g)を含浸させアルミラミネートフィルムからなる外装に封入してリチウムイオン二次電池を作製した。
5)サイクル試験
作製したリチウムイオン二次電池について、充放電測定装置(北斗電工社製 HJ−101SM6)を使用し、充放電を100サイクル繰り返した(充放電の条件として、充電については、1.6mA/hで4.2Vまでの充電を行い、放電については1.6mA/hで2.75Vまでの放電を行った)。そして、1サイクル目の放電容量と100サイクル目の放電容量から、サイクル特性を以下の式により算出した。
サイクル特性(%)=(100サイクル目の放電容量)÷(1サイクル目の放電容量)×100
サイクル特性が80%以上であれば良好(○)と評価し、80%未満であれば不良(×)と判断した。
【0065】
[実施例1]
(1)ポリエチレン微多孔膜
ポリエチレンパウダーとしてTicona社製のGUR2126(重量平均分子量415万、融点141℃)とGURX143(重量平均分子量56万、融点135℃)を用いた。GUR2126とGURX143を1:9(重量比)となるようにして、ポリエチレンと流動パラフィン(松村石油研究所社製;スモイルP−350P;沸点480℃)とデカリンの混合溶液を作製した。該ポリエチレン混合溶液の組成はポリエチレン:流動パラフィン:デカリン=20:62:18(重量比)である。このポリエチレン溶液を148℃でダイから押し出し、水浴中で冷却してゲル状テープ(ベーステープ)を作製した。該ベーステープを60℃で8分、95℃で15分乾燥し、該ベーステープを縦延伸、横延伸と逐次行う2軸延伸にて延伸した。ここで、縦延伸は5.5倍、延伸温度は90℃、横延伸は延伸倍率11.0倍、延伸温度は105℃とした。横延伸の後に125℃で熱固定を行った。次にこれを塩化メチレン浴に浸漬し、流動パラフィンとデカリンを抽出した。その後、50℃で乾燥し、120℃でアニール処理することでポリエチレン微多孔膜を得た。
該ポリエチレン微多孔膜の膜厚は10μm、目付は4.41g/m、空孔率は53%、平均細孔径は0.14μm、膜抵抗は2.236ohm・cm、120℃における熱収縮率はMD27%、TD15%であった。
【0066】
(2)複合膜(セパレータ)の作製
メタ型全芳香族ポリアミドであるコーネックス(登録商標;帝人テクノプロダクツ社製)と平均粒子径0.8μmの水酸化アルミニウム(昭和電工社製;H−43M)が体積比で65:35となるように調整し、これらをメタ型全芳香族ポリアミド濃度が5.5重量%となるようにジメチルアセトアミド(DMAc)とトリプロピレングリコール(TPG)が重量比50:50となっている混合溶媒に混合して、塗工用スラリーを得た。
一対のマイヤーバー(番手#6)を20μmのクリアランスで対峙させた。マイヤーバーに上記塗工用スラリーを適量のせ、一対のマイヤーバー間にポリエチレン微多孔膜を通すことでポリエチレン微多孔膜の両面に塗工用スラリーを塗工した。これを重量比で水:DMAc:TPG=50:25:25で40℃となっている凝固液中に浸漬した。次いで水洗・乾燥を行い、ポリエチレン微多孔膜の表裏面に耐熱性多孔質層を形成し、本発明の非水系二次電池用セパレータを得た。
このセパレータの物性は、目付8.91g/m、塗工量4.50g/m、全体の膜厚18.0μm、耐熱性多孔質層の空孔率70%、膜抵抗4.167ohm・cm、120℃における熱収縮率はMD方向3.0%、TD方向1.5%、サイクル特性は良好(○)であった。
また、第四プロットにおける積算細孔容積比の最小値は−10%、積算細孔容積比が負になる孔径範囲は0.18μm以上0.23μm以下であった。
【0067】
[実施例2]
GUR2126とGURX143を7:3(重量比)となるようにし、ポリエチレン溶液の組成をポリエチレン:流動パラフィン:デカリン=19:61:20(重量比)とし、ポリエチレンの濃度を19重量%とし、熱固定温度を120℃にしたこと以外は、実施例1と同様にポリエチレン微多孔膜を作製した。
該ポリエチレン微多孔膜の膜厚は10μm、目付は4.20g/m、空孔率は55%、平均細孔径は0.15μm、膜抵抗は2.053ohm・cm、120℃における熱収縮率はMD30%、TD15%であった。
次にこのポリエチレン微多孔膜を用い、水酸化アルミニウムを加えないことと、メタ型全芳香族ポリアミド濃度が6.5重量%となるようにジメチルアセトアミド(DMAc)とトリプロピレングリコール(TPG)が重量比50:50となっている混合溶媒に混合して、塗工用スラリーを得たこと以外は、実施例1と同様にして非水系二次電池用セパレータを得た。
このセパレータの物性は、目付7.92g/m、塗工量3.72g/m、全体の膜厚18.0μm、耐熱性多孔質層の空孔率65%、膜抵抗3.931ohm・cm、120℃における熱収縮率はMD方向4.5%、TD方向2.1%、サイクル特性は良好(○)であった。
また、第四プロットにおける積算細孔容積比の最小値は−20%、積算細孔容積比が負になる孔径範囲は0.16μm以上0.26μm以下であった。
【0068】
[実施例3]
ポリエチレン溶液の組成をポリエチレン:流動パラフィン:デカリン=18:60:23(重量比)とし、ポリエチレンの濃度を18重量%としたこと以外は、実施例2と同様にポリエチレン微多孔膜を作製した。
該ポリエチレン微多孔膜の膜厚は10μm、目付は4.11g/m、空孔率は56%、平均細孔径は0.16μm、膜抵抗は2.144ohm・cm、熱収縮率はMD32%、TD16%であった。
次にこのポリエチレン微多孔膜を用い、コーネックスと水酸化アルミニウムの体積比が62:38になるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして非水系二次電池用セパレータを得た。
このセパレータの物性は、目付8.99g/m、塗工量4.88g/m、全体の膜厚18.0μm、耐熱性多孔質層の空孔率68%、膜抵抗3.215ohm・cm、120℃における熱収縮率はMD方向3.3%、TD方向1.8%、サイクル特性は良好(○)であった。
また、第四プロットにおける積算細孔容積比の最小値は−30%、積算細孔容積比が負になる孔径範囲は0.15μm以上0.26μm以下であった。
【0069】
[実施例4]
ポリエチレン溶液の組成をポリエチレン:流動パラフィン:デカリン=17:58:25(重量比)とし、ポリエチレンの濃度を17重量%にしたこと以外は、実施例2と同様にポリエチレン微多孔膜を作製した。
該ポリエチレン微多孔膜の膜厚は10μm、目付は3.92g/m、空孔率は58%、平均細孔径は0.18μm、膜抵抗は1.535ohm・cm、120℃における熱収縮率はMD36%、TD18%であった。
次にこのポリエチレン微多孔膜を用い、コーネックスと水酸化アルミニウムの体積が60:40になるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして非水系二次電池用セパレータを得た。
このセパレータの物性は、目付9.01g/m、塗工量5.09g/m、全体の膜厚18.0μm、耐熱性多孔質層の空孔率67%、膜抵抗3.645ohm・cm、熱収縮率はMD方向3.5%、TD方向1.5%、サイクル特性は良好(○)であった。
また、第四プロットにおける積算細孔容積比の最小値は−40%、積算細孔容積比が負になる孔径範囲は0.13μm以上0.28μm以下であった。
【0070】
[比較例1]
GUR2126とGURX143を3:7(重量比)となるようにし、ポリエチレン溶液の組成をポリエチレン:流動パラフィン:デカリン=30:45:25(重量比)とし、ポリエチレンの濃度を30重量%とし、熱固定温度を135℃としたこと以外は、実施例1と同様にポリエチレン微多孔膜を作製した。
該ポリエチレン微多孔膜の膜厚は10μm、目付は5.62g/m、空孔率は39%、平均細孔径は0.10μm、膜抵抗は3.167ohm・cm、120℃における熱収縮率はMD21%、TD7%であった。
次にこのポリエチレン微多孔膜を用い、コーネックスと水酸化アルミニウムの体積比が69:31になるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして非水系二次電池用セパレータを得た。
このセパレータの物性は、目付10.57g/m、塗工量4.95g/m、全体の膜厚18.0μm、耐熱性多孔質層の空孔率66%、膜抵抗5.579ohm・cm、120℃における熱収縮率はMD方向5.5%、TD方向3.0%、サイクル特性は不良(×)であった。
また、第四プロットにおける積算細孔容積比はいずれの細孔径に於いても0%以上であった。
【0071】
[比較例2]
ポリエチレン溶液の組成をポリエチレン:流動パラフィン:デカリン=35:42:23(重量比)とし、ポリエチレン濃度を35重量%にしたこと以外は、比較例1と同様にポリエチレン微多孔膜を作製した。
該ポリエチレン微多孔膜の膜厚は10μm、目付は5.81g/m、空孔率は38%、平均細孔径は0.11μm、膜抵抗は3.864ohm・cm、120℃における熱収縮率はMD18%、TD5%であった。
次にこのポリエチレン微多孔膜を用い、コーネックスと水酸化アルミニウムの体積比が68:32になるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして非水系二次電池用セパレータを得た。
このセパレータの物性は、目付10・35g/m、塗工量4.54g/m、全体の膜厚18.0μm、耐熱性多孔質層の空孔率69%、膜抵抗6.122ohm・cm、120℃における熱収縮率はMD方向6.0%、TD方向3.3%、サイクル特性は不良(×)であった。
また、第四プロットにおける積算細孔容積比はいずれの細孔径に於いても0%以上であった。
【0072】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン微多孔膜と、このポリオレフィン微多孔膜の両面に被覆され耐熱性樹脂を含んで構成された耐熱性多孔質層と、を備えた複合膜からなる非水系二次電池用セパレータであって、
水銀圧入法を用いて前記耐熱性多孔質層の単位面積当たりにおける細孔径(μm)と積算細孔容積(ml/m)との関係を示す細孔プロットを求めた場合に、
この細孔プロットにおいて、所定の細孔径において積算細孔容積が負となる部分が生じることを特徴とする非水系二次電池用セパレータ。
【請求項2】
前記細孔プロットにおいて、前記積算細孔容積が負となる部分が細孔径0.1〜0.4μmの範囲に生じることを特徴とする請求項1に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項3】
前記細孔プロットにおいて、細孔径の全範囲に亘る積算細孔容積を、細孔径が測定最小値のときにおける積算細孔容積で割って、前記耐熱性多孔質層の単位面積当たりにおける細孔径(μm)と積算細孔容積比(%)との関係を示す変換細孔プロットを求めた場合に、
この変換細孔プロットにおいて、積算細孔容積比の最小値が−5%以下となることを特徴とする請求項1または2に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項4】
前記ポリオレフィン微多孔膜は、水銀圧入法で求めた平均細孔径が0.05〜0.5μmであり、かつ、前記耐熱性多孔質層は、水銀圧入法で求めた平均細孔径が0.05〜0.2μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項5】
前記耐熱性多孔質層の平均細孔径は、前記ポリオレフィン微多孔膜の平均細孔径よりも小さいことを特徴とする請求項4に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項6】
前記ポリオレフィン微多孔膜の空孔率が40〜60%であり、かつ、前記耐熱性多孔質層の空孔率が20〜80%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項7】
前記耐熱性多孔質層の空孔率は、前記ポリオレフィン微多孔膜の空孔率よりも大きいことを特徴とする請求項6に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項8】
前記耐熱性多孔質層が無機フィラーを含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項9】
前記無機フィラーの平均粒子径が0.1〜10μmであり、前記耐熱性多孔質層における前記無機フィラーの含有量が前記耐熱性樹脂の体積に対し0.4倍〜4倍であることを特徴とする請求項8に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項10】
前記耐熱性樹脂が、芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミドから成る群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項11】
前記耐熱性樹脂がポリメタフェニレンイソフタルアミドあることを特徴とする請求項10に記載の非水系二次電池用セパレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−23162(P2011−23162A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−165607(P2009−165607)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】