説明

非水系電解液およびそれを用いた非水系電解液二次電池

【課題】非水系電解液二次電池において、充電状態での高温保存時のガス発生を抑制し、サイクル特性の改善に有効な非水系電解液を提供する。
【解決手段】下記一般式


で表され、X〜Xのうち4つ以上がフッ素原子であり、残りは、水素原子、フッ素原子を有するアルキル基、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基のいずれかである化合物を含有する非水系電解液。または、X〜Xのうち3つ以下がフッ素原子であり、特にフッ素原子が1つ以下である場合は、残りは、少なくとも1つがフッ素原子を有するアルキル基である化合物を含有する非水系電解液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用の非水系電解液およびそれを用いた二次電池に関するものであり、更に詳しくは、特定の成分を含有することでサイクル特性・高温保存特性等の電池特性が改良された非水系電解液二次電池用の非水系電解液およびそれを用いた非水系電解液二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器の急速な進歩に伴い、二次電池に対する高容量化への要求が高くなっており、ニッケル・カドミウム電池やニッケル・水素電池に比べてエネルギー密度の高いリチウムイオン二次電池が広く使用され、また活発に研究されている。
【0003】
非水系電解液電池に用いる電解液は、通常、主として電解質と非水溶媒とから構成されている。リチウムイオン二次電池の電解液としては、LiPF6、LiBF4、LiN(CF3SO22等の電解質を 、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン等の高誘電率溶媒と、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の低粘度溶媒との混合溶媒に溶解させた非水系電解液が用いられている。
【0004】
また、リチウムイオン二次電池の負極活物質としては主にリチウムイオンを吸蔵、放出することができる炭素材料が用いられており、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、非晶質炭素等が挙げられる。しかしながら、これらの炭素材料はすでに理論容量に近い範囲まで使用しており、リチウムイオン二次電池の更なる高容量化のための炭素材料に代わる負極活物質が求められている。
【0005】
近年、ケイ素(Si)等のリチウムと合金化し得る金属元素の単体や、これらの金属元素を少なくとも含む合金、これらの金属元素を含有する金属化合物等を用いた負極活物質(以下これを「Siを含有する負極活物質」と称することがある。)が提案されている。これらは前記の炭素材料よりも大きな体積および質量あたりの容量を有しており、リチウムイオン二次電池の高容量化に有用であると期待される。
【0006】
しかし、Siを含有する負極活物質を用いた二次電池は、高容量化に適しているものの、充電状態での高温保存時のガス発生が大きいという課題や、充放電効率が低下してサイクル特性が悪化するという課題があった。
【0007】
そのようなSiを含有する負極活物質を用いた二次電池の特性を改善するために幾つかの方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、電解液にジフルオロベンゼン、トリフルオロベンゼン、テトラフルオロベンゼンのうち少なくとも1種のフッ素化ベンゼン類を少量(0.0001質量%以上0.1質量%以下)含有させることで、Cu−Sn合金負極を用いた二次電池のサイクル特性が改善することが開示されている。
【0008】
特許文献2には、電解液に4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンを4.2質量%以上85.8質量%以下と芳香族化合物を8.0質量%以下含有させることで、CoSnCやSi負極を用いた二次電池のサイクル特性が改善することが開示されている。特許文献2では、芳香族化合物がベンゼン環上に有するフッ素数に関する記載は特にないが、モノフルオロベンゼンを8.0質量%以下用いた例が示されている。
【0009】
特許文献3には、カーボンナノファイバーが結合した負極活物質を用いたときに、電解液中にフッ素含有化合物(モノフルオロベンゼン)を含有させることで、カーボンナノファイバーが結合したSiOやSi負極を用いた二次電池のサイクル特性が改善することが開示されている。
【0010】
特許文献4には、電解液に不飽和結合かハロゲン原子の少なくとも一方を有するカーボネートと特定のベンゼン誘導体を含有させることで、Si負極を用いた二次電池のサイクル特性が改善することが開示されている。特許文献4では、フッ素原子の数と、ベンゼン誘導体の含有量の関係については触れられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−340026号公報
【特許文献2】特開2006−309965号公報
【特許文献3】特開2007−207699号公報
【特許文献4】特開2007−299543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記の従来の二次電池では充電状態での高温保存時のガス発生やサイクル特性の悪化等の課題を同時に十分に満足させるものではなかった。
【0013】
本発明は、上記の課題を鑑みてなされたものであり、金属イオンを吸蔵・放出しうるSiを含有する負極活物質を有する負極を備える非水系電解液二次電池において、充電状態での高温保存後の電池特性を向上させ、良好なサイクル特性を与える二次電池用非水系電解液と、この非水系電解液を用いた非水系電解液二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、金属イオンを吸蔵・放出しうるSiを含有する負極活物質を有する負極を備える非水系電解液二次電池において、非水電解液に、後述する化合物(1−1)および化合物(1−2)のいずれか一方または両方を、特定の割合で含有させることにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明の要旨は、次の[1]〜[7]に存する。
[1]金属イオンを吸蔵・放出しうる正極活物質を有する正極と、金属イオンを吸蔵・放出しうるSiを含有する負極活物質を有する負極とを備える非水系電解液二次電池に用いられる非水系電解液であって、
下記一般式(1−1):
【0016】
【化1】

【0017】
(式中、X〜Xは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、フッ素原子を有するアルキル基、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示し、X〜Xのうち4つ以上がフッ素原子である。)
で表される化合物を、非水系電解液全量に対して0.1質量%を超え10質量%以下の割合で含有する、または、下記一般式(1−2):
【0018】
【化2】

【0019】
(式中、Y〜Yは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、フッ素原子を有するアルキル基、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示し、Y〜Yのうち3つ以下がフッ素原子であるが、1つ以下である場合は、Y〜Yの少なくとも1つがフッ素原子を有するアルキル基である。)
で表される化合物を、非水系電解液全量に対して10質量%を超え50質量%以下の割合で含有することを特徴とする非水系電解液。
【0020】
[2]非水系電解液全量に対して、式(1−1)で表される化合物を0.1質量%を超え10質量%以下の割合で含有し、かつ、式(1−2)で表される化合物を10質量%を超え50質量%以下の割合で含有することを特徴とする[1]に記載の非水系電解液。
【0021】
[3]式(1−1)で表される化合物が、テトラフルオロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、2,3,4,5,6−ペンタフルオロトルエン、パーフルオロトルエンおよび2,3,4,5,6−ペンタフルオロ−ペンタフルオロエチルベンゼンからなる群より選ばれるいずれかの化合物であることを特徴とする[1]または[2]に記載の非水系電解液。
【0022】
[4]式(1−2)で表される化合物が、ジフルオロベンゼン、トリフルオロベンゼンおよびベンゾトリフルオリドからなる群より選ばれるいずれかの化合物であることを特徴とする[1]または[2]に記載の非水系電解液。
【0023】
[5]非水溶媒としてフッ素原子を含有する環状カーボネートを含有することを特徴とする[1]ないし[4]のいずれかに記載の非水系電解液。
【0024】
[6]モノフルオロリン酸塩またはジフルオロリン酸塩のうち少なくとも1種の化合物を含有することを特徴とする[1]ないし[5]のいずれかに記載の非水系電解液。
【0025】
[7]金属イオンを吸蔵・放出しうる正極活物質を有する正極と、金属イオンを吸蔵・放出しうるSiを含有する負極活物質を有する負極とを備える非水系電解液二次電池であって、電解液として、[1]ないし[6]のいずれかに記載の非水系電解液を用いることを特徴とする非水系電解液二次電池。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、高容量化に有効な金属イオンを吸蔵・放出しうるSiを含有する負極活物質を用いた二次電池において、充電状態での高温保存時のガス発生を抑制することができ、優れたサイクル特性を実現できる。
【0027】
このような本発明の優れた効果が得られる作用機構の詳細は明らかにされていないが、次のように推察される。すなわち、非水系電解液中の、一般式(1−1)または(1−2)で表される化合物がSiを含有する負極活物質に対して特に安定な皮膜を形成し、非水系電解液との反応を抑制し、ガス発生や電池特性の悪化を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。ただし、以下に記載する説明は本発明の実施形態の代表例であり、本発明の要旨を超えない限り、これらの内容に特定されるものではない。
【0029】
〔1.非水系電解液〕
本発明の非水系電解液は、金属イオンを吸蔵および放出しうる正極活物質を有する正極と、金属イオンを吸蔵・放出しうるSiを含有する負極活物質を有する負極とを備える非水系電解液二次電池に用いられる非水系電解液である。ここで、金属イオンとしては、リチウムイオンが最も好ましい。
【0030】
本発明の非水系電解液は、一般的な非水系電解液と同様に、通常はその主成分として、電解質およびこれを溶解する非水溶媒を含有し、さらに、一般式(1−1)、一般式(1−2)で表される化合物(以下これらを、単に「化合物(1)」と総称することがある。)を特定の割合で含有する。
本発明の非水系電解液は、好ましくはさらに、非水溶媒としてフッ素原子を有するカーボネートを含有し、モノフルオロリン酸塩またはジフルオロリン酸塩のうち少なくとも1種の化合物を含有する。
【0031】
〔1−1.化合物(1)〕
本発明の非水電解液に含有する化合物(1)は、下記一般式(1−1)
【0032】
【化3】

【0033】
(式中、X〜Xは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、フッ素原子を有するアルキル基、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示し、X〜Xのうち4つ以上がフッ素原子である。)
で表されるもの(以下これを、「化合物(1−1)」と称することがある。)、または、
下記一般式(1−2)
【0034】
【化4】

【0035】
(式中、Y〜Yは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、フッ素原子を有するアルキル基、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示し、Y〜Yのうち3つ以下がフッ素原子であるが、1つ以下である場合は、Y〜Yの少なくとも1つがフッ素原子を有するアルキル基である。)
で表されるもの(以下これを、「化合物(1−2)」と称することがある。)
である。
【0036】
上記のとおり、化合物(1−1)におけるX〜Xが示す基と、化合物(1−2)におけるY〜Yが示す基とは互いに同様であるが、化合物(1−1)と(1−2)とはベンゼン環上に存在するフッ素原子やフッ素原子を有するアルキル基の数が異なるものである。
【0037】
一般式(1−1)および(1−2)において、X〜X、Y〜Yの定義中の基について、具体例を以下に説明する。
【0038】
フッ素原子を有するアルキル基としては、例えば、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、パーフルオロエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、パーフルオロプロピル基、2,2,2,2’,2’,2’−ヘキサフルオロイソプロピル基、パーフルオロイソプロピル基、パーフルオロブチル基等の、少なくとも1個のフッ素原子で置換された炭素数4以下の低級アルキル基が挙げられる。これらの中で、電池特性に与える影響に好ましいのはトリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、2,2’,2’,2’−ヘキサフルオロイソプロピル基、パーフルオロブチル基であり、特に好ましいのはトリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、パーフルオロエチル基である。
【0039】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の、炭素数6以下の低級アルキル基が挙げられる。これらの中で、電池特性に与える影響に好ましいのはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基であり、特に好ましいのはメチル基、エチル基である。
【0040】
アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、1−プロペニル基、1−メチルビニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1−メチルー1−プロピニル基、1−エチルビニル基、1−メチルアリル基等の、炭素数4以下の低級アルケニル基が挙げられる。これらの中で、電池特性に与える影響に好ましいのはビニル基、アリル基、1−プロペニル基、1−メチルビニル基であり、特に好ましいのはビニル基、アリル基である。
【0041】
アルキニル基としては、例えば、エチニル基、1−プロピニル基、プロパルギル基、1−ブチニル基、2−ブチニル基等の、炭素数4以下の低級アルキニル基が挙げられる。これらの中で、電池特性に与える影響に好ましいのはエチニル基、1−プロピニル基、プロパルギル基であり、特に好ましいのはエチニル基、プロパルギル基である。
【0042】
ここで、上記した基に具体的に示されていない基は、上記した原子および基から任意に組合せて或いは一般的に知られた常識に従って選択される。
【0043】
上記のとおり、一般式(1−1)で表される化合物[化合物(1−1)]において、X〜Xのうち4つ以上がフッ素原子である。
上記化合物(1−1)の具体例としては、ヘキサフルオロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、2,3,4,5,6−ペンタフルオロトルエン、2,3,4,5,6−ペンタフルオロエチルベンゼン、パーフルオロトルエン、1,2,3,4−テトラフルオロベンゼン、1,2,3,5−テトラフルオロベンゼン、1,2,4,5−テトラフルオロベンゼン、2,3,4,5−テトラフルオロトルエン、2,3,4,5−テトラフルオロエチルベンゼン、2,3,4,6−テトラフルオロトルエン、2,3,4,6−テトラフルオロエチルベンゼン、2,3,5,6−テトラフルオロトルエン、2,3,5,6−テトラフルオロエチルベンゼン、2,3,4,5−テトラフルオロ−1−トリフルオロメチルベンゼン、2,3,4,6−テトラフルオロ−1−トリフルオロメチルベンゼン、2,3,5,6−テトラフルオロ−1−トリフルオロメチルベンゼン、2,3,4,5,6−ペンタフルオロ−ペンタフルオロエチルベンゼン等が挙げられる。
【0044】
これらの中で、特にヘキサフルオロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、2,3,4,5,6−ペンタフルオロトルエン、パーフルオロトルエン、2,3,4,5,6−ペンタフルオロ−ペンタフルオロエチルベンゼンを用いると好ましい電池特性が得られる。また、上記化合物は、何れか1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組合せおよび比率で併用してもよい。
【0045】
また、一般式(1−2)で表される化合物[化合物(1−2)]において、Y〜Yのうち3つ以下がフッ素原子であるが、1つ以下である場合は、Y〜Yの少なくとも1つがフッ素原子を有するアルキル基である。
上記化合物(1−2)具体例としては、1,2−ジフルオロベンゼン、1,3−ジフルオロベンゼン、1,4−ジフルオロベンゼン、2,3−ジフルオロトルエン、2,4−ジフルオロトルエン、2,5−ジフルオロトルエン、2,6−ジフルオロトルエン、2,3−ジフルオロエチルベンゼン、2,4−ジフルオロエチルベンゼン、2,5−ジフルオロエチルベンゼン、2,6−ジフルオロエチルベンゼン、2,3−ジフルオロ−1−トリフルオロメチルベンゼン、2,4−ジフルオロ−1−トリフルオロメチルベンゼン、2,5−ジフルオロ−1−トリフルオロメチルベンゼン、2,6−ジフルオロ−1−トリフルオロメチルベンゼン、1,2,3−トリフルオロベンゼン、1,2,4−トリフルオロベンゼン、1,3,5−トリフルオロベンゼン、2,4,6−トリフルオロトルエン、2,4,6−トリフルオロエチルベンゼン、2,4,6−トリフルオロ−1−トリフルオロメチルベンゼン、ベンゾトリフルオリド、2−フルオロベンゾトリフルオリド、3−フルオロベンゾトリフルオリド、4−フルオロベンゾトリフルオリド、2−メチルベンゾトリフルオリド、3−メチルベンゾトリフルオリド、4−メチルベンゾトリフルオリド、1,2−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン等が挙げられる。
【0046】
これらの中で、特に1,2−ジフルオロベンゼン、1,3−ジフルオロベンゼン、1,4−ジフルオロベンゼン、ベンゾトリフルオリド、2−フルオロベンゾトリフルオリド、3−フルオロベンゾトリフルオリド、4−フルオロベンゾトリフルオリドを用いると好ましい電池特性が得られる。また、上記化合物は、何れか1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組合せおよび比率で併用してもよい。
【0047】
非水系電解液中の化合物(1−1)の含有割合は、非水系電解液全量に対して、通常0.1質量%を超え、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上であり、また、通常10質量%以下、好ましくは8質量%以下、より好ましくは6質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0048】
化合物(1−1)の含有割合が0.1質量%以下の場合、含有量が少ないために本発明の効果は十分に得られない。また、含有割合が10質量%を超える場合、電池内部の抵抗上昇により、電池の性能が悪化する虞がある。
【0049】
また、化合物(1−2)の含有割合は、非水系電解液全量に対して、通常10質量%を超え、好ましくは12質量%以上、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上であり、また、通常50質量%以下、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは35質量%以下である。
【0050】
化合物(1−2)の含有割合が10質量%以下の場合、含有量が少ないために本発明の効果は十分に得られない。また、含有割合が50質量%を超える場合、電解液の電導度が低下することにより、電池の性能が悪化する虞がある。
【0051】
化合物(1−1)、化合物(1−2)は、非水系電解液中に、単独で含有させてもよく、組合せて含有させてもよい。組合せて含有させる場合、化合物の種類や含有割合に特に制限はなく、本発明の効果が得られるものであれば、任意の化合物を、任意の割合で含有させることができる。
その具体的含有割合は、上記した単独で含有させる場合と同様である。
【0052】
組合せて含有させる場合の好ましい化合物としては、化合物(1−1)としてヘキサフルオロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、2,3,4,5,6−ペンタフルオロトルエン、パーフルオロトルエン、2,3,4,5,6−ペンタフルオロ−ペンタフルオロエチルベンゼンが挙げられる。化合物(1−2)として1,2−ジフルオロベンゼン、1,3−ジフルオロベンゼン、1,4−ジフルオロベンゼン、ベンゾトリフルオリド、2−フルオロベンゾトリフルオリド、3−フルオロベンゾトリフルオリド、4−フルオロベンゾトリフルオリドが挙げられる。
【0053】
化合物(1−1)および(1−2)の製造方法には特に制限は無く、公知の方法を任意に選択して製造することが可能である。
【0054】
〔1−2.非水溶媒〕
非水溶媒は、従来から非水系電解液の溶媒として公知のものの中から適宜選択して用いることができる。例えば、炭素−炭素不飽和結合やフッ素原子を有さない環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、環状エーテル類、鎖状エーテル類、環状カルボン酸エステル類、鎖状カルボン酸エステル類、含硫黄有機溶媒、含燐有機溶媒等が挙げられる。
【0055】
環状カーボネート類としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の炭素数2〜4のアルキレン基を有するアルキレンカーボネート類が挙げられる。これらの中で、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートが電池特性向上の点から好ましく、特にエチレンカーボネートが好ましい。
【0056】
鎖状カーボネート類としては、ジアルキルカーボネートが好ましく、構成するアルキル基の炭素数は、それぞれ、好ましくは1〜5、特に好ましくは1〜4である。また、アルキル基の水素の一部をフッ素で置換していてもよい。
【0057】
具体的には、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−n−プロピルカーボネート等の対称鎖状アルキルカーボネート類;エチルメチルカーボネート、メチル−n−プロピルカーボネート、エチル−n−プロピルカーボネート等の非対称鎖状アルキルカーボネート類等のジアルキルカーボネートが挙げられる。これらの中で、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートが電池特性向上の点から好ましい。
【0058】
環状エーテル類としては、例えば、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等や、これらの化合物の水素原子の一部をフッ素原子で置換した化合物等が挙げられる。
【0059】
鎖状エーテル類としては、例えば、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン等や、これらの化合物の水素原子の一部をフッ素原子で置換した化合物、例えば、ビス(トリフルオロエトキシ)エタン、エトキシトリフルオロエトキシエタン、メトキシトリフルオロエトキシエタン、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロ―3―メトキシ―4―トリフルオロメチル−ペンタン、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロ―3―エトキシ―4―トリフルオロメチル−ペンタン、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロ―3―プロポキシ―4―トリフルオロメチル−ペンタン、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,3,3−テトラフルオロプロピルエーテル、2,2−ジフルオロエチル−2,2,3,3−テトラフルオロプロピルエーテル等が挙げられる。
【0060】
環状カルボン酸エステル類としては、例えば、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等や、これらの化合物の水素原子の一部をフッ素原子で置換した化合物等が挙げられる。
【0061】
鎖状カルボン酸エステル類としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸t−ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソプロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、吉草酸メチル、吉草酸エチル等およびトリフルオロ酢酸プロピル、トリフルオロ酢酸ブチル等や、これらの化合物の水素原子の一部をフッ素原子で置換した化合物等が挙げられる。これらの中で、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、吉草酸メチルがより好ましい。
【0062】
含硫黄有機溶媒としては、例えば、スルホラン、2−メチルスルホラン、3−メチルスルホラン、ジエチルスルホン等や、これらの化合物の水素原子の一部をフッ素原子で置換した化合物等が挙げられる。
【0063】
含燐有機溶媒としては、例えば、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸ジメチルエチル、リン酸メチルジエチル、リン酸エチレンメチル、リン酸エチレンエチル等や、これらの化合物の水素原子の一部をフッ素原子で置換した化合物等が挙げられる。
【0064】
これらは単独で用いてもよく、2種類以上を任意の組合せおよび比率で併用してもよいが、2種以上の化合物を併用するのが好ましい。例えば、アルキレンカーボネート類や環状カルボン酸エステル類等の高誘電率溶媒と、ジアルキルカーボネート類や鎖状カルボン酸エステル類等の低粘度溶媒とを併用するのが好ましい。
【0065】
非水溶媒の好ましい組合せの一つは、エチレンカーボネートとジアルキルカーボネートを主体とする組合せである。なかでも、非水溶媒に占めるエチレンカーボネートとジアルキルカーボネートとの合計が、通常70容量%以上、好ましくは80容量%以上、より好ましくは90容量%以上であり、かつエチレンカーボネートとジアルキルカーボネートとの合計に対するエチレンカーボネートの割合が、通常5容量%以上、好ましくは10容量%以上、より好ましくは15容量%以上であり、また、通常50容量%以下、好ましくは35容量%以下、より好ましくは30容量%以下、更に好ましくは25容量%以下のものである。これらの非水溶媒の組合せを用いると、これを用いて作製された電池のサイクル特性と高温保存特性(特に、高温保存後の残存容量および高負荷放電容量)のバランスが良くなるので好ましい。
【0066】
エチレンカーボネートとジアルキルカーボネートの好ましい組合せの具体例としては、エチレンカーボネートとジメチルカーボネート、エチレンカーボネートとジエチルカーボネート、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネート、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネート、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネートとエチルメチルカーボネート等が挙げられる。
これらのエチレンカーボネートとジアルキルカーボネート類との組合せに、更にプロピレンカーボネートを加えた組合せも、好ましい組合せとして挙げられる。
【0067】
エチレンカーボネートとジアルキルカーボネートとの組合せの中で、ジアルキルカーボネートとして非対称鎖状アルキルカーボネート類を含有するものが更に好ましく、特に、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネートとエチルメチルカーボネートといったエチレンカーボネートと対称鎖状アルキルカーボネート類と非対称鎖状アルキルカーボネート類を含有するものが、サイクル特性と大電流放電特性のバランスが良いので好ましい。中でも、非対称鎖状アルキルカーボネート類がエチルメチルカーボネートであるのが好ましく、また、アルキルカーボネートのアルキル基は炭素数1〜2が好ましい。
【0068】
また、非水溶媒中にジエチルカーボネートを含有する場合は、全非水溶媒中に占めるジエチルカーボネートの割合が、通常10容量%以上、好ましくは20容量%以上、より好ましくは25容量%以上、更に好ましくは30容量%以上であり、また、通常90容量%以下、好ましくは80容量%以下、より好ましくは75容量%以下、更に好ましくは70容量%以下となる範囲で含有させると、高温保存時におけるガス発生が抑制されるので好ましい。
【0069】
また、非水溶媒中にジメチルカーボネートを含有する場合は、全非水溶媒中に占めるジメチルカーボネートの割合が、通常10容量%以上、好ましくは20容量%以上、より好ましくは25容量%以上、更に好ましくは30容量%以上であり、また、通常90容量%以下、好ましくは80容量%以下、より好ましくは75容量%以下、更に好ましくは70容量%以下となる範囲で含有させると、電池の負荷特性が向上するので好ましい。
中でも、ジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートを含有し、ジメチルカーボネートの含有割合をエチルメチルカーボネートの含有割合よりも多くすることにより、電解液の電気伝導度を確保しながら、高温保存後の電池特性が向上するので好ましい。
【0070】
全非水溶媒中に占めるジメチルカーボネートのエチルメチルカーボネートに対する容量比(ジメチルカーボネート/エチルメチルカーボネート)の下限値は、電解液の電気伝導度の向上と保存後の電池特性を向上させるため、1.1以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、2.5以上が更に好ましい。容量比(ジメチルカーボネート/エチルメチルカーボネート)の上限値は、低温での電池特性を向上させるため、40以下が好ましく、20以下がより好ましく、10以下が更に好ましく、8以下が特に好ましい。
また、上記アルキレンカーボネート類とジアルキルカーボネート類を主体とする組合せにおいては、他の溶媒を混合してもよい。
【0071】
好ましい非水溶媒の他の例は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートよりなる群から選ばれた1種の有機溶媒または該群から選ばれた2以上の有機溶媒からなる混合溶媒を全体の60容量%以上を占めるものである。この混合溶媒を用いた非水系電解液は、高温で使用しても溶媒の蒸発や液漏れが少なくなる。中でも、非水溶媒に占めるエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとの合計が、通常70容量%以上、好ましくは80容量%以上、更に好ましくは90容量%以上であり、かつエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートの容量比が30:70〜60:40であるものを用いると、一般にサイクル特性と高温保存特性等のバランスがよくなる。
なお、本明細書において、非水溶媒の容量は25℃での測定値であるが、エチレンカーボネートのように25℃で固体のものは融点での測定値を用いる。
【0072】
さらに、本発明の非水系電解液は、非水溶媒としてフッ素原子を含有する環状カーボネートを含有することでさらに好ましい効果が得られる。
【0073】
フッ素原子を含有する環状カーボネートとしては、例えば、フルオロエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロエチレンカーボネート、4,4,5−トリフルオロエチレンカーボネート、4,4,5,5−テトラフルオロエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−メチルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4−メチルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−メチルエチレンカーボネート、4,4,5−トリフルオロ−5−メチルエチレンカーボネート、トリフルオロメチルエチレンカーボネート等が挙げられる。これらの中で、フルオロエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−メチルエチレンカーボネートがサイクル特性向上や高温保存特性向上の点から好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を任意の組合せおよび比率で併用してもよい。
【0074】
非水系電解液がフッ素原子を有する環状カーボネート化合物を含有する場合、非水系電解液中におけるその割合は、通常0.001質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、最も好ましくは0.5質量%以上であり、また、通常50質量%以下、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。
【0075】
また、フッ素原子を有する環状カーボネート化合物と組合せて含有する場合の好ましい例としては、環状カーボネート、鎖状カーボネートが挙げられる。環状カーボネートとして好ましいものはエチレンカーボネート、プロピレンカーボネートであり、鎖状カーボネートとして好ましいものは、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートである。
【0076】
これらの組合せで好ましい具体例としては、フルオロエチレンカーボネートとジメチルカーボネート、フルオロエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネート、フルオロエチレンカーボネートとジエチルカーボネート、フルオロエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、フルオロエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、フルオロエチレンカーボネートとエチレンカーボネートとジメチルカーボネート、フルオロエチレンカーボネートとエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネート、フルオロエチレンカーボネートとエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、フルオロエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとジメチルカーボネートなどが挙げられる。
【0077】
上記の組合せで好ましい比率としては、フルオロエチレンカーボネートとエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートの合計量は10質量%以上が好ましく、15質量%以上がさらに好ましく、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。また、ジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートとジエチルカーボネートの合計量は50質量%以上が好ましく、60質量%以上がさらに好ましく、70質量%以上が特に好ましい。
【0078】
このような組合せにすることで、非水系電解液の電気伝導度と粘度がよいバランスとなり、特にサイクル特性を向上させることができる。
【0079】
〔1−3.電解質〕
電解質としては、通常、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、この用途に用いることが知られているものであれば特に制限がなく、任意のものを用いることができ、具体的には以下のものが挙げられる。
【0080】
例えば、LiPF6およびLiBF4、Li1212等の無機リチウム塩;LiCF3SO3、LiN(CF3SO22 、LiN(C25SO22、リチウム環状1,2−パーフルオロエタンジスルホニルイミド、リチウム環状1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミド、LiN(CF3SO2)(C49SO2)、LiC(CF3SO23、LiPF4(CF32、LiPF4(C252、LiPF4(CF3SO22、LiPF4(C25SO22、LiBF2(CF32、LiBF2(C252、LiBF2(CF3SO22、LiBF2(C25SO22等の含フッ素有機リチウム塩;リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート、リチウムトリス(オキサラト)フォスフェート、リチウムジフルオロビス(オキサラト)ボレート、リチウムテトラフルオロビス(オキサラト)ホスフェート等の含ジカルボン酸錯体リチウム塩等が挙げられる。
【0081】
これらのうち、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22またはLiN(C25SO22が電池性能向上の点から好ましく、特にLiPF6またはLiBF4が好ましい。
【0082】
これらのリチウム塩は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
2種以上を併用する場合の好ましい一例は、LiPF6とLiBF4との併用であり、サイクル特性を向上させる効果がある。この場合には、両者の合計に占めるLiBF4の含有割合は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、特に好ましくは0.1質量%以上であり、また、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下、最も好ましくは3質量%以下である。この下限を下回る場合には所望する効果が得づらい場合があり、上限を上回る場合は高負荷放電特性等の電池の特性が低下する場合がある。
【0083】
また、他の一例は、無機リチウム塩と含フッ素有機リチウム塩との併用であり、この場合には、両者の合計に占める無機リチウム塩の含有割合は、70質量%以上、99質量%以下であることが望ましい。無機リチウム塩としてはLiPF6が好ましい。含フッ素有機リチウム塩としては、LiN(CF3SO22 、LiN(C25SO22、リチウム環状1,2−パーフルオロエタンジスルホニルイミド、およびリチウム環状1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミドからなる群より選ばれる一種以上が好ましい。この両者の併用は、高温保存による劣化を抑制する効果がある。
【0084】
非水系電解液中のこれらの電解質の濃度は特に制限はされず、通常0.5モル/リットル以上、好ましくは0.8モル/リットル以上、より好ましくは1.0モル/リットル以上、更に好ましく1.1モル/リットル以上、特に好ましくは1.2モル/リットル以上である。また、通常3モル/リットル以下、好ましくは2モル/リットル以下、より好ましくは1.8モル/リットル以下、更に好ましくは1.6モル/リットル以下である。濃度が低すぎると、電解液の電気伝導度が不十分の場合があり、一方、濃度が高すぎると、粘度上昇のため電気伝導度が低下する場合があり、電池性能が低下する場合がある。
【0085】
〔1−4.モノフルオロリン酸塩またはジフルオロリン酸塩〕
本発明の非水系電解液は、モノフルオロリン酸塩またはジフルオロリン酸塩を含有することでさらに好ましい効果が得られる。
【0086】
モノフルオロリン酸塩またはジフルオロリン酸塩は通常カウンターカチオンを有している。モノフルオロリン酸塩およびジフルオロリン酸塩のカウンターカチオンとしては特に限定されず、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、および、下記式:

(式中、R〜Rは、各々独立に、水素原子または炭素数1〜12の有機基を示す。)
で表されるアンモニウム等が挙げられる。
【0087】
上記アンモニウムのR〜Rで表わされる炭素数1〜12の有機基としては、例えば、ハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基、ハロゲン原子またはアルキル基で置換されていてもよいシクロアルキル基、ハロゲン原子またはアルキル基で置換されていてもよいアリール基、置換基を有していてもよい窒素原子含有複素環基等が挙げられる。中でもR〜Rとして、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基または窒素原子含有複素環基等が好ましい。
【0088】
モノフルオロリン酸塩およびジフルオロリン酸塩の具体例としては、モノフルオロリン酸リチウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウム、ジフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸ナトリウム、ジフルオロリン酸カリウム等が挙げられる。これらの中で、モノフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウムが好ましく、ジフルオロリン酸リチウムがより好ましい。
これらは単独で用いてもよく、2種類以上を任意の組合せおよび比率で併用してもよい。
【0089】
非水系電解液がモノフルオロリン酸塩および/またはジフルオロリン酸塩を含有する場合、非水系電解液中におけるその割合は、通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、特に好ましくは0.1質量%以上、最も好ましくは0.2質量%以上であり、また、通常5質量%以下、好ましくは3質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。
【0090】
なお、モノフルオロリン酸塩およびジフルオロリン酸塩は、非水系電解液として実際に二次電池作製に供すると、その電池を解体して再び非水系電解液を抜き出しても、その中の含有量が著しく低下している場合が多い。従って、電池から抜き出した非水系電解液から、少なくとも1種のモノフルオロリン酸塩および/またはジフルオロリン酸塩が検出できるものは、非水系電解液中にこれらを本発明で規定する所定割合で含む非水系電解液であるとみなされる。
【0091】
〔1−5.他の添加剤〕
本発明に係る非水系電解液は、本発明の効果を損なわない範囲で、従来公知の過充電防止剤等の種々の他の化合物を助剤として含有していてもよい。
【0092】
過充電防止剤としては、例えば、ビフェニル、2−メチルビフェニル、2−エチルビフェニル等のアルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロペンチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、シス−1−プロピル−4−フェニルシクロヘキサン、トランス−1−プロピル−4−フェニルシクロヘキサン、シス−1−ブチル−4−フェニルシクロヘキサン、トランス−1−ブチル−4−フェニルシクロヘキサン、t−ブチルベンゼン、t−アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン、メチルフェニルカーボネート、エチルフェニルカーボネート、ジフェニルカーボネート、トリフェニルホスフェート、トリス(2−t−ブチルフェニル)ホスフェート、トリス(3−t−ブチルフェニル)ホスフェート、トリス(4−t−ブチルフェニル)ホスフェート、トリス(2−t−アミルフェニル)ホスフェート、トリス(3−t−アミルフェニル)ホスフェート、トリス(4−t−アミルフェニル)ホスフェート、トリス(2−シクロヘキシルフェニル)ホスフェート、トリス(3−シクロヘキシルフェニル)ホスフェート、トリス(4−シクロヘキシルフェニル)ホスフェート等の芳香族化合物;2−フルオロビフェニル、3−フルオロビフェニル、4−フルオロビフェニル、4,4’−ジフルオロビフェニル等の上記芳香族化合物の部分フッ素化物;2,4−ジフルオロアニソール、2,5−ジフルオロアニソール、2,6−ジフルオロアニソール、3,5−ジフルオロアニソール等の含フッ素アニソール化合物等が挙げられる。
【0093】
これらの中で、ビフェニル、2−メチルビフェニル等のアルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロペンチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、シス−1−プロピル−4−フェニルシクロヘキサン、トランス−1−プロピル−4−フェニルシクロヘキサン、シス−1−ブチル−4−フェニルシクロヘキサン、トランス−1−ブチル−4−フェニルシクロヘキサン、t−ブチルベンゼン、t−アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン、メチルフェニルカーボネート、ジフェニルカーボネート、トリフェニルホスフェート、トリス(4−t−ブチルフェニル)ホスフェート、トリス(4−シクロヘキシルフェニル)ホスフェート等の芳香族化合物;2−フルオロビフェニル、3−フルオロビフェニル、4−フルオロビフェニル、4,4’−ジフルオロビフェニル等の上記芳香族化合物の部分フッ素化物が好ましい。
【0094】
さらに、ターフェニルの部分水素化体、シクロペンチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、シス−1−プロピル−4−フェニルシクロヘキサン、トランス−1−プロピル−4−フェニルシクロヘキサン、シス−1−ブチル−4−フェニルシクロヘキサン、トランス−1−ブチル−4−フェニルシクロヘキサン、t−ブチルベンゼン、t−アミルベンゼン、メチルフェニルカーボネート、ジフェニルカーボネート、トリフェニルホスフェート、トリス(4−t−ブチルフェニル)ホスフェート、トリス(4−シクロヘキシルフェニル)ホスフェート、o−シクロヘキシルフルオロベンゼン、p−シクロヘキシルフルオロベンゼンがより好ましく、ターフェニルの部分水素化体およびシクロヘキシルベンゼン、t−ブチルベンゼン、t−アミルベンゼンが特に好ましい。
【0095】
これらは単独で用いてもよく、2種類以上を任意の組合せおよび比率で併用してもよい。2種以上を併用する場合は、特に、ターフェニルの部分水素化体やシクロヘキシルベンゼンとt−ブチルベンゼンやt−アミルベンゼンとの組合せや、ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t−ブチルベンゼン、t−アミルベンゼン等の酸素を含有しない芳香族化合物から選ばれるものと、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の含酸素芳香族化合物から選ばれるものとを併用するのが過充電防止特性と高温保存特性のバランスの点から好ましい。
【0096】
非水系電解液中におけるこれらの過充電防止剤の含有割合は、通常0.1質量%以上、好ましくは0.2質量%以上、特に好ましくは0.3質量%以上、最も好ましくは0.5質量%以上であり、また、通常5質量%以下、好ましくは3質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。濃度が低すぎると所望する過充電防止剤の効果がほとんど発現しない場合がある。逆に濃度が高すぎると高温保存特性等の電池の特性が低下する傾向がある。
【0097】
他の助剤としては、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、エリスリタンカーボネート、スピロ−ビス−ジメチレンカーボネート、メトキシエチル−メチルカーボネート、メトキシエチル−エチルカーボネート、エトキシエチル−メチルカーボネート、エトキシエチル−エチルカーボネート等のカーボネート化合物;無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水ジグリコール酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物およびフェニルコハク酸無水物等のカルボン酸無水物;コハク酸ジメチル、コハク酸ジエチル、コハク酸ジアリル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジアリル、マレイン酸ジプロピル、マレイン酸ジブチル、マレイン酸ビス(トリフルオロメチル)、マレイン酸ビス(ペンタフルオロエチル)、マレイン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)等のジカルボン酸ジエステル化合物;2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ジビニル−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン等のスピロ化合物;エチレンサルファイト、プロピレンサルファイト、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、1,3−プロペンスルトン、1,4−ブテンスルトン、メチルメタンスルホネート、エチルメタンスルホネート、メチル−メトキシメタンスルホネート、メチル−2−メトキシエタンスルホネート、ブスルファン、ジエチレングリコールジメタンスルホネート、1,2−エタンジオールビス(2,2,2−トリフルオロエタンスルホネート)、1,4−ブタンジオールビス(2,2,2−トリフルオロエタンスルホネート)、スルホラン、3−スルホレン、2−スルホレン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジビニルスルホン、ジフェニルスルホン、N,N−ジメチルメタンスルホンアミド、N,N−ジエチルメタンスルホンアミド等の含硫黄化合物;1−メチル−2−ピロリジノン、1−メチル−2−ピペリドン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンおよびN−メチルスクシイミド等の含窒素化合物;ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロヘプタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、プロピルシクロヘキサン、n−ブチルシクロヘキサン、t−ブチルシクロヘキサン、ジシクロヘキシル等の炭化水素化合物;アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、マロノニトリル、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、ピメロニトリル等のニトリル化合物;メチルジメチルホスフィネート、エチルジメチルホスフィネート、エチルジエチルホスフィネート、トリメチルホスホノフォルメート、トリエチルホスホノフォルメート、トリメチルホスホノアセテート、トリエチルホスホノアセテート、トリメチル−3−ホスホノプロピオネート、トリエチル−3−ホスホノプロピオネート等の含リン化合物等が挙げられる。
【0098】
これらの中で、高温保存後の電池特性向上の点からビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート等のカーボネート化合物;エチレンサルファイト、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、1,3−プロペンスルトン、1,4−ブテンスルトン、ブスルファン、1,4−ブタンジオールビス(2,2,2−トリフルオロエタンスルホネート)等の含硫黄化合物;アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、マロノニトリル、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、ピメロニトリル等のニトリル化合物が好ましい。
これらは単独で用いてもよく、2種類以上を任意の組合せおよび比率で併用してもよい。
【0099】
非水系電解液中におけるこれらの助剤の含有割合は、本願発明の効果を発現するためには、特に制限はないが、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、特に好ましくは0.2質量%以上であり、また、通常8質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。これらの助剤を添加することにより、高温保存後の容量維持特性やサイクル特性を向上させることができる。この下限より低濃度では助剤の効果がほとんど発現しない場合がある。また、逆に濃度が高すぎると高負荷放電特性等の電池の特性が低下する場合がある。
【0100】
〔1−6.非水系電解液の製造方法〕
本発明の非水系電解液は、上記〔1−1〕〜〔1−5〕で述べた各原料を用いて、例えば、非水溶媒に、電解質と、化合物(1)と、必要に応じて用いられる添加剤/助剤等を、所定の割合で溶解させることにより、調製することができる。
【0101】
非水系電解液の調製に際しては、各原料は、電解液とした場合の水分を低減させるため予め脱水しておくのが好ましい。水分濃度は、通常50ppm以下、好ましくは30ppm以下、特に好ましくは10ppm以下までそれぞれ脱水するのがよい。また、電解液調製後に、脱水、脱酸処理等を実施してもよい。
【0102】
本発明の非水系電解液は、非水系電解液電池の中でも二次電池用、即ち非水系電解液二次電池、例えばリチウム二次電池用の電解液として用いるのに好適である。
【0103】
なお、本発明の非水系電解液は、これを高分子等のゲル化剤でゲル化して半固体状にして用いてもよい。半固体状電解質における上記非水系電解液の占める比率は、半固体状電解質の総量に対して、通常30質量%以上、好ましくは50質量%以上、更に好ましくは75質量%以上であり、また、通常99.95質量%以下、好ましくは99質量%以下、更に好ましくは98質量%以下の範囲である。半固体状電解質における非水系電解液の比率が大き過ぎると、非水系電解液の保持が困難となって液漏れが生じやすくなり、逆に非水系電解液の比率が少な過ぎると、充放電効率や容量の点で不十分となることがある。
以下、本発明の電解液を用いた非水系電解液二次電池について説明する。
【0104】
〔2.非水系電解液二次電池〕
本発明の非水系電解液二次電池は、金属イオンを吸蔵・放出しうる正極活物質を有する正極と、金属イオンを吸蔵・放出しうるSiを含有する負極活物質を有する負極とを備える非水系電解液二次電池であって、電解液として、上記した非水系電解液を用いることに特徴を有するものである。
かかる特徴をもつ本発明の非水系電解液二次電池の作動電圧は、通常2V〜4.9Vの範囲である。
【0105】
〔2−1.電池構成〕
本発明に係る非水系電解液二次電池は、上記本発明の電解液を用いて作製される以外は従来公知の非水系電解液二次電池と同様に、金属イオン、好ましくはリチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極および正極、並びに非水系電解液を含む非水系電解液電池であり、通常、正極と負極とを本発明に係る非水系電解液が含浸されている多孔膜(セパレータ)を介してケースに収納することで得られる。従って、本発明に係る二次電池の形状は特に制限されるものではなく、円筒型、角型、ラミネート型、コイン型、大型等のいずれであってもよい。
【0106】
〔2−2.負極〕
本発明の非水系電解液二次電池における負極は、金属イオンを吸蔵・放出しうるSi(ケイ素)を含有する負極活物質を有する。
【0107】
Si(ケイ素)を含有する負極活物質の例としては、Si金属単体、その他の1種または2種以上の金属元素とからなる合金、並びに、Si(ケイ素)を含有する化合物が挙げられる。負極活物質としてこれらの金属単体、合金または金属化合物を用いることで、電池の高容量化が可能である。
【0108】
Si(ケイ素)を含有する化合物の例としては、Si(ケイ素)を含有する炭化物、酸化物、窒化物、硫化物、燐化物等の複合化合物が挙げられる。
また、これらの複合化合物が、金属単体、合金、または非金属元素等の数種の元素と複雑に結合した化合物も例として挙げることができる。より具体的には、例えばSiと負極として動作しない金属との合金を用いることができる。また例えばSiと、Si以外で負極として作用する金属と、さらに負極として動作しない金属と、非金属元素との組合せで5〜6種の元素を含むような複雑な化合物も用いることができる。
【0109】
これらの負極活物質の中でも、電池にしたときに単位質量当りの容量が大きいことから、何れか1種の特定金属元素の金属単体、2種以上の特定金属元素の合金、特定金属元素の酸化物や炭化物、窒化物等が好ましく、特に、Siの金属単体、合金、酸化物や炭化物、窒化物等が、単位質量当りの容量および環境負荷の観点から好ましい。
【0110】
また、金属単体または合金を用いるよりは単位質量当りの容量には劣るものの、サイクル特性に優れることから、Siを含有する以下の化合物も好ましい。
・Siと酸素との元素比が、通常0.5以上であり、好ましくは0.7以上、更に好ましくは0.9以上、また、通常1.5以下であり、好ましくは1.3以下、更に好ましくは1.1以下のSiの酸化物。
・Siと窒素との元素比が、通常0.5以上であり、好ましくは0.7以上、更に好ましくは0.9以上、また、通常1.5以下であり、好ましくは1.3以下、更に好ましくは1.1以下のSiの窒化物。
・Siと炭素との元素比が、通常0.5以上であり、好ましくは0.7以上、更に好ましくは0.9以上、また、通常1.5以下であり、好ましくは1.3以下、更に好ましくは1.1以下の炭化物。
【0111】
なお、上述の負極活物質は、何れか1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組合せおよび比率で併用してもよい。
【0112】
上記活物質を組み合わせたとき、負極活物質全体におけるSiを含有する負極活物質の量は30質量%以上が好ましく、40質量%以上がさらに好ましく、50質量%以上が特に好ましい。また、100質量%以下が好ましく、95質量%以下がさらに好ましく、90質量%以下が特に好ましい。
【0113】
上述の負極活物質の平均粒径は、本願発明の効果を発現するためには、特に制限はないが、通常50μm以下、好ましくは20μm以下、特に好ましくは10μm以下であり、また、通常0.1μm以上、好ましくは1μm以上、特に好ましくは2μm以上である。粒径が大きすぎる場合、電極の膨張が大きくなり、サイクル特性が低下してしまう可能性がある。また、小さ過ぎる場合、集電が取りにくくなり、容量が十分に発現しない可能性がある。
【0114】
本発明の非水系電解液二次電池における負極は、常法に従って製造することができる。具体的な製造方法としては、例えば、上述の負極活物質に結着剤や導電材等を加えたものをそのままロール成型してシート電極とする方法や、圧縮成形してペレット電極とする方法も挙げられるが、通常は、負極用の集電体(以下「負極集電体」という場合がある。)上に塗布法、蒸着法、スパッタ法、メッキ法等の手法により、上述の負極活物質を含有する薄膜層(負極活物質層)を形成する方法が用いられる。塗布法の場合、上述の負極活物質に結着剤、増粘剤、導電材、溶媒等を加えてスラリー状とし、これを負極集電体に塗布、乾燥した後にプレスして高密度化することにより、負極集電体上に負極活物質層を形成する。
【0115】
負極集電体の材質としては、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、ステンレス等が挙げられる。これらの中で、薄膜に加工し易いという点およびコストの点から、銅箔が好ましい。
【0116】
負極集電体の厚さは、通常1μm以上、好ましくは5μm以上であり、また、通常100μm以下、好ましくは50μm以下である。負極集電体の厚さが厚過ぎると、電池全体の容量が低下し過ぎることがあり、逆に薄過ぎると取り扱いが困難になることがある。
【0117】
なお、表面に形成される負極活物質層との結着効果を向上させるため、これら負極集電体の表面は、予め粗面化処理しておくことが好ましい。表面の粗面化方法としては、ブラスト処理、粗面ロールによる圧延、研磨剤粒子を固着した研磨布紙、砥石、エメリバフ、鋼線等を備えたワイヤーブラシ等で集電体表面を研磨する機械的研磨法、電解研磨法、化学研磨法等が挙げられる。
【0118】
また、負極集電体の質量を低減させて電池の質量当たりのエネルギー密度を向上させるために、エキスパンドメタルやパンチングメタルのような穴あきタイプの負極集電体を使用することもできる。このタイプの負極集電体は、その開口率を変更することで、質量も白在に変更可能である。また、このタイプの負極集電体の両面に負極活物質層を形成させた場合、この穴を通してのリベット効果により、負極活物質層の剥離が更に起こり難くなる。しかし、開口率があまりに高くなった場合には、負極活物質層と負極集電体との接触面積が小さくなるため、かえって接着強度は低くなることがある。
【0119】
負極活物質層を形成するためのスラリーは、通常は負極材に対して結着剤、増粘剤等を加えて作製される。なお、本明細書における「負極材」とは、負極活物質と導電材とを合わせた材料を指すものとする。
【0120】
負極材中における負極活物質の含有量は、通常70質量%以上、好ましくは75質量%以上であり、また、通常97質量%以下、好ましくは95質量%以下である。負極活物質の含有量が少な過ぎると、得られる負極を用いた二次電池の容量が不足する傾向があり、多過ぎると相対的に導電剤の含有量が不足することにより、負極としての電気伝導性を確保しづらい傾向にある。なお、二以上の負極活物質を併用する場合には、負極活物質の合計量が上記範囲を満たすようにすればよい。
【0121】
負極に用いられる導電材としては、銅やニッケル等の金属材料;黒鉛、カーボンブラック等の炭素材料等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組合せおよび比率で併用してもよい。特に、導電材として炭素材料を用いると、炭素材料が活物質としても作用するため好ましい。
【0122】
負極材中における導電材の含有量は、通常3質量%以上、好ましくは5質量%以上であり、また、通常30質量%以下、好ましくは25質量%以下である。導電材の含有量が少な過ぎると導電性が不足する傾向があり、多過ぎると相対的に負極活物質等の含有量が不足することにより、電池容量や強度が低下する傾向となる。なお、二以上の導電材を併用する場合には、導電材の合計量が上記範囲を満たすようにすればよい。
【0123】
負極に用いられる結着剤としては、電極製造時に使用する溶媒や電解液に対して安全な材料であれば、任意のものを使用することができる。例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレン・ブタジエンゴム・イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体、ポリイミド等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組合せおよび比率で併用してもよい。
【0124】
結着剤の含有量は、負極材100質量部に対して、通常0.5質量部以上、好ましくは1質量部以上であり、また、通常10質量部以下、好ましくは8質量部以下である。結着剤の含有量が少な過ぎると得られる負極の強度が不足する傾向があり、多過ぎると相対的に負極活物質等の含有量が不足することにより、電池容量や導電性が不足する傾向となる。なお、二以上の結着剤を併用する場合には、結着剤の合計量が上記範囲を満たすようにすればよい。
【0125】
負極に用いられる増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼイン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組合せおよび比率で併用してもよい。
増粘剤は必要に応じて使用すればよいが、負極活物質層中における増粘剤の含有量は、通常、0.5質量%以上5質量%以下の範囲で用いることが好ましい。
【0126】
負極活物質層を形成するためのスラリーは、上記負極活物質に、必要に応じて導電剤や結着剤、増粘剤を混合して、水系溶媒または有機溶媒を分散媒として用いて調製される。
水系溶媒としては、通常、水が用いられるが、これにエタノール等のアルコール類、N−メチルピロリドン等の環状アミド類等の有機溶媒を、水に対して30質量%以下の範囲で併用することもできる。
【0127】
有機溶媒としては、例えば、N−メチルピロリドン等の環状アミド類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等の直鎖状アミド類、アニソール、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ブタノール、シクロヘキサノール等のアルコール類が挙げられる。これらの中で、N−メチルピロリドン等の環状アミド類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等の直鎖状アミド類等が好ましい。これらは何れか1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組合せおよび比率で併用してもよい。
【0128】
得られたスラリーを上述の負極集電体上に塗布し、乾燥した後、プレスすることにより、負極活物質層が形成される。塗布の手法は特に制限されず、それ自体既知の方法を用いることができる。乾燥の手法も特に制限されず、自然乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥等の公知の手法を用いることができる。
【0129】
〔2−3.正極〕
正極活物質としては、金属イオン、好ましくはリチウムイオンを吸蔵・放出可能なものであれば特に制限されず、リチウムと少なくとも1種の遷移金属を含有する物質が好ましく、例えば、リチウム遷移金属複合酸化物、リチウム含有遷移金属リン酸化合物が挙げられる。
【0130】
リチウム遷移金属複合酸化物の遷移金属としては、V、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu等が好ましく、具体的には、例えば、LiCoO2等のリチウム・コバルト複合酸化物、LiNiO2等のリチウム・ニッケル複合酸化物、LiMnO2、LiMn、Li2MnO3等のリチウム・マンガン複合酸化物、これらのリチウム遷移金属複合酸化物の主体となる遷移金属原子の一部をAl、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Si等の他の金属で置換したもの等が挙げられる。置換したものの具体例としては、LiNi0.5Mn0.52、LiNi0.85Co0.10Al0.052、LiNi0.33Co0.33Mn0.332、LiMn1.8Al0.24、LiMn1.5Ni0.54等が挙げられる。
【0131】
リチウム含有遷移金属リン酸化合物の遷移金属としては、V、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu等が好ましく、具体的には、例えば、LiFePO、Li3Fe2(PO3、LiFeP27等のリン酸鉄類、LiCoPO4等のリン酸コバルト類、これらのリチウム遷移金属リン酸化合物の主体となる遷移金属原子の一部をAl、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Nb、Si等の他の金属で置換したもの等が挙げられる。
【0132】
また、これら正極活物質の表面に、主体となる正極活物質を構成する物質とは異なる組成の物質が付着したものを用いることもできる。表面付着物質としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマス等の酸化物、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩等が挙げられる。
【0133】
表面付着物質の量としては、本願発明の効果を発現するためには特に制限されず、正極活物質に対して質量で、好ましくは0.1ppm以上、より好ましくは1ppm以上、更に好ましくは10ppm以上、また、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、更に好ましくは5%以下である。
表面付着物質により、正極活物質表面での非水系電解液の酸化反応を抑制することができ、電池寿命を向上させることができるが、その付着量が少なすぎる場合その効果は十分に発現せず、多すぎる場合には、リチウムイオンの出入りを阻害するため抵抗が増加する場合がある。
【0134】
なお、上記した正極活物質またはその粉体は、1種を単独で用いてもよく、異なる組成または異なる粉体物性の2種以上を任意の組合せおよび比率で併用してもよい。
【0135】
以下に、本発明に使用される正極の構成およびその作製法について説明する。
正極は、正極活物質粒子と結着剤とを含有する正極活物質層を、集電体上に形成して作製される。
正極活物質を用いる正極の製造は、公知の何れの方法で作製することができる。すなわち、正極活物質と結着剤、並びに必要に応じて導電材および増粘剤等を乾式で混合してシート状にしたものを正極集電体に圧着するか、またはこれらの材料を液体媒体に溶解または分散させてスラリーとして、これを正極集電体に塗布し、乾燥することにより、正極活物質層を集電体上に形成させることにより正極を得ることができる。
【0136】
正極活物質の正極活物質層中の含有量は、通常10質量%以上、好ましくは30質量%以上、特に好ましくは50質量%以上であり、また、通常99.9質量%以下、好ましくは99質量%以下である。
正極活物質層中の正極活物質の含有量が、上記範囲を下回ると、電気容量が不十分となる場合がある。また、上記範囲を上回ると、正極の強度が不足する場合がある。
【0137】
導電材としては、公知の導電材を任意に用いることができる。具体的には、例えば、銅、ニッケル等の金属材料;天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛(グラファイト);アセチレンブラック等のカーボンブラック;ニードルコークス等の無定形炭素等の炭素質材料等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組合せおよび比率で併用してもよい。
【0138】
正極活物質層中の導電材の含有量は、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上であり、また、通常50質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは15質量%以下である。
導電材の含有量が上記範囲よりも下回ると、導電性が不十分となる場合がある。また、上記範囲よりも上回ると、電池容量が低下する場合がある。
【0139】
正極活物質層の製造に用いる結着剤は、非水系電解液や電極製造時用いる溶媒に対して安定な材料であれば、特に限定されない。
【0140】
塗布法による場合の結着剤は、電極製造時に用いる液体媒体に対して溶解または分散される材料であれば良いが、具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、芳香族ポリアミド、セルロース、ニトロセルロース等の樹脂系高分子;SBR(スチレン・ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、フッ素ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム等のゴム状高分子;スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体またはその水素添加物、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体)、スチレン・エチレン・ブタジエン・エチレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体またはその水素添加物等の熱可塑性エラストマー状高分子;シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエン、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、プロピレン・α−オレフィン共重合体等の軟質樹脂状高分子;ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体等のフッ素系高分子;アルカリ金属イオン(特にリチウムイオン)のイオン伝導性を有する高分子組成物等が挙げられる。
これらの物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組合せおよび比率で併用してもよい。
【0141】
正極活物質層中の結着剤の割合は、通常0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、また、通常80質量%以下、好ましくは60質量%以下、更に好ましく40質量%以下、特に好ましくは10質量%以下である。
【0142】
結着剤の割合が、上記範囲を下回ると、正極活物質を十分保持できずに正極の機械的強度が不足し、サイクル特性等の電池性能を悪化させてしまう場合がある。また、上記範囲を上回ると、電池容量や導電性の低下につながる場合がある。
【0143】
スラリーを形成するための液体媒体としては、正極活物質、導電剤、結着剤、並びに必要に応じて使用される増粘剤を溶解または分散することが可能な溶媒であれば、その種類に特に制限はなく、水系溶媒と有機系溶媒のどちらを用いても良い。
【0144】
水系媒体としては、例えば、水、アルコールと水との混合媒等が挙げられる。有機系媒体としては、ヘキサン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メチルナフタレン等の芳香族炭化水素類;キノリン、ピリジン等の複素環化合物;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸メチル、アクリル酸メチル等のエステル類;ジエチレントリアミン、N・N−ジメチルアミノプロピルアミン等のアミン類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル類;N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;ヘキサメチルホスファルアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組合せおよび比率で併用してもよい。
【0145】
スラリーを形成するための液体媒体として水系媒体を用いる場合、増粘剤と、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のラテックスを用いてスラリー化するのが好ましい。増粘剤は、通常、スラリーの粘度を調整するために使用される。
【0146】
増粘剤としては、本発明の効果を著しく損なわない限り特に制限されないが、具体的には、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼインおよびこれらの塩等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組合せおよび比率で併用してもよい。
【0147】
増粘剤を使用する場合、活物質に対する増粘剤の割合は、通常0.1質量%以上、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは0.6質量%以上であり、また、通常5質量%以下、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。
増粘剤の割合が上記範囲を下回ると著しく塗布性が低下する場合があり、また上記範囲を上回ると、正極活物質層に占める活物質の割合が低下し、電池の容量が低下する問題や正極活物質間の抵抗が増大する場合がある。
【0148】
スラリーの塗布、乾燥によって得られた正極活物質層は、正極活物質の充填密度を上げるために、ハンドプレス、ローラープレス等により圧密化することが好ましい。
正極活物質層の密度は、好ましくは1g・cm-3以上、更に好ましくは1.5g・cm-3以上、特に好ましくは2g・cm-3以上であり、また、好ましくは4.5g・cm-3以下、更に好ましくは4g・cm-3以下である。
正極活物質層の密度が上記範囲を上回ると、集電体/活物質界面付近への非水系電解液の浸透性が低下し、特に高電流密度での充放電特性が低下する場合がある。また、上記範囲を下回ると、活物質間の導電性が低下し、電池抵抗が増大する場合がある。
【0149】
正極集電体の材質としては特に制限は無く、公知のものを任意に用いることができる。具体的には、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ、チタン、タンタル等の金属材料;カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素質材料が挙げられる。中でも金属材料、特にアルミニウムが好ましい。
【0150】
集電体の形状としては、金属材料の場合、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が挙げられ、炭素質材料の場合、炭素板、炭素薄膜、炭素円柱等が挙げられる。これらのうち、金属薄膜が好ましい。なお、薄膜は適宜メッシュ状に形成してもよい。
【0151】
集電体の金属薄膜の厚さは任意であるが、通常1μm以上、好ましくは3μm以上、更に好ましくは5μm以上であり、また、通常1mm以下、好ましくは100μm以下、更に好ましくは50μm以下である。金属薄膜が、上記範囲よりも薄いと、集電体として必要な強度が不足する場合がある。また、薄膜が上記範囲よりも厚いと、取り扱い性が損なわれる場合がある。
【0152】
〔2−4.セパレータ、外装体〕
非水系電解液二次電池において、電解液は多孔膜(セパレータ)に含浸させて用いる。多孔膜の材質や形状は、電解液に安定であり、かつ保液性に優れていれば特に制限はなく、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを原料とする多孔性シートまたは不織布等が好ましい。
二次電池の外装体の材質も任意であり、ニッケルメッキを施した鉄、ステンレス、アルミニウムまたはその合金、ニッケル、チタン、ラミネートフィルム等が用いられる。
【0153】
前記のとおり、本発明は、サイクル特性・高温保存特性等の電池特性が改良された非水系電解液二次電池用の非水系電解液およびそれを用いた非水系電解液二次電池に関するものである。より具体的には、以下の実施例で示されているように、サイクル容量維持率、高温保存におけるガス発生量、放電負荷特性等によって、その効果が立証されている。
【実施例】
【0154】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において、電池特性の評価は次のとおり行った。
【0155】
〈電池特性の評価〉
1.サイクル試験(50サイクル後の容量維持率)
シート状の電池を、電極間の密着性を高めるためにガラス板で挟んだ状態で、25℃において0.2Cに相当する定電流で充電終止電圧4.2V、放電終止電圧3Vで充放電を3サイクル行って安定させた。その後、0.5C−CCCV(0.05Cカット)充電と0.5Cで3Vまで定電流放電を繰り返すサイクル試験を行った。ここで、4サイクル目の放電容量に対する50サイクル目の放電容量の割合(50サイクル目容量/4サイクル目容量)を50サイクル後の容量維持率とした。
【0156】
2.負荷特性
電池を25℃において0.2Cの定電流で放電終始電圧3Vまで放電させ、再度、4.2V−CCCV(0.05Cカット)充電を行い、0.2Cに相当する電流値で3Vまで放電させ0.2C容量を測定した。その後、4.2V−CCCV(0.05Cカット)充電を行い、1.0Cに相当する電流値で3Vまで放電させ1.0C容量を測定した。ここで保存後の0.2C容量に対する保存後の1.0C容量の割合(1.0C容量/0.2C容量)を負荷特性とした。ここで、1Cとは1時間で満充電できる電流値を表す。
【0157】
3.保存試験(ガス発生量)
シート状の電池を、電極間の密着性を高めるためにガラス板で挟んだ状態で、25℃において0.2Cに相当する定電流で充電終止電圧4.2V、放電終止電圧3Vで充放電を3サイクル行って安定させた。その後、4.2V−CCCV(0.05Cカット)充電を行った後、85℃、24時間の条件で高温保存を行った。この高温保存の前後で、シート状電池をエタノール浴中に浸して、体積の変化から発生したガス量(保存ガス量)を求めた。
【0158】
[実施例1〜13、比較例1〜7]
<非水系電解液の調製>
比較例1では乾燥アルゴン雰囲気下、フルオロエチレンカーボネート(FEC)とジメチルカーボネート(DMC)との混合物(容量比2:8)に、十分に乾燥したLiPFを1mol・dm-3を溶解して非水系電解液を調製した。
比較例2および実施例1〜6では、比較例1と同様に調製した非水系電解液に対し、表1に記載の添加剤をそれぞれ表1記載の濃度になるように溶解して非水系電解液を調製した。
【0159】
比較例3では乾燥アルゴン雰囲気下、FECとDMCとヘキサフルオロベンゼン(HFB)の混合物(容量比1:8:1)に、十分に乾燥したLiPFを1mol・dm-3を溶解して非水系電解液を調製した。なお、このときのHFBの含有量は非水系電解液全量に対して12.3質量%となり、本発明の範囲に含まれない。
以下、表1で「電解液組成」の列に示してある混合溶媒(数字は容量比)に対し、十分に乾燥したLiPFを1mol・dm-3を溶解して、実施例7〜13、比較例4〜7の非水系電解液を調製した。
【0160】
なお、表1において、プロピレンカーボネートをPC、ベンゾトリフルオリドをBTF、1,4-ジフルオロベンゼンを4DFB、1,3-ジフルオロベンゼンを3DFB、1,2,4,5−テトラフルオロベンゼンをTFB、ペンタフルオロベンゼンをPFB、パーフルオロトルエンをPRFT、2,3,4,5,6−ペンタフルオロトルエンをPFT、ビニルエチレンカーボネートをVEC、ジエチルカーボネートをDECと略記した。
【0161】
<正極の作製>
正極活物質としてのコバルト酸リチウム(LiCoO2)91質量%と、導電材としてのアセチレンブラック3質量%と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)6質量%とを、N−メチルピロリドン溶媒中で混合して、スラリー化した。得られたスラリーを負極容量の75%の容量となるように、厚さ15μmのアルミ箔の両面に塗布して乾燥し、プレス機で厚さ85μmに圧延したものを、活物質層のサイズとして幅65mm、長さ150mmの形状に切り出した。このものを、活物質が幅30mm、長さ40mmとなるように切り出して正極とした。なお、この正極は摂氏80度において12時間減圧乾燥をして用いた。
【0162】
<負極の作製>
負極活物質として、非炭素材料であるケイ素73.2質量部および銅8.1質量部と、人造黒鉛粉末(ティムカル社製商品名「KS−6」)12.2質量部とを用い、これらにポリフッ化ビニリデンを12質量部含有するN−メチルピロリドン溶液54.2質量部、および、N−メチルピロリドン50質量部を加え、ディスパーザーで混合してスラリー状とした。得られたスラリーを、負極集電体である厚さ18μmの銅箔上に均一に塗布して負極とし、その後電極密度が1.5g・cm-3程度となるようにプレスし、活物質が幅30mm、長さ40mmとなるように切り出して負極(ケイ素合金負極)とした。なお、この負極は摂氏60度で12時間減圧乾燥して用いた。
【0163】
<二次電池の作成>
上記の正極、負極およびポリエチレン製のセパレータを、正極、セパレータ、負極、セパレータ、正極の順に積層して電池要素を作製した。この電池要素をアルミニウム(厚さ40μm)の両面を樹脂層で被覆したラミネートフィルムからなる袋内に正・負極の端子を突設させながら挿入した後、非水系電解液を袋内に0.4mL注入し、真空封止を行ない、シート状電池を作製した。
【0164】
<評価結果>
上記で作製したシート状電池を、上記の方法で評価した。その結果を表1に示す。
【0165】
【表1】

【0166】
<考察>
表1より次のことが分かる。
比較例1[化合物(1)を含まない]および比較例2[化合物(1−1)を0.05質量%の割合で含む]に対し、実施例1ないし実施例6[化合物(1−1)を1〜5質量%の割合で含む]は、50サイクル後の容量維持率、負荷特性が大きく、ガス発生量が小さかった。
【0167】
比較例3[化合物(1−1)を12.3質量%含む]では、各特性が本発明の非水系電解液を使用した電池に及ばなかった。
【0168】
比較例1[化合物(1)を含まない]に対し、実施例7[化合物(1−2)を18.3質量%の割合で含む]は、50サイクル後の容量維持率、負荷特性が大きく、ガス発生量が小さかった。
【0169】
比較例1[化合物(1)を含まない]に対し、実施例8および9[化合物(1−2)を、それぞれ、17.6質量%および17.9質量%の割合で含む]は、50サイクル後の容量維持率、負荷特性が大きく、ガス発生量が小さかった。一方、比較例5および比較例6[化合物(1−2)を共に4.4質量%の割合で含む]では、各特性が本発明の非水系電解液を使用した電池に及ばなかった。
【0170】
比較例1[化合物(1)を含まない]に対し、実施例10ないし12[化合物(1−1)を、それぞれ、5.4質量%、5.8質量%および6.1質量%の割合で含む]は、50サイクル後の容量維持率、負荷特性が大きく、ガス発生量が小さかった。
【0171】
比較例7[化合物(1)を含まない]に対し、実施例13[化合物(1−1)を1質量%の割合で含む]は、50サイクル後の容量維持率、負荷特性が大きく、ガス発生量が小さかった。
【0172】
比較例1[化合物(1)を含まない]に対し、実施例14[化合物(1−2)を26.6質量%の割合で含む]は、50サイクル後の容量維持率、負荷特性が大きく、ガス発生量が小さかった。また、実施例15ないし17〔化合物(1−1)を3質量%または1質量%の割合で含み、化合物(1−2)を26.6質量%の割合で含む〕は、比較例1[化合物(1)を含まない]はもとより、実施例14[化合物(1−2)を26.6質量%の割合で含む]よりも電池特性が良好であった。
【0173】
比較例1[化合物(1)を含まない]に対し、実施例18〔化合物(1−1)を3質量%の割合で含む〕では、例示されたその他の添加剤(ここではVEC)を含んでおり、50サイクル後の容量維持率、負荷特性が大きく、ガス発生量が小さかった。
【産業上の利用可能性】
【0174】
本発明の非水系電解液によれば、非水系電解液二次電池の電解液の分解を抑制し、電池を高温環境下で使用した際にガス発生および電池の劣化を抑制すると共に高容量で、サイクル特性に優れた高エネルギー密度の非水系電解液二次電池を製造することができる。従って、非水系電解液二次電池が用いられる電子機器等の各種の分野において好適に利用できる。
【0175】
本発明の二次電池用非水系電解液や非水系電解液二次電池の用途は特に限定されず、公知の各種の用途に用いることが可能である。具体例としては、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、ゲーム機器、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、電動工具等の携帯電子機器用電源、ハイブリッド自動車、電気自動車、電動バイク、電動自転車のような移動体用大型電源装置、または電力負荷平準化等を目的とした家庭用電源装置やバックアップ用電源のような定置型の大型電源等が挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオンを吸蔵・放出しうる正極活物質を有する正極と、金属イオンを吸蔵・放出しうるSiを含有する負極活物質を有する負極とを備える非水系電解液二次電池に用いられる非水系電解液であって、
下記一般式(1−1):
【化1】


(式中、X〜Xは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、フッ素原子を有するアルキル基、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示し、X〜Xのうち4つ以上がフッ素原子である。)
で表される化合物を、非水系電解液全量に対して0.1質量%を超え10質量%以下の割合で含有する、または、下記一般式(1−2):
【化2】


(式中、Y〜Yは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、フッ素原子を有するアルキル基、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示し、Y〜Yのうち3つ以下がフッ素原子であるが、1つ以下である場合は、Y〜Yの少なくとも1つがフッ素原子を有するアルキル基である。)
で表される化合物を、非水系電解液全量に対して10質量%を超え50質量%以下の割合で含有することを特徴とする非水系電解液。
【請求項2】
非水系電解液全量に対して、式(1−1)で表される化合物を0.1質量%を超え10質量%以下の割合で含有し、かつ、式(1−2)で表される化合物を10質量%を超え50質量%以下の割合で含有することを特徴とする請求項1に記載の非水系電解液。
【請求項3】
式(1−1)で表される化合物が、テトラフルオロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、2,3,4,5,6−ペンタフルオロトルエン、パーフルオロトルエンおよび2,3,4,5,6−ペンタフルオロ−ペンタフルオロエチルベンゼンからなる群より選ばれるいずれかの化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の非水系電解液。
【請求項4】
式(1−2)で表される化合物が、ジフルオロベンゼン、トリフルオロベンゼンおよびベンゾトリフルオリドからなる群より選ばれるいずれかの化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の非水系電解液。
【請求項5】
非水溶媒としてフッ素原子を含有する環状カーボネートを含有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の非水系電解液。
【請求項6】
モノフルオロリン酸塩またはジフルオロリン酸塩のうち少なくとも1種の化合物を含有することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の非水系電解液。
【請求項7】
金属イオンを吸蔵・放出しうる正極活物質を有する正極と、金属イオンを吸蔵・放出しうるSiを含有する負極活物質を有する負極とを備える非水系電解液二次電池であって、電解液として、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の非水系電解液を用いることを特徴とする非水系電解液二次電池。

【公開番号】特開2011−165583(P2011−165583A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29434(P2010−29434)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】