説明

非水電解液二次電池用負極の製造方法

【課題】 非水電解液二次電池用の負極に、所望の大きさで、所望の配置パターンの貫通孔を容易に形成し得る方法を提供すること。
【解決手段】 リチウム化合物の形成能の高い元素を含む活物質層2を有する負極10の一面に、多数の開孔部12cを有するレジストパターンを形成し、次いで開孔部12cを通じて露出している部位をエッチングにより除去して活物質層2にその厚さ方向へ延びる貫通孔5を多数形成する。レジストパターンは、リソグラフィー法又は印刷法によって形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池等の非水電解液二次電池に用いられる負極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池において、充放電に伴う活物質の膨張による応力の発生を防止することを目的として、集電体上に堆積された活物質薄膜をエッチングして、該薄膜の厚み方向に空隙を形成し、該薄膜を微小区域に分割することが提案されている(特許文献1参照)。しかし、この方法では、活物質薄膜の所望の位置に所望の大きさの空隙を形成することが容易でない。
【0003】
この技術とは別に、電池の電極として用いられる多孔性の金属箔として、絶縁部分と導電部分とが分散するような粗面からなる被電着基体上に電着した多孔性金属箔を、該基体面から剥離して製造する方法が知られている(特許文献2参照)。しかし、この方法も、前記の特許文献1記載の方法と同様に、所望の位置に所望の大きさの孔を形成することが容易でない。
【0004】
【特許文献1】特開2003−17040号公報
【特許文献2】特開昭50−141540号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って本発明の目的は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得る非水電解液二次電池用負極の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、リチウム化合物の形成能の高い元素を含む活物質層を有する負極の一面に、多数の開孔部を有するレジストパターンを形成し、次いで該開孔部を通じて露出している部位をエッチングにより除去し、該活物質層にその厚さ方向へ延びる貫通孔を多数形成する非水電解液二次電池用負極の製造方法を提供することにより前記目的を達成したものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によれば、非水電解液二次電池用の負極に、所望の大きさで、所望の配置パターンの貫通孔を容易に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。図1には、本実施形態の製造方法に従い製造される非水電解液二次電池用負極の一例が示されている。負極10は、表裏一対の面である第1の面1a及び第2の面1bを有している。負極10は、活物質層2を備えている。活物質層2は、活物質の粒子2aを含んでいる。粒子2a間の空隙には、金属材料4が析出している。活物質層2は、該層2の各面にそれぞれ形成された第1及び第2の表面層3a,3bによって連続的に被覆されている。各表面層3a,3bは、第1の面1a及び第2の面1bをそれぞれ含んでいる。また図1から明らかなように負極10は、従来の電極に用いられてきた集電体と呼ばれる集電用の厚膜導電体を有していない。
【0009】
図1に示すように、負極10は、その各表面において開孔し且つ活物質層2及び各表面層3a,3bの厚み方向に延びる貫通孔5を多数有している。貫通孔5は、負極10の厚み方向に貫通している。活物質層2においては、貫通孔5の壁面において活物質層2が露出している。
【0010】
図1に示す構成の負極10は、図2(a)〜(m)に示す方法に従い好適に製造される。図2(a)〜(m)に示す製造方法は、概略すると、第1の表面層を形成する工程(図2(a)及び(b))、活物質層を形成する工程(図2(c)及び(d))、第2の表面層を形成する工程(図2(e))、リソグラフィー法によって負極上にレジストパターンを多数形成する工程(図2(f)〜(j))、貫通孔を形成する工程(図2(k)及び(l))、キャリア箔を剥離する工程(図2(m))を含んでいる。以下、これらの工程についてそれぞれ説明する。
【0011】
はじめに、図2(a)及び(b)に示す工程に従い、キャリア箔上に第1の表面層を形成する。先ず図2(a)に示すようにキャリア箔11を用意する。キャリア箔11は、負極10を製造するための支持体として用いられるものである。また製造された負極10をその使用の前まで、或いは電池組立加工の最中に支持しておき、負極10の取り扱い性を向上させるために用いられるものである。これらの観点から、キャリア箔11は、負極10の製造工程において及び製造後の搬送工程や電池組立工程等においてヨレ等が生じないような強度を有していることが好ましい。従ってキャリア箔11は、その厚みが10〜50μm程度であることが好ましい。
【0012】
キャリア箔11としては導電性を有するものを用いることが好ましい。この場合、導電性を有していれば、キャリア箔11は金属製でなくてもよい。しかし金属製のキャリア箔11を用いることで、負極10の製造後にキャリア箔11を溶解・製箔してリサイクルできるという利点がある。金属製のキャリア箔11を用いる場合、Cu、Ni、Co、Fe、Cr、Sn、Zn、In、Ag、Au、Al及びTiのうちの少なくとも1種類の金属を含んでキャリア箔11が構成されていることが好ましい。キャリア箔11としては、例えば圧延箔や電解箔などの各種方法によって製造された箔を特に制限なく用いることができる。
【0013】
次に、キャリア箔11の一面に剥離剤(図示せず)を施して剥離処理を行う。剥離剤はキャリア箔11における粗面に施すことが好ましい。剥離剤は、後述する剥離工程において、キャリア箔11から負極10を首尾良く剥離するために用いられる。剥離剤としては有機化合物を用いることが好ましく、特に窒素含有化合物又は硫黄含有化合物を用いることが好ましい。窒素含有化合物としては、例えばベンゾトリアゾール(BTA)、カルボキシベンゾトリアゾール(CBTA)、トリルトリアゾール(TTA)、N',N'−ビス(ベンゾトリアゾリルメチル)ユリア(BTD−U)及び3−アミノ−1H−1,2,4−トリアゾール(ATA)などのトリアゾール系化合物が好ましく用いられる。硫黄含有化合物としては、メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、チオシアヌル酸(TCA)及び2−ベンズイミダゾールチオール(BIT)などが挙げられる。これらの有機化合物はアルコール、水、酸性溶媒、アルカリ性溶媒などに溶解して用いられる。例えばCBTAを用いた場合、その濃度は2〜5g/1とするのが好ましい。剥離性は、剥離剤の濃度や塗布量によって制御できる。一方、有機化合物による剥離層に代えて、クロム、鉛、クロメート処理などによる無機系剥離層を形成させることも有効である。剥離剤を施す工程は、あくまでも、後述する剥離工程(図2(l))において、キャリア箔11から負極10を首尾良く剥離するために行われるものである。
【0014】
剥離処理が施されたキャリア箔11の表面上に、図2(b)に示すように、第1の表面層3aを形成する。表面層3aは、非水電解液二次電池の集電体となり得る金属から構成されることが好ましい。特にリチウム二次電池の集電体となり得る金属から構成されることが好ましい。そのような金属としては例えば、リチウム化合物の形成能の低い元素が挙げられる。リチウム化合物の形成能の低い元素としては銅、ニッケル、鉄、コバルト又はこれらの金属の合金などが挙げられる。これらの金属のうち銅若しくはニッケル又はそれらの合金を用いることが特に好適である。特に、ニッケル−タングステン合金を用いると、表面層3aを高強度となすことができるので好ましい。「リチウム化合物の形成能が低い」とは、リチウムと金属間化合物若しくは固溶体を形成しないか、又は形成したとしてもリチウムが微量であるか若しくは非常に不安定であることを意味する。
【0015】
表面層3aは電解めっきによって形成することが好ましい。電解めっきのめっき浴やめっき条件は、表面層3aの構成材料に応じて適切に選択される。表面層3aを例えば銅から構成する場合には、めっき浴として以下の組成を有する硫酸銅浴やピロリン酸銅浴を用いることができる。これらのめっき浴を用いる場合の浴温は40〜70℃程度であり、電流密度は0.5〜50A/dm2程度であることが好ましい。なお、これらの条件で電解めっきを行うと、表面層3aに、その厚さ方向に延び、負極10の表面から活物質層2にわたる微細な空隙(図示せず)が多数形成される。この微細な空隙は、微細であるものの電解液の流通が可能な程度の寸法を有しているので、活物質層2内に電解液を十分に供給するという貫通孔5の役割を補助する働きを有している。
・CuSO4・5H2O 150〜350g/l
・H2SO4 50〜250g/l
【0016】
表面層3aは、負極10における集電機能を担っている。また表面層3aは、活物質層2に含まれる活物質が充放電に起因して体積変化し微粉化して脱落することを防止するためにも用いられている。これらの観点から、表面層3aは、その厚みが0.3〜10μm程度、特に0.4〜8μm程度、とりわけ0.5〜5μm程度の薄層に形成されることが好ましい。これによって、必要最小限の厚みで活物質層2をほぼ満遍なく連続的に被覆することができる。その結果、微粉化した活物質の脱落を防止することができる。
【0017】
以上の操作によって第1の表面層3aが形成されたら、図2(c)に示すように、その上に活物質層2を形成する。活物質層2は、リチウム化合物の形成能の高い元素を含む活物質の粒子を含む導電性スラリーを塗布することで形成される。リチウム化合物の形成能の高い元素としては、例えばシリコン系材料やスズ系材料、アルミニウム系材料、ゲルマニウム系材料が挙げられる。特にシリコン系材料が好ましい。活物質の粒子はその最大粒径が好ましくは30μm以下であり、更に好ましくは10μm以下である。また粒子の粒径をD50値で表すと0.1〜8μm、特に0.3〜2μmであることが好ましい。最大粒径が30μm超であると、粒子の脱落が起こりやすくなり、電極の寿命が短くなる場合がある。粒径の下限値に特に制限はなく小さいほど好ましい。該粒子の製造方法に鑑みると、下限値は0.01μm程度である。粒子の粒径は、レーザ回折散乱式粒度分布測定、電子顕微鏡観察によって測定される。
【0018】
前記のスラリーは、活物質の粒子の他に、導電性炭素材料の粒子、結着剤及び希釈溶媒などを含んでいる。導電性炭素材料は、負極10に電子伝導性を付与する目的で配合される。導電性炭素材料としては例えばアセチレンブラックやグラファイトなどの粒子が用いられる。これらの粒子の粒径は40μm以下、特に20μm以下であることが、電子伝導性の一層付与の点から好ましい。結着剤としてはポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエチレン(PE)、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)、スチレンブタジエンラバー(SBR)などが用いられる。希釈溶媒としてはN−メチルピロリドン、シクロヘキサンなどが用いられる。スラリー中における活物質の粒子の量は14〜40重量%程度とすることが好ましい。導電性炭素材料の粒子の量は0.4〜4重量%程度とすることが好ましい。結着剤の量は0.4〜4重量%程度とすることが好ましい。これらの成分に希釈溶媒を加えることでスラリーとする。
【0019】
活物質層2の厚みは、負極全体に対する活物質の量の割合や活物質の粒径に応じて適宜調節することができる。一般には1〜100μm、特に3〜60μm程度である。
【0020】
形成された活物質層2は、粒子間に多数の微小な空隙を有する。このような状態の活物質層2が形成されたキャリア箔11を、リチウム化合物の形成能の低い金属材料を含むめっき浴中に浸漬して電解めっきを行う。めっき浴への浸漬によって、めっき液が活物質層2内の前記微小空隙に浸入して、活物質層2と表面層3aとの界面にまで達する。その状態下に電解めっきが行われる(以下、このめっきを浸透めっきともいう)。その結果、(a)活物質層2の内部、及び(b)活物質層2の内面側(即ち表面層3aと対向している面側)において、リチウム化合物の形成能の低い金属材料が析出して、図2(d)に示すように、該材料が活物質層2の厚み方向全域に亘って浸透する。
【0021】
浸透めっきの条件は、リチウム化合物の形成能の低い金属材料を活物質層2中に析出させるために重要である。例えばリチウム化合物の形成能の低い金属材料として銅を用いる場合、硫酸銅系溶液を用いるときには、銅の濃度を30〜100g/l、硫酸の濃度を50〜200g/l、塩素の濃度を30ppm以下とし、液温を30〜80℃、電流密度を1〜100A/dm2とすればよい。ピロ燐酸銅系溶液を用いる場合には、銅の濃度2〜50g/l、ピロ燐酸カリウムの濃度100〜700g/lとし、液温を30〜60℃、pHを8〜12、電流密度を1〜10A/dm2とすればよい。これらの電解条件を適宜調節することで、リチウム化合物の形成能の低い金属材料4が活物質層2の厚み方向全域に亘って析出する。特に重要な条件は電解時の電流密度である。電流密度が高すぎると、活物質層2の内部での析出が起こらず、活物質層2の表面でのみ析出が起こってしまう。
【0022】
浸透めっきの目的は、活物質層2と表面層3a,3bとの密着性を強固なものとして、活物質の脱落を防止することにある。また活物質層2中に浸透した金属材料4を通じて表面層3a,3bと活物質との間の電子伝導性を確保することにある。浸透めっきによって、電気的に孤立した活物質が生成すること、特に活物質層2の深部に電気的に孤立した活物質が生成することが効果的に防止され、集電機能が保たれる。その結果、負極としての機能低下が抑えられる。更に負極の長寿命化も図られる。
【0023】
浸透めっきに用いられるリチウム化合物の形成能の低い金属材料4としては、銅、ニッケル、鉄、コバルト又はこれらの金属の合金などの金属材料が挙げられる。当該材料は、表面層3a,3bを構成する材料と同種の材料であってもよく、或いは異種の材料であってもよい。
【0024】
リチウム化合物の形成能の低い金属材料4は、活物質層2をその厚み方向に貫くように析出されることが好ましい。それによって2つの表面層3a,3bが金属材料4を通じて電気的に導通することになり、負極全体としての電子伝導性が一層高くなる。リチウム化合物の形成能の低い金属材料4が活物質層2の厚み方向全域に亘って析出・浸透していることは、該材料を測定対象とした電子顕微鏡マッピングによって確認できる。
【0025】
リチウム化合物の形成能の低い金属材料4は、活物質層2における活物質の粒子2aの間を完全に満たすのではなく、該粒子間に空隙が存在するように析出されることが好ましい。この空隙の存在によって、充放電に起因する活物質の粒子2aの体積変化による応力が緩和される。この観点から、活物質層2における空隙の割合は0.1〜30体積%程度、特に0.5〜5体積%程度であることが好ましい。空隙の割合は、電子顕微鏡マッピングによって求めることができる。活物質層2は活物質の粒子2aを含む導電性スラリーを塗布し乾燥させることによって形成されることから、活物質層2には自ずと空隙が形成される。従って空隙の割合を前記範囲にするためには、例えば活物質の粒子2aの粒径、導電性スラリーの組成、スラリーの塗布条件を適切に選択すればよい。またスラリーを塗布乾燥して活物質層2を形成した後、適切な条件下でプレス加工して空隙の割合を調整してもよい。なお、先に説明した貫通孔5は、ここでいう空隙に含まれない。
【0026】
浸透めっきされた活物質層2の上には、図2(e)に示すように、第2の表面層3bが形成される。第2の表面層3bは、先に述べた第1の表面層3aと同様な方法で形成することができる。第2の表面層3bの材質や厚み等は、第1の表面層3aのそれと同様とすることができる。この場合、第2の表面層3bの材質や厚みは、第1の表面層3aのそれと同じでもよく或いは異なっていてもよい。なお、第1の表面層3aの形成に関して先に述べた通り、電解めっきの条件によっては、第2の表面層3bにも、その厚さ方向に延び、負極10の表面から活物質層2にわたる微細な空隙(図示せず)が多数形成される。この微細な空隙の働きは先に述べた通りである。
【0027】
第2の表面層3bの表面上に、図2(f)に示すように、感光性樹脂の層12を形成する。感光性樹脂としてはリソグラフィーの技術分野において従来用いられているものと同様のものを、特に制限なく用いることができる。例えば、ラミネータを用いて、感光性樹脂のドライフィルムを貼り付けて形成する方法や、液体の感光性樹脂を用いて形成する方法で感光性樹脂の層12を形成することができる。特にドライフィルムは、光によって反応する硬化レジスト層がポリエチレンフィルムとポリエステルフィルムとの間で扶持された構造を持つものであり、プリント配線板のエッチングレジストとして広く使用されているものである。そのようなドライフィルムとしては、例えばニチゴー・モートン株式会社製のALPHO NIT10,102J,LAMINAR GA(何れも商品名)や、デュポンMRCドライフィルム株式会社製のFX900,SF100(何れも商品名)などが挙げられる。
【0028】
感光性樹脂の層12の厚みに特に制限はなく、後述するエッチングを首尾良く行い得る厚みであればよい。一般にその厚みが1〜100μm、特に3〜50μmであれば満足すべき結果が得られる。このような厚みを有する層12を形成するためには、例えば前記の範囲の厚みを有する感光性樹脂のフィルムを、キャリア箔11の表面に貼り付ける方法を採用することができる。或いは、感光性樹脂を含む溶液をキャリア箔11の表面に塗布し、溶媒を乾燥させて塗膜を形成する方法を採用することもできる。
【0029】
このようにして得られた感光性樹脂の層12の上に、図2(g)に示すようにマスク13を配置する。マスク13には、目的とする負極10に形成される貫通孔に対応するパターンが形成されている。本実施形態で用いるマスク13は図3に示すパターンを有するものである。図3に示すマスク13は、透光部13aと遮光部13bとを有している。透光部13aは、感光性樹脂の露光に用いられる光(例えば紫外線)の透過が可能な部位である。透光部13aは遮光部13bを取り囲むように形成されている。遮光部13bは、感光性樹脂の露光に用いられる光の透過を妨げる部位である。遮光部13bは例えば円形をしており、縦横方向に規則的に配置されている。尤も、遮光部13bの形状は円形に限られず、他の形状、例えば六角形や八角形等の多角形や楕円形、又はこれらの組み合わせであってもよい。このような構成のマスクとしては、リソグラフィーの技術分野において通常用いられているものと同様のものを用いることができる。
【0030】
遮光部13bの径は、後述するレジストパターンに形成される開孔部の径、ひいては目的とする負極10に形成される貫通孔の径に影響を及ぼす。また遮光部13bのピッチは、開孔部のピッチ及び貫通孔のピッチに影響を及ぼす。これらの観点から、遮光部13bの直径は5〜500μm、特に20〜100μmであることが好ましい。遮光部13bのピッチは20〜600μm、特に45〜400μmであることが好ましい。ピッチは、隣り合う遮光部13bの中心を結ぶ長さで定義される。
【0031】
感光性樹脂の層12上にマスク13が配置された状態下に、図2(h)に示すように、紫外線等の光を照射し、感光性樹脂を露光する。光はマスク13における透光部13aのみを透過する。マスク13及び感光性樹脂の層12に対して平行光が照射されるようにするため、マスク13の透光部13aに光が入射する前に、コリメータレンズ群(図示せず)を、光源(図示せず)とマスク13との間に設置する。これによっ透光部13aの直下に位置する感光性樹脂のみが露光する。これによって層12は、露光した感光性樹脂からなる部位(以下、露光部位という)12aと、露光されていない感光性樹脂からなる部位(非露光部位)12bとから構成されることになる。感光性樹脂の露光に用いられる光は、当該樹脂の種類に応じて適切な波長のものが選択される。
【0032】
感光性樹脂の露光が完了したら、光の照射を停止し、図2(i)に示すようにマスクを除去する。次いで感光性樹脂の層12を現像し、該層12のうちの非露光部位12bを除去する。除去には、リソグラフィーの技術分野において通常用いられている現像液と同様のものを用いることができ、感光性樹脂の種類に応じて適切なものが選択される。例えば濃度0.5〜3重量%程度の炭酸ナトリウム水溶液を用いることができる。
【0033】
非露光部位12bを除去した結果、第2の表面層3b上には、図2(j)に示すように、露光部位12aからなり且つ多数の開孔部12cが規則的に形成されたレジストパターンが形成される。レジストパターンにおける開孔部12cの寸法及び配置パターンは、マスク13のそれと対応している。以上が、レジストパターンの形成工程である。
【0034】
レジストパターンが形成された状態では、開孔部12cを通じて第2の表面層が外部に露出している。この状態下に、エッチング液を用いて、第2の表面層3b、浸透めっきが施された活物質層2、第1の活物質層3a、及びキャリア箔11をエッチングする。エッチングは、レジストパターンにおける開孔部12cに対応する部位で起こる。その結果、図2(k)に示すように、第1及び第2の表面層3a,3b、活物質層2並びにキャリア箔11に、その厚さ方向へ延びる貫通孔5が多数形成される。
【0035】
エッチング液は、負極の構成材料を溶解し得るものであればその種類に特に制限はない。例えば負極の構成材料が銅やニッケルであれば、塩化銅系のエッチング液を用いることができる。塩化銅系のエッチング液は、塩化銅の水溶液と塩酸の水溶液を混合して得られ、商業的に入手可能なものを特に制限なく用いることができる。
【0036】
エッチングにより貫通孔5が形成されたら、図2(l)に示すように、露光部位12aからなるレジストパターンを除去する。露光部位12aの除去には、リソグラフィーの技術分野において通常用いられている除去液(例えば1〜5重量%の水酸化ナトリウム溶液など)と同様のものを用いることができ、感光性樹脂の種類に応じて適切なものが選択される。
【0037】
最後に、図2(m)に示すようにキャリア箔11を第1の表面層3aから剥離分離する。これによって図1に示す負極10が得られる。なお、負極10をその使用の前まではキャリア箔11から剥離せず、キャリア箔11に支持させておいてもよい。このようにして得られた負極10は、その厚み方向に延びる貫通孔5を多数有している。貫通孔5の役割は大別して次の2つである。
【0038】
一つは、貫通孔5の壁面において露出した活物質層2を通じて電解液を活物質層内に供給する役割である。この場合、貫通孔5の壁面において活物質層2が露出しているが、活物質層内の活物質の粒子2a間に金属材料4が浸透しているので、該粒子2aが脱落することが防止されている。
【0039】
もう一つは、充放電に起因して活物質層内の活物質の粒子2aが体積変化した場合、その体積変化による応力を緩和する役割である。体積変化は、主として負極10の平面方向に生ずる。従って、充電によって活物質の粒子2aの体積が増加しても、その増加分が、空間となっている貫通孔5に吸収される。その結果、負極10の著しい変形が効果的に防止される。
【0040】
負極10の表面において開孔している貫通孔5の開孔率、即ち貫通孔5の面積の総和を、負極10の表面の見掛けの面積で除して100を乗じた値は、好ましくは0.3〜30%、更に好ましくは2〜15%であることが、活物質層内に電解液を十分に供給する観点及び活物質の粒子2aの体積変化による応力を効果的に緩和する観点から有効である。貫通孔5の開孔率を前記の範囲に設定することに加えて、負極10の表面において開孔している貫通孔5の直径を好ましくは5〜500μm、更に好ましくは20〜100μmとすることが、活物質層内に電解液を十分に供給する観点及び活物質の粒子2aの体積変化による応力を効果的に緩和する観点から有効である。更に、貫通孔5のピッチを好ましくは20〜600μm、更に好ましくは45〜400μmに設定することで、活物質層内に電解液を十分に供給でき、また活物質の粒子2aの体積変化による応力を効果的に緩和できるようになる。
【0041】
貫通孔5は、負極10の第1の面1a及び第2の面1bの何れにおいても、均一に分布していることが好ましい。この観点から、負極10の表面における任意の部分に着目したとき、1cm×1cmの正方形の観察視野内に平均して100〜250000個、特に1000〜40000個、とりわけ5000〜20000個の孔5が開孔していることが好ましい。
【0042】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記実施形態の方法で製造される負極10においては、活物質層2の各面に一対の表面層3a,3bが形成されていたが、これに代えて、図4(a)及び(b)に示すように、活物質層2の片面にのみ、表面層3a,3bが形成されていてもよい。或いは、両表面層を形成しなくてもよい。図4(a)に示す負極10は、図2(a)〜(m)に示す製造方法において、図2(b)に示す操作を行わないことによって得られる。一方、図4(b)に示す負極10は、図2(a)〜(m)に示す製造方法において、図2(e)に示す操作を行わないことによって得られる。
【0043】
また、前記実施形態においては、活物質層2に対して、図2(d)に示す浸透めっきを施したが、負極の具体的な用途によってはこの操作を行わなくてもよい。
【0044】
更に負極の具体的な用途によっては、図2(m)に示す操作を行わず、図2(l)に示すように、キャリア箔11が取り付けられた状態で負極を用いることができる。つまり、キャリア箔1を負極の一部として用いることができる。このような構成の負極を用いる場合には、図2(b)に示す第1の表面層3aの形成工程は必須でない。つまり、第1の表面層3aを設けなくてもよい。また、第1の表面層3aの形成工程に先立つキャリア箔の剥離処理工程も必須でない。
【0045】
図2(m)に示す操作を行わない場合、つまりキャリア箔を剥離しない場合には、キャリア箔の両面に活物質層及び第2の表面層を形成し、その上に多数の開孔部を有するレジストパターンを形成し、次いで開孔部を通じて露出している部位をエッチングにより除去し、活物質層にその厚さ方向へ延びる貫通孔を多数形成してもよい。この場合には、キャリア箔の各面に、活物質層及び第2の表面層がこの順で形成され、且つ少なくとも活物質層に貫通孔が形成された負極が得られる。
【0046】
また前記実施形態においては、エッチングによりキャリア箔11にも貫通孔を形成したが、活物質層2に孔が形成されていれば、キャリア箔11に孔を設なくてもよい。特に、前述した通り、キャリア箔11を負極の一部として用いる構成の場合には、キャリア箔11に孔を設けることは必須ではない。
【0047】
また前記実施形態においては、活物質の粒子を含むスラリーを塗布して活物質層を形成したが、これに代えて各種薄膜形成手段、例えばスパッタ法や蒸着法、めっき法を用いて活物質層を形成してもよい。
【0048】
また前記実施形態においては、リソグラフィー法によってレジストパターンを形成したが、これに代えてインクジェット印刷法やスクリーン印刷法、グラビア印刷法などの各種印刷法によってレジストパターンを形成してもよい。特にインクジェット印刷法を用いる場合には、コンピュータを用い、レジストパターンをマウスやタプレット等のポインティングデバイスで描画・編集し、該コンピュータからの画像処理データをインクジェットプリンターに伝送することで、自由自在にレジストパターンを形成することができる。なお、インクジェット印刷法を用いる場合には、一回当たり噴射されるインクの量が少ないので、同一パターンで複数回印刷することで所望の厚みのレジストパターンを得るようにすることが好ましい。
【0049】
更に、前記実施形態においては、露光された部位が現像によって残るタイプの樹脂であるネガ型の感光性樹脂を用いたが、これに代えて、露光された部位が現像によって除去されるタイプの樹脂であるポジ型の感光性樹脂を用いてもよい。ポジ型の感光性樹脂を用いる場合には、図3に示すマスク13における透光部13aと遮光部13bとの位置関係を反転させる。
【0050】
また、前記実施形態で得られた負極は、これを単独で用いることも可能であり、或いは複数個を重ねて使用することも可能である。後者の場合、隣り合う負極間に、集電体としての導電性箔(例えば金属箔)を介在配置することも可能である。
【0051】
以上の各実施形態は、相互に置換可能又は組み合わせ可能である。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲はかかる実施例に制限されるものではない。
【0053】
〔実施例1〕
図2(a)〜(m)に示す方法に従い図1に示す負極を製造した。先ず、電解によって得られた銅製のキャリア箔(厚さ35μm)を室温で30秒間酸洗浄した。引き続き室温で30秒間純水洗浄した。次いで、40℃に保った状態の3.5g/lのCBTA溶液中に、キャリア箔を30秒間浸漬した。これにより剥離処理を行った。剥離処理後、溶液から引き上げて15秒間純水洗浄した。
【0054】
キャリア箔を、H2SO4/CuSO4系のめっき浴に浸漬させて電解めっきを行った。これによって銅からなる第1の表面層を形成した。めっき浴の組成は、CuSO4が250g/l、H2SO4が70g/lであった。電流密度は5A/dm2とした。表面層は10μmの厚さに形成した。めっき浴から引き上げた後、30秒間純水洗浄して大気中で乾燥させた。
【0055】
次に、第1の表面層上に負極活物質の粒子を含むスラリーを膜厚20μmになるように塗布し活物質層を形成した。活物質粒子はSiからなり、平均粒径はD50=2μmであった。スラリーの組成は、活物質:アセチレンブラック:スチレンブタジエンラバー=98:2:1.7であった。
【0056】
活物質層が形成されたにキャリア箔を、以下の浴組成を有するワット浴に浸漬させ、電解により、活物質層に対してニッケルの浸透めっきを行った。電流密度は5A/dm2、浴温は50℃、pHは5であった。陽極にはニッケル電極を用いた。電源は直流電源を用いた。この浸透めっきは、めっき面から一部の活物質粒子が露出する程度に行った。めっき浴から引き上げた後、30秒間純水洗浄して大気中で乾燥させた。
・NiSO4・6H2O 250g/l
・NiCl2・6H2O 45g/l
・H3BO3 30g/l
【0057】
次に、Cu系のめっき浴にキャリア箔を浸漬させて電解めっきを行った。めっき浴の組成は、H3PO4が200g/l、Cu3(PO42・3H2Oが200g/lであった。また、めっきの条件は、電流密度5A/dm2、浴温度40℃であった。これによって銅からなる第2の表面層を活物質層上に形成した。この表面層は8μmの厚さに形成した。めっき浴から引き上げた後、30秒間純水洗浄して大気中で乾燥させた。
【0058】
第2の表面層上に感光性樹脂フィルム(ニチゴー・モートン社製のアルカリ現像型ドライフィルム)を貼り付けた。貼り付けに先立ち、フィルムを60℃で10分間予熱した。貼り付けは100℃で15分以上加圧して行った。圧力は0.2MPaとした。このフィルムの上に、図3に示すパターンを有するマスクを配し、波長253.7nmの紫外線を20秒間照射し露光を行った。露光量は38mJ/cm2とした。マスクにおける透光部の直径は25μm、縦横のピッチは何れも50μmであった。露光完了後、マスクを除去し、感光性フィルムを現像した。現像液には0.7%の炭酸ナトリウム水溶液を用いた。温度は27℃とし、スプレー圧0.1MPaで15秒間現像した。これによって、多数の開孔部を有するレジストパターンを第2の表面層上に形成した。
【0059】
次いで、開孔部を通じて外部に露出している部位をエッチング液によって除去した。エッチング液として、塩化銅二水塩200g/lと、37%塩酸150g/lの1:1(重量比)混合液を用いた。エッチングは50℃で60秒行った。これによって開孔部に対応する部位に貫通孔を形成した。
【0060】
エッチング完了後、露光樹脂からなるレジストパターンを、除去液を用いて除去した。除去液として2重量%水酸化ナトリウム水溶液を用いた。40℃の除去液をスプレー圧0.15MPaにて20秒間噴射してレジストパターンを除去した。
【0061】
最後に、キャリア箔とそれに接する第1の表面層とを剥離して、図1に示す非水電解液二次電池用負極を得た。得られた負極においては、直径25μm、縦横のピッチが何れも50μmである多数の貫通孔が形成されていた。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の一実施形態に従い製造される非水電解液二次電池用負極の断面構造を示す模式図である。
【図2】本発明の製造方法の一実施形態を示す工程図である。
【図3】図2に示す方法で用いられるマスクを示す模式図である。
【図4】本発明の他の実施形態に従い製造される非水電解液二次電池用負極の断面構造を示す模式図である。
【符号の説明】
【0063】
1a,1b 表面
2 活物質層
3,3a,3b 表面層
4 リチウム化合物の形成能の低い金属材料
5 孔
7 金属リチウム層
8 導電性箔
10 負極
11 キャリア箔
12 感光性樹脂の層
13 マスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム化合物の形成能の高い元素を含む活物質層を有する負極の一面に、多数の開孔部を有するレジストパターンを形成し、次いで該開孔部を通じて露出している部位をエッチングにより除去し、該活物質層にその厚さ方向へ延びる貫通孔を多数形成する非水電解液二次電池用負極の製造方法。
【請求項2】
前記活物質層の形成に先立ち、キャリア箔の一面又は両面上に、リチウム化合物の形成能の低い元素からなる第1の表面層を形成し、次いで該表面層上に該活物質層を形成する請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記活物質層の形成後で且つ前記レジストパターンの形成前に、該活物質層上に、リチウム化合物の形成能の低い元素からなる第2の表面層を形成する請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
リチウム化合物の形成能の高い元素を含む活物質粒子のスラリーを塗布して前記活物質層を形成する請求項1ないし3の何れかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記活物質層の形成後、該活物質層における前記粒子間の空隙に、リチウム化合物の形成能の低い金属材料を電解めっきによって析出させる請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
前記レジストパターンをリソグラフィー法によって形成する請求項1ないし5の何れかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記負極の前記一面に感光性樹脂の層を形成し、該層上に前記貫通孔に対応するパターンが形成されたマスクを配し、その状態下に該感光性樹脂を露光し、次いで該マスクを除去し、然る後、露光された該感光性樹脂を現像することで前記レジストパターンを形成する請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
前記レジストパターンを印刷法によって形成する請求項1ないし5の何れかに記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−202658(P2006−202658A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−14785(P2005−14785)
【出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】