説明

非水電解質二次電池の製造方法

【課題】放電負荷性能及びサイクル性能に優れたリチウム含有遷移金属複合酸化物とそれを用いた非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】Zr、MgとCoとを含む酸溶液にアルカリを加えて、異種金属元素が添加された四酸化三コバルトを共沈させる工程と、前記四酸化三コバルトと炭酸リチウムとを混合、加熱し、焼成物中に残存する水溶性アルカリ量を0.03質量%以下に規制した複合酸化物〔A〕を作製する工程と、前記四酸化三コバルトと炭酸リチウムとを混合、加熱し、焼成物中に残存する水溶性アルカリ量を0.04質量%以上0.15質量%以下に規制した複合酸化物〔B〕を作製する工程とを備え、前記複合酸化物〔A〕と複合酸化物〔B〕を混合して正極活物質となす事を特徴とする。該複合酸化物は、LiCo1-xx2(Mは少なくともZr,Mgの両方を含み、0<x<0.1)で表される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオンを吸蔵放出することのできるリチウムコバルト系複合酸化物を正極活物質とする非水電解質二次電池の製造方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオンを吸蔵放出することのできるコバルト酸リチウムは、非水電解質二次電池用の正極活物質材料として有用性が高い。しかし、コバルトは埋蔵量が少なく資源的な制約がある。
【0003】
コバルト酸リチウムに異種元素を添加したリチウムコバルト系複合酸化物は、コバルト酸リチウムに比較しコバルトの使用量を低減でき、しかも高電圧、高容量とできる可能性を有するので、コバルト酸リチウムに代替できる正極活物質として期待されている。
【0004】
しかし、リチウムコバルト系複合酸化物は、その合成に際してLi/Coの比率を高くすると結晶成長が促進されて負荷放電性能の低い生成物が得られ易い一方、Li/Coの比率を低くすると、結晶成長が進みにくくなり、比表面積の大きい生成物が得られ易くなる。比表面積が大きいと、放電性能に優れるが、サイクル性能や熱安定性が低くなる。
【0005】
このようなことから、リチウムコバルト系複合酸化物を正極活物質とする従来の非水電解質二次電池においては、負荷放電性能とサイクル性能の双方ともに優れた電池を得られ難かった。
【0006】
リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質を用いた非水電解質二次電池に関する先行技術としては、下記先行技術文献に記載の技術が上げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−123815号公報
【特許文献2】特開平10−208728号公報
【特許文献3】特開平5−74455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、正極活物質としてのリチウムコバルト系複合酸化物の放電負荷性能及びサイクル性能を向上させる製造方法を提供し、もって高電圧、高容量でしかも放電負荷性能及びサイクル性能にも優れた非水電解質二次電池を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は次のように構成されている。
リチウムイオンを吸蔵放出する正極活物質を製造する工程を含む非水電解質二次電池の製造方法において、前記正極活物質を製造する工程は、ZrとMgとコバルトを含む金属元素含有酸溶液にアルカリを加えて、異種金属元素が添加された四酸化三コバルトを共沈させる工程と、前記四酸化三コバルトと炭酸リチウムとを混合し、加熱焼成して、焼成物中に残存する水溶性アルカリ量が0.03質量%以下に規制されたリチウムコバルト系複合酸化物〔A〕を作製する合成反応工程と、前記四酸化三コバルトと炭酸リチウムとを混合し、加熱焼成して、焼成物中に残存する水溶性アルカリ量が0.04質量%以上0.15質量%以下に規制されたリチウムコバルト系複合酸化物〔B〕を作製する合成反応工程と、前記リチウムコバルト系複合酸化物〔A〕に前記リチウムコバルト系複合酸化物〔B〕を10〜90%の質量割合で混合し正極活物質となす工程と、を備え、前記合成反応工程で作製されるリチウムコバルト系複合酸化物〔A〕及び〔B〕が、LiCo1-xx2 (但し、Mは少なくともZr,Mgの両方を含み、xは0<x<0.1)で表されるリチウム含有遷移金属酸化物であることを特徴とする。
【0010】
上記構成では、リチウムコバルト系複合酸化物〔A〕及び〔B〕の元素組成を[LiCo1-xx2 ]とし、異種元素Mを少なくともZrとMgの両方を含む元素とし、xを0<x<0.1に規制する。このように規制することにより、リチウム含有遷移金属酸化物中の異種元素Mの固溶状態が好適な状態となる。更にこのようなリチウム含有遷移金属酸化物であり、水溶性アルカリ量が0.03質量%以下に規制されたリチウムコバルト系複合酸化物〔A〕と、水溶性アルカリ量が0.04質量%以上0.15質量%以下に規制されたリチウムコバルト系複合酸化物〔B〕同士を、互いに10〜90%の質量割合で混合して正極活物質を作製する。このようにして作製されてなる正極活物質は、リチウムコバルト系複合酸化物〔A〕とリチウムコバルト系複合酸化物〔B〕とが互いの欠点を補完し合うので、結果として、放電負荷性能及びサイクル性能に優れ、かつリチウム含有遷移金属酸化物が有する高電位、高容量の特徴をも兼ね備えた正極活物質となる。
【0011】
リチウムコバルト系複合酸化物〔A〕とリチウムコバルト系複合酸化物〔B〕とが補完し合う理由は、次のように考察できる。リチウムコバルト系複合酸化物の合成に際し、リチウム源の添加量を少なくすると、水溶性アルカリの残存量が減少するが、この場合、結晶成長が不十分になり比表面積の大きい生成物が得られる。このものは、放電性能がよいものの、サイクル性能や熱安定性が低い。他方、リチウム源の添加量を多くすると、結晶成長が促進され、安定な結晶構造が形成され易くなる。このものは、サイクル性能や熱安定性がよいものの、放電性能の低いものとなる。つまり、両者はトレードオフの関係に立つので、単一のリチウムコバルト系複合酸化物で放電性能とサイクル性能及び熱安定性の双方を満たすことは困難である。
【0012】
本発明では、異なる特性を有するリチウムコバルト系複合酸化物〔A〕とリチウムコバルト系複合酸化物〔B〕とを混合するが、所定条件に規制された〔A〕と〔B〕とを混合すると、各々が補完し合って各々の不利点を緩和する結果、全体として放電負荷性能及びサイクル性能に優れた非水電解質二次電池が得られるものと考えられる。
【0013】
上記本発明の非水電解質二次電池の製造方法においては、好ましくは前記リチウムコバルト系複合酸化物〔A〕のBET比表面積を0.40g/m2以下に規制し、前記リチウムコバルト系複合酸化物〔B〕のBET比表面積を0.60g/m2以上に規制する。
【0014】
BET比表面積が0.40g/m2以下のリチウムコバルト系複合酸化物〔A〕と、BET比表面積が0.60g/m2以上のリチウムコバルト系複合酸化物〔B〕の組み合わせであると、放電負荷性能及びサイクル性能に一層優れた正極活物質が得られるので好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明製造方法では、水溶性アルカリ残存量(およびBET比表面積)を指標としてリチウムコバルト系複合酸化物合成生成物の性状を規制し、所定条件に規制されたリチウムコバルト系複合酸化物〔A〕と、所定条件に規制されたリチウムコバルト系複合酸化物〔B〕と、を所定範囲内で混合して正極活物質となす。このような本発明によると、〔A〕と〔B〕とが各々の欠点を都合よく補完し合った好適な正極活物質が得られる。この正極活物質を用いる本発明によると、高電圧、高容量で、放電負荷性能及びサイクル性能にも優れた非水電解質二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実験例に基づいて本発明を実施するための形態を明らかにする。以下では、正極活物質の製造条件を変えて実験例電池No.1〜18を作製し、これらの電池を用いて、正極活物質の違いと電池特性との関係を調べた。以下、実験例電池No.1〜5を第1実験群、実験例電池No.6〜9を第2実験群、実験例電池No.10〜15を第3実験群、実験例電池No.16〜18を第4実験群に別けて順次各実験群の意味を説明する。
【0017】
〈第1実験群〉
第1実験群(No.1〜5)では、反応生成物の水溶性アルカリ量及びBET比表面積の異なる2種類のリチウムコバルト系複合酸化物〔A1〕、〔B1〕を作製した。そして、〔A1〕と〔B1〕とを、[100:0〜0:100]の範囲で混合し正極活物質となし、この正極活物質を用いて実験例電池No.1〜5を作製した。これら実験例電池の放電負荷特性(%)と60℃サイクル維持率(%)(以下、単に電池特性ということあり)を調べ、〔A1〕/〔B1〕混合割合と電池特性の関係を明らかにした。
【0018】
先ず初めに実験例電池の作製方法を説明する。この電池作製方法は、他の実験群電池についても適用される。但し、他の実験群にかかる電池では、主にリチウムコバルト系複合酸化物の合成反応条件が変更され、実験目的に応じた正極活物質が作製されている。
【0019】
1.正極活物質の作製
第1実験群用の正極活物質を組成するリチウムコバルト系複合酸化物〔A1〕、〔B1〕を次のようにして作製した。
【0020】
〈〔A1〕の作製〉
目的とする組成比となるように元素量を調整したコバルト(Co)を含む酸溶液と、ジルコニウム(Zr)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)を含む酸溶液とを混合し、この混合溶液(以下、金属元素含有酸溶液という)に炭酸水素ナトリウムを加え、Zr、Mg、Alを含有した炭酸コバルトを共沈させた。この共沈物を熱分解反応して、Zr・Mg・Al含有四酸化三コバルトを得た。
【0021】
上記Zr・Mg・Al含有四酸化三コバルト(コバルト源)と、炭酸リチウム(リチウム源)とを、Coに対するLiのモル比(Li/Co)が1.00〜1.20となるように混合し、この混合物を空気雰囲気中で750℃〜950℃、10〜30時間焼成し、焼成物を粉砕して、水溶性アルカリ量が0.03質量%、BET比表面積が0.4m2/gのリチウムコバルト系複合酸化物〔A1〕を得た。このものについてレーザー回折式粒度分布測定装置により粒系を求めたところ、概ね数μmから30μmほどの粒子径であった。
【0022】
〈〔B1〕の作製〉
上記コバルト源とリチウム源とを、Coに対するLiのモル比(Li/Co)が1.05〜1.40となるように混合し、リチウムコバルト系複合酸化物〔A1〕の場合よりも焼成温度及び焼成時間を短くしたことを除き、上記と同様にして、水溶性アルカリ量が0.4質量%、BET比表面積が0.7m2/gのリチウムコバルト系複合酸化物を作製した。
【0023】
上記リチウムコバルト系複合酸化物〔A1〕及び〔B1〕の元素組成をプラズマ発光分析(Inductively Coupled Plasma)により測定した。その結果、〔A1〕及び〔B1〕の元素組成は、Li、Co、Zr、Mg、Alからなり、Li:Co:Zr:Mg:Alの元素比は、1:0.997:0.001:0.001:0.001であった。よって、リチウムコバルト系複合酸化物〔A1〕及び〔B1〕は、LiCo1-xx2(x=0.003、M=Zr、Mg、Alで、各モル比が0.001)で表されるリチウム含有遷移金属酸化物であることが確認された。
【0024】
上記リチウムコバルト系複合酸化物のBET比表面積は、窒素吸脱着によるBET比表面積測定装置(Mountech社製Macsorb HM model-1200シリーズ)で測定した。
【0025】
また、上記リチウムコバルト系複合酸化物中の水溶性アルカリ量は、中和滴定法(warder法)で測定した。具体的には、リチウムコバルト系複合酸化物5gを50mlの純水に入れ、1時間撹拌した後、ろ過して固形分を取り除き、得られた抽出液に既知濃度の塩酸液を、溶液pHがpH8.4となるまで滴下し、このときの塩酸量αを測定した。引き続いて同上塩酸液を、溶液pHがpH4.0となるまでの滴下し、このときの塩酸量βを測定した。
【0026】
この測定における2βの塩酸量が、炭酸リチウム(Li2CO3)量に対応し(等価であり)、〔α‐β〕が水酸化リチウム(LiOH)全量に対応することになるので、リチウムコバルト系複合酸化物の質量に対する各々炭酸リチウム量、水酸化リチウム量の総和量を、リチウムコバルト系複合酸化物中に存在する水溶性アルカリ量とした。
【0027】
なお、炭酸リチウムは、合成反応時に添加された炭酸リチウムに由来するものであり、水酸化リチウムは、リチウム源が空気中の水分と反応して生じるものであると考えられる。よって上記中和滴定法により、リチウムコバルト系複合酸化物中の炭酸リチウム量と水酸化リチウム量とを知ることができるので、その結果を参考して合成反応の際にリチウム源として使用する炭酸リチウムの量を増減することによって、水溶性アルカリ残存量が異なり且つ比表面積が異なるリチウムコバルト系複合酸化物[LiCo1-xx2 ]を作製することができる。
【0028】
2.正極の作製
上記で作製したリチウムコバルト系複合酸化物〔A1〕及び〔B1〕を混合したもの(表1参照)を正極活物質とし、これを85質量部、導電剤としての炭素粉末を10質量部、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン粉末を5質量部となるよう混合し、これをn−メチルピロリドン(NMP)溶液に混合してスラリーを調製した。このスラリーを厚さ20μmのアルミニウム製の集電体の両面にドクターブレード法により塗布して、正極集電体の両面に活物質層を形成した。その後,圧縮ローラーを用いて160μmに圧縮し、短辺の長さが55mm、長辺の長さが500mmの正極を作製した。
【0029】
3.負極の作製
天然黒鉛粉末が95質量部と、ポリフッ化ビニリデン粉末が5質量部となるよう混合し、これをNMP溶液と混合してスラリーを調製し、このスラリーを厚さ18μmの銅製の集電体の片面にドクターブレード法により塗布して活物質層を形成した。その後、圧縮ローラーを用いて155μmに圧縮し、短辺の長さが57mm、長辺の長さが550mmの負極を作製した。
【0030】
ここで、上記黒鉛の電位はLi基準で0.1Vであり、正極及び負極の活物質充填量は、設計基準となる正極活物質の電位において、正極と負極の理論充電容量比(負極充電容量/正極充電容量)が1.1となるように調整した。
【0031】
4.非水電解質の作製
非水溶媒としてのエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とを体積比50:50(25℃、1気圧)で混合し、この混合溶媒に電解質塩としてのLiPF6を1 mol/L溶解して、非水電解質となした。
【0032】
5.電池の作製
上記正極及び負極の間に、セパレータとしてポリプロピレン製微多孔膜を挟み、巻回して電極体となし、これを高さ65mm、直径18mmの有底円筒缶に収容した後、上記非水電解質を注液した。このようにして、表1に示す第1実験例電池No.1〜5を作製した。
【0033】
上記各実験例電池について負荷放電試験及び60℃サイクル試験を行った。
【0034】
[負荷放電試験]
実験例電池を室温環境下(25℃)で、定電流1600mAの定電流で電圧が4.2Vとなるまで充電し、その後定電圧4.2Vで電流が32mAとなるまで充電した。この後、定電流1600mAで電圧が2.75Vとなるまで放電した。この後、再度同様のパターンで充電し、定電流4000mAで電圧が2.75Vとなるまで放電した。得られた結果から、下記の式により放電負荷特性(%)を算出した。
放電負荷特性(%)=定電流4000mA放電容量÷定電流1600mA放電容量×100
【0035】
[60℃サイクル試験]
実験例電池を60℃の温度環境で、1600mAの定電流で電圧が4.2Vになるまで充電し、この後、4.2Vの定電圧で電流値が32mAになるまで充電した。次いで、同様な温度環境下において電流値1600mAで3.0Vまで放電した。このような充放電サイクルを300回繰り返した。そして、1サイクル目の放電容量に対する300サイクル目の放電容量の比率を、60℃サイクル維持率(%)とした。
【0036】
表1に第1実験群における結果を一覧表示した。表1の実験例電池No.1〜5は、正極活物質以外の電池構成条件を一定とし、正極活物質の本体であるリチウムコバルト系複合酸化物〔A1〕とリチウムコバルト系複合酸化物〔B1〕の混合割合を100:0〜0:100に変化させたものである。なお、混合割合は混合末の合計質量を100とした場合における質量%を意味している。
【0037】
【表1】

【0038】
表1において、リチウムコバルト系複合酸化物〔A1〕が100%の実験例電池No.1およびリチウムコバルト系複合酸化物〔B1〕が100%の実験例電池No.5は、それぞれ放電負荷特性(%)が83、87であり、60℃サイクル維持率(%)が79、75であった。これに対し、〔A1〕/〔B1〕が90〜10/10〜90の実験例電池No.2〜4の放電負荷特性(%)は、92〜93であり、60℃サイクル維持率(%)は85〜88であり、何れの特性値も実験例電池No.1及びNo.5に対し顕著に良好な値を示した。
【0039】
この結果から、リチウムコバルト系複合酸化物〔A1〕又は〔B1〕の何れかを単独で正極活物質とする場合に比較し、両者を90〜10%の範囲で混合して用いることにより、放電負荷特性(%)と60℃サイクル維持率(%)の双方が顕著に向上することが明らかになった。
【0040】
〈第2実験群〉
第2実験群では、リチウムコバルト系複合酸化物[LiCo1-xx2 ]を合成する際に使用するリチウム源としての炭酸リチウム添加量を増減して、水溶性アルカリ量を0.04質量%、0.03質量%、0.01質量%とし、BET比表面積を0.40m2/g(共通)とした3通りのリチウムコバルト系複合酸化物(No.6、3、7)と、水溶性アルカリ量を0.03質量%(共通)とし、BET比表面積を0.50m2/g、0.20m2/gとした2通りのリチウムコバルト系複合酸化物(No.8、9)の合わせて5通りのリチウムコバルト系複合酸化物〔Ax〕を作製した。
【0041】
このリチウムコバルト系複合酸化物〔Ax〕と前記したリチウムコバルト系複合酸化物〔B1〕とを、50/50の割合で混合し正極活物質となした。これらの正極活物質を用いて実験例電池No.3、6〜9を作製し、これらの実験例電池の放電負荷特性(%)と60℃サイクル維持率(%)を調べた。なお、実験例電池No.3は、表1に示した実験例電池No.3と同一である。
【0042】
表2に実験例電池No.3、6〜9の電池特性を示した。
【0043】
【表2】

【0044】
表2から、BET比表面積が異なるが、水溶性アルカリ量が0.03質量%共通の実験例電池No.3、No.8,No.9では、何れも高い放電負荷特性%及び60℃サイクル維持率%を示した。また、BET比表面積が0.40m2/gで水溶性アルカリ量が0.01質量%の実験例電池No.7は、高い放電負荷特性%及び60℃サイクル維持率%を示した。
【0045】
これに対して、水溶性アルカリ量が0.04質量%でBET比表面積が0.40m2/gの実験例電池No.6は、他の実験例電池に比較し放電負荷特性(%)及び60℃サイクル維持率(%)とも顕著に低い値であった。
【0046】
以上の結果から、混合相手の一方のリチウムコバルト系複合酸化物(B)の水溶性アルカリ量が0.10質量%で、BET比表面積が0.7m2/gである場合には、他方のリチウムコバルト系複合酸化物(A)の水溶性アルカリ量を0.03質量%以下に規制する必要がある。また、実験例電池No.3、No.8、No.9の比較から、上記他方のリチウムコバルト系複合酸化物(A)のBET比表面積が0.50m2/g以下、好ましくは0.40m2/g以下とするのがよい。
【0047】
〈第3実験群〉
第3実験群では、上記第2実験群における結果を踏まえ、上記他方のリチウムコバルト系複合酸化物を水溶性アルカリ量0.03質量%、BET比表面積0.40m2/g(共通)とし、上記一方のリチウムコバルト系複合酸化物の水溶性アルカリ量とBET比表面積を変化させた。具体的には、水溶性アルカリ量を0.20質量%、0.15質量%、0.10質量%、0.04質量%、0.025質量%とし、BET比表面積を0.70m2/g共通としたリチウムコバルト系複合酸化物〔Bx〕と、前記したリチウムコバルト系複合酸化物〔A1〕とを50質量%同士で混合した正極活物質(No.3、10〜13)を作製した。
【0048】
また、水溶性アルカリ量が0.10質量%共通で、BET比表面積が0.60m2/g、0.50m2/gであるリチウムコバルト系複合酸化物〔Bx〕と、前記したリチウムコバルト系複合酸化物〔A1〕とを50質量%同士で混合した正極活物質(No.14、15)を作製した。これら正極活物質を用いて実験例電池No.3、10〜15を作製し、実験群1等と同様にして電池特性を調べた。
【0049】
リチウムコバルト系複合酸化物の水溶性アルカリ量及びBET比表面積の変更は、リチウムコバルト系複合酸化物[LiCo1-xx2 ]を合成する際に使用するリチウム源としての炭酸リチウム添加量を増減し、かつ焼成温度・焼成時間を調整することにより行った。なお、実験例電池No.3は、表1に示した実験例電池No.3と同一である。
【0050】
表3に実験例電池No.3、10〜15の電池特性を示した。
【0051】
【表3】

【0052】
表3のNo.3、10〜13の比較において、水溶性アルカリ量が0.15〜0.04質量%の実験例電池No.11、No.3、No.12は、水溶性アルカリ量が0.20質量%の実験例電池No.10、及び水溶性アルカリ量が0.025質量%の実験例電池No.13よりも、電池特性が顕著に優れていた。
【0053】
また、水溶性アルカリ量が0.10質量%共通で、BET比表面積が0.70m2/g、0.60m2/g、0.50m2/gである実験例電池No.3、No.14、No.15の比較において、BET比表面積が0.60m2/g以上の実験例電池No.14、No.3は、BET比表面積0.50m2/gの実験例電池No.15よりも、放電負荷特性%及び60℃サイクル維持率%とも良好であった。
【0054】
表3の結果及び前記表2の結果から、水溶性アルカリ量を0.03質量%以下に規制したリチウムコバルト系複合酸化物〔A〕と、水溶性アルカリ量が0.15〜0.04質量%に規制したリチウムコバルト系複合酸化物〔B〕とを混合し、これを正極活物質として非水電解質二次電池を構成すると、放電負荷特性(%)及び60℃サイクル維持率(%)が顕著に高まることが明らかになった。また、好ましくはリチウムコバルト系複合酸化物〔A〕のBET比表面積を0.40m2/g以下とし、リチウムコバルト系複合酸化物〔B〕のBET比表面積を0.60m2/g以上とするのがよいことが明らかになった。
【0055】
ここで、上記した製造方法で得ることのできるリチウムコバルト系複合酸化物のBET比表面積の下限は、0.10m2/g程度である。よって、この値がリチウムコバルト系複合酸化物〔A〕の現実的な下限値となる。他方、BET比表面積が1.00m2/gを超えるリチウムコバルト系複合酸化物は、化学反応性が極端に高まり、過剰な電解質の分解反応や、電解質中に元素が溶け出すことによるリチウムコバルト系複合酸化物の劣化が起こる。このため充放電サイクル特性が極端に悪くなる。よって、リチウムコバルト系複合酸化物〔B〕の実質的上限値は、1.00m2/gとなる。
【0056】
〈第4実験群〉
第4実験群では、共沈物を作製する際に使用する金属元素含有酸溶液の組成を変えることにより、リチウムコバルト系複合酸化物[LiCo1-xx2 ]の異種元素(Zr、Mg、Al、Ti)の組成を異ならせ、かつ水溶性アルカリ量を0.03質量%、BET比表面積を0.40m2/gに規制したリチウムコバルト系複合酸化物(〔A〕)と、水溶性アルカリ量を0.10質量%、BET比表面積を0.70m2/gに規制したリチウムコバルト系複合酸化物(〔B〕)とをそれぞれ作製した。そして上記〔A〕と〔B〕とを等質量%で混合して正極活物質となした。これを用いて実験例電池No.3、No.16、No.17、No.18を作製し、実験群1等と同様にして電池特性を調べた。なお、No.3電池は表1の実験例電池No.3と同一である。
【0057】
表4に、元素組成と電池特性を示した。
【0058】
【表4】

【0059】
表4において、異種元素が添加されていないリチウムコバルト系複合酸化物を用いてなる実験例電池No.18は、放電負荷特性が89%であり、60℃サイクル維持率が72であった。これに対して、Zr、Mg、Al、Tiからなる元素群から選択される異種元素が添加されたリチウムコバルト系複合酸化物を用いた実験例電池No.3、No.16、No.17は、実験例電池No.18に比較し放電負荷特性(%)及び60℃サイクル維持率(%)が顕著に高かった。
【0060】
この結果から、少なくともZrとMgの両方が添加されたリチウム含有遷移金属酸化物でかつ水溶性アルカリ量が0.03質量%以下に規制されたリチウムコバルト系複合酸化物〔A〕と、少なくともZrとMgの両方が添加されたリチウム含有遷移金属酸化物でかつ水溶性アルカリ量が0.04質量%以上0.15質量%以下に規制されたリチウムコバルト系複合酸化物〔B〕とを混合して正極活物質となすと、放電負荷特性(%)及び60℃サイクル維持率(%)に優れた非水電解質二次電池が得られることが実証できた。
【0061】
ところで、本発明は正極活物質に特徴を有するものであり、負極活物質はリチウムイオンを吸蔵放出することのできる負極活物質を有する負極であればよい。よって、負極活物質の種類は特に限定されない。但し、リチウムイオンを吸蔵放出することのできる炭素質物を用いるのが好ましく、特にLi基準で0.1V程度以下の炭素質物を用いるのが好ましい。電位の低い炭素質物を用いると、電池電圧を高めることができ、正極活物質の利用率及び電池容量を高めることができるからである。なお、炭素質物としては、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、コークス、ガラス状炭素、炭素繊維、またはこれらの焼成体の一種あるいは複数種混合したものなどが例示できる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によると、リチウム含有遷移金属酸化物を主体とする正極活物質の放電負荷性能及びサイクル性能を向上させることができ、本発明によると、高電圧、高容量で且つ放電負荷性能及びサイクル性能にも優れた非水電解質二次電池を実現することができる。よって、その産業上利用可能性は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵放出する正極活物質を製造する工程を含む非水電解質二次電池の製造方法において、
前記正極活物質を製造する工程は、
ZrとMgとコバルトを含む金属元素含有酸溶液にアルカリを加えて、異種金属元素が添加された四酸化三コバルトを共沈させる工程と、
前記四酸化三コバルトと炭酸リチウムとを混合し、加熱焼成して、焼成物中に残存する水溶性アルカリ量が0.03質量%以下に規制されたリチウムコバルト系複合酸化物〔A〕を作製する合成反応工程と、
前記四酸化三コバルトと炭酸リチウムとを混合し、加熱焼成して、焼成物中に残存する水溶性アルカリ量が0.04質量%以上0.15質量%以下に規制されたリチウムコバルト系複合酸化物〔B〕を作製する合成反応工程と、
前記リチウムコバルト系複合酸化物〔A〕に前記リチウムコバルト系複合酸化物〔B〕を10〜90%の質量割合で混合し正極活物質となす工程と、を備え、
前記合成反応工程で作製されるリチウムコバルト系複合酸化物〔A〕及び〔B〕が、LiCo1-xx2 (但し、Mは少なくともZr,Mgの両方を含み、xは0<x<0.1)で表されるリチウム含有遷移金属酸化物である、
ことを特徴とする非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の非水電解質二次電池の製造方法において、
前記リチウムコバルト系複合酸化物〔A〕のBET比表面積を0.40g/m2以下に規制し、
前記リチウムコバルト系複合酸化物〔B〕のBET比表面積を0.60g/m2以上に規制する、
ことを特徴とする非水電解質二次電池の製造方法。

【公開番号】特開2011−76891(P2011−76891A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−227709(P2009−227709)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】