説明

非水電解質二次電池の電極の製造方法

【課題】活物質合剤スラリーを減圧室を備えたダイコーターを用いて集電体に間欠的に塗布して製造する際に、未塗布部が生じることがなく、しかも塗布厚さが均一となるようにした非水電解質二次電池の電極の製造方法を提供すること。
【解決手段】非水電解質二次電池の活物質合剤スラリーをダイコーター13を用いて間欠的に帯状の集電体に塗布して帯状被乾燥体を形成する工程を有する非水電解質二次電池の電極の製造方法において、ダイコーター13の近傍に位置する集電体上の上流側部分を吸引により減圧状態とする減圧室を設け、かつ減圧室の吸引を活物質合剤スラリーの塗布開始直前に開始し、塗布終了直前に停止するように制御し、ダイコーター13としてダイコーター13の塗工幅を規定するガイド30の内側面の幅Wがマニホールド18から吐出口33に至るまで直線的に減少しており、かつガイド30の開口端34に面取りがなされていないものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池の電極の製造方法に関し、特に活物質合剤スラリーを減圧室を備えたダイコーターを用いて集電体に間欠的に塗布して製造する際に、未塗布部が生じることがなく、しかも塗布厚さが均一となるようにした非水電解質二次電池の電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯型の電子機器の急速な普及に伴い、それに使用される電池への要求仕様は年々厳しくなり、特に小型・薄型化、高容量でサイクル特性が優れ、性能の安定したものが要求されている。そして、二次電池分野では他の電池に比べて高エネルギー密度であるリチウム非水電解質二次電池が注目され、このリチウム非水電解質二次電池の占める割合は二次電池市場において大きな伸びを示している。
【0003】
このリチウム非水電解質二次電池は、細長いシート状の銅箔等からなる負極集電体(芯体ともいう)の両面に負極用活物質合剤を被膜状に塗布した負極と、細長いシート状のアルミニウム箔等からなる正極集電体の両面に正極用活物質合剤を被膜状に塗布した正極との間に、微多孔性ポリプロピレンフィルム等からなるセパレータを配置し、負極及び正極をセパレータにより互いに絶縁した状態で円柱状又は楕円形状に巻回して巻回電極体を作製し、角形電池の場合は更に巻回電極体を押し潰して偏平状に形成し、その後に負極及び正極の各所定部分にそれぞれ負極リード及び正極リードを接続して所定形状の外装内に収納した構成を有している。
【0004】
そして、前記巻回電極体は、通常、以下の製法で作製されている。先ず、帯状の負極集電体の両面に長手方向に沿って負極用活物質が間歇的に塗布され、所定厚さ及び幅に加工されて多数の負極が連続した負極材と、同様に帯状の正極集電体の両面に長手方向に沿って正極用活物質が間歇的に塗布され、所定厚さ及び幅に加工されて多数の正極が連続した正極材とが形成される。この負極材及び正極材は、これらの間に介在させる2枚のセパレータと共に所定の巻回位置へ送られる。
【0005】
巻回位置では、負極材から巻芯に巻回させる負極の部分を切り出すと共に、正極材から巻芯に巻回させる正極の部分を切り出し、さらに第1及び第2のセパレータからも巻芯に巻回させる1つの巻回電極体に用いる長さ分を切り出して、この位置に設けられた円柱状ないし楕円柱状の巻芯に負極材及び第1のセパレータ、正極材及び第2のセパレータの順に重ねながら当該負極材を内側にして巻回させ、この巻回処理を順次繰り返すことによりほぼ円柱状ないし楕円柱状の巻回電極体が順次形成される。なお、負極リード、正極リードは巻回の直前に負極材及び正極材の未塗布部分に溶接又は成形される。角形電池を製造する場合にはさらに、所定のプレス装置を用い、円柱状ないし楕円柱状の巻回電極体を径方向から挟み込むようにして押し潰し、偏平状の巻回電極体を形成するものである。
【0006】
このような電極として用いられる帯状の電極材の製造方法としては、正極ないし負極の活物質合剤スラリーをダイコート法(エクストルージョン法ともいう)により集電体に塗布する方法が知られている(下記特許文献1〜3参照)。このダイコート法は、正極ないし負極の活物質合剤スラリーをダイコーターのノズルより吐出させ、走行する帯状の集電体上に塗布する方法であり、活物質合剤スラリーの塗布量の規制を定流量ポンプの吐出量設定によりで行うことができ、また、活物質合剤スラリーは塗布されるまでほとんど外気と触れないため、溶媒の蒸発による活物質合剤スラリーの濃度変化が起こらず、スラリーの粘度変化に合わせた塗布厚みの調整の必要がなく、他の方法よりも安定した塗布を行うことができ、製品性能のバラツキが少ないという利点が存在している。
【0007】
一方、電池の電流負荷特性を向上させるためには、活物質層を薄く大面積に塗布することが必要である。しかしながら、ダイコート法による非水電解質二次電池用の正極及び負極の製造に際しては、活物質合剤スラリーは粘度が高く、かつ、チキソトロピックな性質を有しており、またノズルと集電体との距離も狭くなっているため、ダイコーターを用いた塗布での塗布量の薄層化、塗布速度の上昇は困難であった。
【0008】
このような従来技術の問題点を解決するため、下記特許文献1には、ダイコート法により塗布を行う際に塗布部の上流側に減圧室を設置し、その内部から吸引を行って減圧状態を作り出して塗布ギャップを広げるようになした発明が開示されている。更に、下記特許文献2には、下記特許文献1に開示されている前述の減圧室を併設したダイコート法により塗布を行う際に、減圧室に接続したサクションブロワのスイッチのON/OFFをコンピュータ上のソフトにより制御できるようにし、塗布開始直前に吸引開始、塗布終了直前に吸引停止するようプログラムした発明が開示されている。
【0009】
【特許文献1】特開平10−188962号公報
【特許文献2】特開2006−156232号公報
【特許文献3】特開2001− 29860号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記特許文献1に開示されている活物質合剤スラリーの塗布方法は、ベタ塗りの場合には塗布質量が高い場合でも低い場合でも非常に良好な結果を与える。しかしながら、前記特許文献1に開示されている活物質合剤スラリーの塗布方法を採用して間欠的に塗布する場合は、特に塗布質量が低い場合、塗布を停止した後もコーティングビードが減圧室の負圧によって集電体側へ引っ張られてしまうため、塗布を停止した位置より後側に薄く引き延ばされた部分を生じてしまうという問題点が存在している。
【0011】
また、前記特許文献2に開示された発明によれば、塗布時は減圧度を高く保ちかつ間欠塗布時の減圧度を抑えることができ、その結果未塗布部へのスラリーの流出を生じることがなくなるので、前記特許文献1に開示された発明のように、塗布終わり時に減圧度の変化により未塗布部へ活物質合剤スラリーが流出することによる塗布部分の寸法や外観に著しい不良を生じることがなくなるという効果を奏する。
【0012】
しかしながら、前記特許文献1及び2に開示されている発明のように、減圧室を併設したダイコート法による間欠的な塗布を行なう場合、未だに塗布端部から塗布面に未塗布部を生じ、生産性が著しく損なわれる場合があるという問題点が存在している。この集電体の表面に減圧室を併設したダイコート法による間欠的な塗布を行った際の塗布状態を図1及び図2を用いて説明する。
【0013】
なお、図1は集電体50の表面に塗布層51が理想的に形成された状態を示す概略平面図であり、図2(a)は第1の未塗布パターン52aが形成された状態を示し、図2(b)は第2の未塗布パターン52bが形成された状態を示す概略平面図である。
【0014】
すなわち、理想的に集電体50上に塗布層51が形成された場合には、図1に示すように、塗布層51は実質的に角が取れた方形状となる。しかしながら、減圧室を併設したダイコート法による間欠的な塗布を行なう場合、図2(a)に示すように塗布端部から集電体50の移動方向に沿った未塗布部52aが生じたり、図2(b)に示すように集電体50の移動方向に沿って塗布端部から中央部へ向かう筋状の未塗布部52bが生じることがある。
【0015】
このような未塗布部52a及び52bは、減圧室を併設しないダイコート法による間欠的な塗布を行う場合や、減圧室を併設したダイコート法による間欠的な塗布を行う場合であっても密度が高いLiCoO等を正極活物質とする正極合剤スラリーの場合にはあまり生じない。すなわち、上述のような未塗布部52a及び52bは、密度が低い黒鉛等の炭素材料を負極活物質とする負極合剤スラリーを減圧室を併設したダイコート法によって間欠的に塗布する場合に特異的に生じる問題点である。
【0016】
発明者等は、上述のような従来技術の問題点を解決すべき種々実験を重ねた結果、ダイコーターの塗工幅を規定するガイドの内側面の幅をマニホールドから吐出口に至るまで直線的に減少しておりかつこのガイド先端に面取りがなされていないようにすると、減圧度の変化に敏感な塗布端部の液圧を高めることができ、その結果、密度が低い黒鉛等の炭素材料を負極活物質とする負極合剤スラリーを塗布する場合であっても、上述のような塗布端部から生じる未塗布部が生じることを抑制することができることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0017】
なお、前記特許文献3には、ダイコーターの塗工幅を規定するガイドの開口部の幅をマニホールドから吐出口に至るまで直線的に減少させ、吐出口の両サイドまでの流量が均一になるようにして活物質合剤スラリーの塗工幅方向の厚さが均一になるようにしたものが示されている。しかしながら、前記特許文献3に示されている塗布装置は、減圧室を用いるものではなく、常圧状態で塗工するための技術であって、密度が低い黒鉛等の炭素材料を負極活物質とする負極合剤スラリーを減圧室を併設したダイコート法によって間欠的に塗布した場合に生じる問題点を示唆する記載はない。
【0018】
したがって、本発明は、活物質合剤スラリーを減圧室を備えたダイコーターを用いるダイコート法により集電体に間欠的に塗布して製造する際に、未塗布部が生じることがなく、しかも塗布厚さが均一となるようにした非水電解質二次電池の電極の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記目的を達成するため、本発明の非水電解質二次電池の電極の製造方法は、非水電解質二次電池の活物質合剤スラリーをダイコーターを用いて間欠的に帯状の集電体に塗布して帯状被乾燥体を形成する工程を有する非水電解質二次電池の電極の製造方法において、前記ダイコーターの近傍に位置する前記集電体上の上流側部分を吸引により減圧状態とする減圧室を設け、かつ前記減圧室の吸引を前記活物質合剤スラリーの塗布開始直前に開始し、塗布終了直前に停止するように制御し、前記ダイコーターとして前記ダイコーターの塗工幅を規定するガイドの内側面の幅がマニホールドから吐出口に至るまで直線的に減少しており、かつ前記ガイドの開口端に面取りがなされていないものを用いたことを特徴とする。
【0020】
本発明の非水電解質二次電池の電極の製造方法においては、ダイコーターの近傍に位置する集電体上の上流側部分を吸引により減圧状態とする減圧室を設けたものを用いることが必要である。このような減圧室を用いると、活物質合剤スラリーが集電体側に引っ張られて活物質合剤スラリーの塗布中にダイコーターの入口側リップ上に一定量の液体層(コーティングビード、メカニカスともいわれる)が安定に形成されるために、高速度の塗布や薄い塗布層を形成することが可能となる。
【0021】
また、本発明の非水電解質二次電池の電極の製造方法においては、前述の減圧室を設けると共に、減圧室の吸引を活物質合剤スラリーの塗布開始直前に開始し、塗布終了直前に停止するように制御することが必要である。このような方法を採用すると、活物質合剤スラリーの塗布開始時点では減圧室は減圧状態となっているので、未塗布部が生じることがなく良好な塗布状態を達成できる。しかも減圧室の吸引が活物質合剤スラリーの塗布終了直前に停止されているから、活物質合剤スラリーの塗布終了時点では減圧室は常圧に戻っているので、塗布を終了した位置より後側に薄く引き延ばされた部分が生じることがなく、均一な厚さに活物質合剤スラリーを塗布することができるようになる。
【0022】
また、本発明の非水電解質二次電池の電極の製造方法においては、ダイコーターとして前記ダイコーターの塗工幅を規定するガイドの内側面の幅がマニホールドから吐出口に至るまで直線的に減少しているものを使用することが必要である。このような構成を備えていると、ダイコーターの近傍に位置する集電体上の上流側部分を吸引により減圧状態とする減圧室を設けたものを用いた場合であっても、減圧度の変化に敏感な塗布端部の液圧を高めることができ、従来例のような塗布端部から生じる未塗布部が生じることを抑制することができるようになる。
【0023】
更に、本発明の非水電解質二次電池の電極の製造方法においては、前記ガイドの開口端に面取りがなされていないものを用いることが必要である。このとき、前記ガイドの開口端に面取りがなされているものを使用すると、塗布端部から延びる未塗布部が生じてしまうため、使用できない。
【0024】
また、本発明の非水電解質二次電池の電極の製造方法は、前記活物質合剤スラリーが炭素材料を含み、前記電極が負極である場合にも好適に適用できる。
【0025】
また、本発明の非水電解質二次電池の電極の製造方法は、正極及び負極の何れの製造方法としても採用できるが、LiCoO等のリチウム複合酸化物を正極活物質とする正極合剤スラリーの密度と黒鉛等の炭素材料を負極活物質とする負極合剤スラリーの密度とは約2倍程度の差があるため、特に密度の低い炭素材料を含む負極の製造に適用した場合には、本発明の前記効果が大きく現れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照にして本発明の実施例及び比較例を説明する。ただし、以下に示す実施例は、本発明の技術思想を具体化するための非水電解質二次電池の電極として黒鉛等の炭素質材料を活物質として使用する負極の製造方法を例示するものであって、本発明をこの非水電解質二次電池の負極の製造方法に特定することを意図するものではなく、LiCoO等のリチウム複合酸化物を活物質として使用する正極の製造方法としても等しく適用し得るものである。
【0027】
ここで、まず、実施例及び比較例で使用したシート状極板の製造方法を図3及び図4を用いて説明する。なお、図3はシート状極板製造装置の要部を示す断面図であり、図4は図3のシート状極板製造装置の要部の一部拡大断面図であり、前記引用文献1及び2に開示されている塗布装置と実質的に同一構成を備えている。
【0028】
図3に記載のシート状極板製造装置10は、帯状の集電体11がバックアップロール12の表面に密着して巻回しながら連続走行するようになっており、ダイコーター13はそのノズル14をバックアップロール12の外周面に対して垂直方向に向けて設けられ、ダイコーター13のノズル14の端面14aとバックアップロール12上の集電体11との間は所定の間隔dを保つように設置されている。ダイコーター13のノズル14は集電体11に対する入口側リップ15と出口側リップ16によって形成され、ノズル14はスロット17を介してマニホールド18に通じている。調製された活物質合剤スラリー19は適当な定流量ポンプ等の定流量供給装置(図示せず)を介してダイコーター13に連続的に供給され、マニホールド18よりスロット17を通ってノズル14より吐出され、連続的に走行する帯状の集電体11上に塗布されるようになっている。
【0029】
ダイコーター13の上流側、すなわち入口リップ15側には塗布幅方向に亘って減圧室20が設置されている。減圧室20は排気口21より常に排気することにより所定の減圧度に保たれている。塗布中は、減圧室20がバックアップロール12に巻回して走行する帯状の集電体11とともに入口側リップ15を覆っているため、入口側リップ15上は常に所定の減圧度に維持されている。減圧室20は、排気口21から真空ポンプ、ブロアー、アスピレーターなどで吸引することともに、一端部を廃液口23及び水24により水封することによりにより減圧状態に保たれている。
【0030】
このように、ダイコーター13のノズル14における入口側リップ15が減圧状態に保たれるために、活物質合剤スラリー19が集電体11側に引っ張られ、活物質合剤スラリーの塗布中に入口側リップ15上に一定量のコーティングビード22(図4参照)が安定に形成されるために、高速度の塗布や薄い塗布層を形成することが可能となるわけである。この場合、ダイコーター13のノズル14における入口側リップ15が減圧下に保たれておらず、しかもノズル14の端面14aと集電体11との間の間隔dが適切に保たれていないと、コーティングビード22が途切れた状態となったり、活物質合剤スラリー19の凝集物などがギャップに詰まってしまうために、点状の未塗布部分や筋状の未塗布部分の形成の原因となる。
【0031】
このシート状極板製造装置10においては、活物質合剤スラリーは粘度が高く、かつ、チキソトロピックな性質を有するので、活物質合剤スラリー塗布の高速安定化と薄層化並びに操作条件の安定化を達成できるようにするため、前記特許文献1に開示された発明を参照して、活物質合剤スラリーの粘度、減圧室の減圧度などの条件を帯状の集電体11の走行速度との相関で、次式のように制御している。
【数1】

【0032】
この式を、図4に従って説明すると、hは湿潤状態の活物質合剤スラリー塗布膜の厚さ(集電体11の厚みは含まない)、dはノズル14の端面14aと集電体11の距離、μはノズル端面14a部における活物質合剤スラリー19の粘度(25℃)、Lは出口側リップ16の幅、Vは集電体11の走行速度、Pは減圧室20の減圧度の各塗布条件である。なお、湿潤状態の活物質合剤スラリー塗布膜の厚さh、ノズル14の端面14aと集電体11との間の距離d、出口側リップ16の幅の単位はmm、活物質合剤スラリーの粘度μの単位はmPa、集電体11の走行速度Vの単位はm/分、減圧度PはmmHOである。
【0033】
この場合、活物質合剤スラリーの塗布速度を上げて同じ活物質合剤スラリーの塗布膜厚みを維持したい場合、従来よく行われていたように活物質合剤スラリー粘度を下げることも有効であるが、減圧室の減圧度を上げたり(より減圧にする)、ダイコーター13の出口側リップ16の幅を狭くすることが有効であり、前記塗布方法において活物質合剤スラリーの粘度は、25℃で0.5Pa〜300Paの範囲がよく、集電体11の搬送速度(走行速度)は0.1〜100m/分が好ましいとされている。
【0034】
[実施例、比較例1〜3]
実施例及び比較例1〜3で使用するダイコーターの構成を図5を用いて説明する。図5は図3に示した中心線に沿ったダイコーター13の断面図である。図5において、ダイコーター13の塗工幅を規定するガイド30の内側面の幅Wは、ダイコーター13の閉鎖端32側から吐出口33側に向かって直線的に狭くなっているものが示されている。ここで、ガイド30の開口端34の位置からダイコーター13の閉鎖端32側に向かって垂直に線を下ろしたとき、この垂直の線とガイド30の内側面との間の角度をθとする。
【0035】
実施例で使用したダイコーター13は、θ=2°であり、ガイド30の開口端34の部分には面取りを設けていないものを使用した。比較例1で使用したダイコーター13は、θ=0°であり、ガイド30の開口端34の部分には面取りを設けたものを使用した。また、比較例2で使用したダイコーター13は、θ=0°であるが、ガイド30の開口端34の部分には面取りを設けなかったものを使用した。更に、比較例3で使用したダイコーター13は、θ=2°であるが、ガイド30の開口端34の部分には面取りを設けたものを使用した。
【0036】
[試料の作成]
実施例及び比較例1〜3に共通する負極活物質として鱗片状天然黒鉛(d002値:3.356Å、Lc値:1000Å、平均粒径:20μm)と、結着剤としてスチレン−ブタジエンゴム(SBR)のディスパージョン(固形分:48%)を水に分散させ、さらに増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を混合し、乾燥後の固形分質量組成比が鱗片状天然黒鉛:SBR:CMC=100:3:2になるように混錬してスラリーを調製した。このスラリーを塗布するにあたって、前記実施例及び比較例1〜3に示したダイコーター13を用い、これらのダイコーター13のノズル14の上流側に減圧室20を設置し、図示しないサクションブロワを用いて減圧室20内を吸引し、負極集電体11としての銅箔(箔厚み:10μm)表面上の上流側を減圧状態で前記スラリーを間欠的に塗布した。
【0037】
このダイコーター13による塗布に際し、図6に示したとおり、実施例及び比較例1〜3とも、サクションブロワによる減圧室20の吸引をスラリーの塗布の直前から開始してスラリーを塗布し、また、スラリーの塗布終了直前にサクションブロワによる吸引を停止するという工程を間欠的に繰り返した。なお、減圧室20は周囲に隙間が多く存在しているため、サクションブロワによる吸引を停止すると直ちに常圧に戻った。次いで、塗布されたスラリーを乾燥させて実施例及び比較例1〜3による電極作製した。得られたそれぞれの負極の塗布面の状況を表1に纏めて示した。
【0038】
【表1】

【0039】
表1に示した結果から以下のことが分かる。すなわち、比較例1〜3によるダイコーターを使用して作製された電極は、塗布端部から塗布面への未塗布部が発生したのに対し、実施例によるダイコータを用いて作製された電極では未塗布部の発生は見られなかった。
【0040】
比較例1と比較例3との結果を対比すると、両者ともガイド30の開口端34に面取りを設けた点で共通しているが、比較例1で使用したダイコーター13はθ=0°であるのに対して比較例3で使用したダイコーター13はθ=2°であるから、ガイド30の開口端34の部分に面取りを設けると未塗布部が生じてしまうことが分かる。また、実施例と比較例2との結果を対比すると、両者ともガイド30の開口端34の部分に面取りを設けていない点で共通しているが、実施例で使用したダイコーター13はθ=2°であるのに対し比較例2で使用したダイコーター13はθ=0°であるが、比較例2の場合のみ未塗布部が生じている。
【0041】
このことから、ダイコーター13としては、ダイコーター13の塗工幅を規定するガイド30の内側面の幅Wがマニホールドから吐出口に至るまで直線的に減少しているもの(θ>0)を用いると共に、ガイド30の開口端34の部分に面取りを設けていないものを使用する必要があることが分かる。なお、θの値に関しては、ダイコーター13の閉鎖端32側から吐出口33側までの長さや用いるスラリーの密度、粘度等によっても最適な値は変化するが、1°≦θ≦5°の範囲内で適宜選択して使用すればよい。
【0042】
以上は、黒鉛等の炭素材料を負極活物質とする負極合剤スラリーを帯状の集電体に塗布した例を示したが、LiCoO等のリチウム複合酸化物からなる正極合剤スラリーを塗布した場合についても、その程度は異なるにしても、同様の傾向が生じる。したがって、本発明によれば、非水電解質二次電池の品質および生産性を向上させることができ、その工業的価値は大である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】集電体の表面に塗布層が理想的に形成された状態を示す概略平面図である。
【図2】図2(a)は第1の未塗布パターンが形成された状態を示し、図2(b)は第2の未塗布パターンが形成された状態を示す概略平面図である。
【図3】シート状極板製造装置の要部を示す断面図である。
【図4】図3のシート状極板製造装置の要部の一部拡大断面図であり。
【図5】図3に示した中心線に沿ったダイコーターの断面図である。
【図6】実施例及び比較例で採用したスラリーの塗布と減圧室の吸引との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
10:スラリー塗布装置、11:集電体、12:バックアップロール、13:ダイコーター、14:ノズル、15:入口リップ、16:出口リップ、18:マニホールド、19:スラリー、20:減圧室、22:コーティングビード、30:ガイド、32:閉鎖端、33:吐出口、34:ガイドの開口端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水電解質二次電池の活物質合剤スラリーをダイコーターを用いて間欠的に帯状の集電体に塗布して帯状被乾燥体を形成する工程を有する非水電解質二次電池の電極の製造方法において、
前記ダイコーターの近傍に位置する前記集電体上の上流側部分を吸引により減圧状態とする減圧室を設け、かつ前記減圧室の吸引を前記活物質合剤スラリーの塗布開始直前に開始し、塗布終了直前に停止するように制御し、
前記ダイコーターとして前記ダイコーターの塗工幅を規定するガイドの内側面の幅がマニホールドから吐出口に至るまで直線的に減少しており、かつ前記ガイドの開口端に面取りがなされていないものを用いたことを特徴とする非水電解質二次電池の電極の製造方法。
【請求項2】
前記活物質合剤スラリーが炭素材料を含み、前記電極が負極であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池の電極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−218079(P2008−218079A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−51276(P2007−51276)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】