説明

非水電解質二次電池用負極活物質、非水電解質二次電池、電池パック及び非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法

【課題】 長寿命で初期充放電容量効率に優れ、かつ高容量な非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】 炭素質物と、前記炭素質物中に分散されたシリコン酸化物と、前記シリコン酸化物中に分散されたシリコンとを有する複合体であり、粉末X線回折測定におけるSi(220)面の回折ピークの半値幅が1.5°以上、8.0°以下であり、かつ前記シリコン酸化物相の平均サイズが50nm以上、1000nm以下であり、かつ前記シリコン酸化物相のサイズの分布が(d84%−d16%)/2で定義される標準偏差において、(標準偏差/平均サイズ)の値が1.0以下を示すことを特徴とする非水電解質二次電池用負極活物質、及び該活物質を用いた非水電解質二次電池、及び該非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、非水電解質二次電池用負極活物質、非水電解質二次電池、電池パック、及び非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
近年、急速なエレクトロニクス機器の小型化技術の発達により、種々の携帯電子機器が普及しつつある。そして、これら携帯電子機器の電源である電池にも小型化が求められており、高エネルギー密度を持つ非水電解質二次電池が注目を集めている。
【0003】
特に、シリコン、スズなどのリチウムと合金化する元素、非晶質カルコゲン化合物などリチウム吸蔵容量が大きく、密度の高い物質を用いる試みがなされてきた。中でもシリコンはシリコン原子1に対してリチウム原子を4.4の比率までリチウムを吸蔵することが可能であり、質量あたりの負極容量は黒鉛質炭素の約10倍となる。しかし、シリコンは、充放電サイクルにおけるリチウムの挿入脱離に伴なう体積の変化が大きく活物質粒子の微粉化などサイクル寿命に問題があった。
【0004】
発明者らは鋭意実験を重ねた結果、微細な一酸化珪素と炭素質物とを複合化し焼成した活物質において、微結晶SiがSiと強固に結合するSiOに包含または保持された状態で炭素質物中に分散した活物質を得られ、高容量化およびサイクル特性の向上を達成できることを見出した。しかしながら、このような活物質においても数百回の充放電サイクルを行うと容量が低下し、長期間の使用には寿命特性が不十分である。
【0005】
さらに、容量低下の過程を詳細に調査したところ、活物質中に含まれる微結晶Siが充放電を繰り返す間に成長し結晶子サイズが大きくなることが分かった。この結晶子サイズの成長により充放電時のLiの挿入脱離による体積変化の影響が大きくなり、容量低下が生じるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−119176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
長寿命で初期充放電容量効率に優れ、かつ高容量な非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1実施形態によれば、炭素質物と、前記炭素質物中に分散されたシリコン酸化物と、前記シリコン酸化物中に分散されたシリコンとを有する複合体であり、粉末X線回折測定におけるSi(220)面の回折ピークの半値幅が1.5°以上、8.0°以下であり、かつ前記シリコン酸化物相の平均サイズが50nm以上、1000nm以下であり、かつ前記シリコン酸化物相のサイズの分布が(d84%−d16%)/2で定義される標準偏差において、(標準偏差/平均サイズ)の値が1.0以下を示すことを特徴とする非水電解質二次電池用負極活物質が提供される。
【0009】
第2実施形態によれば、前記第1実施形態の負極活物質を含む負極、非水電解質と、
を具備することを特徴とする非水電解質二次電池が提供される。
【0010】
第3実施形態によれば、第2実施形態に係る非水電解質二次電池を一以上備える電池パックが提供される。
【0011】
第4実施形態によれば、前記第1実施形態に係る非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第2実施形態に係る扁平型非水電解質電池を示す断面図。
【図2】図1のA部の拡大断面図。
【図3】第3実施形態に係る電池パックを示す分解斜視図。
【図4】図3の電池パックの電気回路を示すブロック図。
【図5】第1の実施形態に係る負極活物質の製造方法のプロセスフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0014】
(第1実施形態)
第1実施形態における負極活物質は、炭素質物と、前記炭素質物中に分散されたシリコン酸化物と、前記シリコン酸化物中に分散されたシリコンとを有する複合体であり、粉末X線回折測定におけるSi(220)面の回折ピークの半値幅が1.5°以上、8.0°以下であり、かつ前記シリコン酸化物相の平均サイズが50nm以上、1000nm以下であり、かつ前記シリコン酸化物相のサイズの分布が(d84%−d16%)/2で定義される標準偏差において、(標準偏差/平均サイズ)の値が1.0以下を示すことを特徴とする。
【0015】
第1実施形態に係る負極活物質の望ましい態様は、Siと酸化ケイ素と炭素質物からなり、かつこれらが細かく複合化された粒子であり、かつSiを保持含有した酸化ケイ素相が平均サイズが50nm以上、1000nm以下であると共に、サイズ分布が(d84%−d16%)/2で定義される標準偏差において、(標準偏差/平均サイズ)の値が1.0以下の均一な状態で炭素質物中に分散されたとして存在していることである。
【0016】
Si相は多量のリチウムを挿入脱離し、負極活物質の容量を大きく増進させる。Si相への多量のリチウムの挿入脱離による膨張収縮を、Si相を他の2相のなかに分散することにより緩和して活物質粒子の微粉化を防ぐとともに、炭素質物相は負極活物質として重要な導電性を確保し、酸化ケイ素相はSiと強固に結合し微細化されたSiを保持するバッファーとして粒子構造の維持に大きな効果がある。
【0017】
Si相はリチウムを吸蔵放出する際の膨張収縮が大きく、この応力を緩和するためにできるだけ微細化されて分散されていることが好ましい。具体的には数nmのクラスターから、大きくても100nm以下のサイズで分散されていることが好ましい。
【0018】
酸化ケイ素相は非晶質、結晶質などの構造とるが、Si相に結合しこれを包含または保持する形で活物質粒子中に偏りなく分散されていることが好ましい。しかしながら、この酸化ケイ素に保持された微結晶Siは、充放電時にLiを吸蔵放出して体積変化を繰り返すうちに互いに結合して結晶子サイズ成長が進み、容量低下および初回充放電効率の原因となる。そこで本発明では酸化ケイ素相のサイズを小さくかつ均一にすることで、微結晶Siの結晶子サイズの成長を阻害したことで充放電サイクルによる容量劣化を抑制し、寿命特性が向上されている。酸化ケイ素相の好ましい平均サイズは、50nmから1000nmの範囲である。この範囲より大きいと微結晶Siのサイズ成長の抑制効果が得られない。また、この範囲より小さい場合には活物質作製の際に酸化ケイ素相の分散が難しくなるとともに、活物質としての導電性の低下によるレート特性の低下や初回充放電容量効率の低下等の問題が生じる。さらに好ましくは、100nm以上500nm以下であり、この範囲であると特に良好な寿命特性を得ることが出来る。また、活物質全体として良好な特性を得るためには、酸化ケイ素相のサイズは均一であることが好ましく、体積分での16%累積径をd16%、84%累積径をd84%としたときに(d84%−d16%)/2 であらわされる標準偏差に対して、(標準偏差/平均サイズ)の値が1.0以下であることが好ましく、さらに0.5以下であると優れた寿命特性をえることができる。
【0019】
粒子内部でSi相と複合化される炭素質物は、グラファイト、ハードカーボン、ソフトカーボン、アモルファス炭素またはアセチレンブラックなどが良く、1つ又は数種からなり、好ましくはグラファイトのみ、あるいはグラファイトとハードカーボンの混合物が良い。グラファイトは活物質の導電性を高める点で好ましく、ハードカーボン活物質全体を被覆し膨張収縮を緩和する効果が大きい。炭素質物はSi相、酸化ケイ素相を内包する形状となっていることが好ましい。また、微粒子の酸化ケイ素相を分散した複合体において、粒子の構造の保持および酸化ケイ素相の凝集を防ぎ導電性を確保するために炭素繊維を含むことが好ましい。従って、添加される炭素繊維の直径は酸化ケイ素相と同程度のサイズであると効果的であり、平均直径が50nm以上1000nm以下であることが好ましく、100nm以上500nm以下であると特に好ましい。炭素繊維の含有量は0.1質量%以上、8質量%以下の範囲であることが好ましく、0.5質量%以上、5質量%以下であると特に好ましい。
【0020】
また、LiSiOなどのリチウムシリケートが、酸化ケイ素相の表面または内部に分散されていてもよい。炭素質物に添加されたリチウム塩は熱処理を行うことで複合体内の酸化ケイ素相と固体反応を起こしリチウムシリケートを形成すると考えられる。
【0021】
Si相および酸化ケイ素相を覆う構造炭素質物中にSiO前駆体およびLi化合物が添加してもよい。これらの物質を炭素質物中に加えることで一酸化珪素から生成するSiOと炭素質物の結合が強固になると共に、Liイオン導電性に優れるLiSiOが酸化ケイ素相中に生成する。SiO前駆体としては、シリコンエトキシド等のアルコキシドが挙げられる。Li化合物としては、炭酸リチウム、酸化リチウム、水酸化リチウム、シュウ酸リチウム、塩化リチウムなどが挙げられる。
【0022】
負極活物質の粒径は5μm以上100μm以下、比表面積は0.5m/g以上10m/g以下であることが好ましい。活物質の粒径および比表面積はリチウムの挿入脱離反応の速度に影響し、負極特性に大きな影響をもつが、この範囲の値であれば安定して特性を発揮することができる。
【0023】
また、活物質の粉末X線回折測定におけるSi(220)面の回折ピークの半値幅は、1.5°以上、8.0°以下であることが好ましい。Si(220)面の回折ピーク半値幅はSi相の結晶粒が成長するほど小さくなり、Si相の結晶粒が大きく成長するとリチウムの挿入脱離に伴う膨張収縮に伴い活物質粒子に割れ等を生じやすくなるが、このため半値幅が1.5°以上、8.0°以下の範囲内であればこの様な問題が表面化することを避けられる。
【0024】
Si相、SiO相、炭素質物相の比率は、Siと炭素のモル比が0.2≦Si/炭素≦2の範囲であることが好ましい。Si相とSiO相の量的関係はモル比が0.6≦Si/SiO≦1.5であることが、負極活物質として大きな容量と良好なサイクル特性を得ることができるため望ましい。
【0025】
(製造方法)
次に第1実施形態に係る非水電解質二次電池用負極活物質材料の製造方法について説明する。この手順を図5に示す。
【0026】
第1実施形態に係る負極活物質は、原料を固相あるいは液相における力学的処理、攪拌処理等により混合、焼成処理を経て合成することができる。
【0027】
(複合化処理:S01)
複合化処理においては、SiO原料と、黒鉛および炭素前駆体を有する有機材料を混合し複合体を形成する。
【0028】
SiO原料はSiO(0.8≦X≦1.5)を用いることが好ましい。特にSiO(X ≒1)を用いることが、Si相とSiO 相の量的関係を好ましい比率とする上で望ましい。また、SiOは混合の際に粉砕してもよいが、処理時間短縮のため、及び均一なサイズの酸化ケイ素相を形成するために予め微粉末としてものを用いることが好ましく、連続式ボールミルや遊星ボールミル等を用いてこのような微粉末を得ることができる。この場合SiOの粒径は平均して50nm以上1000nm以下であることが好ましい。さらに好ましくは平均径が100nm以上500nm以下であり、均一なSiOを用いるとよい。
【0029】
有機材料としては、グラファイト、コークス、低温焼成炭、ピッチなどの炭素材料および炭素材料前駆体のうち少なくとも一方を用いることが出来る。特に、ピッチなど加熱により溶融するものは力学的なミル処理中には溶融して複合化が良好に進まないため、コークス・グラファイトなど溶融しないものと混合して使用すると良い。
【0030】
力学的な複合化処理としては、例えば、ターボミル、ボールミル、メカノフュージョン、ディスクミルなどを挙げることが出来る。
【0031】
力学的な複合化処理の運転条件は機器ごとにことなるが、十分に粉砕・複合化が進行するまで行なうことが好ましい。しかしながら、複合化の際に出力を上げすぎる、あるいは時間を掛けすぎるとSiとCが反応してLiの挿入反応に対し不活性なSiCが生成する。そのため、処理の条件は、粉砕・複合化が十分進行し、かつSiCの生成が起こらない適度な条件を定める必要がある。
【0032】
液相での混合攪拌により複合化を行う方法を以下に説明する。混合攪拌処理は例えば各種攪拌装置、ボールミル、ビーズミル装置およびこれらの組み合わせにより行うことができる。微粒子の一酸化ケイ素と炭素前駆体および炭素材との複合化は分散媒を用いた液中で液相混合を行うと良い。乾式の混合手段では、微粒子の一酸化ケイ素と炭素前駆体を凝集させることなく均一に分散させることが難しいためである。分散媒としては有機溶媒、水等を用いることができるが、一酸化ケイ素と炭素前駆体および炭素材の双方と良好な親和性をもつ液体を用いることが好ましい。具体例として、エタノール、アセトン、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトン、酢酸エチルなどを挙げることができる。また、炭素前駆体は微粒子の一酸化ケイ素と均一に混合するために混合段階で液体あるいは分散媒に可溶であるものが好ましく、液体であり容易に重合可能なモノマーあるいはオリゴマーであると特に好ましい。例えば、フラン樹脂、キシレン樹脂、ケトン樹脂、アミノ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アニリン樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂などを形成する有機材料が挙げられる。液相で混合を行った材料は、固化あるいは乾燥工程を経てSiOx−有機材料複合化物を形成する。
【0033】
(炭化焼成処理:S02)
炭化焼成は、Ar中等の不活性雰囲気下にて行なわれる。炭化焼成においては、SiO−有機材料複合化物中のポリマーまたはピッチ等の炭素前駆体が炭化されると共に、SiOは不均化反応によりSiとSiOの2相に分離する。X=1のとき反応は下の式(1)で表される。
【0034】
2SiO → Si + SiO ・・・(1)
この不均化反応は800℃より高温で進行し、微小なSi相とSiO相に分離する。反応温度が上がるほどSi相の結晶は大きくなり、Si(220)のピークの半値幅は小さくなる。好ましい範囲の半値幅が得られる焼成温度は850℃〜1600℃の範囲である。また、不均化反応により生成したSiは1400℃より高い温度では炭素と反応してSiCに変化する。SiCはリチウムの挿入に対して全く不活性であるためSiCが生成すると活物質の容量は低下する。従って、炭化焼成の温度は850℃以上1400℃以下であることが好ましく、さらに好ましくは900℃以上1100℃以下である。焼成時間は、1時間から12時間程度の間であることが好ましい。
【0035】
(炭化被覆処理:S03)
次の工程として複合化処理によって得られた粒子に炭素被覆を行ってもよい。被覆に用いる材料としては、ピッチ、樹脂、ポリマーなど不活性雰囲気下で加熱されて炭素質物となるものを用いることが出来る。具体的には石油ピッチ、メソフェーズピッチ、フラン樹脂、セルロース、ゴム類など1200℃程度の焼成でよく炭化されるものが好ましい。これは焼成処理の項で述べたとおり、1400℃より高い温度では焼成を行うことができないためである。被覆方法は、モノマー中に複合体粒子を分散した状態で重合し固化したものを炭化焼成に供する。または、ポリマーを溶媒中に溶解し、複合体粒子を分散したのち溶媒を蒸散し得られた固形物を炭化焼成に供する。また、炭素被覆に用いる別の方法としてCVDによる炭素被覆を行うこともできる。この方法は800〜1000℃に加熱した試料上に不活性ガスをキャリアガスとして気体炭素源を流し、試料表面上で炭化させる方法である。この場合、炭素源としてはベンゼン、トルエン、スチレンなどを用いることができる。また、CVDによる炭素被覆を行った際、試料は800〜1000℃で加熱されるため、炭化焼成と同時に行ってもよい。
【0036】
この炭素被覆の際にリチウム化合物およびSiO源を同時に添加してもよい。
【0037】
以上のような合成方法により本実施形態に係る負極活物質が得られる。炭化焼成後の生成物は各種ミル、粉砕装置、グラインダー等を用いて粒径、比表面積等を調製してもよい。
【0038】
(第3実施形態)
第3実施形態に係る非水電解質二次電池を説明する。
【0039】
第3実施形態に係る非水電解質二次電池は、外装材と、外装材内に収納された正極と、外装材内に正極と空間的に離間して、例えばセパレータを介在して収納された活物質を含む負極と、外装材内に充填された非水電解質とを具備する。
【0040】
実施形態に係る非水電解質二次電池100の一例を示した図1、図2を参照してより詳細に説明する。図1は、外装材2がラミネートフィルムから構成される扁平型非水電解質二次電池100の断面図模式図であり、図2は図2のA部の拡大断面図である。なお、各図は説明のための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術を参酌して適宜、設計変更することができる。
【0041】
扁平状の捲回電極群1は、2枚の樹脂層の間にアルミニウム箔を介在したラミネートフィルムから構成される袋状外装材2内に収納されている。扁平状の捲回電極群1は、外側から負極3、セパレータ4、正極5、セパレータ4の順で積層した積層物を渦巻状に捲回し、プレス成型することにより形成される。最外殻の負極3は、図2に示すように負極集電体3aの内面側の片面に負極層3bを形成した構成を有する。その他の負極3は、負極集電体3aの両面に負極層3bを形成して構成されている。負極層3b中の活物質は、第1実施形態に係る電池用活物質を含む。正極5は、正極集電体5aの両面に正極層5bを形成して構成されている。
【0042】
捲回電極群1の外周端近傍において、負極端子6は最外殻の負極3の負極集電体3aに電気的に接続され、正極端子7は内側の正極5の正極集電体5aに電気的に接続されている。これらの負極端子6及び正極端子7は、袋状外装材2の開口部から外部に延出されている。例えば液状非水電解質は、袋状外装材2の開口部から注入されている。袋状外装材2の開口部を負極端子6及び正極端子7を挟んでヒートシールすることにより捲回電極群1及び液状非水電解質を完全密封している。
【0043】
負極端子6は、例えばアルミニウムまたはMg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、Si等の元素を含むアルミニウム合金が挙げられる。負極端子6は、負極集電体3aとの接触抵抗を低減するために、負極集電体3aと同様の材料であることが好ましい。
【0044】
正極端子7は、リチウムイオン金属に対する電位が3〜4.25Vの範囲における電気的安定性と導電性とを備える材料を用いることができる。具体的には、アルミニウムまたはMg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、Si等の元素を含むアルミニウム合金が挙げられる。正極端子7は、正極集電体5aとの接触抵抗を低減するために、正極集電体5aと同様の材料であることが好ましい。
【0045】
以下、非水電解質二次電池100の構成部材である外装材、正極、負極、電解質、セパレータについて詳細に説明する。
【0046】
1)外装材
外装材2は、厚さ0.5mm以下のラミネートフィルムから形成される。或いは、外装材は厚さ1.0mm以下の金属製容器が用いられる。金属製容器は、厚さ0.5mm以下であることがより好ましい。
【0047】
外装材2の形状は、扁平型(薄型)、角型、円筒型、コイン型、及びボタン型から選択できる。外装材の例には、電池寸法に応じて、例えば携帯用電子機器等に積載される小型電池用外装材、二輪乃至四輪の自動車等に積載される大型電池用外装材などが含まれる。
【0048】
ラミネートフィルムは、樹脂層間に金属層を介在した多層フィルムが用いられる。金属層は、軽量化のためにアルミニウム箔若しくはアルミニウム合金箔が好ましい。樹脂層は、例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の高分子材料を用いることができる。ラミネートフィルムは、熱融着によりシールを行って外装材の形状に成形することができる。
【0049】
金属製容器は、アルミニウムまたはアルミニウム合金等から作られる。アルミニウム合金は、マグネシウム、亜鉛、ケイ素等の元素を含む合金が好ましい。合金中に鉄、銅、ニッケル、クロム等の遷移金属が含まれる場合、その量は100質量ppm以下にすることが好ましい。
【0050】
2)正極
正極は、活物質を含む正極活物質層が正極集電体の片面もしくは両面に担持された構造を有する。
【0051】
前記正極活物質層の片面の厚さは1.0μm〜150μmの範囲であることが電池の大電流放電特性とサイクル寿命の保持の点から望ましい。従って正極集電体の両面に担持されている場合は正極活物質層の合計の厚さは20μm〜300μmの範囲となることが望ましい。片面のより好ましい範囲は30μm〜120μmである。この範囲であると大電流放電特性とサイクル寿命は向上する。
【0052】
正極活物質層は、正極活物質の他に導電剤を含んでいてもよい。
【0053】
また、正極活物質層は正極材料同士を結着する結着剤を含んでいてもよい。
【0054】
正極活物質としては、種々の酸化物、例えば二酸化マンガン、リチウムマンガン複合酸化物、リチウム含有ニッケルコバルト酸化物(例えばLiCOO)、リチウム含有ニッケルコバルト酸化物(例えばLiNi0.8CO0.2)、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLiMn、LiMnO)を用いると高電圧が得られるために好ましい。
【0055】
導電剤としてはアセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛などを挙げることができる。
【0056】
結着材の具体例としては例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ弗化ビニリデン(PVdF)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)等を用いることができる。
【0057】
正極活物質、導電剤および結着剤の配合割合は、正極活物質80〜95質量%、導電剤3〜20質量%、結着剤2〜7質量%の範囲にすることが、良好な大電流放電特性とサイクル寿命を得られるために好ましい。
【0058】
集電体としては、多孔質構造の導電性基板かあるいは無孔の導電性基板を用いることができる。集電体の厚さは5〜20μmであることが望ましい。この範囲であると電極強度と軽量化のバランスがとれるからである。
【0059】
正極5は、例えば活物質、導電剤及び結着剤を汎用されている溶媒に懸濁してスラリーを調製し、このスラリーを集電体5aに塗布し、乾燥し、その後、プレスを施すことにより作製される。正極5はまた活物質、導電剤及び結着剤をペレット状に形成して正極層5bとし、これを集電体5a上に形成することにより作製されてもよい。
【0060】
3)負極
負極は、負極材料を含む負極活物質が負極集電体の片面もしくは両面に担持された構造を有する。負極活物質には、第1実施形態に係る負極活物質を用いることが出来る。
【0061】
前記負極活物質層の厚さは1.0〜150μmの範囲であることが望ましい。従って負極集電体の両面に担持されている場合は負極活物質層の合計の厚さは20〜300μmの範囲となる。片面の厚さのより好ましい範囲は30〜100μmである。この範囲であると大電流放電特性とサイクル寿命は大幅に向上する。
【0062】
負極活物質層は負極材料同士を結着する結着剤を含んでいてもよい。結着剤としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ弗化ビニリデン(PVdF)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリイミド、ポリアラミド等を用いることができる。また、結着剤には2種またはそれ以上のものを組み合わせて用いてもよく、活物質同士の結着に優れた結着剤と活物質と集電体の結着に優れた結着剤の組み合わせや、硬度の高いものと柔軟性に優れるものを組み合わせて用いると、寿命特性に優れた負極を作製することができる。
【0063】
また、負極活物質層は導電剤を含んでいてもよい。導電剤としてはアセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛などを挙げることができる。
【0064】
集電体としては、多孔質構造の導電性基板か、あるいは無孔の導電性基板を用いることができる。これら導電性基板は、例えば、銅、ステンレスまたはニッケルから形成することができる。集電体の厚さは5〜20μmであることが望ましい。この範囲であると電極強度と軽量化のバランスがとれるからである。
【0065】
負極3は、例えば活物質、導電剤及び結着剤を汎用されている溶媒に懸濁してスラリーを調製し、このスラリーを集電体3aに塗布し、乾燥し、その後、プレスを施すことにより作製される。負極3はまた活物質、導電剤及び結着剤をペレット状に形成して負極層3bとし、これを集電体3a上に形成することにより作製されてもよい。
【0066】
4)電解質
電解質としては非水電解液、電解質含浸型ポリマー電解質、高分子電解質、あるいは無機固体電解質を用いることができる。
【0067】
非水電解液は、非水溶媒に電解質を溶解することにより調製される液体状電解液で、電極群中の空隙に保持される。
【0068】
非水溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)やエチレンカーボネート(EC)とPCやECより低粘度である非水溶媒(以下第2溶媒と称す)との混合溶媒を主体とする非水溶媒を用いることが好ましい。
【0069】
第2溶媒としては、例えば鎖状カーボンが好ましく、中でもジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル、γ−ブチロラクトン(BL)、アセトニトリル(AN)、酢酸エチル(EA)、トルエン、キシレンまたは、酢酸メチル(MA)等が挙げられる。これらの第2溶媒は、単独または2種以上の混合物の形態で用いることができる。特に、第2溶媒はドナー数が16.5以下であることがより好ましい。
【0070】
第2溶媒の粘度は、25℃において2.8cmp以下であることが好ましい。混合溶媒中のエチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートの配合量は、体積比率で1.0%〜80%であることが好ましい。より好ましいエチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートの配合量は体積比率で20%〜75%である。
【0071】
非水電解液に含まれる電解質としては、例えば過塩素酸リチウム(LiClO4)、六弗化リン酸リチウム(LiPF6)、ホウ弗化リチウム(LiBF4)、六弗化砒素リチウム(LiAsF6)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム[LiN(CFSO]等のリチウム塩(電解質)が挙げられる。中でもLiPF、LiBFを用いるのが好ましい。
【0072】
電解質の非水溶媒に対する溶解量は、0.5〜2.0mol/Lとすることが望ましい。
【0073】
5)セパレータ
非水電解液を用いる場合、および電解質含浸型ポリマー電解質を用いる場合においてはセパレータを用いることができる。セパレータは多孔質セパレータを用いる。セパレータの材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、またはポリ弗化ピニリデン(PVdF)を含む多孔質フィルム、合成樹脂製不織布等を用いることができる。中でも、ポリエチレンか、あるいはポリプロピレン、または両者から構成される多孔質フィルムは、二次電池の安全性を向上できるため好ましい。
【0074】
セパレータの厚さは、30μm以下にすることが好ましい。厚さが30μmを越えると、正負極間の距離が大きくなって内部抵抗が大きくなる恐れがある。また、厚さの下限値は、5μmにすることが好ましい。厚さを5μm未満にすると、セパレータの強度が著しく低下して内部ショートが生じやすくなる恐れがある。厚さの上限値は、25μmにすることがより好ましく、また、下限値は1.0μmにすることがより好ましい。
【0075】
セパレータは、120℃の条件で1時間おいたときの熱収縮率が20%以下であることが好ましい。熱収縮率が20%を超えると、加熱により短絡が起こる可能性が大きくなる。熱収縮率は、15%以下にすることがより好ましい。
【0076】
セパレータは、多孔度が30〜70%の範囲であることが好ましい。これは次のような理由によるものである。多孔度を30%未満にすると、セパレータにおいて高い電解質保持性を得ることが困難になる恐れがある。一方、多孔度が60%を超えると十分なセパレータ強度を得られなくなる恐れがある。多孔度のより好ましい範囲は、35〜70%である。
【0077】
セパレータは、空気透過率が500秒/1.00cm以下であると好ましい。空気透過率が500秒/1.00cmを超えると、セパレータにおいて高いリチウムイオン移動度を得ることが困難になる恐れがある。また、空気透過率の下限値は、30秒/1.00cmである。空気透過率を30秒/1.00cm未満にすると、十分なセパレータ強度を得られなくなる恐れがあるからである。
【0078】
空気透過率の上限値は300秒/1.00cmにすることがより好ましく、また、下限値は50秒/1.00cmにするとより好ましい。
【0079】
以上説明した第1実施形態に係る非水電解質二次電池用負極活物質は、SiとSiOと炭素質物の3相を含む複合体に金属あるいはリチウムシリケートを分散したことを特徴とするものである。このような負極活物質は高い充放電容量と長いサイクル寿命、良好な大電流特性を同時に達成することができるため、放電容量が向上された長寿命な非水電解質二次電池を実現することができる。
【0080】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係る電池パックを説明する。
【0081】
第3実施形態に係る電池パックは、上記第2実施形態に係る非水電解質二次電池(即ち、単電池)を一以上有する。電池パックに複数の単電池が含まれる場合、各単電池は、電気的に直列、並列、或いは、直列と並列に接続して配置される。
【0082】
図3及び図4を参照して電池パック200を具体的に説明する。図2に示す電池パック200では、単電池21として図1に示す扁平型非水電解液電池を使用している。
【0083】
複数の単電池21は、外部に延出した負極端子6及び正極端子7が同じ向きに揃えられるように積層され、粘着テープ22で締結することにより組電池23を構成している。これらの単電池21は、図4に示すように互いに電気的に直列に接続されている。
【0084】
プリント配線基板24は、負極端子6及び正極端子7が延出する単電池21側面と対向して配置されている。プリント配線基板24には、図4に示すようにサーミスタ25、保護回路26及び外部機器への通電用端子27が搭載されている。なお、組電池23と対向する保護回路基板24の面には組電池23の配線と不要な接続を回避するために絶縁板(図示せず)が取り付けられている。
【0085】
正極側リード28は、組電池23の最下層に位置する正極端子7に接続され、その先端はプリント配線基板24の正極側コネクタ29に挿入されて電気的に接続されている。負極側リード30は、組電池23の最上層に位置する負極端子6に接続され、その先端はプリント配線基板24の負極側コネクタ31に挿入されて電気的に接続されている。これらのコネクタ29、31は、プリント配線基板24に形成された配線32、33を通して保護回路26に接続されている。
【0086】
サーミスタ25は、単電池21の温度を検出するために用いられ、その検出信号は保護回路26に送信される。保護回路26は、所定の条件で保護回路26と外部機器への通電用端子27との間のプラス側配線34a及びマイナス側配線34bを遮断できる。所定の条件とは、例えばサーミスタ25の検出温度が所定温度以上になったときである。また、所定の条件とは単電池21の過充電、過放電、過電流等を検出したときである。この過充電等の検出は、個々の単電池21もしくは単電池21全体について行われる。個々の単電池21を検出する場合、電池電圧を検出してもよいし、正極電位もしくは負極電位を検出してもよい。後者の場合、個々の単電池21中に参照極として用いるリチウム電極が挿入される。図4及び図5の場合、単電池21それぞれに電圧検出のための配線35を接続し、これら配線35を通して検出信号が保護回路26に送信される。
【0087】
正極端子7及び負極端子6が突出する側面を除く組電池23の三側面には、ゴムもしくは樹脂から構成される保護シート36がそれぞれ配置されている。
【0088】
組電池23は、各保護シート36及びプリント配線基板24と共に収納容器37内に収納される。すなわち、収納容器37の長辺方向の両方の内側面と短辺方向の内側面それぞれに保護シート36が配置され、短辺方向の反対側の内側面にプリント配線基板24が配置される。組電池23は、保護シート36及びプリント配線基板24で囲まれた空間内に位置する。蓋38は、収納容器37の上面に取り付けられている。
【0089】
なお、組電池23の固定には粘着テープ22に代えて、熱収縮テープを用いてもよい。この場合、組電池の両側面に保護シートを配置し、熱収縮テープを周回させた後、熱収縮テープを熱収縮させて組電池を結束させる。
【0090】
図3、図4では単電池21を直列接続した形態を示したが、電池容量を増大させるためには並列に接続しても、または直列接続と並列接続を組み合わせてもよい。組み上がった電池パックをさらに直列、並列に接続することもできる。
【0091】
以上記載した本実施形態によれば、上記第2実施形態における優れた充放電サイクル性能を有する非水電解質二次電池を備えることにより、優れた充放電サイクル性能を有する電池パックを提供することができる。
【0092】
なお、電池パックの態様は用途により適宜変更される。電池パックの用途は、大電流を取り出したときに優れたサイクル特性を示すものが好ましい。具体的には、デジタルカメラの電源用や、二輪乃至四輪のハイブリッド電気自動車、二輪乃至四輪の電気自動車、アシスト自転車等の車載用が挙げられる。特に、高温特性の優れた非水電解質二次電池を用いた電池パックは車載用に好適に用いられる。
【実施例】
【0093】
以下に具体的な実施例(各実施例で説明する夫々の条件で図1で説明した電池を具体的に作成した例)を挙げ、その効果について述べる。但し、これらの実施例に限定されるものではない。
【0094】
(実施例1)
次のような条件でSiOの粉砕、混練および複合体の形成、Arガス中での焼成を行い負極活物質を得た。
【0095】
SiOの粉砕は次のように行った。原料SiO粉を連続式ビーズミル装置にてビーズ径0.5μmのビーズを用いエタノールを分散媒として所定の時間、粉砕処理を行った。さらにこのSiO粉末を遊星ボールミルで0.1μmボールを用いてエタノールを分散媒として粉砕を行い粉砕しSiO微粉末を作製した。
【0096】
微粉砕処理により得られたSiO微粉末、6μmの黒鉛粉末を、次のような方法でハードカーボンと複合化した。フルフリルアルコール4.0gとエタノール10gと水0.125gの混合液にSiO粉末を2.8g、黒鉛粉末を0.7、平均直径180nmの炭素繊維0.06gを加え混練機にて混練処理しスラリー状とした。混錬後のスラリーにフルフリルアルコールの重合触媒となる希塩酸を0.2g加え室温で放置し乾燥、固化して炭素複合体を得た。
【0097】
得られた炭素複合体を1050℃で3h、Arガス中にて焼成し、室温まで冷却後、粉砕し30μm径のふるいをかけて負極活物質を得た。
【0098】
実施例1において得られた活物質について、以下に説明する充放電試験、円筒型セル(図1)による充放電試験、X線回折測定を行い、充放電特性および物性を評価した。
【0099】
(充放電試験)
得られた試料に平均径6μmのグラファイト15質量%、ポリイミド8質量%を分散媒としてN-メチルピロリドンを用いて混練し厚さ12μmの銅箔上に塗布して圧延した後、250℃で2時間、Arガス中にて熱処理し、所定のサイズに裁断した後、100℃で12時間、真空乾燥し、試験電極とした。対極および参照極を金属Li、電解液をLiPF(1M)のEC・DEC(体積比EC:DEC=1:2)溶液とした電池をアルゴン雰囲気中で作製し充放電試験を行った。充放電試験の条件は、参照極と試験電極間の電位差0.01Vまで1mA/cmの電流密度で充電、さらに0.01Vで16時間の定電圧充電を行い、放電は1mA/cmの電流密度で1.5Vまで行った。さらに、参照極と試験電極間の電位差0.01Vまで1mA/cmの電流密度で充電、1mA/cmの電流密度で1.5Vまで放電するサイクルを100回行い、1サイクル目に対する100サイクル目の放電容量の維持率を測定した。
【0100】
(X線回折測定)
得られた粉末試料について粉末X線回折測定を行い、Si(220)面のピークの半値幅を測定した。測定は株式会社マック・サイエンス社製X線回折測定装置(型式M18XHF22)を用い、以下の条件で行った。
【0101】
対陰極:Cu
管電圧:50kv
管電流:300mA
走査速度:1°(2θ)/min
時定数:1sec
受光スリット:0.15mm
発散スリット:0.5°
散乱スリット:0.5°
回折パターンより、d=1.92Å(2θ=47.2°)に現れるSiの面指数(220)のピークの半値幅(2θ)を測定した。また、Si(220)のピークが活物質中に含有される他の物質のピークと重なりをもつ場合には、ピークを単離し半値幅を測定した。
【0102】
表1に分散した金属およびリチウムシリケート、焼成の際の質量変化および原料の仕込み組成から算出した分散量(質量%)、充放電試験における放電容量、電流密度1mA/cmの際の容量に対する10mA/cm際の容量維持率、粉末X線回折から得たSi(220)ピークの半値幅測定結果を示す。
【0103】
(シリコン酸化物相の平均サイズ測定)
合成した焼成後の複合体試料について、断面の電子顕微鏡写真を撮影した。撮影した画像イメージをSEM画像分析ソフトウェア(株式会社マウンテック社製Mac-View(商標))により、分析し粒径分布データを得た。得られた粒径分布データより、平均サイズ(体積平均)、(d84%−d16%)/2で定義される標準偏差、及び(標準偏差/平均サイズ)の値を算出した。
【0104】
以下の実施例と比較例に関しても表1にまとめた。以下の実施例および比較例については実施例1と異なる部分のみ説明し、その他の合成および評価手順については実施例1と同様に行ったので説明を省略する。
【0105】
(実施例2)
SiOの粉砕において、連続式ビーズミル後の遊星ボールミルの処理時間を2倍にした他は実施例1と同様に合成を行い、活物質を得た。
【0106】
(実施例3)
SiOの粉砕において、連続式ビーズミル後の遊星ボールミルの処理時間を4倍にした他は実施例1と同様に合成を行い、活物質を得た。
【0107】
(実施例4)
SiOの粉砕において連続式ビーズミルで2μmボールを用いてエタノールを分散媒として所定の時間粉砕を行い、遊星ボールミル処理は行わずにSiO微粉末を得た。
得られたSiO粉末2.8gと、フルフリルアルコール4.0gとエタノール10gと水0.125gの混合液にSiO粉末を2.8gとを実施例1と同様に混練した。
【0108】
乾燥固化および焼成・粉砕は実施例1と同様に行い、負極活物質を得た。
【0109】
(実施例5)
SiOの粉砕において、連続式ビーズミルの処理時間を2倍にした他は、実施例4と同様に合成を行い、活物質を得た。
【0110】
(実施例6)
SiOの粉砕において、連続式ビーズミル後の処理時間を4倍にした他は、実施例4と同様に合成を行い、活物質を得た。
【0111】
(実施例7)
焼成温度および処理時間を920℃、8時間とした他は実施例1と同様に合成を行い、活物質を得た。
【0112】
(実施例8)
焼成温度および処理時間を920℃、8時間とした他は実施例2と同様に合成を行い、活物質を得た。
【0113】
(実施例9)
焼成温度および処理時間を920℃、8時間とした他は実施例3と同様に合成を行い、活物質を得た。
【0114】
(実施例10)
焼成温度および処理時間を920℃、8時間とした他は実施例4と同様に合成を行い、活物質を得た。
【0115】
(実施例11)
焼成温度および処理時間を920℃、8時間とした他は実施例5と同様に合成を行い、活物質を得た。
【0116】
(実施例12)
焼成温度および処理時間を920℃、8時間とした他は実施例6と同様に合成を行い、活物質を得た。
【0117】
(実施例13)
SiOの粉砕において連続式ビーズミルで0.3μmボールを用いてエタノールを分散媒として粉砕を行い粉砕した。
得られたSiO微粉末2.8gと、黒鉛粉末を0.7gとを、フルフリルアルコール4.0gとエタノール10gと水0.125gの混合液に実施例1と同様に混練し、希塩酸を加え乾燥、固化した。
【0118】
焼成温度を1050℃とした他は実施例1と焼成、粉砕を行い、活物質を得た。
【0119】
(実施例14)
SiOの粉砕において連続式ビーズミルで0.3μmボールを用いてエタノールを分散媒として粉砕を行い粉砕した。
得られたSiO微粉末2.8gと、黒鉛粉末を0.7g、平均直径180nmの炭素繊維0.03gとを、フルフリルアルコール4.0gとエタノール10gと水0.125gの混合液に実施例1と同様に混練し、希塩酸を加え乾燥、固化した。
【0120】
焼成温度を1050℃とした他は実施例1と焼成、粉砕を行い、活物質を得た。
【0121】
(実施例15)
SiOの粉砕において連続ビーズミルで0.3μmボールを用いてエタノールを分散媒として粉砕を行い粉砕した。
【0122】
得られたSiO微粉末2.8gと、黒鉛粉末を0.7g、平均直径180nmの炭素繊維0.06gとを、フルフリルアルコール4.0gとエタノール10gと水0.125gの混合液に実施例1と同様に混練し、希塩酸を加え乾燥、固化した。
【0123】
焼成温度を1050℃とした他は実施例1と焼成、粉砕を行い、活物質を得た。
【0124】
(実施例16)
SiOの粉砕において連続式ビーズミルで0.3μmボールを用いてエタノールを分散媒として粉砕を行い粉砕した。
【0125】
得られたSiO微粉末2.8gと、黒鉛粉末を0.7g、平均直径180nmの炭素繊維0.18gとを、フルフリルアルコール4.0gとエタノール12gと水0.125gの混合液に実施例1と同様に混練し、希塩酸を加え乾燥、固化した。
【0126】
焼成温度を1050℃とした他は実施例1と焼成、粉砕を行い、活物質を得た。
【0127】
(実施例17)
SiOの粉砕において連続式ビーズミルで0.3μmボールを用いてエタノールを分散媒として粉砕を行い粉砕した。
【0128】
得られたSiO微粉末2.8gと、黒鉛粉末を0.7g、平均直径180nmの炭素繊維0.36gとを、フルフリルアルコール4.0gとエタノール12gと水0.125gの混合液に実施例1と同様に混練し、希塩酸を加え乾燥、固化した。
【0129】
焼成温度を1050℃とした他は実施例1と焼成、粉砕を行い活物質を得た。
【0130】
(実施例18)
SiOの粉砕において連続式ビーズミルで0.3μmボールを用いてエタノールを分散媒として粉砕を行い粉砕した。
【0131】
得られたSiO微粉末2.8gと、黒鉛粉末を0.2g、平均直径180nmの炭素繊維0.36gとを、フルフリルアルコール2.8gとエタノール12gと水0.125gの混合液に実施例1と同様に混練し、希塩酸を加え乾燥、固化した。
【0132】
焼成温度を1050℃とした他は実施例1と焼成、粉砕を行い活物質を得た。
【0133】
(比較例1)
焼成温度および処理時間を1200℃、3時間とした他は実施例1と同様に合成を行い、活物質を得た。
【0134】
(比較例2)
焼成温度および処理時間を1250℃、3時間とした他は実施例4と同様に合成を行い、活物質を得た。
【0135】
(比較例3)
焼成温度および処理時間を880℃、8時間とした他は実施例1と同様に合成を行い、活物質を得た。
【0136】
(比較例4)
焼成温度および処理時間を880℃、8時間とした他は実施例4と同様に合成を行い、活物質を得た。
【0137】
(比較例5)
SiOの粉砕において、連続式ビーズミル後の遊星ボールミルの処理時間を8倍にした他は実施例1と同様に合成を行い活物質を得た。
【0138】
(比較例6)
SiOの粉砕において、連続式ビーズミルの処理時間を70%にした他は、実施例4と同様に合成を行い、活物質を得た。
【0139】
(比較例7)
SiOの粉砕において遊星ボールミルで2μmボールを用いてエタノールを分散媒として所定の時間粉砕を行い、SiO微粉末を得た他は、実施例4と同様に合成を行い活物質を得た。
【0140】
(比較例8)
焼成温度および処理時間を920℃、8時間とした他は比較例7と同様に合成を行い、活物質を得た。
【0141】
(比較例9)
原料には平均粒径30μmの非晶質SiO粉末および平均粒径6μmの黒鉛粉を用意し、ボールミル(FRITSCH社製型番P−5)を用いて、粉砕混合を行った。 ボールミルの際には容積が250mlのステンレス製容器と10mmφのボールを用いた。試料の投入量は20gとしSiOと黒鉛の混合比は3:1とした。また、炭素材料前駆体としてフルフリルアルコールを用意した。混合比は、質量比でSiO:グラファイト:フルフリルアルコールを3:1:10とした。フルフリルアルコールに対してその1/10質量の水を加えグラファイト、次いでSiOを加えて撹拌した。その後、希塩酸をフルフリルアルコールの1/10質量加え、撹拌後に放置し重合固化させた。
【0142】
得られた固形物を表1に示す焼成温度と焼成時間でArガス中にて焼成し、室温まで冷却後、粉砕機により粉砕し30μm径のふるいをかけて負極活物質を得た。
【表1】

【0143】
表1から明らかなように、Si(220)面の半値幅が1.5°〜8°で、シリコン酸化物相の平均サイズが50nm以上、1000nm以下であり、かつ前記シリコン酸化物相のサイズの分布が(d84%−d16%)/2で定義される標準偏差において、(標準偏差/平均サイズ)の値が1.0以下を示す実施例1〜18の負極活物質を備えた二次電池は、放電容量と100サイクル目の容量維持率の双方が優れていることが理解できる。
【0144】
これに対し、Si(220)面の半値幅が1.5°未満または8°を超える比較例1〜4の負極活物質、および、シリコン酸化物相の平均サイズが50nm未満、1000nmを超える比較例5〜6、9の負極活物質、更に、シリコン酸化物相のサイズの分布が(標準偏差/平均サイズ)の値が1.0を超える比較例7〜8の負極活物質を備えた二次電池は、100サイクル目の容量維持率が実施例1〜16に比較して小さくなった。
【0145】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はこれらに限られず、特許請求の範囲に記載の発明の要旨の範疇において様々に変更可能である。また、本発明は、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。さらに、上記実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成できる。
【符号の説明】
【0146】
1…捲回電極群、2…外装材、3…負極、4…セパレータ、5…正極、6…負極端子、7…正極端子、21…単電池、24…プリント配線基板、25…サーミスタ、26…保護回路、37…収納容器、100…非水電解質二次電池、200…電池パック。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素質物と、前記炭素質物中に分散されたシリコン酸化物と、前記シリコン酸化物中に分散されたシリコンとを有する複合体であり、粉末X線回折測定におけるSi(220)面の回折ピークの半値幅が1.5°以上、8.0°以下であり、かつ前記シリコン酸化物相の平均サイズが50nm以上、1000nm以下であり、かつ前記シリコン酸化物相のサイズの分布が(d84%−d16%)/2で定義される標準偏差において、(標準偏差/平均サイズ)の値が1.0以下を示すことを特徴とする非水電解質二次電池用負極活物質。
【請求項2】
前記シリコン酸化物相の平均サイズが100nm以上、500nm以下であり、サイズの分布が(d84%−d16%)/2で定義される標準偏差において(標準偏差/平均サイズ)の値が1.0以下を示すことを特徴とする請求項1の非水電解質二次電池用負極活物質。
【請求項3】
前記複合体が、平均直径1000nm以下の炭素繊維を複合体全体の質量に対して0.1質量%以上、8質量%以下含むことを特徴とする請求項1または2の非水電解質二次電池用負極活物質。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の負極活物質を含む負極と、
正極活物質を含む正極と、
非水電解質と、
を具備することを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項5】
ラミネートフィルム製の外装材をさらに備えることを特徴とする、請求項4に記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
請求項4または5に記載の非水電解質二次電池を一以上備えることを特徴とする電池パック。
【請求項7】
電気的に接続された複数の前記非水電解質電池を具備し、各非水電解質電池の電圧が検知可能な保護回路をさらに備えることを特徴とする、請求項6に記載の電池パック。
【請求項8】
平均粒径が50nm以上、500nm以下のSiO粉末と炭素前駆体または炭素質物を分散媒を用いた液相中で混合し、乾燥・固化後に焼成することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−73764(P2013−73764A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211658(P2011−211658)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】