説明

非水電解質二次電池

【課題】高容量でサイクル特性に優れた非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】負極芯体上に、負極活物質と結着剤とを有する負極活物質層が形成された負極を備える非水電解質二次電池において、前記負極活物質は、ケイ素粒子及び/又はケイ素合金粒子を含み、前記結着剤は、下記化1で示される、重量平均分子量が1万〜20万のポリイミド樹脂と、重量平均分子量が50万〜100万のポリフッ化ビニリデンと、を含み、前記負極活物質層中の前記ポリイミド樹脂の質量配合比率が、5〜10質量%であり、前記負極活物質層中の前記ポリフッ化ビニリデンの質量配合比率が、0.25〜2質量%であることを特徴とする。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノートパソコン等の移動情報端末の高機能化・小型化および軽量化が急速に進展している。これらの端末の駆動電源として、高いエネルギー密度を有し、高容量であるリチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池が広く利用されている。また、非水電解質二次電池は、ハイブリッド型電気自動車や電気自動車等の電池駆動自動車の駆動電源としても使用されるようになってきている。
【0003】
非水電解質二次電池の負極活物質としては、従来、天然黒鉛、人造黒鉛等の炭素材料が使用されていたが、炭素材料よりも高容量であるケイ素材料(ケイ素やケイ素合金)に対する注目が集まっている。しかしながら、ケイ素材料は、充放電に伴う体積変動が炭素材料よりも大きく、体積変動によってケイ素材料が負極から脱離したり、微粉化したりする。これにより、負極における集電性(電流の取り出し効率)が低下して、サイクル特性が低下するという問題があった。
【0004】
ここで、非水電解質電池に関する技術としては、下記特許文献1、2が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-238659号公報
【特許文献2】特開2002-75332号公報
【0006】
特許文献1は、負極バインダーに下記に示す構造のポリイミド樹脂を含ませ、このポリイミド樹脂における分子量の分布において、10万未満のものと、10万以上20万未満のものと、の重量比を50:50〜90:10とする技術である。この技術によると、負極内における集電性の低下を抑制し、特に初期充放電後の集電性の低下を抑制し、初期充放電効率、放電レート特性、及びサイクル特性を十分に向上させることができるとされる。
【0007】
【化1】

【0008】
特許文献2は、導電性金属箔を集電体とし、ケイ素及び/またはケイ素合金を含む活物質材料と、導電性金属粉末の混合物を、集電体の表面上で還元性雰囲気下に焼結してリチウム二次電池用負極を得る技術である。この技術によると、高い放電容量を得ることができ、かつ充放電サイクル特性に優れたリチウム二次電池用負極が得られるとされる。
【0009】
しかしながら、上記特許文献1、2にかかる技術では、ケイ素材料を用いた電池のサイクル特性を十分に高めることはできなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記に鑑みなされたものであって、負極活物質として高容量なケイ素材料を用いた非水電解質二次電池のサイクル特性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための非水電解質二次電池にかかる本発明は、次のように構成されている。
負極芯体上に、負極活物質と結着剤とを有する負極活物質層が形成された負極を備える非水電解質二次電池において、前記負極活物質は、ケイ素粒子及び/又はケイ素合金粒子を含み、前記結着剤は、下記化2で示される、重量平均分子量が1万〜20万のポリイミド樹脂と、重量平均分子量が50万〜100万のポリフッ化ビニリデンと、を含み、前記負極活物質層中の前記ポリイミド樹脂の質量配合比率が、5〜10質量%であり、前記負極活物質層中の前記ポリフッ化ビニリデンの質量配合比率が、0.25〜2質量%であることを特徴とする。
【化2】

【0012】
上記化2で示されるポリイミドは、ケイ素粒子やケイ素合金粒子(ケイ素材料粒子)との密着性が高いため、ケイ素材料粒子相互、及びケイ素材料粒子と負極芯体とを強固に結着することができる。しかしながら、結着剤にポリフッ化ビニリデンが含まれない場合、負極活物質粒子と結着剤と分散媒とを含むスラリーのチクソ性(攪拌等、物質が動かされている状態では低粘度(ゾル)、静止している状態では高粘度(ゲル)に変化する性質)が十分に得られない。このため、スラリーの分散状態が悪化し、芯体への塗工性が低下して、生産性が低下する。上記構成では、結着剤にポリイミドとポリフッ化ビニリデンとを含ませており、密着性に優れた負極を生産性高く製造できる。
【0013】
ここで、ポリイミドの含有量が過大であると、ポリイミドが負極活物質表面を過剰に被覆し、負極の導電性が阻害されて初期効率を低下させる。他方、ポリイミドの含有量が過少であると、負極の密着性が不十分となり、負極の集電性が低下して初期効率及び容量維持率を低下させる。このため、負極活物質層中のポリイミドの含有量は、5〜10質量%に規制する。
【0014】
また、ポリフッ化ビニリデン含有量が過少であると、十分なチクソ性が得られない。また、密着性を高めるためにイミド化のための熱処理を負極活物質層形成後に行う場合があるが、ポリフッ化ビニリデン含有量が過大であると、熱処理時におけるポリフッ化ビニリデンの分解量が増加し、分解生成物が負極の集電性を阻害するように作用する。このため、負極活物質層中のポリフッ化ビニリデン含有量は、0.25〜2質量%に規制する。
【0015】
また、ポリイミドの重量平均分子量が大きくなる(上記化2のnが大きくなる)に伴い、ポリイミドの分子鎖が長くなり、ポリイミドのケイ素粒子やケイ素合金粒子の結着様式が点状から線状に変化する。結着様式が点状でありすぎると、十分な結着力が得られないため、負極の導電性が低下して容量維持率が低下し、結着様式が線状でありすぎると、結着様式が負極活物質粒子を被覆して負極の導電性を阻害し、初期効率を低下させる。このため、上記化2で示されるポリイミドの重量平均分子量は、1万〜20万に規制する。
【0016】
また、ポリフッ化ビニリデンの重量平均分子量が大きすぎると、ポリフッ化ビニリデンの分散が悪化して良質な負極活物質スラリーの作製が困難となる。他方、ポリフッ化ビニリデンの重量平均分子量が小さすぎると、負極活物質スラリーの沈降性が悪化し、作製された負極内部の集電性が悪化して容量維持率が低下する。このため、ポリフッ化ビニリデンの重量平均分子量は、50万〜100万に規制する。
【0017】
以上のように、結着剤にポリイミドとポリフッ化ビニリデンとを含ませ、且つ、ポリイミド及びポリフッ化ビニリデンの重量平均分子量及び含有量を上記の如く規制することにより、塗工性と密着性とに優れた負極を実現でき、生産性を犠牲にすることなくケイ素材料粒子を用いた負極の集電性を高めることができる。これにより、高容量で且つサイクル特性や初期効率等の電池特性に優れた非水電解質二次電池を高い生産性で提供できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、生産性を犠牲にすることなく、ケイ素材料を活物質として用いた非水電解質二次電池の負極の密着性を高めることができ、これにより高容量でサイクル特性に優れた非水電解質二次電池を高い生産性で実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明を実施するための形態を、実施例を用いて詳細に説明する。
【実施例】
【0020】
(実施例1)
<正極の作製>
コバルト酸リチウム(LiCoO)と、導電剤としての炭素粉末と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、質量比95:2.5:2.5の割合で混合し、これらをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)と混合し、正極活物質スラリーを調製した。
【0021】
次に、ドクターブレードを用いて、帯状のアルミニウム箔(厚さが15μm)からなる正極芯体の両面に、この正極活物質スラリーを均一な厚みで塗布した。この極板を乾燥機内に通して、スラリー調製時に用いた有機溶媒(NMP)を除去し、乾燥極板を作製した。この乾燥極板を、ロールプレス機を用いて厚みが160μmとなるように圧延し、所定のサイズに裁断して、正極を得た。
【0022】
<負極活物質の準備>
ケイ素塊を粉砕・分級して得られた純度99.9%の多結晶ケイ素粉末(結晶子サイズ:32nm、平均粒径10μm)を作製した。なお、結晶子サイズは、粉末X線回折のケイ素の(111)ピークの半値幅を用いて、scherrerの式により算出し、平均粒径はレーザー回折法により求めた。
【0023】
<ポリイミド前駆体の準備>
下記化3に示す3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物と、下記化4に示すm−フェニレンジアミンとを重合させて、下記化5で示される熱可塑性ポリイミド樹脂の前駆体を作製した。ポリイミド前駆体は、溶媒としてのN−メチルピロリドンに溶解ないし分散されており、その濃度は、熱処理を行い前駆体をイミド化した後において47質量%となるようにした。
【0024】
【化3】

【0025】
【化4】

【0026】
【化5】

【0027】
ポリイミド前駆体の重量平均分子量を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定した。この値から、熱処理によるイミド化(脱水)時の重量減少率4.4質量%を差し引いて求めたところ、ポリイミド前駆体がイミド化されてなるポリイミドの重量平均分子量は、4万であった。
【0028】
<負極の作製>
上記ケイ素粉末と、平均粒径が3μmの黒鉛粉末と、を質量比97:3で混合し、この混合粉末と、上記ポリイミド前駆体溶液(前駆体ワニス)と、重量平均分子量が100万のポリフッ化ビニリデンと、を、固形分質量比(イミド化後における)が92.75:7:0.25の割合で混合し、負極活物質スラリーを調製した。また、スラリー中の固形分濃度は、52質量%とした。
【0029】
帯状の銅合金箔(厚さが12μm)の両面を、表面粗さRa(JIS B 0601−1994準拠)が0.25μmとなるように電解粗面化して負極芯体を得た。ドクターブレードを用いて、上記負極芯体の両面に、上記負極活物質スラリーを均一な厚さで塗布した。この極板を120℃の乾燥機内に通して、スラリー調製時に用いた有機溶媒を除去し、乾燥極板を作製した。その後、この乾燥極板を、ロールプレス機により厚みが145μmとなるように圧延し、所定のサイズに裁断した。
【0030】
こののち、アルゴン雰囲気下、350℃で10時間熱処理を行い、ポリアミド前駆体をイミド化させるとともに、イミド化の際の脱水で生じた水を揮発除去して、負極を得た。なお、表面粗さRaは、走査型レーザー顕微鏡を用いて測定した。
【0031】
<電極体の作製>
上記正極にアルミニウム製のリードを、上記負極にニッケル製のリードを、それぞれ溶接した。こののち、正極と負極とポリエチレン製微多孔膜からなるセパレータ(厚み22μm)とを重ね合わせ、巻き取り機により巻回し、絶縁性の巻き止めテープを設けて、巻回電極体を完成させた。
【0032】
<非水電解質の調製>
フルオロエチレンカーボネート(FEC)と、エチレンカーボネート(EC)と、ジエチルカーボネート(DEC)と、を体積比1:1:8の割合(1気圧、25℃と換算した場合における)で混合した非水溶媒に、電解質塩としてのLiPFを1.0M(モル/リットル)の割合で溶解して非水電解質となした。
【0033】
<電池の組み立て>
上記巻回電極体の上下面にそれぞれ絶縁板を配置し、有底円筒形の外装缶内に上記電極体を挿入し、正極リードを封口板に、負極リードを外装缶にそれぞれ溶接した。こののち、Arを満たしたグローボックス内で、上記非水電解質を外装缶内に注液した。こののち、封口板を絶縁ガスケットを用いてカシメ固定し、直径14mm、高さ43mmである実施例1に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0034】
(実施例2)
混合粉末と、前駆体ワニスと、重量平均分子量が100万のポリフッ化ビニリデンと、を、固形分質量比(イミド化後における)が92.5:7:0.5の割合で混合して負極活物質スラリーを得たこと以外は、上記実施例1と同様にして、実施例2に係る電池を作製した。
【0035】
(実施例3)
混合粉末と、前駆体ワニスと、重量平均分子量が100万のポリフッ化ビニリデンと、を、固形分質量比(イミド化後における)が91:7:2の割合で混合して負極活物質スラリーを得たこと以外は、上記実施例1と同様にして、実施例3に係る電池を作製した。
【0036】
(実施例4)
ポリフッ化ビニリデンの重量平均分子量を50万としたこと以外は、上記実施例2と同様にして、実施例4に係る電池を作製した。
【0037】
(実施例5)
混合粉末と、前駆体ワニスと、重量平均分子量が100万のポリフッ化ビニリデンと、を、固形分質量比(イミド化後における)が94.5:5:0.5の割合で混合して負極活物質スラリーを得たこと以外は、上記実施例1と同様にして、実施例5に係る電池を作製した。
【0038】
(実施例6)
混合粉末と、前駆体ワニスと、重量平均分子量が100万のポリフッ化ビニリデンと、を、固形分質量比(イミド化後における)が89.5:10:0.5の割合で混合して負極活物質スラリーを得たこと以外は、上記実施例1と同様にして、実施例6に係る電池を作製した。
【0039】
(実施例7)
ポリイミド前駆体の準備における重合条件(温度・濃度・反応時間等)を変化させて、イミド化後のポリイミドの重量平均分子量を1万としたこと以外は、上記実施例2と同様にして、実施例7に係る電池を作製した。
【0040】
(実施例8)
ポリイミド前駆体の準備における重合条件を変化させて、イミド化後のポリイミドの重量平均分子量を20万としたこと以外は、上記実施例2と同様にして、実施例8に係る電池を作製した。
【0041】
(比較例1)
混合粉末と、前駆体ワニスと、を、固形分質量比(イミド化後における)が93:7の割合で混合して負極活物質スラリーを得たこと以外は、上記実施例1と同様にして、比較例1に係る電池を作製した。
【0042】
(比較例2)
混合粉末と、前駆体ワニスと、重量平均分子量が100万のポリフッ化ビニリデンと、を、固形分質量比(イミド化後における)が90:7:3の割合で混合して負極活物質スラリーを得たこと以外は、上記実施例1と同様にして、比較例2に係る電池を作製した。
【0043】
(比較例3)
ポリフッ化ビニリデンの重量平均分子量を28万としたこと以外は、上記実施例2と同様にして、比較例3に係る電池を作製した。
【0044】
(比較例4)
ポリフッ化ビニリデンの重量平均分子量を200万としたこと以外は、上記実施例2と同様にして、負極活物質スラリーを調製したが、負極活物質スラリー中にスラリーを構成する固形物の凝集物が散見された。そのため、当該負極活物質スラリーを用いて作製した負極には凝集物由来の粒や筋が発生し、比較例4に係る電池を作製することができなかった。
【0045】
(比較例5)
混合粉末と、前駆体ワニスと、重量平均分子量が100万のポリフッ化ビニリデンと、を、固形分質量比(イミド化後における)が96.5:3:0.5の割合で混合して負極活物質スラリーを得たこと以外は、上記実施例1と同様にして、比較例5に係る電池を作製した。
【0046】
(比較例6)
混合粉末と、前駆体ワニスと、重量平均分子量が100万のポリフッ化ビニリデンと、を、固形分質量比(イミド化後における)が87.5:12:0.5の割合で混合して負極活物質スラリーを得たこと以外は、上記実施例1と同様にして、比較例6に係る電池を作製した。
【0047】
(比較例7)
ポリイミド前駆体の準備における重合条件を変化させて、イミド化後のポリイミドの重量平均分子量を5千としたこと以外は、上記実施例2と同様にして、比較例7に係る電池を作製した。
【0048】
(比較例8)
ポリイミド前駆体の準備における重合条件を変化させて、イミド化後のポリイミドの重量平均分子量を40万としたこと以外は、上記実施例2と同様にして、比較例8に係る電池を作製した。
【0049】
〔充放電サイクル試験、初期効率試験〕
上記のように作製した実施例1〜8、比較例1〜3、比較例5〜8の各電池を下記条件で充放電し、下記式により初期効率及び容量維持率を算出した。この結果を下記表1に示す。なお、この充放電は全て25℃条件で行った。
【0050】
充電:定電流450mAで電圧が4.2Vとなるまで、その後定電圧4.2Vで電流が50mAとなるまで
放電:定電流1000mAで電圧が3.0Vとなるまで
初期効率(%)=1サイクル目放電容量÷1サイクル目充電容量×100
容量維持率(%)=100サイクル目放電容量÷1サイクル目放電容量×100
【0051】
〔沈降性試験〕
上記のように調整した実施例1〜8、比較例1〜8の各負極活物質スラリーを試験管内に高さ5cmとなるように入れて、25℃雰囲気に24時間静置し、その後の上澄み層の高さを測定した。この結果を下記表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
上記表1から、ポリフッ化ビニリデンの含有量を変化させた実施例1〜3、比較例1,2では、ポリフッ化ビニリデンを用いていない比較例1の沈降性が2cmと、実施例1〜3、比較例2の0.8〜1.4cmよりも大きくなっていることが分かる。沈降性が大きくなるに伴い、スラリーの分散状態が悪くなるので、スラリーの塗工不良を招きやすくなり、歩留まりが悪化して製造コストを増大させてしまう。
【0054】
この理由は、ポリフッ化ビニリデンを加えることにより、スラリーのチクソ性(攪拌等、物質が動かされている状態では低粘度(ゾル)、静止している状態では高粘度(ゲル)に変化する性質)が付与されて、スラリーの分散状態が向上するためと考えられる。
【0055】
また、ポリフッ化ビニリデンを0.25〜2質量%含む実施例1〜3は、容量維持率が84〜89%と、ポリフッ化ビニリデンを3質量%含む比較例2の74%よりも優れていることが分かる。
【0056】
このことは、次のように考えられる。イミド化のための熱処理において、ポリフッ化ビニリデンの分解温度付近の高温環境にさらされているため、ポリフッ化ビニリデンが一部分解して、負極の導電性が低下する。ポリフッ化ビニリデンの分解量は、ポリフッ化ビニリデン含有量が増えるに伴い増加するので、容量維持率はポリフッ化ビニリデン含有量が増えるに伴い低下する。このため、負極活物質層中のポリフッ化ビニリデン含有量は、2質量%以下とする。
【0057】
また、ポリフッ化ビニリデンの重量平均分子量を変化させた実施例2,4、比較例3,4では、ポリフッ化ビニリデンの重量平均分子量が200万である比較例4では、スラリー中にスラリーを構成する固形物の凝集物が散見され、負極には凝集物由来の粒や筋が発生し、製品としての品質を満たす負極は作製できなかった。また、実施例2,4の容量維持率は87%,83%であり、比較例3の78%よりも高いことが分かった。
【0058】
このことは、次のように考えられる。ポリフッ化ビニリデンの重量平均分子量が大きすぎると、ポリフッ化ビニリデンの分散が悪化して良質な負極活物質スラリーの作製が困難となる。また、ポリフッ化ビニリデンの重量平均分子量が小さすぎると、負極活物質スラリーの沈降性が悪化し、作製された負極内部の導電性が悪化して容量維持率が低下する。このため、ポリフッ化ビニリデンの重量平均分子量は、50万〜100万とする。
【0059】
また、ポリイミドの含有量を変化させた実施例2,5,6、比較例5,6では、ポリイミドの含有量が5〜10質量%である実施例2,5,6では、初期効率が82.2〜83.3%、容量維持率が82〜88%と、ポリイミドの含有量が3質量%である比較例5の初期効率79.5%、容量維持率70%よりも初期効率及び容量維持率に優れており、ポリイミドの含有量が12質量%である比較例6の初期効率80.9%、容量維持率85%よりも初期効率に優れていることが分かる。
【0060】
このことは、次のように考えられる。ポリイミドの含有量が大きすぎると、ポリイミドが負極の導電性を阻害して初期効率を低下させる。また、ポリイミドの含有量が小さすぎると、負極の密着性が不十分となり、負極の導電性が低下して初期効率及び容量維持率を低下させる。このため、負極活物質層中のポリイミドの含有量は、5〜10質量%とする。
【0061】
また、ポリイミドの重量平均分子量を変化させた実施例2,7,8、比較例7,8では、ポリイミドの重量平均分子量が1万〜20万である実施例2,7,8では、初期効率が82.8〜83.5%、容量維持率が84〜87%と、ポリイミドの重量平均分子量が3質量%である比較例7の初期効率82.6%、容量維持率77%よりも容量維持率に優れており、ポリイミドの重量平均分子量が40万である比較例8の初期効率80.5%、容量維持率83%よりも初期効率に優れていることが分かる。
【0062】
このことは、次のように考えられる。ポリイミドの重量平均分子量が大きくなるに伴い、ポリイミドの負極活物質粒子の結着様式が点状から線状に変化する。結着様式が点状でありすぎると、十分な結着力が得られずに負極の導電性が低下して容量維持率が低下し、結着様式が線状でありすぎると、結着が負極活物質粒子を被覆して負極の導電性を阻害し、初期効率を低下させる。このため、ポリイミドの重量平均分子量は、1万〜20万とする。
【0063】
なお、ポリイミドを用いない場合、ケイ素材料粒子相互、及びケイ素材料粒子と負極芯体とを強固に結着することができない。結着剤に、重量平均分子量及び含有量が上記の如く規制されたポリイミド及びポリフッ化ビニリデンを含ませることにより、密着性に優れた負極を生産性高く製造できる。
【0064】
(追加事項)
正極活物質としては、リチウム遷移金属複合酸化物、オリビン構造を有するリチウム遷移金属リン酸化合物等を用いることが好ましい。リチウム遷移金属複合酸化物としては、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムニッケルコバルト複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、スピネル型リチウムマンガン複合酸化物や、これらの化合物に含まれる遷移金属元素の一部を他の金属元素(Zr,Mg,Ti,Al等)に置換した化合物が好ましい。また、オリビン構造を有するリチウム遷移金属リン酸化合物としては、リン酸鉄リチウムが好ましい。これらを単独で用いることができ、又は複数種混合して用いることもできる。
【0065】
負極活物質に用いるケイ素合金は、ケイ素と他の一種以上の金属との固溶体、ケイ素と他の一種以上の金属との金属間化合物、ケイ素と他の一種以上の金属との共晶合金を用いることができる。また、他の金属としては、マグネシウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛等を用いることができる。また、合金化方法は、公知の方法を用いることができる。
【0066】
また、ケイ素粒子やケイ素合金粒子の平均粒径は、5〜15μmであることが好ましい。
【0067】
また、ケイ素やケイ素合金は、導電性が低いため、負極活物質層には黒鉛や非晶質炭素等の炭素系導電剤を加えることが好ましい。ここで、炭素系導電剤の含有量が過少であると、十分な導電性が得られないおそれがあり、炭素系導電剤の含有量が過大であると、電池容量が低下してしまうおそれがある。このため、ケイ素材料と炭素系導電剤との質量混合比は、99:1〜90:10であることが好ましく、99:1〜95:5であることがより好ましい。また、炭素系導電剤の平均粒径は、2.5〜15μmであることが好ましい。
【0068】
なお、炭素系導電剤は、負極の導電性を高めるために添加されるが、リチウムイオンを吸蔵・脱離して負極活物質として作用することもあり得る。
【0069】
また、上記実施例では、スラリー塗布、圧延後にイミド化を行っているが、イミド化は圧延前やスラリー調整前等に行ってもよい。なお、ポリイミドよりもイミド化前のポリイミド前駆体のほうが有機溶剤との親和性が高いため、スラリー塗布後にイミド化を行うと、負極活物質層中に均一に結着剤を分散させることができる。また、厚み調整を容易化でき、イミド化によって向上した密着強度を維持し易いため、圧延後にイミド化を行うことが好ましい。
【0070】
また、イミド化の熱処理は、非酸化性雰囲気(還元雰囲気や不活性雰囲気)で行うことが好ましい。また、熱処理温度は、ポリイミドのガラス転移温度以上且つポリフッ化ビニリデンの分解温度以下が好ましく、具体的には300〜370℃であることが好ましい。処理時間は、1〜12時間であることが好ましい。
【0071】
非水溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状炭酸エステル類、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等のラクトン類、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジノルマルブチルカーボネート等の鎖状炭酸エステル類、ピバリン酸メチル、ピバリン酸エチル、メチルイソブチレート、メチルプロピオネート等のカルボン酸エステル類、1,2−ジメトキシエタン等の鎖状エーテル類、N,N’−ジメチルホルムアミド、N−メチルオキサゾリジノン等のアミド類、スルホラン等の含硫黄化合物等を一種又は複数種混合して用いることが好ましい。
【0072】
電解質塩としては、LiClO、LiCFSO、LiPF、LiBF、LiAsF、LiN(CFSO、LiN(CFCFSO等を一種又は複数種混合して用いることが好ましい。また、電解質塩の濃度は、0.5〜2.0M(モル/リットル)とすることが好ましい。
【0073】
セパレータ材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレンやこれらの複合材料等のポリオレフィンを用いることができる。また、厚みは10〜22μm、空孔率は30〜60%であることが好ましい。
【0074】
また、本発明をポリマー電解質二次電池に適用することもできる。ポリマー電解質としては、ゲル状ポリマー電解質が好ましい。また、ポリマー電解質に用いるポリマー成分としては、アルキレンオキシド系高分子や、ポリビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体のようなフッ素系高分子等が好ましい。
【0075】
また、負極芯体の表面粗さRaが小さすぎると、負極芯体表面の凹凸に結着剤が入り込み難くなって、アンカー効果が十分に発揮されなくなり、負極における集電性が低下する。他方、負極芯体表面の表面粗さRaが大きすぎると、逆に負極芯体表面の凹凸内への結着剤の入り込みが多過ぎになるため、負極活物質粒子間の結着剤量が減少し、密着性が低下する。よって、負極芯体の表面粗さRaは、0.2〜0.5μmとすることが好ましい。粗面化処理は、電解処理、サンドブラスト等、公知の方法を用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上説明したように、本発明によると、ケイ素材料を用いた負極の密着性及び製造時の塗工性を向上でき、これによりサイクル特性や初期効率に優れた高容量な非水電解質二次電池を高い生産性で提供できる。よって、産業上の利用可能性は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極芯体上に、負極活物質と結着剤とを有する負極活物質層が形成された負極を備える非水電解質二次電池において、
前記負極活物質は、ケイ素粒子及び/又はケイ素合金粒子を含み、
前記結着剤は、下記化1で示される、重量平均分子量が1万〜20万のポリイミド樹脂と、重量平均分子量が50万〜100万のポリフッ化ビニリデンと、を含み、
前記負極活物質層中の前記ポリイミド樹脂の質量配合比率が、5〜10質量%であり、
前記負極活物質層中の前記ポリフッ化ビニリデンの質量配合比率が、0.25〜2質量%である、
ことを特徴とする非水電解質二次電池。
【化1】


【公開番号】特開2012−209219(P2012−209219A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75873(P2011−75873)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】