説明

非水電解質二次電池

【課題】充放電サイクルの繰り返しによる出力特性の低下を抑制しうる非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】集電体に複数の合剤層が積層された負極板とし、集電体から最も離れた電極表面に配された合剤層が、海島状に分散して形成されており、該海島状合剤層にはd002が3.43Å以上である非晶質炭素が含まれていることを特徴とする。上記構成の負電極により、高温環境下での充放電サイクルによる出力特性の低下を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非水電解質二次電池に関するものであり、詳しくは、非水電解質二次電池の負極板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池などの非水電解質二次電池は、鉛蓄電池やアルカリ蓄電池など他の二次電池と比較して、高いエネルギー密度を有することから、携帯電話などポータブル機器の電源として広く使用されている。近年では、非水電解質二次電池を電気自動車など移動体の電源として用いるための研究開発が盛んにおこなわれている。
【0003】
上記のリチウムイオン二次電池では、正極活物質としてリチウムイオンの脱離挿入が可能なリチウムと遷移金属とを含む複合酸化物やポリアニオン化合物が、負極活物質としてリチウムの脱離挿入が可能な炭素材料が一般的に使用されている。非水電解液としては、エチレンカーボネートやプロピレンピレンカーボネート等の溶媒にLiPFなどの支持塩を溶解させたものが使用されている。
【0004】
上記のリチウムイオン二次電池を電気自動車など移動体の電源として用いる場合、熱安定性の観点から、マンガン又は鉄を含む正極活物質を使用することが適している。しかしながら、マンガン又は鉄を含む正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池が高温環境下で使用されると、正極活物質からマンガンイオン又は鉄イオンが非水電解液に溶出して、溶出した金属イオンが負極表面上に移動して高抵抗の皮膜を生成し、容量低下が大きくなる。
【0005】
この容量低下を抑制する方法として、特許文献1には、凹凸を有するローラーで負極板を圧延することにより負極板表面に凹凸を形成させて、非水電解液に溶出したマンガンイオンを選択的に負極板表面の凸部に堆積させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−176421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
負極板表面に凹凸を形成させて、凸部に溶出したイオンを選択的に堆積させた場合、充放電サイクルを繰り返すと前記凸部で皮膜が増長し、前記凸部のリチウムイオンの脱離挿入が阻害される。その結果、負極板全体の内部抵抗が増大し、出力特性が低下する。特に、金属イオンの溶出量は高温で多くなる傾向にあり、高温環境下で使用された非水電解質二次電池の出力特性の低下は顕著である。本発明は係る問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、高温環境下で充放電サイクルを繰り返した際の内部抵抗の増大、すなわち、出力特性の低下を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本出願の第一の発明は、集電体に複数の合剤層が積層された負極板を備えた非水電解質二次電池であって、表面に配された合剤層は分散して形成されており、前記表面に配された合剤層にd002が3.43Å以上である炭素が含まれていることを特徴とする。
ここで、「表面に配された合剤層」とは、積層された複数の合剤層のうち、負極板の表面に配された合剤層、すなわち、積層方向で集電体から最も離れた合剤層のことである。また、ここで、「分散して形成されており」とは、図1に示すように、表面に配された合剤層が個々に分離しており、その分離した合剤層どうしの間に、表面に配された合剤層の下(集電体側)に形成された合剤層が露出している状態のことである。
【0009】
本出願の第二の発明は、上記第一の発明に記載の非水電解質において、前記表面に配された合剤層の下に形成された合剤層の面積に対する、前記表面に配された合剤層の面積の割合が38〜65%であることを特徴とする。以下、表面に配された合剤層のことを「表面合剤層」といい、表面に配された合剤層の下(集電体側)に形成された合剤層のことを「下層合剤層」という。
【発明の効果】
【0010】
本出願の第一の発明によると、非水電解質二次電池において、高温環境下で充放電サイクルを繰り返した際の内部抵抗、すなわち、出力特性の低下を抑制することができる。また、本出願の第二の発明によると、下層合剤層の面積に対する表面層合剤の面積の割合を38〜65%とすることで、さらに、内部抵抗の増大を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る非水電解質電池の負極板の表面状態を示す。
【図2】本発明の実施形態に係る非水電解質二次電池の断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、以下に記載する説明は本発明の実施形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定されるものではない。
【0013】
本実施形態について図2を用いて説明する。図2に示す非水電解質二次電池は、正極板と負極板とがセパレータを介して巻回された発電要素を備え、発電要素は電池ケースに収納される。正極板は電池蓋と接続されており、負極板は負極端子と接続されており、電池蓋は電池ケースの開口部を塞ぐようにレーザー溶接によって取り付けられる。電池ケースには孔が設けられており、その孔を介して非水電解液を電池ケース内に注入し、非水電解液を注入した後の孔を封口することで非水電解質二次電池が得られる。
【0014】
本発明に係る非水電解質二次電池の負極板は、集電体に複数の合剤層が積層されており、下層合剤層の表面に表面合剤層が分散して形成されており、分散した個々の表面合剤層どうしの間に下層合剤層が露出しており、かつ、前記表面合剤層にd002が3.43Å以上である炭素が含まれている。集電体に積層される合剤層は、表面合剤層および下層合剤層のみとは限らず、集電体と下層合剤層との間に単数もしくは複数の合剤層を形成させてもよい。
【0015】
本発明に係る非水電解質二次電池の負極板は例えば以下の方法で作製される。まず、下層合剤層に含まれる負極活物質と結着剤とを所定の割合で混合し、粘度調整のためにNMPを追加して混練することで下層合剤層スラリーを作製する。この下層合剤層スラリーを銅箔などからなる集電体に塗布して乾燥することで下層合剤層のみが形成された負極板が得られる。次に、d002が3.43Å以上である炭素と結着剤とを所定の割合で混合し、粘度調整のためにNMPを追加して混錬することで表面合剤層スラリーを作製する。下層合剤層の表面に、表面合剤層の単位面積の質量が所定の値になるように表面合剤層スラリーを塗布して乾燥することで、図1に示すような、下層合剤層の表面に表面合剤層が分散して海島状に形成された負極板が得られる。表面合剤層を塗布した直後、表面合剤層は海島状に形成されていないが、乾燥して表面合剤層中のNMPを揮発させることで、d002が3.43Å以上である炭素と結着剤とが凝集して海島状の表面合剤層が形成される。
【0016】
上記の方法以外に、下層合剤層の表面に表面合剤層スラリーを噴霧もしくは垂下する方法がある。下層合剤層の表面に表面合剤層スラリーを噴霧もしくは垂下して後に乾燥してNMPを揮発させることで、表面合剤層が分散して海島状に形成された負極板が得られる。
【0017】
下層合剤層に含まれる負極活物質は炭素が好ましく、さらには、電池容量を大きくすることができるという観点から黒鉛が好ましい。黒鉛としては天然黒鉛や人造黒鉛などがあり、これらを単独もしくは混合して用いてもよい。下層合剤層に含まれる結着剤としてポリフッ化ビニリデンやスチレンブタジエンゴムなどが用いられる。
【0018】
表面合剤層に含まれるd002が3.43以上の炭素としては非晶質炭素が好ましく、非晶質炭素のなかでも易黒鉛化炭素又は難黒鉛化炭素が好ましい。ここで、易黒鉛炭素とは、3300K前後の高温処理により黒鉛に変換しうる非晶質炭素であり、難黒鉛化炭素とは、常圧下あるいは減圧下で3300K付近の超高温まで加熱しても黒鉛に変換し得ない非晶質炭素である。また、表面合剤層に含まれる結着剤として、下層合剤層と同様、ポリフッ化ビニリデンやスチレンブタジエンゴムなどが用いられる。
【0019】
炭素のd002の値はX線回折測定で求められる。d002は(002)面の格子面間隔の値であり、X線回折(CuKα線)の15〜30°(2θ)に最大強度が存在するピークの反射角度によって算出される。非晶質炭素の回折ピークはブロードであるため、上記ピークの最大強度を示す反射角度からd002の値を算出する。
【0020】
d002の値を求めるために炭素のX線回折測定をおこなう場合、粉末の状態で測定してもよいし、非水電解質二次電池から負極板を取り出し、極板の状態で測定してもよい。ただし、極板の状態でX線回折測定をおこなう場合、非水電解質二次電池が充電されると炭素の(002)面を示すピークが低角度側に推移するため、非水電解質二次電池を完全に放電した状態、つまり、充電深度が0%である状態で負極板を取り出す。充電状態が0%である負極板に含まれる炭素のd002の値と、粉末の炭素のd002の値とは同じである。
【0021】
本発明に係る非水電解質二次電池では、正極活物質から非水電解液に溶出した金属イオンが選択的に表面合剤層に堆積するので、溶出した金属イオンが下層合剤層に堆積して高抵抗の皮膜が生成するのを抑制することができると考えられる。また、分散した個々の表面合剤層どうしの間に下層合剤層が露出しているので、下層合剤層と非水電解液との接触面積を確保することができ、下層合剤層の表面が露出していない形態と比較して、下層合剤層に含まれる負極活物質へのリチウムイオンの脱離挿入に伴う抵抗を小さくすることができると考えられる。さらに、表面合剤層にd002が3.43Å以上である炭素を含有させることにより、高温環境下で充放電サイクルを繰り返した際に皮膜が増長するのを抑制することができ、その結果、負極板全体の内部抵抗の増大を抑制することができると考えられる。
【0022】
溶出した金属イオンを選択的に表面合剤層に堆積させて、かつ、下層合剤層と非水電解液との接触面積を確保するという観点から、下層合剤層の面積に対する表面合剤層の面積の割合を38〜65%にすることが好ましい。
【0023】
表面合剤層にd002が3.43Å以上である炭素が含まれていることで、高温環境下で充放電サイクルを繰り返した際の内部抵抗の増大が抑制される機構は定かではないが、以下のように推測される。d002が3.43Åより小さい炭素はリチウムイオンの脱離挿入に伴う体積の膨張収縮が大きく、充放電サイクルを繰り返すと炭素表面の皮膜が破壊され、その破壊された部分に新たな皮膜が生成することで皮膜が増長されて内部抵抗が増大すると考えられる。一方、d002が3.43Å以上である炭素は体積の膨張収縮が小さいので、充放電サイクルを繰り返しても炭素表面の被膜は破壊されにくく、皮膜の増長が小さいと考えられる。表面合剤層にd002が3.43Å以上である炭素が含まれると、表面合剤層での皮膜の増長が抑制されて、結果的に、充放電サイクルを繰り返した際の内部抵抗の増大、すなわち、出力特性の低下が抑制されると推測される。
【0024】
本発明に係る非水電解質二次電池の正極板に含有される正極活物質は、特に限定されるものではなく、種々の正極活物質を使用することができる。例えば、リチウムと遷移金属との複合酸化物であるLiMeOやLiMe(Meは少なくとも一種以上の遷移金属)、ポリアニオン化合物であるLiMePO(Meは少なくとも一種以上の遷移金属)などを単独で、もしくは混合して使用することができる。また、これら複合酸化物やポリアニオン化合物の遷移金属の一部をAl、Mg、Ca、Bで置換した化合物を用いることができる。
【0025】
特に、以下の一般式1で表されるマンガン酸リチウム、又は一般式2で表されるリン酸鉄リチウムを正極活物質として用いた非水電解質二次電池では、高温環境下で使用された際の金属イオンの溶出量が多く、他の正極活物質を用いた非水電解質二次電池と比較して負極板の内部抵抗の増大率が大きい。マンガン酸リチウム、又はリン酸鉄リチウムを含有する正極板を用いた非水電解質二次電池において本発明の効果が顕著となる。
【0026】
(一般式1)
LiMnM1(0.8≦a≦1.2、1.5≦b≦2.0、0≦c≦0.5、M1はMn以外の少なくとも一種以上の金属)
【0027】
(一般式2)
LiFeM2PO(0.8≦d≦1.2、0.8≦e≦1.1、0≦f≦0.3、M2はFe以外の少なくとも一種以上の金属)
【0028】
正極板には上記の正極活物質以外に、導電剤、結着等を含有させることができる。導電剤としては、アセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイトなどを用いることができる。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、スチレン−ブタジエンゴムなどを用いることができる。
【0029】
本発明に係る非水電解質二次電池の非水電解液は電解質塩を非水溶媒に溶解させたものを使用する。電解質塩としては、LiClO、LiPF、LiBF、LiAsF、LiCFCO、LiCF(CF、LiCF(C、LiCFSO、LiCFCFSO、LiCFCFCFSO、LiN(SOCF、LiN(SOCFCF、LiN(COCF、LiN(COCFCF、LiPF(CFCF等が挙げられ、これら電解質塩を単独でもしくは二種以上混合して使用することができる。導電性の観点から電解質塩としてLiPFが好適であり、LiPFを電解質塩の主成分として、LiBFなどの他の電解質塩を混合して用いることもできる。
【0030】
非水電解質の非水溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、スルホラン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピレン酸メチル、プロピレン酸エチル、ジメチルスルホキシド、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、ジブチルカーボネートなどを用いることができる。これら非水溶媒は、非水電解液の導電性や粘度を調整するという観点から混合して用いることが好ましい。
【0031】
上記の化合物以外に、サイクル寿命特性の向上および電池の安全性の向上を目的として、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネートなどのカーボネート類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類、ベンゼン、トルエンなどの芳香族化合物、パーフルオロオクタンなどのハロゲン置換アルカン、ホウ酸トリストリメチルシリル、リン酸トリストリメチルシリル、チタン酸テトラキストリメチルシリルなどのシリルエステル類等を単独でまたは二種以上混合して非水電解質に加えることができる。
【0032】
セパレータは正極板と負極板とを電気的に隔離できるものであればよく、不織布、合成樹脂微多孔膜などを用いることができ、特に、加工性および耐久性の観点から合成樹脂微多孔膜が好適であり、なかでも、ポリエチレンおよびポリプロピレンからなるポリオレフィン系微多孔膜やこのポリオレフィン系微多孔膜の表面に無機化合物層を備えた多孔膜などを使用することができる。
【実施例】
【0033】
1.実施例1の電池の作製
(1)正極板の作製
正極活物質としてマンガン酸リチウムLi1.1Mn1.85Al0.05、導電助剤としてアセチレンブラックおよび結着剤としてポリフッ化ビニリデンを用い、マンガン酸リチウム、アセチレンブラックおよびポリフッ化ビニリデンの比率をそれぞれ90質量%、4質量%および6質量%とした混合物にNMPを適量加えて粘度を調整して正極合剤層スラリーを作製した。集電体である厚さ20μmのアルミニウム箔の両面に、片面の正極合剤層の塗布質量が2.45g/100cmになるように正極合剤層スラリーを塗布して乾燥することで、アルミニウム箔の両面に正極合剤層を形成した。ここで、正極合剤層の塗布質量とは、乾燥してNMPを揮発させた後の正極合剤層の単位面積あたりの質量のことである。次に、正極合剤層が所定の厚さになるように圧延し、真空乾燥をおこなうことで正極板を作製した。正極板には、正極端子と接合するための、正極合剤が塗布されていないアルミニウム箔が露出した部分(非塗布部)を設けた。
【0034】
(2)負極板の作製
(2−1)下層合剤層の形成
下層合剤層に含まれる負極活物質として人造黒鉛、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを用い、人造黒鉛およびポリフッ化ビニリデンの比率をそれぞれ94質量%および6質量%とした混合物にNMPを適量加えて粘度を調整して下層合剤層スラリーを作製した。集電体である厚さ15μmの銅箔の両面に、片面の下層合剤層の塗布質量が0.64g/100cmになるように、下層合剤層スラリーを塗布して乾燥することで、銅箔の両面に下層合剤層を形成した。
【0035】
(2−2)表面合剤層の形成
d002が3.83Åである難黒鉛化炭素および結着剤であるポリフッ化ビニリデンの比率をそれぞれ、94質量%および6質量%とした混合物にNMPを適量加えて粘度を調整して表面合剤層スラリーを作製した。
【0036】
両面に下層合剤層が形成された銅箔を塗布機にセットして、表面合剤層の塗布質量が0.16g/100cmになるように塗布機のギャップを調整して、下層合剤層の表面に表面合剤層スラリーを塗布して乾燥することで、下層合剤層の表面に表面合剤層を形成した。下層合剤層に含まれる黒鉛と表面合剤層に含まれる難黒鉛化炭素との質量比率が8:2になるように、表面合剤層の塗布質量を定めた。また、表面合剤層スラリーを塗布して乾燥させる際の乾燥温度を80〜130℃の範囲に設定することで、NMPの揮発速度が速まり表面合剤層が分離しやすくなる。
【0037】
次に、下層合剤層と表面合剤層とを含めた合剤層が所定の厚さになるように圧延し、真空乾燥を行うことで実施例1の負極板を作製した。実施例1の負極板の表面は表面合剤層が海島状に分散しており、分離した個々の表面合剤層の間に下層合剤層が露出した状態であった。負極板には、負極端子に接合するための、下層合剤層および表面合剤層が塗布されていない銅箔が露出した部分(非塗布部)を設けた。
【0038】
(3)未注液の非水電解質二次電池の作製
前記正極板と前記負極板との間に厚さ20μmのポリエチレン製微多孔膜からなるセパレータを介在させて、正極板と負極板とを巻回することにより発電要素を作製した。正極板の非塗布部と正極端子とを接合し、負極板の非塗布部と電池蓋に設けられた負極端子とを接合した後に、電池蓋を電池ケースの開口部に勘合させてレーザー溶接にて電池ケースと電池蓋とを接合することで、非水電解液が注入されていない非水電解質二次電池を作製した。
【0039】
(4)非水電解質二次電池の作製
エチレンカーボネート(EC):ジメチルカーボネート(DMC):エチルメチルカーボネート(EMC)=3:2:5(体積比)の混合溶媒にLiPFを1mol/Lの濃度で溶解させ、ビニレンカーボネートの質量が非水電解液の総質量に対して0.5質量%になるように、ビニレンカーボネートを添加して非水電解液を調製した。この非水電解液を電池ケースの側面に設けた注液口から電池ケース内部に注液した後に、注液口を栓で封口することで実施例1の電池を作製した。
【0040】
2.比較例1,2および実施例2,3の電池の作製
負極板の下層合剤層の塗布質量を0.80g/100cmとして、表面合剤層を下層合剤層の表面に塗布していないこと以外は実施例1の電池を同じ方法にて比較例1の電池を作製した。
【0041】
下層合剤層に含まれる人造黒鉛と表面合剤層に含まれる難黒鉛化炭素との質量比率がそれぞれ7:3、6:4になるように、下層合剤層の塗布質量をそれぞれ0.56、0.48g/100cm、表面合剤層の塗布重量をそれぞれ0.24、0.32g/100cmとしたこと以外は実施例1の電池と同じ方法にて実施例2および実施例3の電池を作製した。実施例2および実施例3の電池の負極板の表面は、表面合剤層が分離して分散した状態であった。なお、図1は、実施例2の電池の負極板の表面状態を示したものである。
【0042】
負極板の下層合剤層に含まれる黒鉛と表面合剤層に含まれる難黒鉛化炭素との質量比率が5:5になるように、下層合剤層の塗布質量を0.40g/100cm、表面合剤層の塗布重量を0.40g/100cmとしたこと以外は実施例1の電池と同じ方法にて比較例2の電池を作製した。比較例2の電池の負極板は、下層合剤層表面の全面に表面合剤層が塗布されており、下層合剤層が露出していない状態であった。これは、NMPを揮発させて難黒鉛化炭素と結着剤とが凝集しても、表面合剤層の塗布質量を0.40g/100cmとすることで、下層合剤層表面の全面を覆うのに十分な塗布質量に達したためと考えられる。
【0043】
3.実施例4〜7および比較例3、4の電池の作製
実施例1、実施例2および比較例2の電池のd002が3.83Åである難黒鉛化炭素を、d002が3.43Åの易黒鉛化炭素に代えたこと以外は実施例1の電池と同じ方法にて実施例4、実施例5および比較例3を作製した。
【0044】
実施例1および実施例2の電池のd002が3.83Åである難黒鉛化炭素を、d002が3.49Åの易黒鉛化炭素に代えたこと以外は実施例1の電池と同じ方法にて実施例6および実施例7を作製した。実施例4〜7の電池の負極板の表面は、実施例1の負極板のそれと同様、表面合剤層が分離して分散した状態であった。
【0045】
実施例2の電池のd002が3.83Åである難黒鉛化炭素を、d002が3.36Åである人造黒鉛に代えたこと以外は実施例1の電池と同じ方法にて比較例4を作製した。
【0046】
4.比較例5、6の電池の作製
人造黒鉛とd002が3.83Åである難黒鉛化炭素とを8:2の質量比率で混合したものを負極活物質として、前記負極活物質および結着剤であるポリフッ化ビニリデンを94質量%および6質量%とした混合物に、NMPを適量加えて粘度を調整して負極合剤層スラリーを作製した。厚さ15μmの銅箔の両面に、片面の負極合剤層の塗布質量が0.80g/100cmになるように、負極合剤層スラリーを塗布して乾燥することで、銅箔の両面に負極合剤層を形成した。次に、片面の負極合剤層が所定の厚さになるように圧延し、真空乾燥をおこなうことで比較例5の負極板を作製した。負極板以外は実施例1の電池と同じ方法にて比較例5の電池を作製した。
【0047】
人造黒鉛とd002が3.83Åである難黒鉛化炭素とを7:3の質量比率で混合したものを負極活物質とした以外は比較例5と同じ方法にて比較例6を作製した。比較例5および比較例6の電池の負極板は、単一の合剤層に人造黒鉛とd002が3.83Åである難黒鉛化炭素とを混在させた形態である。
【0048】
5.実施例8〜10および比較例7、8の電池の作製
正極活物質としてリン酸鉄リチウムLiFePO、導電助剤としてアセチレンブラックおよび結着剤としてポリフッ化ビニリデンを用い、リン酸鉄リチウム、アセチレンブラックおよびポリフッ化ビニリデンの比率をそれぞれ90質量%、5質量%および5質量%とした混合物にNMPを適量加えて粘度を調整して正極合剤層スラリーを作製した。厚さ20μmのアルミニウム箔の両面に、片面の正極合剤層の塗布質量が1.60g/100cmになるように正極合剤層スラリーを塗布して乾燥することで、アルミニウム箔の両面に正極合剤層を形成した。次に、正極合剤層が所定の厚さになるように圧延し、真空乾燥をおこなうことで実施例8の正極板を作製した。正極板以外は実施例1の電池と同じ方法にて実施例8の電池を作製した。
【0049】
正極板として実施例8の電池の正極板を、負極板としてそれぞれ実施例2、実施例3、比較例1および比較例2の電池の負極板を用いたこと以外は実施例1と同じ方法にて実施例9、実施例10、比較例7および比較例8の電池を作製した。
【0050】
実施例1〜7および比較例4の電池の負極板について、下層合剤層が形成された面積に対する表面合剤層が形成された面積の割合を算出した。各電池の負極板を拡大して撮影した写真を厚さが均一である用紙に印刷し、その用紙の表面合剤層の部分(図1における濃い部分)を切り取った。表面合剤層の部分を切り取る前の用紙の質量に対する、切り取った部分の用紙の合計の質量の割合を算出して、この割合を下層合剤層が形成された面積に対する表面合剤層が形成された面積の割合とした。この方法以外に、負極板を撮影した写真をパソコンに読み込み、色識別のソフトを用いて表面合剤層が形成された面積を算出してもよい。
【0051】
6.評価試験
(1)初期容量確認試験
実施例1〜7および比較例1〜6の各電池を用いて、以下の充放電条件にて初期放電容量確認試験をおこなった。25℃恒温漕内で500mA(1CA)の定電流で4.1Vまで充電し、さらに4.1Vで定電圧にて充電し、定電流充電および定電圧充電を含めて合計3時間充電した。10分間の休止を設けた後に、500mAの定電流にて2.75Vの放電終止電圧まで放電をおこない、この放電容量を実施例1〜7および比較例1〜6の電池の「初期放電容量」とした。
【0052】
実施例8〜10および比較例7、8の各電池を用いて、以下の充放電条件にて初期放電容量確認試験をおこなった。25℃恒温漕内で500mA(1CA)の定電流で3.6Vまで充電し、さらに3.6Vで定電圧にて充電し、定電流充電および定電圧充電を含めて合計3時間充電した。10分間の休止を設けた後に、500mAの定電流にて2.0Vの放電終止電圧まで放電をおこない、この放電容量を実施例8〜10および比較例7、8の電池の「初期放電容量」とした。
【0053】
(2)45℃サイクル寿命試験
初期容量確認試験後の各電池を用いて45℃サイクル寿命試験をおこなった。45℃の恒温漕内で、上記の初期容量確認試験と同じ充放電条件にて充放電を1000サイクル繰り返した。なお、充電後および放電後に10分間の休止を設けた。1000サイクル終了した電池を、25℃恒温漕内で初期容量確認試験と同じ充放電条件にて充放電をおこない、このときの放電容量を「サイクル後放電容量」とした。「サイクル後放電容量」を「初期放電容量」で除した値の百分率を「容量維持率」とした。
【0054】
(3)内部抵抗の算出
45℃サイクル寿命試験前の各電池について「初期放電容量」の半分の電気量を充電し、45℃サイクル寿命試験後の各電池について「サイクル後放電容量」の半分の電気量を充電することで、45℃サイクル寿命試験前後の各電池の充電深度を50%にした。25℃恒温漕内で、充電深度50%とした各電池の、100mA(I1)で10秒間放電したときの電圧(E1)、続いて200mA(I2)で10秒間放電したときの電圧(E2)をそれぞれ測定した。放電電流値I1、I2および測定した電圧E1、E2を用いて、直流抵抗値(Rx)を以下の式により算出した。45℃サイクル寿命試験後の直流抵抗値を45℃サイクル寿命試験前の直流抵抗値で除した値の百分率を「直流抵抗変化率」とした。
Rx=|(E1−E2)/放電電流(I1−I2)|
【0055】
7.考察
正極活物質にマンガン酸リチウムを用いた実施例1〜7および比較例1〜6の電池の、下層合剤層が形成された面積に対する表面合剤層が形成された面積の割合(以下、「表面合剤層の面積割合」という)、45℃1000サイクル後の容量維持率および45℃1000サイクル後の直流抵抗変化率を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
下層合剤層の表面に表面合剤層を形成していない比較例1、および下層合剤層表面の全面に表面層を形成した比較例2、比較例3と比較して、下層合剤層の表面に表面合剤層を分散して形成させた実施例1〜7の直流抵抗変化率は小さく、サイクルを繰り返した際の直流抵抗の増大を抑制することができた。特に、表面層の面積割合を38%〜65%の範囲内にすることで、直流抵抗の増大を抑制する効果の大きいことがわかった。
【0058】
表面合剤層に含まれる炭素のd002が3.36Åである比較例4の電池では、直流抵抗の増大を抑制する効果はみられなかった。これは、表面合剤層に含まれる炭素の表面で、溶出した金属イオンに起因する皮膜が増長したためであると考えられる。また、比較例5および比較例6の電池では、容量維持率の低下および直流抵抗の増大が顕著であった。単一の合剤層にd002が3.83Åである難黒鉛化炭素と他の負極活物質とを混在させても直流抵抗の増大を抑制することはできず、実施例4〜7の電池の評価結果から、d002が3.43Å以上である炭素を表面合剤層に含有させることで直流抵抗の増大を抑制できることがわかった。
【0059】
正極活物質にリン酸リチウムを用いた実施例8〜10および比較例7、8の電池の、表面層の面積割合、容量維持率および直流抵抗変化率を表2に示す。
【0060】
【表2】

【0061】
正極活物質にリン酸鉄リチウムを用いた電池でも、マンガン酸リチウムを用いた電池と同様、下層合剤層の表面に表面合剤層を分散して形成させた実施例8〜10の直流抵抗変化率は小さく、サイクルを繰り返した際の直流抵抗の増大を抑制することができた。
【0062】
以上の結果から、下層合剤層の表面に表面合剤層を分散して形成させて、表面合剤層にd002が3.43Å以上の炭素を含有させることで、サイクルを繰り返した後の直流抵抗の増大を抑制できることがわかった。
【符号の説明】
【0063】
1…非水電解質二次電池
2…発電要素
3…正極板
4…負極板
5…セパレータ
6…電池ケース
7…電池蓋
9…負極端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体に複数の合剤層が積層された負極板を備えた非水電解質二次電池であって、表面に配された合剤層は分散して形成されており、前記表面に配された合剤層にd002が3.43Å以上である炭素が含まれていることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記表面に配された合剤層の下に形成された合剤層の面積に対する、前記表面に配された合剤層の面積の割合が38〜65%であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−79566(P2012−79566A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224465(P2010−224465)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【出願人】(507151526)株式会社GSユアサ (375)
【Fターム(参考)】