説明

非熱処理ジルコニウム合金燃料被覆及びその製造方法

【課題】 本明細書には、ジルコニウム基合金を開示する。
【解決手段】 ジルコニウム基合金を製造して、最終段階α+β又はβ−焼入れ処理を必要とせずに十分な耐食性及び水素吸収特性を示す燃料被覆チューブを形成する。ジルコニウム基合金は、鉄、クロム及びニッケルの合計含量が該合金の少なくとも約0.3175重量%を含む状態で、約1.30〜1.60重量%の錫、0.0975〜0.15重量%のクロム、0.16〜0.24重量%の鉄及び最大約0.08重量%のニッケルを含む。得られた構成部品は、一般的に加工物処理を押出し成形については680°C以下の温度にまた他の全ての作業については625°C以下の温度に制限した状態で、約50〜100nmの析出物平均サイズを有する表面領域と約2×10−19時間よりも小さいシグマAとを示し、従来型の合金に匹敵する耐食性を得ながら原子炉構成部品の製造を簡素化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジルコニウム合金に関し、具体的には原子炉燃料被覆用途に用いるジルコニウム合金に関し、より具体的には従来型の後段階熱処理を必要とせずに製造したジルコニウム合金燃料被覆に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉は、発電、研究及び推進力に使用される。原子炉圧力容器は、炉心から熱を除去する原子炉冷却材すなわち水を収容する。配管回路は、圧力容器から加熱水又は蒸気を蒸気発生器又はタービンに搬送し、また循環水又は給水を圧力容器に還流又は供給するために使用される。原子炉圧力容器の典型的な運転圧力及び温度は、BWR(沸騰水型原子炉)の場合には約7MPa及び288°Cであり、PWR(加圧水型原子炉)の場合には約15MPa及び320°Cである。従って、これらのそれぞれの環境で使用する材料は、原子炉がその長時間運転の間に受けることになる様々な負荷、環境(高温水、酸化性化学種、ラジカル等)及び放射線条件に耐えるように調製されかつ/又は製造されなければならない。
【0003】
BWR及びPWRは一般的に、減速材/冷却材系統、すなわちPWRにおける水並びにBWRにおける蒸気及び/又は水から核燃料を分離するために、金属又は合金の1つ又はそれ以上の層を備えた被覆(クラッディング)内に密封された核燃料を含む。被覆は、1つ又はそれ以上の合金化元素を含むジルコニウム基合金の少なくとも1つの層を含み、またジルコニウム合金の第2の層を含むことができる。被覆はまた、合金化元素としてスポンジジルコニウム又は約0.5重量%よりも少ない少量の鉄又は他の元素を含む希薄ジルコニウム合金の内側ライニングを有する複合システムを使用することができる。一般的に、被覆は、チューブとして構成され、このチューブ内に核燃料のペレットが該被覆チューブの長さ全体を実質的に満たすように積重ねられることになる。次いでチューブは、集合体として配列され、複数の集合体が炉心を形成するように配置されることになる。
【0004】
正常運転条件においては、ジルコニウム基合金は、それらの比較的小さい中性子吸収断面積と、約398°C以下の温度でのそれらの強度、延性、安定性、及び脱塩水又は蒸気の存在下での非反応性とにより、核燃料被覆材料として有用である。「ジルカロイ」は、広く使用される一群の市販の耐食性ジルコニウム基合金被覆材料であって、この材料は、97〜99重量%のジルコニウムを含み、残部は、錫、鉄、クロム、ニッケル及び酸素のうちの幾つか又は全てと、少量の炭素、ケイ素及び他の不可避的不純物との混合物である。2つの特定の合金組成物、具体的にはジルカロイ−2及びジルカロイ−4が被覆を製造するために広く使用されるが、ジルカロイ−2は、BWR用途においてより普通に利用される組成物である。
【0005】
ジルカロイ−2は、ジルコニウムに加え、約1.2〜1.7重量%のSn、0.07〜0.20重量%のFe、0.05〜0.15重量%のCr及び0.03〜0.08重量%のNiを含む。一方、ジルカロイ−4は、ジルカロイ−2に存在する他の合金化元素の類似の量を含むが、実質的にNiを含まず、約0.18〜0.24重量%のFe濃度を有する。
【0006】
錫は、ジルコニウム基合金の強度及び耐食性を向上させるのに有用である。0.5重量%よりも少ない錫を含有するジルコニウム合金は十分な強度を備えない傾向にあるが、2重量%よりも多い錫を含有する合金は、低い耐食性を示す傾向にある。ニッケルは、ジルコニウム合金に向上した耐食性を与えるのに有用である。ニッケルを約0.03よりも少ない重量%で加えた場合、耐食性における向上は不十分であるが、0.2よりも多い重量%を含有する合金は、低い水素吸収特性を示す傾向にある。ニッケルと同様に、クロムは、ジルコニウム合金に向上した耐食性を与えるのに有用である。合金に加えられるクロムの量は、Zr(Fe,Ni)及びZr(Fe,Cr)型析出物の相対比率に影響し、そのことは次に該合金の耐食性及び水素吸収特性に影響する。さらに、鉄は耐食性を高めるのに使用することができるが、約0.6重量%よりも多い鉄を含む合金は、加工性、特に延性の低下を示す傾向にあり、そのためこの点において鉄の有用性は限定される。
【0007】
普通の条件ではジルコニウムに比較的不溶であるこれらの合金化元素の存在により、一般的に、合金化元素がそれらの溶解限界値を越えた濃度で存在している場合に、α相ジルコニウム・マトリクス内にインターメタリック二次相粒子(SPP)「析出物」の形成が生じることになる。例えば、ジルカロイ内で最も普通に見られる析出物は、一般的に化学式Zr(Fe,Cr)及びZr(Fe,Ni)によって表すことができる。
【0008】
種々の処理組成物又はパッケージを含むことができる典型的には脱塩水である冷却材は一般的に、燃料要素の間に及び/又は燃料要素に沿って設けられた流路を通って流れて炉心から熱を除去することになる。被覆は、核燃料を冷却材から分離することによって、ある量の放射性燃料及び核分裂生成物が冷却材ストリームに入りかつ一次冷却系全体に拡がるのを防止又は低減する。割れ及び/又は腐食の何れによるものであっても被覆層の健全性の低下は、冷却材を汚染させる閉込め不良をもたらすおそれがある。
【0009】
合金の基本組成に加え、燃料被覆を製造する従来の方法は、溶体化熱処理方法を含み、この溶体化熱処理方法においては、合金がα+β又はβ相状態で存在しかつインターメタリック粒子が溶解した状態になる温度に合金を短時間加熱し、その後インターメタリック粒子の核が再発生しかつ成長できる温度まで合金を急冷する。このようなプロセスは、特許文献1、特許文献2及び特許文献3に記載されている。他の熱処理方法は、特許文献4、特許文献5及び特許文献6に記載されており、これらの特許の各々は、その全体が参考文献として本明細書に組入れられる。これらの特許は、処理パラメータ、特にミクロ構造因子により耐食性を制御することを主要目的とした熱処理条件の制御に焦点を当てている。これらの特許の欠けている主な点は、制限的な合金化学性質の制御の重要性を認識していないことにある。さらに、特許文献3の場合には、「シグマ−A」又は「Σ」パラメータの使用によって溶体化熱処理後の熱被曝を制御することに重点がおかれ、「シグマ−A」又は「Σ」パラメータは、製造中の蓄積熱被曝量の尺度であって、式(I)によって定められ、
A=Σtexp(Q/RT) (I)
式中、t及びTは、i番目の熱被曝の時間及び温度である(ここで、tはhour(時間)で表した時間であり、TはK(絶対温度)で表した温度あり、Qは活性化エネルギーであり、Rはガス定数であり、またQ/R=40000Kである)。
【0010】
しかしながら、溶体化処理温度及び急冷(焼入れ)速度のような加工パラメータにおける差異が、所定のシグマ−A値又は溶体化熱処理後条件でのSPPサイズに影響を与える可能性があるので、SPPサイズを制御するためのみのこのパラメータの使用は有効であるとは言えない。特定の合金組成に関する熱処理の適用が、特許文献7に詳細に記載されている。この場合には、異常に高くなった鉄及びニッケル濃度により、Zr(Fe,Ni)SSPサイズが100〜500nmになり、また特異なSn−Ni化合物が形成されることになる。
【0011】
被覆を改善するための努力が継続されてきたが、被覆、核燃料、放射線場及び冷却材間の相互作用の結果としての特に腐食及び水素吸収に関する被覆の性能は、依然としてBWRにおける関心のある問題でありかつメンテナンスの問題である。BWR運転に関連した継続している腐食問題の1つの型は、ノジュラー腐食であり、この腐食では、合金表面上の局所領域がレンズ状の腐食層を形成する。このノジュラー腐食は、運転時にBWR内で比較的急速に発生開始し、合金表面の継続的な放射線照射のもとで進行しかつ放射線照射によって悪化するおそれがある。ノジュラー腐食は一般的に、特許文献8に開示しているように、特に腐食性水質環境において、合金組成の調製と約40nmよりも小さいインターメタリック粒子サイズを生じる製造パラメータと平滑な表面仕上げとの巧妙な組合せによって、抑制することができる。
【0012】
しかしながら、約40nm以下のインターメタリック粒子サイズを用いる従来型の燃料被覆製造における1つの問題は、望ましい結果を得るために、後段階の溶体化熱処理及び急速冷却工程を行う必要があることである。このような工程は、複雑であり、特殊な装置、工程段階、工程制御及び品質検査作業を必要とする。このような工程の使用は、費用がかかる。
【0013】
この非効率性を克服するためには、後段階溶体化熱処理なしで燃料被覆を製造することが望ましい。このことは、後段階溶体化熱処理を除いては同様に製造した燃料被覆と比較したとき、平均インターメタリック粒子サイズが相対的に増大することになる。本発明によって定めた例示的な方法の場合、平均インターメタリック粒子サイズは、熱間押出しと多段階の冷間圧延及び熱的再結晶焼きなましを含む従来型の被覆製造方法に固有の結晶粒粗大化(オストワルト熟成)によって、一部制限された状態で約50nmよりも小さくなくかつ約100nmよりも大きくないものとなる。
【0014】
平均インターメタリック粒子サイズが増大することは次に、典型的な非腐食性水質環境内であっても、ノジュラー腐食に対する燃料被覆の感受性を増大させることになる。
【0015】
非熱処理被覆及び関連したインターメタリック粒子サイズの増大に伴う高いノジュラー腐食感受性のこのマイナス側面を克服するのを助けるためには、最大許容インターメタリック粒子平均サイズを制限しなければならない。ジルカロイ−2のような燃料被覆を開発している間に、この上限値は約100nmであると推定された。ジルカロイ−2のような燃料被覆についてのこれらの開発活動に基づいて、耐ノジュラー腐食性を最大にすることにおいて特定の合金組成が重要であることが見出された。耐食性を得ることにおける合金組成の重要性は、一般的に当業者には知られているが、非熱処理燃料被覆に必要な特定の閾値は、明確には知られていないだけでなく、明確に予測することもできなかった。
【0016】
後段階熱処理を用いる製造方法の非効率性に加えて、腐食に関連する熱処理被覆の別の問題は、原子炉内に存在する中性子照射場の影響のもとでのインターメタリック粒子の性状変化(成長)である。この環境において、中性子はインターメタリック粒子に衝突し、それらインターメタリック粒子を溶解及び/又は無定形化させる。単純な見方では、この過程の程度は、中性子エネルギーと、累積中性子束(フルエンス)と、初期粒子サイズ及び構造とに応じて決まる。約25nmの比較的小さい平均SSPサイズを有する構成部品は、BWR内の8.5×1025n/m(E>1MeV)の高速中性子フルエンスの範囲内で完全に溶解する可能性があり、これは、Zr合金構成部品における現在所望の寿命に関する限り半分よりも小さい。インターメタリック粒子は耐食性に影響するので、それら粒子の成長及び消失は、耐食性にマイナスの状態で影響を与えるおそれがある。
【0017】
さらに、構成部品の水素発生及び吸収(水素吸蔵)は直接的に腐食過程につながるので、SPP成長はまた、構成部品水素吸蔵にマイナスの状態で影響を与える可能性がある。腐食及び水素吸蔵に対するミクロ構造成長のそのようなマイナスの影響が当技術分野において書類に記載されているが、BWRにおける小径粒子燃料被覆の腐食に関する最近の本出願人らの経験は、本技術分野において特に影響のあるF.Garzarolliほかによって収集されかつ広く流布されたデータによって広められた従来の理解とは反対のものであった。このようなデータは、例えば非特許文献1に表されており、その内容はその全体が参考文献として本明細書に組入れられる。
【特許文献1】特開昭61−045699号
【特許文献2】特開昭63−058223号
【特許文献3】特許3172731号
【特許文献4】特開昭59−017124号
【特許文献5】特開昭58−207349号
【特許文献6】特開平07−090521号
【特許文献7】特開昭63−228442号
【特許文献8】米国特許出願10/935157号
【非特許文献1】Garzarolli,F.、Schmann,R.及びSteinberg,E.著の「沸騰水型原子炉(BWR)燃料要素のための腐食最適化ジルカロイ」、原子力工業におけるジルコニウム、第10回国際シンポジウム、ASTM STP1245、A.M.Garde及びE.R.Bradley編、1245、米国材料試験協会、フィラディルフィア、1994、709〜723頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
熱処理被覆は非熱処理燃料被覆よりも小さい粒子サイズを有する傾向になるので、熱処理燃料被覆は、非熱処理燃料被覆よりも比較的急速な粒子溶解に直面することになる。従って、本発明の非熱処理燃料被覆は、一般的にノジュラー腐食をより受けやすくなるが、構成部品の運転寿命内での後期照射段階において発生する可能性あるミクロ構造成長により生じる耐食性及び水素吸蔵性の変化を遅延させるある種の利点を有することができる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、原子炉、特にBWRでの使用に適したジルコニウム合金及びそのようなジルコニウム合金を含む被覆及び他の原子炉構成部品を製造する方法に関し、このジルコニウム合金は、原子炉内の非腐食性冷却材条件において高い耐食性及び低い水素吸収性を示し、被覆及び構成部品は、押出し加工後の後段階α+β又はβ熱処理なしで製造される。調製した組成のジルカロイ−2又はジルカロイ−4インゴットと、初期段階β−焼入れと、β−焼入れに続く制限的な熱被曝と、平滑な最終表面との使用により、従来型のα+β又はβ熱処理を必要としないが、依然として高燃焼原子炉用途での使用に適したレベルの耐食性及び水素吸収性を備えた構成部品が得られる。
【0020】
本発明による、原子炉構成部品を製造する例示的な方法は、例示的な合金を形成する組成範囲内に入る合金化金属の組合せを有するジルカロイ−2合金インゴットの調製を含むことになる。次に、ジルコニウムと選択した合金化金属の適切な量とを一緒に溶融して、インゴット全体にわたる組成均一性を向上させるための多段階溶融法を通常用いて合金インゴットを形成する。次に、被覆チューブを製造する場合には、熱間鍛造、機械加工又はそれら工程の組合せによってインゴットをほぼ円筒状の中空ビレットに形成することができる。それに代えて、平坦な又はシート状の構成部品を製造する場合には、スラブ厚さがチューブ状構成部品に使用する円筒状ビレットの壁厚さに匹敵する状態で、インゴットをスラブ形状に形成することができる。ビレットに用いる好ましいジルカロイ−2組成物は、Fe、Cr及びNiの合計含量が約0.3175重量%以上になる状態で、約1.30〜1.60重量%のSn濃度、約0.0975〜0.15重量%のCr濃度、約0.16〜0.20重量%のFe濃度及び約0.06〜0.08重量%のNi濃度を含む。
【0021】
総称的に加工物と呼ぶことができる中空ビレット又は中実スラブには次に、β−焼入れ処理を行い、引続いて追加の製造工程及び熱処理を行って、被覆チューブ又はシート製品を形成することになる。例えば、β−焼入れ処理に続いて、中空ビレットを押出し成形し、次に多段階の熱間及び冷間圧延と焼きなましとを行って、押出し成形ビレットを最終に近い被覆壁厚さ及び直径まで圧延する。同様に、β−焼入れスラブには、多段階の熱間及び冷間圧延と焼きなましとを行って、スラブを最終に近い厚さまで圧延する。
【0022】
チューブには、ビレット押出し成形後に、多数サイクルの冷間圧延及び焼きなましを行うことができるが、4段階冷間圧延方式が好ましい。スラブ加工物は一般的に、β−焼入れの後に、最低限3回の熱間又は冷間圧延のサイクルを行うことができる。各圧延段階の後に、焼きなまし処理を行うことになる。焼きなまし処理は、約625°Cよりも低く制限され、またそれらの持続時間は、応力除去及び再結晶化を生じさせるのには十分であるが、顕著なオストワルド熟成を促進しないように十分短いものとし、それによって、例えば約50〜100nmの平均直径、好ましくは約80nmよりも小さい平均直径を有する中程度のサイズのSPPの分布が維持されるようになる。合金組成物内部の析出物の平均直径及び間隔は、当業者には公知の透過型電子顕微鏡(TEM)法を用いて容易に測定することができる。シグマAは、2×10−19時間よりも小さくなることになる。
【0023】
本発明による例示的な被覆チューブの実施形態はまた、例えば約0.5μmRaよりも小さい表面粗さ、好ましくは約0.25μmRaよりも小さい表面粗さ、より好ましくは約0.15μmRaよりも小さい表面粗さ、また最も好ましくは約0.10μmRaよりも小さい表面粗さのような非常に平滑な表面を示すことになる。小さい表面粗さは、そのような被覆に、被覆を傷つけそれによって腐食を加速させるおそれがある冷却材からの不純物を含有又は捕捉する可能性があるスケール沈積物をより形成し難くすることになると思われる。腐食に対するこの付加的な保護は、製造工程において後段階熱処理を含まないことの選択によって引き起こされる、耐ノジュラー腐食性の低下の影響を弱めるために必須である。本発明の例示的な実施形態により製造された被覆チューブはまた、ジルコニウム又は他のジルコニウム合金組成物の付加的な内側ライナ又はバリヤ層を含むことができる。具体的には、約0.085〜0.2重量%のレベルのFeでミクロ合金化されたジルコニウム合金が、ライナ層として有用である。
【0024】
本発明の上述の及び他の態様及び利点は、添付図面を参照して発明の例示的な実施形態の以下の詳細な説明において一層明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
非熱処理燃料被覆材料の開発試験は、非熱処理被覆の向上した耐ノジュラー腐食性をもたらす、特定の合金濃度範囲、特に鉄、クロム、ニッケル、Fe+Cr+Niの合計及び錫の下限値の発見につながった。向上した耐ノジュラー腐食性は、従来型のジルカロイ組成物及び後段階熱処理により得られるSPPの耐ノジュラー腐食性に匹敵する。その全体を参考文献として本明細書に組入れている特開昭59−017124号に開示されているような2段階蒸気試験を用いてノジュラー腐食感受性を表した図1〜図4に示すように、鉄、クロム、ニッケル及び錫の含量が増加したとき、非熱処理試験片の感受性が低下している。
【0026】
この2段階蒸気試験を用いる場合、一次評価基準は、特定のサイズの試験片において肉眼で見えるノジュールの数である。2段階蒸気試験でのノジュールが無い状態の望ましい結果に関して、図1〜図4における結果は、SPPサイズが本発明の例示的な実施形態による製造方法により得られた約80nmのとき、合金組成範囲を、約0.16重量%以上のFe、約0.0975重量%以上のCr、約0.06重量%以上のNi、約0.3175重量%以上のFe+Cr+Ni及び約1.30重量%以上のSnに制限することの利点を示している。SPPサイズが100nmに近いときには、向上した耐ノジュラー腐食性の格付け(すなわち、ノジュールが無い状態)を達成するためには、合金濃度についての一層大きい制限が必要となる。
【0027】
本発明による好ましい組成のジルカロイ−2合金は、鉄、クロム及びニッケルの合計の含量が少なくとも約0.3175重量%である状態で、約1.30〜約1.60重量%のレベルの錫、約0.0975〜0.15重量%のクロム、0.16〜0.20重量%の鉄、0.06〜0.08重量%のニッケルを含む。ジルカロイ−4合金もまた、同じ錫及びクロムのレベルであるが、鉄を最大約0.24重量%のレベルで使用することができる。
【0028】
透過型電子顕微鏡法によって測定される平均析出物サイズを、外表面領域近くで約50〜100nm、好ましくは約50〜80nmとすることができる。次に、中実ビレットβ−焼入れよりも一層有利なSPPサイズを生じる中空ビレットβ−焼入れ、又は中空ビレットに匹敵する壁厚さを有するスラブβ−焼入れを用いて、あらゆるβ−焼入れ後溶体化熱処理、例えばα+β又はβ範囲の温度への材料の加熱を回避しながら、被覆又は他の原子炉構成部品を適切な組成を有する合金で製造することができる。より具体的には、ビレットβ−焼入れ後の処理を約680°Cよりも低い温度に制限し、かつ約0.25μmRaよりも小さい、好ましくは約0.1μmRaよりも小さい表面粗さをもたらす工程を用いて被覆材料を製造する。例示的な範囲内の組成を有しかつ例示的な方法により処理した被覆材料は、典型的な非腐食性水質環境において約40nmよりも小さい平均粒子サイズを有する従来型の材料の耐食特性と同様な耐食特性を示す傾向になる。
【0029】
本発明による例示的なジルコニウム合金はインゴット溶融物から製造することができ、この溶融物には、熱間鍛造(700〜950°C)及び溶体化処理(例えば、1000°Cで数分間)を行い、次いで押出し成形に適したビレット又は更なる圧延加工のためのスラブを形成する。異なる化学組成を有する2つの合金を組合せることによって二重ビレットを製作することもできる。次に、ビレットには、600〜680°Cで熱間押出し成形を行って、中空チューブシェルを得ることができる。一般的に、チューブシェルには次に、冷間圧延と追加の処理とを行って、燃料被覆チューブが得られるが、冷間圧延段階に関連した従来型のα+β又はβ−焼入れ処理は行わない。同様に、β−焼入れスラブには、熱間又は冷間圧延と追加の処理とを行うが、同様に冷間圧延段階に関連した従来型のα+β又はβ−焼入れ処理は行わない。本発明による上記のジルコニウム基合金は、耐食性及び水素吸収特性の両方において優れており、例えば、燃料集合体内の燃料被覆チューブ、スペーサバンド、スペーサセル及びウォータロッドを含む種々の原子炉構成部品の製造に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】生じたノジュラー腐食に関するSPPサイズとFe含量との間の関係を示すグラフ。
【図2】生じたノジュラー腐食に関するSPPサイズとCr含量との間の関係を示すグラフ。
【図3】生じたノジュラー腐食に関するSPPサイズとNi含量との間の関係を示すグラフ。
【図4】生じたノジュラー腐食に関するSPPサイズとSn含量との間の関係を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉構成部品を製造する方法であって、
約1.30〜1.60重量%の錫含量と、
約0.0975〜0.15重量%のクロム含量と、
約0.16〜0.24重量%の鉄含量と、
約0.08重量%よりも多くないニッケル含量と、を含み、
その中に含まれた鉄、クロム及びニッケルの合計含量が、少なくとも約0.3175重量%であり、残部が、ジルコニウムと、酸素と、少量の炭素及びケイ素と、不可避的不純物とである、
ジルコニウム基合金を調製する段階と、
前記ジルコニウム基合金で加工物を形成する段階と、
前記加工物に対してβ−焼入れを行って焼入れ加工物を形成する段階と、
約680°Cよりも低い押出し温度で実施する押出し加工及び冷間又は任意選択的な熱間塑性加工からなる群から選ぶことができる追加の成形加工を行って前記焼入れ加工物から原子炉構成部品を完成させる段階と、を含み、
前記加工物が、前記押出し加工後には約625°Cよりも高い作業温度に曝されることがなく、全ての前記追加の成形加工により、2×10−19時間よりも小さい最終加工物シグマA値が得られ、
前記原子炉構成部品が、約50nmよりも小さくなくかつ約100nmよりも大きくない平均直径をもつ二次相析出物(SPP)を有する表面領域を含み、さらに、
前記原子炉構成部品が、約0.50μmRaよりも大きくない表面粗さを有する浸水表面を含む、
原子炉構成部品を製造する方法。
【請求項2】
前記ジルコニウム基合金がジルカロイ−2であり、
前記ニッケル含量が約0.06〜0.08重量%であり、かつ、
前記鉄含量が約0.165〜0.20重量%である、
請求項1記載の原子炉構成部品を製造する方法。
【請求項3】
前記ジルコニウム基合金がジルカロイ−2であり、
前記ニッケル含量が約0.06〜0.08重量%であり、かつ、
前記鉄含量が約0.18〜0.22重量%である、
請求項1記載の原子炉構成部品を製造する方法。
【請求項4】
前記鉄含量が約0.20〜0.24重量%である、請求項1記載の原子炉構成部品を製造する方法。
【請求項5】
前記ジルコニウム基合金がジルカロイ−4であり、
前記ニッケル含量がおよそ0.0重量%であり、かつ、
前記鉄含量が約0.18〜0.24重量%である、
請求項1記載の原子炉構成部品を製造する方法。
【請求項6】
前記二次相析出物が、約50nmよりも小さくなくかつ約80nmよりも大きくない平均直径を有する、請求項1から請求項5のいずれか1項記載の原子炉構成部品を製造する方法。
【請求項7】
前記浸水表面が、約0.25μmRaよりも大きくない表面粗さを有する、請求項1から請求項6のいずれか1項記載の原子炉構成部品を製造する方法。
【請求項8】
前記加工物が、約10mmよりも小さい壁厚さを有する中空ビレットであり、かつ前記β−焼入れが、
処理期間にわたって、ミクロ構造均質化を生じさせるのに十分なβ相範囲内の温度に前記中空ビレットを維持して処理中空ビレットを形成する段階と、
前記処理中空ビレットの表面領域を少なくとも25°C/秒の急冷速度で500°C以下の温度まで冷却して、焼入れビレットを形成する段階と、を含む、
請求項1から請求項7のいずれか1項記載の原子炉構成部品を製造する方法。
【請求項9】
前記焼入れ加工物から原子炉構成部品を形成する段階が、押出し、同時押出し、熱間圧延、冷間圧延、フライス加工、研磨、酸洗い、洗浄、ピルジャリング、及び応力除去又は再結晶焼きなましからなる群から選ばれる1つ又はそれ以上の工程を含む、請求項1から請求項8のいずれか1項記載の原子炉構成部品を製造する方法。
【請求項10】
前記加工物が第1の中空ビレットであり、
ジルコニウムを含む第2の中空ビレットを形成する段階と、
前記焼入れ加工物と前記第2の中空ビレットとを組合せて複合中空ビレットを形成し、それによって前記第2の中空ビレットの内表面が前記複合中空ビレットの内表面を形成するようにする段階と、
前記複合中空ビレットから原子炉構成部品を形成する段階と、をさらに含む、
請求項1から請求項9のいずれか1項記載の原子炉構成部品を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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