説明

非白色人種血漿の部分より製造される、万人に適用可能なウイルス不活化血漿

【解決手段】10%以上が非白色人種に属するドナーよりプールされた、ヒトに使用するための血漿であって、該血漿は、O型の血液または血漿の実質的な量を混合せず、A型及びB型、任意にAB型の血液または血漿を混合することにより得られ、
−A型のドナーからの血液または血漿を4〜8部
−B型のドナーからの血液または血漿を、3部を超えて7部まで
−AB型のドナーからの血液または血漿を0〜2部
を特徴とする、血漿。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実質的に非白色人種のドナーよりプールされた血漿、本発明の血漿を含む医薬製剤、及び、医薬品製造のための本発明の血漿の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト血液における血液型及び固有の相互個体差は、カール・ラントシュタイナー(Karl Landsteiner)によって発見された。ABO式血液型は、0、A、B、及びABの、4つの主な表現型を含み、この表現型は、第9染色体上のABO遺伝子座における相互優性の対立遺伝子によって支配されている。
【0003】
特定の血液型のFFP等の、ABO同一またはABO適合性の血漿の輸血は、血栓性血小板減少性紫斑病、および反復の多量の血漿交換において、種々のタイプの複合または単独の凝固因子欠損に、有効かつ一般に耐容性良好な治療である。しかしながら、血漿輸血は、原則として、レシピエントに感染性及び非感染性疾病の両方の伝染を含む、副作用の危険性をもたらす。
【0004】
典型的には、例えば輸血されたドナーの赤血球とレシピエントの抗体間において、免疫学的不適合が輸血細胞の加速する破壊を生じる場合、非感染性の副作用が起こる。ラントシュタイナー(Landsteiner)の法則によれば、対応する抗原が赤血球に存在しない場合、すべてのヒト個体は血漿中に抗体を有する。例えば、A型ドナーからB型患者に血漿を輸血することにより、ドナー血漿からの抗B抗体は、患者の赤血球と反応し、破壊を招く。同様に、B型ドナーの血漿は、抗A抗体を含んでおり、A型患者と不適合であり;また、O型ドナーの血漿は、抗A抗体及び抗B抗体の両方を含んでおり、A、B、またはAB型の患者と不適合である。従って、血液型はABO不適合に基づく反応を回避するため、一致させなければならない。
【0005】
非感染性の副作用に加えて、ウイルス、バクテリア、及び寄生生物を含む、多くの感染性因子が輸血によって感染し得る。認知されているウイルスには、A型肝炎ウイルス(HAV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、ヒト免疫不全ウイルス1型及び2型(HIV-1/2)、並びにヒトパルボウィルス(PV)がある。ウイルス感染の伝染の危険性は、ドナーのスクリーニング及び新たな試験方法の導入により、及び、特に、ウイルス不活化及び/またはウイルス除去方法の導入により、最小限になる。そのような方法には、溶媒洗浄剤処理(欧州特許EP-A-0131740)、照射、及び低温殺菌によるウイルス不活化、またはナノ濾過によるウイルス除去がある。
【0006】
A、B、O、またはAB型のオクタプラス(登録商標)(Octaplas(登録商標))(オクタファルマ社(Octapharma AG)、スイス)等の、特定の血液型の溶媒洗浄剤処理されたヒト血漿は、ウイルス感染を防ぐため、FFPの代替として既に開発されている。
【0007】
万人に適用可能な血漿は、原則として、抗A抗体、抗B抗体(IgM及びIgG)共に含まない、AB型血漿のみを用いることによって得ることができ、従って患者の血液型にかかわらず、すべての患者に適合する。しかしながら、AB型ドナーの頻度(4%)には制限がある。 万人向けの輸血に好適な血漿は、B型及びA型ドナーからの抗A抗体及び/または抗B抗体が、異なる血液型の血漿を最適に混合することによってそれぞれ除去及び/または無力化される場合に得られる。このような抗体の無力化は既に記載されており(国際特許WO-A-99/07390)、A型血液または血漿6〜10部、B型血液または血漿1〜3部、及び任意にAB型血液または血漿0〜1.5部を、O型血液由来の血液または血漿を実質的な量混合せずに、混合することによる。
【0008】
4つの主要なABO式血液型の頻度は世界的には個体群において様々であるが、原則として、全人種は同じ血液型を共有する。抗A及び抗B抗体価を測定したところ、驚くべきことに、ABO式血液型の頻度だけではなく、血液型特異的抗体価もまた異民族間で異なることがわかった。白色人種では、一般に、B型及びO型対象者の抗A抗体価は、A型及びO型対象者の抗B抗体価より高い傾向がある。これに反し、アフリカ系アメリカ人、ラテン系アメリカ人または先住民族のアメリカ人ドナー等の、非白色人種のバックグラウンドを持つ人においては、抗Bが抗Aとほとんど同じ抗体価である。従って、白色人種の血漿を、上述の割合で非白色人種起源の相当量と混合する場合、血液型特異的抗体の最適な無力化は認められなかった。例えば、相当部分が非白色人種ドナーより採取された、A型血漿7部をB型血漿3部と混合した場合、血漿プール混合物の抗B抗体価は、IgM及びIgG型の両方において高かった。
【0009】
本発明の1つの課題は、白色人種由来及び、アフリカ系アメリカ人、ラテン系アメリカ人及び先住民族のアメリカ人系等の、非白色人種のドナーの一部の血液または血漿より得られる、異なる血液型の血漿を最適に混合し、混合物中、血液型特異的抗体の最適な無力化を促進することによって生産される、さらに適用可能なウイルス不活化血漿を開発することであった。
【0010】
この課題は、10%以上が非白色人種に属するドナーよりプールされた、ヒトに使用するための血漿であって、該血漿は、O型の血液または血漿の実質的な量を混合せず、A型及びB型、任意にAB型の血液または血漿を混合することにより得られ、
−A型のドナーからの血液または血漿を4〜8部
−B型のドナーからの血液または血漿を、3部を超えて7部まで
−AB型のドナーからの血液または血漿を0〜2部
を含む血漿により解決される。
【0011】
O型の血液分画は、A型またはB型の全体の抗原濃度を実質的に超える抗体を持ち込まない限り、本発明の血漿中に存在することができる。
【0012】
本発明の血漿製品においてABO式血液型特異的抗体は、異なる血液型を最適に混合した血液型不特定の物質によって本質的に無力化され、従って、この血漿は、患者のABO式血液型にかかわらず輸血することができる。従って、本発明の血漿は、ABO不適合の関連致死に加え、輸血に関連する感染の危険性の両者をさらに低減する。
【0013】
本発明の別の具体例において、血漿混合物は、
−A型のドナー由来の血液または血漿を5〜6部
−B型のドナー由来の血液または血漿を4〜5部
−AB型のドナー由来の血液または血漿を0〜1部
−O型のドナー由来の血液または血漿を実質的にゼロ
より成る。
【0014】
本発明の血漿のABO式血液型特異性抗体価は、特に、抗A及び抗B IgM抗体に対して16未満であり、抗A及び抗B IgG抗体に対して64未満である。本発明の別の血漿混合物において、当業者に公知の試験及び欧州薬局方に記載された試験(間接クームス試験)を使用した場合の、抗A及び抗B IgM抗体価は8未満であり、抗A及び抗B IgG抗体価は32未満である。
【0015】
好ましくは、本発明の血漿は、溶媒/洗浄剤処理、照射、低温殺菌及び/またはナノ濾過として知られる、欧州特許EP-A-131740号の方法によって不活化される。代表的な溶媒/洗浄剤処理は、例えば、トリトン−X−100のようなオキシエチレン化ポリフェノール類等の洗浄剤、及び/またはツイーン80及びトリ−N−ブチルホスフェート(TNBP)等の脂肪酸のポリオキシエチレン誘導体、またはそれらの組み合わせを使用する。また、ウイルス不活化のために、飽和及び不飽和の両方の、長鎖脂肪酸またはその塩の媒介物、好ましくはカプリル酸またはその塩を使用することもできる。他の方法は、照射、低温殺菌またはナノ濾過である。これらの方法はすべて、当業者に公知である。
【0016】
好ましくは、本発明の血漿は、凍結または凍結乾燥される。
【0017】
本発明の血漿は、新鮮凍結血漿と同等の凝集活性を示す。
【0018】
以下の実施例によって、本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0019】
実施例1
全ては非白色人種ドナーから相当部分を得た、A型の新鮮凍結血漿190kg、B型の血漿156kg、及びAB型の血漿34kgを、37℃で解凍した後、混合する。得られた血漿混合物を、溶媒洗浄剤法を用いてウイルス不活化する。ウイルス不活化剤を除去し、凍結乾燥した後、IgM及びIgG型の遊離抗A抗体及び抗B抗体の量を測定する。IgM型の抗A及び抗B抗体価は8未満であり、IgG型の抗A及び抗B抗体価は32未満である。
【0020】
実施例2
全ては非白色人種ドナーから相当部分を得た、A型の新鮮凍結血漿205kg、及びB型の血漿137kgを、37℃で解凍した後、混合する。実施例1と同様の方法を用いた。IgM型の抗A及び抗B抗体価は8未満であり、IgG型では32未満である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
10%以上が非白色人種に属するドナーよりプールされた、ヒトに使用するための血漿であって、該血漿は、O型の血液または血漿の実質的な量を混合せず、A型及びB型、任意にAB型の血液または血漿を混合することにより得られ、
−A型のドナーからの血液または血漿を4〜8部
−B型のドナーからの血液または血漿を、3部を超えて7部まで
−AB型のドナーからの血液または血漿を0〜2部
を特徴とする、血漿。
【請求項2】
任意のウイルス不活化またはウイルス除去方法によって、ウイルス不活化された、請求項1に記載の血漿。
【請求項3】
該血漿が、溶媒/洗浄剤処理、照射、低温殺菌及び/またはナノ濾過によって不活化された、請求項2に記載の血漿。
【請求項4】
該ウイルス不活化が、トリトン−X−100のようなオキシエチレン化ポリフェノール類等の洗浄剤、及び/またはツイーン80及びトリ−N−ブチルホスフェート(TNBP)等の脂肪酸のポリオキシエチレン誘導体、またはそれらの組み合わせを使用することによって実施された、請求項3に記載の血漿。
【請求項5】
カプリル酸等の長鎖脂肪酸、または各塩を用いた処理によってウイルス不活化された、請求項3に記載の血漿。
【請求項6】
ウイルス不活化剤を実質的に含まない、上記の請求項のいずれかに記載の血漿。
【請求項7】
ABO式血液型の特異的抗体価が、抗A及び抗B IgM抗体については16未満であり、抗A及び抗B IgG抗体については64未満である、上記の請求項のいずれか1項に記載の血漿。
【請求項8】
液体、凍結、乾燥、または凍結乾燥形態である、上記の請求項のいずれか1項に記載の血漿。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の血漿を含む、医薬組成物。
【請求項10】
凝固因子欠乏、血栓性紫斑の治療用医薬品を製造するため、及び反復の多量の血漿交換における、上記の請求項のいずれかに記載の血漿の使用。
【請求項11】
−A型のドナーからの血液または血漿を4〜8部
−B型のドナーからの血液または血漿を、3部を超えて7部まで
−AB型のドナーからの血液または血漿を0〜2部
を混合することによる、請求項1〜8のいずれか1項に記載の血漿の製造方法。

【公表番号】特表2007−514716(P2007−514716A)
【公表日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−544462(P2006−544462)
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【国際出願番号】PCT/EP2004/053608
【国際公開番号】WO2005/058334
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(500050402)オクタファルマ アクチェン ゲゼルシャフト (9)
【Fターム(参考)】