説明

非芳香族系溶剤の混合物、該混合物の製造方法、ならびに印刷インキおよび印刷ワニスにおける該混合物の使用

【課題】ビヒクル又はワニス製造用、および印刷インキ製造用の溶剤混合物に含まれる芳香族成分の全部または少なくとも一部を、当該芳香族成分と少なくとも同程度に効果的でありながら当該芳香族成分に比べて環境適合性が顕著に優れており、さらには、印刷インキ用途において経済的にも許容可能な溶剤に置き換える。
【解決手段】本発明の溶剤混合物は、(a)低芳香族炭化水素油、好ましくは非芳香族炭化水素油を80〜99.5質量%と、(b)C16〜C22飽和脂肪酸および/またはC16〜C22不飽和脂肪酸を主成分とし、任意で樹脂酸が混合した組成物を0.5〜20質量%と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビヒクル(展色剤)又はワニスの溶剤や印刷インキの溶剤に含まれる芳香族化合物の代替品として脂肪酸を使用することに関する。本発明は、さらに、バインダー、顔料、芳香族化合物を実質的に有さない溶剤、および適宜その他の添加剤(添加成分)を含む印刷インキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、主に3種類の印刷法によって幅広い種類の印刷製品が製造されてきた。それらの印刷法は、それぞれ、凸版印刷法、平板印刷法(すなわち、オフセット印刷法またはリトグラフ印刷法)、およびグラビア印刷法である。デジタル系の印刷法もあるが、それらは本発明を構成しない。
【0003】
凸版印刷法では、硬い凸字部分を粘質な薄いインキ層で覆い、そこから基材に印刷インキが転写される。そのため比較的ゆっくり乾燥し、速くにセットし始めない印刷インキが必要となる。
【0004】
オフセット印刷法では、極性の異なる領域に分かれた印刷板上に、表現したい形状が固定される。疎水性の粘質な印刷インキが、印刷板上の、同じく疎水性の領域を濡らす。乾燥方法の種類に応じて、熱で乾燥する輪転印刷機用のいわゆるヒートセットインキと、吸収・酸化で乾燥するいわゆる枚葉印刷機用のインキと、多孔質の基材に吸収されて乾燥するコールドセットインキ(新聞紙インキ)とを区別することができる。
【0005】
グラビア印刷法では、印刷板に図形がエッチングされる。比較的流動質な印刷インキで印刷板を濡らし、表面を掻き取ることにより、エッチングによって形成された凹部のみに印刷インキが残る。そして、この凹部から印刷対象の基材に印刷インキが転写される。
【0006】
印刷インキは、数多くの経済的要件および環境的要件を満たさなければならない。
【0007】
印刷インキの成分は、主に、顔料、バインダー、溶剤、ならびにインキおよび印刷自体の所望特性を改質する各種添加剤である。印刷インキに配合される溶剤は、経済的条件(特に、大量の印刷製品を製造する場合)を考慮しなければならないのと同時に印刷インキの物理的特性に求められる各種要件を満足しなければならないので、数多くの制限が課せられる。また、溶剤は、バインダーやその他の各種添加剤を溶解できるだけでなく、所望の数値範囲内の粘度及びタック(Tack)が得られるものでなければならない。印刷インキの分野では、コストが良好なので、(石油由来の)鉱油を溶剤に使用することが確立されている。
【0008】
溶剤として一般的に使用される鉱油は、炭化水素燃料とは異なり、初留点(IBP)と終点(FBP)の間の蒸留温度範囲が狭く設定されている。炭化水素流体の(ASTM D−86規格またはASTM D−1160規格によって定義される)初留点および終点は目的用途に応じて適宜選択される。上記のように蒸留温度範囲を狭く設定することには、引火点を極めて精密に設定できるという利点があり、これは安全面からみて有益である。その他の利点として、オフセット印刷インキ用の溶剤に使用した場合に、当該溶剤の乾燥及び蒸発性能を精密にコントロールできる点が挙げられる。
【0009】
最も普及している炭化水素溶剤(すなわち、鉱油)は、芳香族化合物を様々な比率(最大で数十質量%)で含有する、芳香族炭化水素系溶剤である。その理由は、印刷インキの樹脂またはバインダーに対する可溶化容量または溶解力が優秀だからである。しかしながら、芳香族系溶剤は、毒性、環境保護、環境安全性、特に、生物に対する安全性の観点からみて、十分に満足のいくものではない。
【0010】
インキの溶剤として今日商業的に使用されている様々な芳香族系鉱油製品を調べたところ、IP 391規格に準拠して測定される芳香族分が13〜33重量%に達し、さらに、質量分析法によって測定される多環芳香族炭化水素(PAH)の含有量が240,000〜700,000ng/g(後述の表1を参照)に達することが分かった。PAHは環境および生物にとって極めて有害であることが判明しており、数多くの国々における施行中の規制および施行予定の規制の強化につながっている。
【0011】
さらに、食品包装のオフセット印刷について述べると、スイス国で施行されている法律に基づいて現在議論・作成中の欧州規制では、不意の食品接触に関する承認をインキ製造者が得る必要があるので、脱芳香族化された炭化水素溶剤を使用することが、以前にも増して所望される。
【0012】
そのため、インキ業界およびワニス業界では、PAH含有量を最小限に抑える技術的な解決策を求める声が次第に高まっている。すなわち、環境および生物に対する上記のような短所がなくかつ経済的にも許容可能な、ビヒクル又はワニスの溶剤や印刷インキの溶剤が求められている。
【0013】
上記のような芳香族系鉱油の代わりに、芳香族化合物をわずかに含むか、または全く含まない他種の鉱油を使用することが考えられる。そのような他種の鉱油として、例えば、芳香族化合物よりも環境に優しいとされるナフテン化合物を豊富に含む、ナフテン系鉱油が挙げられる。しかしながら、非芳香族系鉱油(例えば、ナフテン系鉱油)は、芳香族系鉱油に比べてバインダー樹脂に対する溶解力が著しく低いことが分かっている(非特許文献1)。
【0014】
また、非芳香族系鉱油の用途には制限がある。特に、大半の高分子量樹脂(例えば、低溶解度のフェノール変性ロジン樹脂)に対し、非芳香族系鉱油の使用は困難である。
【0015】
他にも、以下のような解決策が提案されている:
【0016】
特許文献1には、アルキルテトラリン類1〜15%および芳香族化合物10%以下を含み、ナフタレン類およびビフェニル類を実質上含まない、高い溶解力を有する沸点160〜300℃の炭化水素溶剤が提案されている。しかし、このような溶剤は、極めて高価であり、また、多くの印刷インキ用途において適切でない。
【0017】
特許文献2には、炭化水素液体を配合した組成物が記載されている。この炭化水素液体は、沸点が235〜400℃であり、ナフテン化合物を少なくとも60%、ポリナフテン化合物を少なくとも20%、およびシリコーン油を含む。このような液体組成物は、溶解力に極めて優れており、特に印刷インキの溶剤として有利に使用可能であるものの、上記の溶剤と同じく極めて高価である。また、ナフテン化合物が当該組成物並みのレベルで含まれていると、インキの安定性が低下したり、さらには、各種印刷パラメータ[特に、(タックオースコープ機器を用いて測定される)タック]が変化する可能性が高くなる。
【0018】
特許文献3は、高い溶解力を有する印刷インキ用ビヒクルに関する。この印刷インキ用ビヒクルは、(ジ)シクロペンタジエンとα−オレフィン類と不飽和カルボン酸又はその無水物とから誘導した特定のフェノール樹脂と、乾性油又は半乾性油(亜麻仁油および/または桐油および/または大豆油など)と、沸点が200℃超でありナフテン化合物を有する(好ましくは、ナフテン化合物を少なくとも60%有する)非芳香族炭化水素系溶剤とを含む。
【0019】
特許文献4には、芳香族化合物を有さない鉱油を80〜99重量%およびC〜C22脂肪酸のエステルを1〜20重量%を含む、印刷インキの溶剤として使用可能な混合物が記載されている。この技術的解決手段は、脱芳香族化鉱油の溶解力を向上させることができるものの、高レベルのエステル(後述の表2を参照)、特に、高分子量樹脂のエステルを要するという欠点がある。
【0020】
特許文献5には、デジタル印刷(インクジェットタイプ)インキとして使用可能であり、特に多孔質の担体に適した、鉱油および脂肪酸の混合物が記載されている。典型的には、このようなインキの組成は次のとおりである:顔料を少なくとも10質量%、脂肪酸を30〜70%、ワックスを5〜30%、樹脂を1〜15%、および分散剤を10%未満含み、80℃での粘度が好ましくは8〜12cPsである。インキ分野の当業者にとって、このように極めて低い粘度を有する組成物がインクジェット印刷インキ専用であることは明白である。なお、インクジェット印刷インキは本発明に包含されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】欧州特許第255871号明細書
【特許文献2】米国特許第7056869号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第697446号明細書
【特許文献4】欧州特許第823930号明細書
【特許文献5】米国特許第6224661号明細書
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, A 22, 147 (1993)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明の目的は、ビヒクル又はワニスを製造するうえで、および印刷インキを製造するうえで使用される溶剤混合物について、当該混合物に含まれる芳香族成分の全部または少なくとも一部を、当該芳香族成分と少なくとも同程度に効果的でありながら当該芳香族成分に比べて環境適合性が顕著に優れており、さらには、印刷インキ用途において経済的にも許容可能な溶剤に置き換えることである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
驚くべきことに、出願人は、ビヒクル又はワニスの溶剤、および印刷インキの溶剤に含まれる芳香族成分の一部または全部を、使用分野の違いに関わらず大半の分野において脂肪酸系組成物に置き換えられることを見出した。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、ビヒクル又はワニスを製造するうえで使用可能な、および印刷インキを製造するうえで使用可能な溶剤混合物において、
(a)(IP 391に準拠して測定される芳香族分が1質量%以下、好ましくは0.1質量%以下である)低芳香族炭化水素油、好ましくは非芳香族炭化水素油を、80〜99.5質量%、好ましくは90〜98質量%と、
(b)C16〜C22飽和モノカルボン酸および/またはC16〜C22不飽和モノカルボン酸を主成分とし、任意で樹脂酸(多環式不飽和モノカルボン酸、特に、三環式不飽和モノカルボン酸)が混合した組成物を0.5〜20質量%、好ましくは2〜10質量%と、
を含むことを特徴とする、溶剤混合物に関する。
【0026】
本発明において、C16〜C22モノカルボン酸を主成分とする組成物とは、C16〜C22モノカルボン酸の濃度が総質量の80〜100%を占める、あらゆる組成物のことを指す。一般的に、そのような組成物の残りの成分には、炭化水素鎖の炭素数が16未満のモノカルボン酸、および/または炭化水素鎖の炭素数が22を超えるモノカルボン酸が含まれる。前記(少なくとも1種の)C16〜C22モノカルボン酸を主成分とする組成物は、任意で樹脂酸を含んでいてもよい。好ましくは、樹脂酸の濃度は、全酸類(脂肪酸+樹脂酸)のうちの10質量%以下であり、より好ましくは全酸類(脂肪酸+樹脂酸)の総質量のうちの5%未満である。
【0027】
前記C16〜C22モノカルボン酸を主成分とする組成物は、例えば、天然由来および/または遺伝子組換えの植物油の加水分解、ならびに動物油脂の加水分解によって得られ、例えば、落花生油、パーム油、オリーブ油、なたね油、綿油、グレープシード油、とうもろこし油、ひまわり油、大豆油、亜麻仁油、獣脂、およびラードからなる群から選択される少なくとも1種から誘導した脂肪酸が挙げられる。
【0028】
前記樹脂酸として、例えば、アビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸、テトラヒドロアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、ネオアビエチン酸、ピマル酸、レボピマル酸、パルストリン酸などが挙げられる。
【0029】
脂肪酸を主成分とし、かつ、樹脂酸を含む組成物は、トール油(木材パルプ製造時の副産物)の蒸留によって得られる。このような、トール油の蒸留によって得られるトール油脂肪酸は、その頭文字を取ってTOFAと称される。TOFAとして、例えば、TOTAL ADDITIFS & CARBURANTS SPECIAUX社の商品名:PC 30、PC31およびPC32、Arizona Chemical社の商品名:Sylfat(例えば、Sylfat 2)、またはEastman Chemical社の商品名:Pamolyn(例えば、Pamolyn 200)が上市されている。なお、これらの商品における樹脂酸の濃度は、全酸類(脂肪酸+樹脂酸)のうちの10質量%以下であり、より有利には全酸類(脂肪酸+樹脂酸)の総質量のうちの5%未満である。
【0030】
好ましくは、脂肪酸系の組成物は天然由来である。本発明において、天然由来であるとは、植物由来および/または動物由来であって、化石由来でないことを指す。
【0031】
一般的に、前記低芳香族炭化水素油、さらには、前記非芳香族炭化水素油は、精製所由来の石油製品のカット留分から得られる。一般的に、そのようなカット留分を得る方法は、分留、浄化(purification)など、芳香族化合物のレベルを減少させるための精製工程を利用する。
【0032】
典型的に、浄化とは、硫黄分を減少させる(場合によっては、硫黄分を除去する)ための、あるいは、硫黄を取り除くための水素化脱硫処理および/または水添処理と、芳香族化合物および不飽和化合物を減少させる(脱芳香族化油を生成する)ための、あるいは、これらを除去する(脱芳香族化油を生成する)ための水添処理とで構成される。一般的に、脂肪族炭化水素鉱油は、未処理の石油カット留分から得られるか、あるいは、予め水素化脱硫処理および/または分留処理されたカット留分をさらに改質工程および蒸留工程にかけることによって得られる。脱芳香族化鉱油は、水素化脱硫処理、分留処理および水添処理で芳香族環を飽和させることによって得られる。水添処理は、最後の分留処理の前に行ってもよい。
【0033】
前記低芳香族炭化水素油、さらには、前記非芳香族炭化水素油は、鉱物由来[石油由来、石炭由来(コールトゥリキッド)、ガス由来(ガストゥリキッド)]および/または再生可能な動物資源および/または再生可能な植物資源[例えば、バイオマス由来(BtL:バイオマストゥリキッド)]であってもよく、例えば、植物油エステルの水素化処理および異性化によって得られる。
【0034】
一般的に、本発明にかかる炭化水素油は、沸点が220〜350℃である。一般的に、これよりも狭い沸点範囲のカット留分から得られる油が好ましい。
【0035】
好ましくは、前記炭化水素油の沸点範囲は、230〜270℃、255〜295℃、280〜320℃、または300〜350℃である。
【0036】
好ましくは、本発明にかかる溶剤混合物は、常温で液体である。
【0037】
本発明のさらなる主題は、前述した溶剤混合物を製造する方法である。
【0038】
この方法は、低芳香族鉱油または非芳香族鉱油と、C16〜C22飽和脂肪酸および/またはC16〜C22不飽和脂肪酸を主成分とし任意で樹脂酸が混合した組成物とを、常温で混合する工程を含む。
【0039】
本発明の好ましい一実施形態において、前記溶剤混合物の成分は、当該溶剤混合物が常温(一般的に、10〜30℃)で液体になるように選択される。
【0040】
本発明は、さらに、少なくとも1種のバインダーと、前述した溶剤混合物と、適宜その他の添加成分とを含む、印刷インキ用ビヒクルまたはワニスに関し、前記添加成分は、例えば、界面活性剤、フィラー、安定剤、乾性油または半乾性油、レオロジー改善剤、酸化防止剤、乾燥促進剤、耐摩耗剤、ゲル化剤などである。
【0041】
乾性油または半乾性油として、例えば、亜麻仁油、桐油、紅花油などが挙げられる。
【0042】
バインダーは、顔料または染料を転移または送達すると共に、基材へのインキの密着を促進させる役割を果たす。
【0043】
バインダーは、天然由来および/または合成由来の、少なくとも1種の樹脂を含有する。一般的に、そのような天然由来の樹脂は、ロジン、バルサム油、シェラックなど、天然の植物由来および/または動物由来の有機素材である。合成由来の樹脂には、合成ポリマーおよび変性天然樹脂が含まれる。
【0044】
前記合成ポリマーは、熱可塑性ポリマーおよび/または熱硬化性ポリマーであってもよい。合成ポリマーとして、例えば、炭化水素樹脂、ポリハロゲン化ビニル、スチレンと無水マレイン酸との共重合体、ポリアミド、ケトンとアルデヒドとの縮合樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリオレフィン、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、尿素とメラミンとホルムアルデヒドとの縮合樹脂、テルペン樹脂、アルキド樹脂、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0045】
前記変性天然樹脂として、例えば、天然由来の脂肪酸で変性したアルキド樹脂、変性セルロース樹脂、変性ロジンエステル、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性フマル酸樹脂、ロジンダイマー、ロジンポリマー、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0046】
一般的に、印刷インキ用ワニスまたはビヒクルは:
−少なくとも1種のバインダー20〜60重量%と、
−少なくとも1種の溶剤10〜50%と、
−半乾性油または乾性油0〜20%と、
−任意で、少なくとも1種の添加成分(例えば、防錆剤、耐摩耗剤、乾燥促進剤、ゲル化剤、界面活性剤、フィラー、レオロジー改善剤など)と、
を含む。
一般的に、各種添加成分は、それぞれ、印刷インキの総質量のうちの5%以下を占める。
【0047】
本発明は、さらに、印刷インキ、特に、平板印刷インキ(あるいは、オフセット印刷インキ)に関する。平板印刷インキは、ヒートセットインキ、いわゆる枚葉印刷機用インキ、およびコールドセットインキ(新聞紙インキ)の3種類に分けられる。
【0048】
好ましくは、本発明にかかる印刷インキは、前述したビヒクルまたはワニスと、少なくとも1種の顔料10〜25質量%とを含む。
【0049】
有利なことに、本発明にかかる印刷インキは、ビヒクルの構成成分の範囲において、偶発的な食品との接触が起こり得る用途にも使用可能である。特に、本発明にかかる溶剤混合物と顔料/染料との混合物は、偶発的な食品との接触が起こり得る用途[例えば、FDA(米国食品医薬品局)の承認を受けている]に使用可能である。
【0050】
一般的に、このようなインキは、前述したビヒクルまたはワニスに、少なくとも1種の顔料と、少なくとも1種の溶剤と、乾性油または半乾性油と、任意でインキの性能を向上させる前述した添加成分とを添加することによって製造可能である。好ましくは、混合工程は、15〜100℃の温度で実行される。
【実施例】
【0051】
特記しない限り、以下の実施例中の数字および百分率は、質量%を示すものとする。
【0052】
(実施例1)
以下の表1に、欧州において印刷インキの溶剤として上市されている8種類の鉱油の、物理的特性および化学的特性をまとめる。
【0053】
各種鉱油について、以下の特性を測定する:
● 密度(EN ISO 12185規格に準拠して測定)、
● 20℃での粘度(EN ISO 3104規格に準拠して測定)、
● 屈折率(ASTM.D 1214規格に準拠して測定)、
● 芳香族分(IP 391規格に準拠して測定)、
● DMSO(ジメチルスルホキシド)抽出量(IP346規格に準拠して測定)、
● 初留点(IP)および終点(FP)(ASTM.D 2887規格に準拠して測定)、
● PAH(多環芳香族炭化水素)の含有量(質量分析法によって測定)。
【0054】
【表1】

【0055】
(実施例2)
鉱油と助溶剤との混合物として、複数の混合物を常温で調製する。
【0056】
助溶剤として、3種類の(樹脂酸を10%以下含む)トール油脂肪酸製品:TOFA1,TOFA2,TOFA3(TOFA1及びTOFA2はTOTAL ACS社製、TOFA3はEastman社製);ラウリン酸イソプロピル;なたね脂肪酸混合物(Oleon社製);グレープシード脂肪酸混合物(Uniqema社製);ココナッツ脂肪酸混合物(Oleon社製):ならびに大豆脂肪酸混合物(Uniqema社製およびOleon社製)を使用する。
【0057】
以下の特性を測定する:
● アニリン点(ASTM D 611規格に準拠して測定)、
● 当該混合物90%とフェノール変性ロジン樹脂10%(Cray Valley社の商品名:Tergraf UZ 86)とで調製した組成物の曇り点(Chemotronic装置を用いて測定)、
● 組成物の鉱油溶解上限(mineral oil tolerance)[当該混合物を、イソフタル酸アルキド樹脂(Synolac 6622)5gに添加した場合、(目視で)23℃で白濁する際の、当該混合物の体積に相当する数値]。
【0058】
以下の表2に、上記測定の結果をまとめる。
【0059】
比較対象として、表1の3種類の鉱油製品:HM1,HM2,HM3、および混合物:HM4についても、前記特性を測定する。なお、HM1及びHM2は、芳香族化合物を約18%含み、HM3は脱芳香族化鉱油である。HM4は、特許文献4に記載の混合物に類似した、脱芳香族化鉱油であるHM3とラウリン酸イソプロピル系の脂肪酸エステルとの混合物である。
【0060】
混合物:HM5〜HM16は本発明にかかる混合物である。混合物:HM5〜HM16はHM3に比べて遥かに優れた溶解力を有する。しかし、混合物:HM5〜HM16の全てが先行技術の芳香族鉱油であるHM1またはHM2の性能に達するわけではない。それでも、本発明にかかる混合物のうち、助溶剤を6%または10%含む混合物(HM7、HM8およびHM16)の溶解力は、芳香族鉱油であるHM1またはHM2の溶解力以上、あるいは、HM1またはHM2の溶解力を上回る。
【0061】
【表2】

【0062】
(実施例3)
インキ用ワニスの分野で慣習的に使用される化合物(樹脂、炭化水素溶剤、助溶剤、溶剤混合物HMx、ゲル化剤など)を混合して、複数の種類のゲルワニスVGxを調製する。
【0063】
各種ゲルワニスVGxについて、以下の特性を測定する:
● Duke粘度計による粘度(温度25℃および圧力2.500s−1
● 当該ワニス30%と芳香族炭化水素系溶剤70%(Halterman社の商品名:TO 6/9 Afnew)とで調製した組成物の曇り点
● 40℃での損失正接(1Hzおよび100Pa)
● 流動性
● エマルション形成能
● 1分後または10分後のタック(0.4mL;40℃;150m/分)、ならびに最大タックおよび最大タックまでに要する時間
【0064】
以下の表3に、上記測定の結果をまとめる。
【0065】
ワニスVG3(比較例)の曇り点から、次のことが分かる:
脱芳香族化鉱油を単独で使用した場合、溶解力は低く、また、タック測定値も不安定になる。
【0066】
本発明にかかるワニスVG5b(本発明にかかる油:HM5が配合されている)は、芳香族系溶剤が配合されたワニスに匹敵する、極めて優れた性能バランスを示す。
【0067】
【表3】

【0068】
(実施例4)
赤色オフセットインキ(EMx)を、ワニスVGx、鉱油HMx、および以下の表4に詳述するその他の成分から、2つの段階を経て調製する。詳細には、まず、VGx、大豆油および赤色顔料を混合してから、さらなるVGxおよびHMxを添加する。
【0069】
各種インキ処方物について、以下の特性を測定する:
● Duke粘度計による粘度、
● 20℃での流動性、
● 1分後、2分後または3分後のタック(試料0.4mL;40℃;300m/分)、および時間の関数としての最大タック、
● エマルション形成能、
● ミストの形成(試料1mL;40℃)、
● 60℃での明度(試料0.3mL;150℃;20秒間)。
【0070】
以下の表4に、上記測定の結果をまとめる。
【0071】
ER6およびER7は、測定対象の全性能がバランスよく優れており、特に、ER3に比べて優れた流動特性およびタックを示す。また、ER6およびER7は、芳香族油に基づいて処方したインキ(ER1およびER2)に匹敵する性能を示す。
【0072】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷インキを製造するうえで使用可能な溶剤混合物において、
(a)低芳香族炭化水素油、好ましくは非芳香族炭化水素油を80〜99.5質量%と、
(b)C16〜C22飽和脂肪酸および/またはC16〜C22不飽和脂肪酸を主成分とし、任意で樹脂酸が混合した組成物を0.5〜20質量%と、
を含むことを特徴とする、溶剤混合物。
【請求項2】
請求項1において、
(a)低芳香族炭化水素油、好ましくは非芳香族炭化水素油を90〜98質量%と、
(b)C16〜C22飽和脂肪酸および/またはC16〜C22不飽和脂肪酸を主成分とし、任意で樹脂酸が混合した組成物を2〜10質量%と、
を含むことを特徴とする、溶剤混合物。
【請求項3】
請求項1または2において、IP 391に準拠して測定される炭化水素油(a)中の芳香族分が、1質量%以下、好ましくは0.1質量%以下である、溶剤混合物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項において、脂肪酸組成物(b)が天然由来であり、好ましくはTOFA系の組成物であることを特徴とする、溶剤混合物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項において、常温で液体である、溶剤混合物。
【請求項6】
少なくとも1種のバインダーと、請求項1から5のいずれか一項に記載の溶剤混合物と、任意で少なくとも1種の添加成分とを含み、
前記添加成分は、例えば、界面活性剤、フィラー、安定剤、乾性油または半乾性油、レオロジー改善剤、酸化防止剤、乾燥促進剤、耐摩耗剤、ゲル化剤などである、ビヒクルまたはワニス。
【請求項7】
請求項6に記載のビヒクルまたはワニスと、少なくとも1種の顔料および/または染料とを含む、印刷インキ。
【請求項8】
請求項7において、脂肪酸組成物(b)の大部分が、天然由来のC16〜C22脂肪酸系の組成物であり、好ましくはTOFA系の組成物である、印刷インキ。
【請求項9】
請求項7または8に記載の印刷インキの、平板印刷またはオフセット印刷、特に、ヒートセット印刷、枚葉印刷またはコールドセット印刷における使用。

【公表番号】特表2013−513710(P2013−513710A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543976(P2012−543976)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【国際出願番号】PCT/IB2010/055832
【国際公開番号】WO2011/073920
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(505036674)トータル・ラフィナージュ・マーケティング (39)
【Fターム(参考)】