説明

非誘導化水溶性ベータ−(1,3)−グルカンのレセプター

【課題】非誘導化水溶性ベータ-(1,3)-グルカンのレセプターを含有する単離調製物、β(1,3)-グルカンを単離する方法、及び試験試料中のβ(1,3)-グルカンもしくはβ(1,3)-グルカン含有生物の量を定量するためのアッセイを提供する。
【解決手段】β(1,3)-グルカンが蛋白様レセプターに結合して、レセプターに結合したβ(1,3)-グルカンの一次複合体を生成するために好適な条件下で、β(1,3)-グルカンを含有する試料を該レセプターと接触させ、前記一次複合体を単離し、さらに、前記一次複合体からβ(1,3)-グルカンを単離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連技術)
本出願は、1998年8月26に出願された米国特許出願第09/140,196号の一部継続出願である、1998年9月25日に出願された米国特許出願第09/160,922号に基づき、優先権を主張するものであり、その全教示を、参照のためここに取り込むこととする。
【背景技術】
【0002】
非誘導化水溶性β-(1,3)-グルカン(PGGグルカン、三重螺旋グルカン(TH-グルカン)またはBetafectin(登録商標)として既知)は、特許方法で製造される、新規且つ類のない水溶性グルカンである。この分子の生物学的活性は、粒状もしくは他の可溶性β-グルカンとは明確に区別される。多くの研究所が、粒状と可溶性形態との両方のβ-グルカンによる、アラキドン酸代謝産物の直接導入(Czop et al., J. Immunol. 141(9):3170-3176(1988))、サイトカイン(Abel and Czop, Intl. J. Immunopharmacol, 14(8):1363-1373(1992); Doita et al., J. Leuk. Biol. 14(2):173-183(1991))及び酸化バースト(Cain et al., Complement 4:75-86(1987); Gallin et al., Int. J. Immunopharmacol. 14(2):173-183(1992))を報告している。対照的に、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンは、酸化バースト活性(Mackin et al., FASEB J. 8: A216(1994))、サイトカイン分泌(Putsiaka et al., Blood 82:3695-3700(1993))もしくは増殖(Wakshull et al., J. Cell. Biochem. suppl. 18A:22(1994))等の白血球機能を、直接活性化するものではない。代わりに、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンは、細胞を、続発性刺激による活性化(Mackin et al., (1994); Brunke-Reese and Mackin, FASEB J. 8:A488(1994); 及びWakshull et al., (1994))に備えさせる。
β-グルカンの生物学的活性は、標的細胞上に位置する特異的レセプターを通して仲介される。研究者の幾つかのグループが、結合して、粒状β-グルカン調製物(例えば、Zymosan様粒子;Goldman(Immunology 63(2):319-324(1988);Exp. Cell. Res. 174(2):481-490(1988); Engstad and Robertsen, Dev. Comp. Immunol. 18(5):397-408(1994); Muller et al., Res. Immunol. 145:267-275 (1994));Czop, Advances in Immunol. 38:361, 398(1986); の食菌作用を仲介するレセプターを記載し、これらのレセプター(Czop and Kay, J. Exp. Med. 173:1511-1520(1991); Szabo et al., J. Biol. Chem. 270:2145-2151(1995))を部分的に特徴付けしている。白血球相補レセプター3(CR3、MAC 1またはCD11b/CD18としても既知)は、粒状と可溶性との両方のβ-グルカン、並びに他の多糖類(Thornton et al., J. Immunol. 156:1235-1246(1996))に結合することが報告されている。可溶性アミノ化β-グルカン調製物は、マウスの腹膜マクロファージに結合することが示され(Konopski et al., Biochem. Biophys. Acta 1221:61-65(1994))、リン酸化β-グルカン誘導体は、単核細胞細胞系列に結合することが報告されている(Muller et al., J. Immunol. 156:3418-3425(1996))。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Czop et al., J. Immunol. 141(9):3170-3176(1988)
【非特許文献2】Abel and Czop, Intl. J. Immunopharmacol, 14(8):1363-1373(1992)
【非特許文献3】Doita et al., J. Leuk. Biol. 14(2):173-183(1991)
【非特許文献4】Cain et al., Complement 4:75-86(1987)
【非特許文献5】Gallin et al., Int. J. Immunopharmacol. 14(2):173-183(1992)
【非特許文献6】Mackin et al., FASEB J. 8: A216(1994)
【非特許文献7】Putsiaka et al., Blood 82:3695-3700(1993)
【非特許文献8】Wakshull et al., J. Cell. Biochem. suppl. 18A:22(1994)
【非特許文献9】Mackin et al., (1994); Brunke-Reese and Mackin, FASEB J. 8:A488(1994)
【非特許文献10】Wakshull et al., (1994)
【非特許文献11】Goldman(Immunology 63(2):319-324(1988)
【非特許文献12】Exp. Cell. Res. 174(2):481-490(1988)
【非特許文献13】Engstad and Robertsen, Dev. Comp. Immunol. 18(5):397-408(1994)
【非特許文献14】Muller et al., Res. Immunol. 145:267-275 (1994)
【非特許文献15】Czop, Advances in Immunol. 38:361, 398(1986)
【非特許文献16】Czop and Kay, J. Exp. Med. 173:1511-1520(1991)
【非特許文献17】Szabo et al., J. Biol. Chem. 270:2145-2151(1995)
【非特許文献18】Thornton et al., J. Immunol. 156:1235-1246(1996)
【非特許文献19】Konopski et al., Biochem. Biophys. Acta 1221:61-65(1994)
【非特許文献20】Muller et al., J. Immunol. 156:3418-3425(1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
残念ながら、各グループは、その起源、調製方法、純度及び特徴が大幅に異なるβ-グルカン調製物を使用している。さらに、これらのβ-グルカンと標的細胞との間の相互作用の生物学及び生物化学を特徴付けるために、異なる細胞タイプ及び種、一次と株化の両方の細胞系列、及び異なる機能読み出しが使用されている。然るに、Czopによって記載されたレセプターがCR3でないことは明らかである(Szabo et al. (1995))が、これらの研究者によって記載された多様なレセプターの間の関係は定義されていない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、非誘導化水溶性ベータ-(1,3)-グルカンが、ラットのNR8383マクロファージに位置する新規なレセプターを特異的に活性化するとの発見に関連する。ここに記載するとおり、放射性同位元素標識された、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンを、ラットNR8383細胞から誘導された膜レセプターへの、このβ-グルカンの結合を測定するために使用した。非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンのレセプターは、タンパク質であり、膜への特定且つ飽和可能な結合を示し、可溶性β-グルカンのサブクラスについて高度に選択的である。ここに記載した研究結果は、この、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンのレセプターを特徴付け、粒状または可溶性β-グルカンについて周知のβ-グルカンレセプターと明確に区別し、その一方で、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンの生物学的活性の機構についての、重要な情報を明らかにするものである。
【0006】
本発明は、ここに記載したレセプターを含有する単離調製物に関する。さらに、本発明は、β(1,3)-グルカン並びにβ(1,3)-グルカン含有生物を、単離、濃縮、もしくは精製する方法に関し、さらに、試験試料中のβ(1,3)-グルカンもしくはβ(1,3)-グルカン含有生物の量を定量するためのアッセイにも関する。試験試料は、流体もしくは固体であってよく、動物由来(例えば、血液、血清、血漿、尿、便、粘膜、痰、胆汁、腹水、創傷分泌物、腟排出物、滑液、脳脊髄液、腹膜洗浄液、肺洗浄液、眼液(ocular fluid)、唾液もしくは全組織抽出物等の生物学的流体;あるいはまた、試験試料は、皮膚もしくは他の組織等の固形標本);植物由来(植物組織、植物組織抽出物、果実もしくは果実抽出物、種子もしくは種子抽出物、樹液、もしくはホモジナート);微生物由来;ウィルス細胞;菌細胞;組織培養物;環境由来;食物由来;または発酵工程由来の複合物を含む多様な起源のものであって良い。
【0007】
本発明の方法においては、ここに記載のレセプターは、試験試料から、β(1,3)-グルカン及び/またはβ(1,3)-グルカン含有生物を捕捉もしくは精製するために使用されている。前記β(1,3)-グルカンレセプターもしくは試験試料は、固相もしくは流体相に連結もしくは結合可能である。試験試料は、試験試料中に存在しうるあらゆるβ(1,3)-グルカンがレセプターに結合し;そこで得られるβ(1,3)-グルカンとレセプターとの複合体(“一次複合体”)を単離することができ、よってβ(1,3)-グルカンを単離することのために好適な条件下でレセプターと接触させられる。別の実施態様では、一次複合体の存在がβ(1,3)-グルカンまたはβ(1,3)-グルカン含有生物の存在を示すため、試験試料中のβ(1,3)-グルカンまたはβ(1,3)-グルカン含有生物を検出するために、一次複合体を検出することも可能である。別の実施態様では、試験試料中のβ(1,3)-グルカンの量が、放射性同位元素標識された非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンとレセプターとの複合体の量に反比例するため、β(1,3)-グルカンの存在は競争アッセイにより検出可能であり、ここでは放射性同位元素標識された非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンとレセプターとが、試験試料と共にインキュベートされる。試験試料中のβ(1,3)-グルカン(またはβ(1,3)-グルカン含有生物)の存在は、菌感染または菌汚染を示す。これらの方法及びアッセイ、並びにキットに使用可能な抗体もまた、本発明の範囲内である。
【0008】
本発明はまた、シグナル伝達経路を変化させる(例えば活性化もしくは不活性化する)方法、例えばレセプター・ポジティブ細胞、すなわち非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンのレセプターを含有する細胞において、一以上の転写制御因子のモジュレーションを経るものにも関連する。本発明の一の実施態様においては、シグナル伝達経路が、NF-κB、NF-IL-6及び/またはAP-1の転写制御因子ファミリーからの一以上の転写制御因子によってモジュレーションもしくは制御される。
【0009】
本発明の方法により変化されうる、別のシグナル伝達経路には、ras/raf-1/MAPキナーゼ(ERK)経路、G-蛋白質/ホスホリパーゼC/プロテインキナーゼC経路、非-G-蛋白質/ホスホリパーゼC/プロテインキナーゼC経路、JAK/STAT経路、ホスホリパーゼA経路、G-蛋白質/ホスホリパーゼD/ホスファチジン酸経路、c-AMP-依存経路、c-Jun N-末端キナーゼ(JNK、ストレス活性化プロテインキナーゼ(SAPK)としても既知)経路、IκBキナーゼα(IKKα)経路、蛋白質チロシンキナーゼ経路、及び酸素ラジカル経路が含まれる。各経路において、シグナル経路の好適な活性化物質または指示薬は、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンの、そのレセプターへの結合によって活性化され、この結合のモジュレーションが、対応するシグナル伝達を変化させることができる。
【0010】
本発明の方法によれば、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンのレセプターの活性は、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンもしくは非誘導化水溶性β(1,3)-グルカン活性を擬態する物質の結合によって活性化され、これによりシグナル伝達工程が活性化されて、一以上の転写制御因子(例えば、NF-κB、NF-IL-6及び/またはAP-1の転写制御因子ファミリーからのもの)が活性化される。これらの転写制御因子もしくは、転写因子活性化の経路中の酵素(ここでは“経路酵素”と呼称)の活性化は、結合したシグナル伝達経路の活性化を測定するために使用可能である。レセプターの活性化は、他の事項に加え、レセプターコンフォメーションにおける変化、リガンド-レセプター複合体の生成、またはリガンド-レセプター複合体の変化を含みうる。レセプターの活動は、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンの結合及び活性化能を擬態する物質、例えばグルカンの別の型によって開始可能である。独特の実施態様では、転写制御因子が、リガンド結合の結果として活性化される。別の実施態様では、転写制御因子の活性は、レセプターに結合する(然るに非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンが排除される)が、レセプターを活性化する能力には欠ける物質によって部分的または完全に低減される。
【0011】
本発明はまた、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンのレセプターへの結合を変化(例えば増大または低減)させる物質を同定するためのアッセイに関する。前記アッセイには、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンがそのレセプターに結合するために好適な条件下で、放射性同位元素標識された、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンと、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンのレセプターと、及び被験物質とを混合する工程が含まれる。被験物質存在下における非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンのそのレセプターへの結合の程度は、測定され、被験物質の非存在下における結合の程度と比較され;結合の程度の差により、前記物質が非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンのそのレセプターへの結合を変化させることが示される。前記物質の存在下における結合程度の増大は、前記物質が、結合を促進、即ち延長または増強している、または非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンのレセプターのアゴニストであることを示す。前記物質の存在下における結合程度の減少は、前記物質が、結合を縮小、即ち短縮または減少させている、または非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンのレセプターのアンタゴニストであることを示す。本発明はまた、ここに記載のアッセイによって同定された物質にも関し、よって、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカン活性のアゴニスト及びアンタゴニストにも関する。
【0012】
本発明はまた、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンが細胞シグナル伝達経路に及ぼす作用、例えば転写制御因子の活性化を変化(例えば増加または減少)させる物質を同定するための新規なアッセイにも関する。このアッセイには、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンのそのレセプターへの結合が起こる条件(すなわち非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンが、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンのレセプターに結合するために好適な条件)の下で、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンと、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンのレセプターと、及び被験物質とを混合する工程が含まれる。非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンのそのレセプターへの結合により、該レセプターが活性化され、これが今度は、転写制御経路のそれぞれのシグナル伝達経路において、NF-κB、NF-IL-6及び/またはAP-1ファミリーからのもしくは酵素等の、一以上の転写制御因子のモジュレーションによって例示もしくは測定される通りシグナル伝達を活性化する。被験物質の存在下での、選択された転写制御因子もしくは経路酵素の活性化の程度を測定し、被験物質の非存在下における、選択された転写制御因子もしくは経路酵素の活性化の程度と比較する。活性化の程度の差異により、前記物質が、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンの、転写制御因子もしくは経路酵素の活性化に及ぼす作用を変化させることが示される。前記物質の存在下における転写制御因子もしくは経路酵素の活性化における増大は、前記物質が、活性化を促進、即ち延長または増強していることを示す。前記物質の存在下における転写制御因子もしくは経路酵素の活性化の減少は、前記物質が、活性化を縮小、即ち短縮または減少させていることを示す。
【0013】
本発明のアッセイ及び方法は、感染症、炎症、自己免疫疾患、虚血再灌流障害、癌、喘息及び過敏性疾患の治療に使用される物質及び薬剤を同定するために使用可能である。ここに記載のアッセイ及び方法はまた、非誘導化水溶性ベータ-(1,3)-グルカン作用を延長もしくは擬態する薬剤を同定するために使用可能であり、これにより、例えば炎症、造血、感染症の予防及び治療、血小板生成、末梢血液前駆体細胞援動及び創傷治癒等の非誘導化水溶性ベータ-(1,3)-グルカンが使用可能なあらゆる治療もしくは予防向けの応用において使用可能である。これらの物質もしくは薬剤は、例えばグルカンのそのレセプターへの結合を延長すること、もしくはその効果によって、非誘導化水溶性ベータ-(1,3)-グルカンの作用を増大させる働きをする。
【0014】
本発明はまた、これらに限定されるものではないが、非誘導化水溶性ベータ-(1,3)-グルカンのレセプター上での非誘導化水溶性ベータ-(1,3)-グルカンの結合部位について設計されたペプチドもしくは有機小分子にも関する。一つの実施態様においては、こうした物質もしくは薬剤は、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンレセプターと結合するレセプター結合部位の活性を擬態し、よってレセプターへの結合に利用可能なβ(1,3)-グルカンの量を減少させ、シグナル伝達などの下流の出来事の活性化を減ずるように設計可能である。本発明はまた、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカン活性の、その結合及び非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンの活性化に関するアゴニストもしくは擬剤、例えばグルカンの別の型にも関する。あるいはまた、前記物質もしくは薬剤は、レセプター結合部位に結合し、これを非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンによる結合に利用不可能とするように設計可能であるため、本発明は、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカン結合活性のアンタゴニストにも関する。
【0015】
ここに記載の研究は、多くの領域に応用を有する。例えば。これは非誘導化水溶性β(1,3)-グルカン製造方法のモニタリング及び市販用発売のための製品特徴付けにおいて、流体中のβ-グルカンの測定し、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンのレセプターと相互作用する物質の構造−活性関係を検定及び決定するために使用可能である。さらに、この研究は、薬剤及び小分子を含む多様な物質の、多形核白血球、単核細胞、マクロファージ及び上皮細胞などのレセプターポジティブ細胞への標的を定めた送達にも応用を有する。ここに記載の結果はまた、精製スキームにおいてはレセプターポジティブ細胞及びレセプターネガティブ細胞の両方について、並びにアンチレセプター抗体の生成においては診断目的に使用可能である。さらにまた、本発明の方法及びアッセイは、試験試料中のβ(1,3)-グルカンの、特異的且つ高度に感受性の検出を可能にし、高価な装備もしくは熟練した人員を要せずに真菌血症の診断及び菌汚染の検出を容易にする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、H-TH-グルカンの、NR8383細胞への用量依存結合の図示である。黒丸は全結合;白丸は特異的結合;黒角は非特異的結合を示す。
【図2A】図2Aは、H-TH-グルカンのNR8383細胞への結合のβ-グルカン選択性の図示であり、非標識競争的低分子量β-グルカンを多様な濃度で使用する競争結合アッセイによって測定したものである。黒丸はTH-グルカン;白角は低分子量(LMW)-グルカンを示す。
【図2B】図2Bは、H-TH-グルカンのNR8383細胞への結合のβ-グルカン選択性の図示であり、非標識競争的極高分子量β-グルカンを多様な濃度で使用する競争結合アッセイによって測定したものである。黒丸はTH-グルカン;白角は極高分子量(VHMW)-グルカンを示す。
【図2C】図2Cは、H-TH-グルカンのNR8383細胞への結合のβ-グルカン選択性の図示であり、非標識競争的β-グルカン、スクレログルカンを多様な濃度で使用する競争結合アッセイによって測定したものである。黒丸はTH-グルカン;白角はスクレログルカンを示す。
【図3A】H-TH-グルカンのラクトシルセラミドへの結合のβ-グルカン選択性の図示であり、非標識競争的β-グルカン、LMW-グルカンを多様な濃度で使用する競争結合アッセイによって測定したものである。黒丸はTH-グルカン;白丸はLMW-グルカンを示す。
【図3B】H-TH-グルカンのラクトシルセラミドへの結合のβ-グルカン選択性の図示であり、非標識競争的β-グルカン、VHMW-グルカンを多様な濃度で使用する競争結合アッセイによって測定したものである。黒丸はTH-グルカン;白丸はVHMW-グルカンを示す。
【図3C】H-TH-グルカンのラクトシルセラミドへの結合のβ-グルカン選択性の図示であり、非標識競争的β-グルカン、スクレログルカンを多様な濃度で使用する競争結合アッセイによって測定したものである。黒丸はTH-グルカン;白丸はスクレログルカンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の、前述の、及び他の目的、特徴及び利点は、添付の図面に示したように、以下の、本発明の好ましい実施態様のより詳細な説明から明確になるであろう。
本発明は、非誘導化水溶性ベータ-(1,3)-グルカン(1992年8月21日に出願された米国特許出願第07/934,015号を参照のこと。その教示は、ここに参照のため取り込むこととする。)がラットのNR8383マクロファージに位置する新規なレセプターに特異的に結合するとの発見に関連する。非誘導化水溶性ベータ-(1,3)-グルカンはまた、米国特許出願第08/400,488号、同08/432,303号、同07/934,015号及び同08/469,233号並びに、米国特許公報第5,322,841号、同5,488,040号、同5,532,223号及び同5,783,569号にも記載されている(これら全ての教示を、参照のためここに取り込むこととする)。ここに記載の研究結果は、この、非誘導化水溶性ベータ-(1,3)-グルカン(TH-グルカンとしても既知)のレセプターを特徴付け、周知のβ-グルカンレセプターと明確に区別する一方で、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンの生物学的活性の機構についての、重要な情報を明らかにするものである。
【0018】
非誘導化水溶性ベータ-(1,3)-グルカンのレセプターは、主としてラットNR8383マクロファージ、とりわけ槽マクロファージ中に位置する。ここに用いる通り、“レセプター”は従来のレセプター分子並びに結合部位を包含することを企図するが、こうした結合部位が、それ自体の作用を有することができ、または第二の分子もしくは結合部位を活性化して効果(第二部位の“アンマスキング”としても既知;Sandberg et al., Infect. Immun. 63(7):2625-2631(1995))を生み出すためである。ここに用いるとおり、“レセプター”はまた、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンに対して親和性を有する化合物を包含することを企図するが、これらの化合物は、レセプター擬剤もしくはレセプターアナログであってよく、天然の産出源から単離可能、あるいは科学的もしくは合成によりに産出可能である。“NR8383レセプター”、“NR8383細胞上のレセプター”及び“NR8383細胞由来のレセプター”なる語は、上述のレセプターを意味し、これは以下に説明するNR8383細胞上に同定されるレセプターの、所定の特徴、例えば蛋白様組成、膜との結合、所定の結合親和性、温度感受性、β−グルカン選択性、トリプシン感受性及び/または転写因子の活性化等を有する。レセプター(ここでは、“蛋白質レセプター”もしくは“蛋白様レセプター”とも呼称)は、NR8383細胞並びに他のタイプの細胞上に存在可能であり、単離(即ち、細胞から分離)することも可能である。NR8383細胞については、例えば、Helmke, R. J. et al., In Vitro Cell Bevelop. Biol. 23:567-574(1987); Helmke, R.J. et al., In Vitro Cell Develop. Biol. 25:44-48(1989)が参照される。
【0019】
三重螺旋構造をとる、標識非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンの、NR8383細胞におけるレセプターへの結合は、特異的且つ飽和可能であり、二部位モデルによって、45pM及び170pMの親和性で行われた。さらに、R8383細胞における、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンのレセプターへの結合は、4℃もしくは37℃のいずれにおいても起こった。標識した非誘導化水溶性β(1,3)-グルカン(TH-グルカン)と、低分子量(LMW)-グルカン(約8,000−120,000ダルトン)及び極高分子量(VHMW)-グルカン(およそ1,000,000ダルトンより大)、並びに三重螺旋構造をとる非標識非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンとは、競争的にNR8383レセプターに結合したが、スクレログルカンはしなかった。非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンのNR8383細胞上のレセプターへの結合は、トリプシンを用いた予備処理によって破壊されるが、結合活性の回復は蛋白質合成に依存しており、NR8383が蛋白質であることを示した。NR8383細胞においては、LMW-グルカン及びVHMW-グルカン(スクレログルカンではない)がNF-κB-様因子の活性化を誘発したが、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンが、MAPキナーゼJNK及びシグナルサムキナーゼIKKαのプロテインキナーゼを刺激した一方でMAPキナーゼERK1/2もしくはp38のプロテインキナーゼは刺激しなかった。以下の実施例中に記載したとおり、NR8383細胞中のレセプターのこれらの特徴は、他の、既に同定された非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンレセプターとは、親和性、温度感受性、β-グルカン選択性及びトリプシン感受性において相違する。したがって、NR8383細胞のレセプターは、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンの、これまで同定されていなかったレセプターを表す。したがって、本発明は、ここに記載した蛋白様レセプターを含有する単離調製物であって、これは、三重螺旋型の非誘導化水溶性β(1,3)-グルカン等の非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンであるリガンドに結合(例えば、特異的及び選択的に)するものである。
【0020】
酵母もしくは菌不溶性β(1,3)-グルカンを含むβ(1,3)-グルカンを捕捉、濃縮または精製する方法、並びに、β(1,3)-グルカン含有微生物を捕捉、濃縮または精製する方法が、NR8383細胞由来のレセプターを使用して、今や利用可能である。さらに、試験試料中のβ(1,3)-グルカンの量を定量するアッセイをここに記載したが、これらのアッセイは、菌感染の診断に利用可能である。前記アッセイ及び方法に有用なキットもまた記載した。前記方法、アッセイ及びキットは、β(1,3)-グルカン等の可溶性β(1,3)-グルカン及びグルカンの別の型(例えば、LMW-グルカン、HMW-グルカン、及びVHMW-グルカン)について、上述のβ(1,3)-グルカンレセプターの親和性を利用する。
【0021】
本発明の方法によれば、菌またはβ(1,3)-グルカン含有生物を含有することが既知もしくは想定される試料が得られる。試験試料は、液体もしくは固体であって良く、動物由来(例えば、ほ乳類の細胞または組織);植物細胞もしくは組織、微生物細胞、ウィルス細胞、菌細胞、組織培養物、環境由来、食物由来、または発酵工程由来の複合物を含む多様な起源のものであって良い。例えば、試験試料が、菌感染が疑われる人の個体起源のものなどの動物由来である場合、試験試料は、血液(全血、全血清または全血漿)、尿、便、粘膜、痰、胆汁、腹水、創傷分泌物、腟排出物、滑液、脳脊髄液、腹膜洗浄液、肺洗浄液、眼液、唾液もしくは全組織抽出物等のなどの生物学的流体であって良く、あるいはまた、試験試料は、皮膚もしくは他の組織等の固形標本であっても良い。菌感染が疑われる個体が、免疫無防備状態である場合は、好ましい試験試料は尿試料である。試料が植物由来である場合、これは、植物組織、植物組織抽出物、果実もしくは果実抽出物、種子もしくは種子抽出物、樹液、もしくは植物ホモジナート等の流体もしくは固形標本であって良い。試験試料はまた、水、土壌もしくは土壌抽出物等の環境由来、あるいは調製食品などの食物由来のものであって、菌汚染の恐れのあるものであると良い。あるいはまた、試験試料は、発酵肉汁などの発酵工程起源の試料であってもよい。
【0022】
試験試料が、蛋白質を豊富に含有する場合は、本発明のアッセイを行う前に、標準トリクロロ酢酸もしくは過塩素酸沈降法または標準的な70%エタノール沈降法を使用する沈降などの脱蛋白質工程を実行可能である(Methods in Enzymology Vol. 182: Guide to Protein Purification (Deutscher, M. P., Ed., Academic Press, Inc, San Diego CA, 1990), Chapter 22, pp. 285-306)。しかしながら、こうした工程は、本発明の方法の実行に必要ではない。
【0023】
本発明の方法においては、ここに記載の蛋白様レセプターは、試験試料からのβ(1,3)-グルカン及び/またはβ(1,3)-グルカン含有生物の捕捉または精製に使用される。
【0024】
本発明のこの方法の一の態様においては、前記レセプターは固相(例えば、フィルター、セルロースもしくはニトロセルロースなどの膜、プラスチック(例えばマイクロタイタプレート、ディップスティック)、ガラス(例えばスライド)、ビーズ(例えば、ラテックスビーズ)、粒子、有機樹脂、もしくは非有機固相)または流体(例えば、TRIS緩衝液またはリン酸緩衝液)相に連結可能である。固相もしくは流体相へのレセプターの結合は、例えば空気乾燥、熱乾燥、または化学反応を含む従来法によって達成可能である。当該方法のこの態様においては、試験試料を、試験試料中に存在しうるあらゆるβ(1,3)-グルカン(もしくはβ(1,3)-グルカン含有生物)のレセプターへの結合に好適な条件下で、固相もしくは流体相に結合したレセプターと接触させる。レセプター二結合したβ(1,3)-グルカンもしくはβ(1,3)-グルカン含有生物は、ここでは“一次複合体”と呼称される。一次複合体の生成は、β(1,3)-グルカン、もしくはβ(1,3)-グルカン含有生物が試験試料から“捕捉”されたことを示す。試験試料から“捕捉”されたβ(1,3)-グルカンもしくはβ(1,3)-グルカン含有生物は、レセプターに結合したβ(1,3)-グルカンもしくはβ(1,3)-グルカン含有生物である。
【0025】
本発明の別の実施態様では、試験試料は、試験試料中に固形支持体を浸すこと、流体試験試料を固形支持体に滴下すること、もしくは固形支持体上に固形試験試料を塗りつけることによって、固形支持体に結合(例えば吸収、被覆、結合、共有結合による結合、親和力による結合)可能である。所望により、試験試料は、例えば固形試験試料である場合には、固形支持体との結合に先立ち、食塩水もしくは他の適当な生物学的緩衝液等の液体と混合可能である。試験試料を固形支持体に結合させた(“結合試験試料”の生成)後、試験試料中に存在しうるあらゆるβ(1,3)-グルカンのレセプターへの結合に好適な条件下で、レセプターを結合試験試料に接触させる。結合試験試料中であらゆるβ(1,3)-グルカンもしくはβ(1,3)-グルカン含有生物に結合したレセプターもまた、“一次複合体”と呼称する。
【0026】
この方法のいずれの実施態様においても、生成したあらゆる一次複合体を単離し、試験試料からβ(1,3)-グルカン(もしくはβ(1,3)-グルカン含有生物)を得ること、の単離すること、濃縮することもしくは精製することが可能である。一次複合体を、免疫沈降反応もしくは他の方法等の定法によって得、もしくは単離し、濃縮もしくは精製した一次複合体を生成し、ここから定法(Current Protocols in Molecular Biology, Vol. II. Ch. 10 (Ausubel, F et al., eds., John Wiley & Sons, 1997を参照のこと)によって濃縮もしくは精製されたβ(1,3)-グルカン(もしくはβ(1,3)-グルカン含有生物)が分離可能である。
【0027】
本発明の別の実施態様では、β(1,3)-グルカン(もしくはβ(1,3)-グルカン含有生物)が試験試料中に存在するか否かを決定するためのアッセイにおいて、一次複合体が検出可能である。さらに、一次複合体の量が測定可能であって、一次複合体の濃度は、試験試料中に存在するβ(1,3)-グルカン(もしくはβ(1,3)-グルカン含有生物)の量に比例する。β(1,3)-グルカンの量の検出及び/または決定には、アンチ-β-グルカン抗体(単一クローン性もしくは多クローン性)または抗体フラグメント等の、一次複合体と選択的に結合する物質を使用するβ(1,3)-グルカンの検出;Limulus amebocyte lysateもしくはLimulus lysate G因子アッセイ(Mori, T. et al., Eur. J. Clin. Chem. Biochem 35(7):553-560(1997); Hossai, M. A. et al., J. Clin. Lab. Anal. 11:73-77(1997); Obayashi, T. et al., J. Med. Vet. Mycology 30:275-280(1992)、各教示は参照のためにここに取り込むこととする)等による、β(1,3)-グルカンによって沈降させた酵素反応の検出;β-グルカンと反応する酵素の使用;または他の手段を含む、多様な方法が使用可能である。好ましい実施態様では、Limulus lysate G因子アッセイを使用する。該方法の部油の好ましい実施態様では、一次複合体は、放射性ヌクレオチド(例えばラジオイムノアッセイ)、染料、蛍光化合物、ビオチン及びストレプタヴィジン等のレセプター上で検出可能な標識の使用によって検出される。所望により、一次複合体の量は、既知のβ(1,3)-グルカン標準で生じる標準曲線と比較することができる。
【0028】
本発明の別の実施態様では、競争アッセイを使用して、試験試料中に存在するβ(1,3)-グルカン(もしくはβ(1,3)-グルカン含有生物)の量を決定することができる。例えば、標識された(例えば、放射性ヌクレオチド、染料、または蛍光性標識によって)非誘導化水溶性ベータ-(1,3)-グルカン、または低分子量(LMW)-グルカン(約8,000−120,000ダルトン、MALLSにより決定)、高分子量(HMW)-グルカン(およそ210,000より大、1,000,000より小、MALLSにより決定)もしくは極高分子量(VHMW)-グルカン(およそ1,000,000ダルトンより大、MALLSにより決定)等の他の可溶性β(1,3)-グルカンを、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンがその結合剤に結合するために好適な条件下で、ここに記載の蛋白様レセプター及び試験試料と共にインキュベートする。次いで、標識された非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンを含有する一次複合体の量が決定される。この量を、コントロール試料(すなわち、非標識β(1,3)-グルカンの規定量を有する試料)もしくは一連のコントロール試料(例えば標準曲線)中で、標識化非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンをレセプターと共にインキュベートすることにより生成する一次複合体の量と比較する。試験試料中のβ(1,3)-グルカンの量は、標識された非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンを含有する一次複合体の量と反比例する。
【0029】
β(1,3)-グルカンもしくはβ(1,3)-グルカン含有生物の存在の検出及び定量は、真菌血症もしくは菌感染症の診断において有用である。固体において菌感染症を診断するためには、例えば、生物学的流体試料等の試料を個体から得る。該試料を、上述の通りβ(1,3)-グルカンの存在について調べる。試験試料中のβ(1,3)-グルカンの存在は、菌細胞壁の構成要素の存在を示し、よって菌の存在もしくは汚染、または感染を示す。同様に、環境由来もしくは食物由来の試料中のβ(1,3)-グルカンの存在は、菌の存在もしくは汚染を示す。さらに、β(1,3)-グルカンもしくはβ(1,3)-グルカン含有生物の量の定量により、感染もしくは汚染の深刻さに関する情報を提供可能である。本発明の方法及びアッセイは、試験試料中のβ(1,3)-グルカンの存在の正確且つ特異的な同定を提供し、よって菌感染及び汚染の診断及び治療を容易にする。
【0030】
さらに、ここに記載の研究の結果として、非誘導化水溶性β-(1,3)-グルカン製造方法をモニターし、生成物を特徴付けることができる。換言すれば、試験試料は、標準的な競争レセプター結合アッセイに含めることができ、当該分子のレセプターに対する相対的親和性に関しての特徴付けができる。この特徴付けは、以下の特徴の幾つかもしくは全てについて、情報を得るであろう:バッチ毎の品質、特定の型のβ(1,3)-グルカンとしての生成物の同定、及び生成物の精製。
【0031】
試験試料はまた、標準的捕捉もしくは競争アッセイに含めることができ、標準試料と比較して構造−活性関係を明らかにすることができる。あるいはまた、試験試料結合を、放射線同位元素標識後に直接試験することができる。試料を、非誘導化水溶性ベータ-(1,3)-グルカンレセプター仲介アッセイにおいて試験することもでき、これらの機能の抑制または刺激について試験する。例えば、こうしたアッセイは、ポリマーもしくは小分子レセプターアゴニストの発生において、もしくは不適切な免疫増強を抑制するためのレセプターアンタゴニストの発生、例えば免疫抑制治療の間に日和見菌感染の結果として起こりうる移植拒絶反応の回避のために使用可能である。
【0032】
ここに開示した発見はまた、レセプターポジティブ細胞への様々な物質の標的を定めた送達のために使用可能である。例えば、多様な物質が、マクロファージなどのレセプターポジティブ細胞を標的としうる接合分子の生成のため、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンに接合(例えば、化学的接合、架橋もしくは共有結合)可能である。こうした標的を定めた送達システムは、耐性細胞内病原菌(例えば、ミコバクテリウム、リーシュマニア、マラリア)のための抗菌剤、レセプターポジティブ白血病のための細胞、遺伝子治療(例えば、サイトカイン生成の増進もしくは機能不全性酵素の置き換え)のための遺伝子、または特定の抗体もしくはT細胞活性化の提示及び発生を増進するための抗原等の物質の送達を増進するために使用可能である。
【0033】
非誘導化水溶性β-(1,3)-グルカンの、そのレセプターへの結合特異性により、レセプターポジティブ及びレセプターネガティブ(すなわち、レセプターを含まない)の細胞両方の精製方法が提供される。例えば、非誘導化水溶性ベータ-(1,3)-グルカンは、固形マトリックスに付着させてアフィニティマトリックスとして使用し、レセプターポジティブ細胞を陽性選択するか、レセプターネガティブ細胞を陰性選択することが可能である。同様に、アンチレセプター抗体は、非誘導化水溶性β-(1,3)-グルカンの代わりに使用可能である。この方法によって精製された細胞は、細胞療法における使用に拡張可能である。
【0034】
さらにまた、本発明は、診断目的のアンチレセプター抗体の生成を可能にする。モノクローナルもしくはポリクローナル抗体は、特殊添加もしくは精製したレセプター調製物を使用し、定法によって製造可能である。したがって、本発明はまた、非誘導化水溶性β-(1,3)-グルカンのレセプターに結合する抗体にも関する。例えば、記載のレセプターに結合するポリクローナル及びモノクローナル抗体は、本発明の範囲内である。マウス、ハムスター、ヤギまたはウサギ等のほ乳類を、免疫抗原形態のレセプター(すなわち、抗体反応を誘発することのできるレセプターの抗原性部分)を用いて免疫化可能である。免疫抗原性を与えるための技術には、例えば、担体への接合または当業界において周知の別の技術が含まれる。抗原は、補助剤の存在下で投与可能であり、免疫化の進行は、血清もしくは血漿中の抗体滴定量の検出によりモニター可能である。標準ELISAもしくは他のイムノアッセイを、抗原としての免疫抗原と共に使用して、抗体のレベルを検定可能である。ここに記載の蛋白様レセプターに対する抗体は、例えば、Current Protocols in Immunology (John Wiley & Sons, 1997)に記載のもの等の定法によって製造可能である。こうした抗体は、疾患病理学(例えば潜在的菌感染もしくは白血病への反応)を反映する、レセプターポジティブもしくはレセプターポジティブ細胞の数における変化を同定するために使用可能である。
【0035】
本発明はまた、レセプターポジティブ細胞、すなわち、ここに記載の非誘導化水溶性β-(1,3)-グルカンのレセプターを含有する細胞における、例えば転写制御因子もしくはシグナル伝達酵素(経路酵素)の調整による、シグナル伝達経路のモジュレーション(例えば、活性化もしくは不活性化)の方法にも関する。本発明の一の実施態様においては、転写制御因子が、NF-κB、NF-IL-6及び/またはAP-1ファミリーの転写制御因子由来のものである。例えば、転写制御因子は、NF-κB、NF-IL-6及び/またはAP-1であってよい。
【0036】
本発明の方法によれば、非誘導化水溶性ベータ-(1,3)-グルカンのレセプターの活性は、非誘導化水溶性ベータ-(1,3)-グルカンの結合によって活性化され、それでシグナル伝達経路(例えば、酵素のカスケードから成る)が活性化され、そのため転写制御因子(例えば、NF-κB、NF-IL-6及び/またはAP-1ファミリー由来)によって制御される。レセプターの活性化は、他と共にレセプター型の変化、リガンド−レセプター複合体の生成、もしくはリガンド−レセプター複合体の変化を含むことができる。
【0037】
あるいはまた、レセプターの活性は、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカン(例えば別の型のグルカン)の結合及び活性化能を擬態する物質によって活性化可能である。独自の実施態様では、転写制御因子もしくは経路酵素は、リガンド結合の結果として活性化される。別の実施態様では、転写制御因子もしくは経路酵素の活性は、レセプターに結合する(然るに非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンが排除される)が、レセプターを活性化する能力には欠ける物質によって部分的または完全に低減される。
【0038】
本発明の方法によって変化可能な別のシグナル伝達経路には、as/raf-1/MAPキナーゼ(ERK)経路、G-蛋白質/ホスホリパーゼC/プロテインキナーゼC経路、非-G-蛋白質/ホスホリパーゼC/プロテインキナーゼC経路、JAK/STAT経路、ホスホリパーゼA経路、G-蛋白質/ホスホリパーゼD/ホスファチジン酸経路、c-AMP-依存経路、c-Jun N-末端キナーゼ(JNK、ストレス活性化プロテインキナーゼ(SAPK)としても既知)経路、IκBキナーゼα(IKKα)経路、蛋白質チロシンキナーゼ経路、及び酸素ラジカル経路が含まれる。各経路において、シグナル経路の好適な活性化物質または指示薬は、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンの、そのレセプターへの結合によって活性化され、この結合のモジュレーションが、対応するシグナル伝達を変化させることができる。
【0039】
本発明はまた、例えば転写制御因子もしくは経路酵素の活性化等の、シグナル伝達経路上での非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンの作用を変化させる物質を同定するための新規なアッセイにも関する。このアッセイには、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンの、そのレセプターへの結合が起こる条件(すなわち、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンが非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンのレセプターに結合するために好適な条件)下で、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンと、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンのレセプターと、及び被験物質とを混合する工程が含まれる。非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンのそのレセプターへの結合が、レセプターを活性化し、これが今度はNF-κB、NF-IL-6及び/またはAP-1ファミリーのものなどの転写制御因子に示されるようにシグナル伝達経路を活性化する。被験物質の存在下での、選択された転写制御因子もしくは経路酵素の活性化の程度を測定し(例えば、実施例にあるように、転写制御因子に特異的な放射線同位元素胸式DNAオリゴヌクレオチドを使用)、被験物質の非存在下における、選択された転写制御因子もしくは経路酵素の活性化の程度と比較する。活性化の程度の差異が、前記物質が、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンの、転写制御因子もしくは経路酵素の活性化に及ぼす作用を変化させることを示す。前記物質の存在下における転写制御因子もしくは経路酵素の活性化における増大は、前記物質が、活性化を促進、即ち延長または増強していることを示す。前記物質の存在下における転写制御因子もしくは経路酵素の活性化の減少は、前記物質が、活性化を縮小、即ち短縮または減少させていることを示す。
【0040】
既述の方法及びアッセイにおいて有用なキットについてもまた、本発明においては考慮される。こうしたキットは、主に、固相、検出可能な標識、β(1,3)−グルカン結合剤、及び/または標識された非誘導化水溶性β(1,3)-グルカン等の当該方法及びアッセイについて記載された構成要素及び試薬を含む。位置の実施態様においては、該キットは、ここに記載のレセプターをβ(1,3)−グルカン結合剤として含む。好ましい実施態様においては、β(1,3)−グルカン結合剤は、フィルター、セルロースもしくはニトロセルロースなどの膜、プラスチック支持体(例えばマイクロタイタプレート、ディップスティック)、ガラス支持体(例えばスライド)、ビーズ(例えば、ラテックスビーズ)、粒子、有機樹脂、または他の有機もしくは非有機の固相に結合する。
【0041】
下記の実施例は、本発明を詳説する目的に応じたものであり、本発明の範囲に制限を加えるものではない。
ここに記載した全ての参考文献の教示は、参照のためここに取り込むこととする。
【実施例】
【0042】
(実施例1:材料及び方法)
A.材料
Ham's F-12組織培養培地は、Life Technologies (Grand Island, NY)より購入し;ウシ胎児の血清(fcs)及びリポ多糖類(LPS、血清型0128:B12)は、Sigma (St. Louis, MO)より購入し;TH-グルカン、低分子量グルカン(LMW-グルカン、約8,000−120,000ダルトン)、高分子量グルカン(HMW-グルカン、およそ210,000より大、1,000,000より小)、極高分子量グルカン、(VHMW-グルカン、およそ1,000,000ダルトンより大)は、米国特許第5,622,939号公報、同5,783,569号公報、及び同5,817,643号公報に記載の方法によりAlpha-Beta Technology, Inc.において調製し;スクレログルカン(ACTIGUM(商標))は、Sanofi Bio-Industries (Paris, France)より入手した。この報告書のアッセイに使用したスクレログルカンは、穏やかな蟻酸加水分解、中和、及びゲル浸透クロマトグラフィーにおけるサイズフラクションによって変性し、TH-グルカンと同等の流体力学的体積とした。全てのβ-グルカン試料は、Limulus amoebocyte lysateアッセイにより、内毒素汚染について陰性と判定された。他の全ての試薬等級の材料は、SigmaもしくはBoehringer Mamheim (Indianapolis, IN)から購入した。GST融合タンパク質ATF-2、ELK-1、c-junは、New England Biolabs (Beverly, MA)より入手し;アンチ-ERK1/2、-p38、-JNK、及び-IKKα抗体、並びにGST融合タンパク質IκBαは、Santa Cruz Biotechnology, Inc.(Santa Cruz, CA)より入手した。NR8383細胞については、例えば、Helmke, R. J. et al., In Vitro Cell Develop. Biol. 23;567-574 (1987); Helmke, R. J. et al., In Vitro Cell Develop. Biol. 25;44-48 (1989)をを参照のこと。分子量は、MALLSによって決定した。
【0043】
B. H-TH-グルカンの調製
TH-グルカン(Alpha-Beta Technology, Worcester, MA)を、NaIO(10mg/ml;Sigma)と共に、化膿素を含まない滅菌(SPF)水中で、室温にて72時間インキュベートした。0.5mlのエチレングリコールの添加により過ヨウ素酸塩をクエンチした。酸化TH-グルカンを、SPF水に対して透析した後、100mCiのNaB(New England Nuclear, Boston, MA)で還元的に標識した。H-TH-グルカンを、透析及び限外濾過によってトリチウム原子を含む低分子量分解生成物から分離した。標識生成物の純度を、ゲル浸透クロマトグラフィーによって検定した。
【0044】
C.NR8383全細胞結合アッセイ
NR8383細胞を、標準組織培養技術を用いて、15%のウシの胎児の血清を含有するHam's F-12培地(F-12/fcs)中で成長させた。細胞を、掻爬及び遠心分離(400×g、5分間、室温)によって、およそ3×10細胞/mlの細胞密度で採取した。細胞をPBS中に再懸濁させ、H-TH-グルカン(最終的に1μg/ml)及び、図に示したとおり食塩水もしくは競合物のいずれかと混合した。細胞濃度は、0.25−1.0×10細胞/ウェル/200μlであった。結合反応を、60分間、37℃にて進行させた。インキュベート時間の終点で、細胞を、遠心分離により2×250μlのPBS洗浄し、0.1NのNaOHで溶解させ、液体シンチレーション計数により放射能を測定した。
【0045】
NR8383細胞へのH-TH-グルカン結合の用量依存を、3.3×10NR8383細胞/mlを、1000倍過剰の非標識TH-グルカンを用いて(非特異的結合)もしくは用いずに(特異的結合)、H-TH-グルカンの濃度を徐々に増加させて(図1に示すとおり)、350μlのHank's 緩衝食塩水(Ca++/Mg++無し;HBSS-)中、60分間、4℃にてインキュベートすることによって検定した。細胞を、遠心分離によりHBSS-中で二度濯ぎ、細胞ペレットを溶解させ、液体シンチレーション計数により放射能を測定した。予備実験により、結合レベル平衡に60分間で達することが示された。これらの実験においては、4℃のインキュベート温度を使用して、リガンド/レセプター内在化の工程を抑制し、結合平衡データの分析を容易にした。インキュベート培地の試料は、インキュベートの終点にて、遊離のH-TH-グルカンの測定のためにとっておいた。特異的結合を、全結合と非特異的結合との差として算出した。データを、等式:
=Σ{Bmax1L/(L+Kd)]+Bmax2[L/(L+Kd)]
[Bは、標識リガンド結合の全量を表し、Lは、標識リガンドの濃度を表し、Bmaxは、部位nの最大結合能を表し、Kdは、部位nに得られた解離定数である]
により、非線形回帰分析(Kaleidagraph, Synergy, Reading, PA)による二部位/二親和性モデルに当てはめた。
【0046】
D.NR8383細胞のトリプシン化
細胞を上述の通り採取し、5mMのEDTAを含有する滅菌PBS中に再懸濁させた。細胞を、別々の試験管に分け入れ、再度遠心分離にかけた後、0.25%のトリプシン(w/v)含有もしくは非含有の1mlのPBS/EDTA中に再懸濁させた。細胞を、35℃にて45分間インキュベートした。インキュベート時間の終点において、0.5mlの大豆トリプシン抑制剤(0.25%、w/v)を添加し、次いで10mlのF-12/fcsを添加した。細胞を、上記の通り遠心分離にかけ、0.7mlのPBS中に再懸濁させるか、または結合活性のアッセイに即座にかけるため、シクロヘキシミド(1μg/ml)を含有もしくは非含有の10mlのF-12/fcs中に再懸濁させ、さらに24時間インキュベートした。結合活性のアッセイのために、細胞を血球計にて計数し、細胞数を均等にした。その後細胞を、結合反応が100μg/mlの非標識TH-グルカンの存在下もしくは非存在下、4℃にて行われたこと以外は、上述の通り検定した。細胞を処理し、上述の通り放射能を測定した。
【0047】
E. ラクトシルセラミドへの結合
ラクトシルセラミドへの、H-TH-グルカン結合を、上述(米国特許出願第08/990,125号、代理人事件整理番号(attorney docket no.)ABY97-04、1997年12月12日出願;その教示は、参照のため、ここにその全体を取り込むこととする)の通り測定した。端的には、ラクトシルアミド(Sigma Chemical Co.)を1mg/mlにてエタノールに溶解させた。3例のアリコート(20μl)を、96-ウェルのポリスチレンプレート(Coster)に塗布し、空気乾燥させた。プレートを、PBS中1%のゼラチン(w/v)300μlと共に37℃にて1−2時間インキュベートすることでブロックした。その後プレートを、PBSで濯いだ(2×200μl)。PBSもしくは非標識多糖類のいずれかを、各ウェルに50ミクロリットル添加し、プレートを37℃にて平衡させた後、H-TH-グルカンを添加した(1μ/ml、最終的に100μl)。プレートを1−2時間、37℃にてインキュベートし、200μlのPBSで二度濯いだ。放射能を、150μlのSolvable(商標)(Du Pont NEN Wilmington, DE)に溶解させて計測した。
【0048】
F. 免疫沈降/キナーゼアッセイ
NR8383細胞の、F-12+0.1%fcs中、5×106細胞/ml×2mlの6ウェルプレート分を、一晩インキュベートした。その後細胞をLPS(1μg/ml)もしくはTH-グルカン(3μg/ml)のいずれかと共に、規定時間、37℃にてインキュベートした。細胞を氷上におき、ウェルから掻爬して10mlの氷温PBSに加えた。細胞を400×gにて5分間、4℃にて遠心分離にかけ、その後1mlのPBS中に4℃で再懸濁させた。細胞を再度遠心分離させ、1μg/mlのロイペプチン、アプロチニン、ペプスタチン、1mMのNaVO4、1mMのPMSFを含有し、10分間4℃にてインキュベートした後、15,000×gにて20分間遠心分離したリーシス緩衝液(20mMのTris pH7.4、137mMのNaCl、2mMのEDTA、25mMのb-グリセロホスファート、2mMのNaピロホスファート、10%のグリセリン、1%のTriton X-100)中に再度懸濁させた。タンパク質含量を、Bradfordアッセイ(Pierce)によって測定した。同等のタンパク質負荷(100−500μg)を、予め下記の通りキナーゼ特異的抗体(図参照)と結合させたタンパク質Aセファロースビーズ(Pierce)に加えた。免疫沈降反応混合物を、2−4時間、回転させつつ4℃にてインキュベートした。その後ビーズを1mlのリーシス緩衝液で3回、1mlのキナーゼ反応緩衝液(25mM HEPES pH7.4、25mM b-グリセロリン酸塩、25mM MgCl2、2mM NaVO4)で1回洗浄し、最後に2mMのDTTを含有する50μlのキナーゼ反応緩衝液中に再懸濁させた。その後、20μlのビーズ、22μlの反応混合物(20μlキナーゼ反応緩衝液、1μl 1mM ATP、1μl/10μCi g-32P-ATP)、0.5μlの2μg/mlキナーゼ基質を混合することにより、キナーゼ反応が開始された。反応を、15−20分間室温にて進行させた後、10μlのLaemmli緩衝液を4回添加し、5分間煮沸することによって終了させた。試料を遠心分離し、反応混合物のアリコートを10% SDS-PAGE上に流し、次いでオートラジオグラフィーを行った。
【0049】
キナーゼ特異的抗体を、下記の通り、予めタンパク質Aセファロースビーズに結合させた。ビーズは1mlのリーシス緩衝液中で二度洗浄し、遠心分離(15,000×g、30秒間)し、0.5体積のリーシス緩衝液中に再懸濁させた。ビーズ懸濁液20ミクロリットルを、ミクロフュージ管に分け入れ、2μl(約0.4μg)の抗体を添加した。ビーズ/抗体混合物を、細胞溶解物の添加前に、20−30分間氷温でインキュベートした。
【0050】
G.電気泳動移動度転移アッセイ(Electrophoretic Mobility Shift Assay)(EMSA)
EMSAを、主にAdams, et al., J. Leuk. Biol. 62(6):865-873(1997)に記載の通り行った。端的には、下記の通り。
・細胞刺激
LPS(1μg/ml)、TH-グルカン(3μg/ml)、低分子量グルカン(LMW-グルカン;3もしくは30μg/ml)、高分子量グルカン(VHMW-グルカン;3μg/ml)、もしくはスクレログルカン(3μg/ml)を培地に添加し、37℃インキュベートを0.5−1.0時間継続した。刺激の後、細胞を氷温のPBS中に掻爬し、一度PBSで濯いだ後、核抽出に用いた。
PMNを、酸シトレートデキストロースで凝固防止したドナー血液から調製した。1.5%のデキストラン(w/v)中に沈殿させた後、細胞を遠心分離し(400×g、7分間)、自己由来血漿中に再懸濁させた。その後、細胞をFicoll勾配(リンパ球分離培地;Organon Teknika, Durham, NC)上に積層させ、遠心分離した(400×g、30分間)。ペレットから回収された細胞を、低張状態で溶解させ、残りのRBCを除去した。残留細胞は、形態学的基準により判断して95%より多くが好中球であり、この後これらを、核抽出物の調製の前に上述の通り刺激した。
【0051】
・核抽出物
EMSAのための核抽出物を、各資料に1.0−2.0×10細胞を使用して、既述の通り調製した(Adams, et al., 1997)。全ての緩衝液に、新たにDTT(0.5mM)、プロテアーゼインヒビターカクテル、及びホスファターゼインヒビターカクテルを補填した。タンパク質濃度を、Bradfordアッセイ(Pierce)により、BSA基準に対して決定した。
【0052】
・電気泳動移動度転移アッセイ(EMSA)
活性化した転写因子を、既述の(Adams, et al., 1997)EMSAを使用して検定した。NF-κBコンセンサス合成二重プローブ(consensus synthetic duplex probe)は、既述の通りとした(Adams, et al., 1997; Lenardo, M. J. and Baltimore, D., Cell 58:227-229(1989)も参照のこと)。32P-標識二重プローブを、ポリヌクレオチドキナーゼで調製した。標識プローブ(0.5pmol)を、3μgの核抽出タンパク質と、10mMのTris-HCl pH7.5、50mMのNaCl,1mMのEDTA、1mMのDTT、5%のグリセリン、0.02%のβ-メルカプトエタノール、0.1−1.0μgのポリ(dI/dC)を含有する溶液(Pharmacia)中で混合した。反応物を25℃にて20分間インキュベートした後、0.5X TBE緩衝液中4%のポリアクリルアミドゲルに通す非変性条件下で電気泳動させた。バンドが、オートラジオグラフィーによって映像化された。
【0053】
(実施例)2:完全なNR8383細胞へのH-TH-グルカン結合
A.NR8383細胞を、/mlを、1000倍過剰の非標識TH-グルカンを用いて(非特異的)もしくは用いずに(全)、H-TH-グルカンの濃度を徐々に増加させて、60分間、4℃にてインキュベートした。インキュベートの終点で、非結合放射能を洗浄により取り除き、細胞関連放射能の量を、上述のように測定した。特異的結合を、全放射能から非特異的なものを減算することにより決定した。結果を図1に示した。特異的結合曲線は、上述のように二部位モデルの非線形回帰分析に適合した。図1のデータは、NR8383細胞へのH-TH-グルカン結合が、用量依存型、特異的且つ飽和可能であることを示している。リガンドの濃度が増大するほど、NR8383細胞は、ますます多量のH-TH-グルカンと結合した(全)。インキュベート混合物への非標識TH-グルカンの添加により、細胞と連合するH-TH-グルカンの量が抑制された(非特異的)。全結合から、非特異的結合を減算した後、特異的結合が約30fm/10細胞にて飽和可能であることが判明した。特異的結合曲線の非線形回帰分析は、明かな解離定数Kd1及びKd2がそれぞれ45pM及び170pMである二部位結合モデルに適合する。結合部位の数は、高親和性及び低親和性の部位についてそれぞれ3,200/細胞及び18,000/細胞であった。NR8383細胞について4℃にて観察された結合活性は、ラクトシルセラミドについて観察されたものと対象を成し、4℃においては結合活性のないことを示した(データ示さず)。
【0054】
B.NR8383細胞及びラクトシルセラミドへのH-TH-グルカン結合の選択性
NR8383細胞上での、H-TH-グルカン結合部位へのβ-グルカン結合の選択性を、競争結合アッセイによって測定した。これらのアッセイでは、NR8383細胞は、H-TH-グルカン及び様々な濃度の非標識競争β-グルカン(LMW-グルカン、VHMW-グルカン;もしくはスクレログルカン)と共に、共インキュベートされる。非結合放射能を取り除き、細胞関連放射能の量を、上述のように測定した。このタイプの実験の結果を、図2A−図2Cに示す(図2A:LMW-グルカン;図2B:VHMW-グルカン;図2C:スクレログルカン)。データの点は、平均%コントロール結合±変形の%係数を表し、TH-グルカンは、各実験にポジティブコントロールとして含めた。非標識TH-グルカン、LMW-グルカン、及びVHMW-グルカンもまた、H-TH-グルカン結合に向けて競争可能であるが、スクレログルカンは、試験した濃度範囲においては有効な競争対象ではなかった。
【0055】
ラクトシルセラミドは、ヒトの好中球におけるTH-グルカンレセプターとして同定されている(米国特許出願第08/990,125号、代理人事件整理番号ABY97-04、1997年12月12日出願;その教示は、参照のため、ここにその全体を取り込むこととする)。これら同一のβ-グルカンの、H-TH-グルカンのラクトシルセラミドへの結合に対して競争する能力を調査した。ラクトシルセラミドを、上述の通り96-ウェルプレート上に被覆し、様々な濃度の非標識β-グルカン(LMW-グルカン;VHMW-グルカン;スクレログルカン)の存在下にて、H-TH-グルカン(1μg/ml)と共にインキュベートした。ウェルを濯ぎ、残留放射能を、上述の通り測定した。結果を図3A−3Cに示す(図3A:LMW-グルカン;図3B:VHMW-グルカン;図3C:スクレログルカン)。非標識TH-グルカン及びVHMW-グルカンは、ラクトシルセラミドへのH-TH-グルカン結合の、有効な競争対象であった。NR8383細胞で得られた結果と対照的に、LMW-グルカンは結合を争えず、一方でスクレログルカンが有効な競争対象であることが判明した。このデータは、NR8383レセプターがラクトシルセラミドとは異なるβ-グルカン選択性を有することを明確に示している。
【0056】
C.NR8383細胞H-TH-グルカン結合活性のトリプシン選択性
NR8383細胞上では、H-TH-グルカンレセプターがトリプシン化に感受性であることが判明した。NR8383細胞を、H-TH-グルカン結合活性の測定前に
トリプシンと共にインキュベートするという実験が行われた。表1には、該実験の結果が示されている。細胞数を、結合アッセイのために標準化し、特異的結合(全結合−非特異的結合)は、0及び24時間の時点でのそれぞれのコントロール値に標準化した。トリプシン予備処理は、非処理コントロール細胞に対して、96%の特異的結合を排除した。細胞を、トリプシン化の後に通常培地中で24時間インキュベートした場合、結合活性は、コントロールレベルを越えてほとんど50%回復した。この回復は、タンパク質合成インヒビターシクロヘキシミド(1μ/ml)によって抑制された。興味深いことに、シクロヘキシミドが非処理のコントロール細胞に加えられる場合、結合活性が94%減少した。これは、H-TH-グルカン結合活性の継続した発現のためには、不安定なタンパク質が必要であることを示唆している。これはレセプター自体、またはタンパク質もしくはそのmRNAのいずれかを安定化するタンパク質を表していた。それにもかかわらず、これらの結果は、NR8383レセプターがタンパク質であって、グリコスフィンゴ脂質ではないことを、強力に示している。

表1:NR8383細胞へのH-TH-グルカン結合に対する、トリプシン及びシクロヘキシミドの作用
【表1】

【0057】
(実施例3:NR8383細胞中で、TH-グルカンによって開始されるシグナル伝達現象)
A.NF-κB様転写因子の活性化
ヒトPMN及びネズミのBMC2.3マクロファージ上での、ラクトシルセラミドを経るTH-グルカン誘発シグナル伝達は、NF-κB様核転写因子を活性化することが示されている(米国特許出願第08/990,125号、代理人事件整理番号(attorney docket no.)ABY97-04、1997年12月12日出願;その教示は、参照のため、ここにその全体を取り込むこととする)。NR8383細胞及びヒトPMNにおけるNF-κB様DNA結合活性を活性化する、TH-グルカン、LMW-グルカン、VHMW-グルカン、及びスクレログルカンの能力を、電気泳動移動度転移アッセイ(EMSA)を用いて比較した。細胞を、β-グルカン(コントロール;LPS、1μg/ml;TH-グルカン、3μg/ml;スクレログルカン、3μg/ml;LMW-グルカン、3μg/mlもしくは30μg/ml;VHMW-グルカン、3μg/ml )と共にインキュベートした。核抽出物を、NF-κB活性の測定のため、上述の通りEMSAによって調製した。NR8383細胞中では、TH-グルカン、VHMW−グルカン、及びLMW-グルカンがNF-κB様DNA結合活性を誘発するが、スクレログルカンはそうではない(データ示さず)。PMN中では、TH-グルカン及びスクレログルカンがNF-κB様DNA結合活性を誘発する一方で、LMW-グルカンはそうではない(データ示さず:VHMW-グルカンは、これらの細胞では試験しなかった)。このように、ラットのNR8383細胞及びヒトのPMNにおけるこれらの多様なβ-グルカンによって開始されるシグナル伝達は、H-TH-グルカン結合を競うこれらの能力と相関する。
【0058】
B.プロテインキナーゼの活性化
最後に、NR8383細胞においてTH-グルカンによって誘発される初期シグナル伝達現象を調査した。とりわけ、プロテインキナーゼアッセイにつながる免疫沈降を利用して、TH-グルカンシグナリングにいずれのプロテインキナーゼカスケードが関わるのかを決定した。NR8383細胞を、LPS(1μg/ml、ポジティブコントロール)、TH-グルカン(3μg/ml)と共に、または添加物無しで、30分間37℃にてインキュベートした。細胞を溶解させ、キナーゼ特異的抗体で免疫沈降させ、上述の通りキナーゼアッセイを行った。等量の蛋白質を各実験において免疫沈降に用いた。TH-グルカンはMAPキナーゼ細胞外ミトゲン制御キナーゼ(ERK1/2)(キナーゼ基質はATF−2−GSTであった)を活性化せず;p38(キナーゼ基質はELK−1−GST)を活性化しなかった(データ示さず)。対照的に、TH-グルカンは迅速且つ一時的にMAPキナーゼc−Jun N-末端キナーゼ(JNK、ストレス活性化プロテインキナーゼもしくはSAPKとしても既知;キナーゼ基質はc−Jun−GSTであった)を活性化した(データ示さず)。TH−グルカンもまた、迅速且つ一時的にIκBキナーゼα(IKKa;キナーゼ基質は、IκBα-GSTであった)、IκBaをリン酸化するキナーゼを活性化し、NF-κB様転写因子の活性化を引き起こした(データ示さず)。
【0059】
(実施例4:感染モデルにおけるTH-グルカンとそのコンフォーマーとの比較)
A.材料及び方法
・TH-グルカン及びコンフォーマー
TH−グルカン(Alpha-Beta Technology)及び所定のコンフォーマーを、感染モデルにおけるその効果の研究に使用した。表2は、この研究に使用したTH-グルカンとそのコンフォーマーの分子量を示す。コンフォーマーの分子量が、GPCカラム中の温度と共に変化しうるため、室温(25℃)及び高温(37℃)にて分離したコンフォーマーを試験した。

表2:TH-グルカン及びコンフォーマーの分子量
【表2】

平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー/多角レーザー光拡散法(GPC/MALLS)によって測定した。HTH及びLTHは、TH-グルカンの試料を分画することにより調製した。
【0060】
・動物
ウィルス抗体のないWistarラットを、Charles River Breeding Laboratories (Wilmington, MA)から購入した。動物を、National Institutes of Health guidelinesに従って飼育し、任意に食餌及び水を与えた。ラットを、実験投入前に7日間隔離した。ラットの体重は、実験時に160gから210gの範囲であった。
【0061】
・薬剤投与
TH-グルカン及びコンフォーマー、並びに全グルカン粒子(WGP)を、25-ゲージの針を使用し、細菌負荷前48時間、24時間及び4時間の時点及び細菌負荷後4時間の時点で、1mg/kgにて筋内投与した。さらに、ポジティブコントロールとして、WGPもまた、腹膜内(IP)から5mg/kgの用量にて、細菌負荷前24時間及び4時間の時点で与えた。WGPは、滅菌食塩水で懸濁液とし、各注入前に激しく攪拌した。
【0062】
・細菌
S. aureusの複数抗生物質耐性の臨床分離物を、これらの研究において使用するために選択した。Onderdonk, A. B., et al., Infect. Immun. 60: 1642-1647(1992).細菌を、Nutrient Broth(NB; Bifco Laboratories, Detroit, MI)中で、8時間37℃にて拡張させた。滅菌グリセリンを添加して最終濃度を20%とし、ストックアリコートを使用するまで−80℃にて冷凍した。ストック細菌の生存能力を測定するために、凍結ストック試料を解凍し、順次希釈して40μlの試料をNutrient Agar(NA; Bifco Laboratories, Detroit, MI)プレート上で平板培養した。プレートを37℃にて24時間培養し、細菌コロニーを計数し、ストック1ml毎の細菌コロニー形成ユニット(CFU)数を算出した。in vitro研究のための細菌接種材料の調製のために、ストック培地を、1%硫酸デキストラン及び最終濃度5%の硫酸バリウム(wt/vol)を含有するリン酸緩衝食塩水(PBS; Gibco Life Technologies, Grand Island, NY)のmlあたり、所望のCFU数となるまで希釈した。適当に希釈した細菌の0.5mlアリコートを、長さ2cm×直径0.5cmのゼラチンカプセル(Eli-Lilly Inc., Indianapolis, IN)中に無菌状態で入れ、カプセルを、上述の通り、ラットの腹膜腔に移植した。
【0063】
・手術
ラットは、ケタミン(Fort Dodge Laboratores Inc., Fort Dodge, IA)、PromAce(Ayerst Laboratores Inc., Rouses Point, MY)、キシラジン(Phoenix Scientific Inc., St. Joseph, MO)、及び食塩水(750mg、10mg、100mg及び20mlとする食塩水)から成る混合麻酔カクテルを、25ゲージ針を使用した内科学注射(im injection)により麻酔にかけた。麻酔剤は、体重に基づいて各ラットに適合させ、体重1g当たり0.0019mlを投与した。麻酔剤を投与した後、各ラットの腹を剃り、ヨウ素溶液で洗浄し、腹壁及び腹膜に1.5cmの前側正中切開を行った。10のS. aureus CFUを含有するゼラチンカプセルを、腹膜腔内に即座におき、切開を、断続3−0絹縫合で閉じた。手術の全継続時間は、2分間未満であった。手術に次いで、動物を各檻に5匹ずつ飼育し、最初の2時間は15分毎、次の1時間には30分毎、その後実験の継続時間中は1日に3回モニターした。
【0064】
・血液標本抽出及び分析
動物を、O:CO(1:1)で麻酔にかけ、2mlの血液を20ゲージの針を付けた3mlのシリンジを使用して心臓穿刺によって2mlの血液を採取した。血液を採取した直後に、約1.5mlが、ヘパリン(Elkins-Sinns Inc., Cherry Hill, NJ)5ユニットを収容した1.7mlのEppendofr遠心分離管内に排出された。その後各動物をCOを用いて人間的に安楽死させた。正確に計数可能な血液CFUレベルを得るためには、各動物からの二種類の濃度の血液、1:10希釈及び非希釈の血液を培養した。20mlの50℃Tryptic Soy Agar(Becton Dickinson Microbiology Systems, Cockeysvillw, MD)を、滅菌ペトリ皿に入れ、即座にこの皿に希釈血液もしくは非希釈血液の0.5mlアリコートを加え、プレートを回転させることによって寒天中に完全に混合させた。寒天が固形化したところで、プレートを37℃にて48時間インキュベートし、その後20−200コロニーを含有するプレートを、コロニー列挙のために選択した。血液CFUデータを、血液のlog CFU/mlとして表した。各試料からの残りの血液は、血液細胞計数に使用した。全白血球細胞(9WBC)、赤血球細胞(RBC)、及び血小板(PLT)計数を、System 9010+Hematology Analyzer (Biochem Immunosystems Inc., Allentown, PA)にて行った。
【0065】
・統計的分析
結果を、複数回の実験(2−6の実験、20−80の動物を含む)から得られたデータの平均±平均の標準誤差(SEM)で表した。非対性t検定(治療グループ対食塩水)を、EXCEL 5.0ソフトウェア(Microsoft Corporation, Redmond, WA)を用いて行ったところ、差異は、p<0.05において顕著であった。
【0066】
B.結果
・血液CFUレベルにおけるTH-グルカン及びコンフォーマーの効果
ラットに、TH-グルカン、コンフォーマー、もしくはWGPを投与し、血液CFUをS. aureusによる負荷の48時間後に測定した。結果を以下の表3に示す。

表3:血液CFUレベルにおけるTH-グルカン及びコンフォーマーの効果
【表3】

【0067】
上記に見られるように、TH-グルカン並びにこれらの研究で試験した他の物質で処置したラットは、細菌負荷の48時間後には、食塩水で処置したラットよりも著しく低下した血液CFUレベルを示した(P<0.05)。血液CFUレベルにおける最大の減少は、可溶性WGP IP及びIM(P<0.001及びp<0.01)で処置したラットにおいて観察された。
【0068】
・末梢血液細胞計数におけるTH-グルカンおよびコンフォーマーの効果
血液細胞計数を、S. aureus負荷の48時間後に行った。全WBC数量は、TH-グルカン及び全てのコンフォーマー、並びにWGPで処置したラットにおいて上昇したが、統計上の有意性は、TH-グルカン、HTH25℃、LTH25℃及びLTH37℃で処置したラットにおいてのみ観察された。TH-グルカンは、PLT計数に何の効果も与えなかったが、VHMW、HTH25℃、もしくはHTH37℃(すなわち、190,000より大なる分子量をもつコンフォーマー)、またはWGP(IM)もしくはWGP(IP)で処置したラットは、著しく増大した末梢PLT計数を示した。RBC値は、HTH25℃、LMW及びWGP(IP)で処置したラットにおいて僅かに上昇したことを除いて変化しなかった。これらの結果を表4にまとめる。

表4:末梢血液細胞計数におけるTH-グルカン及びコンフォーマーの効果
【表4】

*パーセント変化、対食塩水
**t検定、p<0.05、対食塩水
【0069】
・死亡率におけるTH-グルカン及びコンフォーマーの効果
これらの研究において使用したS. aureus用量は、致死感染量の50%であった。全ての動物は、CFU及び血液細胞評価のために第2日目に安楽死させられたが、WGP(IP)(p<0.01)及びLMW(p<0.05)で処置したラットには、食塩水処置ラットに比べて著しく低下した死亡率が観察された。WGP(IM)(31%、対食塩水48%)及びLTH25℃(31%、対食塩水48%)で処置したラットにも僅かに死亡率の低下が見られた。LTH37℃処置グループにおいては、僅かに高い死亡率(63%、対食塩水48%)が観察された。しかしながら、これらの差異は、統計上の有意性には至らなかった。
【0070】
これらの実験は、THグルカン並びにコンフォーマー(TH-グルカンの活性を擬態する物質)が、ホスト防御を増強するために使用可能であり、よって疾患の治療に使用可能であることを示した。コンフォーマー分子量が約100倍変化する(例えばVHMWに対してLMW)にも関わらず、抗感染活性が一定であったことは興味深い。
本発明が、特にその好ましい実施態様について例示及び説明されている一方で、添付の請求の範囲に定義されるように、本発明の思想及び範囲から逸脱することなく、形態及び細部における様々な変形が可能であることは、当業者によって理解されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)β(1,3)-グルカンが、NR8383マクロファージに由来する非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンの蛋白様レセプターであって、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンよりも高い親和性で低分子量可溶性β(1,3)-グルカンに結合し且つ極高分子量可溶性β(1,3)-グルカンよりも高い親和性で非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンに結合する蛋白様レセプターに結合して、レセプターに結合したβ(1,3)-グルカンの一次複合体を生成するために好適な条件下で、β(1,3)-グルカンを含有する試料を該レセプターと接触させる工程;
b)前記一次複合体を単離する工程;及び
c)前記一次複合体からβ(1,3)-グルカンを得る工程;
を含む、試料から、β(1,3)-グルカンを単離する方法。
【請求項2】
蛋白様レセプターが、固相に連結されてなる、請求項1の方法。
【請求項3】
固相が、フィルター、膜、ビーズ、粒子、有機樹脂、マイクロタイタプレート及びスライドからなる群より選択される、請求項2の方法。
【請求項4】
a)β(1,3)-グルカンが、NR8383マクロファージに由来する非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンの蛋白様レセプターであって、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンよりも高い親和性で低分子量可溶性β(1,3)-グルカンに結合し且つ極高分子量可溶性β(1,3)-グルカンよりも高い親和性で非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンに結合する蛋白様レセプターに結合して、レセプターに結合したβ(1,3)-グルカンの一次複合体を生成するために好適な条件下で、β(1,3)-グルカン含有生物を含有する試料を該レセプターと接触させる工程;
b)前記一次複合体を単離する工程;及び
c)前記一次複合体からβ(1,3)-グルカン含有生物を得る工程;
を含む、試料から、β(1,3)-グルカンを単離する方法。
【請求項5】
a)β(1,3)-グルカンが、NR8383マクロファージに由来する非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンの蛋白様レセプターであって、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンよりも高い親和性で低分子量可溶性β(1,3)-グルカンに結合し且つ極高分子量可溶性β(1,3)-グルカンよりも高い親和性で非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンに結合する蛋白様レセプターに結合して、レセプターに結合したβ(1,3)-グルカンの一次複合体を生成するために好適な条件下で、β(1,3)-グルカンの存在を探査しようとする試料を、該レセプターと接触させる工程;及び
b)工程a)において生成した一次複合体を検出する工程;
を含み、一次複合体の存在が、試料中のβ(1,3)-グルカンの存在を示す、試料中のβ(1,3)-グルカンの存在を検出する方法。
【請求項6】
蛋白様レセプターが、固相に結合してなる、請求項5の方法。
【請求項7】
固相が、フィルター、膜、ビーズ、粒子、有機樹脂、マイクロタイタプレート及びスライドからなる群より選択される、請求項6の方法。
【請求項8】
試料が、固相に結合してなる、請求項5の方法。
【請求項9】
固相が、フィルター、膜、ビーズ、粒子、有機樹脂、マイクロタイタプレート及びスライドからなる群より選択される、請求項8の方法。
【請求項10】
試料が、動物由来である、請求項5の方法。
【請求項11】
試料が、生物学的流体である、請求項10の方法。
【請求項12】
試料が、植物由来である、請求項5の方法。
【請求項13】
試料が、環境由来である、請求項5の方法。
【請求項14】
試料が、食物由来である、請求項5の方法。
【請求項15】
試料が、発酵由来である、請求項5の方法。
【請求項16】
一次複合体が、検出可能な標識で検出される、請求項5の方法。
【請求項17】
検出可能な標識が、放射性ヌクレオチド、染料、蛍光化合物、ビオチン及びストレプタヴィジンからなる群より選択される請求項16の方法。
【請求項18】
一次複合体が、抗体で検出される、請求項5の方法。
【請求項19】
前記抗体が、β(1,3)-グルカンに対する抗体である、請求項18の方法。
【請求項20】
前記抗体が、レセプターに対する抗体である、請求項18の方法。
【請求項21】
a)β(1,3)-グルカンが、NR8383マクロファージに由来する非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンの蛋白様レセプターであって、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンよりも高い親和性で低分子量可溶性β(1,3)-グルカンに結合し且つ極高分子量可溶性β(1,3)-グルカンよりも高い親和性で非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンに結合する蛋白様レセプターに結合して、レセプターに結合したβ(1,3)-グルカン含有生物の一次複合体を生成するために好適な条件下で、β(1,3)-グルカン含有生物の存在を探査しようとする試料を、該レセプターと接触させる工程;及び
b)工程a)において生成した一次複合体を検出する工程;
を含み、一次複合体の存在が、試料中のβ(1,3)-グルカン含有生物の存在を示す、試料中のβ(1,3)-グルカン含有生物の存在を検出する方法。
【請求項22】
a)β(1,3)-グルカンが、NR8383マクロファージに由来する非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンの蛋白様レセプターであって、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンよりも高い親和性で低分子量可溶性β(1,3)-グルカンに結合し且つ極高分子量可溶性β(1,3)-グルカンよりも高い親和性で非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンに結合する蛋白様レセプターに結合して、レセプターに結合したβ(1,3)-グルカンの一次複合体を生成するために好適な条件下で、被験試料を、該レセプターと接触させる工程;
b)工程a)において生成した一次複合体を単離する工程;及び
c)前記一次複合体を定量する工程;
を含み、試料中のβ(1,3)-グルカンの量が、一次複合体の量と相関する、試料中のβ(1,3)-グルカンの量を定量する方法。
【請求項23】
a)β(1,3)-グルカンが、NR8383マクロファージに由来する非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンの蛋白様レセプターであって、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンよりも高い親和性で低分子量可溶性β(1,3)-グルカンに結合し且つ極高分子量可溶性β(1,3)-グルカンよりも高い親和性で非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンに結合する蛋白様レセプターに結合して、レセプターに結合した、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンの一次複合体を生成するために好適な条件下で、被験試料を、該レセプター及び標識され、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンと接触させる工程;及び
b)工程a)において生成した一次複合体の量を測定する工程;
を含み、試料中のβ(1,3)-グルカンの量が、一次複合体の量と反比例する、試料中のβ(1,3)-グルカンの量を定量する方法。
【請求項24】
a)β(1,3)-グルカンが、NR8383マクロファージに由来する非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンの蛋白様レセプターであって、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンよりも高い親和性で低分子量可溶性β(1,3)-グルカンに結合し且つ極高分子量可溶性β(1,3)-グルカンよりも高い親和性で非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンに結合する蛋白様レセプターに結合して、レセプターに結合したβ(1,3)-グルカンの一次複合体を生成するために好適な条件下で、個体由来の試料を、該レセプターと接触させる工程;及び
b)工程a)において生成した一次複合体を検出する工程;
を含み、一次複合体の存在が、β(1,3)-グルカン含有生物による感染を示す、β(1,3)-グルカン含有生物による感染を診断する方法。
【請求項25】
NR8383マクロファージに由来する非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンの蛋白様レセプターであって、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンよりも高い親和性で低分子量可溶性β(1,3)-グルカンに結合し且つ極高分子量可溶性β(1,3)-グルカンよりも高い親和性で非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンに結合する蛋白様レセプターと、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンに対する抗体とを含む、β(1,3)-グルカンの存在の検出に有用なキット。
【請求項26】
a)非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンが、NR8383マクロファージに由来する非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンの蛋白様レセプターであって、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンよりも高い親和性で低分子量可溶性β(1,3)-グルカンに結合し且つ極高分子量可溶性β(1,3)-グルカンよりも高い親和性で非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンに結合する蛋白様レセプターに結合するために好適な条件下で、放射性同位元素標識された、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンと、該レセプターと、及び被験物質とを混合する工程;
b)該レセプターへの、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンの結合の程度を測定する工程;及び
c)工程(b)で測定した結合程度と、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンが、該レセプターに結合するために好適な条件下における、被験物質の非存在下での結合程度とを比較する工程;
を含み、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンの、該蛋白様レセプターへの結合の程度の低減により、前記物質が、該レセプターに対して親和性を有することを示す、該蛋白様レセプターに対して親和性を有する物質を同定するためのアッセイ。
【請求項27】
前記レセプターが、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンに対する親和性を有する化合物である、請求項26のアッセイ。
【請求項28】
前記化合物が、レセプターアナログまたはレセプター偽剤である、請求項27のアッセイ。
【請求項29】
a)非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンが、NR8383マクロファージに由来する非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンのレセプターであって、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンよりも高い親和性で低分子量可溶性β(1,3)-グルカンに結合し且つ極高分子量可溶性β(1,3)-グルカンよりも高い親和性で非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンに結合する蛋白様レセプターに結合するために好適な条件下で、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンと、該蛋白様レセプターと、及び被験物質とを混合する工程;
b)シグナル伝達経路の活性化の程度を測定する工程;及び
c)工程(b)で測定した活性化の程度と、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンが、該レセプターに結合するために好適な条件下における、被験物質の非存在下での活性化の程度とを比較する工程;
を含み、シグナル伝達経路の活性化の程度における相違により、前記物質が、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンの、シグナル伝達経路の活性化に及ぼす作用を変化させることを示す、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンのシグナル伝達経路に対する作用を変化させる物質を同定するためのアッセイ。
【請求項30】
活性化の程度が、前記物質のない場合よりも該物質の存在下において高いならば、該物質が、単一の導入経路の活性化における非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンの作用を増強する、請求項29のアッセイ。
【請求項31】
活性化の程度が、前記物質のない場合よりも該物質の存在下において低いならば、該物質が、単一の導入経路の活性化における非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンの作用を低減する、請求項29のアッセイ。
【請求項32】
シグナル伝達経路の活性化が、少なくとも一の転写制御因子のモジュレーションによって測定される、請求項29のアッセイ。
【請求項33】
転写制御因子が、NF-κB、NF-IL-6及び/またはAP-1ファミリーの構成員からなる群より選択される、請求項32のアッセイ。
【請求項34】
工程(b)が、前記転写制御因子に対して特異的な32P標識DNAオリゴヌクレオチドによって行われる、請求項29のアッセイ。
【請求項35】
前記レセプターが、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンに対して親和性を有する化合物である、請求項29のアッセイ。
【請求項36】
前記化合物が、レセプターアナログまたはレセプター偽剤である、請求項35のアッセイ。
【請求項37】
NR8383マクロファージに由来する非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンの蛋白様レセプターであって、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンよりも高い親和性で低分子量可溶性β(1,3)-グルカンに結合し且つ極高分子量可溶性β(1,3)-グルカンよりも高い親和性で非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンに結合する蛋白様レセプターを含有する細胞を、該蛋白様レセプターと結合し、活性化する物質と接触させることを含み、該蛋白様レセプターが活性化され、これによってシグナル伝達経路が活性化される、該蛋白様レセプターを含有する細胞中のシグナル伝達経路を活性化する方法。
【請求項38】
シグナル伝達経路の活性化が、少なくとも一の転写制御因子のモジュレーションによって測定される、請求項37の方法。
【請求項39】
転写制御因子が、NF-κB、NF-IL-6及び/またはAP-1ファミリーの構成員からなる群より選択される、請求項38の方法。
【請求項40】
前記物質が、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンである、請求項37の方法。
【請求項41】
前記レセプターが、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンに対して親和性を有する化合物である、請求項37の方法。
【請求項42】
前記化合物が、レセプターアナログまたはレセプター偽剤である、請求項41の方法。
【請求項43】
非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンであるリガンドに結合するNR8383マクロファージに由来する蛋白様レセプターであって、非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンよりも高い親和性で低分子量可溶性β(1,3)-グルカンに結合し且つ極高分子量可溶性β(1,3)-グルカンよりも高い親和性で非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンに結合する蛋白様レセプターを含有する、単離調製物。
【請求項44】
前記レセプターが、特異的且つ選択的にリガンドを結合する、請求項43の調製物。
【請求項45】
非誘導化水溶性β(1,3)-グルカンが、三重螺旋構造をとる、請求項43の調製物。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【公開番号】特開2011−102323(P2011−102323A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−11128(P2011−11128)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【分割の表示】特願2000−567952(P2000−567952)の分割
【原出願日】平成11年8月19日(1999.8.19)
【出願人】(311004175)バイオセラ・インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】