説明

非造影血管像再構成法及び磁気共鳴イメージング装置

【課題】 非造影血管像を再構成する際に、動脈と静脈の血流速度の差が小さくても、良好に動脈と動脈を描出可能にする。
【解決手段】 被検体の拡張期画像から拡張期の位相画像を、収縮期画像から収縮期の位相画像をそれぞれ得て、収縮期の位相画像と拡張期の位相画像とから位相マスクを作成し、位相マスクを用いて収縮期画像又は拡張期画像をマスク処理し、マスク処理後の画像に基づいて、動脈画像を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核磁気共鳴(NMR)現象を利用して被検体の所望部位の画像を撮像する磁気共鳴イメージング(MRI)装置に関し、特に、非造影血管像を再構成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置は、被検体、特に人体の組織を構成する原子核スピンが発生するNMR信号を計測し、その頭部、腹部、四肢等の形態や機能を2次元的に或いは3次元的に画像化する装置である。撮像においては、NMR信号には、傾斜磁場によって異なる位相エンコード、周波数
エンコードが付与される。計測されたNMR信号は、2次元又は3次元フーリエ変換されることにより画像に再構成される。
【0003】
上記MRI装置を用いて、非造影で、即ち造影剤を被検体に投与することなく、被検体の血管画像(MRA画像)を取得することが行われている。
【0004】
その方法の一つとして、特許文献1のように、心電図形検出手段により収集された被検体の心時相を表す信号(R波)に同期して、該信号から設定された遅延時間(Delay Time、DT)を空けて所定のスライスエンコード量分のエコー信号を高速スピンエコー(FSE)シーケンスで収集する動作を、複数心拍毎に繰り返す方法がある。例えば、遅延時間を収縮期に設定してエコー信号を収集すれば静脈が主に描出された収縮期画像(静脈画像)が得られ、拡張期に設定すれば動脈と静脈が共に描出された拡張期画像(動静脈画像)が得られる。また、これらの2つの画像データを差分することで動脈が主に描出された動脈画像が得られる。
【0005】
特許文献2では、特許文献1よりもさらに位相エンコード方向に走行する血管の描出能を向上するために、位相エンコード方向にディフェーズ(Dephase)又はリフェーズ(Rephase)傾斜磁場パルスを印加する。リードアウト(Readout)方向にディフェーズ又はリフェーズ傾斜磁場パルスを印加することも可能であり、この場合はリードアウト方向に走行する血管の描出能が向上する。さらに、リードアウト方向、位相エンコード方向の両方にディフェーズ又はリフェーズ傾斜磁場パルスを印加することも可能である。
【0006】
つまり、特許文献1の手法は、動脈と静脈の血流速度の差を動脈信号と静脈信号に反映して血管像を得る手法であり、特許文献2の手法は、動脈信号と静脈信号の差をより広げるためにDephase、Rephaseパルスを印加し、特許文献1よりも優位に動脈を描出する手法である。
【0007】
また、特許文献3や非特許文献1のように、磁化率の差を利用して血管を描出する方法があり、この手法では、位相画像から作成した位相マスクを絶対値画像に掛け合わせて画像を作成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4090619号公報
【特許文献2】特許第4309632号公報
【特許文献3】米国特許第06658280号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Magnetic Resonance in Medicine 52:612-618 (2004) Susceptibility Weighted Imaging (SWI)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献2の手法は、動脈と静脈の血流速度の差が小さくなればなるほど効果が小さくなる。そのため、特許文献2の手法を用いても、末梢動脈では収縮期像に静脈の他に動脈も共に描出されてしまい、結果として動脈像のみを明瞭に分離することが困難となる場合がある。
【0011】
また、特許文献3、非特許文献1の手法は、組織間の磁化率の差を位相情報に反映して、該位相情報を画像に重み付けする撮像法で、静脈や微小出血の描出に好適であり、動脈の描出を目的とした手法ではない。
【0012】
そこで、本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、非造影血管像を再構成する際に、動脈と静脈の血流速度の差が小さくても、良好に動脈と動脈を描出可能な非造影血管像再構成法及びこれを用いたMRI装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明は、被検体の拡張期画像から拡張期の位相画像を、収縮期画像から収縮期の位相画像をそれぞれ得て、収縮期の位相画像と拡張期の位相画像とから位相マスクを作成し、位相マスクを用いて収縮期画像の絶対値画像又は拡張期画像の絶対値画像をマスク処理し、マスク処理後の絶対値画像に基づいて、動脈画像を求めることを特徴とする。
【0014】
マスク処理により除去する信号は、例えば、収縮期画像(静脈画像)に残存した動脈信号、拡張期画像(動静脈画像)の静脈信号である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の非造影血管像再構成法及びMRI装置によれば、非造影血管像を再構成する際に、動脈と静脈の血流速度の差が小さくても、良好に動脈と動脈を描出可能となる。その結果、例えば、末梢動脈を良好に描出できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るMRI装置の一実施例における全体基本構成を示すブロック図
【図2】収縮期と拡張期の絶対値画像の差分に基づいて動脈を抽出する場合に、動脈の描出が不十分となる理由を説明する図であって、(a)は収縮期における動脈と静脈の血流速度差が大きい部位を撮像した場合を示しており、(b)は収縮期における動脈と静脈の血流速度差が小さい部位を撮像した場合を示している。
【図3】下肢の一つのスライスにおいて、収縮期と拡張期における動脈と静脈の位相画像の一例を示す図
【図4】実施例1の位相マスクを用いたマスク処理の例を示す図
【図5】実施例1の非造影血管像再構成法における演算処理部114の各機能を示す機能ブロック図
【図6】実施例1の処理フローを示すフローチャート
【図7】リファレンススキャンの一例として、PC法に基づくパルスシーケンスの一例を示す図
【図8】実施例1の流速グラフの一例を示す図
【図9】心電図に同期する心電同期撮像であって、撮像シーケンスの繰り返し時間(TR)を3心拍(R-R)毎とする一例を示す図であり、(a)は遅延時間(DT)が収縮期に設定されて静脈画像を取得する例を、(b)は遅延時間(DT)が拡張期にされて動静脈画像を取得する例を示す。
【図10】実施例2の位相マスクを用いたマスク処理の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面に従って本発明のMRI装置の好ましい実施形態について詳説する。なお、発明の実施形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0018】
最初に、本発明に係るMRI装置の一例の全体概要を図1に基づいて説明する。図1は、本発明に係るMRI装置の一実施例の全体構成を示すブロック図である。
【0019】
このMRI装置は、NMR現象を利用して被検体101の断層画像を得るもので、図1に示すように、静磁場発生磁石102と、傾斜磁場コイル103及び傾斜磁場電源109と、送信RFコイル104及びRF送信部110と、受信RFコイル105及び信号検出部106と、信号処理部107と、計測制御部111と、全体制御部108と、表示・操作部113と、被検体101を搭載してその被検体101を静磁場発生磁石102の内部に出し入れするベッド112と、を備えて構成される。
【0020】
静磁場発生磁石102は、垂直磁場方式であれば被検体101の体軸と直交する方向に、水平磁場方式であれば体軸方向に、それぞれ均一な静磁場を発生させるもので、被検体101の周りに永久磁石方式、常電導方式あるいは超電導方式の静磁場発生源が配置されている。
【0021】
傾斜磁場コイル103は、MRI装置の実空間座標系(静止座標系)あるX,Y,Zの3軸方向に巻かれたコイルであり、それぞれの傾斜磁場コイルは、それを駆動する傾斜磁場電源109に接続され電流が供給される。具体的には、各傾斜磁場コイルの傾斜磁場電源109は、それぞれ後述の計測制御部111からの命令に従って駆動されて、それぞれの傾斜磁場コイルに電流を供給する。これにより、X,Y,Zの3軸方向に傾斜磁場Gx,Gy,Gzが発生する。
【0022】
2次元スライス面の撮像時には、スライス面(撮像断面)に直交する方向にスライス傾斜磁場パルス(Gs)が印加されて被検体101に対するスライス面が設定され、そのスライス面に直交して且つ互いに直交する残りの2つの方向に位相エンコード傾斜磁場パルス(Gp)と周波数エンコード(リードアウト)傾斜磁場パルス(Gf)が印加されて、エコー信号にそれぞれの方向の位置情報がエンコードされる。
【0023】
送信RFコイル104は、被検体101にRFパルスを照射するコイルであり、RF送信部110に接続され高周波パルス電流が供給される。これにより、被検体101の生体組織を構成する原子の原子核スピンにNMR現象が誘起される。具体的には、RF送信部110が、後述の計測制御部111からの命令に従って駆動されて、高周波パルスが振幅変調され、増幅された後に被検体101に近接して配置された送信RFコイル104に供給されることにより、RFパルスが被検体101に照射される。
【0024】
受信RFコイル105は、被検体101の生体組織を構成する原子核スピンのNMR現象により放出されるNMR信号(エコー信号)を受信するコイルであり、信号検出部106に接続されて受信したエコー信号が信号検出部106に送られる。信号検出部106は、受信RFコイル105で受信されたエコー信号の検出処理を行う。具体的には、RF送信コイル104から照射されたRFパルスによって誘起された被検体101の応答のエコー信号が被検体101に近接して配置された受信RFコイル105で受信され、後述の計測制御部111からの命令に従って、信号検出部106が、受信されたエコー信号を増幅し、直交位相検波により直交する二系統の信号に分割し、それぞれを所定数(例えば128,256,512等)サンプリングし、各サンプリング信号をA/D変換してディジタル量に変換し、後述の信号処理部107に送る。 従って、エコー信号は所定数のサンプリングデータからなる時系列のデジタルデータ(以下、エコーデータという)として得られる。
【0025】
信号処理部107は、エコーデータに対して各種処理を行い、処理されたエコーデータを計測制御部111に送る。
【0026】
計測制御部111は、被検体101の断層画像の再構成に必要なデータ収集のための種々の命令を、主に、傾斜磁場電源109と、RF送信部110と、信号検出部106に送信してこれらを制御する制御部である。具体的には、計測制御部111は、後述する全体制御部108の制御で動作し、ある所定のパルスシーケンスに基づいて、傾斜磁場電源109、RF送信部110及び信号検出部106を制御して、被検体101へのRFパルスと傾斜磁場パルスの印加及び被検体101からのエコー信号の検出を繰り返し実行し、被検体101の撮像領域についての画像の再構成に必要なエコーデータを収集する。
【0027】
全体制御部108は、計測制御部111の制御、及び、各種データ処理と処理結果の表示及び保存等の制御を行うものであって、CPU及びメモリを内部に有する演算処理部114と、光ディスク、磁気ディスク等の記憶部115とを有して成る。具体的には、計測制御部111を制御してエコーデータの収集を実行させ、計測制御部111からのエコーデータが入力されると、演算処理部114がそのエコーデータに印加されたエンコード情報に基づいて、メモリのk空間に相当する領域に記憶させる。メモリのk空間に相当する領域に記憶されたエコーデータ群をk空間データともいう。そして演算処理部114はこのk空間データに対して信号処理やフーリエ変換による画像再構成等の処理を実行し、その結果である被検体101の画像を、後述の表示・操作部113に表示させると共に記憶部115に記録する。
【0028】
表示・操作部113は、再構成された被検体101の画像を表示する表示部と、MRI装置の各種制御情報や上記全体制御部108で行う処理の制御情報を入力するトラックボール又はマウス及びキーボード等の操作部と、から成る。この操作部は表示部に近接して配置され、操作者が表示部を見ながら操作部を通してインタラクティブにMRI装置の各種処理を制御する。
【0029】
また、本発明に係るMRI装置は、被検体の体動情報を検出する体動情報検出部を備える。この体動情報検出部は、被検体101に装着されて被検体の体動情報を検出するセンサー部116と、センサー部116からの信号を処理して、その処理した体動情報を計測制御部111に送る体動情報処理部117とを有してなる。体動情報検出部が被検体の心電図(心電波)を検出するものであれば、センサー部116は心電図を検出する電極であり、体動情報処理部117は電極からのアナログ信号を処理する。計測制御部111は、体動情報検出部で検出された被検体の体動情報に同期させて、パルスシーケンスの実行による撮像を行なう同期撮像を制御する。
【0030】
なお、図1において、送信側のRF送信コイル104と傾斜磁場コイル103は、被検体101が挿入される静磁場発生磁石102の静磁場空間内に、垂直磁場方式であれば被検体101に対向して、水平磁場方式であれば被検体101を取り囲むようにして設置されている。また、受信側の受信RFコイル105は、被検体101に対向して、或いは取り囲むように設置されている。
【0031】
現在のMRI装置の撮像対象核種は、臨床で普及しているものとしては、被検体の主たる構成物質である水素原子核(プロトン)である。プロトン密度の空間分布や、励起状態の緩和時間の空間分布に関する情報を画像化することで、人体頭部、腹部、四肢等の形態または、機能を2次元もしくは3次元的に撮像する。
【0032】
次に、本発明の概要を説明する。
最初に、従来技術の手法を用いて、収縮期と拡張期の絶対値画像の差分に基づいて動脈を抽出する場合に、動脈の描出が不十分となる理由について、図2を用いて説明する。
【0033】
図2(a)は、収縮期における動脈と静脈の血流速度差が大きい部位を撮像した場合の各絶対値画像を示す。この場合には、拡張期の絶対値画像(動静脈画像)201から収縮期の絶対値画像(静脈画像)202を差分することにより明瞭な動脈画像203を得ることができる。
【0034】
一方、図2(b)は、収縮期における動脈と静脈の血流速度差が小さい部位の場合の各絶対値画像を示す。この場合には、収縮期の絶対値画像205にも静脈信号のみならず動脈信号も残存することになる。したがって、拡張期の絶対値画像(動静脈画像)204から収縮期の絶対値画像(静脈画像)205を差分する際に、動脈信号を除去するために、単純な差分では動脈画像が残ってしまい、動脈信号を除去するように重み付け差分を行うと、静脈信号が不明瞭となってしまう。
【0035】
そこで、本発明は、非造影血管像を再構成する際に、動脈は収縮期と拡張期とで血流速度が異なるのに対し、静脈の血流速度は収縮期、拡張期に依らず一定であることを利用する。さらに、動脈と静脈は流れの方向が逆であることも利用しても良い。具体的には、被検体の拡張期画像から拡張期の位相画像を、収縮期画像から収縮期の位相画像をそれぞれ得て、収縮期の位相画像と拡張期の位相画像とから位相マスクを作成し、位相マスクを用いて収縮期画像又は拡張期画像をマスク処理し、マスク処理後の画像に基づいて、動脈画像を求める。マスク処理により除去する信号は、例えば、収縮期画像(静脈画像)に残存した動脈信号、拡張期画像(動静脈画像)の静脈信号である。
【0036】
以下に本発明の各実施例について、下肢の血管を模擬した各図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0037】
本発明の非造影血管像再構成法及びMRI装置の実施例1を説明する。本実施例1は、収縮期と拡張期の位相画像を比較し、位相が変化した部分を動脈と認識して、動脈信号のみを選択的に除去する位相マスクを作成する。そして、該位相マスクを収縮期絶対値画像に掛ける(マスク処理)ことで静脈画像を得て、拡張期絶対値像(動静脈画像)との差分により、動脈画像を得る。以下、図3〜図9を用いて本実施例1の詳細を説明する。
【0038】
(位相マスク)
最初に、実施例1の位相マスク及びその作成法について説明する。
例えば、下肢の一つのスライスにおいて、収縮期と拡張期における動脈と静脈の位相画像の一例は図3のようになる。白は正の位相回りを示し、黒は負の位相回りを示す。301と303は動脈の位相画像を示し、302と304は静脈の位相画像を示す。また、301と302は、動脈の血流速度が静脈の血流速度よりかなり速い(>>)とする収縮期の位相画像を示し、303と304は、動脈の血流速度が静脈の血流速度と同じか若干速い(≧)とする拡張期の位相画像を示す。これらの位相画像は、静脈と動脈の血流速度差は収縮期の方が拡張期よりも大きいという一般的な事実に基づいて定性的に示したものである。なお、各画像は、305に示すように、血管の走行方向をリードアウト方向として、血管の走行方向にリードアウト傾斜磁場(Gx)が印加されて計測された画像である。
【0039】
図3に示すように、動脈は、収縮期と拡張期の血流速度が異なるため、位相の回り方が異なる。一方、静脈は、血流速度が略一定であるため、位相の回り方は同じとなる。また、静止部も位相の回り方は同じとなる。これより、撮像した各スライスにおいて収縮期と拡張期の位相画像をピクセル/ボクセル毎に比較し、位相が変化したピクセル/ボクセルを動脈と認識して、動脈を0、それ以外の組織を1とすることで、動脈信号を除去する位相マスクMφを作成する。ただし、静脈の血流速度は多少の変化(Δv)も考えられるため、位相マスク作成の際には、閾値Δφth=γG・Δv・(TE2/2)として、収縮期と拡張期の位相画像のピクセル/ボクセル毎に、位相差(Δφ)が閾値(Δφth)未満の場合に1、位相差(Δφ)が閾値(Δφth)以上の場合に0とする。すなわち、

とする。Δvは、例えば2cm/sのように一定としても良いし、ユーザーが設定できるようにしても良い。
【0040】
次に、上記位相マスクを用いたマスク処理の例を、図4を用いて説明する。図4に示すように、動脈信号が残存した収縮期の絶対値画像401(=205)に上記作成した位相マスクMφをかけ、残存した動脈信号を除去して静脈のみが描出された収縮期マスク処理画像(静脈画像)402を作成する。そして、拡張期絶対値画像(動静脈画像)403(=204)から収縮期マスク処理画像(静脈画像)402を差分することで、明瞭な動脈画像404を得ることができる。
【0041】
(演算処理部の機能ブロック図)
次に、本実施例1の非造影血管像再構成法における演算処理部114の各機能を、図5に示す機能ブロック図に基づいて説明する。本実施例1に係る演算処理部114は、リファレンススキャン設定部501と、血管撮像設定部502と、血管像再構成部503と、を有して成る。
【0042】
リファレンススキャン設定部501は、設定された撮像条件に基づいてリファレンスシーケンスの制御データを具体的に生成して計測制御部111に通知する。
【0043】
血管撮像設定部502は、リファレンスシーケンスで計測されたエコーデータを用いて血流グラフを作成し、この血流グラフに基づいて、撮像シーケンスを用いた心電同期撮像の実行に好適な撮像パラメータ値(収縮期、拡張期のDT、血流速度)を決定する。そして、決定した撮像パラメータ値に基づいて、撮像シーケンスを用いた心電同期撮像を実行するための制御データを生成して、計測制御部111に通知する。
【0044】
血管像再構成部503は、エコーデータをフーリエ変換して複素画像を再構成するフーリエ変換部と、複素画像からその位相画像を求める位相画像演算部と、複素画像からその絶対値画像を求める絶対値画像演算部と、位相画像から位相マスクを求める位相マスク演算部と、位相マスクを絶対値画像に掛けるマスク処理部と、2つの画像間の差分処理を行う差分画像演算部と、3次元画像データから投影画像を求める投影像演算部と、を有してなる。
【0045】
(処理フロー)
次に、本実施例1の処理フローを図6に示すフローチャートに基づいて説明する。この動作フローの全体フロー及び各ステップにおける個別処理はプログラムとして予め磁気ディスク等の記憶部115に記憶されており、演算処理部114が必要に応じてメモリに読み込んで実行することにより実施される。以下、各ステップを詳細に説明する。なお、非造影MRA画像を取得するので、被検体に造影剤を投与するステップは無い。
【0046】
ステップ601で、操作者は、表示・操作部113を介して、撮像シーケンスの撮像条件(静脈画像や動静脈画像等の画像種、撮像領域、FOV,リードアウト方向、画像のマトリックス数等)を設定する。リードアウト方向は、H-F(Head-Foot)、R-L(Right-Left)、A-P(Anterior-Posterior)のいずれか1方向に実質的に一致させることが好ましい。さらに、リードアウト方向を血管の走行方向に合わせることが望ましい。例えば、下肢の非造影MRA画像を取得したい場合には、下肢の血管の走行方向は主にH-F方向となるので、リードアウト方向をH-F方向に合わせることが望ましい。
【0047】
ステップ602で、リファレンススキャン設定部501は、ステップ601で設定された撮像条件に基づいてリファレンスシーケンスの制御データを具体的に生成して計測制御部111に通知するとともに、計測制御部111にリファレンススキャンを実行させる。その指示に応じて、計測制御部111は、リファレンススキャンを実行する。そして、計測制御部111は、リファレンススキャンにより計測したエコーデータを血管撮像設定部502に通知する。
【0048】
リファレンススキャンは、動脈と静脈の血流速度の時間変化を所望の時間分解能で追跡できるように、少なくとも1心周期の期間に亘って複数回繰り返されて、それぞれエコーデータが時系列に計測される。
【0049】
リファレンススキャンに用いるパルスシーケンスとしては、図7に示すようなベロシティーエンコード(VENC)パルスを用いる公知のPC(Phase Contrast)法に基づくパルスシーケンスでもよいし、例えばFSEの様な撮像シーケンスに準ずるパルスシーケンスでもよい。
【0050】
ステップ603で、血管撮像設定部602は、ステップ602のリファレンススキャンで計測されたエコーデータに基づいて図8に示すような流速グラフ801を得る。
【0051】
具体的には、リファレンススキャンとしてPC法シーケンスを用いた場合には、血管撮像設定部602は、ステップ602で少なくとも1心周期の期間で計測された時系列エコーデータから複数の位相画像をそれぞれ再構成し、各位相画像における動脈位置と静脈位置の位相値から、該位相画像の時刻における動脈と静脈の血流速度をそれぞれ求める。これらの処理を各時刻のエコーデータで繰り返して、各時刻の動脈と静脈の血流速度をそれぞれ求めて、図8に示すような流速グラフを得る。この流速グラフに基づいて、血管撮像設定部602は、撮像シーケンスを用いた所望の非造影MRA画像の取得に好適な撮像パラメータ値(収縮期、拡張期のDT、血流速度)を決定する。例えば、R波から動脈の最初の極大(最大)血流速度までの時間を収縮期の遅延時間(DT)とする。この遅延時間における動脈と静脈の血流速度を収縮期の血流速度とする。また、R波から動脈の次の極大血流速度までの時間を拡張期の遅延時間(DT)とする。この遅延時間における動脈と静脈の血流速度を拡張期の血流速度とする。
【0052】
或いは、リファレンススキャンとして、撮像シーケンスに準ずるパルスシーケンス(例えば、2DのFSE)とする場合は、遅延時間(DT)を変化させて実際に撮像した画像に基づいて、操作者が見た目で、収縮期、拡張期の遅延時間(DT)と、血流速度を判断する。
【0053】
次に、血管撮像設定部602は、ステップ601で設定された撮像条件と、上記のとおり決定した撮像パラメータ値に基づいて、被検体から検出した心電図に同期させる撮像シーケンス(例えばFSE)を用いた3次元の心電同期撮像(本撮像)を実行するための制御データを生成する。例えば、撮像シーケンスの繰り返し時間(TR)を2以上の複数心拍(複数心周期)とする。また、ステップ601で設定された画像種が静脈画像の場合には、心電図R波からの遅延時間(DT)を決定した収縮期の遅延時間(DT)に設定し、ステップ601で設定された画像種が動静脈画像の場合には心電図R波からの遅延時間(DT)を決定した拡張期の遅延時間(DT)に設定する。
【0054】
最後に、血管撮像設定部202は、生成した制御データを計測制御部111に通知して、計測制御部111に心電同期撮像シーケンスを実行させる。
【0055】
ステップ604で、計測制御部111は、ステップ603で具体的に生成された撮像シーケンスの制御データを用いて、心電図のR波からの遅延時間(DT)を拡張期又は収縮期に設定して心電同期で撮像シーケンスを実行する。その際、計測制御部111は、繰り返し時間(TR)を複数心拍とする撮像シーケンスを、所望の非造影MRA画像の再構成に必要なエコーデータの計測を終了するまで、繰り返し実行する。そして、計測制御部111は、計測したエコーデータを、血管像再構成部603に通知する。
【0056】
図9は、心電図に同期する心電同期撮像であって、撮像シーケンスの繰り返し時間(TR)を複数の心拍(R-R)毎とする一例として、TR=3心拍(3R-R)の場合を示す。また、図9は、遅延時間(DT)の後の黒枠の期間に撮像シーケンスが実行される例を示す。図9(a)は、遅延時間(DT)が収縮期に設定されて静脈画像を取得する例を、図9(b)は遅延時間(DT)が拡張期にされて動静脈画像を取得する例を、それぞれ示す。
【0057】
ステップ607で、フーリエ変換部は、ステップ604で通知されたエコーデータを用いて、収縮期と拡張期の3次元のエコーデータをフーリエ変換してそれぞれ3次元画像(複素数)を得る。そして、絶対値画像演算部は、再構成した各3次元画像データを用いて、そのボクセル値(複素数)毎に絶対値を算出して、収縮期と拡張期の3次元絶対値画像を得る。また、位相画像演算部は、再構成した各3次元画像データを用いて、arctan関数を用いてボクセル値(複素数)毎に位相値を演算して、収縮期と拡張期の3次元位相画像を得る。
【0058】
ステップ608で、位相マスク演算部は、ステップ607で算出された収縮期と拡張期の3次元位相画像を用いて、動脈信号を除去する3次元の位相マスクを作成する。位相マスク作成は前述したとおりである。
【0059】
ステップ609で、マスク処理部は、ステップ608で作成した位相マスクを、ステップ607で得られた収縮期の絶対値画像に掛け合わせ(マスク処理)て、動脈信号を除去して、収縮期マスク処理画像(静脈画像)を作成する。
【0060】
ステップ610で、差分画像演算部は、ステップ609で得られた収縮期マスク処理画像(静脈画像)と、ステップ607で得られた拡張期の絶対値画像とを差分して3次元差分画像を得る。
【0061】
ステップ611で、投影像演算部は、ステップ610で得られた3次元差分画像データを用いて、所望の方向の投影画像を作成し、最終的な非造影MRA画像とする。投影画像を作成する処理としては、例えば公知のMIP(Maximum Intensity Projection)法やボリュームレンダリング法を用いることができる。
【0062】
以上迄が本実施例1の処理フローの説明である。なお、ステップ601のリファレンススキャンを実行することなく、所定の、或いは、事前に決定された撮像パラメータ値を用いてもよい。この場合は、これらの事前の撮像パラメータ値を用いて、心電同期撮像を行う撮像シーケンスを生成しておくことになり、前述のステップ602と603を実行する必要はない。
【0063】
以上説明したように、本実施例1の非造影血管像再構成法及びMRI装置は、収縮期と拡張期の位相画像を比較し、位相が変化したピクセル/ボクセルを動脈と認識して、動脈信号を除去する位相マスクを作成する。そして、作成した位相マスクを収縮期の絶対値画像に掛ける(マスク処理)ことで静脈画像を得る。そして、拡張期の動静脈画像とマスク処理して得た静脈画像との差分により、動脈画像を得る。これにより、動脈と静脈の血流速度の差が小さくても、良好に動脈と動脈を描出可能になり、良好な動脈画像を得ることができる。
【実施例2】
【0064】
次に、実施例2の非造影血管像再構成法及びMRI装置について述べる。本実施例2は、前述の実施例1と同様に、収縮期と拡張期の位相画像を比較するが、動脈を1、それ以外の組織を0として、動脈信号のみを選択的に抽出する位相マスクを作成する。さらに拡張期の絶対値画像に作成した位相マスクをかける。これにより、動脈のみを分離した画像を得る。以下、図10を用いて本実施例2を詳細に説明する。
【0065】
本実施例2の非造影血管像再構成法における演算処理部114の各機能は、図5に示した機能ブロック図において、差分画像演算部と、投影像演算部とが無い。他は図5に示した機能ブロック図と同じである。各機能の処理も、以下に説明する内容以外は前述の実施例1と同じであるので、詳細な説明を省略する。
【0066】
次に、本実施例2の処理フローを、図6のフローチャートで示した前述の実施例1の処理フローに基づいて説明する。
ステップ601〜ステップ607を実施して、収縮期と拡張期の位相画像が作成される。
【0067】
ステップ608で、位相マスク演算部は、動脈を1、それ以外の組織を0として、動脈信号のみを選択的に抽出する位相マスクを作成する。具体的には、収縮期と拡張期の位相画像のピクセル/ボクセル毎の位相差(Δφ)が閾値(Δφth)未満の場合に0、位相差(Δφ)が閾値(Δφth)以上の場合に1とする。すなわち、

とする。なお、Δφthの定義は前述の実施例1と同じである。
【0068】
ステップ609で、マスク処理部は、拡張期の絶対値画像(動静脈画像)に位相マスクを掛ける(マスク処理)ことで、動脈画像を得る。
【0069】
以後のステップ610と611は、本実施例2では実施しない。
以上迄が本実施例2の処理フローの説明である。
【0070】
図10に本実施例2の位相マスクを用いたマスク処理の例を示す。図10に示すように、拡張期の絶対値画像(動静脈画像)1001(=403)に位相マスクを掛けて、動脈のみを抽出して、動脈画像1002を得ることができる。
【0071】
以上説明したように、本実施例2の非造影血管像再構成法及びMRI装置によれば、収縮期と拡張期の位相画像を比較するが、動脈を1、それ以外の組織を0として、動脈信号のみを選択的に抽出する位相マスクを作成し、拡張期の絶対値画像(動静脈画像)に掛けることで、動脈画像を得る。これにより、動脈と静脈の血流速度の差が小さくても、良好に動脈と動脈を描出可能になり、良好な動脈画像を得ることができる。
【符号の説明】
【0072】
101 被検体、102 静磁場発生磁石、103 傾斜磁場コイル、104 送信RFコイル、105 受信RFコイル、106 信号検出部106、107 信号処理部、108 全体制御部、109 傾斜磁場電源、110 RF送信部、111 計測制御部、112 ベッド、113 表示・操作部、114 演算処理部、116 記憶部、117 センサー部、117 体動情報処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の心電図を検出する心電図検出部と、
前記心電図に基づいて、前記被検体の収縮期と拡張期にエコーデータを計測する計測制御部と、
前記収縮期と拡張期にエコーデータを用いて、少なくとも前記被検体の動脈画像を再構成する演算処理部と、
を備えた磁気共鳴イメージング装置であって、
前記演算処理部は、
前記収縮期と拡張期にエコーデータを用いて収縮期画像と拡張期画像をそれぞれ再構成するフーリエ変換部と、
前記収縮期画像の位相画像と前記拡張期画像の位相画像とから位相マスクを作成する位相マスク演算部と、
前記位相マスクを用いて前記収縮期画像又は前記拡張期画像をマスク処理するマスク処理部と、
を有して、前記マスク処理後の画像に基づいて、前記動脈画像を求めることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記位相マスク演算部は、前記収縮期画像の位相画像と前記拡張期画像の位相画像との位相差が所定の閾値未満の場合を1、前記位相差が前記所定の閾値以上の場合を0として、動脈信号を除去するように前記位相マスクを作成することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
請求項2記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記マスク演算部は、前記収縮期の絶対値画像に前記位相マスクを掛けて動脈信号を除去した収縮期マスク処理画像を作成し、
前記演算処理部は、さらに、
前記拡張期の絶対値画像と前記収縮期マスク処理画像との差分画像を得る差分画像演算部と、
前記差分画像の投影画像を作成して前記動脈画像を得る投影像演算部と、
を有することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記位相マスク演算部は、前記収縮期画像の位相画像と前記拡張期画像の位相画像との位相差が所定の閾値未満の場合を0、前記位相差が前記所定の閾値以上の場合を1として、動脈信号を抽出するように前記位相マスクを作成し、
前記マスク処理部は、前記拡張期の絶対値画像に前記位相マスクを掛けて、前記動脈画像を得ることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
被検体に造影剤を投与せずに取得された拡張期画像と収縮期画像とから、少なくとも動脈画像を得る非造影血管像再構成法であって、
被検体の拡張期画像から拡張期の位相画像を、収縮期画像から収縮期の位相画像をそれぞれ得る位相画像演算ステップと、
前記収縮期の位相画像と前記拡張期の位相画像とから位相マスクを作成する位相マスク演算ステップと、
前記位相マスクを用いて前記収縮期画像又は前記拡張期画像をマスク処理するマスク処理ステップと、
前記マスク処理後の画像に基づいて、前記動脈画像を求める動脈画像取得ステップと、
を有することを特徴とする非造影血管像再構成法。
【請求項6】
請求項5記載の非造影血管像再構成法において、
前記位相マスク演算ステップは、前記収縮期画像の位相画像と前記拡張期画像の位相画像との位相差が所定の閾値未満の場合を1、前記位相差が前記所定の閾値以上の場合を0として、動脈信号を除去するように前記位相マスクを作成し、
前記マスク処理ステップは、前記収縮期の絶対値画像に前記位相マスクを掛けて動脈信号を除去した収縮期マスク処理画像を作成し、
さらに、
前記拡張期の絶対値画像と前記収縮期マスク処理画像との差分画像を得る差分画像演算ステップと、
前記差分画像の投影画像を作成して前記動脈画像を得る投影像演算ステップと、
を有することを特徴とする非造影血管像再構成法。
【請求項7】
請求項5記載の非造影血管像再構成法において、
前記位相マスク演算ステップは、前記収縮期画像の位相画像と前記拡張期画像の位相画像との位相差が所定の閾値未満の場合を0、前記位相差が前記所定の閾値以上の場合を1として、動脈信号を抽出するように前記位相マスクを作成し、
前記マスク処理ステップは、前記拡張期の絶対値画像に前記位相マスクを掛けて、前記動脈画像を得ることを特徴とする非造影血管像再構成法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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