説明

非鉄製錬煙灰処理方法

【課題】銅と砒素とを含む非鉄製錬煙灰から、銅と砒素とを低環境負荷で効率良く低コストに分離する。
【解決手段】銅と砒素を含む非鉄製錬煙灰から銅と砒素を分別する煙灰処理方法であって、非鉄製錬煙灰と水を混合してなるパルプの酸性度をアルカリ剤添加により所定pH範囲に低減させ、このpH状態を維持しながら上記パルプから銅を浸出させ、銅を含む浸出液と、砒素を含む浸出残渣とを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅と砒素とを含む非鉄製錬煙灰から、銅と砒素とを効率良く分離する煙灰処理方法に関し、とくに砒素品位の高い銅鉱石原料を使用する銅製錬に適用して有効である。
【背景技術】
【0002】
銅製錬を始めとする非鉄製錬では、中間産物である製錬煙灰中に銅が砒素とともに多く含有されている。このため、当該製錬煙灰から銅と砒素とを分別回収することが行われている。
【0003】
銅と砒素を含む非鉄製錬煙灰から銅と砒素を分別回収するための処理方法としては、たとえば非特許文献1に開示されている湿式処理方法がある。当該湿式処理方法のフロー図を図15に示す。この処理方法では、高温強酸液による浸出工程、硫化水素(HS)添加による脱銅工程、および水酸化鉄(3価鉄)添加による脱砒素工程を順次行うことによって、銅と砒素の分別回収を行う。
【0004】
当該従来技術に係る湿式処理方法について、さらに説明する。
上記浸出工程では、製錬煙灰を高温の強酸液で浸出処理し、その製錬煙灰中の銅(銅以外の亜鉛、カドミウム等の非鉄金属も含まれる。)と砒素とを強酸液中に浸出させる。
上記脱銅工程では、その強酸の浸出液に硫化水素ガスを吹き込むことにより、浸出液中の銅を硫化銅(CuS)として回収する。
上記脱砒素工程では、上記浸出液に残留している砒素を水酸化鉄(3価鉄)と反応させることより、砒酸鉄として回収される。
【0005】
【非特許文献1】箕浦潤:日本鉱業会誌,101〔1169〕,397〜402(1985)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、非鉄製錬分野では鉱石原料確保の環境が世界的に厳しくなりつつある。特に、銅製錬の分野においては、非鉄メジャーによる寡占化が進み、さらに中国等の新たな消費大国が出現したことにより、需給が逼迫した状況にある。
こうした中、銅製錬においては砒素品位の高い銅鉱石原料も使用しなければならなくなっている。そのため、銅鉱石中の砒素品位の永続的な上昇は避けられず、銅製錬工程への砒素の負荷量が増大していく。この結果、工程内濃縮による操業管理上、及び、品質管理上の問題が懸念される。さらに、鉱石中の砒素品位が上昇すると、製錬過程で発生する砒素含有中間産物の処理負担が増大する。
【0007】
このような状況下において、本発明者らは、従来可能であった銅−砒素含有中間産物の工程内での繰り返し処理が、困難になっていくものと考えた。
そして本発明者らは、当該銅−砒素含有中間産物の工程内での繰り返し処理を、今後も円滑に行うためには、これら中間産物から(銅と)砒素を分離し、中間産物からの砒素の工程内への入り込みを抑えることが前提となると考えた。そして、本発明者らは、銅と砒素とが最も濃縮する中間産物である製錬煙灰からの銅と砒素の分離処理が、将来において特に非常に重要となると考えた。
【0008】
一方、本発明者らの検討によると、上述した従来の非鉄製錬煙灰処理方法には、次のよ
うな問題があった。
即ち、上記処理方法では、脱銅工程で大量の硫化水素を使用するが、この方法は、硫化水素を同じ処理施設内で副産物あるいは中間産物として低コストに確保できるという特殊な場合を除いて、コスト高になるという問題があった。また、硫化水素は大気等への環境負荷が大きいため、上記処理方法では未反応で大気中に放出される硫化水素を完全に除去するため、環境負荷対策コストの負担が大きくなるという問題もあった。
【0009】
本発明は、以上のような技術背景を鑑みてなされたものであって、その主な目的は、銅と砒素を含む非鉄製錬煙灰から銅と砒素とを、低環境負荷で効率良く低コストに分離する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、背景技術で説明した「製錬煙灰を高温の強酸液で浸出処理し、その煙灰中の銅と砒素とを強酸液中に浸出させる。」という構成を全く転換し、「製錬煙灰と水とを混合してなるパルプの酸性度を、アルカリ剤添加により所定pH範囲に低減させ、このpH状態を維持しながら上記パルプから銅を砒素から分別して浸出する。」という画期的な構成に想到し本発明を完成した。
【0011】
即ち、上述の課題を解決する第1の発明は、
銅と砒素とを含む非鉄製錬煙灰から銅と砒素を分別する煙灰処理方法であって、
非鉄製錬煙灰と水とを混合してパルプを作製するリパルプ工程と、
作製されたパルプの酸性度を、アルカリ剤添加により所定pH範囲内に低減させる酸性度低減工程と、
当該酸性度が低減されたパルプのpH範囲を保持して浸出し、浸出液と浸出残渣とを得る浸出工程とを有し、
銅を含む浸出液と、砒素を含む浸出残渣とを、得ることを特徴とする非鉄製錬煙灰処理方法である。
【0012】
第2の発明は、
上記浸出工程におけるパルプのpHを、3.0〜4.0の範囲とすることを特徴とする第1の発明に記載の非鉄製錬煙灰処理方法である。
【0013】
第3の発明は、
上記アルカリ剤が、アルカリ土類金属を含むアルカリ剤であることを特徴とする第1または第2の発明に記載の非鉄製錬煙灰処理方法である。
【0014】
第4の発明は、
上記リパルプ工程と、酸性度低減工程と、浸出工程とを、同一の反応槽内で行うことを特徴とする第1〜第3の発明のいずれかに記載の非鉄製錬煙灰処理方法である。
【0015】
第5の発明は、
非鉄製錬煙灰と水とを第1の槽に投入して上記リパルプ工程を行い、この第1の槽で作製されたパルプを第2の槽に移送し、この第2の槽内で上記酸性度低減工程と、浸出工程とを行うことを特徴とする第1〜第3の発明のいずれかに記載の非鉄製錬煙灰処理方法である。
【0016】
第6の発明は、
非鉄製錬煙灰と水とアルカリ剤とを第1の槽に投入して上記リパルプ工程と酸性度低減工程とを行い、この第1の槽で作製されたパルプを第2の槽に移送し、この第2の槽内のパルプへ酸を添加することにより、パルプのpHを上記範囲に調整および保持して浸出工
程を行うことを特徴とする第1〜第3の発明のいずれかに記載の非鉄製錬煙灰処理方法である。
【0017】
第7の発明は、
上記浸出残渣に酸を添加して砒素を浸出させる再浸出工程を行い、得られた再浸出液から砒素を回収することを特徴とする第1〜第6の発明のいずれかに記載の非鉄製錬煙灰処理方法である。
【0018】
第8の発明は、
上記浸出残渣に酸を添加して砒素を浸出させる再浸出工程を行い、得られた再浸出液から砒素を硫化砒素として回収することを特徴とする第1〜第7の発明のいずれかに記載の非鉄製錬煙灰処理方法である。
【0019】
第9の発明は、
上記酸が、硫酸および/または硫酸排水であることを特徴とする第6〜第8の発明のいずれかに記載の非鉄製錬煙灰処理方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、銅と砒素を含む非鉄製錬煙灰から銅と砒素とを、低環境負荷で効率良く低コストに分離することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明において非鉄製錬煙灰とは、主に、銅精鉱を原料とし乾式製錬炉にて粗銅を製造する際に発生する煙灰のことである。当該煙灰は、乾式製錬炉で発生するSOを含む排ガスに含まれている。通常、この排ガスは、ボイラーで熱回収後、サイクロン、ホットコットレルにて煙灰を除去した後、硫酸工場へ送られる。当該ボイラー、サイクロン、ホットコットレルで除去され、捕集された煙灰は、炉に近いものほど機械的に飛散した成分が多く、炉に遠いものほど揮発成分が多くなる。そして、当該揮発成分の多い煙灰は、湿式処理に適する。
通常、これら非鉄製錬煙灰には、銅以外に、砒素、亜鉛、カドミウム、鉛、アンチモン等の金属が含まれている。これらの金属成分は、単体酸化物および複合化合物の形で混在しており、複数の化合物として混成している。尚、廃棄物処理において発生する飛灰と異なり、非鉄製錬煙灰は、塩素を含有してはいない。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態による非鉄製錬煙灰処理方法の要部工程図を示す。
まず、リパルプ工程について説明する。
図1に示すように、本発明では、まず、銅(Cu)と砒素(As)を含む非鉄製錬煙灰1(銅製錬煙灰)を水2と混合(リパルプ)して、両者が分散状態でスラリー状に混合したパルプ3が作製される。
【0023】
次に、酸性度低減工程について説明する。
一般に、非鉄製錬煙灰1は、水2と混合しリパルプすれば酸性を示し、その酸濃度に応じて銅、砒素等が溶解される。そして、当該酸濃度は煙灰浸出のパルプ濃度でも変わる。
本発明者等は、後述する表2に示す品位を有する非鉄製錬煙灰と、水とを各比率で混合し、パルプのpH、液中への銅、砒素の溶解状況を測定した。当該測定結果を表1に記載する。尚、本発明においてパルプ濃度とは、パルプ濃度(P.D.)=煙灰の乾燥質量(dry・g)/水量(L)のことである。ここで乾燥質量とは、非鉄製錬煙灰を恒温乾燥機にて35℃、30時間乾燥後、室温の室内にて測定した質量である。尚、当該乾燥は、非鉄製錬煙灰の組成や化合状態が変化しない条件で行う。
【0024】
【表1】

【0025】
表1から明らかなように、非鉄製錬煙灰1を水2でリパルプした場合、パルプ3は酸性を示し、CuのみならずAsも溶解する。ここで生産性を上げるためパルプ濃度を上げれば、パルプの酸濃度も高くなり、砒素が大量に溶け出してくる。
ここで本発明者等は、パルプの酸濃度を抑制することで、砒素の溶出を抑えながら、銅を優先的に溶解させるという画期的な構成に想到した。そして本発明者等は、当該構成を実現するため鋭意研究を行った結果、アルカリ剤を用いて、パルプのpH(水素イオン指数)を2.0〜4.0間、好ましくは3.0〜4.0の間に調整することで、上記目的を達成できることを知見した。
当該知見により本発明者等は、作製されたパルプの酸性度を、アルカリ剤添加により所定pH範囲内に低減させる酸性度低減工程に想到したものである。
【0026】
次に、浸出工程について説明する。
上述したpH調整のために添加するアルカリ剤4としては、多様なものが使用可能である。例えば、NaOH、ZnOやZn(OH)などの中和能力を有する金属化合物が使用可能である。尤も、コスト性および汎用性などの観点から、アルカリ土類金属類を含むアルカリ剤が好ましいが、なかでもカルシウムを含むアルカリ剤が好ましい。ここで好ましいカルシウムを含むアルカリ剤としては、CaO、Ca(OH)、CaCO等がある。これらはすべて好適に使用可能だが、CaCOは銅濃度が高い場合やpHが中性側にあるときなどに、炭酸塩を形成し易い。この結果、銅ロス(浸出率が低下)を生じる危険性が懸念される。そこで、本発明の実施には、CaOやCa(OH)が好ましい。さらに、複数のアルカリ剤を混合使用してもよい。
【0027】
アルカリ剤は、水溶液の状態にした後にパルプへ添加するのが好ましい。アルカリ剤を水溶液の状態にしてパルプへ添加することで、パルプ内でアルカリ剤が溶解しながら反応する事態を回避できるからである。パルプ内でアルカリ剤が溶解しながら反応すると、パルプ内に不均一なpH状態が発生し、局所的な高pH部分では、パルプ中の砒素が難溶性形態に変質することが考えられる。そして、当該難溶性形態の砒素は、次工程における砒素浸出時の砒素浸出率低下の原因とも成り得るからである。
【0028】
浸出5の際の温度は、成り行きの温度で良い。室温での浸出であっても十分効果が得られる。従って、特別な事情を伴わない限り、あえて加温したり、温度制御することは不要である。
【0029】
次に、上記pH状態を維持しながら、上記浸出5の浸出パルプを、浸出液6と浸出残渣7とに分離する。すると、浸出液6側には、銅(銅以外の非鉄金属(亜鉛等)も含まれる。)が選択的に多く浸出される。一方、砒素はほとんど浸出されず浸出残渣7側に残留する。これは、銅と砒素の浸出率が、浸出5における浸出パルプの酸性度によって互いに異なる挙動を示すことによる。
【0030】
すなわち、砒素は、浸出5における浸出パルプのpHが上昇するにともなって浸出率が低下する。一方、銅は、pHの上昇にともなって浸出率が若干下降する傾向があるものの、砒素の浸出率が低下するpH領域では、砒素に比べて格段に大きな浸出率を示すからである。とくに、パルプ3のpHが3.0以上では、銅と砒素の間で浸出率に顕著な差が生じ、その差はpH3.5以上でほぼ極大となる。そして、pHが4.0以下であれば、銅の浸出率が低下しないので、好ましいpH範囲は3.0〜4.0、さらに好ましくは3.5〜4.0となる。
【0031】
上記のようにパルプ3へのアルカリ剤4の添加によって、パルプ3のpH調整をすることにより、銅と砒素とを、浸出液6と浸出残渣7とに高効率で振り分けることができる。これにより、砒素以外の銅(銅を主とする非鉄金属)を選択的に多く含有した浸出液6と、その銅以外の砒素が選択的に多く残留させられた浸出残渣7とを得ることができる。
【0032】
さらに、回収工程について説明する。
上記浸出液6からは、脱砒素された銅を効率よく回収することができる。具体的には、汎用的で安価なFeスクラップ投入による置換法や、既存保有の銅電解採取設備を用いて直接電気銅として回収する方法を適用することが出来る。この結果、高価な硫化水素を使わずにすみ、アルシンガス発生の危険性が格段に低減・改善されることで、銅回収コストが大幅に低減出来る。
【0033】
一方、上記浸出残渣7には砒素が選択的に多く残留している。そこで、簡単な処理で浸出残渣7中の砒素を効率よく抽出し、回収させることができる。具体的には、例えば、浸出残渣7へ酸10を添加して砒素を浸出させる再浸出12を行い、その再浸出液から硫化砒素として砒素回収を15すればよい。この再浸出12では、上記浸出残渣7を酸10でリパルプして強酸性のパルプ11を作製する。砒素はその強酸性の再浸出液13に高率で浸出される。従って、再浸出12の浸出パルプを、再浸出液13と再浸出残渣16とに分離することで、砒素を再浸出液側13に選択的に多く含有させることが出来る。
【0034】
当該再浸出液13中の砒素は、硫化剤の添加により硫化物として沈殿させ、回収することができる。硫化剤としては、例えば、硫化水素がある。硫化水素14を通じることにより硫化砒素として沈殿させ、砒素回収15をすることができる。
ここで、非鉄製錬煙灰1に含有されていた銅の殆どは、上述した浸出5において既に浸出されている。従って、再浸出12で得られる再浸出液13中には銅が少ない。一方、非鉄製錬煙灰1に含有されていた砒素は、殆どがこの再浸出液13に入っている。この結果、硫化剤の添加により効率良く砒素回収15を行うことが出来る。
さらに、当該硫化剤添加法を、従来の砒酸鉄法に代替することも出来る。そして、従来の砒酸鉄法に代替する場合であっても、前工程において、例えば硫化法により予め銅を減らすことなしに、当該砒酸鉄工程を組み込むことが可能である。
【0035】
さらに好ましいことに、上述した浸出5において、硫化物になり易い銅、亜鉛、カドミニウム等の大半が既に浸出されているため、再浸出液13にはこれらの元素が少ない。従って再浸出液13への、硫化水素14の添加によって、砒素を硫化し効率よく砒素回収15を行うことが出来る。また、回収される硫化砒素殿物の砒素品位が高く、スコロダイト結晶製造用原料に最適である。
【0036】
さらに、上記再浸出処理で添加する酸10には、汎用的でコスト性にすぐれた硫酸が適している。当該硫酸としては、硫酸排水の使用も可能であり、この場合はさらにコスト性を向上させることができる。硫酸排水とは、硫酸工場における原料SOガスの水洗浄系統で発生し、CuやAsを含有する酸性排水を示し、銅鉱石等の含硫黄鉱石原料を処理す
る非鉄製錬所における硫酸工場で必然的に発生するものである。
【0037】
上記再浸出残渣16には、鉛など、銅、砒素以外の非鉄金属類も残留している。そこで、再浸出残渣16の品位により、銅または鉛の製錬原料17として使用できる。
【0038】
ここで、上記非鉄製錬煙灰から銅と砒素とを分離させるための、上述した浸出工程について、図2を参照しながら、さらに詳細に説明する。
非鉄製錬煙灰から銅と砒素とを分離させる最初の浸出工程としては、図2の(a)(b)(c)に示す第1〜第3の各方式が、それぞれ好適に実施可能である。以下、第1〜第3の各方式について説明する。
【0039】
〈第1方式(pH維持方式)〉
第1方式では、図2(a)に示すように、非鉄製錬煙灰と水とを混合してパルプを作製するリパルプ工程と、当該パルプにアルカリ剤を添加して酸性度を所定のpH範囲(3.0〜4.0好ましくは3.5〜4.0)に中和する酸性度低減工程と、当該パルプの所定pH範囲を維持しながら銅浸出液を得る浸出工程とを、同一の反応槽20内で行う方式である。
【0040】
リパルプ工程では、反応槽20内に非鉄製錬煙灰と水を投入し、撹拌機35で撹拌してスラリー状のパルプを作製する。酸性度低減工程では、そのパルプのpHが所定範囲(3.0〜4.0好ましくは3.5〜4.0)となるように、pHモニター30でpHを測定しながら、アルカリ剤(CaO等のCa系アルカリ剤)の添加量を調整する。
浸出工程では、上記調整操作のあと、反応槽20内のパルプを、浸出液と浸出残渣とに分離して取り出すことにより、銅は浸出液から、砒素は浸出残渣からそれぞれ効率的に回収することができる。
【0041】
第1方式は、1つの反応槽20を、リパルプと酸性度低減と浸出との各工程に兼用させる。従って、装置は簡便であり、小規模な処理を行うのに適している。
【0042】
〈第2方式(pH上げ方式)〉
第2方式は、図2(b)に示すように、非鉄製錬煙灰と水を第1の槽(リパルプ槽)25に投入してパルプを作製するリパルプ工程を行い、この第1の槽25で作製されたパルプを第2の槽(反応槽)20に移送する方式である。そして、この第2の槽20内で、パルプにアルカリ剤を添加することにより、パルプを上記pH範囲に調整および維持する酸性度低減と、銅浸出液を得る浸出工程とを行うものである。
【0043】
この第2方式は、リパルプ工程と、酸性度低減工程および浸出工程とを、並行して行うことができるので、大量処理に適している。
【0044】
〈第3方式(pH下げ方式)〉
第3方式では、図2(c)に示すように、非鉄製錬煙灰と水とアルカリ剤を第1の槽25に投入してパルプを作製するリパルプ工程と、酸性度低減工程とを行い、この第1の槽25で作製されたパルプを第2の槽20に移送する方式である。そして、この第2の槽20内で、パルプに酸を添加することにより、パルプを上記pH範囲に調整および維持して銅浸出液を得る浸出工程を行う。
【0045】
この第3方式では、第1の槽25内でパルプを作製する段階でアルカリ剤添加が行われることにより、浸出液中への砒素の浸出を早い時点で抑えることができる。これにより、第2の槽20での酸添加によるpH調整が完了するまでに、銅を効率よく浸出させることができる。
【0046】
〈第1〜第3方式のまとめ〉
第1〜第3方式は、それぞれ銅と砒素との浸出率と、パルプpHとの関係とにおいて、有意な相違が見られる。しかし、いずれの方式においても、銅と砒素とを効率よく分離するという目的を十分に達成することができる。
さらに、第3方式(pH下げ方式)は、浸出液中への砒素の浸出を抑える効果が、他の方式に較べ、特に高いことが確認できた。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を参照しながら本発明を説明する。
[実施例1]
本実施例では、上述した第1方式(pH維持方式)、第2方式(pH上げ方式)、第3方式(pH下げ方式)の各方式について、具体例をもって説明する。
【0048】
本実施例の試験条件について説明する。
非鉄製錬煙灰試料として、表2に成分品位を示す自熔炉煙灰を250dry・g準備した。尚、当該非鉄製錬煙灰試料は、一非鉄金属製錬所(以下、A製錬所と記載する。)の自熔炉(Outokump Flash Furnace)で発生した煙灰から採取したものである。
パルプを作製するための溶媒は、純水500mLを用い、容器は1リットルビーカーを使用した。
撹拌装置は、4枚邪魔板・1段タービン羽根を使用した。
アルカリ剤として、濃度50g/LのCa(OH)ミルク(水溶液)を準備した。
反応温度は25±2℃とした。
設定pHは、2.5、3.0、3.5、4.0、4.4 の5水準を設定した。
【0049】
【表2】

【0050】
〈第1方式(pH維持方式)〉
1リットルビーカーへ500mLの純水を入れて攪拌を開始し、設定pHを維持した。ここへ、振動フィーダーを用いて、煙灰試料250dry・gを、約12分間かけて添加しパルプとした。煙灰添加終了後、さらに20分間、設定pHを維持しながら浸出を継続した後、パルプの攪拌を終了した。
【0051】
〈第2方式(pH上げ方式)〉
1リットルビーカーへ500mLの純水と、煙灰試料250dry・gとを添加し、10分間攪拌しパルプとした。当該攪拌後、パルプにアルカリ剤を添加し、設定pHに到達するまで中和した。当該設定pHに到達後、さらに20分間、設定pHを維持しながら浸出を継続した後、パルプの攪拌を終了した。
【0052】
〈第3方式(pH下げ方式)〉
1リットルビーカーへ500mLの純水を入れて攪拌を開始し、pH=4.5を維持しながら、煙灰試料250dry・gを振動フィーダーを用いて、約12分間をかけて添加しパルプとした。煙灰添加終了後、当該パルプへ95%硫酸を添加してpHを下げ、設定pHに到達した。当該設定pHに到達後、さらに20分間、設定pHを維持しながら浸出を継続した後、パルプの攪拌を終了した。
【0053】
上記第1〜第3方式について、得られた浸出液中の銅濃度のpH依存性を図3に、浸出液中の砒素濃度のpH依存性を図4に、浸出液への銅浸出率のpH依存性を図5、浸出液への砒素浸出率のpH依存性を図6に示した。
尚、図3、図4においては横軸にpHをとり、縦軸には銅濃度または砒素濃度をとった。また、図5、図6においては横軸にpHをとり、縦軸には銅浸出率または砒素浸出率をとった。さらに、図3〜図6において、第1方式(pH維持方式)を◇でプロットし実線で結び、第2方式(pH上げ方式)を□でプロットし破線で結び、第3方式(pH下げ方式)を△でプロットし一点鎖線で結んだ。
また、得られた各浸出液における、銅濃度(g/L)に対する砒素濃度(g/L)の割合R(%)を算出し、当該Rの値を表3に示した。ここで、Rの値が低いとは、砒素混入の少ない銅溶液が得られたことを示している。
【0054】
【表3】

【0055】
図3〜図6および表3の結果から、以下のことが判明した。
(1)上記第1〜第3方式のいずれの方式であっても、アルカリ添加による中和を行いながら浸出pHを中性側として浸出を行うことにより、銅の浸出率は確保しつつ砒素の浸出率を抑えることが出来る。
(2)当該試験に用いた煙灰では、パルプのpHが3以上である場合において、銅と砒素との分離が顕著に可能となった。ただし、当該挙動は、当該煙灰が示す挙動である。従って、製錬乾式炉の違い等により発生する煙灰の性状が若干異なる場合は、銅と砒素との分離が顕著に可能となるpHの値が、今回試験結果の3以上とは異なる場合も考えられる。要は、パルプのpH値が、それぞれの煙灰に応じた数値以上となることで、銅と砒素との分離が顕著に可能となることを知見したものである。
(3)当該試験に用いた煙灰では、pH値が3〜4、好ましくは3.5〜4.0のとき、銅と砒素との分離性が良い。なかでも第2方式は、各pHにおいて銅の浸出率が高い値を示した。
(4)当該試験に用いた煙灰では、pH=4のとき、第1〜第3方式とも砒素の浸出率は1%以下(0.8%)であった。例えば、第2方式において浸出pH=4.0としたときの浸出液品位は、Cu=27g/L、As=76mg/Lであった。即ち、砒素を殆ど含まない銅の濃縮液を回収することが出来た。一方、pHが4以上となると、砒素の浸出率はさらに低下した。加えて、銅の浸出率も急激に低下した。従って、銅の高浸出率の確保を優先し、分離浸出を行う場合はpHを4未満とすることが好ましい。
【0056】
[実施例2]
本実施例では、パルプの濃度およびpH(浸出pH)が、砒素と銅との浸出率へ与える影響について具体例を説明する。
【0057】
本実施例の試験条件について説明する。
実施例1と同様の煙灰試料を用い、[第1方式(pH維持方式)]による浸出実験を行
った。このとき、パルプの濃度を100〜1000g/Lの範囲において、100g/L、500g/L、1000g/Lの3水準を準備した。浸出の際のpHは、3.0と3.5との2水準とした。当該パルプの調合を表4に示す。
ここで使用アルカリ剤の濃度を、以下に示す様に設定した以外は、実施例1と同様の操作を行った。
パルプ濃度100g/Lおよび500g/Lのときは、濃度50g/LのCa(OH)水溶液を用いた。一方、パルプ濃度1000g/Lのときは、濃度200g/LのCa(OH)水溶液を用いた。
【0058】
【表4】

【0059】
そして、上記各水準におけるパルプからの銅と砒素との浸出率(%)をそれぞれ測定し当該測定結果を図7〜図10に示した。
尚、図7、図8においては横軸にパルプ濃度をとり、縦軸には銅濃度または砒素濃度をとった。また、図9、図10においては横軸にパルプ濃度をとり、縦軸には銅浸出率または砒素浸出率をとった。さらに、図7〜図10において、pH3.0のときを◇でプロットし実線で結び、pH3.5のときを□でプロットし破線で結んだ。
また、実施例1と同様に、得られた各浸出液における、銅濃度(g/L)に対する砒素濃度(g/L)の割合R(%)を算出し、当該Rの値を表5として示した。
【0060】
【表5】

【0061】
図7〜図10および表5の結果から、以下のことが判明した。
(1)パルプ濃度が上昇すると、砒素の浸出率は低下する。また、各パルプ濃度において、パルプのpHが3.5のときの砒素浸出率は、pHが3.0のときの砒素浸出率より低い。
(2)パルプのpHが3.0のときの銅の浸出率は、各パルプ濃度でほぼ同じ値を示す。
しかし、パルプのpHが3.5のときの銅の浸出率は、パルプ濃度1000g/Lにおいて若干低下する。
(3)今回の試験範囲では、パルプ濃度が高い方が生産性も上がり、実際の操業には好ましい。第1方式では、高パルプ濃度である1000g/Lの場合、非常に良好な結果が得られている。
因みに、高パルプ濃度である1000g/Lの場合、pH3.0においてR=0.3%である。当該R値は、パルプ濃度500g/Lの場合、pH4.0の条件に匹敵するものである。さらに、pH3.5ではR=0.1%を示した。当該R値は、後述する比較例のR=20.5%の約1/200である。従って、高パルプ濃度において、銅と砒素の分離
性の非常に高いことを示している。
【0062】
一方、高パルプ濃度である1000g/Lの場合、pH値3.5における砒素の浸出率が0.3%(後述する比較例では71.3%)である。従って、砒素の浸出率の観点からも、パルプ濃度が高い方が生産性も上がり、実際の操業には好ましいことが解る。
尤も、パルプ濃度を高くしすぎると、今度は、パルプの粘性が上がりすぎて処理操作性に支障を来たす。したがって、パルプ濃度は、その処理操作性に支障を来すことなく、且つ、銅と砒素の分離性を高くできる範囲に設定することが好ましい。具体的には、100g/L〜1000g/Lが好ましいが、実際に処理する煙灰の性状に基づいて定めることが肝要である。
【0063】
好ましいことに、上述したパルプ濃度1000g/Lの場合、pH値3.5にて得られた浸出液は、銅56.6 g/L、砒素61mg/Lの高濃度銅溶液である。従って、薬剤コストが高い硫化法で回収する迄もなく、セメンテーション法、電解採取法、中和法等の汎用的な方法で回収が可能と考えられる。
【0064】
[実施例3]
本実施例では、実施例1、2で説明した浸出工程で発生する浸出残渣を、再浸出して砒素を浸出させる具体例について説明する。但し、再浸出工程では、実施例1、2で説明した浸出工程で浸出されずに残った銅も一部溶解している。
【0065】
本実施例の試験条件について説明する。
まず、第1浸出工程で得られた第1浸出残渣を試料とした。
但し、第1浸出工程は以下の条件で行った。
上記第1方式(pH維持方式)を用い、設定pHは3.5とした。パルプ温度は室温(実際は25〜30℃であった。)とし、積極的な温度制御は実施しなかった。
煙灰試料は、表6に示す成分品位のものを2200g・dry準備した。当該煙灰試料を、リパルプ用の純水4400mLへ投入した。pH調整用のアルカリ剤は濃度50g/LのCa(OH)水溶液を用いた。
【0066】
【表6】

【0067】
装置条件:ステンレス製の10リットル(4枚邪魔板あり)容器と2段タービン羽の撹拌機を使用。
【0068】
方法:反応器に純水を入れ、アルカリ剤添加によりpHをpH=3.5に維持しながら、所定量の煙灰を振動フィーダーにて純水に投入しパルプを得た。この投入は23分間であった。パルプのpHを3.5に維持しながら、20分間浸出を継続させた後、濾過により浸出液と浸出残渣に分離した。
得られた浸出残渣を、5000mLの純水でリパルプ洗浄した。そして、この洗浄操作を2回行って、洗浄済みの浸出残渣試料を得た。このようにして得られた洗浄済みの浸出残渣試料の成分品位を表7に示す。
尚、当該洗浄済みの浸出残渣試料の回収量は、2077g・wetであり、水分は33.2%であった。また、当該浸出による煙灰の減量率は、37%{1−2077×(1−0.332)/2200=0.37}であった。
【0069】
【表7】

【0070】
当該洗浄済みの浸出残渣試料を用いて、第2浸出工程を行った。
この第2浸出工程では、上記洗浄済みの浸出残渣試料を550wet・g秤量し、これを純水420mLでリパルプして再浸出用のパルプを調整した。
この再浸出用パルプを1リットルビーカーに入れ、撹拌装置として4枚邪魔板で、1段タービン羽根を用い、撹拌しながら硫酸を添加して残留砒素を浸出させた。
浸出温度は、25、50、75℃の3水準とした。各試験において、まず、パルプに濃硫酸を添加し、pHを3に調整してから試験を開始した。
段階的にpH値を下げ、各pH値毎にパルプを6mLサンプリングし、当該サンプリング試料の銅と砒素とを分析した。尚、当該サンプリングはパルプが各pH値に到達し、当該pHを20分間維持した後に実施した。
【0071】
当該サンプリング試料の各温度における、浸出時のpHと浸出液の砒素濃度を図11に、銅濃度を図12に示した。さらに、当該銅と砒素との分析値から算定される各温度における、浸出時のpHと浸出液への砒素浸出率を図13に、銅浸出率を図14に示した。
尚、図11、図12においては横軸にpHをとり、縦軸には銅濃度または砒素濃度をとった。また、図13、図14においては横軸にpHをとり、縦軸には銅浸出率または砒素浸出率をとった。(但し、再浸出対象の残渣中に含有される砒素量、銅量を100%とした。)さらに、図11〜図14において、25℃のときを◇でプロットし実線で結び、50℃のときを□でプロットし破線で結び、75℃のときを△でプロットし一点鎖線で結んだ。
【0072】
さらに、水洗浄処理をした再浸出残渣の一例として、25℃、pH0.2時点で回収されたロットの分析結果を表8に示す。
【0073】
【表8】

【0074】
尚、当該再浸出残渣は、330wet・g(水分=23.4%)であったが、実際は途中サンプリングがありパルプ量が約5%前後減少している。そこで、途中サンプリングがなければ得られたであろう再浸出残渣量は、347wet・g程度と推定される。従って、再浸出による原料浸出残渣の減量率は27%{(1−347×(1−0.234)/(550×(1−0.332))=0.27}と推算される。
【0075】
上述した図9〜図12および表8の結果から、以下のことが判明した。
(1)砒素の浸出に関しては、温度依存性が弱く、pH依存性が強い。従って、砒素の浸出に着目するならば、パルプ温度は、制御不要であり室温で良い。また、砒素の浸出はpHが0.5前後で、ほぼ定常値となっている。従って、パルプ中の酸濃度を不必要に上げる必要はない。尤も、当該定常化現象は、本試験に用いた煙灰に基づいた知見であるが、
他煙灰も同様の挙動を示すものと考えられる。
(2)銅の浸出に関しては、温度依存性も強い。そして、パルプ温度は、50℃前後で十分である。尤も、銅の溶解を抑えて砒素を優先的に浸出させたい場合は、温度が低い方が有利である。従って、当該水洗浄処理をした再浸出残渣を、銅製錬原料としてリサイクルする場合は、敢えて加温せず、銅を残渣に残留させた方が、コスト的に有利と考えられる。銅を残渣から液に溶解させると、銅の回収コストやロスが発生し易くなるからである。
一方、本試験に用いた煙灰はPb含有量が高い。この結果、得られた当該水洗浄処理をした再浸出残渣のPb品位は、約37%まで濃縮した。そこで、この水洗浄処理をした再浸出残渣は、Pb製錬原料として用いることも出来る。この場合は浸出時のパルプ温度を上げ、当該水洗浄処理をした再浸出残渣に銅が入らない構成をとるのが好ましい。即ち、浸出温度は、当該水洗浄処理をした再浸出残渣の後処理工程をも考慮して決定することが好ましい。
(3)パルプ温度を制御せずに実施した室温浸出において、砒素は約70%程度が浸出できたのに対し、銅の浸出率は、おおよそ34%であった。しかし、銅は、浸出第1工程で既に80%程度浸出されている。従って、最初の煙灰中の銅量を100%とした場合、図1において符号12で示す再浸出工程での銅の浸出率は、約6〜7%程度の低いものである。
【0076】
[実施例4]
本実施例は、上述したA製錬所の発生する煙灰を、A製錬所で発生する硫酸排水を使って再浸出処理する場合を想定したものである。
【0077】
A製錬所で発生する煙灰と、硫酸排水との発生量の比は、
煙灰量(t/日)/硫酸排水(m/日)=0.324 t/mである。
ここで、煙灰量を、図1において符号5で示す浸出にて分離された、符号7で示す浸出残渣の残渣量に換算し、当該浸出における煙灰の減量化率を37%、且つ、回収残渣の水分を33.2%とした場合、当該浸出残渣の残渣量と、硫酸排水との比は、
浸出残渣量(dry・t/日)/硫酸排水(m/日)=0.324×(1−0.37)÷(1−0.332)=0.305wet・t/m ≡305wet・g/Lである。
【0078】
本実施例の試験条件について説明する。
(1)用いた図1において符号7で示す浸出残渣試料は、実施例3の表7に示したものと同様である。当該試料を305wet・g測り取る。
(2)用いた硫酸排水の品位を表9に示す。当該硫酸排水試料を1リットル測り取る。
(3)当該浸出残渣試料と硫酸排水試料とを、2リットルビーカーに投入し、4枚邪魔板および2段タービン羽を用いて混合し、パルプを得た。
(4)当該パルプに対し25℃、30分間の攪拌浸出をおこなった後、当該パルプの濾過を実施し、濾液と回収残渣とを得た。得られた濾液の品位を表10に、水洗浄処理を施した回収残渣の品位を表11に示す。尚、回収残渣の量は210 wet・gであり、水分は26.5%であった。
【0079】
【表9】

【表10】

【表11】

【0080】
以上の試験結果から、本実施例における残渣減容化率は、約24%と算出される。また、本実施例における浸出率は、銅で約33% 砒素で約73%と推算される。
従って、本実施例においても、実施例3で説明した濃硫酸を用いた浸出の場合と、殆ど同じ浸出率を示していることが判明した。即ち、図1において符号7で示す浸出残渣の、符号12で示す再浸出に用いる符号10で示す酸として、硫酸排水が使用可能であることが判明した。
当該構成を採用することで、煙灰中の砒素と、硫酸排水中の砒素とを同時に回収することが可能となり、効率化が図れる。さらに、添加薬剤としての濃硫酸が不必要となり、薬剤コストが大幅に削減できる。
【0081】
以上、本発明をその代表的な実施例に基づいて説明したが、本発明は上述した以外にも種々の態様が可能である。たとえば、リパルプ工程と浸出工程はそれぞれ原料投入しながら連続的に行わせることも可能である。
【0082】
[比較例1]
本比較例は、従来技術に係るパルプの硫酸浸出をおこなった場合の具体例である。
本比較例の試験条件について説明する。
非鉄製錬煙灰試料として、実施例1と同様の表2に成分品位を示す自熔炉煙灰を500dry・g準備した。
パルプを作製するための溶媒は、純水1000mLを用い、容器は2リットルビーカーを使用した。
撹拌装置は、4枚邪魔板・2段タービン羽根を使用した。
先ず、煙灰500dry・gを、純水1リットルへ投入して攪拌しパルプを得た。当該パルプへ、95%硫酸を添加し、pH0.2に到達させた。その後、さらにパルプの攪拌を継続し、95%硫酸を用いてpH0.2を維持しつつ、20分間浸出を行って浸出液を得た。このとき、反応温度は、25土2℃であり、95%硫酸は、全量で77g消費された。
【0083】
浸出液中の銅および砒素の濃度、銅および砒素の浸出率、銅濃度に対する砒素濃度の割合であるRの値を表12に示す。
【0084】
【表12】

【0085】
表12の結果から、比較例1に係る浸出液には、銅と砒素とが溶解可能限度まで溶解して、混合溶液となっていることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0086】
銅と砒素とを含む非鉄製錬煙灰から、低環境負荷で効率良く低コストで、銅と砒素とを分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の一実施形態における非鉄製錬煙灰処理方法のフロー図である。
【図2】本発明の実施形態に用いる装置の概念図である。
【図3】浸出液中の銅濃度とpHとの関係を示すグラフである。
【図4】浸出液中の砒素濃度とpHとの関係を示すグラフである。
【図5】浸出液中への銅浸出率とpHとの関係を示すグラフである。
【図6】浸出液中への砒素浸出率とpHとの関係を示すグラフである。
【図7】浸出液中の銅濃度とパルプ濃度との関係を示すグラフである。
【図8】浸出液中の砒素濃度とパルプ濃度との関係を示すグラフである。
【図9】浸出液中への銅浸出率とパルプ濃度との関係を示すグラフである。
【図10】浸出液中への砒素浸出率とパルプ濃度との関係を示すグラフである。
【図11】各温度における、浸出液中の砒素濃度とpHとの関係を示すグラフである。
【図12】各温度における、浸出液中の銅濃度とpHとの関係を示すグラフである。
【図13】各温度における、浸出液中への砒素浸出率とpHとの関係を示すグラフである。
【図14】各温度における、浸出液中への銅浸出率とpHとの関係を示すグラフである。
【図15】従来技術に係る非鉄製錬煙灰処理方法のフロー図である。
【符号の説明】
【0088】
1 非鉄製錬煙灰
2 水
3 パルプ
4 アルカリ剤
5 浸出
6 浸出液
7 浸出残渣
8 銅回収
10 酸
11 パルプ
12 再浸出
13 再浸出液
14 硫化水素
15 砒素回収
16 再浸出残渣
17 銅または鉛製錬原料
20 反応槽、
25 リパルプ槽
30 pHモニター
35 撹拌機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅と砒素とを含む非鉄製錬煙灰から銅と砒素を分別する煙灰処理方法であって、
非鉄製錬煙灰と水とを混合してパルプを作製するリパルプ工程と、
作製されたパルプの酸性度を、アルカリ剤添加により所定pH範囲内に低減させる酸性度低減工程と、
当該酸性度が低減されたパルプのpH範囲を保持して浸出し、浸出液と浸出残渣とを得る浸出工程とを有し、
銅を含む浸出液と、砒素を含む浸出残渣とを、得ることを特徴とする非鉄製錬煙灰処理方法。
【請求項2】
上記浸出工程におけるパルプのpHを、3.0〜4.0の範囲とすることを特徴とする請求項1に記載の非鉄製錬煙灰処理方法。
【請求項3】
上記アルカリ剤が、アルカリ土類金属を含むアルカリ剤であることを特徴とする請求項1または2に記載の非鉄製錬煙灰処理方法。
【請求項4】
上記リパルプ工程と、酸性度低減工程と、浸出工程とを、同一の反応槽内で行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の非鉄製錬煙灰処理方法。
【請求項5】
非鉄製錬煙灰と水とを第1の槽に投入して上記リパルプ工程を行い、この第1の槽で作製されたパルプを第2の槽に移送し、この第2の槽内で上記酸性度低減工程と、浸出工程とを行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の非鉄製錬煙灰処理方法。
【請求項6】
非鉄製錬煙灰と水とアルカリ剤とを第1の槽に投入して上記リパルプ工程と酸性度低減工程とを行い、この第1の槽で作製されたパルプを第2の槽に移送し、この第2の槽内のパルプへ酸を添加することにより、パルプのpHを上記範囲に調整および保持して浸出工程を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の非鉄製錬煙灰処理方法。
【請求項7】
上記浸出残渣に酸を添加して砒素を浸出させる再浸出工程を行い、得られた再浸出液から砒素を回収することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の非鉄製錬煙灰処理方法。
【請求項8】
上記浸出残渣に酸を添加して砒素を浸出させる再浸出工程を行い、得られた再浸出液から砒素を硫化砒素として回収することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の非鉄製錬煙灰処理方法。
【請求項9】
上記酸が、硫酸および/または硫酸排水であることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の非鉄製錬煙灰処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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