説明

非鉄金属用防食剤および非鉄金属用水溶性切削・研削加工油剤組成物

【課題】非鉄金属に対する防食性に優れ、且つ環境適合性に優れた非鉄金属用防食剤および非鉄金属用水溶性切削・研削加工油剤組成物を提供する。
【解決手段】一般式(1);
−NH−X−NH (1)
(式中、Rは炭素数6〜22の炭化水素基を示し、Xは炭素数2〜4のアルキレン基を示す。)で表されるジアミン系化合物からなる非鉄金属用防食剤;ならびに、該非鉄金属用防食剤を含有してなる非鉄金属用水溶性切削・研削加工油剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非鉄金属用防食剤および該防食剤を含む非鉄金属用水溶性切削・研削加工油剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の切削加工や研削加工では、加工部位や加工工具に摩擦・発熱が生じるため、加工時には水溶性の切削・研削加工油剤が用いられる。切削・研削加工油剤にとっては、切削性、研削性等の潤滑性能に次いで防食性能が重要である。さらに、耐腐敗性能、防錆性能、安定性能(長寿命)、環境適合性能が必要とされる。切削・研削加工油剤は、一般的にアルカリ剤、油性剤、基油、界面活性剤、水等を含有するため、アルミニウム合金等の非鉄金属を腐食し易い。腐食は、非鉄金属全体が切削・研削加工油剤に浸っている状態となる加工中と、切削・研削加工油剤が付着した状態のままで長時間放置される加工後に、主に発生する。さらに、加工によって形成された凹凸部分では、切削・研削加工油剤が溜まり易く、腐食の進行が加速する。
【0003】
そこで、アルミニウム合金等の非鉄金属の腐食を抑制する技術として、撥水処理、表面改質処理、酸化防止剤、防食剤などがある。水溶性切削・研削加工油剤では、一般的に防食剤を配合して、アルミニウム合金等の非鉄金属の腐食を抑制している。代表的な防食剤化合物としては、脂肪酸誘導体、ケイ酸系化合物、リン系化合物等が知られている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、脂肪酸誘導体は、防食効果が低く、多量に添加する必要があるため、防食性および経済性に劣る。また、ケイ酸系化合物は、防食効果の持続性が低いため、多量に添加する必要がある。しかしながら、水溶性切削・研削加工油剤の系内はアルカリ性であるので、ケイ酸系化合物を多量に添加すると、ゲル化して安定性が悪化するという問題がある。
【0005】
上記のような問題から、比較的防食効果が高いリン系化合物が、一般的に用いられているが、十分な防食効果が得られていないのが現状である。さらに、リン系化合物を含有する排水が、海や河川などに放流された場合に富栄養化をもたらし、赤潮の原因になると言われている。また、リン系化合物を水溶性切削・研削加工油剤に添加した場合、微生物の増殖を促進させる。微生物は、水溶性切削・研削加工油剤の成分を分解して増殖し、その際に、酸化物を産生して水溶性切削・研削加工油剤のpHを低下させる。pHの低下は、錆を誘発し、工作機械等へ悪影響を及ぼす。さらに、pHの低下は、乳化を破壊して加工油剤の性能を低下させるので、加工油剤の寿命を短くする。加工油剤の寿命が短くなると、加工油剤の使用量と廃油量が増加して環境への負荷が増大するという問題がある。
【0006】
上記のように、非鉄金属に対する防食性に優れ、環境に適合した水溶性切削・研削加工油剤組成物は、見出されていないのが現状である。
【特許文献1】特開平2−66177号公報
【特許文献2】特開平2−298275号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、非鉄金属に対する防食性に優れ、且つ環境適合性に優れた非鉄金属用の防食剤および該防食剤を含む非鉄金属用の水溶性切削・研削加工油剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、非鉄金属に対する防食性に関与する化合物を探究した結果、特定のジアミン系化合物が優れた防食性および環境適合性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、下記に示すとおりの非鉄金属用防食剤および非鉄金属用水溶性切削・研削加工油剤組成物を提供するものである。
項1. 一般式(1);
−NH−X−NH (1)
(式中、Rは炭素数6〜22の炭化水素基を示し、Xは炭素数2〜4のアルキレン基を示す。)で表されるジアミン系化合物からなる非鉄金属用防食剤。
項2. 項1に記載の非鉄金属用防食剤を含有してなる非鉄金属用水溶性切削・研削加工油剤組成物。
項3. アルカリ剤、油性剤、基油、界面活性剤、水、および項1に記載の非鉄金属用防食剤を含有してなる非鉄金属用水溶性切削・研削加工油剤組成物。
項4. アルカリ剤1〜30重量%、油性剤1〜30重量%、基油1〜60重量%、界面活性剤1〜30重量%、水1〜70重量%、および項1に記載の非鉄金属用防食剤0.1〜5重量%を含有してなる非鉄金属用水溶性切削・研削加工油剤組成物。
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明の非鉄金属用防食剤は、下記一般式(1)で表されるジアミン系化合物からなる。
−NH−X−NH (1)
式中、Rは炭素数6〜22の炭化水素基を示し、Xは炭素数2〜4のアルキレン基を示す。
【0012】
で示される炭素数6〜22の炭化水素基としては、炭素数6〜22の直鎖状または分岐鎖状の飽和炭化水素基、同じく不飽和炭化水素基等を挙げることができ、好ましくは、炭素数11〜18の直鎖状飽和炭化水素基、同じく直鎖状不飽和炭化水素基を挙げることができる。
【0013】
Xで示される炭素数2〜4のアルキレン基としては、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基等を挙げることができ、好ましくはトリメチレン基を挙げることができる。
【0014】
上記一般式(1)で表されるジアミン系化合物の具体例としては、N−ヤシアルキル−1,3−ジアミノプロパン、N−牛脂アルキル−1,3−ジアミノプロパン、N−硬化牛脂アルキル−1,3−ジアミノプロパン、N−ラウリル−1,3−ジアミノプロパン、N−オレイル−1,3−ジアミノプロパン等を挙げることができ、好ましくは、N−ヤシアルキル−1,3−ジアミノプロパン、N−牛脂アルキル−1,3−ジアミノプロパン、N−ラウリル−1.3−ジアミノプロパン、N−オレイル−1,3−ジアミノプロパンを挙げることができる。
【0015】
これらのジアミン系化合物は、非鉄金属用防食剤として優れた防食効果を発揮する。また、これらのジアミン系化合物は、その構造中にリンを含有しないために環境へ与える影響が少ない。
【0016】
本発明の防食剤を適用する対象の非鉄金属としては、アルミニウム、マグネシウム、コバルト、およびそれらの合金が挙げられる。中でも、アルミニウムまたはアルミニウム合金が好ましく、特に、アルミニウムまたはアルミニウム合金であるADC−12、A−1050、A−2024、A−5054、A−6063、A−7075等で顕著な効果が得られる。
【0017】
本発明の非鉄金属用防食剤を含有してなる非鉄金属用水溶性切削・研削加工油剤組成物は、非鉄金属に対する防食性に優れ、且つ環境適合性に優れている。
【0018】
このような非鉄金属用水溶性切削・研削加工油剤組成物は、組成物全体を100重量%とした場合に、本発明の非鉄金属用防食剤を、好ましくは0.1〜5重量%、より好ましくは0.5〜3重量%、特に好ましくは1〜3重量%含有することができる。
【0019】
本発明の非鉄金属用水溶性切削・研削加工油剤組成物は、上記非鉄金属用防食剤の他に、アルカリ剤、油性剤、基油、界面活性剤、および水を含有することができる。
【0020】
アルカリ剤としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、エチルジエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、水酸化カリウム等が挙げられる。これらの中で、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン等が好ましく用いられる。本発明の非鉄金属用水溶性切削・研削加工油剤組成物は、組成物全体を100重量%とした場合に、これらのアルカリ剤を、好ましくは1〜30重量%、より好ましくは5〜20重量%、特に好ましくは10〜15重量%含有することができる。
【0021】
油性剤としては、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール等のアルコール;ラウリルアミド、パルミチルアミド、ステアリルアミド等のアミド;ステアリルアミン、オレイルアミン等のアミン;ヘキサン酸(モノ、ジ、トリ)グリセリド、オクタン酸(モノ、ジ、トリ)グリセリド、デカン酸(モノ、ジ、トリ)グリセリド、ラウリン酸(モノ、ジ、トリ)グリセリド、ミリスチン酸(モノ、ジ、トリ)グリセリド、パルミチン酸(モノ、ジ、トリ)グリセリド、ステアリン酸(モノ、ジ、トリ)グリセリド、オレイン酸(モノ、ジ、トリ)グリセリド等のエステル類;カプロン酸、へプチリック酸、カプリル酸、ペラゴニン酸、カプリン酸、ウンデシリン酸、ヘンデカン酸、ラウリン酸、トリデシリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシリン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデシリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等の飽和脂肪酸;ソルビン酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノール酸、エルカ酸等の不飽和脂肪酸;イソヘプタン酸、イソノナン酸、イソミリスチン酸、イソパルミチン酸、イソステアリン酸、イソアラキン酸等の分岐鎖状脂肪酸;アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の二塩基脂肪酸等が挙げられる。これらの中で、オレイルアルコール、オレイルアミン、オレイン酸(モノ、ジ、トリ)グリセリド、ステアリン酸、オレイン酸、リシノール酸、イソノナン酸、ドデカン二酸等が好ましく用いられる。本発明の非鉄金属用水溶性切削・研削加工油剤組成物は、組成物全体を100重量%とした場合に、これらの油性剤を、好ましくは1〜30重量%、より好ましくは5〜30重量%、特に好ましくは3〜15重量%含有することができる。
【0022】
基油としては、パラフィン油、ナフテン油等の鉱物油;ポリアルキレングリコール誘導体等の合成油等が挙げられる。これらの中で、パラフィン油、ナフテン油等が好ましく用いられる。本発明の非鉄金属用水溶性切削・研削加工油剤組成物は、組成物全体を100重量%とした場合に、これらの基油を、好ましくは1〜60重量%、より好ましくは10〜50重量%、特に好ましくは20〜40重量%含有することができる。
【0023】
界面活性剤としては、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールモノアルキル(アリール)エーテル、ポリエチレングリコールジアルキル(アリール)エーテル、ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン共重合体、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオールエステル、ポリエーテルポリオール、アルカノールアミド、アルキルベンゼンスルホン酸、石油スルホネート等が挙げられる。これらの中で、ポリエチレングリコールモノアルキル(アリール)エーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、アルキルベンゼンスルホン酸、石油スルホネート等が好ましく用いられる。本発明の非鉄金属用水溶性切削・研削加工油剤組成物は、組成物全体を100重量%とした場合に、これらの界面活性剤を、好ましくは1〜30重量%、より好ましくは3〜20重量%、特に好ましくは5〜15重量%含有することができる。
【0024】
本発明の非鉄金属用水溶性切削・研削加工油剤組成物は、組成物全体を100重量%とした場合に、水を、好ましくは1〜70重量%含有することができる。
【0025】
本発明の非鉄金属用水溶性切削・研削加工油剤組成物は、必要に応じて、防腐剤、消泡剤等を含有することができる。
【0026】
防腐剤としては、トリアジン系化合物、ピリジン系化合物、イソチアゾリン系化合物、ヨウ素系化合物、フェノール系化合物、カチオン系化合物、ホスホニウム系化合物、臭素系化合物、モルホリン系化合物等が挙げられる。これらの中で、トリアジン系化合物、ピリジン系化合物、イソチアゾリン系化合物、カチオン系化合物等が好ましく用いられる。本発明の非鉄金属用水溶性切削・研削加工油剤組成物は、組成物全体を100重量%とした場合に、これらの防腐剤を、好ましくは0.1〜5重量%、より好ましくは0.1〜3重量%、特に好ましくは0.2〜1重量%含有することができる。
【0027】
消泡剤としては、シリコン化合物が一般的に用いられる。例えば、ジメチルポリシロキサン、アルコキシ変性シリコーンオイル、カルボキシル変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、シリコンコンパウンド等の単体もしくはそれらの複合剤や乳化物(シリコンエマルジョン等)などが挙げられる。これらの中で、ジメチルポリシロキサン、シリコンエマルジョン等が好ましく用いられる。本発明の非鉄金属用水溶性切削・研削加工油剤組成物は、組成物全体を100重量%とした場合に、これらの消泡剤を、好ましくは0.1〜3重量%、より好ましくは0.1〜1重量%、特に好ましくは0.1〜0.5重量%含有することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の非鉄金属用防食剤および該防食剤を含む非鉄金属用水溶性切削・研削加工油剤組成物は、非鉄金属に対する防食性に優れ、且つ環境適合性に優れている。
【0029】
本発明の非鉄金属用防食剤として用いるジアミン系化合物は、リン系化合物より遥かに微生物の増殖が少ない。さらに、微生物の増殖に伴う、水溶性切削・研削加工油剤組成物のpHの低下も、リン系化合物に比べて小さい。
【0030】
本発明の非鉄金属用水溶性切削・研削加工油剤組成物は、防腐性能が向上しているので、加工油剤組成物の性能の低下を抑制することが可能であり、加工油剤組成物の長期使用が可能となる。従って、加工油剤組成物の使用量と廃油量を大幅に削減できるため、環境に与える影響が少なく、且つ経済性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
【0032】
実施例1〜5および比較例1〜3
下記の表1に示す組成(重量部)の水溶性切削・研削加工油剤組成物試験液を調製した。
【0033】
【表1】

【0034】
表1の試験液を用いて、下記の試験方法で、防食性試験および防腐性試験を行った。
【0035】
[防食性試験]
JISK2241に記載の耐食性試験方法を参考にして、実際の使用条件により近い条件となるように諸条件を調整して行った。先ず表1に示した試験液(実施例1〜5、比較例1〜3)を水で20倍に希釈し、100ml広口スクリュー管に、30mlを入れた。アルミニウム合金(ADC−12)の試験片を#280研磨紙で研磨し、溶剤(ヘキサン)にて洗浄した。洗浄した試験片を、先に用意した100ml広口スクリュー管に入れ、全体を試験液に一度全浸漬した後に半浸漬し、30℃で48時間静置した。静置後の試験片の変色度合を、試験液に浸漬していた浸漬部、浸漬していなかった気相部、およびそれらの境界の境界部の3部分に分けて目視にて観察し、評価した。評価基準は下記表2のようにした。評価結果を表3に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

【0038】
表3の結果によれば、代表的なアルミニウム合金ADC−12に対して、ジアミン系化合物を含む水溶性切削・研削加工油剤組成物希釈液(実施例1〜5)は、リン系化合物を含む水溶性切削・研削加工油剤組成物希釈液(比較例2〜3)と比較して、防食性に優れていることがわかる。
【0039】
[防腐性試験]
水溶性切削・研削加工油剤組成物希釈液の菌数を、経時的に、市販の微生物簡易測定器(三愛石油株式会社製「バイオチェッカーTTC」)を用いて計測した。生菌数が1×10個/mlに達した時点を終点とし、耐腐敗性の評価を行った。先ず、表1に示した試験液(実施例1、比較例1〜2)を水で20倍に希釈し、500mlの三角フラスコに300ml入れ、次いで、生菌数1×10個/mlの腐敗液を4ml添加して30℃で振盪培養した。3日毎に菌数の測定を行い、菌数測定後に腐敗液4mlを添加し、生菌数が1×10個/mlに達するまで継続的に培養した。
【0040】
リン系化合物を含む水溶性切削・研削加工油剤組成物希釈液(比較例2)が、24日経過時点で生菌数が1×10個/mlに達したのに対して、ジアミン系化合物を含む水溶性切削・研削加工油剤組成物希釈液(実施例1)では、菌の増殖は認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1);
−NH−X−NH (1)
(式中、Rは炭素数6〜22の炭化水素基を示し、Xは炭素数2〜4のアルキレン基を示す。)で表されるジアミン系化合物からなる非鉄金属用防食剤。
【請求項2】
請求項1に記載の非鉄金属用防食剤を含有してなる非鉄金属用水溶性切削・研削加工油剤組成物。
【請求項3】
アルカリ剤、油性剤、基油、界面活性剤、水、および請求項1に記載の非鉄金属用防食剤を含有してなる非鉄金属用水溶性切削・研削加工油剤組成物。
【請求項4】
アルカリ剤1〜30重量%、油性剤1〜30重量%、基油1〜60重量%、界面活性剤1〜30重量%、水1〜70重量%、および請求項1に記載の非鉄金属用防食剤0.1〜5重量%を含有してなる非鉄金属用水溶性切削・研削加工油剤組成物。