説明

面取り工具

【課題】工具本体のスリーブの軸方向の円滑な摺動を担保しつつ、工具本体と工具本体が挿入されている穴の内壁との間に、面取り加工時に発生する異物が流入してくることを抑制することが可能な面取り工具を提供する。
【解決手段】刃部11a、およびスライドピン11bを有する工具本体11と、スリーブ12と、駆動ピン13と、を備える面取り工具1であって、スリーブ12の先端部を覆い、かつ、スライドピン11bより大きい径を有するとともにスライドピン11bが貫入されるスライドピン貫入孔が設けられるノズル部材15を備え、スリーブ12には、スリーブ12の先端面に開口するエアー供給通路14が形成され、前記スライドピン貫入孔は、エアー供給通路14におけるスリーブ12の先端面の開口と連通している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脆性材料の面取り加工を行うための工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被加工物を面取り加工する際、被加工物を切削する刃の位置がスリーブの軸方向(上下方向)に摺動可能な面取り工具の技術は公知となっている。
【0003】
特許文献1に記載の技術は、スリーブに対してその軸に沿って延設されるとともに先端面の中心部に開口する穴を形成し、穴に工具本体の基端側を挿入して工具本体を穴に沿って上下方向に摺動可能に構成し、工具本体の基端面と穴の奥側内壁面とで囲まれるスリーブ空間に工具本体を下方に押圧する弾性部材を配置し、工具本体の先端に設けられる刃部で被加工物を切削して面取り加工するものである。これによれば、加工面に高低差があっても、面取り加工が可能となる。
【0004】
しかし、特許文献1に記載の面取り工具は、穴がスリーブの先端面に開口しているため、刃部で被加工物を切削するときに発生する粉塵等の異物が、開口から工具本体と穴の内壁との間(摺動箇所)に流入しやすくなるという問題を有する。
【0005】
上記問題を解決するために、前記摺動箇所に蛇腹等の防塵カバーを介装させて被加工物の粉塵等の流入を防止する構成も考えられるが、このように構成すると、工具本体が上下方向に摺動するとき、防塵カバーが工具本体と接触して摺動抵抗となり、低荷重での加工が必要とされる圧粉体の脆性材料等では工具本体の上下方向の摺動が円滑に行えなくなるという問題を有する。
【特許文献1】実開平6−66924号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の如き状況を鑑みてなされたものであり、工具本体のスリーブの軸方向の円滑な摺動を担保しつつ、工具本体と工具本体が挿入されている穴の内壁との間に、面取り加工時に発生する異物が流入してくることを抑制することが可能な面取り工具を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の面取り工具は、被加工物を除去加工する刃部、および先端に前記刃部が固定されるスライドピンを有する工具本体と、基端部が工具ホルダーに固定され、前記工具ホルダーにより回転駆動されるスリーブと、前記スリーブの回転駆動力を前記工具本体に伝達可能な駆動ピンと、を備え、前記スリーブには、前記スリーブの軸方向に沿って設けられ、前記スリーブの先端面に開口する穴、および前記穴に交わりつつ、前記スリーブの軸方向と直交する方向に前記スリーブを貫通して前記スリーブの側面に開口するとともに、前記スリーブの軸方向に長い長穴形状を有する貫通孔が形成され、前記穴には、前記スライドピンの基端側が摺動自在に挿入され、前記駆動ピンが、前記スライドピンの基端側を貫通した状態で、前記貫通孔に前記スリーブの軸方向へ摺動可能に係合される面取り工具であって、前記スリーブの先端部を覆い、かつ、前記スライドピンより大きい径を有するとともに前記スライドピンが貫入されるスライドピン貫入孔が設けられるノズル部材を備え、前記スリーブには、該スリーブの先端面に開口するエアー供給通路が、前記穴および前記貫通孔とは独立して形成され、前記スライドピン貫入孔は、前記エアー供給通路における前記スリーブの先端面の開口と連通している。
【0008】
請求項2に記載の面取り工具においては、前記穴の底部側には、前記スライドピンの基端面と前記穴の底部側内壁面との間にスリーブ空間が形成され、前記スリーブには、前記スリーブ空間と前記スリーブの外部とを連通する連通穴が、前記エアー供給通路とは独立して形成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、工具本体のスリーブの軸方向の円滑な摺動を担保しつつ、工具本体と工具本体が挿入されている穴の内壁との間に、面取り加工時に発生する異物が流入してくることを抑制することが可能であるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明に係る面取り工具の実施の一形態である面取り工具1について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明において図面における上下方向を面取り工具1の上下方向として規定する。
図1および図2(a)に示すように、面取り工具1は、被加工物2の角部を工具本体11で切削して面取り加工を行う工具であり、被加工物2の面取り加工時に、工具本体11が被加工物2から受ける負荷(反力)の大きさに応じて、工具本体11の上下位置を変更可能である。
被加工物2は、脆性材料からなる面取り加工の対象物である。脆性材料とは、材料に外力を加えて破壊させるときに破壊ヒズミの小さい材料をいい、具体的には圧粉体、ガラス、セラミックス、鋳鉄等が挙げられる。
【0011】
面取り工具1は、工具本体11、スリーブ12、駆動ピン13、エアー供給通路14、およびノズル部材15を備える。
【0012】
工具本体11は、面取り工具1のうち被加工物2を切削または研削して面取りする機能を果たす主たる部分である。
工具本体11は、刃部11a、およびスライドピン11bを有する。刃部11aは、基端部から先端部に向かって先細りする略円錐状に形成され、テーパー状に形成される外周面に被加工物2を切削または研削する刃が形成されている。スライドピン11bは、円柱状に形成され、その先端が刃部11aの基端部に固定されている。刃部11aの基端部の径は、スライドピン11bの径より大きく設定されており、刃部11aとスライドピン11bとの固定箇所において、刃部11aの方がスライドピン11bに比べて径外方向に突出しており、段部11cが形成されている。
【0013】
スリーブ12は、工具本体11をスリーブ12の軸方向(上下方向)に摺動可能に支持する部材である。
スリーブ12は、略円筒状に形成され、その基端部が工具ホルダー3に固定され、先端が下方に向かって突出している。
スリーブ12には、軸方向に沿って形成され、スリーブ12の先端面に開口するとともに基端部側に底を有する有底状の穴12aが形成されている。穴12aは、その断面形状がスライドピン11bの外径と略同じ径の円形状に形成されており、穴12aには、スライドピン11bの基端部側が挿入されている。
スリーブ12の上下方向中途部には、穴12aに交わりつつ、スリーブ12の軸方向と直交する方向にスリーブ12を貫通してスリーブ12の対向する二側面に開口するとともに、スリーブ12の軸方向に長い長穴形状を有する貫通孔12b・12bが形成されている。
【0014】
駆動ピン13は、工具本体11をスリーブ12に接続し、工具ホルダー3からスリーブ12に伝達される回転駆動力を工具本体11に伝達可能な部材である。
駆動ピン13は、貫通孔12b・12bに係合しており、さらにスライドピン11bの基端部側をスライドピン11bの軸と直交する方向に貫通している。つまり、貫通孔12b・12bには、スリーブ12の基端部側を貫通した状態の駆動ピン13が係合している。
このように、工具本体11は、貫通孔12b・12bの内壁に駆動ピン13が当接することによって支持されており、自重で穴12aから抜け落ちることが防止され、宙づり状態になる。駆動ピン13の端部には貫通孔12bの短径より大きい径を有する抜け止め部材13aが固定されており、駆動ピン13が貫通孔12b・12bから抜け落ちることが防止されている。
そして、スライドピン11bの先端(刃部11a)が、下方に向かって突出しており、穴12aの外部に配置されている。
【0015】
穴12aの奥側(底部側)においては、スライドピン11bの基端面と穴12aの奥側内壁面(底面)との間にスリーブ空間12cが形成されている。つまり、スリーブ空間12cは、スライドピン11bの基端面、穴12aの底面、および穴12aの内周面とで囲まれた空間である。
スリーブ12には、スリーブ空間12cとスリーブ12の外部とを連通する連通孔12dが形成されている。連通孔12dは、貫通孔12b・12bと平行に(スリーブ12の径方向に向けて)形成されている。
【0016】
以上のように構成すると、貫通孔12b・12bに駆動ピン13を係合させることにより工具本体11を宙づり状態に支持し、さらにスリーブ空間12cには弾性部材等を設けずに空所にしているので、工具本体11に対して下方に作用する力は、自重のみになる。
そして、工具本体11に対して自重より大きい上方向(スライドピン11bが穴12a内に進入する方向)の力が作用すると、工具本体11が穴12aに沿って上方向に摺動し、さらに駆動ピン13が貫通孔12b・12bの長穴形状に沿って上方向に摺動する。そして、工具本体11が上方向に摺動すると、工具本体11の摺動量に応じて、スリーブ空間12cの体積が減少するとともにスリーブ空間12c内のエアーが連通孔12dを通じてスリーブ12の外部に排出される。
そして、工具本体11に対して上方向に作用する力が自重より小さくなると、工具本体11は下方向に摺動する。
【0017】
図2(a)および図2(b)に示すように、エアー供給通路14は、スリーブ12内に形成され、工具本体11の刃部11aで被加工物2を切削するときに発生する粉塵が存在するスリーブ12の先端側からエアーを噴出する際に、噴出するエアーを搬送するための通路である。つまり、スリーブ12にエアー供給通路14を設けて、スリーブ12の先端部から刃部11a側へエアーを噴出することで、刃部11aで被加工物2を切削するときに発生する粉塵がスリーブ12内へ進入することを防止している。
エアー供給通路14は、穴12a、貫通孔12b・12b、および連通孔12dに交わらないように、スリーブ12の基端面から先端面に向けて形成される通路であり、スリーブ12の中心軸に対して対称となるように形成されている。
エアー供給通路14は、スリーブ12の基端面においては該基端面の中心部に開口して流入口14aをなし、スリーブ12の先端面においては穴12aの開口部の側方に複数(本実施形態では二つ)開口して吐出口14b・14bをなす。
流入口14aはエアコンプレッサ等の圧縮気体を発生する気体発生装置に接続されている。そして、前記エアコンプレッサで発生するエアーは、工具ホルダー3側から流入口14aを介してエアー供給通路14に流入し、エアー供給通路14を通じて搬送され、そして吐出口14b・14bから吐出される。
【0018】
エアー供給通路14は、第一通路14c、第二通路14d、および第三通路14e・14eを有し、スリーブ12の基端から先端に向かって、第一通路14c→第二通路14d→第三通路14e・14eの順に配置されている。
第一通路14cは、一端が流入口14aに接続され、スリーブ12の軸方向に延びる形状を有する。
第二通路14dは、第一通路14cの他端に接続され、穴12aの上部に配置され、穴12aより径の大きい円柱形状を有する。
第三通路14e・14eは、一端が第二通路14dにそれぞれ接続され、他端が吐出口14b・14bにそれぞれ接続され、穴12aの側方に配置されている。
【0019】
エアー供給通路14が穴12a、貫通孔12b・12b、および連通孔12dに交わることを回避する構成について説明する。
第一通路14cおよび第二通路14dは、穴12a、貫通孔12b・12b、および連通孔12dより上方(スリーブ12の基端側)に配置されることにより交わることが回避されている。
連通孔12dと一方の貫通孔12bとは軸方向において連通孔12dを貫通孔12bの上方にずらした位置でスリーブ12の軸周りにおいて同位相に配置され、他方の貫通孔12bは一方の貫通孔12bに対して略180°ずらした位相に配置されており、第三通路14e・14eは、連通孔12dに対してスリーブ12の軸周りの位相をそれぞれ略90°、略270°ずらした位置に配置されるとともに、穴12aの側方に配置されているため、第三通路14e・14eが穴12a、貫通孔12b・12b、および連通孔12dに対して、それぞれ交わることが回避されている。
また、第二通路14dが穴12aより径の大きい円柱形状を有するよう構成されているので、穴12aの側方にそれぞれ直線状の通路を形成するだけで、穴12aと交わることを回避しつつ第二通路14dに接続される通路、つまり第三通路14e・14eを形成することが可能である。
【0020】
図3に示すように、ノズル部材15は、エアー供給通路14を通じて搬送されたエアーをスリーブ12の先端部側から噴出する際の噴流ガイド部材である。
ノズル部材15は、スリーブ12の先端部に固定されており、スリーブ12の先端部を、スリーブ12の先端面との間にノズル空間15aを形成した状態で覆っている。ノズル空間15aは、スリーブ12の先端面、ノズル部材15の内周面、およびスライドピン11bの外周面で囲まれる空間である。
ノズル部材15のスリーブ12の先端面と対向する面には、工具本体11のスライドピン11bより僅かに大きい径を有し、スライドピン11bが貫入されている孔であるスライドピン貫入孔が形成されている。そして、前記スライドピン貫入孔の内壁面とスライドピン11bの外周面との間には隙間15bが形成されている。
【0021】
ノズル空間15aは、スライドピン11bの周囲に形成されており、エアー供給通路14の吐出口14b・14bにそれぞれ連通し、かつ、前記スライドピン貫入孔(隙間15b)に連通している。
【0022】
エアー供給通路14を通じて搬送されたエアーは、吐出口14b・14bからノズル空間15aに吐出され、さらに均一化されたエアーが隙間15bからノズル空間15aの外部に噴き出す。つまり、スライドピン11bの外周部から下方(刃部11a側)に向かって均一に噴き出す。
また、この隙間15bに、エアーの吹き出し方向を変更する部材等を設けることも可能であり、例えば隙間15bに工具本体11の回転方向と逆向きの螺旋形状の部材を配置することにより、隙間15bを通じて外部に噴出するエアーを刃部11aにより発生する粉塵へ衝突させて、粉塵のスリーブ12内への進入を防止する構成とすることもできる。
【0023】
面取り工具1を用いて被加工物2を面取り加工する方法について説明すると、工具ホルダー3とともにスリーブ12、ノズル部材15、および工具本体11(刃部11a)を一定の速度で一体的に回転させ、回転させた刃部11aを被加工物2に接触させ、さらに一定の速度で送り方向に移動させていく。これにより、刃部11aで被加工物2が切削され、面取り加工されていく。
このとき、前記エアコンプレッサで発生するエアーが流入口14aを通じてエアー供給通路14に供給されており、供給されたエアーが、流入口14a→第一通路14c→第二通路14d→第三通路14e・14e→吐出口14b・14b→ノズル空間15aの順に搬送され、ノズル空間15aに搬送されたエアーが隙間15bからノズル空間15aの外部に噴き出している。
また、工具本体11が、被加工物2の状態(圧粉状態のバラツキやバリの有無等)に応じて適宜上下移動する。
【0024】
以上のように、面取り工具1においては、被加工物2を面取り加工するときに、エアーを隙間15bからスリーブ12の先端側へ噴き出すように構成している。つまり、エアーがスライドピン11bの外周部から刃部11aに向かって噴き出すように構成している。これにより、この隙間15bから噴き出しているエアーが、隙間15bにおけるエアーカーテンの役目を果たす。したがって、被加工物2を刃部11aで切削するときに発生する粉塵等の異物が、隙間15bからノズル空間15aに、ひいてはスライドピン11bと穴12aの内壁との間(摺動箇所)に流入してくることを防止することが可能である。
また、刃部11aの基端部の径を、スライドピン11bの径より大きくし、刃部11aとスライドピン11bとの固定箇所に段部11cが形成されるよう構成したので、被加工物2から発生する粉塵等が隙間15b側へ移動してくるときに段部11cを経る必要があり、隙間15bへ到達しにくくなる。
【0025】
また、前記摺動箇所に蛇腹等の防塵カバーを設けることにより被加工物2の粉塵等の流入を防止する構成に比べ、隙間15bからエアーを噴き出す構成の方が、工具本体11が上下方向に摺動するときに、スライドピン11bやスリーブ12に接触して摺動抵抗になる物(防塵カバー)が存せず、工具本体11の上下方向の摺動を円滑に行える。
したがって、工具本体11のスリーブ12の軸方向の円滑な摺動を担保しつつ、スリーブ12とスリーブ12が挿入されている穴12aの内壁との間に、面取り加工時に発生する異物が流入してくることを抑制することが可能である。
【0026】
また、工具本体11を上下方向に摺動させるために必要な構成である貫通孔12b・12bをスリーブ12の中途部に配置し、刃部11aから離間して配置したので、刃部11aによる被加工物2の切削時に発生する粉塵等が駆動ピン13の周囲(貫通孔12b・12b)から流入しにくくなる。したがって、工具本体11が上下方向に摺動可能な構成を採用しつつ、被加工物2の粉塵等を前記摺動箇所に流入しにくくすることが可能である。
【0027】
また、図4(a)および図4(b)に示すように、スリーブ12の貫通孔12b・12bをそれぞれ駆動ピン13の外径と同一にした円形状の嵌合孔にし、スライドピン11bにおける駆動ピン13の貫通する貫通孔をスライドピン11bの軸方向に長い長穴形状の貫通孔11dにし、そして、駆動ピン13がスリーブ12の嵌合孔に両端をそれぞれ嵌入した状態で、スライドピン11bが貫通孔11dで駆動ピン13にスリーブ12の軸方向へ摺動可能に係合される構成でもよい。このように構成することで、スリーブ12の嵌合孔が駆動ピン13で塞がれ、異物の流入を完全に防止することが可能である。
【0028】
仮に、工具本体11を、上下方向に摺動せず一定の高さ位置を保持した状態で送り方向に移動し、被加工物を切削するよう構成したとする。このように構成すると、被加工物を切削するとき、被加工物において圧粉状態にバラツキの有る部分や、バリが有る等の理由で形状(高さ)に変化が有る部分、つまり被加工物において圧粉状態のバラツキや形状の変化が有る部分があったとしても、工具本体が一定の高さを保持するよう被加工物を押さえつける。これにより、被加工物が、過度の力で押さえつけられ、過大な切削負荷を加えられることがある。被加工物は脆性材料からなるため、このように過大な切削負荷を加えられると加工部に欠けが生じやすい。
また、工具本体を上下方向に摺動可能に構成し、さらにスリーブ空間に弾性部材を配置して弾性部材の弾力で工具本体を下方に押圧するよう構成したとする。このように構成すると、被加工物を切削するとき、被加工物を押さえつける力は、工具本体の自重、および弾性部材の弾力の和になる。しかし、弾性部材の弾力は弾性変形の度合いにより変化するので、被加工物が常に一定の大きさの力で押さえつけられているわけではない。したがって、被加工物に加えられる切削負荷を一定の安定したものとすることが困難である。また、弾性部材の弾性変形の度合いによっては、被加工物が、過度の力で押さえつけられ、過大な切削負荷を加えられることがある。
【0029】
面取り工具1は、前述のように、工具本体11に対して下方に作用する力は自重のみである(隙間15bが非常に狭く設定されており、隙間15bからノズル空間15aの外部に噴き出しているエアー量は微量であるため、隙間15bから噴き出しているエアーが、その風力により工具本体11に及ぼす影響は考慮しないものとする)。そして、工具本体11が上下方向に摺動可能に構成されているので、被加工物2において圧粉状態のバラツキや形状の変化が有る部分を切削するとき、工具本体11が適宜上下方向に摺動して刃部11aの面取り幅が変化し、被加工物2の受ける切削負荷と工具本体11の自重とが釣り合うよう調整される。これにより、被加工物2の受ける切削負荷が一定に保持される。
例えば、被加工物において圧粉状態にバラツキの有る部分を切削することになると、工具本体11が適宜上下方向に摺動し、面取り幅が変化する(本実施形態においては、上方に摺動して面取り幅が狭くなるものとする。図5(a)および図5(b)参照)。これにより、切削負荷が、圧粉状態にバラツキの無い安定した部分を切削しているときと比べて変化せず、一定に保持される。
また、図6(a)に示すように、バリ2aが有るために被加工物2の形状が変化している部分を切削することになると、工具本体11が適宜上下方向に摺動し、切削負荷が、バリ2a等の無い部分(一定形状の部分)を切削しているときと比べて変化せず、一定に保持される(図6(b)および図6(c)参照)。そして、バリ2a取りを兼ねた面取り加工が行われる。
したがって、被加工物2に対して常に一定の切削負荷が加えられた状態(被加工物2を押さえつける力が工具本体11の自重のみである状態)で面取り加工が行われ、被加工物2にそれ以上の切削負荷が加わることが抑制されるので、加工部に過大な切削負荷が加わらず、加工部の欠けを抑制することが可能である。また、一定の安定した切削負荷で面取り加工することが可能である。また、工具本体11を上下方向に摺動可能に構成しているので、加工面に高低差があっても面取り加工することが可能である。
【0030】
また、刃部11aの切れが低下したとき、一般的に切削負荷が増加するが、面取り工具1においては、この切削負荷の増加分、刃部11a(工具本体11)が上方に摺動して面取り幅が狭くなり、結果的に一定に切削負荷で切削でき、切削負荷の増加による加工部の欠けが防止される。
【0031】
また、スリーブ12に連通孔12dが形成されているため、スリーブ空間12cが密閉部にならず、工具本体11が上下方向に摺動するときにスリーブ空間12c内のエアー量の調整が連通孔12dを通じて行われる。これにより、被加工物2を切削する際、工具本体11が上下方向に摺動する必要が生じても摺動が円滑に行われ、優れた応答性を確保することが可能である。
【0032】
また、工具本体11を上下方向に摺動させるための部材を、スリーブ12に形成される穴12a、駆動ピン13等を用いてシンプルに構成し、さらに面取り工具1の先端部分に配置したので、被加工物2を押さえつける部材である工具本体11の軽量化が計れる。
【0033】
また、工具本体11を上下方向に摺動させるための構成を二部品(駆動ピン13とスリーブ12)を用いて構成したので、複雑な制御および高価な設備を要せず、安価に構成することが可能である。
【0034】
また、スライドピン11b、スライドピン11bが挿入されるスリーブ12の穴12a等の摺動部分を円柱状に形成したので、面取り加工時においてスライドピン11bおよびスリーブ12等を一体回転させる際に回転バランスに優れるとともに、スライドピン11bとスリーブ12との高精度の嵌合を安価に確保することが可能である。
【0035】
また、面取り工具1は、スリーブ12に貫通孔12b・12bを形成するとともに、スライドピン11bを貫通する駆動ピン13を貫通孔12b・12bに挿入することにより、スライドピン11bがスリーブ12に対して上下方向に摺動可能に構成されている。これにより、簡易な構成で、スライドピン11bと、スライドピン11bをガイドするスリーブ12と、を分離することができ、振れ・ビビリに繋がるガタつきを防止することが可能である。
【0036】
また、刃部11aについて、軸方向の分力を得るため、先端部は円錐または楕円形状になっている必要があるが、刃部11aの材質はハイス・超硬・CBN・アルミナ系砥粒等、特に限定されない。
【0037】
また、面取り工具1は、被加工物2を、一定の切削負荷で面取り加工することが可能であるため、加工条件の変更により容易に任意の面取り幅に加工することが可能である。
つまり、面取り幅が、工具本体11の自重と、加工条件(工具本体11の回転数、送り速度等)との組み合わせで決定される。
工具本体11の自重が重い程、一般的に工具本体11による被加工物2の押しつけ力が大きくなるので、工具本体11が下方に摺動して面取り幅が広くなる。
工具本体11の回転数が高速である程、一般的に切削負荷が減少するため、工具本体11が下方に摺動して面取り幅が広くなる。
工具本体11の送り速度が低速である程、一般的に切削負荷が減少するため、工具本体11が下方に摺動して面取り幅が広くなる。
したがって、工具本体11の自重、工具本体11の回転数、送り速度を適宜設定することにより任意の面取り幅を設定することが可能である。
【0038】
また、エアーの吹き出し経路をエアー供給経路14とノズル部材15との二部材で構成したことにより、穴12a、貫通孔12b・12b等を加工する必要のあるスリーブ12に対して複雑な加工を施す必要がなく、スリーブ12と別部材で構成されるノズル部材15の形状を工夫する(例えば、隙間15bにめねじを形成して螺旋形状にする等)ことによって、効率的な防塵が実現される。
したがって、既存の設備に対する簡易な加工・変更等によって本発明を適用可能である。
【0039】
また、面取り工具1は、以下のように、工具本体11を高速回転でき、高回転トルクでの被加工物2の面取り加工が可能になる構成を用いてもよい。
この構成を具体的に説明すると、図7(a)および図7(b)に示すように、スライドピン11bの先端側、特に穴12aの外部に配置されている部分において、その側面には、二面を平行に切り欠いて互いに平行な平面11e・11eを形成することにより二面幅部11fが形成されている。
【0040】
駆動プレート16は、スライドピン11bをその回転時に支持する部材である。
駆動プレート16は、板状に形成され、スリーブ12の先端にボルト16aで固定されている。駆動プレート16には、プレート貫通孔16bが形成されている。プレート貫通孔16bは扁平な略長円状に形成され、その内壁面が二面幅部11fの平面11e・11eにそれぞれ面接触する形状を有する。プレート貫通孔16bには、スライドピン11bの二面幅部11fが貫入されており、さらにプレート貫通孔16bの内壁面が二面幅部11fの平面11e・11eにそれぞれ面接触した状態にある。駆動プレート16の外縁部はスリーブ12の先端の外縁部に沿った形状に形成されている。駆動プレート16は組み付けやすさを考慮して二分割品になっている。
【0041】
以上のように構成すると、被加工物2の面取り加工時、スライドピン11bが回転するが、このとき、二面幅部11fの平面11e・11eがプレート貫通孔16bの内壁面がそれぞれ面接触している状態にあり、スライドピン11b(工具本体11)と駆動プレート16(スリーブ12)間が面接触になる。
これに対し、上述した二面幅部11fおよび駆動プレート16を有さない構成によると、スライドピン11bが回転するとき、駆動ピン13が貫通孔12b・12bの内壁に接触している状態にある。つまり、工具本体11が駆動ピン13を介してスリーブ12と接触していることになる。
したがって、二面幅部11fおよび駆動プレート16を有する構成のほうが、工具本体11とスリーブ12との接触範囲が広くなるので、工具本体11に高トルクの伝達が可能になり、高回転トルクでの被加工物2の面取り加工が可能になる。
【0042】
また、二面幅部11fの両端にそれぞれ形成される段部が、駆動プレート16と当接することで、工具本体11の上下方向の摺動範囲が規制され、ストッパとして作用している。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る面取り工具の実施の一形態である面取り工具の正面断面図。
【図2】面取り工具の断面図であり、(a)は図1の側面断面図、(b)は図2(a)のA―A断面図。
【図3】図2(a)の一部拡大図。
【図4】図1の面取り工具の変形例を示す図であり、(a)は正面断面図、(b)は側面断面図。
【図5】面取り工具の使用例を示す図であり、(a)は脆性材料において圧粉状態にバラツキの無い部分を切削しているときの工具本体を示す図、(b)は圧粉状態にバラツキの有る部分を切削しているときの工具本体を示す図。
【図6】面取り工具の使用例を示す図であり、(a)は脆性材料においてバリの有る部分を示す図、(b)はバリの無い部分を切削しているときの工具本体を示す図、(c)はバリの有る部分を切削しているときの工具本体を示す図。
【図7】本発明に係る面取り工具の実施の別形態である面取り工具を示す図であり、(a)は正面断面図、(b)は図7(a)のB―B断面図。
【符号の説明】
【0044】
1 面取り工具
2 被加工物
3 工具ホルダー
11 工具本体
11a 刃部
11b スライドピン
12 スリーブ
12a 穴
12b 貫通孔
12c スリーブ空間
12d 連通穴
13 駆動ピン
14 エアー供給通路
15 ノズル部材
15a ノズル空間
15b 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を除去加工する刃部、および先端に前記刃部が固定されるスライドピンを有する工具本体と、
基端部が工具ホルダーに固定され、前記工具ホルダーにより回転駆動されるスリーブと、
前記スリーブの回転駆動力を前記工具本体に伝達可能な駆動ピンと、を備え、
前記スリーブには、前記スリーブの軸方向に沿って設けられ、前記スリーブの先端面に開口する穴、および前記穴に交わりつつ、前記スリーブの軸方向と直交する方向に前記スリーブを貫通して前記スリーブの側面に開口するとともに、前記スリーブの軸方向に長い長穴形状を有する貫通孔が形成され、
前記穴には、前記スライドピンの基端側が摺動自在に挿入され、
前記駆動ピンが、前記スライドピンの基端側を貫通した状態で、前記貫通孔に前記スリーブの軸方向へ摺動可能に係合される面取り工具であって、
前記スリーブの先端部を覆い、かつ、前記スライドピンより大きい径を有するとともに前記スライドピンが貫入されるスライドピン貫入孔が設けられるノズル部材を備え、
前記スリーブには、該スリーブの先端面に開口するエアー供給通路が、前記穴および前記貫通孔とは独立して形成され、
前記スライドピン貫入孔は、前記エアー供給通路における前記スリーブの先端面の開口と連通している面取り工具。
【請求項2】
前記穴の底部側には、前記スライドピンの基端面と前記穴の底部側内壁面との間にスリーブ空間が形成され、
前記スリーブには、前記スリーブ空間と前記スリーブの外部とを連通する連通穴が、前記エアー供給通路とは独立して形成される請求項1記載の面取り工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−120115(P2010−120115A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−295874(P2008−295874)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】