説明

面発熱材の製造法

【目的】加工性および反応性が良く軽量かつ柔軟にしてポーラス状の繊維構造で高度な炭素特性を発揮する組織強固な賦形炭化物によって構成された面発熱材を、非常に簡単な手法で、しかも、低コストで製造する。
【構成】捩転、波状、捲縮の形態を備えたセルローズ系単繊維の搦合結合体から成るポーラス構造の原料を、バインダを加えることなく、その形状のままで非酸化性雰囲気で加熱して炭化焼成処理し、この処理で発生する炭化収縮作用により上記単繊維相互間の搦合結合を強化させてその組織を安定強固にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単繊維の結合体から成る賦形炭化物によって構成された面発熱材を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、有機物から得られた炭素質体または炭素体(以下、総合して単に「炭化物」という。)は、その吸着的、電気的、断熱的、耐熱的、耐蝕的または機械的などの諸特性に応じて多彩な用途に供される。しかし、そのいずれもが、その使用目的に応じた適切な形態とされる必要がある。例えば、粉状、粒状、破砕状炭化物あるいは長繊維状、短繊維状、織布状、シート・マット状あるいはひも状の俗に「炭素繊維」と呼ばれる繊維状炭化物の諸形態がある。また、特に機械的特性を発揮させるために、別の物質を混合・加工した複合材料化も行われる場合がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上述のように、諸用途に適応する形態に成形するためには、炭化工程とは別に、二次加工工程が必要となる。すなわち、炭化粉粒体の場合には、炭化後に粉砕、整粒を行う必要がある。また、炭化長繊維を綿状(チョップ)で利用する場合には、切断(チョッピング)工程により短繊維化を行う必要がある。さらに、炭化長繊維を織布、ひも状で利用する場合には、炭化後に、製織または編組工程を経なくてはならない。しかも、これらの加工工程において、元来伸度が小さくて折曲性に弱い炭素繊維としては、屈曲度が小さくて比較的平らな織物組織に限定して製織すべきであるから、ポーラス状厚組織などのものは、加工できない。さらに、上述のチョッピングされた炭化短繊維を抄紙法などでシートまたはマット状に成形する場合には、炭化素材に接着剤などのバインダ(すなわち、結合剤)を加えて一体成形される。しかし、この結果として得られた製品のいずれも、平らで薄手のものに限定されるほか、添加助剤がとかく炭化物本来の特性を損ない易い異物として残留するという致命的な欠点がある。
【0004】
上述のように、用途により適用される二次加工は、非常に繁雑であって、場合によっては炭素特性を滅殺してしまい、また、いたずらにコストアップになるという問題がある。
【0005】
本発明は、上述のような従来の炭化物の利用法に内在する多くの諸問題点を解決するために発明されたものであって、簡易な手法により、しかも、低コストでもって、ポーラス状繊維構造で高度な炭素特性を発揮する組織強固な賦形炭化物によって構成された面発熱材を製造する方法を提案するようにしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、単繊維の結合体(すなわち、結合物)から成る賦形炭化物によって構成された面発熱材を製造する方法において、捩転、波状、捲縮の形態を備えたセルローズ系単繊維の搦合結合体から成るポーラス構造の原料を用意し、上記原料を、バインダを加えることなく、その形状のままで非酸化性雰囲気で加熱して炭化処理し、この処理で発生する炭化収縮作用により上記単繊維相互間の搦合結合を強化させて、その組織を安定強固にすることを特徴とする面発熱材の製造法に係るものである。本発明においては、上記セルローズ系単繊維は、その構造において、捩転、波状、捲縮などの形態を備えるだけでなく、搦合性に富み、しかも、外部表面積が著大であるのが好ましい。
【0007】
また、本発明においては、上記セルローズ系単繊維が木綿繊維であるのが好ましい。なお、木綿繊維は、ラセン状に捩転する天然撚りを有するので、人為的に、波状、捲縮の効果を付与する前処理を行う必要がない。また、本発明においては、上記ポーラス構造の原料がルーズファイバ(綿状物)、ラップ(むしろ綿)、スライバ(ひも状篠)、ロービング(粗糸)から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。この場合、ポーラス構造の原料を軽量なものにすることができる。また、本発明においては、上記セルローズ系単繊維の繊維幅が0.01〜0.08mmであるのが好ましい。この場合、セルローズ系単繊維の繊維幅はきわめて小さくて、その表面積は大きい。また、本発明においては、上記賦形炭化物のカサ比重は、0.02以上であるのが好ましく、0.025以下であるのが好ましい。したがって、上記カサ比重は、0.02〜0.025であるのが好ましい。また、本発明においては、上記賦形炭化物の重量は、上記ポーラス構造の原料の33〜45%であるのが好ましい。
【0008】
つぎに、本発明をさらに詳細に説明する。
【0009】
本発明の第1の特徴は、本発明において採用される原料がセルローズ系に属する繊維で外部表面積が著しく大きく、しかも、搦合性に富む単繊維であることであり、また、これを後述の機械操作により予め所望の形態に成形することであり、これは総ての繊維固有の搦合性により各単繊維間が搦合結合されているために、バインダなどの添加は全く必要なく、柔軟でポーラス状の単繊維結合体となることである。つぎに、上記原料をそのままの形態で加熱して炭化処理するが、ここで重要なことは、単繊維から成る個体原料が炭化反応の進行に伴なって物質としては炭化物を生成し、これと同時に、形態においては搦(からみ)合い原料個体の形態そのままの状態で一定の割合で収縮して、最後までその形態を保持することである。上記現象が本発明で採用した炭化による単繊維結合体の軽量かつポーラス化と、組織強化とのメカニズムである。
【0010】
また、一般的に、原料個体は炭化によりその本来の靱性を失って硬化し易いが、本発明に係る原料個体としては、繊細な繊度の小さな単繊維を採用するために、熱処理後の賦形炭化物の見掛けの硬化度の変化はきわめて少ない。これは、硬質ガラス板が繊細なガラス繊維に転ずると柔軟性を発揮するのと同理である。さらに、原料単繊維は従来の炭化材料(例えば、活性炭製造用のヤシ殻、オガクズなど)に較べて著しく繊細であり、本発明で採用するセルローズ系単繊維の繊維幅は0.01〜0.08mmときわめて小さいのが好ましく、また、その表面積は上記2種類の原料の数百倍程度と大きい。したがって、単繊維結合体の炭化物は、反応性がきわめて高く、その上に、炭化工程は勿論のこと、必要に応じて行う賦活処理などにおいても反応速度が早く、しかも、均一に進行するという利点がある。この点が、本発明の第2の特徴である。
【0011】
つぎに、本発明における使用原料、炭化処理および得られた賦形炭化物の特性について、さらに詳述する。
【0012】
使用原料としての単繊維はすべてセルローズを主成分とし、その繊維幅は約0.01〜0.08mmのものが好ましく、また、天然繊維や再生繊維素である人造繊維も、本発明に係る原料に含まれる。例えば、木綿、亜麻、大麻、黄麻、ラミー、楮、三椏、竹甘蔗、レイヨンなどの繊維が含まれる。また、繊維の搦合性は木綿ではラセン状に捩転する天然撚りを有するが、その他のものは、人為的に、波状、捲縮の効果を付与する前処理を必要とする。その一例として、上下に相対峙して圧転する加熱型付けロール間に原料短繊維を通して、所望の波状、捲縮状の形態を付与することができる。
【0013】
つぎに、これらの搦合性単繊維を用いて、所望のポーラス状結合体を形成するためには、紡績工程において通常使用される機器がそのまま適用される。すなわち、単繊維のルーズファイバ(綿状物)を得るためには、原料繊維をボールブレーカ機に投入して、繊維塊を解きほぐすことで得られる。また、これをさらに打綿機で処理して、ラップ(むしろ綿)を得ることができる。スライバ(ひも状篠)は、ラップをさらに梳綿機で処理して得られる。また、ロービング(粗糸)は、上記スライバを練篠機で最小限の甘撚りを加えて作製される。
【0014】
これらの原料の焼成炭化は、一般的に、非酸化性雰囲気中で300℃以上で約6時間加熱処理することによって行われるが、その加熱処理条件は、目的とする特性に応じて適宜調整する必要がある。また、炭化度と被処理体の形態変化とは、加熱処理条件により異なり、目的に応じた調整が必要である。
【0015】
つぎに、上記方法で得られた本発明に係る面発熱材を構成する賦形炭化物の特性について説明する。
【0016】
古くから、炭化物は、機能材料として各分野に使用され、しかも、特に今日の新技術への参入には著しい飛躍が見られる。しかし、現在使用されている炭化物は、旧態依然の粉状体、粉体、破砕体が主流であって、近時台頭している炭素繊維の一部応用が見られるに過ぎない。また、上記3種類の物体(すなわち、粉状体、粉体、破砕体)および炭素繊維を新用途に適応させるためには、そのほとんどが、他の成分を添加した複合材料化によってその目的を達成するようにしているが、このことは、前述したように、製造工程の複雑化と異物混入とのために、プラス面以外に致命的なマイナス面を発生する恐れがある。
【0017】
つぎに、本発明に係る面発熱材を構成する賦形炭化物の特徴を以下の(イ)項〜(ニ)項に列記する。
(イ)本発明に係る面発熱材を構成する賦形炭化物は、まずマクロ的にみると、柔軟性で軽量かつポーラス状であり、そのカサ比重は0.02〜0.025程度である。また、柔軟度において原材料(すなわち、単繊維結合体)と大差なく、したがって、このものは、炭化物として「しなやかさ」が大きく、任意の形態に変形可能であり、形態変化の自由度が大きくて、炭素繊維加工品をはるかにしのぎ、また、その重量においては、炭化処理後に原材料の約33〜45%に低下する。さらに、ポーラス度は、炭化収縮により原材料に較べて約20〜30%減少するが、従来の粉状、粒状炭化物または織布状炭素繊維の気体、液体の通過抵抗に較べて約1/5〜1/15と低値を示す。
(ロ)上記賦形炭化物をミクロ的にみると、炭化単繊維は、その繊維幅が原材料のそれと較べると約30〜40%低下して、より繊細になる。したがって、特にその吸着性能などは単位重量当りの表面積が増大して、従来品に較べて吸着速度および吸着飽和量が著しく増加する。
(ハ)上記賦形炭化物の電気的特性について述べると、炭化物利用の電気的特性の基本は、その電導性の優劣で決定されるが、特に炭素質成形体においては、炭素質相互間の直接的接触が電導性行路を形成し、その密度の多寡がその特性を左右する。しかし、上記賦形炭化物は、密度が高くて、相互に搦合い、その接触密度が大であるために、帯電防止(すなわち、帯電防止材)、電磁波シールド(すなわち、電磁波シールド材)、面発熱(すなわち、面発熱材)、各種の電極(すなわち、電極材料)、電気二重コンデンサ(すなわち、電気二重コンデンサのための材料)などに応用した場合に、きわめて適切な効果を発揮する。
(ニ)上記賦形炭化物の断熱性について述べると、ポーラス状の形態がその性能を倍加し、その上、軽量なので、機械設計上の利点になる。さらに、ポーラス状でかつ柔軟性であるために、各種のシールド(すなわち、シールド材)または各種のパッキング(すなわち、パッキング材)としても、機器に対して「なじみ」がよくて、適材となる。
【0018】
なお、上述の各種の適応に際し、本発明に係る面発熱材を構成する賦形炭化物は、柔軟性でポーラス状のために、機器への装着、組込みがきわめて簡単かつ容易である。例えば、気相、液相の吸着またはろ過の目的のためには(換言すれば、吸着材またはろ過材としては)、簡単な円筒状エレメント構造物に単に詰め込み充填するかこれで包被するだけで、その目的を達成することができる。
【0019】
上述のように、本発明に係る面発熱材を構成する賦形炭化物の形態変化に対する自由度は、他に類をみない利便性がある。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、加工性および反応性が良く軽量かつ柔軟にしてポーラス状の繊維構造で高度な炭素特性を発揮する組織強固な賦形炭化物によって構成された面発熱材を、非常に簡単な手法で、しかも、低コストで製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
実施例1
綿花(米国産、繊維幅:0.02〜0.05mm、繊維長:15.0〜50.0mm、天然撚り数140〜240回/25cm)を原料とし、これをボールブレーカおよび打綿機で処理して、むしろ綿を作製した。このむしろ綿を幅14cmに裁断し、中空鉄芯に軽く捲上げした。つぎに、これを炭化炉中に装入し、非酸化性雰囲気中で徐々に加熱昇温した後に、炉内温度を600℃に昇温し、この温度でさらに3時間加熱して炭化焼成処理することによって、面発熱材を構成する賦形炭化物を得た。この賦形炭化物は、投入生むしろ綿と全く同形態で炭化され、組織が緻密になり、その寸法変化は生むしろ綿に対して幅が29%、厚さが35%それぞれ減少した。なお、この賦形炭化物の重量減は63%であった。また、この賦形炭化物のカサ比重は0.023であった。
【0022】
つぎに、この面発熱材を構成する賦形炭化物の強度および安定度について試験した。その結果を表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
表1に示した結果から、炭化繊維の真の引張り破断強度も低下していることが推測されるが、見掛け引張り強度は搦合効果によりあまり差異が認められなかった。また、横強度の増大は、炭化による単繊維の搦合い強化によるものと考えられる。
【0025】
つぎに、本発明に係る面発熱材を構成する賦形炭化物を水中に煮沸しながら浸漬して、その安定度を測定した。その結果を表2に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
表2に示した結果から、生むしろ綿は、横、縦ともに形態変化が大きく、特に横方向の変化が大きい。このことは、縦方向繊維間の搦合いが弱いことを意味している。一方、炭化むしろ綿は、形態変化が比較的小さく、表面状態も均一に平滑であった。
【0028】
実施例2
実施例1で使用した原料と同じ綿花をボールブレーカで均一に開綿してポーラス状とした綿状物(a)と、レーヨン糸(ビスコース法、1.5デニール長繊維)を表面温度400℃に加熱した圧転型付けロールにより波状形態としたものを長さ2.5cmにカットしてこれを開綿したもの(b)と、比較例1としての8号綿帆布(c)と、比較例2としての直径4mmの綿ロープ(d)と、比較例3としての上記レーヨン糸から編組された直径2.5mmの組ひも(e)とを、それぞれ、同一の炭化炉中に装入し、空気を遮断して加熱し、徐々に昇温させて2.5時間保持した後に、840℃に昇温して3.5時間加熱することによって、炭化焼成処理した。
【0029】
その結果、(a)および(b)のものは、いずれも、搦合いポーラス状の綿状で得られた。つぎに、これら(a)〜(e)の5試料を800℃に保持して、水蒸気賦活処理を40分間行った後に、常温まで冷却して炉から取り出し、(a)〜(e)の各試料の反応性を比較するために、メチレンブルーの吸着価を試験した。その結果を表3に示す。
【0030】
【表3】

【0031】
表3に示した結果から、炭化物の吸着能は、原料の材質よりもその形態が非常に重要であることが分る。したがって、本発明に係る面発熱材を構成する賦形炭化物の表面反応性は、従来品には見られない高度なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維の結合物から成る賦形炭化物によって構成された面発熱材を製造する方法において、
捩転、波状、捲縮の形態を備えたセルローズ系単繊維の搦合結合体から成るポーラス構造の原料を用意し、
上記原料を、バインダを加えることなく、その形状のままで非酸化性雰囲気で加熱して炭化焼成処理し、この処理で発生する炭化収縮作用により上記単繊維相互間の搦合結合を強化させてその組織を安定強固にすることを特徴とする面発熱材の製造法。
【請求項2】
上記セルローズ系単繊維が木綿繊維であることを特徴とする請求項1に記載の面発熱材の製造法。
【請求項3】
上記ポーラス構造の原料がルーズファイバー、ラップ、スライバ、ロービングから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載の面発熱材の製造法。
【請求項4】
上記セルローズ系単繊維の繊維幅が0.01〜0.08mmであることを特徴とする請求項1、2または3に記載の面発熱材の製造法。
【請求項5】
上記賦形炭化物のカサ比重が0.02以上であることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載の面発熱材の製造法。
【請求項6】
上記賦形炭化物のカサ比重が0.025以下であることを特徴とする請求項1〜5のうちのいずれか1項に記載の面発熱材の製造法。
【請求項7】
上記賦形炭化物の重量が上記ポーラス構造の原料の33〜45%であることを特徴とする請求項1〜6のうちのいずれか1項に記載の面発熱材の製造法。

【公開番号】特開2006−89373(P2006−89373A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−287155(P2005−287155)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【分割の表示】特願平6−278236の分割
【原出願日】平成6年10月5日(1994.10.5)
【出願人】(592033286)株式会社産業技術研究所 (4)
【出願人】(593218266)
【Fターム(参考)】