説明

靴下及びその製造方法

【課題】 従来のアンクル丈の靴下は、歩行の際に口ゴム部の踵側が靴の中に引き込まれるため、ずれ落ちが生じていた。
【解決手段】 靴下の履き口Hの開口縁Kが靴下着用者の踝付近に位置し、開口縁Kに口ゴム部1を設けたアンクル丈の靴下Sであって、前記靴下Sの、土踏まず部Tの後方から踵部10の上方のアキレス腱部Aに至る領域に、伸縮性に富み締付力の高い締付部7を側面視斜め方向に周設した構成を採用する。
【効果】 口ゴム部1が足首の周囲を固定することに加え、土踏まず部Tの後方から踵部10の上方のアキレス腱部Aに至る領域に、伸縮性に富み締付力の高い締付部を側面視斜め方向に周設したので、口ゴム部1の踵側のずれ落ちに対抗する向きに力が付与され、ずれ落ちが防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴下とその製造方法に関するものであり、特にアンクル丈の靴下において、口ゴム部の踵側のずれ落ちを防止することを目的としている。
【背景技術】
【0002】
スニーカーやパンプスを履くとき、あるいはテニスシューズなどのスポーツ用の靴を履くときに、靴下の履き口の開口縁が靴下着用者の踝付近に位置するアンクル丈の靴下が利用されている。アンクル丈の靴下は、レッグ部が短く、靴を履いたときにレッグ部と口ゴム部が靴の中に隠れるか、僅かに見える程度になるので、ファッション性の点で好まれている。なお、アンクル丈の靴下では、通常の靴下の「レッグ部」に相当する部位が短く、一般に「アンクル部」と称されているので、本明細書でも、以下では、「アンクル部」というものとする。また、アンクル部と口ゴム部が靴の中に完全に隠れてしまうタイプの靴下を、特に区別して「ゴースト丈」と称されることもあるが、本明細書においては、両者を総称して「アンクル丈」というものとする。
【0003】
このアンクル丈の靴下は、足長方向への伸縮性の不足や靴との摩擦が原因で、歩行時やジョギングなどの運動時に、口ゴム部の踵側がずれ落ち、履き心地が悪くなることがあった。アンクル丈の靴下のずれ落ちの原因は、図6に示すような構造上の要因と、図7に示すような外的要因に大別できるので、以下、夫々説明する。
【0004】
1)構造上の要因
先ず、図6(a)に示すように、アンクル丈の靴下の構造であっても、静止しているときは、靴下全体が足にフィットしており、ずれ落ちは生じない。しかし、図6(b)(c)に示すように、歩行運動において重心がつま先側に加わると、足趾の周辺の編地が伸びきり、矢印61の範囲に示す部分の面積が増加する。このとき、矢印61に示す部分の面積の増加に靴下の伸縮率が対応できなくなるので、図6(d)に示すように、口ゴム部の踵側が矢印62の方向にずれ落ちてしまう。以上が構造上の要因である。
【0005】
2)外的要因
また、図7(a)に示すように、アンクル丈の靴下を着用して靴を履いた場合であっても、静止しているときは、靴下全体が足にフィットしている。しかし、図7(b)(c)に示すように、歩行時に踵が浮いた状態となると、靴が元に戻ろうとする力(矢印71の方向の力)と踵を持ち上げる方向の力(矢印72の方向の力)が発生して対峙し、摩擦が発生する。そのため、図7(d)に示すように、口ゴム部の踵側が矢印73の方向にずれ落ちてしまう。以上が外的要因である。
【0006】
そこで、従来より、例えば、特許文献1には、踵部に複数のゴアラインを設けて台形状の編地に形成することで踵部を大きくし、ずれ落ちを防止した靴下が提案されている。また、特許文献2には、足首を基点として踵の上下に亘って締付部を周設した靴下が開示されている。
【特許文献1】特開2001−164405号公報
【特許文献2】実用新案登録第3117341号公報
【0007】
しかし、アンクル丈の靴下における口ゴム部の踵側のずれ落ちは、足底部の編地の面積の増加や、靴との摩擦によって発生するものであるため、特許文献1のように踵部を通常よりも大きく編成する構成のみでは、口ゴム部の踵側のずれ落ちに対抗する上向きの力を与えることはできず、ずれ落ち防止の効果は不十分であった。
【0008】
また、アンクル丈の靴下はアンクル部が極めて短いため、特許文献2のような構成の締付部を設けることは、そもそも困難である、また、仮に、特許文献2の構成をアンクル丈の靴下に適用したとしても、口ゴム部の踵側のずれ落ちに対抗する向きに力を付与することはできず、ずれ落ち防止の効果は得られない。したがって、特許文献1、2の何れの構成の靴下も、歩行運動を行うと、靴との摩擦による引き込み作用が生じ、ずれ落ちが発生していた。
【0009】
なお、丸編機によって編成された靴下は、口ゴム部から爪先部に至るまで螺旋状に地糸を編み込みながらゴム糸を挿入しているため、コース方向への伸縮性を有しているが、ゴム糸を挿入する際の糸送り量を変化させることによって、編地の伸縮力を自由に調整できる。
【0010】
しかし、そのような丸編機の技術は、靴下のコース方向への伸縮力を調整しているに過ぎず、靴下の土踏まず部後方から踵部上方のアキレス腱部に至る領域に、側面視斜め方向に収縮力を高めることは困難である。
【0011】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであり、アンクル丈であっても口ゴム部の踵側のずれ落ちを防止することが可能な靴下とその製法を提供することを目的としている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、従来のアンクル丈の靴下では、歩行の際に口ゴム部の踵側のずれ落ちが避けられなかった点である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するため、本発明の靴下は、
靴下の履き口の開口縁が靴下着用者の踝付近に位置し、前記開口縁に口ゴム部を設けたアンクル丈の靴下であって、前記靴下の、土踏まず部後方から踵部上方のアキレス腱部に至る領域に、伸縮性に富み締付力の高い締付部を側面視斜め方向に周設したことを最も主要な特徴点としている。
【0014】
また、本発明の靴下の製造方法は、
上記本発明の靴下を丸編機で製造する方法であって、丸編機のシリンダの正回転による正転編で口ゴム部とアンクル部を所要のコース編成した後、丸編機のシリンダの正回転と逆回転を交互に繰り返す反転編と編目減らしにより爪先部の甲側を所要のコース編成し、次いで反転編と編目増やしにより爪先部の足底側を所要のコース編成し、さらに正転編で前記締付部を所要のコース編成するときに地糸を編みながらゴム糸を挿入することを最も主要な特徴点としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、口ゴム部が足首の周囲を固定することに加え、特に、土踏まず部後方から踵部上方のアキレス腱部に至る領域に、伸縮性に富み締付力の高い締付部を側面視斜め方向に周設したので、口ゴム部の踵側のずれ落ちに対抗する向きに力が付与され、アンクル丈の靴下の口ゴム部のずれ落ちが防止できる。
【0016】
すなわち、本発明の構成を採用すれば、図5に示すような、歩行時の足趾が伸びた状態においても、踵部がずれ込む方向(矢印51の方向)に対抗するように、締付部と口ゴム部による引き上げ力を図5の紙面の上方向(矢印52,53の方向)に生じさせることができる。したがって、本発明の靴下では、歩行時に足趾が伸びた状態においても、人の踵の膨らみの形状を利用して、靴下が踵に吊り下げられたような状態を形成することができるので、足底部の編地が靴に引き込まれて伸びる範囲(矢印54の範囲)を少なくして、歩行時のずれ落ちの問題を解決することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
前記本発明の靴下において、特に、前記締付部と前記踵部の間に、編地を4〜20コース編み増ししたサイズ調整部を周設すれば、踵部が人の踵全体を包み込むのに十分なサイズとなり踵全体にフィットするので、口ゴム部のずれ落ち防止効果が向上する。
【0018】
また、前記本発明の靴下において、特に、前記サイズ調整部と前記締付部の間の足底部側の位置に、丸編機のシリンダの正回転と逆回転を交互に繰り返す反転編で2〜24コース編み込んだ角度調整部を設けた場合は、足底部側の編地が編み増しされて人の踵の形状により近くなり、踵に自然にフィットさせることができるので、口ゴム部のずれ落ち防止効果がさらに向上する。
【0019】
また、本発明者らが、ずれ落ち防止効果を好適に発揮することが可能で、かつ、靴下の履き心地を損なわない条件を種々検討したところによると、本発明の靴下では、前記締付部の引張力は4.5N〜5.5Nの範囲とすることが望ましい。
【0020】
また、前記本発明の靴下の製造方法では、前記締付部を所要のコース編成後、反転編で前記角度調整部を2〜24コース編成し、次いで正転編で前記サイズ調整部を4〜20コース編成し、さらに前記角度調整部を編成する際に用いたシリンダの半針とは反対側の半針にて踵部を反転編で編成することにより、編み終わりの開口を前記踵部の足底側に位置するようにして、該開口を縫製することがより望ましい。
【0021】
角度調整部やサイズ調整部を設けた方が良い理由は、前述のとおりである。また、丸編機で編成した靴下は、編み終わりの開口を縫製して綴じ合わせる処理を行うので、その縫製部分(ロッソ始末部という。)に生じた凹凸によって靴下の履き心地を損なうという問題点があるが、上記のような製法を採用すれば、ロッソ始末部を人の足裏の中で最も皮膚の厚い踵の位置に形成できるので、ロッソ部の凹凸を殆ど感じなくなり、履き心地が良好となるという利点がある。
【0022】
なお、通常、丸編機で靴下を編成する場合は、口ゴム部、アンクル部、踵部、足部、爪先部の順に編成されるのに対し、本発明の靴下の製造方法は、口ゴム部、アンクル部、爪先部、締付部、角度調整部、サイズ調整部、踵部の順で編成する点に特徴がある。
【0023】
特に、爪先部は、丸編機のシリンダの正回転と逆回転を交互に繰り返す反転編で、半回転編成本数の針上げ針下げの繰り返しにより面積の広い大きな爪先部として編成し、爪先部の最初と最後の編成組織の角度を斜め方向に形成することで、その後に編成する締付部を、土踏まず部後方から踵部上方のアキレス腱部に至る領域に形成している。こうすることにより、靴下が踵のアキレス腱の位置に吊り下げられたような状態が形成されるので、アンクル丈の靴下のずれ落ちが防止される。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の靴下を、実施例に基いてさらに詳細に説明する。図1は、本発明の靴下を横方向から見た状態を表した説明図である。
【0025】
実施例の靴下Sは、履き口Hの開口縁Kが、靴下着用者の踝付近に位置するアンクル丈の靴下である。開口縁Kには、地糸を編み込みながらゴム糸を挿入することにより足首部の周囲を適度に締め付ける口ゴム部1が編成されている。
【0026】
2はアンクル部であり、アンクル丈の靴下である本実施例の靴下では、上下方向の長さは極めて短いものとなっている。
【0027】
本発明の最も特徴的な部分は、土踏まず部Tの後方から踵部10上方のアキレス腱部Aに至る領域に、伸縮性に富み締付力の高い締付部7を、図1に示すように靴下Sを爪先部3,6を紙面左側、踵部10を紙面右側として側面視したときに、左下から右上の方向に斜め方向に周設した点にある。なお、爪先部3,6を前、踵部10を後ろと捉えているので、「土踏まず部Tの後方」とは、土踏まず部Tよりも踵部10側の位置を意味する。
【0028】
「伸縮性に富み締付力の高い」とは、編地がよく伸びるだけでなく元の状態に復帰して引き戻す方向の力も高いことを意味する。ここで、締付部7の締付力は、アンクル部2、爪先部3,6、角度調整部8、サイズ調整部9、踵部10など靴下の他の編成部と比較して相対的に高いものとするが、例えば、ゴム糸の送り量を口ゴム部1と同一にすることにより、口ゴム部1とは、締付力を同一とする構成が採用できる。また、締付部7の締付力は、ずれ落ち防止の効果をより顕著にするために、口ゴム部1の締付力よりも高くしても良い。
【0029】
締付部7を、伸縮性に富み締付力の高いものとするために幾つかの方法が採用できる。例えば、編み組織をゴム編みとする方法や、裏糸にポリウレタンを含んだ糸を用いる方法、地糸を編み込みながらゴム糸を挿入する方法などが採用できる。しかし、土踏まず部Tの後方から踵部10上方のアキレス腱部Aに至る領域に、斜め方向に連続的で、かつ、直接的な締付力を与えるためには、地糸を編み込みながらゴム糸を挿入する方法が最も望ましい。
【0030】
本実施例の靴下Sでは、締付部7と踵部10の間に、編地を8コース編み増ししたサイズ調整部9を周設している。こうすることにより、踵部10は、人の踵全体を包み込むのに十分なサイズとなり踵全体に良くフィットしずれ難くなるので、口ゴム部1の踵側のずれ落ち防止効果も向上する。
【0031】
また、サイズ調整部9と締付部7の間の足底部側の位置に、丸編機のシリンダの正回転と逆回転を交互に繰り返す反転編で6コース編み込んだ角度調整部8を設けている。こうすることにより、図1に示すように、足底部側の編地が編み増しされて人の踵の形状により近くなり、踵に最も自然にフィットさせることができるので、口ゴム部のずれ落ち防止効果がさらに向上する。
【0032】
また、本実施例の靴下Sは、踵部10、サイズ調整部9、角度調整部8の内側面は何れもパイル編みとしたので、歩行時に踵に受ける衝撃を吸収する作用が得られる。よって、本実施例の靴下Sは、ウォーキングやジョギングにも適したものとなっている。
【0033】
3は爪先部の甲側を、6は爪先部の足底側を示している。爪先部3,6は、丸編機のシリンダの正回転と逆回転を交互に繰り返す反転編で、半回転編成本数の針上げ針下げの繰り返しにより面積を大きくしている。また、爪先部3,6の最初と最後の編成組織の角度を斜め方向に形成することで、その後に編成する締付部7を、土踏まず部Tの後方から踵部10の上方のアキレス腱部Aに至る領域に形成している。こうすることにより、靴下が人のアキレス腱の位置に吊り下げられたような状態が形成できるので、歩行時のずれ落ち防止が図られる。なお、4,5は、爪先部に形成されたゴアラインを示している。
【0034】
図2は、本実施例の靴下Sを、上方向から見た状態の説明図である。靴下Sは、踵部10、サイズ調整部9、角度調整部8が一続きの状態となって踵の形状にフィットし、しかも踵全体を完全に覆う状態になっている。そして、図2に示すように一続きの状態となっている踵部10、サイズ調整部9、角度調整部8と、口ゴム部1の間に、締付部7の上方部が位置している。
【0035】
次に、本靴下の具体的な編成方法について説明する。図3は、編成の順序を矢印で示した説明図、図4は靴下の展開図である。
【0036】
本実施例の靴下Sは、丸編機の一種である140本K式パイル機で靴下を製造する方法である。先ず、図4に示すように、丸編機のシリンダの正回転による正転編で全針にて口ゴム部1を17コース編成の後、アンクル部を4コース編成する。
【0037】
その後、丸編機のシリンダの正回転と逆回転を交互に繰り返す反転編と編目減らしにより爪先部の甲側3を所要のコース編成し、次いで反転編と編目増やしにより爪先部の足底側6を所要のコース編成する。なお、本明細書において「編目増やし」、「編目減らし」とは、その編成部の開始位置における編目数と終了位置における編目数を比較して、編目が増加している場合は「編目増やし」、減少している場合は「編目減らし」というものとする。したがって、編成部の中間の位置において針上げ針下げを細かく行う場合も含まれる。
【0038】
本実施例の靴下Sのケースで具体的に説明すると、爪先部の甲側3は、図4に示すように、半回転編成の針上げ本数を1コース毎に1本づつ上げて10コース編成し、その後2段上げに切り換えて25コース編成し、さらに再び1コース毎に1本の針上げ針下げを行って16コース編成し、つま先の足趾付近の膨らみに沿った編地を編成している。
【0039】
爪先部の甲側3の編成工程は、図4に示すように、中間においては、針上げ針下げを行っている部分があるが、最初と最後を比較すれば「編目減らし」の工程である。また、上記手順を逆に行うことにより爪先部の足底側6を編成する。爪先部の足底側6の編成工程は、中間において針上げ針下げを行っているが、最初と最後を比較すれば「編目増やし」の工程である。なお、本実施例において、中間で細かく針上げ針下げを行っているのは、そのようにした方が、つま先の足趾付近の膨らみに沿った形状の編地が得られ、フィット感がより高まるからである。
【0040】
爪先部3,6を編成後は、正転編で締付部7を所要のコース編成する。本発明の靴下の製造方法では、上記のような爪先部3,6を編成しているので、これに続く締付部7は、土踏まず部Tの後方から踵部10の上方のアキレス腱部Aに至る領域に側面視斜め方向に形成することができる。このとき本実施例の製法では、地糸(グランド糸)を編み込みながらポリウレタンをポリエステル糸にてカバーリングしたゴム糸を挿入するようにしている。また、締付部7は、図4に示すように、正転編で14コース編むようにしている。
【0041】
締付部7を編成後は、反転編で角度調整部8を6コース編成し、次いで正転編でサイズ調整部を8コース編成し、さらに、図4に示すように、角度調整部8を編成する際に用いたシリンダの半針とは反対側の半針にて踵部10を反転編で16コース編成する。こうすることにより、図3の矢印が示すように、編み終わりの開口を縫製した部分(ロッソ始末部)11は、踵部10の足底側に位置するようになる。
【0042】
したがって、本発明の靴下の製造方法を用いて製造される靴下では、ロッソ始末部11が人の足裏の中で最も皮膚の硬い踵部に位置するので、ロッソ始末部11が存在しても、履き心地が悪いと感じることはない。
【0043】
さらに進んで、本発明の靴下の効果を確認するために行った試験の方法及び結果について説明する。以下の試験では、図1に示す本発明の靴下の実施例を「実施例1」、靴下の履き口の開口縁に口ゴム部は備えるが、本発明の締付部に相当する構成は有さない従来の靴下のサンプル2点を「比較例1」、「比較例2」としている。効果確認試験は、靴下引張試験(伸縮率)、靴下引張試験(引張力)、ずれ落ち計測試験、実着試験の4項目について実施した。各試験の試験方法と結果は、以下の通りである。
【0044】
1)靴下引張試験(伸縮率)
実施例1の靴下は、比較例1、2の靴下と比較して、靴下着用時における踵〜土踏まず間の伸縮率にどの程度の差が認められるかを検証した。指標としては、靴下を着用していない時の踵〜土踏まず間の距離と、靴下着用時の踵〜土踏まず間の距離を共に計測し、その比率を求めることとした。なお、着用時の距離を計測するにあたり、婦人標準足型マネキンに試験品を履かせて計測を行った。
【0045】
試験方法:
1.靴下の踵部から土踏まず中央部にかけてマーカーで直線を引く。
2.長さをメジャーで距離を計測する。
3.婦人標準足型マネキンに履かせ、マーカーに沿ってメジャーで距離を計測する。
4.未着用時の距離を100%とし、伸縮率(%)を求めた。
【0046】
【表1】

【0047】
表1に示すように、本発明に係る実施例の靴下は、比較例1、2の靴下と比較して伸縮率が高いことが確認された。踵〜土踏まず間の伸縮性が高いということは、踵〜土踏まず間の保持力が高いことを意味する。したがって、アンクル丈の靴下のおいても、口ゴム部の締め付けを過度に高めることなく、口ゴム部のずれ落ち防止が図れる。
【0048】
2)靴下引張試験(引張力)
実施例1の靴下は、比較例1、2の靴下と比較して、靴下着用時における踵〜土踏まず間の引張力にどの程度の差が認められるかを検証した。
【0049】
試験方法:
1.靴下サンプルは切り取らず製品のまま測定した(つかみしろは1cm)。
2.引張方向は土踏まず部後方からアキレス腱部に亘る締付部の長さ方向とした。
3.土踏まず部後方からアキレス腱部に亘る締付部のマーカーの端点を固定し、各サンプルの引張力を3回計測し、平均値を求めた。
測定機 : AUTOGRAPH AGS-H (SHIMAZU)
試験条件: 19.9℃、64%、引張速度 300mm/min
【0050】
【表2】

【0051】
表2に示すように、実施例1の靴下は、締付部の引張力が5.0(N)となり、比較例1、2の靴下が共に2.7(N)であるのに対し、引張力が高いことが確認された。このように、本発明の靴下は従来の靴下よりも踵〜土踏まず間の引張力が高いので、アンクル丈の靴下であっても、口ゴム部のずれ落ちが防止が図れる。
【0052】
なお、本発明者らが、ずれ落ち防止効果を好適に発揮することが可能で、かつ、靴下の履き心地を損なわない条件を種々検討したところによると、本発明では、締付部7の引張力は、実施例1の5.0Nを中心として±0.5Nの範囲(すなわち4.5N〜5.5Nの範囲)が望ましいことが判明している。
【0053】
3)ずれ落ち計測試験
実施例1の靴下は、比較例1、2の靴下と比較して、実際にずれ落ち防止効果があるか検証するため、婦人標準足型マネキンに実施例1の靴下を履かせ、各方向に引張った時の応力を計測した。
【0054】
試験方法:
1.各サンプルの所定の部位に冶具を取付け、ずれ落ちの現象が生じた時点の引張力を計測し、水平方向の引っ張りに対する脱げ易さを比較した。
2.各サンプルについて20回計測を行い平均値を求めた。
測定機 :デジタルフォースゲージ(株式会社イマダ製 ZP50N )
試験条件:計測用靴下を足型に着用(HQL日本人20代女性右足平均足型)
【0055】
冶具を取り付ける部位は、以下の4通りを準備した(図8〜図11参照)。なお、図8〜図11において、81,91,101,111は、測定機(デジタルフォースゲージ)を、82,92,102,112は、引張する方向を示している。
口ゴム部の踵側: 図8の符号83の位置
土踏まず部中央: 図9の符号93の位置
足底部の踵寄り外側(足型を−45度に設置):図10の符号103の位置
足底部の踵寄り内側(足型を+45度に設置):図11の符号113の位置
【0056】
【表3】

【0057】
実施例1の靴下においてずれ落ちの現象が生じた時点の引張力は、比較例1、2と比較すると、口ゴム部の踵側では3.4〜5.2倍、土踏まず部中央では1.6〜3.8倍、足底部踵寄り外側では2.7〜7.9倍、足底部踵寄り内側では2.8〜6.5倍となっており、何れの部位においても実施例1の方が高いことが確認された。したがって、本発明の構成を採用すれば、アンクル丈の靴下であっても、口ゴム部のずれ落ちを防止できることが直接的に確認された。
【0058】
4)実着試験
本発明の靴下に、靴着脱時のずれ込み防止効果があるかを実着試験で確認した。
【0059】
試験方法:
1 実着モニター3名に実施例1の靴下を着用してもらう。
(足長:モニターA:22.8 cm モニターB:22.6 cm モニターC:22.1 cm )
2 その上に運動靴を履いてもらう(運動靴のサイズは23.0cm)。
3 靴を履いている状態から靴を脱いでもらう。
【0060】
【表4】

【0061】
モニターA,Bは、比較例1,2の靴下を着用時は脱げたのに対し、実施例1の靴下を履いた場合は3名のモニター全員の場合において脱げなかった。この結果より本発明の靴下の編み構造は、従来の靴下よりも口ゴム部が靴の中にずれ込みにくい靴下であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の靴下は、一般用に限らず、テニス、ジョギングなどのスポーツ用の靴下にも適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の靴下を横方向から見た状態の説明図である。
【図2】本発明の靴下を上方向から見た状態の説明図である。
【図3】本発明の靴下の製造方法の説明図であり、各部の編成順序を示したものである。
【図4】本発明の靴下の製造方法の説明図であり、靴下の展開図を示したものである。
【図5】本発明の靴下の作用効果を説明する図である。
【図6】従来のアンクル丈の靴下がずれ落ちする原因の内、靴下の構造上の要因を説明する図である。
【図7】従来のアンクル丈の靴下がずれ落ちする原因の内、外的要因を説明する図である。
【図8】ずれ落ち計測試験において、冶具を口ゴム部の踵側に取り付ける場合の試験方法を説明する図である。
【図9】ずれ落ち計測試験において、冶具を土踏まず部中央に取り付ける場合の試験方法を説明する図である。
【図10】ずれ落ち計測試験において、冶具を足底部の踵寄り外側に取り付ける場合の試験方法を説明する図である。
【図11】ずれ落ち計測試験において、冶具を足底部の踵寄り内側に取り付ける場合の試験方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0064】
1 口ゴム部
2 アンクル部
3 爪先部の甲側
6 爪先部の足底側
7 締付部
8 角度調整部
9 サイズ調整部
10 踵部
11 編み終わりの開口の縫製部(ロッソ始末部)
S 靴下
H 履き口
K 開口縁
T 土踏まず部
A アキレス腱部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
靴下の履き口の開口縁が靴下着用者の踝付近に位置し、前記開口縁に口ゴム部を設けたアンクル丈の靴下であって、前記靴下の、土踏まず部後方から踵部上方のアキレス腱部に至る領域に、伸縮性に富み締付力の高い締付部を側面視斜め方向に周設したことを特徴とする靴下。
【請求項2】
前記締付部と前記踵部の間に、編地を4〜20コース編み増ししたサイズ調整部を周設したことを特徴とする請求項1に記載の靴下。
【請求項3】
前記サイズ調整部と前記締付部の間の足底部側の位置に、丸編機のシリンダの正回転と逆回転を交互に繰り返す反転編で2〜24コース編み込んだ角度調整部を設けたことを特徴とする請求項2に記載の靴下。
【請求項4】
前記締付部の引張力は4.5N〜5.5Nの範囲としたことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の靴下。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の靴下を丸編機で製造する方法であって、丸編機のシリンダの正回転による正転編で口ゴム部とアンクル部を所要のコース編成した後、丸編機のシリンダの正回転と逆回転を交互に繰り返す反転編と編目減らしにより爪先部の甲側を所要のコース編成し、次いで反転編と編目増やしにより爪先部の足底側を所要のコース編成し、さらに正転編で前記締付部を所要のコース編成するときに地糸を編みながらゴム糸を挿入することを特徴とする靴下の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の靴下の製造方法において、前記締付部を所要のコース編成後、反転編で前記角度調整部を2〜24コース編成し、次いで正転編で前記サイズ調整部を4〜20コース編成し、さらに前記角度調整部を編成する際に用いたシリンダの半針とは反対側の半針にて踵部を反転編で編成することにより、編み終わりの開口を前記踵部の足底側に位置するようにして、該開口を縫製することを特徴とする靴下の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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