説明

音信号擬似定位システム、方法及びプログラム

【課題】音声信号擬似定位システムのミキサの処理量を小さくする。
【解決手段】ミキサ300のゲイン復号部8がゲインのみを復号し、擬似定位ゲイン演算部9が復号されたゲイン(復号Mゲイン)を用いて、擬似定位を与えた擬似Mゲイン、擬似Sゲインを生成する。そして、ミキサ300は、生成された擬似Mゲイン及び擬似Sゲインを用いて擬似定位を与える。このように、ミキサは符号全体ではなくゲインのみを復号してその復号されたゲインを用いて擬似定位を与えるため、従来よりもミキサの処理量が小さくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、音声信号を含む音信号に擬似的に立体的な効果を与える技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ステレオ音声に対し信号処理により擬似的に立体的な効果を与える技術が、特許文献1に記載されている。特許文献1に記載された技術は処理対象が収音直後あるいは復号後の信号であることを前提としており、符号化された音声信号を復号した上で擬似的に立体的な効果を与える必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−74665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多地点通信会議システム等においては、ミキシングサーバ等のミキサが複数の地点から送られてきた音声信号を加算して、各地点からの音声信号をステレオ信号とする処理を行っている。
【0005】
ミキサが特許文献1に記載された技術を用いて各地点からの音声信号を異なる位置から聞こえるよう擬似的に立体的な効果を与えようとすると、ミキサがまず各地点から送られてきた音声符号を復号して音声信号を生成する必要があり、ミキサの処理量が大きいという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載された音信号擬似定位システムは、下記の符号化装置、ミキサ及び復号装置を含む。
【0007】
符号化装置は、入力された音信号の大きさを表わす代表値であるゲインを計算し符号化してMゲイン符号とするゲイン符号化部と、入力された音信号を上記Mゲイン符号を復号することにより得られた復号Mゲインで正規化し符号化して正規化M信号符号とする信号符号化部と、上記Mゲイン符号及び上記正規化M信号符号を含む拡張M符号を生成する符号多重化部とを含む。
【0008】
ミキサは、上記拡張M符号からMゲイン符号及び正規化M信号符号を分離する符号分離部と、上記分離されたMゲイン符号を復号して復号Mゲインを生成するゲイン復号部と、上記復号Mゲインを擬似Mゲインとし上記復号Mゲインと定位させたい位置に応じた値とをかけた値を擬似Sゲインとする擬似定位ゲイン演算部と、上記擬似Mゲインを符号化して擬似Mゲイン符号とする第一ミキサゲイン符号化部と、上記擬似Sゲインを符号化して擬似Sゲイン符号とする第二ミキサゲイン符号化部と、上記分離された正規化M信号符号及び上記擬似Mゲイン符号を含むM符号を生成する第一符号多重化部と、上記分離された正規化M信号符号及び上記擬似Sゲイン符号を含むS符号を生成する第二符号多重化部とを含む。
【0009】
復号装置は、上記M符号から正規化M信号符号及び擬似Mゲイン符号を分離する第一符号分離部と、上記分離された正規化M信号符号を復号して復号正規化M信号を生成する第一部分復号部と、上記S符号から正規化された正規化M信号符号及び擬似Sゲイン符号を分離する第二符号分離部と、上記分離された正規化M信号符号を復号して復号正規化M信号を生成する第二部分復号部と、上記分離された擬似Mゲイン符号を復号して復号擬似Mゲインを生成する第一ゲイン復号部と、上記分離された擬似Sゲイン符号を復号して復号擬似Sゲインを生成する第二ゲイン復号部と、上記復号正規化M信号と上記復号擬似Mゲインとをかけて復号M信号を生成する第一乗算部と、上記復号正規化M信号と上記復号擬似Sゲインとをかけて復号S信号を生成する第二乗算部と、上記復号M信号と上記復号S信号とを加算して2で割って第一出力信号を生成し、上記復号M信号から上記復号S信号を減算して2で割って第二出力信号を生成するLR変換部とを含む復号装置と、を含む。
【発明の効果】
【0010】
ミキサは符号全体ではなくゲインのみを復号してその復号されたゲインを用いて擬似定位を与えるため、従来よりもミキサの処理量が小さくなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】入力信号がモノラル信号である場合の音信号擬似定位システムの例の機能ブロック図。
【図2】入力信号がステレオ信号である場合の音信号擬似定位システムの例の機能ブロック図。
【図3】M信号S(t)を符号化して伝送する場合の音信号擬似定位システムの例の機能ブロック図。
【図4】ゲイン符号化を含む符号化方法を用いる場合の音信号擬似定位システムの例の機能ブロック図。
【図5】擬似定位の付与をミキサで実施する場合の音信号擬似定位システムの例の機能ブロック図。
【図6】擬似定位の付与をミキサで実施する場合の符号化装置・ミキサの例の機能ブロック図。
【図7】擬似定位の付与をミキサで実施する場合の復号装置の例の機能ブロック図。
【図8】擬似定位の付与をミキサ及び復号装置で実施する場合の符号化装置の例の機能ブロック図。
【図9】擬似定位の付与をミキサ及び復号装置で実施する場合のミキサの例の機能ブロック図。
【図10】擬似定位の付与をミキサ及び復号装置で実施する場合の復号装置の例の機能ブロック図。
【図11】スケーラブル符号化において擬似定位の付与をミキサで実施する場合の符号化装置及びミキサの例の機能ブロック図。
【図12】スケーラブル符号化において擬似定位の付与をミキサで実施する場合の復号装置の例の機能ブロック図。
【図13】音信号擬似定位方法の例の流れ図。
【図14】音信号擬似定位方法の例の流れ図。
【図15】仮想的な音源の位置θを説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、音信号擬似定位の基本技術について説明する。
[入力信号がモノラル信号である場合]
図1を参照してモノラル信号が入力された場合に擬似定位を与える技術について説明する。図1の音信号擬似定位システムは、基本擬似定位付与部1及びLR変換部2を含む。
【0013】
基本擬似定位付与部1に入力信号S(t)が入力される。この例では、入力信号S(t)はモノラルのディジタル信号であり、tはサンプル番号である。サンプリング周波数が32kHzの場合、1秒間の間にS(t)からS(t+31999)サンプルが得られる。基本擬似定位付与部1は下記の式に従い、復号M信号S(t)と復号S信号S(t)を生成する。
(t)=S(t)
(t)=gS(t)
g=cosθ
【0014】
θは、図15に例示するように受聴者に対する擬似定位しようとする仮想的な音源の位置に対応する角度である。各音源の位置に対応するθは事前に定めておく。また、通信相手の数Nと擬似定位を与える対象の地点番号pを用いてgを定めてもよい。例えば、g=(N−2p−1)/Nとする。
【0015】
LR変換部2は復号M信号S(t)及び復号S信号S(t)から次式に従い第一出力信号S(t)及び第二出力信号S(t)を生成し出力する。
(t)=(S(t)+S(t))/2
(t)=(S(t)−S(t))/2
このようにして、入力信号がモノラル信号である場合にも擬似定位を与えることができる。モノラル信号を伝送する地点とステレオ信号を伝送する地点の間で通信をする場合でも、ステレオ音声を利用する地点において立体的音響効果を実現することができる。
【0016】
[入力信号がステレオ信号である場合]
次に図2を参照してステレオ信号が入力された場合に擬似定位を与える技術について説明する。図2の音信号擬似定位システムは、基本擬似定位付与部1、LR変換部2及びMS変換部3を含む。
【0017】
MS変換部3に第一入力信号S(t)及び第二入力信号S(t)が入力される。例えば、第一入力信号S(t)をLチャネルの音声信号とし、第二入力信号S(t)をRチャネルの音声信号とする。MS変換部3は、第一入力信号S(t)及び第二入力信号S(t)を次式に従いM信号S(t)に変換する。
(t)=S(t)+S(t) …(1)
【0018】
基本擬似定位付与部1及びLR変換部2は、M信号S(t)を入力信号S(t)として、入力信号がモノラル信号である場合と同様の処理を行う。
このようにして、入力信号がステレオ信号である場合にも擬似定位を与えることができる。
【0019】
[M信号S(t)を符号化して伝送する場合]
図3に例示するように、音信号擬似定位システムは、符号化装置100及び復号装置200を含む。符号化装置100でM信号S(t)を符号化してM符号Cを生成し、復号装置200でM符号Cを復号してもよい。
符号化装置100は、MS変換部3及び符号化部4を含む。復号装置200は、基本擬似定位付与部1、LR変換部2及び復号部5を含む。
【0020】
入力信号がステレオ信号である場合と同様に、MS変換部3は、第一入力信号S(t)及び第二入力信号S(t)から、M信号S(t)を生成する。符号化部4は、M信号S(t)を符号化して、M符号Cを生成する。M符号Cは、復号装置200に送られる。例えばG.711.1、G.711に規定された符号化方法を用いて符号化する。
【0021】
復号装置200の復号部5は、M符号Cを復号して、復号されたM信号Sdec_M(t)を生成する。復号部5は、符号化部4で用いた符号化に対応する復号化方法を用いて復号すればよい。例えば、符号化方法としてG.711.1エンコーダを利用した場合は、復号方法としてG.711.1デコーダを用いる。基本擬似定位付与部1及びLR変換部2は、復号されたM信号Sdec_M(t)を入力信号S(t)として、入力信号がモノラル信号である場合と同様の処理を行う。
このようにして、M信号S(t)を符号化して伝送する場合にも擬似定位を与えることができる。
【0022】
[ゲイン符号化を含む符号化方法を用いる場合]
次に図4を参照して、ゲイン符号化を含む符号化方法を用いた場合に擬似定位を与える技術について説明する。図4の音信号擬似定位システムは、符号化装置100及び復号装置200を含む。符号化装置100は、MS変換部3、信号符号化部41、ゲイン符号化部42及び符号多重化部43を含む。復号装置200は、符号分離部6、部分復号部7、ゲイン復号部8、擬似定位ゲイン演算部9、第一乗算部10、第二乗算部11及びLR変換部2を含む。
【0023】
MS変換部3は、第一入力信号S(t)及び第二入力信号S(t)を、上記(1)式に従いM信号S(t)に変換する。
ゲイン符号化部42は、M信号S(t)のゲインgを次式に従い算出し、算出されたゲインgを量子化してMゲイン符号Cとする。ゲインgは、入力された信号の大きさを表わす代表値である。ゲインとして1フレームを構成するサンプルの平均値を用いている。
g=(1/K)*ΣK−1t=0(S(t)) (ゲインの算出)
=(1/2)*[log(g)]−const (ゲインの量子化)
上式に示した方法以外にもスカラ量子化を用いることもできる。
【0024】
Kは1フレームのサンプルの数であり、[・]は・の整数部分を出力する関数であり、constは音信号擬似定位システムに求められる性能や仕様に応じて適宜定められる任意の定数である。ゲイン符号化部42は、Mゲイン符号Cを、次式に従い逆量子化して復号MゲインA’を求め、信号符号化部41に入力する。
A’=2Cg+const (ゲインの逆量子化)
信号符号化部41は、M信号S(t)を復号MゲインA’で正規化したのち、ベクトル量子化などを用いて符号化し、正規化M信号符号とする。例えば、S(t)/A’とすることにより正規化を行う。
【0025】
符号多重化部43は、Mゲイン符号C及び正規化M信号符号を含む拡張M符号を生成する。例えば、Mゲイン符号C及び正規化M信号符号を所定の順序で並べて拡張M符号とする。ネットワークを通じて拡張M符号を伝送する必要がある場合は、ヘッダ情報などを付加してもよい。生成された拡張M符号は、復号装置200に送られる。
【0026】
復号装置200の符号分離部6は、拡張M符号からMゲイン符号C及び正規化M信号符号を分離する。
部分復号部7は、分離された正規化M信号符号を例えば逆量子化することにより復号して復号正規化M信号S’(t)とする。
ゲイン復号部8は、Mゲイン符号Cを例えば次式により逆量子化することにより復号して復号MゲインA’を得る。
A’=2Cg+const
【0027】
擬似定位ゲイン演算部9は次式に従い擬似MゲインA’及び擬似SゲインA’を算出する。なお、gの値は[入力信号がモノラル信号である場合]で示したのと同様、地点番号pを用いてg=(N−2p−1)/Nとしてもよいし、g=cosθとしてもよい。この場合、θはpの値に応じて決まる値とする。
A’=A’
A’=A’g
第一乗算部10は次式に従い復号正規化M信号S’(t)と擬似MゲインA’を乗算して復号M信号S(t)を算出する。
(t)=A’*S’(t)
【0028】
第二乗算部11は次式に従い復号正規化M信号S’(t)と擬似SゲインA’を乗算して復号S信号S(t)を算出する。
(t)=A’*S’(t)
LR変換部2は、復号M信号S(t)及び復号S信号S(t)から次式に従い第一出力信号S(t)及び第二出力信号S(t)を生成し出力する。
(t)=(S(t)+S(t))/2
(t)=(S(t)−S(t))/2
このように、ゲイン符号化を含む復号化方法を用いる場合においても擬似定位を与えることができる。
【0029】
[擬似定位の付与をミキサで実施する場合]
以下、この発明による音信号擬似定位システムの一実施形態を詳細に説明する。この音信号擬似定位システムは、擬似定位の付与をミキサで実施する。
【0030】
この音信号擬似定位システムは、図5に例示するように、符号化装置100、復号装置200及びミキサ300を含む。符号化装置100は、図6に示すように、MS変換部3、信号符号化部41、ゲイン符号化部42、符号多重化部43を例えば含む。復号装置200は、図7に示すように、第一符号分離部61、第二符号分離部62、第一部分復号部71、第二部分復号部72、第一ゲイン復号部81、第二ゲイン復号部82、第一乗算部10、第二乗算部11及びLR変換部2を例えば含む。ミキサ300は、図6に示すように、符号分離部6、ゲイン復号部8、擬似定位ゲイン演算部9、第一ミキサゲイン符号化部12、第二ミキサゲイン符号化部13、第一符号多重化部14及び第二符号多重化部15を例えば含む。
【0031】
図5及び6の符号化装置100は、[ゲイン符号化を含む符号化方法を用いる場合]の欄で図4を参照して説明した符号化装置100と同様である。
【0032】
すなわち、MS変換部3がまず、第一入力信号S(t)及び第二入力信号S(t)を、上記(1)式に従いM信号S(t)に変換する(ステップS1、図13)。M信号S(t)は、信号符号化部41及びゲイン符号化部42に送られる。
【0033】
ゲイン符号化部42は、入力された音信号の大きさを表わす代表値であるゲインを計算し符号化してMゲイン符号Cとする(ステップS2)。例えば、上記の(ゲインの算出)の式に基づいてゲインを計算し、上記の(ゲインの量子化)の式に基づいてゲインの量子化及び符号化をする。Mゲイン符号Cは、符号多重化部43に送られる。ゲイン符号化部42は、Mゲイン符号を上記の(ゲインの逆量子化)の式に基づいて逆量子化により復号して復号Mゲインを生成する。
【0034】
信号符号化部41は、入力されたM信号S(t)を復号Mゲインで正規化し符号化して正規化M信号符号とする(ステップS3)。正規化M信号符号は、符号多重化部43に送られる。
【0035】
符号多重化部43は、Mゲイン符号C及び正規化M信号符号を含む拡張M符号を生成する(ステップS4)。生成された拡張M符号は、ミキサ300に送られる。
ミキサ300の符号分離部6は、拡張M符号からMゲイン符号C及び正規化M信号符号を分離する(ステップS5)。Mゲイン符号Cはゲイン復号部8に送られる。正規化M信号符号は、第一符号多重化部14及び第二符号多重化部15に送られる。
ゲイン復号部8は、分離されたMゲイン符号Cを復号して復号MゲインA’を生成する(ステップS6)。上記、(ゲインの逆量子化)の式に基づき、逆量子化により復号して復号MゲインA’を生成する。
A’=2Cg+const
【0036】
擬似定位ゲイン演算部9は、復号MゲインA’を擬似MゲインA’とし、また、復号Mゲインと定位を与えたい位置に応じた値とをかけた値を擬似SゲインA’とする(ステップS7)。すなわち、例えば次式に基づいて擬似MゲインA’及び擬似SゲインA’を算出する。擬似MゲインA’及び擬似SゲインA’は、それぞれ第一ミキサゲイン符号化部12及び第二ミキサゲイン符号化部13に送られる。なお、gの値は[入力信号がモノラル信号である場合]で示したのと同様、地点番号pを用いてg=(N−2p−1)/Nとしてもよいし、g=cosθとしてもよい。この場合、θはpの値に応じて決まる値とする。
A’=A’
A’=A’g …(2)
【0037】
なお、gの代わりに2とし、擬似定位ゲインの付与をMゲイン符号のビットシフトのみで実現することで、擬似定位の付与をさらに低演算量化することもできる。Xは、擬似定位を与えようとする位置に応じて予め定められた定数である。また、擬似定位を与えようとする位置1,…,n,…,Nに応じて異なる値C,…,C,…,Cを定めておき、上記(2)式の代わりに、下式によりA’を計算してもよい。
A’=A’C
【0038】
第一ミキサゲイン符号化部12は、擬似MゲインA’を例えば上記(ゲインの量子化)の式に従い符号化して擬似Mゲイン符号とする(ステップS8)。擬似Mゲイン符号は、第一符号多重化部14に送られる。
第二ミキサゲイン符号化部13は、擬似SゲインA’を例えば上記(ゲインの量子化)の式に従い符号化して擬似Sゲイン符号とする(ステップS9)。擬似Sゲイン符号は、第二符号多重化部15に送られる。
【0039】
第一符号多重化部14は、符号分離部6により分離された正規化M信号符号及び擬似Mゲイン符号を含むM符号を生成する(ステップS10)。
第二符号多重化部15は、符号分離部6により分離された正規化M信号符号及び擬似Sゲイン符号を含むS符号を生成する(ステップS11)。
【0040】
M符号及びS符号は、復号装置200に送られる。
【0041】
復号装置200の第一符号分離部61(図7)は、M符号から正規化M信号符号及び擬似Mゲイン符号を分離する(ステップS12)。正規化M信号符号は第一部分復号部71に送られ、擬似Mゲイン符号は第一ゲイン復号部81に送られる。
【0042】
第二符号分離部62は、S符号から正規化M信号符号及び擬似Sゲイン符号を分離する(ステップS13)。正規化M信号符号は第二部分復号部72に送られ、擬似Sゲイン符号は第二ゲイン復号部82に送られる。
【0043】
第一部分復号部71は、第一符号分離部61により分離された正規化M信号符号を復号して復号正規化M信号を生成する(ステップS14)。生成された復号正規化M信号は、第一乗算部10に送られる。
第二部分復号部72は、第二符号分離部62により分離された正規化M信号符号を復号して復号正規化M信号を生成する(ステップS15)。生成された復号正規化M信号は、第二乗算部11に送られる。
【0044】
第一ゲイン復号部81は、擬似Mゲイン符号を復号して復号擬似Mゲインを生成する(ステップS16)。第一ゲイン復号部81は、第一ミキサゲイン符号化部12が行った符号化に対応する復号を行う。生成された復号擬似Mゲインは、第一乗算部10に送られる。
第二ゲイン復号部82は、擬似Sゲイン符号を復号して復号擬似Sゲインを生成する(ステップS17)。第二ゲイン復号部82は、第二ミキサゲイン符号化部13が行った符号化に対応する復号を行う。生成された復号擬似Sゲインは、第二乗算部11に送られる。
【0045】
第一乗算部10は、復号正規化M信号と復号擬似Mゲインとをかけて復号M信号を生成する(ステップS18)。すなわち、復号正規化M信号をS’(t)とし、復号擬似MゲインをA’として、下記式により復号M信号S(t)を算出する。
(t)=A’*S’(t)
第二乗算部11は、復号正規化M信号と復号擬似Sゲインとをかけて復号S信号を生成する(ステップS19)。すなわち、復号正規化M信号をS’(t)とし、復号擬似SゲインをA’として、下記式により復号S信号S(t)を算出する。
(t)=A’*S’(t)
【0046】
LR変換部2は、復号M信号S(t)及び復号S信号S(t)から次式に従い第一出力信号S(t)及び第二出力信号S(t)を生成し出力する(ステップS20)。
(t)=(S(t)+S(t))/2
(t)=(S(t)−S(t))/2
【0047】
すなわち、復号M信号S(t)と復号S信号S(t)とを加算して2で割って第一出力信号S(t)を生成し、復号M信号S(t)から復号S信号S(t)を減算して2で割って第二出力信号S(t)を生成する。
このように、ミキサ300で、ゲインのみを復号して、その復号されたゲインを用いて擬似定位を与えることができる。これにより、ミキサの処理量が従来よりも小さくなる。
【0048】
[擬似定位の付与をミキサ及び復号装置で実施する場合]
この実施形態の音信号擬似定位システムは、図5に例示するように、符号化装置100、復号装置200及びミキサ300を含む。
【0049】
符号化装置100は、図8に例示するように、MS変換部3、第一信号符号化部41、第二信号符号化部51、第一ゲイン符号化部42、第二ゲイン符号化部52、第一符号多重化部43’、第二符号多重化部53を含む。ミキサ300は、図9に例示するように、符号分離部9’、ゲイン復号部8、ゲイン符号化部12’、第一拡張擬似定位ゲイン演算部161及び符号多重化部13を例えば含む。復号装置200は、図10に例示するように、第一符号分離部91、第二符号分離部92、第一部分復号部71、第二部分復号部72、第一ゲイン復号部81、第二ゲイン復号部82、第一乗算部101、第二乗算部104、第三乗算部105、第二拡張擬似定位ゲイン演算部162、加算部112及びLR変換部2を含む。
【0050】
符号化装置100は、図14に例示したステップA1からステップA13の処理を行う。符号化装置100により生成された拡張M符号は復号装置200に送られ、拡張S符号はミキサ300に送られる。拡張M符号はミキサ300を介して復号装置200に送られてもよい。
【0051】
すなわち、符号化装置100のMS変換部3(図8)は、第一入力信号と第二入力信号とを加算してM信号とし、第一入力信号から第二入力信号を減算してS信号とする(ステップA1、図14)。生成されたM信号は第一信号符号化部41及び第一ゲイン符号化部42に送られ、生成されたS信号は第二信号符号化部51及び第二ゲイン符号化部52に送られる。
【0052】
第一ゲイン符号化部42は、M信号S(t)のゲインgを次式に従い算出し、算出されたゲインgを量子化してMゲイン符号Cgmとする(ステップA8)。ゲインgは、入力された信号の大きさを表わす代表値である。ゲインとして1フレームを構成するサンプルの平均値を用いている。次式に示した方法以外にもスカラ量子化を用いることもできる。
g=(1/K)*ΣK−1t=0(S(t)) (ゲインの算出)
gm=(1/2)*[log(g)]−const (ゲインの量子化)
【0053】
Kは1フレームのサンプルの数であり、[・]は・の整数部分を出力する関数であり、constは音信号擬似定位装置に求められる性能や仕様に応じて適宜定められる任意の定数である。第一ゲイン符号化部42は、Mゲイン符号Cgmを、次式に従い逆量子化して復号MゲインA’mを求め、第一信号符号化部41に入力する。
A’m=2Cgm+const
【0054】
第一信号符号化部41は、M信号S(t)を復号MゲインA’mで正規化したのち、ベクトル量子化などを用いて符号化し、正規化M信号符号とする(ステップA9)。例えば、S(t)/A’mとすることにより正規化を行う。
【0055】
第一符号多重化部43’は、Mゲイン符号Cgm及び正規化M信号符号を含む拡張M符号を生成する(ステップA10)。例えば、Mゲイン符号Cgm及び正規化M信号符号を所定の順序で並べて拡張M符号とする。ネットワークを通じて拡張M符号を伝送する必要がある場合は、ヘッダ情報などを付加してもよい。生成された拡張M符号は、復号装置200に送られる。
【0056】
第二ゲイン符号化部52は、第一ゲイン符号化部42と同様に、S信号S(t)のゲインgを(ゲインの算出)の式に従い算出し、算出されたゲインgを(ゲインの量子化)の式に従い量子化してSゲイン符号Cgsとする(ステップA11)。また、第二ゲイン符号化部52は、Sゲイン符号Cgsを、次式に従い逆量子化して復号SゲインA’sを求め、第二信号符号化部51に入力する。
A’=2Cgs+const
【0057】
第二信号符号化部51は、第一信号符号化部41と同様に、S信号S(t)を復号SゲインA’sで正規化したのち、ベクトル量子化などを用いて符号化し、正規化S信号符号とする(ステップA12)。
第二符号多重化部53は、第一符号多重化部43’と同様に、Sゲイン符号Cgs及び正規化S信号符号を含む拡張S符号を生成する(ステップA13)。
【0058】
ミキサ300の符号分離部9’(図9)は、拡張S符号からSゲイン符号及び正規化S信号符号を分離する(ステップA18)。正規化S信号符号は符号多重化部13に送られ、Sゲイン符号はゲイン復号部8に送られる。
【0059】
ゲイン復号部8は、Sゲイン符号Cgsを例えば次式により逆量子化することにより復号して復号SゲインA’sを得る(ステップA20)。復号SゲインA’sは、第一拡張擬似定位ゲイン演算部161に送られる。
A’s=2Cgs+const
【0060】
第一拡張擬似定位ゲイン演算部161は、次式により定義される擬似SゲインApseudoを計算する(ステップA24)。地点数N≧2は、定位を与えることができる方向の総数である。擬似SゲインApseudoは、ゲイン符号化部12’に送られる。
pseudos=A’s/N
ゲイン符号化部12’は、擬似SゲインApseudoを符号化してSゲイン符号とする(ステップA25)。Sゲイン符号は、符号多重化部13に送られる。
【0061】
符号多重化部13は、正規化S信号符号及びゲイン符号化部12’により生成されたSゲイン符号を含むS符号を生成する(ステップA26)。生成されたS符号は、復号装置200に送られる。
【0062】
復号装置200の第一符号分離部91(図10)は、拡張M符号からMゲイン符号Cgm及び正規化M信号符号を分離する(ステップA14)。Mゲイン符号は第一ゲイン復号部81に送られ、正規化M信号符号は第一部分復号部71に送られる。
【0063】
第一部分復号部71は、分離された正規化M信号符号を例えば逆量子化することにより復号して復号正規化M信号S’(t)とする(ステップA15)。復号正規化M信号S’(t)は、乗算部101に送られる。
【0064】
第一ゲイン復号部81は、Mゲイン符号Cgmを例えば次式により逆量子化することにより復号して復号MゲインA’mを得る(ステップA16)。復号MゲインA’mは、第一乗算部101に送られる。
A’m=2Cgm+const
第一乗算部101は、復号正規化M信号S’(t)と復号MゲインA’mとを乗算して、復号M信号を生成する(ステップA17)。復号M信号は、LR変換部2及び第三乗算部105に送られる。
【0065】
第二符号分離部92は、S符号からSゲイン符号Cgs及び正規化S信号符号を分離する(ステップA18’)。Sゲイン符号は第二ゲイン復号部82に送られ、正規化S信号符号は第二部分復号部72に送られる。
第二部分復号部72は、分離された正規化S信号符号を例えば逆量子化することにより復号して復号正規化S信号S’(t)とする(ステップA19)。復号正規化S信号S’(t)は、第二乗算部104に送られる。
【0066】
第二ゲイン復号部82は、Sゲイン符号Cgsを例えば次式により逆量子化することにより復号して復号SゲインA’sを得る(ステップA20)。復号SゲインA’sは、第二乗算部104に送られる。
A’s=2Cgs+const
【0067】
第二乗算部104は、復号正規化S信号S’(t)と復号SゲインA’sとを乗算して、第一復号S信号を生成する(ステップA27)。第一復号S信号は、加算部112に送られる。
第二拡張擬似定位ゲイン演算部162は、次式により定義される擬似Mゲインgm2を計算する(ステップA28)。擬似Mゲインgm2は、第三乗算部105に送られる。
gm2=(N−2*n−1)/N
【0068】
第三乗算部105は、復号M信号と擬似Mゲインgm2とを乗算して第二復号M信号とする(ステップA29)。第二復号M信号は、加算部112に送られる。
加算部112は、第一復号S信号と第二復号M信号とを加算して復号S信号とする(ステップA30)。復号S信号は、LR変換部2に送られる。
【0069】
LR変換部2は、第一実施形態のLR変換部2と同様に、復号M信号S(t)及び復号S信号S(t)を用いて、上記式(5),(6)に従い第一出力信号S(t)及び第二出力信号S(t)を生成し出力する(ステップA3)。
このように、符号化装置がゲイン符号化を含む符号化方法を用いる場合においても、地点情報nに応じた信号処理を復号したM信号及びS信号に対して行うことにより、地点ごとに異なる音源位置を定めることが可能となる。
【0070】
[スケーラブル符号化において擬似定位の付与をミキサで実施する場合]
以下、この発明による音信号擬似定位システムの一実施形態を詳細に説明する。この音信号擬似定位システムは、擬似定位の付与をミキサで実施する。
【0071】
この音信号擬似定位システムは、図5に例示するように、符号化装置100、復号装置200及びミキサ300を含む。符号化装置100は、図11に示すように、MS変換部3、信号符号化部41、ゲイン符号化部42、符号多重化部43、帯域分割部44、副信号符号化部45を例えば含む。復号装置200は、図12に示すように、第一符号分離部61、第二符号分離部62、第一部分復号部71、第二部分復号部72、第一ゲイン復号部81、第二ゲイン復号部82、第一副信号復号部74、第二副信号復号部75、第一乗算部10、第二乗算部11、第一帯域合成部46、第二帯域合成部47、及びLR変換部2を例えば含む。ミキサ300は、図11に示すように、符号分離部6、副信号復号部73、ゲイン復号部8、擬似定位ゲイン演算部9、第一ミキサゲイン符号化部12、第二ミキサゲイン符号化部13、第一乗算部16、第二乗算部17、副信号復号部73、第一副信号符号化部18、第二副信号符号化部19、第一符号多重化部14及び第二符号多重化部15を例えば含む。
【0072】
図11の符号化装置100のうちMS変換部3、信号符号化部41、ゲイン符号化部42、符号多重化部43は、[ゲイン符号化を含む符号化方法を用いる場合]の欄で図4を参照して説明した符号化装置100と、帯域分割部44、副信号符号化部45を除き同様である。
MS変換部3がまず、第一入力信号S(t)及び第二入力信号S(t)を、上記(1)式に従いM信号S(t)に変換する。M信号S(t)は、帯域分割部44に送られる。
【0073】
帯域分割部44はM信号S(t)を主帯域M信号と副帯域M信号に分割する。帯域分割には例えばQMF(Quadratic Mirror Filter)などの帯域分割フィルタを用いることができる。なお、主帯域M信号と副帯域M信号としてどの帯域を割り当ててもよい。例えば、主帯域M信号として4kHz以上の信号を割当て、副帯域M信号として4kHz以下の信号を割り当ててもよい。主帯域M信号は信号符号化部41及びゲイン符号化部42に送られる。
【0074】
ゲイン符号化部42は、入力された音信号の大きさを表わす代表値であるゲインを計算し符号化してMゲイン符号Cとする。例えば、上記の(ゲインの算出)の式に基づいてゲインを計算し、上記の(ゲインの量子化)の式に基づいてゲインの量子化及び符号化をする。Mゲイン符号Cは、符号多重化部43に送られる。ゲイン符号化部42は、Mゲイン符号を上記の(ゲインの逆量子化)の式に基づいて逆量子化により復号して復号Mゲインを生成する。
【0075】
信号符号化部41は、入力された主帯域M信号を復号Mゲインで正規化し符号化して正規化M信号符号とする。正規化M信号符号は、符号多重化部43に送られる。
副信号符号化部45は、副帯域M信号を符号化して副帯域M信号符号とする。符号化には、例えばG.711等を用いることができるが、どのような符号化方法を用いてもよい。
符号多重化部43は、Mゲイン符号C、正規化M信号符号および副帯域M信号符号を含むスケーラブル拡張M符号を生成する。生成されたスケーラブル拡張M符号は、ミキサ300に送られる。
【0076】
ミキサ300の符号分離部6は、スケーラブル拡張M符号からMゲイン符号C、正規化M信号符号および副帯域M信号符号を分離する。Mゲイン符号Cはゲイン復号部8に送られる。正規化M信号符号は、第一符号多重化部14及び第二符号多重化部15に送られる。副帯域M信号符号は副信号復号部73に送られる。
ゲイン復号部8は、分離されたMゲイン符号Cを復号して復号MゲインA’を生成する。上記、(ゲインの逆量子化)の式に基づき、逆量子化により復号して復号MゲインA’を生成する。
A’=2Cg+const
【0077】
擬似定位ゲイン演算部9は、復号MゲインA’を擬似MゲインA’とし、また、復号Mゲインと定位を与えたい位置に応じた値とをかけた値を擬似SゲインA’とする。すなわち、例えば次式に基づいて擬似MゲインA’及び擬似SゲインA’を算出する。擬似MゲインA’及び擬似SゲインA’は、それぞれ第一ミキサゲイン符号化部12及び第二ミキサゲイン符号化部13に送られる。なお、gの値は[入力信号がモノラル信号である場合]で示したのと同様、地点番号pを用いてg=(N−2p−1)/Nとしてもよいし、g=cosθとしてもよい。この場合、θはpの値に応じて決まる値とする。
A’=A’
A’=A’g …(2)
なお、gの代わりに2とし、擬似定位ゲインの付与をMゲイン符号のビットシフトのみで実現することで、擬似定位の付与をさらに低演算量化することもできる。Xは、擬似定位を与えようとする位置に応じて予め定められた定数である。また、擬似定位を与えようとする位置1,…,n,…,Nに応じて異なる値C,…,C,…,Cを定めておき、上記(2)式の代わりに、下式によりA’を計算してもよい。
A’=A’C
【0078】
第一ミキサゲイン符号化部12は、擬似MゲインA’を例えば上記(ゲインの量子化)の式に従い符号化して擬似Mゲイン符号とする。擬似Mゲイン符号は、第一符号多重化部14に送られる。
第二ミキサゲイン符号化部13は、擬似SゲインA’を例えば上記(ゲインの量子化)の式に従い符号化して擬似Sゲイン符号とする。擬似Sゲイン符号は、第二符号多重化部15に送られる。
【0079】
副信号復号部73は、副帯域M信号符号を復号し、復号副帯域M信号を生成する。復号には副信号符号化部45に対応する復号器を用いる。例えば副信号符号化器にG.711エンコーダを用いた場合には、副信号復号部73としてG.711デコーダ復号副帯域M信号は第三乗算器16、第四乗算器17に送られる。
【0080】
第三乗算器16は、復号副帯域M信号に擬似Mゲインを乗算して擬似副帯域M信号を生成する。擬似副帯域M信号は第一副信号符号化部18に送られる。
第四乗算器17は、復号副帯域M信号に擬似Sゲインを乗算して擬似副帯域S信号を生成する。擬似副帯域S信号は第二副信号符号化部19に送られる。
【0081】
第一副信号符号化部18は、擬似副帯域M信号を副信号符号化部45と同じ符号化方法により符号化し、副帯域擬似M信号符号を出力する。
第二副信号符号化部19は、擬似副帯域S信号を副信号符号化部45と同じ符号化方法により符号化し、副帯域擬似S信号符号を出力する。
【0082】
第一符号多重化部14は、符号分離部6により分離された正規化M信号符号、副帯域擬似M信号符号及び擬似Mゲイン符号を含むスケーラブルM符号を生成する。
第二符号多重化部15は、符号分離部6により分離された正規化M信号符号、副帯域擬似S信号符号及び擬似Sゲイン符号を含むスケーラブルS符号を生成する。
【0083】
スケーラブルM符号及びスケーラブルS符号は、復号装置200に送られる。
【0084】
復号装置200の第一符号分離部61(図12)は、スケーラブルM符号から正規化M信号符号、副帯域擬似M信号符号及び擬似Mゲイン符号を分離する。正規化M信号符号は第一部分復号部71に送られ、擬似Mゲイン符号は第一ゲイン復号部81に送られる。副帯域擬似M信号符号は第一副信号復号部74に送られる。
【0085】
第二符号分離部62は、S符号から正規化M信号符号、副帯域擬似S信号符号及び擬似Sゲイン符号を分離する。正規化M信号符号は第二部分復号部72に送られ、擬似Sゲイン符号は第二ゲイン復号部82に送られる。副帯域擬似S信号符号は第一副信号復号部75に送られる
第一部分復号部71は、第一符号分離部61により分離された正規化M信号符号を復号して復号正規化M信号を生成する。生成された復号正規化M信号は、第一乗算部10に送られる。
【0086】
第二部分復号部72は、第二符号分離部62により分離された正規化M信号符号を復号して復号正規化M信号を生成する。生成された復号正規化M信号は、第二乗算部11に送られる。
【0087】
第一副信号復号部74は、副帯域擬似M信号符号を復号して復号副帯域M信号を生成する。復号においては、副信号復号部73と同様の復号方法を用いる。
第二副信号復号部75は、副帯域擬似S信号符号を復号して復号副帯域S信号を生成する。復号においては、副信号復号部73と同様の復号方法を用いる。
【0088】
第一ゲイン復号部81は、擬似Mゲイン符号を復号して復号擬似Mゲインを生成する。第一ゲイン復号部81は、第一ミキサゲイン符号化部12が行った符号化に対応する復号を行う。生成された復号擬似Mゲインは、第一乗算部10に送られる。
第二ゲイン復号部82は、擬似Sゲイン符号を復号して復号擬似Sゲインを生成する。第二ゲイン復号部82は、第二ミキサゲイン符号化部13が行った符号化に対応する復号を行う。生成された復号擬似Sゲインは、第二乗算部11に送られる。
【0089】
第一乗算部10は、復号正規化M信号と復号擬似Mゲインとをかけて復号主帯域M信号を生成する(ステップS18)。すなわち、復号正規化M信号をS’(t)とし、復号擬似MゲインをA’として、下記式により復号主帯域M信号S(t)を算出する。
(t)=A’*S’(t)
第二乗算部11は、復号正規化M信号と復号擬似Sゲインとをかけて復号主帯域S信号を生成する(ステップS19)。すなわち、復号正規化M信号をS’(t)とし、復号擬似SゲインをA’として、下記式により復号主帯域S信号S(t)を算出する。
(t)=A’*S’(t)
【0090】
第一帯域合成部46は、復号主帯域M信号と復号副帯域M信号を合成して復号M信号を生成する。合成においては、帯域分割部44に対応する帯域合成フィルタを用いる。例えば、帯域分割部44において、QMFを利用した場合は対応する合成QMFフィルタを用いる。
第二帯域合成部47は、復号主帯域S信号と復号副帯域S信号を合成して復号S信号を生成する。合成においては、帯域分割部44に対応する帯域合成フィルタを用いる。例えば、帯域分割部44において、QMFを利用した場合は対応する合成QMFフィルタを用いる。
【0091】
LR変換部2は、復号M信号S(t)及び復号S信号S(t)から次式に従い第一出力信号S(t)及び第二出力信号S(t)を生成し出力する(ステップS20)。
(t)=(S(t)+S(t))/2
(t)=(S(t)−S(t))/2
すなわち、復号M信号S(t)と復号S信号S(t)とを加算して2で割って第一出力信号S(t)を生成し、復号M信号S(t)から復号S信号S(t)を減算して2で割って第二出力信号S(t)を生成する。
このように、ミキサ300で、ゲインのみを復号して、その復号されたゲインを用いて擬似定位を与えることができる。これにより、ミキサの処理量が従来よりも小さくなる。
【0092】
音信号擬似定位システムを構成する符号化装置、ミキサ及び復号装置のそれぞれは、コンピュータによって実現することができる。この場合、符号化装置、ミキサ及び復号装置のそれぞれが有すべき各部の処理内容はプログラムによって記述される。そして、このプログラムをコンピュータで実行することにより、各部が、コンピュータ上で実現される。
【0093】
この処理内容を記述したプログラムは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録しておくことができる。また、この形態では、コンピュータ上で所定のプログラムを実行させることにより、符号化装置、ミキサ及び復号装置のそれぞれを構成することとしたが、これらの処理内容の少なくとも一部をハードウェア的に実現することとしてもよい。
【0094】
この発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0095】
1 基本擬似定位付与部
2 LR変換部
3 MS変換部
4 符号化部
41 信号符号化部
42 ゲイン符号化部
43 符号多重化部
43’ 第一符号多重化部
44 帯域分割部
45 副信号符号化部
46 第一帯域合成部
47 第二帯域合成部
5 復号部
6 符号分離部
61 第一符号分離部
62 第二符号分離部
7 部分復号部
71 第一部分復号部
72 第二部分復号部
73 副信号復号部
74 第一副信号復号部
75 第二副信号復号部
8 ゲイン復号部
81 第一ゲイン復号部
82 第二ゲイン復号部
9 擬似定位ゲイン演算部
9’ 符号分離部
10 第一乗算部
11 第二乗算部
12 第一ミキサゲイン符号化部
13 第二ミキサゲイン符号化部
14 第一符号多重化部
15 第二符号多重化部
16 第三乗算器
17 第四乗算器
18 第一副信号符号化部
19 第二副信号符号化部
100 符号化装置
200 復号装置
300 ミキサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された音信号の大きさを表わす代表値であるゲインを計算し符号化してMゲイン符号とするゲイン符号化部と、入力された音信号を上記Mゲイン符号を復号することにより得られた復号Mゲインで正規化し符号化して正規化M信号符号とする信号符号化部と、上記Mゲイン符号及び上記正規化M信号符号を含む拡張M符号を生成する符号多重化部とを含む符号化装置と、
上記拡張M符号からMゲイン符号及び正規化M信号符号を分離する符号分離部と、上記分離されたMゲイン符号を復号して復号Mゲインを生成するゲイン復号部と、上記復号Mゲインを擬似Mゲインとし上記復号Mゲインと定位を与えたい位置に応じた値とをかけた値を擬似Sゲインとする擬似定位ゲイン演算部と、上記擬似Mゲインを符号化して擬似Mゲイン符号とする第一ミキサゲイン符号化部と、上記擬似Sゲインを符号化して擬似Sゲイン符号とする第二ミキサゲイン符号化部と、上記分離された正規化M信号符号及び上記擬似Mゲイン符号を含むM符号を生成する第一符号多重化部と、上記分離された正規化M信号符号及び上記擬似Sゲイン符号を含むS符号を生成する第二符号多重化部とを含むミキサと、
上記M符号から正規化M信号符号及び擬似Mゲイン符号を分離する第一符号分離部と、上記分離された正規化M信号符号を復号して復号正規化M信号を生成する第一部分復号部と、上記S符号から正規化された正規化M信号符号及び擬似Sゲイン符号を分離する第二符号分離部と、上記分離された正規化M信号符号を復号して復号正規化M信号を生成する第二部分復号部と、上記分離された擬似Mゲイン符号を復号して復号擬似Mゲインを生成する第一ゲイン復号部と、上記分離された擬似Sゲイン符号を復号して復号擬似Sゲインを生成する第二ゲイン復号部と、上記復号正規化M信号と上記復号擬似Mゲインとをかけて復号M信号を生成する第一乗算部と、上記復号正規化M信号と上記復号擬似Sゲインとをかけて復号S信号を生成する第二乗算部と、上記復号M信号と上記復号S信号とを加算して2で割って第一出力信号を生成し、上記復号M信号から上記復号S信号を減算して2で割って第二出力信号を生成するLR変換部とを含む復号装置と、
を含む音信号擬似定位システム。
【請求項2】
第一入力信号と第二入力信号とを加算してM信号とし、上記第一入力信号から上記第二入力信号を減算してS信号とするMS変換部と、上記M信号の大きさを表わす代表値であるゲインを計算し符号化してMゲイン符号とする第一ゲイン符号化部と、上記M信号を上記Mゲイン符号を復号することにより得られた復号Mゲインで正規化し符号化して正規化M信号符号とする第一信号符号化部と、上記Mゲイン符号及び上記正規化M信号符号を含む拡張M符号を生成する第一符号多重化部と、上記S信号の大きさを表わす代表値であるゲインを計算し符号化して第一Sゲイン符号とする第二ゲイン符号化部と、上記S信号を上記第一Sゲイン符号を復号することにより得られた復号Sゲインで正規化し符号化して正規化S信号符号とする第二信号符号化部と、上記第一Sゲイン符号及び上記正規化S信号符号を含む拡張S符号を生成する第二符号多重化部とを含む符号化装置と、
上記拡張S符号からSゲイン符号及び正規化S信号符号を分離する符号分離部と、上記分離されたSゲイン符号を復号して復号Sゲインを生成するゲイン復号部と、地点数N≧2を定位を与えることができる方向の総数、復号SゲインをA’sとして、擬似SゲインApseudo=A’s/Nを計算する第一拡張擬似定位ゲイン演算部と、上記擬似SゲインApseudoを符号化して第二Sゲイン符号とするゲイン符号化部と、上記分離された正規化S信号符号及び上記第二Sゲイン符号を含むS符号を生成する符号多重化部とを含むミキサと、
上記拡張M符号から正規化M信号符号及びMゲイン符号を分離する第一符号分離部と、上記分離された正規化M信号符号を復号して復号正規化M信号を生成する第一部分復号部と、上記分離されたMゲイン符号を復号して復号Mゲインを生成する第一ゲイン復号部と、上記復号正規化M信号と上記復号Mゲインとを乗算して復号M信号とする第一乗算部と、上記S符号から正規化S信号符号及びSゲイン符号を分離する第二符号分離部と、上記分離された正規化S信号符号を復号して復号正規化S信号を生成する第二部分復号部と、上記分離されたSゲイン符号を復号して復号Sゲインを生成する第二ゲイン復号部と、上記復号正規化S信号と上記復号Sゲインとを乗算して第一復号S信号とする第二乗算部と、地点情報nを定位を与える方向の番号として、gm2=(N−2*n−1)/Nにより定義される擬似Mゲインgm2を計算する第二拡張擬似定位ゲイン演算部と、上記復号M信号と上記擬似Mゲインgm2とを乗算して第二復号M信号とする第三乗算部と、上記第一復号S信号と上記第二復号M信号とを加算して復号S信号とする加算部と、上記復号M信号と上記復号S信号とを加算して2で割って第一出力信号を生成し、上記復号M信号から上記復号S信号を減算して2で割って第二出力信号を生成するLR変換部とを含む復号装置と、
を含む音信号擬似定位システム。
【請求項3】
符号化装置が、入力された音信号の大きさを表わす代表値であるゲインを計算し符号化してMゲイン符号とするゲイン符号化ステップと、
符号化装置が、入力された音信号を上記Mゲイン符号を復号することにより得られた復号Mゲインで正規化し符号化して正規化M信号符号とする信号符号化ステップと、
符号化装置が、上記Mゲイン符号及び上記正規化M信号符号を含む拡張M符号を生成する符号多重化ステップと、
ミキサが、上記拡張M符号からMゲイン符号及び正規化M信号符号を分離する符号分離ステップと、
ミキサが、上記分離されたMゲイン符号を復号して復号Mゲインを生成するゲイン復号ステップと、
ミキサが、上記復号Mゲインを擬似Mゲインとし上記復号Mゲインと定位を与えたい位置に応じた値とをかけた値を擬似Sゲインとする擬似定位ゲイン演算ステップと、
ミキサが、上記擬似Mゲインを符号化して擬似Mゲイン符号とする第一ミキサゲイン符号化ステップと、
ミキサが、上記擬似Sゲインを符号化して擬似Sゲイン符号とする第二ミキサゲイン符号化ステップと、
ミキサが、上記分離された正規化M信号符号及び上記擬似Mゲイン符号を含むM符号を生成する第一符号多重化ステップと、
ミキサが、上記分離された正規化M信号符号及び上記擬似Sゲイン符号を含むS符号を生成する第二符号多重化ステップと、
復号装置が、上記M符号から正規化M信号符号及び擬似Mゲイン符号を分離する第一符号分離ステップと、
復号装置が、上記分離された正規化M信号符号を復号して復号正規化M信号を生成する第一部分復号ステップと、
復号装置が、上記S符号から正規化された正規化M信号符号及び擬似Sゲイン符号を分離する第二符号分離ステップと、
復号装置が、上記分離された正規化M信号符号を復号して復号正規化M信号を生成する第二部分復号ステップと、
復号装置が、上記分離された擬似Mゲイン符号を復号して復号擬似Mゲインを生成する第一ゲイン復号ステップと、
復号装置が、上記分離された擬似Sゲイン符号を復号して復号擬似Sゲインを生成する第二ゲイン復号ステップと、
復号装置が、上記復号正規化M信号と上記復号擬似Mゲインとをかけて復号M信号を生成する第一乗算ステップと、
復号装置が、上記復号正規化M信号と上記復号擬似Sゲインとをかけて復号S信号を生成する第二乗算ステップと、
復号装置が、上記復号M信号と上記復号S信号とを加算して2で割って第一出力信号を生成し、上記復号M信号から上記復号S信号を減算して2で割って第二出力信号を生成するLR変換ステップと、
を含む音信号擬似定位方法。
【請求項4】
符号化部が、第一入力信号と第二入力信号とを加算してM信号とし、上記第一入力信号から上記第二入力信号を減算してS信号とするMS変換ステップと、
符号化部が、上記M信号の大きさを表わす代表値であるゲインを計算し符号化してMゲイン符号とする第一ゲイン符号化ステップと、
符号化部が、上記M信号を上記Mゲイン符号を復号することにより得られた復号Mゲインで正規化し符号化して正規化M信号符号とする第一信号符号化ステップと、
符号化部が、上記Mゲイン符号及び上記正規化M信号符号を含む拡張M符号を生成する第一符号多重化ステップと、
符号化部が、上記S信号の大きさを表わす代表値であるゲインを計算し符号化して第一Sゲイン符号とする第二ゲイン符号化ステップと、
符号化部が、上記S信号を上記第一Sゲイン符号を復号することにより得られた復号Sゲインで正規化し符号化して正規化S信号符号とする第二信号符号化ステップと、
符号化部が、上記第一Sゲイン符号及び上記正規化S信号符号を含む拡張S符号を生成する第二符号多重化ステップと、
ミキサが、上記拡張S符号からSゲイン符号及び正規化S信号符号を分離する符号分離ステップと、
ミキサが、上記分離されたSゲイン符号を復号して復号Sゲインを生成するゲイン復号部と、地点数N≧2を定位を与えることができる方向の総数、復号SゲインをA’sとして、擬似SゲインApseudo=A’s/Nを計算する第一拡張擬似定位ゲイン演算ステップと、
ミキサが、上記擬似SゲインApseudoを符号化して第二Sゲイン符号とするゲイン符号化ステップと、
ミキサが、上記分離された正規化S信号符号及び上記第二Sゲイン符号を含むS符号を生成する符号多重化ステップと、
復号装置が、上記拡張M符号から正規化M信号符号及びMゲイン符号を分離する第一符号分離ステップと、
復号装置が、上記分離された正規化M信号符号を復号して復号正規化M信号を生成する第一部分復号ステップと、
復号装置が、上記分離されたMゲイン符号を復号して復号Mゲインを生成する第一ゲイン復号ステップと、
復号装置が、上記復号正規化M信号と上記復号Mゲインとを乗算して復号M信号とする第一乗算ステップと、
復号装置が、上記S符号から正規化S信号符号及びSゲイン符号を分離する第二符号分離ステップと、
復号装置が、上記分離された正規化S信号符号を復号して復号正規化S信号を生成する第二部分復号ステップと、
復号装置が、上記分離されたSゲイン符号を復号して復号Sゲインを生成する第二ゲイン復号ステップと、
復号装置が、上記復号正規化S信号と上記復号Sゲインとを乗算して第一復号S信号とする第二乗算ステップと、
復号装置が、地点情報nを定位を与える方向の番号として、gm2=(N−2*n−1)/Nにより定義される擬似Mゲインgm2を計算する第二拡張擬似定位ゲイン演算ステップと、
復号装置が、上記復号M信号と上記擬似Mゲインgm2とを乗算して第二復号M信号とする第三乗算ステップと、
復号装置が、上記第一復号S信号と上記第二復号M信号とを加算して復号S信号とする加算ステップと、
復号装置が、上記復号M信号と上記復号S信号とを加算して2で割って第一出力信号を生成し、上記復号M信号から上記復号S信号を減算して2で割って第二出力信号を生成するLR変換ステップと、
を含む音信号擬似定位方法。
【請求項5】
請求項1に記載された音信号擬似定位システムのミキサの各部としてコンピュータを機能させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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