音同調方法
【課題】少なくとも部分的には自動化された、自動車におけるサウンドシステムの同調を提供する方法を提供すること。
【解決手段】サウンドシステムの自動化された同調のための方法であって、サウンドシステムは、遅延線と、等化フィルタと、少なくとも2つのラウドスピーカとを備えており、該方法は、ラウドスピーカを介して有用な音声信号を再現するステップと、少なくとも1つの位置において音圧値を測定するステップと、サウンドシステムの遅延線と等化フィルタとを同調する標的の伝達関数を提供するステップであって、標的の伝達関数は、サウンドシステムの所望の伝達特性を表す、ステップと、遅延線の遅延を調節するステップと、サウンドシステムの実際の伝達特性が、標的の伝達関数に近似するように、等化フィルタの振幅応答を調節する、ステップとを包含する、方法。
【解決手段】サウンドシステムの自動化された同調のための方法であって、サウンドシステムは、遅延線と、等化フィルタと、少なくとも2つのラウドスピーカとを備えており、該方法は、ラウドスピーカを介して有用な音声信号を再現するステップと、少なくとも1つの位置において音圧値を測定するステップと、サウンドシステムの遅延線と等化フィルタとを同調する標的の伝達関数を提供するステップであって、標的の伝達関数は、サウンドシステムの所望の伝達特性を表す、ステップと、遅延線の遅延を調節するステップと、サウンドシステムの実際の伝達特性が、標的の伝達関数に近似するように、等化フィルタの振幅応答を調節する、ステップとを包含する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音同調方法に関し、特に、自動車の旅客空間における自動化された音の同調および等化の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、特にプレミアムクラスのリムジンにおいて、サウンドシステムは、一般的に非常に複雑であり、様々な周波数領域に対してラウドスピーカおよび一群のラウドスピーカ(例えば、サブウーファ、ウーファ、中程度の周波数のラウドスピーカ、およびツイータなど)を使用して、このような車両の旅客空間における非常に多様な位置に、多数のラウドスピーカを備えている。このようなサウンドシステムは、所望の音印象を達成するために、それぞれの車両のタイプに対して、音響技師またはサウンドエンジニアによって手動で調節または最適化される。この処理はまた、音同調と呼ばれており、該音同調は、主には、サウンドシステムの同調であり、主に経験値に基づいて、かつ、訓練された聴覚に基づいて、音響技師またはサウンドエンジニアによって主観的に行われる。音同調に関連して使用される信号処理のための一般的な装置は、4乗べきフィルタ(例えば、ハイパスフィルタ、バンドパスフィルタ、ローパスフィルタ、オールパスフィルタ)、双線形フィルタ、デジタル遅延線、クロスオーバフィルタ、および信号のダイナミックレンジを変化させる装置(例えば、圧縮器、リミッタ、伸長器、ノイズゲートなど)であり、クロスオーバフィルタの遮断周波数と、遅延線と、振幅応答との関連のあるパラメータが、スペクトルバランス(音質)と聴覚立体感とに関して最適化された音印象が達成されるように調節される。
【0003】
このような同調の焦点は、全ての聴取位置、すなわち、旅客自動車の旅客空間における全ての座席の位置において、できる限り良好な音印象を達成することである。しかしながら、多数のパラメータが、この処理において変更されなければならず、該多数のパラメータは、互いに独立して調節され得ず、効果においては相互作用し得ず、その結果、手順は、非常に経験を必要とする反復的な処理となり、それに対応して、時間がかかり、サウンドシステムの同調を行う音響技師またはサウンドエンジニアの主観的な音印象の付近に大部分、処理自体を適合させることが避けられない。従って、少なくとも部分的には自動化された、自動車におけるサウンドシステムの同調を提供する方法を提供することが、一般的なニーズである。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の一実施形態に従って、遅延線と、等化フィルタと、少なくとも2つのラウドスピーカとを有するサウンドシステムの自動化された同調のための方法は、ラウドスピーカを介して有用な音声信号を再現するステップと、少なくとも1つの位置において音圧値を測定するステップと、サウンドシステムの遅延線と等化フィルタとを同調する標的の伝達関数を提供するステップであって、該標的の伝達関数は、サウンドシステムの所望の伝達特性を表す、ステップと、遅延線の遅延を調節するステップと、サウンドシステムの実際の伝達特性が、標的の伝達関数に近似するように、等化フィルタの振幅応答を調節する、ステップとを包含する。
【0005】
本発明の別の実施形態に従って、有用な音声信号を提供するための信号源と、複数の適合フィルタであって、1つの適合されたフィルタが、各クロスオーバフィルタの下流に接続されている、複数の適合フィルタと、複数のラウドスピーカであって、1つ以上のラウドスピーカが、各適合フィルタの下流に接続されている、複数のラウドスピーカと、第1の位置に場所を定められた音圧レベルを測定し、該有用な信号を表すマイクロフォン信号を提供するマイクロフォンと、該有用な音声信号と該マイクロフォン信号とによって定義された実際の伝達特性が、該サウンドシステムの所望の伝達特性を表す標的関数に近似するように、該適合フィルタのフィルタ係数を最適化する制御ユニットとを備えているサウンドシステムの自動的な同調のためのシステム。
【0006】
本発明はさらに以下の手段を提供する。
【0007】
(項目1)
サウンドシステムの自動化された同調のための方法であって、該サウンドシステムは、遅延線と、等化フィルタと、少なくとも2つのラウドスピーカとを備えており、該方法は、
該ラウドスピーカを介して有用な音声信号を再現するステップと、
少なくとも1つの位置において音圧値を測定するステップと、
該サウンドシステムの該遅延線と該等化フィルタとを同調する標的の伝達関数を提供するステップであって、該標的の伝達関数は、該サウンドシステムの所望の伝達特性を表す、ステップと、
該遅延線の遅延を調節するステップと、
該サウンドシステムの実際の伝達特性が、該標的の伝達関数に近似するように、該等化フィルタの振幅応答を調節する、ステップと
を包含する、方法。
【0008】
(項目2)
上記サウンドシステムは、少なくとも1つのクロスオーバフィルタをさらに備えており、上記方法は、
全高調波ひずみが最小化されるように、該クロスオーバフィルタの遮断周波数を調節するステップ
を包含する、項目1に記載の方法。
【0009】
(項目3)
上記クロスオーバフィルタは、線形位相フィルタを備えている、項目2に記載の方法。
【0010】
(項目4)
上記標的関数は、人間の耳の音響心理学的な特性を組み込む、項目1に記載の方法。
【0011】
(項目5)
線形位相適合フィルタは、遅延線と等化フィルタとを実装するために使用され、その結果、互いに影響することなく、等化フィルタおよびクロスオーバフィルタの遅延および振幅応答の独立した調節を可能にする、項目2に記載の方法。
【0012】
(項目6)
上記遅延線の上記遅延は、上記線形適合フィルタの位相を調節することによって行われる、項目5に記載の方法。
【0013】
(項目7)
上記等化フィルタの上記振幅応答は、上記線形適合フィルタのフィルタ係数を調節することによって行われる、項目6に記載の方法。
【0014】
(項目8)
上記音圧は、複数の音圧信号をもたらす複数の位置において測定される、項目1に記載の方法。
【0015】
(項目9)
上記複数の位置は、聴覚空間の中に配置されている、項目8に記載の方法。
【0016】
(項目10)
上記聴覚空間は、自動車の旅客空間である、項目9に記載の方法。
【0017】
(項目11)
上記標的関数を使用して、上記有用な音声信号から所望の出力信号を計算するステップと、
該所望の出力信号から上記測定された音圧信号を減算することによってエラー信号を計算するステップと
をさらに包含する、項目8に記載の方法。
【0018】
(項目12)
上記エラー信号の重み付けられた合計を計算することによって全エラー信号を生成するステップであって、該エラー信号は、加算の前に重み付け係数を用いて乗算される、ステップと、
該全エラー信号が最小化されるように、上記適合フィルタの上記位相応答と上記振幅応答とを調節するステップと
をさらに包含する、項目11に記載の方法。
【0019】
(項目13)
多重誤差最小自乗平均(MELMS)アルゴリズムが、全エラー信号を最小化するために利用される、項目12に記載の方法。
【0020】
(項目14)
上記位相または上記遅延線の上記同調の質を評価するために、上記測定された音圧のエネルギー減衰曲線(EDC)を計算すること
をさらに包含する、項目1に記載の方法。
【0021】
(項目15)
上記遅延線の上記遅延が、反響を最小化するように同調され、該反響のレベルは、周波数依存のマスキング閾値を上回る、項目1に記載の方法。
【0022】
(項目16)
上記サウンドシステムを同調するための、上記標的関数の上記振幅応答と上記位相応答が、聴覚補正フィルタバンクのインパルス応答から計算され、該聴覚補正のフィルタバンクは、人間の耳の周波数特性と時間特性とをシミュレーションするガンマトーンフィルタを備えている、項目1に記載の方法。
【0023】
(項目17)
人間の耳の上記音響心理学的特性は、スペクトルのマスキング効果と時間的マスキング効果と該人間の耳のスペクトル分解とを含む、項目4に記載の方法。
【0024】
(項目18)
上記遅延線の上記遅延は、上記等化フィルタの上記振幅応答の前に調節される、項目1に記載の方法。
【0025】
(項目19)
上記クロスオーバフィルタの上記遮断周波数は、上記遅延線の上記遅延の前に調節される、項目2に記載の方法。
【0026】
(項目20)
サウンドシステムの自動化された同調のためのシステムであって、該サウンドシステムは、
有用な音声信号を提供するための信号源と、
複数の適合フィルタであって、1つの適合されたフィルタが、各クロスオーバフィルタの下流に接続されている、複数の適合フィルタと、
複数のラウドスピーカであって、1つ以上のラウドスピーカが、各適合フィルタの下流に接続されている、複数のラウドスピーカと、
第1の位置に場所を定められた音圧レベルを測定し、該有用な信号を表すマイクロフォン信号を提供するマイクロフォンと、
該有用な音声信号と該マイクロフォン信号とによって定義された実際の伝達特性が、該サウンドシステムの所望の伝達特性を表す標的関数に近似するように、該適合フィルタのフィルタ係数を最適化する制御ユニットと
を備えている、システム。
【0027】
(項目21)
少なくとも1つのクロスオーバフィルタをさらに備えている、項目20に記載のシステム。
【0028】
(項目22)
測定された音圧レベルに対する高調波ひずみの比率が最小化されるように、上記制御ユニットは、上記クロスオーバフィルタの上記遮断周波数を同調するように適合されている、項目21に記載のシステム。
【0029】
(項目23)
上記クロスオーバフィルタは、線形位相フィルタである、項目20に記載のシステム。
【0030】
(項目24)
上記標的関数は、人間の耳の音響心理学的な特性を組み込む、項目20に記載のシステム。
【0031】
(項目25)
上記適合されたフィルタは、線形位相フィルタであり、その結果、互いに影響することなく、等化フィルタおよびクロスオーバフィルタの位相応答および振幅応答の独立した調節を可能にする、項目21に記載のシステム。
【0032】
(項目26)
聴覚空間の中の異なる位置に配置され、上記有用な音声信号を表す複数のマイクロフォン信号を提供する複数のマイクロフォンを備えている、項目20に記載のシステム。
【0033】
(項目27)
上記聴覚空間は、自動車の旅客空間である、項目26に記載のシステム。
【0034】
(項目28)
上記制御ユニットは、上記標的関数を使用して、上記有用な音声信号から所望の出力信号を計算し、上記測定された音圧信号と該所望の出力信号との間の差を表すエラー信号を計算するように適合されている、項目26に記載のシステム。
【0035】
(項目29)
上記制御ユニットは、上記エラー信号の重み付けられた合計を計算することによって全エラー信号を生成し、該全エラー信号が最小化されるように、上記適合フィルタの上記位相応答と上記振幅応答とを調節するようにさらに適合されている、項目28に記載のシステム。
【0036】
(項目30)
上記制御ユニットは、上記全エラー信号を最小化するために利用される多重誤差最小自乗平均(MELMS)アルゴリズムを利用するようにさらに適応されている、項目29に記載のシステム。
【0037】
(項目31)
上記制御ユニットは、上記位相または上記遅延線の上記同調の質を評価するために、上記測定された音圧のエネルギー減衰曲線(EDC)を計算するように適応されている、項目20に記載のシステム。
【0038】
(項目32)
上記制御ユニットは、反響を最小化するように、上記適合フィルタの上記位相応答を同調するように適応されており、該反響のレベルは、周波数依存のマスキング閾値を上回る、項目31に記載のシステム。
【0039】
(項目33)
人の耳の上記音響心理学的特性は、スペクトルのマスキング効果と時間的マスキング効果と人間の耳のスペクトル分解とを含む、項目24に記載のシステム。
【0040】
(摘要)
本発明は、サウンドシステムの自動化された同調のための方法であって、該サウンドシステムは、遅延線と、等化フィルタと、少なくとも2つのラウドスピーカとを備えており、該方法は、ラウドスピーカを介して有用な音声信号を再現するステップと、少なくとも1つの位置において音圧値を測定するステップと、サウンドシステムの遅延線と等化フィルタとを同調する標的の伝達関数を提供するステップであって、標的の伝達関数は、サウンドシステムの所望の伝達特性を表す、ステップと、遅延線の遅延を調節するステップと、サウンドシステムの実際の伝達特性が、標的の伝達関数に近似するように、等化フィルタの振幅応答を調節する、ステップとを包含する、方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
本発明は、以下の図面と記述とを参照するとより良く理解され得る。図面内の構成要素は、必ずしも寸法を合わせておらず、その代わりに、本発明の原理を例示することに重きをおいている。さらに、図面においては、異なる図面全体を通して、同様な参照番号は、対応する部分を示す。
【0042】
本事例において、同調が、訓練を積んだ音響技師またはサウンドエンジニアによって行われるときに、最初に、音響パラメータが変更される方法を決定するために、調査が行われた。テスト環境として、高級リムジンが選択された。この車両のサウンドシステムは、合計で10個のチャンネル(前部左側(FL)、前部右側(FR)、中央(C)、側部左側(SL)、側部右側(SR)、後部左側(RL)、後部右側(RR)、サブウーファ左側(SubL)、サブウーファ右側(SubR)、トランクに配置された独立のサブウーファ(Sub))と、各チャンネルに対する増幅器とを備えている。遅延線、オールパスフィルタ、およびクロスオーバフィルタのパラメータを変更することによる位相同調と、4乗べき、双線形フィルタおよびクロスオーバフィルタのパラメータを変更する周波数同調との両方を使用して、同調は行われる。車両のトランクに配置された独立のサブウーファは、100Hzの遮断周波数、90°の位相シフト、および中心位置に設定された音量を有するローパスフィルタを用いて動作されるアクティブラウドスピーカである。
【0043】
車両のサウンドシステムの音印象は、2つの前部座席の位置(運転手および交代運転手)に対して強調された最適化を用いた、音響技師による従来の手動の手順に従って、自動車内のサウンドシステムを同調するときに従来行われたように同調され、ここで、次に、一般的な手順に従って、ドライバの位置に対して主な注意が払われる。また、一般的な手順に従って、後部座席の位置がまた、同調処理の間に考慮されるが、前部座席位置における可聴印象の否定的な減損をもたらさない程度にだけ考慮される。同調の間、使用されるサウンドシステムにおいて利用可能なサラウンドアルゴリズム(例えば、論理7)は、オフに切り換えられ、純粋なステレオ信号の場合に対する同調だけが行われる。
【0044】
手動の同調の完了後、システム全体のインパルス応答の測定が、旅客空間における4つの位置(前部左側(運転手)、前部右側(交代運転手)、後部左側、および後部右側)において行われる。この処理の間、インパルス応答全体が4つのステップ、すなわち、まず同調されていないサウンドシステムのステップと、完全に同調されたサウンドシステムのステップと、位相(遅延線)に関してのみ同調されたサウンドシステムのステップと、レベル変化または振幅応答のそれぞれに関してのみ同調されたサウンドシステムのステップとで決定される。次に、これら全てのインパルス応答が解析される。
【0045】
測定されたインパルス応答を解析することに対しては、非常に多くの可能性がある。従って、例えば、時間領域に存在する完全なインパルス応答が、互いに比較され得るか、またはこれらのインパルス応答が、前もって適切なフィルタリングを受け、次に時間領域において互いに比較され得る。さらに、測定されたインパルス応答は、静的な周波数応答(振幅および位相の応答)、または関連する静的な群遅延応答を抽出して比較するために周波数領域に変換され得る。
【0046】
さらなる可能性は、インパルス応答の動的な特性を調査し、例えば、エネルギー減衰曲線、位相の減衰曲線、または群遅延の減衰曲線によってこれらを評価することである。さらなる可能性は、調査の間、インパルス応答の最小位相成分(時間のオフセットを有していない成分)だけに集中すること、またはインパルス応答のオールパスを含む成分(周波数依存の位相シフトを有する成分)だけを考慮することである。述べられた例は、調査のバリエーションの可能な範囲から一部を表すだけである。
【0047】
まず、インパルス応答の評価および解析の最良の結果に対する基準を表す解析方法を選択することが、調査のさらなる焦点であった。測定されたインパルス応答の非常に多くの様々な解析を使用して調べた後、次に、エネルギー減衰曲線が、解析方法として選択された。
【0048】
さらに、インパルス応答は、サウンドシステムに対する励起信号として使用される単一の正弦波パルスを用いて動的特性に対してさらに調査され、該正弦波パルスの周波数は、音響心理学的バークスケールに従って徐々に増加された。この方法(所謂Liberatoreの方法)において、人間の耳の音響心理学的特性、特に、人間の耳の周波数依存の統合特性が利用される。これに関連して、音響心理学的聴覚をモデリングする開始地点は、人間の耳、特に内耳の基本的な特性である。人間の内耳は、所謂「側頭骨」に嵌められており、圧縮不可能なリンパ液で満たされている。内耳は、約2.5回の巻きを有する巻貝(蝸牛)の形状を有する。次に、蝸牛は、平行な管から成り、上側および下側の管は、基底膜によって分離されている。この基底膜の上に、コルチ器官が、耳の感覚細胞と共に位置されている。基底膜が、音刺激によって振動させられる場合には、所謂進行波が形成される。つまり、波節、または波腹が生じない。このように、可聴処理に対して決定を行っている効果が生成され、基底膜における所謂周波数/位置の変換が、例えば、音響心理学的マスキング効果と耳の正確な周波数選択性とを説明する。
【0049】
人間の耳は、限定された周波数帯域の範囲内にある様々な音の刺激を組み合わせる(統合機能)。これらの周波数帯域は、臨界帯域と呼ばれるか、または臨界帯域幅CBとも呼ばれる。人間の耳が、これらの音によって生成された音響心理学的聴覚に関して、特定の周波数帯において生じる音を組み合わせ、共同(joint)聴覚を形成する基準を、臨界帯域幅は有する。臨界帯域の範囲内に配置する音の発生は、異なる臨界帯域において生じる音とは異なるように互いに影響する。例えば、1つの臨界帯域の範囲内で同じレベルを有する2つのトーンは、それらが異なる臨界帯域に配置されているときよりも素早く知覚される。
【0050】
エネルギーが同じであり、マスカーが、中心周波数としてテストトーンの周波数を有する周波数帯域にあるときには、マスカーの範囲内のテストトーンは聞き取られ得るので、臨界周波数の必要とされる帯域幅が決定され得る。低周波数において、臨界帯域幅は、100Hzの帯域幅を有する。500Hzを上回る周波数において、臨界帯域幅は、それぞれの臨界帯域の中心周波数の約20%の帯域幅を有する(Zwicker,E.;Fastl、H. Psychoacostics−Facts and Models、第2版、Springer−Verlag、Berlin/Heidelberg/New York、1999年)。
【0051】
全可聴領域にわたって臨界帯域を一列に並べることによって、聴覚指向の非線形の周波数尺度が獲得され、該周波数尺度は、臨界帯域率尺度(音質)と呼ばれ、単位「バーク」を有する。臨界帯域があらゆる位置において正確に1バークの同じ幅を有するように、バークは周波数軸の歪曲された尺度を表す。周波数と臨界帯域率尺度との非線形の関係は、基底膜における周波数/位置の変換に根差す。臨界帯域率尺度の関数は、マスキング閾値と音量との調査に基づいて、Zwickerによって表の形式で表された(Zwicker,E.;Fastl、H. Psychoacostics−Facts and Models、第2版、Springer−Verlag、Berlin/Heidelberg/New York、1999年を参照されたい)。0kHzから16kHzの可聴周波数帯において、丁度24個の臨界帯域が一列に並べられ得、その結果、関連する臨界帯域率尺度は、0バークから24バークとなる。
【0052】
上に述べられたLiberatoreの方法の用途に対して、これは、正弦波パルスによるサウンドシステムの励起が約20Hzで開始し、対応するように増加され、各場合において一時停止が続くということを意味する。これに続いて、正弦波パルスは、解析されるそれぞれのインパルス応答を用いてたたみ込みされ、その結果として、エネルギー減衰曲線と同様な結果が再び達成され、自動車の旅客空間におけるサウンドシステムの行動のさらに透徹した解析を可能にする。
【0053】
上に記述されたエネルギー減衰曲線によって達成された結果が、すなわち、同調されていないサウンドシステムのステップと、完全に同調されたサウンドシステムのステップと、位相(遅延線、クロスオーバフィルタ)に関してのみ同調されたサウンドシステムのステップと、レベル変化または振幅応答の調査下にあるリムジンのそれぞれ(4乗べきフィルタ、双線形フィルタ)に関して、音響技師またはサウンドエンジニアによって手動で同調されただけのサウンドシステムのステップとの4つのステップで測定されたインパルス応答全体に対して最初に示されている。これらのエネルギー減衰曲線が図1に3次元図で表されている。
【0054】
図1に示されている曲線は、調査されるべき聴覚立体感と音質とについての聴覚に関する音声周波数の決定部分範囲を表すので、図1に示されている曲線は、最大でf=2kHzの周波数領域の範囲内だけである。時間を伴う3次元表示の範囲は、この時間の後に、パルスによって励起された、サウンドシステムの任意の信号が、インパルス応答が調査されるべき聴覚立体感と音質とについての聴覚に関してさらなる寄与を提供しない程度まで、車両の内部空間において減衰されることを想定されているので、時間を伴う3次元表示の範囲は、約t=280msに制限されている。
【0055】
図1は、決定されたエネルギー減衰曲線(EDC)の4つの3次元表示を含む。4つ全ての表示において、Y軸は、対応する正弦波パルスが生じさせる後の、msにおける時間を示し、X軸は、この時点における各場合において測定されたレベルを示し、Z軸は、それぞれの正弦波パルスの周波数を示し、該周波数は、これらの表示において高周波から低周波に向けてZ軸に沿って描かれている。さらに、Hで印を付けられた範囲は、高位の測定されたレベルを表し、Lで印を付けられた範囲は、低位の測定された範囲を示す。高位のレベル(H)から低位のレベル(L)への転移が、T1およびT2によって識別される。図1の上部左側の表示は、最初に同調されておらず、以下において線形セットとも呼ばれる、車両のサウンドシステムに対するエネルギー減衰曲線を示す。図1の上部右側の表示は、位相(遅延線、クロスオーバフィルタ)に関して同調された、車両のサウンドシステムに対するエネルギー減衰曲線を示し、使用される調節は、以下において遅延セットとも呼ばれる。図1の下部左側の表示は、さらなるステップにおいてレベル変化または振幅応答の(4乗べきフィルタ、双線形フィルタ)それぞれに関してさらに同調された、車両のサウンドシステムに対するエネルギー減衰曲線を示し、使用される調節は、以下においてフィルタセットとも呼ばれる。最後に、図1の下部右側の表示は、上に記述された相互的方法で完全に同調された、車両のサウンドシステムに対するエネルギー減衰曲線を示し、この反復処理は、サウンドシステムの最終的な調節を達成するために、4乗べきフィルタおよび双線形フィルタと、遅延線およびクロスオーバフィルタとの両方に交互に戻ることを包含する。この処理の間に使用される調節は、以下において同調セットとも呼ばれる。
【0056】
最初に同調されていないサウンドシステムに対する車両の内部空間におけるインパルス応答のエネルギー減衰曲線から、直接音は強い変動を示し、反響は、様々な周波数帯域において、長くかつエネルギーが豊富であることが、図1の上部左側に見られ得る。サウンドシステムの同調は、通常、クロスオーバフィルタと遅延線とを同調することで始まる。経験によれば、これは、サウンドシステムを同調する際における最も時間がかかりかつ困難な作業を意味する。クロスオーバフィルタと遅延線とが、車両内のサウンドシステムの位相の調節のために調節された後、本事例においては、インパルス応答が測定され、インパルス応答のエネルギー減衰曲線が上部右側に示されている(遅延セット)。経験を積んだ音響技師によって手動で行われる遅延同調(位相の調節)は、主に、聴覚立体感および音質に対する所望の音印象に近づくために、反響を最小化することが明確に見られ得る。
【0057】
図1の下部左側に示されている曲線は、等化フィルタ(4乗べきフィルタおよび双曲線フィルタ)が、さらなる反復のステップではないステップにおけるクロスオーバフィルタと遅延線とに加えて、手動で同調された場合(フィルタセット)に対する、サウンドシステムのエネルギー減衰曲線である。振幅応答の良好な等化は、車両空間の室内の音響効果の共振により段々生じる個々の空間モードの減少と、こうして本質的に音質を改善する、直接音の一定の平滑化とをもたらすことが見られ得る。
【0058】
図1の最後の表示のような、下部右側の画像は、完全に同調された車両のエネルギー減衰曲線を示す(同調セット)。この場合において、上に記述された手順の反復、つまり、聴覚立体感と音質との聴覚に対する所望の音響効果に関してサウンドシステムの最終的な調節を達成するために、特に、4乗べきフィルタおよび双線形フィルタと、遅延線およびクロスオーバフィルタとの両方を繰り返し交互に同調することが、ここで、サウンドシステムの成分の同調の際に使用される。これに関連して、図1の下部右側における表示から、行われた調節が、ここで、位相同調の結果と振幅同調の結果との間に一種の妥協をもたらすことが見られ得る。一方において、反響は、最早、純粋な遅延同調(位相)におけるほど抑制されず、もう一方において、一部の空間モードが、再び、純粋なフィルタ同調(振幅同調)における場合よりもわずかに強調される。
【0059】
サウンドシステムの同調のさらなる特質が、この種の表示からより良好に見られ得るので、関係を例示するために、サウンドシステムの3次元のインパルス応答の正面図が、さらなる種類の表示として図2に選ばれている。図2に従った全ての表示において、X軸は、Hzでの正弦波パルスの周波数を示し、Y軸は、正弦波パルスの提示の終了後の時間を示す。さらに、Hで印を付けられた範囲は、やはり高位の測定されたレベルを表示し、Lで示された範囲は、低位の測定されたレベルを表示する。高位レベル(H)から低位レベル(L)への転移は、T1およびT2によって識別される。図2は、やはり、同調されていないサウンドシステムの場合に対する調査において使用されたサウンドシステム(線形セット、上部左側)と、位相に関して同調されたサウンドシステム(遅延セット、上部右側)と、振幅応答に関してさらに同調されたサウンドシステム(フィルタセット、下部左側)と、反復的な方法によって完全に同調されたサウンドシステム(同調セット、下部右側)との測定されたインパルス応答のエネルギー減衰曲線の表示を含む。
【0060】
図2から、例えば、良好に行われた遅延同調(位相)でさえ、低周波数における反響時間に全く影響を有さないか、またはほんのわずかに影響を有するだけであり、反響の持続期間は、低周波数から高周波数に向けてほぼ指数関数的に減少することが、上部右側の画像に見られ得る。さらに、振幅応答の等化(図2の下部左側における画像)が、車両の同調されていないサウンドシステム(図2の上部左側における画像)と比較して、個々の空間モードをそれぞれ明確に減少すること、または抑制することがどのように可能であるかが、図2におけるこの種の表示から容易に見られ得る。さらに、図1における表示と同様に、一部の空間モードが、再びより強調され、そして反響は、完全かつ相互に影響し合って同調された、車両のサウンドシステムにおける位相の最適な調節と振幅応答との間の妥協に基づいて、クロスオーバフィルタと遅延線とだけが位相に関して同調された今までどおりの場合(遅延セット)よりも、中心周波数帯域において部分的にずっとより強力になることが見られ得る。
【0061】
自動車におけるサウンドシステムの同調の際の音響技師の経験から既に分かっているように、振幅応答の良好な等化は、主に音質を改善し、良好な遅延同調は、主に聴覚立体感を改善する。振幅応答の同調に関する質的影響は、既に、このようになること、すなわち、伝達関数全体の平滑化と一部の特に顕著な空間モードの減少とを最初から期待されている。しかしながら、この形においてはまだ分かっていない実質的な結果が、遅延同調と振幅応答の等化との相互影響によって表される。
【0062】
従って、例えば、位相を最適化することに対する遅延同調は、同時に、遅延同調と同時に無条件に行われる振幅応答の等化を表す、測定された旅客空間における励起エネルギーの変位をもたらすことが、調査から見られ得る。多数の範囲において、これは、音印象に関する改善として、従って望ましいものとして現れ得るが、他の範囲においては、対照的に、劣化として、従って望ましくないものとして現れ得る。さらに、周波数に関する測定されたインパルス応答のエネルギーのこの変位は、先においては生じなかった一部の新たな空間モードの励起をもたらすが、同時に、先においてはより顕著であった他の空間モードの弱体化ももたらす。
【0063】
上記の望ましい効果とは別に、パラメトリックフィルタによる、振幅応答の等化は、一部の否定的な、従って望まれない結果をもたらす。なぜならば、必要とされる振幅応答を同調するこれらのフィルタは、同時に、位相応答を有しており、該位相応答は、同調処理において制御不能であり、かつ、遅延線によって先に行われた位相同調に否定的な効果を有し、従って反響エネルギーの増加、または別に聴覚立体感における減少をもたらすからである。しかしながら、同時に、最適に行われた位相同調または遅延同調の後であっても、非常に長い反響時間が、妥当な周波数領域内において依然として示されるので、非常に低い周波数における長い反響時間は、明らかに、空間的認識に否定的な効果を全く有さないことを調査が示した。
【0064】
行われた調査の解析から、サウンドシステムの同調において、遅延同調が完全に終了した後に、振幅応答は等化されるだけであるべきことが導き出され得る。なぜならば、遅延同調は、空間モードの周波数における励起の変位に寄与し、その結果、全体的な結果として生じる等化全体のさらなる調節の変更をもたらすからである。従って、振幅応答を同調することが、遅延同調の後に残っている空間モードに排他的に適用され、かつ、ラウドスピーカの周波数応答の等化とラウドスピーカの設置とに対して排他的に適用される。
【0065】
先に達成された位相同調の結果、従って空間画像と、同調されたサウンドシステムによって再生成された音声信号のステージとが、影響されないままであるように、ゼロ位相フィルタまたは線形位相フィルタを用いた振幅応答の同調を実装することがまた望ましい。しかしながら、同時に、ゼロ位相フィルタは空間領域においてのみ実装され得る。線形位相フィルタは、サウンドシステムの全チャンネルに対して軸方向に対称的な同調を呈し、一定の位相オフセットが生成されるような種類のものであり得る。
【0066】
これは、振幅応答の等化が、位相同調に望ましくない影響を全く有さずに達成することを可能にし、従って、これは独立して考慮され得る。このことは、同調処理全体を非常に簡略化する。なぜならば、このような処置は、位相同調と振幅同調との間の相互依存または相互影響を排除するからである。位相同調は、調査において記述されたように、クロスオーバフィルタと遅延線との同調を組み合わせることによってのみ実装される。
【0067】
さらに、サウンドシステムの同調を行う音響技師が、遅延線または遅延線に対する補足の代わりに、周波数全体にわたる任意の位相シフト(調節可能な群遅延)を調節する可能性を提供される場合に、さらに改善された結果が達成され得る。これは、反響のより良好な抑制を達成し、従って、特に、低周波数の範囲におけるより良好なステージを達成することを可能にし、遅延線を同調することによって既に達成された結果が、さらに改善され得る。
【0068】
反響の抑制における、クロスオーバフィルタの影響をさらに調査するために、遅延線だけに限られた同調を用いた測定、つまり、クロスオーバフィルタを同時に用いることのない測定が、図1および図2に示された測定とは別に、さらに行われた。関連する測定結果が、図3に示されており、位相同調におけるクロスオーバフィルタの影響が非常に明確に示されている。
【0069】
図3は、左側の表示において、図1と同様な正弦波パルスに対する測定されたエネルギー減衰曲線の3次元図を再び示しており、右側の表示において、図2の表示と同様な、この3次元表示の正面図を示している。図1および図2の上部右側の対応する表示と比較すると、図3における表示は、クロスオーバフィルタが同時になされる同調を用いないと、反響が、特定の周波数領域において、部分的にかなり増加されていることを明確に示す。これは、反響エネルギーにおける顕著な減少をもたらすものは、クロスオーバフィルタと遅延線とを同調することの組み合わせだけであることを示す。共同同調が反響エネルギーのかなりの減少をもたらす要因は、主に、クロスオーバフィルタの位相応答であるのか、または対応するラウドスピーカに対するクロスオーバフィルタの選択的な効果であるのかを、明確にすることが残されている。
【0070】
振幅応答を等化するために使用されるフィルタの位相応答の影響は、図1および図2の対応する表示から既に分かっており、クロスオーバフィルタを同調することによる影響と同様な大きさの範囲内で動く。クロスオーバフィルタの正しい設定が、同調の良好な結果、特に、良好な聴覚立体感を形成することに対して非常に重要であることが、図3を参照して示された調査結果から明らかに見られ得る。
【0071】
これに関連して、なぜ、音響事象の空間認識または空間局所限定が、反響時間または反響エネルギーそれぞれの減少の形式に非常に依存しているのかという疑問が生じる。この問題は、これは、所謂ハース効果によって説明され得る。特に最初の反射が、いつ、どのような振幅で、これらの反射が、調査位置に到着するかに依存して、空間認識の改善だけでなく減損をももたらすことを、ハースは測定した。ハースによる調査の結果によると、第1の反射が非常に早く(直接音の約10〜20ミリ秒後に)到着し、さらに、高い振幅を有するときにはいつでも、乏しい空間認識しか獲得されない。
【0072】
両方の条件が、通常、自動車の旅客空間において遭遇される。このことが、空間認識が、車両において常に乏しく、エネルギーの豊富な最初の反射ができる限り早く減衰するか、またはこれらの反射が非常に減衰される場合にだけ改善され得ることの理由である。これは、反射の減衰が位相同調によって行われることを必要とする。なぜならば、サウンドシステムの音響信号源を表す個々のラウドスピーカが、音声事象の合計が、わずかな反響だけをもたらすように、必要に応じて、関連のある位置に重ね合わされるように、ここで遅延され得るからである。
【0073】
これに関連して、なぜ、低周波領域において高く、高周波数に向かって減少する反響時間が、空間認識に否定的な効果を有さないのかという疑問がまた生じる。この疑問は、私たちの耳の生理機能、特に、内耳の基底膜の動作によって答えられ得る。基底膜は、一端において鼓膜に付着され、それから蝸牛の中に巻き上げられている。鼓膜から始まって、基底膜は厚さが減少する。鼓膜に付着される基底膜の厚い側の端において、基底膜は、進行波の形式の高周波によって振動され、基底膜の薄い側の端に近づくにつれて、低周波によって振動される。基底膜における周波数の分布は、さらに上で示されたバークスケールに対応する。
【0074】
次に、基底膜が、鼓膜を経由した音刺激によって励起された場合には、音刺激の周波数要素に対応する進行波の形式で、基底膜の範囲に沿った異なる位置において機械的に振動される。振動が励起されると、振動は(鼓膜に近い)厚い前端において急速に減衰し、基底膜の薄い後端において比較的遅く減衰する。音刺激が、基底膜の同じ範囲に関連し、かつ、一定のレベルを下回るときに、この減衰処理は、この処理が知覚されない間に、基底膜の振動範囲にさらに到着する音刺激をもたらす(従って、例えば、サウンドシステムの同調の間に考慮に入れる必要はない)。この効果は、音響心理学において述べられており、マスキングと呼ばれる。
【0075】
マスキング効果が全ての人間の耳に対して決定され得るということを、様々な調査が示している(例えば、Moor、B.C.J:An Introduction to the Psychology of Hearing、Academic、London、1992年、およびZwicker、E.:Psychoacoustics、Springer Verlag、Berlin Heidelberg、1990年を参照)。他の音響心理学的知覚とは対照的に、個々の差がほとんど明確ではなく、無視され得、その結果、マスキングの概ね有効な音響心理学的モデルが導き出され得る。本事例において、マスキングの音響心理学的な局面が、例えば、必要に応じてサウンドシステムを同調するための関連する技術的消費を不必要に増加させることなく、空間モードまたは反響の必要な減少のために有意義な仕様を達成するために適用される。さらに、これらのマスキング効果は、特に、サウンドシステムの少なくとも部分的には自動化された同調に対する必要なパラメータを決定するためにも使用される。
【0076】
マスキングの音響心理学的効果において、マスキング閾値の様々な変化をもたらす、マスキングの2つの重要な形式の間で区別が行われる。これらは、周波数領域における同時マスキングと、時間領域における時間的マスキングとである。さらに、これらの2つの種類のマスキングの混合された形式が、環境のノイズまたは音楽などの信号において生じる。
【0077】
同時マスキングの場合において、マスキング音と有用な信号とが同時に生じる。この効果を調査するために、テスト信号とマスキングノイズとが、様々な年齢および性別の様々なテスト対象に提供される。マスカーの形状、帯域幅、振幅および/または周波数が、頻繁に正弦波になるテスト信号が、やっと聞き取ることができるように変更される場合には、同時マスキングに対するマスキング閾値が、可聴領域の全帯域幅にわたって、すなわち、実質的に、20Hzと20kHzとの間の周波数に対して決定され得る。
【0078】
図4は、ホワイトノイズによる正弦波のテストトーンのマスキングを示す。図4は、テストトーンの周波数に依存して、音強度1WNを有するホワイトノイズによってちょうどマスキングされるテストトーンの音強度を示しており、可聴閾値が、点線で表示されている。正弦波トーンのマスキング閾値は、ホワイトノイズによってマスキングされるときに、以下のように獲得される:500Hz未満では、正弦波トーンのマスキング閾値は、ホワイトノイズの音強度よりも約17dB上回る。500Hzを上回ると、マスキング閾値は、周波数が2倍になることに対応して、10毎に約10dB、またはそれぞれ1オクターブ毎に約3dB上昇する。
【0079】
マスキング閾値の周波数依存性は、様々な中心周波数における耳の様々な臨界帯域幅(CB)から獲得される。臨界帯域にある音強度が、知覚された聴覚に組み合わされるので、より高い全体的強度が、周波数とは関係のないレベルのホワイトノイズを有するより広い周波数帯域におけるより高い周波数において獲得される。従って、音のラウドネス、すなわち、知覚された音強度がまた、増加され、増加されたマスキング閾値をもたらす。これは、例えば、マスカーの音圧レベルのような純粋に物理的な量は、マスキングの音響心理学的効果をモデリングするために、すなわち、音圧レベルおよび音強度のような測定量からそれぞれマスキング閾値、またはマスキングを導き出すために適切ではないが、ラウドネスNのような音響心理学的な量が使用されなければならないということを意味する。マスキング音のスペクトル分布および時間による変化がまた、これに関連して重要な役割を演じ、このことは以下の記述からも明らかになる。
【0080】
マスキング閾値が、例えば、正弦波トーンのような狭い帯域のマスカー、狭い帯域のノイズまたは臨界帯域幅のノイズに対して決定される場合には、結果としてのスペクトルのマスキング閾値はまた、可聴閾値と比較して、マスカー自体がスペクトル成分を有していない範囲において上昇されていることが分かる。使用される狭い帯域のノイズは、臨界帯域幅のノイズであり、該臨界帯域幅のノイズのレベルは、LCBと呼ばれる。
【0081】
図5は、1kHzの中心周波数fcの臨界帯域幅のノイズによって測定された正弦波トーンのマスキング閾値を、レベルLTを有するテストトーンの周波数fTに依存したマスカーおよび様々な音圧レベルとして示す。図4におけるように、可聴閾値は点線によって示されている。マスカーのレベルが20dBだけ上昇されるときには、各事例においてマスキング閾値のピークがまた、20dBだけ上昇し、従って、マスキングピーク値は、臨界帯域幅のマスキングノイズのレベルLCBに直線的に依存することが、図5から見られ得る。測定されたマスキング閾値の下側の縁、すなわち、中心周波数fcを下回る低周波数の方向に延びるマスキングは、マスカーのレベルLCBとは関係のない約100dB/オクターブの勾配を有する。
【0082】
マスキング閾値の上側の縁において、この大きな勾配は、40dBを下回るマスカーのレベルLCBに対して達成されるだけである。マスカーのレベルLCBが増加するにつれて、マスキング閾値の上側の縁は、段々と平坦になり、勾配は、LCB100dBにおいて、約−25dB/オクターブになる。これは、マスカーの中心周波数fcに対してより高い周波数の方向に延びるマスキングは、マスキング音が存在する周波数帯域をはるかに超えて延びるということを意味する。耳は、狭い帯域の臨界帯域幅のノイズに対する1kHz以外の中心周波数おいて同様に振舞う。マスキング閾値の上側の縁と下側の縁との勾配は、図6から見られ得るように、マスカーの中心周波数にほとんど関係がない。
【0083】
図6は、60dBのレベルLCBと250Hz、1kHz、および4kHzの3つの異なる中心周波数とを有する、狭い帯域の臨界帯域幅のノイズからのマスカーに対するマスキング閾値を示す。250Hzの中心周波数を有するマスカーに対する下側の縁の勾配の明らかにより平坦な進行は、可聴閾値への変位によってもたらされており、該可聴閾値は、既に、この低い周波数におけるより高いレベルにある。示されたもののような効果がまた、マスキングの音響心理学的モデルの実装において含まれる。可聴閾値は再び、図6において点線によって示されている。正弦波のテストトーンが、1kHzの周波数の別の正弦波トーンによってマスキングされる場合には、図7に示されたようなマスキング閾値が、テストトーンの周波数とマスカーLMのレベルとに従って獲得される。既に記述したように、マスカーのレベルに依存した上側の縁の所謂扇形の開きが明確に見られ得るが、マスキング閾値の下側の縁は、周波数とレベルとにほとんど関係がない。上側の勾配に対して、マスカーのレベルに依存して、約−100dB/オクターブ〜−25dB/オクターブが獲得され、約−100dB/オクターブが、下側の勾配に対して獲得される。
【0084】
マスキングトーンのレベルLMとマスキング閾値LTのピークとの間で、約12dBの差が獲得され、約12dBの差は、マスカーとしての臨界帯域幅のノイズを有する差よりも非常に大きい。これは、マスカーの2つの正弦波トーンの強度と、同じ周波数におけるテストトーンの強度とが、ノイズおよびテストトーンとしての正弦波トーンとは対照的に加えられ、結果として、ずっとより早く知覚され、すなわち、テストトーンに対するより低いレベルにおいて知覚されるという事実によるものである。さらに、増加された知覚可能性または減少されたマスキングそれぞれをまたもたらすさらなるトーン、例えば、うなりが、2つの正弦波トーンの同時提示をもたらす。
【0085】
記述された同時マスキングとは別に、マスキングのさらなる音響心理学的効果、所謂時間的マスキングが存在する。2つの種類の時間的マスキングの間で、区別が行われる。プレマスキングは、マスカーがオンに切り換えられる前においてさえ、マスキング効果が生じる状況を指す。ポストマスキングは、マスカーがオフに切り換えられた後に、マスキング閾値が、可聴閾値にすぐには降下しないという効果である。プレマスキングとポストマスキングとが、図8に概略的に示されており、音パルスのマスキング効果と関連して以下でさらに詳細に述べられる。
【0086】
時間的なプレマスキングとポストマスキングとの効果を決定するために、短い持続期間のテストトーンパルスが、マスキング効果の対応する時間分解を達成するために使用されなければならない。可聴閾値とマスキング閾値との両方が、テストトーンの持続期間に依存している。さらに、2つの異なる効果が公知である。これらは、テストパルスの持続期間に関するラウドネス知覚の依存性(図9を参照)と、短いトーンパルスの反復率とラウドネス知覚との間の関係(図10を参照)とである。20msの持続期間のパルスの音圧レベルが、同一の音強度感覚を誘発するために、持続期間200msのパルスの音圧レベルと比較して、10dBだけ増加されなければならない。200msを上回るパルスの持続期間においては、トーンパルスのラウドネスは、持続期間に関係がない。約200msを上回る持続期間を有する処理は、人間の耳にとって、定常処理を表す。これらの音が約200msよりも短いときには、音の時間構造の音響心理学的に証明可能な効果が存在する。
【0087】
図9は、持続期間におけるテストトーンパルスの知覚の依存性を示す。点線は、持続期間に依存して、200Hz、1kHzおよび4kHzの周波数fT-に対するテストトーンパルスの可聴閾値TQを示しており、これらの可聴閾値は、200msを下回るテストトーンの持続期間の間、10毎に約10dB上昇する。この性質は、テストトーンの周波数とは関係なく、テストトーンの異なる周波数fTに対する線の絶対的な位置は、これらの異なる周波数における異なる可聴閾値を反映する。
【0088】
実線は、40dBおよび60dBのレベルLUMNを有する一様なマスキングノイズによって、テストトーンがマスキングされたときの、マスキング閾値を表す。一様なマスキングノイズが、全可聴領域の範囲内、すなわち、0バーク〜24バークの臨界帯域全体にわたって、一定のマスキング閾値を有するように、一様なマスキングノイズは定義され、これは、示されたマスキング閾値の変化は、テストトーンの周波数fTに関係がないことを意味する。可聴閾値TQと丁度同じように、マスキング閾値はまた、200msを下回るテストトーンの持続期間の間、10毎に約10dB上昇する。
【0089】
図10は、周波数3kHzと持続期間3msとを有するテストトーンパルスの反復率に関するマスキング閾値の依存性を示す。マスカーはやはり一様なマスキングノイズであり、該一様なマスキングノイズは、長方形に変調される。例えば、一様なマスキングノイズは、定期的にオンとオフを切り換えられる。一様なマスキングノイズの調査された変調周波数は、5Hz、20Hzおよび100Hzである。テストトーンは、一様なマスキングノイズの変調周波数と同一な反復率を用いて提示され、時間におけるテストトーンパルスの位置が、テストの実施の間に、変調されたノイズの時間依存のマスキング閾値を獲得するように対応して変更される。
【0090】
図10の横座標に沿って、マスカーの持続期間TMに対して標準化されたテストトーンパルスの時間による変位が示されており、縦座標は、決定されたマスキング閾値におけるテストトーンパルスのレベルを示す。点線は、変調されていないマスカー、すなわち、他の点では同一な特性の、継続的に存在するマスカーに対する基準点としてテストトーンパルスのマスキング閾値を表す。プレマスキングの縁の勾配と比較して、ポストマスキングのより少ない縁の勾配が、図10にやはり明らかに見られ得る。長方形に変調されたマスカーがオンに切り換えられた後に、短いピークがマスキング閾値から生成される。この効果はオーバーシュートと呼ばれている。マスカーの停止における変調された一様なマスキングノイズに対するマスキング閾値のレベルの最大下落ΔLは、定常一様なマスキングノイズに対するマスキング閾値と比較して、一様なマスキングノイズの変調周波数を上昇させて下落する。例えば、テストトーンパルスのマスキング閾値の時間による変化が、可聴閾値によってあらかじめ決定された最小値に向かって段々と低下し得る。
【0091】
マスカーが完全にオンに切り換えられる前に、マスカーが既にテストトーンパルスをマスキングすることが、再び図10から見られ得る。先に既に述べたように、この効果は、プレマスキングと呼ばれ、大きなトーン、例えば、高い音圧レベルを有するトーンとノイズが、より静かなトーンよりも早い時間に耳によって処理され得るという事実によるものである。プレマスキング効果は、ポストマスキング効果と比べてほとんどはっきりしておらず、従って、対応するアルゴリズムを簡略化するために、音響心理学的なモデルの適用においては無視される。マスカーがオフに切り換えられた後、可聴閾値は可聴閾値にすぐには低下しないが、約200msの期間の後に可聴閾値に到達するだけである。効果は、内耳の基底膜における進行波の減衰によって説明され得る。本調査、および本調査から開発される方法の場合において、これは、この方法でマスキングされた音声事象が、音声信号に物理的に存在するが、音声事象の音響効果に関して、音の環境の知覚された聴覚立体感と音質とに全く寄与しないことを意味する。さらに、マスカーの帯域幅はまた、ポストマスキングの持続期間に直接的な影響を有する。各個々の臨界帯域において、この臨界帯域に属するマスカーの成分が、図11および図12に対応するポストマスキングを生成する。
【0092】
図11は、500msの持続期間を有するホワイトノイズの長方形のマスカーの終了後の時間tdに提示されるテストトーンとして、20μsの持続期間を有するガウスのパルスのマスキング閾値のレベル変化LTを例示し、ホワイトノイズの音圧レベルLWRは、3つのレベル40dB、60dBおよび80dBを含む。ホワイトノイズのマスカーのポストマスキングは、スペクトルの影響がない状態で測定され得る。なぜならば、20μsの短い持続期間のガウスのテストトーンはまた、人間の耳の知覚可能な周波数領域に関して、ホワイトノイズと似た広帯域のスペクトル分布を示すからである。
【0093】
図11における実線の曲線は、測定によって獲得されたポストマスキングの進行を表しており、該曲線は、やはり、マスカーのレベルLWRとは関係がなく、約200ms後に、テストトーンの可聴閾値に対する値に到達し、該テストトーンの可聴閾値に対する値は、ここで使用される短いテストトーンに対して約40dBである。10msの時定数を有するポストマスキングの指数関数的な減衰に対応する曲線が、図11に点線で示されている。このような単純な近似だけが、大きいレベルのマスカーに対して有効であり得、可聴閾値の周辺におけるポストマスキングの進行を決して示さない。
【0094】
ポストマスキングは、マスカーの持続期間に依存している。図12において、60dBの音圧レベルLGVRと5msの持続期間TMとを有する一様なマスキングノイズから成る長方形に変調されたマスカーがオフに切り換えられた後の、持続期間5msおよび2kHzの周波数fTのガウスのテストトーンパルスのマスキング閾値が、遅延時間tdの関数として点線で示されている。実線は、テストトーンパルスと一様なマスキングノイズとに対して他の点では同一であるパラメータを有する、200msの持続期間TMのマスカーに対するマスキング閾値である。
【0095】
200msの持続期間TMのマスカーに対して決定されたポストマスキングは、200msよりも長い持続期間TMの、他の点では同一であるパラメータを有する全てのマスカーに対しても見られるポストマスキングに対応する。より短い持続期間であるが、他の点では同一であるパラメータ(例えば、スペクトルの成分およびレベル)のマスカーに対して、マスカーの5msの持続期間TMに対するマスキング閾値の変化から見られ得るように、ポストマスキング効果は減少させられる。マスキングの音響心理学的モデリングのようなアルゴリズムおよび方法における音響心理学的マスキング効果を利用することはまた、複合的な複雑なマスカー、または追加的に重ね合わされたいくつかの個々のマスカーの場合に、結果としてのどのマスキングが獲得されるかということに関する知識を必要とする。
【0096】
多数のマスカーが同時に生じたときに、同時マスキングが存在する。ごくわずかな現実の音が、正弦波トーンのような純粋な音と比較可能である。例えば、ボイス信号を除いた楽器から発せられたトーンはまた、概して、比較的に多くの数の高調波を備えている。部分的なトーンのレベルの成分に依存して、結果としてのマスキング閾値は大きく異なって形成され得る。
【0097】
図13は、複合的な音よる同時マスキング、すなわち、励起の周波数とレベルとに依存した、周波数200Hzの正弦波トーンの10個の高調波による正弦波のテストトーンの同時マスキングに対するマスキング閾値を示す。全ての高調波は、同じ音圧レベルを有するが、それらの位相角は統計的に分布されている。図13は、各場合における部分的なトーンの全レベルがそれぞれ40dBと60dBとである2つの場合に対する、結果としてのマスキング閾値を示す。基準トーンと第1の4個の高調波とが、異なる臨界帯域においてそれぞれ分離される。従って、マスキング閾値のピークに対する、これらの複合的な音の成分のマスキング成分の追加的な重ね合わせはない。
【0098】
しかしながら、上側の縁と下側の縁との重ね合わせと、マスキング効果の追加による結果としての下降とが明らかに見られ得、その下降は、最低点においてさえも、依然として明らかに可聴閾値を上回っている。対照的に、上側の高調波は、人間の耳の臨界帯域幅の範囲内で増加するように配置されている。この臨界帯域幅において、個々のマスキング閾値の明らかに強固で追加的な重ね合わせがある。結果として、同時マスカーの追加は、マスカーの強度を加算することによっては計算され得ないが、その代わりに、マスキングの音響心理学的モデルを記述するために、個々の特定のラウドネスを加算することによって、獲得されなければならない。
【0099】
時間変動信号の音声信号スペクトルから励起の分布を形成するために、この場合に対して知られる、正弦波トーンのマスキング閾値の変化が、狭帯域ノイズによるマスキングの基準として使用される。中心の励起(臨界帯域の範囲内)と縁の励起(臨界帯域の外側)との間で、区別が行われる。例えば、正弦波トーンの音響心理学的な中心の励起、または臨界帯域幅を下回る帯域幅を有する狭帯域ノイズの音響心理学的な中心の励起は、物理的な音の強度に等しい。そうでなければ、音スペクトルによって含まれる臨界帯域に対する対応する配分が行われる。このように、受信する時間変動ノイズの強度密度スペクトルから、音響心理学的な励起の分布が形成される。音響心理学的な励起の分布は、特定ラウドネスと呼ばれている。複合的な音声信号の場合において、結果としての全ラウドネスは、臨界帯域の範囲尺度に沿った可聴領域、すなわち、0バークから24バークの範囲内の全音響心理学的な励起の特定ラウドネスに対する積分であり、対応する時間による変化も示す。この全ラウドネスから、次に、マスキング閾値が、ラウドネスとマスキングとの間の既知の関係に基づいて形成され、時間効果の考慮の下、このマスキング閾値は、それぞれの臨界帯域の範囲内の音の終了後約200ms以内に、可聴閾値に減衰する(図11、ポストマスキングをまた参照)。
【0100】
このように、本明細書において使用される音響心理学的マスキングモデルは、上記の一部または全てのマスキング効果の考慮によって達成される。上記の図面と説明とから、どのマスキング効果が、提示された音声信号の音圧レベルと、スペクトル成分と、時間による変化とによって生成されるか、およびどのように、これらのマスキング効果が、サウンドシステムの同調における物理的な量を調節するために必要なパラメータを導き出すために利用され得るかが見られ得る。目的は、例えば、反響時間を減少させるために、マスキング効果によって、人間の耳に必要である程度にまで消耗を減少させることである。上に記述された内耳の基底膜の生理機能によって、記述されたポストマスキングは、低い周波数において比較的長い期間にわたり行われ、より高周波数に向かって段々と減少する。上で挙げられた、反響の様々な効果に関する疑問はまた、ポストマスキングの周波数依存性に関する音響心理学的効果で答えられ得る。さらなる進行において、マスキングの知識がまた、自動車におけるサウンドシステムの少なくとも部分的な自動同調を行うために適切な仕様を定義するために使用される。
【0101】
さらに、変調の程度に関する音質の依存性がまた調査された。ここで、変調の程度は、周波数に対する、直接音の振幅の変動である。変調の程度が小さい場合、すなわち、周波数に対する振幅の差が小さい場合に、有用な信号のほんのわずかな劣化(discoloration)あり、結果として、音質もまた改善される。なぜならば、サウンドシステムを経由して提供される音が、大いにより自然な音印象を提供するからである。上に述べられたように、これに関連するさらなる発見が、Liberatoreらに従った解析方法によって、インパルス応答から、特に動的な性質に関して獲得され得、該解析方法の一部が、以下の文章に示される。
【0102】
図14は、500Hzの一定の周波数において、サウンドシステムによって伝達された正弦波パルスの、時間による変化を示す。図14は、同調されていないサウンドシステム(線形セット、上部左側)と、位相に関して同調されたサウンドシステム(遅延セット、上部右側)と、振幅応答に関してさらに同調されたサウンドシステム(フィルタセット、下部左側)と、反復的な方法で完全に同調されたサウンドシステム(同調セット、下部右側)との場合に対して測定された正弦波パルスの表示を含む。各場合における、図14に従った4つの表示の横座標は、msで時間を示し、各場合における、図14に従った4つの表示の縦座標は、線形の表示において測定された振幅を示す。正弦波パルスの提示の間と、約320msの時間の後の、正弦波パルスがオフに切り換えられた後(減衰性質)とが明確に区別され得る。
【0103】
図14から、遅延同調は、主に、線形同調と比較して、必要に応じて、遅延特性が近似であり、それ以上により高い周波数成分をほとんど有さない程度にまで、応答特性と遅延特性とを改善することが上部右側における表示に見られ得る。さらに、さらなるオーバーシュートは、線形同調(図14の上部左側)と比較して、応答特性に見られ得ない。線形同調における正弦波パルスの開始のわずか後のこのオーバーシュートは、最初に、直接音が存在し、次に、最初の反射が破壊的な干渉(部分的減衰)をもたらすという事実によるものである。結果として、正弦波パルスの開始のわずかに後に、振幅は、可能な最大値よりも低い値に非常に急激に降下する。
【0104】
線形同調と比較して、図14の下部左側に従った振幅応答の同調は、正弦波パルスの定常にされた状態の間の変調の程度の減少をもたらす。図14の上部右側に従った遅延同調後の結果とは対照的に、応答特性および遅延特性が、図14の上部左側に従った線形同調と比較して、ほんのわずかに改善されるだけである。サウンドシステムの完全に反復された同調の後、先に述べられた、遅延同調(位相)と振幅応答の同調(等化)との間の非理想的な妥協が、再び見られ得る(図14下部右側)。線形同調(図14上部左側)と比較して、変調の程度は、顕著に減少されるが、応答特性と減衰特性とは、ほとんど改善されないか、またはわずかに改善されるだけである。
【0105】
図15は、図14に従った正弦波パルスの時間による変化から、対応する解析によって獲得されたスペクトログラムの時間による変化を示す。図15は、車両の内部空間において測定され、かつ、同調されていないサウンドシステム(線形セット、上部左側)と、位相に関して同調されたサウンドシステム(遅延セット、上部右側)と、振幅応答に関してさらに同調されたサウンドシステム(フィルタセット、下部左側)と、反復的な方法で完全に同調されたサウンドシステム(同調セット、下部右側)との場合に対して、サウンドシステムによって再現された正弦波パルスのスペクトログラム表示を含む。やはり、時間は、図15に従った4つ全ての表示の横座標に沿ってmsで描かれており、図15に従った4つの表示の縦座標は、一様な尺度においてHzで周波数を示す。範囲HLは、測定された高い音圧レベルを示し(約320msの期間の間の500Hzにおける明確な振幅を参照)、範囲LLは、やはり、測定された低い音圧レベルを示す。
【0106】
先に述べられた変調の程度は、この種の表示においては不適切であるとしてのみ見られ得るが、位相の同調の効果(遅延セット)は、非常に明確に見られ得る。図15の上部右側(遅延セット)におけるレベルの一様な変化に見られ得るように、位相の同調は、線形同調(図15上部左側)と比較して、500Hzの非常に明確な基準周波数とは別に、正弦波パルスのスペクトルにおける周波数成分の非常に一様な分布をもたらす。これは、線形同調とは異なり、程度の強い変調を示す顕著なピークが、遅延同調の後に、考慮された周波数領域のうちの任意のものにおいて生じないことを意味する。音響心理学からの発見を考慮に入れて、等化を行うときに、正弦波パルスの時間による変化におけるピークに参照が行われるが、定常な最終的な値または絶対値の平均それぞれには参照が行われない場合に、それは有利であることがまた分かった。
【0107】
図16は、各場合において500Hzの正弦波パルスを用いて決定された、調査されたサウンドシステムの伝達関数を示しており、該500Hzの正弦波パルスは、測定された周波数領域を上回る周波数で分布されており、測定された周波数領域は、やはり、聴覚立体感と音質とに関して聴覚に対して決定された範囲(本事例においては最大で2kHzをわずかに上回る)に制限される。図16の表示において、使用される正弦波パルスの周波数は、各場合において、横座標に沿って対数的な表示で描かれており、測定位置において決定された関連する振幅が縦座標に沿ってdBで描かれている。さらに、測定された振幅の3つの異なる評価が、図16の4つの図における各場合において示された3つの伝達関数を獲得するために、この一連の測定において行われている。これらは、提示された正弦波パルスの上で述べられたピーク値(図16におけるHL曲線、パルスのピーク値を参照)と、正弦波パルスがオフに切り換えられた後の25msの時間で決定されたそれぞれのレベル値(図16の曲線TL、25ms後のパルスの減衰値を参照)とを提示された正弦波パルスの持続期間にわたり形成された正弦波パルスの絶対平均値(図16におけるLL曲線、パルス平均値を参照)である。平均の計算のために、約320msであるパルスの全長が使用される。25ms後のこのパルスの減衰値は、この時点における、正弦波パルスによって励起されたサウンドシステムの減衰の性質の基準を表す。図16は、再び、車両の内部空間において測定され、かつ、同調されていないサウンドシステム(線形セット、上部左側)と、位相に関して同調されたサウンドシステム(遅延セット、上部右側)と、振幅応答に関してさらに同調されたサウンドシステム(フィルタセット、下部左側)と、反復的な方法で完全に同調されたサウンドシステム(同調セット、下部右側)との場合に対して、サウンドシステムによって再現された正弦波パルスの伝達関数の表示を含む。図16に従った4つの表示の横座標は、各場合において、対数的尺度において正弦波パルスの周波数をHzで示し、図16に従った4つの表示の縦座標は、各場合において測定されたレベルをdBで示す。
【0108】
図16から見られ得るように、提示された正弦波パルスの測定されたピーク値(図16における曲線HL、パルスのピーク値を参照)の曲線と、正弦波パルスがオフに切り換えられた後の25msの時間で決定されたレベル値(図16の曲線TL、25ms後のパルスの減衰値を参照)の曲線とは、各場合において、提示された正弦波パルスの持続期間にわたり形成された正弦波パルスの絶対平均値(図16における曲線LL、パルス平均値を参照)の曲線と、正弦波パルスがオフに切り換えられた後の25msの時間で決定されたレベル値の曲線とよりも、サウンドシステム同調の4つ全ての変化における周波数にわたって非常により似た変化を示す。この理由で、25ms後のパルスの減衰値(減衰の性質)とパルスのピーク値(正弦波パルスのピーク値)との差が、各場合において形成される。差を形成するために、特にそれらの応答を使用する主な理由は、ピークおよび減衰応答は、スピーカの転動の挙動に非常により多く対応し、特定の室内の特性にはあまり対応しておらず、互いにより非常に正確に比較され得るという事実に基づいている。それぞれの結果が、曲線MLによって図16に示されている(図16における減衰対ピークの差を参照)。図16の図における黒い直線は、基準点として−12dBの差を表す。
【0109】
図16の下部左側の図、すなわち、純粋なフィルタセットを有するサウンドシステム(振幅応答に関して同調されたサウンドシステム)のインパルス応答において、調べられる車両の内部空間において等化するために、どの質的な変化を標的関数が有するべきであるかということが、パルスの平均値の曲線と、パルスのピーク値の曲線と、25ms後のパルス減衰値の曲線とから見られ得る。音響の専門家によって行われた、自動車内のサウンドシステムの等化は、周波数応答に関しては全く平坦ではないが、低周波数領域においてオーバーシュートを示し、該オーバーシュートは、周波数が増加することにつれて段々少なくなる。上の図における例において、平坦な曲線への転移は、f=約500Hzにおいて生じる。このように、聴覚立体感と音質とに関して最適な聴覚印象を達成することによるサウンドシステムの手動の同調の間に、当然、音響の専門家によって暗黙のうちに導入されているこの等化の音響心理学的特性を考慮に入れるために、達成された測定結果は、例えば、自動的な方法において、どのように振幅応答が等化されるかを示す。
【0110】
音響心理学的に関連する変更だけが、サウンドシステムの同調において導き出されるような方法で、振幅応答を評価することとは別に、測定されたインパルス応答からサウンドシステムを等化するために、音響心理学的に関連する特徴を抽出するか、または導き出す別のオプションがある。例えば、Johnstonに従った音響心理学的なモデルが、それから必要な等化を推測するために使用され得る。Johnstonのモデルは、
1.ホワイトノイズ信号のシーケンスのマスキング閾値を決定することと、
2.測定されたインパルス応答を用いて、ホワイトノイズのこのシーケンスをフィルタリングすることと、
3.ホワイトノイズのフィルタリングされたシーケンスのマスキング閾値を決定することと、
4.ステップ1からステップ3の2つのマスキング閾値の間の差を決定することと
の4つの重要なステップを包含する。
【0111】
ホワイトノイズ測定信号のレベルは、それほど重要ではないが、約80dB SPLの一般的な再生レベルが有益である。
【0112】
ステップ4において決定された1から3の2つのマスキング閾値の間の差が、サウンドシステムの等化器を調節するために、音響心理学的原理の基準から導き出された標的関数と考えられる。なぜならば、ステップ4において決定された1から3の2つのマスキング閾値の間の差は、広帯域の信号(ホワイトノイズ)のマスキング効果に基づいているからである。良好な近似におけるホワイトノイズは、例えば、サウンドシステムにおける音楽の音声提示によって、広帯域の信号をそれが存在するものとして表す。
【0113】
図17は、基準信号の、決定されたシミュレーションマスキング閾値(フィルタリングされていないホワイトノイズ、ステップ1、MC1で印を付けられたマスキング曲線)と、ステップ2におけるサウンドシステムのインパルス応答を用いてフィルタリングされた信号の決定されたマスキング閾値(ステップ3)(マスキング曲線MC2)と、点線で示されているような、可聴閾値の変化(音響心理学的マスキング効果に関して上記を参照)とを示す。周波数は、図17の横座標に沿って対数的な表示で描かれており、図17の縦座標は、dBで決定された閾値のレベルを示す。
【0114】
図18は、サウンドシステムの最初の振幅応答OFRと、比較として、Johnstonに従った音響心理学的方法によって決定された修正された振幅応答MFRの変化とを示す。つまり、「最初の強度周波数応答」として示された曲線は、自動車のキャビネットの内側の最初に測定されたインパルス応答の強度周波数応答を示し、「修正された強度周波数応答」として示された曲線は、Johnstonのマスキングモデルによって届けられた対応する絶対的なマスキング閾値を示す。周波数は、図18の横座標に沿って対数的な表示で描かれ、かつ、図18の縦座標は、レベルをdBで示す。
【0115】
図19は、フィルタリングされたホワイトノイズおよびフィルタリングされていないホワイトノイズの、決定された2つのマスキング閾値の差によって、Johnstonの方法から獲得された等化の進行を例示する。周波数は、再び、図19の横座標に沿って対数的な表示で描かれ、図19の縦座標は、レベルをdBで示す。図17から図19を共に見ると、聴覚の音響心理学的特徴(例えば、マスキング閾値)にも向けられている、サウンドシステムを等化するための測定がまた、Johnstonの方法によって決定され得ることが見られ得る。
【0116】
調査の間、サウンドシステムの同調を行うときの、さらに興味のある音響技師の手順が見つけられた。サウンドシステムの手動の同調において、実行している音響技師は、頻繁に、追加的または排他的に、ある周波数における等化のための同調ポイントを設定し、該周波数において、同調される空間(この場合、車両の内側)が、振幅応答においてオーバーショットを示しており、たいていはわずかにより高い周波数における等化のための同調ポイントもまた設定する。これは、やはり、マスキングの音響心理学的効果で説明され得る。従って、音声事象のマスキング閾値が、低周波数に向けてというよりもより高い周波数に向けて、より浅く降下する。結果として、例えば、同調される空間における共振によってもたらされたマスキングはまた、それぞれのレベルのオーバーショットの中心周波数から開始し、より低い周波数の方向よりもより高い周波数に向けたより広い範囲にわたって顕著になる。従って、等化のために使用されるフィルタはまた、理想的には、共通して使用される等化(EQ)フィルタ、バンドパス(BP)フィルタ、またはバンドストップ(BS)フィルタにおける場合のような鐘状の減衰曲線を有するべきではない。この理由で、所謂ガンマトーンフィルタが、信号の聴覚的補正フィルタリングに推薦される(例えば、B.Moore、B.Glasberg、「Suggested formula for calculating auditory filter bandwidths and excitation patterns」、Journal of the Acoustical Society of America、74:750−753、1983年、およびRoy D.Patterson、John Holds−worth、「A Functional Model of Neural Activity Patterns and Auditory Images」、Advances in Speech,Hearing and Language Processing、Vol.3、JAI Press、London、1991年を参照)。
【0117】
これらの聴覚的な補正のガンマトーンフィルタが、音声事象に対する人間の内耳の基底膜の応答をシュミレーションするために使用される。周波数領域におけるマスキング効果を考慮に入れると、上に記述されたように、周波数が、ガンマトーンフィルタに関する等価方形幅とも呼ばれる臨界帯域幅(CB)または臨界帯域に到達する(バーク尺度を参照)。これらの聴覚補正フィルタの分布密度はある関数によって記述され、該関数は、本質的には、500Hzまでの直線であり、それからより高い周波数に対数的に向かう(バーク尺度を参照)。ERB帯域幅は、Hzにおける中心周波数fcの関数
ERB=24.7+0.108・fc
として計算され得る。
【0118】
ガンマトーンフィルタから形成されるフィルタバンクのフィルタは、所謂ガンマトーン関数に基づいており、該ガンマトーン関数は、
【0119】
【数1】
によって記述され得、ここで、atn−1は、インパルス応答の開始値を示し、b(fc)は、中心周波数fcにおける帯域幅ERBをHzで示し、Φは、位相を示す。
【0120】
上で概略的に述べられた調査と、おそらくは自動化されることが可能な手順とが、自動車内のサウンドシステムの同調における、経験を積んだ音響技師およびサウンドエンジニアの業績から導き出され得る。結果として、サウンドシステムを同調するためにパラメータを変更する際に、一定の手順、すなわち、クロスオーバフィルタ、遅延フィルタ(位相)、そして振幅応答の等化の順序で同調することが有益であることが分かった。さらに、例えば、エネルギー減衰曲線から見られ得るような、様々な周波数依存の遅延時間の定数が、行われた同調の音響的な質に関する情報を提供し得ることが分かった。さらに、直接音と、直接音が終了した後の周波数依存の減衰性質との両方に関する異なる位相応答の影響が、行われた測定および解析によって示された。
【0121】
分かった結果に基づいて、振幅応答の同調が、ゼロ位相フィルタまたは線形位相フィルタを用いて実装され、その結果、先に達成された位相同調の結果、従って同調されたサウンドシステムによって再現された音声信号の空間的な画像化およびステージング(staging)は、振幅応答の次の同調に無関係であり、かつ、影響されないままである。次の調査において、振幅応答を等化する線形位相フィルタの使用が、音響的な画像化を本当に改善するかが調べられる。これに関連して、FIRフィルタは、有限インパルス応答を有し、通常、アナログ信号のサンプリング周波数によって決定される不連続な時間段階おいて動作する。N次のFIRフィルタは、以下の微分式
【0122】
【数2】
によって記述され、ここで、y(n)は、時間nにおける出力値であり、N個のサンプリングされた入力値x(n−N)からx(n)までのフィルタ係数biを用いて重み付けされた合計から計算される。必要とされる伝達関数は、フィルタ係数biを特定することによって獲得される。
【0123】
線形位相フィルタを用いて行われる等化が、音響学的効果および音響効果にどのような影響を有するかを評価するために、意図していない態様でも位相に影響する従来の4乗べきフィルタを用いて行われた等化が、従来の方法(クロスオーバフィルタ、位相の遅延線、振幅応答に対する等化器の順序)で同調されたサウンドシステムにおいて、線形位相の等化によって置き換えられており、該線形位相の等化は、同調された位相を変更されないままにし、必要に応じて振幅応答を修正するだけである。聴力テストによって決定された、このテストの結果は、音響効果の空間分解に関して、線形位相フィルタの使用による等化が、一般的に4乗べきフィルタを用いて行われる従来の等化よりも優れていることを非常に明確に示す。
【0124】
自分自身をオーディオ愛好家ではないと分類する、特別な音響的な訓練を積んでいないテスト対象のグループによるA/B比較において、区別がまた、問題なく知覚可能であった。すなわち、線形位相フィルタによって振幅応答に関して同調されたサウンドシステムの音響効果が、従来の4乗べきフィルタベースの振幅の同調よりも肯定的であるように判断された。これらの調査の比較可能性を考慮に入れるために、各場合において行われた等化が、正確に同じ振幅応答をもたらすという事実に注意が払われなければならず、かつ、上に記述されたように、4乗べきフィルタを用いた等化における位相の影響が、音響的な極の位置と零点との一定の変位をもたらし、この特性がサウンドシステムを同調するときに音響技師によって直感的に考慮に入れられることが、想定されなければならない。
【0125】
これから結論付けられ得ることは、線形位相フィルタを用いて位相を同調した後に、A/B比較の境界条件について独立して行われる等化が、振幅応答における他の結果を部分的にもたらし得、おそらくは、達成された音響効果のより良好な結果さえも部分的にもたらし得ることである。しかしながら、このような等化が、表示の適切な精度と適切な数の出力チャンネルとを用いて行われることを可能にするリアルタイムの同調ツールを使用するときに、この想定は最後に判断され得るだけである。
【0126】
調査の間に、位相同調、およびクロスオーバフィルタと遅延線との間の関連する相互作用において、クロスオーバフィルタの設計において最も重要であるのは、主に、周波数選択効果であるのか、位相応答であるのか、または両方の基準であるのかという疑問が生じた。音響学的音響効果への線形位相クロスオーバフィルタの影響を調査するために、最初に、カスケードされた4乗べきフィルタによって従来のようにまた実装された全てのクロスオーバフィルタが、次に、振幅応答を等化するために使用されたフィルタに加えて、線形位相のFIRフィルタによっても、以下で置き換えられる。周波数選択効果が、それぞれの位相応答と共に、空間画像化における改善をもたらすか、または2つの特性のうちの1つだけが、空間分解の増加の原因であるかを見つけることが意図されていた。
【0127】
最初に想定されたこととは異なり、クロスオーバフィルタの線形位相の実施形態はまた、最小位相のクロスオーバフィルタ(例えば、4乗べきフィルタ)としての配置と比較して、聴覚テストにおける音響学的音響効果における改善を達成し得ることが分かった。同時に、これは、従来のフィルタが振幅応答を等化する場合において線形位相フィルタによって置き換えられたときよりも、この肯定的な効果が、この場合においてより少なくも、従来のクロスオーバフィルタ(例えば、4乗べきフィルタ)の「制御不能」な位相応答が、自動車におけるサウンドシステムの音響効果の音響的な障害をもたらすことを意味する。
【0128】
サウンドシステムの同調における現在の方法は、段階的な調節として表されており、最初にサウンドシステムのクロスオーバフィルタ、次に遅延線、それから振幅応答を実際に等化するフィルタが調節される。所望の結果を達成するために、特定の車両またはそのサウンドシステムのそれぞれと、旅客空間における音響特性とに対する最適な音響効果を達成するように、手動の同調処理における段階の各調節の後に、個々の段階間で何度も反復することが必要である。この反復処理は、困難かつ長期に及ぶものであり、かなりの経験と忍耐力とを必要とする。
【0129】
示された調査が示すことは、反復が必要とされる主な理由が、主として、従来の同調においては、4乗べきフィルタが、クロスオーバフィルタを調節する際と、振幅応答を等化するためとにまだ使用されているということである。しかしながら、この種のフィルタを用いると、サウンドシステムの同調の際に変化されるものは、振幅応答だけでなく、位相応答全体もが、意図していないように影響され、その結果として、遅延線を調節することによって一旦見つけられた、システム全体における位相の調節が、再び変化する。
【0130】
自動車における用途において通常使用されるようなマルチチャンネルのサウンドシステムにおいて、これは、音質とは別に、音の局在性および空間印象、すなわち、例えば音楽などの、存在する音声信号の聴覚立体感をさらに変化させる様々な干渉をもたらす。これらの様々な干渉の結果として、サウンドシステムの伝達関数全体の一部の音響学的な極と零点とが動かされ、その結果として、調節における新たな変化が、必然的に必要になり、位相の変化によって、再び、音響学的な極の位置と零点とを移動させる。これが、サウンドシステムを同調する従来の方法が繰り返し行われなければならない理由を説明する。
【0131】
4乗べきフィルタの使用が、サウンドシステムの増幅器のフィルタの設計において完全に回避され、その代わりに同じ長さのゼロ位相フィルタまたは線形位相フィルタが使用された場合、様々な段階にわたるサウンドシステムの同調は、非常により単純である。結果として、位相応答の調節は、一旦見つけられると、これらのフィルタを同調することによって再びは変化されず、同調の個々の段階の望ましくない相互作用は生じない。
【0132】
このように、クロスオーバフィルタ、遅延線、および振幅応答を等化するフィルタは、互いに独立して同調され得る。サウンドシステムを同調するために必要な反復の数は、少ないままであり、その結果として、音の同調はかなり単純化される。全体的に、A/B比較における対応する聴力テストによって実証され得るように、この方法において、音響学的音響効果におけるなおさらなる改善を達成することが可能ですらある。
【0133】
サウンドシステムにおけるクロスオーバフィルタの自動的な調節の1つの方法は、例えば、高調波のひずみをできる限り低く維持し、サウンドシステムの音声信号の再現の音圧を最大化するために、全高調波ひずみ(THD)を最適化することである。さらに、フィルタの勾配、またはクロスオーバフィルタとして使用されるフィルタの順序のそれぞれが、限定されたDSPのパワーによって、ほぼ1次から4次のフィルタ次数の範囲内の制限された範囲内で動くという事実に注意が払われる。
【0134】
クロスオーバフィルタの自動的な調節における手順は、以下の通りである。
1.サウンドシステムの個々のチャンネルに対する周波数にわたる高調波のひずみを測定すること。
2.聴取位置に対して共に再生するラウドスピーカを分類すること(例えば、前部左側の聴取位置においては、例えば、高周波数、中心周波数、およびウーファラウドスピーカがこの聴取位置に割り当てられる)。
3.クロスオーバフィルタの遮断周波数が、変化し得る範囲内の適切な周波数領域を定義することであって、周波数応答において重なるグループの2つのラウドスピーカの可能な最大の高調波のひずみ、閾値として使用され得る、こと。
4.先に定義された領域内のクロスオーバフィルタの遮断周波数を変化させ、サウンドシステムの再生の音響的な音圧レベルの最大化を達成するために、クロスオーバフィルタのフィルタの勾配(フィルタの順序)を変化させること。
【0135】
サウンドシステムの位相応答を確立するために、上で特定された順序に従って、次に行う遅延線の自動同調が、以下で記述される。サウンドシステムを等化する多数の公知の自動アルゴリズムにおいてほとんど考慮されないか、または全く考慮さえされない一局面は、チャンネル遅延の自動調節である。過去において、遅延線の遅延時間は、車両内の異なる座席の位置に対して(運転手または交代運転手に固有に)頻繁に設定され、ほとんどの場合においてこれらの個々の事前設定の間で選ぶことが可能であった。本事例においては、それに比べて、遅延線の遅延時間は、それぞれの対称的に配置されたラウドスピーカに属する等化フィルタとクロスオーバフィルタとの遅延時間と同様に、通常、可能である場合には、車両の内部空間全体において最適化された音響を達成するように、ほぼ対称的に同調される。良好な遅延同調は、主に、音響効果がより空間的になり、かつ、ラウドスピーカから分離されており、ステージの局在性とステージ(ステージング)における器具が、より明らかになるという事実によって区別されている。
【0136】
上に記述された調査から、エネルギー減衰曲線(EDC)は、行われたサウンドシステムの遅延同調の質を評価することに適していることが分かった。調査はまた、このエネルギー減衰曲線に基づいて、時間/周波数の図における変化が指数関数的な降下を示すときに、音響効果の良好な空間画像(聴覚立体感)が示され得ることを示した。さらに、本調査は、反響の可能な最も高率の減少が、サウンドシステムの音の成分のために達成されなければならないことを示し、反響の可能な最も高率の減少のレベルは、音響効果の最適な聴覚立体感を達成するために、指数対数的に降下する曲線のマスキング閾値を上回る。
【0137】
行われた調査のさらなる結果は、良好な聴覚立体感と関連して許容できる反響は、周波数依存であることと、この反響の持続期間は、肯定的であると感じられる、サウンドシステムの音響効果を達成するためには、周波数の増加を伴って減少しなければならないことである。上に既に記述されたように、決定されたエネルギー減衰曲線のこれらの変化と、自動的な手順によって達成されることとは、人間の耳の音響心理学的なマスキング効果、特に、時間におけるポストマスキング効果に基づいている。自動的な同調方法は、例えば、先に記述されたように、好適には指数関数的な形状を有するべきである、EDCの所望の形状を獲得するように、個々の遅延の調節を処理するだけである。
【0138】
人間の耳のこの時間的な挙動をシミュレーションすることが可能である様々な音響心理学的なモデルがある。これらのモデルのうちの1つは、やはり、上で記述されたガンマトーンフィルタバンクである。次に、サウンドシステムの自動同調によって達成されるべき標的関数が、人間の耳の音響心理学的な特性を考慮に入れて生成される場合には、ガンマトーンフィルタバンクの完全な解析および合成ユニットのインパルス応答が、システム同定のために使用される適合フィルタに対する標的関数として記録され、使用される。必要とされるインパルス応答、または未知のシステムの伝達関数のそれぞれが、回帰的な方法で適合フィルタを使用することによって、充分な精度で近似され得る。適合フィルタは、デジタル信号プロセッサ(DSP)におけるアルゴリズムと、所定のアルゴリズムに従った、入力信号に対する該適合フィルタのフィルタ係数とによって実装されるデジタルフィルタであると理解されている。
【0139】
図20は、適合フィルタの原理を示す。「未知のシステム」は、伝達関数が必要とされている線形のひずみシステムであることが想定されている。伝達関数を見つけるために、適応性システムが、未知のシステムと並列で接続されている。基準信号r(i)は、未知のシステムによって歪まされている。基準信号r(i)から、適合フィルタの出力f(i)が減算され、エラー信号e(i)が生成される。フィルタ係数は、エラー信号e(i)ができる限り小さくなり、その結果としてf(i)がr(i)に近似するように、一般的には、LMS(最小自乗平均)または、基準信号r(i)から導き出された専用のLMS方法を使用することによる反復によって調節される。この手段によって、未知のシステム、従ってその伝達関数もまた近似される。
【0140】
等化器の自動同調が、例えば、上で特定された順序で行われる。自動車の旅客空間に対するサウンドシステムにおいて、結果の振幅応答は、周波数が増加すると降下する標的の曲線に適合されるべきであり、すなわち、一定のローパス特性を有するべきである。次に、この標的の周波数応答はまた、システム同定のために適合フィルタに対する標的関数として使用され得るか、またはこの標的の周波数応答は、上に記述されたガンマトーンフィルタバンクに対する重み付け関数として使用され得、その結果として、位相(遅延線)を同調し、振幅応答を等化するための標的の仕様が、任意的に、互いと組み合わせられ得る。
【0141】
図21は、自動車の旅客空間におけるサウンドシステムの自動的な同調のための装置の構成図である。図21の装置は、音声信号x[n]を生成する信号源と、多数のクロスオーバフィルタ(Xオーバフィルタ)X1(z)〜XL(z)と、位相を同調するか、またはサウンドシステムの振幅応答を等化するかのそれぞれのための同様に多くの数の適合フィルタW1(z)〜WL(z)(それぞれ遅延フィルタまたはEQフィルタ)と、同様に多くの数のラウドスピーカ1〜Lとを備えている。図21の装置はまた、多数のマイクロフォン1〜Mと、同様に多くの数の加算要素と、同様に多くの数の重み付け係数a1〜aMとを備えている。さらに、装置は、信号源の信号の適合フィルタリングのための標的関数と、サウンドシステムの位相を同調するか、または振幅応答を等化するかのそれぞれのための多数の適合フィルタW1(z)〜WL(z)(それぞれ遅延フィルタまたはEQフィルタ)の係数の適応性の適応のための関数ユニット(更新(例えば、MELMS))とを備えている。
【0142】
図21によると、信号源の広帯域の出力信号x[n]は、最初に、多数のクロスオーバフィルタ(Xオーバフィルタ)X1(z)〜XL(z)によって、狭帯域の信号に分割され、該狭帯域の信号は、同様に多くの数の、各場合において関連する適合フィルタW1(z)〜WL(z)に供給される。この装置において、クロスオーバフィルタX1(z)に適合フィルタW1(z)が続き、クロスオーバフィルタX2(z)に適合フィルタW2(z)が続くなど、クロスオーバフィルタXL(z)に続く適合フィルタWL(z)までそのように続く。自動車の旅客空間におけるサウンドシステムの個々の成分の同調の順序の第1のステップとしてのクロスオーバフィルタの自動的な同調は、調査において見出だされ得るように、既に上に記述された。多数のクロスオーバフィルタX1(z)〜XL(z)と、同様に多くの数の、各場合において関連する適合フィルタW1(z)〜WL(z)とによってフィルタリングされた部分的な信号は、図21に従って、多数のラウドスピーカ1〜Lの下流に対応するように接続されたラウドスピーカに供給される。
【0143】
さらに、サウンドシステムのラウドスピーカ1〜Lによって空間、この場合においては自動車の旅客空間に届けられ、かつ、室内伝達関数によって修正された音響信号は、多数のマイクロフォン1〜Mによって拾い上げられ、各場合において、電気信号d1[n]〜dM[n]に変換される。この構成において、マイクロフォン1〜Mのうちの各個々のマイクロフォンは、多数のラウドスピーカ1〜Lの全てから音響信号を受信する。マイクロフォン1〜Mのうちの各個々のマイクロフォンの観点から見ると、これが、この個々のマイクロフォンに対するラウドスピーカ1〜Lの音響信号の送信に対する多数Lの室内伝達関数H(z)、すなわち、合計がM*Lの室内伝達関数H(z)をもたらす。多数のラウドスピーカ1〜Lと多数のマイクロフォン1〜Mとの間のこれらの室内伝達関数は、概して、Hlm(z)と呼ばれており、lは、複数のラウドスピーカ1〜Lのそれぞれのラウドスピーカを示し、mは、多数のマイクロフォン1〜Mのそれぞれのマイクロフォンを示し、その間に伝達関数Hlm(z)が存在する。従って、例えば、H21(z)は、ラウドスピーカ2からマイクロフォン1への音響信号の経路に対する室内伝達関数を示し、例えば、H1m(z)は、ラウドスピーカ1からマイクロフォンMへの音響信号の経路に対する室内伝達関数を示す。
【0144】
受信され、かつ、室内伝達関数Hlm(z)によって修正された、多数のラウドスピーカ1〜Lの全L個の音響信号の合計から、多数のマイクロフォン1〜Mのそれぞれは、電気信号dm[n]を形成する。従って、例えば、マイクロフォン2は電気出力信号d2[n]を形成し、該電気出力信号d2[n]は、多数のラウドスピーカ1〜Lの受信された音響信号の重ね合わせによって形成され、ラウドスピーカ1の音響信号は、この場合、室内伝達関数H12(z)によって修正され、ラウドスピーカ2の音響信号は、室内伝達信号H22(z)によって修正されるなど、音響信号は、室内伝達信号HL2(z)によって修正されるラウドスピーカLまで続けて修正される。
【0145】
さらに、図21によると、信号y[n]は、所定の標的関数によって信号源の信号x[n]から形成される。図21によると、所定の標的関数によって信号源の信号x[n]から形成されたこの信号y[n]は、各場合において、1つの処理経路におけるこの処理経路内の加算要素によって、多数のマイクロフォン1〜Mの出力信号から減算される。マイクロフォン1の信号d1[n]からの信号y[n]の減算は、信号e1[n]をもたらし(e1[n]=d1[n]−y[n])、マイクロフォン2の信号d2[n]からの信号y[n]の減算は、信号e2[n]をもたらす(e2[n]=d2[n]−y[n])など、マイクロフォンMの信号dM[n]からの信号y[n]の減算によって形成される信号eM[n](eM[n]=dM[n]−y[n])までもたらす。上に示されたように、これは、適合フィルタの一般的な手順に対応しており、信号e1[n]〜信号eM[n]はまた、エラー信号と呼ばれており、さらなる進行において、有限な一連のステップの後に、値ゼロを有するエラー信号を理想的に達成するために、次の動作ステップにおいて適合フィルタのフィルタ係数を対応するように変化させるために使用される。
【0146】
図21によると、信号e1[n]〜信号eM[n]はさらに、本事例においては、各場合において、対応しかつ調節可能な因数a1〜aMで重み付けをされ、その結果として、エラー信号e1[n]〜eM[n]が、適合フィルタリングに対して重み付けされ、それによって、所定の標的関数が、自動車の旅客空間におけるそれぞれの聴取位置、またはこの聴取位置に割り当てられたマイクロフォンのそれぞれに、どの程度正確に近似されているかを具体的に挙げることが可能である。これに続き、図21によると、エラー信号e1[n]〜信号eM[n]は、適合フィルタリングに対する入力変数として、やはり、広帯域の信号であるエラー信号e[n]をもたらすさらなる加算要素によって加算される。図21によると、これらのエラー信号e[n]を信号源の信号x[n]と比較することによって、適合フィルタw1(z)〜wL(z)のフィルタ係数は、エラー関数e[n]が最小化されるまで、例えば、複数の誤差の最小自乗平均アルゴリズムによって関数ブロック更新(例えば、MELMS)によって反復的に変化される。これは、適合フィルタの一般的な用途に対応し、この場合には自動車の旅客空間である室内の伝達特性をもたらし、該伝達関数は、先の適合フィルタリングによって、所望に応じて、所定の標的関数に対応する。
【0147】
図21に示された構成図は、どのように、L個のラウドスピーカとM個のマイクロフォンとを有するサウンドシステムの一般的な事例が、例えば、人間の耳の音響心理学的特性に基づいて、適応性の方法および標的関数を使用することによりMELMS(多重誤差最小自乗平均)アルゴリズムによって、本発明に従って解決され得ることを示す。通常、車両のキャビンからの先に測定された室内のインパルス応答が、例えば、平滑化アルゴリズムによって予備処理されるので、適合は「オフライン」で行うことが想定される。サウンドシステムを等化するために最終的に生成されるフィルタが、望ましくない極端または達成不可能な特性、例えば、非常に高い質または非常に高い利得を有する非常に狭い帯域の立ち上がりを示すこと防止するために、室内のインパルス応答のこの平滑化が行われる。
【0148】
必要とされる座席の位置において測定を行うことがまた有利であり、該測定は、図21における表示に従ってマイクロフォン1〜Mによって行われ、各場合において、座席または聴取位置毎に単一のマイクロフォン用いるのではなく、その代わりに、各シートの位置に対して様々な据え付け位置におけるいくつかのマイクロフォンを使用して行われ、次いで、これらから、この聴取位置に対するインパルス応答の空間平均を獲得する。この点に関して、空間平均が、個々の測定を基準に行われたか、または室内インパル応答を記録するときに直接的に行われたかは重要ではない。後者の場合、室内インパルス応答の記録が、例えば、アレイの個々のマイクロフォンの間で継続的かつ周期的に切り換わる多重マイクロフォンのアレイを使用することによって行われ得る。両方の場合において、等化フィルタのロバスト設定に対する必要条件を示す空間平均が、達成される。
【0149】
さらに、係数a1〜aMは、適合フィルタリングに対する標的関数を重み付けするために使用され得、該適合フィルタリングを介して、どの程度正確に、所定の標的関数が、自動車の旅客空間におけるそれぞれの聴取位置において近似されているかが具体的に述べられ得る。原則的に、音響技師によってサウンドシステムの手動の同調処理の際に通常選ばれるように、すなわち、前部の聴取位置をより強調し、対応するように、旅客空間における後部の聴取位置の重み付けをより少なくするように、聴取位置の重み付けを行うことは、最初は適切である。原則的に、図21に従った装置は、重み付けることと音響効果を調べることとの任意的な組み合わせを行う可能性を提供する。関連する試みに関して、サウンドシステムの同調が、本発明に従って、自動的な方法で行われ得る場合に、それは非常に有利であり、その結果として、聴取位置にわたる多数の重み付けの分布が、効果的に、音印象に関して調査され得る。
【0150】
図22は、位相の自動的な同調、および/または聴覚補正ガンマトーンフィルタを用いて振幅応答を等化することに関して、適合フィルタリングに対する標的関数を決定する手順を示す。図22は、位相に関するインパルス応答を測定するためにディラックインパルスx[n]を生成するジェネレータと、考慮される周波数領域にわたり対応する等化方形幅(ERB)で分布されるN=100のガンマトーンフィルタから成る、解析(聴覚補正フィルタリング)のためのガンマトーンフィルタバンクと、考慮される周波数領域にわたり対応する等化方形幅(ERB)で分布されるN=100のガンマトーンフィルタからまた成る、インパルス応答を合成するためのガンマトーンフィルタバンクとを含む。
【0151】
図23は、上に記述された本発明の実施形態に従った聴覚補正方法によって達成される、標的関数の時間/周波数特性の例示的な結果を示し、時間は、図23の表示の横座標に沿って描かれており、図23の表示の縦座標は、周波数を示す。やはり、達成される高レベルは、淡いグレーで描かれ、ラベルHLで印を付けられており、低レベルは、濃いグレー描かれ、ラベルLLで印を付けられている。高レベルから低レベルへの転移は、より明るいグレースケールからより暗いグレースケールへの転移として見られ得、レベルT1およびT2で印を付けられている。ガンマトーンフィルタバンクの音響心理学的モデルによって達成される時間/周波数特性が、高レベルから低レベルへの非常に一様な転移をもたらし、低周波数における一般的にはより遅い減衰がまた、図1に従った測定結果におけるように見られ得る。
【0152】
図24は、レベル(図24の上側の図)と位相(図24の下側の図)との変化に関する、図23からの標的関数のボーデ図を示す。両方の表示において、周波数は、横座標に沿って対数的な尺度で描かれており、図24における上側の図の縦座標は、レベルをdBで示しており、図24の下側の縦座標は位相を示す。振幅応答を等化する明確な標的の周波数応答は、解析と合成段階との間にまだ導入されておらず、すなわち、この標的関数は、位相(遅延線)を同調する標的関数を含むだけであることが、図24から見られ得る。図24の高周波数において見られ得る、理想的なゼロの線からの振幅応答の偏差(図24の上側の図)は、解析および合成のために使用される限られた数のガンマトーンフィルタによって説明され得、ガンマトーンフィルタは、概して、聴取印象全体を乱していると考えられないので、さらなる進行においては特に考慮されない。
【0153】
上に述べられたように、図21に従った装置の適合フィルタはまた、任意的に、サウンドシステムの位相応答の標的関数を決定するためだけでなく、同時に、振幅応答を等化する標的関数に対する境界条件を考慮に入れるためにも使用され得る。次に、これは、図21に従った適合フィルタに対する共通の標的関数をもたらす。このような標的関数を生成するために、振幅応答を等化する標的関数が、最初に決定されなければならない。
【0154】
自動車における振幅応答の標的関数を記述するために、所謂ピンクノイズを使用することは、この目的のための一般的な方法を表す。ピンクノイズは、ラウドスピーカの音強度を評価するために使用される。ホワイトノイズとは対照的に、ピンクノイズのレベルは、3dB/オクターブにおいてより高い周波数に向かって降下する。次に、このようなノイズ信号のエネルギーの内容は、オクターブ毎に一定であり、従って、第1の近似において、人間の耳の周波数依存の性質(臨界帯域幅とラウドネスの構成)を考慮に入れる。
【0155】
図25は、自動車の用途における振幅応答(ピンクノイズ)に対する適合フィルタリングの標的関数を示しており、やはり、ボーデ図で示されている。図25は、レベル(図25の上側の図)と位相(図25の下側の図)との変化を示す。両方の表示において、周波数は、横座標に沿って対数的な尺度で描かれており、図25における上側の図の縦座標は、レベルをdBで示しており、図25の下側の縦座標は位相を示す。
【0156】
次に、図25に示された振幅応答の標的関数が、解析ユニットと合成ユニットとの間すなわち、図26に示されているように、対応するガンマトーンフィルタバンクの間に挿入された場合、以下の文章に示された、図21に従った適合フィルタリングの新たな標的関数が獲得され、該新たな標的関数は、ここで、位相(遅延線)を同調し、振幅応答を等化するための同時の標的関数を含む。図26は、解析ユニットと合成ユニットとの間に挿入された、振幅応答を等化するための標的関数による、図22の拡張を表す。
【0157】
対応するように、図27に示されている、図21に従った適合フィルタによってサウンドシステムを同調するための同時の標的関数が獲得される。図27は、標的関数の時間/周波数特性を示し、時間は、図27の表示の横座標に沿って描かれており、図27の表示の縦座標は、周波数を示す。
【0158】
図28は、レベル(図28の上側の図)と位相(図28の下側の図)との変化に関する、図27からの標的関数のボーデ図を示す。両方の表示において、周波数は、横座標に沿って対数的な尺度で描かれており、図28における上側の図の縦座標は、レベルをdBで示しており、図24の下側の縦座標は位相を示す。ここで、標的の周波数応答がまた、振幅応答を等化するために考慮に入れられ、すなわち、図28に従った標的関数は、ここで、位相(遅延線)を同調し、振幅応答の等化を同調するための同時の標的関数を含むことが、図28から見られ得る。これは、図24と図28とからの上側の2つの表示(周波数に対するレベル変化)の比較において特に明確になり、該比較は、低周波数(≦500Hz)における振幅応答の、調査において分かった一般的なオーバーシュートを示し、該一般的なオーバーシュートは、図28において、この振幅応答の標的関数を遅延同調の振幅応答(図24)に加算することによって明確に見ることができる。
【0159】
このように、人間の耳の音響心理学的特徴、例えば、スペクトルのマスキング効果および時間的マスキング効果などに基づいた必要な全ての標的関数が定義され、標的の仕様として、該必要な全ての標的関数は、図21に示されたサウンドシステムを同調する自動的な処理のための必須条件である。行われた調査の結果の中間のステップ、すなわち、振幅応答を等化する線形位相フィルタの使用と、様々な同調ステップの位相の影響を分離するクロスオーバフィルタの使用とは、反復的な方法を必要とすることなく、同調プロセスの明らかな簡略化をもたらす。結果としてのこの中間のステップはまた、線形位相フィルタの使用を想定した(時間のかかる反復的な方法を退けた)、音響技師またはサウンドエンジニアによるサウンドシステムの手動の同調の紛れもない簡略化のために使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0160】
【図1】図1は、線形セット、遅延セット、フィルタセット、および同調セットに従った、サウンドシステムのインパルス応答のエネルギー減衰曲線の3次元図である。
【図2】図2は、線形セット、遅延セット、フィルタセット、および同調セットのインパルス応答の3次元のエネルギー減衰曲線の正面図である。
【図3】図3は、同時にクロスオーバフィルタを同調することなく、遅延線を同調するときの、インパルス応答のエネルギー減衰曲線の3次元図と正面図とである。
【図4】図4は、周波数に対するホワイトノイズのマスキング閾値を例示する図である。
【図5】図5は、狭い帯域のノイズの音圧レベルに依存した、マスキング閾値を例示する図である。
【図6】図6は、臨界帯域の狭い帯域のノイズを有するマスキング閾値を例示する図である。
【図7】図7は、正弦波トーンのマスキング閾値を例示する図である。
【図8】図8は、同時のプレマスキングおよびポストマスキングの図である。
【図9】図9は、テストトーンパルスの持続期間に関するラウドネスの知覚の依存性を例示する図である。
【図10】図10は、テストトーンパルスの反復率に関するマスキング閾値の依存性を例示する図である。
【図11】図11は、ポストマスキングを例示する図である。
【図12】図12は、マスカーの持続期間に依存したポストマスキングを例示する図である。
【図13】図13は、複合音による同時マスキングを例示する図である。
【図14】図14は、サウンドシステムによって送信される正弦波パルスの性質を例示するグラフである。
【図15】図15は、線形セット、遅延セット、フィルタセット、および同調セットに従った正弦波パルスのスペクトログラムである。
【図16】図16は、それぞれ線形セット、遅延セット、フィルタセット、および同調セットに従った、多数の正弦波パルスから決定された伝達関数を例示するグラフである。
【図17】図17は、ホワイトノイズとフィルタリングされたホワイトノイズとのマスキング閾値を例示するグラフである。
【図18】図18は、所謂Johnstonの方法を用いて決定された周波数応答と比較した、サウンドシステムの周波数応答を例示するグラフである。
【図19】図19は、フィルタリングされたホワイトノイズとフィルタリングされていないホワイトノイズとを用いて決定された2つのマスキング閾値の差に基づいた、Johnstonの方法に従った等化を例示するグラフである。
【図20】図20は、適合フィルタの基本構造を示す構成図である。
【図21】図21は、遅延時間(位相)の自動的な調節、または適応性システムを有する等化とのための装置の構成図である。
【図22】図22は、遅延時間(位相)を同調するための基準として、標的関数を獲得するための装置の基本構造を示す図である。
【図23】図23は、遅延時間(位相)を同調すること、または等化のための標的関数の時間/周波数の表示である。
【図24】図24は、遅延時間(位相)を同調すること、または等化のための標的関数のボーデ図である。
【図25】図25は、ピンクノイズに対する標的の周波数応答を例示する図である。
【図26】図26は、遅延線とフィルタとの同調のための標的関数を獲得するためのシステムを例示する構成図である。
【図27】図27は、遅延線とフィルタとの同調のための共通の標的関数の時間/周波数の表示である。
【図28】図28は、遅延線とフィルタとの同時の同調のための標的関数のボーデ図である。
【符号の説明】
【0161】
X1(z)〜XL(z) クロスオーバフィルタ
W1(z)〜WL(z) 適合フィルタ
dm[n] 電気信号
e1[n]〜eM[n] エラー信号
Hlm(z) 室内伝達関数
x[n] 音声信号
【技術分野】
【0001】
本発明は、音同調方法に関し、特に、自動車の旅客空間における自動化された音の同調および等化の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、特にプレミアムクラスのリムジンにおいて、サウンドシステムは、一般的に非常に複雑であり、様々な周波数領域に対してラウドスピーカおよび一群のラウドスピーカ(例えば、サブウーファ、ウーファ、中程度の周波数のラウドスピーカ、およびツイータなど)を使用して、このような車両の旅客空間における非常に多様な位置に、多数のラウドスピーカを備えている。このようなサウンドシステムは、所望の音印象を達成するために、それぞれの車両のタイプに対して、音響技師またはサウンドエンジニアによって手動で調節または最適化される。この処理はまた、音同調と呼ばれており、該音同調は、主には、サウンドシステムの同調であり、主に経験値に基づいて、かつ、訓練された聴覚に基づいて、音響技師またはサウンドエンジニアによって主観的に行われる。音同調に関連して使用される信号処理のための一般的な装置は、4乗べきフィルタ(例えば、ハイパスフィルタ、バンドパスフィルタ、ローパスフィルタ、オールパスフィルタ)、双線形フィルタ、デジタル遅延線、クロスオーバフィルタ、および信号のダイナミックレンジを変化させる装置(例えば、圧縮器、リミッタ、伸長器、ノイズゲートなど)であり、クロスオーバフィルタの遮断周波数と、遅延線と、振幅応答との関連のあるパラメータが、スペクトルバランス(音質)と聴覚立体感とに関して最適化された音印象が達成されるように調節される。
【0003】
このような同調の焦点は、全ての聴取位置、すなわち、旅客自動車の旅客空間における全ての座席の位置において、できる限り良好な音印象を達成することである。しかしながら、多数のパラメータが、この処理において変更されなければならず、該多数のパラメータは、互いに独立して調節され得ず、効果においては相互作用し得ず、その結果、手順は、非常に経験を必要とする反復的な処理となり、それに対応して、時間がかかり、サウンドシステムの同調を行う音響技師またはサウンドエンジニアの主観的な音印象の付近に大部分、処理自体を適合させることが避けられない。従って、少なくとも部分的には自動化された、自動車におけるサウンドシステムの同調を提供する方法を提供することが、一般的なニーズである。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の一実施形態に従って、遅延線と、等化フィルタと、少なくとも2つのラウドスピーカとを有するサウンドシステムの自動化された同調のための方法は、ラウドスピーカを介して有用な音声信号を再現するステップと、少なくとも1つの位置において音圧値を測定するステップと、サウンドシステムの遅延線と等化フィルタとを同調する標的の伝達関数を提供するステップであって、該標的の伝達関数は、サウンドシステムの所望の伝達特性を表す、ステップと、遅延線の遅延を調節するステップと、サウンドシステムの実際の伝達特性が、標的の伝達関数に近似するように、等化フィルタの振幅応答を調節する、ステップとを包含する。
【0005】
本発明の別の実施形態に従って、有用な音声信号を提供するための信号源と、複数の適合フィルタであって、1つの適合されたフィルタが、各クロスオーバフィルタの下流に接続されている、複数の適合フィルタと、複数のラウドスピーカであって、1つ以上のラウドスピーカが、各適合フィルタの下流に接続されている、複数のラウドスピーカと、第1の位置に場所を定められた音圧レベルを測定し、該有用な信号を表すマイクロフォン信号を提供するマイクロフォンと、該有用な音声信号と該マイクロフォン信号とによって定義された実際の伝達特性が、該サウンドシステムの所望の伝達特性を表す標的関数に近似するように、該適合フィルタのフィルタ係数を最適化する制御ユニットとを備えているサウンドシステムの自動的な同調のためのシステム。
【0006】
本発明はさらに以下の手段を提供する。
【0007】
(項目1)
サウンドシステムの自動化された同調のための方法であって、該サウンドシステムは、遅延線と、等化フィルタと、少なくとも2つのラウドスピーカとを備えており、該方法は、
該ラウドスピーカを介して有用な音声信号を再現するステップと、
少なくとも1つの位置において音圧値を測定するステップと、
該サウンドシステムの該遅延線と該等化フィルタとを同調する標的の伝達関数を提供するステップであって、該標的の伝達関数は、該サウンドシステムの所望の伝達特性を表す、ステップと、
該遅延線の遅延を調節するステップと、
該サウンドシステムの実際の伝達特性が、該標的の伝達関数に近似するように、該等化フィルタの振幅応答を調節する、ステップと
を包含する、方法。
【0008】
(項目2)
上記サウンドシステムは、少なくとも1つのクロスオーバフィルタをさらに備えており、上記方法は、
全高調波ひずみが最小化されるように、該クロスオーバフィルタの遮断周波数を調節するステップ
を包含する、項目1に記載の方法。
【0009】
(項目3)
上記クロスオーバフィルタは、線形位相フィルタを備えている、項目2に記載の方法。
【0010】
(項目4)
上記標的関数は、人間の耳の音響心理学的な特性を組み込む、項目1に記載の方法。
【0011】
(項目5)
線形位相適合フィルタは、遅延線と等化フィルタとを実装するために使用され、その結果、互いに影響することなく、等化フィルタおよびクロスオーバフィルタの遅延および振幅応答の独立した調節を可能にする、項目2に記載の方法。
【0012】
(項目6)
上記遅延線の上記遅延は、上記線形適合フィルタの位相を調節することによって行われる、項目5に記載の方法。
【0013】
(項目7)
上記等化フィルタの上記振幅応答は、上記線形適合フィルタのフィルタ係数を調節することによって行われる、項目6に記載の方法。
【0014】
(項目8)
上記音圧は、複数の音圧信号をもたらす複数の位置において測定される、項目1に記載の方法。
【0015】
(項目9)
上記複数の位置は、聴覚空間の中に配置されている、項目8に記載の方法。
【0016】
(項目10)
上記聴覚空間は、自動車の旅客空間である、項目9に記載の方法。
【0017】
(項目11)
上記標的関数を使用して、上記有用な音声信号から所望の出力信号を計算するステップと、
該所望の出力信号から上記測定された音圧信号を減算することによってエラー信号を計算するステップと
をさらに包含する、項目8に記載の方法。
【0018】
(項目12)
上記エラー信号の重み付けられた合計を計算することによって全エラー信号を生成するステップであって、該エラー信号は、加算の前に重み付け係数を用いて乗算される、ステップと、
該全エラー信号が最小化されるように、上記適合フィルタの上記位相応答と上記振幅応答とを調節するステップと
をさらに包含する、項目11に記載の方法。
【0019】
(項目13)
多重誤差最小自乗平均(MELMS)アルゴリズムが、全エラー信号を最小化するために利用される、項目12に記載の方法。
【0020】
(項目14)
上記位相または上記遅延線の上記同調の質を評価するために、上記測定された音圧のエネルギー減衰曲線(EDC)を計算すること
をさらに包含する、項目1に記載の方法。
【0021】
(項目15)
上記遅延線の上記遅延が、反響を最小化するように同調され、該反響のレベルは、周波数依存のマスキング閾値を上回る、項目1に記載の方法。
【0022】
(項目16)
上記サウンドシステムを同調するための、上記標的関数の上記振幅応答と上記位相応答が、聴覚補正フィルタバンクのインパルス応答から計算され、該聴覚補正のフィルタバンクは、人間の耳の周波数特性と時間特性とをシミュレーションするガンマトーンフィルタを備えている、項目1に記載の方法。
【0023】
(項目17)
人間の耳の上記音響心理学的特性は、スペクトルのマスキング効果と時間的マスキング効果と該人間の耳のスペクトル分解とを含む、項目4に記載の方法。
【0024】
(項目18)
上記遅延線の上記遅延は、上記等化フィルタの上記振幅応答の前に調節される、項目1に記載の方法。
【0025】
(項目19)
上記クロスオーバフィルタの上記遮断周波数は、上記遅延線の上記遅延の前に調節される、項目2に記載の方法。
【0026】
(項目20)
サウンドシステムの自動化された同調のためのシステムであって、該サウンドシステムは、
有用な音声信号を提供するための信号源と、
複数の適合フィルタであって、1つの適合されたフィルタが、各クロスオーバフィルタの下流に接続されている、複数の適合フィルタと、
複数のラウドスピーカであって、1つ以上のラウドスピーカが、各適合フィルタの下流に接続されている、複数のラウドスピーカと、
第1の位置に場所を定められた音圧レベルを測定し、該有用な信号を表すマイクロフォン信号を提供するマイクロフォンと、
該有用な音声信号と該マイクロフォン信号とによって定義された実際の伝達特性が、該サウンドシステムの所望の伝達特性を表す標的関数に近似するように、該適合フィルタのフィルタ係数を最適化する制御ユニットと
を備えている、システム。
【0027】
(項目21)
少なくとも1つのクロスオーバフィルタをさらに備えている、項目20に記載のシステム。
【0028】
(項目22)
測定された音圧レベルに対する高調波ひずみの比率が最小化されるように、上記制御ユニットは、上記クロスオーバフィルタの上記遮断周波数を同調するように適合されている、項目21に記載のシステム。
【0029】
(項目23)
上記クロスオーバフィルタは、線形位相フィルタである、項目20に記載のシステム。
【0030】
(項目24)
上記標的関数は、人間の耳の音響心理学的な特性を組み込む、項目20に記載のシステム。
【0031】
(項目25)
上記適合されたフィルタは、線形位相フィルタであり、その結果、互いに影響することなく、等化フィルタおよびクロスオーバフィルタの位相応答および振幅応答の独立した調節を可能にする、項目21に記載のシステム。
【0032】
(項目26)
聴覚空間の中の異なる位置に配置され、上記有用な音声信号を表す複数のマイクロフォン信号を提供する複数のマイクロフォンを備えている、項目20に記載のシステム。
【0033】
(項目27)
上記聴覚空間は、自動車の旅客空間である、項目26に記載のシステム。
【0034】
(項目28)
上記制御ユニットは、上記標的関数を使用して、上記有用な音声信号から所望の出力信号を計算し、上記測定された音圧信号と該所望の出力信号との間の差を表すエラー信号を計算するように適合されている、項目26に記載のシステム。
【0035】
(項目29)
上記制御ユニットは、上記エラー信号の重み付けられた合計を計算することによって全エラー信号を生成し、該全エラー信号が最小化されるように、上記適合フィルタの上記位相応答と上記振幅応答とを調節するようにさらに適合されている、項目28に記載のシステム。
【0036】
(項目30)
上記制御ユニットは、上記全エラー信号を最小化するために利用される多重誤差最小自乗平均(MELMS)アルゴリズムを利用するようにさらに適応されている、項目29に記載のシステム。
【0037】
(項目31)
上記制御ユニットは、上記位相または上記遅延線の上記同調の質を評価するために、上記測定された音圧のエネルギー減衰曲線(EDC)を計算するように適応されている、項目20に記載のシステム。
【0038】
(項目32)
上記制御ユニットは、反響を最小化するように、上記適合フィルタの上記位相応答を同調するように適応されており、該反響のレベルは、周波数依存のマスキング閾値を上回る、項目31に記載のシステム。
【0039】
(項目33)
人の耳の上記音響心理学的特性は、スペクトルのマスキング効果と時間的マスキング効果と人間の耳のスペクトル分解とを含む、項目24に記載のシステム。
【0040】
(摘要)
本発明は、サウンドシステムの自動化された同調のための方法であって、該サウンドシステムは、遅延線と、等化フィルタと、少なくとも2つのラウドスピーカとを備えており、該方法は、ラウドスピーカを介して有用な音声信号を再現するステップと、少なくとも1つの位置において音圧値を測定するステップと、サウンドシステムの遅延線と等化フィルタとを同調する標的の伝達関数を提供するステップであって、標的の伝達関数は、サウンドシステムの所望の伝達特性を表す、ステップと、遅延線の遅延を調節するステップと、サウンドシステムの実際の伝達特性が、標的の伝達関数に近似するように、等化フィルタの振幅応答を調節する、ステップとを包含する、方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
本発明は、以下の図面と記述とを参照するとより良く理解され得る。図面内の構成要素は、必ずしも寸法を合わせておらず、その代わりに、本発明の原理を例示することに重きをおいている。さらに、図面においては、異なる図面全体を通して、同様な参照番号は、対応する部分を示す。
【0042】
本事例において、同調が、訓練を積んだ音響技師またはサウンドエンジニアによって行われるときに、最初に、音響パラメータが変更される方法を決定するために、調査が行われた。テスト環境として、高級リムジンが選択された。この車両のサウンドシステムは、合計で10個のチャンネル(前部左側(FL)、前部右側(FR)、中央(C)、側部左側(SL)、側部右側(SR)、後部左側(RL)、後部右側(RR)、サブウーファ左側(SubL)、サブウーファ右側(SubR)、トランクに配置された独立のサブウーファ(Sub))と、各チャンネルに対する増幅器とを備えている。遅延線、オールパスフィルタ、およびクロスオーバフィルタのパラメータを変更することによる位相同調と、4乗べき、双線形フィルタおよびクロスオーバフィルタのパラメータを変更する周波数同調との両方を使用して、同調は行われる。車両のトランクに配置された独立のサブウーファは、100Hzの遮断周波数、90°の位相シフト、および中心位置に設定された音量を有するローパスフィルタを用いて動作されるアクティブラウドスピーカである。
【0043】
車両のサウンドシステムの音印象は、2つの前部座席の位置(運転手および交代運転手)に対して強調された最適化を用いた、音響技師による従来の手動の手順に従って、自動車内のサウンドシステムを同調するときに従来行われたように同調され、ここで、次に、一般的な手順に従って、ドライバの位置に対して主な注意が払われる。また、一般的な手順に従って、後部座席の位置がまた、同調処理の間に考慮されるが、前部座席位置における可聴印象の否定的な減損をもたらさない程度にだけ考慮される。同調の間、使用されるサウンドシステムにおいて利用可能なサラウンドアルゴリズム(例えば、論理7)は、オフに切り換えられ、純粋なステレオ信号の場合に対する同調だけが行われる。
【0044】
手動の同調の完了後、システム全体のインパルス応答の測定が、旅客空間における4つの位置(前部左側(運転手)、前部右側(交代運転手)、後部左側、および後部右側)において行われる。この処理の間、インパルス応答全体が4つのステップ、すなわち、まず同調されていないサウンドシステムのステップと、完全に同調されたサウンドシステムのステップと、位相(遅延線)に関してのみ同調されたサウンドシステムのステップと、レベル変化または振幅応答のそれぞれに関してのみ同調されたサウンドシステムのステップとで決定される。次に、これら全てのインパルス応答が解析される。
【0045】
測定されたインパルス応答を解析することに対しては、非常に多くの可能性がある。従って、例えば、時間領域に存在する完全なインパルス応答が、互いに比較され得るか、またはこれらのインパルス応答が、前もって適切なフィルタリングを受け、次に時間領域において互いに比較され得る。さらに、測定されたインパルス応答は、静的な周波数応答(振幅および位相の応答)、または関連する静的な群遅延応答を抽出して比較するために周波数領域に変換され得る。
【0046】
さらなる可能性は、インパルス応答の動的な特性を調査し、例えば、エネルギー減衰曲線、位相の減衰曲線、または群遅延の減衰曲線によってこれらを評価することである。さらなる可能性は、調査の間、インパルス応答の最小位相成分(時間のオフセットを有していない成分)だけに集中すること、またはインパルス応答のオールパスを含む成分(周波数依存の位相シフトを有する成分)だけを考慮することである。述べられた例は、調査のバリエーションの可能な範囲から一部を表すだけである。
【0047】
まず、インパルス応答の評価および解析の最良の結果に対する基準を表す解析方法を選択することが、調査のさらなる焦点であった。測定されたインパルス応答の非常に多くの様々な解析を使用して調べた後、次に、エネルギー減衰曲線が、解析方法として選択された。
【0048】
さらに、インパルス応答は、サウンドシステムに対する励起信号として使用される単一の正弦波パルスを用いて動的特性に対してさらに調査され、該正弦波パルスの周波数は、音響心理学的バークスケールに従って徐々に増加された。この方法(所謂Liberatoreの方法)において、人間の耳の音響心理学的特性、特に、人間の耳の周波数依存の統合特性が利用される。これに関連して、音響心理学的聴覚をモデリングする開始地点は、人間の耳、特に内耳の基本的な特性である。人間の内耳は、所謂「側頭骨」に嵌められており、圧縮不可能なリンパ液で満たされている。内耳は、約2.5回の巻きを有する巻貝(蝸牛)の形状を有する。次に、蝸牛は、平行な管から成り、上側および下側の管は、基底膜によって分離されている。この基底膜の上に、コルチ器官が、耳の感覚細胞と共に位置されている。基底膜が、音刺激によって振動させられる場合には、所謂進行波が形成される。つまり、波節、または波腹が生じない。このように、可聴処理に対して決定を行っている効果が生成され、基底膜における所謂周波数/位置の変換が、例えば、音響心理学的マスキング効果と耳の正確な周波数選択性とを説明する。
【0049】
人間の耳は、限定された周波数帯域の範囲内にある様々な音の刺激を組み合わせる(統合機能)。これらの周波数帯域は、臨界帯域と呼ばれるか、または臨界帯域幅CBとも呼ばれる。人間の耳が、これらの音によって生成された音響心理学的聴覚に関して、特定の周波数帯において生じる音を組み合わせ、共同(joint)聴覚を形成する基準を、臨界帯域幅は有する。臨界帯域の範囲内に配置する音の発生は、異なる臨界帯域において生じる音とは異なるように互いに影響する。例えば、1つの臨界帯域の範囲内で同じレベルを有する2つのトーンは、それらが異なる臨界帯域に配置されているときよりも素早く知覚される。
【0050】
エネルギーが同じであり、マスカーが、中心周波数としてテストトーンの周波数を有する周波数帯域にあるときには、マスカーの範囲内のテストトーンは聞き取られ得るので、臨界周波数の必要とされる帯域幅が決定され得る。低周波数において、臨界帯域幅は、100Hzの帯域幅を有する。500Hzを上回る周波数において、臨界帯域幅は、それぞれの臨界帯域の中心周波数の約20%の帯域幅を有する(Zwicker,E.;Fastl、H. Psychoacostics−Facts and Models、第2版、Springer−Verlag、Berlin/Heidelberg/New York、1999年)。
【0051】
全可聴領域にわたって臨界帯域を一列に並べることによって、聴覚指向の非線形の周波数尺度が獲得され、該周波数尺度は、臨界帯域率尺度(音質)と呼ばれ、単位「バーク」を有する。臨界帯域があらゆる位置において正確に1バークの同じ幅を有するように、バークは周波数軸の歪曲された尺度を表す。周波数と臨界帯域率尺度との非線形の関係は、基底膜における周波数/位置の変換に根差す。臨界帯域率尺度の関数は、マスキング閾値と音量との調査に基づいて、Zwickerによって表の形式で表された(Zwicker,E.;Fastl、H. Psychoacostics−Facts and Models、第2版、Springer−Verlag、Berlin/Heidelberg/New York、1999年を参照されたい)。0kHzから16kHzの可聴周波数帯において、丁度24個の臨界帯域が一列に並べられ得、その結果、関連する臨界帯域率尺度は、0バークから24バークとなる。
【0052】
上に述べられたLiberatoreの方法の用途に対して、これは、正弦波パルスによるサウンドシステムの励起が約20Hzで開始し、対応するように増加され、各場合において一時停止が続くということを意味する。これに続いて、正弦波パルスは、解析されるそれぞれのインパルス応答を用いてたたみ込みされ、その結果として、エネルギー減衰曲線と同様な結果が再び達成され、自動車の旅客空間におけるサウンドシステムの行動のさらに透徹した解析を可能にする。
【0053】
上に記述されたエネルギー減衰曲線によって達成された結果が、すなわち、同調されていないサウンドシステムのステップと、完全に同調されたサウンドシステムのステップと、位相(遅延線、クロスオーバフィルタ)に関してのみ同調されたサウンドシステムのステップと、レベル変化または振幅応答の調査下にあるリムジンのそれぞれ(4乗べきフィルタ、双線形フィルタ)に関して、音響技師またはサウンドエンジニアによって手動で同調されただけのサウンドシステムのステップとの4つのステップで測定されたインパルス応答全体に対して最初に示されている。これらのエネルギー減衰曲線が図1に3次元図で表されている。
【0054】
図1に示されている曲線は、調査されるべき聴覚立体感と音質とについての聴覚に関する音声周波数の決定部分範囲を表すので、図1に示されている曲線は、最大でf=2kHzの周波数領域の範囲内だけである。時間を伴う3次元表示の範囲は、この時間の後に、パルスによって励起された、サウンドシステムの任意の信号が、インパルス応答が調査されるべき聴覚立体感と音質とについての聴覚に関してさらなる寄与を提供しない程度まで、車両の内部空間において減衰されることを想定されているので、時間を伴う3次元表示の範囲は、約t=280msに制限されている。
【0055】
図1は、決定されたエネルギー減衰曲線(EDC)の4つの3次元表示を含む。4つ全ての表示において、Y軸は、対応する正弦波パルスが生じさせる後の、msにおける時間を示し、X軸は、この時点における各場合において測定されたレベルを示し、Z軸は、それぞれの正弦波パルスの周波数を示し、該周波数は、これらの表示において高周波から低周波に向けてZ軸に沿って描かれている。さらに、Hで印を付けられた範囲は、高位の測定されたレベルを表し、Lで印を付けられた範囲は、低位の測定された範囲を示す。高位のレベル(H)から低位のレベル(L)への転移が、T1およびT2によって識別される。図1の上部左側の表示は、最初に同調されておらず、以下において線形セットとも呼ばれる、車両のサウンドシステムに対するエネルギー減衰曲線を示す。図1の上部右側の表示は、位相(遅延線、クロスオーバフィルタ)に関して同調された、車両のサウンドシステムに対するエネルギー減衰曲線を示し、使用される調節は、以下において遅延セットとも呼ばれる。図1の下部左側の表示は、さらなるステップにおいてレベル変化または振幅応答の(4乗べきフィルタ、双線形フィルタ)それぞれに関してさらに同調された、車両のサウンドシステムに対するエネルギー減衰曲線を示し、使用される調節は、以下においてフィルタセットとも呼ばれる。最後に、図1の下部右側の表示は、上に記述された相互的方法で完全に同調された、車両のサウンドシステムに対するエネルギー減衰曲線を示し、この反復処理は、サウンドシステムの最終的な調節を達成するために、4乗べきフィルタおよび双線形フィルタと、遅延線およびクロスオーバフィルタとの両方に交互に戻ることを包含する。この処理の間に使用される調節は、以下において同調セットとも呼ばれる。
【0056】
最初に同調されていないサウンドシステムに対する車両の内部空間におけるインパルス応答のエネルギー減衰曲線から、直接音は強い変動を示し、反響は、様々な周波数帯域において、長くかつエネルギーが豊富であることが、図1の上部左側に見られ得る。サウンドシステムの同調は、通常、クロスオーバフィルタと遅延線とを同調することで始まる。経験によれば、これは、サウンドシステムを同調する際における最も時間がかかりかつ困難な作業を意味する。クロスオーバフィルタと遅延線とが、車両内のサウンドシステムの位相の調節のために調節された後、本事例においては、インパルス応答が測定され、インパルス応答のエネルギー減衰曲線が上部右側に示されている(遅延セット)。経験を積んだ音響技師によって手動で行われる遅延同調(位相の調節)は、主に、聴覚立体感および音質に対する所望の音印象に近づくために、反響を最小化することが明確に見られ得る。
【0057】
図1の下部左側に示されている曲線は、等化フィルタ(4乗べきフィルタおよび双曲線フィルタ)が、さらなる反復のステップではないステップにおけるクロスオーバフィルタと遅延線とに加えて、手動で同調された場合(フィルタセット)に対する、サウンドシステムのエネルギー減衰曲線である。振幅応答の良好な等化は、車両空間の室内の音響効果の共振により段々生じる個々の空間モードの減少と、こうして本質的に音質を改善する、直接音の一定の平滑化とをもたらすことが見られ得る。
【0058】
図1の最後の表示のような、下部右側の画像は、完全に同調された車両のエネルギー減衰曲線を示す(同調セット)。この場合において、上に記述された手順の反復、つまり、聴覚立体感と音質との聴覚に対する所望の音響効果に関してサウンドシステムの最終的な調節を達成するために、特に、4乗べきフィルタおよび双線形フィルタと、遅延線およびクロスオーバフィルタとの両方を繰り返し交互に同調することが、ここで、サウンドシステムの成分の同調の際に使用される。これに関連して、図1の下部右側における表示から、行われた調節が、ここで、位相同調の結果と振幅同調の結果との間に一種の妥協をもたらすことが見られ得る。一方において、反響は、最早、純粋な遅延同調(位相)におけるほど抑制されず、もう一方において、一部の空間モードが、再び、純粋なフィルタ同調(振幅同調)における場合よりもわずかに強調される。
【0059】
サウンドシステムの同調のさらなる特質が、この種の表示からより良好に見られ得るので、関係を例示するために、サウンドシステムの3次元のインパルス応答の正面図が、さらなる種類の表示として図2に選ばれている。図2に従った全ての表示において、X軸は、Hzでの正弦波パルスの周波数を示し、Y軸は、正弦波パルスの提示の終了後の時間を示す。さらに、Hで印を付けられた範囲は、やはり高位の測定されたレベルを表示し、Lで示された範囲は、低位の測定されたレベルを表示する。高位レベル(H)から低位レベル(L)への転移は、T1およびT2によって識別される。図2は、やはり、同調されていないサウンドシステムの場合に対する調査において使用されたサウンドシステム(線形セット、上部左側)と、位相に関して同調されたサウンドシステム(遅延セット、上部右側)と、振幅応答に関してさらに同調されたサウンドシステム(フィルタセット、下部左側)と、反復的な方法によって完全に同調されたサウンドシステム(同調セット、下部右側)との測定されたインパルス応答のエネルギー減衰曲線の表示を含む。
【0060】
図2から、例えば、良好に行われた遅延同調(位相)でさえ、低周波数における反響時間に全く影響を有さないか、またはほんのわずかに影響を有するだけであり、反響の持続期間は、低周波数から高周波数に向けてほぼ指数関数的に減少することが、上部右側の画像に見られ得る。さらに、振幅応答の等化(図2の下部左側における画像)が、車両の同調されていないサウンドシステム(図2の上部左側における画像)と比較して、個々の空間モードをそれぞれ明確に減少すること、または抑制することがどのように可能であるかが、図2におけるこの種の表示から容易に見られ得る。さらに、図1における表示と同様に、一部の空間モードが、再びより強調され、そして反響は、完全かつ相互に影響し合って同調された、車両のサウンドシステムにおける位相の最適な調節と振幅応答との間の妥協に基づいて、クロスオーバフィルタと遅延線とだけが位相に関して同調された今までどおりの場合(遅延セット)よりも、中心周波数帯域において部分的にずっとより強力になることが見られ得る。
【0061】
自動車におけるサウンドシステムの同調の際の音響技師の経験から既に分かっているように、振幅応答の良好な等化は、主に音質を改善し、良好な遅延同調は、主に聴覚立体感を改善する。振幅応答の同調に関する質的影響は、既に、このようになること、すなわち、伝達関数全体の平滑化と一部の特に顕著な空間モードの減少とを最初から期待されている。しかしながら、この形においてはまだ分かっていない実質的な結果が、遅延同調と振幅応答の等化との相互影響によって表される。
【0062】
従って、例えば、位相を最適化することに対する遅延同調は、同時に、遅延同調と同時に無条件に行われる振幅応答の等化を表す、測定された旅客空間における励起エネルギーの変位をもたらすことが、調査から見られ得る。多数の範囲において、これは、音印象に関する改善として、従って望ましいものとして現れ得るが、他の範囲においては、対照的に、劣化として、従って望ましくないものとして現れ得る。さらに、周波数に関する測定されたインパルス応答のエネルギーのこの変位は、先においては生じなかった一部の新たな空間モードの励起をもたらすが、同時に、先においてはより顕著であった他の空間モードの弱体化ももたらす。
【0063】
上記の望ましい効果とは別に、パラメトリックフィルタによる、振幅応答の等化は、一部の否定的な、従って望まれない結果をもたらす。なぜならば、必要とされる振幅応答を同調するこれらのフィルタは、同時に、位相応答を有しており、該位相応答は、同調処理において制御不能であり、かつ、遅延線によって先に行われた位相同調に否定的な効果を有し、従って反響エネルギーの増加、または別に聴覚立体感における減少をもたらすからである。しかしながら、同時に、最適に行われた位相同調または遅延同調の後であっても、非常に長い反響時間が、妥当な周波数領域内において依然として示されるので、非常に低い周波数における長い反響時間は、明らかに、空間的認識に否定的な効果を全く有さないことを調査が示した。
【0064】
行われた調査の解析から、サウンドシステムの同調において、遅延同調が完全に終了した後に、振幅応答は等化されるだけであるべきことが導き出され得る。なぜならば、遅延同調は、空間モードの周波数における励起の変位に寄与し、その結果、全体的な結果として生じる等化全体のさらなる調節の変更をもたらすからである。従って、振幅応答を同調することが、遅延同調の後に残っている空間モードに排他的に適用され、かつ、ラウドスピーカの周波数応答の等化とラウドスピーカの設置とに対して排他的に適用される。
【0065】
先に達成された位相同調の結果、従って空間画像と、同調されたサウンドシステムによって再生成された音声信号のステージとが、影響されないままであるように、ゼロ位相フィルタまたは線形位相フィルタを用いた振幅応答の同調を実装することがまた望ましい。しかしながら、同時に、ゼロ位相フィルタは空間領域においてのみ実装され得る。線形位相フィルタは、サウンドシステムの全チャンネルに対して軸方向に対称的な同調を呈し、一定の位相オフセットが生成されるような種類のものであり得る。
【0066】
これは、振幅応答の等化が、位相同調に望ましくない影響を全く有さずに達成することを可能にし、従って、これは独立して考慮され得る。このことは、同調処理全体を非常に簡略化する。なぜならば、このような処置は、位相同調と振幅同調との間の相互依存または相互影響を排除するからである。位相同調は、調査において記述されたように、クロスオーバフィルタと遅延線との同調を組み合わせることによってのみ実装される。
【0067】
さらに、サウンドシステムの同調を行う音響技師が、遅延線または遅延線に対する補足の代わりに、周波数全体にわたる任意の位相シフト(調節可能な群遅延)を調節する可能性を提供される場合に、さらに改善された結果が達成され得る。これは、反響のより良好な抑制を達成し、従って、特に、低周波数の範囲におけるより良好なステージを達成することを可能にし、遅延線を同調することによって既に達成された結果が、さらに改善され得る。
【0068】
反響の抑制における、クロスオーバフィルタの影響をさらに調査するために、遅延線だけに限られた同調を用いた測定、つまり、クロスオーバフィルタを同時に用いることのない測定が、図1および図2に示された測定とは別に、さらに行われた。関連する測定結果が、図3に示されており、位相同調におけるクロスオーバフィルタの影響が非常に明確に示されている。
【0069】
図3は、左側の表示において、図1と同様な正弦波パルスに対する測定されたエネルギー減衰曲線の3次元図を再び示しており、右側の表示において、図2の表示と同様な、この3次元表示の正面図を示している。図1および図2の上部右側の対応する表示と比較すると、図3における表示は、クロスオーバフィルタが同時になされる同調を用いないと、反響が、特定の周波数領域において、部分的にかなり増加されていることを明確に示す。これは、反響エネルギーにおける顕著な減少をもたらすものは、クロスオーバフィルタと遅延線とを同調することの組み合わせだけであることを示す。共同同調が反響エネルギーのかなりの減少をもたらす要因は、主に、クロスオーバフィルタの位相応答であるのか、または対応するラウドスピーカに対するクロスオーバフィルタの選択的な効果であるのかを、明確にすることが残されている。
【0070】
振幅応答を等化するために使用されるフィルタの位相応答の影響は、図1および図2の対応する表示から既に分かっており、クロスオーバフィルタを同調することによる影響と同様な大きさの範囲内で動く。クロスオーバフィルタの正しい設定が、同調の良好な結果、特に、良好な聴覚立体感を形成することに対して非常に重要であることが、図3を参照して示された調査結果から明らかに見られ得る。
【0071】
これに関連して、なぜ、音響事象の空間認識または空間局所限定が、反響時間または反響エネルギーそれぞれの減少の形式に非常に依存しているのかという疑問が生じる。この問題は、これは、所謂ハース効果によって説明され得る。特に最初の反射が、いつ、どのような振幅で、これらの反射が、調査位置に到着するかに依存して、空間認識の改善だけでなく減損をももたらすことを、ハースは測定した。ハースによる調査の結果によると、第1の反射が非常に早く(直接音の約10〜20ミリ秒後に)到着し、さらに、高い振幅を有するときにはいつでも、乏しい空間認識しか獲得されない。
【0072】
両方の条件が、通常、自動車の旅客空間において遭遇される。このことが、空間認識が、車両において常に乏しく、エネルギーの豊富な最初の反射ができる限り早く減衰するか、またはこれらの反射が非常に減衰される場合にだけ改善され得ることの理由である。これは、反射の減衰が位相同調によって行われることを必要とする。なぜならば、サウンドシステムの音響信号源を表す個々のラウドスピーカが、音声事象の合計が、わずかな反響だけをもたらすように、必要に応じて、関連のある位置に重ね合わされるように、ここで遅延され得るからである。
【0073】
これに関連して、なぜ、低周波領域において高く、高周波数に向かって減少する反響時間が、空間認識に否定的な効果を有さないのかという疑問がまた生じる。この疑問は、私たちの耳の生理機能、特に、内耳の基底膜の動作によって答えられ得る。基底膜は、一端において鼓膜に付着され、それから蝸牛の中に巻き上げられている。鼓膜から始まって、基底膜は厚さが減少する。鼓膜に付着される基底膜の厚い側の端において、基底膜は、進行波の形式の高周波によって振動され、基底膜の薄い側の端に近づくにつれて、低周波によって振動される。基底膜における周波数の分布は、さらに上で示されたバークスケールに対応する。
【0074】
次に、基底膜が、鼓膜を経由した音刺激によって励起された場合には、音刺激の周波数要素に対応する進行波の形式で、基底膜の範囲に沿った異なる位置において機械的に振動される。振動が励起されると、振動は(鼓膜に近い)厚い前端において急速に減衰し、基底膜の薄い後端において比較的遅く減衰する。音刺激が、基底膜の同じ範囲に関連し、かつ、一定のレベルを下回るときに、この減衰処理は、この処理が知覚されない間に、基底膜の振動範囲にさらに到着する音刺激をもたらす(従って、例えば、サウンドシステムの同調の間に考慮に入れる必要はない)。この効果は、音響心理学において述べられており、マスキングと呼ばれる。
【0075】
マスキング効果が全ての人間の耳に対して決定され得るということを、様々な調査が示している(例えば、Moor、B.C.J:An Introduction to the Psychology of Hearing、Academic、London、1992年、およびZwicker、E.:Psychoacoustics、Springer Verlag、Berlin Heidelberg、1990年を参照)。他の音響心理学的知覚とは対照的に、個々の差がほとんど明確ではなく、無視され得、その結果、マスキングの概ね有効な音響心理学的モデルが導き出され得る。本事例において、マスキングの音響心理学的な局面が、例えば、必要に応じてサウンドシステムを同調するための関連する技術的消費を不必要に増加させることなく、空間モードまたは反響の必要な減少のために有意義な仕様を達成するために適用される。さらに、これらのマスキング効果は、特に、サウンドシステムの少なくとも部分的には自動化された同調に対する必要なパラメータを決定するためにも使用される。
【0076】
マスキングの音響心理学的効果において、マスキング閾値の様々な変化をもたらす、マスキングの2つの重要な形式の間で区別が行われる。これらは、周波数領域における同時マスキングと、時間領域における時間的マスキングとである。さらに、これらの2つの種類のマスキングの混合された形式が、環境のノイズまたは音楽などの信号において生じる。
【0077】
同時マスキングの場合において、マスキング音と有用な信号とが同時に生じる。この効果を調査するために、テスト信号とマスキングノイズとが、様々な年齢および性別の様々なテスト対象に提供される。マスカーの形状、帯域幅、振幅および/または周波数が、頻繁に正弦波になるテスト信号が、やっと聞き取ることができるように変更される場合には、同時マスキングに対するマスキング閾値が、可聴領域の全帯域幅にわたって、すなわち、実質的に、20Hzと20kHzとの間の周波数に対して決定され得る。
【0078】
図4は、ホワイトノイズによる正弦波のテストトーンのマスキングを示す。図4は、テストトーンの周波数に依存して、音強度1WNを有するホワイトノイズによってちょうどマスキングされるテストトーンの音強度を示しており、可聴閾値が、点線で表示されている。正弦波トーンのマスキング閾値は、ホワイトノイズによってマスキングされるときに、以下のように獲得される:500Hz未満では、正弦波トーンのマスキング閾値は、ホワイトノイズの音強度よりも約17dB上回る。500Hzを上回ると、マスキング閾値は、周波数が2倍になることに対応して、10毎に約10dB、またはそれぞれ1オクターブ毎に約3dB上昇する。
【0079】
マスキング閾値の周波数依存性は、様々な中心周波数における耳の様々な臨界帯域幅(CB)から獲得される。臨界帯域にある音強度が、知覚された聴覚に組み合わされるので、より高い全体的強度が、周波数とは関係のないレベルのホワイトノイズを有するより広い周波数帯域におけるより高い周波数において獲得される。従って、音のラウドネス、すなわち、知覚された音強度がまた、増加され、増加されたマスキング閾値をもたらす。これは、例えば、マスカーの音圧レベルのような純粋に物理的な量は、マスキングの音響心理学的効果をモデリングするために、すなわち、音圧レベルおよび音強度のような測定量からそれぞれマスキング閾値、またはマスキングを導き出すために適切ではないが、ラウドネスNのような音響心理学的な量が使用されなければならないということを意味する。マスキング音のスペクトル分布および時間による変化がまた、これに関連して重要な役割を演じ、このことは以下の記述からも明らかになる。
【0080】
マスキング閾値が、例えば、正弦波トーンのような狭い帯域のマスカー、狭い帯域のノイズまたは臨界帯域幅のノイズに対して決定される場合には、結果としてのスペクトルのマスキング閾値はまた、可聴閾値と比較して、マスカー自体がスペクトル成分を有していない範囲において上昇されていることが分かる。使用される狭い帯域のノイズは、臨界帯域幅のノイズであり、該臨界帯域幅のノイズのレベルは、LCBと呼ばれる。
【0081】
図5は、1kHzの中心周波数fcの臨界帯域幅のノイズによって測定された正弦波トーンのマスキング閾値を、レベルLTを有するテストトーンの周波数fTに依存したマスカーおよび様々な音圧レベルとして示す。図4におけるように、可聴閾値は点線によって示されている。マスカーのレベルが20dBだけ上昇されるときには、各事例においてマスキング閾値のピークがまた、20dBだけ上昇し、従って、マスキングピーク値は、臨界帯域幅のマスキングノイズのレベルLCBに直線的に依存することが、図5から見られ得る。測定されたマスキング閾値の下側の縁、すなわち、中心周波数fcを下回る低周波数の方向に延びるマスキングは、マスカーのレベルLCBとは関係のない約100dB/オクターブの勾配を有する。
【0082】
マスキング閾値の上側の縁において、この大きな勾配は、40dBを下回るマスカーのレベルLCBに対して達成されるだけである。マスカーのレベルLCBが増加するにつれて、マスキング閾値の上側の縁は、段々と平坦になり、勾配は、LCB100dBにおいて、約−25dB/オクターブになる。これは、マスカーの中心周波数fcに対してより高い周波数の方向に延びるマスキングは、マスキング音が存在する周波数帯域をはるかに超えて延びるということを意味する。耳は、狭い帯域の臨界帯域幅のノイズに対する1kHz以外の中心周波数おいて同様に振舞う。マスキング閾値の上側の縁と下側の縁との勾配は、図6から見られ得るように、マスカーの中心周波数にほとんど関係がない。
【0083】
図6は、60dBのレベルLCBと250Hz、1kHz、および4kHzの3つの異なる中心周波数とを有する、狭い帯域の臨界帯域幅のノイズからのマスカーに対するマスキング閾値を示す。250Hzの中心周波数を有するマスカーに対する下側の縁の勾配の明らかにより平坦な進行は、可聴閾値への変位によってもたらされており、該可聴閾値は、既に、この低い周波数におけるより高いレベルにある。示されたもののような効果がまた、マスキングの音響心理学的モデルの実装において含まれる。可聴閾値は再び、図6において点線によって示されている。正弦波のテストトーンが、1kHzの周波数の別の正弦波トーンによってマスキングされる場合には、図7に示されたようなマスキング閾値が、テストトーンの周波数とマスカーLMのレベルとに従って獲得される。既に記述したように、マスカーのレベルに依存した上側の縁の所謂扇形の開きが明確に見られ得るが、マスキング閾値の下側の縁は、周波数とレベルとにほとんど関係がない。上側の勾配に対して、マスカーのレベルに依存して、約−100dB/オクターブ〜−25dB/オクターブが獲得され、約−100dB/オクターブが、下側の勾配に対して獲得される。
【0084】
マスキングトーンのレベルLMとマスキング閾値LTのピークとの間で、約12dBの差が獲得され、約12dBの差は、マスカーとしての臨界帯域幅のノイズを有する差よりも非常に大きい。これは、マスカーの2つの正弦波トーンの強度と、同じ周波数におけるテストトーンの強度とが、ノイズおよびテストトーンとしての正弦波トーンとは対照的に加えられ、結果として、ずっとより早く知覚され、すなわち、テストトーンに対するより低いレベルにおいて知覚されるという事実によるものである。さらに、増加された知覚可能性または減少されたマスキングそれぞれをまたもたらすさらなるトーン、例えば、うなりが、2つの正弦波トーンの同時提示をもたらす。
【0085】
記述された同時マスキングとは別に、マスキングのさらなる音響心理学的効果、所謂時間的マスキングが存在する。2つの種類の時間的マスキングの間で、区別が行われる。プレマスキングは、マスカーがオンに切り換えられる前においてさえ、マスキング効果が生じる状況を指す。ポストマスキングは、マスカーがオフに切り換えられた後に、マスキング閾値が、可聴閾値にすぐには降下しないという効果である。プレマスキングとポストマスキングとが、図8に概略的に示されており、音パルスのマスキング効果と関連して以下でさらに詳細に述べられる。
【0086】
時間的なプレマスキングとポストマスキングとの効果を決定するために、短い持続期間のテストトーンパルスが、マスキング効果の対応する時間分解を達成するために使用されなければならない。可聴閾値とマスキング閾値との両方が、テストトーンの持続期間に依存している。さらに、2つの異なる効果が公知である。これらは、テストパルスの持続期間に関するラウドネス知覚の依存性(図9を参照)と、短いトーンパルスの反復率とラウドネス知覚との間の関係(図10を参照)とである。20msの持続期間のパルスの音圧レベルが、同一の音強度感覚を誘発するために、持続期間200msのパルスの音圧レベルと比較して、10dBだけ増加されなければならない。200msを上回るパルスの持続期間においては、トーンパルスのラウドネスは、持続期間に関係がない。約200msを上回る持続期間を有する処理は、人間の耳にとって、定常処理を表す。これらの音が約200msよりも短いときには、音の時間構造の音響心理学的に証明可能な効果が存在する。
【0087】
図9は、持続期間におけるテストトーンパルスの知覚の依存性を示す。点線は、持続期間に依存して、200Hz、1kHzおよび4kHzの周波数fT-に対するテストトーンパルスの可聴閾値TQを示しており、これらの可聴閾値は、200msを下回るテストトーンの持続期間の間、10毎に約10dB上昇する。この性質は、テストトーンの周波数とは関係なく、テストトーンの異なる周波数fTに対する線の絶対的な位置は、これらの異なる周波数における異なる可聴閾値を反映する。
【0088】
実線は、40dBおよび60dBのレベルLUMNを有する一様なマスキングノイズによって、テストトーンがマスキングされたときの、マスキング閾値を表す。一様なマスキングノイズが、全可聴領域の範囲内、すなわち、0バーク〜24バークの臨界帯域全体にわたって、一定のマスキング閾値を有するように、一様なマスキングノイズは定義され、これは、示されたマスキング閾値の変化は、テストトーンの周波数fTに関係がないことを意味する。可聴閾値TQと丁度同じように、マスキング閾値はまた、200msを下回るテストトーンの持続期間の間、10毎に約10dB上昇する。
【0089】
図10は、周波数3kHzと持続期間3msとを有するテストトーンパルスの反復率に関するマスキング閾値の依存性を示す。マスカーはやはり一様なマスキングノイズであり、該一様なマスキングノイズは、長方形に変調される。例えば、一様なマスキングノイズは、定期的にオンとオフを切り換えられる。一様なマスキングノイズの調査された変調周波数は、5Hz、20Hzおよび100Hzである。テストトーンは、一様なマスキングノイズの変調周波数と同一な反復率を用いて提示され、時間におけるテストトーンパルスの位置が、テストの実施の間に、変調されたノイズの時間依存のマスキング閾値を獲得するように対応して変更される。
【0090】
図10の横座標に沿って、マスカーの持続期間TMに対して標準化されたテストトーンパルスの時間による変位が示されており、縦座標は、決定されたマスキング閾値におけるテストトーンパルスのレベルを示す。点線は、変調されていないマスカー、すなわち、他の点では同一な特性の、継続的に存在するマスカーに対する基準点としてテストトーンパルスのマスキング閾値を表す。プレマスキングの縁の勾配と比較して、ポストマスキングのより少ない縁の勾配が、図10にやはり明らかに見られ得る。長方形に変調されたマスカーがオンに切り換えられた後に、短いピークがマスキング閾値から生成される。この効果はオーバーシュートと呼ばれている。マスカーの停止における変調された一様なマスキングノイズに対するマスキング閾値のレベルの最大下落ΔLは、定常一様なマスキングノイズに対するマスキング閾値と比較して、一様なマスキングノイズの変調周波数を上昇させて下落する。例えば、テストトーンパルスのマスキング閾値の時間による変化が、可聴閾値によってあらかじめ決定された最小値に向かって段々と低下し得る。
【0091】
マスカーが完全にオンに切り換えられる前に、マスカーが既にテストトーンパルスをマスキングすることが、再び図10から見られ得る。先に既に述べたように、この効果は、プレマスキングと呼ばれ、大きなトーン、例えば、高い音圧レベルを有するトーンとノイズが、より静かなトーンよりも早い時間に耳によって処理され得るという事実によるものである。プレマスキング効果は、ポストマスキング効果と比べてほとんどはっきりしておらず、従って、対応するアルゴリズムを簡略化するために、音響心理学的なモデルの適用においては無視される。マスカーがオフに切り換えられた後、可聴閾値は可聴閾値にすぐには低下しないが、約200msの期間の後に可聴閾値に到達するだけである。効果は、内耳の基底膜における進行波の減衰によって説明され得る。本調査、および本調査から開発される方法の場合において、これは、この方法でマスキングされた音声事象が、音声信号に物理的に存在するが、音声事象の音響効果に関して、音の環境の知覚された聴覚立体感と音質とに全く寄与しないことを意味する。さらに、マスカーの帯域幅はまた、ポストマスキングの持続期間に直接的な影響を有する。各個々の臨界帯域において、この臨界帯域に属するマスカーの成分が、図11および図12に対応するポストマスキングを生成する。
【0092】
図11は、500msの持続期間を有するホワイトノイズの長方形のマスカーの終了後の時間tdに提示されるテストトーンとして、20μsの持続期間を有するガウスのパルスのマスキング閾値のレベル変化LTを例示し、ホワイトノイズの音圧レベルLWRは、3つのレベル40dB、60dBおよび80dBを含む。ホワイトノイズのマスカーのポストマスキングは、スペクトルの影響がない状態で測定され得る。なぜならば、20μsの短い持続期間のガウスのテストトーンはまた、人間の耳の知覚可能な周波数領域に関して、ホワイトノイズと似た広帯域のスペクトル分布を示すからである。
【0093】
図11における実線の曲線は、測定によって獲得されたポストマスキングの進行を表しており、該曲線は、やはり、マスカーのレベルLWRとは関係がなく、約200ms後に、テストトーンの可聴閾値に対する値に到達し、該テストトーンの可聴閾値に対する値は、ここで使用される短いテストトーンに対して約40dBである。10msの時定数を有するポストマスキングの指数関数的な減衰に対応する曲線が、図11に点線で示されている。このような単純な近似だけが、大きいレベルのマスカーに対して有効であり得、可聴閾値の周辺におけるポストマスキングの進行を決して示さない。
【0094】
ポストマスキングは、マスカーの持続期間に依存している。図12において、60dBの音圧レベルLGVRと5msの持続期間TMとを有する一様なマスキングノイズから成る長方形に変調されたマスカーがオフに切り換えられた後の、持続期間5msおよび2kHzの周波数fTのガウスのテストトーンパルスのマスキング閾値が、遅延時間tdの関数として点線で示されている。実線は、テストトーンパルスと一様なマスキングノイズとに対して他の点では同一であるパラメータを有する、200msの持続期間TMのマスカーに対するマスキング閾値である。
【0095】
200msの持続期間TMのマスカーに対して決定されたポストマスキングは、200msよりも長い持続期間TMの、他の点では同一であるパラメータを有する全てのマスカーに対しても見られるポストマスキングに対応する。より短い持続期間であるが、他の点では同一であるパラメータ(例えば、スペクトルの成分およびレベル)のマスカーに対して、マスカーの5msの持続期間TMに対するマスキング閾値の変化から見られ得るように、ポストマスキング効果は減少させられる。マスキングの音響心理学的モデリングのようなアルゴリズムおよび方法における音響心理学的マスキング効果を利用することはまた、複合的な複雑なマスカー、または追加的に重ね合わされたいくつかの個々のマスカーの場合に、結果としてのどのマスキングが獲得されるかということに関する知識を必要とする。
【0096】
多数のマスカーが同時に生じたときに、同時マスキングが存在する。ごくわずかな現実の音が、正弦波トーンのような純粋な音と比較可能である。例えば、ボイス信号を除いた楽器から発せられたトーンはまた、概して、比較的に多くの数の高調波を備えている。部分的なトーンのレベルの成分に依存して、結果としてのマスキング閾値は大きく異なって形成され得る。
【0097】
図13は、複合的な音よる同時マスキング、すなわち、励起の周波数とレベルとに依存した、周波数200Hzの正弦波トーンの10個の高調波による正弦波のテストトーンの同時マスキングに対するマスキング閾値を示す。全ての高調波は、同じ音圧レベルを有するが、それらの位相角は統計的に分布されている。図13は、各場合における部分的なトーンの全レベルがそれぞれ40dBと60dBとである2つの場合に対する、結果としてのマスキング閾値を示す。基準トーンと第1の4個の高調波とが、異なる臨界帯域においてそれぞれ分離される。従って、マスキング閾値のピークに対する、これらの複合的な音の成分のマスキング成分の追加的な重ね合わせはない。
【0098】
しかしながら、上側の縁と下側の縁との重ね合わせと、マスキング効果の追加による結果としての下降とが明らかに見られ得、その下降は、最低点においてさえも、依然として明らかに可聴閾値を上回っている。対照的に、上側の高調波は、人間の耳の臨界帯域幅の範囲内で増加するように配置されている。この臨界帯域幅において、個々のマスキング閾値の明らかに強固で追加的な重ね合わせがある。結果として、同時マスカーの追加は、マスカーの強度を加算することによっては計算され得ないが、その代わりに、マスキングの音響心理学的モデルを記述するために、個々の特定のラウドネスを加算することによって、獲得されなければならない。
【0099】
時間変動信号の音声信号スペクトルから励起の分布を形成するために、この場合に対して知られる、正弦波トーンのマスキング閾値の変化が、狭帯域ノイズによるマスキングの基準として使用される。中心の励起(臨界帯域の範囲内)と縁の励起(臨界帯域の外側)との間で、区別が行われる。例えば、正弦波トーンの音響心理学的な中心の励起、または臨界帯域幅を下回る帯域幅を有する狭帯域ノイズの音響心理学的な中心の励起は、物理的な音の強度に等しい。そうでなければ、音スペクトルによって含まれる臨界帯域に対する対応する配分が行われる。このように、受信する時間変動ノイズの強度密度スペクトルから、音響心理学的な励起の分布が形成される。音響心理学的な励起の分布は、特定ラウドネスと呼ばれている。複合的な音声信号の場合において、結果としての全ラウドネスは、臨界帯域の範囲尺度に沿った可聴領域、すなわち、0バークから24バークの範囲内の全音響心理学的な励起の特定ラウドネスに対する積分であり、対応する時間による変化も示す。この全ラウドネスから、次に、マスキング閾値が、ラウドネスとマスキングとの間の既知の関係に基づいて形成され、時間効果の考慮の下、このマスキング閾値は、それぞれの臨界帯域の範囲内の音の終了後約200ms以内に、可聴閾値に減衰する(図11、ポストマスキングをまた参照)。
【0100】
このように、本明細書において使用される音響心理学的マスキングモデルは、上記の一部または全てのマスキング効果の考慮によって達成される。上記の図面と説明とから、どのマスキング効果が、提示された音声信号の音圧レベルと、スペクトル成分と、時間による変化とによって生成されるか、およびどのように、これらのマスキング効果が、サウンドシステムの同調における物理的な量を調節するために必要なパラメータを導き出すために利用され得るかが見られ得る。目的は、例えば、反響時間を減少させるために、マスキング効果によって、人間の耳に必要である程度にまで消耗を減少させることである。上に記述された内耳の基底膜の生理機能によって、記述されたポストマスキングは、低い周波数において比較的長い期間にわたり行われ、より高周波数に向かって段々と減少する。上で挙げられた、反響の様々な効果に関する疑問はまた、ポストマスキングの周波数依存性に関する音響心理学的効果で答えられ得る。さらなる進行において、マスキングの知識がまた、自動車におけるサウンドシステムの少なくとも部分的な自動同調を行うために適切な仕様を定義するために使用される。
【0101】
さらに、変調の程度に関する音質の依存性がまた調査された。ここで、変調の程度は、周波数に対する、直接音の振幅の変動である。変調の程度が小さい場合、すなわち、周波数に対する振幅の差が小さい場合に、有用な信号のほんのわずかな劣化(discoloration)あり、結果として、音質もまた改善される。なぜならば、サウンドシステムを経由して提供される音が、大いにより自然な音印象を提供するからである。上に述べられたように、これに関連するさらなる発見が、Liberatoreらに従った解析方法によって、インパルス応答から、特に動的な性質に関して獲得され得、該解析方法の一部が、以下の文章に示される。
【0102】
図14は、500Hzの一定の周波数において、サウンドシステムによって伝達された正弦波パルスの、時間による変化を示す。図14は、同調されていないサウンドシステム(線形セット、上部左側)と、位相に関して同調されたサウンドシステム(遅延セット、上部右側)と、振幅応答に関してさらに同調されたサウンドシステム(フィルタセット、下部左側)と、反復的な方法で完全に同調されたサウンドシステム(同調セット、下部右側)との場合に対して測定された正弦波パルスの表示を含む。各場合における、図14に従った4つの表示の横座標は、msで時間を示し、各場合における、図14に従った4つの表示の縦座標は、線形の表示において測定された振幅を示す。正弦波パルスの提示の間と、約320msの時間の後の、正弦波パルスがオフに切り換えられた後(減衰性質)とが明確に区別され得る。
【0103】
図14から、遅延同調は、主に、線形同調と比較して、必要に応じて、遅延特性が近似であり、それ以上により高い周波数成分をほとんど有さない程度にまで、応答特性と遅延特性とを改善することが上部右側における表示に見られ得る。さらに、さらなるオーバーシュートは、線形同調(図14の上部左側)と比較して、応答特性に見られ得ない。線形同調における正弦波パルスの開始のわずか後のこのオーバーシュートは、最初に、直接音が存在し、次に、最初の反射が破壊的な干渉(部分的減衰)をもたらすという事実によるものである。結果として、正弦波パルスの開始のわずかに後に、振幅は、可能な最大値よりも低い値に非常に急激に降下する。
【0104】
線形同調と比較して、図14の下部左側に従った振幅応答の同調は、正弦波パルスの定常にされた状態の間の変調の程度の減少をもたらす。図14の上部右側に従った遅延同調後の結果とは対照的に、応答特性および遅延特性が、図14の上部左側に従った線形同調と比較して、ほんのわずかに改善されるだけである。サウンドシステムの完全に反復された同調の後、先に述べられた、遅延同調(位相)と振幅応答の同調(等化)との間の非理想的な妥協が、再び見られ得る(図14下部右側)。線形同調(図14上部左側)と比較して、変調の程度は、顕著に減少されるが、応答特性と減衰特性とは、ほとんど改善されないか、またはわずかに改善されるだけである。
【0105】
図15は、図14に従った正弦波パルスの時間による変化から、対応する解析によって獲得されたスペクトログラムの時間による変化を示す。図15は、車両の内部空間において測定され、かつ、同調されていないサウンドシステム(線形セット、上部左側)と、位相に関して同調されたサウンドシステム(遅延セット、上部右側)と、振幅応答に関してさらに同調されたサウンドシステム(フィルタセット、下部左側)と、反復的な方法で完全に同調されたサウンドシステム(同調セット、下部右側)との場合に対して、サウンドシステムによって再現された正弦波パルスのスペクトログラム表示を含む。やはり、時間は、図15に従った4つ全ての表示の横座標に沿ってmsで描かれており、図15に従った4つの表示の縦座標は、一様な尺度においてHzで周波数を示す。範囲HLは、測定された高い音圧レベルを示し(約320msの期間の間の500Hzにおける明確な振幅を参照)、範囲LLは、やはり、測定された低い音圧レベルを示す。
【0106】
先に述べられた変調の程度は、この種の表示においては不適切であるとしてのみ見られ得るが、位相の同調の効果(遅延セット)は、非常に明確に見られ得る。図15の上部右側(遅延セット)におけるレベルの一様な変化に見られ得るように、位相の同調は、線形同調(図15上部左側)と比較して、500Hzの非常に明確な基準周波数とは別に、正弦波パルスのスペクトルにおける周波数成分の非常に一様な分布をもたらす。これは、線形同調とは異なり、程度の強い変調を示す顕著なピークが、遅延同調の後に、考慮された周波数領域のうちの任意のものにおいて生じないことを意味する。音響心理学からの発見を考慮に入れて、等化を行うときに、正弦波パルスの時間による変化におけるピークに参照が行われるが、定常な最終的な値または絶対値の平均それぞれには参照が行われない場合に、それは有利であることがまた分かった。
【0107】
図16は、各場合において500Hzの正弦波パルスを用いて決定された、調査されたサウンドシステムの伝達関数を示しており、該500Hzの正弦波パルスは、測定された周波数領域を上回る周波数で分布されており、測定された周波数領域は、やはり、聴覚立体感と音質とに関して聴覚に対して決定された範囲(本事例においては最大で2kHzをわずかに上回る)に制限される。図16の表示において、使用される正弦波パルスの周波数は、各場合において、横座標に沿って対数的な表示で描かれており、測定位置において決定された関連する振幅が縦座標に沿ってdBで描かれている。さらに、測定された振幅の3つの異なる評価が、図16の4つの図における各場合において示された3つの伝達関数を獲得するために、この一連の測定において行われている。これらは、提示された正弦波パルスの上で述べられたピーク値(図16におけるHL曲線、パルスのピーク値を参照)と、正弦波パルスがオフに切り換えられた後の25msの時間で決定されたそれぞれのレベル値(図16の曲線TL、25ms後のパルスの減衰値を参照)とを提示された正弦波パルスの持続期間にわたり形成された正弦波パルスの絶対平均値(図16におけるLL曲線、パルス平均値を参照)である。平均の計算のために、約320msであるパルスの全長が使用される。25ms後のこのパルスの減衰値は、この時点における、正弦波パルスによって励起されたサウンドシステムの減衰の性質の基準を表す。図16は、再び、車両の内部空間において測定され、かつ、同調されていないサウンドシステム(線形セット、上部左側)と、位相に関して同調されたサウンドシステム(遅延セット、上部右側)と、振幅応答に関してさらに同調されたサウンドシステム(フィルタセット、下部左側)と、反復的な方法で完全に同調されたサウンドシステム(同調セット、下部右側)との場合に対して、サウンドシステムによって再現された正弦波パルスの伝達関数の表示を含む。図16に従った4つの表示の横座標は、各場合において、対数的尺度において正弦波パルスの周波数をHzで示し、図16に従った4つの表示の縦座標は、各場合において測定されたレベルをdBで示す。
【0108】
図16から見られ得るように、提示された正弦波パルスの測定されたピーク値(図16における曲線HL、パルスのピーク値を参照)の曲線と、正弦波パルスがオフに切り換えられた後の25msの時間で決定されたレベル値(図16の曲線TL、25ms後のパルスの減衰値を参照)の曲線とは、各場合において、提示された正弦波パルスの持続期間にわたり形成された正弦波パルスの絶対平均値(図16における曲線LL、パルス平均値を参照)の曲線と、正弦波パルスがオフに切り換えられた後の25msの時間で決定されたレベル値の曲線とよりも、サウンドシステム同調の4つ全ての変化における周波数にわたって非常により似た変化を示す。この理由で、25ms後のパルスの減衰値(減衰の性質)とパルスのピーク値(正弦波パルスのピーク値)との差が、各場合において形成される。差を形成するために、特にそれらの応答を使用する主な理由は、ピークおよび減衰応答は、スピーカの転動の挙動に非常により多く対応し、特定の室内の特性にはあまり対応しておらず、互いにより非常に正確に比較され得るという事実に基づいている。それぞれの結果が、曲線MLによって図16に示されている(図16における減衰対ピークの差を参照)。図16の図における黒い直線は、基準点として−12dBの差を表す。
【0109】
図16の下部左側の図、すなわち、純粋なフィルタセットを有するサウンドシステム(振幅応答に関して同調されたサウンドシステム)のインパルス応答において、調べられる車両の内部空間において等化するために、どの質的な変化を標的関数が有するべきであるかということが、パルスの平均値の曲線と、パルスのピーク値の曲線と、25ms後のパルス減衰値の曲線とから見られ得る。音響の専門家によって行われた、自動車内のサウンドシステムの等化は、周波数応答に関しては全く平坦ではないが、低周波数領域においてオーバーシュートを示し、該オーバーシュートは、周波数が増加することにつれて段々少なくなる。上の図における例において、平坦な曲線への転移は、f=約500Hzにおいて生じる。このように、聴覚立体感と音質とに関して最適な聴覚印象を達成することによるサウンドシステムの手動の同調の間に、当然、音響の専門家によって暗黙のうちに導入されているこの等化の音響心理学的特性を考慮に入れるために、達成された測定結果は、例えば、自動的な方法において、どのように振幅応答が等化されるかを示す。
【0110】
音響心理学的に関連する変更だけが、サウンドシステムの同調において導き出されるような方法で、振幅応答を評価することとは別に、測定されたインパルス応答からサウンドシステムを等化するために、音響心理学的に関連する特徴を抽出するか、または導き出す別のオプションがある。例えば、Johnstonに従った音響心理学的なモデルが、それから必要な等化を推測するために使用され得る。Johnstonのモデルは、
1.ホワイトノイズ信号のシーケンスのマスキング閾値を決定することと、
2.測定されたインパルス応答を用いて、ホワイトノイズのこのシーケンスをフィルタリングすることと、
3.ホワイトノイズのフィルタリングされたシーケンスのマスキング閾値を決定することと、
4.ステップ1からステップ3の2つのマスキング閾値の間の差を決定することと
の4つの重要なステップを包含する。
【0111】
ホワイトノイズ測定信号のレベルは、それほど重要ではないが、約80dB SPLの一般的な再生レベルが有益である。
【0112】
ステップ4において決定された1から3の2つのマスキング閾値の間の差が、サウンドシステムの等化器を調節するために、音響心理学的原理の基準から導き出された標的関数と考えられる。なぜならば、ステップ4において決定された1から3の2つのマスキング閾値の間の差は、広帯域の信号(ホワイトノイズ)のマスキング効果に基づいているからである。良好な近似におけるホワイトノイズは、例えば、サウンドシステムにおける音楽の音声提示によって、広帯域の信号をそれが存在するものとして表す。
【0113】
図17は、基準信号の、決定されたシミュレーションマスキング閾値(フィルタリングされていないホワイトノイズ、ステップ1、MC1で印を付けられたマスキング曲線)と、ステップ2におけるサウンドシステムのインパルス応答を用いてフィルタリングされた信号の決定されたマスキング閾値(ステップ3)(マスキング曲線MC2)と、点線で示されているような、可聴閾値の変化(音響心理学的マスキング効果に関して上記を参照)とを示す。周波数は、図17の横座標に沿って対数的な表示で描かれており、図17の縦座標は、dBで決定された閾値のレベルを示す。
【0114】
図18は、サウンドシステムの最初の振幅応答OFRと、比較として、Johnstonに従った音響心理学的方法によって決定された修正された振幅応答MFRの変化とを示す。つまり、「最初の強度周波数応答」として示された曲線は、自動車のキャビネットの内側の最初に測定されたインパルス応答の強度周波数応答を示し、「修正された強度周波数応答」として示された曲線は、Johnstonのマスキングモデルによって届けられた対応する絶対的なマスキング閾値を示す。周波数は、図18の横座標に沿って対数的な表示で描かれ、かつ、図18の縦座標は、レベルをdBで示す。
【0115】
図19は、フィルタリングされたホワイトノイズおよびフィルタリングされていないホワイトノイズの、決定された2つのマスキング閾値の差によって、Johnstonの方法から獲得された等化の進行を例示する。周波数は、再び、図19の横座標に沿って対数的な表示で描かれ、図19の縦座標は、レベルをdBで示す。図17から図19を共に見ると、聴覚の音響心理学的特徴(例えば、マスキング閾値)にも向けられている、サウンドシステムを等化するための測定がまた、Johnstonの方法によって決定され得ることが見られ得る。
【0116】
調査の間、サウンドシステムの同調を行うときの、さらに興味のある音響技師の手順が見つけられた。サウンドシステムの手動の同調において、実行している音響技師は、頻繁に、追加的または排他的に、ある周波数における等化のための同調ポイントを設定し、該周波数において、同調される空間(この場合、車両の内側)が、振幅応答においてオーバーショットを示しており、たいていはわずかにより高い周波数における等化のための同調ポイントもまた設定する。これは、やはり、マスキングの音響心理学的効果で説明され得る。従って、音声事象のマスキング閾値が、低周波数に向けてというよりもより高い周波数に向けて、より浅く降下する。結果として、例えば、同調される空間における共振によってもたらされたマスキングはまた、それぞれのレベルのオーバーショットの中心周波数から開始し、より低い周波数の方向よりもより高い周波数に向けたより広い範囲にわたって顕著になる。従って、等化のために使用されるフィルタはまた、理想的には、共通して使用される等化(EQ)フィルタ、バンドパス(BP)フィルタ、またはバンドストップ(BS)フィルタにおける場合のような鐘状の減衰曲線を有するべきではない。この理由で、所謂ガンマトーンフィルタが、信号の聴覚的補正フィルタリングに推薦される(例えば、B.Moore、B.Glasberg、「Suggested formula for calculating auditory filter bandwidths and excitation patterns」、Journal of the Acoustical Society of America、74:750−753、1983年、およびRoy D.Patterson、John Holds−worth、「A Functional Model of Neural Activity Patterns and Auditory Images」、Advances in Speech,Hearing and Language Processing、Vol.3、JAI Press、London、1991年を参照)。
【0117】
これらの聴覚的な補正のガンマトーンフィルタが、音声事象に対する人間の内耳の基底膜の応答をシュミレーションするために使用される。周波数領域におけるマスキング効果を考慮に入れると、上に記述されたように、周波数が、ガンマトーンフィルタに関する等価方形幅とも呼ばれる臨界帯域幅(CB)または臨界帯域に到達する(バーク尺度を参照)。これらの聴覚補正フィルタの分布密度はある関数によって記述され、該関数は、本質的には、500Hzまでの直線であり、それからより高い周波数に対数的に向かう(バーク尺度を参照)。ERB帯域幅は、Hzにおける中心周波数fcの関数
ERB=24.7+0.108・fc
として計算され得る。
【0118】
ガンマトーンフィルタから形成されるフィルタバンクのフィルタは、所謂ガンマトーン関数に基づいており、該ガンマトーン関数は、
【0119】
【数1】
によって記述され得、ここで、atn−1は、インパルス応答の開始値を示し、b(fc)は、中心周波数fcにおける帯域幅ERBをHzで示し、Φは、位相を示す。
【0120】
上で概略的に述べられた調査と、おそらくは自動化されることが可能な手順とが、自動車内のサウンドシステムの同調における、経験を積んだ音響技師およびサウンドエンジニアの業績から導き出され得る。結果として、サウンドシステムを同調するためにパラメータを変更する際に、一定の手順、すなわち、クロスオーバフィルタ、遅延フィルタ(位相)、そして振幅応答の等化の順序で同調することが有益であることが分かった。さらに、例えば、エネルギー減衰曲線から見られ得るような、様々な周波数依存の遅延時間の定数が、行われた同調の音響的な質に関する情報を提供し得ることが分かった。さらに、直接音と、直接音が終了した後の周波数依存の減衰性質との両方に関する異なる位相応答の影響が、行われた測定および解析によって示された。
【0121】
分かった結果に基づいて、振幅応答の同調が、ゼロ位相フィルタまたは線形位相フィルタを用いて実装され、その結果、先に達成された位相同調の結果、従って同調されたサウンドシステムによって再現された音声信号の空間的な画像化およびステージング(staging)は、振幅応答の次の同調に無関係であり、かつ、影響されないままである。次の調査において、振幅応答を等化する線形位相フィルタの使用が、音響的な画像化を本当に改善するかが調べられる。これに関連して、FIRフィルタは、有限インパルス応答を有し、通常、アナログ信号のサンプリング周波数によって決定される不連続な時間段階おいて動作する。N次のFIRフィルタは、以下の微分式
【0122】
【数2】
によって記述され、ここで、y(n)は、時間nにおける出力値であり、N個のサンプリングされた入力値x(n−N)からx(n)までのフィルタ係数biを用いて重み付けされた合計から計算される。必要とされる伝達関数は、フィルタ係数biを特定することによって獲得される。
【0123】
線形位相フィルタを用いて行われる等化が、音響学的効果および音響効果にどのような影響を有するかを評価するために、意図していない態様でも位相に影響する従来の4乗べきフィルタを用いて行われた等化が、従来の方法(クロスオーバフィルタ、位相の遅延線、振幅応答に対する等化器の順序)で同調されたサウンドシステムにおいて、線形位相の等化によって置き換えられており、該線形位相の等化は、同調された位相を変更されないままにし、必要に応じて振幅応答を修正するだけである。聴力テストによって決定された、このテストの結果は、音響効果の空間分解に関して、線形位相フィルタの使用による等化が、一般的に4乗べきフィルタを用いて行われる従来の等化よりも優れていることを非常に明確に示す。
【0124】
自分自身をオーディオ愛好家ではないと分類する、特別な音響的な訓練を積んでいないテスト対象のグループによるA/B比較において、区別がまた、問題なく知覚可能であった。すなわち、線形位相フィルタによって振幅応答に関して同調されたサウンドシステムの音響効果が、従来の4乗べきフィルタベースの振幅の同調よりも肯定的であるように判断された。これらの調査の比較可能性を考慮に入れるために、各場合において行われた等化が、正確に同じ振幅応答をもたらすという事実に注意が払われなければならず、かつ、上に記述されたように、4乗べきフィルタを用いた等化における位相の影響が、音響的な極の位置と零点との一定の変位をもたらし、この特性がサウンドシステムを同調するときに音響技師によって直感的に考慮に入れられることが、想定されなければならない。
【0125】
これから結論付けられ得ることは、線形位相フィルタを用いて位相を同調した後に、A/B比較の境界条件について独立して行われる等化が、振幅応答における他の結果を部分的にもたらし得、おそらくは、達成された音響効果のより良好な結果さえも部分的にもたらし得ることである。しかしながら、このような等化が、表示の適切な精度と適切な数の出力チャンネルとを用いて行われることを可能にするリアルタイムの同調ツールを使用するときに、この想定は最後に判断され得るだけである。
【0126】
調査の間に、位相同調、およびクロスオーバフィルタと遅延線との間の関連する相互作用において、クロスオーバフィルタの設計において最も重要であるのは、主に、周波数選択効果であるのか、位相応答であるのか、または両方の基準であるのかという疑問が生じた。音響学的音響効果への線形位相クロスオーバフィルタの影響を調査するために、最初に、カスケードされた4乗べきフィルタによって従来のようにまた実装された全てのクロスオーバフィルタが、次に、振幅応答を等化するために使用されたフィルタに加えて、線形位相のFIRフィルタによっても、以下で置き換えられる。周波数選択効果が、それぞれの位相応答と共に、空間画像化における改善をもたらすか、または2つの特性のうちの1つだけが、空間分解の増加の原因であるかを見つけることが意図されていた。
【0127】
最初に想定されたこととは異なり、クロスオーバフィルタの線形位相の実施形態はまた、最小位相のクロスオーバフィルタ(例えば、4乗べきフィルタ)としての配置と比較して、聴覚テストにおける音響学的音響効果における改善を達成し得ることが分かった。同時に、これは、従来のフィルタが振幅応答を等化する場合において線形位相フィルタによって置き換えられたときよりも、この肯定的な効果が、この場合においてより少なくも、従来のクロスオーバフィルタ(例えば、4乗べきフィルタ)の「制御不能」な位相応答が、自動車におけるサウンドシステムの音響効果の音響的な障害をもたらすことを意味する。
【0128】
サウンドシステムの同調における現在の方法は、段階的な調節として表されており、最初にサウンドシステムのクロスオーバフィルタ、次に遅延線、それから振幅応答を実際に等化するフィルタが調節される。所望の結果を達成するために、特定の車両またはそのサウンドシステムのそれぞれと、旅客空間における音響特性とに対する最適な音響効果を達成するように、手動の同調処理における段階の各調節の後に、個々の段階間で何度も反復することが必要である。この反復処理は、困難かつ長期に及ぶものであり、かなりの経験と忍耐力とを必要とする。
【0129】
示された調査が示すことは、反復が必要とされる主な理由が、主として、従来の同調においては、4乗べきフィルタが、クロスオーバフィルタを調節する際と、振幅応答を等化するためとにまだ使用されているということである。しかしながら、この種のフィルタを用いると、サウンドシステムの同調の際に変化されるものは、振幅応答だけでなく、位相応答全体もが、意図していないように影響され、その結果として、遅延線を調節することによって一旦見つけられた、システム全体における位相の調節が、再び変化する。
【0130】
自動車における用途において通常使用されるようなマルチチャンネルのサウンドシステムにおいて、これは、音質とは別に、音の局在性および空間印象、すなわち、例えば音楽などの、存在する音声信号の聴覚立体感をさらに変化させる様々な干渉をもたらす。これらの様々な干渉の結果として、サウンドシステムの伝達関数全体の一部の音響学的な極と零点とが動かされ、その結果として、調節における新たな変化が、必然的に必要になり、位相の変化によって、再び、音響学的な極の位置と零点とを移動させる。これが、サウンドシステムを同調する従来の方法が繰り返し行われなければならない理由を説明する。
【0131】
4乗べきフィルタの使用が、サウンドシステムの増幅器のフィルタの設計において完全に回避され、その代わりに同じ長さのゼロ位相フィルタまたは線形位相フィルタが使用された場合、様々な段階にわたるサウンドシステムの同調は、非常により単純である。結果として、位相応答の調節は、一旦見つけられると、これらのフィルタを同調することによって再びは変化されず、同調の個々の段階の望ましくない相互作用は生じない。
【0132】
このように、クロスオーバフィルタ、遅延線、および振幅応答を等化するフィルタは、互いに独立して同調され得る。サウンドシステムを同調するために必要な反復の数は、少ないままであり、その結果として、音の同調はかなり単純化される。全体的に、A/B比較における対応する聴力テストによって実証され得るように、この方法において、音響学的音響効果におけるなおさらなる改善を達成することが可能ですらある。
【0133】
サウンドシステムにおけるクロスオーバフィルタの自動的な調節の1つの方法は、例えば、高調波のひずみをできる限り低く維持し、サウンドシステムの音声信号の再現の音圧を最大化するために、全高調波ひずみ(THD)を最適化することである。さらに、フィルタの勾配、またはクロスオーバフィルタとして使用されるフィルタの順序のそれぞれが、限定されたDSPのパワーによって、ほぼ1次から4次のフィルタ次数の範囲内の制限された範囲内で動くという事実に注意が払われる。
【0134】
クロスオーバフィルタの自動的な調節における手順は、以下の通りである。
1.サウンドシステムの個々のチャンネルに対する周波数にわたる高調波のひずみを測定すること。
2.聴取位置に対して共に再生するラウドスピーカを分類すること(例えば、前部左側の聴取位置においては、例えば、高周波数、中心周波数、およびウーファラウドスピーカがこの聴取位置に割り当てられる)。
3.クロスオーバフィルタの遮断周波数が、変化し得る範囲内の適切な周波数領域を定義することであって、周波数応答において重なるグループの2つのラウドスピーカの可能な最大の高調波のひずみ、閾値として使用され得る、こと。
4.先に定義された領域内のクロスオーバフィルタの遮断周波数を変化させ、サウンドシステムの再生の音響的な音圧レベルの最大化を達成するために、クロスオーバフィルタのフィルタの勾配(フィルタの順序)を変化させること。
【0135】
サウンドシステムの位相応答を確立するために、上で特定された順序に従って、次に行う遅延線の自動同調が、以下で記述される。サウンドシステムを等化する多数の公知の自動アルゴリズムにおいてほとんど考慮されないか、または全く考慮さえされない一局面は、チャンネル遅延の自動調節である。過去において、遅延線の遅延時間は、車両内の異なる座席の位置に対して(運転手または交代運転手に固有に)頻繁に設定され、ほとんどの場合においてこれらの個々の事前設定の間で選ぶことが可能であった。本事例においては、それに比べて、遅延線の遅延時間は、それぞれの対称的に配置されたラウドスピーカに属する等化フィルタとクロスオーバフィルタとの遅延時間と同様に、通常、可能である場合には、車両の内部空間全体において最適化された音響を達成するように、ほぼ対称的に同調される。良好な遅延同調は、主に、音響効果がより空間的になり、かつ、ラウドスピーカから分離されており、ステージの局在性とステージ(ステージング)における器具が、より明らかになるという事実によって区別されている。
【0136】
上に記述された調査から、エネルギー減衰曲線(EDC)は、行われたサウンドシステムの遅延同調の質を評価することに適していることが分かった。調査はまた、このエネルギー減衰曲線に基づいて、時間/周波数の図における変化が指数関数的な降下を示すときに、音響効果の良好な空間画像(聴覚立体感)が示され得ることを示した。さらに、本調査は、反響の可能な最も高率の減少が、サウンドシステムの音の成分のために達成されなければならないことを示し、反響の可能な最も高率の減少のレベルは、音響効果の最適な聴覚立体感を達成するために、指数対数的に降下する曲線のマスキング閾値を上回る。
【0137】
行われた調査のさらなる結果は、良好な聴覚立体感と関連して許容できる反響は、周波数依存であることと、この反響の持続期間は、肯定的であると感じられる、サウンドシステムの音響効果を達成するためには、周波数の増加を伴って減少しなければならないことである。上に既に記述されたように、決定されたエネルギー減衰曲線のこれらの変化と、自動的な手順によって達成されることとは、人間の耳の音響心理学的なマスキング効果、特に、時間におけるポストマスキング効果に基づいている。自動的な同調方法は、例えば、先に記述されたように、好適には指数関数的な形状を有するべきである、EDCの所望の形状を獲得するように、個々の遅延の調節を処理するだけである。
【0138】
人間の耳のこの時間的な挙動をシミュレーションすることが可能である様々な音響心理学的なモデルがある。これらのモデルのうちの1つは、やはり、上で記述されたガンマトーンフィルタバンクである。次に、サウンドシステムの自動同調によって達成されるべき標的関数が、人間の耳の音響心理学的な特性を考慮に入れて生成される場合には、ガンマトーンフィルタバンクの完全な解析および合成ユニットのインパルス応答が、システム同定のために使用される適合フィルタに対する標的関数として記録され、使用される。必要とされるインパルス応答、または未知のシステムの伝達関数のそれぞれが、回帰的な方法で適合フィルタを使用することによって、充分な精度で近似され得る。適合フィルタは、デジタル信号プロセッサ(DSP)におけるアルゴリズムと、所定のアルゴリズムに従った、入力信号に対する該適合フィルタのフィルタ係数とによって実装されるデジタルフィルタであると理解されている。
【0139】
図20は、適合フィルタの原理を示す。「未知のシステム」は、伝達関数が必要とされている線形のひずみシステムであることが想定されている。伝達関数を見つけるために、適応性システムが、未知のシステムと並列で接続されている。基準信号r(i)は、未知のシステムによって歪まされている。基準信号r(i)から、適合フィルタの出力f(i)が減算され、エラー信号e(i)が生成される。フィルタ係数は、エラー信号e(i)ができる限り小さくなり、その結果としてf(i)がr(i)に近似するように、一般的には、LMS(最小自乗平均)または、基準信号r(i)から導き出された専用のLMS方法を使用することによる反復によって調節される。この手段によって、未知のシステム、従ってその伝達関数もまた近似される。
【0140】
等化器の自動同調が、例えば、上で特定された順序で行われる。自動車の旅客空間に対するサウンドシステムにおいて、結果の振幅応答は、周波数が増加すると降下する標的の曲線に適合されるべきであり、すなわち、一定のローパス特性を有するべきである。次に、この標的の周波数応答はまた、システム同定のために適合フィルタに対する標的関数として使用され得るか、またはこの標的の周波数応答は、上に記述されたガンマトーンフィルタバンクに対する重み付け関数として使用され得、その結果として、位相(遅延線)を同調し、振幅応答を等化するための標的の仕様が、任意的に、互いと組み合わせられ得る。
【0141】
図21は、自動車の旅客空間におけるサウンドシステムの自動的な同調のための装置の構成図である。図21の装置は、音声信号x[n]を生成する信号源と、多数のクロスオーバフィルタ(Xオーバフィルタ)X1(z)〜XL(z)と、位相を同調するか、またはサウンドシステムの振幅応答を等化するかのそれぞれのための同様に多くの数の適合フィルタW1(z)〜WL(z)(それぞれ遅延フィルタまたはEQフィルタ)と、同様に多くの数のラウドスピーカ1〜Lとを備えている。図21の装置はまた、多数のマイクロフォン1〜Mと、同様に多くの数の加算要素と、同様に多くの数の重み付け係数a1〜aMとを備えている。さらに、装置は、信号源の信号の適合フィルタリングのための標的関数と、サウンドシステムの位相を同調するか、または振幅応答を等化するかのそれぞれのための多数の適合フィルタW1(z)〜WL(z)(それぞれ遅延フィルタまたはEQフィルタ)の係数の適応性の適応のための関数ユニット(更新(例えば、MELMS))とを備えている。
【0142】
図21によると、信号源の広帯域の出力信号x[n]は、最初に、多数のクロスオーバフィルタ(Xオーバフィルタ)X1(z)〜XL(z)によって、狭帯域の信号に分割され、該狭帯域の信号は、同様に多くの数の、各場合において関連する適合フィルタW1(z)〜WL(z)に供給される。この装置において、クロスオーバフィルタX1(z)に適合フィルタW1(z)が続き、クロスオーバフィルタX2(z)に適合フィルタW2(z)が続くなど、クロスオーバフィルタXL(z)に続く適合フィルタWL(z)までそのように続く。自動車の旅客空間におけるサウンドシステムの個々の成分の同調の順序の第1のステップとしてのクロスオーバフィルタの自動的な同調は、調査において見出だされ得るように、既に上に記述された。多数のクロスオーバフィルタX1(z)〜XL(z)と、同様に多くの数の、各場合において関連する適合フィルタW1(z)〜WL(z)とによってフィルタリングされた部分的な信号は、図21に従って、多数のラウドスピーカ1〜Lの下流に対応するように接続されたラウドスピーカに供給される。
【0143】
さらに、サウンドシステムのラウドスピーカ1〜Lによって空間、この場合においては自動車の旅客空間に届けられ、かつ、室内伝達関数によって修正された音響信号は、多数のマイクロフォン1〜Mによって拾い上げられ、各場合において、電気信号d1[n]〜dM[n]に変換される。この構成において、マイクロフォン1〜Mのうちの各個々のマイクロフォンは、多数のラウドスピーカ1〜Lの全てから音響信号を受信する。マイクロフォン1〜Mのうちの各個々のマイクロフォンの観点から見ると、これが、この個々のマイクロフォンに対するラウドスピーカ1〜Lの音響信号の送信に対する多数Lの室内伝達関数H(z)、すなわち、合計がM*Lの室内伝達関数H(z)をもたらす。多数のラウドスピーカ1〜Lと多数のマイクロフォン1〜Mとの間のこれらの室内伝達関数は、概して、Hlm(z)と呼ばれており、lは、複数のラウドスピーカ1〜Lのそれぞれのラウドスピーカを示し、mは、多数のマイクロフォン1〜Mのそれぞれのマイクロフォンを示し、その間に伝達関数Hlm(z)が存在する。従って、例えば、H21(z)は、ラウドスピーカ2からマイクロフォン1への音響信号の経路に対する室内伝達関数を示し、例えば、H1m(z)は、ラウドスピーカ1からマイクロフォンMへの音響信号の経路に対する室内伝達関数を示す。
【0144】
受信され、かつ、室内伝達関数Hlm(z)によって修正された、多数のラウドスピーカ1〜Lの全L個の音響信号の合計から、多数のマイクロフォン1〜Mのそれぞれは、電気信号dm[n]を形成する。従って、例えば、マイクロフォン2は電気出力信号d2[n]を形成し、該電気出力信号d2[n]は、多数のラウドスピーカ1〜Lの受信された音響信号の重ね合わせによって形成され、ラウドスピーカ1の音響信号は、この場合、室内伝達関数H12(z)によって修正され、ラウドスピーカ2の音響信号は、室内伝達信号H22(z)によって修正されるなど、音響信号は、室内伝達信号HL2(z)によって修正されるラウドスピーカLまで続けて修正される。
【0145】
さらに、図21によると、信号y[n]は、所定の標的関数によって信号源の信号x[n]から形成される。図21によると、所定の標的関数によって信号源の信号x[n]から形成されたこの信号y[n]は、各場合において、1つの処理経路におけるこの処理経路内の加算要素によって、多数のマイクロフォン1〜Mの出力信号から減算される。マイクロフォン1の信号d1[n]からの信号y[n]の減算は、信号e1[n]をもたらし(e1[n]=d1[n]−y[n])、マイクロフォン2の信号d2[n]からの信号y[n]の減算は、信号e2[n]をもたらす(e2[n]=d2[n]−y[n])など、マイクロフォンMの信号dM[n]からの信号y[n]の減算によって形成される信号eM[n](eM[n]=dM[n]−y[n])までもたらす。上に示されたように、これは、適合フィルタの一般的な手順に対応しており、信号e1[n]〜信号eM[n]はまた、エラー信号と呼ばれており、さらなる進行において、有限な一連のステップの後に、値ゼロを有するエラー信号を理想的に達成するために、次の動作ステップにおいて適合フィルタのフィルタ係数を対応するように変化させるために使用される。
【0146】
図21によると、信号e1[n]〜信号eM[n]はさらに、本事例においては、各場合において、対応しかつ調節可能な因数a1〜aMで重み付けをされ、その結果として、エラー信号e1[n]〜eM[n]が、適合フィルタリングに対して重み付けされ、それによって、所定の標的関数が、自動車の旅客空間におけるそれぞれの聴取位置、またはこの聴取位置に割り当てられたマイクロフォンのそれぞれに、どの程度正確に近似されているかを具体的に挙げることが可能である。これに続き、図21によると、エラー信号e1[n]〜信号eM[n]は、適合フィルタリングに対する入力変数として、やはり、広帯域の信号であるエラー信号e[n]をもたらすさらなる加算要素によって加算される。図21によると、これらのエラー信号e[n]を信号源の信号x[n]と比較することによって、適合フィルタw1(z)〜wL(z)のフィルタ係数は、エラー関数e[n]が最小化されるまで、例えば、複数の誤差の最小自乗平均アルゴリズムによって関数ブロック更新(例えば、MELMS)によって反復的に変化される。これは、適合フィルタの一般的な用途に対応し、この場合には自動車の旅客空間である室内の伝達特性をもたらし、該伝達関数は、先の適合フィルタリングによって、所望に応じて、所定の標的関数に対応する。
【0147】
図21に示された構成図は、どのように、L個のラウドスピーカとM個のマイクロフォンとを有するサウンドシステムの一般的な事例が、例えば、人間の耳の音響心理学的特性に基づいて、適応性の方法および標的関数を使用することによりMELMS(多重誤差最小自乗平均)アルゴリズムによって、本発明に従って解決され得ることを示す。通常、車両のキャビンからの先に測定された室内のインパルス応答が、例えば、平滑化アルゴリズムによって予備処理されるので、適合は「オフライン」で行うことが想定される。サウンドシステムを等化するために最終的に生成されるフィルタが、望ましくない極端または達成不可能な特性、例えば、非常に高い質または非常に高い利得を有する非常に狭い帯域の立ち上がりを示すこと防止するために、室内のインパルス応答のこの平滑化が行われる。
【0148】
必要とされる座席の位置において測定を行うことがまた有利であり、該測定は、図21における表示に従ってマイクロフォン1〜Mによって行われ、各場合において、座席または聴取位置毎に単一のマイクロフォン用いるのではなく、その代わりに、各シートの位置に対して様々な据え付け位置におけるいくつかのマイクロフォンを使用して行われ、次いで、これらから、この聴取位置に対するインパルス応答の空間平均を獲得する。この点に関して、空間平均が、個々の測定を基準に行われたか、または室内インパル応答を記録するときに直接的に行われたかは重要ではない。後者の場合、室内インパルス応答の記録が、例えば、アレイの個々のマイクロフォンの間で継続的かつ周期的に切り換わる多重マイクロフォンのアレイを使用することによって行われ得る。両方の場合において、等化フィルタのロバスト設定に対する必要条件を示す空間平均が、達成される。
【0149】
さらに、係数a1〜aMは、適合フィルタリングに対する標的関数を重み付けするために使用され得、該適合フィルタリングを介して、どの程度正確に、所定の標的関数が、自動車の旅客空間におけるそれぞれの聴取位置において近似されているかが具体的に述べられ得る。原則的に、音響技師によってサウンドシステムの手動の同調処理の際に通常選ばれるように、すなわち、前部の聴取位置をより強調し、対応するように、旅客空間における後部の聴取位置の重み付けをより少なくするように、聴取位置の重み付けを行うことは、最初は適切である。原則的に、図21に従った装置は、重み付けることと音響効果を調べることとの任意的な組み合わせを行う可能性を提供する。関連する試みに関して、サウンドシステムの同調が、本発明に従って、自動的な方法で行われ得る場合に、それは非常に有利であり、その結果として、聴取位置にわたる多数の重み付けの分布が、効果的に、音印象に関して調査され得る。
【0150】
図22は、位相の自動的な同調、および/または聴覚補正ガンマトーンフィルタを用いて振幅応答を等化することに関して、適合フィルタリングに対する標的関数を決定する手順を示す。図22は、位相に関するインパルス応答を測定するためにディラックインパルスx[n]を生成するジェネレータと、考慮される周波数領域にわたり対応する等化方形幅(ERB)で分布されるN=100のガンマトーンフィルタから成る、解析(聴覚補正フィルタリング)のためのガンマトーンフィルタバンクと、考慮される周波数領域にわたり対応する等化方形幅(ERB)で分布されるN=100のガンマトーンフィルタからまた成る、インパルス応答を合成するためのガンマトーンフィルタバンクとを含む。
【0151】
図23は、上に記述された本発明の実施形態に従った聴覚補正方法によって達成される、標的関数の時間/周波数特性の例示的な結果を示し、時間は、図23の表示の横座標に沿って描かれており、図23の表示の縦座標は、周波数を示す。やはり、達成される高レベルは、淡いグレーで描かれ、ラベルHLで印を付けられており、低レベルは、濃いグレー描かれ、ラベルLLで印を付けられている。高レベルから低レベルへの転移は、より明るいグレースケールからより暗いグレースケールへの転移として見られ得、レベルT1およびT2で印を付けられている。ガンマトーンフィルタバンクの音響心理学的モデルによって達成される時間/周波数特性が、高レベルから低レベルへの非常に一様な転移をもたらし、低周波数における一般的にはより遅い減衰がまた、図1に従った測定結果におけるように見られ得る。
【0152】
図24は、レベル(図24の上側の図)と位相(図24の下側の図)との変化に関する、図23からの標的関数のボーデ図を示す。両方の表示において、周波数は、横座標に沿って対数的な尺度で描かれており、図24における上側の図の縦座標は、レベルをdBで示しており、図24の下側の縦座標は位相を示す。振幅応答を等化する明確な標的の周波数応答は、解析と合成段階との間にまだ導入されておらず、すなわち、この標的関数は、位相(遅延線)を同調する標的関数を含むだけであることが、図24から見られ得る。図24の高周波数において見られ得る、理想的なゼロの線からの振幅応答の偏差(図24の上側の図)は、解析および合成のために使用される限られた数のガンマトーンフィルタによって説明され得、ガンマトーンフィルタは、概して、聴取印象全体を乱していると考えられないので、さらなる進行においては特に考慮されない。
【0153】
上に述べられたように、図21に従った装置の適合フィルタはまた、任意的に、サウンドシステムの位相応答の標的関数を決定するためだけでなく、同時に、振幅応答を等化する標的関数に対する境界条件を考慮に入れるためにも使用され得る。次に、これは、図21に従った適合フィルタに対する共通の標的関数をもたらす。このような標的関数を生成するために、振幅応答を等化する標的関数が、最初に決定されなければならない。
【0154】
自動車における振幅応答の標的関数を記述するために、所謂ピンクノイズを使用することは、この目的のための一般的な方法を表す。ピンクノイズは、ラウドスピーカの音強度を評価するために使用される。ホワイトノイズとは対照的に、ピンクノイズのレベルは、3dB/オクターブにおいてより高い周波数に向かって降下する。次に、このようなノイズ信号のエネルギーの内容は、オクターブ毎に一定であり、従って、第1の近似において、人間の耳の周波数依存の性質(臨界帯域幅とラウドネスの構成)を考慮に入れる。
【0155】
図25は、自動車の用途における振幅応答(ピンクノイズ)に対する適合フィルタリングの標的関数を示しており、やはり、ボーデ図で示されている。図25は、レベル(図25の上側の図)と位相(図25の下側の図)との変化を示す。両方の表示において、周波数は、横座標に沿って対数的な尺度で描かれており、図25における上側の図の縦座標は、レベルをdBで示しており、図25の下側の縦座標は位相を示す。
【0156】
次に、図25に示された振幅応答の標的関数が、解析ユニットと合成ユニットとの間すなわち、図26に示されているように、対応するガンマトーンフィルタバンクの間に挿入された場合、以下の文章に示された、図21に従った適合フィルタリングの新たな標的関数が獲得され、該新たな標的関数は、ここで、位相(遅延線)を同調し、振幅応答を等化するための同時の標的関数を含む。図26は、解析ユニットと合成ユニットとの間に挿入された、振幅応答を等化するための標的関数による、図22の拡張を表す。
【0157】
対応するように、図27に示されている、図21に従った適合フィルタによってサウンドシステムを同調するための同時の標的関数が獲得される。図27は、標的関数の時間/周波数特性を示し、時間は、図27の表示の横座標に沿って描かれており、図27の表示の縦座標は、周波数を示す。
【0158】
図28は、レベル(図28の上側の図)と位相(図28の下側の図)との変化に関する、図27からの標的関数のボーデ図を示す。両方の表示において、周波数は、横座標に沿って対数的な尺度で描かれており、図28における上側の図の縦座標は、レベルをdBで示しており、図24の下側の縦座標は位相を示す。ここで、標的の周波数応答がまた、振幅応答を等化するために考慮に入れられ、すなわち、図28に従った標的関数は、ここで、位相(遅延線)を同調し、振幅応答の等化を同調するための同時の標的関数を含むことが、図28から見られ得る。これは、図24と図28とからの上側の2つの表示(周波数に対するレベル変化)の比較において特に明確になり、該比較は、低周波数(≦500Hz)における振幅応答の、調査において分かった一般的なオーバーシュートを示し、該一般的なオーバーシュートは、図28において、この振幅応答の標的関数を遅延同調の振幅応答(図24)に加算することによって明確に見ることができる。
【0159】
このように、人間の耳の音響心理学的特徴、例えば、スペクトルのマスキング効果および時間的マスキング効果などに基づいた必要な全ての標的関数が定義され、標的の仕様として、該必要な全ての標的関数は、図21に示されたサウンドシステムを同調する自動的な処理のための必須条件である。行われた調査の結果の中間のステップ、すなわち、振幅応答を等化する線形位相フィルタの使用と、様々な同調ステップの位相の影響を分離するクロスオーバフィルタの使用とは、反復的な方法を必要とすることなく、同調プロセスの明らかな簡略化をもたらす。結果としてのこの中間のステップはまた、線形位相フィルタの使用を想定した(時間のかかる反復的な方法を退けた)、音響技師またはサウンドエンジニアによるサウンドシステムの手動の同調の紛れもない簡略化のために使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0160】
【図1】図1は、線形セット、遅延セット、フィルタセット、および同調セットに従った、サウンドシステムのインパルス応答のエネルギー減衰曲線の3次元図である。
【図2】図2は、線形セット、遅延セット、フィルタセット、および同調セットのインパルス応答の3次元のエネルギー減衰曲線の正面図である。
【図3】図3は、同時にクロスオーバフィルタを同調することなく、遅延線を同調するときの、インパルス応答のエネルギー減衰曲線の3次元図と正面図とである。
【図4】図4は、周波数に対するホワイトノイズのマスキング閾値を例示する図である。
【図5】図5は、狭い帯域のノイズの音圧レベルに依存した、マスキング閾値を例示する図である。
【図6】図6は、臨界帯域の狭い帯域のノイズを有するマスキング閾値を例示する図である。
【図7】図7は、正弦波トーンのマスキング閾値を例示する図である。
【図8】図8は、同時のプレマスキングおよびポストマスキングの図である。
【図9】図9は、テストトーンパルスの持続期間に関するラウドネスの知覚の依存性を例示する図である。
【図10】図10は、テストトーンパルスの反復率に関するマスキング閾値の依存性を例示する図である。
【図11】図11は、ポストマスキングを例示する図である。
【図12】図12は、マスカーの持続期間に依存したポストマスキングを例示する図である。
【図13】図13は、複合音による同時マスキングを例示する図である。
【図14】図14は、サウンドシステムによって送信される正弦波パルスの性質を例示するグラフである。
【図15】図15は、線形セット、遅延セット、フィルタセット、および同調セットに従った正弦波パルスのスペクトログラムである。
【図16】図16は、それぞれ線形セット、遅延セット、フィルタセット、および同調セットに従った、多数の正弦波パルスから決定された伝達関数を例示するグラフである。
【図17】図17は、ホワイトノイズとフィルタリングされたホワイトノイズとのマスキング閾値を例示するグラフである。
【図18】図18は、所謂Johnstonの方法を用いて決定された周波数応答と比較した、サウンドシステムの周波数応答を例示するグラフである。
【図19】図19は、フィルタリングされたホワイトノイズとフィルタリングされていないホワイトノイズとを用いて決定された2つのマスキング閾値の差に基づいた、Johnstonの方法に従った等化を例示するグラフである。
【図20】図20は、適合フィルタの基本構造を示す構成図である。
【図21】図21は、遅延時間(位相)の自動的な調節、または適応性システムを有する等化とのための装置の構成図である。
【図22】図22は、遅延時間(位相)を同調するための基準として、標的関数を獲得するための装置の基本構造を示す図である。
【図23】図23は、遅延時間(位相)を同調すること、または等化のための標的関数の時間/周波数の表示である。
【図24】図24は、遅延時間(位相)を同調すること、または等化のための標的関数のボーデ図である。
【図25】図25は、ピンクノイズに対する標的の周波数応答を例示する図である。
【図26】図26は、遅延線とフィルタとの同調のための標的関数を獲得するためのシステムを例示する構成図である。
【図27】図27は、遅延線とフィルタとの同調のための共通の標的関数の時間/周波数の表示である。
【図28】図28は、遅延線とフィルタとの同時の同調のための標的関数のボーデ図である。
【符号の説明】
【0161】
X1(z)〜XL(z) クロスオーバフィルタ
W1(z)〜WL(z) 適合フィルタ
dm[n] 電気信号
e1[n]〜eM[n] エラー信号
Hlm(z) 室内伝達関数
x[n] 音声信号
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サウンドシステムの自動化された同調のための方法であって、該サウンドシステムは、遅延線と、等化フィルタと、少なくとも2つのラウドスピーカとを備えており、該方法は、
該ラウドスピーカを介して有用な音声信号を再現するステップと、
少なくとも1つの位置において音圧値を測定するステップと、
該サウンドシステムの該遅延線と該等化フィルタとを同調する標的の伝達関数を提供するステップであって、該標的の伝達関数は、該サウンドシステムの所望の伝達特性を表す、ステップと、
該遅延線の遅延を調節するステップと、
該サウンドシステムの実際の伝達特性が、該標的の伝達関数に近似するように、該等化フィルタの振幅応答を調節する、ステップと
を包含する、方法。
【請求項2】
前記サウンドシステムは、少なくとも1つのクロスオーバフィルタをさらに備えており、前記方法は、
全高調波ひずみが最小化されるように、該クロスオーバフィルタの遮断周波数を調節するステップ
を包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記クロスオーバフィルタは、線形位相フィルタを備えている、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記標的関数は、人間の耳の音響心理学的な特性を組み込む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
線形位相適合フィルタは、遅延線と等化フィルタとを実装するために使用され、その結果、互いに影響することなく、等化フィルタおよびクロスオーバフィルタの遅延および振幅応答の独立した調節を可能にする、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記遅延線の前記遅延は、前記線形適合フィルタの位相を調節することによって行われる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記等化フィルタの前記振幅応答は、前記線形適合フィルタのフィルタ係数を調節することによって行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記音圧は、複数の音圧信号をもたらす複数の位置において測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記複数の位置は、聴覚空間の中に配置されている、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記聴覚空間は、自動車の旅客空間である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記標的関数を使用して、前記有用な音声信号から所望の出力信号を計算するステップと、
該所望の出力信号から前記測定された音圧信号を減算することによってエラー信号を計算するステップと
をさらに包含する、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記エラー信号の重み付けられた合計を計算することによって全エラー信号を生成するステップであって、該エラー信号は、加算の前に重み付け係数を用いて乗算される、ステップと、
該全エラー信号が最小化されるように、前記適合フィルタの前記位相応答と前記振幅応答とを調節するステップと
をさらに包含する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
多重誤差最小自乗平均(MELMS)アルゴリズムが、全エラー信号を最小化するために利用される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記位相または前記遅延線の前記同調の質を評価するために、前記測定された音圧のエネルギー減衰曲線(EDC)を計算すること
をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記遅延線の前記遅延が、反響を最小化するように同調され、該反響のレベルは、周波数依存のマスキング閾値を上回る、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記サウンドシステムを同調するための、前記標的関数の前記振幅応答と前記位相応答が、聴覚補正フィルタバンクのインパルス応答から計算され、該聴覚補正のフィルタバンクは、人間の耳の周波数特性と時間特性とをシミュレーションするガンマトーンフィルタを備えている、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
人間の耳の前記音響心理学的特性は、スペクトルのマスキング効果と時間的マスキング効果と該人間の耳のスペクトル分解とを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項18】
前記遅延線の前記遅延は、前記等化フィルタの前記振幅応答の前に調節される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記クロスオーバフィルタの前記遮断周波数は、前記遅延線の前記遅延の前に調節される、請求項2に記載の方法。
【請求項20】
サウンドシステムの自動化された同調のためのシステムであって、該サウンドシステムは、
有用な音声信号を提供するための信号源と、
複数の適合フィルタであって、1つの適合されたフィルタが、各クロスオーバフィルタの下流に接続されている、複数の適合フィルタと、
複数のラウドスピーカであって、1つ以上のラウドスピーカが、各適合フィルタの下流に接続されている、複数のラウドスピーカと、
第1の位置に場所を定められた音圧レベルを測定し、該有用な信号を表すマイクロフォン信号を提供するマイクロフォンと、
該有用な音声信号と該マイクロフォン信号とによって定義された実際の伝達特性が、該サウンドシステムの所望の伝達特性を表す標的関数に近似するように、該適合フィルタのフィルタ係数を最適化する制御ユニットと
を備えている、システム。
【請求項21】
少なくとも1つのクロスオーバフィルタをさらに備えている、請求項20に記載のシステム。
【請求項22】
測定された音圧レベルに対する高調波ひずみの比率が最小化されるように、前記制御ユニットは、前記クロスオーバフィルタの前記遮断周波数を同調するように適合されている、請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
前記クロスオーバフィルタは、線形位相フィルタである、請求項20に記載のシステム。
【請求項24】
前記標的関数は、人間の耳の音響心理学的な特性を組み込む、請求項20に記載のシステム。
【請求項25】
前記適合されたフィルタは、線形位相フィルタであり、その結果、互いに影響することなく、等化フィルタおよびクロスオーバフィルタの位相応答および振幅応答の独立した調節を可能にする、請求項21に記載のシステム。
【請求項26】
聴覚空間の中の異なる位置に配置され、前記有用な音声信号を表す複数のマイクロフォン信号を提供する複数のマイクロフォンを備えている、請求項20に記載のシステム。
【請求項27】
前記聴覚空間は、自動車の旅客空間である、請求項26に記載のシステム。
【請求項28】
前記制御ユニットは、前記標的関数を使用して、前記有用な音声信号から所望の出力信号を計算し、前記測定された音圧信号と該所望の出力信号との間の差を表すエラー信号を計算するように適合されている、請求項26に記載のシステム。
【請求項29】
前記制御ユニットは、前記エラー信号の重み付けられた合計を計算することによって全エラー信号を生成し、該全エラー信号が最小化されるように、前記適合フィルタの前記位相応答と前記振幅応答とを調節するようにさらに適合されている、請求項28に記載のシステム。
【請求項30】
前記制御ユニットは、前記全エラー信号を最小化するために利用される多重誤差最小自乗平均(MELMS)アルゴリズムを利用するようにさらに適応されている、請求項29に記載のシステム。
【請求項31】
前記制御ユニットは、前記位相または前記遅延線の前記同調の質を評価するために、前記測定された音圧のエネルギー減衰曲線(EDC)を計算するように適応されている、請求項20に記載のシステム。
【請求項32】
前記制御ユニットは、反響を最小化するように、前記適合フィルタの前記位相応答を同調するように適応されており、該反響のレベルは、周波数依存のマスキング閾値を上回る、請求項31に記載のシステム。
【請求項33】
人の耳の前記音響心理学的特性は、スペクトルのマスキング効果と時間的マスキング効果と人間の耳のスペクトル分解とを含む、請求項24に記載のシステム。
【請求項1】
サウンドシステムの自動化された同調のための方法であって、該サウンドシステムは、遅延線と、等化フィルタと、少なくとも2つのラウドスピーカとを備えており、該方法は、
該ラウドスピーカを介して有用な音声信号を再現するステップと、
少なくとも1つの位置において音圧値を測定するステップと、
該サウンドシステムの該遅延線と該等化フィルタとを同調する標的の伝達関数を提供するステップであって、該標的の伝達関数は、該サウンドシステムの所望の伝達特性を表す、ステップと、
該遅延線の遅延を調節するステップと、
該サウンドシステムの実際の伝達特性が、該標的の伝達関数に近似するように、該等化フィルタの振幅応答を調節する、ステップと
を包含する、方法。
【請求項2】
前記サウンドシステムは、少なくとも1つのクロスオーバフィルタをさらに備えており、前記方法は、
全高調波ひずみが最小化されるように、該クロスオーバフィルタの遮断周波数を調節するステップ
を包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記クロスオーバフィルタは、線形位相フィルタを備えている、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記標的関数は、人間の耳の音響心理学的な特性を組み込む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
線形位相適合フィルタは、遅延線と等化フィルタとを実装するために使用され、その結果、互いに影響することなく、等化フィルタおよびクロスオーバフィルタの遅延および振幅応答の独立した調節を可能にする、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記遅延線の前記遅延は、前記線形適合フィルタの位相を調節することによって行われる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記等化フィルタの前記振幅応答は、前記線形適合フィルタのフィルタ係数を調節することによって行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記音圧は、複数の音圧信号をもたらす複数の位置において測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記複数の位置は、聴覚空間の中に配置されている、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記聴覚空間は、自動車の旅客空間である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記標的関数を使用して、前記有用な音声信号から所望の出力信号を計算するステップと、
該所望の出力信号から前記測定された音圧信号を減算することによってエラー信号を計算するステップと
をさらに包含する、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記エラー信号の重み付けられた合計を計算することによって全エラー信号を生成するステップであって、該エラー信号は、加算の前に重み付け係数を用いて乗算される、ステップと、
該全エラー信号が最小化されるように、前記適合フィルタの前記位相応答と前記振幅応答とを調節するステップと
をさらに包含する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
多重誤差最小自乗平均(MELMS)アルゴリズムが、全エラー信号を最小化するために利用される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記位相または前記遅延線の前記同調の質を評価するために、前記測定された音圧のエネルギー減衰曲線(EDC)を計算すること
をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記遅延線の前記遅延が、反響を最小化するように同調され、該反響のレベルは、周波数依存のマスキング閾値を上回る、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記サウンドシステムを同調するための、前記標的関数の前記振幅応答と前記位相応答が、聴覚補正フィルタバンクのインパルス応答から計算され、該聴覚補正のフィルタバンクは、人間の耳の周波数特性と時間特性とをシミュレーションするガンマトーンフィルタを備えている、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
人間の耳の前記音響心理学的特性は、スペクトルのマスキング効果と時間的マスキング効果と該人間の耳のスペクトル分解とを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項18】
前記遅延線の前記遅延は、前記等化フィルタの前記振幅応答の前に調節される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記クロスオーバフィルタの前記遮断周波数は、前記遅延線の前記遅延の前に調節される、請求項2に記載の方法。
【請求項20】
サウンドシステムの自動化された同調のためのシステムであって、該サウンドシステムは、
有用な音声信号を提供するための信号源と、
複数の適合フィルタであって、1つの適合されたフィルタが、各クロスオーバフィルタの下流に接続されている、複数の適合フィルタと、
複数のラウドスピーカであって、1つ以上のラウドスピーカが、各適合フィルタの下流に接続されている、複数のラウドスピーカと、
第1の位置に場所を定められた音圧レベルを測定し、該有用な信号を表すマイクロフォン信号を提供するマイクロフォンと、
該有用な音声信号と該マイクロフォン信号とによって定義された実際の伝達特性が、該サウンドシステムの所望の伝達特性を表す標的関数に近似するように、該適合フィルタのフィルタ係数を最適化する制御ユニットと
を備えている、システム。
【請求項21】
少なくとも1つのクロスオーバフィルタをさらに備えている、請求項20に記載のシステム。
【請求項22】
測定された音圧レベルに対する高調波ひずみの比率が最小化されるように、前記制御ユニットは、前記クロスオーバフィルタの前記遮断周波数を同調するように適合されている、請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
前記クロスオーバフィルタは、線形位相フィルタである、請求項20に記載のシステム。
【請求項24】
前記標的関数は、人間の耳の音響心理学的な特性を組み込む、請求項20に記載のシステム。
【請求項25】
前記適合されたフィルタは、線形位相フィルタであり、その結果、互いに影響することなく、等化フィルタおよびクロスオーバフィルタの位相応答および振幅応答の独立した調節を可能にする、請求項21に記載のシステム。
【請求項26】
聴覚空間の中の異なる位置に配置され、前記有用な音声信号を表す複数のマイクロフォン信号を提供する複数のマイクロフォンを備えている、請求項20に記載のシステム。
【請求項27】
前記聴覚空間は、自動車の旅客空間である、請求項26に記載のシステム。
【請求項28】
前記制御ユニットは、前記標的関数を使用して、前記有用な音声信号から所望の出力信号を計算し、前記測定された音圧信号と該所望の出力信号との間の差を表すエラー信号を計算するように適合されている、請求項26に記載のシステム。
【請求項29】
前記制御ユニットは、前記エラー信号の重み付けられた合計を計算することによって全エラー信号を生成し、該全エラー信号が最小化されるように、前記適合フィルタの前記位相応答と前記振幅応答とを調節するようにさらに適合されている、請求項28に記載のシステム。
【請求項30】
前記制御ユニットは、前記全エラー信号を最小化するために利用される多重誤差最小自乗平均(MELMS)アルゴリズムを利用するようにさらに適応されている、請求項29に記載のシステム。
【請求項31】
前記制御ユニットは、前記位相または前記遅延線の前記同調の質を評価するために、前記測定された音圧のエネルギー減衰曲線(EDC)を計算するように適応されている、請求項20に記載のシステム。
【請求項32】
前記制御ユニットは、反響を最小化するように、前記適合フィルタの前記位相応答を同調するように適応されており、該反響のレベルは、周波数依存のマスキング閾値を上回る、請求項31に記載のシステム。
【請求項33】
人の耳の前記音響心理学的特性は、スペクトルのマスキング効果と時間的マスキング効果と人間の耳のスペクトル分解とを含む、請求項24に記載のシステム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【公開番号】特開2008−278487(P2008−278487A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−112920(P2008−112920)
【出願日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【出願人】(504147933)ハーマン ベッカー オートモーティブ システムズ ゲーエムベーハー (165)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【出願人】(504147933)ハーマン ベッカー オートモーティブ システムズ ゲーエムベーハー (165)
【Fターム(参考)】
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