説明

音声信号変換装置、音声信号変換方法および受信装置

【課題】処理量を抑制し、音質を確保しつつ疑似的にステレオ信号を生成する処理を行うこと。
【解決手段】左の音声信号の振幅値と右の音声信号の振幅値との差分に基づいて第一の評価値を第一評価値算出部15が算出し、左の音声信号と右の音声信号との差分の振幅値に基づいて第二の評価値を第二評価値算出部16が算出し、第一の評価値と第二の評価値との差分に基づいて左右の音声信号の位相差を位相差算出部17が算出するように音声信号変換装置10を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、処理量を抑制し、音質を確保しつつ疑似的にステレオ信号を生成する処理を行うことができる音声信号変換装置、音声信号変換方法および受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、入力されたモノラルの音声信号(以下、「モノラル信号」と記載する)に基づいて左右の成分から構成されるステレオの音声信号(以下、「ステレオ信号」と記載する)を生成し、出力信号として出力する音声信号変換装置が知られている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、モノラル信号の波形の位相差と振幅差とに基づいて制御係数を算出し、算出された制御係数をモノラル信号へ乗算することによってステレオ信号を生成する音声信号処理装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−49601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の音声信号変換装置では、モノラル信号からステレオ信号を生成する処理を行うアルゴリズムが非常に複雑であるという問題があった。
【0006】
具体的には、従来の音声信号変換装置は、ステレオ信号に含まれる左の音声信号(L)と右の音声信号(R)との位相差、位相差係数、振幅差および振幅重み係数に基づいて制御係数(位相/振幅)を算出する。そして、従来の音声信号変換装置は、算出された制御係数をモノラル信号へ乗算することによってステレオ信号(L、R)を生成する。
【0007】
また、従来の音声信号変換装置では、位相差情報を抽出する手法として、まず、LおよびRごとに位相差情報抽出用波形を生成する。さらに、従来の音声信号変換装置では、生成された位相差情報抽出用波形に、逆正弦関数によって角度(ラジアン)を生成し、生成された角度をラジアンから度へ変換し、角度情報とする。
【0008】
そして、従来の音声信号変換装置では、Lの角度情報とRの角度情報との差分を位相差情報として抽出する。このように、従来の音声信号変換装置では、モノラル信号からステレオ信号を生成する処理を行うアルゴリズムが非常に複雑である。
【0009】
さらに、従来の音声信号変換装置が備えるDSP(Digital Signal Processor)によってかかるアルゴリズムを処理する場合、アルゴリズムが非常に複雑であるが故、処理量が膨大になってしまうという問題があった。ここで、DSPとは、コンピュータ内で、音声や画像などの信号をデジタル化して処理を行うユニットを指す。
【0010】
これらのことから、処理量を抑制し、音質を確保しつつ疑似的にステレオ信号を生成する処理を行うことができる音声信号変換装置あるいは音声信号変換方法をいかにして実現するかが大きな課題となっている。
【0011】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するためになされたものであり、処理量を抑制し、音質を確保しつつ疑似的にステレオ信号を生成する処理を行うことができる音声信号変換装置、音声信号変換方法および受信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明は、左の音声信号の振幅値と右の音声信号の振幅値との差分に基づいて第一の評価値を算出する第一評価値算出手段と、左の音声信号と右の音声信号との差分の振幅値に基づいて第二の評価値を算出する第二評価値算出手段と、前記第一の評価値と前記第二の評価値との差分に基づいて左右の音声信号の位相差を算出する位相差算出手段とを備えたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、左の音声信号の振幅値と右の音声信号の振幅値との差分に基づいて第一の評価値を算出する第一評価値算出工程と、左の音声信号と右の音声信号との差分の振幅値に基づいて第二の評価値を算出する第二評価値算出工程と、前記第一の評価値と前記第二の評価値との差分に基づいて左右の音声信号の位相差を算出する位相差算出工程とを含んだことを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、受信した信号に基づいて左右の音声信号を生成する左右信号生成手段と、前記左右信号生成手段によって生成された左の音声信号の振幅値と前記左右信号生成手段によって生成された右の音声信号の振幅値との差分に基づいて第一の評価値を算出する第一評価値算出手段と、前記左右信号生成手段によって生成された左の音声信号と右の音声信号との差分の振幅値に基づいて第二の評価値を算出する第二評価値算出手段と、前記第一の評価値と前記第二の評価値との差分に基づいて左右の音声信号の位相差を算出する位相差算出手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、左の音声信号の振幅値と右の音声信号の振幅値との差分に基づいて第一の評価値を算出し、左の音声信号と右の音声信号との差分の振幅値に基づいて第二の評価値を算出し、第一の評価値と第二の評価値との差分に基づいて左右の音声信号の位相差を算出することとしたので、処理量を抑制し、音質を確保しつつ疑似的にステレオ信号を生成する処理を行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本実施例に係る音声信号変換方法の概要を示す図である。
【図2】図2は、ラジオシステムの構成を示すブロック図である。
【図3】図3は、本実施例に係る音声信号変換装置の構成を示すブロック図である。
【図4】図4は、音声信号変換ブロックの回路構成例である。
【図5】図5は、音声信号変換装置に備える位相情報検出部の構成を示すブロック図である。
【図6】図6は、位相情報検出部の回路構成例である。
【図7】図7は、位相差成分算出結果をあらわすグラフである。
【図8】図8は、位相遅延相関検出部の回路構成例である。
【図9】図9は、位相遅延相関をあらわすグラフである。
【図10】図10は、可変位相器の回路構成例である。
【図11】図11は、位相特性をあらわすグラフである。
【図12】図12は、位相情報検出部が実行する位相情報検出処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る音声信号変換装置の好適な実施例を詳細に説明する。なお、以下では、音声信号変換方法の概要について図1を用いて説明した後に、音声信号変換装置についての実施例を図3〜図12を用いて説明することとする。
【0018】
なお、以下の説明においては、左右の音声信号の絶対値を平滑化した音声信号を用いて位相差成分を算出する例を説明しているが、この左右の音声信号の絶対値を平滑化した音声信号は振幅を算出するための一例である。
【0019】
この例の他に、振幅を算出する手法として種々の方法が存在する。たとえば、受信信号をI/Q(in-phase/quadrature)信号に変換し、(I+Q1/2として算出する、或いは、音声信号の絶対値をとって、一定時間バッファ後、そのMAX値を維持して算出する方法などである。
【0020】
まず、音声信号変換方法の概要について図1を用いて説明する。図1の(A)は、FM(Frequency Modulation)ステレオ放送の受信信号を説明するための図であり、また、図1の(B)は、音声信号変換方法の概要を示す図である。なお、ここでは、FMステレオ放送を受信し、受信した信号をデジタル処理するラジオDSPに音声信号変換手法を適用した場合について説明する。
【0021】
従来の音声信号変換装置、たとえば、車両に搭載され、FMステレオ放送を受信する受信装置では、車両の移動中に、マルチパス等によってノイズが発生することがある。なお、マルチパスとは、基地局から発信された電波が直接受信アンテナに届くだけではなく、ビルや山等に反射し、いくつもの経路から受信アンテナに届いてしまう現象を指す。
【0022】
具体的には、図1の(A)に示したように、FMステレオ放送の信号には、左の音声信号(以下、「L」と記載する)と右の音声信号(以下、「R」と記載する)とを加算した和信号(L+R)が含まれる。また、FMステレオ放送の信号には、LとRとの差分である差信号(L−R)も含まれる。なお、図1の(A)のグラフは、横軸に周波数を、縦軸に振幅をあらわす。
【0023】
そして、FMステレオ放送の基地局は、一つの帯域を和信号および差信号の二つのチャンネルに分割し、信号を送信する。図1の(A)に示したように、和信号の周波数成分は、0kHz〜15kHzの範囲であるのに対し、差信号の周波数成分は、23kHz〜53kHzの範囲である。なお、パイロット信号としては19kHzが用いられる。
【0024】
また、マルチパス等によってFMステレオ放送を受信する受信装置で発生したノイズのノイズレベルのグラフを波線で示した(図1の(A)参照)。かかるグラフに示したように、ノイズが発生した場合に、和信号と比較して差信号にノイズが多く含まれることとなる。
【0025】
したがって、従来のFMステレオ放送を受信する受信装置では、発生したノイズを除去するために差信号を削除し、和信号のみを出力していた。このため、かかる受信装置では、ノイズが発生した場合に、和信号のみ、すなわち、モノラル音声を出力することとなり、ステレオ音声と比較して、音質が劣化していた。
【0026】
また、かかる受信装置では、ノイズが発生するたびにステレオ音声からモノラル音声へ切り替わってしまうと、出力された音声を聞く利用者に対して、音声信号の切り替わりによる違和感を与えてしまうこととなる。
【0027】
また、従来の音声信号変換装置によってモノラル信号からステレオ信号を生成する場合に、処理を行うアルゴリズムが前述したように非常に複雑であるが故、処理量が膨大になってしまう。このため、かかる受信装置では、ノイズが発生した場合に、モノラル音声を出力する替わりに疑似的にステレオ音声を生成する処理を実現することができない。
【0028】
そこで、本発明に係る音声信号変換装置は、Lの絶対値とRの絶対値との差分、および、LとRとの差分の絶対値に基づいて疑似的にステレオ信号を生成することとした。
【0029】
具体的には、本発明に係る音声信号変換装置は、図1の(B)に示したように、Lの絶対値とRの絶対値との差分の絶対値(||L|−|R||)を算出し、また、LとRとの差分の絶対値(|L−R|)を算出する。
【0030】
さらに、本発明に係る音声信号変換装置は、算出された二つの値の差分に基づいて位相差成分を算出し、算出された位相差成分に基づいて疑似的にステレオ信号を生成する。このように本発明に係る音声信号変換装置は、発生したノイズを除去するために差信号を削除し、モノラル音声を出力する替わりに、疑似的にステレオ信号を生成する処理を行うことによって、処理量を抑制し、音質を確保することができる。
【0031】
なお、本発明に係る音声信号変換装置は、図示しないが、位相差成分を算出する際、Lの絶対値、Rの絶対値またはL−Rの絶対値をLPF(Low Pass Filter)によってフィルタリングを行い平滑化することとしてもよい。これにより、本発明に係る音声信号変換装置は、さらに音質を向上することができる。
【0032】
また、ここでは、FMステレオ放送を受信し、受信した信号をデジタル処理するラジオDSPについて説明したが、これに限定されるものではなく、疑似的にステレオ信号を生成する他の装置に適用することとしてもよい。
【実施例】
【0033】
以下では、図1を用いて説明した本発明に係る音声信号変換装置10についての実施例を詳細に説明する。まず、本発明に係る受信装置20の構成について図2を用いて説明する。
【0034】
図2は、ラジオシステムの構成を示すブロック図である。なお、図2に示したようなラジオシステムは、本発明に係る受信装置20に相当する。また、図2では、ラジオシステムの特徴点を説明するために必要な構成要素についてのみ記載している。
【0035】
図2に示すように、ラジオシステムは、アンテナ300と、FE(フロントエンド)301と、波線で囲んだDSP部と、スピーカー315とを備えている。DSP部は、ADC(Analog Digital Converter)302と、VIFF(Variable bandwidth Intermediate Frequency Filter)303と、TFEQ304と、検波部305と、ノイズキャンセラ部306と、LR生成部307とをさらに備えている。
【0036】
また、DSP部は、デエンファシス部308と、ステレオブレンド部309と、疑似ステレオ部310と、オーディオフィルター部311と、ハイカット部312と、ソフトミュート部313と、DAC(Digital Analog Converter)314とをさらに備えている。
【0037】
FE301は、アンテナ300側の送受信端の回路部分であり、ADC302では、アンテナ300経由で受信したアナログ信号をデジタル信号に変換し、VIFF303は、変換されたデジタル信号の帯域幅を切り替えるフィルターである。
【0038】
検波部305は、変調信号から元の信号を取り出し、ノイズキャンセラ部306は、ノイズを減衰させ、LR生成部307は、ノイズが減衰された信号に基づいて左右の和音声と差信号とを生成する。
【0039】
デエンファシス部308は、左右の和音声と差信号とについて変調信号の高域が強調された周波数成分を元に戻し、ステレオブレンド部309は、ステレオノイズを低減するため、高域部分を混合したり、モノラル受信へ自動切り替えを行う。
【0040】
疑似ステレオ部310は、疑似的にステレオ信号を生成し、オーディオフィルター部311は、所定の周波数の信号だけを通過させるフィルターである。ハイカット部312は、フィルタリングされた信号に含まれる高周波を遮断し、ソフトミュート部313は、音声信号のレベル値を0出力(ミュート)と非ミュート状態との間で段階的に変化させる。DAC314は、デジタル信号をアナログ信号に変換し、変換した信号をスピーカー315によって出力する。
【0041】
つぎに、本発明に係る音声信号変換装置10の構成について図3〜図5を用いて説明する。図3は、本実施例に係る音声信号変換装置10の構成を示すブロック図であり、図4は、音声信号変換装置10の回路構成例であり、図5は、音声信号変換装置10に備える位相情報検出部14aの構成を示すブロック図である。なお、図3〜図5では、音声信号変換装置10の特徴点を説明するために必要な構成要素についてのみ記載している。
【0042】
図3に示すように、音声信号変換装置10は、通信I/F(インターフェース)11と、信号取得部12と、信号出力部13と、制御部14とを備えており、制御部14は、位相情報検出部14aと、振幅情報検出部14bと、疑似ステレオ信号生成部14cとをさらに備えている。
【0043】
通信I/F11は、無線通信を行うための通信デバイスで構成されており、たとえば、FM放送局から送信される放送の電波信号を受信するアンテナに接続されている。
【0044】
信号取得部12は、通信I/F11経由で受信した電波信号を取得し、左右の音声信号へ変換し、位相情報検出部14aまたは振幅情報検出部14bへ渡す処理を行う処理部である。
【0045】
たとえば、信号取得部12は、FMステレオ放送を受信した場合には、和信号(L+R)と差信号(L−R)とに基づいてLおよびRを算出し、位相情報検出部14aまたは振幅情報検出部14bへ渡す。
【0046】
信号出力部13は、疑似ステレオ信号生成部14cからの出力信号を外部機器(たとえば、スピーカー)へ出力する処理部である。なお、かかる出力信号は、信号取得部12によって取得された音声信号から疑似的に生成されたステレオ信号である。
【0047】
制御部14は、音声信号変換装置10の全体制御を行う制御部である。位相情報検出部14aは、信号取得部12から受け付けたLおよびRに基づいて位相特性を変化させるための係数aを算出する処理を行う処理部である。なお、位相情報検出部14aの詳細については後述することとする。振幅情報検出部14bは、信号取得部12から受け付けたLおよびRの割合を検出する処理を行う処理部である。
【0048】
疑似ステレオ信号生成部14cは、位相情報検出部14aによって検出された位相情報と、振幅情報検出部14bによって検出された振幅情報とに基づいて疑似的にステレオ信号を生成する処理を行う処理部である。
【0049】
また、疑似ステレオ信号生成部14cは、生成した疑似ステレオ信号を信号出力部13へ出力する処理を併せて行う。なお、疑似ステレオ信号生成部14cは、図2に示した疑似ステレオ部310に相当する。
【0050】
つづいて、図3に示した音声信号変換装置10を回路へ適用した場合について図4を用いて説明する。図4は、音声信号変換ブロック200の回路構成例である。
【0051】
図4に示すように、音声信号変換ブロック200は、振幅情報検出部201と、位相情報検出部202と、「+」で示した加算部203と、演算増幅器204、205と、可変位相器206、207とを含んで構成される。
【0052】
なお、振幅情報検出部201は、図3に示した振幅情報検出部14bに相当し、位相情報検出部202は位相情報検出部14aに相当する。また、演算増幅器204、205および可変位相器206、207は、疑似ステレオ信号生成部14cに相当する。なお、可変位相器206、207の詳細については後述することとする。
【0053】
つぎに、音声信号変換装置10に備える制御部14に含まれる位相情報検出部14aの詳細について図5を用いて説明する。図5に示すように、音声信号変換装置10に備える位相情報検出部14aは、第一評価値算出部15と、第二評価値算出部16と、位相差算出部17と、係数算出部18とを備えている。
【0054】
第一評価値算出部15は、信号取得部12から受け付けたLの絶対値(|L|)をLPFによってフィルタリングを行い、|L|を平滑化する。具体的には、第一評価値算出部15は、Lの絶対値を所定の閾値よりも高い周波数信号を減衰させて遮断し、低域周波数のみを信号として通過させる。これにより、第一評価値算出部15は、精度良くノイズを低減することができる。
【0055】
第一評価値算出部15は、Lの場合と同様に、信号取得部12から受け付けたRの絶対値(|R|)をLPFによってフィルタリングを行い、|R|を平滑化する。そして、第一評価値算出部15は、平滑化された|L|と|R|との差分の絶対値を算出し、第一評価値とする。
【0056】
第二評価値算出部16は、信号取得部12から受け付けたLとRとの差分の絶対値をLPFによってフィルタリングを行い、|L−R|を平滑化し、第二評価値とする。位相差算出部17は、第一評価値と第二評価値との差分を位相差成分として算出する。なお、LおよびRの値は、パワーを示す値とし、たとえば、電圧値を適用することとしてもよい。
【0057】
係数算出部18は、位相差算出部17によって算出された位相差成分に基づいて位相特性を変化させる係数を算出する。なお、係数算出の詳細については後述することとする。
【0058】
なお、ここでは、位相情報検出部14aが、|L|、|R|および|L−R|に対しLPFによって平滑化することとしたが、LPFに限定されるものではなく、移動平均手法や法絡線処理等によって|L|、|R|および|L−R|の変動を抑制することとしてもよい。
【0059】
つぎに、制御部14の位相情報検出部14aを回路へ適用した場合について図6を用いて説明する。図6は、位相情報検出部14aの回路構成例である。
【0060】
図6に示すように、位相情報検出部14aは、絶対値算出部(以下、「ABS」と記載する)101、103、106、108と、「−」で示した減算部105、107、110と、LPF102、104、109と、係数算出部111とを含んで構成される。
【0061】
なお、ABS101、LPF102、ABS103、LPF104、減算部105およびABS106は、図5に示した第一評価値算出部15に相当し、減算部107、ABS108およびLPF109は第二評価値算出部16に相当する。また、減算部110は、位相差算出部17に相当し、係数算出部111は、係数算出部18に相当する。
【0062】
減算部110は、第一評価値と第二評価値との差分を位相差成分として算出する。ここで、所定の振幅差および位相差がある左右の音声信号について、本実施例に係る音声信号変換方法を適用した音声信号変換装置10によって位相差成分を算出した結果を示しておく。図7は、位相差成分算出結果をあらわすグラフである。
【0063】
図7の(A)に示したような、位相差が0.35、レベル差が0.32である左右の音声信号を入力信号として、図6に示した手法によって第一評価値、第二評価値および位相差成分を算出することとした。なお、図7の(A)に示したグラフの横軸には時間、縦軸にはレベルを示す。ここで、レベルとは、エネルギーを示す量であり、音の強さであってもよいし、音圧レベルであってもよい。
【0064】
図7の(B)に示したように、本実施例に係る音声信号変換方法を適用した音声信号変換装置10によって算出された第一評価値は、0.32を推移し、レベル差と近似する。
【0065】
また、図7の(C)に示したように、音声信号変換装置10によって算出された第二評価値は0.67を推移し、図7の(D)に示したように、位相差成分は0.35を推移し、位相差に近似する。
【0066】
したがって、位相差成分は、第一評価値と第二評価値との差分であり、また、第一評価値<第二評価値であることから、式(1)のようにあらわされる。
第二評価値−第一評価値=位相差成分 …(1)
【0067】
これより、第二評価値は、
第二評価値=第一評価値+位相差成分 …(2)
式(2)のようになり、第二評価値は、レベル差と位相差との和に近似する。
【0068】
図6に戻り、位相情報検出部14aの回路構成についての説明を続ける。係数算出部111は、減算部110によって算出された位相差成分(Vph)の負数である値を0とし(以下、「マイナスクランプ」と記載する)、0≦Vphとなるようにする。
【0069】
そして、係数算出部111は、LおよびRのうち大きいほうの値(Vm)によってVphを正規化することによって、式(3)のようにあらわされる。
Vph’=Vph/Vm …(3)
【0070】
その後、係数算出部111は、LとRとでいずれの位相が遅れているか(以下、「位相遅延相関」と記載する)を検出し、位相遅延相関に基づいて係数の符号を変更する。ここで、位相遅延相関を検出する位相遅延相関検出部120の回路構成について図8を用いて説明しておく。
【0071】
図8は、位相遅延相関検出部120の回路構成例である。位相遅延相関検出部120は、「Z−1」で示した遅延部121、122と、「×」で示した乗算部123、124と、「−」で示した減算部125と、LPF126と、演算増幅器127と、±1クランプ部128とを含んで構成される。
【0072】
±1クランプ部128は、演算増幅器127によって算出された値の1より大きい値を1とし、また−1より小さい値を−1としてαとする。ここで、位相遅延相関検出部120は、0≦αの場合はRが遅れていると判定し相関係数の符号(Vrl)を「+」と決定し、0>αの場合はLが遅れていると判定し相関係数の符号(Vrl)を「−」と決定する。
【0073】
ここで、位相遅延相関検出部120が行う位相遅延相関の検出処理について、かかる演算増幅器127によって算出された結果を示しておく。図9は、位相遅延相関をあらわすグラフである。
【0074】
なお、図9に示したグラフの横軸には時間、縦軸にはレベルを示す。また、図9の実線で示したRと波線で示したLとに基づき、かかる演算増幅器127によって算出された結果を一点波線のグラフXで示した。
【0075】
図6に戻り、位相情報検出部14aの回路構成についての説明を続ける。係数算出部111は、正規化した位相差成分(Vph’)に±1クランプ部128によって決定された符号(Vrl)を乗じることによって符号を変更した結果、
【0076】
Vcph=Vph’×Vrl …(4)
式(4)のようにあらわされる。
【0077】
そして、係数算出部111は、式(4)に示したVcphに、所定の上限値に到達するまでの時間(以下、「立ち上がり時定数」と記載する)、および、所定の下限値に到達するまでの時間(以下、「立ち下がり時定数」と記載する)を設定する。
【0078】
その後、係数算出部111は、立ち上がり時定数、および、立ち下がり時定数を設定したVcphにオフセット(Voff)をつけて、式(5)および式(6)にあらわすように、位相特性を変化させるための係数aを算出する。
【0079】
aL=Voff+(1−Voff)×Vcph …(5)
aR=Voff−(1+Voff)×Vcph …(6)
【0080】
オフセット(Voff)は、係数aを可変位相器のセンタ成分に対応する値へ補正するための値である。これにより、反転した波形の振幅を揃えることができ、センタ成分にも使用可能な係数aを算出することができる。ここで、係数算出部111によって算出された係数aを用いて制御する可変位相器について図10および図11を用いて説明する。
【0081】
図10の(A)は、Lについての可変位相器の回路構成例であり、図4の可変位相器206に相当する。また、図10の(B)は、Rについての可変位相器の回路構成例であり、図4の可変位相器207に相当する。
【0082】
図10の(A)に示した可変位相器は、「Z−1」で示した遅延部130、131と、乗算部132,133,134と、「+」で示した加算部135とを含んで構成される。図10の(A)に示すように、乗算部132,133,134の係数は、a、1、−aとする。
【0083】
図10の(B)に示した可変位相器についても可変位相器206と同様に、「Z−1」で示した遅延部140、141と、乗算部142,143,144と、「+」で示した加算部145とを含んで構成され、乗算部142,143,144の係数は、a、1、−aとする。
【0084】
つづいて、図11は、位相特性をあらわすグラフである。係数aを0.5とした場合の位相特性を図11の位相Aに示し、係数aを0とした場合の位相特性を図11の位相Bに示し、係数aを−0.5とした場合の位相特性を図11の位相Cに示した。このように、可変位相器は、係数aを変化することによって位相特性を変化させることができる。
【0085】
つぎに、制御部14の位相情報検出部14aが実行する位相情報検出処理の詳細について図12を用いて説明する。図12は、位相情報検出部14aが実行する位相情報検出処理手順を示すフローチャートである。
【0086】
図12に示すように、まず、位相情報検出部14aの第一評価値算出部15は、Lの絶対値をLPFによってフィルタリングを行い、Lとし(ステップS101)、また、Rの絶対値をLPFによってフィルタリングを行い、Rとする(ステップS102)。
【0087】
そして、第一評価値算出部15は、LとRとの差分の絶対値を第一評価値とする(ステップS103)。つづいて、第二評価値算出部16は、LとRとの差分(L−R)の絶対値をLPFによってフィルタリングを行い、第二評価値とする(ステップS104)。
【0088】
その後、位相差算出部17は、第一評価値と第二評価値との差分を算出し、位相差成分とする(ステップS105)。そして、係数算出部18は、ステップS105で算出した位相差成分をマイナスクランプし(ステップS106)、LおよびRのうち大きいほうの値によって正規化する(ステップS107)。
【0089】
さらに、係数算出部18は、位相遅延相関を検出し(ステップS108)、ステップS107で正規化した値を検出した位相遅延相関に基づいて符号を変更し、立ち上がり、または、立ち下がりの時定数を設定する(ステップS109)。
【0090】
その後、係数算出部18は、ステップS109で時定数を設定した値にオフセットをつけ、位相特性を変化させるための係数aを算出し(ステップS110)、位相情報検出部14aが実行する一連の位相情報検出処理を終了する。
【0091】
上述してきたように、本発明に係る音声信号変換装置音声信号変換方法および受信装置は、受信した音声信号に含まれるLの絶対値とRの絶対値との差分の絶対値(||L|−|R||)を算出し、また、LとRとの差分の絶対値(|L−R|)を算出する。
【0092】
さらに、本発明に係る音声信号変換装置、音声信号変換方法および受信装置は、算出された二つの値の差分に基づいて位相差成分を算出し、さらに、算出された位相差成分に基づいて疑似的にステレオ信号を生成する。これによって、本発明に係る音声信号変換装置音声信号変換方法および受信装置は、処理量を抑制し、音質を確保しつつ疑似的にステレオ信号を生成する処理を行うことができる。
【符号の説明】
【0093】
10 音声信号変換装置
11 通信I/F
12 信号取得部
13 信号出力部
14 制御部
14a 位相情報検出部
14b 振幅情報検出部
14c 疑似ステレオ信号生成部
15 第一評価値算出部
16 第二評価値算出部
17 位相差算出部
18 係数算出部
20 受信装置
101、103、106、108 ABS
102、104、109 LPF
105、107、110 減算部
111 係数算出部
200 音声信号変換ブロック
201 振幅情報検出部
202 位相情報検出部
203 加算部
204、205 演算増幅器
206、207 可変位相器



【特許請求の範囲】
【請求項1】
左の音声信号の振幅値と右の音声信号の振幅値との差分に基づいて第一の評価値を算出する第一評価値算出手段と、
左の音声信号と右の音声信号との差分の振幅値に基づいて第二の評価値を算出する第二評価値算出手段と、
前記第一の評価値と前記第二の評価値との差分に基づいて左右の音声信号の位相差を算出する位相差算出手段と
を備えたことを特徴とする音声信号変換装置。
【請求項2】
前記位相差算出手段によって算出された前記位相差に基づいて位相特性を変化させる係数を算出する係数算出手段
をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の音声信号変換装置。
【請求項3】
前記第一評価値算出手段は、
前記左の音声信号の絶対値を平滑化した値と前記右の音声信号の絶対値を平滑化した値との差分に基づいて第一の評価値を算出し、
前記第二評価値算出手段は、
前記左の音声信号と前記右の音声信号との差分の絶対値を平滑化した値によって第二の評価値を算出することを特徴とする請求項1または2に記載の音声信号変換装置。
【請求項4】
前記位相差算出手段は、
左右いずれの音声信号の位相が進んでいるかを検出することを特徴とする請求項1、2または3に記載の音声信号変換装置。
【請求項5】
前記位相差算出手段によって算出された前記位相差に基づいて左右の前記位相を算出する位相算出手段と、
前記左右の音声信号の割合に基づいて左右の振幅を算出する振幅算出手段と、
前記位相差算出手段によって算出された左右の前記位相と前記振幅算出手段によって算出された左右の前記振幅とに基づいて左右のステレオ信号を生成するステレオ信号生成手段と
をさらに備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の音声信号変換装置。
【請求項6】
左の音声信号の振幅値と右の音声信号の振幅値との差分に基づいて第一の評価値を算出する第一評価値算出工程と、
左の音声信号と右の音声信号との差分の振幅値に基づいて第二の評価値を算出する第二評価値算出工程と、
前記第一の評価値と前記第二の評価値との差分に基づいて左右の音声信号の位相差を算出する位相差算出工程と
を含んだことを特徴とする音声信号変換方法。
【請求項7】
受信した信号に基づいて左右の音声信号を生成する左右信号生成手段と、
前記左右信号生成手段によって生成された左の音声信号の振幅値と前記左右信号生成手段によって生成された右の音声信号の振幅値との差分に基づいて第一の評価値を算出する第一評価値算出手段と、
前記左右信号生成手段によって生成された左の音声信号と右の音声信号との差分の振幅値に基づいて第二の評価値を算出する第二評価値算出手段と、
前記第一の評価値と前記第二の評価値との差分に基づいて左右の音声信号の位相差を算出する位相差算出手段と
を備えたことを特徴とする受信装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−151619(P2012−151619A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8257(P2011−8257)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】